説明

核酸検出用キット

本発明は、相互に作業行程の異なる核酸抽出および核酸増幅の操作を単一の容器において実施するための反応容器を提供するものである。本発明による反応容器は、サンプルから標的核酸を検出するための反応容器であって、前記サンプルから核酸を抽出するための抽出試薬組成物を含有する第一室、標的核酸を増幅するための増幅試薬組成物を含有する第二室、該第一室と該第二室とを分離するための分離手段、および前記第一室のみに前記サンプルを導入することを可能とする開口部を少なくとも含んでなるものである。前記分離手段は、反応容器外部からの物理的エネルギーによって、前記第一室と前記第二室との分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と前記第二室中の増幅試薬組成物との混合を可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
発明の分野
本発明は、遺伝子検査において、サンプルからの核酸の抽出および標的核酸の増幅を一の容器中で行なうことのできる反応容器、該反応容器を含んでなる核酸検出用キット、ならびに該反応容器を用いる核酸検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子検査は疾患または障害の診断方法として有効であり、様々な技術が臨床の場において実用化されている。これらの技術の多くは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等の核酸増幅法を利用するものである。
【0003】
臨床における遺伝子検査には、特殊な生物学的操作が必要とされ、このような操作は、通常、複数の容器または装置を用いて行われており、また、実験室内の複数の領域において行なわれることも多い。従って、遺伝子検査においては、生物学的サンプルや試薬を他の容器に移したり、または他の領域に輸送する必要があるため、他の臨床サンプルや増幅産物によるサンプルの汚染、ならびにサンプルの飛散、エアロゾル化等による他のサンプルの汚染が問題となっている。また、サンプルにはいかなる病原体が含まれているか不明であるため、その取り扱いには十分に注意する必要がある。さらに、遺伝子検査は、特殊かつ高価な器具および装置を用いて行なう必要がある。また、多くのサンプルを同時に処理する場合には、サンプルを取り違える可能性もある。
【0004】
とりわけ、上述のサンプルの汚染は偽陽性の結果をもたらす可能性があるため、これを防ぐことは重要な課題となっている。特に、核酸増幅法を利用する遺伝子検査においては、サンプルは、同じ器具および装置を用いて行なわれた先の増幅反応による増幅産物(アンプリコン)により容易に汚染され、これにより偽陽性を示す。
【0005】
従来、これらの問題点を解決するためにいくつかの試みがなされてきた。例えば、米国特許第2675989号明細書には、核酸増幅のための装置が記載されている。この装置は、導入されたサンプルを空気吸引/排出手段を使用して移動させることによって、サンプルの反応チャンバーへの導入および反応液の取り出しを行うものである。この装置は、特殊な空気吸引/排出手段を使用する必要がある。また、この装置には増幅産物の検出手段が含まれておらず、検出のためには電気泳動などの別の工程を必要とする。
【0006】
米国特許第5229297号明細書には、サンプル、増幅用試薬および廃物部を連結する通路からなる遺伝子増幅および検出のためのキュベットが記載されている。これは、ローラーという特殊な装置を用いて、サンプルを一定方向に圧搾・圧迫していくことにより、サンプルおよび検出試薬を隔離していた隔壁が破れ、これらの混合物が通路を通って検出部、さらには廃物部へ押し出されるように構成されている。このキュベットもまた、特殊で複雑な手段および容器を使用する必要がある。
【0007】
国際公開第95/11083号パンフレットには、核酸増幅アッセイに用いられる使い捨て反応チューブが記載されている。この反応チューブは、密閉するための蓋が貫通可能なものとされており、これにより、増幅反応の後にピペッターを蓋に貫通させ、蓋を開けることなくサンプルを検出部に移動させることが可能となる。この反応チューブは、サンプルの飛散およびエアロゾルの発生による他のサンプルへの汚染を防止し、さらには、偽陽性の可能性も低減するが、サンプル中に含まれる病原体の感染の危険性、操作の複雑性、特殊な装置の必要性などは排除していない。
【0008】
[発明の概要]
本発明者らは、サンプルからの核酸抽出および標的核酸の増幅が、それぞれに必要となる試薬群を分離した状態で含有する一つの反応容器において可能となることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0009】
従って、本発明の目的は、相互に作業行程の異なる核酸抽出および核酸増幅の操作を単一の容器において実施するための反応容器、これを含む核酸検出用キット、ならびに前記反応容器を用いた核酸検出法を提供することにある。
【0010】
そして、本発明による反応容器は、サンプルから標的核酸を検出するための反応容器であって、前記サンプルから核酸を抽出するための抽出試薬組成物を含有する第一室、標的核酸を増幅するための増幅試薬組成物を含有する第二室、該第一室と該第二室とを分離するための分離手段、および前記第一室のみに前記サンプルを導入することを可能とする開口部を少なくとも含んでなり、前記分離手段が、反応容器外部から物理的エネルギーを与えることによって、前記第一室と前記第二室との分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と前記第二室中の増幅試薬組成物との混合を可能とするものである、反応容器である。
【0011】
また、本発明による核酸検出用キットは、本発明による反応容器と、サンプルを採取するためのサンプリング用器具とを少なくとも含んでなるものである。
【0012】
さらに、本発明による核酸検出法は、本発明による反応容器を用いてサンプルから標的核酸を検出する方法であって、
(a)サンプルを前記反応容器中の抽出試薬組成物と接触させ、該サンプル中の核酸を抽出する工程、
(b)前記反応容器外部からの物理的エネルギーにより前記反応容器中の複数の試薬組成物を混合する工程、
(c)前記反応容器中で増幅反応を行なう工程、および
(d)核酸増幅産物からのシグナルを検出する工程
を含んでなるものである。
【0013】
本発明によれば、サンプルからの核酸の抽出および標的核酸の増幅が単一の反応容器中で実行可能となり、これにより、反応混合物を他の容器に移すことによるサンプルの汚染の可能性ならびに他のサンプルまたは環境の汚染の可能性が減少する。また、反応容器を使い捨てとすることが可能となり、これにより、同じ容器を繰り返して使用することによるサンプルの汚染の可能性がなくなる。さらに、本発明による核酸検出法によれば、煩雑な生物学的操作が必要とされず、熟練者でなくとも、迅速かつ高感度な標的核酸の検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施態様による、抽出試薬組成物および増幅試薬組成物を含む反応容器およびサンプリング用スワブを示した斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す反応容器およびサンプリング用スワブを用いて、スワブ先端に付着したサンプルを反応容器中の抽出試薬組成物に接触させたときのこれらの形状を示した断面図である。
【図3】図3は、本発明の好ましい実施態様による、抽出試薬組成物、pH調整試薬組成物および増幅試薬組成物を含む反応容器およびサンプリング用スワブを示した斜視図である。
【図4】図4は、本発明の好ましい実施態様による遺伝子解析法の概念図である。
【図5】図5は、本発明による反応容器における、標的核酸の増幅を確認するための電気泳動写真である。
【符号の説明】
【0015】
1 蓋兼用スワブ
2 ストッパー
3 スワブ先端部
4 反応容器
5 ストッパー嵌合部
6 膜
7 抽出試薬組成物
8 水非透過性皮膜
9 増幅試薬組成物
10 水非透過性皮膜
11 pH調整試薬組成物
401 本発明による反応容器
402 シグナル検出装置
403 携帯用端末
404 インターネット
405 遺伝子解析用コンピュータ
406 情報記憶装置
407 情報記憶装置
【0016】
