説明

柿ペーストおよびその製造方法、ならびにその柿ペースト入りゼリー

【課題】 脱渋処理によって不溶性化した柿タンニンが、加熱調理によって水溶性に変化するのを確実に防止できると共に、ペーストの含有水分が分離、劣化してしまうのを阻止し、柿の栄養成分を丸ごと含有する新たな柿ペーストを提供する。
【解決手段】 脱渋処理工程1を施した柿を、凍結・皮剥き工程2によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化9しておく一方、果肉部をフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程3を行い、酸化防止剤の添加工程4を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末を添加する工程5の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末を添加する工程6を行い、常温まで冷却し、密閉包装工程7を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程8を行うようにしてなる柿ペーストの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、果実をペースト化する技術に関連するあらゆる分野をその技術分野とするものであり、特に脱渋処理を施した柿ペーストを製造する分野は勿論のこと、その製造に必要となる設備、器具類を提供、販売する分野から、それら資材や機械装置、部品類に必要となる素材、例えば、木材、石材、各種繊維類、プラスチック、各種金属材料等を提供する分野、それらに組み込まれる電子部品やそれらを集積した制御関連機器の分野、各種計測器の分野、当該設備、器具を動かす動力機械の分野、そのエネルギーとなる電力やエネルギー源である電気、オイルの分野といった一般的に産業機械と総称されている分野、更には、それら設備、器具類を試験、研究したり、それらの展示、販売、輸出入に係わる分野、将又、それらの使用の結果やそれを造るための設備、器具類の運転に伴って発生するゴミ屑の回収、運搬等に係わる分野、それらゴミ屑を効率的に再利用するリサイクル分野などの外、現時点で想定できない新たな分野までと、関連しない技術分野はない程である。
【背景技術】
【0002】
(着目点)
我が国において生産される果実の殆どは酸味を有した酸性食品であるが唯一、柿はアルカリ食品であり、しかも、その果実に含まれるビタミンやミネラル等、栄養成分も豊富なことから、収穫期には人気の果物として市場に供給されているが、収穫されたままの柿には水溶性の柿タンニンに起因する強い渋味があり、生食用とするには、一般に炭酸ガスやアルコール等を用いる等して渋抜き処理を施す必要があり、こうした渋抜き方法した柿の他は、干し柿への加工があるものの、その他加工食品に用いるのは技術的に非常に困難なためか、応用されている例は左程多くはない。
【0003】
例えば、菓子類や麺類等様々な食品、飲料等に添加することによって柿果実の風味を与えることができる柿ペーストを製造する場合、他の酸性食品である林檎や葡萄、ブルーベリー、柑橘類等果実とは全く異なる加工を行わなければならず、さらに柿果実含有水溶性タンニンから不溶性タンニンに変化させるようにした脱渋処理済みの柿ペーストを、菓子類や麺類等他の食品に添加して加熱調理を行うと、再度、水溶性タンニンに変化してしまい、渋味が発生してしまうという性質があり、様々な食品に添加できる柿ペーストを製造するには、加熱によって水溶性に変化しないよう柿タンニンを安定化させることが不可欠となるが、こうした技術は未だ完成されていないのが実情である。
【0004】
(従来の技術)
そうした中にも、その打開策となるようなものがない訳ではなく、例えば特開2002−165571号公報「柿ペースト及びその製法、柿チャツネ及びその製法並びに柿の垂れ」発明として提案されているもののように、ヘタ、種及び皮を除去した柿の果肉を準備する工程と、柿の果肉を準備する前、後又は柿の果肉の加熱中に脱渋を行う工程と、柿の果肉を加熱して水分を部分的に除去し、ペースト状に変化させる工程とを含む柿ペーストの製法により、脱渋によって可溶性タンニンから変化した不溶性タンニンを含む柿の果肉を主成分とし、可溶性タンニンを含まない渋味のない柿ペーストを得るものや、特開平8−256722号公報に掲載の「柿の加工方法およびその方法を用いて製造されたゲル状食品」発明のように、柿をペースト化する第1の工程と、柿ペーストにペクチナーゼを添加して粘度を低下させると共に、これに含まれた空気を脱気する第2の工程と、柿ペーストを真空雰囲気下に置き、なお残留している空気を脱気する第3の工程と、脱気後の柿ペーストに窒素ガスを含気する第4の工程とを含む柿の加工方法により、柿ペーストの粘度が低下し、混合対象物に対して均一に分散され、また、空気の脱気によって製品の変色が防止され、窒素ガスの含気によって柿ペーストが柿本来の色合いに調整されるようにしたものがある。
【0005】
また、特開平6−276990号公報に開示された「柿の処理方法」発明のように、柿を凍結する工程と、解凍した柿を多数の小穴をあけた容器もしくは網目構造の容器中で圧搾することにより、果肉部と残渣(種子、皮、へた)を分別する工程、および果肉部を圧搾濾過あるいは遠心分離によって汁液と固形部にわける工程からなる処理により、渋柿、および従来は殆ど廃棄するしかなかった過熟柿果実までが食品加工材料として、通年に渡って使用可能としたもの、あるいは、特開平6−253768号公報の「製菓用柿ペースト製造方法」発明に開示されたように、熟柿になるまで貯蔵する貯蔵成熟工程と、包丁で熟柿の皮を剥ぎ、種及び種周辺の果肉を除いて果実のみを削ぎ切り、横切果肉とし、柿特有の縦の赤い繊維を短く寸断する皮剥・削ぎ切工程と、横切果肉を熱湯100℃に入れて煮沸し横切果肉の色が変わったら湯から上げ、果肉を水で洗う渋抜き工程と、渋抜きした横切果肉と水と白砂糖とレモン汁を混合して撹拌しペースト状の果肉とした後、火にて煮つめて煉り上げる濃縮工程と、冷めた濃縮柿ペーストに少量のウィスキーを加え混練し密閉状にて冷凍庫で保存する工程との組合せにより、渋味や渋臭が無く、柿の風味を出しながら菓子特有の持味を充分に生かすことができると共に、濃縮したペースト状となっているため長期保存が可能であり、厚くも薄くも、あるいはノズルを用いて線状にも自由に変形させ、表皮又混練にも更にはケーキやデコレーションにも使用することができるようにしたもの等が散見される。
