説明

板金製物品の曲げ加工装置及びその方法並びに曲げ加工製品

【課題】板金製物品の端部をパンチと協働して曲げ加工するためのダイの構造の簡単化と製造コストの低減を図ることができる板金製物品の曲げ加工装置及びその方法並びに曲げ加工製品を提供すること。
【解決手段】板金製物品の端部17は、板金製物品の内側に配置されたダイ21の窪み部28と、この窪み部28に侵入するパンチとによって板金製物品の内側へ曲げ加工される。ダイ21は、窪み部28が形成されたダイ本体24と、窪み部28のために板金製物品の外側へ向かって突出した突出部29の一部を形成する分離ダイ部材25とを含んで形成され、端部17が曲げ加工されて曲げ加工製品になった車両のサイドパネルアウター1をダイ21から取り外すときに、分離ダイ部材25はダイ本体24からサイドパネルアウター1と共に取り外される

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金製物品の端部を曲げ加工するための装置及びその方法、並びに板金製物品の端部を曲げ加工することによって製造される曲げ加工製品に係り、例えば、車両のボディパネルであるサイドパネルアウターを製造するために利用できるものである。
【背景技術】
【0002】
車両のボディパネルであるサイドパネルアウターを製造するためには、初めに板金をドロー成形し、次いで形状精度を向上させるためのリストライク成形を行うことにより、所定形状となった板金製物品を生産する。この後、この板金製物品の全周端部のうちの一部、例えば、ルーフパネルと接続されるルーフレール部の端部を、この端部よりも板金製物品の内側に配置されたダイと、板金製物品の外側に配置され、ダイに対して前進後退自在となっているパンチとによって板金製物品の内側へ曲げ加工し、これにより、上記板金製物品からサイドパネルアウターが製造される。
【0003】
上記ダイには、板金製物品の内側へ窪んでいる窪み部と、この窪み部のために板金製物品の外側へ向かって突出している突出部とが形成されており、ダイに向かって前進したパンチの先部が上記窪み部に侵入することにより、上記端部が板金製物品の内側へ曲げ加工されるため、サイドパネルアウターには、上記突出部によって形成された略袋状部が形成されているとともに、この略袋状部の端部及びその周辺部は、サイドパネルアウターにおける所謂インバース形状部となっている。
【0004】
このようなインバース形状部を有している曲げ加工製品は、上記曲げ加工を行った後に、そのままの状態ではダイから取り出すことはできないため、下記の特許文献1では、ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して回動自在となった回動ダイ部材とによって形成されているとともに、この回動ダイ部材に上記前記窪み部が形成され、ダイ本体と回動ダイ部材とによって上記記突出部が形成されている。上記端部が曲げ加工された後、回動ダイ部材はダイ本体に対して回動し、これにより、上記曲げ加工製品はダイから取り出し可能となる。
【特許文献1】特開2001−87828
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この従来技術によると、板金製物品の端部をパンチと協働して板金製物品の内側へ曲げ加工するためのダイを、ダイ本体と、このダイ本体に対して回動自在となった回動ダイ部材とによって形成しなければならないため、ダイの構造が複雑になり、ダイの製造コストが高くなるという問題がある。
【0006】
特に、端部が曲げ加工された曲げ加工製品が、生産台数が少ない試作車や少量生産車両のためのボディパネルである場合には、ダイの構造が複雑になって、その製造コストが高くなることは、好ましくないことである。
【0007】
本発明の目的は、板金製物品の端部をパンチと協働して曲げ加工するためのダイの構造の簡単化と製造コストの低減を図ることができる板金製物品の曲げ加工装置及びその方法、並びに曲げ加工製品を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る板金製物品の曲げ加工装置は、板金製物品の曲げ加工される端部よりも前記板金製物品の内側に配置されたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとを有しており、前記ダイには、前記板金製物品の内側へ窪んでいる窪み部と、この窪み部のために前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部とが形成され、前記ダイに向かって前進した前記パンチと、このパンチの先部が侵入した前記窪み部とにより、前記板金製物品の前記端部がこの板金製物品の内側へ曲げ加工される板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材とを含んで形成され、前記分離ダイ部材によって前記突出部の少なくとも一部が形成され、前記端部が曲げ加工された前記板金製物品を前記ダイから取り外すときに、前記分離ダイ部材は前記ダイ本体から前記板金製物品と共に取り外されることを特徴とするものである。
【0009】
この曲げ加工装置によると、ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材とを含んで形成され、分離ダイ部材によって突出部の少なくとも一部が形成され、端部が曲げ加工された板金製物品をダイから取り外すときに、分離ダイ部材はダイ本体から板金製物品と共に取り外されるため、インバース形状部が形成されているこの板金製物品を、言い換えると曲げ加工製品を、ダイ本体から容易に取り外すことができる。
【0010】
そして、この曲げ加工装置によると、ダイを、ダイ本体と、このダイ本体に対して回動自在となった回動ダイ部材とによって形成する必要はなく、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となった分離ダイ部材とを含んで形成すればよいため、ダイの構造の簡単化を達成できるとともに、ダイの製造コストを低減することもできる。
【0011】
本発明に係る曲げ加工装置には、板金製物品をダイの上記突出部に押し付けるためのパッドを設けることが好ましい。これによると、板金製物品がパッドによってダイの突出部に押し付けられるため、曲げ加工製品に、この突出部の形状に倣った正確な形状の略袋状部を形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る曲げ加工装置において、窪み部をダイ本体に形成し、突出部の一部を分離ダイ部材によって形成してもよく、あるいは、窪み部と突出部の全体とを分離ダイ部材に形成してもよい。
【0013】
窪み部をダイ本体に形成し、突出部の一部を分離ダイ部材によって形成する場合には、ダイ本体における分離ダイ部材が接触している接触部と、窪み部とを、板金製物品のダイからの取り出し方向に関して平行又は互いに近づく角度関係とすることが好ましい。これによると、端部が曲げ加工された板金製物品をダイから取り出す際に、この取り出しを円滑に行える。
【0014】
