説明

核酸試料処理装置

【課題】ピペット動作等でピペットチップ内に保持している液体が微小液滴となって落下し、他検体を処理する試薬類に混入すると、診断時の誤判定の原因となる。
【解決手段】同一検体に使用する反応ウェル・検出ウェルのノズル列方向の幅をノズル保持部のピッチよりも小さい領域に収めることで、移動範囲を最小限にし、かつ、コンタミネーションを防止するピペット動作が可能な構成となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象者の健康状態を判定する際に利用するデータを取得する際に、血液等の検体中での病原菌などに由来する遺伝子の有無に関する検査を行うための核酸試料処理装置に関する。さらに詳しくは、装置の小型化、分注タクトの短縮、コンタミネーション防止のための機構を備えた核酸試料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸の塩基配列の解析、核酸試料中の標的核酸の検出を迅速・正確に行うものとして、DNAマイクロアレイに代表されるプローブ担体を用いたハイブリダイゼーション反応を利用した方法が多く提案されている。DNAマイクロアレイとは、標的核酸と相補的な塩基配列を有するプローブを、ビーズ、ガラス板等の固相上に高密度で固定したものであり、これを用いた標的核酸の検出は一般に以下のような工程を有する。
【0003】
第1の工程として、PCR法に代表される増幅方法によって、標的核酸を増幅する。具体的には、まず、核酸試料中に第1及び第2のプライマーを加え、温度サイクルをかける(以降、1stPCRと呼ぶ)。第1のプライマーは標的核酸の一部と特異的に結合し、第2のプライマーは標的核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。標的核酸を含む二本鎖核酸と第1及び第2のプライマーが結合すると伸長反応によって標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅される。
【0004】
十分に標的核酸を含む二本鎖核酸が増幅された後に、未反応のプライマーや核酸の断片など、増幅された二本鎖核酸以外のものを精製によって除去する。精製には磁性粒子に二本鎖核酸を吸着させる方法やカラムフィルタを利用したものなどが知られている。
【0005】
精製を終了した核酸試料中に第3のプライマーを加えて温度サイクルをかける(以降、2ndPCRと呼ぶ)。第3のプライマーは、酵素、蛍光物質、発光物質等で標識されており、標的核酸と相補的な核酸の一部と特異的に結合する。標的核酸に相補的な核酸と、第3のプライマーが結合すると伸長反応によって酵素、蛍光物質、発光物質等で標識された標的核酸が増幅される。結果として、核酸試料中に標的核酸が含まれている場合は標識された標的核酸が生成され、核酸試料中に標的核酸が含まれない場合は標識された標的核酸は生成されない。
【0006】
第2の工程として、この核酸試料をDNAマイクロアレイに接触させ、DNAマイクロアレイのプローブとハイブリダイゼーション反応させる。具体的には、DNAマイクロアレイおよび核酸試料の温度を上昇させる。この時、プローブと相補的な標的核酸があれば、プローブと標的核酸がハイブリッド体を形成する。
【0007】
第3の工程として、標的核酸の検出を行う。例えば、標識物質が蛍光物質である場合、この蛍光物質をレーザー等で励起させてその輝度を測定する。つまり、プローブと標的核酸がハイブリッド体を形成しているかどうかは、標的核酸の標識物質によって検出が可能であり、これにより特定の塩基配列の有無を確認できる。
【0008】
このハイブリダイゼーション反応を利用したDNAマイクロアレイは、病原菌を特定する医療診断や患者の体質等を検査する遺伝子診断への応用が期待されている。このようなDNAマイクロアレイを使用した診断方法では、ピペット先端の使い捨てピペットチップを交換しながら数種類の液体を扱う。よって、この作業はとても煩雑であり、手作業では処理能力に限界がある。これらの問題を解決するために、増幅工程・ハイブリダイゼーション工程・検出工程および液体を移動させたり混合させたりするための分注工程を自動化した装置がいくつか提案されている。