[発明の具体的説明]
本発明による反応容器は、まず、サンプルから核酸を抽出するための抽出試薬組成物を含有する第一室を含んでなる。この抽出試薬組成物に含まれる試薬は特に制限されるものではなく、当業者に知られている様々な核酸抽出法を実行可能なものとすることができる。抽出試薬組成物の組成は、利用する核酸抽出法に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。
【0017】
核酸抽出法としては、例えば、アルカリ抽出法、フェノール抽出法、カオトロピック試薬抽出法、クロマトグラフィー精製法(WO 95/01359)および超遠心分離法(Maniatisら,1982,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY)が知られている。また、プロテイナーゼK、プロテアーゼ、スブチリシン等の非特異的なタンパク質分解酵素を用いてサンプル中のタンパク質を分解することにより核酸を抽出する方法も知られている。ただし、タンパク質分解酵素を用いる場合には、抽出試薬組成物と増幅試薬組成物とを混合する前に、熱変性等によりそのタンパク質分解酵素を失活させる必要がある。
【0018】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記抽出試薬組成物はアルカリ抽出用の試薬組成物、好ましくは水酸化ナトリウム水溶液とされる。アルカリ抽出用試薬組成物のpHは、好ましくは8以上、より好ましくは11以上、さらに好ましくは12以上とされる。
【0019】
アルカリ抽出用試薬組成物は、界面活性剤を含むものとしてもよい。界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、両イオン性および非イオン性のいずれのものを用いてもよい。このような界面活性剤としては、例えば、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、N−ラウロイルサルコシンナトリウム、CHAPS(3−[(3−コラミドプロピル)−ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20)等が例示されるが、これらに限定されない。組成物中の界面活性剤の濃度は特に制限されないが、好ましくは0.005〜5%(w/v)、より好ましくは0.01〜2%(w/v)とされる。
【0020】
核酸抽出法としては、タンパク質変性剤を用いて、サンプル中のタンパク質およびその他の混在物を分解または変性することにより核酸を抽出する方法を利用することもでき、この方法は、特にRNAを抽出する場合に有効である。タンパク質変性剤としては、タンパク質を可溶化しうるものであればよく、特に制限されないが、例えば、グアニジン塩酸塩、グアニジンチオシアン酸塩、グアニジン炭酸塩などのグアニジン塩、尿素などを含むカオトロピック物質などが挙げられる。特に、グアニジン塩酸塩、グアニジンチオシアン酸塩などが好ましい。タンパク質変性剤を用いることにより、生体試料に混在する可能性のあるRNaseの作用を効率よく抑制することが可能である。また、核酸分解酵素の作用を抑制しうるクエン酸ナトリウム、EDTA等のキレート剤や、ジチオスレイトール(DTT)、βメルカプトエタノール等の還元剤を用いてもよい。
【0021】
本発明による反応容器は、さらに、標的核酸を増幅するための増幅試薬組成物を含有する第二室を含んでなる。この増幅試薬組成物に含まれる試薬は特に制限されるものではなく、当業者に知られている様々な核酸増幅法を実行可能なものとすることができる。増幅試薬組成物の組成は、利用する核酸増幅法に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。
【0022】
核酸増幅法は、サンプルより抽出された核酸(すなわち、RNAまたはDNA)を含む溶液から目的とする標的核酸を増幅させうる方法であればよく、このような方法としては様々なものが知られている(一般的には、D.KwohとT.Kwoh,Am.Biotechnol.Lab.8,14−25,1990を参照されたい)。適切な核酸増幅法としては、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法;米国特許第4683195号明細書、米国特許第4683202号明細書、米国特許第4800159号明細書および米国特許第4965188号明細書)、逆転写PCR法(RT−PCR法;Trends in Biotechnology 10,pp146−152,1992)、リガーゼ連鎖反応法(LCR法;欧州特許出願公開第0320308号明細書、R.Weiss,Science 254,1292,1991)、鎖置換増幅法(SDA法;G.Walkerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,392−396,1992;G.Walkerら,Nucleic Acids Res.20,1691−1696,1992)、転写に基づく増幅法(D.Kwohら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,1173−1177,1989)、自己維持配列複製法(3SR法;J.Guatelliら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,1874−1878,1990)、Qβレプリカーゼ法(P.Lizardiら,Bio Technology 6,1197−1202,1988)、核酸配列に基づく増幅法(NASBA法;R.Lewis,Genetic Engineering News 12(9),1,1992)、修復鎖反応法(RCR法;R.Lewis,Genetic Engineering News 12(9),1,1992)、ブーメランDNA増幅法(BDA法;R.Lewis,Genetic Engineering News 12(9),1,1992)、LAMP法(国際公開第00/28082号パンフレット)、ICAN法(国際公開第02/16639号パンフレット)などが挙げられる。
【0023】
例えば、PCR法では、通常、熱安定性DNAポリメラーゼ、標的核酸の両端のヌクレオチド配列に基づいて設計された一対のオリゴヌクレオチドプライマー、dNTPなどを含む緩衝液が用いられる。従って、PCR法を利用する場合には、前記増幅試薬組成物はこれらの試薬を含むものとされる。PCR法では、鋳型となる二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離(変性)、一本鎖核酸へのプライマーのアニーリング、およびプライマーからの相補鎖合成(伸長)の3つの段階からなる反応を繰り返すことにより、DNAからの標的核酸の増幅が可能とされる。この方法では、反応溶液を上記3段階のそれぞれに適した温度に調節する計3工程が繰り返される。
【0024】
また、LCR法では、通常、2対のオリゴヌクレオチドプローブが用いられ、一つの対は標的核酸の一方の鎖に結合し、他方の対は標的核酸の他方の鎖に結合する。各対は共に対応する鎖と完全にオーバーラップする。反応は、第一に、核酸試料中の二本鎖核酸を変性(即ち、分離)し、次に、熱安定性リガーゼの存在下で2対のオリゴヌクレオチドプローブを鎖に反応させることにより、各対のオリゴヌクレオチドプローブが共に連結され、次に反応産物を分離し、そして配列が所望の程度に増幅されるまで、循環して繰り返される。従って、LCR法を利用する場合には、前記増幅試薬組成物は、上記の2対のオリゴヌクレオチドプローブ、熱安定性リガーゼ、緩衝液等を含むものとされる。
【0025】
本発明の好ましい実施態様によれば、前記増幅試薬組成物は、一定の温度下での標的核酸の増幅を可能とするものとされる。従って、前記増幅試薬組成物は等温増幅法を実行可能なものとされ、このような等温増幅法としては、例えば、上述の3SR法、Qβレプリカーゼ法、NASBA法、SDA法、LAMP法、ICAN法などが挙げられる。好ましい等温増幅法としては、SDA法、LAMP法、およびICAN法が挙げられる。
【0026】