また、窪み部をダイ本体に形成し、突出部の一部を分離ダイ部材によって形成する場合であって、ダイ本体における分離ダイ部材が接触している接触部と、窪み部とを、板金製物品のダイからの取り出し方向に関して互いに遠ざかる角度関係とする場合には、この角度関係の度合いを、板金製物品がダイ本体から分離ダイ部材と共に取り外されるときに、窪み部に接触している板金製物品の端部の弾性変形によってこの端部が窪み部から脱出できる度合いにする。これによると、端部の弾性変形により、板金製物品をダイから取り出すことができる。
【0015】
さらに、本発明に係る曲げ加工装置において、ダイ本体における分離ダイ部材が接触している接触部を、板金製物品の内側へ向かって下り傾斜させ、ダイ本体には、分離ダイ部材における板金製物品の内側の端部が当接する段部を設けることが好ましい。これによると、分離ダイ部材を上記接触部に接触させてダイ本体に載せると、分離ダイ部材の重量によって分離ダイ部材は接触部に沿ってスライドし、これにより、分離ダイ部材における板金製物品の内側の端部は上記段部に自ずと当接することになるため、ダイ本体における分離ダイ部材のセット位置を正確に設定することができる。
【0016】
このようにダイ本体に、分離ダイ部材における板金製物品の内側の端部が当接する段部を設ける場合には、本発明に係る曲げ加工装置には、板金製物品をダイの上記突出部に押し付けるためのパッドと、このパッド及び板金製物品を介して分離ダイ部材を上記段部へ押圧するための押圧装置とを設けることが好ましい。これによると、ダイに向かって前進したパンチによって板金製物品の端部をこの板金製物品の内側へ曲げ加工した際にも、分離ダイ部材における板金製物品の内側の端部が段部に当接している状態を維持させることができ、ダイ本体の正確なセット位置への分離ダイ部材の配置を継続させることができる。
【0017】
本発明に係る曲げ加工装置に、ダイに向かって前進後退するスライダを有するパンチ駆動装置を設け、前記パンチをこのスライダに取り付ける場合には、上記押圧装置をパンチ駆動装置に設置することが好ましい。これによると、押圧装置はパンチ駆動装置の一部となり、押圧装置とパンチ駆動装置との一体化を図ることができるため、本発明に係る曲げ加工装置の全体構造を簡単化することができる。
【0018】
また、本発明において、分離ダイ部材の材料は、合成樹脂でもよく、金属でもよく、任意な材料でよい。
【0019】
分離ダイ部材を合成樹脂製とする場合には、この合成樹脂製の分離ダイ部材の内部には、金属製の補強手段を埋設することが好ましい。これによると、合成樹脂製の分離ダイ部材の強度を金属製の補強手段で補強することができる。
【0020】
補強手段は、棒状の部材によるものでもよく、フラット状の部材によるものでもよく、ブロック状の部材によるものでもよく、網状の部材によるものでもよく、さらに、これらのうちの少なくとも2つを組み合わせたものでもよい。
【0021】
また、合成樹脂製の分離ダイ部材が細長形状となっている場合には、金属製の補強手段を、分離ダイ部材の長さ方向に長くなっている芯部材を含んで形成することが好ましい。これによると、分離ダイ部材の細長形状を、芯部材によって常に維持することができる。
【0022】
また、本発明に係る曲げ加工装置には、ダイ本体と分離ダイ部材とを分離自在に連結するための連結手段を設けることが好ましい。これによると、ダイの保管時等において、分離ダイ部材をダイ本体に連結手段で連結しておくことができ、また、分離ダイ部材が上述のように合成樹脂で形成され、この合成樹脂製の分離ダイ部材が変形してしまった場合には、連結手段で分離ダイ部材をダイ本体に連結することにより、分離ダイ部材の形状をダイ本体の形状に倣わせて矯正することもできる。また、板金製物品の端部を曲げ加工する際に、連結手段で分離ダイ部材をダイ本体に連結しておくこともでき、このように連結手段を用いる場合には、板金製物品の端部をダイとパンチとで曲げ加工した後において、分離ダイ部材を板金製物品と共にダイ本体から取り外すときには、連結手段による分離ダイ部材とダイ本体との連結を解除すればよい。
【0023】
上記連結手段は、任意な部材や構造からなる任意の手段でよく、例えば、ダイ本体と分離ダイ部材のうちの一方の内部に埋設されたナットと、他方の内部に挿入され、ナットに先部が螺入されるボルトとを含んで形成されたものでもよく、あるいは、ダイ本体と分離ダイ部材のうちの一方に取り付けられた係止部材と、他方に取り付けられ、係止部材に係止される被係止部材とを含んで形成されたものでもよい。
【0024】
連結手段を上記のボルトとナットとを含んで形成されたものとすると、連結手段を安価に入手できる複数の部材によって形成することができる。
【0025】
さらに、板金製物品の曲げ加工される端部にジョッグル形状部を形成する場合には、この端部を前記窪み部と共に曲げ加工する前記パンチの先部には、ゴムを取り付けることが好ましい。これによると、パンチの先部に、ジョッグル形状部を形成するための正確な形状の部分を形成しておかなくても、窪み部の底部に、ジョッグル形状部を形成するための正確な形状の部分を設けておくことにより、パンチの押圧力がゴムを介して板金製物品の端部に作用し、この端部が、窪み部の底部に形成されている上記部分に押し付けられるため、板金製物品の端部に正確な形状のジョッグル形状部を形成することができる。
【0026】
また、ダイを、板金製物品と略同じ大きさ及び略同じ形状に形成し、このダイに板金製物品の全体を載置可能にしてもよく、あるいは、ダイを、板金製物品よりも小さくし、板金製物品を、ダイとは別の部材になっている載置部材に載置するようにしてもよい。
【0027】
前者によると、ダイは、板金製物品の全体を載置するための部材を兼ねることになるため、本発明に係る曲げ加工装置の構造の簡単化を一層有効に図ることができる。なお、このようにダイを、板金製物品の全体を載置するための部材を兼ねたものとする場合には、ダイのうち、分離ダイ部材が配置される部分を、例えば金属製とし、板金製物品が載置される他の部分を、例えば木製とするなどのように、異種材料の組み合わせによってダイを形成してもよい。
【0028】
本発明に係る板金製物品の曲げ加工方法は、板金製物品の曲げ加工される端部よりも前記板金製物品の内側に配置されたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとが用いられる板金製物品の曲げ加工方法であって、前記板金製物品の内側へ窪んでいる窪み部と、この窪み部のために前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部とが形成されている前記ダイに向かって前記パンチを前進させる工程と、このパンチの先部を前記窪み部に侵入させることにより、前記板金製物品の前記端部をこの板金製物品の内側へ曲げ加工する工程と、を含んでいる板金製物品の曲げ加工方法において、前記ダイを、ダイ本体と、前記突出部の少なくとも一部を形成し、かつ前記ダイ本体に対して分離可能となった分離ダイ部材とを含んで形成する工程と、前記端部が曲げ加工された前記板金製物品を前記ダイから取り外すときに、前記分離ダイ部材を前記ダイ本体から前記板金製物品と共に取り外す工程と、を含んでいることを特徴とするものである。
【0029】
