説明

核酸の定量方法

【課題】本発明の目的は、高感度かつ高精度な核酸の定量方法であって、高価な試薬類や専用の機器類を必要としない、簡便かつ安価な核酸の定量方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、還元剤分子、酸化還元分子、およびマグネシウムイオンを含む核酸増幅用バッファ中に試料核酸を添加し、増幅反応を行う工程と、前記試料核酸の増幅反応が前記バッファ中において進行した場合、前記試料核酸の増幅に伴い生成されるピロリン酸イオンが、前記マグネシウムイオンとピロリン酸マグネシウムを形成することにより、前記マグネシウムイオンの前記バッファ中における濃度が低下する条件下において、前記還元剤分子と前記酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流を測定する工程と、前記測定された還元電流の値から、前記バッファ中の増幅核酸量、または前記添加した試料核酸量を算出する工程と、を含む、核酸の定量方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸の濃度を電気化学的手法を用いて定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の分子生物学分野の発展に伴い、多くの疾患遺伝子が同定され、遺伝子診断による疾患の特定が可能となっている。また、遺伝子診断の結果に基づいて各患者に最適な治療を提供するテーラーメイド医療も実現化しつつある。また、感染症の診断にもウィルスの遺伝子を検出する手法が開発されている。さらに、医療分野以外にも食検査や個人認証など、遺伝子検査の必要性が高まっている。
【0003】
遺伝子検査では、感染症診断やSNPs診断のような「定性解析」については様々な簡便で精度の高い手法が確立しているが、遺伝子発現診断のような「定量解析」についてはまだ確立した手法が存在しないのが現状である。
【0004】
核酸の定量に用いられる古くからの手法として、電気泳動法と吸光度測定法が存在する。しかしながら、いずれの手法も感度が低く、低濃度の核酸の定量解析が必要な遺伝子発現診断には用いることができない。さらに、電気泳動法は精度が低い、吸光度測定法は吸光度計が必要、増幅工程中にリアルタイムに定量することができない、といった問題点がある。
【0005】
近年、核酸の定量解析における高感度な新たな手法が多く考案されている。代表的な手法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を継続的に監視しながら行うリアルタイムPCR法が存在する(特許文献1)。また、核酸増幅過程において生成されるピロリン酸の濃度をピロリン酸センサーを用いて測定する、電気化学的な手法を用いて核酸を定量する手法が報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許3589638号
【特許文献2】特開2007-295811
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、蛍光色素を用いた解析になるため試薬が高価であること、加熱処理を行いながら1分毎に蛍光強度を測定することが必要であるため、サーマルサイクラーと光学系を組合せた専用の高価な装置が必要であることなどの問題がある。
【0007】
また、特許文献2に記載された方法では、電極表面にピロリン酸検知物質をコーティングする必要があること、感度向上のために電極表面積を大きくする必要があることなどから、センサー作製が煩雑になり、かつコストが増大するなどの問題がある。
【0008】
本発明の目的は、これらの課題を解決することができる核酸の定量方法、すなわち、高感度かつ高精度な核酸の定量方法であって、高価な試薬類や専用の機器類を必要としない、簡便かつ安価な核酸の定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究の結果、新たな化学種に着目し、この化学種の還元電流を測定することによって溶液中の増幅核酸量または増幅前の当初核酸量を算出できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、還元剤分子、酸化還元分子、およびマグネシウムイオンを含む核酸増幅用バッファ中に試料核酸を添加し、増幅反応を行う工程と、前記試料核酸の増幅反応が前記バッファ中において進行した場合、前記試料核酸の増幅に伴い生成されるピロリン酸イオンが、前記マグネシウムイオンとピロリン酸マグネシウムを形成することにより、前記マグネシウムイオンの前記バッファ中における濃度が低下する条件下において、前記還元剤分子と前記酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流を測定する工程と、前記測定された還元電流の値から、前記バッファ中の増幅核酸量を算出する、または前記添加した試料核酸量を算出する工程と、を含む、核酸の定量方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の核酸の定量方法は、電気化学的手法を用いた定量方法において、増幅試薬中に通常存在する還元剤分子と酸化還元分子による還元反応を測定するため、高感度かつ高精度な定量を実現することができる。