例えば、SDA法では、制限酵素認識部位を有する一対の増幅プライマーと、その増幅領域をはさむような、さらにもう一対のバンパープライマーの合計4本のプライマーを用いることにより、等温条件下で標的核酸を増幅することができる。制限酵素により増幅プライマー上の制限部位にニックが入り、次いでDNAポリメラーゼにより該ニックから増幅プライマーの3’側に伸長合成がなされ、前に形成された標的鎖の下流相補鎖が置換される。この工程は無限に繰り返されるが、それは、制限酵素が制限部位から形成される新たな相補鎖に連続してニックを入れ、そしてDNAポリメラーゼがニックの入った制限部位から新たな相補鎖を連続して形成するからである。従って、SDA法を利用する場合には、前記増幅試薬組成物は、上記の4本のプライマー、制限酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液等を含むものとされる。
【0027】
等温増幅法としては、また、本発明者らにより開発された等温増幅プライマーを用いる増幅法も好適に利用することができる。この方法は、鎖置換反応を利用した核酸の増幅法において、特殊なプライマー(等温増幅プライマー)を用いるものである。このプライマーは、二本鎖鋳型核酸の第一鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5’側に存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B’)を前記配列(Ac’)の5’側に含んでなる第一のプライマーであって、プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Ac’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X−Y)/Xが−1.00〜1.00の範囲にあり、プライマー中において前記配列(Ac’)と前記配列(B’)との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY’としたときに、{X−(Y−Y’)}/Xが−1.00〜1.00の範囲にある、第一のプライマーである。前記二本鎖鋳型核酸のもう一方の鎖についても、これと同様の第二のプライマーが用意され、該第二のプライマーは、二本鎖鋳型核酸の第二鎖における標的核酸配列の3’末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc’)を3’末端部分に含んでなり、前記標的核酸配列において前記配列(C)よりも5’側に存在する配列(D)の相補配列(Dc)にハイブリダイズする配列(D’)を前記配列(Cc’)の5’側に含んでなる第二のプライマーであって、プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在しない場合には、前記配列(Cc’)の塩基数をXとし、標的核酸配列中における前記配列(C)と前記配列(D)に挟まれた領域の塩基数をYとしたときに、(X−Y)/Xが−1.00〜1.00の範囲にあり、プライマー中において前記配列(Cc’)と前記配列(D’)との間に介在配列が存在する場合には、XおよびYを前記の通りとし、該介在配列の塩基数をY’としたときに、{X−(Y−Y’)}/Xが−1.00〜1.00の範囲にあるプライマーである。これらの第一のプライマーおよび第二のプライマーをプライマーペアとして用いることが好ましい。
【0028】
上記の等温増幅プライマーは、プライマーを構成する配列(Ac’)と配列(B’)の間に介在配列が存在しない場合において、(X−Y)/Xが−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは50以下、さらに好ましくは48以下、さらに好ましくは42以下とされる。
【0029】
また、プライマーを構成する配列(Ac’)と配列(B’)の間に介在配列(塩基数はY’)が存在する場合には、上記の等温増幅プライマーは、{X−(Y−Y’)}/Xが−1.00以上、好ましくは0.00以上、さらに好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.10以上となり、また、1.00以下、好ましくは0.75以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.25以下となるように設計される。さらに、(X+Y+Y’)は、好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上とされ、また、好ましくは100以下、さらに好ましくは75以下、さらに好ましくは50以下とされる。
【0030】
上記の等温増幅プライマーは、デオキシヌクレオチドおよび/またはリボヌクレオチドにより構成されており、与えられた条件下で必要な特異性を維持しながら標的核酸との塩基対結合を行うことができる程度の鎖長を有するものである。上記の等温増幅プライマーの鎖長は、好ましくは15〜100ヌクレオチド、より好ましくは30〜60ヌクレオチドとする。また、上記の等温増幅プライマーを構成する配列(Ac’)と配列(B’)の長さは、それぞれ、好ましくは5〜50ヌクレオチド、より好ましくは10〜30ヌクレオチドである。また、必要に応じて、配列(Ac’)と配列(B’)の間に、反応に影響を与えない介在配列を挿入してもよい。
【0031】
本発明者らによる等温増幅プライマー法において使用するDNAポリメラーゼは、鎖置換(strand displacement)活性(鎖置換能)を有するものであればよく、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このDNAポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。さらに、このDNAポリメラーゼは、実質的に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないものであることが好ましい。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacilluscaldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。
【0032】
本発明者らによる等温増幅プライマー法において使用するその他の試薬としては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N−trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号パンフレットに記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
【0033】
本発明者らによる等温増幅プライマー法は、一定の温度条件のもと、目的とする二本鎖からなる核酸配列を増幅することが可能である。その原理は、まず、前記第一および第二のプライマーがそれぞれ標的核酸の第一および第二の鎖(第一および第二の鋳型核酸)にアニーリングし、それぞれプライマー伸長反応が起こって前記標的核酸配列の相補配列を含む第一および第二の相補核酸が合成され、次いで、これら第一および第二の相補核酸の5’側に存在する配列(B’)および配列(D’)が、同相補核酸上に存在する配列(Bc)および配列(Dc)にそれぞれハイブリダイズし、これにより、第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分が一本鎖とされ、次いで一本鎖とされた第一および第二の鋳型核酸上の前記配列(A)および配列(C)の部分に、前記プライマーと同一の配列を有する他のプライマーがアニーリングして鎖置換反応が行なわれることにより、先に合成された第一および第二の相補核酸が、前記他のプライマーにより新たに合成される相補核酸によって置換される、というものである。
【0034】
また、本発明者らによる等温増幅プライマー法は、等温増幅プライマーが目的核酸にアニーリングし、プライマーの3’端側から伸長反応を起こし、その伸長産物が目的の配列を含む場合のみ、そのプライマーの5’端の配列が、その伸長産物にハイブリダイゼーションを起こし、これにより次に同様な等温増幅プライマーがアニーリングすることができ、連続した増幅反応が可能となる。逆に、誤って等温増幅プライマーが目的核酸以外にアニーリングし、プライマーの3’端側から伸長反応を起こした場合、その伸長産物は目的の配列を含まないので、そのプライマーの5’端の配列が、その伸長産物にハイブリダイズできなくなり、これにより次に同様な等温増幅プライマーがアニーリングしにくくなり、連続した増幅反応が困難となるため、目的とする増幅産物が得られない。そのため、この増幅法は、他の増幅法に比べ、非常に特異性の高い増幅法といえる。さらに、非常に特異性が高い増幅法であることにより、増幅産物をDNAプローブ等を用い、ハイブリダイゼーションを行い、増幅産物が目的の増幅産物であるかどうか確認するような作業が必ずしも必要とされない。
