説明

柔軟リブレット、柔軟リブレットの製造方法および柔軟リブレットを備えた物体の製造方法

【課題】静電植毛技術を用いた柔軟リブレットの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
リブレットのパターン模様が施されたマスキングシート1を静電植毛可能な材質からなるシート上に載せ、その上から接着剤を塗布した後、マスキングシートを取り除くことにより前記シート上に、前記接着剤による所望のリブレットのパターン模様を形成し、当該パターン模様上に静電植毛技術によりパイル(毛)を植毛し、リブレットを形成することからなる柔軟リブレットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟リブレット、柔軟リブレットの製造方法および柔軟リブレットを備えた物体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、「乱流摩擦抵抗低減表面」として、流れ方向にジグザグまたは曲線状に配列されたリブレット、すなわち溝と突起からなる微細構造で構成された表面とすることで、従来の真っ直ぐなリブレットよりも大きな流動抵抗低減(以下、「DR(ドラッグリダクション)」という。)効果を得る技術を提案されている。
【0003】
また、特許文献2において、複数の物質を凹凸状に積層させることでリブレットを構成するというリブレットの製造方法が提案されている。
一方、特許文献3では、「流動摩擦抵抗を逓減させる方法」として、物体表面に微細毛状突起体を一様に植毛することにより人工毛皮面を製作することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−266816号公報
【特許文献2】特開平07−40151号公報
【特許文献3】特開平05−147572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されたリブレットは、従来のリブレットと同様に、機械加工により製造されており、製造コストが高く、製造時間が長くなるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2に示された製造方法では、製造コストが高く、様々な壁面への適用が難しいという問題がある。
【0007】
さらに、特許文献3に示された人工皮面では、人工皮面を一様に形成しており、微細な溝とリブを有する表面を想定していないため、DR効果を得ようとしているものの十分な効果が得られるものではない。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、静電植毛技術を用いることにより、柔軟リブレットを低コスト、短時間で製造することが可能な柔軟リブレット、その製造方法および柔軟リブレットを備えた物体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、静電植毛用材質からなるシート(2)と、シートの表面に、溝と突起からなる微細構造にて構成されるリブレットのパターン模様として形成された接着剤(3)と、前記パターン模様とされた接着剤に対して静電植毛技術により植毛されたパイルと、を備え、パイルによってリブレットが構成されていることを特徴としている。
【0010】
このように、シートに対してパイル(毛)を植毛することでリブレットを構成すれば、静電植毛技術によりパイルを植毛できるため、低コストかつ短時間で製造できる柔軟リブレットとすることができる。
【0011】
請求項2に記載の発明では、流体と接する物体のうち流体と接する面に対して請求項1に記載の柔軟リブレットが貼り付けられていることを特徴としている。
このように、流体と接する面を有する物体のうち流体と接する面に対して柔軟リブレットを備えることにより、低コストかつ短時間でできるリブレットとしつつ、従来のリブレットと同様のDR効果を得ることが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、溝と突起からなる微細構造にて構成されるリブレットのパターン模様が施されたマスキングシート(1)を静電植毛用材質からなるシート(2)上に載せ、その上から接着剤(3)を塗布した後、マスキングシートを取り除くことによりシート上に、接着剤による所望のリブレットのパターン模様を形成した接着剤付きシート(4)を作成し、当該パターン模様上に静電植毛技術によりパイルを植毛し、リブレットを形成することを特徴としている。
【0013】
このように、静電植毛技術を用いることで、リブレットを、低コスト、短時間で製造することが可能となる。また、本リブレットは柔軟さも併せ持つため、従来のリブレットよりも高いDR効果が期待される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の方法によって柔軟リブレットを形成する工程を行った後、さらに、流体と接する物体のうち流体と接する面に対して、リブレットが形成されたシートを貼り付ける工程を行うことにより、柔軟リブレットを備えた物体を製造することを特徴としている。
【0015】
このように、流体と接する面を有する物体のうち流体と接する面に対して柔軟リブレットを備えることにより、低コストかつ短時間でできるリブレットとしつつ、従来のリブレットと同様のDR効果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態において、マスキングシートを用いて接着剤をポリエチレンテレフタレート(以下「PET」という。)製シートに塗布する方法を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態において、植毛したい部分のみに接着剤が塗布されたPET製シートを示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態において、静電植毛によりパイル(毛)をPET製シートに植毛する様子を示した図である。
【図4】本発明の第1実施形態において、製作された柔軟リブレットの形状の一例を示す図である。
