説明

核酸の塩基配列解析方法

【課題】オリゴ核酸プローブ搭載のDNAマイクロアレイを用いた一塩基多型等の点変異を解析する方法において、複数種のプローブに最適な共通のストリンジェンシーを設定する必要のないハイブリダイゼーション方法を提供する。
【解決手段】検体中の標的核酸と固相担体上の複数種のプローブをハイブリダイゼーションさせる際に、検体を複数に分割することで、それぞれのプローブ種に複数のストリンジェンシーを与えてハイブリダイゼーションさせる。プローブ配列において、標的核酸に対し完全相補的な塩基配列からなるプローブとミスマッチを含む塩基配列を有するプローブを設計し、ハイブリダイゼーション結果を比較することで一塩基差まで検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一塩基多型(SNP)等に代表される、類似した核酸配列中の点変異の検出などに有用な核酸の塩基配列の解析方法に関する。また本発明は、検体中の標的核酸の有無の判定を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトゲノム計画に代表されるように、種々の生物について、そのゲノム遺伝子、ミトコンドリア遺伝子などの塩基配列に関して、全般的な解析がなされてきている。更には、解明された遺伝子と、生命活動のメカニズム、各種疾病、疾患、遺伝的な体質等との関連性に関する研究も進み、次々と研究成果が報告されている。これらの研究結果から、特定の遺伝子の有無、その塩基配列の変異、あるいは、その発現産物の存在量(発現量)を知ることで、例えば、各種疾病、疾患等の要因に関して、より詳細な特徴付けやタイピングを行う上で有用な情報が得られることが判明してきている。また、各種疾病、疾患等の要因に関して、より詳細な特徴付けやタイピングがなされると、効果的な治療方法の選択がより容易となり、疾患の診断のみでなく、その治療にも効果的に利用可能であることも検証されてきている。
【0003】
検体中における、特定の遺伝子の有無、並びに、その発現量を検出する方法として、従来から多数の方法が提案され、また、実際に利用もされている。検出対象の遺伝子あるいは核酸分子の塩基配列が判明している場合、最も広範に利用されている手法として、プローブ・ハイブリダイゼーション法がある。この手法では、検出対象の遺伝子あるいは核酸分子の塩基配列中から特徴的な部分塩基配列を選択し、それに相補的な塩基配列を有する核酸プローブが利用される。この核酸プローブによって、かかる特徴的な部分塩基配列を含む核酸鎖の有無、あるいは、含有量を検出する。具体的には、相補的な塩基配列を有するプローブ用DNA鎖を予め調製し、検体中に含まれる遺伝子あるいは核酸分子を一本鎖核酸とした上で、このDNAプローブとハイブリダイゼーション反応を行わせる。この反応に基づくハイブリッド体形成の有無、あるいは、その形成量を何らかの方法を利用して検出する。
【0004】
このプローブ・ハイブリダイゼーション法による、特定の核酸分子の検出方法は、形成されるハイブリッド体を分離可能であれば、ハイブリダイゼーション反応自体は、液相中、あるいは、固相表面のいずれで行ってもよい。例えば、固相表面上でハイブリダイゼーション反応を行う場合には、予め、DNAプローブを固相表面上に結合、または、吸着によって、固定化しておき、形成されるハイブリッド体を固相上に固定、分離する。その際、検体中に含まれる核酸試料に対して、何らかの検出可能な標識物質によって標識化を施しておき、DNAプローブとハイブリッド体を形成して、固相上に固定、分離された標識化核酸鎖の有無、その量を、該標識物質に起因する信号を利用して、測定する。また、DNAプローブの固定用固相(基材)としては、ガラスや金属などの平面基板表面を用いるチップ、あるいは、微小粒子表面を用いるビーズ等が体表的な形態である。
【0005】
プローブ・ハイブリダイゼーション法において、固相上に固定化されたDNAプローブを利用するハイブリダイゼーション反応が好まれる理由の第一は、B/F分離が容易であることである。加えて、固相上の所定位置に固定化されているDNAプローブを利用するため、検出領域を物理的に微小化でき、また、検出領域が特定されている結果、高感度の測定が可能となる。その際、複数種のDNAプローブの固定位置を物理的に隔離することにより、同時に、多項目の検出が可能である。さらには、予め、所定量のDNAプローブが固相上に固定化されているDNAマイクロアレイ(またはDNAチップ)の形態を選択すると、その取扱いや応用が一層容易になる利点もある。
【0006】
例えば、特許文献1には、平面基板上において合成されたオリゴDNAに対し、蛍光色素で標識された核酸を作用させ、その結果形成されるハイブリッド体を、蛍光標識に由来する蛍光により検出する手法が開示されている。この基板上において合成されたオリゴDNAで構成されるDNAアレイと、蛍光色素標識による蛍光検出法を利用することで、検体中に含まれる特定の核酸の有無や量の検出を可能としている。
【0007】
また、特許文献2には、基板表面に予め導入されたアミノ基を利用して、別途作製した複数種のDNAプローブを固定化する手法を応用してDNAアレイを作製することについて開示されている。特許文献2では、このDNAアレイを用いて、標識された22merの一本鎖DNAを検出している。
【特許文献1】米国特許第6,410,229号明細書
【特許文献2】特開2001−128683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
DNAマイクロアレイは、同一の検体に対して、多項目の同時検出が可能であり、特定遺伝子の有無の判定、およびその発現定量において、有効な手段として用いることができる。
【0009】
検査対象遺伝子の発現量を定量するためのDNAマイクロアレイとしては、プローブとして検査対象遺伝子のcDNA全長を用いたcDNAアレイが知られている。しかしながら、このcDNAアレイでは、一塩基多型(SNP)や突然変異(挿入および欠損を含む)などを精度よく検出することはできない場合が多かった。その理由として、このcDNAアレイは、検体に由来する標識されたDNAとプローブDNAがともに100塩基を超える長さであることが一般的である点を挙げることができる。このような塩基長では、一塩基多型の存在の有無に係わらずプローブDNAと標識されたDNAが同程度にハイブリダイゼーションしてしまい、変異判別が不可能になる。したがって、一塩基多型の部分的な検出は、シークエンス法、RFLP法、SSCP法、タックマン法などの一塩基多型の判別が可能な手法によって解析が行われてきた。しかしながら、ヒトの場合においては遺伝子の一塩基多型や突然変異の数は10万ヶ所を超えてゲノム全域に渡り均等に点在しているため、上記の方法で網羅的に遺伝子全体の解析を行うことは困難であった。
【0010】
そこで近年、オリゴDNAをプローブDNAとしたDNAマイクロアレイを用いて、網羅的に一塩基多型の解析を行う試みがなされようとしてきている。20mer〜50erの一本鎖DNAをプローブDNAとすれば、一塩基程度の違いしかなくともTm(融解温度)に差をつけることが出来るため、ハイブリダイゼーション温度を含む最適なストリンジェンシー条件を設定することによって一塩基多型の解析が可能になると考えられるためである。
【0011】
しかし、この場合、塩基組成および塩基数が多種に渡るDNAプローブ間において配列設計を調整して、1つのDNAアレイ中のどのDNAプローブにも最適な共通のストリンジェンシー条件を設定することが課題となる。この課題の解決は次のような点でcDNAアレイの場合と比べて非常に困難になる。
【0012】
