説明

果実飲料、果実風味アルコール飲料およびその製造方法

【課題】 香料やpH調整剤のような合成添加物を一切使用せず、自然な風味で、香りの劣化も少ない果実飲料を開発すること。
【解決手段】 果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造されたことを特徴とする果実飲料を提供する。従来一般に用いられている果皮由来のピールオイル等の香気成分に比べて、本発明で用いる果肉由来の香気成分は酸度の高い果汁中でも劣化しにくいため、本発明によれば、フレーバーの劣化防止目的で通常添加されているpH調整剤などの合成添加物が不要となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実飲料、果実風味アルコール飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レモン飲料は、その爽やかな風味で、最も飲まれている飲料の一つである。チューハイにおいてもレモンチューハイは最も市場規模が大きく、レモンの酸味とその爽快な香りは、アルコールとの相性が良いことが知られている。しかし、レモンの爽やかな香りは、pHの低下により容易に変質し、薬品的な臭いとなる。そこで、多くのレモン飲料やレモンチューハイでは、レモンフレーバーの添加量を抑えたり、レモンに似た香りを持つ合成香料を使用したりしているのが現状である。また、レモンフレーバーの劣化を少なくするために、ほとんどのレモンチューハイ等のレモン飲料商品にクエン酸ナトリウムのような合成のpH調整剤が使用されており、自然志向の消費者の嗜好と逆行することになっている。
【0003】
レモンの搾汁工場において、レモン果汁の濃縮工程で得られたレモンアロマやレモンエッセンスオイル等のレモンの香りをレモン果汁に戻すことは従来行われていない。
レモンの皮と果汁を混合させた、レモンコミュニテッド果汁は知られている。しかし、これは、レモンの皮のピールオイルが大量に含まれるので、皮の苦さが強く、劣化も免れないものである。レモンの皮から採った香りの代表であるレモンピールオイルは、果汁に加えると香りがすぐに劣化してしまうからである。
アップルなどの場合は、搾汁工場において、アップル果汁にアップルアロマを戻すこと(カットバック)が行われることがある。しかし、100%果汁にしたときにちょうど良いレベルのアロマを戻すことしか行われておらず、大量のアロマをカットバックして、香料のように飲料に添加して使用できる「香料的」果汁(アロマ果汁)を作る方法は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、香料やpH調整剤のような合成添加物を一切使用せず、自然な風味で、香りの劣化も少ない、レモンチューハイ等の果実飲料を開発することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
レモン飲料などに使用されるレモンフレーバー(レモン香料)は、飲料中で劣化し、異臭を発生することが知られている。これは、酸性下における飲料中でのレモンフレーバーの劣化が主たる原因とされている。しかし、生のレモン果実は酸味が強いにもかかわらず、その果実中ではレモンフレーバーは劣化しない。この原理を利用して開発されたのが、本発明のレモン飲料である。
従来のレモン飲料の場合、レモン果汁の含量はストレート果汁で通常7%以下である。これは、レモン果汁の酸味が強いため、レモン果汁7%の使用により飲料の酸度は0.3(無水クエン酸 g/100ml)を超え、十分な酸味が得られるからである。一方、レモンの香りはストレート果汁7%では不十分であるので、一般に、レモンの皮から採った香りを添加して補っている。本発明者は、この方法が、レモンフレーバーの劣化の原因であることを今回見出したのである。
すなわち、レモンの皮に含まれる香りは、果実の状態では、レモン果実中の酸味の強い果汁とは触れ合わないので、そのままでは劣化しない。しかし、皮の香りは果汁の酸味と触れ合うとただちに劣化が始まる。レモン搾汁工場において、レモンの皮のオイル(レモンオイル)と果汁が混ざり合うのを避ける理由もここにある。両者が混ざり合うと、搾汁工程という短時間の間でも、レモンオイルの劣化は進行するのである。いわんや、レモン缶飲料のように賞味期限の長い商品において、レモン果汁とレモン果皮の香気成分が共存した状態で長く置くと、その劣化ははなはだしいものとなる。
そこで本発明者は、レモン飲料に用いるレモンの香りを、本来レモンの果肉に含有されている香りに限ることが、劣化対策として好ましいことを見出し、本発明を完成させたのである。
【0006】
すなわち、請求項1に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造されたことを特徴とする果実飲料を提供するものである。
