説明

板状複合材料

【課題】低温・高温繰り返し環境においても優れた耐久性を呈する板状の金属/プラスチック複合材料を提供する
【解決手段】板状金属材料の表面に、熱可塑性樹脂の接着剤層を介して、長さ10mm以上の繊維を熱硬化性樹脂中に含有する板状繊維強化プラスチック材料が接合されている複合材料であって、板状金属材料の平均厚さをtM(mm)、接着剤層の平均厚さをtC(mm)、接着剤層を構成する熱可塑性樹脂の伸びをδ(%)とするとき、下記(1)式および(2)式を満たす板状複合材料。
C×δ≧0.16 …(1)
C/tM≧0.01 …(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料を接着剤にて接合した板状複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と繊維強化プラスチックを接合した複合材料は、金属材料単体の場合と比較して比強度(引張強さ/比重の比)を大幅に向上させることが可能であることから、建築物、自動車、船舶などの構成部材として普及しつつある。
【0003】
繊維強化プラスチックとしては、短繊維を樹脂組成物のマトリクス中に分散配合させたもの、長繊維を樹脂に埋め込んだものなどが知られている。繊維の種類は用途に応じて様々であるが、強度特性に優れた繊維としては炭素繊維やガラス繊維などが代表的である。このような高強度繊維を用いた板状繊維強化プラスチック材料は強度が非常に高いので、板状金属材料の比強度向上には特に有利である。
【0004】
特許文献1には軽金属と繊維強化プラスチックを接着剤で一体化し、耐食性、強度・衝撃エネルギー吸収性能を向上させた軽金属/CFRPハイブリッド構造材が記載されている。特許文献2には金属板に熱可塑性樹脂を基材とする繊維強化プラスチックを積層した、耐食性、耐衝撃性、制振性に優れた多層積層板が記載されている。特許文献3には金属と繊維強化プラスチックが発泡樹脂を介して接合されている高強度金属樹脂複合構造体が記載されている。
【0005】
【特許文献1】WO99/10168号再公表公報
【特許文献2】特開平6−115007号公報
【特許文献3】特開2007−196545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、金属と繊維強化プラスチックを接着剤により接合して金属/プラスチック複合材料とする場合、その接着剤にはエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することが一般的である。熱硬化性樹脂は硬質で強度が高く、複合材料の強度レベルを向上させる上で有利となる。しかしながら、自動車部材等の用途に適用される金属/プラスチック複合材料は、低温(常温)と高温に繰り返し曝されるという環境(低温・高温繰り返し環境)で使用されることが多い。発明者らの調査によると、従来の金属/プラスチック複合材料を自動車のエンジンルーム内の部材やボディー部材に適用すると、低温・高温繰り返し環境によって、材料変形や、金属/プラスチック間での剥離が生じる恐れがあることがわかった。その要因としては金属と樹脂の熱膨張係数に大きな差があることが挙げられる。レーシングカー等の短期的な使用では従来の金属/プラスチック複合材料において軽量化と高強度化の目的は達せられるが、一般の乗用車等に適用する場合には長期の使用に耐える必要があり、耐久性の面で不安がある。
【0007】
一方、特許文献3に示されるように金属とプラスチックを発泡樹脂で接合する場合、接合時の加熱冷却では変形は生じない。しかし、自動車の車内など、昇温・降温サイクルが短い周期で頻繁に発生する部位に適用した場合、金属とプラスチックの熱膨張特性の差に起因する応力が発泡樹脂層に繰り返し頻繁に付与され、発泡樹脂層は経時劣化によって強度低下を引き起こすことが懸念される。また、発泡樹脂層は樹脂を発泡させるために厚くなり、薄い材料が必要な部位への適用が困難となる。
【0008】
本発明は、低温・高温繰り返し環境においても優れた耐久性を呈する板状の金属/プラスチック複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のように、金属/プラスチック複合材料を低温・高温繰り返し環境で使用した場合に問題となる材料変形や、金属/プラスチック間での剥離は、主として金属とプラスチックの熱膨張差に起因して生じる。発明者らは詳細な検討の結果、金属とプラスチックを接合するための接着剤として伸び率の良好な熱可塑性樹脂を使用し、その伸び率と接着剤層の厚さとの積を一定以上に確保するとともに、接着剤層の厚さを金属材料の板厚に応じて十分に厚くすることによって、複合材料として求められる高強度を維持しながら、金属とプラスチックの熱膨張差に起因するひずみを接着剤層に吸収させることが可能になることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0010】