また、本発明の核酸の定量方法は、新たに特別な高価な試薬類や専用の機器類を必要としないので、簡易かつ安価な定量を実現することができる。すなわち、 本発明の核酸の定量方法によって、簡便、安価で、高感度かつ高精度な核酸の定量が可能になり、優れた遺伝子発現解析などが実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について説明する。なお、以下に示す実施態様は、本発明の構成を詳細に説明するために例示的に示したものに過ぎない。従って、本発明は、以下の実施態様に記載された説明に基づいて限定解釈されるべきではない。本発明の範囲には、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内にある限り、以下の実施態様の種々の変形、改良形態を含む全ての実施態様が含まれる。
【0013】
<第1の実施態様>
(1)核酸増幅用バッファの調製
先ず、核酸増幅用バッファを調製する。前記バッファは増幅用バッファであり、前記バッファ中にポリメラーゼ、プライマーおよびNTP基質の他、還元剤分子、酸化還元物質、およびマグネシウムイオンが含まれる。前三物質は核酸を増幅するための物質であり、後三物質は増幅反応中の核酸を安定化させるための物質である。その他、任意の成分が前記バッファ中に適宜含まれる。
【0014】
第1の実施態様における増幅反応は、ポリメラーゼおよびNTP基質を用いた増幅反応であれば特に限定されることなく、例えば、PCR、LAMP、ICANおよびSMAP法からなる群から選択される。したがって、前記バッファ中には、実行する増幅反応に適合したポリメラーゼが含まれる。例えば、PCR法により増幅反応を行う場合は、耐熱性ポリメラーゼを使用し、LAMP法により増幅反応を行う場合は、鎖置換型ポリメラーゼを使用する。また、プライマーは、実行する増幅反応および増幅対象となる核酸に応じて適宜設計される。
【0015】
第1の実施態様において使用される還元剤分子は、特に限定されないが、例えばジチオスレイトール、β-メルカプトエタノール、SO2、およびH2Sからなる群から選択され、好ましくはジチオスレイトールまたはβ-メルカプトエタノールである。これらの還元剤分子には、増幅反応中のポリメラーゼの活性を維持する働きがあり、核酸増幅用バッファ中に通常含まれる成分である。還元剤分子の濃度は、添加する分子の種類によって異なるが、例えば、ジチオスレイトールの場合、好ましくは1pM〜100mM、さらに好ましくは5pM〜10mMである。
【0016】
第1の実施態様において使用される酸化還元分子は、その性質として前記還元剤分子の存在下のみで還元される分子である必要がある。これは反応の特異性を確保するためである。また、第1の実施態様において使用される酸化還元分子は、非共有電子対をもつ分子である必要がある。これは前記還元剤分子との電子の授受を可能にし、還元反応を進行させるためである。より具体的には、第1の実施態様において使用される酸化還元分子は、特に限定されないが、例えばアンモニウムイオン、キノン基、アミド基、カルボキシル基またはヒドロキシル基をもつ分子、金属錯体、および非共有電子対をもつ分子からなる群から選択され、好ましくはアンモニウムイオンである。酸化還元分子としてアンモニウムイオンを使用する場合、アンモニウムイオンは、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、ハロゲン化アンモニウムなどの塩の形態で適宜添加される。これらの酸化還元物質には、増幅反応中の二本鎖をほどいて安定性を高める働きがあり、核酸増幅用バッファ中に通常含まれる成分である。酸化還元分子の濃度は、添加する分子の種類によって異なるが、例えば、アンモニウムイオンの場合、好ましくは10pM〜1M、さらに好ましくは100pM〜500mMである。
【0017】
第1の実施態様において使用されるマグネシウムイオンは、特に限定されないが、例えば硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ハロゲン化マグネシウムなどの塩の形態で適宜添加される。マグネシウムイオンは、増幅反応中の酵素の活性を維持し、かつ増幅反応中の二本鎖の安定性を高める働きがあり、核酸増幅バッファ中に通常含まれる成分である。マグネシウムイオンの濃度は、好ましくは10pM〜1M、さらに好ましくは100pM〜500mMである。
【0018】
(2)試料核酸の増幅
次に、調製した増幅用バッファ中に試料核酸を添加し、増幅反応を行う。試料核酸は増幅反応に適合した形態に予め調製されていることが望ましい。
【0019】
第1の実施態様において検査対象となる試料核酸は、特に限定されないが、例えば、血液、血清、白血球、尿、便、精液、唾液、組織、培養細胞、喀痰、食品、土壌、排水、廃水、空気などの試料から抽出したものが対象となる。
【0020】
「増幅反応を行う」とは、試料核酸の添加後に増幅用バッファを所定の温度に加熱することを意味する。加熱制御の条件は、選択された増幅反応によって異なり、各増幅反応に適合した加熱制御を行う。例えば、PCR法を用いて増幅反応を行う場合、熱変性温度(約98℃)と鎖伸長反応温度(約65℃)を交互に繰り返し、LAMP法を用いて増幅反応を行う場合、約63℃で温度を一定に維持する。
