説明

板重ね合わせ構造

【課題】 コストの高騰や生産性の低下を招くことなく、鋼板の重ね合わせ部における凍結防止剤の水溶液などの浸入に起因した錆の発生を防止し、錆の発生による見栄えの低下などを回避する。
【解決手段】 互いに対向する2つの鋼板1,4の端部2,5を重ね合わせて接着する板重ね合わせ構造において、端部2,5のうちの一方の端部2を、その接着部分6が他方の端部5の接着部分7に向けて突出するように形成し、端部2,5のうちの表側に位置する端部2に、対向する端部5から離れた状態で接着部分6から延出する延出部分8を設けてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などにおいて互いに対向する2つの鋼板の端部を重ね合わせて接着する板重ね合わせ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような板重ね合わせ構造としては、ルーフレールアウタの後縁に、バックアウタの前縁を、その前縁の端面がルーフレールアウタのくぼみに充填されたシーラに包み込まれるように重ね合わせてスポット溶接などで接着することで、ルーフレールアウタとバックアウタとの重ね合わせ部への水などの浸入を防止するものがある(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−72661号公報(段落番号0006〜0007、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、積雪量の多い地域での凍結防止剤の散布量が増加しているために、車両の下回り部においては、跳ね上げられた凍結防止剤の水溶液が、電着塗装液の行き渡り難い鋼板の重ね合わせ部に浸入することに起因した錆の発生(塩害)を招き易くなっている。
【0004】
そこで、上記の構成を車両の下回り部に採用することが考えられるが、この場合には、シーラを塗布することによるコストの高騰や生産性の低下を招くことになる。又、塗布したシーラが外れる虞もあることから、信頼性の面においても改善の余地がある。
【0005】
上記の構成以外に、例えば、亜鉛メッキ鋼板などの防錆鋼板を採用することも考えられるが、防錆鋼板はコストが高く溶接し難いことから、この場合においてもコストの高騰や生産性の低下を招くことになる。
【0006】
本発明の目的は、コストの高騰や生産性の低下を招くことなく、鋼板の重ね合わせ部における凍結防止剤の水溶液などの浸入に起因した錆の発生を防止し、錆の発生による見栄えの低下などを回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明のうちの請求項1に記載の発明では、互いに対向する2つの鋼板の端部を重ね合わせて接着する板重ね合わせ構造において、前記端部のうちの一方の端部を、その接着部分が他方の端部の接着部分に向けて突出するように形成し、前記端部のうちの表側に位置する端部に、対向する端部から離れた状態で前記接着部分から延出する延出部分を設けてあることを特徴とする。
【0008】
この特徴構成によると、2つの鋼板の端部を重ね合わせて接着した状態では、それらの端部における接着部分のみが密接し、他の部分の間には隙間が形成されるようになる。そのため、2つの端部の対向面の全域を密接させる場合に比較して、接着後の電着塗装工程において、各端部の全域に防錆用の電着塗装液が行き渡り易くなる。その結果、高い防錆効果を得られることになり、それらの端部の間に凍結防止剤の水溶液などが入り込んだとしても、電着塗装液の塗布不良に起因した錆の発生を効果的に防止することができる。
【0009】
又、万が一、接着部分の間において、塗膜の経年変化などに起因して錆が発生しても、接着部分の間で発生する錆は延出部分の裏側に位置して人目に付き難くなる。
【0010】
従って、シーラの塗布や防錆鋼板の採用などによるコストの高騰や生産性の低下を招くことなく、重ね合わせた鋼板の端部での凍結防止剤の水溶液水などの浸入に起因した錆の発生や錆の表面化を効果的に防止することができ、錆の発生による見栄えの低下などを効果的に回避することができる。
【0011】
本発明のうちの請求項2に記載の発明では、上記請求項1に記載の発明において、前記延出部分の延出端が、突出形成した前記接着部分に向かうように、前記延出部分を折り曲げ形成してあることを特徴とする。
【0012】
この特徴構成によると、延出部分の延出端が、延出部分の裏側に位置するようになることから、その延出端において、電着塗装液が付着し難いことに起因したエッジ錆が発生しても、そのエッジ錆は人目に付き難くなる。
【0013】
従って、錆の発生による見栄えの低下をより効果的に回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかる板重ね合わせ構造を、車両の下回り部の一例であるフロントフェンダ部に適用した場合ついて説明する。
【0015】
図1はフロントフェンダ部の要部を示す分解斜視図であり、図2はフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図であり、これらの図面で示されているように、フロントフェンダ部においては、鋼板製のフェンダパネル1の内端部2と、エンジンルーム3の側壁を形成する鋼板製のエプロンメンバ4の外端部5とが、互いに対向する状態で上下に重なり合い、それらの端部2,5における接着部分6,7がスポット溶接によって接着されている。
【0016】
フェンダパネル1の接着部分6は、車両の前後方向に延びる一直線状で、その下方に位置するエプロンメンバ4の接着部分7に向けて突出するように形成されている。又、フェンダパネル1の内端部2には、エプロンメンバ4の外端部5から離れた状態で、接着部分6から車両内方に向けて延出する延出部分8が設けられている。そして、その延出部分8は、その延出端9が突出形成した接着部分6に向かうように折り曲げ形成されている。