この曲げ加工方法によると、ダイ本体に対して分離ダイ部材は分離可能となっており、ダイとパンチで端部が曲げ加工された板金製物品をダイから取り外すときに、分離ダイ部材はダイ本体から板金製物品と共に取り外されるため、端部の曲げ加工によってインバース形状部が形成されているこの板金製物品を、言い換えると曲げ加工製品を、ダイ本体から容易に取り外すことができる。そして、ダイを、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となった分離ダイ部材とを含んで形成すればよいため、ダイの構造の簡単化を達成でき、ダイの製造コストを低減することもできる。
【0030】
以上説明した分離ダイ部材は、任意な製造方法によって製造することができる。その一例は、板金製物品を製造するために用いたドロー成形用雄型のうち又はリストライク成形用雄型のうち、分離ダイ部材の配置箇所と対応する部分の形状を転写した転写雌型を製造する工程と、この転写雌型を、ダイ本体における分離ダイ部材の配置箇所にセットする工程と、転写雌型に溶融状態の合成樹脂を注入する工程と、この合成樹脂を固化させる工程と、この固化した合成樹脂を転写雌型から取り出す工程と、を実行することにより、分離ダイ部材を製造することである。
【0031】
この方法によると、板金製物品を製造するために用いたドロー成形用雄型又はリストライク成形用雄型を使用することにより、正確な形状の分離ダイ部材を製造することができる。
【0032】
板金製物品をドロー成形だけで製造し、リストライク成形を行わない場合には、分離ダイ部材を製造するためにはドロー成形用雄型を用い、板金製物品を製造するために、ドロー成形した後にリストライク成形を行う場合には、分離ダイ部材を製造するために、ドロー成形用雄型を用いてもよく、リストライク成形用雄型を用いてもよい。
【0033】
本発明に係る分離ダイ部材を製造する方法は、上記の方法に限定されず、例えば、金属ブロックの削り出し作業によって分離ダイ部材を製造してもよく、溶融金属を型に注入する鋳造法によって分離ダイ部材を製造してもよい。
【0034】
本発明に係る曲げ加工製品は、以上説明した曲げ加工装置及び/又は曲げ加工方法によって製造されたものである。
【0035】
また、本発明に係る曲げ加工製品は、板金製物品の端部が、この板金製物品の内側に配置され、前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部を備えたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとによって前記板金製物品の内側へ曲げ加工されることにより、前記突出部によって形成された略袋状部を有している曲げ加工製品において、前記略袋状部の内部に、前記突出部の少なくとも一部を形成していて、前記ダイのダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材が収納されており、この分離ダイ部材が、前記板金製品を前記ダイから取り外すときに前記板金製品と共に前記ダイ本体から分離可能になっていることを特徴とするものである。
【0036】
この曲げ加工製品によると、略袋状部の内部に、突出部の少なくとも一部を形成していて、ダイのダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材が収納されており、この分離ダイ部材が、板金製品をダイから取り外すときに板金製品と共に前記ダイ本体から分離可能になっているため、板金製物品の端部の曲げ加工によって製造されていて、インバース形状部が形成されている曲げ加工製品を、ダイから容易に取り外すことができる。そして、ダイを、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となった分離ダイ部材とを含んで形成すればよいため、ダイの構造の簡単化を達成でき、ダイの製造コストを低減することもできる。
【0037】
本発明に係る曲げ加工製品は、板金製物品の端部を曲げ加工することによって製造されるものである限りにおいて、任意の用途に用いられるものでよく、その一つは、車両のボディパネルである。このボディパネルは、サイドパネルアウターでもよく、フロントフェンダーでもよい。
【0038】
また、本発明に係る曲げ加工製品がサイドパネルアウターである場合には、曲げ加工される端部は、ルーフパネルと接続されるルーフレール部の端部でもよく、フロアパネルと接続されるサイドシル部の端部でもよい。
【0039】
さらに、本発明に係る曲げ加工装置及びその方法は、任意の用途に用いられる曲げ加工製品を製造するために用いることができ、この曲げ加工製品は、車両のボディパネルでもよく、このボディパネルには、サイドパネルアウターとフロントフェンダーが含まれる。
【0040】
また、本発明が車両のボディパネルを製造するために用いられる場合には、このボディパネルは、生産台数が少ない試作車や少量生産車両のためのボディパネルでもよく、生産台数が多い量産車のためのボディパネルでもよい。
【0041】
本発明が、生産台数が少ない試作車や少量生産車両のためのボディパネルを製造するために用いられる場合には、本発明の有効性は一層発揮される。
【発明の効果】
【0042】
本発明によると、板金製物品の端部をパンチと協働して曲げ加工するためのダイの構造の簡単化と製造コストの低減を図ることができるという効果を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。本実施形態に係る曲げ加工装置は、板金製物品の端部を曲げ加工することによって車両のサイドパネルアウターを製造するための装置である。図1は、サイドパネルアウター1を示している。このサイドパネルアウター1は、板金をドロー成形し、次いで形状精度を向上させるためのリストライク成形を行うことによって製造された板金製物品から生産されている。サイドパネルアウター1の上部は、ルーフパネルが接続されるルーフレール部10になっており、下部は、フロアパネルが接続されるサイドシル部11になっている。また、サイドパネルアウター1は、フロントピラー部12とセンターピラー部13を有し、フロントピラー部12の後側には、フロントドアが配置されるフロント開口部14が形成され、センターピラー部13の後側には、リアドアが配置されるリヤ開口部15が形成されている。
【0044】
図2は図1のS2−S2線断面図であって、サイドパネルアウター1のルーフレール部10での縦断面図である。ルーフレール部10には、サイドパネルアウター1の外側へ向かって膨らんだ略袋状部16が形成され、ルーフレール部10におけるサイドパネルアウター1の端部となっている略袋状部16の端部17は、サイドパネルアウター1の内側へ曲げ加工されている。この端部17には、サイドパネルインナー2の端部とルーフパネル3の端部とが接合される。
【0045】
図3は、本実施形態に係る曲げ加工装置の全体を示す平面図であり、図4は、この曲げ加工装置を一部破断して示した正面図である。サイドパネルアウター1は、図3及び図4で示されている板金製物品4の端部を本実施形態に係る曲げ加工装置で曲げ加工することによって製造され、この端部を除くと、サイドパネルアウター1と板金製物品4の形状は同じである。したがって、本実施形態についての理解を容易にするため、サイドパネルアウター1の上述したそれぞれの部分を指示する符号「10」「11」「17」は、これらの部分に対応する板金製物品4のそれぞれの部分について、そのまま用いることとする。すなわち、符号「10」は、板金製物品4のルーフレール部であり、符号「11」は、板金製物品4のサイドシル部であり、符号「17」は、板金製物品4のルーフレール部10における端部である。この端部17が板金製物品4の内側へ曲げ加工されることにより、板金製物品4はサイドパネルアウター1になるとともに、このサイドパネルアウター1には略袋状部16が形成されている。