まず、最適なDNAプローブの配列設計では、20mer〜50merの一本鎖DNAをプローブDNAとする場合、対象となる検体の標的領域以外の塩基配列との相補性がないか、あるいは低くなるように考慮する必要がある。それに加え、遺伝子の有無を調べる発現解析では標的遺伝子の全配列がプローブ配列の対象範囲になるのとは異なり、一塩基多型を解析する場合、標的遺伝子の配列の中で検出するべき位置が決まっており、プローブ配列の対象範囲が限定される。そのため、ハイブリダイゼーション温度などのストリンジェンシー条件の設定を優先するとプローブの配列設計がより困難になる。
【0013】
また、ハイブリダイゼーション温度の設定では、例えば、極端にGCリッチまたはATリッチである配列中にある一塩基多型を検出する必要がある場合が問題となる。例えばTm値から塩基配列を設計する場合、所望とするTm値に対応する平均的な塩基組成と塩基数を利用するのが一般的である。ところが、このようにして極端にGCリッチまたはATリッチである塩基配列を予め設定したTmに基づいて設計しようとすると、20mer以下、または40mer以上になる場合が生じる。この場合20mer以下になると、標的領域以
外ともハイブリダイゼーションする可能性が増え、50mer以上になると一塩基多型を見分ける能力が下がってしまう。したがって、Tm値を優先に塩基配列の設計を行うと、極端にGCリッチまたはATリッチである配列では、性能の低いプローブDNAしか設定できない場合が生じるという課題があった。
【0014】
従って、本発明の目的は、標的核酸とプローブとの塩基配列の相補性を網羅的に解析する方法において、異なるプローブ間で共通のストリンジェンシー条件を設定する必要のない塩基配列解析方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、標的核酸とプローブとの塩基配列の相補性を網羅的に解析する方法において、オリゴ核酸プローブを供したマイクロアレイを用いて多項目の同時検出が可能な塩基配列解析方法を提供することである。また本発明の他の目的は、核酸の塩基配列とプローブの塩基配列との相補性を解析する方法において、一塩基多型等の点変異を解析できる塩基配列解析方法を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、検体に含まれる解析対象核酸の基準核酸に対する相同性を、網羅的に解析する上で有用であり、解析対象核酸が基準核酸かあるいはその類似核酸であるかを判定するために有用な塩基配列解析方法を提供することにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、検体中の標的核酸の有無を高い精度で判定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は鋭意検討した結果、上記問題点を解決する方法として、一塩基差まで検出できる標的核酸とプローブの相補性の解析を網羅的に行う塩基配列解析方法を見いだすに至った。
すなわち、本発明の塩基配列解析方法の第一の態様は、標的核酸と、固相担体上の複数種のプローブとの間の塩基配列上の相補性を解析する方法であって、
(1)前記標的核酸に対してハイブリダイズすると予測される複数種のプローブを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程と、
(2)標的核酸を含む試料を分割する工程と、
(3)前記分割された試料のそれぞれに対して前記複数種のプローブを、各分割試料毎に異なるストリンジェンシーで反応させる工程と、
(4)各プローブで前記標的核酸とのハイブリッド体の形成が生じた場合に、該ハイブリット体の形成を示すシグナルを取り出す工程と、
(5)それぞれのプローブ種について、複数のストリンジェンシーにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(6)それぞれのストリンジェンシーについて、前記標的核酸の同一領域にハイブリダイズした異なる複数種のプローブにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(7)前記2種のシグナルの比較結果に基づいて、前記標的核酸と固相担体上の複数種のプローブとの間の塩基配列上の相補性を解析する工程と、
を有することを特徴とする標的核酸のプローブに対する相補性の解析方法である。
【0019】
本発明の塩基配列解析方法の第二の態様は、検体に含まれる解析対象核酸から得られる標的核酸と、基準核酸との相同性を解析する方法であって、
(1)前記基準核酸の同一領域に対してハイブリダイズすると予測される複数種のプローブを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程と、
(2)検体に含まれる解析対象核酸から得られる標的核酸を含む試料を分割する工程と、
(3)前記分割された試料のそれぞれに対して前記複数種のプローブを、各分割試料毎に異なるストリンジェンシーで反応させる工程と、
(4)各プローブで前記標的核酸とのハイブリッド体の形成が生じた場合に、該ハイブリット体の形成を示すシグナルを取り出す工程と、
(5)それぞれのプローブ種について、複数のストリンジェンシーにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(6)それぞれのストリンジェンシーについて、前記標的核酸の同一領域にハイブリダイズした異なる複数種のプローブにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(7)前記2種のシグナルの比較結果に基づいて、前記標的核酸と前記基準核酸との間の塩基配列上の相同性を解析する工程と、
を有することを特徴とする解析対象核酸の基準核酸に対する相同性の解析方法である。
【0020】
さらに本発明の塩基配列解析方法の第三の態様は、検体中の標的核酸の有無の判定方法であって、
(I)前記標的核酸の塩基配列の少なくとも所定の一部に対して完全相補な第1のプローブと不完全相補な第2のプローブとを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程;
(II)前記複数のプローブ担体の各々と前記検体とを異なるストリンジェンシーでハイブリダイゼーション反応させる工程;
(III)前記工程(II)を経た各プローブ担体について、各ストリンジェンシーにおける、前記第1のプローブ由来のハイブリッド体の形成を示す第1のシグナルと前記第2のプローブ由来のハイブリッド体の形成を示す第2のシグナルとの強度比(第1のシグナル強度/第2のシグナル強度)を求める工程;
(IV)前記強度比が、少なくとも1つ以上の前記ストリンジェンシーで1.0を超える所定の値を示しているかどうかを判定基準として、前記検体中の前記標的核酸の有無を判定する工程、
を有することを特徴とする検体中の標的核酸の有無の判定方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる核酸の塩基配列解析方法を用いることにより、一塩基多型(SNP)等に代表される、類似した核酸配列中の点変異をも容易に検出可能となる。また本発明によれば、検体中の標的核酸の有無の判定をより高精度に行うことができ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下により具体的な構成例について記載するが、本発明は下記方法に限定されるものではない。
【0023】
本発明におけるプローブとして、プローブ・ハイブリダイゼーション法で通常用いられる核酸をいずれも好ましく用いることができる。具体的にはデオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドおよびその誘導体を少なくとも一つ以上含んで構成されるポリヌクレオチドであるが、一塩基多型等をより好ましく分離解析するためには、10mer〜100merとなることが好ましく、さらには15mer〜80merとなることが好ましい。
