説明

核酸増幅装置、方法および細胞培養・核酸増幅方法

【課題】微量核酸を増幅する方法を提供する。
【解決手段】基板温度を50度から100度の間で温度計測をしながら一定に保つ機能を有する透明電極を帯状に複数表面に配置したチップと、チップ上に構成されたミネラルオイル層と、ミネラルオイル層中に水滴を導入する手段と、水滴の蛍光強度の変化を計測する手段と、水滴に水の吸収を有する波長の集束光を照射して加熱する手段からなることを特徴としたリアルタイム核酸増幅装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置、方法および細胞培養の過程からリアルタイム核酸増幅の過程までを同じ装置で実行できる細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学反応を極微量で行うマイクロデバイスや、細胞を1個ずつ取り扱い、細胞に対して種々反応を行ったり観測を行ったりするシステムを実現するための新しい技術が種々提案されている。たとえば、本願の発明者らによる特開2006−162264号公報では、反応媒体を含む液滴を複数種準備して、これらを選択的に衝突させて反応を行わせる具体案が開示されている。
【0003】
従来の生化学反応をはじめとする化学反応は、ある大きさを有する容器の中で行うのが一般的であったが、このような液滴による操作ができれば、文字通りの微量反応が実現できる。このような微量反応の実現は、準備する試料の量の低減が可能になるのみならず、反応速度の向上等操作性の面でも有利であるのみならず、反応生成物を最小限にできるので無駄がないと言う点でも有用である。
【特許文献1】特開2006−162264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、核酸増幅を微量反応として液滴内で実現しようとするものである。すなわち、細胞一つを液滴に収納して細胞単位で細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅装置に関する。さらに、核酸増幅の対象である液滴内に収納した細胞を液滴内で増幅して、増幅された細胞を利用して細胞が有する核酸を増幅するリアルタイム核酸増幅方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の、核酸増幅装置、核酸増幅方法、核酸増幅用基板、細胞培養・核酸増幅方法、および細胞培養・核酸増幅用基板を提供する。
(1)複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受ける透明基板を載置するための手段であって、前記透明基板が熱伝導性部材を備える、透明基板載置手段、
前記透明基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記透明基板上に所定の間隔で並べる手段、ならびに
前記透明基板上に設けられた熱伝導部材の温度を所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
(2)一つの細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含む液滴を形成する手段、
前記液滴のサイズをコントロールする手段、
前記透明基板上に形成された液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を有する透明基板を載置する手段であって、前記透明基板上に透明電極が設けられている、透明基板載置手段、
前記液滴の温度を所定のパターンで経時的に変化するように前記透明電極に流す電流を制御する手段、ならびに
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
(3)前記液滴の温度信号を検出する手段が前記透明電極に設けられ、前記温度信号に基づいて前記透明電極に流す電流を制御する手段を有する上記(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(4)前記熱伝導性部材または前記透明電極にレーザー光線を照射する手段を備え、事前に検討した前記レーザー光線の照射による前記液滴の温度上昇をデータを基礎に前記透明電極に照射するレーザー光線を制御する手段を有する上記(1)または(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(5)前記液滴にレーザー光線を照射する手段を備え、事前に検討した前記レーザー光線の照射による前記液滴の温度上昇をデータを基礎に前記液滴に照射するレーザー光線を制御する手段を有する上記(1)または(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(6)前記一つの細胞を含む液滴を形成する手段がシリンジポンプと連通するピペットであり、該ピペットが細胞の種類単位で使い捨てとされる上記(1)または(2)記載のリアルタイム核酸増幅装置。
(7)基板上に細胞を含む液滴を形成し、該液滴中の該細胞に含まれる核酸をPCR増幅する方法であって、
細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペット内に複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液を保持する工程、
前記ピペット先端部に一つの細胞を含む溶液をピペット内部から押し出して液滴を形成する工程、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを判断する工程、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴を透明基板上の所定の位置に滴下し並べる工程、ならびに
前記透明基板上の液滴の温度を所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度を所定のパターンで経時的に変化するように制御する工程、
を含む核酸増幅方法。
(8)所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の所定の領域を囲う壁、
前記透明基板上に所定の細胞を包含した液滴を保持するための空間を有するアガロースゲルの層、
を有する細胞培養リアルタイム核酸増幅装置用基板の前記アガロースゲルの層の空間のそれぞれに細胞の培養液を有する液滴を滴下し並べる工程、