【0046】
図3及び図4で示されている曲げ加工装置は、各種の部材や装置を任意な位置に配置できる汎用アダプターとなっている基盤20の上に、ダイ21と、パンチ駆動装置22とを設置することによって構成されている。ダイ21は、基盤20に、ピン等による位置決め部材で位置決めされかつボルト等の結合具で結合され、パンチ駆動装置22は、基盤20に配置されたサブプレート23の上に設置されており、このサブプレート23は、基盤20に、ピン等による位置決め部材で位置決めされかつボルト等の結合具で結合され、パンチ駆動装置22は、サブプレート23に、キー等の位置決め部材で位置決めされかつボルト等の結合具で結合されている。
【0047】
本実施形態では、図3に示されているように、パンチ駆動装置22は3台22A,22B,22Cあり、板金製物品4のルーフレール部10に沿って配置されているこれらのパンチ駆動装置22A,22B,22Cにより、車両の前後方向に長くなっているルーフレール部10の端部17を同時に曲げ加工できるようになっている。
【0048】
ダイ21は、全体が亜鉛合金で形成されており、このダイ21の全体平面図は図5に示されている。この図5や、図3及び図4から分かるように、ダイ21は、板金製物品4と略同じ大きさ及び略同じ形状となっている。このため、本実施形態に係る曲げ加工装置への板金製物品4のセットは、ダイ21の上に板金製物品4の全体を載置することによって行われる。ダイ21には、少なくとも、板金製物品4のルーフレール部10を載せるための第1載置部21Aと、板金製物品4のサイドシル部11を載せるための第2載置部21Bとが設けられ、さらに補強部21Cも設けられている。
【0049】
パンチ駆動装置22の基本構造は、3台のパンチ駆動装置22A,22B,22Cについて同じである。この基本構造を図4によって説明すると、パンチ駆動装置22は、ピストンロッド30Aがダイ21に向いているシリンダ30を備えており、ピストンロッド30Aの先端にはスライダ31が結合され、このスライダ31にパンチ32が取り付けられている。スライダ31は、ガイド部材33で案内されてダイ21の側へ往復移動自在であるため、パンチ32は、ピストンロッド31Aの伸縮動によりダイ21に向かって前進後退する。
【0050】
図4で示されているように、ダイ21の上記第1載置部21Aの上方には、金属製のパッド34が配置されている。このパッド34は、本実施形態に係る曲げ加工装置が設置されている工場の天井に取り付けられているチェーンブロック等の昇降装置35から吊り下げられているとともに、この昇降装置35によって昇降し、パッド34が下降したときには、このパッド34は、ダイ21の第1載置部21Aに載せられている板金製物品4のルーフレール部10の上に載る。
【0051】
パッド34の個数は、3台のパンチ駆動装置22A,22B,22Cごとに分けられた3個としてもよく、これらのパンチ駆動装置22A,22B,22Cの台数とは無関係に1個又は複数個としてもよい。
【0052】
ダイ21の第1載置部21Aの部分は、図4で示されているように、ダイ本体24と、このダイ本体24の上に載っている分離ダイ部材25とで形成されている。図4の一部拡大図である図6にも、これらのダイ本体24と分離ダイ部材25とが示されており、分離ダイ部材25はダイ本体24に結合されておらず、ダイ本体24から分離可能である。また、分離ダイ部材25が載せられているダイ本体24の載置部は、言い換えると分離ダイ部材25が接触しているダイ本体24の接触部26は、板金製物品4の内側へ向かって下り傾斜となった面になっており、ダイ本体24には、分離ダイ部材25における板金製物品4の内側の端部25Aが当接する段部27が形成されている。
【0053】
また、ダイ本体24には、パンチ駆動装置22と対面する側面において、板金製物品4の内側へ窪んだ窪み部28が形成され、この窪み部28の上部は、窪み部28のために、ダイ21における板金製物品4の外側へ向かって突出している突出部29となっている。言い換えると、窪み部28は突出部29の下面になっている。突出部29のうち、上側の部分は分離ダイ部材25によって形成され、下側はダイ本体24によって形成されている。突出部29の形状は、図2で説明したルーフレール部10の略袋状部16の形状と対応している。
【0054】
また、図8で示されているとおり、前記接触部26と窪み部28は、板金製物品4の内側において角度αをなす角度関係となっている。このため、後述するように、前記端部17の曲げ加工によって板金製物品4から生産されたサイドパネルアウター1をダイ21から取り出す方向に関して、接触部26と窪み部28は、互いに近づく角度関係となっている。
【0055】
本実施形態に係る曲げ加工装置には、図4で示されている押圧装置36が前記3台のパンチ駆動装置22A,22B,22Cごとに設けられている。この押圧装置36は、上述したように、パッド34が、ダイ21の第1載置部21Aに載せられている板金製物品4のルーフレール部10の上に載ったときに、このパッド34を斜め下向きの板金製物品4の内側へ押圧するものである。押圧装置36は、パンチ駆動装置22のブラケット37に取り付けられたシリンダ38と、このシリンダ38のピストンロッド38Aの先端に取り付けられた押圧部材39とを有し、ピストンロッド38Aの伸長作動により、押圧部材39はパッド34を斜め下向きの板金製物品4の内側へ押圧する。
【0056】
このように本実施形態では、押圧装置36はパンチ駆動装置22に設置されており、これらのパンチ駆動装置22と押圧装置36は一体化されているため、本実施形態に係る曲げ加工装置全体の構造は簡単化されている。
【0057】
前述した分離ダイ部材25は、図5で示されているように、車両の前後方向に長い細長形状を有しており、また、分離ダイ部材25は、合成樹脂によって形成されている。この合成樹脂製の分離ダイ部材25の内部には、分離ダイ部材25の強度を大きくするためや、分離ダイ部材25にクラックが生ずることを防止するために、図6で示されている補強手段40が埋設されている。この補強手段40は、金属製の長寸法の棒状材による複数本の芯部材40Aと、図5で示されているように、これらの芯部材40A同士に架設された金属製の短寸法の棒状材40Bとによって形成されている。それぞれの芯部材40Aは、分離ダイ部材25の長さ方向に長い部材になっているため、この長さ方向についての分離ダイ部材25の大きな強度は、これらの芯部材40Aによって確保され、また、分離ダイ部材25にクラックが生ずることも、これらの芯部材40Aによって防止されている。
【0058】
また、分離ダイ部材25の内部には、図6で示されているように、ナット41が埋設されている。そして、分離ダイ部材25には、分離ダイ部材25の下面とナット41とを連通させる孔42が形成されている。
【0059】
