説明

柔軟性ポリエステルフィルム

【課題】薬剤吸着が少なく皮膚追従性がある柔軟性のフィルムを提供する。
【解決手段】(A)ジカルボン酸成分、(B)グリコール成分、(C)ε−カプロラクトン成分を主成分とする共重合ポリエステルにおいて、[(A)成分+(B)成分]/(C)成分が50/50〜85/15(質量比)、(A)成分に対する芳香族カルボン酸の割合が80モル%以上、(B)成分に対する炭素数が4以下のグリコールの割合が90モル%以上、数平均分子量が10000以上、ガラス転移温度が40℃以下の共重合ポリエステルからなる柔軟性ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用貼付剤の支持体に使用できる薬剤吸着が少なく柔軟性が高いポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、絆創膏、粘着性包帯などの医療用貼付剤の支持体には、二軸配向ポリエチレンフィルム、ポリエステルフィルムが使用されてきた。これらのフィルムは薬剤をほとんど吸着せず、薬剤を効率的に皮膚に吸着させることができる利点がある一方、柔軟性に劣り、また、皮膚に対する追従性がなく、違和感を覚えるなどの問題があった。
【0003】
皮膚追従性と柔軟性を兼備する素材の代表としては、軟質塩化ビニルフィルムが挙げられる。しかしながら、軟質塩化ビニルフィルムには、一般に可塑剤が含まれているため、可塑剤が経時的にブリードアウトして粘着剤層に混入するという問題があった。
【0004】
特許文献1、2、3では、ポリエステルエラストマーのフィルムを使用することが開示されている。しかしながら、薬剤吸着性が高く、医療用貼付剤の支持体としては不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−126155号公報
【特許文献2】特開平10−258119号公報
【特許文献3】特開2005−245666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前記問題点を解決し、薬剤吸着が少なく、皮膚追従性を有する柔軟性のフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の共重合ポリエステルをフィルムとすることにより、本発明に到達した。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。すなわち、
(1)(A)ジカルボン酸成分、(B)グリコール成分、(C)ε−カプロラクトン成分を主成分とする共重合ポリエステルにおいて、[(A)成分+(B)成分]/(C)成分が50/50〜85/15(質量比)、(A)成分に対する芳香族カルボン酸の割合が80モル%以上、(B)成分に対する炭素数が4以下のグリコールの割合が90モル%以上、数平均分子量が10000以上、ガラス転移温度が40℃以下の共重合ポリエステルからなる柔軟性ポリエステルフィルム。
(2)マルテンス硬さが1.5N/mm以下である該柔軟性ポリエステルフィルム。
(3)医療用貼付剤の支持体として用いられる該柔軟性ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、薬剤吸着が少ない柔軟性のフィルムを提供することができる。このフィルムは医療用貼付剤などに好適に使用することができ、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明のフィルムを構成する共重合ポリエステルについて説明する。
【0011】
共重合ポリエステルの数平均分子量は、10000以上であることが必要であり、15000以上であることが好ましい。分子量が10000未満であると、溶融粘度が低くなりすぎるために、製膜時に均一な層を形成できなくなったり、フィルムが破れたり、ローラーからフィルムが剥がれにくくなる問題を生じるので好ましくない。
【0012】
共重合ポリエステルのガラス転移温度(以下、Tgと略称する。)は、40℃以下であることが必要であり、30℃以下が好ましい。Tgが40℃を超えると、柔軟性が低くなるので好ましくない。
【0013】
共重合ポリエステルの融点(以下、Tmと略称する。)は、225℃以下であることが好ましく、175℃以下であることがより好ましい。Tmが225℃を超えると、柔軟性が低くなるので好ましくない。
【0014】
共重合ポリエステルの数平均分子量は、重合時間や解重合量を制御することにより、また、TmやTgは、共重合するモノマーの組み合わせを適宜選択することにより、それぞれ上記範囲に調整することができる。
【0015】
共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分およびε−カプロラクトン成分から構成される。
【0016】
全ジカルボン酸成分に対する芳香族カルボン酸の共重合量は、80モル%以上であることが必要で、90モル%以上が好ましい。共重合量が80モル%未満では、薬剤吸着率が高くなるので好ましくない。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4′−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。これらは、無水物であってもよい。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸は汎用性があり好ましい。