前記細胞を培養する工程、
前記細胞の培養後に前記液滴の培養液を前記細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR溶液に置換する工程、ならびに
前記細胞の内包する核酸をPCRにより増幅する工程、
を含む細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法。
(9)所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の一面にアレー状に配列された複数の透明電極、
該透明電極の一端に設けられた温度検出手段、および
前記透明電極の設けられた透明基板の所定の領域を囲う壁、
を備えるリアルタイム核酸増幅装置用基板。
(10)前記透明電極に所定の細胞を包含する液滴を配列した後、前記壁に囲まれた前記所定の領域内に所定の溶媒層を形成した上記(9)記載のリアルタイム核酸増幅装置用基板。
(11)所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の一面にアレー状に配列された複数の透明電極、
該透明電極の一端に設けられた温度検出手段、
前記透明電極の設けられた透明基板の所定の領域を囲う壁、
前記透明電極上に所定の細胞を収納した液滴を保持するための空間を有するアガロースゲルの層、
を備える細胞培養・リアルタイム核酸増幅装置用基板。
(12)細胞1個を通過させることのできる先端開口径を有する、細胞1個を含む液滴を形成するためのピペットを保持する手段と、
前記ピペットに細胞を含む溶液を補充し、該ピペットから該細胞を含む溶液を押し出すための溶液操作手段であって、前記細胞を含む溶液が、前記細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼをさらに含む、溶液操作手段と、
前記ピペットの先端に形成される液滴を光学的に観察し、細胞1個を含む液滴の形成を確認するための光学系と、
前記ピペットから滴下する前記液滴を受ける透明基板を載置するステージであって、前記透明基板が前記液滴の温度を制御するための手段を備える、ステージと、
前記ステージの位置を制御する手段とを備える、
核酸増幅装置。
(13)前記溶液操作手段が、前記ピペットに連通するシリンジポンプである、上記(12)記載の核酸増幅装置。
(14)前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記透明電極に電流を供給するための電流源を含み、
該温度検出手段により検出した温度信号に従って前記透明電極に流す電流を調節することによって、前記透明基板上の液滴の温度を制御する、
上記(12)または(13)記載の核酸増幅装置。
(15)前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記液滴にレーザー光線を照射する手段を含み、
前記温度検出手段により検出した温度信号にしたがって前記レーザー光線の照射量を制御する、上記(12)または(13)記載の核酸増幅装置。
(16)前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記透明電極にレーザー光線を照射する手段を含み、
前記温度検出手段により検出した温度信号にしたがって前記レーザー光線の照射量を制御する、上記(12)または(13)記載の核酸増幅装置。
(17)更に、前記液滴のサイズを制御するために、細胞を含まない溶液を前記液滴に加えるための第2のピペットを保持および操作する手段を備える、上記(12)〜(16)のいずれか記載の核酸増幅装置。
(18)前記透明基板上に前記透明電極の一部または全部を含む領域を囲むように側壁が形成され、該領域内に前記液滴と非親和性の溶媒が保持されている透明基板を使用する、上記(12)〜(17)のいずれか記載の核酸増幅装置。
【0006】
本発明では、あらかじめ細胞の特徴に着目して分離された細胞の懸濁液を吸い上げたピペット先端に一つの細胞を含有する適当な大きさの液滴を形成する。この際、細胞の懸濁液は、この細胞が有することが期待されている核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液とすることができる。あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液としてもよい。ピペットの先端に形成させる液滴は光学系でモニターして液滴の大きさを監視して制御する。
【0007】
透明な基板上に前記液滴を滴下させ、液滴を適宜配置する。前記透明基板上の液滴の時間に対する温度を所定のパターンに変化させ、液滴単位で独立して液滴内の細胞のPCRによる核酸増幅を実施する。
【0008】
必要に応じて、上記細胞の核酸増幅に先行して、それぞれの液滴内の溶液を細胞の培養液として、細胞の培養を行う。その後、液滴内の培養液をPCR溶液に置換した後、培養された細胞の核酸増幅を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、細胞単位で独立しての核酸増幅を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1(a)は、本発明の実施例のリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の平面図、(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。1はシリコン基板であり、例えば、その厚さは1mm、大きさは20mm×20mmである。2は壁であり、シリコン基板で製作され、その厚さは、例えば、1mm、高さは10mmである。31,32,33及び34はたとえばITOによる透明電極である。これらの透明電極3は、基板の幅の全長20mmにわたって設けられている。幅は300μm、厚さは必要な電気抵抗値に応じて決めればよい。壁2は、前記基板1の上面に配列される透明電極3の大部分の領域を囲うものとされる。41,42,43及び44は透明電極3の一端に貼り付けられたサーミスタである。サーミスタ41,42,43及び44はペルチェ素子とされてもよい。5は位置決め用のマーカーであり、シリコン基板1の一面に形成される。図では、壁2の内側に設けたが、外側であっても良い。
【0011】
