説明

果実エキス

ナス科の果実を処理してその果実のエキスの血小板凝集活性を最適化する、ナス科の果実のエキスの調製方法が提供される。該方法は、ホモジナイズした果実の出発混合物を調製すること;水溶性フラクションを果実固体から分離すること;該水溶性フラクションを濾過すること;および濾過透過物中の活性物質を濃縮することを含む。本発明はまた、このような方法によって製造された果実エキス、ならびにグリコシル化フェノール酸もしくはフェノール酸エステルまたはその誘導体;グリコシル化フラボノイド;およびヌクレオシドを含有する果実エキスを提供する。本発明のエキスは、不適当な血小板凝集によって特徴付けられる医学的状態の治療または予防のための薬剤として有用である。特に、該薬剤は、血小板凝集を減少させることによって心臓の健康を維持するのに、循環に利益をもたらすのに、および/または血流を正常化するかもしくは血流に利益をもたらすのに有用であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集を予防する、抗血栓剤として有用な果実エキスおよびかかるエキスの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
果実および野菜の摂取が、心血管疾患のリスクを減少させることができる重要な予防手段であるということは十分に立証されている。そこで、心疾患の予防に関与する果実および野菜に由来する化合物を同定するためにかなりの労力が費やされてきた。
【0003】
特に、血小板凝集を阻害する薬剤に関心が示されてきた。循環器系内で血小板が凝集した場合、血管を遮断するのに十分な大きさの血栓が形成される。しかしながら、完全な凝集が起こるまでは、血小板は活性状態で循環することができる。この状態では、血小板の粘着性は非常に増大し、これらの血小板は、お互いに、または他の血液細胞もしくは脂質リッチなカイロミクロンのような血液成分に付着することができる。これは微小凝集塊を形成させ、血液の流動性を低下させ、局所的に血流に影響を及ぼし、全身的に重患に影響を及ぼす。血小板凝集性の低下は、血液を流動性のある低凝固性の状態に維持するのに役立つ。これは、循環内での微小凝集塊形成を予防することにより、また、血小板の血管壁または脂肪プラークへの付着を予防することにより、血流を正常化するのに役立つ。
【0004】
これを考慮して、血小板凝集阻害能を有する薬剤は、冠疾患、例えば、心筋梗塞および脳卒中を予防するのに、また、心筋梗塞、脳卒中または不安定型狭心症に罹患している患者における血栓塞栓症を予防するのに有用である。加えて、このような薬剤は、血管形成術およびバイパス手術後の再狭窄を予防するのに有用であり得る。さらにまた、これらの薬剤は、血栓溶解療法と併用して、心筋梗塞のような血栓塞栓症により生じる冠疾患の治療に有用であり得る。
【0005】
血小板の生産および作用の異なる段階で作用する抗血小板凝集剤が数多く知られている。アスピリン(アセチルサリチル酸)は最も広範に使用および研究されている。ジピリダモールおよびチクロピジンもまた使用されている。アスピリンの抗血小板活性は、血小板シクロオキシゲナーゼの不可逆的阻害に起因しており、かくして、血小板凝集を引き起こす化合物であるトロンボキサンA2の合成を防止する。インドブフェンは血小板シクロオキシゲナーゼの可逆的阻害剤である。トロンボキサンA2合成の直接的阻害剤である化合物(例えば、ピルマグレル)、または、トロンボキサン受容体で拮抗剤として作用する化合物(例えば、スロトロバン)もある。
【0006】
特許文献1には、数多くの果実からの水溶性エキスが血小板凝集を阻害する能力を示すことが開示されている。当時、当業者に知られていた活性エキスは、反対に、脂溶性化合物(例えば、リコピン)であったので、抗血小板凝集活性が水溶性であることが判明したことは驚くべきことであった。これらの水溶性エキスは、血小板凝集を予防または軽減するのに有意な効果を有することが見出され、欧州食品基準局の承認を得て健康効果をもつ栄養サプリメントとして市販されている。
【0007】
特許文献1の活性成分である果実エキスは、質量分析法(MS)および核磁気共鳴分光法(NMR)によって分析され、血小板凝集阻害活性を有するヌクレオシドの混合物を含有することが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願公開WO 99/55350
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水溶性果実エキス内のヌクレオシドが、抗血小板凝集を予防するかかるエキス中の唯一の化合物ではないだろうという本発明者らの考えに基づいている。そこで、彼らは、血小板凝集を阻害するためのかかるエキスの効力の向上を目的として、また、このような使用のために果実を処理する新しい方法の開発を目的として、WO 99/55350に記載されている水溶性エキス内の活性物質の分画および特徴付けにかなりの努力を行った。
【0010】
このたび、ナス科(Solanaceae family)の果実を、血小板凝集に対して最適な有益な効果をもたらす水溶性エキスが得られるような方法で処理することができることを見出した。この新しい知識により、本発明者らは、血小板凝集を阻害する効果を有する新しい果実エキスおよびその調製方法を開発することができた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によると、ナス科の果実を処理してその果実のエキスの血小板凝集活性を最適化する、ナス科の果実のエキスの調製方法であって、
(a)ホモジナイズした果実の出発混合物を調製する工程;
(b)水溶性フラクションを果実固体から分離する工程;
(c)該水溶性フラクションを濾過する工程;および
(d)濾過透過物中の活性物質を濃縮する工程
を含む方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1に記載される(a)化合物1;(b)化合物5;(c)化合物9;(d)化合物18;(e)化合物23;および(f)化合物30について作成した阻害剤溶液濃度に対する凝集の阻害%の用量−応答曲線の例を示す。(a)および(b)は、ADP媒介凝集の阻害%の用量−応答曲線を表す。(c)および(d)は、コラーゲン媒介凝集の阻害%の用量−応答曲線を表す。(e)および(f)は、アラキドン酸媒介凝集の阻害%の用量−応答曲線を表す。
【図2】実施例2に記載される、果実エキスを調製するための本発明の第1の態様の好ましい方法を定義する。
【図3】実施例2に詳述される方法を使用して生成したシロップのHPLCクロマトグラムである。該クロマトグラム上で生物活性化合物に番号を付ける。
【図4】実施例3に記載される、低糖果実エキスを調製するための本発明の第1の態様の好ましい方法を定義する。
【図5】実施例3に詳述される方法を使用して生成したシロップのHPLCクロマトグラムである。該クロマトグラム上で生物活性化合物に番号を付ける。
【図6】実施例4に記載される、トマトエキス(TE)サプリメントまたは対照(C)サプリメントの消費の3時間後の異なる血小板アゴニストに応答する基準凝集からの変化%を示す。使用した血小板アゴニストは、アデノシン二リン酸(ADP)7.5μmol/Lおよび3μmol/L、およびコラーゲン5mg/Lおよび3mg/Lであった。TEサプリメントとCサプリメントとの間の有意な差異がグラフ上にて示される(P<0.001)。全ての測定についてN=9。
【図7】実施例6に記載される、基準(0)、TEまたはCの補給のt=3時間後(3)、およびTEまたはCの補給のt=5時間後(5)に記録した平均閉止時間を示す。各グループについてn=3。CとTEとの間の有意な差異がグラフ上にて*より示される(P=0.011)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、WO 99/55350(実施例1)に記載されている果実エキスにおける活性化合物を分析することを決めた。本発明者らは、驚くべきことに植物に天然に存在する数多くの化合物が血小板凝集の阻害に有効であることを見出した。このことにより、彼らは、WO 99/55350に記載された方法が、かかる活性物質の含有量が維持されている(すなわち、果実の処理の間に最少量の活性物質が失われる)か、または、活性物質が果実エキスの生成において実際に濃縮される、結果的にエキスが得られる方法の開発に適しているかもしれないと考えた。数々の試行錯誤の結果、彼らは、本発明の第1の態様の方法における工程により、果実から得られる数多くの活性な水溶性化合物を含む、血小板凝集を軽減するのに有効な果実エキスが得られるということを立証した。
【0014】
(a)出発混合物の調製
新鮮な果実全体、好ましくはトマトを、皮つきのまま、または皮をはがして、ホモジナイズして、ペーストを形成する。
【0015】
別法として、出発混合物の調製のための出発物質として市販のトマトペーストを使用することもできる。エキスの調製のための出発物質がトマトペーストである場合、「加熱破砕(hot-break)」プロセスよりも「冷式破砕(cold-break)」プロセスによって製造されたものが好ましい。用語「冷式破砕」および「加熱破砕」は、トマト処理の分野で周知であり、市販のトマトペーストは、典型的には、加熱破砕ペーストまたは冷式破砕ペーストとして販売されている。冷式破砕ペーストは、トマトのホモジナイズに次いで、ホモジナイズしたトマトを約95℃の温度で熱処理する加熱破砕ペーストとは対照的にトマトを約60℃以下の温度に加熱する熱処理工程を含むプロセスによって調製され得る。例えば、Anthon et al., J. Agric. Food Chem. 2002, 50, 6153-6159を参照。
【0016】
「出発混合物」を形成するために、このようなペースト(新鮮なトマトからのものまたは市販のペーストのどちらでも)の濃さを水または水性溶液(好ましくは、脱塩水)で希釈することにより調整すべきである。本発明者らは、固体を33%未満、より好ましくは20%未満含有するように出発混合物を希釈した場合に最終果実エキスにおいて最適な活性が達成されることを見出した。本発明の一の好ましい実施態様では、出発混合物は、固体を約10〜15%(例えば、13%)を含む。
【0017】
本発明者らは、出発混合物の保持温度が、エキスの活性に有意な効果を及ぼし得ることを見出した。したがって、保持温度は35℃以下であるのが好ましく、より好ましくは、30℃以下である。
【0018】
本発明者らは、また、出発混合物のpHが、本発明の方法に従って調製されたエキスの活性に影響を及ぼすことを見出した。該混合物のpHは、酸性、好ましくは、pH5.5未満であるべきであり、好ましい実施態様では、該pHを4.2以上に上げるべきではない。必要に応じて、クエン酸の添加によってpHの調整が行われ得る。
【0019】
さらにまた、本発明者らは、最終エキスの活性を最適化するために、出発混合物の褐変インデックスをも制御すべきであることを見出した。したがって、420nmでの可溶性部分の吸光度として定義される出発混合物の褐変インデックスは、好ましくは、固体4%で0.4AU以下である。褐変インデックスは、メラノイジン(糖およびアミノ酸に基づく可変組成のポリマーコンジュゲート)の形成によって引き起こされる可視褐変のインデックスであり、室温で10分間、3500rpmで出発混合物の50mL試料を遠心分離し、それを屈折計で測定した固体4%に希釈し、この溶液の吸光度を分光光度計にて420nmで測定することによって測定することができる。
【0020】
本発明者らは、温度、pHおよび褐変インデックスのうち少なくとも1つが上記したように出発混合物において制御されるならば、本発明の方法によって得られた果実エキスは向上した抗凝集活性を有することを見出した。好ましくは、これらの制御工程の少なくとも2つ(例えば、温度とpH;または温度と褐変インデックス)が上記のように制御され、より好ましくは、温度、pHおよび褐変インデックスが上記のように制御される。
【0021】
最も好ましくは、出発混合物は、30℃以下の温度で、4.2未満のpHで、そして、0.4AU以下の褐変インデックスをもって維持される。
【0022】
(b)水溶性フラクションの果実固体からの分離
多数の標準的な技術を使用することによって、水溶性フラクションから水不溶性固体を取り除くことができる。
【0023】
好ましくは、当該方法におけるこの工程は、出発混合物から大きい(すなわち、粒度が500μよりも大きい)水不溶性固体を取り除く。
【0024】
このような固体は、
(a)デカンター(例えば、Westfalia GEAデカンター);
(b)遠心分離工程(例えば、回転円板遠心分離器);または
(c)サイズ調整ノズルを含む分離器(Westfalia MSB−15分離器、ブランク混合物およびノズルサイズ0.45を使用する)
の使用によって取り除かれ得る。
【0025】
別法として、該固体は、沈殿させることができ、水溶性フラクションを手動で単純にデカントさせることができる。
【0026】
どちらの方法を使用しても、本発明者らは、水溶性フラクションにおける最適な生物活性の保持のために、操作温度が60℃を超えるべきではないことを見出した。さらにまた、好ましくは、装置内を通る流速は、この60℃の温度への暴露が60秒間よりも長くならないようにしなければならない。
【0027】
得られた水溶性フラクションは、理想的には、分離工程の後に冷却されるべきである。該フラクションが貯蔵されるべきである場合、好ましくは、それは分離の直後に8℃未満に冷却される。
【0028】
本発明の方法の工程(c)の好ましい実施態様では、デカンターは、40〜45℃のランニング温度をもって使用され得る。
【0029】