【0009】
ここで、DNA検査装置の一例を図5に示す。ここではピペットを1本使う構成を示している。DNA検査装置101は、分注ユニット102、基台108、ピペットチップケース110、増幅プレート120、ハイブリダイゼーションプレート130とからなる。分注ユニット102はZ方向移動手段104とX方向移動手段105とY方向移動手段106及び107によって装置内の空間を自由に移動できる。ここで、Z方向は図5におけるXY平面に垂直な方向と定義する。また、分注ユニット102にはノズル保持部103があり、ノズル保持部103にはピペットチップ111が勘合する。ピペットチップの装着動作は、ピペットチップケース110のピペットチップ111にノズル保持部103を移動させることで行われる。ピペットチップ111を装着した分注ユニット102は、ピペット機構(不図示)によって増幅プレート120のウェル121またはハイブリダイゼーションプレート130のウェル131に入っている液体を他のウェルに移動させることができる。液体の移動、混合を行い、温度制御手段(不図示)で液体の温度を制御することで生化学反応を進めることができる。
【0010】
図5に示すようなピペットを1本しか使わない構成では、自動化された装置であっても複数検体を扱うにはかなりの時間を要する。そこで、特開平9-96643号公報や特開2003-274925号公報に開示されている構成のように、複数ピペットで複数検体を同時に扱う装置が提案されている。
【特許文献1】特開平9-96643号公報
【特許文献2】特開2003-274925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特開平9-96643号公報および特開2003-274925号公報の構成では、ある検体を扱ったピペットが他検体の試薬を保持したウェルの上を通過する動作が不可避である場合が生じる。試薬移動中は搬送軸の振動等により、ピペットチップ内に保持している液体が微小液滴となって落下する恐れがある。この時、試薬に他検体を含んだ液体が混入すると、診断時の誤判定の原因となってしまう。
【0012】
本発明の目的は、以上のような課題を鑑み、装置の小型化、分注タクトの短縮、コンタミネーション防止を効果的に行うことができる機構を有する核酸試料分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の核酸試料処理装置は、少なくとも反応ユニットの設置台の1以上と、前記設置台上に設置された反応ユニットに対する液体の吐出及び吸引を行うためのノズルを移動させるノズル移動手段と、を有する核酸試料処理装置において、
前記ノズル移動手段は、前記ノズルを保持し得るノズル保持部の複数を有し、これらのノズル保持部は直線上に一列に並んで、ノズル列を形成可能としており、前記ノズル保持部は前記ノズル移動手段によって前記ノズル列と垂直な方向に移動可能であり、
前記設置台と前記ノズル保持部とを前記ノズル列と一致した方向に相対的に移動させる相対移動手段を備え、
前記反応ユニットには、前記設置台に設置された状態で、前記ノズル列と直交する直線上に配置し得る反応領域列の2以上を有し、各反応領域列を構成する複数の反応領域は、同一検体に使用されるものであり、
前記相対移動手段によって、各反応領域が前記ノズル保持部に保持された所定のノズルと対応する位置に配置可能であり、かつ
前記反応領域の列の幅が、前記ノズル列のノズルピッチよりも狭い
ことを特徴とする核酸試料処理装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の核酸試料処理装置においては同一検体に使用する反応領域列がノズルピッチよりも小さい領域に収められており、その結果、ある検体を扱ったノズルが他検体の試薬を保持した反応領域の上方を通過しないようにノズル移動を制御することが容易となる。このようなノズル移動により、反応領域内における液滴の落下によるコンタミネーションを防止することができる。試薬が多種類必要な場合は、反応領域列を複数にすることで装置の大きさを抑えることができる。さらに、同一検体に使用する反応領域が一列に配置され、更に必要に応じて同一検体に使用する反応領域を複数列として配置するこが可能であり、同一検体を扱うノズルの移動距離も少なくでき、分注工程のタクトも短縮することができる。また、複数の反応ユニットがある場合は、複数の反応を並行して行うことが可能であり、核酸試料処理装置の処理能力を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明にかかる実施例について説明する。