プローブとしては、PCRなどで調製されたもの、化学的に合成されたもの、天然に由来する核酸をそのまま、または加工して使用したものなどどのようなものでも使用することができるが、調製の容易さから化学的に合成されたものを使用するのが好ましい。この場合、合成の容易さからオリゴデオキシリボヌクレオチド、オリゴリボヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等を使用するのが好ましい。プローブは固相担体上でハイブリダイゼーションに使用されるため、ハイブリダイゼーションの前後において固相担体に結合および吸着し続けるために、ハイブリダイゼーションを阻害しない程度において官能基等で修飾されても構わない。
【0024】
プローブにおける種とは、プローブの塩基配列によって一義的に定められ、区別される。例えば、同一種のプローブは、すべての塩基配列が同じであるプローブを指す。また、複数種のプローブとは、塩基配列が互いに異なるプローブが2以上存在することを示す。
【0025】
本発明における相補性には、完全相補である場合及び不完全相補である場合を含まれる。ここで完全相補は、2つの塩基配列間で全ての塩基について相補的(フルマッチ)である場合をいい、不完全相補は1以上のミスマッチ塩基を含むことをいう。
【0026】
標的核酸の同一領域にハイブリダイズする複数種のプローブとは、解析に供される複数種のプローブのうち、標的核酸の同一の配列領域に対してハイブリッド体を形成するように設計されたプローブの組合せを指す。一塩基多型等の点変異を解析する場合は、該互いに異なるプローブの塩基配列の違いが一塩基のみであるプローブの組合せを好適に用いることができる。
【0027】
本発明における固相担体とは、ハイブリダイゼーションの前後においてプローブを担持し続けることのできる固体を指す。固相担体はハイブリダイゼーション後の洗浄(B/F分離)の後の検出においてプローブの位置が特定できるものであればいかなるものでも使用することができる。具体的には、シリコンウェハー、石英、ガラスなどの無機類、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、カーボンプレートなどの有機類、またはこれらの組合せからなる平板の固体状またはゲル状の担体である。一塩基多型等を網羅的に解析する用途においては、検出の容易性から石英、ガラスまたは樹脂類を固相担体とし、プローブが共有的に結合しているDNAマイクロアレイなどのプローブ担体が好ましく用いられる。
【0028】
本発明における標的核酸は、固相担体に固定された複数種のプローブとの相補性を判定するために、これらのプローブとの反応に供される核酸である。標的核酸と複数種のプローブとを本発明にかかる条件で反応させて得られた結果から、標的核酸が各プローブに対してどのような相補性を有するかを判定することができる。標的核酸が完全相補の関係にあるプローブが存在する場合は、標的核酸のプローブとハイブリダイズした領域の塩基配列をプローブの塩基配列から判定できる。更に、本発明によれば、あるプローブに対して標的核酸が不完全相補の関係(例えば1塩基ミスマッチの関係)にあるかどうかについても判定可能である。
【0029】
一方、塩基配列の解析の基準となる基準核酸の塩基配列を設定し、この塩基配列に対してハイブリダイズし得る複数のプローブを用意して、上記の判定プロセスを解析対象核酸に対して行うことで、解析対象核酸と基準核酸との相同性を判定可能である。検体中の核酸を解析対象とする場合は、この解析対象核酸から標的核酸を調製し、これを固相担体に固定した複数種のプローブに本発明にかかる条件下で反応させ、その結果を解析する。例えば、基準核酸に対する相補性が完全相補であるプローブと、この検体からの標的核酸と、相同性が完全一致(100%)であれば、標的核酸のプローブとハイブリダイズした領域が基準核酸の塩基配列からなることを判定できる。また、これらの相同性が一塩基の違いであれば、標的核酸のプローブとハイブリダイズした領域が基準核酸の塩基配列と一塩基の違いを有する類似配列であることを判定できる。そして、この標的核酸の塩基配列に基づいて、この標的核酸の由来元となった解析対象核酸の配列の解析を行うことができる。
【0030】
本発明における検体とは、解析対象の核酸を含んでいるものを指す。検体からの標的核酸とは、検体に含まれる解析対象核酸に基づいて得られるもので、解析対象核酸そのもの、あるいは解析対象核酸に特徴的な部分、さらには、これらの相補配列(完全相補)からなる核酸のいずれかの形態をとることができる。
【0031】
従って、標的核酸は、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチドおよびその誘導体を少なくとも一つ以上含んで構成されるポリヌクレオチドである。検体には、例えばヒトやマウスなどの動物、イネやトウモロコシなどの植物、細菌、真菌、古細菌、ウイルスなどの微生物等の核酸が含有すると考えられるサンプルの全部および一部、またはこれらの組合せからなるものが該当する。
【0032】
本発明の第一の態様にかかる塩基配列の解析方法における複数種のプローブの設計は以下のようにして行うことができる。まず、標的核酸に対して完全相補の関係にあると予測される配列からなるプローブ(フルマッチ)を設計する。さらに、少なくとも一つのストリンジェンシー条件下でフルマッチのプローブとハイブリダーゼーション結果に有意な差が出る適度の塩基配列の違い(ミスマッチ)を有する塩基配列からなるプローブを設計する。一塩基多型等の点変異を解析する場合、変異部分の一塩基だけが異なる配列を設計することが好ましい。標的核酸に対するプローブ配列の相補性の確認は、一般に公開されている各種の配列情報データベース等を参照して行うことができる。例えば、設計されたプローブの配列と、各種データベースに格納された配列情報とを対比して、設計されたプローブの標的核酸に対する相補性を検証することができる。データベースとしては米国のNCBI(Nathional Center of Biotechnology Information)などが利用することができる。
【0033】
本発明の第一の態様にかかる塩基配列の解析方法における複数種のプローブの設計は上記同様にして、まず、基準核酸の塩基配列と完全相補の関係にあるプローブ(フルマッチ)を設計する。そして、所定塩基数の違いを有するプローブを設計する。
【0034】
プローブに対する相補性を解析するということには、プローブと相補性をもつ標的核酸の有無を解析することも含まれるため、本発明における検体から調製される試料には標的核酸が含まれていない場合もありうる。
【0035】
また、検体から調製される試料に標的核酸のハイブリダイゼーションを阻害する物質を含まないようにするために、通常用いられる精製法によって精製しておくことが好ましい。標的核酸は、その由来するサンプルから抽出されたDNAやRNAをそのまま用いることもできるが、用途に応じてPCR等を行って増幅したものを使用することができる。標的核酸の増幅には、DNAマイクロアレイ等のプローブ・ハイブリダイゼーションに供する標的核酸に通常用いられる増幅方法をいずれも好ましく使用することができる。具体的には、PCR(対称)、PCR(非対称)、RT−PCR、ランダムプライマー法などがあげられ、これらを組み合わせて使用してもよい。
【0036】
複数種のプローブは固相担体上に各種ごとに区分されて予め設定された位置に固定される。各プローブの固定領域における標的核酸とのハイブリッド体の形成をシグナルとして取り出して、塩基配列の解析に用いる。このシグナルの取り出しには、種々の方法が利用可能である。例えば、シグナルの発信を可能とする標識を用いた標識法が好適に利用できる。
【0037】
標識法には標的核酸分子を予め標識する直接法と、ハイブリダイゼーション中または後に標識を付与する間接法があり、いずれも使用することができるが、良好な検出結果を得るためには直接法を用いることがより好ましい。標的核酸に、標識物質を取り込ませる方法としては、例えば、PCR増幅を行う際に、標識付きデオキシヌクレオチド(例えば、Cy3−dUTPなど)を付加する方法がある。また、PCR増幅を行う際、DNAポリメラーゼ酵素の基質となるATCG4種のデオキシヌクレオチド(dATP、dCTP、dGTP、dTTP:総称してdNTP)と標識付きデオキシヌクレオチド(例えば、Cy3−dUTP)をそれぞれ調製して、各dNTPの終濃度を揃えることで、作製される増幅産物中に標識付きデオキシヌクレオチドを取り込ませる方法もある。