すなわち本発明では、板状金属材料の表面に、熱可塑性樹脂の接着剤層を介して、長さ10mm以上の繊維を熱硬化性樹脂中に含有する板状繊維強化プラスチック材料が接合されている複合材料であって、板状金属材料の平均厚さをtM(mm)、接着剤層の平均厚さをtC(mm)、接着剤層を構成する熱可塑性樹脂の伸びをδ(%)とするとき、下記(1)式および(2)式を満たす板状複合材料が提供される。
C×δ≧0.16 …(1)
C/tM≧0.01 …(2)
【0011】
ここで、板状複合材料は、1枚の板状金属材料と1枚の板状繊維強化プラスチック材料を接合した構造としても構わないし、1枚の板状金属材料の両面に板状繊維強化プラスチック材料を接合したサンドイッチ構造のものや、複数枚の板状金属材料と複数枚の板状繊維強化プラスチック材料を交互に積層した構造のものを採用することもできる。複数の接着剤層や金属材料の層を有する構造の場合は、(1)式、(2)式のtC、およびtMはそれぞれの層のトータル厚さを採用すればよい。また、複数の接着剤層を有する構造のものにおいて各接着剤層を構成する樹脂の伸びδの値が異なる場合は、各接着剤層ごとにtC×δを算出してそれらを合計した値を(1)式左辺の値として採用すればよい。
【0012】
板状繊維強化プラスチック材料としては、引張強さが2000MPa以上のものを使用することが特に効果的である。例えば、炭素繊維からなる長繊維束を熱硬化性樹脂組成物のバインダーにより平板化したプリプレグシートを素材として使用し、その熱硬化性樹脂を硬化させたものが好適な対象として挙げられる。板状繊維強化プラスチック材料は、繊維の配向によって強度特性に異方性を有する場合が多い。ここで「引張強さが2000MPa以上」とは、最も大きい引張強さが得られる方向に引張試験を行ったときの値が2000MPa以上であればよいことを意味する。
【0013】
当該複合材料の板厚に占める板状繊維強化プラスチック材料の平均厚さ(複数の板状繊維強化プラスチック材料の層を有する場合はその合計厚さの平均値)の比率が60〜80%、接着剤層の平均厚さ(複数の接着剤層を有する場合はその合計厚さの平均値)の比率が10%未満であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料を接合した複合材料において、その本来の目的である高い比強度を確保しながら、低温・高温繰り返し環境での耐久性を顕著に改善したものが実現された。したがって、この複合材料はレーシングカー等の特殊な用途だけではなく、長期間の耐久性が要求される一般的な自動車(実用車)にも適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、本発明の板状複合材料の断面構造を模式的に示す。板状金属材料1と板状繊維強化プラスチック材料2が接着剤層3を介して接合され、これらが一体化することにより板状複合材料10が形成されている。図1において接着剤層3の厚さは誇張して描いてある。ここでは板状金属材料1の片面に板状繊維強化プラスチック材料2を接合した板状複合材料10を例示したが、板状金属材料1の両面に板状繊維強化プラスチック材料2を接合したり、板状繊維強化プラスチック材料2の両面に板状金属材料1を接合したりするサンドイッチ構造の板状複合材料10を構築することもできる。また、板状金属材料1と板状繊維強化プラスチック材料2を交互に積層して接合しても構わない。
【0016】
〔板状金属材料〕
本発明の複合材料に用いる板状金属材料としては、用途に応じて鋼板、銅合金板、アルミニウム合金板など、種々の金属材料の適用が考えられる。鋼板としては、一般的な普通鋼板、高張力鋼板、これらの鋼板をめっき原板とする各種めっき鋼板、ステンレス鋼板などが挙げられる。
【0017】
なかでも、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は従来一般的な亜鉛めっき鋼板と比べて耐食性に優れ、厳しい腐食環境下でも腐食に起因した金属/繊維強化プラスチック間の剥離を抑制する効果が大きい。溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層組成としては以下のものが例示できる。
