説明

校正機能付き冷陰極形電離真空計

【課題】センサーの状況変化により生じた計測誤差の校正方法を求める。特に冷陰極形電離真空計は生産現場においても校正が容易な方法を求める。
【解決方法】表示が正確な計測器と誤差をもつ計測器の表示がE2PROMのデータ参照方式で表示され,両者のセンサーが同一雰囲気中にあれば誤差の校正は容易に行えた。また冷陰極形電離真空計の校正もスポット式で簡単に行えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷陰極形電離真空計の分野に属する
【背景技術】
【0002】
半導体製品,薄膜の製造,および冶金等の分野において,大気を遮断した容器内を真空雰囲気,またはガス雰囲気にする真空装置を用いる。このようなとき当該容器内の圧力,すなわち,真空度を知る必要があり,計測器として真空計が存在する。
【0003】
一般に使用されている高真空領域真空計には様々な種類があるが冷陰極形電離真空計もその一種である。これにはペニング型,マグネトロン型,逆マグネトロン型,またそれぞれに複雑な補助電極をつけた高度の技術を有するものが多数使用されている。いずれも繊細な熱フィラメントを持たないため構造的に堅牢である。しかし放電を利用しているので時間的経過と共に内部に汚損を生じ,またこの汚損を除き再組立てしても,標準とする真空計との間に若干の計測値の差異を生じる。
【0004】
冷陰極形電離真空計の構成は,一部の大規模な製造ラインを除けば,表示機能を持つ本体,真空槽の内部または外部に機械的に固定され,真空槽と同一気圧に保たれている測定子,および本体と測定子を電子的に結合するためのケーブルの3部位よりなる。
【発明の開示】
〔本発明が解決しようとする課題〕
【0005】
冷陰極形電離真空計に生じる測定値の差異,即ち誤差は測定子に起因する。
しかし従来の機器にはその誤差を除く簡便な方法はなかった。このような実態より,測定子によって生じる誤差を真空計本体によって補正する簡便な方法を,本発明の解決しようとする課題にした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下の記述においては誤差を生じている真空計を被校正機と呼び,正しい真空度を示している真空計を標準機と呼ぶ。また両者の測定子は同一真空槽に取りつけ,同一圧力下に置く。
【0007】
以下の技術的記述は,冷陰極形電離真空計全般に及ぶが説明には図1に示す逆マグネトロン方式の冷陰極形電離真空計によって説明する。図右方上部は測定子の断面図1で排気管2によって真空槽に連結されている。リング状磁石3によって磁界が与えられ,イオンコレクタ4は円筒の両端にドーナツ状の円板を備え接地されている。陽極5は高電圧電源6により2000〜3000Vの高電位にあり,陽極に発生したマイナス電流は真空計本体中の増幅回路7と中央演算子を含む本体8に流入する。
【0008】
本体からの信号により表示器9は真空度を表示し,必要があればインターフェイス端子10より真空度に関するデータと信号を送出する。
【0009】
被校正機の校正は真空度の指示に必要な中央演算素子のコントロール下にあるメモリーテーブルの上書きにより行われる。そのとき被校正機は通常の計測状態になく,メモリーを書き換えられる状態に置く必要がある。このような状態を校正モードと呼び通常の測定時と異なるモードである。
校正モードに入るにはモード変更用のスイッチを設けてもよいが以下の記述はパネル面の操作スイッチを利用した方法である。校正は真空度を変化させながら行うので真空装置を高真空側から低真空側に変化させるか,またその逆方向にするか選定する必要がある。
【0010】
このような要素があることからモード1とモード2を設けいずれの選択も可能なようにプログラムした。モードの変更は図2に示す本体正面のパネル釦を使用した。図2によりパネル面の概要を示す。
最上部窓は表示真空度の仮数部と乗数部である。測定開始時の操作は,POWERスイッチにより電源を入れた後,START釦により測定を開始し,STOP釦により計測を終る。P/T釦はTORR値を知りたい時に用いる。
【0011】
SET1〜SET4は希望の数値をSET POINTの三角釦により選定し,希望の真空度に達した時,背面パネルに信号を送出する。
【0012】
モード1と2はSTOP釦を押しながらPOWERスイッチをONにするか,P/T釦を押しながらPOWERスイッチをONにするかで選択できる。
【0013】
以下に述べる校正の3例はいずれも高真空から低真空に移行する方法のみについて記述しているが,このときE2PROMの上書きはアドレス下位より始まるようにプログラムされておりモード1と呼ぶ。
真空装置の構造によっては低真空から高真空に移行させ易い場合はモード2を選択すればよい。
