説明

柱列式連続地中壁

【課題】 芯材の引き抜きおよび再利用が容易で、しかも環境に配慮した柱列式連続地中壁を提供する。
【解決手段】 柱列式連続地中壁1は、 原位置土と セメント系硬化剤を混合攪拌して形成された円柱状の地盤改良体3を、側方に隣接させて柱列状に形成してなり、各円柱状の地盤改良体3の中心部には、H形鋼よりなる芯材2が挿入され、芯材2の表面には、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材4が貼着されている。縁切り材4は、幅200〜400mm程度、長さ25〜50m程度のテープ状になっており、その一方の面には生分解性粘着剤が塗布されてロール巻きにされている。縁切り材4の厚さは、生分解性粘着剤が塗布された状態で1〜5mm程度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーガー掘削機などにより原位置土を削孔し、オーガーからセメント系硬化剤を吐出して原位置土と混合攪拌を行い、 柱列状の地盤改良体 を形成 した後、その中に芯材を挿入する柱列式連続地中壁に関する。
【背景技術】
【0002】
柱列式連続地中壁は、施工時の騒音・振動が少なく、矢板式土留壁に比べて曲げ剛性が高く止水性にも優れることから、遮水性の仮設土留壁のほか止水壁や本体構造物の側壁などとして用いられている。
他方、柱列式連続地中壁の芯材は、工事終了後に引き抜き撤去することが困難なため、地中に埋設したまま放置せざるを得ないことが多く、その後の建物周りの再掘削や設備配管などの埋設工事の障害となっている。また、国際的な鋼材需要の増大に伴う鋼材コストの大幅な上昇による再利用ニーズという観点からも、芯材の引き抜きが容易な柱列式連続地中壁が望まれている。
このため、芯材の表面にフリクションカット材(被覆材タイプ)を装着したり、グリースや潤滑材を塗布する例がある。また、特許文献1には、両面接着テープまたは樹脂フィルムを介して鋼材杭の表面に発泡樹脂材を被覆した構成とし、鋼材杭の引き抜き時に発泡樹脂材が地盤改良体内に残存し、仮着を解かれた鋼材杭が引き抜かれるという発明が開示されている。
【特許文献1】特開2003−193460号公報 (第2−3頁、第1−5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された方法は、鋼材杭の表面に両面接着テープまたは樹脂フィルムを介して発泡樹脂材を被覆するため、芯材の建込み時に被覆材が剥がれるおそれがあるうえ、発泡樹脂材が地中に埋設された状態となるため、地球環境保護の観点からも好ましくない。また、その他従来の方法では、引き抜き撤去後の芯材にソイルセメントが付着していたり塗布剤が残っていたりするため、芯材のケレン清掃が必要となるうえ、清掃時の細かな粉塵が作業員の目に入るおそれがある。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、芯材の引き抜きおよび再利用が容易で、しかも環境に配慮した柱列式連続地中壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る柱列式連続地中壁は、地盤中に 柱列状の地盤改良体 を形成 し、当該地盤改良体内 に芯材を挿入する柱列式連続地中壁において、前記芯材の表面に、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材が貼着されていることを特徴とする。
本発明では、芯材の表面に、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材が貼着されており、地中躯体工事完了後の芯材の引き抜き時において、縁切り材がソイルセメント成分等により加水アルカリ分解して劣化し、地盤改良体と芯材との間に縁切り材の厚さ分の脆弱層が形成されているため、芯材の引き抜きが容易となる。引き抜き力は芯材表面の付着力や摩擦力に大きく影響されるが、縁切り材によって芯材と地盤改良体との間に形成される脆弱層によって付着力および摩擦力が低減されるのである。
しかも、生分解性プラスチックからなる縁切り材は、最終的に二酸化炭素と水に分解されるため、現場内で縁切り材のクズが発生した場合でも縁切り材を回収する必要がなく、そのまま放置しても柱列式連続地中壁に支障を来たすこともなく、環境に配慮したものとなっている。