【実施例】
【0016】
以下、反応ユニットにPCR用ユニットを、検査ユニットにDNAマイクロアレイを、ノズルにピペットチップを用い、核酸試料中における標的核酸(DNA)の有無やその量を検査する場合に本発明を適用した場合について説明する。
【0017】
図1は本発明の実施例に係るDNA自動検査装置の構造を説明する斜視図である。図2および図3は本発明の実施例に係るDNA自動検査装置の動作を説明する平面図である。
【0018】
まず、図1を用いてDNA自動検査装置の構造について説明する。DNA自動検査装置1は、分注ユニット2、増幅ユニット3、ハイブリダイゼーションユニット4が基台5上に配置された構成からなる。また、増幅ユニット3の上流側には検査するためのサンプル溶液を置くための検体ステージ7が備えられている。
【0019】
分注ユニット2は分注ユニットのX軸方向の移動を可能とする機構(以下X軸6という)と分注ユニットのZ軸方向の移動を可能とするアーム(以下Z軸21という)によって支えられている。このようにして、分注ユニット2は、増幅ユニット3及びハイブリダイゼーションユニット4上の空間をXZ方向に移動可能となっている。図示した装置では、分注ユニット2、分注ユニットX軸6及び分注ユニットZ軸を有してノズル移動手段が構成されている。また、増幅ユニット3が反応ユニットを、ハイブリダイゼーションユニット4が検査ユニットを構成している。なお、本装置における各移動手段には、各種の加工機械や反応装置で利用されている機構が利用できる。例えば、移動方向を規制するガイドとそのガイドそったアームや配置台などの移動を可能とするベルトやローラ、及びこれらの駆動手段などを用いた機構が利用できる。
【0020】
分注ユニット2は筐体22にピペット機構24が固定されており、ピペット機構24の先端にピペットチップを装着可能なノズル保持部25が備えられている。ノズル保持部25はY方向に等間隔で並んでいる。このピペット機構24を駆動させると、ノズル保持部25に装着されたピペットチップに液体を導入したり、ピペットチップから液体を排出したりすることができる。また、分注ユニット2の筐体22には穴あけZ軸23が取り付けられており、穴あけZ軸23の先端には穴あけ機構26がノズル保持部25と同じ間隔でY方向に並んで備えられている。これにより、分注ユニット2のZ方向の駆動とは別に、単独で穴あけ機構26をZ方向に駆動させることができる。つまり、ノズル保持部25よりも穴あけ機構26を上方に配置させたり、下方に配置させたりすることが可能となる。また、穴あけ機構26の数はノズル保持部25と同数であり、かつ、Y方向の位置が一致している。これによって、ノズル保持部25で分注する位置に穴あけを行うことができる。
【0021】
増幅ユニット3は、相対移動手段としての増幅ユニットY軸31の上に、設置台としての増幅ステージ32が搭載された構成からなる。増幅ステージ32は増幅ユニットY軸31によりY方向に移動可能である。増幅ステージ32上には増幅プレート33とピペットチップケース35を配置することができる。増幅プレート33は市販されているポリプロピレン製の96穴のウェルプレートであり、8×12個の増幅ウェル34が備えられている。増幅ウェル34には第1PCR工程(1stPCR)、精製工程、第2PCR工程(2ndPCR)で使用する試薬・洗浄液が予め入っている。増幅プレートを装置内に装着した段階では、各増幅ユニット34に不純物が混入することを防ぐため保護シート(不図示)を各増幅ウェル34の開口面を覆うように増幅プレート上面に貼り付けられている。ピペットチップケース35には12本のピペットチップ36がY方向に1列となるように収納されている。ここで、増幅ウェル34の12列とピペットチップ36の12列はY方向で一致している。ピペットチップ36がピペットチップケース35に配置された状態でのY方向での間隔は、ノズル保持部25に保持されたピペットチップ35の配列ピッチよりも狭いことが好ましい。すなわち、ピペットチップケース35に収納されたピペットチップ36のY軸方向での幅は、ノズル保持部25に保持されたピペットチップ36の配列ピッチよりも狭い領域に収まっていることが好ましい。また、ピペットチップケース35は、ステージ32、42、増幅ユニット3及びハイブリダイゼーションユニット4の少なくとも1つに設けることができる。