所望により、分離工程の後に、第2の浄化工程(例えば、Alfa Lavaal Clarifierを使用)を行って、浄化した水溶性フラクションを製造することができ、ここで、残存する全ての不溶性物質は粒度が500μよりも小さく、スピンダウン固体(すなわち、室温で10分間、3500rpmでの遠心分離によって可視的に沈殿する物質)の含有量はフラクションの1容量%未満である。
【0030】
本発明者らは、浄化フラクション(しかし、生成された)が総固体を10%未満、より好ましくは固体を約8%以下含有する場合に最終生成物が最大活性成分濃度を保持することを見出した。
【0031】
(c)水溶性フラクションの濾過
非常に微細な微粒子物質(<500μ)(例えば、タンパク質、およびいくつかのペクチンのような大きい高分子物質)を除去するために、次いで、水溶性フラクションを濾過すべきであり、透過物は保持される。
【0032】
濾過は、一段階で、または、トマトの皮の大きな粒子および/または新鮮なトマトの他の水不溶性断片を除去するために比較的粗い濾過工程で始める一連の濾過工程で行われ得る。次いで、実質的に透明な溶液、例えば、固体を失わずに0.2μフィルターを通過する溶液を得るために、さらなる濾過工程が行われ得る。
【0033】
好ましい実施態様では、本発明の方法の工程(c)は、セラミックメンブランフィルターを有する濾過ユニット(例えば、セラミックメンブランフィルター(例えば、Pall Membralox P19−30マルチ−エレメントユニット)を装備したTera Alcrossクロス濾過MFユニット)を使用する精密濾過工程を含む。
【0034】
精密濾過の代替として、限外濾過を使用することもできる。さまざまな孔径、例えば、1.4μ、0.1μが許容されるが;本発明者らは、0.1μの孔径を使用した場合に生物活性成分を含有する濾過透過物の最大濃縮(すなわち、生物活性成分の最少消失および非生物活性成分の最大排除)が生じることを見出した。
【0035】
最適な生物活性を保持するためには、この濾過工程の間、温度を35℃以上に上昇させるべきではなく、濾過透過物は、濾過膜から取り出した直後に、8℃未満に冷却すべきである。最終透過物の褐変インデックスは、0.4AUを超えるべきではない。
【0036】
本発明者らは、濾過していない出発物質が固体を10%未満含有する場合、および、最終透過物が固体を約7%含有し、その褐変インデックスが0.4AU未満である場合、生物活性成分の最大回収、および生物活性成分における濾過透過物の濃縮(濾過していない物質と比べて)が起こることを見出した。
【0037】
工程(a)〜(c)による固体の除去は、皮および種子の断片、高分子量のタンパク質およびペクチン、ならびにリコピンのようなカロテノイド/他の脂質(ペクチンおよびタンパク質の存在によって水性溶液内で液滴において安定化している)を除去する効果がある。かくして、該方法は、水溶性エキスであり、リコピンを実質的に含まないトマトエキスを調製する方法を提供する。
【0038】
記載された方法、特に35℃を超える(好ましくは30℃を超える)温度に暴露する長さの注意深い制御によって、確実に、調製されたリコピン不含水溶性エキスは、0.4AU未満の褐変インデックス値によって示されるように、可視褐変の生成を生じる分解化学反応(Maillard反応)を受けない。これによって、確実に、生物活性成分のいくつかを捕捉することができるアミノ酸−糖複合体およびメラノイジンポリマーの形成は、最小限に抑えられる。かくして、記載された方法によって、生物活性成分含有量のために最適化されるエキスが得られる。
【0039】
本発明の方法の一の好ましい実施態様では、トマトエキスは、リコピンを実質的に含まない水溶性エキスであって、固体の損失なしに0.2μフィルターを通過することができ、0.4AU未満の褐変インデックスを有する水溶性エキスである。
【0040】
(d)濾過透過物における活性成分の濃縮
次いで、水性濾液にさらなる濃縮/分画工程を施して、血小板凝集に関与する化合物を含有する生物活性濃縮物を得る。
多くの実験を重ねた結果、本発明者らは、最終エキスのピーク生物活性を保持すべきであった場合には、または、最終濃縮生成物において生物活性物質の濃縮を達成すべきである場合には、濃縮工程が注意深い制御を必要とするということを立証した。これは、熱依存性およびpH依存性分解反応の進行が固体濃度の増加に伴って加速されるということを見出したからである。そこで、彼らは、温度制御、および温度に暴露する長さが希薄なエキスよりも濃縮エキスにとって重要であると考えた。
【0041】
希薄なフラクションについては約60℃以上で、より濃縮された試料については40℃以下でエキス内の活性物質の分解が生じないようにエキスの温度を上昇させないことを条件として水溶性物質を濃縮するためにいくつかの方法が使用され得る。
【0042】
蒸発技術を使用する濃縮
温度が60℃以下である条件下で、減圧下での溶液の蒸発を使用することができる。
【0043】
好ましくは、多重効用蒸発器を使用することによって、液体が蒸発器を通過した場合に温度を低下させることができ、これは、より濃縮され物質が40℃を超える温度に暴露されないことを保証し、一方、より希薄な物質は60℃までの温度に耐えることができる。
【0044】
蒸発を使用すると、水溶性エキスは、固体70%まで、例えば、固体20%まで、または固体50%まで、または固体65%まで濃縮され得る。最も好ましい実施態様では、工程(d)に従って濃縮した後、最終エキスは、固体を60〜62%含む。
【0045】
温度の効果は、褐変インデックスを測定することによって定量化され得る。温度は、最終濃縮生成物が0.8AUを超えないように十分に低くするべきである。
【0046】
工程(a)、(b)、(c)の後、工程(d)に従って蒸発器を使用して形成された最終濃縮物は、好ましくは、0.8AU未満の褐変インデックス、4.0〜4.3のpH、および1.15〜1.20の密度を有する。
【0047】
膜処理を使用する濃縮
別法として、水を膜に通し、一方、全ての他の成分を膜に保持する、膜処理を使用することもできる。具体的な技術の例は、逆浸透またはナノ濾過である。どちらも、低温(40度未満)で操作しながら、水溶性エキスを必要な程度に濃縮するために使用することができる。
【0048】
乾燥技術
乾燥技術もまた、水溶性エキスから水を除去するために使用され得る。好適な乾燥技術としては、キャリアー物質(例えば、ジャガイモデンプン、タピオカデンプン、マルトデキストリン)を用いるかもしくは用いないスプレー乾燥;キャリヤー物質を用いるかもしくは用いない真空ドラム乾燥;またはキャリヤー物質を用いるかもしくは用いないローラー乾燥が挙げられる。
【0049】
低糖果実エキスの調製
上記方法は、水溶性エキス中に初めから存在する要素を全て含有する濃縮物の製造のために設計された。
【0050】
本発明の好ましい実施態様では、本発明の第1の態様の方法は、生物活性成分が濃縮されている(例えば、25〜35倍)濃縮物を得るのに適用され得る。
【0051】
水溶性エキス内の生物活性成分の濃縮は、その乾燥物質含有量の最大の割合を占める可溶性糖を除去することによって達成することができる。
【0052】
低糖果実エキスは、上記工程(a)、(b)および(c)を行い、次いで、該方法において最終濃縮工程(上記工程(d))の前にさらなる工程を使用することによって調製され得る。
【0053】
可溶性糖の除去は、
(1)沈殿、例えば該溶液にエタノールを添加して最終濃度を90%にする(それにより、遊離グルコース、フルクトースおよびシュークロースの沈殿がもたらされる)ことによる沈殿;
(2)消化、酵素(例えば、グルコースオキシダーゼ)による遊離糖の部分除去;
(3)微生物(細菌または酵母)処理;または
(4)エキス成分の樹脂媒介分離による、遊離糖の水溶性エキスからの除去
によって達成され得る。
【0054】
遊離糖は、エキス成分の樹脂媒介分離により水溶性エキスから除去される(上記(4))が好ましい。本発明者らは、食品用樹脂(Amberlite FPX66)を使用して遊離糖、有機酸および塩以外のエキス成分を全て吸着させる方法を開発した。これらは、樹脂によって吸着されず、樹脂を通過した後に廃棄され得る。次いで、エタノール/水混合物、例えば、50%エタノールまたは80%エタノールによる溶離によって、アミノ酸、生物活性成分、および褐変反応の生成物(Maillard分解生成物)を含む、樹脂に吸着したエキス成分を樹脂から回収する。減圧下での蒸発によって(例えば、慣用の防爆蒸発器またはCentritherm遠心濃縮器中にて)、または逆浸透によって、得られた溶液からエタノールを除去することができる。
【0055】
糖の除去後、上記工程(d)で説明した手順を使用して生成物の濃度を調節することができる。
【0056】
得られた低糖エキスは、好ましくは、糖を1%未満含有しており、出発混合物中に含まれる生物活性成分を95%超含有している濃縮水溶液である。
【0057】
果実エキス
本発明の第1の態様の方法に従って調製されたエキスは、血小板凝集の防止に驚くべき効果を有する新規果実エキスである。
【0058】
したがって、本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様の方法に従って調製された、血小板凝集阻害能を有する果実エキスが提供される。
【0059】
本発明の第2の態様のエキスは、不適正な血小板凝集によって特徴付けられる病態を治療するため、および特に該病態の発症を予防するために使用され得る。本発明者らは、本発明のエキスが、
(a)しばしば、真性糖尿病、炎症性腸疾患、高脂血症などの症状に伴うような、凝固性亢進状態または血栓形成促進性状態の発生の予防または軽減;
(b)アテローム性動脈硬化症の発症の予防または軽減;
(c)冠疾患の発症の予防(例えば、心筋梗塞および脳卒中、ならびにさらに、心筋梗塞、脳卒中または不安定性狭心症を患っている患者における血栓塞栓症の予防);
(d)血管形成術およびバイパス手術後の再狭窄の発生の予防;
(e)血栓溶解療法と併用した、心筋梗塞のような血栓塞栓症に由来する冠疾患の治療;
(f)深部静脈血栓症の予防またはそのリスクの軽減;
(g)良好な循環の健康状態を維持するように循環に利益をもたらすこと;
(h)心血管系において健康な血流を維持すること
に特に有用であることを立証した。
【0060】
当然のことながら、本発明のエキスは、血小板凝集を減少させることによって心血管および心臓の健康を維持するため、循環に利益をもたらすため、および/または血流を正常化するかもしくは血流に利益をもたらすための一般的な健康効果がある(例えば、上記(g)および(h)に概略記載されている)。
【0061】
実際に、当該エキスのこれらの使用は非常に有利であるので、本発明は、さらに、患者における血流を正常化するかまたは血流に利益をもたらすための医薬として使用するための、本発明の方法に従って調製された果実エキスを提供する。本発明はまた、グリコシル化フェノール酸もしくはフェノール酸エステルまたはその誘導体;グリコシル化フラボノイド;およびヌクレオシドを含む、患者における血流を正常化するかまたは血流に利益をもたらすための医薬として使用するための果実エキスを提供する。
【0062】
本発明のエキスを含む組成物は、医薬品として有用であるが、有益な機能性食品または「栄養補助食品」でもある。したがって、当該組成物の好ましい使用は、医薬および機能性食品または飲料(以下に概略記載する)としての使用である。
【0063】
本発明の好ましい果実エキスは、熟した(すなわち、赤い)トマトからの水性エキスであり、水溶性である。
【0064】
本明細書で使用される場合、用語「水溶性」とは、トマトエキスが、室温で、例えば、25℃で、可溶性であることを意味する。該エキスは、非常に低温で、例えば、4℃という低温でも水溶性であることが見出された。
【0065】
当該エキスは、リコピンを全く含まないか、または、ごくわずかしか含まない。例えば、該エキスは、リコピンを0.5重量%未満(乾燥重量)、例えば、リコピンを0.1重量%未満、または0.05重量%未満、または0.01重量%未満、または0.005重量%未満、または0.001重量%未満、または0.0005重量%未満、または0.0001重量%未満(乾燥重量)含有する。
【0066】
該エキスは、水不溶性粒子状物質を実質的に含まない。かくして、例えば、該エキスは、水不溶性粒子状物質を0.5重量%未満(乾燥重量)、例えば、水不溶性粒子状物質を0.01重量%未満、または0.05重量%未満、または0.01重量%未満、または0.005重量%未満、または0.001重量%未満、または0.0005重量%未満、または0.0001重量%未満(乾燥重量)含有する。一の実施態様では、該エキスは、水不溶性粒子状物質を全く含まない。
【0067】
本明細書で使用される場合、用語「活性フラクション」とは、トマトエキスから単離されたフラクションをいい、このフラクションは、血小板凝集を軽減する能力を有する。
【0068】
本発明者らの研究(実施例1を参照)は、数多くの生物活性物質が不適正な血小板凝集によって特徴付けられる疾患を予防または治療するために使用されるエキス中にて濃縮されるかまたは維持される果実エキスが調製され得ることを立証した。本発明の第1の態様はの方法は、このような生物活性物質を維持するために開発された。本発明者らは、本発明に従って調製されたエキスが以下に挙げられる数多くの生物活性分子を含むことを立証した。
【0069】
(A)本発明エキス中の生物活性フェノール系化合物
本発明者らは、フェノールおよびその誘導体に基づく多くの分子が果実に含まれており、血小板凝集の予防に効果があることを立証した(実施例1)。
【0070】
特に、桂皮酸およびその誘導体は、血小板凝集の阻害に特に有効であることが判明した。したがって、本発明の第1の態様の方法は、エキスが式I:
【化1】

