説明

核酸増幅装置

【課題】遺伝子の量を高精度に解析できる核酸増幅装置を提供すること。
【解決手段】核酸増幅反応を行なう核酸増幅装置であって、前記核酸増幅反応を行なうウェルA1を複数備え、前記ウェルA1ごとに設けられた加熱部12と、前記複数のウェルA1全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段と、前記ウェルA1ごとに設けられた蛍光検出部16と、を少なくとも備えた核酸増幅装置1とすることで、該核酸増幅装置1の各ウェルA1を独立して制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸増幅装置に関する。より詳細には、遺伝子発現解析、感染症検査、またSNP解析等の遺伝子解析に供せられる核酸増幅装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNAチップ若しくはDNAマイクロアレイをはじめとするハイブリダイゼーション検出技術の実用化が進んでいる。DNAチップは、多種・多数のDNAプローブを基板表面に集積して固定したものである。このDNAチップを用いて、DNAチップ基板表面のハイブリダイゼーションを検出することにより、細胞・組織等における遺伝子発現等を網羅的に解析することができる。
【0003】
そして、このマイクロアレイにより得られたデータを、PCR法(Polymerase Chain Reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)等の核酸増幅反応を行なって検証することが微量核酸の定量分析の標準的手法となっている。微量核酸の定量分析に用いられる核酸増幅技術はPCR法以外の手法も用いられているが、ここでは一例としてリアルタイムPCR法について説明する。
【0004】
リアルタイムPCR法は、「熱変性→プライマーとのアニーリング→ポリメラーゼ伸長反応」という増幅サイクルを連続的に行なうことで、DNA等を数十万倍にも増幅させることができる。このようにして得られるPCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングして前記微量核酸の定量分析を行なう方法である。このリアルタイムPCR法では、サーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化した専用の装置等を用いて前記PCR増幅産物をリアルタイムでモニタリングする。
【0005】
このリアルタイムPCRの検出方法について以下説明する。
まず、SYBR(登録商標)Green Iを用いるインターカレーター法等が挙げられる。インターカレーター法では、二本鎖DNAに結合することで蛍光を発する性質を有するインターカレーターを用いる。このインターカレーターをPCR反応の過程で生成する二本鎖DNAに結合させ、これに対して励起光を照射することで蛍光が発せられる。この蛍光強度を検出することで、PCR増幅産物の生成量をモニターする。このインターカレーター法では、ターゲットに特異的な蛍光標識プローブを設計・合成する必要がなく、種々のターゲットの測定に簡便に利用できる。
【0006】
また、構造が類似する配列を区別して検出したい場合や、SNPsのタイピングのようにマルチプレックス検出が必要な場合等には、プローブ法を用いる。プローブ法としては、例えば、その5´末端を蛍光物質で、3´末端をクエンチャー物質で修飾したオリゴヌクレオチドをプローブIIとして用いるTaqMan(登録商標)プローブ法が挙げられる。
【0007】
TaqManプローブは、アニーリングステップでは鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上に前記クエンチャー物質が存在するため、励起光を照射しても消光されるため蛍光を発しない。しかし、伸長反応ステップでは、TaqDNAポリメラーゼの持つ5´→3´エキソヌクレアーゼ活性によって鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解される。これによって、前記蛍光物質がプローブから遊離し、クエンチャーによる抑制が解除されて蛍光が発せられる。この蛍光強度を検出することで、PCR増幅産物の生産量をモニターできる。
【0008】
上記方法等によって遺伝子発現量をリアルタイムPCRで定量する手順をより詳細に説明する。まず、段階希釈した濃度既知の標準サンプルを鋳型としてPCRを行い、一定の増幅産物量に達するサイクル数(threshold cycle;Ct値)を求める。このCt値を横軸として、初発のDNA量を縦軸にプロットし、検量線を作成する。これを踏まえて、未知濃度のサンプルについて同様の条件でPCR反応を行ってCt値を求める。このCt値と前記検量線とからサンプル中の目的のDNA量を測定する。
【0009】
これらに関する技術として、特許文献1や特許文献2では増幅反応時の温度制御等に関する技術が開示されている。
