説明

桁のプレストレス導入工法

【課題】桁部材の本数を及び桁高の低減化を図り、施工コストを低減させるとともに、桁高制限に容易に対応させることができる桁のプレストレス導入工法を提供する。
【解決手段】桁1に一次プレストレスとして、桁1の下縁側に、オーバープレストレスとなるような一次プレストレスを導入し、桁1の上縁側には、前記一次PC鋼材5により導入したオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレスが導入され、桁1に床版6を載荷した後、活荷重載荷前に、桁1の上縁に導入した二次プレストレスを解放することを特徴とする桁のプレストレス導入工法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁等に架設されるコンクリート製等の桁にプレストレスを導入する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の橋梁においては、橋脚間に架設される桁部材の本数を低減させた場合、桁部材一本当りに掛かる載荷荷重が増加するため、桁部材に圧縮応力(圧縮ひずみ)を導入する緊張部材(PC鋼材)の本数を増やすとともに、桁断面性能を向上させることにより対応している。
【0003】
例えば、図5(a)(b)に示すように、桁部材1を、ウェブ部2の上下のそれぞれ上縁フランジ部3と下縁フランジ部4とが一体の断面I型に形成した桁部材1の場合、図5(c)に示すように、プレストレス導入前においては、桁部材1の自重による曲げモーメントM1が掛かっている。
【0004】
このような桁部材1にプレストレスを導入する場合、従来では、図6(a)に示すように、下縁フランジ部4内に複数本のPC鋼材5を配置して、図6(b)に点線で示すようなプレストレス(圧縮応力)を付与することにより、図5(c)に示すプレストレス導入前の自重による曲げモーメントM1に、図6(c)に示すような曲げモーメントM2を導入し、図6(d)に示すような合成曲げモーメントM3を得た後、図7(a)に示すように、上縁フランジ部3上に、床版6が載荷された際には、床版荷重による曲げモーメントM4を受けて、図6(c)に示す合成曲げモーメントM3に、床版荷重による曲げモーメントM4を加えて、図7(d)に示すような合成曲げモーメントM5を得ている。
【特許文献1】特開平05−79016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した桁部材1へのプレストレス導入工法では、一次鋼材のみにより桁部材にプレストレスを導入すると、桁上縁に作用する引張応力度の許容値限界までしかプレストレスを導入できないため、引張応力度の許容値限界までのプレストレスの導入として、その後場所打ち床版またはプレキャストコンクリート床版を施工するようになり、桁の撓み量を含めた桁高が大きくなるという問題があり、桁高制限や桁自重増加による運搬等に支承がない場合には、桁高を大きくして桁断面性能を向上させることにより対応可能であるが、しかし、桁高制限や桁自重増加による運搬等に支承がある場合、PC鋼材5の本数を増やすことにより、桁断面性能も上げる必要があるため、桁高を高くしなければならない。桁高を高くすると、桁自重が増加し、工場製作では対応できなくなり、現場で製作ヤードを確保しなければならない。また、桁高制限のある施工場所では、桁高を高くすることができないため、施工作業が非常に困難になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑み、桁部材の本数を及び桁高の低減化を図り、施工コストを低減させるとともに、桁高制限に容易に対応させることができる桁のプレストレス導入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の桁のプレストレス導入工法においては、桁に一次プレストレスとして、桁の下縁側に、オーバープレストレスとなるような一次プレストレスを導入し、桁の上縁側には、前記一次プレストレスにより導入したオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレスが導入され、桁に床版を載荷した後、活荷重載荷前に、桁の上縁側に導入した二次プレストレスを解放することを特徴とする
【0008】
また、第2発明では、第1発明の桁のプレストレス導入工法において、一次プレストレス用のPC鋼材を桁下縁に配置し、二次プレストレス用のPC鋼材を桁上縁に配置したことを特徴とする
【0009】
また、第3発明では、第1または第2発明の桁のプレストレス導入工法において、桁の上縁に導入した二次プレストレスは、少なくとも床版を桁に設置した場合に、桁の上縁側に加えられるストレスを越えるようにされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、桁下縁に配置される一次PC鋼材により、桁にオーバープレストレスとなるような一次プレストレスを導入し、桁上縁に配置される二次PC鋼材により、桁に導入したオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレスを導入し、桁上縁上に桁に床版を載荷した後、活荷重載荷前に、二次プレストレスを解放させるようにするとともに、一次PC鋼材により、桁下縁に掛かる圧縮応力の許容値限度までストレスを導入することが可能であるため、桁高を高くすることなく、効率よく桁にプレストレスを導入することができると共に、桁の断面性能を格段に向上させることができ、このような断面性能が向上した桁を使用すると少ない桁本数で床版を支持できるため、従来の場合よりも、必要桁部材の本数を減らすことができるため、施工性及び経済性の向上を図ることができる。
そのため、例えば、プレストレストコンクリート合成床版橋に本発明を適用した場合には、桁高を大きくすることなくプレストレスを効率的に導入したプレストレスコンクリート桁部材を組み込んで、従来では、例えば5本必要とされる桁部材を3本にすることも可能になり、経済的な床版橋を構築することができると共に、桁架設本数が少なくなる分、床版橋の施工性を高めることができる。