【0006】
しかし、最初に示した「柿ペースト及びその製法、柿チャツネ及びその製法並びに柿の垂れ」発明は、脱渋された柿を原料として製造したペーストであっても、外の食品に添加して加熱、調理したときに、不溶性の柿タンニンが可溶性の柿タンニンへと変化して再び渋味を生じてしまう現象には一切触れておらず、幅広い加工食品に添加、利用できる柿ペーストとはなっていない上、製造後の柿ペーストからの離水による品質の低下についても何等、解決策が講じられておらず、取り扱いや保存性にも課題を残すものといえる。
【0007】
また、次に示す「柿の加工方法およびその方法を用いて製造されたゲル状食品」発明は、その第3の工程において柿ペーストを真空雰囲気下に置き、残留する空気を脱気させる作業や、脱気後の柿ペーストに窒素ガスを含気させる第4工程等、通常の食品加工には必要とされないような真空中や窒素ガス雰囲気中における調理を可能とする設備が不可欠であり、十分な施設を整えなければ適正に製造することができないという欠点を有し、経済的にも負担の大きなものとなってしまっている。
【0008】
その後の「柿の処理方法」発明にあっては、柿ペーストを製造する過程において柿ジュースを搾汁、分離してしまうものであり、柿ペーストに残る栄養成分や嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)等が減少してしまい、折角の柿を用いる食品としては決して望ましいという訳にはいかないものであり、また最後に示した「製菓用柿ペースト製造方法」発明は、加工の初期に、食べ頃の甘い柿を個々に紙で覆って野菜保存用ビニール袋に入れ、口を閉じないで開けたまま冷蔵庫野菜貯蔵室で赤い熟柿になるまで貯蔵する工程が不可欠となっており、製造に比較的多くの工数を要するという難点があった。
【特許文献1】(1)特開2002−165571号公報 (2)特開平8−256722号公報 (3)特開平6−276990号公報 (4)特開平6−253768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(問題意識)
上述したとおり、従前までに提案のある「柿ペースト及びその製法、柿チャツネ及びその製法並びに柿の垂れ」や「柿の加工方法およびその方法を用いて製造されたゲル状食品」等は、何れも、菓子類や麺類を含む様々な食品に柿ペーストを添加し、加熱調理する段階において再び水溶性に変化して渋味を生じさせてしまうという問題の解決策が示されておらず、また、柿ペーストの冷蔵保存中の水分分離による品質劣化の問題もあり、さらにまた、「柿の処理方法」は、その製造過程から特殊な設備を必要とするという欠点があり、「製菓用柿ペースト製造方法」には、柿本来の旨味や色、風味、栄養成分等が残らないものとなってしまう虞があるという具合に、これら従前までの柿ペーストの製造技術には、その実用上まだまだ未解決のままにされた課題を残すものになっているというのが現状である。
【0010】
(発明の目的)
そこで、この発明は、製造工程中の脱渋処理によって渋味の原因となる柿タンニンを不溶性化して製造した柿ペーストを、他の食品に添加して加熱調理したときでも、柿タンニンが再び水溶性化してしまうのを確実に防止できると共に、製造後の柿ペーストを長期保存した場合にも、含有水分が分離し、劣化してしまうのを阻止可能とし、しかも通常の食品工場にある既存の設備によって比較的容易に製造することができ、柿の栄養成分を丸ごと含有し、秀れた風味や色合いを呈するものとした良質の柿ペーストを製造する新たな柿の加工技術の開発はできないものかとの判断から、逸速くその開発、研究に着手し、長期に渡る試行錯誤と幾多の試作、実験とを繰り返してきた結果、今回、遂に新規な柿ペーストとその製造方法、ならびにそれらによる新規な柿ペースト入りゼリーを実現化することに成功したものであり、以下では、図面に示すこの発明を代表する実施例と共に、その構成を詳述することとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の構成)
図面に示すこの発明を代表する実施例からも明確に理解されるように、この発明の基礎となる柿ペーストは、基本的に次のような構成から成り立っている。
即ち、皮部、蔕部、種を除去して擂り潰したものを、その重量で半減するまで乾燥して糖度(Brix)を14%に達するようにした脱渋柿実部に、適量の酸化防止剤を加えて75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮の粉末適量を添加、混合したものとした上、さらにその加熱停止状態中に仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、混合して最終仕上がり糖度(Brix)を24%に調整し、密閉包装容器に充填、凍結してなるものとした構成を要旨とする柿ペーストである。
【0012】
この基本的な構成からなる柿ペーストを、より具体的なものとして示すと、皮部、蔕部、種を除去して擂り潰したものを、その重量で半減するまで乾燥して糖度(Brix)を14%に達するようにした脱渋柿実部に、適量の酸化防止剤を加えて80℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮の粉末適量を添加、混合したものとした上、さらにその加熱停止状態中に仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、混合して最終仕上がり糖度(Brix)を24%に調整し、密閉包装容器に充填、急速凍結してなる柿ペーストとなる。
【0013】
(関連する発明1)
この発明には、上記した「柿ペースト」発明に関連し、それを確実且つ効率的に得られるようにする以下に示すとおりの新規な柿ペーストの製造方法を包含する。
即ち、 脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程を行うようにした構成を要旨とする柿ペーストの製造方法である。