図2(a)は、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に核酸増幅の対象となる細胞を含む液滴を載置するシステム構成の例を説明する概念図、図2(b)は、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に細胞12を包含する液滴21が分配された結果を示す断面図である。本発明の実施例では、透明電極31,32,33及び34上に細胞を含む液滴を載置するための第1のピペット11と、液滴21のサイズを調整するための第2のピペット20とを備えるものとして説明される。また、液滴21を載置する操作に先行して壁2で囲われた領域内に8mmの深さでミネラルオイル38を張る。なお、ミネラルオイル38を張る操作は液滴21を載置する操作の後に、行うものとしてもよい。
【0012】
核酸増幅の対象となる細胞12は、あらかじめセルソータ等で分類される。DNA複製において核酸増幅の対象となる細胞12は、細胞12に期待される核酸の増幅のためのプライマー、DNA鎖の伸長を行う酵素であるポリメラーゼ、拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素を包含するPCR溶液13、あるいは、前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するPCR溶液13に懸濁された状態で準備される。401,402,403および404は分類された細胞ごとに準備された試料を入れた試験管を示す。第1のピペット11は試験管401,402,403および404から試料を吸引して、第1のピペット11の先端に形成される液滴を光学的にモニターしながらリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に細胞12を含むPCR溶液13の液滴を分配する。この際、細胞ごとに第1のピペット11とシリンジポンプ31を接続するチューブ30も含めて第1のピペット11を取り替えれば、透明電極31,32,33及び34上に載置される細胞12を異なったものとする場合にも、これらが混在することは防止できる。
【0013】
19はXY方向に駆動される光学的に透明なステージであり、27はステージ19の駆動装置である。ステージ19の上面にはリアルタイム核酸増幅装置用チップ100が載置される。リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の上部には、分配すべき細胞12を含むPCR溶液13があらかじめ吸い上げられて保持されている第1のピペット11が配置される。第1のピペット11の根元部には、チューブ30を介してシリンジポンプ31が設けられ、シリンジポンプ31には駆動装置32が取り付けられている。また、シリンジポンプ31にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ31が駆動装置32により駆動されると、第1のピペット11内のPCR溶液13が細胞12とともに押し出される。なお、第1のピペット11の根元部とチューブ30との接続部が離れたように図示されているのは、第1のピペット11を拡大して表示するためであり、分離されているわけではない。
【0014】
一方、第1のピペット11の先端部に形成される液滴のサイズを調整するために、第1のピペット11の先端部に形成される液滴に溶液を供給するための第2のピペット20の先端が配置される。第2のピペット20の根元部にはチューブ34を介してシリンジポンプ35が設けられ、シリンジポンプ35には駆動装置36が取り付けられている。また、シリンジポンプ35にはあらかじめPCR溶液13を吸引しておくものとする。シリンジポンプ35が駆動装置36により駆動されると、シリンジポンプ35内のPCR溶液が第2のピペット20から押し出される。第1のピペット11の先端部に形成されている液滴にPCR溶液を供給して液滴のサイズを大きくすることができる。
【0015】
第1のピペット11の先端部の近傍の内部および先端部に形成される液滴21の大きさをモニターするための光学系を構成する光源16、集光レンズ17が設けられ、これに対向する位置でリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の下部にコリメートレンズ18およびモニター25が設けられる。したがって、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100、透明電極31,32,33及び34およびステージ19は、光学的に透明である必要がある。26は、いわゆる、パソコンであり、モニター25からの入力信号に応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムから得られる制御信号、および、使用者がモニター25の表示画面を見ながら与える操作入力信号28に応じて駆動装置27,32,36および37に必要な信号を与える。なお、ここでは、図示しなかったが、モニター25の検出している画面と同一の表示をパソコン26のモニターに表示するのが便利である。そうすれば、モニター25は、小型のCCDカメラとすることができる。また、操作入力信号28は、パソコン26の入力装置を介して与えられるものである。
【0016】
ここで、第1のピペット11のサイズについて考えると以下のようである。第1のピペット11は、その先端に、一つの細胞のみを含有する適当な大きさの液滴を構成できるようにすることが必要である。第1のピペット11は、細胞12を含むPCR溶液13をピペットで吸い上げてから使用するが、液滴21を構成するときに、第1のピペット11の先端を通過する細胞がモニター25で誤り無く検出できることが必要である。したがって、第1のピペット11の先端部の直径は細胞1個が通過するのを許すが、一度に二つ以上の細胞が通過できないものとする。すなわち、透明で、先端部の直径が、一般的な動物細胞用として20〜100μm、バクテリアなどの微生物用では5μm程度とするのが良い。
【0017】
第1のピペット11の先端部に形成された液滴21をリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に移すためのピペットの上下動駆動装置37が設けられる。ここでは、上下動駆動装置37は第1のピペット11に連係するものとする。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を下げる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は下に動き、第1のピペット11の先端部に形成された液滴を透明電極31,32,33及び34のいずれかに移す。上下動駆動装置37に、使用者により、第1のピペット11を復旧させる操作信号28が与えられると、第1のピペット11は図に示す位置に戻る。第1のピペット11の図に示す位置への復旧は、下げ操作から、パソコン26により、タイムシーケンシャルに行われるものとしても良い。一点差線39は上下動駆動装置37と第1のピペット11との連係を意味する。