請求項2に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分が、該果実の果汁を濃縮する際に得られる水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルである、請求項1に記載の果実飲料を提供するものである。
請求項3に係る本発明は、水溶性アロマの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項1または2に記載の果実飲料を提供するものである。
請求項4に係る本発明は、エッセンスオイルの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項1または2に記載の果実飲料を提供するものである。
請求項5に係る本発明は、風味強化濃縮果汁が、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる製造方法にて製造される水溶性アロマ、および/または、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる製造方法にて製造されるエッセンスオイルを、
上記工程cで得られる濃縮果汁に添加し、混合することにより製造されるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の果実飲料を提供するものである。
請求項6に係る本発明は、果実がレモンである請求項1〜5のいずれかに記載の果実飲料を提供するものである。
請求項7に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造されたことを特徴とする果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項8に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分が、該果実の果汁を濃縮する際に得られる水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルである、請求項7に記載の果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項9に係る本発明は、水溶性アロマの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項7または8に記載の果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項10に係る本発明は、エッセンスオイルの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項7または8に記載の果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項11に係る本発明は、風味強化濃縮果汁が、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる製造方法にて製造される水溶性アロマ、および/または、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる製造方法にて製造されるエッセンスオイルを、
上記工程cで得られる濃縮果汁に添加し、混合することにより製造されるものである、請求項7〜10のいずれかに記載の果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項12に係る本発明は、果実がレモンである請求項7〜11のいずれかに記載の果実風味アルコール飲料を提供するものである。
請求項13に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用することを特徴とする果実飲料の製造方法を提供するものである。
請求項14に係る本発明は、果実がレモンである請求項13に記載の果実飲料の製造方法を提供するものである。
請求項15に係る本発明は、果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用することを特徴とする果実風味アルコール飲料の製造方法を提供するものである。
請求項16に係る本発明は、果実がレモンである請求項15に記載の果実風味アルコール飲料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、劣化しにくく香味に優れ、かつ、香料や酸味料などの合成添加物無添加の果実飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における「果実」には特に制限はなく、レモン、グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、ブドウなどが挙げられるが、好ましくはレモン、グレープフルーツ、オレンジであり、更に好ましくは、レモンである。これらの果実は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明における「果実の果肉に含まれる香気成分」は、上記果実の果肉由来であれば、特に取得方法を限定されない。具体例としては「水溶性アロマ」、「エッセンスオイル」などが挙げられる。これらの香気成分は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