【0021】
第1の実施態様における増幅反応は、前記増幅反応が進行した場合、試料核酸の増幅に伴い生成されるピロリン酸が、反応溶液中のマグネシウムイオンと結合してピロリン酸マグネシウムを形成することにより、前記マグネシウムイオンの前記溶液中における濃度が低下する条件下において行われる。前記条件は、増幅反応がポリメラーゼおよびNTP基質を用いたものであり、かつ増幅バッファ中にマグネシウムイオンが含まれることによって実現される。
【0022】
(3)還元電流の測定
(3−1)還元電流の測定原理
続いて、前記還元剤分子と前記酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流を測定する。
【0023】
図1
図1は、還元剤分子と酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフである。横軸は掃引した電位量を表わし、縦軸は還元電流の測定値を表わす。還元電流の測定は、電解質溶液(Tris-HCl)が入った金電極を備える容器内に還元剤分子と酸化還元分子とを含むバッファAを添加し、金電極のサイクリックボルタンメトリーを測定することにより行われる。ここで、還元剤分子としてはジチオスレイトール(DTT)を使用し、酸化還元分子としてはアンモニウムイオン(硫酸アンモニウム)を使用した。図1で得られた測定結果は、電位をいったん1.2Vまで掃引した後(図中の分岐した電流値の上側)、電位をマイナス方向に掃引して得た結果である。酸化還元分子であるアンモニウムイオンが酸化する方向に電位を掃引してアンモニウムイオンを十分に酸化させた後に還元する方向に電位を掃引することによって、還元反応の平衡状態をアンモニウムイオンが還元される方向に最大限にシフトさせることができ、その結果としてより大きな還元電流を得ることができる。図1のグラフをみると、電位を−1.3V付近まで掃引したときに5.6μAの電流がピーク値Pとして得られているのが分かる。
【0024】
図2
図2は、マグネシウムイオンを加えた場合の還元剤分子と酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフである。図1のグラフと同様、底軸は掃引した電位量を表わし、縦軸は還元電流の測定値を表わす。還元電流の測定は、電解質溶液(Tris-HCl)が入った金電極を備える容器内に、還元剤分子および酸化還元分子に加えて硫酸マグネシウムを含むバッファBを添加し、金電極のサイクリックボルタンメトリーを測定することにより行われる。使用した還元剤分子および酸化還元分子、ならびに電位の掃引方法はいずれも図1のグラフと同じ条件とした。図2のグラフをみると、同じく電位を−1.3V付近まで掃引したときに電流のピーク値が得られているものの、そのピーク値Qは3.6μAであり、図1のグラフで得られたピーク値Pと比較して著しく低い。この測定結果は、バッファB中に含まれる硫酸マグネシウムが電解質溶液中で溶解し、遊離したMgイオンが前記還元反応を阻害したものと考えられる。より具体的には、電解質溶液中で2価のイオンとして存在するMgイオンが、アンモニウム分子のイオン化を阻害し、前記還元反応において還元対象である遊離アンモニウムイオンの分子数が減少し、その結果として前記還元反応によって生じる還元電流が小さくなる。
【0025】
図3
図3は、第1の実施態様における還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフである。図1および2と同様、底軸は掃引した電位量を表わし、縦軸は還元電流の測定値を表わす。還元電流の測定は、電解質溶液(Tris-HCl)が入った金電極を備える容器内に、還元剤分子、酸化還元分子、および硫酸マグネシウムを含む核酸増幅バッファ中に試料核酸を添加し、金電極のサイクリックボルタンメトリーを測定することにより行われる。使用した還元剤分子および酸化還元分子、ならびに電位の掃引方法はいずれも図1および2のグラフと同じ条件とした。なお、試料核酸の増幅の有無については、電気泳動法を用いて、バンドの有無から別途確認している。図3のグラフをみると、試料核酸の増幅反応が行われた場合、電位を−1.3V付近まで掃引したときに3.6μAの電流がピーク値Rとして得られている(実線)。一方、試料核酸の増幅反応が行われていない場合、電位を−1.3V付近まで掃引したときの電流のピーク値Sは3.1μAである(破線)。この測定結果は、試料核酸の増幅反応が進行することによって、前記還元反応において還元対象である遊離アンモニウムイオンの分子数が増加したことを意味する。これは、試料核酸の増幅反応の進行とともに生成されるピロリン酸イオンが溶液中のMgイオンを消費するためである。
【0026】
図4
図4は、第1の実施態様における還元反応の一連の化学反応式を示した表である。
【0027】
