説明

板状材料の打抜工法

【課題】板状材料の打ち抜き時にヒゲバリとクズの発生を抑制し、製品への打痕の発生を防止した板状材料の打抜工法を提供する。
【解決手段】流路7bの圧力P0からPL1とし板状材料6を吸引して凸工具3b上面に固定する。また流路7aを圧力P0からPU1とし凹工具3a切刃側面とパッド4の間から気体を流出させ異物を除去。上金型を下降させて板状材料6を凹工具3aと凸工具3bの切刃先端で挟む。この状態で流路7bより気体を流入させて圧力PL1からPL2に上昇させ、同時に流路7aより気体を流出させて圧力PU1からPU2に下降させる。板状材料6は流出,流入の圧力差により凹工具3a側にたわみを生じ、この状態で製品側材料6bとスクラップ側材料6aにヒゲバリを生じずに切断される。切断後、流路7bと流路7aは流出、流入の圧力PL1、PU1に戻され、上金型の上昇時に製品を凸工具3b上に吸着固定、圧力P0として製品を取り出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状材料を打ち抜く工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板のベースフィルムのような板状材料の打ち抜きにおいては、金属材料の打ち抜きにおいて発生する一般的なバリとは異なる、繊維状のヒゲバリもしくは粒子状のクズが発生することがある。
【0003】
こういったヒゲバリもしくはクズが製品から分離し別の場所に付着することで種々の不具合を発生することがあり、これらを低減した打ち抜きを行う方法が求められていた。
【0004】
ヒゲバリもしくはクズを低減させるために、図13に示すような加工を行う金型工具の切刃に微小丸みを持たせて打ち抜く工法、図14に示すような被加工材料を材料押さえにより拘束しつつ打ち抜く工法が用いられている。
【0005】
図13に示す工法では、被加工材料である板状材料6に対して、切刃が対向する凹工具3aと凸工具3bがお互いのクリアランスを保ったまま接近させることで、板状材料6を打ち抜いている。凹工具3aと凸工具3bの切刃には大きさR1の微小丸み(50a、50b)を持たせている。ここでR1=2〜8μmである。
【0006】
また、図14に示す工法では、板状材料6を凹工具3aと材料押さえ51a、および/または凸工具3bと材料押さえ51bにより挟み込み、圧力を加えつつ凹工具3aと凸工具3bを接近させることで、板状材料6を打ち抜いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−46433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のような打ち抜き工法を用いると、近年の板厚の減少や素材の変化によって、打ち抜き時にヒゲバリやクズや打痕が多発するという問題がある。
【0009】
例えば、図13に示す金型の凹,凸工具3a,3bの先端に微小丸み50a,50bをつける工法では(詳細なヒゲバリ発生メカニズムは後述するが)、図5(a)〜(f)に示すように、打ち抜き時に凹工具3a,凸工具3bの板状材料6への接触によって板状材料6が拘束され、工具先端部分の曲げ応力が凹工具3aの先端側を引張応力15、凸工具3bの先端側を圧縮応力16となる方向に内部応力が制限される。
【0010】
この内部応力の状態で板状材料6を打ち抜くと、板状材料6から切り離れた製品側材料6bとスクラップ側材料6aのうち、製品側材料6bにヒゲバリ12bがつきやすくスクラップ側材料6aにつきにくい状態になる。
【0011】
また、図14に示す板状材料6を材料押さえ51a,51bにて拘束する工法では、打ち抜き動作後にも板状材料6を拘束するため凹工具3a側面と板状材料6がこすれクズが多発する。
【0012】
さらに、板状材料に対して材料押さえを物理的に接触させるため、打痕を発生させる可能性がある。
【0013】