【0014】
この基本的な構成からなる柿ペーストの製造方法は、換言すると、脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程を行うようにし、脱渋処理工程によって水溶性から不溶性へと変化させた柿タンニンに大豆蛋白質を結合させ、不溶性を不可逆的に固定化すると共に、柿皮のペクチンおよび糖によって水分の分離を阻止可能な粘度を確保可能としてなる柿ペーストの製造方法となる。
【0015】
そして、より具体的には、脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を遠赤外線の照射と送風とによって乾燥させ、粉末化加工しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て急速凍結させ、出荷、保存可能となるようにする工程を行うようにした柿ペーストの製造方法ということができる。
【0016】
さらに具体的なものとして示すならば、脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を遠赤外線の照射と送風とによって乾燥させ、粉末化加工しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、仕上がり糖度(Brix)を14%に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て80℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、最終仕上がり糖度(Brix)を24%にするよう調整しながら常温まで冷却し、密閉包装工程を経て急速凍結させ、出荷、保存可能となるようにする工程を行うようにした柿ペーストの製造方法ということが可能である。
【0017】
(関連する発明2)
更に、この発明には、当該柿ペーストを利用した加工食品の一つとしての柿ペースト入りゼリーが包含されている。
即ち、この発明で得られる柿ペーストに、ゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水夫々の適量ずつを混合、均質化したものを、型容器に充填して整形、凝固し、最終仕上がり蔗糖度(Brix)で20ないし30%に設定してなるものとした構成を要旨とする柿ペースト入りゼリーがそれである。
【0018】
さらに具体的には、同上柿ペーストに、ゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水夫々の適量ずつを混合、均質化して最終仕上がり蔗糖度(Brix)で20ないし30%としたゼリー溶液と、皮部、蔕部、種を除去した脱渋柿を所定厚さにスライスし、あるいは所定寸法のブロック状に刻み、最終仕上がり蔗糖度(Brix)で40%となるよう糖漬けし、適量の酸化防止剤を添加して急速凍結させた1個または複数個の脱渋柿果肉片とを、型容器内で凝固させてなるものとした柿ペースト入りゼリーである。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおりの構成からなるこの発明の柿ペーストは、他の様々な食品に添加して加熱調理したときに、柿タンニンが再び水溶性化してしまうのを確実に防止でき、製造後の柿ペーストを長期保存した場合でも、含有水分の分離を阻止して高い鮮度を保つことができ、しかも通常の食品工場にある既存の設備によって比較的容易に製造することが可能であり、柿の栄養成分を丸ごと含有して秀れた風味や色合いを呈するものとした良質の柿ペーストを提供することができるという、これまでのものには到底期待することができなかった秀れた特徴を有するものとなっている。
【0020】
そのように秀れた柿ペーストを製造するこの発明の製造方法によれば、柿果実由来の乾燥柿皮粉末が柿ペーストの粘度を増加させ、製造後に長期保存した場合にも、含有水分を分離して劣化の原因になるのを阻止すると共に、加熱や冷蔵、冷凍等の様々な調理に際しても劣化せず、性状が安定して使い易い柿ペーストを提供することができる上、前記乾燥柿皮粉末を添加する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末を添加する工程を行い、常温まで冷却し、密閉包装工程を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程を採用し、添加した大豆蛋白質が、製造工程中の脱渋処理によって不溶性化した柿タンニンの不溶性を不可逆的に固定化する作用は果たし、製造した柿ペーストを、他の食品に添加して加熱調理したときに、柿タンニンが再び水溶性化して渋味が再生してしまうのを確実に防止できるという大きな効果を奏するものとなる。
【0021】
また、当該柿ペーストの製造方法の柿ペースト製造過程中における凍結・皮剥き工程後の皮部乾燥・粉末化工程中に、柿皮を遠赤外線の照射と送風とによって乾燥させ、粉末化加工するようにし、柿皮の主成分であるペクチンや糖等の含有成分、および風味、色合い等を維持したまま柿皮粉末に加工することができ、これを製造途中の柿果肉ペースト中に添加することにより、柿の栄養成分を丸ごと含有した良質の柿ペーストを製造することができ、しかも大豆粉末添加工程の後に密閉包装を行い、急速冷凍処理することによって含有水分の分離を防いで加工直後の鮮度を、そのままに長期保存可能な柿ペーストを提供することができるという効果を発揮することになる。
【0022】
さらに、擂潰し・濃縮工程の仕上がり糖度(Brix)を14%に設定すると共に、酸化防止剤の添加工程後に80℃に加熱し、大豆粉末添加工程の後に最終仕上がり糖度(Brix)を24%とするよう調整しながら常温まで冷却するよう設定していることから、特別な調理施設等を設置せずとも、より安定した品質を確保できる上、味や風味および栄養成分等の品質を、さらに高い水準に管理できるという品質管理上の特段の効果を得ることができる。
【0023】