【0038】
また、予め標識されたプライマーを用いて、PCR反応を行い、核酸を標識する方法が知られている。この予め標識されたプライマーを利用する場合、作製される標的核酸一分子当り、付与される標識物質の量比が制御できるという利点があり、高い定量性が要求される際には、この手法が好適である。
【0039】
標識物質としては蛍光物質またはビオチンのいずれか一つ以上を含んでいることが、検出感度および標識の簡便さの点から好ましい。蛍光物質としては、従来公知の蛍光色素等をいずれも使用することが出来るが、量子収率、耐光性、耐ガス性、化学的安定性、DNAポリメラーゼの基質としての特性の点においてFITC、FAM、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、TAMRA、Dabcyl、ROX、TET、Rhodamine、Texas Red、HEX、Cyber Green等を好ましく用いることが出来る。ビオチンおよびジゴキシゲニンの場合は、各種ビオチン結合型の標識酵素タンパク質を反応させ、かかる標識酵素タンパク質の酵素活性を指標として、検出を可能とする。
【0040】
蛍光標識として利用される各種蛍光物質は、かかる蛍光物質に由来する蛍光強度を観測する光学的検出手段を利用することで、高感度の検出を可能とする。また、前記標識酵素タンパク質の酵素活性を指標とする検出法も、酵素活性は、各種発色反応を利用するものとすることで、光学的検出手段の利用が可能であり、高感度の検出を可能とする。
【0041】
本発明において、標的核酸を含む試料は、ハイブリダイゼーションを行う前に少なくとも2つ以上に均等に分割され、複数のストリンジェンシーが与えられる。これにより、それぞれのプローブ種について複数のストリンジェンシーにおけるハイブリダイゼーションが行われる。つまり、プローブごとに最適なハイブリダイゼーション結果を得るためのストリンジェンシーが大きく異なる場合であっても、複数のストリンジェンシーを同一検体に対して与えることで、どのプローブに対しても最適なストリンジェンシー下での結果を得ることができるのである。最適なストリンジェンシーは、標的核酸の濃度によっても異なってくるため、完全に推定するのは非常に困難である。また、ハイブリダイゼーションおよび標的核酸の標識の不安定性等を考慮する必要もある。そのため、2つ以上の異なるストリンジェンシーにおいて、同一種のプローブにおけるシグナルの検出結果を、異なるプローブの検出結果と比較することで精度の高い塩基配列の相補性または相同性解析が可能となる。この場合の前記同一種のプローブと前記異なるプローブは、ともに同一の標的核酸の同一領域に対して相補的であるように設計されたものである。また、一塩基多型などの点変異の解析では、前記異なるプローブの配列は、前記同一プローブと変異部において一塩基のみ異なるように設計されている。
【0042】
具体的に、変化させるストリンジェンシーをハイブリダイゼーション温度とする場合について説明する。完全相補鎖(フルマッチ)とのTmが60℃のプローブでは、一塩基のみが異なる相補鎖(一塩基ミスマッチ)とフルマッチの間でのシグナルを異なるものとするためには、通常55〜65℃の範囲でハイブリダイゼーション温度を設定しなくてはならない。これは55℃以下では、フルマッチと一塩基ミスマッチのシグナルに差がなくなり、65℃より高い場合は双方においてシグナルが弱くなるためである。しかし、完全相補鎖(フルマッチ)とのTmが75℃のプローブが同一固相担体上にある場合は、このプローブに関しては通常70〜80℃でハイブリダイゼーション温度を設定しなくてはならない。つまり、これらの2つのプローブに対して同時に最適なハイブリダイゼーションストリンジェンシーを設定することができないのである。したがって、同一試料を分割して少なくとも60℃と75℃の2つの温度でハイブリダイゼーションを行うことで良好な結果を得ることができるのである。さらにこの場合、ストリンジェンシーを2つ以上に細かく分けていき、フルマッチのプローブと一塩基ミスマッチのプローブについてシグナルを比較することで単独のプローブを用いたストリンジェンシー下のハイブリダイゼーションよりも高い信頼性と安定性をもつ結果を得ることが出来るようになる。つまり、プローブ毎に最適なハイブリダイゼーションストリンジェンシーが異なっている場合でも、複数設定したストリンジェンシーの中で、フルマッチと一塩基ミスマッチのシグナル強度比が最大になるストリンジェンシーのときの値を用いて判定を行うことで、信頼性の高い値を得ることができるのである。この方法は、一塩基ミスマッチのタイピングのみでなく2塩基以上が異なる複数の類似配列を分離する場合においても、同様にその類似配列間のシグナル強度比が最大となるストリンジェンシーのときの値を用いて比較を行なうことで、どの配列にもっとも相同性が近いかということを判定することができる。ストリンジェンシーとしては、ハイブリダイゼーション温度、ハイブリダイゼーション時間、洗浄温度、洗浄時間、洗浄流量、洗浄回数、ハイブリダイゼーション溶液組成、洗浄液組成などをあげることができる。ハイブリダイゼーション溶液組成および洗浄液組成としては、具体的にはイオン強度、変性剤濃度(ホルアミド、DMSO等の塩基間の水素結合と拮抗するもの)などをあげることができる。
【0043】
本発明における複数のストリンジェンシーは、ハイブリダイゼーション反応のための液室を複数用意し、一つの液室について一つのストリンジェンシーを設定することなどにより達成される。具体的には、同一種のプローブをそれぞれに含む複数の固相担体ごとに液室を設けることでストリンジェンシーの変化を与えることができる。または、一つの固相担体上に同一種のプローブをそれぞれに含む複数の液室を設置して液室ごとにストリンジェンシーを変化させてハイブリダイゼーションを行うこともできる。更に、複数種のプローブについてストリンジェンシーの変化を与える場合は、固相担体にはマイクロアレイが好適に利用できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下に述べる実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
<プローブDNAの作製>
本実施例では、SNP(一塩基多型)に類似する、点変異を検出する用途として、同属細菌であるStaphylococcus aureusとStaphylococcus epidermidisの16SrRNA遺伝子を用いたタイピングによる分離検出の例を示す。Staphylococcus aureusとStaphylococcus epidermidis由来の核酸分子の選択的検出用プローブとして、表1に示す塩基配列を有するプローブDNAを設計した。
【0046】
具体的には、Staphylococcus aureusとStaphylococcus epidermidisの16SrRNAの配列に基づき、表1に示す4種のプローブの塩基配列を選択した。これらのプローブの塩基配列は、当該菌の分離検出に対して、有効性をもつように選択されているが、最適分離温度が大きく異なっている。Staphylococcus aureusとStaphylococcus epidermidisの16SrRNA配列で相同性がある領域に対して設計されたプローブ対(実施例中のSa-1に対してSe-1およびSa-2に対してSe-2が対応する)のシグナル強度の差がすべて有意の差(シグナル強度比1.0より大、好ましくは4.0以上)を示すときにシグナルが強いほうの菌種が分離検出されているとする。
【0047】
【表1】