【0022】
ハイブリダイゼーションユニット4は、相対移動手段としてのハイブリダイゼーションY軸41に、設置台としてのハイブリダイゼーションステージ42が搭載された構成からなる。ハイブリダイゼーションステージ42はハイブリダイゼーションY軸41によりY方向に移動可能である。ハイブリダイゼーションステージ42にはハイブリダイゼーションプレート43とカセット50を配置することができる。ハイブリダイゼーションプレート43は市販されているポリプロピレン製の96穴のウェルプレートから切り出されたものであり、3×12個のハイブリダイゼーションウェル44が備えられている。カセット50はX軸方向の各ウェルの列ごとに設けられており、カセット50への注入口もウェルの列の幅以内に収まっていることが好ましい。
【0023】
次に、図2及び3を用いて本発明のDNA自動検査装置の動作について説明する。まず、ピペットチップの装着動作について説明する。この動作はノズル保持部25にピペットチップは装着されていない状態から開始される。まず、図2に示すようにライン61〜66上にピペットチップ36が来るように増幅ステージ32を移動させる。これによって、ノズル保持部25とピペットチップ36のY座標が一致する。次に、ノズル保持部25とピペットチップ36のX方向の位置が一致するように分注ユニットX軸を移動させ、さらに分注ユニットZ軸21で分注ユニット2を下降させる。これによって、ノズル保持部25とピペットチップ36が勘合する。ノズル保持部25は同一形状の物が6個Y方向に等間隔で並んでおり、ピペットチップ36は12個Y方向にノズル保持部25の半分の間隔で並んでいる。よって、この動作により、ノズル保持部25の6個全てにピペットチップ36が装着される。ここで、ノズル保持部25は6個としているが、6個に限定されるものではなく、必要に応じて複数がY方向に並んでいれば良い。さらに、ノズル保持部25は等間隔に並んでいるとしたが、それに限定されるのではなく、ノズル保持部25に対応する位置にピペットチップケース35に収納されたピペットチップ36が配置されていれば良い。この構成を図2で説明すれば、ライン61・62・65上にのみ配置された3つのノズル保持部25を持つ分注ユニット2でも良いということである。
【0024】
穴あけ機構26は穴あけZ軸23によってノズル保持部25よりも上方に配置される。これによって、ピペットチップ装着動作の際、穴あけ機構26が増幅ステージ32等に衝突して動作を阻害するということがない。最後に分注ユニットZ軸21によって分注ユニット2を上昇させ、ノズル保持部25に勘合したピペットチップ36をピペットチップケース35から抜き出す。
【0025】
ピペットチップの取り外し動作について説明する。例えば、図2のライン61〜66上のピペットチップ36を使用した場合、ピペットチップケース35は図2のライン61〜66上の収納部が空いていることになる。使用済みのピペットチップはピペットチップケース35の空いている収納部に返却する。分注ユニットX軸6と分注ユニットZ軸21を駆動させて、ノズル保持部25に装着されているピペットチップを、ピペットチップケース35の収納部の空いている部分に挿入する。そして、分注ユニット2に備えられたピペットチップイジェクト機構(不図示)により、ノズル保持部25からピペットチップを外す。具体的にはピペットチップのみを下方に押し出すことで、ノズル保持部25とピペットチップの勘合を外す。最後に分注ユニットZ軸21によって分注ユニット2を上昇させ、ピペットチップ取り外し動作を終了させる。
【0026】