(めっき層組成); 質量%でAl:3〜22%、Mg:0.5〜8%を含有し、さらにTi:0.1%以下、B:0.05%以下、Si:2%以下の1種以上を含有し、Ca、Sr、Na、Ni、Co、Sn、Cu、Cr、Mn、希土類元素、Y、Zrの合計含有量が1%以下(0%を含む)に制限され、Feの含有量が2.5%以下に制限され、残部Znおよび不可避的不純物からなるめっき層
この場合、めっき付着量は鋼板片面あたり20〜300g/m2程度とすることが効果的である。
【0018】
ステンレス鋼板としては、例えばJIS G4305:2005に規定される鋼種に相当する組成を有する既存鋼種を採用することができる。具体的には、オーステナイト系の汎用鋼種であるSUS304系、フェライト系の汎用鋼種であるSUS430系などが挙げられる。また、JISに該当しない鋼種としては、例えばオーステナイト系の場合、JIS G4305:2005の表2に記載されるオーステナイト系鋼種において、当該表2に規定される成分含有量を満たし、質量%でさらにB:0.05%以下、V:0.5%以下、Zr:0.5%以下、Al:0.5%以下、Cu:3%以下、N:0.5%以下の1種以上を含有し、Ca、Mg、Y、REMの合計含有量が0〜0.01%であり、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼種が挙げられる。フェライト系の場合、JIS G4305:2005の表4に記載されるフェライト系鋼種において、当該表4に規定される成分含有量を満たし、質量%でさらにB:0.05%以下、V:0.5%以下、Al:0.5%以下、Cu:1%以下の1種以上を含有し、Ca、Mg、Y、REMの合計含有量が0〜0.01%であり、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼種が挙げられる。
【0019】
また、板状金属材料に化成処理を施すことにより接着剤との密着性が向上し、より高強度な複合材料となりうる。特に鋼板の場合、耐食性向上による金属板と長繊維強化プラスチック板の剥離抑制効果も期待される。化成処理皮膜は、ウレタンやアクリル樹脂にクロム酸塩、チタン塩、リン酸塩などの無機系防錆剤、シランカップリング剤やシリカゾルなどの添加剤を配合した有機系の皮膜、クロム酸塩、チタン塩、リン酸塩などの無機成分にシランカップリング剤やシリカゾルなどの添加剤を配合した無機系の化成処理皮膜などが適用できる。特にバルブメタルを含むチタン塩などの化成処理皮膜は鋼板の耐食性向上に極めて有効であり、複合材料においても良好な耐食性が発揮される。
【0020】
〔板状繊維強化プラスチック材料〕
上記の板状金属材料と接合する板状繊維強化プラスチック材料としては、長さ10mm以上の短繊維または長繊維を熱硬化性樹脂中に含有するものが適用対象となる。ここで「長繊維」とは、板状金属材料と貼り合わせる個々の板状繊維強化プラスチック材料において、その一端部から他端部まで連続的につながっている繊維である。これに対し「短繊維」は板状繊維強化プラスチック材料の内部に終端部を有している繊維である。繊維長が10mm未満である短繊維のみからなる繊維強化プラスチック材料は、金属材料の比強度を顕著に向上させる目的においては強度不足となりやすく、本発明には適さない。
【0021】
繊維の種類としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、高強力ポリアクリレート繊維などの有機繊維が挙げられる。
【0022】
プラスチックの種類としては、熱硬化性樹脂が採用される。エポキシ、メラミン、フェノールなどの樹脂、あるいはこれらの共重合体などが挙げられる。熱「可塑性」樹脂を用いた繊維強化プラスチックでは、高温下で衝撃が加わった際、樹脂が軟化しているため繊維の固定が不十分となり、十分な強度が得られない。このため本発明では熱硬化性樹脂によって繊維を固定した繊維強化プラスチック材料を使用する必要がある。
【0023】
短繊維を使用する場合は、樹脂組成物中に短繊維を分散させた後、シート状に成形し、加熱処理により硬化させる方法で板状繊維強化プラスチック材料を得ることができる。長繊維を使用する場合は、長繊維束を予め熱硬化性樹脂組成物のバインダーにより平板化した「プリプレグシート」を使用することが好適である。なかでも炭素繊維の長繊維束に熱硬化性樹脂組成物の液を含浸させて平板化したプリプレグシートが好適である。この場合、炭素長繊維の配向は一方向であってもよいし、経方向および緯方向に繊維を配向させた織物状であってもよい。
【0024】