そして、この発明の柿ペーストを添加して製造した柿ペースト入りゼリーによれば、新鮮な柿果実、独特の風味や天然色、それらに伴う季節感等、趣致に富む菓子とすることができ、その上、脱渋柿の所定厚さにスライスし、あるいは所定寸法のブロック状に刻んで最終仕上がり蔗糖度(Brix)を40%とするよう糖漬けし、適量の酸化防止剤を添加して急速冷凍させた1個または複数個の脱渋柿果肉片を、この発明のゼリー溶液と共に、型容器内に投入および充填し、凝固させたものとすれば、柿果実の食感をも同時に味わうことができるものとなり、食品として一段と高い付加価値が得られることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
上記したとおりの構成からなるこの発明の実施に際し、その最良もしくは望ましい形態について説明を加えることにする。
柿脱渋処理工程は、柿果実に含まれる渋みの原因となる水溶性タンニンを、不溶性に変化させる処理を行うことにあり、具体的には、比較的効率良く脱渋可能な、炭酸ガスまたはアルコール蒸気等の雰囲気中に、柿果実を保管して異常呼吸させることによって行う脱渋処理とするのが望ましいが、25℃程度の環境下で柿果実の乾燥を進める脱渋処理、あるいは凍結させる脱渋処理、もしくは生石灰の水溶液中に柿果実を入れて密封保管する脱渋処理、焼酎やブランデーの中に柿を浸し、段ボール箱に詰めて密閉状に保管し、約1週間後に再度、焼酎かブランデー等の中に浸して同様に5日間程度、密閉保管する脱渋処理等、既存もしくは今後開発される様々な脱渋処理に基づいて行うことができる。
【0025】
凍結・皮剥き工程は、柿果実を凍結させることにより、不溶性化したタンニンを安定させると共に、その後の加工性を高める為に果肉と皮、およびその外の蔕部や種等の各部を分離する処理にあり、果実の鮮度を確保するには、空気凍結法、セミエアブラスト凍結法、送風凍結法(エアブラストフリージング)、接触凍結法(コンタクトフリージング)、ブライン凍結法、液体窒素凍結法(フラッシュフリージング)等による急速冷凍、超急速凍結あるいは瞬間凍結等を行うべきであり、凍結した柿果実は、皮剥き作業および後のペースト化作業の効率を高めることから凍結後に皮剥き加工を行うのが望ましい。
【0026】
擂潰し・濃縮工程は、柿果肉をペースト状に擂り潰し加工すると共に、ペースト状果肉中の水分を減少させて糖度を高める加工、処理にあり、凍結され、蔕や皮、種を除去した柿果肉をフードプロセッサーに投入して粉砕加工し、その擂り下ろし過程中に粉砕果肉に含まれている水分を、加工対象果肉の総重量が約半分程度になるまで乾燥させるものとすべきであり、出来るだけ果汁を排出せずに、栄養成分や嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)等を粉砕果肉中に濃縮するよう加工するのが望ましい。
【0027】
皮部乾燥・粉末化工程は、凍結させた柿果実から剥き取った柿皮を強制的に乾燥させて粉末化する処理を示し、冷凍状態にあった柿皮が、次第に自然乾燥して行く過程の鮮度を失わない段階の中に加熱、乾燥処理を施すと共に、粉砕加工することによって粉末化するものとし、遠赤外線を照射して十分な乾燥へ導くのが望ましく、均質且つ迅速な乾燥を促進する為に除湿、送風を加えることができる。
【0028】
酸化防止剤の添加工程は、前記擂潰し・濃縮工程によって濃縮された粉砕柿果肉に適量の酸化防止剤を添加するものであって、具体的には、L-アスコルビン酸(ビタミンC)を使用するのが望ましいが、エリソルビン酸(イソアスコルビン酸)、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、トコフェロール(ビタミンE、)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等を含む各種酸化防止剤の中の何れか適するものを選択して利用することが可能である。
【0029】
加熱・乾燥柿皮の添加工程は、適度な加熱によって鮮度を失うことなく味、特に甘味や風味等を熟成させると共に、滅菌して長期保存に耐えるペーストとする上、乾燥柿皮が、柿果実由来の素材でありながら、増粘作用をもたらし柿ペーストに適度の粘性を与えるという処理機能を果たし、外の柑橘類の果物等の果皮に含まれるペクチンや、あるいは寒天、ゼラチン、カラギーナン等を使用せず、柿皮由来のペクチンを利用すべきであり、配合量については、添加対象の果実量に対し、所望の粘度が得られる乾燥柿皮量を添加するものとすべきであり、より具体的には、柿果肉重量の5%以上に設定するのが望ましいが、使用果実の本来有している果皮量に相当する乾燥柿皮を添加し、そのペースト粘度を標準として設定することも可能であり、さらにまた、当該乾燥柿皮の添加に加え、一部外のペクチンや寒天等のゲル化剤や糖類を添加することもできる。
【0030】
大豆粉末添加工程は、加熱・乾燥柿皮の添加工程を経たペースト状の柿果肉に、所定量の大豆粉末を添加し、既に前記柿脱渋処理工程において不溶性化を完了した柿タンニンを、不可逆的に固定化し、再び水溶性となるのを阻止可能とする処理にあり、より具体的には、対象柿果肉(添加済みの乾燥柿皮を含む)の総重量に対して5%以上の重量となる大豆粉末を添加するものとしなければならず、5%以上の含有量を適宜調整することにより、柿ペーストの粘度を調整することができる外、5%よりも少ない割合には、当該柿ペーストを加熱調理した際に、渋味を再生させてしまう虞がある。
【0031】
冷却・密閉包装工程は、仕上がり糖度を調整しながら冷却し、密閉状容器に充填、包装する処理であり、より具体的には、自然放熱または冷蔵庫の利用や、柿ペーストを収容した容器外側に接触させた氷や冷却水等による間接的冷却、送風機による送風等によって強制的に常温まで冷却した柿ペーストを、缶詰、瓶詰、プラスチック容器、レトルト容器、レトルトパウチ等の適宜容積の密閉容器中に充填、脱気し、真空状に密封する作業となり、包装後に加熱殺菌等の滅菌処理を行うことが可能である。
【0032】
凍結工程は、常温の下に密閉包装された柿ペーストを、再び凍結処理して冷凍保管および冷凍状態のまま輸送可能とする作業にあり、より具体的には、緩慢凍結処理することも可能であるが、鮮度を保つために、空気凍結法、セミエアブラスト凍結法、送風凍結法(エアブラストフリージング)、接触凍結法(コンタクトフリージング)、ブライン凍結法、液体窒素凍結法(フラッシュフリージング)等による急速冷凍、超急速凍結あるいは瞬間凍結等を行うべきであるが、緩慢凍結処理することも不可能ではない。