によって定義される桂皮酸またはその誘導体を確実に含むように設計された。式Iにおいて、R1およびR2およびR3は、H、OHおよびOmeから独立して選択され得る。
【0071】
該化合物は、桂皮酸自体(式IのR1、R2およびR3はHである)であっても、以下に挙げられる多くの誘導体のいずれか1つであってもよい:
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0072】
本発明者らは、また、血小板凝集の阻害に効果的である果実エキス中にてさらなる群の植物フェノール誘導体、安息香酸およびそれらの誘導体を同定した。したがって、本発明の第1の態様の方法は、エキスが式II:
【化6】

によって定義されるような安息香酸またはその誘導体を確実に含むように調整され得る。式IIにおいて、R1およびR2およびR3は上記定義と同じである。
【0073】
したがって、本発明の第2の態様の好ましいエキスは、安息香酸自体(R1、R2およびR3は各々Hである)または多くの誘導体:例えば、
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

のいずれか1つを含み得る。
【0074】
本発明者らは、果実エキスについての研究の間に、驚くべきことに、カルボン酸エステルを形成するためにカルボン酸基でのエステル結合を介して、または、グリコシドを形成するためにフェノール性ヒドロキシル置換基でのエーテル結合を介して、他の分子と結合しているフェノール系生物活性物質が血小板凝集の軽減に特に有効であり、したがって、様々な心血管疾患の発症の治療または予防に有用であることを見出した。したがって、本発明の第1の態様の方法は、エキスが他の分子と結合したフェノール系生物活性物質を確実に含むように設計された。
【0075】
生物活性物質が糖と結合してグリコシドを形成するのが好ましい。本発明者らは、多くの様々な生物活性グリコシドがエキスに含まれることを見出した。したがって、用語「グリコシド」は、生物活性物質と結合した少なくとも1つのヘキソースまたはペントース糖残基を意味し;好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個の単糖単位を、該生物活性化合物のOH基での反応によって付加する。最も好ましくは、該化合物にグルコース、ガラクトースまたはアラビノースおよびこれらの糖のジ−/トリ−サッカライドを付加して、フェノール酸誘導体グリコシドを形成する。
【0076】
別法として、生物活性化合物は、植物中に存在する多くの化合物(例えば、酒石酸、キニン酸)と結合してエステルを形成する。このような化合物は、酒石酸のような鎖状化合物、またはキニン酸のような複素環化合物であってよく、植物の炭水化物経路から誘導され得る。最も好ましくは、該化合物に酒石酸またはキニン酸が付加してフェノール酸エステル誘導体を形成する。
【0077】
本発明の方法は、カフェ酸3−O−グリコシド、カフェ酸4−O−グリコシド、フェルラ酸4−O−グリコシド、p−クマル酸4−O−グリコシドからなる群から選択されるグリコシド、またはカフェオイルキニン酸(例えば、3−O−カフェオイルキニン酸、4−O−カフェオイルキニン酸または5−O−カフェオイルキニン酸)、フェルロイルキニン酸、p−クマロイルキニン酸、カフェオイル酒石酸、フェルロイル酒石酸、p−クマロイル酒石酸、キニン酸誘導体の二量体からなる群から選択されるエステル化誘導体を含むようなエキスを濃縮する。
【0078】
したがって、本発明の第2の態様のエキスは、上記化合物から選択される桂皮酸の少なくとも1つのグリコシドまたは誘導体を含むことができ、上記化合物から選択される安息香酸の少なくとも1つのグリコシドまたは誘導体を含むこともできる。
【0079】
(B)本発明のエキス中の生物活性フラボノイド化合物
本発明者らは、フラボノイドまたはその誘導体も含有するエキスにおいて血小板凝集の最適な阻害が達成されることも立証した。
【0080】
エキスは、好ましくは、一般式(III):
【化12】

[式中、R5、R6およびR7は独立してH、OHである]
で示されるフラボノイドを含有する。
【0081】
好ましくは、エキスは、下記フラボノイドの1つを含む:
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【0082】
最も好ましくは、エキスは、ケルセチンもしくはケンフェロールまたはその誘導体を含有する。
【0083】
本発明者らは、また、他の分子と結合した生物活性フラボノイドが血小板凝集の軽減に特に有効であることを立証した。したがって、本発明の最も好ましい実施態様では、エキスは、上記のように(すなわち、糖、酒石酸、キニン酸などと)結合したフラボノイド化合物を含む。
【0084】
本発明者らが血小板凝集の阻害活性を有することを見出した本発明の第2の態様のエキス中に存在する別のタイプのフラボノイドにはナリンゲニンおよびその誘導体がある。したがって、エキスは、一般式IV:
【化17】

[式中、R4、R8およびR9は上記定義と同じである]
で示される分子を含む。
【0085】
エキスに含まれる式IVによって定義される好ましい化合物はナリンゲニンである。
【化18】

【0086】
本発明者らは、また、他の分子と結合した一般式(IV)で示される化合物が血小板凝集の軽減に特に有効であることを立証した。したがって、本発明の最も好ましい実施態様では、エキスは、上記のように(すなわち、糖、酒石酸、キニン酸などと)結合したフラボノイド化合物を含む。
【0087】
本発明のエキスに存在する最も好ましいグリコシル化フラボノイド化合物はナリンギンである。
【化19】

