説明

架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物およびそれを用いた架橋電線・ケーブル

【課題】端末に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤を添加した場合にも、架橋度を向上させることができる架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物を提供すること。
【解決手段】エチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋された架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い架橋度を有する架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物、それを用いた架橋電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋内外の絶縁電線、電子機器類に使用される被覆材料やゴムモールド品等としては、電気的特性や機械的特性等の点からエチレン・プロピレン・ジエン共重合体が使用されている。そしてこのエチレン・プロピレン・ジエン共重合体には、無機充填剤が比較的多量に添加される。このため、電気的特性上からの問題点が指摘されている。例えば特許文献1に記載されるように、耐電圧特性を向上させるために充填剤として端末に二重結合を持つシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤で表面処理されたタルクや炭酸カルシウムを添加することによって、改善されるとしている。しかしながら、このような端末に二重結合を持つシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤で表面処理されたタルクや炭酸カルシウムを特に多量に添加した場合、有機過酸化物等による架橋に際して前記端末に二重結合を持つ前記カップリング剤の二重結合が有機過酸化物と反応して不活性化して、架橋度が上がらないために電気的特性を維持したまま機械的特性等が十分に向上しない問題があった。また電気絶縁性樹脂組成物として、引張強さが大きく且つ加熱による変形率の少ないエチレン・プロピレン・ジエン共重合体樹脂組成物が特許文献2に記載されている。すなわち、ヨウ素価が20以上のエチレン・プロピレン・ジエン共重合体に含金属モノマーを添加し、有機過酸化物によって架橋してなる絶縁性樹脂組成物である。このような絶縁性樹脂組成物は耐熱性等の点からは問題は無いが、架橋度に関する問題点の記載はなされておらずこの問題の解決が望まれていた。
【特許文献1】特開平8−45342号公報
【特許文献2】特公平7−81050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、端末に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤を添加した場合にも、架橋度を向上させることができる架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物を提供すること。また前記架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物を導体上に電気絶縁体として被覆することによって、体積抵抗率等の電気的特性や強度、伸び並びに硬度等の機械的特性に優れた架橋電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載されるように、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋された架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物とすることによって、解決される。
【0005】
また請求項2に記載されるように、前記架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物が、導体上に電気絶縁体として被覆されたことを特徴とする架橋電線・ケーブルとすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0006】
以上の本発明は、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(以下EPDM)100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として下記化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋された架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物(以下架橋EPDM組成物)としたので、有機過酸化物等による架橋に際して前記端末に二重結合を持つ表面処理剤の二重結合が、有機過酸化物と反応して不活性化して架橋度が上がらないという問題が無く、体積抵抗率等の電気的特性を維持したまま強度、伸びや硬度等の機械的特性等を向上させることができる。
【0007】
そして、また前記架橋EPDM組成物を導体上に電気絶縁体として被覆することによって、体積抵抗率等の電気的特性を維持したまま強度、伸びや硬度等の機械的特性等を向上した架橋電線・ケーブルを提供することができる。特に、電気機器類の電線・ケーブルとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。請求項1に記載される発明は、EPDM共重合体100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として下記化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋されたことを特徴とする架橋EPDM組成物である。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−[(C=0)−C(CH)=CH](ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)
【0009】