図10及び図11は、分離ダイ部材25を合成樹脂によって製造する方法を示している。板金製物品4は、前述したように、板金をドロー成形し、次いでリストライク成形を行うことによって製造されており、このリストライク成形を行うために用いたリストライク成形雄型50が図10に示されている。ダイ21における分離ダイ部材25を含む前記第1載置部21Aの形状は、前記窪み部28を除くと、リストライク成形雄型50のこの第1載置部21Aに相当する部分の形状と同じに形成されている。
【0060】
分離ダイ部材25を合成樹脂によって製造するためには、初めに、リストライク成形雄型50における分離ダイ部材25の配置箇所に相当する部分50Aに、水を加えることによって軟弱状態とした石膏を被せ、この石膏を自然乾燥又は加熱することによる強制乾燥によって固化させることにより、石膏製の雌型51を製造する。この雌型51は、リストライク成形雄型50の上記部分50Aの形状が正確に転写されたキャビティ51Aを有する転写雌型となっている。
【0061】
また、図11で示されているように、前記接触部26等を形成して予め製造しておいたダイ21のダイ本体24には、この接触部26から少し離れた上方において、補強手段40とナット41を配置しておく。補強手段40を接触部26から少し離れた上方に配置するためには、この補強手段40を小ピース状のスペーサを介して接触部26の上に載せる。また、ナット41を接触部26から少し離れた上方に配置するためには、ダイ本体24に形成した開口部43に上向きに入れたボルト44の軸部44Aを、この開口部43と接触部26との間で連通形成した孔45に挿入し、接触部26から上方へ突出した軸部44Aの先部のねじ部にナット41を螺入させるとともに、ボルト44をブロック等による支持部材46によって一定の高さ位置に支持する。
【0062】
図10で説明した方法によって製造された転写雌型51を、図11で示されているように、ダイ本体24における分離ダイ部材25の配置箇所に被せ、そして、予め転写雌型51に形成しておいた注入孔47に、分離ダイ部材25の材料である溶融状態の合成樹脂を容器48から注入し、この合成樹脂を転写雌型51のキャビティ51Aに流入させる。この合成樹脂は、注入孔47への注入時には溶融状態となっていて、キャビティ51Aへの流入後は、常温乾燥又は加熱による強制乾燥によって固化するものであれば、任意な材料によるものでよく、一例として、主剤がエポキシ樹脂であって、硬化剤がポリアミンとなっている2液混合式の合成樹脂を用いることができる。この合成樹脂を用いると、この合成樹脂は6〜8時間程度で常温により固化する。
【0063】
キャビティ51Aの内部に流入した合成樹脂が固化した後に、ナット41からボルト44を取り外し、石膏製の転写雌型51を破壊するなどして、この転写雌型51をダイ本体24から取り除く。これにより、転写雌型51から分離ダイ部材25が製造され、この分離ダイ部材25は合成樹脂製であるため、金属製のダイ本体24から容易に分離させることができる。このようにダイ本体24から分離された分離ダイ部材25が、図12で示されている。この分離ダイ部材25の内部には、補強手段40とナット41が埋設され、また、分離ダイ部材25には、前記ボルト44の軸部44Aによって前記孔42が形成されている。
【0064】
なお、ダイ本体24から分離ダイ部材25を容易に分離できないことが予想される場合には、予め接触部26にオイル等の離型剤を塗布しておき、この後に、転写雌型51のキャビティ51Aに合成樹脂を流入する作業を行ってもよい。
【0065】
また、分離ダイ部材25の内部に補強手段40及び/又はナット41を埋設するためには、キャビティ51Aに流入させて固化した合成樹脂によって分離ダイ部材を製造した後に、この分離ダイ部材の一部をくりぬき、このくりぬき部の内部に補強手段40及び/又はナット41を挿入して溶融状態の合成樹脂を詰め、この合成樹脂の固化により、分離ダイ部材25の内部に、補強手段40及び/又はナット41を埋設させて固定させてもよい。
【0066】
次に、本実施形態の曲げ加工装置によって板金製物品4の端部17を曲げ加工する作業について説明する。
【0067】
初めに、図4及び図6で示されているように、ダイ本体24の接触部26に分離ダイ部材25を載置する。この接触部26は、前述したように、板金製物品4の内側へ向かって下り傾斜となった面になっているため、言い換えると、ダイ21の内側へ向かって下り傾斜となった面になっているため、分離ダイ部材25は自重で接触部26に沿ってスライドし、これにより、分離ダイ部材25における板金製物品4の内側の端部25Aは、接触部26の端部に形成されている前記段部27に自ずと当接する。これにより、ダイ本体24における分離ダイ部材25のセット位置を正確に設定することができる。
【0068】
次にダイ21の上に板金製物品4を被せることにより、ダイ21の第1載置部21Aの上に板金製物品4のルーフレール部10を載せ、第2載置部21Bの上に板金製物品4のサイドシル部11を載せる。この後、図4で示されている昇降装置35によってパッド34を下降させ、パッド34をルーフレール部10の上に載せる。このパッド34の下面には、ルーフレール部10の形状と対応する形状になっている凹部34Aが形成されているため、パッド34がルーフレール部10の上に載ることにより、ルーフレール部10の全体にパッド34の重量が均一に作用する。
【0069】
本実施形態では、図6及び図7で示されているように、凹部34Aにおける板金製物品4の内側の端部34Bと外側の端部34Cは、ルーフレール部10に作用するパッド34の重量の方向に関して、すなわち下方向に関して、互いに遠ざかる角度関係となってパッド34に形成されている。このため、パッド34は、安定してルーフレール部10及びダイ21の第1載置部21Aの上に載ることになる。
【0070】
パッド34がルーフレール部10及びダイ21の第1載置部21Aの上に載った後に、前記押圧装置36の押圧部材39を、シリンダ38のピストンロッド38Aの伸長動によって前進させ、この押圧部材39の押圧力を図7のようにパッド34に作用させる。
【0071】
また、前記パンチ駆動装置22のパンチ32を、シリンダ30のピストンロッド30Aの伸長動によって前進させ、この前進により、パンチ32の先部を、図7で示されているように、ダイ本体24に形成されている窪み部28に侵入させるとともに、これらのパンチ32と窪み部28とにより、板金製物品4の端部17を板金製物品4の内側へ曲げ加工する。
【0072】
このように板金製物品4の端部17が曲げ加工されることにより、板金製物品4は、曲げ加工製品である前述したサイドパネルアウター1となる。また、ダイ21には、窪み部28のために、ダイ本体24と分離ダイ部材25とによる前記突出部29が設けられているため、端部17の曲げ加工により、サイドパネルアウター1には、この突出部29の形状に倣った前記略袋状部16が形成されることになり、また、この略袋状部16の端部となっているサイドパネルアウター1の端部17及びその周辺部は、所謂インバース形状部となる。
【0073】