【0018】
リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に細胞12を分配する全体的な操作について以下説明する。まず、システムが起動されると、使用者は、図1(a)で説明したマーカー5に着目してリアルタイム核酸増幅装置用チップ100が所定の起動位置にあるように位置決めする。次に、細胞12の最初の分配位置を第1のピペット11および第2のピペット20の先端部に対応する位置に移動させる操作入力信号28に応じて、駆動装置27によりステージ19を操作する。リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34のいずれかが所定の位置まで来ると、第1のピペット11内部の細胞12を含むPCR溶液13を細胞12とともに排出する操作を行う。この際、第1のピペット11の先端部の外側と先端部近傍の内部を光源16とモニター25からなる光学系で監視する。モニター25の出力をパソコン26に取り込み、パソコン26の画像演算結果をもとに駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31の送液を制御することができる。
【0019】
モニター25で第1のピペット11の先端を監視しながら、駆動装置32を動作させて、シリンジポンプ31を動かし、細胞12を含むPCR溶液13を第1のピペット11の先端から排出して、ピペット先端に液滴21を形成する。このとき、液滴21中に一つの細胞が挿入されたことをモニター25を通してパソコン26が認識し、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させる。
【0020】
細胞12の認識は、第1のピペット11の先端部の液滴21中に存在する細胞12を直接検出することでも良いが、より効率的には、第1のピペット11の内部を移動する細胞12をモニター25で監視し、パソコン26で細胞のピペット内での位置と移動速度を計算し、第1のピペット11の先端から液滴21内に排出される時を予測してシリンジポンプ31を制御してもよい。後者の認識方法を用いれば、たとえば短い間隔で複数の細胞がピペット11内を移動している場合などに細胞を1個だけ液滴の中に入れる場合に有利となる。
【0021】
ここで、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が低いときは、細胞が第1のピペット11の先端から出る直前に液滴21を形成し始め、所定時間後に液滴形成を停止すれば、液滴21の大きさを一定にすることができる。液滴を形成したくないときは、たとえばブロアーで第1のピペット11の先端から出てくる液を吹き飛ばせばよい。あるいは、基板1の外にドレインを設け、そこに排出してもよい。
【0022】
一方、細胞12を含むPCR溶液13の細胞濃度が高いと、第1のピペット11から排出される液量がまちまちとなる。すなわち、第1のピペット11から排出される細胞12の排出の頻度が上がるから、液を排出させる時間を所定の時間に固定していると、その時間内に次の細胞12が液滴21の中に入ってしまう可能性がある。このようなケースでは、第2のピペット20を用いる。第2のピペット20とこれに連結されたシリンジポンプ35には、PCR溶液が入れられている。すなわち、モニター25を通して細胞12が液滴21に入るのをパソコン26が確認したとき、駆動装置32に停止指令を出して、シリンジポンプ31を停止させるとともに、このときまでに液滴21を形成するのに駆動されたシリンジポンプ31の繰り出し量から、その時点の液滴21の体積を割り出す。この体積と液滴21の所望の体積との差をパソコン26で計算する。この計算結果に応じて、その時点に出来ている液滴21に第2のピペット20で溶液を加えるように、パソコン26から駆動装置36に動作信号を送り、シリンジポンプ35を駆動して、第2のピペット20を用いて液滴21の体積が所定の値になるまでPCR溶液を加える。
【0023】
第2のピペット20を用いて液滴21にPCR溶液を加えるとき、第2のピペット20に液滴中の細胞12が逆流しないように、第2のピペット20の先端は細胞が通らない大きさ、たとえば0.2μmφとするのが良い。あるいは、先端が0.2μmのフィルター構造を有するものとするのが良い。
【0024】
このようにして作成した細胞が1個含まれる液滴21は、第1のピペット11の上下動駆動装置37により、ステージ19の上に置かれたリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34のいずれかに接触させられ、液滴21は透明電極31,32,33及び34上に移動する。細胞12を含む液滴21が透明電極31,32,33及び34のいずれか、すなわち、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34のいずれかに移動したことが確認されると、使用者は操作信号28を与えて、ステージ駆動装置10を動かし、次の液滴を置く位置にピペット先端が位置するように、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100を移動させる。この移動は、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34の配置の情報をパソコン26に与えておけば、パソコン26によって自動的に行うことができる。そして、この新しい位置で、上述のようにして第1のピペット11の先端に新たな液滴を形成し、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34に移動させる。これを繰り返して、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34の必要な部位に液滴を置く。
【0025】
