説明

核医学診断装置

【課題】
核医学診断装置において複数核種の同時撮像を実施する場合、高エネルギーガンマ線が低エネルギー側へ混入することが問題である。検出器内での散乱線を直接識別し除去することにより、複数核種の同時撮像時の高エネルギー側から低エネルギー側へのデータのコンタミを低減し、画質及び定量性が向上した核医学診断装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
核医学診断装置において、複数の異なるエネルギーの核種の同時撮像を行う際に散乱線処理を実施する処理回路を有することを特徴とする核医学診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を利用した核医学診断装置に係り、特に、陽電子放出型CT
(Positron Emission computed Tomography、以下、「PET」という)及び単光子放出型CT(Single Photon Emission Computed Tomography、以下、「SPECT」という)等の複数種の放射線検査を行うのに好適な放射線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数核種に同時撮像を実施する際に高エネルギー側のデータが低エネルギー側のデータに混入するコンタミの問題が発生する。このコンタミは、ノイズ成分であり、画像がボケる他にも画像の定量性を悪化させる。この問題を解決するための手法は幾つか提案されている。例えば(特許文献1)においては、エネルギースペクトルを算出しそのグラフからコンタミ量を推測して補正している。
【0003】
【特許文献1】特開平7−301674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記公知の手法ではあくまで散乱線のカウントを推測して補正するものであり誤差が大きい問題がある。
【0005】
本発明は、検出器内での散乱線を直接識別し除去することにより、複数核種の同時撮像時の高エネルギー側から低エネルギー側へのコンタミを低減し、画質及び定量性が向上した核医学診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、核医学診断装置において、複数の異なるエネルギーの核種の同時撮像を行う際に散乱線処理を実施する処理回路を有することを特徴とする核医学診断装置とした。
【発明の効果】
【0007】
本構成により、核医学診断装置において複数核種の同時撮像時のコンタミを低減し、診断画像の画質及び定量性を向上し、より高精度な診断を可能としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(実施例1)
以下、本発明の好適な一実施形態である核医学診断装置について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0009】
≪核医学診断装置≫
放射線を利用した検査技術は、被検体内部を非破壊で検査することができる。特に、人体に対する放射線検査技術には、PET,SPECT等がある。
【0010】
これらの技術はいずれも、検査対象の物理量を放射線飛翔方向の積分値として計測し、その積分値を逆投影することにより被検体内の各ボクセルの物理量を計算し画像化する技術である。これらの技術は膨大なデータを処理する必要があり、近年のコンピュータ技術の急速な発達に伴い、高速・高詳細画像を提供できるようになってきた。
【0011】
PET及びSPECTは、X線CT等では検出できない分子生物学レベルでの機能や代謝の検出が可能な手法であり、身体の機能画像を提供することが可能である。
【0012】
PETは、18F,15O,11C,といったポジトロン放出核種で標識した放射性薬剤を投与し、その分布を計測して画像化する手法である。薬剤には、フルオロデオキシグルコース(2−[F−18]fluoro-2-deoxy-D-glucose、18FDG)等があり、これは、糖代謝により腫瘍組織に高集積することを利用し、腫瘍部位の特定に使用される。体内に取り込まれた放射線核種が崩壊しポジトロン(β+)を放出する。放出したポジトロンは電子と結合し消滅する際に、511keVのエネルギーを有する一対の消滅γ線を放出する。この消滅γ線対はほぼ反対方向(180°±0.6°)に放射されるので、被検体の周りを取り囲むように配置した検出素子で消滅γ線対を同時検出し、その放射方向データを蓄積し投影データを得ることができる。投影データをフィルタードバックプロジェクション法(Filtered Back Projection Method )等を使用して逆投影し、放射位置(放射線核種の集積位置)を同定し画像化することが可能となる。