パンチ32と窪み部28とによって板金製物品4の端部17が板金製物品4の内側へ曲げ加工されるときには、上述したように板金製物品4のルーフレール部10の上にはパッド34が載せられており、このパッド34には、ルーフレール部10の形状と対応する形状の凹部34Aが形成され、また、ルーフレール部10は、このルーフレール部10の形状と対応する形状に上面が形成されている分離ダイ部材25の上に載せられている。そして、板金製物品4の端部17が曲げ加工されるときには、ルーフレール部10は、分離ダイ部材25によって一部が形成されているダイ21の突出部29へパッド34によって押し付けられるため、サイドパネルアウター1に、この突出部29の形状に倣った正確な形状の略袋状部16を形成することができる。
【0074】
なお、板金製物品4の端部17が曲げ加工されるときに、ルーフレール部10をパッド34によってダイ21の突出部29へ押し付けられるためには、本実施形態に係る曲げ加工装置のダイ21及びパンチ駆動装置22をプレス機械のボルスタに設置し、パッド34をこのプレス機械のラムやスライダ等の昇降部材に取り付け、この昇降部材によってパッド34を下降させるようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態によると、板金製物品4の端部17が曲げ加工されるときには、押圧装置36の押圧部材39による押圧力がパッド34に作用しており、この押圧力の方向は、斜め下向きの板金製物品4の内側方向であるため、この押圧力により、パッド34と板金製物品4を介して分離ダイ部材25は、ダイ本体24に形成されている段部27へ押し付けられることになる。このため、分離ダイ部材25をダイ本体24における正確なセット位置に維持させた状態にして、板金製物品4の端部17に曲げ加工を行えることになり、そして、この分離ダイ部材25により、正確な形状となった略袋状部16を備えたサイドパネルアウター1を製造することができる。
【0076】
前述したように板金製物品4の端部17を曲げ加工することによってサイドパネルアウター1を製造した後に、このサイドパネルアウター1をダイ21から取り出すためには、押圧装置36の押圧部材39を、シリンダ38のピストンロッド38Aの収縮動によって後退させ、パンチ32を、パンチ駆動装置22のシリンダ30のピストンロッド30Aの収縮動によって後退させ、また、パッド34を昇降装置35によって上昇させる。
【0077】
次いで、図8の2点鎖線で示されているように、サイドパネルアウター1を、図示しない自動装置により又は作業者による手作業により、ダイ21の外側へ取り出すための作業を行う。この作業は、ダイ本体24の接触部26と平行をなす方向へサイドパネルアウター1を移動させることによって行う。この作業を行うと、サイドパネルアウター1の略袋状部16の内部に収納された状態となっている分離ダイ部材25は、接触部26に単に載っているだけであるため、この分離ダイ部材25は、接触部26上をスライドしながら、サイドパネルアウター1と共にダイ本体24から取り出されることになる。
【0078】
これにより、前述したように、サイドパネルアウター1の端部17及びその周辺部がインバース形状部となっていても、サイドパネルアウター1をダイ21から容易に取り出すことができる。
【0079】
また、本実施形態の曲げ加工装置のダイ21は、ダイ本体24と分離ダイ部材25とによって形成され、分離ダイ部材25は、インバース形状部を備えているサイドパネルアウター1をダイ21から取り出すときに、サイドパネルアウター1と共にダイ本体24から取り出されるものになっており、分離ダイ部材24をダイ本体25の接触部26に分離可能に載置するだけの構造でよいため、本実施形態によると、ダイ21の構造を簡単化することができ、また、ダイ21の製造コストを低減することができる。
【0080】
また、前述したように、接触部26と窪み部28は、図8で示されているように、サイドパネルアウター1の内側において角度αをなす角度関係となっており、このため、サイドパネルアウター1をダイ21から取り出す方向に関して、接触部26と窪み部28は、互いに近づく角度関係となっているため、分離ダイ部材25を接触部26から分離させ、曲げ加工された端部17を窪み部28から分離させて行われるサイドパネルアウター1の取り出し作業を円滑に行える。
【0081】
なお、図8における角度αを零度としてもよく、すなわち接触部26と窪み部28を、サイドパネルアウター1をダイ21から取り出す方向に関して平行としてもよい。これによってもサイドパネルアウター1の取り出し作業を円滑に行える。
【0082】
また、サイドパネルアウター1をダイ21から図8で説明したように取り出す際に、サイドパネルアウター1の一部がダイ21の一部と干渉する又は干渉するおそれがある場合には、ダイ21のその一部を他の部分に対して昇降装置で昇降できるようにしておき、その一部を、サイドパネルアウター1をダイ21から取り出す際に下降させるようにしてもよい。
【0083】
上述したようにダイ本体24から分離された分離ダイ部材25は、サイドパネルアウター1の略袋状部16の内部から抜き取られ、次の板金製物品4の端部17を曲げ加工するために、分離ダイ部材25はダイ本体24の接触部26の上に載せられ、この分離ダイ部材25は再使用される。
【0084】
図9は、板金製物品4の端部17の曲げ加工前や曲げ加工後におけるダイ21の保管時の状態を示している。このときは、分離ダイ部材25はダイ本体24の接触部26に載せられているとともに、分離ダイ部材25の内部に埋設されているナット41に、ダイ本体24の前記孔45に挿入したボルト61の軸部61Aの先部のねじ部を螺入させ、ボルト61の頭部61Bに係止させた座金62がダイ本体24の前記開口部43と孔45との間に形成されている段部63に当接するまで、ボルト61を回転させることにより、このボルト61とナット41とにより、分離ダイ部材25をダイ本体24に連結する。このようにボルト61を用いて分離ダイ部材25とダイ本体24とを連結する作業は、図5で示されているように、細長形状となっている分離ダイ部材25の長さ方向に複数配置されているそれぞれのナット41について行う。
【0085】
これにより、分離ダイ部材25をダイ本体24と一体化した状態で保管することができる。また、ナット41とボルト61と座金62は、ダイ本体24と分離ダイ部材25とを分離自在に連結するための連結手段60を形成する部材となり、前述した板金製物品4の端部17について曲げ加工を行うときには、ナット41からボルト61を取り外す。
【0086】
また、合成樹脂製の分離ダイ部材25が、環境温度等の環境条件や取り扱い状態等によって変形した場合にも、連結手段60により、分離ダイ部材25をダイ本体24に連結する。これにより、分離ダイ部材25は、ダイ本体24に設けられている前記段部27を含む接触部26の全体形状に強制的に倣うことになるため、分離ダイ部材25の形状を本来の形状へ矯正することができる。
【0087】
また、板金製物品4の端部17を曲げ加工するときにも、連結手段60で分離ダイ部材25をダイ本体24に連結しておいてもよい。このようにした場合には、パンチ32と窪み部28によって端部17の曲げ加工を行った後に、ナット41からボルト61を取り外すことにより、前述したと同様に、分離ダイ部材25をサイドパネルアウター1と共にダイ本体24から取り外すことができる。
【0088】
なお、連結手段60の部材となっているボルト61は、図11で説明したボルト44と同じにしてもよい。
【0089】