【0033】
柿ペースト入りゼリーは、基本的に当該発明の柿ペーストに対し、ゼリー製剤、糖および酸の3成分を所定の割合で添加し、ゲル化させたものとしてなるゼリーであり、より具体的には、当該柿ペースト、およびゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水の適量を含有するゼリー溶液を、型容器内に充填して整形、凝固させ、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を20ないし30%に設定したものとすべきであるが、後述する実施例にも示すように、該ゼリー溶液と共に、皮部、蔕部、種を除去した脱渋柿を所定厚さにスライスし、あるいは所定寸法のブロック状に刻み、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を40%とするよう糖漬けし、適量の酸化防止剤を添加して急速凍結させた1個または複数個の脱渋柿果肉片を、型容器内に投入および充填、凝固させたものとすることができる。
【0034】
ゼリー製剤は、当該柿ペーストと適量の水およびその外の食品添加物や食品類と混合して凝固し、ゲル化させる機能を果たすものであり、より具体的には、ゼラチンやカラギーナン、寒天、ペクチン(高メトキシルペクチン、低メトキシルペクチン)アルギン酸、キサンタンガム、グアーガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム等であるとすることができ、換言すれば増粘多糖類や増粘安定剤、糊料等であるとすることが可能であり、必要に応じて糖、酸、カルシウム等の添加や、加熱、冷却等の凝固に必要となる調理を行うことができる。
【0035】
pH調整剤は、当該柿ペースト入りゼリーのpH(水素イオン指数)を適切に調整し、ゼリーの固さや組織を安定化するのに必要なpH領域を保持する機能を果たすものであり、より具体的には、後述する実施例にも示すように、酸味を出さずにpHを下げることができるグルコノーδ−ラクトンとするのが望ましいが、クエン酸、DL−リンゴ酸等の有機酸類とその塩類,炭酸ナトリウム等の炭酸塩類、あるいはリン酸のリン酸類等の各種pH調整剤の中の何れか1または2以上を、選択もしくは適宜、配合してゼリーの固さや酸味の調整を行うことができる。
以下では、図面に示すこの発明を代表する実施例と共に、その構造について詳述することとする。
【実施例1】
【0036】
図1の柿ペースト製造のフローチャートに示す事例は、脱渋処理工程1を施した柿を、凍結・皮剥き工程2によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化9しておく一方、実部から蔕部や種を除去し、フードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程3を行い、酸化防止剤の添加工程4を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末を添加する工程5の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末を添加する工程6を行い、常温まで冷却し、密閉包装工程7を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程8を行うようにしてなる、この発明の柿ペーストの製造方法における代表的な一実施例を示すものである。
【0037】
図1中の柿脱渋処理工程1は、果肉温度が20ないし24℃の範囲に管理されるよう庫内温度を設定した炭酸ガス脱渋装置内に、収穫された柿果実を収容して密閉し、3日間程度に渡り、炭酸ガスを充填して脱渋処理を行うか、あるいは、密閉された厚さ0.1mm程度のポリエチレン袋に柿果実を入れ、脱渋の対象となる柿果実の重量の1/100ないし2/100程度の重量のドライアイスを、通気性を確保できる新聞紙や不織布等に包み込んだものを、柿果実に直接、接触させないよう収容し、常温の下に約5日間程度に渡って保管することにより脱渋処理を行うものである。
【0038】
柿脱渋処理工程1は、炭酸ガスの外、アルコールを用いたものとすることも可能であり、出荷用の段ボール箱内に脱渋マットを同梱し、常温下で7日ないし10日間程度保管することにより、脱渋処理するものとすることができる外、アルコール濃度25〜35%の焼酎を皿に入れ、果実のへたの部分を軽くつける程度に浸すか、噴霧して厚さ0.08mmのポリエチレンの袋に詰め、密封して室温下に約1週間程度、保管することにより、脱渋処理することが可能である。
【0039】
凍結・皮剥き工程2は、脱渋処理された柿果実を急速冷凍したもの、または脱渋処理された柿果実を急速冷凍し或程度の期間に渡り、冷凍保存したものの何れかを、自動皮剥き機に供給し、柿果実から皮部分を剥き取り、図1中の皮部乾燥・粉末化工程9に供給するものとし、皮部分を剥き取った柿果実から蔕や種を除去して果肉のみを、擂潰し・濃縮工程3に供給するものとする。
【0040】
同図1中の皮部乾燥・粉末化工程9は、凍結・皮剥き工程2によって除去された柿皮部のみを収集し、遠赤外線照射装置に除湿送風機を併用し、7.5時間×4日=30時間に渡り、乾燥処理した後、フードプロセッサーあるいはフードミル等を用いて粉砕加工を行い粉末化処理するものであるが、乾燥処理に際して遠赤外線照射装置のみを使用した場合では、7.5時間×6日=45時間に渡る乾燥処理を行った場合であっても、除湿送風機を併用した前記30時間の乾燥処理に比較して乾燥度が不十分であるという実験結果が得られており、遠赤外線の照射と送風とを併用して乾燥処理を行うのが効率的である。
【0041】
擂潰し・濃縮工程3は、皮を剥き取り、蔕部と種とを除去した後の、未だ凍結状態にある柿果肉を、フードプロセッサーもしくはフードミルを用いて擂り潰し、ペースト状に加工すると共に、その擂り潰し過程中にペースト状果肉の重量を、濃縮前の果肉重量の1/2とするまで水分を蒸散させ、その仕上がり糖度(Brix)を14%に設定し、濃度を高めたものとする。