【0013】
SPECTは、シングルフォトン放出核種で標識した放射性薬剤を投与し、その分布を計測して画像化する手法である。薬剤からは100keV程度のエネルギーをもった単一γ線が放出され、この単一γ線を検出素子で計測している。単一γ線の計測では、その飛翔方向を同定できないので、SPECTでは検出素子の前面にコリメータを挿入し、特定の方向からのγ線のみを検出することにより投影データを得る。PET同様、フィルタードバックプロジェクション法等を利用し投影データを逆投影して画像データを得る。PETと異なるところは、単一γ線の計測に起因して同時計測の必要がなく、検出素子の数が少なくて済むこと等であり、装置構成が簡単で比較的安価な装置である。
【0014】
従来のPET,SPECT等の核医学診断装置は、γ線検出器としてシンチレータを使用している。シンチレータは、入射したγ線を一旦可視光に変換し、その後、光電子増倍管(ホトマル)により電気信号に変換し直すという処理が行われている。シンチレータは、可視光変換時のホトン発生数が少ない上に、上記のように2段階の変換過程を必要とするためにエネルギー分解能が低く、必ずしも高精度の診断を行うことができないという問題を有していた。エネルギー分解能の低下は、特に、PETの3D撮像時に定量性評価が出来ない原因となっている。なぜなら、エネルギー分解能が低いためにγ線のエネルギー閾値を低くせざるを得なく、3D撮像時に増加するノイズである体内散乱を多く検出してしまうからである。また、複数のシンチレータの信号を1つのホトマルで増幅し重心演算することにより検出位置を特定しているために、検出位置に誤差が生じる問題を有している。
【0015】
近年、これらの核医学診断装置用の検出器として半導体検出器が注目されている。半導体検出器は入射したγ線を直接電気信号に変換するものであり、生成される電子、ホール対の数が多いために、エネルギー分解能が高いのが特徴である。また、検出は個々の半導体検出器で独立に行われるので、位置分解能が良いという特徴も有している。さらに、半導体検出器は微細化が可能であり位置分解能を向上することが出来る。
【0016】
上述の通り半導体検出器はエネルギー分解能が高く、エネルギーの異なる2核種同時撮像において、エネルギー弁別により核種を識別することが可能となる。また、トランスミッションとエミッション(又はシングルホトン)の同時撮像においてもそのエネルギー情報により弁別するために、エネルギー分解能の高い半導体は有利である。
【0017】
複数核種の同時撮像は、その診断手法を拡張するものでありその応用性は高い。また、トランスミッションとエミッションの同時撮像は、撮像時間の短縮が可能である。
【0018】
しかし、複数核種の同時撮像においては、高エネルギー側の放射線が散乱するために低エネルギー側の検出データに混入するコンタミの問題がある。上述のように半導体検出器はエネルギー分解能が高く、エネルギーウインドウを狭められるので、高エネルギー側からのコンタミを減らすことが可能となる。
【0019】
また、半導体検出器を用いた核医学診断装置においては、シンチレータと比較してその質量が小さく検出器内での散乱線量が増大する。
【0020】
尚、同時撮像の同時は、2核種の画像についてそれぞれ表示画面に一枚ずつ表示できる程度のデータを得る時間が一部重複していれば良い。従来技術の特開平7−301674号公報に記載された同時撮像と同様である。
【0021】
本実施形態の核医学診断装置である陽電子放出断層撮影装置(以下、「PET(PositronEmission Tomography) 装置」という)1を、図1を用いて説明する。PET装置1は、カメラ(撮像装置)11、データ処理装置12、表示装置13等を含んで構成されている。被検体である被検者は、ベッド14に載せられてカメラ11で撮影される。カメラ11は、多数の半導体放射線検出器21(図3参照)を内蔵しており、被検者の体内から放出されるγ線を半導体放射線検出器(以下、単に検出器という)21で検出する。カメラ11は、そのγ線の波高値、検出時刻を計測するための集積回路(アナログASIC)24を設置しており、検出した放射線(γ線)の波高値や検出時刻を測定する。撮像装置はカメラ11を示し、データ処理装置12で行う画像作成処理を含まない装置である。データ処理装置12は、記憶装置、同時計測装置12A(図2参照)及び画像作成装置12B(図2参照)を有する。データ処理装置12は、検出したγ線の波高値、検出時刻のデータ及び検出器(チャンネル)IDを含むパケットデータを取り込む。同時計測装置12Aは、本パケットデータ、特に検出時刻のデータ及び検出器IDに基づいて同時計測を行い、