【0017】
本発明においては、全ジカルボン酸成分に対して10モル%を超えない範囲で、他のジカルボン酸を共重合してもよい。他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、オクタデカン二酸、アイコサン二酸、水添ダイマー酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらは、無水物であってもよい。
【0018】
全グリコール成分に対する炭素数が4以下のグリコールの共重合量は90モル%以上が必要であり、95モル%以上が好ましい。共重合量が90モル%未満では、薬剤吸着率が高くなるので好ましくない。グリコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。中でも、エチレングリコールは薬剤吸着率が低くなるので好ましい。
【0019】
本発明においては、全グリコール成分に対して10モル%を超えない範囲で、他のグリコールを共重合してもよい。他のグリコール成分としては、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチ−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ダイマージオール、水添ダイマージオール等の脂肪族グリコール、4,4‘−(プロパン−2,2−ジイル)ジフェノール(ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ジフェノール(ビスフェノールP−AP)、4、4’−ビフェノール、ビスフェノールフルオレンのエチレンオキサイド付加体またはプロピレンオキサイド付加体、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3(4)、8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ(5.2.1.1/2.6)デカン、スピログリコール、ジオキサングリコール等の脂環族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンジオール、ポリカーボネートジオール等が挙げられる。
【0020】
本発明の共重合ポリエステルおいては、フィルムに柔軟性を付与し、適度な薬剤吸着率にする目的で、共重合成分としてε−カプロラクトンを用いる。ジカルボン酸成分およびグリコール成分の合計の共重合量とε−カプロラクトンの共重合量の質量比率は、50/50〜85/15の範囲とすることが必要であり、55/45〜80/20の範囲とすることが好ましい。ジカルボン酸成分およびグリコール成分の合計の共重合量が、ε−カプロラクトンとの合計量100質量%に対して50質量%未満であると薬剤吸着率が高くなり、85質量%を超えるとフィルムが硬くなるので好ましくない。
【0021】
共重合ポリエステルには、柔軟性の調節、Tgの調整などの目的に応じて、全ジカルボン酸成分に対して10モル%を超えない範囲で、他のヒドロキシカルボン酸を共重合してもよい。このようなヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体、m−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体、o−ヒドロキシ安息香酸のエチレンオキシド付加体、乳酸、オキシラン、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0022】
共重合ポリエステルには、少量であれば、3官能以上のカルボン酸やアルコールを共重合成分として添加してもよい。3官能以上のカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水べンゾフェノンテトラカルボン酸、トリメシン酸等の芳香族カルボン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸等の脂肪族カルボン酸が挙げられる。
【0023】
3官能以上のアルコールとしては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、α−メチルグルコース、マニトール、ソルビトールが挙げられる。
【0024】
これらは必ずしも1種類で用いる必要はなく、樹脂に対し付与したい特性に応じて複数種混合して用いることができる。このとき、3官能以上のモノマーの割合としては、全ジカルボン酸または全アルコールに対して0.2〜2モル%程度が適当である。0.2モル%未満の場合、添加した効果が発現せず、2モル%を超える場合には、重合の際、ゲル化点を超えゲル化が問題になる場合がある。
【0025】
共重合ポリエステルには、全ジカルボン酸成分に対して1モル%を超えない範囲で、モノカルボン酸が共重合されていてもよく、また、全グリコール成分に対して1モル%を超えない範囲で、モノアルコールが共重合されていてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸等、モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノール等が挙げられる。