核酸の増幅反応では、ポリメラーゼによってNTP基質が対応する相補鎖に次々と結合される。このとき、NTP基質が内包する高エネルギーリン酸結合が利用されるが、エネルギーの消費とともに副生成物としてピロリン酸イオン(P2O7H22-)が生成され、反応溶液中に放出される(化学反応式1)。反応溶液中に放出されたピロリン酸イオンはMgイオンと結合してピロリン酸マグネシウム(P2O7H2Mg)を生成するため、反応溶液中のMgイオン濃度が低下する(化学反応式2)。一方、反応溶液中の硫酸アンモニウムは遊離アンモニウムイオンとの間で一定の平衡状態にある(化学反応式3)。反応溶液中のMgイオン濃度の低下は、前記平衡状態を遊離アンモニウムイオン側にシフトさせ(化学反応式3の右側)、溶液中の遊離アンモニウムイオン濃度が増加する。アンモニウムイオンは、反応溶液中の還元剤分子であるジチオスレイトール(C4H6(OH)2(SH)2)によって還元され(化学反応式4)、このとき流れた還元電流が電極によって検出される。還元剤分子であるジチオスレイトールは反応溶液中に十分量存在しているので、反応溶液中のアンモニウムイオン濃度が増加すればするほど、流れる還元電流値は大きくなる。
【0028】
すなわち、核酸増幅反応が起こる前は、反応溶液中に高濃度で存在するMgイオンがアンモニア分子のイオン化を阻害するため、得られる還元電流は小さいが、核酸増幅反応が進行すると、反応溶液中のMgイオン濃度が減少し、アンモニア分子のイオン化が促進されるため、得られる還元電流は大きくなる。したがって、得られた還元電流の大きさに基づいて、核酸増幅反応の有無を判定することができる。
【0029】
なお、上述したように、酸化還元分子であるアンモニウムイオンが酸化する方向に電位をいったん掃引してアンモニウムイオンを十分に酸化させた後に還元する方向に電位を掃引することによって、還元反応の平衡状態をアンモニウムイオンが還元される方向に最大限にシフトさせることができ、その結果としてより大きな還元電流を得ることができる。このとき、前記還元する方向への電位の掃印は、好ましくは−2〜0Vである。
【0030】
図5
図5は、核酸量と還元電流値との相関関係を示すグラフである。核酸量が既知(電気泳動により事前に確認)の核酸サンプルを用いて各核酸量に対する還元電流値(ピーク電流値)を測定し、得られたピーク電流値に基づいて検量線を作成した。LAMP増幅産物如く、複数種類の鎖長の増幅産物が得られる場合、検量線は目的鎖長のバンド、もしくは代表的なバンドを選んで作成する。グラフから明らかなように、核酸量と還元電流値との間には有意な相関関係が存在し、核酸量が増加するにしたがって還元電流値が増加しているのが分かる。図5の結果から、増幅した核酸を還元電流の値から定量することが可能となる。なお、本明細書中において「ピーク電流値」とは、還元電流値と同義的に使用される。ピーク電流値の「ピーク」とは、図1〜図3に示したような、還元する方向に電位を掃引したときに谷状に表われる還元電流を意味している。
【0031】
図6
図6は、増幅時間と還元電流値との相関関係を示すグラフである。核酸量が既知の鋳型核酸(試料核酸)を用いて増幅反応を行う。増幅はPCR法またはLAMP法を用いて行う。PCR法を用いて増幅を行う場合、横軸の増幅時間はサイクル数として換算することもできる。4つの異なる核酸量の鋳型核酸1〜4(それぞれ10、10、10、105コピー数)を用意し、それぞれ増幅反応を行い、経時的に還元電流値を測定した。その結果、増幅開始後、一定の時間が経過すると、各鋳型核酸1〜4はそれぞれ異なる時間で「還元電流の立ち上がり」を示した。ここで、「還元電流の立ち上がり」とは、時間tまで測定有効閾値以下にあった電流値が時間tを境界として大きく立ち上がることをいう。ここで、「測定有効閾値」とは、測定される還元電流値と増幅核酸量との間に有意な相関関係が認められる最低ピーク電流値を意味し、測定有効閾値以下では、核酸が増幅しても還元電流はほとんど変化せず、還元電流値から核酸量を算出することはできない。一方、増幅反応が進行し、核酸量がある一定量を超えると、還元電流値と増幅核酸量との間に有意な相関関係が生じ、還元電流値は急激に上昇する(還元電流の立ち上がり)。
【0032】
各コピー数の鋳型核酸1〜4の立ち上がりの時間t(それぞれ10(t1)、10(t)、10(t)、105(t))をみると、鋳型核酸のコピー数が多くなればなるほど立ち上がりの時間tが早くなることが分かる。図6の結果から、試料核酸の還元電流を経時的に測定し、電流の立ち上がりの時間を特定することによって、増幅前の当初の試料核酸量を定量することが可能となる。
【0033】
図7
図7は、3つの異なる核酸量の鋳型核酸(それぞれS1(100pg)、S2(5ng)、S3(10ng))について経時的に還元電流を測定した結果を示すグラフである。図7および以下に説明する図8のグラフは、図6で得られた結果を補強するものである。還元電流の測定は、増幅反応開始20分後、5分毎に行った。測定有効閾値を1.8μAとした場合、S1(100pg)の電流の立ち上がり時間tは45分後であり、S2(5ng)の立ち上がり時間tは40分後であり、S3(10ng) の立ち上がり時間tは30分後である。
【0034】
図8
図8は、図7で算出した電流の立ち上がり時間t1−3と鋳型核酸量との関係をプロットしたグラフである。図8から明らかなように、鋳型核酸量が多くなればなるほど、電流の立ち上がり時間が早くなることが分かる。図7および図8の結果から、図6において示された結論、すなわち、試料核酸の還元電流を経時的に測定し、電流の立ち上がりの時間を特定することによって、増幅前の当初の試料核酸量を定量することが可能となる、ということがより明確に実証された。
