説明

栽培容器および連作方法

【課題】施用が容易であるとともに環境へ大きな負荷をかけることなく連作障害を防止することが可能な栽培容器ならびに連作方法を提供する。
【解決手段】栽培容器本体10と、栽培容器本体10に設けられ、この栽培容器本体10内を加温する面状発熱体20とを備えた栽培容器1を用いることにより、面状発熱体20によって栽培容器本体10内の土壌を加温するだけで、土壌中に前作の植物Aの切れた根や毛根Bが残っていても、この切れた根や毛根Bを根絶させることができ、植物自身の根から分泌される生育阻害物質による連作障害を防止することができる。また、面状発熱体20によって栽培容器本体10内の土壌を加温するだけで、切れた根や毛根Bに付着する植物の病原菌や栽培容器本体10内に生息する植物の病原菌を死滅させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の連作障害を防止するための栽培容器および連作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌に同種または近縁の作物を連続して栽培すると、徐々に生育が悪くなり、収量の低下や病害の発生を招く連作障害が生じることが知られている。連作障害は、土壌に生息している様々な微生物のうち土壌病害菌の割合が増加すること、植物自身の根から分泌される生育阻害物質によるもの、土壌の物理性・化学性の悪化による生理障害などが要因であるとされている。
【0003】
そこで、これまでに連作障害を防止するための様々な方法が知られている。たとえば、農薬を使用して土壌病害菌を殺菌したり、土壌を透明のビニールシートなどで覆い、太陽光に2週間程度当てることで土壌の温度を上げて土壌病害菌を殺菌したりする方法がある。また、土壌中に生息する微生物の数の調和を図るため、大量の有機物を土壌に施用したり、有用微生物を施用したりする方法もある(例えば、特許文献1,2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−95382号公報
【特許文献2】特開2006−219387号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
農薬の使用による土壌の消毒に関しては、病害菌に対する効果は認められているが、実際に発生する病害菌の種類・程度がその都度異なるため、使用する薬剤の種類、施用条件を決めることが難しいとともに、環境に対する悪影響が生じやすい。一方、太陽光による土壌の改良や有機物、有用微生物の施用は、環境に対する負荷が少ない反面、天候や環境に左右されやすいため、思うような効果を得られないのが実情である。
そこで本発明は、施用が容易であるとともに環境へ大きな負荷をかけることなく連作障害を防止することが可能な栽培容器ならびに連作方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の栽培容器は、栽培容器本体と、栽培容器本体に設けられ、この栽培容器本体内を、栽培容器本体で栽培された植物の残根を根絶可能な温度、または残根に付着するもしくは栽培容器本体内に生息する植物の病原菌を死滅可能な温度まで加温する加温装置とを備えたことを特徴とする。
【0007】
栽培容器本体内に土壌を入れて植物を栽培した後に植物を抜き取り、次の植物を栽培する前に、栽培容器本体に設けられた加温装置で栽培容器本体内を加温する。栽培容器本体内が加温されることで土壌の温度が上がり、土壌中に前作の植物の切れた根や毛根などが残っていても、この残根を根絶させることができる。これにより、植物自身の残根から分泌される生育阻害物質による連作障害を防止することができる。また、土壌の温度が上がることで、残根に付着する病害微生物や栽培容器本体内の土壌に生息する病害微生物を死滅させることができ、連作障害を防止することができる。このように、本発明によれば、天候や環境に左右されることなく、加温装置を作動させるだけで連作障害を防止することができる。
【0008】
加温装置による加温は土壌が50℃以上になるようにすることが望ましい。これにより、栽培容器本体内の土壌に生息するほとんどすべての病害微生物を死滅させることができる。また、本発明において、加温装置による加温は、土壌が50℃以上となるようにすればよく上限は特に設けないが、栽培容器本体の変形や加温装置自体の故障などが発生しない程度の温度範囲となるように適宜設定することができる。
【0009】
加温装置としては、面状発熱体を用いるとよい。面状発熱体を用いることにより、栽培容器本体内の底面や内側側面に敷いたり貼り付けたりすることができ、施用が容易であるとともに、栽培容器本体内を効率よく加温することができる。用いる面状発熱体としては従来公知のものを使用することができるが、PTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有する面状発熱体を用いる方が望ましい。PTC面状発熱体は均一な温度分布を示すので、栽培容器本体内をムラなく全体的に加温することができる。
【0010】
本発明の連作方法は、植物を栽培した後に、栽培容器本体内に設けられた加温装置により栽培容器本体内を加温して、植物の残根を根絶させるとともに、残根に付着するもしくは栽培容器本体内に生息する植物の病原菌を死滅させる工程を含むことを特徴とする。
【0011】
上記工程を含むことにより、植物を連作しても収量の低下や病害の発生を防ぐことができ、植物を連続して栽培しても安定した収穫を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、栽培容器本体と、栽培容器本体に設けられ、栽培容器本体内を、栽培容器本体で栽培された植物の残根を根絶可能な温度、または残根に付着するもしくは当該栽培容器本体内に生息する植物の病原菌を死滅可能な温度まで加温する加温装置とを備えることにより、加温装置を加温するだけで栽培容器本体内に生息する植物の病原菌を死滅させることができるので、施用が容易であるとともに環境へ大きな負荷をかけることなく、植物の連作障害を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、本実施の形態における栽培容器の斜視図である。図2は、図1の断面図である。