【特許文献1】特表2003−525617号公報。
【特許文献2】特開2001−136954号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
核酸増幅装置では、目的核酸量を高精度で解析することが望まれている。そのためには、サンプル(遺伝子)の増幅率を一定にする必要がある。そこで、本発明は、遺伝子の増幅率を高精度で制御できる核酸増幅装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
まず、本発明は、核酸増幅反応を行なう核酸増幅装置であって、前記核酸増幅反応を行なうウェルを複数備え、前記ウェルごとに設けられた加熱部と、前記複数のウェル全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段と、前記ウェルごとに設けられた蛍光検出部と、を少なくとも備えた核酸増幅装置を提供する。各ウェルごとに加熱部と蛍光検出部を備えることで、ウェル内での反応を各ウェルごとに個別に制御できる。
【0012】
続いて、本発明は、前記核酸増幅反応はPCR法を少なくとも用いる核酸増幅装置を提供する。PCR法では所定の温度サイクルによって核酸増幅させるが、本発明に係る核酸増幅装置は各ウェルで行なう温度サイクルを個別かつ高精度に制御できるため、より高精度の解析が可能となる。
【0013】
また、本発明は、前記核酸増幅反応を等温で行う核酸増幅装置を提供する。いわゆる等温核酸増幅装置として用いる場合、各ウェルの温度制御を行なうことで、各ウェルの核酸増幅反応の増幅率を揃えることができる。その結果、等温増幅法であってもより高精度の解析が可能となる。
【0014】
そして、本発明は、前記ウェルの加熱温度と加熱時間とは、前記ウェルに対応する前記加熱部により個別に制御する核酸増幅装置を提供する。前記加熱部により、前記ウェルごとに加熱温度と加熱時間を個別に制御することで、前記ウェル内の増幅反応等をより高精度で制御できる。
【0015】
更に、本発明は、前記加熱部は、薄膜トランジスタにより形成され、スイッチング制御する核酸増幅装置を提供する。薄膜トランジスタのスイッチングを利用して、各ウェルの温度制御を個別に行うことができる。
【0016】
また、本発明は、前記加熱部は、発熱抵抗体で形成され、薄膜トランジスタによりスイッチング制御する核酸増幅装置を提供する。薄膜トランジスタが有するスイッチングを利用して、発熱抵抗体に流れる電流値を制御すること等により、各ウェル内の温度制御を個別に行うことができる。
【0017】
そして、本発明は、定温制御するペルチェ素子を備える核酸増幅装置を提供する。ペルチェ素子を用いることで、前記ウェル内の温度制御を容易に行うことができる。
【0018】
また、本発明は、前記光学手段は、特定波長の励起光を発する光源と、前記励起光を前記複数のウェル全てに導入する導光板と、を少なくとも備える核酸増幅装置を提供する。これにより、光源から各ウェル全てに励起光を導入することができる。
【0019】
続いて、本発明は、前記ウェルと前記蛍光検出部との間に、特定の波長の光を透過するフィルター膜を備えた核酸増幅装置を提供する。前記フィルター膜を設けることで、検出した蛍光を効率よく取り出すことができる。
【0020】
また、本発明は、前記ウェルと前記導光板との間に、特定の波長の光を透過するフィルター膜を備えた核酸増幅装置を提供する。前記フィルター膜を設けることで各ウェルに照射すべき励起光を効率よく取り出すことができる。
【0021】
更に、本発明は、前記光源が発光ダイオードである核酸増幅装置を提供する。光源として発光ダイオードを用いることで、不要な紫外線や赤外線等を含まない光を簡便に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る核酸増幅装置によれば、遺伝子発現量を網羅的に高い精度で解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る方法の実施形態例について、添付図面を参照にしながら説明する。なお、図面に示された実施形態等は、本発明の好適な実施形態を例示したものであり、これにより本発明が狭く解釈されることはない。
【0024】
図1は、本発明に係る核酸増幅装置の第1実施形態を側面視した概念図である。なお、以下に使用する図面では、説明の便宜上、装置の構成等については簡素化して示している。
【0025】
図1中の符号1は、本発明に係る核酸増幅装置を示している。この核酸増幅装置1のサイズや層構造は、目的に応じて適宜選定可能であり、核酸増幅装置1の形態構成についても本発明の目的に沿う範囲で設計又は変更可能である。
【0026】
核酸増幅装置1の形態構成について具体的に説明する。核酸増幅装置1は、反応基板11と、前記反応基板11を加熱する加熱部12と、ペルチェ素子13と、光源14と、前記反応基板11に励起光を導く導光板15と、蛍光を検出する蛍光検出部16と、特定の波長光のみを透過するフィルター膜17と、測定基板18と、を備えている。