〔課題を解決するための手段,その1〕
【0014】
被校正機と標準機の測定子を同一圧力下におき,インターフェイス機能,例えばRS−232Cにより,両者を結線し校正を行う。
【0015】
即ち図1左方の測定子11と本体12よりなる標準真空計のインターフェイス端子13と被校正機のインターフェイス端子10を図中点線のように結線する。校正はシェイクハンド方式により標準機より送られる。送信データはアスキーデータ方式により送信されるが,内容は真空度データのみで他の要素は含まない。
【0016】
他は送信できる状態にあるか否かを示す信号線,および被校正機より送る送信要求線の3要素のみである。
【0017】
被校正機より標準機に送る送信要求は,被校正機を校正モードに入れSET1の表示窓にOKに相当する信号が表れ,STAT釦を押すことにより始まる。
【0018】
上記状態において標準機よりは常時現在の真空度データをアスキーデータ方式によりRS−232Cより送信している。一方被校正機はその真の真空度データを常時受信し,決められた手順に従ってメモリに記録し,校正した真の真空度データをメモリーテーブル上に展開する。校正機の測定においては新しいテーブルも参照し測定結果とする。
【0019】
校正範囲を1.0E−5PASCALから1.0E0 PASCALの範囲で行う場合,標準機の表示が−5乗PASCAL台では被校正機の測定子には電流が流れ始めない。即ち放電が始まらない場合がある。このようなとき被校正機はE2PROMにLの字に相当するデータを送り測定子に電流が流れ始めてから標準機と等しいデータをメモリーテーブル上に展開する等のプログラムを用意する。
【0020】
インターフェイスを利用して標準機より連続的に送られてくるデータによる自動校正する方法は,例えば測定範囲内で複数の固定ポイントを設定し,そのポイント間は数式による演算方式をとる場合においても活用できる。
〔課題を解決するための手段,その2〕
【0021】
被校正機の校正に,標準機のインターフェイス機能を用いる方法で,校正モードに入れた時に以下の手動校正が行われるようにプログラムされている。具体的には標準機の真空度表示を目視しながら被校正機の校正を行う。真空度指数の各一乗当り5点の固定ポイントを設定し,そのポイント間は数式による演算方式をとる。校正範囲は1.0E−5PASCALから1.0E0 PASCALの範囲である。
【0022】
被校正と標準機のセンサーを同一真空槽に取りつける。
【0023】
校正モードに入れる等,方法は手段1と同様である。校正モードにするとき,標準機の指示が1.0E−5PASCAL以上の高真空になるよう真空槽を調整する。
【0024】
被校正機を校正モードにする。このとき表面パネル面のSET1に1,SET2には1.0−5の表示が現れる。
【0025】
真空槽のバルブを調整し,標準機の指示が1.0E−5PASCALを示したとき,パネル面のSTART釦を押す。
【0026】
次にパネル面のSE1とSET2には番号2と2.0−5の表示が現れる。
【0027】
真空槽のバルブを調整し,標準機の指示が2.0E−5PASCALを示したとき,パネル面のSTART釦を押す
【0028】
以上の手法を1.0E0 PASCALまで順次行い校正を終るが,結果として測定より流入する値に対応した真空度が,被校正機のE2PROMテーブル上に展開される。
【0029】
高真空の範囲ではSTART釦を押したとき,SET1とSET2に表れる数字が点滅するときがある。この場合は測定子に放電電流が流れていない時である。
再度釦を押すと次の数字に進むので,真空槽の圧力を更に高くしてSTART釦を押す。
これを繰り返しSTART釦によりSET1,SET2の数字が点滅しなくなるまで圧力を高め,操作を進めれば1.0E0 PASCALまでの校正作業を終了する。
〔課題を解決するための手段,その3〕
【0030】
課題を解決するための手段,その2に近い方法で,校正モードに入る方法は同じである。
【0031】
手段2と相違する点は標準機の真空度が被校正機のSET2に表示される真空度に一致したとき,START釦を押さない方法である。例えば標準機が1.0E−5PASCALで,被校正機のSET1に1,SET2に1.0−5が表示され被校正機の測定子に同一電流が数秒間保持されるとき,被校正機は1.0−5自動認識し,次のSET2に2.0−5に変わる。
【0032】
更にバルブを調整し標準計の指示により槽内を2.0E−5PASCALに数秒間保持すれば2.0E−5PASCALに相当するデータは自動的に書き込まれる。これを順次行えば,手段2のようにSTART釦をその都度押すことなくROMテーブル上に展開される。
【0033】