【0035】
本発明者らによる等温増幅プライマー法は、使用する酵素の活性を維持できる温度に保つことにより実施することができる。また、本発明による核酸合成方法において、プライマーが標的核酸にアニーリングするためには、例えば、反応温度を、そのプライマーの融解温度(Tm)付近の温度、もしくはそれ以下に設定することが好ましく、さらには、プライマーの融解温度(Tm)を考慮し、ストリンジェンシーのレベルを設定することが好ましい。従って、この温度は、好ましくは20℃〜80℃、さらに好ましくは約35℃〜約65℃とする。
【0036】
前記増幅試薬組成物は、前記抽出試薬組成物と混合されたときに、増幅反応にとって適切なpHとなるように、そのpHが設定される。例えば、抽出試薬組成物としてアルカリ抽出用試薬組成物を用いる場合において、そのpHが増幅反応にとって高すぎるときは、増幅試薬組成物のpHを予め低めのものとしておくことが好ましい。増幅反応にとって適切なpHは、概ね5〜12の範囲、好ましくは7〜10の範囲である。
【0037】
本発明の他の実施態様によれば、本発明による反応容器は、前記第一室と前記第二室との間に、前記抽出試薬組成物のpHを前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅反応に適したものとするためのpH調整試薬組成物を含有する第三室をさらに含んでなるものとされる。これにより、前記抽出試薬組成物のpHと増幅反応に適したpHとの差が大きい場合でも、適切な増幅反応を行なうことが容易となる。
【0038】
pH調整試薬組成物に用いることのできる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸、酢酸、クエン酸、フタル酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの有機スルホン酸が挙げられるが、好ましくは鉱酸とされ、さらに好ましくは塩酸とされる。また、pH調整試薬組成物に用いることのできるアルカリとしては、典型的には水酸化ナトリウム水溶液が挙げられる。
【0039】
本発明による反応容器は、さらに、前記第一室と前記第二室とを分離するための分離手段を含んでなり、また、前記第三室が設けられる場合には、これと前記第一室および前記第二室とを分離するための分離手段を含んでなる。この分離手段は、反応容器外部から物理的エネルギーを与えることによって、前記第一室と前記第二室との分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と前記第二室中の増幅試薬組成物との混合を可能とするものであり、また、前記第三室が設けられる場合には、前記第一室、前記第二室、および前記第三室の間の分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と、前記第二室中の増幅試薬組成物と、前記第三室中のpH調整試薬組成物との混合を可能とするものである。物理的エネルギーによる分離の解除法としては、例えば、熱を加えることによる解除、光を照射することによる解除、機械または操作者により振動、応力等を加えることによる解除などが挙げられる。好ましい分離手段は、熱を加えることにより解除されるものである。
【0040】
前記分離手段は、常温および核酸抽出に用いられる温度において水を透過させない手段であればよく、特に制限されないが、好ましくは水非透過性皮膜によるもの、より好ましくは水非透過性の疎水性皮膜によるものとされる。また、このような水非透過性皮膜は、反応容器外部からの上記物理的エネルギーにより融解しうるものとすることが好ましい。さらに、水非透過性の疎水性皮膜としては、融解したときに水よりも密度の小さい液体となるものが好ましい。これにより、本発明による反応容器における増幅反応が終わった後、試薬の最上部で水非透過性の疎水性皮膜が再度形成されるため、反応容器からの試薬の漏洩を防止することができる。このような水非透過性の疎水性皮膜としては、例えば、ワックス類およびその混合物が挙げられる。
【0041】
ワックスは、加熱することにより融解して水の密度よりも低密度を有する液体を形成する有機物質(合成または天然、例えば、鉱物、植物または動物に由来するワックス)である。一般的には、ワックス類は高分子量脂肪酸と高分子量アルコールとのエステル類である。代表的な純粋なワックス類としては、エイコサン(C2042)、オクタコサン(C2858)、セチルパルミテート(C3264)、ペンタエリトリトールテトラベヘナート(C93180)などが挙げられる。また、多くの有用なワックス混合物が、純粋なワックス類の性質と同様の性質を提供する物質類(例えば、エステル類、脂肪酸類、高分子量アルコール類、炭化水素類等)の混合物として知られている。このようなワックス混合物としては、限定されるものではないが、パラフィン、PARAPLAST(商標)ワックス(Sherwood Medical)、ULTRAFLEX(商標)ワックス(Petrolite Corporation)、BESQUAR(商標)175ワックス(Petrolite Corporation)などが挙げられる。ワックス類は、購入するか、あるいは純粋または混合ワックスを別のものと混合することにより、または相対硬度、低減されたワックス類特有の粘着性および所望の融解温度を保持する適当なグリース類もしくは油状物類と混合することにより製造できる。混合ワックス類、例えば、融解温度の異なるパラフィンを利用して、試薬を二層または三層に分離し、必要に応じて融解させ、本発明による反応容器中の各試薬組成物を所望の組み合わせで混合することも可能である。
【0042】
上記のグリースは有機物質であり、常温(25℃前後)では固体または半固体であるが、約40℃よりもやや低い温度で非常にやわらかく、40〜80℃の範囲で溶けて液体となる。グリースの密度は、水の密度よりも小さい。典型的なグリースは白色ペトロラータム(例えば、ワセリン、石油ゼリー等)であり、これは高分子量炭化水素の混合物である。上記のワックスは有機物質であり、常温(25℃前後)では固体であるが、約40℃以下の温度でグリースよりはるかに硬く、少し高い温度で溶けて、水より密度の小さい液体となる。ワックスは、グリースや油に比べ、固体(例えば、プラスチック)表面への付着は少ない。
【0043】
上記のような分離手段により、本発明による反応容器中に分離した形で保持されている各試薬組成物を、必要に応じて混合することが可能となる。また、本発明の好ましい実施態様によれば、前記水非透過性皮膜は、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものとされる。これにより、本発明による反応容器において、核酸抽出が終了した後、増幅反応のために温度を調整することによって、各試薬組成物を混合することが可能となる。
【0044】
本発明による反応容器においては、さらに、各試薬組成物を固形状としてもよい。これにより、輸送・運搬時の振動などによる各試薬組成物の漏洩または望ましくない試薬組成物相互の混合を防止することができる。
【0045】
試薬組成物を固定化する(固形状とする)方法としては、試薬固定化層内に試薬が均一に分散された状態で固定化できる方法あればよく、特に制限されない。従って、試薬を固定化するための固定化材料としては、マトリックスを形成する材料を用いてもよいし、マトリックスを形成しない材料を用いてもよく、さらにこれらを組み合わせて用いてもよい。また、前記固定化材料は、本発明による反応容器の使用時に反応試薬と共に溶解する材料であっても、溶解しない材料であってもよい。また、前記固定化材料としては、これを用いて得られる試薬組成物の固定化層が、本発明の効果を損なうような溶出成分を溶出しないような固定化材料が用いられる。
【0046】