本発明は、前記従来技術の課題を解決することに指向するものであり、板状材料の打ち抜き時に、ヒゲバリとクズの発生を抑制し、さらに、製品への打痕の発生を防止した板状材料の打抜工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するために、本発明に係る請求項1に記載の板状材料の打抜工法は、切刃が対向する凸工具と凹工具を用いる板状材料の打抜工法であって、凸工具と凹工具により板状材料を挟んで拘束する第1工程と、板状材料に凸工具の切刃側に引張応力、かつ凹工具の切刃側に圧縮応力とこの圧縮応力を付加する方向に曲げ応力を加える第2工程と、板状材料を打ち抜く第3工程とを有することを特徴とする。
【0015】
また、請求項2〜4に記載の発明は、請求項1の板状材料の打抜工法の第2工程において、凸工具の上面と板状材料との間の空間に、凸工具内に設けた穴を通じて気体を流入させて圧力を発生させることにより、曲げ応力を加えること、さらに、凸工具と板状材料との空間に気体を流入させる時間を、第1工程完了から第3工程完了の間のみとすること、さらに、凸工具と板状材料との空間に気体を流入させる穴を用いて、第1工程完了前および第3工程完了後は気体を流出させて逆の圧力を発生させることにより、凸工具の上面に板状材料を吸着固定することを特徴とする。
【0016】
また、請求項5,6に記載した発明は、請求項1記載の板状材料の打抜工法の第2工程において、凹工具と板状材料との間の空間から気体を流出させて圧力を減じることにより、曲げ応力を加えること、さらに、凹工具と板状材料との空間から気体を流出させる時間を、第1工程完了から第3工程完了の間のみとすることを特徴とする。
【0017】
また、請求項7〜9に記載した発明は、請求項1〜6の板状材料の打抜工法の切刃が対向する凸工具と凹工具において、板状材料を打ち抜いた製品の平面形状が第1角(製品の内角が190度以上350度以下)と第2角(製品の内角が10度以上170度以下)を含む多角形状の場合、凸工具または凹工具いずれかの第2角の部分にテーパ加工を設けること、さらに、テーパ加工のニガシ量が板状材料の厚みの1/3以上、2/3以下であること、または、テーパ加工に変えて段つきのニガシ形状として、ニガシ量が板状材料の厚みの1/3以上、2/3以下であることを特徴とする。
【0018】
前記打抜工法によれば、打ち抜き時に板状材料に発生する内部応力の状態を、凸工具の先端側を引張応力、凹工具の先端側を引張応力となるようにコントロールしつつ打ち抜くことによって、ヒゲバリ発生を抑制でき、板状材料に対して材料押さえなどの工具以外の物理的接触をなくして、クズや打痕の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、板状材料の打ち抜き時に、ヒゲバリとクズの発生を抑制すると同時に、製品への打痕を防ぐことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1における金型工具の切断位置付近を示す断面図
【図2】本実施形態1における金型の動作(a)〜(i)を示す図
【図3】本実施形態1における金型動作1サイクル間の位置の時間変化を示したグラフ
【図4】本実施形態1における(a)は上金型、(b)は下金型に発生させる空気圧力、(c)は実際の空気圧力の変化を示すグラフ
【図5】対策前の板状材料に曲げ力(たわみ)を加えない場合の切断状態(a)〜(f)を示す図
【図6】本実施形態1における板状材料にたわみを加えた場合の切断状態(a)〜(f)を示す図
【図7】本発明の実施形態2における切断する製品側材料の平面形状を示す図
【図8】本実施形態2における(a)は凸工具、(b)は凹工具の形状を示す図
【図9】本実施形態2における板状材料への工具接触と切断完了のタイミングを示す図
【図10】本実施形態2における第2角以外の加工タイミング(a−1)〜(a−4)、第2角の加工タイミング(b−1)〜(b−4)を示す図
【図11】本実施形態2における(a)は製品側材料の第2角、(b)はコーナー頂点に対する曲げモーメント、(c)は切断時の作用力を示す図
【図12】本実施形態2における(a)は製品側材料の第1角、(b)はコーナー頂点に対する曲げモーメント、(c)は切断時の作用力を示す図
【図13】従来の加工を行う金型工具の微小丸みを持つ切刃を示す図