ここで「水溶性アロマ」とは、果汁を蒸発濃縮する際に生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮して得られる香気成分を含有する液体を指し、例えば果汁を7倍程度に蒸発濃縮する場合に得られる廃液を10〜10000倍、好ましくは100〜10000倍に濃縮して得られるものが挙げられる。
水溶性アロマの具体的な製造方法としては、
工程a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
工程b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
工程c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および、
工程d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる方法が挙げられる。また、この他の方法として、上記で得られた水溶性アロマを、イオン交換樹脂によりさらに分離、濃縮することにより採取することができる。
【0010】
上記「エッセンスオイル」とは、果汁を7倍程度に蒸発濃縮する際に生じる蒸気を冷却して得られる廃液の表面に分離しているオイル分を回収して得たオイルを指す。
エッセンスオイルの具体的な製造方法としては、
工程a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
工程b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
工程c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および、
工程d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる方法が挙げられる。
【0011】
本発明における「果実飲料」の種類は特に限定されない。具体的には、チューハイ、カクテル類、リキュール類などの果実風味アルコール飲料や、炭酸飲料、果汁飲料、シロップ飲料などの果実風味清涼飲料などが例示できる。
【0012】
本発明の「濃縮果汁」としては、上記果実のストレート果汁を3〜9倍、更に好適には4〜7倍に濃縮したものを用いるのが好ましい。その濃縮方法は問わないが、副産物として得られる廃液から水溶性アロマやエッセンスオイルを採取できる点で、蒸発による濃縮方法が好ましい。
【0013】
「濃縮果汁」は果肉の含有の有無も問わないが、果肉由来の香気成分としてエッセンスオイルを使用する場合には、果肉を含む混濁果汁が好適に用いられる。混濁果汁は、クリアー果汁と異なり、果実のパルプ質やペクチン等の多糖類や蛋白などが除去されずに含まれている。またエッセンスオイルは、水溶性アロマに比べれば果汁に透明に溶けにくいが、果皮由来のピールオイルと違い、元々果汁中に含まれる香気成分であるので、ピールオイルと比べれば果汁に溶けやすい性質を持っている。それゆえ、クリアー濃縮果汁にエッセンスオイルを溶解すると、時間の経過と共にエッセンスオイルが分離してしまうが、果肉を含む混濁濃縮果汁に添加・混合すると、果汁中の混濁物質が乳化剤として働き、微細なオイル粒子(0.01〜10μm)となったエッセンスオイルと乳化状態や吸着状態を作って安定化する。
一方、果肉由来の香気成分として水溶性アロマを用いる場合には、クリアー濃縮果汁も混濁濃縮果汁も好適に用いることができる。水溶性アロマは水に容易に溶解・安定化するため、クリアー濃縮果汁中にも安定かつ透明に溶解するからである。
【0014】
なお、濃縮果汁として混濁濃縮果汁を用いて、酸味料無添加の果実飲料を作った場合、同じ酸度で酸味料を添加して作った果実飲料と比較してpHが高くなる。具体例としては、酸度0.32のレモン飲料では、酸味料添加の場合pH2.53となるのに対し、酸味料無添加の場合pH2.75となった。これは、混濁果汁中のアミノ酸等のpH緩衝作用に起因するものと見られる。このことから、濃縮果汁として混濁果汁を用いて作成した酸味料無添加の本発明の果実飲料は、フレーバーの劣化が一層少なくなり、香りの劣化しにくいものとなるので好ましい。
ここで「酸味料」としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが挙げられるが、特にこれらに限定されない。これらの酸味料は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の「風味強化濃縮果汁」は、上記の水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルを、上記の濃縮果汁に混合することにより得られる。このとき、濃縮果汁としては、水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルを採取する際に濃縮した濃縮果汁を用いることが望ましい。