【0088】
本発明者らは、好ましいエキスは上記のフェノール系生物活性化合物およびフラボノイド生物活性化合物がお互いに結合し合ったものを含むことができることを見出した。例えば、カフェ酸4−O−ルチノシドは、カフェ酸とルチン(ケルセチンを含む)の糖残基との間でグリコシド結合された、抗血小板凝集性を有する分子である。
【0089】
(C)ヌクレオシド/ヌクレオチド
WO 99/55350において意図されているように、抗血小板活性を有する果実エキスは、さらに、ヌクレオシドを含むことができる。該エキスは、アデノシン5'−一リン酸、シチジン、ウリジン、アデノシン、イノシン、グアノシンおよびグアノシン5'−一リン酸から選択される少なくとも1つのヌクレオシドを含むことができる。
【0090】
本発明者らがトマトエキスの様々なフラクション中の数多くの生物活性化合物を同定したことが理解されるであろう。次に、彼らは、この同定された活性化合物がこのような果実エキス中で維持および/濃縮されたような果実アブストラクトを調製する方法を適合させることができた。
【0091】
本発明の第3の態様によると、
(a)グリコシル化フェノール酸またはフェノール酸エステル、またはその誘導体;
(b)グリコシル化フラボノイド;および
(c)ヌクレオシド
を含む果実エキスが提供され得る。
【0092】
(a)グリコシル化フェノール酸は、好ましくは、グリコシル化桂皮酸またはその誘導体である。該エキスは、最も好ましくは、カフェオイル−4−O−キニン酸、カフェオイル−4−O−グルコシド、クマロイル−4−グリコシド(glu/gal)またはクマロイル−4−O−グリコシド(ジサッカライド)のうち少なくとも1つを含む。該エキスは、これらのグリコシドの1、2、3個または各々を含むことができる。本発明の好ましい実施態様では、本発明の第3の態様の果実エキスは、上記のグリコシル化桂皮酸またはその誘導体および安息香酸またはその誘導体を含む。
【0093】
該エキスは、カフェ酸グルコシド;および/またはp−クマル酸ヘキソース/ジヒドロケンフェロールヘキソース;および/またはフェルラ酸グルコシド;および/またはp−クマル酸誘導体を含むのが最も好ましい。
【0094】
(b)グリコシル化フラボノイドは、好ましくは、ナリンギン、ケルセチン−3−O−グルコシドまたはルチンである。該エキスは、これらのグリコシドの1、2、3個または各々を含むことができる。該生物活性物質は、最も好ましくは、ルチンである。
【0095】
(c)ヌクレオシドは、AMP、ウリジン、アデノシン、グアノシンまたはGMPのいずれか1つであり得る。該エキスは、これらのヌクレオシドの1、2、3、4個または各々を含むことができる。該ヌクレオシドは、好ましくは、グアノシンおよび/またはアデノシン3'−一リン酸である。
【0096】
本発明の第3の態様の果実エキスは、また、トマチジンのようなステロイド系グリコシドを含有してもよい。
【0097】
該果実エキスは、好ましくは、脂質またはカロテノイドを含有しない。
【0098】
本発明の方法により果実、特にトマトから調製され得る2種類の好ましいエキスは、以下の生物活性化合物を特定の濃度(mg/g)で含むことが見出された。
【0099】
(1)実施例2に記載の方法に従って調製された好ましいエキスは、以下のものを含む:
(a)以下のグリコシル化フェノール酸またはフェノール酸エステル:
カフェ酸グルコシド(0.01〜1mg/g);
p−クマル酸ヘキソース/ジヒドロケンフェロールヘキソース混合物(0.05〜2.5mg/g);
フェルラ酸グリコシド(0.025〜5mg/g);および
p−クマル酸誘導体(0.01〜1mg/g)。
(b)グリコシル化フラボノイド:ルチン(0.01〜1mg/g)。
(c)以下のヌクレオシド/ヌクレオチド:
グアノシン(0.1〜5mg/ml);および
アデノシン3'−一リン酸(0.5〜25mg/ml)。
【0100】
(2)実施例3に記載の方法に従って調製された好ましい低糖エキスは、以下のものを含む:
(a)以下のグリコシル化フェノール酸またはフェノール酸エステル:
カフェ酸グルコシド(1〜25mg/g);
p−クマル酸ヘキソース/ジヒドロケンフェロールヘキソース混合物(5〜100mg/g);
フェルラ酸グリコシド(25〜300mg/g);および
p−クマル酸誘導体(1〜25mg/g)。
(b)グリコシル化フラボノイド:ルチン(1〜25mg/g)。
(c)以下のヌクレオシド/ヌクレオチド:
グアノシン(1〜50mg/g);および
アデノシン3'−一リン酸(1〜50mg/g)。
【0101】
本発明の第2または第3の態様を例示する2種類の特定のトマトエキスは、表1にて同定される。表1は、同定され、アッセイされ(実施例1を参照)、最も高い抗血小板活性を有することが判明した、16個の化合物を同定している(第3欄;ID番号は第2欄に示される)。したがって、本発明の第1または第3の態様のエキスは、これらの16個の生物活性化合物の各々を含むのが好ましい。当然のことながら、本発明の第1の態様の方法は、好ましくは、果実エキス中においてこれらの化合物の活性を最適化するように設計される。
【0102】
表1はまた、実施例2および3に詳述した方法に従って調製したエキスに存在する各生物活性化合物の範囲(mg/g湿重量)を同定する。平均濃度(mg/g)も示される。本発明の第2または第3の態様の最も好ましいエキスは、生物活性化合物をこれらの特定の範囲で含む。
【0103】
【表1】

【0104】
トマトエキスに含まれる生物活性化合物の詳細な分析の結果、本発明者らは、さらに16個の化合物が抗凝集活性を有するという結論に達した。したがって、本発明の第2または第3の態様の最も好ましいエキスは、表2において同定される32個の生物活性化合物を含むことが判明した。
【0105】
【表2−1】

【表2−2】

【0106】
本発明の第3の態様の好ましいエキスは、実施例1(1.1.3)に記載のフラクション1、フラクション2およびフラクション3の再配合を含んでおり、再配合エキスを形成する。本発明者らは、このような再配合エキスは上記の生物活性物質が濃縮され、血小板凝集の阻害に対する効果が驚くほどに向上したことを見出した。
【0107】
果実エキスを含む医薬製剤および栄養補助食品
本発明の果実エキスは、経口投与用に製剤化され得る。それらは、例えば、液剤、懸濁剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、ロゼンジ剤およびスナックバー、挿入剤およびパッチ剤として製剤化され得る。このような製剤は、当該技術分野において周知の方法に従って調製され得る。
【0108】
例えば、該エキスは、経口投与用のシロップまたは他の溶液に、例えば健康飲料として、形成され得る。かかるシロップ剤または液剤に、糖、ビタミン、矯味矯臭剤、着色料、保存剤および増粘剤から選択される1以上の賦形剤を含むことができる。固有の浸透力を有する溶液、例えば等張液を得るために塩化ナトリウムまたは糖のような浸透圧調整剤を添加することができる。pHを固有の値に調整するために、好ましくはその値に維持するために、緩衝剤のような1以上のpH調整剤を使用することができる。緩衝剤の例としては、クエン酸ナトリウム/クエン酸緩衝剤およびリン酸塩緩衝剤が挙げられる。
【0109】
別法として、該エキスは、(例えば、スプレー乾燥または凍結乾燥によって)乾燥され得、該乾燥生成物は、固体または半固体投与剤形で、例えば錠剤、ロゼンジ剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤またはゲル剤として製剤化される。
【0110】
該エキスを含有する組成物は、さらなる成分を用いずに調製され得る。別法として、それらは、固体支持体(例えば、シュークロース、ラクトース、グルコース、フルクトース、マンノースのような糖またはキシリトール、ソルビトールもしくはマンニトールのような糖アルコール;またはセルロース誘導体)上に吸着させることによって調製され得る。他の特に有用な吸着剤としては、穀粉(例えば、小麦粉およびトウモロコシ粉)のようなデンプン系吸着剤が挙げられる。
【0111】
錠剤形成のために、該エキスを、典型的には、糖(例えば、シュークロースおよびラクトース)および糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトールおよびマンニトール);または変性セルロースもしくはセルロース誘導体(例えば、粉末セルロースまたは微結晶性セルロースまたはカルボキシメチルセルロース)のような希釈剤と混合することができる。該錠剤はまた、典型的には、造粒剤、結合剤、滑沢剤および崩壊剤から選択される1以上の賦形剤も含有する。崩壊剤の例としては、デンプンおよびデンプン誘導体、ならびに他の膨張性ポリマー、例えば、架橋ポリマー型崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロース、架橋ポリビニルピロリドンおよびグリコール酸デンプン)が挙げられる。滑沢剤の例としては、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸エステルおよびステアリン酸が挙げられる。結合剤および造粒剤の例としては、ポリビニルピロリドンが挙げられる。希釈剤が自然にあまり甘くない場合には、甘味料、例えばグリチルリチン酸アンモニウムまたは人工甘味料(アスパルテームまたはサッカリンナトリウム)を加えることができる。
【0112】
該エキスは、また、カプセルに取り込むための散剤、顆粒剤または半固体剤としても製剤化され得る。散剤の剤形で使用される場合、該エキスは、錠剤に関して上記で定義した賦形剤の1つ以上と一緒に製剤化され得るか、または、非希釈形態で提供され得る。半固体の形態で提供するために、乾燥エキスを、粘稠性液体または半固体ビヒクルまたは液体担体、例えば、グリコール(例えば、プロピレングリコール、またはグリセロール)または植物油もしくは魚油(例えば、オリーブ油、ヒマワリ油、月見草油、ダイズ油、タラ肝油、ニシン油など)に溶解または懸濁することができる。このようなエキスは、ハードゼラチン型またはソフトゼラチン型のカプセル、または、ハードまたはソフトゼラチン等価物から作られたカプセル中に充填され得、粘稠性液体または半固体充填物についてはソフトゼラチンまたはゼラチン等価カプセルが好ましい。
【0113】
本発明のエキスは、フルーツバー、ナッツバーおよびシリアルバーのようなスナック食品に配合するために粉末形態で提供され得る。スナック食品バーの形態の提供のために、該エキスは、日干しトマト、レーズンおよびスルタナのようなドライフルーツ、落花生または穀物(エン麦および小麦)から選択される1以上の成分と混合することができる。
【0114】
本発明のエキスは、また、溶液として再構成するための粉末形態で提供され得る。それらは、糖、緩衝剤(例えば、クエン酸塩およびリン酸塩緩衝液)のような可溶性賦形剤、炭酸塩(例えば、重炭酸ナトリウムまたは重炭酸アンモニウム)のような発泡剤、および固体酸(例えば、クエン酸またはクエン酸塩)を含有することもできる。
【0115】
一の好ましい実施態様では、本発明のエキスは、カプセル、例えばハードゼラチンカプセル中に配合するために、任意であるが好ましい固体(例えば、粉末)賦形剤と一緒に、粉末形態で提供され得る。
【0116】
本発明の固体または半固体形態は、当該組成物を約1000mgまで、例えば約800mgまで含有することができる。
【0117】
該エキスは、食品サプリメントまたは食品添加物として提供され得るか、または食品、例えば機能性食品または栄養補助食品に配合され得る。
【0118】
本発明のエキスは、血小板凝集の阻害活性を有する所定の濃度の化合物を含有する単位投与剤形で提供され得る。このような単位投与剤形は、所望のレベルの生物活性を達成するように選択され得る。例えば、単位投与剤形は、本発明の組成物を1000mg(乾燥重量)まで、より典型的には800mgまで、例えば50mg〜800mg、例えば100mg〜500mg含有することができる。単位投与剤形に含まれ得る当該組成物の固有の量は、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mgおよび800mgから選択され得る。
【0119】
本発明のエキスは、投与説明書と共に、容器、パックまたはディスペンサー中に含まれ得る。
【0120】
実施例5において、本発明のエキスを含む好ましい生成物を定義する。
【0121】
投与量
疾患および関与する症状の治療のために、1日につき患者へ投与される本発明のエキスの量は、治療下の特定の症状または疾患およびその重篤度に依存し、最終的には、医師の判断に従う。しかしながら、投与される量は、典型的には、問題の症状を治療するのに有効な無毒性量である。
【0122】
糖を含有する組成物について、本発明の方法に従って調製された果実エキスの推奨日用量は、0.5g〜20g、より好ましくは2g〜7gである。日用量は約3gであり得る。低糖組成物(上記参照)について、推奨日用量は、10mg〜500mgであり得、より好ましくは、約85mg〜約150mgである。
【0123】
心血管疾患に罹患しているヒト患者のための典型的な日用量は、体重1kgにつき、果糖を含有するエキス約70mg〜285mg、好ましくは、約25mg〜100mgであり得、体重1kgにつき低糖エキス約1mg〜2.25mg100mgである。
【0124】
該エキスは、1日につき1回投与または複数回投与で、例えば1日1〜4回、好ましくは1日1または2回投与され得る。最も好ましくは、該エキスは1日1回投与として投与される。
【0125】
該エキスは、トマトジュースまたはその濃縮物の形態で、単独でまたはオレンジジュースのような他のフルーツジュースと混合して投与され得る。
【0126】
治療効果の適応症
本発明のエキスを含む組成物の、有益な治療効果をもたらす能力は、様々なパラメーターに関して評価され得る。下記実施例に、治療効果を評価するために研究され得る血小板凝集または一次止血の評価に好適なプロトコールの詳細を記載する。実施例に記載のPFA−100(登録商標)血小板機能分析は、一次止血の評価のための比較的新しい装置であるが、十分に確認されている(例えば、“The platelet-function analyzer (PFA-100 (Registered Trademark)) for evaluating primary hemostasis” by M. Franchini Hematology, Volume 10, Issue 3 June 2005 , pages 177-181を参照)。
【0127】
この目的のために評価され得る他のパラメーターとしては、血液流動性および血流量が挙げられ、流動性または流量の増加は、一般に、治療上有用な効果を示す。
【0128】
血液流動性の測定方法
血液流動性の直接的測定は、毛細管を模倣している、Arkrayから入手可能なMC−FAN HR300のようなMicro Channel Array Flow Analyser(MC−FAN)を使用して得ることができる。
【0129】
MC−FANの使用に好適なプロトコールは、“Determinants of the daily rhythm of blood fluidity”, by Tatsushi Kimura, Tsutomu Inamizu, Kiyokazu Sekikawa, Masayuki Kakehashi and Kiyoshi Onari (Journal of Circadian Rhythms 2009, 7:7)に記載されている。
【0130】
簡単に言えば、例えば単結晶シリコンチップの表面のフォトファブリケーションによって、幅7μm、長さ30μm、深さ4.5μmのマイクログルーブが形成される。好適なチップの大きさは、約15×15mmであり得る。次いで、マイクログルーブは、毛細管を提供する漏れ防止型マイクロチャネルに形成される。このチャネルへの変換は、例えば、該チャネルを光学的に平らなガラス板のようなカバーでしっかりと覆うことによって行うことができる。好適なグルーブを、光学的に研磨されたガラス板のはんだ付けによって密閉したマイクロチャネルへと変えることができる。
【0131】
マイクロチャネルの大きさは、1つの流路を通って流れる流量が非常に小さくなるような大きさである。したがって、流速の測定を容易にするためにフローチャネルを複製するのが望ましい。上記で引用した参考文献は、8736本の同じサイズの流路が構築された装置の製造を記載している。次いで、該マイクロチャネルフローシステムMC−FAN(日立原町電子工業株式会社、日本国茨城)上にシリコン基板を設置することができ、画像表示ユニットと接続した顕微鏡下でマイクロチャネルを介して血液細胞要素の流れを直接観察することができる。流れを連続して見ることができ、一方、所定量の血液の通過時間が自動的に測定される。
【0132】
血液通過の好適な値は、以下のとおり、20cmH2Oの圧力下での実際の全血通過時間を12秒間の生理食塩水通過時間で割った関数として表すことができる:
【数1】