【0027】
反応基板11は、複数のウェル(反応領域)A1を備えており、このウェルA1内で所定の反応を行なう。本発明では、ウェルA1の形状等については特に限定されず、適宜好適な形状や容量とすることができる。
【0028】
ウェルA1の容量については特に限定されないが、好適には、マイクロ空間とすることが望ましく、具体的には1μL以下の容量とすることが望ましい。このようなマイクロ空間とすることで、ウェルA1に必要な反応溶液の液量が少量ですむため、温度制御等を高精度で行なうことができ、かつ反応時間も短縮することができる。
【0029】
例えば、前記ウェルA1を300μm×300μm×300μm(ウェル容量:27nL)とする場合、約4万個のウェルA1を反応基板11に設置するとしても、約6cm四方の面積のデバイスでよい。このようにデバイスとしての小型化が可能であるため、ヒトの遺伝子数に匹敵する数のウェルA1をマトリクス状に反応基板11に配置させることもでき、網羅的解析をより容易にかつ簡便に行なうことができる。
【0030】
反応基板11の材料等は、励起光L1を透過できる材料であれば特に限定されず、測定目的や加工容易性等を考慮して適宜選択できる。例えば、低蛍光発光プラスチックやガラス等を反応基板11の材料として用いることができる。
【0031】
また、反応基板11は、加熱部12や蛍光検出部16やフィルター膜17等と脱着可能としてもよい。あるいは、図示はしないが、反応基板11と加熱部12とを一体構造とし、これを脱着可能としてもよい。
【0032】
加熱部12は、反応基板11内の各ウェルA1を加熱する。これによりウェルA1の温度制御を行なう。そして、前記ウェルA1の加熱温度と加熱時間とは、前記ウェルA1に対応する加熱部12により個別に制御できることが望ましい。前記加熱部12により、前記ウェルA1ごとに加熱温度と加熱時間を個別に制御することで、前記ウェルA1内の増幅反応等をより高精度で制御できる。
【0033】
従来のリアルタイムPCR法に用いられるサーマルサイクラー等による温度制御はグラディエント機構が付加されている場合もあるが、各サンプルの温度制御が個別にできないという問題等がある。これに対して、本発明では、各ウェルA1にそれぞれ加熱部12を設けることで、各ウェルを独立して温度制御することができる。更に、加熱部12を各ウェルA1に対応して設けることで、増幅反応時の加熱時間について個別に制御できる。
【0034】
加熱部12の構造等については特に限定されないが、好適には、薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)により形成され、スイッチング制御されるヒーターであることが望ましい。薄膜トランジスタが有するスイッチング機能を利用して、各ウェルA1の温度制御を個別に行うことができる。温度制御は、薄膜トランジスタに印加する電圧をコントロールしてソース−ドレイン間の電流値を可変としてもよいし、ソース−ドレイン間の電流を定電流電源としてコントロールしてもよい。特に、熱源としての薄膜トランジスタを用い、かつスイッチング素子としての薄膜トランジスタを用い、これらの薄膜トランジスタを同一回路内に形成することが望ましい。これにより熱源とスイッチング制御とを同一回路内で一括制御できる。
【0035】
あるいは、加熱部12は、発熱抵抗体で形成され、薄膜トランジスタによりスイッチング制御されるヒーターとしてもよい。即ち、薄膜トランジスタは、スイッチングとしてのみ利用してもよい。前記発熱抵抗体として、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、炭化珪素、モリブデンシリサイド、ニッケル−クロム合金、鉄−クロム−アルミニウム合金等を用いることができる。この場合は、発熱抵抗体に流れる電流値を制御することで、温度制御が可能となる。
【0036】
本発明において用いられる薄膜トランジスタの種類については、特に限定されず、例えば、ポリ珪素や、α−珪素等のタイプを適宜使用できる。
【0037】
本発明では、ウェルA1の温度制御を行なうためにペルチェ素子13を備えることが望ましい。ペルチェ素子でウェル全体の温度制御を行ない、各加熱部12において各ウェルA1の温度をより精密に制御することができる。これにより、各ウェルA1の微小な温度のばらつきやズレ等を正確に制御できる。ペルチェ素子13を用いることで、定温制御を容易に行うことができる。その結果、高精度の温度制御を行なうことができる。
【0038】
また、PCRサイクルを行う場合には、「熱変性→アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)→伸長反応」のステップに応じて温度制御を行なう必要がある。例えば、予め、ウェルA1内の温度をPCRサイクルの最低温度(例えば、55℃)に維持しておくことができる。そして、ペルチェ素子13によってウェル全体の温度サイクルを制御し、更に各加熱部12によって各ウェルA1の温度のばらつきやズレを個別に補正・制御することができる。このようにウェル全体の温度制御と、各ウェル個別の温度制御をそれぞれ行なうことで、より正確な温度制御を行なうことができる。