【0026】
共重合ポリエステルは、前記のモノマーを組み合わせて、公知の方法で製造することができる。
【0027】
共重合ポリエステルを製造する方法としては特に限定されない。例えば、ε−カプロラクトンまたは/およびポリカプロラクトンをジカルボン酸やグリコールと同時に投入し、不活性雰囲気下で180〜250℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化をおこない、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で所望の分子量に達するまで重縮合反応を進める方法や、ジカルボン酸とグリコールを投入し、不活性雰囲気下で180〜250℃、2.5〜10時間程度反応させてエステル化をおこない、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で所望の分子量まで重縮合反応を進め、続いて、ε−カプロラクトンを投入し、220〜280℃で開環重合をおこない、最後に、130Pa以下の減圧下に220〜280℃の温度で未反応モノマーを留去させる方法などが挙げられる。
【0028】
エステル化反応、重縮合反応、開環重合反応の際には、必要に応じて、触媒を使用する。例えば、二酸化ゲルマニウムなどのゲルマニウム化合物、テトラブチルチタネ−トなどのチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウムなどの金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機錫化合物が挙げられる。触媒の使用量は、生成する樹脂に対して0.5質量%以下とすることが好ましい。
【0029】
共重合ポリエステルには、フィルムの捲き取り時の皺防止のために、無機化合物を含有させてもよい。その含有量は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましい。無機化合物の含有量が3質量%を超えると、得られるフィルムの物性が低下することがある。
【0030】
無機化合物としては、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、マイカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、ゼオライト、クレー、ガラスビーズなどが例示される。中でもタルク、シリカ、炭酸カルシウムは汎用性があり好ましい。
【0031】
無機化合物を添加する方法としては、共重合ポリエステルの重合時に添加する方法、または、共重合ポリエステルに無機化合物を溶融混練する方法が挙げられる。無機化合物を重合時に添加する方法が、無機化合物がポリマー中に分散しやすいので好ましい。
【0032】
また、共重合ポリエステルには、用途に応じて、紫外線防止剤、光安定剤、防曇剤、防霧剤、帯電防止剤、難燃剤、着色防止剤、酸化防止剤、充填材、顔料などの添加剤を含有してもよい。
【0033】
次に、本発明の共重合ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。共重合ポリエステルフィルムは、上記の共重合ポリエステルを用いて、インフレーション法、押出フィルム法、押出ラミネート法など公知の製膜方法で製造することができる。
【0034】
インフレーション法としては、乾燥した共重合ポリエステルを押出機に投入し、溶融樹脂を円形ダイスからチューブ状に引き上げ、空冷しながら同時に風船状に膨らまして製膜し、折り畳み、必要に応じて熱融着して、それを捲き取る方法や、溶融樹脂を円形ダイスよりチューブ状に冷却水の中を下方へ押出した後、折り畳み、必要に応じて熱融着して、それを捲き取る方法が挙げられる。
【0035】
押出フィルム法としては、乾燥した共重合ポリエステルを押出機に投入し、溶融樹脂をTダイから押し出し、捲き取る方法などが挙げられる。
【0036】
インフレーション法および押出フィルム法において、Tgが低い樹脂を使用する場合、フィルムを捲き取る際に、フィルム間に離型紙を挟んでおくと、捲き取ったあとのブロッキングを防ぐことができる。
【0037】
押出ラミネート法としては、乾燥した共重合ポリエステルを押出機に投入し、溶融樹脂をTダイから支持フィルムに押し出す方法などが挙げられる。
【0038】
インフレーション法および押出フィルム法において使用する離型紙や押出ラミネート法に使用する支持フィルムは、樹脂と剥離するフィルムであれば任意に選択することができる。ただし、押出ラミネートに使用する支持フィルムは、溶融する温度よりも、Tmが高いフィルムを選択することが必要である。これらのフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、表面を離型処理した紙などが挙げられる。中でも、ポリプロピレンフィルムが安価でTmが高いので好ましい。
【0039】
いずれの製膜方法においても、押出機のスクリュー径は適宜選択され、ポリマー溶融温度は、Tm+100℃以下の温度範囲で適宜選択される。また、樹脂の吐出量は、冷却速度と吐出量のバランスで適宜選択される。
【0040】