図2(b)は、図2(a)を参照して説明した、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100に細胞を分配するシステムによって、リアルタイム核酸増幅装置用チップ100の透明電極31,32,33及び34上に細胞が分配された結果を示す断面図である。シリコン基板1上の壁2で囲われた領域内の透明電極31,32,33及び34に細胞12と、これを包み込む形の液滴21が配置されている。壁2で囲われた領域内全てにミネラルオイル38が張られている。液滴21は0.2から2μl程度なので、10mmの高さの壁2の内側に、ミネラルオイル38を入れると、液滴21は核酸増幅中の温度上昇による蒸発から保護される。
【0026】
ここで、ミネラルオイルを使用する理由は、ミネラルオイル38の比重が0.9程度と小さいので、液滴21の安定度がよい点にある。これにより、核酸増幅中、常に液滴21は安定して透明電極31,32,33及び34上にとどまっている。ミネラルオイルは蒸発の防止が主体であるので、液滴21がミネラルオイルに十分に埋まる程度が良く、たとえば深さ8mmになるようにミネラルオイル38を静かに流し込む。
【0027】
図3(a)はリアルタイム核酸増幅装置用チップ100の基板1上の透明電極31,32,33及び34に細胞12を含む液滴21が分配された結果を模式的に示す斜視図である。透明電極31,32,33及び34には端部にサーミスタ41,42,43及び44が設けられている。図3(b)、図3(c)は透明電極31に細胞12を含む液滴21が分配された状態を拡大して模式的に示す断面図である。図3(b)では、透明電極31上にSU−8による保持用の突起411,412を形成した例である。図は断面であるので、両側の突起しか表れていないが、透明電極31の長さ方向にも突起を形成するのが良い。図3(C)では、透明電極31上に親水性領域42を形成した例である。ITOによる透明電極上に親水性領域42を形成するには、たとえば、交流放電によるプラズマイオンを親水性領域42に限って透明電極表面に軽く打ち込むものとすればよい。
【0028】
次に、本発明の実施例によるリアルタイム核酸増幅について説明する。PCRは(1)DNAの1本鎖への変性(たとえば、94℃)、(2)プライマーの結合(たとえば、60℃)、(3)耐熱性ポリメラーゼによる相補鎖の合成(たとえば、72℃)、という温度サイクルを何回も繰返すことにより核酸増幅を行うものである。この例では、まず、液滴21の温度を94℃に上げてDNAの1本鎖への変性を行わせることになるが、最初の段階では、細胞12が、この高温により破砕されて、内部の核酸が液滴内に分散し、鋳型としての核酸となる。次いで、液滴21の温度を60℃に下げて鋳型としての核酸にプライマーを結合させる。再び、液滴21の温度を72℃に上げて、ポリメラーゼにより鋳型としての核酸の相補鎖の合成を行う。この際、PCR溶液が通常のDNA鎖の伸長を行うポリメラーゼである場合には、相補鎖の合成に併せて拡散増幅の評価をするためのインターカレータ蛍光色素が二本鎖に取り込まれる。一方、PCR溶液が前記ポリメラーゼをヘキソカイネースを有するポリメラーゼとし、インターカレータ蛍光色素に代えてレポーターフラグメント(プローブ)を包含するものとされている場合には、レポーターフラグメント(プローブ)が二本鎖に取り込まれる。
【0029】
液滴21の温度制御に関しては、透明電極31,32,33及び34の両端から電流を通して加熱するとともに、サーミスタ41,42,43及び44の抵抗変化として得られる温度信号に着目して、透明電極31,32,33及び34のそれぞれの電流を制御して、透明電極31,32,33及び34の温度制御を行うことができる。この場合、透明電極31,32,33及び34のそれぞれに載置されている液滴21の温度が透明電極単位で上昇する。透明電極への電流通電による他に、1064nmの波長の単色光レーザー源のレーザー光線を直接透明電極31,32,33及び34に照射しても良い。この波長の光は透明電極(ITO)に吸収されて熱に変わるので、透明電極3のレーザー光線の照射された点の近傍の透明電極の温度が上昇する。したがって、透明電極31,32,33及び34のそれぞれに載置されている液滴21の内、透明電極3のレーザー光線の照射された点の液滴のみ温度が上昇する。また、1480nmの波長の単色光レーザー源のレーザー光線を透明電極(ITO)を透過させて直接液滴に照射することにしても良い。この波長の光はITOには吸収されず、水滴に吸収されて熱に変わるので、レーザー光線の照射された液滴のみ温度が上がる。レーザー光線の照射により透明電極3の温度を上げて液滴の温度を上げる場合およびレーザー光線の照射により直接、液滴の温度を上げる場合は、レーザー光線の照射位置の透明電極3の温度の上昇およびこれによる液滴21の上昇温度および液滴21の温度を直接検出することはできないので、それぞれ、レーザー光線のパワーと照射時間に応じて液滴21の温度がどれだけ上がるかを事前に検討しておき、この結果に応じたレーザー光線の照射を制御することが必要である。
【0030】
図4は透明電極31,32,33及び34の温度制御を透明電極に通電して行う場合の概要と液滴の蛍光を観察する概要を説明する図である。図の便宜上、上段部に透明電極への通電の制御、下段部に蛍光観察を示す。パソコン26は、透明電極31,32,33及び34のサーミスタ41,42,43及び44の抵抗変化として得られる温度信号に応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムから得られる制御信号、および、使用者がモニター25の表示画面を見ながら与える操作入力信号28に応じて切り替えスイッチ43により、透明電極31,32,33及び34に流す電流源44の電流を制御する。この場合は、透明電極31,32,33及び34のそれぞれをラインスキャンしながら温度を所定のパターンになるように制御することになる。
【0031】
一方、前記温度制御により進行する液滴21内のリアルタイム核酸増幅の状態は、対物レンズ51で観察される。対物レンズ51の焦点位置はパソコン26による信号に応じて駆動装置52によって移動させることができる。対物レンズ51の倍率は40倍以上のものが使用できるが、透明電極31,32,33及び34の温度制御により液滴21の温度制御を行う場合は、上述したように、ライン制御となるので、透明電極単位に液滴の観察を行うことになる。したがって、倍率を下げて、対物レンズ51の位置も、基板から少し離して、一つの透明電極上にある液滴を一度に観察できるようにして、各液滴の蛍光についての情報はパソコン26によって処理するものとするのがよい。
【0032】