【0039】
本発明では、前記複数のウェルA1全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段として、光源14や、励起光を各ウェルA1に導入するための導光板15を用いることができる。
【0040】
光源14は、特定波長の光を発光するものであればよく、その種類は特に限定されないが、好適には、白色もしくは単色の発光ダイオード(LED)を用いることが望ましい。発光ダイオードを用いることで、不要な紫外線や赤外線を含まない光を簡便に得ることができる。
【0041】
本発明では、光源14の設置場所や光源数については特に限定されない。図示はしないが、各ウェルA1に対応するように光源14を複数設け、各光源14が対応するそれぞれのウェルA1に向かって励起光を直接照射する構造としてもよい。この場合、例えば、各ウェルA1を光源14で直接照射できるため、励起光量をより多くとることや励起光量を個別に制御してすべてのウエルに均一な励起照射を行うことができる。
【0042】
導光板15は、光源14から発せられる励起光L1を反応基板11内の各ウェルA1に導くためのものである。前記導光板15内部のスペーサー151に光源14から発せられる励起光L1が導入される。そして、前記導光板15上部には反射膜152が設けられており、例えば、ダイクロックミラー等を用いることで反応基板11へ励起光L2を導入することができる。これにより、各ウェルA1内の反応液中の蛍光物質を均一な光量で励起させることができる。
【0043】
また、本発明では、導光板15の底部に、前記励起光L1,L2の波長光のみを透過するフィルター膜153を設けることが望ましい。これにより、光源14から発せられる光から励起光L2を効率よく取り出し、ウェルA1へ導くことができる。このフィルター膜153としては、例えば偏光フィルター等を用いることもできる。
【0044】
蛍光検出部16は、ウェルA1に照射された励起光L2に応答して、インターカレートしたプローブ中の蛍光色素が励起することで発せられる蛍光を検出・測定する。本発明では、前記蛍光検出部16の構成等については限定されず、例えば、フォトダイオードを用いることができる。
【0045】
蛍光検出部16は、加熱部12と同じガラス基板15上に形成されているが、異なる基板に形成されても良いし、加熱部12と蛍光検出部16とが積層された状態であってもよい。
【0046】
本発明では、各ウェルA1とこれに対応する各蛍光検出部16との間に、前記蛍光L3の波長光のみを透過するフィルター膜17を設けることが望ましい。所定の波長光のみを透過するフィルター膜17を、ウェルA1と蛍光検出部16との間に設けることで、検出した蛍光L3を効率よく取り出すことができるため、より高精度の分析を行なうことができる。このフィルター膜17としては、例えば偏光フィルター等を用いることができる。
【0047】
このように、本発明に係る核酸増幅装置1は蛍光検出部16を有するため、リアルタイムで蛍光検出できる。そして、蛍光検出部16を各ウェルA1に対応して個別に設けることで、ウェルA1ごとに個別かつ高精度の検出が可能となる。
【0048】
そして、リアルタイムでの蛍光検出が可能であるため、蛍光検出部16の検出結果を、加熱部12の温度制御機構にフィードバックすることができる。例えば、蛍光検出部16で検出したウェルA1での反応結果(遺伝子増幅量)に基づいて、加熱部12の加熱量を制御するように設計できる。このように、蛍光検出部16の検出結果を、加熱部12にフィードバックすることで、各ウェルA1の遺伝子増幅反応をより高精度に制御できる。
【0049】
また、加熱部12や蛍光検出部16を、測定基板18上に設けることができる。また、本発明では、前記測定基板18を設ける位置は、前記加熱部12や前記蛍光検出部16の下方に限定されず、適宜好適な場所に設けることができる。本発明で用いられる前記測定基板18の材料等については、特に限定されず、例えばガラス製基板や種々の樹脂製基板等を用いることができる。
【0050】
本発明に係る核酸増幅装置1では、通常用いられているPCR法を行なうことができる。具体的には、(1)増幅させたい目標DNA、(2)目標DNAと特異的に結合する少なくとも2種のオリゴヌクレオチドプライマ−、(3)緩衝液、(4)酵素、(5)dATP,dCTP,dGTP,dTTPのようなデオキシリボヌクレオチド三リン酸、等を用い、「熱変性→アニーリング(プライマーのハイブリダイゼーション)→伸長反応」のサイクルを繰り返すことで、前記目標DNAを所望する量まで増幅させること等ができる。
【0051】
以下、本発明に係る核酸増幅装置1を用いた測定手順の一例について説明する。
【0052】