【図14】従来の加工を行う被加工材料を拘束する材料押さえを示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1における金型工具の切断位置付近を示す断面図である。図1に示すように上金型に凹工具3a、下金型に凸工具3bが配置され、凹工具3aが下降することで、凸工具3b上に配置された板状材料(厚み50μmのポリイミド素材でできたフレキシブルプリント基板)6を所定の形状に打ち抜く。
【0023】
上金型と下金型の凹工具3aと凸工具3bは、それぞれ上バッキングプレート2aと下バッキングプレート2bに取り付けられており、また上バッキングプレート2aと下バッキングプレート2bも上ダイセットプレート1aと下ダイセットプレート1bに取り付けられている。
【0024】
下金型には板状材料6を搬送するための材料ガイド5が設置されており、上下に稼動する。稼動範囲は、上限が板状材料6の搬送時などに材料ガイド5の上面が凸工具3bの上面よりも僅かに上の位置、下限が板状材料6の切断時などに材料ガイド5の上面が凸工具3bの上面よりも僅かに下の位置に設定されている。
【0025】
上金型には凹工具3aの中を凹工具3aの切刃側面と僅かな隙間を保ったまま摺動するパッド4が設置されており、上下に稼動する。稼動範囲は、下限が板状材料6の搬送時などにパッド4の下面が凹工具3aの下面より僅かに下の位置、上限はパッド4の下面が凹工具3aの下面より僅かに上の位置に設定されている。また、パッド4の上下動作は金型自体の動作に合わせて動き、パッド4の下面と板状材料6の上面は常に隙間が保たれている。
【0026】
上金型と下金型の凹,凸工具3a,3bや上,下バッキングプレート2a,2bには、空気を吸引や流入させるための流路7a,7bが構成されている。上金型の上バッキングプレート2aには凹工具3aに連結される流路7aがあり、上バッキングプレート2a内部を通って側方より金型外部の外部流路7cと連結されている。
【0027】
また、下金型の凸工具3bには上面と下面をつなぐ流路7bがあり、さらに下バッキングプレート2b上面にある流路でつながっている。この流路7bは上金型同様、下バッキングプレート2b内部を通って側方より金型外部の外部流路7dと連結されている。
【0028】
上金型と下金型からの外部流路7c,7dは流体の流れ方向や量を電気信号で変化させることができるバルブ9に接続されている。また、このバルブ9は別の外部流路7eを介してエアーポンプ11と接続されている。
【0029】
下ダイセットプレート1bには下金型と上金型との距離や速度を測定するためのギャップセンサ8が設置されている。ギャップセンサ8からの電気信号は信号線10aを介してアンプ10bとコントローラ10cに伝達される。この下金型と上金型の距離や速度の情報を元に、下金型と上金型に供給する空気の流量や圧力を制御するため、コントローラ10cはそれぞれエアーポンプ11とバルブ9に信号線10d,10eで接続されている。
【0030】
図2(a)〜(i)は本実施形態1における金型の動作を示した図である。なお、図2(a)〜(i)は図1の金型構造の一部を示しており、図中のh、h0、h1、h2、h3は図1の上ダイセットプレート1aの下面と下ダイセットプレート1bの上面の距離を表す。
【0031】
図2(a)に示すように、まず上死点(h=h0)の状態で板状材料6を金型内の切断する位置まで搬送する。
【0032】
図2(b)に示すように、材料ガイド5を下降させ、板状材料6を凸工具3b上面に接触させる。移動完了後、凸工具3bの流路7bの圧力を大気圧P0以下の圧力PL1にすることで板状材料6を吸引し、板状材料6を凸工具3b上面に固定する。また、上金型の凹工具3aにおける流路7aの圧力を大気圧P0以上の圧力PU1に設定することで、凹工具3aの切刃側面とパッド4の間より気体を流出させ板状材料6や凹工具3aに付着した異物を除去する。
【0033】
図2(c)に示すように、その後、プレス機によって上金型を下降させ、上金型の凹工具3aの切刃が板状材料6に接触し、板状材料6を凹工具3aと凸工具3bの切刃先端で挟み込む(h=h1)。