次に、穴あけ動作について説明する。増幅プレート33およびハイブリダイゼーションプレート43の上面には不純物の混入を防ぐため保護シート(不図示)が貼られている。よって、増幅ウェル34およびハイブリダイゼーションウェル44に入っている試薬・洗浄液を使用する場合、保護シートに穴をあける必要がある。一例として、図2においてX方向がライン60上であり、Y方向がライン61〜66上である6個の増幅ウェル34に穴を開ける場合について説明する。まず、穴あけ機構26を穴あけ軸23によってノズル保持部25に装着されたピペットチップよりも下方に持ってくる。これによって、ノズル保持部25に装着されたピペットチップが増幅ステージ32等に触れることはない。図2に示すように、穴をあける増幅ウェル34がライン61〜66上に来るように、増幅ステージ32を増幅ユニットY軸31で移動させる。その後、分注ユニットX軸6を駆動し、穴あけ機構26をライン60に一致させる。この状態で、分注ユニットZ軸21を下降させると穴あけ機構26が増幅プレート33上面の保護シートを突き破り、6箇所の増幅ウェル34の上面に穴があく。最後に分注ユニットZ軸21で分注ユニット2を上昇させ、穴あけ機構26を増幅プレート33から引き抜いて穴あけ動作が完了する。
【0027】
分注動作について説明する。一例として、検体ステージ7に配置された検体ウェル8に入っているサンプル溶液を、図2においてX方向がライン60上でありY方向がライン61〜66上である6個の増幅ウェル34に移動する場合について説明する。まず、穴あけ機構26は穴あけZ軸によりノズル保持部25よりも上方に持っていき、穴あけ機構26が増幅ステージ32等に衝突して動作を阻害することを防ぐ。図2に示すように、分注先である増幅ウェル34がライン61〜66上に来るように、増幅ステージ32を増幅ユニットY軸31で移動させる。そして、分注ユニットX軸6および分注ユニットZ軸21を駆動させて、ノズル保持部25に装着されたピペットチップの先端を検体ウェル8のサンプル溶液に接触させる。ピペット機構24を動作させ、ピペットチップ内にサンプル溶液を導入させる。サンプル溶液をピペットチップ内に保持した状態で、分注ユニットZ軸21を駆動させてピペットチップを検体ウェル8から抜く。分注ユニットX軸6を駆動させてノズル保持部25をライン60に一致させる。分注ユニットZ軸21でノズル保持部25に装着されたピペットチップの先端を増幅ウェル34に挿入する。ピペット機構24を動作させ、ピペットチップ内のサンプル溶液を増幅ウェル34に排出することで、サンプル溶液と増幅ウェル34に入っていた試薬とが混合される。最後に分注ユニットZ軸21で分注ユニット2を上昇させ、ピペットチップを増幅プレート33から引き抜いて分注動作が完了する。
【0028】
ここで、増幅プレート33およびハイブリダイゼーションプレート43に保持された試薬・洗浄液について説明する。図2におけるライン61上と図3におけるライン71上の増幅ウェル34およびハイブリダイゼーションウェル44に同一検体(第1の検体)を扱うために必要な試薬・洗浄液が入っている。図2のライン62〜66及び図3のライン72〜76上の増幅ウェル34およびハイブリダイゼーションウェル44にも、ライン61及びライン71と同様に、試薬・洗浄液が入っている。そして、隣り合う2列のラインを形成する各ウェルが同一検体(第2の検体〜第6の検体)を扱うために配置されている。これによって、複数検体(第1〜第6の検体)の同一処理を並行して行うことができる。同一検体に使用する試薬・洗浄液が2列になっているのは、試薬・洗浄液の種類が多数あるからである。試薬・洗浄液を2列にすることで、装置のX方向の長さを抑えることができる。ここでは2列としているが、必要に応じて1列でも、3列以上としても良い。2列目を使用する時は、図2の状態から図3の状態になるように、増幅ウェル34またはハイブリダイゼーションウェル44のピッチ分だけ増幅ステージ32またはハイブリダイゼーションステージ42をY方向に移動させれば良い。
【0029】
以上で説明したピペットチップ装着・ピペットチップ取り外し・穴あけ・分注の動作を行いながら、増幅・精製・ハイブリの各工程を進めていく。これより、工程の順序に従って、図1乃至3を用いて装置の動作について説明する。