また、蛍光観察のために、光源71からの光をバンドパスフィルタ72によって励起光波長のみ透過させ、観察するときのみシャッター73によって励起光が液滴21に照射されるように制御される。シャッター73を通過した励起光はダイクロイックミラー74によって液滴21に照射される。このとき対物レンズ26で観察されるのは、光源71からの励起光によって液滴21が発した蛍光である。液滴21が発する蛍光は、対物レンズ26を通過した光のうちミラー78およびバンドパスフィルタ79によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ80で観察することができる。カメラ80の信号はパソコン26に送られデータとして利用される。
【0033】
図5は液滴21の温度制御を1064nmの波長の単色光レーザー源45のレーザー光線を透明電極31,32,33及び34に照射して行う場合の概要と液滴の蛍光を観察する概要を説明する図である。パソコン26は、あらかじめ検討され入力されているレーザー光線のパワーと照射時間のデータに応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムによって単色光レーザー源45への制御信号を制御して、コリメートレンズ47、反射鏡49および対物レンズ51を介して制御されたレーザー光線を透明電極31,32,33及び34に照射する。この場合は、温度制御される液滴21ごとに透明電極3へのレーザー光線の照射を制御することになるので、各透明電極3への照射に応じてステージ19を移動する。
【0034】
また、蛍光観察のために、光源71からの光をバンドパスフィルタ72によって励起光波長のみ透過させ、観察するときのみシャッター73によって励起光が液滴21に照射されるように制御される。シャッター73を通過した励起光はダイクロイックミラー74によって液滴21に照射される。このとき対物レンズ26で観察されるのは、光源71からの励起光によって液滴21が発した蛍光である。液滴21が発する蛍光は、対物レンズ26を通過した光のうちミラー78およびバンドパスフィルタ79によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ80で観察することができる。カメラ80の信号はパソコン26に送られデータとして利用される。
【0035】
図6は液滴21の温度制御を1480nmの波長の単色光レーザー源46のレーザー光線を透明電極31,32,33及び34を透過させて液滴21に直接照射して行う場合の概要と液滴の蛍光を観察する場合を説明する図である。パソコン26は、あらかじめ検討され入力されているレーザー光線のパワーと照射時間のデータに応じて、あらかじめ格納してある所定のプログラムによって単色光レーザー源46への制御信号を制御して、コリメートレンズ48、反射鏡50および対物レンズ51を介して制御されたレーザー光線を液滴21に照射する。この場合は、個々の液滴21のそれぞれを個別にスキャンして制御することになるので、個々の液滴21の照射に応じてステージ19を移動する。
【0036】
また、蛍光観察のために、光源71からの光をバンドパスフィルタ72によって励起光波長のみ透過させ、観察するときのみシャッター73によって励起光が液滴21に照射されるように制御される。シャッター73を通過した励起光はダイクロイックミラー74によって液滴21に照射される。このとき対物レンズ26で観察されるのは、光源71からの励起光によって液滴21が発した蛍光である。液滴21が発する蛍光は、対物レンズ26を通過した光のうちミラー78およびバンドパスフィルタ79によって、蛍光観察の波長帯のみを選択的に透過させて、カメラ80で観察することができる。カメラ80の信号はパソコン26に送られデータとして利用される。
【0037】
図6の説明から容易に分かるように、液滴にレーザー光線を直接照射して、温度制御を行うときは、透明電極3はなくてもよい。
【0038】
図4から図6を参照して説明したPCRでは、液滴はたとえば、94℃から60℃の範囲で温度制御されることになるから、透明電極3はミネラルオイル38も含めて透明基板1の温度が60℃となるために必要な電流を連続して供給するようにするのがよい。この場合、いずれの場合でも、ミネラルオイル38も含めて透明基板1の温度が60℃となっていることを前提に液滴の温度制御をすることができ、温度パターンの制御が短時間でできるメリットがある。
【0039】
図7(a)は、上述した細胞の核酸増幅に先行して、それぞれの透明電極31,32,33及び34の上に保持する細胞を含む液滴内に細胞の培養液を入れて、細胞の培養をした後、培養された細胞の核酸増幅をすることにより、効果的に核酸増幅をすることのできる細胞培養核酸増幅のための基板の例を示す平面図、図7(b)は、図7(a)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。図1に示す参照符号と同じものは同じものを示す。図7に示す細胞培養核酸増幅のための基板は、図1と対比して、壁2の内側の領域にアガロースゲルの層6を形成した後、透明電極31,32,33及び34の上の液滴を保持する位置のアガロースゲル6を除去して液滴保持穴71,72,73、74、75および76を形成する。したがって、液滴保持穴71,72,73、74、75および76部分でのみ透明電極31,32,33及び34が見えている。図7(a)ではアガロースゲルの層6の厚さは、保持したい液滴の直径と同程度でよい。液滴保持穴7の形成は、図6に示す構成で単色光レーザー源46により波長が1480nmのレーザー光線を液滴保持穴7を形成したい位置に、円を描くように照射することでアガロースゲル6を溶解させればよい。波長1480nmレーザー光線は基板1および透明電極3には実質的に吸収されず、アガロースゲルでのみ吸収されるので、アガロースゲルの温度が上がりアガロースゲルは溶解し、液滴保持穴7が形成される。
【0040】
図7(c)は、上述した細胞培養核酸増幅のための基板の液滴保持穴7に、図2で説明したのと同じ要領で液滴21を形成した状態を示す断面図である。液滴21は透明電極3の周辺のアガロースゲルの層6により支持されて安定に載置される。細胞培養中は、たとえば、周囲温度を36℃に保持して細胞12の培養が進められる。この場合、ミネラルオイル38は乾燥防止が主体であるとともに、液滴21内の培養液のCO2の交換のためにミネラルオイル38は液滴21がようやく浸る程度の量とするのがよい。
【0041】