本発明のポリエステルフィルムは、延伸されたフィルムであってもよい。延伸をおこなう場合、温度としては(Tg−10)〜(Tg+70)℃が好ましく、延伸倍率としては縦方向、横方向にそれぞれ1.1〜5.0倍が好ましい。延伸することによって、フィルムの強伸度、弾性率、寸法安定性などが向上することがある。延伸方法は、縦方向と横方向を同時に延伸する同時延伸、縦方向と横方向を別々に延伸する逐次延伸はいずれでもよく、任意に選択することができる。
【0041】
延伸に引き続き、前記延伸したフィルムを、Tmを超えない温度で1〜60秒間、熱固定してもよい。熱固定することによって、フィルムの寸法安定性を向上させることができる。熱固定温度がTmを超えると、フィルムが溶融するので好ましくない。熱固定時間が1秒未満であるとほとんど熱固定する効果が発現せず、60秒を超えると、生産性が悪くなるので好ましくない。
【0042】
本発明のポリエステルフィルムのマルテンス硬さは、1.5N/mm以下であることが好ましく、1.2N/mm以下であることがより好ましい。マルテンス硬さが1.5N/mmを超えるとフィルムが硬くなり、医療用貼付剤の支持体としての使用が難しくなる。
【0043】
本発明のポリエステルフィルムの薬剤吸着率は、後述する測定方法による値が70質量%以下であることが好ましい。70質量%を超えると、貼付剤の支持体と使用した場合、薬剤がフィルムに吸着し、薬剤を効率的に皮膚に浸透させることができないので好ましくない。
【0044】
本発明のポリエステルフィルムの厚さは、その用途等に応じて適宜決定すればよく、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましい。製造時に延伸処理していない場合、厚さは30〜200μmがより好ましく、延伸処理した場合、厚さは12〜100μmがより好ましい。フィルムの厚さが200μmを超えると、均整度が悪くなり、捲き姿が悪くなったり、皺が発生したりするなど、商品価値を損ねる場合がある。
【0045】
ポリエステルフィルムには、必要に応じて、コロナ放電処理、表面硬化処理、メッキ処理、着色処理、あるいは各種のコーティング処理による表面処理を施してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、ポリエステル樹脂の物性値測定は以下の方法によりおこなった。
【0047】
(1)ポリエステルの数平均分子量
数平均分子量は、GPC分析(島津製作所製の送液ユニットLC−10ADvp型および紫外−可視分光光度計SPD−6AV型を使用、検出波長:254nm、溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、ポリメタクリル酸メチル換算)により求めた。
【0048】
(2)共重合ポリエステルのTm、Tg
共重合ポリエステル10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製 DSC7型)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定をおこない、1stスキャンにおいての吸熱ピークの頂点温度をTmとし、2ndスキャンの昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をTgとした。
【0049】
(3)ポリエステルの組成
トリフルオロ酢酸(TFA−d)溶媒を用いて、H−NMR分析(日本電子社製、500MHz)により求めた。
【0050】
(4)フィルムの厚さ
フィルムの巾方向に、HEIDENHAIN製MT12Bを用いて、30箇所、10mm間隔で測定をおこない、平均値をフィルムの厚さとした。
【0051】
(5)フィルムのマルテンス硬さ
フィルムの硬さは、ISO14577−1 AnnexAにしたがい、島津製作所製微小硬度計DUH−211を用いて、試験力0.2mN、負荷速度10秒、負荷保持時間2秒に設定して負荷―徐荷試験をおこない、マルテンス硬さを測定した。
【0052】
(6)フィルムの薬剤吸着率
内容量が450mLのガラス製容器に、秤量したフィルム(厚み50μm、面積20.5cm)と薬剤1mL (L−メントールとサリチル酸メチル(1:2質量比))が接触しないように配置して密閉し、40℃の恒温装置で7日間静置したあと、以下の式で薬剤吸着率を求めた。
{(静置後の質量−静置前の質量)/静置前の質量}×100
【0053】
[共重合ポリエステルAの製造]
テレフタル酸1627kg、エチレングリコール821kg、ポリカプロラクトン(ダイセル社製プラクセル240)820kg、シリカ2.7kgからなる混合物(テレフタル酸:エチレングリコール=100:135(モル比))を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、270℃に昇温し、触媒として三酸化アンチモン0.3kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこない、樹脂をシート状に払い出した。シートを80℃で2時間ほど結晶化させた後、ダイスカッターを用いて3mm立方の角状の共重合ポリエステルAのペレットを得た。仕込組成から計算される共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸成分48質量部%、エチレングリコール成分22質量%、ε−カプロラクトン成分30質量%である。
【0054】
[共重合ポリエステルBの製造]