【0133】
血流の測定方法
インビボで無傷血管を通る血流の評価するために幅広く使用されている方法としてドップラー超音波流量測定がある。ドップラー超音波を使用する好適な方法は、当業者に周知であり、“Measurement of blood flow by ultrasound: accuracy and sources of error.” By R. W. Gill (Ultrasound Med Biol. 1985 Jul-Aug;11(4):625-41)に記載されているものが挙げられる。
【0134】
ここで、以下の実施例によって、添付した図面を参照して、本発明を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0135】
本発明は、WO99/55350に記載の果実エキスにおいて同定された抗血小板活性を考慮して行ったさらなる研究に基づく。
【0136】
本発明者らは、徹底的な実験を行うことにより、トマトエキスをさらに分画して、血小板凝集に対するその阻害効果に関係する該エキス中の化合物を同定した。本発明者らは、血小板凝集に対する効果を全く有していなかったかまたはごくわずか有していた果実エキスを用いて非常に多数の化合物(全てが化学的に同定されているわけではない;また、全てのデータが本明細書に示されているわけではない)を同定した。しかしながら、本発明者らは、驚くべきことに、顕著な活性を有する32個の化合物が本発明の第3の態様によって定義される化合物の群に分類されることを見出した。この知見に基づき、本発明者らよって、かかる化合物の活性が果実エキス中にて維持/濃縮され得るために、本発明の第1の態様の方法が開発された。
【0137】
1.1.方法
1.1.1 WO99/55350によって定義されたトマトエキスの調製
出発物質として褐変インデックス(420nmにて、可溶性固体12.5g/Lの濃度の溶液の吸光度)<0.350AUを有する28〜30°Brix(すなわち、固体28〜30%、w/w)の市販の冷式破砕トマトペーストを使用してトマトエキスを調製した。該ペーストを超純水で希釈し(1:5)、遠心濾過により大きな粒子状物質を除去し、次いで、室温でWestfalia MSB−14 Separator(遠心ディスク清澄器)を使用して清澄させた。次いで、45℃以下の温度で精密濾過により小さい粒状物質を除去して、不溶性のスピンダウン固体を含有しておらず、可溶性固体を損失せずに0.2μフィルターを通過することができる透明な淡黄色の溶液を得た。この溶液を、非酵素的褐変反応の進行を制限するために注意深く制御した条件および50℃以下の温度を用いて、65°Brixのシロップになるまで蒸発により濃縮した。蒸発手順の開始時に瞬間殺菌工程(T=105℃で3秒間)を組み込んだ。最終生成物を、<0.600AUの褐変インデックスおよび<1000の全微生物数によって特徴付けた。
【0138】
1.1.2 関心のある活性化合物を有するトマトエキスの濃縮および不活性物質の除去
生物活性成分中にてより濃縮された出発物質を得るために、以下のとおり、上記生成物から糖を除去した。
【0139】
FPX66樹脂(Rohm and Haas)が入っている130L樹脂カラムを調製し、4℃の超純水中にて平衡させた。1.1.1に記載の物質を超純水で約8Brixに希釈し、温度を4℃に維持しながら、約260L/分の流速で該樹脂カラムに通した。カラム透過物を廃棄した。必要な物質を全て該カラムに通してしまったらすぐに、約130Lの洗浄水を通し、廃棄した。その後、温水(75℃)130L、次いで、80%エタノール130L、次いで、さらに温水130Lを該カラムに通して、樹脂に保持された化合物を溶離した。溶出した物質を全て保持し、合わせて、関心のある化合物を含有する約25%エタノール溶液約400Lを得た。
【0140】
関心のある化合物を含有する希薄溶液を、約30℃の温度でTrisep ACM5膜を使用して逆浸透圧により濃縮した。エタノール/水溶媒はこの膜を通過し、一方、それに溶解していた化合物は全て膜内に残留した。希薄溶液10倍に濃縮したらすぐに、すなわち、体積が40〜50Lに減少したらすぐに、ダイアフィルトレーションを開始し、その間、残余分に超純水を透過物除去速度と等しい速度で添加した。このようにして、溶液のエタノール濃度を25%から<5%まで徐々に低下させた。
【0141】
次いで、Anhydroスプレー乾燥器を使用して固体約15〜20%のエタノール溶液をスプレー乾燥して、含水率<6%の微細な金色の粉末を形成した。これは、最終濃縮トマトエキスであり、関心のある抗血小板成分を単離するために使用した。
【0142】
1.1.3 トマトエキス中の個々の生物活性化合物の単離および特徴付け
1.1.2に記載した乾燥粉末を超高純度HPLC用水に溶解することによって、該乾燥粉末から50mg/mLの貯蔵液を調製した。Luna C18(2)5μセミ分取カラム(100×4.6mm)を使用し、該カラム上に一度に100μLを注入して、セミ分取HPLCを行った。フラクションコレクターを使用して、トマトエキスに含まれるUV吸収性成分を3つのバルクフラクションに分けた。フラクション1は、主としてヌクレオシドおよびヌクレオチドを含有していた。フラクション2は、主としてフェノール酸グリコシド/エステルおよびフェノール酸を含有していた。フラクション3は、主としてフラボノイドグリコシドおよびフラボノイドを含有していた。これら3つのバルクフラクションを凍結乾燥により乾燥させ、水に溶解して、50mg/mLの溶液を得た。次いで、各フラクションを順番に、同一カラムを使用するが各フラクションの極性および溶離特性に適した異なる勾配液を用いてさらなるセミ分取HPLCで処理した。フラクションコレクターを使用して、各バルクフラクションから、個々のまたは混合したフラクション10個までを回収した。
【0143】
個々のフラクションを凍結乾燥させ、純水1mLに再溶解した。次いで、Luna C18(2)3μ分析用カラム(100×4.6mm)を使用し、アセトニトリル/ギ酸勾配液を流して、分析用HPLA−MSによって各フラクションを試験した。各単離フラクションの特徴を測定した。ダイオードアレイ検出器を介するUVスペクトルの回収、および陽イオンモードでエレクトロスプレーMSによって得られるその特徴的なイオンの試験によって決定された。
【0144】
必要に応じて、最終精製(例えば、微量の汚染物質除去)をさらなるHPLCにより行った。最終精製化合物を凍結乾燥させ、冷凍貯蔵した。50mg/mLの貯蔵液を調製し、HPLCバッファー中に希釈して6種類の濃度を作成し、HPLC法を較正するために使用し、それにより反応因子を個々の化合物について較正することができた。次いで、トマトエキス中に存在する化合物を同定するためにこれらの較正曲線および反応因子を使用した。単離した生物活性化合物の構造のタイプ/同一性を表3に示す。
【0145】
1.1.4 血小板凝集を阻害するための活性をアッセイする方法
1.1.3に記載した単離化合物のIC50値を決定するために下記の実験プロトコールを考案した。インビトロでの血小板凝集の阻害を評価するためのおおざっぱなバイオアッセイをいくつかの粗抽出物について行って、機能的活性についてHPLCによって同定された微細フラクション/化合物の選択を容易にした。このアプローチは、果実エキス中のありとあらゆる化合物(何千もの候補)をアッセイする必要がないことが必要であると考えられた。
【0146】
IC50値は、血小板リッチ血漿1mL中にて標準的な条件下で誘発される血小板凝集を対照サンプルと比較して50%阻害するのに必要な化合物の量をmgで表す。
【0147】
32個の最も活性な化合物の活性を表4に示す。
【0148】
静脈切開術および血液試料
インビトロ研究のための血液を、薬物を使用していない健常人ボランティア(18〜60歳の、血小板機能が正常な男女)から採取した。対象者は、血液試料を提供する前の最低10日間は血小板機能に影響を及ぼすことが知られている薬物またはサプリメントを摂取しなかったことを宣言した。シリコン処理した針を介してプラスチック製クエン酸入り採血管(Sarstedt Monovettes、クエン酸ナトリウム最終濃度13mmol/L)中に肘正中静脈への単回静脈穿刺の後に血液を採取した。全ての血液を採血時から37℃に維持した。
【0149】
血小板リッチ血漿の調製
クエン酸血を200×gで15分間遠心分離することにより血小板リッチ血漿(PRP)を得、使用前に、血小板が少ない血漿を用いて320±20×109/Lの標準的な血小板数に調整した。該PRPを2時間以内に血小板機能測定のために使用した。
【0150】
血小板アゴニスト
血小板機能測定のために以下のアゴニストを使用した。アデノシン二リン酸(ADP)、最終濃度10μmol/L;コラーゲン、最終濃度5mg/L;アラキドン酸、最終濃度500U/L(全て、英国サンダーランドのHelena Biosciencesから);トロンビン受容体活性化ペプチド(TRAP)、最終濃度25nmol/L(英国プールのSigma-Aldrich)。使用直前に貯蔵液を加温した生理食塩水(0.9%NaCl)中に希釈してアゴニストを調製した。
【0151】
血小板阻害剤溶液の調製
個々の血小板阻害剤を、生理食塩水、超高純度メタノールまたは超高純度DMSO(英国プールのSigma-Aldrich)中500g/L〜100g/Lの濃度で調製し、必要になるまで冷凍貯蔵した。次いで、使用直前に貯蔵液を生理食塩水で希釈した。
【0152】
血小板阻害剤のPRPを伴うインキュベーション
低保持エピンドルフ(low-retention epindorrf)中にてPRP 450μLを希阻害剤溶液50μLと一緒に37℃で10分間インキュベートした。阻害剤溶液を、PRP試料中のメタノールまたはDMSOの最終濃度が2%を超えないように希釈した。メタノールまたはDMSO含有量に適合した生理食塩水50μLを必要に応じて含有する好適な対照試料を同時にインキュベートした。各阻害化合物について、5種類インキュベーション濃度を使用した;標準として0.05mg/mL、0.10mg/mL、1.00mg/mL、5.00mg/mLおよび10mg/mLの最終濃度を使用した。
【0153】
血小板凝集の測定および凝集の阻害
血小板阻害剤と一緒にインキュベートした後、PRP試料をガラス製キュベットに移し、ADP、コラーゲン、TRAPまたはアラキドン酸によって誘発された凝集の程度を血小板凝集測定装置(PACKS 4、英国サンダーランドのHelena Biosciences)にて10分間にわたってモニターした。各PRP試料について作成した凝集曲線から曲線下面積を算出し、これらのPRP試料の曲線下面積と対照試料の曲線下面積とを比較することによって各阻害剤濃度で達成された凝集の阻害を算出した。凝集の阻害は、対照と比較して阻害%として表され、阻害化合物1つにつき得られた6つのデータポイントから用量−応答曲線を作成した。次いで、1.2 結果および図1に示されるように、阻害化合物についてのIC50値を推定するために該曲線を使用した。
【0154】
得られた各血液試料について、2種類の阻害化合物についての6点用量−応答曲線を作成することができた。各阻害化合物について、異なる対象者からの血液を使用して異なる日に少なくとも3種類(ほとんどの場合、7〜10種類)のIC50値を得るように、これらの実験を繰り返した(これは、関心のあるアゴニストの各々に適用する)。次いで、異なるIC50の平均値を取り、これらの平均値を1.2 結果の表4に示す。
【0155】
1.2 結果
最も高い抗凝集活性を有することが判明した32個の化合物(以下を参照)の生理化学的特性を表3にまとめて示す。
【0156】
【表3−1】