【0048】
表1中に示す各プローブに対して、DNA鎖の合成後、DNAマイクロアレイに固定するための官能基として、核酸の5’末端にチオール基を定法に従って導入した。官能基の導入後、精製し、凍結乾燥した。凍結乾燥した内部標準用プローブは、−30℃の冷凍庫内に保存した。
【0049】
<標的核酸調整用 PCR Primerの調製>
検出に利用される、対象菌由来の16s rRNA遺伝子(標的遺伝子)増幅用PCR Primerとして、表2に示す核酸配列を有するDNAプライマーを設計した。
具体的には、Staphylococcus aureus ATCC 12600とStaphylococcus epidermidis ATCC 14990の標準株由来の16s rRNAをコーディングしているゲノム部分を特異的に増幅するプローブ・セット、つまり、約1500塩基長の16s rRNAコーディング領域の両端部分の塩基配列に基づき、それに相補的な塩基配列を有し、また、当該部分とハイブリダイズさせた際、その融解温度がほぼ揃った複数種のプライマーを設計した。
【0050】
【表2】

【0051】
表2中に示す各Primerは、DNA鎖の合成後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製する。このForward PrimerとReverse Primerを混合し、各Primer濃度が、最終濃度10 pmol/μlとなるようにTE緩衝液に溶解した。
【0052】
<DNA(モデル検体)の抽出>
[微生物の培養とゲノムDNA抽出の前処理]
まず、Staphylococcus aureus標準株を、定法に従って培養した。
この微生物培養液1.0ml(OD600=0.7)を、1.5ml容量のマイクロチューブに採取し、遠心分離(8500rpm、5min、4℃)により菌体を分離した。上清を捨てた後、Enzyme Buffer(50mM Tris−HCl:pH 8.0、25mM EDTA)300μlを加え、ミキサーを用いて、菌体を再縣濁した。再縣濁した菌体液から、再度、遠心分離(8500rpm、5min、4℃)により菌体を分離した。上清を捨てた後、回収された菌体に、下記二種の酵素溶液各50μlを加え、ミキサーを用いて再縣濁した。
【0053】
溶菌処理用酵素溶液
Lysozyme 50 μl(酵素濃度:20 mg/ml in Enzyme Buffer)
N−Acetylmuramidase SG 50 μl(酵素濃度:0.2 mg/ml in Enzyme Buffer)
次に、酵素を含む緩衝液中に再縣濁した菌体液を、37℃のインキュベーター内で30分間静置し、該微生物の細胞膜の溶解処理を行った。
(Genome抽出・精製)
細胞膜の溶解処理後、該微生物由来のGenome DNA抽出・精製は、核酸精製キット(MagExtractor−Genome−:TOYOBO社製)を用いて、下記の手順に従って行った。
(ステップ1)
先ず、細胞膜の溶解処理を施した微生物縣濁液に、前記キットの溶解・吸着液750μlと磁性ビーズ液40μlとを加え、チューブミキサーを用いて、10分間激しく攪拌する。この操作により、含有される二本鎖DNA分子は、磁性粒子(ビーズ)表面に吸着される。
(ステップ2)
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上清を捨てる。
(ステップ3)
マイクロチューブ内に、洗浄液 900 μlを加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁を行う。
(ステップ4)
再び、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上清を捨てる。
(ステップ5)
前記ステップ3、4の洗浄操作を繰り返して、2度の洗浄を行う。
(ステップ6)
該洗浄液を用いた洗浄後、マイクロチューブ内に70%エタノール 900 μlを加え、ミキサーで5sec程度攪拌して再縣濁する。
(ステップ7)
次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブの壁面に集める。その後、スタンドにセットした状態のまま、上清を捨てる。
(ステップ8)
前記ステップ6、7の洗浄操作を繰り返して、70%エタノールによる合計2度目の洗浄を行う。該70%エタノールによる2度の洗浄を行った後、マイクロチューブ内に純水100μlを加え、回収された磁性粒子を含む液をチューブミキサーで10分間攪拌を行う。この操作により、磁性粒子(ビーズ)表面に吸着されていた二本鎖DNA分子は、純水中に再溶出される。次に、分離用スタンド(Magical Trapper)にマイクロチューブをセットし、30秒間静置して磁性粒子をチューブ壁面に集める。最終的に、スタンドにセットした状態のまま、二本鎖DNA分子を含む上清を新しいチューブに回収する。
(回収したGenome DNAの検査)
回収された微生物(Staphylococcus aureus 標準株)由来の、精製済核酸分子を含む液は、
定法に従って、アガロース電気泳動と260/280nmの吸光度測定を行い、該液中に含まれるGenome DNAについて、その品質(低分子核酸の混入量、分解の程度)と回収量を検定した。
【0054】
本実施例では、約10μgのGenome DNAが回収され、Genome DNAのデグラデーションやrRNAの混入は認められなかった。
【0055】
<DNAマイクロアレイの作製>
本実験では4条件のストリンジェンシーを与えるため、4枚のマイクロアレイを準備した。
【0056】
[1]ガラス基板の洗浄
合成石英製ガラス基板(サイズ:25mm(幅)×75mm(長さ)×1mm(厚さ)、飯山特殊ガラス社製)を耐熱、耐アルカリ性のラックに入れ、所定の濃度に調製した超音波洗浄用の洗浄液に浸した。一晩洗浄液中に浸した後、20分間超音波洗浄を行った。続いて、基板を取り出し、軽く純水で濯いだ(リンス洗浄)後、超純水中で20分超音波洗浄を行った。次に、80℃に加熱した1N水酸化ナトリウム水溶液中に10分間基板を浸した。その後、基板を取り出し、純水によるリンス洗浄と、超純水中で超音波洗浄を施した。以上の洗浄操作により、洗浄済みのDNAチップ用石英ガラス基板を用意した。