テレフタル酸1494kg、アジピン酸169kg、エチレングリコール780kg、ヘキサンジオール94kg、シリカ2.3kgからなる混合物(テレフタル酸:アジピン酸:エチレングリコール:ヘキサンジオール=91:9:127:8(モル比))を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、240℃のまま、オートクレーブにポリカプロラクトン(ダイセル社製プラクセル240)440kg、触媒としてテトラブチルチタネートモノマー2.0kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこない、樹脂をシート状に払い出した。シートを80℃で2時間ほど結晶化させた後、ダイスカッターを用いて3mm立方の角状の共重合ポリエステルBのペレットを得た。仕込組成から計算される共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸成分49質量%、アジピン酸成分6質量%、エチレングリコール成分23質量%、ヘキサンジオール成分2質量%、ε−カプロラクトン成分20質量%である。
【0055】
[共重合ポリエステルCの製造]
テレフタル酸832kg、イソフタル酸399kg、ブタンジオール1217kg、ε−カプロラクトン297kgからなる混合物(テレフタル酸:イソフタル酸:ブタンジオール=68:32:135(モル比))を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、240℃のまま、触媒としてテトラブチルチタネートモノマー2.0kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこない、樹脂をシート状に払い出した。シートを80℃で2時間ほど結晶化させた後、ダイスカッターを用いて3mm立方の角状の共重合ポリエステルCのペレットを得た。仕込組成から計算される共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸成分34質量%、イソフタル酸成分17質量%、ブタンジオール成分34質量%、ε−カプロラクトン成分15質量%である。
【0056】
[共重合ポリエステルDの製造]
テレフタル酸565kg、イソフタル酸50kg、エチレングリコール310kgからなる混合物(テレフタル酸:イソフタル酸:エチレングリコール=92:8:135(モル比))を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、270℃に昇温し、触媒として三酸化アンチモン0.3kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこなった。続いて、系の温度を255℃まで下げ、オートクレーブにε−カプロラクトン714kgを添加し開環重合を1時間おこない、続いて、圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、モノマー脱気および重縮合反応をおこなった。その後、樹脂をストランド状に払い出し、ストランドカッターを用いてペレット状の共重合ポリエステルDのペレットを得た。仕込組成から計算される共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸成分31質量%、イソフタル酸成分3質量%、エチレングリコール成分16質量%、ε−カプロラクトン成分50質量%である。
【0057】
[共重合ポリエステルEの製造]
テレフタル酸665kg、ブタンジオール433kg、ヘキサンジオール71kgからなる混合物(テレフタル酸:ブタンジオール:ヘキサンジオール=100:120:15(モル比))を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、240℃のまま、触媒としてテトラブチルチタネートモノマー2.0kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこなった。続いて、系の温度を240℃に維持しながら、オートクレーブにε−カプロラクトン343kgを添加し開環重合を1時間おこない、続けて、ε−カプロラクトン343kgを添加し開環重合を1時間おこない、そのあと、圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、モノマー脱気および重縮合反応をおこなった。その後、樹脂をストランド状に払い出し、ストランドカッターを用いてペレット状の共重合ポリエステルEのペレットを得た。仕込組成から計算される共重合ポリエステルの組成は、テレフタル酸成分34質量%、ブタンジオール成分20質量%、ヘキサンジオール成分3質量%、ε−カプロラクトン成分43質量%である。
【0058】
[共重合ポリエステルF、Jの製造]
使用モノマーおよび仕込量を変更した以外は、共重合ポリエステルBと同様の操作を行って、共重合ポリエステルF、Jを得た。
【0059】
[共重合ポリエステルG、I、K、Lの製造]
使用モノマーおよび仕込量を変更した以外は、共重合ポリエステルAと同様の操作を行って、共重合ポリエステルG、I、K、Lを得た。
【0060】
[ポリエチレンテレフタレートHの製造]