【0035】
(3−2)還元電流の測定装置
第1の実施態様における電気化学的な測定は、ポテンシオスタットを用いて行うことができる。電気化学的な測定法には、例えば、CV、LSV、DPVなどのパルス手法、CC、CA、インピーダンス測定などがある。これらの手法において電気化学的な測定が可能であれば、測定装置、測定を行う容器および電極の配置などに特に制限はない。以下、第1の実施態様において使用される測定装置の例を示す。実際には、これらの種々の変形、改良形態を含む全ての測定装置が、本発明の方法において使用可能である。
【0036】
図9
図9は、第1の実施態様において使用する第1の測定装置20を模式的に示した図である。第1の測定装置20は、試料核酸の増幅反応と、還元反応による還元電流の測定とを、電極を具備する同一の容器(増幅反応用チューブ10)内において行うことを特徴とする。増幅反応と還元電流の測定とを同一容器内で行うことができるので、装置構成が単純であり、簡易な検出を実現することができる。
【0037】
増幅反応用チューブ10には、その壁面に電極11が埋め込まれており、チューブ内の溶液の還元電流を測定することができる。図9では電極を3電極式の電極11として表わした。増幅反応用チューブ10が増幅装置15にセッティングされたとき、3電極式の各電極11が増幅装置15に内蔵された各端子12と接触するので、チューブ10内の溶液の電流を測定することができる。各端子12はそれぞれリード線13を介して還元電流の測定装置に接続されている。
【0038】
なお、電極11は3電極式が好ましいが、2電極式、4電極式でもよい。第1の実施態様に係る方法は微弱な還元電流を測定するため、電極材質に特に制限はなく、導電性の高い任意の材質、例えば金、白金、銀、銅、アルミ、ニッケル、鉄、カーボンなどを使用することができる。特に、金電極は安定的に信頼性の高いものを大量に供給することができ、臨床試験および医療現場における使用に適している。また、電極表面に分子修飾を施すことによってより感度を向上させることができる。前記分子修飾の具体例としては、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトヘキサノール、メルカプトヘプタノール、メルカプトエチレングリコール、メルカプトオリゴエチレングリコール、メルカプトポリエチレングリコール、炭素鎖が30〜50のアルカンチオールなどのメルカプタン、ステアリルアミンなどの脂質、界面活性剤、アルブミン、核酸などがある。
【0039】
測定の手順として、先ず、増幅反応用容器10内に核酸増幅用バッファを注入し、試料核酸を添加する。核酸増幅用バッファおよび試料核酸の入った増幅反応用容器10の蓋14を閉じて密閉した後、容器10を増幅装置20にセッティングする。続いて、増幅装置20によって容器10内の溶液の加熱操作を行う。加熱操作は増幅方法および反応条件等に応じて適宜変更する。加熱操作開始後、容器10内の溶液の還元電流を測定する。
【0040】
図10
図10は、第1の実施態様において使用する第2の測定装置50を模式的に示した図である。第2の測定装置50は、複数の前記試料核酸の増幅反応を、マイクロタイタープレートにおいて同時に行い、前記マイクロタイタープレートの各ウェルに対応した複数の測定用電極を備えた測定基板によって前記複数の試料核酸の還元電流を同時に測定することを特徴とする。第2の測定装置50は、マイクロタイタープレート型の増幅反応容器およびこれに対応する測定基板を用いることによって複数の検体を同時に検出できるので、臨床試験および医療現場において極めて有用である。
【0041】
図10は、マイクロタイタープレート30の任意の1レーンの断面を模式的に示している。マイクロタイタープレート30の各ウェル35に試料核酸および核酸増幅用バッファを注入し、検査を開始する。増幅反応開始後、各ウェル35内の溶液の還元電流を測定する。還元電流の測定は、マイクロタイタープレート30の各ウェル35に対応した測定用電極45を備えた測定基板40を用いて行われる。測定基板40をマイクロタイタープレート30の上に載せることによって、測定基板40に備えつけられた測定用電極45が、マイクロタイタープレート30の各ウェル35内の溶液に浸漬される。測定用電極45は、各ウェル35内の溶液に確実に浸漬されるよう、細径の電極支持体46の先端部付近に固定するとよい。図中では、測定用電極45を3電極式のものとして表わしたが、上述したようにこれに限定されない。測定基板40は、還元電流の測定装置に接続され、各ウェル35内の溶液の還元電流を同時に測定することができ、その結果、複数の試料核酸の増幅の有無を同時に判定することができる。
【0042】
(4)核酸の定量
図5から明らかなように、核酸量と還元電流値との間には有意な相関関係が存在し、還元電流の値から、増幅した核酸を定量することが可能となる。したがって、予め検量線を作成しておき、この検量線と比較することにより核酸の定量を行う。より具体的には、あらかじめ核酸量が既知である異なる複数の標準試料核酸を用意する。そして、前記標準試料核酸を用いて還元電流を測定し、各核酸量に対して得られたピーク電流値をプロットすることによって検量線を作成する。ここで、「標準試料核酸」とは、核酸量が既知である試料核酸を意味し、もっぱら検量線作成のために使用する。そして、前記作成された検量線と比較することによって、検出対象である試料核酸において測定された還元電流の値が示す核酸量を算出する。