【0057】
[2]表面処理
シランカップリング剤KBM−603(信越シリコーン社製)を、1%の濃度となるように純水中に加え、室温で2時間攪拌し、均一に溶解した。続いて、前記洗浄済み石英ガラス基板をシランカップリング剤水溶液中に浸し、室温で20分間放置した。石英ガラス基板を引き上げ、軽く純水で表面をリンス洗浄した後、窒素ガスを基板の両面に吹き付けて乾燥させた。次に、乾燥した基板を120℃に加熱したオーブン中で1時間ベークし、前記アミノシランカップリング剤の基板表面への結合処理を完結させた。基板表面には、該アミノシランカップリング剤由来のアミノ基が導入された。
【0058】
同仁化学研究所社製のN−マレイミドカプロイロキシスクシイミド(N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimido;以下、EMCSと略す)を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒中に最終濃度が0.3mg/mlとなるように溶解したEMCS溶液を調製した。前記ベーク処理の終了後、石英ガラス基板を室温まで放冷した。次いで、表面にアミノ基が導入された石英ガラス基板を、EMCS溶液中に室温で2時間浸した。この浸漬処理の間に、アミノシランカップリング剤処理によって基板表面に導入されたアミノ基と、EMCSのスクシイミド基とが反応し、石英ガラス基板表面にEMCS由来のマレイミド基が導入された。EMCS溶液から引き上げた石英ガラス基板を、ジメチルスルホキシドとエタノールの1:1混合溶媒を用いて洗浄し、未反応のEMCSを除去した。さらに、エタノールにより洗浄した後、窒素ガス雰囲気下で、前記表面処理済み石英ガラス基板を乾燥した。
【0059】
[3]プローブDNA
<プローブDNAの作製>で作製した検出用プローブDNAを純水に溶解し、それぞれ、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように、マイクロ・バイアルに分注した後、凍結乾燥を行った。水分を除いたプローブDNAをそれぞれ収納するマイクロ・バイアルは、下記の手順で、バブルジェット方式によるスポッティング用のDNA溶液の調製に利用した。
【0060】
[4]BJプリンターによるDNA溶液の吐出、および基板表面への固定化
グリセリン7.0wt%、エチレングリコール5.0wt%、ヘキサントリオール5.0wt%、アセチレノールEH(川研ファインケミカル社製)1.0wt%を含む水溶液を調製した。続いて、先に用意した4種類のプローブDNA(表1)をそれぞれ収納するマイクロ・バイアル中に、DNA濃度が、最終濃度(インク溶解時)10μMとなるように、前記混合溶媒を所定量加えて、DNA溶液(インク)を調製した。得られたDNA溶液をバブルジェットプリンター(商品名:BJF−850 キヤノン社製)用インクタンクに充填し、印字ヘッドに装着した。
【0061】
なお、基板面上へのDNA溶液のスポッティングに使用するため、前記バブルジェットプリンターは、平板への印字が可能なように改造が施されている。また、このバブルジェットプリンターの印字ヘッドは、所定のファイル作成方法に従って、印字パターンを入力することにより、約5ピコリットルのDNA溶液液滴を約120マイクロメートルピッチでスポッティングすることが可能となっている。
【0062】
続いて、上記の改造を施したバブルジェットプリンターを用いて、表面にマレイミド基が導入された石英ガラス基板に対して、所定の印字パターン(図1)に従って、各DNA溶液のスポッティング操作を行い、アレイを作製した。アレイ状のスポッティング操作が確実に行われていることを確認した後、30分間加湿チャンバー内に静置し、石英ガラス基板表面のマレイミド基とプローブDNA5’末端のチオール基とを反応させ、プローブDNAの固定を行った。本実験の印字パターンでは一枚のマイクロアレイ上に4種のプローブが互いに物理的に隔離されて配置されているため、一度のハイブリダイゼーションで4種の項目を同時検出することが可能となる。
【0063】
[5]洗浄
30分間の反応後、100mMのNaClを含む10mMのリン酸緩衝液(pH7.0)により、基板表面に残ったDNA溶液を洗い流した。石英ガラス基板表面に、目的とする複数種の一本鎖DNAがアレイ状に固定されている遺伝子チップが得られた。
【0064】
<ゲノムDNA抽出物中の検体DNAのPCR増幅>
上記微生物由来のゲノムDNA抽出物中から、検体DNAとなる、16s rRNAの遺伝子のPCR増幅を、下記の手順・条件で行う。先ず、上記表2に示す、Forward PrimerとReverse Primerの混合物を用いて、ゲノムDNAを鋳型として、PCR増幅反応を行う。該PCR増幅反応は、市販のPCRキット(TAKARA ExTaq)を利用して行い、その反応溶液組成を、表3に示す。
【0065】
一方、PCR反応の温度条件は、表4に示すプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーを利用して、増幅反応を行った。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
このPCR増幅反応の終了後、市販のPCR産物精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR
Purification Kit)を用いて、Primerを除去し、PCR増幅産物を回収した。その際、得られたPCR増幅産物の定量を行った。
【0069】
<PCR増幅産物を鋳型とした標識化DNA鎖の調製>
蛍光標識として、Reverse Primerの5’末端にCy3を結合した、標識付きオリゴヌクレオチドを利用して、標識化DNA鎖の調製を下記の手順・条件で行った。ヌクレオチド鎖の合成後、常法に従って、蛍光標識化合物Cy3を、該ヌクレオチド鎖の5’末端に共有的に結合させた。その後、HPLCを用いて、標識付きオリゴヌクレオチドの精製を行った。
【0070】
【表5】