【表3−2】

【0157】
表4は、トマトエキス中にて同定された32個の化合物のIC50データ(血小板を阻害するための)を示す。方法1.1.4に記載されるように活性をアッセイした。図1は、(a)ヌクレオシド(シチジン);(b)ヌクレオチド(アデノシン3'−一リン酸);(c)フェノール酸グリコシド(カフェ酸グルコシド);(d)フェノール酸(カフェ酸);(e)フラボノイドグリコシド(ケルセチン−3−O−グリコシド);および(f)フラボノイド(ケルセチン)について作成した、阻害剤溶液濃度に対するADP媒介凝集の阻害%の用量−応答曲線の例を示す。
【0158】
【表4−1】

【表4−2】

【0159】
1.3 結論
本発明者らは、トマトエキス中にある多数の化合物を試験し、表2および表3において同定した32個の化合物が血小板凝集の予防効果を有することを立証した。さらにまた、本発明者らは、単離され、抗凝集能を有することが示された32個の化合物のうち16個の化合物が生物活性全体について最も重要であると判断した。これら16個の化合物は表1に示されている。
【0160】
特に、本発明者らは、驚くべきことに、該生物活性化合物が(a)フェノール系化合物(ならびにそれらのエステルおよびグリコシド誘導体);(b)フラボノイド(ならびにそれらのエステルおよびグリコシド誘導体)および(c)ヌクレオチド/ヌクレオシドに分類され得ることを見出した。次いで、これにより、血小板凝集に対する阻害効果を有する2つの新しい化合物群(フェノール系およびフラボノイド)が存在することが分かった。
【0161】
これらの化合物のうち最も高い抗凝集性を有する非フェノール系化合物はAMPであった。糖およびリン酸残基によるヌクレオシドの修飾は、抗凝集作用を実質的に増加させる効果を有した。初期の研究は抗血小板成分としてシチジンおよびアデノシンを同定していたがヌクレオチドを同定していなかったので、上記のことは驚くべきことであった。
【0162】
フェノール酸誘導化合物のうち、全体的に最も高い抗凝集性のものは、p−クマル酸およびカフェ酸のグリコシル化形態であった。これらのグリコシル化化合物は、非グリコシル化遊離酸と比べて、試験した全てのアゴニストに応答して顕著に高い抗凝集能を示した。このような構造機能関係が報告されたのはこれが始めてである。したがって、グリコシル化フェノール系化合物は、本発明のエキスと一緒に含有され得、本発明の第1の態様の方法に従って調製されたエキスにおいて維持/濃縮されるべきである最も好ましい生物活性分子である。
【0163】
フラボノイド誘導体に関して同様の知見が得られた。ケルセチンおよびナリンゲニンのグリコシドまたは他のコンジュゲート誘導体は、フラボノイドアグリコンよりも顕著に高い抗凝集性を有していた。このことは、TRAPおよびアラキドン酸アゴニストに応答して特に顕著であったが、ADPおよびコラーゲンアゴニストにも適用された。非常に限られた量の構造機能研究が遊離フラボノイドアグリコンについての文献において報告されているが、それらの著者は、アグリコンおよびコンジュゲート分子との比較研究に気付いていない。したがって、グリコシル化フラボノイド化合物はまた、本発明のエキスと一緒に含有され得る最も好ましい生物活性分子であり、本発明の第1の態様の方法に従って調製されたエキスにおいて維持/濃縮されるべきである。
【0164】
興味深いことには、アデノシンに対するAMPの割合が減少した場合、該エキスの全体的な生物活性は低下した。遊離フェノール酸に対するフェノール酸グリコシド/エステルの割合が減少した場合、および遊離フラボノイドに対するフラボノイドグリコシドの割合が減少した場合に同様のことが起こることが判明した。
【0165】
本発明の第3の態様の果実エキスの生成の簡単な方法が1.1.3に記載されている。WO 99/55350に記載されている方法に従って調製されたエキスを分画して、抗血小板活性を有すると同定された3つのフラクションを単離することができるフラクション1は、主としてヌクレオシドおよびヌクレオチドを含有していた。フラクション2は、主としてフェノール酸グリコシド/エステル、およびフェノール酸を含有していた。フラクション3は、主としてフラボノイドグリコシドおよびフラボノイドを含有していた。次いで、これら3つのフラクションを再配合して(フラクション1+2+3)、驚くべき効果を有する本発明の第3の態様のエキスを得ることができる。
【実施例2】
【0166】
トマトエキス中の活性化合物に関して得られた知識に基づいて、本発明者らは、化合物の活性が維持された、および/またはこのような活性化合物の濃度が濃縮されたエキスを生成するために果実を処理する方法の開発を進めた。
【0167】
多くの実験を重ねて、本発明者らは、本発明の第1の態様の方法が実施例1で同定されたかなりの数の活性化合物を濃縮したエキスを生成するのに最適であることを立証した。
【0168】
この方法を立証してから、本発明者らは、医薬品または食品(飲料または食料品)の製造において使用され得るシロップを生成するために工業的規模の本発明の方法で使用され得るプロセスの開発を進めた。
【0169】
このようなシロップの調製プロセスは、図2に例示されており、本発明の第1の態様の好ましい実施態様である。
【0170】
図2のプロセスに従って調製されたシロップは、本発明の第2または第3の態様の最も好ましいエキスであり、表2(上記を参照)および表5において同定された特性を有する。
【0171】
【表5】

【0172】
該シロップは、乾燥物質単糖(グルコース、フルクトースおよびシュークロース)を70%まで含有することができ、水を50%まで含有することができる。
【0173】
この方法を使用して生成される最も好ましいシロップは、32個までの生物活性成分を含有しており、これらの成分は、図3に示されるHPLCクロマトグラムにおいて番号が付けられており、表1〜4において同定されて実施例1において検討された番号付与化合物と対応している。
【0174】
該シロップの生物活性プロファイルを最適化するのに重要ないくつかのさらなる特徴を表6(下記)に示す。化合物番号は、図3に示されているクロマトグラムおよび表1〜4において同定されている化合物を参照する。
【0175】
【表6】

【0176】
本発明者らは、本発明のエキスの抗血小板活性を最適化する場合に表6に概略記載された特性が重要であることを認識した。本発明の第2または第3の態様の最も好ましいエキスはこれらの特性を有している。さらにまた、これらの特性は、本発明の第1の態様の方法の最も好ましい実施態様において品質管理基準として使用され得る。したがって、これらの特性は、エキスを工業的規模で生産する場合に特に有用な管理項目である。
【実施例3】
【0177】
本発明者らは、また、粉末形態の低糖果実エキスの生産のための工業的規模の本発明の方法で使用され得るプロセスを開発した。該粉末は、また、医薬品または食品(飲料または食料品)の製造において使用され得る。
【0178】
このような粉末を製造するプロセスは図4に例示されており、本発明の第1の態様の好ましい実施態様である。
【0179】
図4に従って調製したエキスは、また、第2または第3の態様の好ましいエキスである。
【0180】
図4に従って調製したエキスは、本発明の第2または第3の態様の好ましいエキスであり、表2(上記を参照)および表7(下記)において定義される特性を有する。
【0181】
【表7】

【0182】
該粉末は、乾燥物質単糖(グルコース、フルクトースおよびシュークロース)を1%未満含有することができ、水を<6%含有することができる。濃縮粉末エキスは、典型的には、生物活性化合物を60%まで含有する。
【0183】
この方法を使用して生成されたエキスは、33個までの異なる生物活性成分を含有しており、これらの成分は、図5に示されるHPLCクロマトグラムにおいて番号が付けられており、表1〜4において同定された番号付与化合物と対応しており、実施例1に記載されている。
【0184】
これらの粉末の生物活性プロファイルを最適化するのに重要ないくつかのさらなる特徴を表8に示す。化合物番号は、図5に示されているクロマトグラムおよび表1〜4を参照する。
【0185】
【表8】