まず本発明で用いるEPDMについて説明する。このEPDMは、エチレン・プロピレンと1,4ヘキサジエン、ヘキサシクロジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等の非共役ジエン成分との三元共重合であって、比較的高ジエンのEPDMが好ましい。特に、ジエン成分の含有量が20質量%以上のEPDMが好ましい。これは、ジエン成分の含有量を20質量%以上のEPDMを用いることによって、EPDM組成物の硬度や破断強度を向上させることができるためである。また前記EPDMには、各種ポリエチレンやポリプロピレンを混合することができる。混合量は、EPDM100質量部に対して50質量部まで、好ましくは20質量部までである。このような混合物とすることによって、耐熱性が向上され好ましい。さらに、EPDMのムーニー粘度を40以下(100℃)のものを用いることによって、プロセスオイルを添加しなくても、得られたEPDM組成物の押出し成型性を良好にできるためである。なお、ムーニー粘度が50(100℃)より高くなると、押出しが困難になると共に架橋する場合にはスコーチが生じることがあるためである。以上のようなEPDMの具体例としては、三井化学社のEPT4021、DSM社のKELTAN2470B、デュポン・ダウエラストマー社のNordel1145、エクソンモービル社のVistalon2727等が挙げられる。
【0010】
以上のEPDMには、EPDM100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部添加される。前述したように、単に端末に二重結合を持つシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤で表面処理されたタルクや炭酸カルシウムを添加すると、有機過酸化物等による架橋に際して前記端末に二重結合を持つ表面処理剤の二重結合が有機過酸化物と反応して不活性化して架橋度が上がらないという問題があるため、電気的特性を維持したまま機械的特性等を向上させることができないので、本発明では後述する化学構造式(1)のジメタクリレートを1.0〜20質量部添加することによって、この問題を解決した。端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤を100〜200質量部添加することによって、架橋度の問題を考慮せずに強度、伸びや硬度等を目的とする特性に近づけることができるようになる。そしてこのような添加量としたのは、100質量部未満であると、硬度等が不十分であり、端部に二重結合を有する表面処理剤の被覆量も少なくなるので、架橋度に関して余り問題とならないためである。また200質量部を超えると、得られた架橋EPDM組成物が硬くなり過ぎたり伸びや曲げ特性等の機械的特性が損なわれるためである。そして前記の無機充填剤としては、タルク、焼成クレイ、二酸化ケイ素、亜鉛華等が挙げられる。具体的に挙げると、タルクとしては日本ミストロン社のミストロンベーパータルクが、焼成クレイとしてはバーゲス・ピグメント社のバーゲスKE、二酸化ケイ素として日本アエロジル社のR972等である。また前記端末に二重結合を持つ表面処理剤としては、ビニルトリメトキシシラン(信越化学社のKBM1003)やジビニルジメトキシシラン等が使用される。
【0011】
そして前記EPDMには、EPDM100質量部に対して架橋助剤として、化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加される。これは後述する有機過酸化物による架橋を、無機充填剤の表面処理剤として使用する二重結合を持つ表面処理剤の二重結合が有機過酸化物と反応して不活性化して架橋度が上がらないという問題をなくして、スムースに確実に架橋が行なえるようにするためであり、また、得られた架橋EPDM組成物の耐熱性をより向上させるためである。そして、その添加量を前述の範囲とするのは、添加量が1.0質量部未満では、架橋阻害性を制御することができず、また20質量部を超えて添加すると可塑化効果により硬度が低下して好ましくないためである。化学構造式(1)のジメタクリレートとしては、新中村化学社のNKエステル1G、NKエステル2G、NKエステル3Gや三新化学社のサンエステルEG等を挙げることができる。
【0012】
前記EPDMは、有機過酸化物からなる架橋剤によって架橋される。有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド(以下DCP)が最も使用されるが、1分半減期温度が160℃以上の有機過酸化物が好ましい。これらの有機過酸化物を用いることによって、架橋に際しての早期架橋と称されるスコーチを防止でき、また架橋を十分に行なうことができる。得られた架橋EPDM組成物は、特に耐熱性に優れた架橋EPDM組成物となる。なお、1分半減期温度が160℃以上の有機過酸化物としては、例えば、1,3−ビス(ターシャリイブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ターシャリーブチル)ヘキシン−3等が挙げられる。また架橋剤の添加量は、通常EPDM100質量部に対して0.5〜5.0質量部程度とされる。
【0013】
以上のような組成の架橋EPDM組成物を得るためには、前述した各成分をバンバリーミキサー、加圧ニーダー、二軸押出機、ブスコニーダー、ヘンシェルミキサー、ロールニーダー等を用いて溶融混練して得ることができる。特に二軸押出機は、大きなせん断力が得られるので好ましい。なお、有機過酸化物は前記各成分が溶融混練された状態の中に、液状の有機過酸化物を添加しても良い。このようにして得られた架橋EPDM組成物は、射出成型、押出し成型、回転成型、圧縮成型等によって各種の成型品とすることができる。また前述のEPDM組成物中には、必要に応じて難燃剤、着色剤、紫外線吸収剤、安定剤、イオウ系やフェノール系の老化防止剤等が添加される。
【0014】