【0030】
まず、サンプル溶液を入れた検体ウェル8を検体ステージ7上に配置する。使用する増幅プレート33、ピペットチップケース35、ハイブリダイゼーションプレート43、カセット50をDNA検査装置1上にセットする。ここでDNA検査装置1をスタートさせることで、DNA検査工程が開始される。
【0031】
最初にノズル保持部25にピペットチップ36を装着させる。この後、1stPCR試薬が入った増幅ウェル34の上面に穴をあけ、サンプル溶液を検体ウェル8から1stPCR試薬が入った増幅ウェル34に分注ユニット2で移動させる。1stPCR試薬とサンプル溶液を混合したら、温度制御手段(不図示)で混合溶液の入った増幅ウェル34に温度サイクルをかける。これにより1stPCRが進行する。
【0032】
1stPCR終了後、精製工程は標的核酸以外の不純物を取り除く精製工程に入る。標的核酸が特異的に吸着する磁性粒子を増幅ウェル34に入れておく。1stPCR産物を磁性粒子が入った増幅ウェル34に移して標的核酸を磁性粒子に吸着させる。磁力発生手段(不図示)によって磁性粒子を増幅ウェル34の底面に固定し、ウェル内の溶液を分注ユニット2で取り除く。さらに、磁性粒子を複数の洗浄液で数回洗浄する。洗浄液を磁性粒子が入った増幅ウェル34に分注ユニット2で移動させ、磁力を印加しない状態で混合する。磁性粒子を磁力発生手段(不図示)によって増幅ウェル34の底面に固定し、使用した洗浄液を分注ユニット2で取り除く。
【0033】
磁性粒子の洗浄が終わったら標的核酸を取り出す。ここで不純物が混入していると、判定に悪影響を及ぼしてしまう。これまで使用していたピペットチップを使い続けると、ピペットチップに付着した不純物が混入してしまう可能性がある。よって、精製工程において、ピペットチップを交換することが好ましい。ピペットチップの交換は、ピペットチップケース35の空いている収納部にピペットチップを返却し、まだ未使用のピペットチップ36をノズル保持部25に装着すればよい。
【0034】
新しいピペットチップで磁性粒子の入った増幅ウェル34に溶出液を移動させる。溶出液によって標的核酸の磁性粒子への吸着が外れる。磁力発生手段(不図示)によって磁性粒子を増幅ウェル34の底面に固定し、標的核酸の入った溶液を分注ユニット2で移動させる。これで精製工程が終了する。
【0035】
精製工程が終了した溶液を増幅ウェル34に入っている2ndPCR試薬と混合し、温度調整手段(不図示)で温度サイクルをかける。これにより2ndPCRが進行する。温度サイクルをかけ終わったら増幅工程は終了である。この2ndPCRにより、1ndPCRで標的核酸が増幅されている場合に、これに蛍光標識を付与する。
【0036】
増幅産物を含んだ液体をハイブリダイゼーション試薬の入ったハイブリダイゼーションウェル44に分注ユニット2で移動させる。増幅産物をハイブリダイゼーション試薬と混合したら、その混合液をカセット50に移す。図4(a)にカセットの平面図を、図4(b)にカセットの断面図を示す。カセット50はハウジング51とDNAマイクロアレイ52とからなる。カセット50上面に注入口53があいており、ここから液体溜めチャンバー55へ混合液を分注ユニット2で分注する。注入口53の反対側には吸引口54があり、ここに吸引機構(不図示)を密着させて空気を吸引する。すると、混合液は流路56を通って反応チャンバー57に導入される。これにより、混合液はDNAマイクロアレイ52と接触させることができる。さらに、温度調整手段(不図示)で反応チャンバー57内の混合液の温度を上昇させ、ハイブリダイゼーション反応を進行させる。
【0037】
ハイブリダイゼーション反応が終了したら、吸引口54からさらに空気を引く。すると、混合液が流路58を通り、廃液チャンバー59に移動する。次に、DNAマイクロアレイ52の表面を洗浄する。ハイブリダイゼーションウェル44には数種類の洗浄液が保持されている。これを分注ユニット2でカセット50の液体溜めチャンバー55まで運び、吸引口54から空気を引くことでDNAマイクロアレイ52表面を洗浄液が通過する。洗浄液は廃液チャンバー59に移動し、カセット50外部に漏れることはない。これを数回繰り返すことで、DNAマイクロアレイ52表面が完全に洗浄される。