図13は、サイドパネルアウター101の曲げ加工された端部117に、曲げ加工と同時にジョッグル形状部118を形成する場合の実施形態を示している。このジョッグル形状部118は、小さな凹凸が連続している波型の形状部である。
【0090】
この実施形態では、ダイ本体124におけるパンチ132と対向する窪み部128の底部128Aを、ジョッグル形状部118の形状と対応する形状に形成しているとともに、この底部128Aと対向するパンチ132の前面を、平坦面又はジョッグル形状部118の形状よりも精度が粗い形状の面とし、かつこの前面にゴム119を取り付けている。パンチ132の前進により、端部117がパンチ132とダイ本体124の窪み部128とによって曲げ加工される同時に、この端部117には、窪み部128の底部128Aの形状とゴム119の圧縮弾性変形とにより、ジョッグル形状部118が形成される。
【0091】
この実施形態によると、ゴム119の弾性変形を利用してジョッグル形状部118の形成を行うため、パンチ132の前面を、ジョッグル形状部118の形状と正確に対応する形状に仕上げる必要がなくなる。
【0092】
なお、パンチ132の前面をジョッグル形状部118の形状よりも精度が粗い形状の面とした場合には、ゴム119を取り付ける前のパンチ132で端部117を一旦押圧した後に、ゴム119を取り付けたパンチ132で端部117を再度押圧することにより、ジョッグル形状部118をシャープな形状に仕上げることができる。
【0093】
図14は、図8で示した接触部26と窪み部28との角度関係についての別実施形態を示している。この実施形態では、ダイ本体224に形成されている接触部226と窪み部228は、サイドパネルアウター201の外側において角度βをなす角度関係となっている。このため、接触部226と窪み部228は、端部217が曲げ加工されたサイドパネルアウター201を取り出す方向に関して互いに遠ざかる角度関係となっている。
【0094】
接触部226と窪み部228をこのような角度関係としても、この角度関係の度合いが、サイドパネルアウター201がダイ本体224から分離ダイ部材25と共に取り外されるときに、窪み部228に接触しているサイドパネルアウター201の端部217の弾性変形により、この端部217が窪み部228から脱出できる度合いになっていることにより、サイドパネルアウター201の取り出しを行える。
【0095】
このようにサイドパネルアウター201の取り出しが可能となる角度βの最大値は、サイドパネルアウター201の材料となっている鋼板の厚さによって異なり、車両で一般的に用いられる厚さが0.8mm〜1.2mmである鋼板の場合には、角度βの最大値は10度程度である。
【0096】
なお、以上の説明はサイドパネルアウターのルーフレール部の端部を曲げ加工する場合であったが、サイドパネルアウターのサイドシル部の端部もインバース形状部となるまで曲げ加工する場合には、このサイドシル部の端部を曲げ加工するための装置も用意される。この装置により、前述した曲げ加工装置によってルーフレール部の端部を曲げ加工した後に又は曲げ加工する前に、サイドシル部の端部が曲げ加工される。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、板金製物品から、例えば車両のサイドパネルアウター等の曲げ加工製品を製造するために、板金製物品の端部を曲げ加工するために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の曲げ加工製品の一実施形態となっている車両のサイドパネルアウターの全体を示す図である。
【図2】図1のS2−S2線断面図である。
【図3】板金製物品の端部を曲げ加工することによって図1のサイドパネルアウターを製造するための曲げ加工装置の全体を示す平面図である。
【図4】図2の曲げ加工装置を一部破断して示した正面図である。
【図5】図3及び図4で示されているダイの全体平面図である。
【図6】図4における分離ダイ部材とパンチの部分の拡大図である。
【図7】板金製物品の端部をダイの窪み部とパンチによって曲げ加工したときを示す図6と同様の図である。
【図8】板金製物品の端部の曲げ加工によって曲げ加工製品となったサイドパネルアウターを製造した後に、サイドパネルアウターを分離ダイ部材と共にダイ本体から取り出す状態を示す縦断面図である。
【図9】ダイを保管するために、ダイ本体に分離ダイ部材を連結手段で連結することを示す縦断面図である。
【図10】合成樹脂製の分離ダイ部材を製造するための転写雌型を、板金製物品を製造するために用いたリストライク成形用雄型から作る作業を示す縦断面図である。
【図11】図10の転写雌型に溶融状態の合成樹脂を注入することにより、分離ダイ部材を作ることを示す縦断面図である。
【図12】転写雌型から製造された分離ダイ部材を示す縦断面図である。
【図13】サイドパネルアウターの曲げ加工された端部に、曲げ加工と同時にジョッグル形状部を形成する場合の実施形態を示す図7と同様の図である。
【図14】接触部と窪み部との角度関係についての別実施形態を示す図8と同様の図である。
【符号の説明】
【0099】
1,101,201 曲げ加工製品である車両のサイドパネルアウター
4 板金製物品
10 ルーフレール部
11 サイドシル部
16 略袋状部
17,117,217 端部
21 ダイ
22 パンチ駆動装置
24,124,224 ダイ本体
25 分離ダイ部材
26,226 接触部
27 段部
28,128,228 窪み部
29 突出部
31 スライダ
32,132 パンチ
34 パッド
36 押圧装置
40 金属製の補強手段
40A 芯部材
41 ナット
50 リストライク成形用雄型
51 転写雌型
60 連結手段
61 ボルト
118 ジョッグル形状部
119 ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金製物品の曲げ加工される端部よりも前記板金製物品の内側に配置されたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとを有しており、
前記ダイには、前記板金製物品の内側へ窪んでいる窪み部と、この窪み部のために前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部とが形成され、前記ダイに向かって前進した前記パンチと、このパンチの先部が侵入した前記窪み部とにより、前記板金製物品の前記端部がこの板金製物品の内側へ曲げ加工される板金製物品の曲げ加工装置において、
前記ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材とを含んで形成され、前記分離ダイ部材によって前記突出部の少なくとも一部が形成され、前記端部が曲げ加工された前記板金製物品を前記ダイから取り外すときに、前記分離ダイ部材は前記ダイ本体から前記板金製物品と共に取り外されることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記板金製物品を前記ダイの前記突出部に押し付けるためのパッドを備えていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記窪み部は前記ダイ本体に形成され、前記突出部の一部は前記分離ダイ部材によって形成されていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイ本体における前記分離ダイ部材が接触している接触部と、前記窪み部とは、前記板金製物品の前記ダイからの取り出し方向に関して平行又は互いに近づく角度関係となっていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項5】