【0071】
上記PCR増幅反応で得られるPCR増幅産物を鋳型とし、Reverse Primerとして、表5に示す塩基配列を有する標識付きオリゴヌクレオチドを利用して、相補的なDNA鎖の伸長反応を下記の手順・条件で行う。
【0072】
該DNA鎖の伸長反応は、市販のPCRキット(TAKARA ExTaq)を利用して、片鎖PCR反応の形態で実施した。その反応溶液組成を表6に示す。
【0073】
一方、この伸長反応の温度条件は、下記表7に示すプロトコールに従って、市販のサーマルサイクラーを利用して、増幅反応を行った。
【0074】
【表6】

【0075】
【表7】

【0076】
このDNA鎖伸長反応の終了後、市販のPCR産物精製用カラム(QIAGEN QIAquick PCR Purification Kit)を用いて、Primerを除去し、標識付きオリゴヌクレオチド由来の蛍光標識Cy3が5’末端に付加された増幅産物を回収した。その際、得られた増幅産物の定量を行った。
【0077】
<ハイブリダイゼーション法による検体DNAの検出>
<DNAマイクロアレイの作製>で作製した遺伝子チップと、<検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>で作製した標識化検体DNAとを用いて、ハイブリダイゼーション反応を行い、蛍光標識を利用して、形成されるハイブリット体の検出を行った。
【0078】
(遺伝子チップのブロッキング)
100mM NaCl/ 10mM Phosphate Buffer中に、BSA(牛血清アルブミンFraction V:Sigma社製)を濃度1wt%となるように添加し、BSA溶液を調製する。このBSA溶液中に、<DNAマイクロアレイの作製>で作製した遺伝子チップ2枚を室温で2時間浸し、遺伝子チップの石英ガラス基板表面に対して、BSAによるブロッキング処理を施した。ブロッキング処理の終了後、0.1wt%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)を含む2×SSC溶液(NaCl 300mM、 Sodium Citrate (trisodium citrate dihydrate, Na3C6H5O7・2H2O) 30mM、 pH 7.0)で、遺伝子チップの石英ガラス基板表面に残余するBSA溶液を洗浄した。次いで、純水でリンス洗浄した後、スピンドライ装置で遺伝子チップ表面の水切りを行った。
【0079】
(ハイブリダイゼーション反応)
前記ブロッキング処理を施した遺伝子チップをハイブリダイゼーション装置(Genomic Solutions Inc. Hybridization Station)にセットし、標識化検体DNAとプローブDNAとのハイブリダイゼーション反応を下記の手順・条件で行った。
使用したハイブリダイゼーション溶液の組成、条件を以下に示す。
【0080】
[ハイブリダイゼーション溶液]
<検体の増幅と標識化(PCR増幅&蛍光標識の取り込み)>で作製した、精製済み標識化検体DNAを、10%HCONH2を添加した6×SSPE緩衝液中に溶解した溶液を4つに均等に分割しハイブリダイゼーション溶液として使用した。
6×SSPE/ 10% Form amide / Target (2nd PCR Products 全量)
(6×SSPE: NaCl 900mM、NaH2PO4・H2O 60mM、EDTA 6mM、pH 7.4)
[ハイブリダイゼーション条件]
ハイブリダイゼーション反応、反応後の洗浄・乾燥の操作は、下表8の4つの条件で行った。各条件について一枚の遺伝子チップを使用した。
【0081】
【表8】

【0082】
<ハイブリット体の検出(蛍光測定)>
ハイブリダイゼーション反応終了後、遺伝子チップ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて、スピンドライ乾燥済み遺伝子チップ上の各プローブDNAのスポットについて、蛍光標識Cy3由来の蛍光強度の測定を行った。
表9に、各プローブDNAのスポット点で観測された蛍光強度を示す。
S.aureusとS.epidermidisを分離検出する基準としては、本実施例では標的核酸内の(Sa-1/Se-1)と(Sa-2/Se-2)の2ヶ所のプローブにともにおいてシグナル強度比で4以上が確認されたときとする。細菌が株レベルでもつ配列のミューテーションを考慮することと、PCRの塩基取り込みエラーに対するデータの信頼性を増すためにも2ヶ所以上のシグナルを見ることが必用である。
【0083】
【表9】

【0084】
表9のハイブリダイゼーションの結果を各プローブについてまとめたものが表10である。
この結果が示すとおり、それぞれのプローブについて個別にストリンジェンシー間(条件1〜4)の蛍光強度を比較するだけでは検出されたかどうか判断することは困難である。よって、同一プローブ種の蛍光強度についてストリンジェンシー間で比較しただけでは、Staphylococcus aureusを分離検出できたと判断することはできない。
【0085】
【表10】

【0086】
表9のハイブリダイゼーションの結果より、各条件でのシグナル強度比をまとめたものが表11である。条件1と4の蛍光強度を比較することで検体核酸がStaphylococcus aureusであることが分離検出できる。
【0087】
【表11】

【0088】
(比較例1)
検体を分割せず、ハイブリダイゼーション条件1のみでハイブリダイゼーションさせること以外は実施例1と同様にして検出を行った。
【0089】
ハイブリダイゼーション反応終了後、遺伝子チップ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて、スピンドライ乾燥済み遺伝子チップ上の各プローブDNAのスポットについて、蛍光標識Cy3由来の蛍光強度の測定を行った。
【0090】
表12に、各プローブDNAのスポット点で観測された蛍光強度を示す。これより得られたシグナル強度比および判定結果が表13である。
【0091】
【表12】