511KeVのγ線の検出位置を特定し記憶装置に記憶する。画像作成装置12Bは、この検出位置に基づいて機能画像を作成して、表示装置13に表示する。
【0022】
図2は、図1のPET装置のカメラの周方向の断面を模式的に示し、PET装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションとトランスミッションの同時撮像を示した図である。図2に示すように、カメラ11の内部は、被検者から放出されるγ線を検出するため、検出器21を多数備えた検出器基板20(詳細は図3参照)を複数収納した検出器ユニット2が、ベッド14の周囲に環状に多数配置されている。被検者は、ベッド14の上に横になり、カメラ11の中心部に位置される。このとき、各検出器21はベッド14の周囲を取り囲んでいる。ちなみに、被検者は、放射性薬剤、例えば、半減期が110分の18Fを含んだフルオロ・ディオキシ・グルコース(FDG)を投与される。被検者の体内からは、FDGから放出された陽電子の消滅時に一対のγ線(消滅γ線)が180°の反対方向に放出される。
【0023】
また、図2に示すようにトランスミッション線源30を有し、被検体の周りを回転する(線源保持機構と回転機構は図示せず)。本実施例においては、トランスミッション線源として662keVのシングルガンマ線を放出する137Csを使用している。本トランスミッション線源30にはコリメータが配置されており、ガンマ線が被検体方向にのみ放出されるようになっている。
【0024】
以下、本実施形態の特徴部分の説明を行う。
【0025】
≪検出器基板≫
検出器ユニット2内に設置される検出器基板20の詳細構造を、図3を用いて説明する。検出器基板20は、複数の検出器21並びにアナログASIC(アナログ集積回路)
24、アナログ/デジタル変換器(以下、ADCという)25及び検出器FPGA(デジタル集積回路)26等が設置されている。
【0026】
図3(a)に示されるように、検出器基板20は、基板本体の片面上に、複数の検出器21を格子状に配列して設置(実装)している(一列16個の検出器21が4列=横16個×縦4個の合計64個)。カメラ11の半径方向において、検出器21は基板本体に4列配置される。なお、前記した横16個の検出器21は、カメラ11の軸方向、すなわちベッド14の長手方向に直角に配置される。また、図3(b)に示されるように、検出器基板20の両面に半導体放射線検出器21が設置されているので、1つの検出器基板20には、合計128個の検出器21が設置されていることになる。各検出器からの信号は、基板内の配線(図示せず)を通してアナログASIC24に接続されている。ちなみに、図3(a)において、ベッド14上の被検者から放出されたγ線が、図面の下方から上方に進行する。
【0027】
前記説明では、横16個の検出器21は、カメラ11の周方向に配置される構造としたが、それに限定されない。例えば、横16個の検出器21を、カメラ11の軸方向に配置する構造としてもよい。配置する検出器数は任意である。
【0028】
各検出器21は、CdTe(テルル化カドミウム)である。また、検出器21として
TlBr(臭化タリウム)またはGaAs(ガリウム砒素)等を用いてもよい。
【0029】
≪信号処理方法≫
次に本実施例における信号処理方法について図4を用いて説明する。検出器21でガンマ線を捉える微少な電荷信号を発生する。この電荷信号をアナログASIC24にて増幅し、ガンマ線のエネルギーに対応した波高値信号(アナログ信号)と検出時刻に対応したタイミングを示すタイミング信号をそれぞれ出力する。波高値は、ADC25に入力され、ADC25によりデジタル信号に変換される。ADC25では、例えば波高値を10ビット(0〜1023)のデジタルの波高値に変換する。また、タイミング信号は、検出器FPGA26に出力される。
【0030】
検出器FPGA26は、アナログASIC24及びADC25の出力信号からイベントデータ(放射線検出信号)を作成する。このイベントデータは、ADC25が波高値信号(アナログ信号)からデジタル信号に変換したエネルギー情報Ie、アナログASIC24のタイミング信号から検出時間It及び検出した検出器の位置情報Isからなる。生成したイベントデータは統合FPGA27に出力される。