各ウェルA1には、予め設計された異なる塩基配列を有するプライマーを投入する。投入方法については、特に限定されず、例えば、インクジェット等を用いる方法によることができる。このように各ウェルA1に各プライマーを含む溶液を滴下して乾燥させる。
【0053】
続いて、検体から抽出したTotal RNAを逆転写(reverse transcription)法によりcDNAに転写して、各ウェルA1に投入する。これと併せて、増幅に必要となる各塩基の原材料となるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)、インターカレータ(「SYBR(登録商標)Green I」)、DNA伸長増幅反応に必要な酵素DNAポリメラーゼ等を投入する。
【0054】
本発明に係る核酸増幅装置1は、RT−PCR反応(Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction;逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)を行うリアルタイムPCR装置としても用いることができる。通常のPCR法ではDNAポリメラーゼを用いるため、解析対象がRNAである場合は増幅できない。これに対して、RT−PCR法は、RNAを逆転写酵素によってDNAに逆転写した後、PCRを行う方法であるが、本発明に係る核酸増幅装置1によればRT−PCR反応であっても行なうことができる。
【0055】
また、PCR法において目的としないDNA断片が増幅されることを防ぐために入れ子プライマー(nested primer)を用いてもよい(nested−PCR法)。そして、本発明に係る核酸増幅装置1においてPCR法を行う場合には、RT−PCR法やnested−PCR法を併用してもよいことは勿論である。
【0056】
熱変性ステップでは、ウェルA1内が95℃となるように加熱部12等により設定し、二本鎖のDNAを変性させ一本鎖DNAにする。続くアニーリングステップでは、ウェルA1内が55℃となるように設定することで、プライマーが前記一本鎖DNAと相補的な塩基配列と結合させる。次のDNA伸長ステップでは、ウェルA1内が72℃となるように設定することで、プライマーをDNA合成の開始点として、ポリメラーゼ反応を進行させてcDNAを伸長させる。
【0057】
このような「95℃(熱変性)→55℃(プライマーのハイブリダイゼーション)→72℃(DNA伸長)」の温度サイクル毎に、各ウェルA1内のcDNAは2倍量に増幅されていく。そして、各ウェルA1にそれぞれ設置された加熱部12によって、各ウェルA1内の温度を設計したプライマー反応の最適値に制御できる。また、プライマーのハイブリダイゼーション時間やポリメラーゼ反応時間も制御できるため、不要な反応副産物の生成も制御できる。その結果、各ウェルA1内の遺伝子(cDNA)の増幅率を一定に揃えることができるため、精度のよいPCR反応を行なうことができる。
【0058】
DNAの複製反応時に生成されたds−DNAには、SYBR Green Iがインターカレートする。このSYBR GREEN Iは、ds−DNAにインターカレートし、その後に励起光L2を照射することで励起して蛍光を発光する物質である(励起光波長:497nm、発光波長:520nm)。
【0059】
これにより、DNAポリメラーゼによるDNA複製時に、光源14からの光L1が導光板15を経由して励起光L2として、インターカレートしたSYBR Green Iを励起させて蛍光L3を発光させる。この蛍光L3の発光量を前記温度サイクル毎に蛍光検出部11で測定し、定量化する。そして、温度サイクル数とこれに対応する発光量との相関関係に基づいて、遺伝子発現量として初期cDNA量を求めることができる。
【0060】
図2は、本発明に係る核酸増幅装置の第2実施形態を側面視した概念図である。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明し、共通する部分についてはその説明を割愛する。
【0061】
図2において符号2で示された核酸増幅装置は、反応基板21と、前記反応基板21を加熱する加熱部22と、ペルチェ素子23と、光源24と、前記反応基板21に励起光を導く導光板25と、蛍光を検出する蛍光検出部26と、測定基板27と、を備えている。
【0062】
この核酸増幅装置2は、ウェルA2ごとに加熱部22や蛍光検出部26を備えている点では、第1の実施形態と共通する。しかし、励起光L2を反応基板21の下方から照射して、ウェルA2内で反射させて蛍光L3を検出する点等で相違する。ここで、ウェルA2の形状は、前記蛍光L3を反射させるために曲面部分を有している。
【0063】
核酸増幅装置2では、光源24から発せられる励起光L1が、導光板25によってウェルA2に照射される。導光板25では、スペーサー251を励起光L1が通過し、反射膜252とフィルター膜253により反応基板21に励起光L2が導入される。そして、該励起光L2は、ウェルA2内の反応液中のプローブの蛍光物質に照射されることで蛍光L3を発する。この蛍光L3はウェルA2内の壁面で反射して、ウェルA2下方に設けられた蛍光検出部26で検出・測定される。