つまり、本発明の風味強化濃縮果汁としては、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる製造方法にて製造される水溶性アロマ、および/または、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる製造方法にて製造されるエッセンスオイルを、
上記工程cで得られる濃縮果汁に添加し、混合することにより製造されるものが、好適に用いられるのである。
【0016】
果肉由来の香気成分として水溶性アロマを使用する場合の濃縮果汁に対する添加量は、混合後の風味強化濃縮果汁の香りが通常のストレート果汁の2〜20倍、より好適には3〜5倍となるような範囲とすることが好ましい。
あるいは、例えば7倍濃縮果汁10質量部に対して、蒸発濃縮の際に得られる廃液を100倍程度に濃縮した水溶性アロマを2〜10質量部、より好適には2.8〜3.2質量部添加することが好ましい。また、蒸発濃縮の際に得られる廃液を10000倍程度に濃縮した水溶性アロマを用いる場合は、例えば7倍濃縮果汁1000質量部に対して水溶性アロマを2〜10質量部、より好適には2.8〜3.2質量部添加することが好ましい。
上記の範囲を超えて水溶性アロマを添加すると香りが強すぎるため好ましくない。また添加量を上記の範囲未満とすると香りが弱すぎるため、やはり好ましくない。
なお、水溶性アロマを濃縮果汁に混合する方法は、どのような方法でも良いが、120kg/cm程度のホモジナイズをかけることが好ましい。
【0017】
果汁の香りは、例えば以下の方法により測定することができる。
すなわち、比較対象の果汁を10%(w/w)となるように水で希釈したものを、対照とする。次に、被検対象の果汁を、官能評価により対照と同程度の香りの強さとなるように水で希釈する。そして、香りの強さが対照と同程度となったときの希釈濃度を、対照の濃度(10%)と比較することにより、被検対照の果汁の香りの強さを測定する。
具体的には、香りの強さが対照と同程度となったときの希釈濃度が、対照の濃度(10%)のx分の1である場合は、被検対象の果汁の香りが比較対象の果汁よりもx倍強いと言うことができる。
【0018】
上記のようにして得られた水溶性アロマによる風味強化濃縮果汁を用いて果実飲料を製造する際の風味強化濃縮果汁の配合割合としては、ストレート果汁換算で果汁含量1〜15%、より好適には3〜10%(いずれもw/w)とすることが好ましい(7倍濃縮果汁換算では0.33〜2.1%、より好適には0.43〜1.4%(いずれもw/w)に相当)。なお、果実飲料の製造は通常採用される配合および方法で行えばよい。
このようにして製造した果実飲料は、少量のアロマ果汁を用いることで、劣化しにくく、十分な果実の香味を持ち、かつ、フレッシュな(さわやかな)香りが強いものとなる。
【0019】
果肉由来の香気成分としてエッセンスオイルを使用する場合の濃縮果汁に対する添加量は、混合後の風味強化濃縮果汁の香りが通常のストレート果汁の2〜20倍、より好適には3〜5倍となるような範囲とすることが好ましい。
ここで、果汁の香りは、例えば上述の方法により測定することができる。
【0020】
また濃縮果汁として、4〜7倍濃縮混濁果汁(パルプ質含量0.1〜4%(w/w))を用いる場合は、果汁100gに対してエッセンスオイルを0.1〜2ml、特に好ましくは0.3〜1.0ml程度添加することが好ましい。
なお、エッセンスオイルを上記の混濁濃縮果汁に混合する方法は、どのような方法でも良いが、ホモジナイズ(140Kg/cm程度)すると、エッセンスオイルが微細なオイル粒子となり(10〜0.01μm)、パルプ質等と乳化状態や吸着状態を作って安定化するため、特に好ましい。
【0021】
上記のようにして得られたエッセンスオイルによる風味強化混濁濃縮果汁を用いて果実飲料を製造する際の風味強化混濁濃縮果汁の配合割合としては、0.1〜1.5%、より好適には0.3〜0.8%(いずれもw/w)とすることが好ましい。なお、果実飲料の製造は通常採用される配合および方法で行えばよい。
このようにして製造した果実飲料は、少量のアロマ果汁を用いることで、劣化しにくく、十分な果実の香味を持ち、かつ、フレッシュな(さわやかな)香りが強いものとなる。
【0022】
また、果肉由来の香気成分としてエッセンスオイルを使用し、かつ、濃縮果汁として、4〜7倍濃縮セミクリアー果汁(パルプ質含量0.01〜0.1%(w/w))を用いる場合は、果汁100gに対してエッセンスオイルを0.05〜0.2ml程度添加することが好ましい。