【0031】
統合FPGA27では、複数のイベントデータI(Is,Ie,It),J(Js,
Je,Jt)から散乱線処理を実施し合成データK(Ks,Ke,Kt)を生成し、データ処理装置12にデータ転送する。ここで、散乱線処理とは、複数の放射線検出器で検出されたイベントデータ(放射線検出信号)を足し合わせて合成データ(高エネルギーの検出信号)を生成するものである。例えばコンプトン散乱により、例えば最初の半導体放射線検出器に200keVのエネルギーを落とし、例えば近隣の半導体放射線検出器に残りのエネルギーを落とした場合、両γ線のエネルギーの合計値、検出時刻、半導体放射線検出器のアドレスの関係から、両γ線を散乱線として1つのγ線と見なす処理である。被検体内で散乱した散乱線はノイズであり、正しい高エネルギーのデータとはならないので散乱線処理の対象ではない。データ処理装置12内部では、同時計測装置12Aにおいて同時計測し画像作成装置12Bにおいて画像再構成を行い、PET画像を得る。
【0032】
次に統合基板上23上の統合FPGA27及びデータ処理装置12におけるデータ処理内容の詳細について図5及び図6を用いて説明する。統合FPGA27においては、入力された複数のイベントデータ(図5ではイベントI,Jの組)から、散乱線処理を実施する。散乱線処理は、以下で説明する3条件を満たすイベントの組を見つける手法である。一つ目は、イベントを検出した検出器間の距離が特定の閾値以内であることで、本実施例における閾値は4cmとしている。この閾値は、ガンマ線が検出器内で散乱した後に、次に検出されるまでの距離をシミュレーションにより検討し決定した値である。本閾値は、検出器の種類や配置方法等で所定距離に最適化する必要がある。二つ目の条件は、時間条件である。イベント検出時間差が特定の閾値以内であることが必要で、本実施例では6
nsとしている。この閾値は、半導体検出器の時間分解能から決定したもので、検出器の種類や検査に使用する放射性物質の量等により所定時間差に最適化する必要がる。最後の条件はエネルギー条件である。本実施例では、エミッション(511keV)とトランスミッション用の137Cs(662keV)のシングルガンマ線を同時撮像するために、エネルギー閾値を450keVから550keV及び600keVから700keVとしている。上記2条件を満たしエネルギー条件450keVから550keVを満たしたイベントはエミッションデータとしてデータ処理装置12に出力される。また、上記2条件を満たしエネルギー条件600keVから700keVを満たしたイベントはトランスミッションデータとしてデータ処理装置12に出力される。
【0033】
データ処理装置12では、同時計測装置12Aにおいてエミッションデータの同時計測を実施し対データを生成する。得られたエミッションの対データと散乱線処理後のエミッションデータから、画像再構成装置12Bにより画像再構成し、PET画像を出力する。
【0034】
図6は、統合FPGA27での散乱線ノイズを低エネルギー側カウントから直接除く処理を示す。ステップ601は、イベントデータを低エネルギー側の放射線検出信号として識別する処理である。ステップ601で、イベントIが低エネルギー側の核種のデータとして判断された場合、棄却されずに次のステップ602へ進む。図5で説明したように、ステップ500で、統合FPGA27は複数のイベントデータI(Is,Ie,It),J(Js,Je,Jt)から散乱線処理を実施し合成データK(Ks,Ke,Kt)を生成し、データ処理装置12に高エネルギー核種側のデータとして転送する(破線矢印)。ステップ602で、低エネルギー側の核種のデータであるイベントIが散乱線処理であるステップ500で高エネルギー側核種のデータである合成データKに使用されていた場合、データを棄却する。散乱線処理により低エネルギー側の放射線信号の一部を除いて高エネルギー側の放射線信号としている。これにより高エネルギー側の核種の散乱線ノイズを低エネルギー側カウントから直接除くことができる。
【0035】
図6の例では、イベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップ601の処理に対して、散乱線処理(500)を独立した処理としているが、ステップ
601の後処理としても良い。また、図8で後述するが、散乱線処理(500)をステップ601の前処理としても良い。よって、イベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップの処理に対して、前処理、後処理及び独立した処理のいずれか一つとして、複数の放射線検出信号を足して高エネルギーの検出信号を生成する前記散乱線処理を行うことができる。