【0034】
図2(d)に示すように、この板状材料6を完全に挟み込んだ状態から下金型の凸工具3bにおける流路7bの圧力を一気に大気圧P0以上の圧力PL2に上昇させる。それと同時に上金型の凹工具3a側の圧力を大気圧P0以下の圧力PU2に下降させる。このとき、板状材料6の上下には圧力差PL2−PU2が生じ凹工具3a側に板状材料6はたわみを生じる。
【0035】
図2(e)に示すように、板状材料6がたわんだ状態でさらにプレス機は下降し、板状材料6は製品側材料6bとスクラップ側材料6aに分割され、切断が完了する(h=h2)。切断が完了すると、下金型の凸工具3bの流路7bの圧力をPL1に戻すと同時に上金型の凹工具3aの流路7aの圧力をPU1に戻す。この圧力切り替えによって製品は凸工具3b上面に吸着固定される。
【0036】
図2(f)に示すように、プレス機はさらに降下し下死点に達する(h=h3)。製品(製品側材料6b)は凸工具3b上面に固定、スクラップ(スクラップ材料6a)は材料ガイド5上に静置された状態になる。
【0037】
図2(g)に示すように、プレス機は上昇し上死点に戻り(h=h0)、上金型と下金型の圧力をともに大気圧P0に戻す。
【0038】
図2(h)に示すように、固定状態から開放された製品を金型外部に取り出す。
【0039】
図2(i)に示すように、材料ガイド5を上昇させスクラップ側材料6aを搬送する高さまで移動させる。
【0040】
前述の図2(a)〜(i)を繰り返して板状材料6から製品を生産する。
【0041】
次に、前述の金型動作における金型高さと空気の圧力値の時間変化を示す図3と図4(a),(b)を参照しながら説明する。図3は上下金型の位置を金型動作の1サイクル間の時間変化を示したグラフであり、図4(a),(b)はそれぞれ上金型と下金型に発生させる空気の圧力を示したグラフである。
【0042】
前述のとおり、図2(a),(b)の金型動作時には上金型の高さはh=h0にて固定されており、下金型圧力PLと上金型圧力PUはそれぞれ大気圧P0の無加圧状態に設定しておく。上金型が降下を始め、板状材料6を凹工具3aと凸工具3bで挟み込む高さh=h1になるまでは上金型の圧力をPU1まで上昇、下金型の圧力をPL1まで降下させた状態を保つ。図2(c)のh=h1となった瞬間に上金型の圧力PUを一気にPU1からPU2に下降させると同時に、下型の圧力を一気にPL1からPL2に上昇させる。図2(d)〜(g)の切断が完了するh=h2になると上金型,下金型の圧力をそれぞれPU1とPL1に戻し、下死点h=h3を経由して上死点h=h0まで金型を動作させる。図2(h)の上死点h=h0に戻ったところで上金型と下金型の圧力を大気圧P0の無加圧状態にする。
【0043】
なお、一般的には金型寸法が大きくなると上金型と下金型の流路全体の空気体積が大きくなる。一般的に空気の圧力は流路全体の体積が大きくなると伝達の反応速度が低下するため、図4(c)に示すように切断完了までの時間t2からt3に間に板状材料6に対して十分な圧力を加えることができない場合がある。切断速度が速く、t2からt3の間隔が短い場合も同様の課題を生じる。
【0044】
このような場合、上金型と下金型の圧力を変化させるタイミングを流路体積や切断速度に合わせて早めに変化を開始させてもよい。また、サーボプレスのような金型の高さを制御できるプレス機を用いれば、金型高さがh1になった瞬間にプレス機の動作をとめ、上金型と下金型の空気の圧力変化が完了するのを待ってから、再びプレス機を下降させ切断完了する手法を用いてもよい。
【0045】
以下に本実施形態1を用いた際の打ち抜き時のヒゲバリ低減メカニズムを説明する。図5(a)〜(f)は、対策前の板状材料に曲げ力(たわみ)を加えない場合の切断状態を示す図である。
【0046】
図5(a)に示すプレス機の降下によって板状材料6は凹工具3aと凸工具3bに接触する。プレス機がさらに降下すると板状材料6を傾かせ、切刃先端により板状材料6を完全に拘束する(図5(b)参照)。
【0047】