請求項3に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイ本体における前記分離ダイ部材が接触している接触部と、前記窪み部とは、前記板金製物品の前記ダイからの取り出し方向に関して互いに遠ざかる角度関係となっているとともに、この角度関係の度合いは、前記板金製物品が前記ダイ本体から前記分離ダイ部材と共に取り外されるときに、前記窪み部に接触している前記板金製物品の前記端部の弾性変形によってこの端部が前記窪み部から脱出できる度合いになっていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイ本体における前記分離ダイ部材が接触している接触部は、前記板金製物品の内側へ向かって下り傾斜し、前記ダイ本体には、前記分離ダイ部材における前記板金製物品の内側の端部が当接する段部が設けられていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項7】
請求項6に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記板金製物品を前記ダイの前記突出部に押し付けるためのパッドと、このパッド及び前記板金製品を介して前記分離ダイ部材を前記段部へ押圧するための押圧装置とを備えていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置
【請求項8】
請求項7に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイに向かって前進後退するスライダを有するパンチ駆動装置を備えており、前記パンチはこのスライダに取り付けられ、前記押圧装置は前記パンチ駆動装置に設置されていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記分離ダイ部材は合成樹脂製であり、この合成樹脂製の分離ダイ部材の内部には、金属製の補強手段が埋設されていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項10】
請求項9に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記合成樹脂製の分離ダイ部材は細長形状となっており、前記金属製の補強手段は、前記細長形状の分離ダイ部材の長さ方向に長くなっている芯部材を含んで形成されていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイ本体と前記分離ダイ部材とを分離自在に連結するための連結手段を備えていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項12】
請求項11に記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記連結手段は、前記ダイ本体と前記分離ダイ部材のうちの一方の内部に埋設されたナットと、他方の内部に挿入され、前記ナットに先部が螺入されるボルトとを含んで形成されていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記板金製物品の前記端部にはジョッグル形状部が形成され、この端部を前記窪み部と共に曲げ加工する前記パンチの先部には、ゴムが取り付けられていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の板金製物品の曲げ加工装置において、前記ダイは、前記板金製物品と略同じ大きさ及び略同じ形状に形成され、このダイに前記板金製物品の全体が載置可能になっていることを特徴とする板金製物品の曲げ加工装置。
【請求項15】
板金製物品の曲げ加工される端部よりも前記板金製物品の内側に配置されたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとが用いられる板金製物品の曲げ加工方法であって、
前記板金製物品の内側へ窪んでいる窪み部と、この窪み部のために前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部とが形成されている前記ダイに向かって前記パンチを前進させる工程と、
このパンチの先部を前記窪み部に侵入させることにより、前記板金製物品の前記端部をこの板金製物品の内側へ曲げ加工する工程と、
を含んでいる板金製物品の曲げ加工方法において、
前記ダイを、ダイ本体と、前記突出部の少なくとも一部を形成し、かつ前記ダイ本体に対して分離可能となった分離ダイ部材とを含んで形成する工程と、
前記端部が曲げ加工された前記板金製物品を前記ダイから取り外すときに、前記分離ダイ部材を前記ダイ本体から前記板金製物品と共に取り外す工程と、
を含んでいることを特徴とする板金製物品の曲げ加工方法。
【請求項16】
請求項15に記載の板金製物品の曲げ加工方法において、前記分離ダイ部材を製造するために、
前記板金製物品を製造するために用いたドロー成形用雄型のうち又はリストライク成形用雄型のうち、前記分離ダイ部材の配置箇所と対応する部分の形状を転写した転写雌型を製造する工程と、
この転写雌型を、前記ダイ本体における前記分離ダイ部材の配置箇所にセットする工程と、
前記転写雌型に溶融状態の合成樹脂を注入する工程と、
この合成樹脂を固化させる工程と、
この固化した合成樹脂を前記転写雌型から取り出す工程と、
が実行されることを特徴とする板金製物品の曲げ加工方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の板金製物品の曲げ加工方法によって製造された曲げ加工製品。
【請求項18】
板金製物品の端部が、この板金製物品の内側に配置され、前記板金製物品の外側へ向かって突出している突出部を備えたダイと、前記板金製物品の外側に配置され、前記ダイに対して前進後退自在となっているパンチとによって前記板金製物品の内側へ曲げ加工されることにより、前記突出部によって形成された略袋状部を有している曲げ加工製品において、
前記略袋状部の内部に、前記突出部の少なくとも一部を形成していて、前記ダイのダイ本体に対して分離可能となっている分離ダイ部材が収納されており、この分離ダイ部材が、前記板金製品を前記ダイから取り外すときに前記板金製品と共に前記ダイ本体から分離可能になっていることを特徴とする曲げ加工製品。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の曲げ加工製品は、車両のボディパネルであること。
【請求項20】
請求項19に記載の車両のボディパネルは、サイドパネルアウターであること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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