【0006】
また、本発明に係る柱列式連続地中壁では、前記芯材の表面(地盤の掘削により露出する部分を除く。)に前記縁切り材が貼着されていてもよい。
本発明では、柱列式連続地中壁形成後の当該柱列式連続地中壁前面または背面の地盤の掘削により、芯材を部分的に露出させる場合、芯材の露出部に縁切り材を貼着しないことで、工期および工費の縮減を図ることができる。
【0007】
また、本発明に係る柱列式連続地中壁では、前記縁切り材は、一方向に長いテープ状とされ、その一方の面に生分解性粘着剤が塗布されていてもよい。
本発明では、縁切り材を一方向に長いテープ状としているので、縁切り材を芯材の長手方向に容易に貼着することができる。また、接着剤として生分解性粘着剤を使用しているので、芯材再利用のための清掃作業を大幅に省くことができ、芯材引き抜き工事におけるコストの削減を図ることができる。しかも、生分解性粘着剤は強力な粘着性を有しているので、芯材の建込み時に縁切り材が剥がれることがない。
【0008】
また、本発明に係る柱列式連続地中壁では、前記縁切り材の厚さは、生分解性粘着剤が塗布された状態で1〜5mmが好適である。
本発明では、生分解性プラスチックを発泡させて厚さ1〜5mmのシート状とすることで、生分解性プラスチックの使用量を削減し、材料コストを低減することができる。さらに、発泡体なので、クッション性を有しており、運搬・建込みなどの作業時にも傷付きにくく、補修も容易である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、芯材の表面に、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材が貼着されているので、芯材の引き抜きおよび再利用が容易となり、しかも環境に配慮した柱列式連続地中壁を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る柱列式連続地中壁の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る柱列式連続地中壁の第一の実施形態を示す部分平断面図である。
本実施形態における柱列式連続地中壁1は、 原位置土と セメント系硬化剤を混合攪拌して形成された円柱状の地盤改良体3を、側方に隣接させて柱列状に形成してなるものである。
【0011】
各円柱状の地盤改良体3の中心部には、H形鋼よりなる芯材2が挿入されており、芯材2の表面には、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材4が貼着されている。
なお、芯材2は、必ずしも各円柱状の地盤改良体3内に挿入しなくてもよく、地盤に応じて適宜間隔で配置すればよい。
【0012】
縁切り材4は、生分解性プラスチックを主成分とし、幅200〜400mm程度、長さ25〜50m程度の発泡させたテープ状になっており、その一方の面には生分解性粘着剤が塗布されてロール巻きにされている。接着剤として生分解性粘着剤を使用することにより、芯材2を再利用するための清掃作業を大幅に省くことができるうえ、生分解性粘着剤が強力な粘着性を有しているため、芯材2の建込み時に縁切り材4が剥がれる心配がない。
また、縁切り材4の厚さは、生分解性粘着剤が塗布された状態で1〜5mm程度である。
【0013】
生分解性プラスチックとしては、従来より公知の各種の生分解性プラスチック材、例 えば、ポリヒドロキシブチレートを成分とする微生物産生系のもの、ポリ乳酸、ポリブ チレンサクシネート、ポリビニルアルコール等を成分とする化学合成系のもの、酢酸セルロース、キトサン、澱粉等を成分とする天然物利用系のもの等、土中等 においてバクテリアにより所定期間経過 後に水と二酸化炭素に分解される物質であればよい 。
生分解性プラスチック自体のコストは高いが、本発明では、 生分解性プラスチックを発泡シート状にして使用するため使用量が少なく、材料コストを低減することができる。
【0014】
次に、柱列式連続地中壁1の施工方法について説明する。
先ず、 オーガー 掘削機(図示省略)などにより 原位置土を削孔し、オーガー先端から セメント系硬化剤を吐出して 原位置土と 混合攪拌を行い、地盤中に円柱状の地盤改良体3 を形成する。