そして前述した架橋EPDM組成物は、請求項2に記載されるように、導体上に押出し被覆することによって架橋電線・ケーブルとすることができる。この架橋電線・ケーブルは架橋度を高くすることができるので、電気的特性を維持しながら機械的特性等を向上させることができる。すなわち、端末に二重結合を持つシランカップリング剤で表面処理された無機充填剤を添加しても、有機過酸化物による架橋に際して前記表面処理剤の二重結合が有機過酸化物と反応して不活性化して架橋度が上がらないという問題が生じないので、高い架橋度のものが得られ、体積抵抗率等の電気的特性を維持したまま強度、伸びや硬度等の機械的特性等を向上させることができる。具体的には、架橋度の目安とした硬度がショアA(瞬間値)で65以上で、破断強度が6.5MPa以上、破断伸びが200%以上、また電気的特性としては、50℃の温水中に168時間浸漬後の体積抵抗率が1×1015Ω・cm以上の架橋電線・ケーブルである。このような架橋電線・ケーブルは、屋内外用、自動車用、電子機器類等の架橋絶縁電線として有用である。例えば、外径が4〜6mm程度の導体上に、押出し被覆によって厚さ0.5〜2mm程度の絶縁体層として施され、有機過酸化物によって架橋することによって得られる。また薄肉絶縁体として押出し被覆しても前述の特性を有する架橋電線・ケーブルが得られる。
【実施例】
【0015】
表1に記載する実施例並びに比較例によって、本発明の効果を示す。表1に示す各種EPDM組成物をシート状に成型した後、有機過酸化物によって架橋(160℃で40分)し、厚さ2.0mmの試料とした。すなわち、EPDMとして三井化学社のEPT4021からなるベース樹脂100質量部に対して、架橋助剤(新中村化学社のジメタクリレートであるNKエステル3G)およびタルク(日本ミストロン社のミストロンベーパータルク)の添加量を種々変化させ、また亜鉛華(堺化学社製)4質量部、老化防止剤(旭電化社のノクラックMB)0.5質量部、並びに架橋剤としてDCPを3質量部配合して架橋したものである。
【0016】
前記試料について、JIS K6251に準拠して破断強度(MPa)および破断伸び(%)を測定した。破断強度は6.5MPa以上、破断伸びは200%以上を合格として○印で記載した。また架橋度の目安として、ショアA硬度(瞬間値として)をJIS K6253に準拠して測定し、65以上を合格として○印で記載した。さらに電気的特性として体積抵抗率をJIS K6271に準拠して測定した。50℃の温水に168時間浸漬した後の値が、1×1015Ω・cm以上を合格として○印で記載した。結果を表1に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
表1から明らかなとおり、EPDM100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋された架橋EPDM組成物は、破断強度、破断伸びさらに架橋度の目安とした硬度、また体積抵抗率も1×1015Ω・cm以上と全てに満足する優れたものである。詳細に説明する。実施例1および2に記載されるように、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理されたタルクを100〜200質量部配合したEPDMに、ジメタクリレートを1質量部添加することによって、破断強度、破断伸びさらに架橋度の目安とした硬度が目標値以上であり、また体積抵抗率も1×1015Ω・cm以上と優れたものである。さらに、実施例5および6に記載されるように、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理されたタルクを100〜200質量部配合したEPDMに、ジメタクリレートを20質量部添加することによって、破断強度、破断伸びさらに架橋度の目安とした硬度が目標値以上であり、また体積抵抗率も1×1015Ω・cm以上と優れたものである。また実施例3および4に記載されるように、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理されたタルクを100〜200質量部配合したEPDMに、ジメタクリレートを5質量部添加したものも、破断強度、破断伸びさらに架橋度の目安とした硬度が目標値以上であり、また体積抵抗率も1×1015Ω・cm以上と優れたものである。
【0019】
これに対して、比較例1〜7に記載される本発明の組成範囲から外れる架橋EPDM組成物は、破断強度、破断伸び、硬度並びに体積抵抗率のいずれかが不合格となった。すなわち、比較例1および2のように、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理されたタルクを100〜200質量部配合したEPDMに、ジメタクリレートを全く添加しない場合は架橋度の目安とした硬度(ショアA瞬間値)が低く不合格となった。また比較例7ように、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理されたタルクを100質量部添加したEPDMに、ジメタクリレートを25質量部添加した場合は、硬度(ショアA瞬間値)が(低くなり過ぎて)不合格となった。また比較例3および4のように、表面処理を行なわないタルクを100〜200質量部添加したEPDMに、ジメタクリレートを添加しない場合には体積抵抗率が1×1015Ω・cm未満となって電気的特性が問題となる。さらに比較例5および6のように、表面処理を行なわないタルクを100〜200質量部添加したEPDMに、ジメタクリレートを5質量部添加した場合には、体積抵抗率が1×1015Ω・cm未満となって電気的特性が問題となる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
以上の本発明によれば、電気的特性と機械的特性に優れた架橋電線・ケーブルが得られるので、特に自動車用の絶縁電線や電子機器等の電線・ケーブルとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・プロピレン・ジエン共重合体100質量部に対して、端部に二重結合を有する表面処理剤によって処理された無機充填剤が100〜200質量部、架橋助剤として下記化学構造式(1)のジメタクリレートが1.0〜20質量部添加され、有機過酸化物によって架橋されたことを特徴とする架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物。
CH=C(CH)−COO−(CHCHO)−[(C=0)−C(CH)=CH](ただし、n=1〜30)・・・・・化学構造式(1)
【請求項2】
前記架橋エチレン・プロピレン・ジエン共重合体組成物が、導体上に電気絶縁体として被覆されたことを特徴とする架橋電線・ケーブル。

【公開番号】特開2007−99957(P2007−99957A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293269(P2005−293269)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】