【0038】
ハイブリダイゼーション反応終了後、ハイブリダイゼーションステージ42下部に配置された検出系40で、標的核酸とDNAマイクロアレイに固定したプローブ核酸との反応の有無やその量を判定する。上述した例のように標的核酸に蛍光標識を付与している場合は、蛍光標識を励起する光をDNAマイクロアレイに照射して、各プローブ固定スポットにおける蛍光あるいは蛍光量を測定する。検出系40が蛍光または蛍光量を検出するものであれば、カセット50は、励起光の照射及び蛍光の測定を可能とする光路を有する構成となっている。こうして得られた蛍光に関するデータに基づいて検体中における標的物質の有無またはその量を求める。ここではハイブリダイゼーションステージ42下部に検出系40を配置しているが、装置内に別途設けられた検査スペースに検出系40を配置し、カセット50を搬送アームで検査スペースまで搬送しても良い。さらには検出系を別の検出装置に配置し、ハイブリダイゼーション反応が終了したカセット50を取り出して検出装置にセットする形態でも良い。
【0039】
以上説明した各動作のすべてあるいは所望とする部分は、装置に装着した、あるいは装置に装着可能な構成を有するコンピュータに予め組み込んだプログラムによって自動的に行うことができる。
【0040】
以上で説明したように、同一検体に使用する増幅ウェル列及びハイブリダイゼーションウェル列のノズル列方向の幅をノズルピッチよりも小さい領域に収めると、この検体を扱うピペットチップがこれらのウェル列に沿って移動する際には、このピペットチップは他の検体用の試薬を保持した他のウェル列の上方を通過することがない。このピペットチップと隣接する他の検体を扱うピペットチップが前者のピペットチップが対象とするウェル列上を通過することもない。ここではノズルピッチが等しい場合について説明したが、ノズルピッチが等しくない時も、同一検体に使用する増幅ウェル列及びハイブリダイゼーションウェル列の幅を最もノズルピッチが狭い幅よりも小さい領域に収めることで同様の効果を得ることができる。
【0041】
このようなピペット動作により、液滴の落下によるコンタミネーションを防止することができる。また、ピペットチップケースをウェル列上に置き、このケースにピペットチップが用意してある状態で、このピペットチップのノズル配列方向における幅をノズルピッチよりも狭い領域に収めておくことで、未使用チップへの汚染の可能性を効果的に排除できる。試薬が多種類必要な場合は、反応ウェルを複数列にすることで装置の大きさを抑えることができる。さらに、同一検体に使用する反応ウェルが固まって配置されているので、ピペットチップの移動距離も少なくでき、分注工程のタクトも短縮することができる。また、複数の反応ユニットには個別の反応ユニット移動手段が備えられているため、複数の反応を並行して行うことが可能であり、DNA自動検査装置の処理能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例に係るDNA自動検査装置の構造を説明する斜視図である。
【図2】本発明の実施例に係るDNA自動検査装置の動作を説明する第一の平面図である。
【図3】本発明の実施例に係るDNA自動検査装置の動作を説明する第二の平面図である。
【図4】本発明の実施例に係るカセットを説明する平面図および断面図である。
【図5】従来例のDNA自動検査装置の構造を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 DNA自動検査装置
2 分注ユニット
3 増幅ユニット
4 ハイブリダイゼーションユニット
5 基台
6 分注ユニットX軸
21 分注ユニットZ軸
22 筐体
23 穴あけZ軸
24 ピペット機構
25 ノズル保持部
26 穴あけ機構
31 増幅ユニットY軸
32 増幅ステージ
33 増幅プレート
34 増幅ウェル
35 ピペットチップケース
36 ピペットチップ
40 検出系
41 ハイブリダイゼーションユニットY軸
42 ハイブリダイゼーションステージ
43 ハイブリダイゼーションプレート
44 ハイブリダイゼーションウェル
50 カセット