【0043】
標準試料核酸は、検出対象である試料核酸と同一または類似の塩基配列を有する。同一または類似の塩基配列を有する標準試料核酸を使用して検量線を作成することによって、高精度の定量結果を得ることができる。好ましくは、検出対象である試料核酸の増幅反応条件は、検量線作成時と同一または近似させる。増幅方法をはじめ、種々の増幅反応条件、例えば、プライマー配列、添加試薬およびその添加量、温度条件、増幅時間などを検量線作成時と同一または近似させることによって、よりいっそう高精度な定量が実現される。
【0044】
なお、検量線は、図5に示すような形で定量目的の核酸で予め作成しておくことが望ましいが、おおよその核酸量を算出する場合であれば、核酸の配列に関わらず電流値から核酸量を求める計算式を設定することもできる。
【0045】
試料核酸の増幅反応後に増幅産物の定量を行う場合、試料核酸を核酸増幅用バッファ中に添加し、上述した方法に基づいて増幅反応を行う。増幅反応終了後、電気化学測定を行い、増幅産物を含む核酸増幅用バッファの還元電流を測定する。測定されたピーク電流値を前記予め作成された検量線と比較することによって、増幅産物の核酸量を算出することができる。
【0046】
増幅反応を行う前の、核酸増幅用バッファ中に添加した当初の試料核酸の核酸量を算出する場合、還元電流を増幅反応の開始時点から連続的に測定し、ピーク電流値の立ち上がりを特定する。ここで、「連続的に測定」とは、少なくとも2回以上、時間間隔を空けて還元電流を測定すること、あるいは増幅サイクルを単位として少なくとも2回以上、還元電流を測定することを意味する。例えば、LAMP法などの等温増幅法を用いて試料核酸の増幅を行う場合、増幅反応の開始時点から増幅反応の終了時点まで、20分毎〜10秒毎、より具体的には、20分毎、15分毎、10分毎、9分毎、8分毎、7分毎、6分毎、5分毎、4分毎、3分毎、2分毎、1分毎、45秒毎、30秒毎、15秒毎、または10秒毎に還元電流を連続的に測定する。一方、PCR法を用いて試料核酸の増幅を行う場合、増幅反応の開始時点から増幅反応の終了時点まで、10サイクル毎〜1サイクル毎、より具体的には、10サイクル毎、9サイクル毎、8サイクル毎、7サイクル毎、6サイクル毎、5サイクル毎、4サイクル毎、3サイクル毎、2サイクル毎、または1サイクル毎に還元電流を連続的に測定する。
【0047】
なお、測定の時間間隔は必ずしも一定である必要はなく、適宜異なる時間間隔で測定を行ってもよい。例えば、ピーク電流の立ち上がりが予測される時間付近で短い時間間隔で測定を行うことによって、より精度の高い検出が実現される。また、ピーク電流値の立ち上がりの特定後に還元電流の測定を中止してもよい。
【0048】
図6から明らかなように、測定開始から一定時間t経過まで、還元電流値に有意な変化は認められない。これは、増幅反応が進行し、増幅核酸量がある一定量以上に達するまでは還元電流と核酸量との間に相関関係がないことを意味する。したがって、この状態にある還元電流値を「測定有効閾値以下」という。増幅核酸量がある一定量を超えた時点で、電流値の急激に上昇が観察される(還元電流(ピーク電流値)の立ち上がり)。測定有効閾値を予め設定しておき、この閾値を越える還元電流が測定された時間を「ピーク電流値の立ち上がり」とする。例えば、図7において、測定有効閾値を「1.8μA」とした場合、5分毎の連続的測定において、ピーク電流値が1.8μAを初めて超えた時間を「ピーク電流値の立ち上がり」と特定する。
【0049】
例えば、図7では5分毎に還元電流値が連続的に測定されている。最も核酸量が多い鋳型核酸S3(10ng)は、増幅開始30分後の測定において初めて測定有効閾値を越える電流値が測定されているので、鋳型核酸S3(10ng)におけるピーク電流値の立ち上がりは「30分後」とすることができる。同様に、鋳型核酸S2(5ng)およびS1(100pg)のピーク電流値の立ち上がりは、それぞれ「40分後」および「45分後」とすることができる。図8の説明部にあるように、鋳型核酸の量と「ピーク電流値の立ち上がり時間」との間には有意な相関関係がある。すなわち、「ピーク電流値の立ち上がり時間」は、増幅反応を行う前の、核酸増幅用バッファ中に添加した当初の試料核酸の核酸量と相関関係を有するので、増幅反応開始後、一定の時間間隔で還元電流を測定し、測定有効閾値を越える電流値が測定された時間を「ピーク電流値の立ち上がり時間」とし、このピーク電流値の立ち上がり時間を予め作成した検量線と比較することによって、検出対象である試料核酸の増幅前の当初の核酸量を算出することができる。当初核酸量の算出は、還元電流値を利用した間接的な推定量であるが、上記核酸量と電流の立ち上がり時間との間には有意な相関関係が存在するので、精度の高い核酸量の算出が可能となる。また、電流の測定間隔を短くすれば、その精度はいっそう高くなる。
【0050】