【0186】
本発明者らは、本発明のエキスの抗血小板活性を最適化する場合に表8に概略記載された特性が重要であることを認識した。本発明の第2または第3の態様の最も好ましいエキスはこれらの特性を有している。さらにまた、これらの特性は、本発明の第1の態様の方法の最も好ましい実施態様において品質管理基準として使用され得る。したがって、これらの特性は、エキスを工業的規模で生産する場合に特に有用な管理項目である。
【実施例4】
【0187】
以下の実施例において、実施例2に記載の方法に従って調製された組成物の抗血小板効果を試験する実験を記載する。当然のことながら、実施例3に記載の方法に従って調製した組成物も同プロトコールに従って試験することができた。
【0188】
4.1 研究プロトコール
4.1.1 研究対象および簡単なアウトライン
本研究は、健常被験者において、トマトエキスシロップ(実施例2に記載の方法に従って調製した)3gを含有する処理飲料の摂取のエクスビボ抗血小板効果を、対照サプリメントと比較して定量化した。
【0189】
4.1.2 研究設計
単純盲検設計は以下のとおりであった。07:00から08:00の間に、絶食した被験者にカニューレを挿入して基準試料を採取した。基準試料採取直後に、該被験者に処理(TE)サプリメントまたは対照サプリメントを摂取させた。次いで、t=3時間目に該カニューレからさらなる血液試料を採取した。脱水症を回避するために採血時と採血時の間に被験者に少量(25mL)の水を与えた。
【0190】
4.1.3 被験者
9人の健常成人男女を当該研究に採用した。被験者は、重篤な疾患または止血障害の病歴がない40〜65歳であった。該研究への適格性は、食事および生活習慣アンケートおよび健康診断(この間に全血球数を得た)によって評価した。本研究には血球数が低い個体を含まなかった。習慣的に食事性サプリメント(例えば、魚油、月見草油)を摂取している被験者は、本研究に参加する前に最低1ヶ月間これらのサプリメントを中止した。被験者は、参加前の10日間、血小板機能に影響を及ぼすことが知られている薬物の摂取を控えるように指示を受けた。全ての被験者から書面によるインフォームド・コンセントを受け取り、本研究は、グランピアン研究倫理委員会(Grampian Research Ethics Committee)の承認を得た。
【0191】
4.1.4 静脈切開術
本研究に参加した被験者に、シリコン処理した21ゲージ翼状針を使用してカニューレを挿入し、静脈の破壊を最小限にしながら複数回の血液試料採取を行った。止血系の活性化を最小限にするために、最高で3つの静脈穿刺が指定された。研究の全期間にわたってカニューレを挿入したままであり、毎回最初の2mLを捨てて、各採血時に約30mLの静脈血試料を採取した。血液試料採取後、閉塞防止のためにカニューレを生理食塩水で洗い流した。血小板機能および凝固時間の測定のために、血液をプラスチック製注射器に回収し、クエン酸入り採血管(クエン酸ナトリウムの最終濃度13mmol/L)に移した。C反応性タンパク質(CRP)の測定のために、単一基準血液試料(5mL)をEDTA抗凝固剤(最終濃度1.6g/L)に溶解した。各時点でのフィブリノペプチドAの測定のために、EDTA、トラシロールおよびクロロメチルケトンを含有する混合抗凝固剤0.5mL中に血液4.5mLを回収した。研究室への移送のために血液試料を可搬式インキュベーター中にて37℃でインキュベートした。6μg/Lよりも高いフィブリノペプチドA濃度として定義される活性化の証拠を示す血液試料は廃棄した。6mg/Lよりも高い基準C反応性タンパク質濃度によって立証される高い炎症反応の証拠を示すボランティアは、影響を受けている間、本研究から外し、後日に予定の介入を行った。
【0192】
4.1.5 エクスビボ血小板凝集研究
各時点で、血小板リッチ血漿におけるADPおよびコラーゲン誘発血小板凝集の程度の測定を行った。様々なアゴニスト濃度を用いて様々な生理学的条件に近づけることができる。次善の血小板刺激条件下でデータを集めるために、標準の低濃度(ADPについては3μmol/L、コラーゲンについては3mg/L)を次善であると定義し、標準の高濃度(ADPについては7.5μmol/L、コラーゲンについては5mg/L)を最適であると定義した。全ての測定のためにこれらのアゴニスト濃度を使用した。治療または対照介入の後に観察される血小板凝集に対する効果は、基準値と比較した、エキス/プラセボ摂取後の凝集曲線下面積の変化率として表される。
【0193】
4.1.6 補足測定
半定量的ラテックス凝集アッセイ(英国のDade Behring)を用いて高血漿CRPの検出を行って、>6mg/Lの血漿中でのレベルを検出した。この閾値は、感染(例えば、ウイルス感染または風邪の発症)または損傷(例えば、腱炎)に付随し得るような急性炎症性系活性化の指標として取られる。このような急性活性の兆候を示す試料は、血小板機能研究に使用されるべきではない。
【0194】
FPAの測定は、フィブリノゲンがベントナイト吸着処理によって除去された血漿に対してELISA(Zymutest FPAアッセイ、フランス国のHyphenBioMed)によって行われた。血漿中6μg/L超のレベルのFPAの存在は、採血の間の止血系活性化の指標として受け取られた。このような試料は、得られた結果が信頼できるものではないので、血小板機能測定に使用されるべきではない。かくして、循環CRPレベルおよび血液試料FPAレベルは、血小板測定のための試料の適格性を示すのに使用された。
【0195】
4.2 結果
この研究の間に採取された血液試料は、閾値6mg/Lよりも高いレベルの循環DRPを示さなかった。このことは、研究試料採取日の間、急性期活性がいずれの被験者にも存在しなかったことを示している。同様に、この研究のために採取された血液試料において、閾値6μg/Lよりも高いFPAレベルを示した試料はなかった。かくして、受け取った全ての血液試料は、血小板機能研究に適していると判断された。このスクリーニングデータは、記載されていない。
【0196】
図6に示されるデータは、基準時(t=0)および処理サプリメントの摂取の3時間後(t=3)に行った血小板凝集測定を例示する。結果は、基準値と比較されて、血小板凝集性の阻害%として表される。
【0197】
4.3 結論
図6は、本発明のトマトエキスがその摂取の3時間後にADP媒介凝集を基準血小板凝集から18%〜28%減少させ、コラーゲン媒介凝集を基準血小板凝集から3%〜12%減少させることを示している。対照サプリメントの摂取は3時間後にADP媒介凝集を基準凝集から2%〜4%変化させ、コラーゲン媒介凝集を基準凝集から約2%変化させた。基準時と3時間後との差異は、対照サプリメントについては有意ではなかったが、トマトエキスサプリメントについてはP<0.001で有意であった。対照サプリメントとトマトエキスサプリメントとの間の差異もまた、P<0.001レベルで有意であった。
【0198】
これらの結果は、本発明のトマトエキスが不適当な血小板凝集によって特徴付けられる状態の治療に有用であることを明確に立証している。
【0199】
さらにまた、本発明者らは、本発明の方法によって、既知のトマトエキス(WO 99/55350に記載ものもの)と比べて改善された特性を有する新規トマトエキスが生成されることを立証した。本発明者らは、既知の処理方法によって生成されたトマトエキスおよびグリコシドおよびエステルの維持を目標とする本発明の方法を使用して生成されたトマトエキスを摂食した後に測定されたエクスビボ抗血小板活性を比較した。本発明者らは、本発明のトマトエキス3gの1回投与は3μmol/LのADP誘発血小板凝集を基準と比べて28%阻害したが、既知のエキスは、エキス9gを摂取した場合のみであるが、ADP誘発血小板凝集を約25%阻害したことを見出した。かくして、本発明の方法は、エキス中の生物活性成分を約3倍濃縮すると考えられる。本発明の第1の方法の実施態様によると、より有効なエキスが得られ、好都合には、必要な日用量を減らすことができる。
【実施例5】
【0200】
本発明者らは、本発明のエキスを含む好ましい製剤である数多くの製品を調製した。
【0201】
トマトエキスを含有するヨーグルト飲料
実施例2および3の記載に従って調製されたトマトエキスはどちらもヨーグルト飲料に配合するのに好適である。このような飲料の例は、以下のとおり調製され得る。
【0202】
生菌培養物を用いずに調製した飲用ヨーグルトを前低温殺菌し、4〜8℃に冷却した。冷却したヨーグルトは実施例2で調製したトマトエキスと50:1の割合で、または実施例3で調製したトマトエキスと1000:1(w/w)の割合で混合されるべきである。酸性度がチェックされ、クエン酸で調整されるべきであり、フレーバリングが調節されるべきである。最終製品に生菌培養物が必要な場合、これは、調整後に添加されるべきであり、最終混合物は、使い捨て用150gビンに充填されるべきである。
【0203】
次いで、各使い捨て用150gビンは、実施例2に従って調製したトマトエキス33gまたは実施例3に従って調製したトマトエキス150mgを含有すべきである。これは、日用量である。最終製品は、それらの推奨有効期間の間(典型的には、14〜21日間)、4℃で貯蔵されるべきである。
【0204】
トマトエキスを含有するファット・スプレッド
実施例3の記載に従って調製したかまたはカプセルを提供するように処理したトマトエキスは、ファット・スプレッドへの配合に適している。このような調製物の例は、予備調製し、低温殺菌し、冷却したファット・スプレッドに粉末の低糖トマトエキスを低温殺菌後に200:1(w/w)の割合で添加することによって生成され得る。該混合物は、均一な分布を確実にするために高剪断力でホモジナイズし、複数回使用容器に充填した。
【0205】
ラベルテキストは、ファット・スプレッドの通常の1日摂取量が約30gであるべきであるという情報を含むべきである。毎日ファット・スプレッドを30g摂取すると、毎日トマトエキスを1日1回投与量を構成する約150mg摂取することになる。このスプレッドは、その有効期間の間(典型的には、90日間)、4℃で貯蔵されるべきである。
【0206】
フルーツジュースをベースとするトマトエキス含有飲料
実施例2および3の記載に従って調製したトマトエキスはどちらもフルーツジュースベースの飲料に配合するのに好適である。このような飲料の例は、以下のとおり調製され得る。
【0207】
オレンジジュース濃縮液を水で1:5.4の割合で希釈した。この還元ジュースにグレープフルーツフレーバー0.1%、パイナップルフレーバー0.05%および実施例2で調製したトマトエキス1.2%を加えた。酸性度および甘味を試験し、必要に応じて、クエン酸(酸性度調整剤)5%まで、およびシュークロース2%までを加えた。121℃で90秒間低温殺菌した。
【0208】
この低温殺菌混合物を、1Lのカートン、使い捨て用カートンまたはビンに充填した。上記の最終飲料250mLは、トマトエキスを1日1回投与量と同等の約3g含有するべきである。ラベルの詳細は、この情報および1日250mLを飲用するというアドバイスを含むべきである。
【0209】
他のフルーツジュース濃縮物も同様に使用に適している;別法として、フレッシュフルーツジュース、フルーツジュースと野菜ジュースの混合物、または様々な量の果肉を含有する混合物が調製され得る。
【0210】
カプセル
実施例3の記載に従って製造した粉末の低糖トマトエキスの50%w/w溶液を調製する。温度を60℃に上げる。同量の、高融点脂質(例えば、トリグリセリド)の溶融して乳化した混合物、分散した多糖類(例えば、ペクチン、寒天)の溶液、または他の可溶性ポリマーと混合する。適切なブレンドが確実に行われるよう注意してホモジナイズする。温度制御されたスプレー乾燥のような技術を使用して最終粒径が<200μとなるように粒径を制御しながら、カプセルを生成する。必要に応じて、スプレー乾燥の前に、分散物に着色剤、保存剤またはフリー・フロー剤のような添加剤を添加することができる。
【0211】
得られたカプセルは、w/wベースで12%〜20%のトマトエキスを含有すべきである。該カプセルは、暗所で、ホイル包装材料で密封して<4℃で貯蔵されるべきである。該カプセルの投与量は、食品に取り込まれている場合、1日あたり400mg〜700mgの範囲であるべきである。
【0212】
溶解用サシェ剤
実施例3に記載のトマトエキスは、予混合溶解用1回投与用サシェ剤に取り込むのに適している。このような製剤の例は、粉末の低糖トマトエキス150mg、マルトデキストリン285g、ストロベリークリームフレーバー6.5g、スクラロース0.8g、クエン酸3.8g、天然ビーツ赤色色素2.5g、およびキャラメル0.25gを混合することによって調製され得る。得られた乾燥粉末混合物約300gを、味わうために水50mL〜300mLに溶解するのに適している1回投与用のホイル裏張りサシェ中にて提供することができる。各300g混合物は、トマトエキスの1日1回投与量を含有する。
【0213】
サシェに入れられた粉末製剤は、室温で貯蔵されるべきであり、水中で1日1つのサシェを摂取するようにという説明書と一緒に提供される。
【0214】
錠剤
実施例2に記載のトマトエキスを使用して、以下のとおり、例えば直接圧縮によって錠剤化して、医薬用サプリメントまたは食事性サプリメント用の錠剤を調製することができる。
【0215】
実施例2に記載のトマトエキスを錠剤化前に1〜3μの範囲の粒径に製粉/粉砕するべきである。予粉砕粉末エキスを、微結晶セルロースまたはマルトデキストリンM700のような賦形剤と乾燥ブレンドして、圧縮プロセスの間に潤滑化すべきである。賦形剤60%に対してエキス40%の割合が好適であるが、10:90〜60:40の割合で使用することもできる。必要に応じて、粉末着色剤を添加することもできる。
【0216】
慣用の錠剤化装置を使用して、1.5〜2.0トン/平方インチの圧力下で、5kgの硬度の212g錠剤を生成することができる。このような錠剤は、錠剤1個につきトマトエキス85mgを含有する。ラミネート加工したアルミホイルブリスターパック中にて著座得するが推奨される。このような包装において、錠剤は、45℃までの温度条件下での貯蔵に安定である。2個の錠剤を1日1回一緒にまたは2回摂取して、推奨用量を達成するべきである。
【実施例6】
【0217】
実施例4において、実施例2に記載の方法に従って調製した組成物の直接抗血小板効果を記載した。これらの抗血小板効果は、血液流動性または血流量に影響を及ぼす大きさであることを示すために、この組成物の全体的一次止血に対する効果を測定するさらなる研究を行った。止血、すなわち凝固プロセスによって出血の停止は2つの部分で生じる。一次止血とは、全血が流動条件下で血小板のマイクロおよびマクロ凝集を形成する能力およびコラーゲンリッチ表面(通常、血管壁)で初期血小板血塊を形成する能力をいう。二次止血とは、トロンビンによって誘発されるこの一次血塊におけるフィブリンネットワークの形成をいい、フィブリン溶解によって溶解するのにかなりの時間を取る、より恒久的な血塊をもたらす。血液流動性に影響を及ぼして血流量に影響を及ぼすトマトエキス組成物の効力を試験する場合、一次止血の測定は、凝集データだけよりも生理学的に関係し得るデータをもたらす。
【0218】
下記実施例おいて、実施例2に記載の方法に従って調製した組成物の全体的な一次止血に対する効果を、Platelet Function Analyser, the PFA−100(登録商標)を使用して試験する実験を記載する。血小板機能分析装置は、少量の血液試料における一次止血の測定に有用な道具である。この試験システムは、レオロジー因子の役割の範囲を決めつつ、一次止血の血小板依存期をインビトロで模倣するマイクロプロセッサ制御装置である。基本的に、該システムは、コラーゲン−ADP(COL−ADP)またはコラーゲン−エピネフリン(COL−EPI)被覆膜上での血小板相互作用をモニターする。クエン酸血の試料を、制御流条件(剪断速度:4,000〜5,000/秒)下で、膜に切り込まれた150μm開口部を介して膜中に吸引する。該プロセスの間、成長している血小板血栓が開口部を通る血流を漸次的に遮断する。血液試料における血小板止血能は、秒で表される血小板血栓が開口部を塞ぐのに要する時間(閉鎖時間)によって示される。
【0219】
6.1 研究プロトコール
6.1.1 研究対象および簡潔なアウトライン
本研究は、健常被験者における一次止血に対するトマトエキスシロップ(実施例2に記載の方法に従って調製)3gの摂取のエクスビボ効果を対照サプリメントと比べて試験した。
【0220】
6.1.2 研究設計
正常な止血パラメーター(血液数)を有しており、重篤な疾患または止血障害の病歴がなく、血小板機能に影響を及ぼすことが知られている食事性サプリメントまたは薬物を摂取していない45〜75歳の健常成人6人を参加させた。書面によるインフォームド・コンセントが得られ、本研究は、グランピアン研究倫理委員会(Grampian Research Ethics Committee)の承認を得た。07:00から08:30の間に、絶食した被験者から基準血液試料(酸クエン酸塩デキストロース緩衝液で抗凝固剤処理した)を採取した。基準試料回収直後に、被験者は、処理(TE)サプリメントまたは対照サプリメントを摂取した。次いで、補給のt=3時間後およびt=5時間後にさらなる血液試料を採取した。
【0221】
6.1.5 一次止血のエクスビボ測定
全血液試料におけるPFA−100閉塞時間の測定を各時点で行った。コラーゲン−エピネフリン膜を使用して測定を行った。簡単に言えば、適当な膜を含有するカートリッジを室温にし、各カートリッジのリザーバーに抗凝固剤処理した全血900μlを挿入した。次いで、すぐに、該カートリッジをPFA−100の処理装置中に挿入した。膜開口部が塞がれるまで(閉塞時間)、または血塊が形成されなかった場合には最大300秒間、高剪断でカートリッジ膜を介してリザーバーから血液を自動的に吸引した。
【0222】
6.2 結果
各処置に関する平均閉塞時間を図7にグラフで示す。この図において、基準時(処理(TE)または対照(C)による補給に関して0時)ならびにTEまたはCの補給の3時間後および5時間後に記録された平均閉塞時間が示される。各グループはn=3であり、データは、ANOVAによって分析した。CおよびTE間の有意な差異がグラフ上にて*よって示される(P=0.011)。
【0223】
6.3 結論
結果は、本発明の組成物を提供するトマトエキスは、摂取の3時間後および5時間後に、PFA−100閉塞時間を基準値から平均24%増加させることを示している。対照サプリメントの摂取は、基準閉塞時間から3時間後に平均16%、5時間後に平均12%減少させた。基準と3時間後および5時間後の時点との差異は、対照サプリメントについては有意ではなかったが、トマトエキスサプリメントについてはP=0.011で有意であった。対照サプリメントとトマトエキスサプリメントとの間の差異は、有意であった(P=0.011)。
【0224】
結果は、本発明のトマトエキスサプリメント組成物が、各カートリッジ開口部において血小板血塊が形成されるのに要する時間を増加させることを示していて、血小板止血能が低下していることを意味する。血塊が形成されるのに要する時間が長いほど高い血液流動性を反映している。
【0225】
これらの結果は、明らかに、本発明の組成物(例えば、トマトエキス)が血液流動性を減らすのに有用であることを示している。これは、血流の正常化におけるそれらの使用を裏付けている。
【図1−1】