一方、H形鋼よりなる芯材2の表面には、事前に芯材2の長手方向に縁切り材4を貼着しておく。この際、フランジの側端部2aおよび芯材2の下端面には、テープ状の縁切り材4をカットした接着テープを貼着するとより良い。
そして、地盤改良体3が硬化する前に、芯材2を円柱状の地盤改良体3の中心部に鉛直に圧入する。この際、芯材2の上端部を地上に突出させておけば、芯材2引き抜き時の手掛かりとすることができる。
なお、芯材2に縁切り材4を貼着した後に、縁切り材4が破れ等の損傷を受けた場合は、テープ状の縁切り材4をカットした接着テープを損傷箇所に貼着して補修したうえで、芯材2の建込みを行う。
【0015】
芯材2を地盤改良体3から引き抜く手段は特に限定されるものではないが、ラフタークレーンのような小型で機動性に優れた揚重機を使用すれば、現場搬出が容易となり、市街地や狭い現場で使用した芯材2も再利用することができる。
【0016】
本実施形態による柱列式連続地中壁1では、芯材2の表面に、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材4が貼着されているため、地中躯体工事完了後の芯材2の引き抜き時には、縁切り材4がソイルセメント成分等により加水アルカリ分解して劣化し、地盤改良体3と芯材2との間に縁切り材4の厚さ分の脆弱層が形成され、容易に芯材2を引き抜くことができる。しかも、生分解性プラスチックからなる縁切り材4は、最終的に二酸化炭素と水に分解されるため、縁切り材4を回収する必要がなく、そのまま放置しても柱列式連続地中壁1に支障を来たすこともなく、環境に配慮したものとなっている。
【0017】
図2は、本発明に係る柱列式連続地中壁の第二の実施形態を示す部分平断面図である。
本実施形態では、柱列式連続地中壁11形成後の地盤の掘削によって芯材2を部分的に露出させるものであり、芯材2の建込み前に、掘削される側の芯材2のフランジ面2bを除く表面に縁切り材4を貼着しておく。
【0018】
本実施形態による柱列式連続地中壁11では、柱列式連続地中壁11形成後の地盤(一部地盤改良体13も含む。)の掘削によって露出する芯材2のフランジ面2bに縁切り材4を貼着しないことで、工期および工費を縮減することができる。
【0019】
以上、本発明に係る柱列式連続地中壁の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、上記の実施形態では、芯材としてH形鋼を使用しているが、この形状に限るものではなく、他の断面形状を有する芯材でもよい。また、上記の実施形態では、円柱状の地盤改良体をオーバーラップさせた配置としているが、表面に凹凸のない壁状の地盤改良体でもよい。要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る柱列式連続地中壁の第一の実施形態を示す部分平断面図である。
【図2】本発明に係る柱列式連続地中壁の第二の実施形態を示す部分平断面図である。
【符号の説明】
【0021】
1、11 柱列式連続地中壁
2 芯材
2a 側端部
2b フランジ面
3、13 地盤改良体
4 縁切り材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に柱列状の地盤改良体を形成し、当該地盤改良体内に芯材を挿入する柱列式連続地中壁において、
前記芯材の表面に、生分解性プラスチックを発泡させてシート状にした縁切り材が貼着されていることを特徴とする柱列式連続地中壁。
【請求項2】
前記芯材の表面(地盤の掘削により露出する部分を除く。)に前記縁切り材が貼着されていることを特徴とする請求項1に記載の柱列式連続地中壁。
【請求項3】
前記縁切り材は、一方向に長いテープ状とされ、その一方の面に生分解性粘着剤が塗布されていることを特徴とする請求項1または2に記載の柱列式連続地中壁。
【請求項4】
前記縁切り材の厚さは、生分解性粘着剤が塗布された状態で1〜5mmであることを特徴とする請求項3に記載の柱列式連続地中壁。

【図1】
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【図2】
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