なお、上記固定化材料として、マトリックスを形成し、かつ反応試薬とともに溶解しない材料を用いた場合でも、通常、反応試薬の分子はマトリックスサイズに比べて遙かに小さいので、固定化された試薬組成物にサンプルを含む溶液が接触すれば、反応試薬はその溶液中に十分に溶解することができる。
【0047】
試薬組成物を固定化する具体的な方法としては、例えば、試薬組成物を、アガロースゲル、アルギン酸ゲル、カラギーナンゲル、カードランゲル、キトサンゲル等のゲルマトリックス中に封入して固定化する方法、光架橋性ポリビニルアルコール等の光硬化性樹脂またはポリアクリルアミド等の三次元架橋構造体中に組み込んで固定化する方法、CMC等の水溶性で粘性のある材料で固定化する方法などが挙げられる。これら固定化方法の多くは、試薬組成物を固定化材料の原料に添加し、混合する工程を含むが、その際、試薬組成物はそのまま添加されても、溶液の形で添加されてもよい。さらに、これらの方法を組み合わせて試薬を固定することも可能である。上述の具体的な固定化方法によれば、試薬組成物が湿潤状態で固定化されるため、特に乾燥することが好ましくない試薬を用いる場合に有利である。
【0048】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による反応容器は、前記抽出試薬組成物および前記増幅試薬組成物の少なくとも一つが、反応容器外部からの物理的エネルギーにより融解しうるゲルに封入されたものとされ、前記pH調整試薬組成物が含まれる場合には、これも同様のゲルに封入されたものとすることができる。物理的エネルギーによるゲルの融解法としては、例えば、熱を加えることによる融解、光を照射することによる融解などが挙げられる。好ましいゲルは、熱を加えることにより融解するものである。さらに、前記ゲルは、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものとすることが好ましい。これにより、本発明による反応容器において、核酸抽出が終了した後、増幅反応のために温度を調整することによって、各試薬組成物を混合することが可能となる。
【0049】
上述の方法により固定化された試薬組成物は、乾燥状態としてもよい。これにより、長期間の保存による試薬組成物の変質を防ぐことが可能となる。乾燥の手法としては、一般的な手法、例えば、加温による乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。また、米国特許第4891319号明細書に記載されている試薬の安定な乾燥化技術、特表平10−503383号公報に記載の核酸増幅用酵素の安定化法を利用することもできる。さらに、トレハロースおよび/またはポリビニールピロリドンを安定化剤として用いることができ、これによれば、特に試薬を凍結乾燥した場合において、DNAポリメラーゼなどの酵素が安定に保持できる。固定化された試薬組成物を乾燥させた場合には、本発明による反応容器を使用する際に、必要に応じて、水などの液体を補充すればよい。
【0050】
本発明による反応容器は、さらに、前記第一室のみに前記サンプルを導入することを可能とする開口部を含んでなる。これにより、反応容器の開口部から導入されるサンプルは、抽出試薬組成物のみに接触し、他の試薬組成物に接触することなく、効率のよい核酸抽出が可能となる。
【0051】
本発明による反応容器では抽出試薬組成物と増幅試薬組成物とが別々に保持されており、これらは、核酸抽出の後、核酸増幅反応の前に混合される。これら試薬組成物の混合は、加熱による液体の対流、反応容器の振盪などの一般的な方法により行なうことができるが、混合をさらに効率よく行なうために、反応容器中に混合手段を組み込むこともできる。このような混合手段としては、例えば、容器内に予めビーズ等の担体を入れておくことが挙げられる。具体的には、容器内の上部に前述の水非透過性皮膜を設け、その皮膜中に担体を固定しておき、熱などの物理的エネルギーによって該皮膜が融解することにより担体が下部に落下し、試薬組成物が混合される。また、ナノテクノロジーを用いて前記担体をプロペラ型の形状とすることもでき、これにより、反応容器内の上部から下部に落下する際のプロペラの回転により混合の効率を上げることもできる。また、前記担体として磁気ビーズを用いてもよく、その場合には、外部からの磁気によって反応容器内の磁気ビーズを動かすことにより試薬組成物を混合することができる。さらに、他の混合手段としては、反応容器の下部に前述の水非透過性皮膜を予め固定しておいてもよく、その場合には、熱などの物理的エネルギーによって該皮膜が融解することにより、融解した皮膜が上部に移動するため、試薬組成物を混合することができる。従って、本発明による反応容器は、開口部から底部に向かう方向において、その内部断面積が減少する部分を有するものであることが好ましい。このような形状とすることにより、融解した皮膜が上部に移動しやすくなる。
【0052】
本発明による反応容器を用いて増幅された標的核酸は、一般的な方法、例えば、検出可能な標識を付された特異的プローブを用いる方法等、によって検出してもよいが、増幅産物の存在に基づくシグナルの発生が可能となるように反応容器を構成することも可能である。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明による反応容器は、増幅産物に基づくシグナル発生手段をさらに含んでなるものとされる。また、その場合には、本発明による反応容器は、核酸増幅産物からのシグナルを透過可能なものであることが好ましい。これにより、容器から増幅産物を取り出すことなくこれを検出することが可能となる。
【0053】
前記シグナル発生手段としては、当業者に知られているものを用いることができ、特に制限されないが、例えば、エチジウムブロミド、SYBRグリーンI(Molecular Probe社)などのインターカレーターを用いることができる。これらのインターカレーターは二本鎖DNAに結合するため、その蛍光強度と二本鎖DNAの濃度は正比例する。よって、インターカレーターによる蛍光が強ければ、増幅産物が高濃度で存在することが示され、これにより標的核酸が検出される。従って、このようなインターカレーターを予め増幅試薬組成物中に混入しておくことにより、増幅産物に基づくシグナルを発生させることが可能となる。また、シグナル発生手段として、蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resornance Energy Transfer:FRET)などを利用してもよい。FRETは,2つのプローブが近接して増幅産物にハイブリダイズした場合にのみ発生し、ハイブリダイゼーションプローブが互いに隣接してハイブリダイズすることのできる特異的なDNAが存在しない場合には発生しない。従って、標的核酸の近接した2つの領域にそれぞれ特異的にハイブリダイズしうる2つのプローブを予め増幅試薬組成物中に混入しておけばよい。また、核酸増幅の過程においては、基質(dNTPs)からピロリン酸イオンが遊離され、これと増幅試薬組成物中のマグネシウムイオンとが結合し、ピロリン酸マグネシウムが産生され、これにより反応溶液が白濁する。これにより、増幅産物の有無を目視で判定することが可能である。また、増幅産物に挿入剤を挿入し、これを用いて増幅産物に電気を流すことにより、その電流や電圧の差を読み取ることによって検出を行なうこともできる。さらに、プライマーを予めビーズや金コロイド粒子などの担体と結合させておいてもよい。この場合には、標的核酸が増幅されると前記担体が凝集するので、これを目視で確認することにより増幅産物を検出することができる。
【0054】
シグナルを透過することのできる反応容器は、そのシグナル発生手段に応じて、当業者であれば容易に選択することができる。例えば、シグナルが目視で検出される場合には、反応容器の素材は透明または半透明のものとされ、例えば、プラスチックなどの熱可塑性ポリマーとすることができる。熱可塑性ポリマーとしては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ならびにこれらのコポリマーまたは混合物を用いることができる。あるいは、透明なガラスを用いてもよい。また、蛍光シグナル、発色シグナル、発光シグナルなどを読み取る場合にも、同様の素材からなるものが好ましい。さらに、紫外線、赤外線などを利用する場合には、それらを透過するものが好ましい。また、反応溶液中の核酸増幅産物や核酸増幅反応の副産物を検出するために、電気化学的な測定を用いることが可能であり、そのような場合は、電気を通す素材からなる容器、例えば、カーボンコートされた容器などが好ましい。