プリプレグシートを使用した板状繊維強化プラスチック材料の作製は比較的簡便である。すなわち、プリプレグシートに含浸させてある熱硬化性樹脂組成物を加熱により硬化させると、直ちに板状繊維強化プラスチック材料が出来る。1枚のプリプレグシートをそのまま使用しても良いし、複数枚のプリプレグシートを積層状態としたものをホットプレスすることにより一体化させてもよい。必要に応じて硬化処理前に熱硬化性樹脂組成物を加えることで、熱硬化性樹脂と繊維の量比を調整することができる。
【0025】
板状繊維強化プラスチック材料は、接合相手である金属材料の比強度を向上させるに足る高強度を有しているものが適用対象となる。種々検討の結果、ある方向において2000MPa以上の引張強さを呈するものが好ましい。少なくとも1方向について極めて高い引張強さを有していれば、外部から衝撃を受けた際の変形が抑制され、例えば自動車のボディー用途ではへこみ疵に対する抵抗力が顕著に増大する。板状繊維強化プラスチック材料の強度は主として繊維の配向方向および樹脂中に占める繊維の割合によってコントロールすることができる。板状繊維強化プラスチック材料の平均厚さは、例えば0.1〜10mm程度の範囲で調整することができる。
【0026】
〔接着剤層〕
板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料との接合には、熱可塑性樹脂からなる接着剤が適用される。樹脂の種類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ酢酸ビニル、アクリル、ポリフェニレンサルファイドポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレートや、これらの共重合体などが挙げられる。なかでも、骨格内にヒドロキシ基、カルボキシル基などの極性基を持つエチレンビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体など、また、多価カルボン酸とポリアルコールとの縮合体であるポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどが金属およびプラスチックとの密着性において特に優れている。
【0027】
この接着剤によって構成される接着剤層は、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料の接合を担うとともに、両者の熱膨張差に起因するひずみを吸収する役割を有する。プラスチックは金属材料と比較して熱膨張係数が大きい。接着剤層は、その熱膨張差によって生じる「板状金属材料/接着剤層間」の応力、および「板状繊維強化プラスチック材料/接着剤層間」の応力を十分に緩和するに足る厚さを確保する必要がある。その厚さは接着剤を構成する樹脂の伸び率にも依存する。すなわち、同じ応力緩和効果を得るためには、伸び率の大きい樹脂であれば接着剤層の厚さを薄くすることができ、逆に伸び率の小さい樹脂であれば接着剤層の厚さを厚くする必要がある。種々検討の結果、下記(1)式を満たすように樹脂の種類に応じて接着剤層の厚さを設定することが、金属材料と繊維強化プラスチック材料の間の熱膨張差に起因する応力を緩和するうえで極めて有効であることがわかった。
C×δ≧0.16 …(1)
ここで、tCは接着剤層の平均厚さ(mm)、δは接着剤層を構成する熱可塑性樹脂の伸びδ(%)である。伸びδは引張最大荷重時の引張伸びに相当するものであり、JIS K7161に準じて測定されたデータを採用することができる。
【0028】
一方、熱膨張差によって生じる「板状金属材料/接着剤層間」の応力、および「板状繊維強化プラスチック材料/接着剤層間」の応力によって、板状金属材料および板状繊維強化プラスチック材料自体も、昇温時の膨張や降温時の収縮による材料変形挙動に影響を受ける。発明者らの検討によれば、特に板状金属材料の厚さに応じて接着剤層の厚さを十分に確保することが、複合材料としての耐久性を向上させる上で有効であることを見出した。すなわち、板状金属材料は、その厚さが薄い場合には板状繊維強化プラスチック材料の変形に追随しやすく、接着剤層によって吸収すべきひずみ量は低減されるので、接着剤層の厚さは比較的薄くても構わない。逆に板状金属材料の厚さが厚くなるほど板状繊維強化プラスチック材料の変形に追随しにくくなり、その結果、接着剤層によって吸収すべきひずみ量は増大するので、接着剤層の厚さを大きくする必要がある。詳細な検討の結果、下記(2)式を満たすことが極めて効果的である。
C/tM≧0.01 …(2)
ここで、tMは板状金属材料の平均厚さ(mm)、tCは接着剤層の平均厚さ(mm)である
【0029】