なお、エッセンスオイルを上記のセミクリアー濃縮果汁に混合する方法は、どのような方法でも良いが、ホモジナイズ(140Kg/cm程度)すると、エッセンスオイルが微細なオイル粒子となり(10〜0.01μm)、蛋白質やペクチン質、わずかなパルプ質等と乳化状態や吸着状態を作って安定化するため、特に好ましい。
【0023】
上記のようにして得られたエッセンスオイルによる風味強化セミクリアー濃縮果汁を用いて果実飲料を製造する際の風味強化セミクリアー濃縮果汁の配合割合としては、0.1〜2%、より好適には0.7〜1.3%(いずれもw/w)とすることが好ましい。なお、果実飲料の製造は通常採用される配合および方法で行えばよい。
このようにして製造した果実飲料は、少量のアロマ果汁を用いることで、実質的に(すなわち、肉眼で見た限りは)クリアーで、劣化しにくく、十分な果実の香味を持ち、かつ、フレッシュな(さわやかな)香りが強いものとなる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0025】
実施例1(水溶性アロマを用いたレモンチューハイの製造)
レモン果汁を7倍に減圧蒸発濃縮する時に生じた蒸気を冷却して得られた香りを含んだ水を10000倍に濃縮して得られた濃縮水溶性アロマを、7倍濃縮レモンクリアー果汁に対して1%(w/w)添加し、よく攪拌した。すると、水溶性アロマはレモンクリアー果汁に溶解し、安定化した。これを風味強化レモン濃縮クリアー果汁とした。
この風味強化レモン濃縮クリアー果汁を1%、95%原料用アルコールを6.4%、55%果糖ブドウ糖液糖を4%(いずれもw/w)および水を混合して1Lとし、炭酸ガスを2.3vol加えたものを、350mL缶に充填し、65℃で15分間殺菌することにより、レモン果汁含量7%の果汁感の強い、天然素材だけの濁りの無いおいしいチューハイが得られた。
【0026】
実施例2(水溶性アロマを用いたレモンチューハイの官能評価試験)
実施例1で得られたレモンチューハイ(本発明品)および市販のレモンチューハイA,Bを、パネリスト7名で比較試飲したところ、6名が本発明品を最も好んだ。特に、「果汁感」および「自然な味わい」において、市販品と全く異なる、優れた香味があるとの評価を得た。
上記と同様のサンプルを37℃で1ヶ月間保存して強制劣化させた後、同様に評価したところ、7名中6名が、本発明品が最も劣化が少ないとして好んだ。本発明品は、レモンフレーバーはやや弱くなっていたが、市販品のようなレモン劣化臭は感じられなかった。
【0027】
実施例3(エッセンスオイルおよび混濁果汁を用いたレモンチューハイの製造)
レモン果汁を5倍に濃縮してレモン混濁濃縮果汁(パルプ質含量3%(w/w))を得た。レモン果汁を5倍に減圧蒸発濃縮する際に生じた蒸気を冷却して得られた香りを含んだ水の上部に浮いたオイル(エッセンスオイル)を回収して、上記の5倍濃縮果汁に0.4%(w/w)添加した。これを攪拌後、140kg/cmでホモジナイズして、オイル浮きの無い、安定化した風味強化レモン濃縮混濁果汁を得た。
この風味強化レモン濃縮混濁果汁を0.3%、上記の5倍濃縮レモン混濁果汁を0.4%、95%原料用アルコールを5.4%、55%果糖ブドウ糖液糖を4%(いずれもw/w)および水を混合して1Lとし、炭酸ガスを2.3vol加えたものを、350mL缶に充填し、65℃で15分間殺菌することにより、レモン果汁含量6%の果汁感の強い、pH2.8の天然素材だけのおいしいチューハイが得られた。
また、このレモン缶チューハイを37℃で1ヶ月間保存することにより強制劣化させたものについて、実施例2と同様に官能評価試験を行なったところ、同様の条件で強制劣化させた市販のレモン缶チューハイと比較して、レモンの香りの劣化は少なかった。
【0028】
実施例4(エッセンスオイルおよびセミクリアー果汁を用いたレモンチューハイの製造)
レモンセミクリアー果汁(7倍濃縮、パルプ質含量0.02%)に、レモンエッセンスオイル0.1%(w/w)を添加して、攪拌混合した後、140kg/cmでホモジナイズしてエッセンスオイルを乳化することにより、やや混濁した、風味強化レモン濃縮セミクリアー果汁を得た。
この風味強化レモン濃縮セミクリアー果汁を0.8%、95%原料用アルコールを7.4%、55%果糖ブドウ糖液糖を3%(いずれもw/w)および水を混合して1Lとし、炭酸ガスを2.3vol加えたものを、350mL缶に充填し、65℃で15分間殺菌することにより、レモン果汁含量6%の果汁感の強い、天然素材だけのおいしいチューハイが得られた。
【0029】
実施例5(風味強化レモン濃縮クリアー果汁の香りの強さの測定)
レモン果汁を7倍に減圧蒸発濃縮する時に生じた蒸気を冷却して得られた香りを含んだ水を20000倍に濃縮して得られた濃縮水溶性アロマを、7倍濃縮レモンクリアー果汁に対して0.5%(w/w)添加し、よく攪拌した。すると、水溶性アロマはレモンクリアー果汁に溶解し、安定化した。これを風味強化レモン濃縮クリアー果汁とした。