【0055】
本発明による反応容器は、サンプルからの標的核酸の増幅に用いられる他の用具と併せて、核酸検出用キットとすることができる。他の用具としては、典型的には、サンプリング用器具が挙げられる。従って、本発明の他の態様によれば、本発明による反応容器と、サンプルを採取するためのサンプリング用器具とを少なくとも含んでなる、核酸検出用キットが提供される。
【0056】
サンプリング用器具としては、液体を吸引するためのピペットまたはスポイト、スパーテルなどの一般的なものとすることができるが、ヒトの口腔粘膜細胞ならびに喀痰などのサンプルは、スワブを利用することにより簡易に採取することができる。
【0057】
スワブは、採取部分が綿などの材料からなり、ハンドル部分は細長いポリスチレン製の管状部材などの材料からなる一般的なものであってよいが、本発明による反応容器の開口部に差し込むことにより、反応容器に蓋をすることのできるようなものが好ましい。また、前記スワブは、反応容器の開口部に差し込むことにより、該反応容器との隙間を塞ぐものであることが好ましい。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、前記スワブは、採取したサンプルを本発明による反応容器中の抽出試薬組成物に接触させうるものであり、かつ、前記反応容器の開口部を密閉しうるものとされる。スワブは、さらに好ましくは、プラスチックなどの熱可塑性ポリマーにより加工されたものである。熱可塑性ポリマーとしては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、ならびにこれらのコポリマーまたは混合物を用いることができる。さらに、大量の検体を同時に検査するような場合に用いるスワブは、ハンドルの細長い部分において2つに切り離すことができ、さらには、その両端に同一の整理番号などが記入され、それを保存することにより反応容器中のサンプルを識別することも可能である。スワブのサンプル採取部分の先端は、サンプルをより多く採取できるように突起物を有することが好ましい。
【0058】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明によるキットは、前記スワブの前記反応容器からの脱離を防止するための脱離防止手段をさらに含んでなるものとされる。これにより、本発明による反応容器にスワブの採取部分を差し込んだ後は、そのスワブの反応容器からの意図しない脱離を防止することが可能となる。前記脱離防止手段が、前記スワブに設けられた凸部または凹部と、これに嵌合する前記反応容器中の凹部または凸部によるものである。
【0059】
あるいは、前記スワブは、反応容器の蓋にスワブが結合したものであって、スワブのサンプル採取部分が本発明による反応容器中の抽出試薬組成物に接触すると同時に蓋によって反応容器が密閉されるようなものとすることもできる。
【0060】
本発明によるキットは、前記スワブとは別に、反応容器の開口部を塞ぐための蓋を含むことができる。この蓋は強固なものである必要はなく、異物の混入を防ぐものであればいかなるものであってもよい。このような蓋としては、例えば、反応容器をカバーして異物の混入を防ぐ程度のセロハンテープ、ラミネート、ラップ、シールなどでもよく、あるいは、反応容器を覆うためのワックス類などの水非透過性皮膜であってもよい。
【0061】
本発明の好ましい実施態様による反応容器とスワブの組み合わせを、図1〜3に示す。図1に示す蓋兼用スワブ1は、その最下端に突起を有するスワブ先端部3を有し、これにより効率よくサンプルを採取することが可能となる。蓋兼用スワブ1は、さらにストッパー2を備えている。一方で、図1に示す反応容器4は、抽出試薬組成物7と増幅試薬組成物9を含んでおり、これらは水非透過性皮膜8によって分離されている。また、反応容器4は、その内径が蓋兼用スワブ1の外径とほぼ等しく、さらには、ストッパー2と嵌合しうるストッパー嵌合部5を備えている。抽出試薬組成物7の上部表面は、異物の混入および試薬の漏洩を防止するための膜6によって覆われている。前記蓋兼用スワブ1を用いてサンプルを採取し、これを前記反応容器4に適用した状態の断面図を図2に示す。図2においては、スワブ先端部3の突起が膜6を突き破っており、これによりスワブ先端部3の突起に付着したサンプルが抽出試薬組成物7に接触している。また、反応容器4は、その内径とほぼ等しい外径を有する蓋兼用スワブ1によって密閉されており、ストッパー2とストッパー嵌合部5によってその状態が保持されている。この状態で核酸抽出が行なわれ、次いで反応容器4に熱などの物理的エネルギーを与えることによって水非透過性皮膜8が融解し、これにより抽出試薬組成物7と増幅試薬組成物9とが混合され、その後、蓋兼用スワブ1によって密閉された反応容器4を所定の温度下に置くことにより標的核酸の増幅が可能となる。図3は、抽出試薬組成物7と増幅試薬組成物9との間にpH調整試薬組成物11を含み、これらが水非透過性皮膜8および10によってそれぞれ分離されている反応容器4、ならびに蓋兼用スワブ1を示している。
【0062】
本発明による反応容器は、サンプルから標的核酸を検出するために用いられる。従って、本発明の他の態様によれば、本発明による反応容器を用いてサンプルから標的核酸を検出する方法であって、
(a)サンプルを前記反応容器中の抽出試薬組成物と接触させ、該サンプル中の核酸を抽出する工程、
(b)前記反応容器外部からの物理的エネルギーにより前記反応容器中の複数の試薬組成物を混合する工程、
(c)前記反応容器中で増幅反応を行なう工程、および
(d)核酸増幅産物からのシグナルを検出する工程
を含んでなる方法が提供される。
【0063】
サンプルとしては、標的核酸が含まれることが疑われるものであればよく、特に制限されないが、例えば、生物に由来するサンプル、加工食品、排水、飲料水、空気などが挙げられる。また、生物は、動物、植物および微生物のいずれであってもよい。さらに、動物は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトとされる。動物からのサンプルとしては、血液、便、痰、粘液、血清、尿、唾液、涙液、生検サンプル、組織学的組織サンプル、組織培養物などが挙げられる。また、植物は、農作物、観葉植物、天然の食用植物などが挙げられる。
【0064】
標的核酸は、検出することにより有用な情報が得られるものであればよく、特に制限されないが、例えば、野生型遺伝子もしくは変異型遺伝子または病原体に特異的な核酸配列を有するものが挙げられる。病原体としては、例えば、ウイルス、細菌、真菌などが挙げられる。例えば、野生型遺伝子を標的核酸とした場合には、これが検出されないことにより、その遺伝子欠損に起因する疾患が検出される。また、変異型遺伝子を標的核酸とした場合には、これが検出されることにより、遺伝子変異に起因する疾患が検出される。さらに、病原体に特異的な配列を有する核酸を標的核酸とした場合には、これが検出されることにより、その病原体による感染症が検出される。
【0065】
本発明による核酸検出法における上記各工程は、本発明による反応容器の構成に応じて、例えば、該反応容器において利用される核酸抽出法、各試薬組成物間の分離手段、および核酸増幅法に応じて、容易に実施することができる。また、核酸増幅産物からのシグナルの検出は、検出可能な標識が付された特異的プローブを用いる方法などの一般的な方法により、当業者であれば適宜行なうことができる。また、シグナル発生手段が予め反応容器中に存在する場合には、これを利用して簡便にシグナル検出を行なうことができる。
【0066】
本発明による核酸検出法の結果を有効に活用する手段として、上記工程(d)において検出されたシグナルまたは該シグナルにより得られた結果を遺伝子解析用コンピュータに入力し、該コンピュータによる解析結果を出力することも可能である。従って、本発明によれば、上記工程(a)〜(d)の後に、
(e)検出されたシグナルを遺伝子解析用コンピュータに入力する工程、
(f)前記コンピュータにおいて、前記シグナルと該コンピュータにより利用可能な情報とが比較され、これにより前記シグナルの特徴づけおよび/または前記シグナルに関連する情報の検索がなされる工程、および
(g)前記コンピュータから、前記シグナルの特徴および/または前記シグナルに関連する情報を出力する工程、