テレフタル酸1661kg、エチレングリコール838kg、シリカ2.1kgからなる混合物を、攪拌しながら、オートクレーブ中240℃で3時間加熱してエステル化反応をおこなった。次いで、280℃に昇温し、触媒として三酸化アンチモン0.3kgを投入し、系の圧力を徐々に減じて1.5時間後に13Paとし、重縮合反応をおこなった。適当な粘度になるまで重縮合をおこない、樹脂をストランド状に払い出し、ペレタイザーでペレット状にした。
【0061】
製造例において得られたポリエステル樹脂の最終樹脂組成と特性値を表1と表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
実施例1
<押出ラミネート法による製膜>
十分乾燥させた共重合ポリエステルAのペレットを押出機に投入し、溶融した樹脂を、Tダイから、20℃に冷却した2つのローラーを用いて、離型フィルム(ポリプロピレンフィルム、東セロ製、50μm、非コロナ面)と離型フィルム(ポリプロピレンフィルム、東セロ製、50μm、非コロナ面)の間にフィルム状に押し出したあと、捲取機によって100mの未延伸フィルムを捲き取った。押出機のスクリュー径は65mm、ポリマー溶融温度は180℃、Tダイのリップは400mm、リップ間隔は1mm、捲き取りローラーは梨地加工であった。
【0065】
実施例2
<押出フィルム法による製膜>
十分乾燥させた共重合ポリエステルBのペレットを押出機に投入し、溶融した樹脂を、Tダイからフィルム状に押し出したあと、捲取機によって100mの未延伸フィルムを捲き取った。押出機のスクリュー径は65mm、ポリマー溶融温度は200℃、Tダイのリップは400mm、リップ間隔は1mm、捲き取りローラーは梨地加工であった。
【0066】
実施例3、4、5、比較例2、4、5、7
使用する樹脂を変更した以外は、実施例1と同様に未延伸フィルムを得た。
【0067】
比較例1、3、6
使用する樹脂を変更した以外は、実施例2と同様に未延伸フィルムを得た。
【0068】
実施例6
<押出フィルム法による製膜>
十分乾燥させた共重合ポリエステルAのペレットを押出機に投入し、溶融した樹脂を、Tダイから押し出し厚さ120μmの未延伸フィルムを作製し、連続して、このフィルムを、60℃の温度でフラット同時二軸延伸機のクリップに把持させ、縦方向に3.0倍、横方向に3.3倍に延伸した。その後、100℃の温度で、熱固定した後、横方向の弛緩率を2%として、フィルムを冷却して捲取機によって厚さが12μmの延伸フィルムを100m捲き取った。
【0069】
実施例7、8、比較例8
共重合ポリエステルの種類、延伸温度、熱固定温度を変えた以外は実施例6と同様にして、未延伸フィルムと延伸フィルムを作製した。
【0070】
実施例1〜5、比較例1〜7において得られた未延伸フィルムの製造条件と特性値を表3に示し、実施例6〜8、比較例8において得られた未延伸フィルムと延伸フィルムの製造条件と特性値を4に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
【表4】

【0073】
実施例1〜8のフィルムは、いずれも薬剤吸着率が低く、柔軟性で、医療用貼付剤の支持体に適したフィルムであった。
これに対して、比較例1は、ε−カプロラクトン成分の割合が少なく、共重合ポリエステルのTgが高かったために、マルテンス硬さが高くなり柔軟とはいえないフィルムであった。
比較例2は、ε−カプロラクトン成分の割合が多かったため、薬剤吸着率が高いフィルムであった。
比較例3、8は、ε−カプロラクトン成分の質量比が小さく、共重合ポリエステルのTgが高かったために、本発明の試験力では測定ができないほどマルテンス硬さが高くなり柔軟とはいえないフィルムであった。
比較例4は、ジカルボン酸のうち、芳香族カルボン酸の割合が本発明の範囲よりも低かったために、薬剤吸着率が高いフィルムであった。
比較例5は、グリコールのうち、炭素数4以下のグリコールの割合が本発明の範囲よりも低かったために、薬剤吸着率が高いフィルムであった。
比較例6は、使用した共重合ポリエステルの分子量が低かったためにフィルムが破れてフィルムを得ることができなかった。
比較例7は、ε−カプロラクトンのかわりに乳酸を使用したために、薬剤吸着率が高いフィルムであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジカルボン酸成分、(B)グリコール成分、(C)ε−カプロラクトン成分を主成分とする共重合ポリエステルにおいて、[(A)成分+(B)成分]/(C)成分が50/50〜85/15(質量比)、(A)成分に対する芳香族カルボン酸の割合が80モル%以上、(B)成分に対する炭素数が4以下のグリコールの割合が90モル%以上、数平均分子量が10000以上、ガラス転移温度が40℃以下の共重合ポリエステルからなる柔軟性ポリエステルフィルム。
【請求項2】
マルテンス硬さが1.5N/mm以下である請求項1記載の柔軟性ポリエステルフィルム。
【請求項3】
医療用貼付剤の支持体として用いられる請求項1または2記載の柔軟性ポリエステルフィルム。


【公開番号】特開2011−168641(P2011−168641A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31294(P2010−31294)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】