【0042】
酸化防止剤の添加工程4にあっては、柿果肉ペーストに対して仕上がり重量の0.5%以上に計量した酸化防止剤であるアスコルビン酸Na(ビタミンC)を添加し、均質に混練したものとする作業工程であり、続く加熱・乾燥柿皮の添加工程5は、酸化防止剤を添加した柿果肉ペーストを75ないし85℃、望ましくは80℃に加熱し、褐変防止の為に85℃を上回らないよう注意しながら、図1中の皮部乾燥・粉末化工程9で製造した乾燥柿皮粉末を、柿ペースト仕上がり重量の5%以上添加し、均質状に混合させた後、加熱を停止させる。
【0043】
大豆粉末添加工程6は、皮部乾燥・粉末化工程9で乾燥柿皮粉末の適量を添加した柿果肉ペーストに対し、柿ペースト仕上がり重量の5%以上となる重量に計量した大豆粉末を配合し、均等に混練し、その後の冷却・密閉包装工程7により、最終仕上がり糖度(Brix)を24%にするよう調整しながら25℃以下の常温まで冷却し、滅菌環境の下、缶詰、瓶詰、プラスチック容器、レトルト容器、レトルトパウチ等の密閉容器に充填、脱気した上、密閉したものとする。このようにして密閉容器に封入された柿ペーストは、冷凍保存および冷凍輸送できるよう、凍結工程8によって急速冷凍、処理されることとなる。
【実施例2】
【0044】
この発明に包含される柿ペースト入りゼリーは、前記実施例1によって製造された柿ペースト、およびゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水の適量を含有し、型容器に充填して整形、凝固すると共に、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を20ないし30%に設定してなるものであり、さらに具体的に示すと以下のとおりである。
【0045】
当該柿ペースト入りゼリーは、以下の表1に示す配合割合に従って製造した試作品1ないし3の各ゼリーについて示すこととする。
【表1】

【0046】
試作品1のゼリーは、ゼリー製剤(PAC−11:商品名)1.2g、砂糖7.68g、果糖5.12g、柿ペースト20.0g、グルコノーδ−ラクトン(マイルドpH:商品名)0.2g、クエン酸0.05g、ビタミンC0.05g、水34.3gを配合し、一定時間加熱後に、予め皮部、蔕部、種を除去した脱渋柿を所定厚さにスライスし、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を40%とするよう糖漬けし、適量の酸化防止剤(L−アスコルビン酸Na)を添加して急速凍結させておいた1枚20gの脱渋柿果肉片2枚と共に、型容器に充填して粗熱を取り、冷蔵庫に収容して所定時間に渡って冷却、凝固させたものであり、ゼリーの最終仕上がり糖度(Brix)は25%となるよう調味、設定されている。
【0047】
型容器は、プラスチック製あるいはレトルト容器、レトルトパウチ等のように施蓋、密閉可能であり、店頭における陳列、販売を可能としたものとすることができる外、レストランや喫茶店等で使用されるデザート成形用の型枠としての型容器とすること等が可能である。
【0048】
試作品2のゼリーは、前記試作品1と略同じ配合割合であって脱渋柿果肉変の量を少なく設定したものであり、ゼリー製剤(PAC−11:商品名)1.2g、砂糖7.68g、果糖5.12g、柿ペースト20.0g、グルコノーδ−ラクトン(マイルドpH:商品名)0.2g、クエン酸0.05g、ビタミンC0.05g、水34.3gを配合し、一定時間加熱後に、予め皮部、蔕部、種を除去した脱渋柿を所定厚さにスライスし、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を40%とするよう糖漬けし、適量の酸化防止剤(L−アスコルビン酸Na)を添加して急速凍結させておいた脱渋柿果肉片1枚20gと共に、型容器に充填して粗熱を取り、冷蔵庫に収容して所定時間に渡って冷却、凝固させたものであって、ゼリーの最終仕上がり糖度(Brix)を25%とするよう調味、設定したものである。
【0049】
試作品3のゼリーは、柿ペーストを増量したものであってゼリー製剤(PAC−11:商品名)1.3g、砂糖2.16g、果糖1.44g、柿ペースト35.0g、グルコノーδ−ラクトン(マイルドpH:商品名)0.2g、クエン酸0.08g、ビタミンC0.05g、水59.77gを配合し、一定時間加熱後に、型容器に充填して粗熱を取り、冷蔵庫に収容して所定時間に渡って冷却、凝固させたものであり、ゼリーの最終仕上がり糖度(Brix)を25%とするよう調味、製造したものである。
【0050】
(実施例の作用)
以上のとおりの構成からなるこの発明の柿ペーストの製造方法は、図1中に示した脱渋処理工程1によって脱渋された柿果実を、凍結・皮剥き工程2の始めに急速凍結させてしまい、それから皮を剥き、蔕部や種を除去する加工を行うようにしたことにより、生鮮状態を維持したまま保管可能な状態とし、順次生産量の計画に応じて、皮剥き処理を進めることを可能としている。
【0051】
皮剥き工程2の過程で柿果実から除去した柿皮部分を、皮部乾燥・粉末化工程9の工程中に、遠赤外線照射装置に供給し、同時並行状に作動させた送風機によって除湿送風を可能とした作業内容により、一般的な外の加熱乾燥装置を使用した場合に比較して、栄養成分や風味、色合い等、柿皮部部分に特有の各種成分を損ねることが無く、しかも効率的且つ十分な乾燥状態を確保可能とし、フードプロセッサーあるいはフードミル等を用いて粉砕加工を行い粉末化処理したことにより、後の果肉ペーストへの計量、添加および均質な混合作業を容易にすることができるものとなる。
【0052】
擂潰し・濃縮工程3にあっては、未だ凍結状態にある柿果肉を、フードプロセッサーもしくはフードミルに投入して粉砕する過程中に、その果肉重量を1/2とするまで、水分を飛ばすことにより、柿果肉に含まれる各種栄養成分や嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)が濃縮され、その仕上がり糖度(Brix)を14%に設定しておくことによって柿ペーストの最終仕上がり糖度の調味を容易なものとすることが可能となる。
【0053】