図5(b)の状態より、さらにプレス機が降下したとき、図5(c)中に示すように、凸工具3b切刃を中心に凹工具3aが板状材料6に作用させる力14aによって、反時計回りに板状材料6を回転させようとするモーメントが発生するが、凸工具3b側は他の切刃箇所による板状材料6に作用させる力14b(拘束力)が発生し、図5(c)に示すように、板状材料6は凹工具3a側が凸となる方向に曲げが発生する。
【0048】
そして、図5(d)に示すように、この曲げによって凸工具3b側の切刃周辺の板状材料6には圧縮応力16が発生すると同時に、凹工具3a側の切刃周辺には引張応力15が発生する。プレス機がさらに下降し板状材料6にせん断力が加わると、圧縮を受けている凸工具3b側のき裂進展が阻害され、凹工具3a側のき裂が進展する。さらに降下すると上下からのき裂の中間の領域が引張を伴って破断に至り、板状材料6は凸工具3b側の製品側材料6bと凹工具3a側のスクラップ側材料6aに分割される。
【0049】
図5(e)に示すように、き裂の進展が少ない製品側材料6bに引張を伴って破断したヒゲバリ12bがつきやすい。その一方でスクラップ側材料6aにはヒゲバリがつきにくい(図5(f)参照)。
【0050】
図6(a)〜(f)は本実施形態1によって板状材料に意図的にたわみを加えた場合の切断状態を示す図であり、図6(a)〜(f)を参照しながら本実施形態1を用いた際の打ち抜き時の動作を説明する。
【0051】
図6(a),(b)においても、前述した図5(a),(b)の対策前と同様に凹,凸工具3a,3bが板状材料6を切刃先端で完全に拘束する。本実施形態1では図6(c)に示すように、空気の圧力によって凸工具3b側に圧力によるたわみ力18が発生し、板状材料6を凹工具3aの切刃を支点とする曲げを発生させようとする。
【0052】
この状態でプレス機を下降させると、図6(d)に示すように図5(d)とは逆に、凹工具3a側の切刃周辺の板状材料6には圧縮応力19が発生すると同時に、凸工具3b側の切刃周辺には引張応力20が発生する。圧縮を受けている凹工具3a側のき裂進展が阻害され、凸工具3b側のき裂が進展する。
【0053】
ゆえに、き裂の進展が多い製品側材料6bにヒゲバリがつきにくくなり(図6(e)参照)、スクラップ側材料6aにヒゲバリ12aがつきやすくなる(図6(f)参照)。
【0054】
(実施形態2)
本発明の実施形態2における板状材料の打抜工法を説明する。前述の実施の形態1において、図7に示すような切断する製品側材料6bの平面形状が、第1角32(製品側における2本の直線の交わる角度(製品の内角)が190度以上350度以下)と第2角31(2本の直線の交わる角度(製品の内角)が10度以上170度以下)を含む形状の場合、第2角31において製品側材料のヒゲバリ12bが発生しやすい。
【0055】
この問題を改善するための本実施形態2に用いる凹,凸工具を図8(a),(b)に示す。図8(a)に示すように下型の凸工具3bの第2角31に対して、テーパ加工33が施されている。このとき、テーパ加工33は第2角31のコーナー部が最もニガシ量34が多くなるようにし、かつニガシ量34の最大値を板状材料の1/3から2/3になるように加工する。
【0056】
なお、本実施形態2では、加工の容易さから凸工具3bの第2角31のみをテーパ加工33し、凹工具3aは加工を加えなかったが、凹工具3aの第2角31へのテーパ加工33をしてもよい。また、テーパ加工33ではなく、ニガシ量34の最大値を1/3から2/3の段つきのニガシ形状でもよい。
【0057】
図9および図10(a−1)〜(a−4),(b−1)〜(b−4)に本実施形態2の動作を示す。図9は板状材料への工具接触と切断完了のタイミングを示したものである。図8(a)に示したように工具の第2角31にテーパ加工33を施しているため、第2角31はテーパ加工33をしていない第1角32や直線部(第1角32と第2角31以外の部分)と比較して、工具切刃の板状材料への接触のタイミングが遅い。よって、プレス機の下降により、まず図9の第2角31以外の切断開始点38の箇所が切断を完了し、第2角31の頂点に向かう切断進行方向40に切断完了の箇所が増えていき、最後は第2角31の切断終了点39が切断される。