【0036】
イベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップ601の処理に対して、散乱線処理(500)を独立した処理とした場合、統合FPGA27を複数設けて、それぞれで処理を行っても良い。
【0037】
また、図6には記載していないが、複数の検出器で検出された放射線検出信号を高エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理を、ステップ601やステップ500と独立又は連続に実施しても良い。
【0038】
≪効果≫
本発明の効果について図7を用いて詳細に説明する。図(a)は散乱線処理前のエネルギースペクトルを示す。半導体検出器はエネルギー分解能が高いので、エミッションによる511keV及びトランスミッションによる662keVのホトピークを完全に分離しており、エミッションとトランスミッションのエネルギーウインドウ(上述の散乱線処理のエネルギー閾値)を設定してエミッションとトランスミッションデータを分離することが可能である。しかし、トランスミッションデータは散乱線によりホトピークより低いエネルギーとして検出される場合が有りこれがエミッションデータへのコンタミとしてカウントされてしまう。図(b)に散乱線処理後のエネルギースペクトルを示す。散乱線処理により、低エネルギーにカウントされていた複数イベントを合成してホトピーク部分にカウントすることになるので、上記コンタミ部分が減少する。同時にホトピーク部分(エネルギーウインドウ内)のデータ数が増加している。つまり本手法により、直接的にコンタミ部分データからホトピーク部分の真のデータを生成しており、データ処理による誤差も少ない手法である。以上より本手法により真のデータが増加し偽のデータ(ノイズ)が減少しており、出力される画像の画質及び定量性が向上する。言い換えると、検出器内での散乱線を直接識別し除去でき、複数核種の同時撮像時、又は、トランスミッションとエミッションの同時撮像時の高エネルギー側から低エネルギー側へのコンタミを低減し、画質及び定量性を向上できる。
【0039】
本実施例の効果を以下に記す。
(1)本発明の散乱線処理を実施することにより、複数核種の同時撮像時のコンタミが減り、画質及び定量性の向上が図れる。
(2)半導体検出器を用いた核医学診断装置に本発明を適用することにより、半導体検出器の高エネルギー分解能とコンタミの減少効果とにより、より高い画質及び定量性が実現できる。
(3)半導体検出器を用いた核医学診断装置において半導体検出器を奥行き方向(ガンマ線の入射方向)に多段に配置することにより、前段の半導体検出器で散乱したガンマ線を後段の半導体検出器で検出し、それぞれの散乱線の情報を個別に読み出すことが可能となる。更に本発明の散乱線処理を実施することにより、複数核種の同時撮像がより高い画質及び定量性で実現し更に感度も向上し検査時間の短縮が図れる。
(4)本発明の散乱線処理を実施することにより、上記(1)(2)及び(3)の効果が得られ、より高精度な診断を可能とする。
(5)本発明の散乱線処理を実施することにより、上記(1)(2)及び(3)の効果が得られ、現在実現されていない複数核種の同時撮像が可能となり、診断手法の応用が広がる。
(6)本発明の散乱線処理を実施することにより、コンタミの減少以外にも真のデータ数が増加するので撮像時間の短縮が図れる。
(7)本発明をPET装置に適用した場合、エミッションとトランスミッションの同時撮像が高精度で実現可能となる。
(8)半導体検出器を用いたPET装置に本発明を適用した場合、半導体検出器の高エネルギー分解能とコンタミの減少効果とにより、より高い定量性が得られ高精度な診断を実現できる。
(9)本発明をPET装置に適用した場合、上記(7)及び(8)の効果が得られ、トランスミッションとエミッションの同時撮像が可能となるために、撮像時間の短縮が可能となる。
(10)本発明をPET装置に適用した場合、上記(7)及び(8)の効果が得られ、トランスミッションとエミッションの同時撮像が可能となるために、エミッション撮像時にトランスミッション画像から被検体の動きを補正(体動補正)することが可能となり、エミッション画像のボケを低減し、より高精度なPET画像を得ることができる。
【0040】
(実施例2)
図8は、図6の散乱線処理の別実施例を示す図であり、統合FPGA27での散乱線のノイズを低エネルギー側カウントから直接除く処理を示す。