【0017】
以上の構成から、フェンダパネル1の内端部2とエプロンメンバ4の外端部5とを重ね合わせて接着した状態では、それらの端部2,5における接着部分6,7のみが密接し、他の部分の間には隙間10が形成されるようになる。そのため、フェンダパネル1の内端部2とエプロンメンバ4の外端部5との互いに対向する面の全域を密接させる場合に比較して、それらの端部2,5を接着した後の電着塗装工程において、それらの端部2,5の全域に防錆用の電着塗装液が行き渡り易くなる。その結果、高い防錆効果を得られることになり、それらの端部2,5の間に凍結防止剤の水溶液などが入り込んだとしても、電着塗装液の塗布不良に起因した錆の発生を効果的に防止することができる。
【0018】
そして、万が一、フェンダパネル1の接着部分6とエプロンメンバ4の接着部分7との間において、塗膜の経年変化などに起因して錆が発生しても、それらの接着部分6,7の間で発生する錆は、上方に位置するフェンダパネル1に設けた延出部分8の裏側に位置することから、エンジンルーム3の上壁を形成するフードパネル11を開けた場合であっても人目に付き難くなる。
【0019】
又、フェンダパネル1における内端部2の延出端9において、電着塗装液が付着し難いことに起因したエッジ錆が発生したとしても、その延出端9は延出部分8の裏側に位置することから、そのエッジ錆は、フードパネル11を開けた場合であっても人目に付き難くなる。
【0020】
つまり、フェンダパネル1における内端部2の形状に創意工夫を凝らすことで、フェンダパネル1の内端部2とエプロンメンバ4の外端部5との間における錆の発生や錆の表面化による見栄えの低下を効果的に回避することができる。
【0021】
〔別実施形態〕
【0022】
〔1〕本発明にかかる板重ね合わせ構造は、互いに対向する2つの鋼板1,4の端部2,5を重ね合わせて接着する箇所であれば、上記の実施形態で例示した箇所以外の、例えば、エアボックスパネルの端部とフロントピラーの端部とを重ね合わせて接着する箇所、などに適用することができる。
【0023】
〔2〕図3に示すように、フェンダパネル1の延出部分8を、その延出端9が突出形成した接着部分6に向かうように折り曲げ形成しないようにしてもよい。
【0024】
〔3〕図4に示すように、フェンダパネル1の延出部分8を、その延出端9が突出形成した接着部分6に完全に向かわない程度に浅く折り曲げ形成するようにしてもよい。
【0025】
〔4〕図5に示すように、エプロンメンバ4の接着部分7を、その上方に位置するフェンダパネル1の接着部分6に向けて突出するように形成してもよい。
【0026】
〔5〕図6に示すように、フェンダパネル1の接着部分6とエプロンメンバ4の接着部分7との接着を、ボルト12及びナット13による締着で行うものであってもよい。
【0027】
〔6〕図7に示すように、フェンダパネル1の接着部分6を、車両の前後方向に所定間隔を隔てて並ぶ状態で、その下方に位置するエプロンメンバ4の接着部分7に向けて突出するように形成して、フェンダパネル1の端部2とエプロンメンバ4の端部5とを接着した後の電着塗装工程において、それらの端部2,5の全域に防錆用の電着塗装液がより行き渡り易くなるようにしてもよい。
【0028】
〔7〕重ね合わせて接着される2つの鋼板1,4の端部2,5の双方が人目に付く表側に位置する場合には、図8に示すように、双方の鋼板1,4の端部2,5に、他方の鋼板1,4から離れた状態で、接着部分6,7から延出する延出部分8を設けるとともに、それらの延出部分8を、それらの延出端9が突出形成した接着部分6に向かうように折り曲げ形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】フロントフェンダ部の要部を示す分解斜視図
【図2】フロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【図3】別実施形態〔2〕でのフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【図4】別実施形態〔3〕でのフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【図5】別実施形態〔4〕でのフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【図6】別実施形態〔5〕でのフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【図7】別実施形態〔6〕でのフロントフェンダ部の要部を示す分解斜視図
【図8】別実施形態〔7〕でのフロントフェンダ部の要部を示す縦断正面図
【符号の説明】
【0030】
1 鋼板
2 端部
4 鋼板
5 端部
6 接着部分
7 接着部分
8 延出部分
9 延出端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する2つの鋼板の端部を重ね合わせて接着する板重ね合わせ構造であって、
前記端部のうちの一方の端部を、その接着部分が他方の端部の接着部分に向けて突出するように形成し、
前記端部のうちの表側に位置する端部に、対向する端部から離れた状態で前記接着部分から延出する延出部分を設けてあることを特徴とする板重ね合わせ構造。
【請求項2】
前記延出部分の延出端が、突出形成した前記接着部分に向かうように、前記延出部分を折り曲げ形成してあることを特徴とする請求項1に記載の板重ね合わせ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−162428(P2008−162428A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354579(P2006−354579)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】