図8(a)は、細胞培養中の液滴21の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、図8(b)は、図8(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。61はピペットであり、先端の開口部に細胞阻止片62が取り付け部63,64により取り付けられている。ピペット61の先端の開口部周辺と細胞阻止片62の間には細胞が通過できない隙間が設けられている。図8(b)に示すように、ピペット61とピペット20とを液滴21に挿入してピペット61から液滴21内の培養液を吸引しながらピペット20により新しい培養液を注入すれば、液滴21内の細胞を誤って吸引して失ってしまうことなく培養液が交換できる。図2に示す構成において、ピペット11に代えてピペット61を取り付けてシリンジポンプ31で液滴21内の培養液を吸引することにし、ピペット20から培養液を供給することとすれば、図8(b)に示す構成での培養液の交換ができる。
【0042】
図7(c)に示す形で培養が進められた後、核酸増幅に移行することになるが、この段階で、液滴内の培養液を取り除きPCR用の溶液に置き換える必要がある。このときも、図8(a)に示すピペットを使用して液の交換を行うことにすればよい。核酸増幅に移行すれば、最初に、液滴21はたとえば94℃という高温になされるので、液滴21の周辺のアガロースゲル6は自ずと溶解して除去される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)は、本発明の実施例に好適なリアルタイム核酸増幅装置用チップの平面図、図1(b)は平面図のA−A位置で矢印方向に見たときの断面図である。
【図2】(a)は、リアルタイム核酸増幅装置用チップの透明電極に細胞を分配するシステム構成を説明する概念図、図2(b)は、リアルタイム核酸増幅装置用チップの透明電極に細胞が分配された結果を示す断面図である。
【図3】(a)はリアルタイム核酸増幅装置用チップの基板上の透明電極に細胞を含む液滴が分配された結果を模式的に示す斜視図である。図3(b)、図3(c)はそれぞれ透明電極に細胞を含む液滴が分配された状態を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】透明電極の温度制御を透明電極に通電して行う場合の概要を説明する図である。
【図5】透明電極の温度制御を1064nmの波長の単色光レーザー源の光線を直接透明電極に照射して行う場合の概要を説明する図である。
【図6】液滴の温度制御を1480nmの波長の単色光レーザー源の光線を直接液滴に照射して行う場合の概要を説明する図である。
【図7】(a)は、上述した細胞の核酸増幅に先行して、それぞれの透明電極の上に保持する細胞を含む液滴内に細胞の培養液を含ませておき、細胞の培養をした後、培養された細胞の核酸増幅をすることにより、効果的に核酸増幅をすることのできる細胞培養核酸増幅のための基板の例を示す平面図、(b)は、図7(a)のA−A位置で矢印方向に見た断面図である。(c)は、上述した細胞培養核酸増幅のための基板の液滴保持穴7に、図2で説明したのと同じ要領で液滴21を形成した状態を示す断面図である。
【図8】(a)は、本実施例で細胞培養中の液滴の中の培養液の交換に好適なピペットの例を示す斜視図、(b)は、図8(a)に示すピペットを使用して培養液の交換を行う状態を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0044】
1…シリコン基板、2…壁、31,32,33及び34…透明電極、41,42,43及び44…サーミスタ、5…配置決め用のマーカー、12…細胞、11,20…ピペット、13…細胞12を含むPCR溶液、16…光源、17…集光レンズ、18…コリメートレンズ、19…ステージ、21…液滴、25…モニター、26…パソコン、27,32,36,37…駆動装置、28…操作入力信号、30,34…チューブ、31,35…シリンジポンプ、38…ミネラルオイル、39…駆動装置とピペットとの連係を示す線、412,412…突起、42…親水性領域、43…切り替えスイッチ、44…電流源、45…1064nmの波長の単色光レーザー源、46…1480nmの波長の単色光レーザー源、47,48…コリメートレンズ、49,50…反射鏡、51…対物レンズ、100…リアルタイム核酸増幅装置用チップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液を保持でき、細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペットを保持する手段、
前記溶液をピペット内部から押し出して前記ピペット先端部に一つの細胞を含む液滴を形成する手段、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを確認するための手段、
前記ピペット先端部から滴下される前記液滴を受ける透明基板を載置するための手段であって、前記透明基板が熱伝導性部材を備える、透明基板載置手段、
前記透明基板載置手段を操作し、前記滴下される液滴を前記透明基板上に所定の間隔で並べる手段、ならびに
前記透明基板上に設けられた熱伝導部材の温度を所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度が所定のパターンで経時的に変化するように制御する温度制御手段、
を備えることを特徴とする、リアルタイム核酸増幅装置。
【請求項2】
一つの細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含む液滴を形成する手段、
前記液滴のサイズをコントロールする手段、
前記透明基板上に形成された液滴より比重が小さくかつ実質的に液滴と混ざらない溶媒層を有する透明基板を載置する手段であって、前記透明基板上に透明電極が設けられている、透明基板載置手段、ならびに
前記液滴の温度を所定のパターンで経時的に変化するように前記透明電極に流す電流を制御する手段、
を備えることを特徴とするリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項3】
前記液滴の温度信号を検出する手段が前記透明電極に設けられ、前記温度信号に基づいて前記透明電極に流す電流を制御する手段を有する請求項2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項4】