酸化防止剤の添加加工4は、柿果肉ペーストに適量の酸化防止剤を添加することにより、後の加熱作業に際して柿果肉ペーストに含まれる栄養成分や嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)等が酸化してしまうのを防止する処理であり、続く加熱・乾燥柿皮の添加工程5では、柿果肉ペーストを80℃前後に加熱し、皮部乾燥・粉末化工程9で製造した乾燥柿皮粉末の適量を添加し、均質に混合することにより、柿果肉に本来含まれていないゲル化成分を柿皮部分中に含まれるペクチンと糖分とによって補うことが可能となり、ゼラチン、寒天等の増粘剤の添加を不要とするものとなる。
【0054】
大豆粉末添加工程6では、乾燥柿皮粉末の適量を添加し、加熱を停止した柿果肉ペーストの放熱過程中に適量の大豆粉末を添加、均質に混練することにより、柿脱渋処理工程1によって不溶性化されたタンニンを安定化させ、再び水溶性に変化するのを確実に阻止するものである。
【0055】
冷却・密閉包装工程7の25℃以下の常温まで冷却する際に、該加熱・乾燥柿皮の添加工程5中に添加済みの乾燥柿皮粉末が、そのペクチンおよび糖の成分に水分を保持するようにして冷却に伴うドリップの発生を確実に阻止するものとなり、しかも、その冷却過程の最終仕上げ糖度(Brix)を24%にするよう調整し、生産直後および長期保存した後にも柿ペーストの糖度を、幅広い調理に利用可能な水準に保持できるようにすることが可能となり、しかも滅菌環境の下、缶詰、瓶詰、プレスチック容器、レトルト容器、レトルトパウチ等の密閉容器に充填、脱気した上、密閉したものとし、衛生的な長期保存が可能となる。
【0056】
冷凍・出荷工程8により、密閉容器に充填された柿ペーストを急速冷凍、処理して不溶性化したペクチンを安定化させ、柿果実に含まれる栄養成分や嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)等を生鮮な状態のまま保存可能にすると共に、解凍後のドリップを阻止可能とし、冷凍保存ならびに冷凍輸送可能な荷姿とすることができる。
【0057】
この発明の柿ペーストを用いて製造した柿ペースト入りゼリーは、その試作品1のゼリーによると、グルコノーδ−ラクトン(マイルドpH:商品名)0.2gの添加のみの場合にはpHを十分に下げることができなかったが、クエン酸0.05gを添加することにより、目標とする任意のpH値に調整することが可能となる。また、最終仕上がり糖度(Brix)を25%とするよう調味、設定し、製造から2日後には、糖度(Brix)が29%に、pH(水素イオン指数)が3.88となり、柿果実らしい深い甘みと適度な酸味とを呈するゼリーとなり、さらに脱渋柿果肉片2枚がゼリーの付加価値を高めるものとなる。
【0058】
試作品2のゼリーも同様に、一般的な柿果実以外のフルーツゼリーにおける通常の糖度(Brix)20%を上回る糖度(Brix)29%を確保し、柿果実らしい味わい成分と高い栄養成分とを含み、ゼリー中に浮かぶ脱渋柿果肉片が、製品の視覚的、食感的品格を高めるものとなる。
【0059】
試作品3のゼリーは、前記試作品1および2に比較して、柿ペーストの添加量を35.0gと比較的多く設定し、これに伴いクエン酸の量も0.08gに増量したことにより、濃厚な柿果実の味覚と酸味とを得るものとなり、柿皮を含む柿果実の栄養成分を高濃度で含有するゼリーを製造することに成功したものである。
【0060】
(実施例の効果)
以上のような構成からなる実施例1の柿ペーストの製造方法は、前記この発明の効果の項で記載の特徴に加え、図1中に示した加熱・乾燥柿皮の添加工程5の工程中に、加熱された柿果肉ペースト中に添加される乾燥柿皮粉末が、柿果実由来のペクチンと糖とを有しており、ゲル化剤の役目を果たすものとなって寒天やゼラチン等のゲル化剤の添加を不要とする上、柿果肉成分中に柿皮成分を配合するという特徴的な調理手段により、完成後の柿ペーストの栄養成分と嗜好成分(味覚成分、香り成分、色素成分等)とを濃厚且つ自然な味わいのものとすることができ、従前までであれば柿果実の風味を薄めてしまう凝固剤類を一切、不要として高品位の柿ペーストを生産することができるという効果を奏するものとなる。
【0061】
さらに、大豆粉末添加工程6の過程中に添加される大豆粉末が、柿ペースト中に含まれる不溶性タンニンを、加熱調理によって水溶性に変化しないよう、不可逆的に固定、安定化させるものとなり、これによって柿ペーストを添加して製造されたパンや焼き菓子、麺類、蒲鉾等の様々な加工食品類を、加熱調理した際にも柿の渋味が再生されることなく、加熱調理の有無に拘わらず、多様な食品や飲料等に添加できる付加価値の高い柿ペーストを実現する。
【0062】
また、実施例2の柿ペースト入りゼリーの試作品1および2は、何れも実施例1に示した柿ペーストに基づき、ゼリー製剤を配合する等して製造したゼリー中に、脱渋柿の所定厚さにスライスし、最終仕上がり蔗糖度(Brix)を40%とするよう糖漬けし、適量の酸化防止剤を添加して急速冷凍させた1個または複数個の脱渋柿果肉片を混在させたものとして柿果実の風味を高めると共に、栄養成分も増量することが可能となり、従来の技術では極めて困難であった味覚と品質とのバランスを高い水準で実現化させ、付加価値を高めることができ、試作品3は、柿ペーストの濃度を一段と高め、より新鮮な柿果実に近い味覚を得ることができるという秀れた特徴を発揮できる。
【0063】
(結 び)
叙述の如く、この発明の柿ペーストの製造方法、およびそれによって製造した柿ペースト、ならびにそれらによる柿ペースト入りゼリー、その新規な構成によって所期の目的を遍く達成可能とするものであり、しかも製造、容易で従前からの食品工場に既存の設備を利用して製造することが可能であって経済的に製造することが出来る上、生産過剰となった生柿を、長期保存可能で付加価値に秀れた柿ペーストに加工することにより、柿果樹の生産農家は固よりのこと、1年中に渡って新鮮な柿の味覚を提供したいと望む、菓子業界や製麺業界を含む様々な食品加工業者、販売業者、および消費者にとっても、高く評価され、広範に渡って利用、普及していくものになると予想される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図面は、この発明の柿ペーストの製造方法の技術的思想を具現化した代表的な一実施例を示すものである。