【0058】
図10(a−1)〜(a−4)には、本実施形態2における第2角以外の加工タイミングを、図10(b−1)〜(b−4)には、第2角の加工タイミングを示す。本実施形態2では、板状材料6の厚みWtに対して、テーパ加工33のニガシ量34の最大値をWt/2とした。この板状材料6は凹工具3aと凸工具3bがそれぞれ材料接触後Wt/2切り込んだ位置で切断が完了する。なお、図10中のh’、h’1は上金型の凹工具3aの下面と下金型の凸工具3bの下面の距離を表す。
【0059】
図10(a−1),(b−1)に示すように、まず、第2角以外の箇所は板状材料6に凹工具3a、凸工具3bが接触する(h’=h’1)。
図10(a−2),(b−2)に示すように、第2角以外の箇所は切断が完了する(h’=h’1−Wt/2)。しかし、第2角においては凸工具3bが板状材料6と接触したところである。
図10(a−3),(b−3)に示すように、第2角の切断が完了する(h’=h’1−Wt)。
図10(a−4),(b−4)に示すように、さらに下降が進むと、板状材料6から製品側材料6bとスクラップ側材料6aが完全に分離される(h’>h’1−Wt)。
【0060】
以下に、打ち抜き時のヒゲバリ低減メカニズムを示す。
【0061】
図11(a)〜(c)は第2角における切断時の作用力を示し、図12(a)〜(c)は第1角における作用力を示す図である。
【0062】
図11(a)に示すような製品側材料6bの第2角31を拡大すると、コーナー頂点35aに対して周辺からの曲げモーメント36が図11(b)に示すように作用する。このときのコーナー部に付加される力を図11(c)に示す。前述のとおり、凸工具3bの切刃を支点として凹工具3aが板状材料6を反時計回りに回転させようとする力14aと、切刃以外の箇所の板状材料6の拘束力14bと、たわみ力18が作用する。これ以外に、切刃以外の箇所の曲げモーメント36による作用が考えられるが、板状材料6の平面的な拘束力によって、実質的な凹工具3a側への作用力36aは大きく、凸工具3b側への作用力36bは小さくなる。
【0063】
一方、図12(a)に示すような製品側材料6bの第1角32では、コーナー頂点35bに対して周辺からの曲げモーメント37が図12(b)に示すように作用する。このときのコーナー部に付加される力を図12(c)に示す。板状材料6の平面的な拘束力によって、実質的な凹工具3a側への作用力37aは小さく、凸工具3b側への作用力37bは大きくなる。
【0064】
ゆえに、第2角31では凹工具3a側を凸とする曲げが発生しやすく、第1角32では凸工具3b側を凸とする曲げが発生しやすい。よって、前述のとおり、第2角31は製品側材料6b(凸工具3b側)にヒゲバリが発生しやすい切断状態であるといえる。
【0065】
しかし、本実施形態2では、第2角31以外の箇所から切断を完了させていき、最後に第2角31を切断する。この最後の第2角31の切断時には、第2角31でのヒゲバリを発生させやすくしている要因である曲げモーメント36(図11(b))が、すでに切断されていることで作用せず、第2角31以外の箇所と同様の切断条件にて打ち抜くことが可能となる。よって、切断後のヒゲバリ発生を抑制することができる。
【0066】
本実施形態2の具体的な寸法としては、平面寸法最大300mmで高さ260mm(金型上死点時)の金型を用い、厚み50μmの板状材料を平面寸法最大50mmの製品形状に打ち抜いた。また、板状材料はフレキシブルプリント基板で、材質はポリイミドを用いた。
【0067】
なお、本実施形態2では板状材料として厚み50μmのポリイミド素材を用いたが、PETなどの樹脂素材やアルミニウムやニッケルや銅など可撓性を有する板状材料でもよく、それら板状材料を複数層積層させた素材でもよい。また、材料厚みは1000μmから1μmでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る板状材料の打抜工法は、フレキシブルプリント基板などの打ち抜きにおいて、製品を挟み込むことなく、ヒゲバリやクズの発生を抑制しての打ち抜きが可能であり、そのため材料のレジスト面にキズがつかず、配線が剥き出しになって短絡や腐食が起こることを防ぐことができ、また、クズが少ないため、クリーンルーム内での生産や、自動化,半自動化された生産工程において洗浄工程などをなくすことが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1a 上ダイセットプレート