レモンストレート果汁を10%(w/w)となるように水で希釈したものを、対照とした。次に、上記の風味強化レモン濃縮クリアー果汁を、官能評価により対照と同程度の香りの強さとなるように水で希釈したところ、1%(w/w)に希釈したときに対照と同程度の香りの強さとなった。
従って、上記の風味強化レモン濃縮クリアー果汁は、ストレート果汁の10倍の強さの香りを持っていることが分かった。
また、濃縮水溶性アロマを1%(w/w)含有させたこと以外は上記と同様にして得た風味強化レモン濃縮クリアー果汁は、0.5%希釈で対照と同等の香りの強さとなったので、ストレート果汁の20倍の強さの香りがあることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造されたことを特徴とする果実飲料。
【請求項2】
果実の果肉に含まれる香気成分が、該果実の果汁を濃縮する際に得られる水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルである、請求項1に記載の果実飲料。
【請求項3】
水溶性アロマの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項1または2に記載の果実飲料。
【請求項4】
エッセンスオイルの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項1または2に記載の果実飲料。
【請求項5】
風味強化濃縮果汁が、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる製造方法にて製造される水溶性アロマ、および/または、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる製造方法にて製造されるエッセンスオイルを、
上記工程cで得られる濃縮果汁に添加し、混合することにより製造されるものである、請求項1〜4のいずれかに記載の果実飲料。
【請求項6】
果実がレモンである請求項1〜5のいずれかに記載の果実飲料。
【請求項7】
果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用して製造されたことを特徴とする果実風味アルコール飲料。
【請求項8】
果実の果肉に含まれる香気成分が、該果実の果汁を濃縮する際に得られる水溶性アロマおよび/またはエッセンスオイルである、請求項7に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項9】
水溶性アロマの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項7または8に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項10】
エッセンスオイルの添加量が、混合後の風味強化濃縮果汁の香りがストレート果汁の2〜20倍となるような量である、請求項7または8に記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項11】
風味強化濃縮果汁が、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液を濃縮し、水溶性アロマを得る工程、
からなる製造方法にて製造される水溶性アロマ、および/または、
a:果実の果皮と果肉を分離する工程、
b:果肉を圧搾して果汁を得る工程、
c:工程bで得られる果汁を蒸発濃縮して濃縮果汁を得る工程、および
d’:工程cで生じる蒸気を冷却して得られる廃液の上部に浮いているオイル分を回収して、エッセンスオイルを得る工程、
からなる製造方法にて製造されるエッセンスオイルを、
上記工程cで得られる濃縮果汁に添加し、混合することにより製造されるものである、請求項7〜10のいずれかに記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項12】
果実がレモンである請求項7〜11のいずれかに記載の果実風味アルコール飲料。
【請求項13】
果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用することを特徴とする果実飲料の製造方法。
【請求項14】
果実がレモンである請求項13に記載の果実飲料の製造方法。
【請求項15】
果実の果肉に含まれる香気成分を該果実の濃縮果汁に混合して得られる風味強化濃縮果汁を使用することを特徴とする果実風味アルコール飲料の製造方法。
【請求項16】
果実がレモンである請求項15に記載の果実風味アルコール飲料の製造方法。

【公開番号】特開2009−11246(P2009−11246A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−177187(P2007−177187)
【出願日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】