上記の(1)式あるいは(2)式を満たさない場合は、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料の熱膨張係数差に起因する両者の材料変形に接着剤層の変形が追随できない事態が生じやすくなり、接着剤層が凝集破壊し、十分な接合強度が確保できなくなる場合がある。
【0030】
〔板状複合材料における各層の厚さ比率〕
板状複合材料の板厚に占める板状繊維強化プラスチック材料の平均厚さ(複数の板状繊維強化プラスチック材料の層を有する場合はその合計厚さの平均値)の比率は、60〜80%であることがより好ましい。板状繊維強化プラスチック材料の厚さ比率を60%以上にすれば金属材料単体の場合と比べ、高強度化と、金属材料を薄肉化できることによる軽量化によって、比強度の大幅な向上を実現しやすいことがわかった。ただし、この比率が過度に高くなるとコストメリットが低減するので、80%以下とすることが好ましい。
【0031】
また、板状複合材料の板厚に占める接着剤層の平均厚さ(複数の接着剤層を有する場合はその合計厚さの平均値)の比率は、10%未満であることがより好ましい。熱可塑性樹脂からなる接着剤層は板状複合材料の強度にほとんど寄与しないため、その厚さ比率が10%以上になると板状複合材料の強度レベル低下を招きやすい。
【実施例】
【0032】
《板状複合材料の作製》
以下のようにして図1に示したタイプの板状複合材料を作製した。
【0033】
〔板状金属材料〕
表1に示す金属板を用意した。表1中の「引張強さ」は、圧延方向における引張試験値であり、JIS Z2241に準じて測定した。金属板Aは下記「化成処理1」の条件で化成処理皮膜を形成したものである。それ以外の金属板には化成処理を施していない。
(化成処理条件1)
処理液; フッ化チタン酸アンモニウム50g/L、85%リン酸20g/L、リン酸マグネシウム10g/Lを含有する水溶液
処理方法; Ti金属換算付着量が40mg/m2となるように処理液をバーコーターで金属板表面に塗布したのち、板温120℃で乾燥
【0034】
【表1】

【0035】
〔接着剤〕
表2に示す接着剤を用意した。表2中の「引張伸び」は引張最大荷重時の伸びであり、接着剤を硬化させた後、JIS K7161に準じて測定されたデータを記載した。
【0036】
【表2】

【0037】
〔板状繊維強化プラスチック材料〕
炭素繊維プリプレグシート(三菱レイヨン社製;パイロフィルTR350C100)を用意した。このシートは一方向に配向した炭素繊維の長繊維束に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂組成物を含浸させて平板化したものである。表3に示す所定枚数のプリプレグシートを炭素長繊維の方向が同一方向となるように積層した状態とし、ホットプレスにより130℃、加圧力0.033MPa、120分の加熱処理を施すことにより、エポキシ樹脂を硬化させ、板状繊維強化プラスチック材料を得た。表3中に各板状繊維強化プラスチック材料の平均厚さおよび引張強さを示す。この「引張強さ」はJIS K7146に準じて測定した。この引張試験は、長繊維の長手方向に対応する方向について行った。
【0038】
【表3】

【0039】
〔板状複合材料〕
表1の板状金属材料と、表3の板状繊維強化プラスチック材料を、表2の接着剤を用いて接合し、図1に示したタイプの板状複合材料を作製した。板状金属材料、接着剤層、板状繊維強化プラスチック材料の組合せは表4中に記載してある。板状金属材料の圧延方向と、板状繊維強化プラスチック材料の繊維方向(表3に示した強度が得られた方向)とが一致するように両者を接合した。接着方法は、接着剤の種類に応じて以下のようにした。
【0040】
熱可塑性樹脂の接着剤(表2のエポキシ以外)を使用する場合は、接着剤を溶融温度+20℃の温度に加熱し、溶融した接着剤の液をバーコーターまたはゾルコーターで板状金属材料の表面に所定量塗布し、常温まで冷却し、その後、接着剤層の上に板状繊維強化プラスチック材料を載せ、ホットプレスにより接着剤溶融温度+20℃、加圧力0.033MPa、120秒の加熱処理を施すことにより、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料とを接着剤を介して一体化させ、板状複合材料を得た。
エポキシ系接着剤を使用する場合は、硬化剤を添加した接着剤の液をバーコーターまたはゾルコーターで板状金属材料の表面に所定量塗布し、接着剤が硬化する前に接着剤塗布面に板状繊維強化プラスチック材料を載せ、加圧力0.033MPa、120分のプレスを施すことにより、板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料とを接着剤を介して一体化させ、板状複合材料を得た。