【0041】
ステップ801は、イベントデータを高エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理である。ステップ801で、高エネルギー側の核種からの放射線信号と判定されたイベントはデータ処理装置12に転送する。ステップ801で高エネルギー側の核種からの放射線信号ではないと判定されたイベントはステップ500へ進む。ステップ500にて散乱線ノイズ除去を実施する。図5で説明したように、ステップ500で、統合FPGA27は複数のイベントデータI(Is,Ie,It),J(Js,Je,Jt)からエネルギー判定以外の散乱線処理を実施する。
【0042】
ステップ500にて散乱線と判定されたデータは合成データK(Ks,Ke,Kt)を生成し、ステップ803に移行する。本処理により低エネルギー側イベントから高エネルギー側の散乱線ノイズを除去している。また、除去されたデータ中でステップ804にて条件を満たした合成データは、ステップ801の有効データと共に高エネルギー側の核種からの放射線信号であるイベントとしてデータ処理装置12に転送する。
【0043】
ステップ500にて散乱線データと判定されなかったデータは、ステップ802で処理される。
【0044】
ステップ802は、イベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理である。ステップ802で低エネルギー側の核種と判定されたイベントは低エネルギー側の核種からの放射線信号としてデータ処理装置12に転送する。
【0045】
図6のイベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップ601の処理に対して、散乱線処理500を独立した処理又は後処理とした例と比較して、図8のイベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップ802の処理に対して、散乱線処理500を前処理とすることで、統合FPGA27の処理をシンプルにすることができる。図6のイベントデータを低エネルギー側の放射線信号として識別するステップ601の処理に対して、散乱線処理500を独立した処理とすることで、図8の処理に比較して、処理速度を上げることができる。
【0046】
また、図6や図8の統合FPGA27の処理は、複数の異なるエネルギーの核種の撮像を行う際に実施する散乱線処理500と、複数の検出器で検出された放射線検出信号を低エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理(601,802)と、複数の検出器で検出された放射線検出信号を高エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理
(801)とを独立又は連続に実施し、前記散乱線処理は前記低エネルギー側の放射線信号の一部を除いて高エネルギー側の放射線信号とする処理を実行している。
【0047】
(実施例3)
本実施例では、図9を用いて、SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションの同時撮像を行い、SPECT装置により検出器内での散乱線を直接識別し除去する例を記載する。SPECT装置51は、一対の放射線検出ブロック52、回転支持台(回転体)57、データ処理装置60、及び表示装置13を備える。それらの放射線検出ブロック52は、回転支持台57に周方向に180°ずれた位置に配置される。具体的には、それぞれの放射線検出ブロック52の各ユニット支持部材56が周方向に180°隔てた位置で回転支持台57に取り付けられる。12枚の結合基板23を含む複数の検出器ユニット2がそれぞれのユニット支持部材56に着脱可能に取り付けられる。従って、検出器21がユニット支持部材に保持される。統合FPGA27の処理内容は、実施例1,2で記載した、エネルギーの異なる2核種によるトランスミッションとエミッションの同時撮像の処理と同様である。放射線遮蔽材(例えば、鉛、タングステン等)で作られたコリメータ55がそれぞれの放射線検出ブロック52に設けられる。各コリメータ55は、放射線(例えば、γ線)を通過する多数の放射線通路を形成している。これらの放射線通路は、1つの放射線検出ブロック52の全検出器基板20において先端部に位置する各検出器21と一対一に対応して設けられている。全結合基板23及びコリメータ55は回転支持台57に設置された遮光・電磁シールド54内に配置される。コリメータ55は遮光・電磁シールド54に取り付けられる。遮光・電磁シールド54はγ線以外の電磁波の検出器21等への影響を遮断している。