【図1】柿ペーストの製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 柿脱渋処理工程
2 凍結・皮剥き工程
3 擂潰し・濃縮工程
4 酸化防止剤の添加工程
5 加熱・乾燥柿皮の添加工程
6 大豆粉末添加工程
7 冷却・密閉包装工程
8 凍結工程
9 皮部乾燥・粉末化工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮部、蔕部、種を除去して擂り潰したものを、その重量で半減するまで乾燥して糖度(Brix)を14%に達するようにした脱渋柿実部に、適量の酸化防止剤を加えて75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮の粉末適量を添加、混合したものとした上、さらにその加熱停止状態中に仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、混合して最終仕上がり糖度(Brix)を24%に調整し、密閉包装容器に充填、凍結してなるものとしたことを特徴とする柿ペースト。
【請求項2】
皮部、蔕部、種を除去して擂り潰したものを、その重量で半減するまで乾燥して糖度(Brix)を14%に達するようにした脱渋柿実部に、適量の酸化防止剤を加えて80℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮の粉末適量を添加、混合したものとした上、さらにその加熱停止状態中に仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、混合して最終仕上がり糖度(Brix)を24%に調整し、密閉包装容器に充填、急速凍結してなるものとしたことを特徴とする柿ペースト。
【請求項3】
脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程を行うようにした、請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストの製造方法。
【請求項4】
脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を乾燥、粉末化しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て凍結させ、出荷、保存可能とする工程を行うようにし、脱渋処理工程によって水溶性から不溶性へと変化させた柿タンニンに大豆蛋白質を結合させ、不溶性を不可逆的に固定化すると共に、柿皮のペクチンおよび糖によって水分の分離を阻止可能な粘度を確保可能としてなるようにした、請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストの製造方法。
【請求項5】
脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を遠赤外線の照射と送風とによって乾燥させ、粉末化加工しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、所定仕上がり糖度に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て75ないし85℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、常温まで冷却してから密閉包装工程を経て急速凍結させ、出荷、保存可能となるようにする工程を行うようにした、請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストの製造方法。
【請求項6】
脱渋処理工程を施した柿を、凍結・皮剥き工程によって実部と皮部とに分離し、皮部を遠赤外線の照射と送風とによって乾燥させ、粉末化加工しておく一方、実部から蔕部や種を除去してからフードプロセッサーにかけ、重量を1/2とするまで乾燥させ、仕上がり糖度(Brix)を14%に設定する擂潰し・濃縮工程を行い、酸化防止剤適量の添加工程を経て80℃に加熱し、仕上がり重量の5%以上の乾燥柿皮粉末適量を添加、撹拌する工程の後、加熱を停止させて仕上がり重量の5%以上の大豆粉末適量を添加、撹拌する工程を行い、最終仕上がり糖度(Brix)を24%にするよう調整しながら常温まで冷却し、密閉包装工程を経て急速凍結させ、出荷、保存可能となるようにする工程を行うようにした、請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストに、ゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水夫々の適量ずつを混合、均質化したものを、型容器に充填して整形、凝固し、最終仕上がり蔗糖度(Brix)で20ないし30%に設定してなるものとしたことを特徴とする柿ペースト入りゼリー。
【請求項8】
前記請求項1または2何れか一項記載の柿ペーストに、ゼリー製剤、果糖、pH調整剤、クエン酸、ビタミンC、水夫々の適量ずつを混合、均質化して最終仕上がり蔗糖度(Brix)で20ないし30%としたゼリー溶液と、皮部、蔕部、種を除去した脱渋柿を所定厚さにスライスし、あるいは所定寸法のブロック状に刻み、最終仕上がり蔗糖度(Brix)で40%となるよう糖漬けし、適量の酸化防止剤を添加して急速凍結させた1個または複数個の脱渋柿果肉片とを、型容器内で凝固させてなるものとしたことを特徴とする柿ペースト入りゼリー。

【図1】
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【公開番号】特開2007−209221(P2007−209221A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30333(P2006−30333)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(502427552)櫛引農村工業農業協同組合連合会 (3)
【Fターム(参考)】