1b 下ダイセットプレート
2a 上バッキングプレート
2b 下バッキングプレート
3a 凹工具
3b 凸工具
4 パッド
5 材料ガイド
6 板状材料
6a スクラップ側材料
6b 製品側材料
7a,7b 流路
7c,7d,7e 外部流路
8 ギャップセンサ
9 バルブ
10a,10d,10e 信号線
10b アンプ
10c コントローラ
11 エアーポンプ
12a スクラップ側ヒゲバリ
12b 製品側ヒゲバリ
14a 凹工具が作用させる力
14b 凸工具が作用させる力
15,20 引張応力
16,19 圧縮応力
18 たわみ力
31 第2角
32 第1角
33 テーパ加工
34 ニガシ量
35a,35b コーナー頂点
36,37 曲げモーメント
36a,37a 凹工具側への作用力
36b,37b 凸工具側への作用力
38 切断開始点
39 切断終了点
40 切断進行方向
50a,50b 微小丸み
51a,51b 材料押さえ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃が対向する凸工具と凹工具を用いる板状材料の打抜工法であって、
前記凸工具と前記凹工具により板状材料を挟んで拘束する第1工程と、前記板状材料に前記凸工具の切刃側に引張応力、かつ前記凹工具の切刃側に圧縮応力と該圧縮応力を付加する方向に曲げ応力を加える第2工程と、前記板状材料を打ち抜く第3工程とを有することを特徴とする板状材料の打抜工法。
【請求項2】
前記第2工程において、凸工具の上面と板状材料との間の空間に、前記凸工具内に設けた穴を通じて気体を流入させて圧力を発生させることにより、曲げ応力を加えることを特徴とする請求項1記載の板状材料の打抜工法。
【請求項3】
前記凸工具と板状材料との空間に気体を流入させる時間を、第1工程完了から第3工程完了の間のみとすることを特徴とする請求項2記載の板状材料の打抜工法。
【請求項4】
前記凸工具と板状材料との空間に気体を流入させる穴を用いて、第1工程完了前および第3工程完了後は前記気体を流出させて逆の圧力を発生させることにより、前記凸工具の上面に板状材料を吸着固定することを特徴とする請求項2または3記載の板状材料の打抜工法。
【請求項5】
前記第2工程において、凹工具と板状材料との間の空間から気体を流出させて圧力を減じることにより、曲げ応力を加えることを特徴とする請求項1記載の板状材料の打抜工法。
【請求項6】
前記凹工具と板状材料との空間から気体を流出させる時間を、第1工程完了から第3工程完了の間のみとすることを特徴とする請求項5記載の板状材料の打抜工法。
【請求項7】
前記切刃が対向する凸工具と凹工具において、板状材料を打ち抜いた製品の平面形状が第1角(製品の内角が190度以上350度以下)と第2角(製品の内角が10度以上170度以下)を含む多角形状の場合、前記凸工具または前記凹工具いずれかの前記第2角の部分にテーパ加工を設けることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに1項に記載の板状材料の打抜工法。
【請求項8】
前記テーパ加工のニガシ量が板状材料の厚みの1/3以上、2/3以下であることを特徴とする請求項7記載の板状材料の打抜工法。
【請求項9】
前記テーパ加工に変えて段つきのニガシ形状として、ニガシ量が板状材料の厚みの1/3以上、2/3以下であることを特徴とする請求項7記載の板状材料の打抜工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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