【0064】
また、温度制御は、ウェルA2下方に設けられた加熱部22により行われ、ペルチェ素子23等によって制御することができる。
【0065】
一般的なリアルタイムPCR装置では、「熱変性→アニーリング→伸長反応」からなるサイクルを30サイクル程度行なうために25〜30分の反応時間を要する。その際、約2℃/秒の温度制御を行っている。これに対して、本発明の装置では、20℃以上/秒の温度制御が可能であるため、1サイクルあたり40秒程度の時間短縮が可能となり、30サイクル全体ではおよそ25分以下の反応時間が達成できる。
【0066】
本発明に係る核酸増幅装置では、ウェルごとに加熱部と蛍光検出部とを設置することで、各ウェルを独立して加熱温度・加熱時間を制御でき、かつ個別に検出することができる。これにより、遺伝子の発現量等について、短時間でありながら高精度で解析することができる。
【0067】
更に、蛍光検出部として、励起光学系も一体化した装置とすることで、検出システムとしても小型化が可能である。また、前記ウェルをマイクロ空間とし、反応領域を小さくすること等によって、小さなデバイスでありながら網羅的な解析を効率よく行なうこともできる。これにより、本発明に係る核酸増幅装置では網羅的な解析が可能となる。
【0068】
本発明に係る核酸増幅装置は、核酸増幅反応を等温で実施する等温核酸増幅装置としても用いることができる。この「等温」とは、使用する酵素やプライマー等が実質的に機能し得るほぼ一定の温度条件とすることをいう。そして、「ほぼ一定の温度条件」とは、設定された温度を厳密に保持することのみならず、使用する酵素及びプライマーの実質的な機能を損なわない程度の温度変化であれば許容される温度範囲内に保持することも包含する。
【0069】
本発明において、先に説明したPCR法以外にも、以下に挙げる等温増幅法を用いることができる。
dsDNAからRNAを増幅産物として得るIVT法(In Vitro Transcription);
逆転写酵素のRNaseH活性を用いてRNAをトリミングし、RNAを増幅産物として得るTRC法(Transcription Reverse transcription Concerted amplification);
逆転写酵素等を用いてRNAプロモーターが組み込まれたdsDNAとし、次にRNAポリメラーゼを用いてdsNDAからRNAを増幅産物として得るNASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification);
RNAとDNAのキメラ構造からなるプライマーを利用し、RNAからssDNAを増幅産物として得るSPIA法;
DNAのループ形成を利用し、一定温度でDNAやRNAからdsDNAを増幅産物として得るLAMP法(Loop-Mediated Isothermal Amplification);
複数の酵素を組み合わせて用い、一塩基の違い(SNP)を正確に識別しながらdsDNAからdsDNAを増幅産物として得るSMAP法(SMart Amplification Process);
DNAとRNAが結合した合成キメラ・プライマーを用いて、dsDNAからdsDNAを増幅産物として得るICAN法(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)等が挙げられる。
【0070】
なお、本発明において行い得る等温増幅法は、上記の等温増幅法に限定されず、上記の各手法についても上記内容に限定して解釈されるものでないことは勿論である。即ち、本発明において行い得る等温増幅法とは、何らかの温度サイクルを行わずに核酸を増幅させるあらゆる方法を包含するものである。
【0071】
等温増幅法は、前述のPCR法のような温度サイクル(例えば、95℃→55℃→72℃)を必要としないため、サーマルサイクラーのような装置が不要であるといった利点を有している。しかし、増幅される核酸の構造や差長等に依存した増幅率の違いが生じるため、定量的な解析を行なうことが困難であった。
【0072】
これに関して、本発明に係る核酸増幅装置によれば、各ウェルの反応温度を個別に制御することで各ウェルにおける核酸の増幅率の違いを補正できる。これにより、各ウェルにおける核酸増幅反応の反応効率を一定に揃えることができる。その結果、複数のウェルで複数の核酸増幅反応を行う場合であっても、一の検量線により各ウェルでの核酸の増幅量を定量的に知ることができる。従って、本発明に係る核酸増幅装置では発現量の定量的な解析ができる。
【0073】
更に、所定の核酸増幅反応を行なうにあたり、その適切な反応温度条件が未知である場合であっても、増幅反応の初期の結果から適切な反応温度をフィードバックすることで、核酸増幅反応の反応効率を一定に揃えることができる。まず、増幅反応開始から一定時間内において、その増幅量とその際の温度の相関関係を検出する。そして、その結果を加熱部の温度制御機構にフィードバックすることで、増幅反応を行なうための適切な反応温度条件を決定することができる。