【図1−2】

【図1−3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナス科の果実を処理してその果実のエキスの血小板凝集阻害活性を最適化する、ナス科の果実のエキスの調製方法であって、
(a)ホモジナイズした果実の出発混合物を調製する工程;
(b)水溶性フラクションを果実固体から分離する工程;
(c)該水溶性フラクションを濾過する工程;および
(d)濾過透過物中の活性物質を濃縮する工程
を含む方法。
【請求項2】
出発混合物の保持温度が35℃以下である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
出発混合物のpHが5.5以下である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
420nmでの可溶性部分の吸光度として定義される出発混合物の褐変インデックスが固体4%で0.4AU以下である、請求項1〜3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程(b)が、フラクションを粒径>500μの不溶性固体から分離する、請求項1〜4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(b)が、フラクションの温度を60℃以上に上昇させる手順を含まない、請求項1〜5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程(c)が、固体を失わずに0.2μフィルターを通過する溶液を生じる、請求項1〜6いずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程(d)が、フラクションの温度を60℃以上に上昇させる手順を含まない、請求項1〜7いずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程(c)の後に、水溶性エキスから遊離糖を除去するためのさらなる工程を含む、請求項1〜8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
該糖がエキス成分の樹脂媒介分離により除去される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
実施例2または3に本質的に記載されている果実のエキスを調製する方法。
【請求項12】
請求項1〜11いずれか1項によって定義される方法に従って調製した果実エキス。
【請求項13】
(a)グリコシル化フェノール酸もしくはフェノール酸エステルまたはその誘導体;
(b)グリコシル化フラボノイド;および
(c)ヌクレオシド
を含む果実エキス。
【請求項14】
グリコシル化フェノール酸またはフェノール酸エステルがグリコシル化桂皮酸またはその誘導体である、請求項13記載の果実エキス。
【請求項15】
グリコシル化桂皮酸またはその誘導体が、カフェオイル−4−O−キニン酸、カフェオイル−4−O−グルコシド、クマロイル−4−O−グリコシド(gluc/gal)およびクマロイル−4−O−グリコシド(ジサッカライド)からなる群から選択される、請求項14記載の果実エキス。
【請求項16】
クリコシル化フェノール酸またはフェノール酸エステルが、カフェ酸グルコシド;p−クマル酸ヘキソース/ジヒドロケンフェロールヘキソース;フェルラ酸グルコシド;およびp−クマル酸誘導体から選択される、請求項13記載の果実エキス。
【請求項17】
グリコシル化フラボノイドが、ケルセチン−3−O−グルコシドまたはルチンである、請求項13〜16いずれか1項記載の果実エキス。
【請求項18】
ヌクレオシドが、AMP、ウリジン、アデノシン、グアノシンまたはGMPからなる群から選択される、請求項13〜17いずれか1項記載の果実エキス。
【請求項19】
エキスが、表1において同定された16個の化合物の各々を含む、請求項13〜18いずれか1項記載の果実エキス。
【請求項20】
エキスが、表2において同定された32個の化合物の各々を含む、請求項13〜18いずれか1項記載の果実エキス。
【請求項21】
実施例2または3において本質的に同定された果実エキス。
【請求項22】
不適当な血小板凝集によって特徴付けられる医学的状態の治療または予防のための薬剤として使用するための、請求項12〜21いずれか1項記載の果実エキス。
【請求項23】
不適当な血小板凝集によって特徴付けられる医学的状態の治療または予防が、血小板凝集を減少させることによって心臓の健康を維持すること、循環に利益をもたらすこと、および血流を正常化するかまたは血流に利益をもたらすことからなる群から選択される目的のために行われる、請求項22記載の果実エキス。

【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−506901(P2012−506901A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533821(P2011−533821)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002593
【国際公開番号】WO2010/049707
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(507273068)プロヴェクシス ナチュラル プロダクツ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】