を含んでなる、遺伝子解析方法が提供される。上記工程(e)におけるコンピュータへの入力および上記工程(g)におけるコンピュータからの出力は、好ましくはインターネットなどの通信ネットワークを介して行なわれる。
【0067】
本発明による遺伝子解析方法によれば、例えば、シグナルの検出装置と通信装置を連結させておき、得られたシグナルを遺伝子解析センターなどに送信し、そこでより詳細な解析を行い、その詳細な解析結果およびその関連情報を受信することにより、より詳細な情報を得ることが可能になる。前記通信装置としては、インターネットなどの通信ネットワークを介して情報の送受信を行なうことのできる、パーソナルコンピュータ、携帯電話などの携帯用端末等が好適に用いられる。
【0068】
本発明の好ましい実施態様による遺伝子解析法の概念図を図4に示す。本発明による反応容器401において標的核酸の増幅反応を行なった後、シグナル検出装置402により増幅産物に基づくシグナルが検出される。検出されたシグナルは、携帯用端末403により、インターネット404を介して遺伝子解析用コンピュータ405に入力される。この遺伝子解析用コンピュータ405では、入力されたシグナルと、情報記憶装置406に記憶されている標的核酸の存否により示される情報およびこれに関連する情報とが比較され、これにより前記シグナルの特徴づけおよび/または前記シグナルに関連する情報の検索がなされる。次いで、遺伝子解析用コンピュータ405から、前記シグナルの特徴および/または前記シグナルに関連する情報が、インターネット404を介して携帯用端末403により出力される。出力された情報は、携帯用端末403により情報記憶装置407に記憶される。
【0069】
本発明による遺伝子解析法は、例えば、標的核酸が、その存在または不存在により疾患または障害を示すものであれば、疾患または障害の検出方法、さらには、その疾患または障害に関する情報を取得する方法となる。この場合には、出力される上記シグナルの特徴としては、該シグナルにより示される疾患または障害の名称、標的核酸を含有する遺伝子の名称等が挙げられ、出力される関連情報としては、前記疾患または障害の説明文、該疾患または障害に対する対処方法および有効な治療薬、さらに精密に診断するための方法等が挙げられる。特に、遺伝子解析用コンピュータにおいては、複雑な解析が可能であるため、対象とする疾患または障害に関与する遺伝子が複数存在する場合には、それぞれの遺伝子についての核酸検出法を行なってその結果(シグナル)を全て送信することにより、より正確な解析結果を得ることが可能となる。
【0070】
特に、本発明による核酸検出法は、被検者自ら実行することが可能であり、その後、通信装置を用いた遺伝子解析をも被検者自ら行なうことにより、遺伝子情報の漏洩が防止される。さらに、個人が所有する携帯用端末などを利用して個人情報を管理することにより、複雑な遺伝子情報を保持・管理することが可能となる。また、その遺伝子情報をもとに、個人の目的に応じた病院や店を選択することも可能となる。
【0071】
さらに、本発明による反応容器は、上述の通り、疾患または障害の診断または発症リスクの判定に用いることができる。従って、本発明の他の態様によれば、疾患または障害の診断または発症リスクの判定における、本発明による反応容器の使用が提供される。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1
本実施例においては、ヒトゲノム中に含まれるhuman STS DYS237の部分配列(配列番号1)の増幅および検出を行なった。また、プライマーとしては、60℃での等温反応による増幅を可能とする次のプライマーペア:SY153LP13−15:5’−CATTTGTTCAGTAGCATCCTCATTTTATGTCCA−3’(配列番号2:下線部は配列番号1中の第1〜20ヌクレオチドに相当し、他の部分は第36〜48ヌクレオチドの相補配列に相当する)およびSY153RP13−15:5’−CTTGCAGCATCACCAACCCAAAAGCACTGAGTA−3’(配列番号3:下線部は配列番号1中の第120〜139ヌクレオチドの相補配列に相当し、他の部分は第92〜104ヌクレオチドに相当する)を使用した。
【0074】
核酸検出用キットは次のようにして作製した。まず、円筒型の透明な反応容器(内径2〜3mm)の容器底に、増幅試薬(計20μL中、Tris−HCl(20mM、pH8.8)、10mMのKCl、10mMの(NHSO、2mMのMgSO、1%のTritonX−100、4mMのdNTP、100pmolの各プライマー、8UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs社製)、およびSYBR(登録商標)−Green I(Molecular Probes社製)を10000倍に希釈したものを含む)を加えた(増幅試薬層)。この増幅試薬層の上に、熱融解した液状のパラフィン10μL(関東化学:50〜52℃で融解)を重層した(疎水性皮膜層)。パラフィンが固形になった後に、その上に、前処理試薬として、0.01NのNaOH(5μL)を重層した(前処理試薬層)。
【0075】
次いで、上記の核酸検出用キットを用いて、ヒト被験者の口腔粘膜細胞から標的配列を検出した。まず、スワブを用いてヒト口腔粘膜細胞を採取し、前処理試薬層部分に添加した。室温で30分間放置することによって口腔粘膜細胞を変性させ、ヒトのゲノムDNAを抽出した。次に、その反応容器を60℃で1時間保持することによって増幅反応を行った。60℃に保持することにより、疎水性皮膜層は融解し、反応容器内の最上部に移動し、これにより、前処理試薬層と増幅試薬層が混合されていた。ヒト粘膜細胞を添加しないサンプルについても同様に実験を行った。最後に、増幅された目的核酸の検出を行うために、UV(245nm)を照射した。
【0076】
ヒト口腔粘膜細胞を添加した反応容器では、SYBR(登録商標)−Green Iによる蛍光シグナルが肉眼で確認された。一方で、ヒト口腔粘膜細胞を添加していない反応容器では、蛍光シグナルは確認されなかった。このことから、上記の核酸検出用キットにより、ヒトゲノムDNAの抽出、標的配列の増幅、および増幅産物の検出が可能であることが示された。
【0077】
実施例2
本実施例において、増幅および検出の標的配列ならびに使用するプライマーペアは、実施例1と同一とした。
【0078】
核酸検出用キットは次のようにして作製した。まず、円筒型の透明な反応容器(内径2〜3mm)の容器底に、増幅試薬(計20μL中、Tris−HCl(20mM、pH8.8)、10mMのKCl、10mMの(NHSO、8mMのMgSO、0.1%のTween20、0.1%のTritonX−100、1.4mMのdNTP、0.8%のDMSO、1600pmolの各プライマー、および16UのBst DNAポリメラーゼ(NEW ENGLAND BioLabs社製)を含む)を加えた(増幅試薬層)。この増幅試薬層の上に、熱融解した液状のパラフィン10μL(関東化学:50〜52℃で融解)を重層した(疎水性皮膜層)。パラフィンが固形になった後に、その上に、前処理試薬として、0.01NのNaOH(5μL)を重層した(前処理試薬層)。
【0079】
次いで、上記の核酸検出用キットを用いて、ヒト被験者の口腔粘膜細胞から標的配列を検出した。まず、スワブを用いてヒト口腔粘膜細胞を採取し、前処理試薬層部分に添加した。室温で30分間放置することによって口腔粘膜細胞を変性させ、ヒトのゲノムDNAを抽出した。次に、その反応容器を60℃で1時間保持することによって増幅反応を行った。60℃に保持することにより、疎水性皮膜層は融解し、反応容器内の最上部に移動し、これにより、前処理試薬層と増幅試薬層が混合されていた。ヒト粘膜細胞を添加しないサンプルについても同様に実験を行った。
【0080】
ヒト口腔粘膜細胞を添加した反応容器では、増幅反応により生成したピロリン酸マグネシウムによる反応溶液の白濁が確認された。一方で、ヒト口腔粘膜細胞を添加していない反応容器では、白濁は確認されなかった。このことから、上記の核酸検出用キットにより、ヒトゲノムDNAの抽出、標的配列の増幅、および増幅産物の検出が可能であることが示された。
【0081】