予め作成される検量線は、試料核酸の増幅反応後に増幅産物の定量を行う場合と同様、核酸量が既知である異なる複数の「標準試料核酸」を使用して作成することができる。先ず、1つの標準試料核酸を添加した核酸増幅用バッファ中の還元電流を増幅反応開始時点から連続的に測定し、「ピーク電流値の立ち上がり時間(またはサイクル数)」を特定する。続いて、その他の複数の異なる核酸量の標準試料核酸について、上記と同様、それぞれ「ピーク電流値の立ち上がり時間(またはサイクル数)」を特定する。最後に、これらの値をグラフ上にプロットすることによって、「核酸量」と「ピーク電流値の立ち上がり時間(またはサイクル数)」との関係が示された検量線が作成される。
【0051】
なお、電流値が時間経過に伴って増加する速度をパラメータに加えることにより、さらに正確な定量が実現される。
【0052】
また、検量線を用いないで検出することもできる。検量線を用いない場合、濃度既知の標準核酸を用いて希釈系列を作製し、同時に定量目的の試料核酸の増幅を行う。定量目的の試料核酸で得られた還元電流値を、前記希釈系列で得られた還元電流値と比較することによって、試料核酸の定量を行うことができる。予め検量線を作成するのではなく、希釈系列を同時に作製し、これと比較するので、種々の増幅反応条件、例えば、プライマー配列、添加試薬およびその添加量、温度条件、増幅時間などを揃えて同時に行うことが容易になり、その結果、極めて高精度な定量が実現可能となる。
【0053】
その他、リアルタイムPCR法で報告されている種々の鋳型核酸量の算出方法を用いることができる
【実施例】
【0054】
実施例1
1.使用材料等
(1)核酸増幅用バッファ
核酸増幅用バッファには、以下に示すモデル遺伝子A増幅用のプライマーセット、LAMP増幅用の酵素、バッファを用いた。鋳型にはモデル遺伝子Aの配列をもち、核酸量の不明なサンプル核酸1を用いた。
【0055】
モデル遺伝子A:マウス2C39
モデル遺伝子A増幅用プライマーセット
TCAAAACGATCCTGGAAAATAATGGACATTCATTCTGAGCTGTGC
GGAAAAACTAAATGAGAATGTCAAGGAGAAAAAACATTCTTGACTTC
TTCAGGCTCACCTTGTGA
CTGTGGCAATAAAGCACC
AGCAGATGACATTGCATGGA
【0056】
(2)電極
電気化学測定用電極として、作用極、対極、参照極ともに金電極を用いた。
【0057】
2.実験手順
先ず、増幅反応液の調製を行った。モデル遺伝子A増幅用のプライマーセットとLAMP増幅用の酵素、バッファを混合し、鋳型としてサンプル核酸1を添加した。
【0058】
次に、増幅温度63℃で60分間、LAMP法による増幅反応を行った。
【0059】
増幅後に電気化学測定を行った。測定法にはサイクリックボルタンメトリー法を用いた。0Vから1.2Vまで掃引し、その後-1.6Vまで掃引した。掃引速度は0.3V/secである。
【0060】
3.実験結果
増幅後に得られた還元電流のピーク電流値は、1.72μAであった。このピーク電流値を図5の検量線に照合させると、増幅産物の核酸量は約44.3ngと算出された。
【0061】
実施例2
1.使用材料等
(1)核酸増幅用バッファ
核酸増幅用バッファには、以下に示すモデル遺伝子B増幅用のプライマーセット、LAMP増幅用の酵素、バッファを用いた。鋳型にはモデル遺伝子Bの配列をもち、核酸量の不明なサンプル核酸2を用いた。
【0062】
モデル遺伝子B:マウス481
モデル遺伝子B増幅用プライマーセット
ATTTGGAACATACTGCTCTCTTCTGCTGCCATCTTCCTTTTGACA
AACTCAGACCTCCTTGAAAAGAACACAAAATCCTCGATAACTCGG
ATCTGGGAAGGATCAGCC
TGTCTGAAGATAGCTATTCACA
【0063】
(2)電極
電気化学測定用電極として、作用極、対極、参照極ともに金電極を用いた。
【0064】
2.実験手順
先ず、増幅反応液の調製を行った。モデル遺伝子B増幅用のプライマーセットとLAMP増幅用の酵素、バッファを混合し、鋳型としてサンプル核酸2を添加した。
【0065】
次に、増幅温度63℃で60分間、LAMP法による増幅反応を行った。
【0066】
増幅開始後から10分毎に、電気化学測定を行った。測定法にはサイクリックボルタンメトリー法を用いた。0Vから1.2Vまで掃引し、その後-1.6Vまで掃引した。掃引速度は0.3V/secである。
【0067】
3.実験結果
図11は、増幅開始後10分毎に測定されたピーク電流値をプロットしたグラフである。図7および図8の結果に基づいて測定有効閾値を1.8μAとすると、増幅開始40分後に閾値を上回るピーク電流値が測定された(すなわち、本実施例の電流の立ち上がり時間は「40分後」となる)。電流の立ち上がり時間「40分」を図8の検量線と照合させることによって、増幅前の当初のサンプル核酸2の核酸量が約5000pg(5ng)であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】還元剤分子と酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフ
【図2】マグネシウムイオンを加えた場合の還元剤分子と酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフ
【図3】第1の実施態様における還元反応によって生じる還元電流の測定結果を示すグラフ
【図4】第1の実施態様における還元反応の一連の化学反応式を示した表