上述の解決するための手段2,3により,一乗当り5点の固定ポイントを設定し,そのポイント間を数式による演算方式により正しい真空度を表示することが可能になる。
【0034】
上述のその1,その2,その3のいずれの場合も校正作業を終った後,一旦電源を切り校正モードより抜け出した後に再度電源を入れれば,通常の真空度計測に戻ることが出来る。
〔冷陰極形電離真空計の校正方法の応用〕
【0035】
1.熱伝導真空計
【0036】
熱伝導真空計には熱電対真空計,定温度形ピラニ真空計など各種のものがある。いずれの場合も測定子内部にフィラメントを張り,これに電流を流すことにより加熱し,その温度変化に起る現象を読み取り,真空計とする装置である。
【0037】
熱伝導真空計の大きな欠点は経年変化によるフィラメントを原因とする線径の変化,およびフィラメントの表面状態の変化による感度変化である。この変化は真空度指示に誤差を生じるため校正を要する。また真空装置の状況によつては真空計本体と測定子を結ぶ連絡線を通常より延長する必要も生じる。このようなとき連結線の延長はフィラメントの温度を下げるため初期より真空度表示は誤差を生じることが予測されるため校正が必要となる。以後これら校正を要する真空計を被校正用真空計測定子と呼べば,被校正用真空計測定子と正確な標準値を表示する標準真空計の測定子を同一真空雰囲気中に取り付けることは容易である。
【0038】
従って事前に被校正機を校正モードにしインターフェイスを通じ標準真空計と被校正用真空計を接続し真空度を順次変化させれば,標準真空計より送られるアスキー方式の真空度データにより被校正用真空計の真空度表示に必要なE2ROMは上書きされ,被校正用真空計と標準真空計と同一真空度表示となり校正は終了する。
【0039】
2.熱電対形温度計
【0040】
一般に使用されている熱電対形温度計にも,経年変化による熱電対の蒸発,または熱電対先端の感温部分の化学的変化等により誤差を生じる。また温度計測場所によつては,熱電対および温度補償導線を,より延長する場合もある。このようなとき誘導,その他により表示温度により誤差を生じることがあるため校正を要する。
【0041】
発熱体測温部に対し,熱電対先端の占める面積,体積がごく僅少であれば,表示が正確で標準とする温度計の熱電対先端と,被校正用温度計の熱電対先端を先に取りつけても両熱電対先端は同一温度になる。
【0042】
上述の状態において,あらかじめ校正モードにした被校正用温度計と標準温度計をインターフェイスを通じ両者を結線し発熱温度を除々に上昇させれば,標準温度計より送られるアスキー方式の温度データにより被校正温度計の温度表示に必要なE2PROMは上書きされ,被校正用温度計は標準温度計と同一温度表示となり,校正は終了する。
【0043】
以上に冷陰極形電離真空計の校正方法を他の測定器に応用した例について2例あげたがその他種々のものがある。
【発明の効果】
【0044】
表示が正確な計測器があり,誤差を持つ計測器の表示がE2PROMのデータ参照方式によつて表示されており,センサーを同一雰囲気中に置くことが可能な計測器においては比較的容易に校正が可能であることを示すことが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】校正を要する冷陰極形電離真空計と標準真空計の概略図である。
【図2】校正を要する冷陰極形電離真空計の正面パネル図である。
【符号の説明】
【0037】
1 逆マグネトロン冷陰極形電離真空計測定子の断面部である。
2 逆マグネトロン冷陰極形電離真空計測定子の接続管である。
3 ドーナツ状磁石
4 陰極
5 陽極
6 高電圧電源
7 増幅器
8 中央演算素子を含む電子回路
9 表示器
10 被校正機インターフェイス端子
11 標準真空計測定子
12 標準真空計本体
13 標準真空計インターフェイス端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターフェイスを通じアスキー形式で送信されてくる正しい計測器データを,被校正機の表示に必要なテーブル状に展開されているE2PROMに上書きし,これをデータ参照し新しい表示にする計測器および校正方法。
【請求項2】
インターフェイスを通じアスキー形成で送信されてくる真空度データを,被校正機の真空度表示に必要なテーブル状に展開されているE2PROMに上書きし,これをデータ参照し新しい表示とする冷陰極形電離真空計および校正方法。

【図1】
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【図2】
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