【0014】
図1および図2に示すように、本実施の形態における栽培容器1は、栽培容器本体10と、栽培容器本体10内の側面から底面に渡って敷設された面状発熱体20とを備える。栽培容器本体10内に敷設する面状発熱体20は、栽培容器本体10の大きさに合わせて形成された1枚を使用したり、複数枚の面状発熱体20を組み合わせて使用したりしてもよい。また、栽培容器本体10の底面と面状発熱体20との間に、栽培容器1からの汚水の排出を防止するための浄水剤として人工ゼオライトを敷き詰める構成としてもよい。
【0015】
栽培容器本体10は、樹脂製や木製など従来公知のものを使用することができ、また、大きさや深さについても栽培する植物に合わせて適宜選択することができる。面状発熱体20は加温装置として機能するものである。本実施の形態では、PTC特性を有する面状発熱体を使用する。また、本実施の形態では、栽培容器本体10内に入れられる土壌の温度を80℃程度まで上昇させることができるように、面状発熱体20は、約100℃まで発熱できるようになっている。
【0016】
次に、本実施の形態における栽培容器1を用いて植物を連作する方法について説明する。図3は、本実施の形態における栽培容器1を用いて植物を連作する様子を示す図である。
【0017】
本実施の形態における栽培容器1を用いて植物を栽培する際には、まず、図3(a)に示すように、栽培容器本体10内の面状発熱体20上に、植物の栽培に必要な栄養素を施肥した土を入れ、所望とする植物の種または苗を植える。そして、面状発熱体20を作動させ、土壌の温度が10〜20℃に保たれるように加温する。このように、本実施の形態においては、加温装置である面状発熱体20を植物の栽培時においても作動させることにより、土壌を一定の温度に保つ保温装置として機能させることができ、特に寒冷時における植物の成長促進に寄与することができる。
【0018】
植物Aが一定の大きさに成長したら土壌から引き抜いて収穫する。ここで、収穫後の土壌には、図3(b)に示すように前作の植物Aの切れた根や毛根Bが残っていたり、土壌病害菌が発生していたりすることがある。この場合、根Bから分泌される生育阻害物質によって、次に栽培される植物の成長が悪くなって収量が低下したり、切れた根や毛根Bに付着する土壌病害菌や栽培容器本体10内生息する土壌病害菌によって植物が病気になったりする恐れがある。そこで、次の植物を植える前に、面状発熱体20の温度を調整して、土壌の温度が50〜80℃程度まで上昇するまで加温する。このようにすることで、土壌内の切れた根や毛根Bを根絶させ、また、土壌病害菌を死滅させて、土壌を殺菌することができる。
【0019】
栽培容器本体10内の土壌を殺菌した後、土壌に次作の植物の栽培に必要な栄養素を施肥し、図3(c)に示すように、種Cや苗Dを植え、上述した方法と同様に植物を栽培する。
【0020】
このように、本実施の形態では、面状発熱体20を作動させることによって、植物を収穫した後の土壌を50℃以上に加温し、次作の植物を栽培する前に土壌を一度殺菌する。これにより、植物を連続して栽培しても、収量の低下や病気の発生を防止することができ、安定した収穫を行うことができる。本実施の形態では、栽培容器本体10内に敷設された面状発熱体20を作動させるだけでよく、連作障害を防止するために従来行われてきた太陽光や農薬を使用する必要がない。従って、本実施の形態によれば、天候や環境に左右されたり環境に大きな負荷をかけたりすることなく、容易に連作障害を防止することができる。
【0021】
なお、本実施の形態においては、面状発熱体20は、栽培容器本体10内の全体に渡って敷設されていたが、これに限らず、栽培容器本体10の土壌全体を上記所定の温度まで上昇させることができれば、部分的に敷設してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、植物の連作障害を防止するための栽培容器および連作方法として用いられる。特に、本発明は、施用が容易であるとともに環境へ大きな負荷をかけることなく連作障害を防止することが可能な栽培容器ならびに連作方法として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施の形態における栽培容器の斜視図である。
【図2】図1の断面図である。
【図3】本実施の形態における栽培容器1を用いて植物を連作する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 栽培容器
10 栽培容器本体
20 面状発熱体
30 土壌
A 植物
B 切れた根や毛根
C 種
D 苗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培容器本体と、
前記栽培容器本体に設けられ、当該栽培容器本体内を、当該栽培容器本体で栽培された植物の残根を根絶可能な温度、または前記残根に付着するもしくは当該栽培容器本体内に生息する植物の病害菌を死滅可能な温度まで加温する加温装置と
を備えた栽培容器。
【請求項2】
前記温度は、50℃以上である請求項1記載の栽培容器。
【請求項3】
前記加温装置は面状発熱体である請求項1または2記載の栽培容器。
【請求項4】
植物を栽培した後に、栽培容器本体内に設けられた加温装置により前記栽培容器本体内を加温して、前記植物の残根を根絶させるとともに、前記残根に付着するもしくは当該栽培容器本体内に生息する植物の病原菌を死滅させる工程
を含む連作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−57365(P2010−57365A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−356327(P2006−356327)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(506254156)
【Fターム(参考)】