【0048】
データ処理装置60の処理内容は、データ処理装置12の処理の内、同時計測12Aが無く、画像再構成12Bは同じである。データ処理装置60は、回転支持台57を回転させるモータ(図示せず)の回転軸に連結された角度計(図示せず)で検出された回転角度が入力される。この回転角度は、それぞれの放射線検出ブロック52の回転角度を示し、具体的にはそれぞれの検出器21の回転角度を示している。データ処理装置60は、この回転角度を基に、旋回している各検出器21の旋回軌道上での位置(位置座標)を求める。このため、γ線を検出した時点での検出器21の位置(位置座標)が求められる。データ処理装置60は、算出した検出器21の位置を基に、波高値情報が設定値以上になるγ線を計数する。この計数は、回転支持台57の回転中心を基準に0.5°ずつ区切って得られる各領域に対してなされる。データ処理装置60は、γ線を検出した時点での検出器21の位置情報及びγ線の計数値(計数情報)を用いて、放射性薬剤の集積位置、すなわち悪性腫瘍位置での被検者の断層像情報を作成する。この断層像情報は表示装置13に表示される。前記のパケット情報、検出器21の位置情報、及び断層像情報等の情報は、データ処理装置12の記憶装置に記憶される。
【0049】
本実施例によれば、他の実施例で示した効果の他、SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションの同時撮像時に、検出器内での散乱線を直接識別し除去でき、高エネルギー側から低エネルギー側へのコンタミを低減し、画質及び定量性を向上することができる。
【0050】
(実施例4)
本実施例では、図10を用いて、SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションとトランスミッションの同時撮像を行い、SPECT装置により検出器内での散乱線を直接識別し除去する例を記載する。SPECT装置51は、図9と同じである。コリメータ22及びトランスミッション線源は図2と同じである。データ処理装置60の処理内容は、エミッションデータの処理は図9と同じである。データ処理装置60でのトランスミッションデータの処理については、データ処理装置12の処理と同じである。
【0051】
本実施例によれば、他の実施例で示した効果の他、SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションとトランスミッションの同時撮像時に、検出器内での散乱線を直接識別し除去でき、高エネルギー側から低エネルギー側へのコンタミを低減し、画質及び定量性を向上することができる。
【0052】
以上本発明について好適な実施の形態について例を示したが、本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態に係る核医学診断装置としてのPET装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図1のPET装置のカメラの周方向の断面を模式的に示し、PET装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションとトランスミッションの同時撮像を示した図である。
【図3】図2の検出器ユニットに含まれる検出器基板の構成を示し、(a)検出器基板を示した正面図、(b)は検出器基板の側面図を模式的に示した斜視図である。
【図4】本発明のデータ処理フローを示したデータ処理フロー図である。
【図5】図4のデータ処理内の特に散乱線処理部分を詳細に示した散乱線処理データフロー図である。
【図6】統合FPGAでの散乱線ノイズを低エネルギー側カウントから直接除く処理。
【図7】本発明の効果を説明するためのエネルギースペクトルの概念図である。
【図8】統合FPGAでの散乱線ノイズを低エネルギー側カウントから除く処理の別実施例。
【図9】SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションの同時撮像。
【図10】SPECT装置での異なるエネルギーの核種を用いたエミッションとトランスミッションの同時撮像。
【符号の説明】
【0054】
1 PET装置(陽電子放出断層撮影装置)
2 検出器ユニット
11 撮像装置
12 データ処理装置
12A 同時計測装置
12B 画像作成装置