さらに、増幅反応後の反応液5μlを3%ヌシーブ3:1アガロースゲル(宝酒造社製)にて電気泳動を行った。その結果を表す電気泳動写真を図5に示す。図5において、レーン1は20bpDNA Laderサイズマーカーであり、レーン2はヒト口腔粘膜細胞を添加したサンプルであり、レーン3はヒト口腔粘膜細胞を添加していない対照サンプルである。対照サンプル(レーン3)では、未反応のプライマーが染色されている以外に、バンドは確認されなかった。ヒト口腔粘膜細胞を添加したサンプル(レーン2)では、目的増幅産物として予想される約160bp付近のバンドが確認された。このことから、上記の核酸検出用キットにより、ヒトゲノムDNAの抽出、標的配列の増幅、および増幅産物の検出が可能であることが実証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルから標的核酸を検出するための反応容器であって、
前記サンプルから核酸を抽出するための抽出試薬組成物を含有する第一室、標的核酸を増幅するための増幅試薬組成物を含有する第二室、該第一室と該第二室とを分離するための分離手段、および前記第一室のみに前記サンプルを導入することを可能とする開口部を少なくとも含んでなり、
前記分離手段が、反応容器外部から物理的エネルギーを与えることによって、前記第一室と前記第二室との分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と前記第二室中の増幅試薬組成物との混合を可能とするものである、反応容器。
【請求項2】
前記分離手段が、反応容器外部からの物理的エネルギーにより融解しうる水非透過性皮膜によるものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項3】
前記水非透過性皮膜が、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものである、請求項2に記載の反応容器。
【請求項4】
前記抽出試薬組成物および前記増幅試薬組成物の少なくとも一つが、反応容器外部からの物理的エネルギーにより融解しうるゲルに封入されたものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項5】
前記ゲルが、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものである、請求項4に記載の反応容器。
【請求項6】
前記第一室と前記第二室との間に、前記抽出試薬組成物のpHを前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅反応に適したものとするためのpH調整試薬組成物を含有する第三室、および該第三室と前記第一室および前記第二室とを分離するための分離手段をさらに含んでなり、
前記分離手段が、反応容器外部から物理的エネルギーを与えることによって、前記第一室、前記第二室、および前記第三室の間の分離を解き、これにより前記第一室中の抽出試薬組成物と、前記第二室中の増幅試薬組成物と、前記第三室中のpH調整試薬組成物との混合を可能とするものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項7】
前記分離手段が、反応容器外部からの物理的エネルギーにより融解しうる水非透過性皮膜によるものである、請求項6に記載の反応容器。
【請求項8】
前記水非透過性皮膜が、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものである、請求項7に記載の反応容器。
【請求項9】
前記pH調整試薬組成物が、反応容器外部からの物理的エネルギーにより融解しうるゲルに封入されたものである、請求項6に記載の反応容器。
【請求項10】
前記ゲルが、前記抽出試薬組成物による核酸抽出時の温度では融解せず、かつ前記増幅試薬組成物による標的核酸の増幅時の温度で融解するものである、請求項9に記載の反応容器。
【請求項11】
前記抽出試薬組成物がアルカリ抽出用の試薬組成物である、請求項1に記載の反応容器。
【請求項12】
前記増幅試薬組成物が、一定の温度下での標的核酸の増幅を可能とするものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項13】
前記反応容器が、核酸増幅産物からのシグナルを透過可能なものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項14】
前記反応容器が、開口部から底部に向かう方向において、その内部断面積が減少する部分を有するものである、請求項1に記載の反応容器。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の反応容器と、サンプルを採取するためのサンプリング用器具とを少なくとも含んでなる、核酸検出用キット。
【請求項16】
前記サンプリング用器具がスワブである、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
前記スワブが、採取したサンプルを前記反応容器中の抽出試薬組成物に接触させうるものであり、かつ、前記反応容器の開口部を密閉しうるものである、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
前記スワブの前記反応容器からの脱離を防止するための脱離防止手段をさらに含んでなる、請求項17に記載のキット。
【請求項19】
前記脱離防止手段が、前記スワブに設けられた凸部または凹部と、これに嵌合する前記反応容器中の凹部または凸部によるものである、請求項18に記載のキット。
【請求項20】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の反応容器を用いて、サンプルから標的核酸を検出する方法であって、
(a)サンプルを前記反応容器中の抽出試薬組成物と接触させ、該サンプル中の核酸を抽出する工程、
(b)前記反応容器外部からの物理的エネルギーにより前記反応容器中の複数の試薬組成物を混合する工程、
(c)前記反応容器中で増幅反応を行なう工程、および
(d)核酸増幅産物からのシグナルを検出する工程
を含んでなる、方法。
【請求項21】
前記標的核酸が、野生型遺伝子もしくは変異型遺伝子または病原体に特異的な核酸配列を有するものである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記病原体が、ウイルス、細菌、または真菌である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の反応容器を用いて、遺伝子を解析する方法であって、
(a)サンプルを前記反応容器中の抽出試薬組成物と接触させ、該サンプル中の核酸を抽出する工程、
(b)前記反応容器外部からの物理的エネルギーにより前記反応容器中の複数の試薬組成物を混合する工程、
(c)前記反応容器中で増幅反応を行なう工程、
(d)核酸増幅産物からのシグナルを検出する工程、
(e)検出されたシグナルを遺伝子解析用コンピュータに入力する工程、
(f)前記コンピュータにおいて、前記シグナルと該コンピュータにより利用可能な情報とが比較され、これにより前記シグナルの特徴づけおよび/または前記シグナルに関連する情報の検索がなされる工程、および
(g)前記コンピュータから、前記シグナルの特徴および/または前記シグナルに関連する情報を出力する工程
を含んでなる、方法。
【請求項24】
工程(e)におけるコンピュータへの入力および工程(g)におけるコンピュータからの出力が、通信ネットワークを介して行なわれる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
疾患または障害の診断または発症リスクの判定における、請求項1〜14のいずれか一項に記載の反応容器の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/012518
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512515(P2005−512515)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010851
【国際出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(501293666)株式会社ダナフォーム (25)
【Fターム(参考)】