【0041】
《板状複合材料の特性評価》
〔引張強さ〕
引張強さは、JIS K7146に準じて測定した。引張方向は板状金属材料の圧延方向とした。引張強さ950MPa以上のものを合格と判定した。特に1900MPa以上であるものは極めて強度特性に優れると評価される。
【0042】
〔比強度〕
上記の引張強さをkg/m2に換算した値を板状複合材料の比重で除することにより比強度を算出した。この比強度が16×106以上であれば、多くの用途において金属材料単体の場合よりも高強度化または軽量化に対する顕著な効果が期待されるので、比強度16×106以上のものを合格と判定した。
【0043】
〔耐熱変形性〕
各板状複合材料から200mm×150mmの試験片を切り出し、以下の2種類の試験に供した。
加温試験; 70℃のオーブン中に120分間保持
サイクル試験; 「70℃の熱水中に10分間浸漬 → 4℃の冷水中に10分間浸漬」の加熱冷却サイクルを50サイクル実施
【0044】
上記各試験後の試験片を平坦な盤上に置き、板のそりを評価するために急峻度(=山高さ/試験片長さ200mm×100)を測定した。測定値を以下の基準で評価し、加温試験、サイクル試験とも○評価以上であれば多くの用途において問題なしと判断されることから、それぞれ○評価以上を合格と判定した。
◎:急峻度;0.2%未満
○:急峻度;0.2%以上1.0%未満
△:急峻度;1.0%以上1.5%未満
▲:急峻度;1.5%以上
×:板状金属材料と板状繊維強化プラスチック材料の剥離が生じた
【0045】
以上の試験結果により、引張強さ、比強度、耐熱変形性のすべてが合格であったものを総合評価;合格と判定し、◎(優秀)、○(良好)とした。それ以外のものを総合評価;×とした。
結果を表4に示す。
【0046】
【表4】

【0047】
表4からわかるように、本発明例のものはいずれも上記各特性に優れ、総合評価は合格と判定された。なかでも板厚に占める板状繊維強化プラスチック材料の厚さ比率が0.6〜0.8、接着剤層の厚さ比率が0.1未満であるもの(試料No.2、5、8、9、10、11、16)は、極めて強度特性に優れる。なお、試料No.18、19は板状繊維強化プラスチック材料の厚さ比率が0.8を超えるものであり、用途によってはコスト高となる。
【0048】
これに対し、比較例である試料No.1、3、4、12は(1)式または(2)式を満たさないもの、試料No.13、15は接着剤層に熱硬化性樹脂を使用したものであり、これらはいずれも耐熱変形性に劣った。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の板状複合材料の断面構造を模式的に例示した図。
【符号の説明】
【0050】
1 板状金属材料
2 板状繊維強化プラスチック材料
3 接着剤層
10 板状複合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状金属材料の表面に、熱可塑性樹脂の接着剤層を介して、長さ10mm以上の繊維を熱硬化性樹脂中に含有する板状繊維強化プラスチック材料が接合されている複合材料であって、板状金属材料の平均厚さをtM(mm)、接着剤層の平均厚さをtC(mm)、接着剤層を構成する熱可塑性樹脂の伸びをδ(%)とするとき、下記(1)式および(2)式を満たす板状複合材料。
C×δ≧0.16 …(1)
C/tM≧0.01 …(2)
【請求項2】
板状繊維強化プラスチック材料は、引張強さが2000MPa以上のものである請求項1に記載の板状複合材料。
【請求項3】
板状繊維強化プラスチック材料は、炭素繊維からなる長繊維束を熱硬化性樹脂組成物のバインダーにより平板化したプリプレグシートを素材として使用し、その熱硬化性樹脂を硬化させたものである請求項1または2に記載の板状複合材料。
【請求項4】
板厚に占める板状繊維強化プラスチック材料の厚さ比率が60〜80%、接着剤層の厚さ比率が10%未満である請求項1〜3のいずれかに記載の板状複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2010−143009(P2010−143009A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320968(P2008−320968)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】