【図5】本発明の第1実施形態の製造工程のフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。図1〜図3は、本実施形態にかかる柔軟リブレットの製造工程の様子を示した図である。図4は、本実施形態の製造方法によって製作された柔軟リブレットの形状の一例を示す図である。また、図5は、本実施形態の製造工程のフローチャートである。以下、これらの図を参照して、本実施形態の柔軟リブレットの製造方法を説明する。
【0018】
まず、工程A(図5参照)では、金属、樹脂等の薄板を加工し、リブレットのパターンが施されたマスキングシート1を製作する。薄板の厚み、サイズ、材質は限定されない。また、パターン模様は、流れ方向に真っ直ぐなものだけでなく、流れ方向にジグザグに変化させたものや、溝のピッチ、幅を様々に変化させたものも可能である。また、幅が異なる2種類以上の溝を、ピッチを変えて様々に組み合わせることも可能である。例えば、アルミ製薄膜を用意し、リブレットのパターンが施されたマスクを用いてアルミ製薄膜をエッチングにてパターニングすることで、マスキングシート1を製作することができる。
【0019】
次に、工程B(図5参照)として、PET(ポリエチレンテレフタレート)製シート2上に工程Aで製作したマスキングシート1を載せ(図1)、その上から接着剤3を塗布する。
その後、工程C(図5参照)として、マスキングシート1をシート2から剥がす。これにより、マスキングシート1のパターンに合わせてリブレットを植毛したい部分のみに接着剤3が塗布されたPET製シート4ができ上がる(図2)。
【0020】
続いて、工程D(図5参照)として、図3に示すように、工程Cで製作したPET製シート4に、静電植毛技術を用いて、接着剤が塗布されたPET製シートにパイル(毛)を静電植毛する。パイル(毛)の長さ、太さ、材質を様々に変化させることにより、形状および物性が異なる柔軟リブレットを製作することができる。さらに、シート全体に一様に塗布するだけでなく、溝ごとに植毛するパイル(毛)の種類をえることにより、例えば、リブの高さが高いものと低いものを組み合わせた複合柔軟リブレットを製作することも可能である。例えば、マイナス側の電極板表面に接着剤3を塗布したシート2を貼り合わせ、それに対抗させてプラス側の電極板を配置する。そして、所望の電圧を印加した状態でパイルを吹き付けると、シート2に形成した接着剤2の表面にパイルが接着されることで植毛される。これにより、柔軟リブレットを有するPET製シートが完成する(図4)。
【0021】
なお、マスキングシートの模様を変化させることにより、図4に示すリブレットのピッチs、幅t、およびパターンを変化させることができる。また、植毛する毛の長さを変化させることにより、図4に示すリブレットの高さhを変化させることができる。さらに、毛の柔軟さを変化させることにより、リブレットの性状を変化させることができる。
【0022】
(第2実施形態)
柔軟リブレットを有するPET製シートを、化学工場やプラント等の工業用配管の内面に貼り付けることにより、貼り付けない場合よりも流動抵抗が低減し、流体輸送に伴うポンプの動力コストを削減できる。
【0023】
(第3実施形態)
柔軟リブレットを有するPET製シートを、船舶の船底や航空機等に貼り付けることにより、貼り付けない場合よりも流動抵抗が低減し、燃料消費を削減できる。
【0024】
(他の実施形態)
上記実施形態では、柔軟リブレットを工業用配管や船舶もしくは航空機における流体と接する面に貼り付ける場合について説明したが、これらは単なる一例を示したに過ぎず、流体と接する物体における流体と接する面に貼り付けることで、様々な物体における流動抵抗低減を図ることが可能となる。
【符号の説明】
【0025】
1 マスキングシート
2 PET製シート
3 接着剤
4 接着剤付きPET製シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電植毛用材質からなるシート(2)と、
前記シートの表面に、溝と突起からなる微細構造にて構成されるリブレットのパターン模様として形成された接着剤(3)と、
前記パターン模様とされた前記接着剤に対して静電植毛技術により植毛されたパイルと、を備え、
前記パイルによって前記リブレットが構成されていることを特徴とする柔軟リブレット。
【請求項2】
流体と接する物体のうち前記流体と接する面に対して請求項1に記載の柔軟リブレットが貼り付けられていることを特徴とする柔軟リブレットを備えた物体。
【請求項3】
溝と突起からなる微細構造にて構成されるリブレットのパターン模様が施されたマスキングシート(1)を静電植毛用材質からなるシート(2)上に載せ、その上から接着剤(3)を塗布した後、マスキングシートを取り除くことにより前記シート上に、前記接着剤による所望のリブレットのパターン模様を形成した接着剤付きシート(4)を作成し、当該パターン模様上に静電植毛技術によりパイルを植毛し、前記リブレットを形成することを特徴とする柔軟リブレットの製造方法。
【請求項4】
溝と突起からなる微細構造にて構成されるリブレットのパターン模様が施されたマスキングシート(1)を静電植毛用材質からなるシート(2)上に載せ、その上から接着剤(3)を塗布した後、マスキングシートを取り除くことにより前記シート上に、前記接着剤による所望のリブレットのパターン模様を形成した接着剤付きシート(4)を作成し、当該パターン模様上に静電植毛技術によりパイルを植毛し、前記リブレットを形成する工程と、
流体と接する物体のうち前記流体と接する面に対して、前記リブレットが形成された前記シートを貼り付ける工程と、を含む柔軟リブレットを備えた物体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−214682(P2010−214682A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62376(P2009−62376)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】