【0074】
定量反応を行なう場合には、等温増幅法はその適用がPCR法と比較して困難である。その主な理由としては、増幅される核酸の構造や差長等による増幅率の違いが大きいことである。核酸増幅反応を用いた定量解析では、増幅率が一致した対照と比較する必要があるため、このような増幅率の違いは定量解析を困難にしている。特に、同時に多種類の遺伝子を定量する場合には、目標とする遺伝子ごとに検量線を作成することは困難であり、増幅率が一致したもの同士で比較する必要がある。
【0075】
これに対して、本発明に係る核酸増幅装置では、等温増幅法により核酸増幅させる場合であっても、増幅する個々の遺伝子やプライマー等に応じた最適温度で増幅反応を行うことができる。従って、各ウェルにおける核酸の増幅率を一定となるように制御できる。その結果、等温増幅法であっても精度の高い定量分析を行なうことが可能となる。
【0076】
そして、等温で反応を行なうため、温度サイクルを制御するサーマルサイクラー等の構成が不要である。そのため、デバイスとしての小型化にもより貢献できる。そして、同一デバイス上で多種類の遺伝子の量を網羅的に解析することが可能となる。従って、本発明に係る核酸増幅装置は、マイクロ流路を備えたチップや基板等の形態として、ここで等温増幅法を行うことができるハイスループット型の遺伝子解析装置とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る核酸増幅装置の第1実施形態を側面視した概念図である。
【図2】本発明に係る核酸増幅装置の第2実施形態を側面視した概念図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2 核酸増幅装置
11,21 反応基板
12,22 加熱部
13,23 ペルチェ素子
14,24 光源
15,25 導光板
16,26 蛍光検出部
17 フィルター膜
18,27 測定基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸増幅反応を行なう核酸増幅装置であって、
前記核酸増幅反応を行なうウェルを複数備え、
前記ウェルごとに設けられた加熱部と、
前記複数のウェル全てに特定波長の励起光を照射可能な光学手段と、
前記ウェルごとに設けられた蛍光検出部と、
を少なくとも備えた核酸増幅装置。
【請求項2】
前記核酸増幅反応は、少なくともPCR(polymerase chain reaction)法により行なわれることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項3】
前記核酸増幅反応は、等温で行われることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項4】
前記ウェルの加熱温度と加熱時間は、前記ウェルに対応する前記加熱部により個別に制御されることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項5】
前記加熱部は、薄膜トランジスタにより形成され、スイッチング制御されることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項6】
前記加熱部は、発熱抵抗体により形成され、薄膜トランジスタによりスイッチング制御されることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項7】
定温制御するペルチェ素子を備えることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項8】
前記光学手段は、特定波長の励起光を発する光源と、前記励起光を各ウェルに導入する導光板と、を少なくとも備えることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項9】
前記ウェルと前記蛍光検出部との間に、特定の波長の光を透過するフィルター膜を備えることを特徴とする請求項1記載の核酸増幅装置。
【請求項10】
前記ウェルと前記導光板との間に、特定の波長の光を透過するフィルター膜を備えることを特徴とする請求項8記載の核酸増幅装置。
【請求項11】
前記光源が、発光ダイオードであることを特徴とする請求項8記載の核酸増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−237207(P2008−237207A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223494(P2007−223494)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】