53 注入口
54 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも反応ユニットの設置台の1以上と、前記設置台上に設置された反応ユニットに対する液体の吐出及び吸引を行うためのノズルを移動させるノズル移動手段と、を有する核酸試料処理装置において、
前記ノズル移動手段は、前記ノズルを保持し得るノズル保持部の複数を有し、これらのノズル保持部は直線上に一列に並んで、ノズル列を形成可能としており、前記ノズル保持部は前記ノズル移動手段によって前記ノズル列と垂直な方向に移動可能であり、
前記設置台と前記ノズル保持部とを前記ノズル列と一致した方向に相対的に移動させる相対移動手段を備え、
前記反応ユニットには、前記設置台に設置された状態で、前記ノズル列と直交する直線上に配置し得る反応領域列の2以上を有し、各反応領域列を構成する複数の反応領域は、同一検体に使用されるものであり、
前記相対移動手段によって、各反応領域が前記ノズル保持部に保持された所定のノズルと対応する位置に配置可能であり、かつ
前記反応領域の列の幅が、前記ノズル列のノズルピッチよりも狭い
ことを特徴とする核酸試料処理装置。
【請求項2】
前記反応ユニットは、標的核酸の増幅反応ユニット、ハイブリダイゼーション反応ユニット及び検出ユニットを有する請求項1に記載の核酸試料処理装置。
【請求項3】
前記検出ユニットは、標的核酸検出用の核酸マイクロアレイを備えたカセットを有しており、前記カセットが前記反応領域列ごとに配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の核酸試料処理装置。
【請求項4】
前記ノズルがピペットチップであり、前記ノズル保持部は該ピペットチップの着脱を可能とする機構を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の核酸試料処理装置。
【請求項5】
前記ピペットチップを収納するピペットチップ収納手段を備える請求項4に記載の核酸試料処理装置。
【請求項6】
前記ピペットチップ収納手段は前記設置台、前記反応ユニット及び前記検出ユニットの少なくとも1つに備えられている請求項4または5に記載の核酸試料処理装置。
【請求項7】
前記ピペットチップ収納手段は前記ノズル保持部に対応する位置に前記ピペットチップを保持しており、前記ノズル移動手段で前記ノズル保持部を前記ピペットチップに勘合させる位置に移動させることで前記ノズル保持部に前記ピペットチップを装着可能とする請求項4乃至6のいずれかに記載の核酸試料処理装置。
【請求項8】
前記同一検体に使用される反応領域列中に前記ピペットチップ収納領域が配置されており、該ピペットチップ収納領域にピペットチップが配置された状態で、その前記ノズル列方向での幅が前記ノズルピッチよりも狭い領域に収まっている請求項7に記載の核酸試料処理装置。
【請求項9】
前記反応領域はウェルからなり、プレート上に多数のウェルが格子状に配置されて前記反応領域列の複数を形成している請求項1乃至8のいずれかに記載の核酸試料処理装置。
【請求項10】
前記ウェルは、検査操作開始前は、不純物の混入を防ぐための保護シートで覆われている請求項9に記載の核酸試料処理装置。
【請求項11】
前記保護シートを開封するための開封機構が備えられている請求項10に記載の核酸試料処理装置。
【請求項12】
前記開封機構は前記ノズル移動手段に備えられ、かつ、前記保護シートの前記ノズル保持部に保持されたノズルが配置される位置に穴を開ける穴あけ機構である請求項11に記載の核酸試料処理装置。
【請求項13】
前記穴あけ機構は前記ノズル列方向において前記ノズル保持部との位置が一致している請求項12に記載の核酸試料処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−101364(P2007−101364A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291770(P2005−291770)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】