13 表示装置
14 検査台
20 検出器基板
21 検出器(半導体放射線検出器)
22 コリメータ
23 統合基板
24 アナログASIC(アナログ集積回路)
25 ADC
26 検出器FPGA(デジタル集積回路)
27 統合FPGA
30 トランスミッション線源
51 SPECT装置
52 放射線検出ブロック
55 コリメータ
56 ユニット支持部材
57 回転支持台(回転体)
60 データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核医学診断装置において、複数の異なるエネルギーの核種の同時撮像を行う際に散乱線処理を実施する処理回路を有することを特徴とする核医学診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核医学診断装置において、前記複数の異なるエネルギーの核種の同時撮像は、異なるエネルギーの核種を用いたエミッション及びトランスミッションの同時撮像であることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の核医学診断装置において、
前記核医学診断装置は、SPECT装置であり、
前記複数の異なるエネルギーの核種の同時撮像は、異なるエネルギーの核種を用いたエミッションの前記同時撮像であることを特徴とするSPECT装置。
【請求項4】
請求項1において、前記散乱線処理として、検出したガンマ線のエネルギー情報、位置情報、及び時間情報を用いることを特徴とした核医学診断装置。
【請求項5】
請求項2において、前記トランスミッション用の線源として137Csを用いることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項6】
請求項1において、前記核医学診断装置は検出器を有し、前記検出器として半導体検出器を用いることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記核医学診断装置は、放射線を検出する複数の検出器を有し、
前記処理回路は、前記複数の検出器で検出された放射線検出信号を低エネルギー側の放射線信号として識別する処理と、
前記低エネルギー側の放射線検出信号として識別する処理に対して、前処理、後処理及び独立した処理のいずれか一つとして行われる、前記複数の検出器で検出された複数の放射線検出信号を足して高エネルギーの放射線検出信号を生成する前記散乱線処理と
を行う処理回路であることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記処理回路は、前記低エネルギー側の放射線信号として識別する処理に対して、独立した処理として、前記散乱線処理を行う処理回路であることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項9】
請求項7において、
前記処理回路は、前記低エネルギー側の放射線信号として識別する処理に対して、前処理として、前記散乱線処理を行う処理回路であることを特徴とする核医学診断装置。
【請求項10】
放射線を検出する複数の検出器と、前記複数の検出器で検出された放射線検出信号についてエネルギー情報、位置情報、及び時間情報を生成する処理回路と、前記複数の検出器で検出された放射線検出信号を足して高エネルギーの放射線検出信号を生成する散乱線処理を実施する処理回路とを有する撮像装置と、
前記処理回路のデータから画像を作成するデータ処理装置とを有し、
前記処理回路は、複数の異なるエネルギーの核種の撮像を行う際に実施する前記散乱線処理と、前記複数の検出器で検出された放射線検出信号を低エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理と、前記複数の検出器で検出された放射線検出信号を高エネルギー側の放射線信号として識別する識別処理とを独立又は連続に実施し、前記散乱線処理は前記低エネルギー側の放射線信号の一部を除いて高エネルギー側の放射線信号とする処理を実行する処理回路であることを特徴とする核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−209336(P2008−209336A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48380(P2007−48380)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】