【0092】
【表13】

【0093】
これより、(Sa-2/Se-2)のシグナル強度比で基準値を満たすことができなかったので、判定不可能であった。
【0094】
(比較例2)
検体を分割せず、ハイブリダイゼーション条件4のみでハイブリダイゼーションさせること以外は実施例1と同様にして検出を行った。ハイブリダイゼーション反応終了後、遺伝子チップ用蛍光検出装置(Axon社製、GenePix 4000B)を用いて、スピンドライ乾燥済み遺伝子チップ上の各プローブDNAのスポットについて、蛍光標識Cy3由来の蛍光強度の測定を行った。表14に、各プローブDNAのスポット点で観測された蛍光強度を示す。これより得られたシグナル強度比および判定結果が表15である。
【0095】
【表14】

【0096】
【表15】

【0097】
これより、(Sa-1/Se-1)のシグナル強度比で基準値を満たすことができなかったので、判定不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】実施例でのプローブの印字パターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸と、固相担体上の複数種のプローブとの間の塩基配列上の相補性を解析する方法であって、
(1)前記標的核酸の同一領域に対してハイブリダイズすると予測される複数種のプローブを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程と、
(2)前記標的核酸を含む試料を分割する工程と、
(3)前記分割された試料のそれぞれに対して前記複数種のプローブを、各分割試料毎に異なるストリンジェンシーで反応させる工程と、
(4)各プローブで前記標的核酸とのハイブリッド体の形成が生じた場合に、該ハイブリット体の形成を示すシグナルを取り出す工程と、
(5)それぞれのプローブ種について、複数のストリンジェンシーにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(6)それぞれのストリンジェンシーについて、前記標的核酸の同一領域にハイブリダイズした異なる複数種のプローブにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(7)前記2種のシグナルの比較結果に基づいて、前記標的核酸と固相担体上の複数種のプローブとの間の塩基配列上の相補性を解析する工程と、
を有することを特徴とする標的核酸のプローブに対する相補性の解析方法。
【請求項2】
前記ストリンジェンシーが、ハイブリダイゼーション温度、ハイブリダイゼーション時間、ハイブリダイゼーション溶液組成、洗浄温度、洗浄時間、洗浄液組成、洗浄流量、洗浄回数のいずれか一つ以上に基づいて設定される請求項1記載の解析方法 。
【請求項3】
前記固相担体がDNAマイクロアレイである請求項1または2に記載の解析方法。
【請求項4】
前記標的核酸が標識されている請求項1乃至3のいずれかに記載の解析方法。
【請求項5】
前記標識が蛍光物質及びビオチンから選択される一種以上の標識を用いてなされる請求項4記載の解析方法。
【請求項6】
前記標的核酸が増幅されたDNAまたはRNAである請求項1乃至5のいずれかに記載の塩基配列解析方法。
【請求項7】
前記標的核酸の増幅がPCRによりなされる請求項6記載の解析方法。
【請求項8】
前記互いに異なるプローブの塩基配列の違いが、一塩基のみである請求項1乃至7のいずれかに記載の解析方法。
【請求項9】
前記プローブの塩基鎖長が10mer以上100mer以下である請求項1乃至7のいずれかに記載の解析方法。
【請求項10】
検体に含まれる解析対象核酸から得られる標的核酸と、基準核酸との相同性を解析する方法であって、
(1)前記基準核酸の同一領域に対してハイブリダイズすると予測される複数種のプローブを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程と、
(2)検体に含まれる解析対象核酸から得られる標的核酸を含む試料を分割する工程と、
(3)前記分割された試料のそれぞれに対して前記複数種のプローブを、各分割試料毎に異なるストリンジェンシーで反応させる工程と、
(4)各プローブで前記標的核酸とのハイブリッド体の形成が生じた場合に、該ハイブリット体の形成を示すシグナルを取り出す工程と、
(5)それぞれのプローブ種について、複数のストリンジェンシーにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(6)それぞれのストリンジェンシーについて、前記標的核酸の同一領域にハイブリダイズした異なる複数種のプローブにおいて得られたシグナルを比較する工程と、
(7)前記2種のシグナルの比較結果に基づいて、前記標的核酸と前記基準核酸との間の塩基配列上の相同性を解析する工程と、
を有することを特徴とする解析対象核酸の基準核酸に対する相同性の解析方法。
【請求項11】
前記ストリンジェンシーが、ハイブリダイゼーション温度、ハイブリダイゼーション時間、ハイブリダイゼーション溶液組成、洗浄温度、洗浄時間、洗浄液組成、洗浄流量、洗浄回数のいずれか一つ以上に基づいて設定される請求項10記載の解析方法 。
【請求項12】
前記固相担体がDNAマイクロアレイである請求項10または11に記載の解析方法。
【請求項13】
前記標的核酸が標識されている請求項10乃至12のいずれかに記載の解析方法。
【請求項14】
前記標識が蛍光物質及びビオチンから選択される一種以上の標識を用いてなされる請求項13記載の解析方法。
【請求項15】
前記標的核酸が増幅されたDNAまたはRNAである請求項10乃至14のいずれかに記載の塩基配列解析方法。
【請求項16】
前記標的核酸の増幅がPCRによりなされる請求項15記載の解析方法。
【請求項17】
前記互いに異なるプローブの塩基配列の違いが、一塩基のみである請求項10乃至16のいずれかに記載の解析方法。
【請求項18】
前記プローブの塩基鎖長が10mer以上100mer以下である請求項10乃至16のいずれかに記載の解析方法。
【請求項19】
検体中の標的核酸の有無を判定する方法であって、
(I)前記標的核酸の塩基配列の少なくとも所定の一部に対して完全相補な第1のプローブと不完全相補な第2のプローブとを固相担体上に固定したプローブ担体を用意する工程;
(II)前記複数のプローブ担体の各々と前記検体とを異なるストリンジェンシーでハイブリダイゼーション反応させる工程;
(III)前記工程(II)を経た各プローブ担体について、各ストリンジェンシーにおける、前記第1のプローブ由来のハイブリッド体の形成を示す第1のシグナルと前記第2のプローブ由来のハイブリッド体の形成を示す第2のシグナルとの強度比(第1のシグナル強度/第2のシグナル強度)を求める工程;
(IV)前記強度比が、少なくとも1つ以上の前記ストリンジェンシーで1.0を超える所定の値を示しているかどうかを判定基準として、前記検体中の前記標的核酸の有無を判定する工程、
を有することを特徴とする検体中の標的核酸の有無の判定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−174986(P2007−174986A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377470(P2005−377470)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】