【図5】核酸量と還元電流値との相関関係を示すグラフ
【図6】増幅時間と還元電流値との相関関係を示すグラフ
【図7】3つの異なる核酸量の鋳型核酸(それぞれS1(100pg)、S2(5ng)、S3(10ng))について経時的に還元電流を測定した結果を示すグラフ
【図8】図7で算出した電流の立ち上がり時間tと鋳型核酸量との関係をプロットしたグラフ
【図9】第1の実施態様において使用する第1の測定装置20を模式的に示した図
【図10】第1の実施態様において使用する第2の測定装置50を模式的に示した図
【図11】実施例2において、増幅開始後10分毎に測定されたピーク電流値をプロットしたグラフ
【符号の説明】
【0069】
10・・・増幅反応用容器、11・・・電極、12・・・端子、13・・・リード線、14・・・蓋、15・・・増幅装置、20・・・第1の測定装置、30・・・マイクロタイタープレート、35・・・ウェル、40・・・測定基板、45・・・測定電極、46・・・電極支持体、50・・・第2の測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元剤分子、酸化還元分子、およびマグネシウムイオンを含む核酸増幅用バッファ中に試料核酸を添加し、増幅反応を行う工程と、
前記試料核酸の増幅反応が前記バッファ中において進行した場合、前記試料核酸の増幅に伴い生成されるピロリン酸イオンが、前記マグネシウムイオンとピロリン酸マグネシウムを形成することにより、前記マグネシウムイオンの前記バッファ中における濃度が低下する条件下において、前記還元剤分子と前記酸化還元分子による還元反応によって生じる還元電流を測定する工程と、
前記測定された還元電流の値から、前記バッファ中の増幅核酸量、または前記添加した試料核酸量を算出する工程と、
を含む、核酸の定量方法。
【請求項2】
前記核酸量を算出する工程が、
核酸量が既知である異なる複数の標準試料核酸を用意する工程と、
前記標準試料核酸を用いて還元電流を測定し、各核酸量に対して得られたピーク電流値をプロットすることによって検量線を作成する工程と、
前記作成された検量線と比較することによって、検出対象である試料核酸において測定された還元電流の値が示す核酸量を算出する工程と、
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元電流を、前記増幅反応の終了時点において測定し、ピーク電流値を得ることによって前記バッファ中の増幅核酸量を算出することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記還元電流を、前記増幅反応の開始時点から連続的に測定し、ピーク電流値の立ち上がりを特定することによって、前記添加した試料核酸量を算出することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記還元電流を測定する工程が、前記還元剤分子と前記酸化還元分子による還元反応が誘導されるように、前記酸化還元分子が酸化する方向に電位を掃印後、還元する方向に電位を掃印する工程と、前記還元する方向に電位を掃引したときに発生する前記還元反応による還元電流を測定する工程と、を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化還元分子が、前記還元剤分子の存在下のみで還元される分子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記酸化還元分子が、非共有電子対をもつ分子であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸化還元分子が、アンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記還元剤分子が、ジチオスレイトール(DTT)またはβ-メルカプトエタノールであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記還元剤分子がジチオスレイトール(DTT)であり、かつ前記酸化還元分子がアンモニウムイオンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記試料核酸の増幅反応が、PCR法、LAMP法、ICAN法、およびSMAP法からなる群から選択される増幅反応であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記還元反応の還元電位が、−2〜0Vであることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記試料核酸の増幅反応と、前記還元反応による還元電流の測定とを、電極を具備する同一容器内において行うことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−154834(P2010−154834A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267(P2009−267)
【出願日】平成21年1月5日(2009.1.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】