前記熱伝導性部材または前記透明電極にレーザー光線を照射する手段を備え、事前に検討した前記レーザー光線の照射による前記液滴の温度上昇をデータを基礎に前記透明電極に照射するレーザー光線を制御する手段を有する請求項1または2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項5】
前記液滴にレーザー光線を照射する手段を備え、事前に検討した前記レーザー光線の照射による前記液滴の温度上昇をデータを基礎に前記液滴に照射するレーザー光線を制御する手段を有する請求項1または2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項6】
前記一つの細胞を含む液滴を形成する手段がシリンジポンプと連通するピペットであり、該ピペットが細胞の種類単位で使い捨てとされる請求項1または2記載のリアルタイム核酸増幅装置。
【請求項7】
基板上に細胞を含む液滴を形成し、該液滴中の該細胞に含まれる核酸をPCR増幅する方法であって、
細胞の一つが通過するにふさわしい所定の大きさの先端開口径を有するピペット内に複数の細胞と該細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR反応溶液を保持する工程、
前記ピペット先端部に一つの細胞を含む溶液をピペット内部から押し出して液滴を形成する工程、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴内に一つの細胞が包含され、所定の大きさの液滴となったことを判断する工程、
前記ピペット先端部に形成された前記液滴を透明基板上の所定の位置に滴下し並べる工程、ならびに
前記透明基板上の液滴の温度を所定のプログラムに従って制御し、前記液滴の温度を所定のパターンで経時的に変化するように制御する工程、
を含む核酸増幅方法。
【請求項8】
所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の所定の領域を囲う壁、
前記透明基板上に所定の細胞を包含した液滴を保持するための空間を有するアガロースゲルの層、
を有する細胞培養リアルタイム核酸増幅装置用基板の前記アガロースゲルの層の空間のそれぞれに細胞の培養液を有する液滴を滴下し並べる工程、
前記細胞を培養する工程、
前記細胞の培養後に前記液滴の培養液を前記細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼを含むPCR溶液に置換する工程、ならびに
前記細胞の内包する核酸をPCRにより増幅する工程、
を含む細胞培養・リアルタイム核酸増幅方法。
【請求項9】
所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の一面にアレー状に配列された複数の透明電極、
該透明電極の一端に設けられた温度検出手段、および
前記透明電極の設けられた透明基板の所定の領域を囲う壁、
を備えるリアルタイム核酸増幅装置用基板。
【請求項10】
前記透明電極に所定の細胞を包含する液滴を配列した後、前記壁に囲まれた前記所定の領域内に所定の溶媒層を形成した請求項9記載のリアルタイム核酸増幅装置用基板。
【請求項11】
所定の大きさを有する透明基板、
該透明基板の一面にアレー状に配列された複数の透明電極、
該透明電極の一端に設けられた温度検出手段、
前記透明電極の設けられた透明基板の所定の領域を囲う壁、
前記透明電極上に所定の細胞を収納した液滴を保持するための空間を有するアガロースゲルの層、
を備える細胞培養・リアルタイム核酸増幅装置用基板。
【請求項12】
細胞1個を通過させることのできる先端開口径を有する、細胞1個を含む液滴を形成するためのピペットを保持する手段と、
前記ピペットに細胞を含む溶液を補充し、該ピペットから該細胞を含む溶液を押し出すための溶液操作手段であって、前記細胞を含む溶液が、前記細胞の内包する核酸をPCR増幅するためのプライマーおよびポリメラーゼをさらに含む、溶液操作手段と、
前記ピペットの先端に形成される液滴を光学的に観察し、細胞1個を含む液滴の形成を確認するための光学系と、
前記ピペットから滴下する前記液滴を受ける透明基板を載置するステージであって、前記透明基板が前記液滴の温度を制御するための手段を備える、ステージと、
前記ステージの位置を制御する手段とを備える、
核酸増幅装置。
【請求項13】
前記溶液操作手段が、前記ピペットに連通するシリンジポンプである、請求項12記載の核酸増幅装置。
【請求項14】
前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記透明電極に電流を供給するための電流源を含み、
該温度検出手段により検出した温度信号に従って前記透明電極に流す電流を調節することによって、前記透明基板上の液滴の温度を制御する、
請求項12または13記載の核酸増幅装置。
【請求項15】
前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記液滴にレーザー光線を照射する手段を含み、
前記温度検出手段により検出した温度信号にしたがって前記レーザー光線の照射量を制御する、請求項12または13記載の核酸増幅装置。
【請求項16】
前記透明基板上の前記液滴の温度を制御するための手段が、該透明基板上に形成された前記液滴を載置する透明電極および該透明電極上に設けられた温度検出手段を含み、
前記装置がさらに前記透明電極にレーザー光線を照射する手段を含み、
前記温度検出手段により検出した温度信号にしたがって前記レーザー光線の照射量を制御する、請求項12または13記載の核酸増幅装置。
【請求項17】
更に、前記液滴のサイズを制御するために、細胞を含まない溶液を前記液滴に加えるための第2のピペットを保持および操作する手段を備える、請求項12〜16のいずれか記載の核酸増幅装置。
【請求項18】
前記透明基板上に前記透明電極の一部または全部を含む領域を囲むように側壁が形成され、該領域内に前記液滴と非親和性の溶媒が保持されている透明基板を使用する、請求項12〜17のいずれか記載の核酸増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−278791(P2008−278791A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125472(P2007−125472)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【Fターム(参考)】