また、桁の上縁に導入した二次プレストレスは、少なくとも床版を桁に設置した場合に、桁の上縁側に加えられるストレスを越えるようにされているので、少なくとも床版荷重等の死荷重による上縁側に加えられるストレスが一時的に生じても、二次プレストレスが後に開放されて、ほぼ相殺されるので、桁上縁側の負担を軽減でき、桁高方向全体に渡って有効に桁を使用した合理的で経済的な桁とすることができ、桁高の小さい小型で経済的な桁とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態において、図5から図7に示す従来工法と、構成が重複する部分は同一符号を用いて説明する。
【0012】
本実施形態における桁のプレストレス導入工法に用いる桁としては、例えば、図1(a)(b)に示すように、橋梁等の桁部材1を、ウェブ部2の上下にそれぞれ上縁フランジ部3と下縁フランジ部4とを一体とされた断面I型あるいはH型に形成する。なお、桁部材1の断面形状としては、前記以外の矩形等の断面形状であってもよい。前記のような桁部材1の場合、桁部材1には、図1(c)に示すように、プレストレス導入前には、桁部材1の自重による曲げモーメントM1が掛かっている。
【0013】
前記桁部材1にプレストレスを導入する場合、まず、図2(a)に示すように、桁部材1の下縁フランジ部4の長手方向の挿通内に複数本のPC鋼材5を配置して、各PC鋼材5を桁部材1の両端部で緊張定着することにより、桁部材1にオーバープレストレスとなるような一次プレストレスを導入する。このとき、下縁フランジ部4に掛かる圧縮応力の許容値限度またはその近くまで一次プレストレスを導入する。
本発明における前記のオーバープレストレスとなるような1次プレストレスとは、桁部材1の桁高との関係で定義され、桁高は設計荷重が作用する状態で許容値(許容圧縮応力)を満足するように設定されるが、1次プレストレスを導入した時点で許容値(許容圧縮応力)を満足しない状態まで桁高を低くしていく場合に、前記許容値に対応するプレストレスと、これを越えて、許容値を満足しない越えた部分のプレストレスとを含めた全体のプレストレスを言う。
例えば、オーバープレストレスとして、桁の桁下縁に掛かる圧縮応力の許容値限度までストレスを導入するのが、オーバープレストレスのなかでも、最大値であり、実際は、その最大値よりも若干小さい値までの範囲で、適宜設定される。
前記のオーバープレストレスを桁下縁側に導入することにより、桁部材1には、図2(b)に点線で示す状態から実線で示す上に凸に変形するような応力が付与され、これにより、図1(c)に示すプレストレス導入前の桁自重による曲げモーメントM1に、図2(c)に示すようなオーバープレストレスによる曲げモーメントM6が導入され、図2(d)に示すような合成曲げモーメントM7を得ることができる。
なお、前記のように桁部材1の下縁側にオーバープレストレスを導入するために、例えば図8に示すように、桁高を低減した状態あるいは桁高を変えないで、桁部材1の下縁側にPC鋼材5を配置可能にするためには、桁部材1の下縁側に下縁フランジ部4あるいは下縁フランジ4とウェブ部2との隅部にハンチ8を設けることで、断面積を増やして断面性能を高めると共に、PC鋼材の配置の自由度を高め、PC鋼材挿通孔を増やして、下縁側に、より多くのPC鋼材を配置可能にしておくのが好ましい。
【0014】
次いで、桁部材1の上縁フランジ部3の長手方向の複数のPC鋼材挿通孔内には、図3(a)に示すように、複数本のPC鋼材7が挿通配置され、これらPC鋼材7を桁部材1の両端部で緊張定着することにより、下縁フランジ部4内に配置したPC鋼材5によるオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレスを導入する。前記の二次プレストレスの量は、桁部材1に、後に載荷される死荷重(少なくとも床版荷重等)による桁部材1に作用する曲げモーメントに置き換わるため、これらを考慮して設定される。
このとき、桁部材1は、図3(b)に点線で示すような下向きの圧縮応力となり、図3(c)に示すように、図2(c)に示すオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレス導入による曲げモーメントM8が付与されて、図3(d)に示すような合成曲げモーメントM9を得ることができる。
【0015】
図3(d)に示す状態では、桁部材1の曲げ変形が小さい状態であるので、この状態で、図4(a)に示すように、桁部材1の上縁上に床版6を配置すると、図4(c)に示すように、図3(c)に示す曲げモーメントM9に、床版6による曲げモーメントが加わり、図4(d)に示す合成曲げモーメントM10を得ることができる。
【0016】
次いで、上縁フランジ部3内のPC鋼材7の緊張を取り除くことにより、前記二次プレストレスを解放させ、この二次プレストレスの解放により、図4(e)に点線で示すM11分が開放されてように、桁部材1の曲げモーメントは、桁自重と、一次プレストレスと、床版6等の載荷荷重となり、図4(b)に示すように、圧縮応力が解放されるとともに、図4(f)に示す曲げモーメントM12に示すように、図7(d)で示す従来の合成曲げモーメントと比較して、大きな合成曲げモーメントM12を桁部材1に効率よく負担させている。
前記のように二次プレストレスの開放時は、桁部材1に少なくとも床版6を載荷した後、活荷重載荷前である。このようにすることにより、少なくとも死荷重のうちの床版6の荷重を効率よく桁部材1により負担することができる。前記の床版6の荷重以外の死荷重を載荷した後、活荷重載荷前でもよい。
【0017】
前記のように、桁部材1に効率よくプレストレスを導入すると、従来のプレキャストコンクリート床版橋9の設計においては、図9(a)に示すように、プレストレストコンクリート桁部材1aを5本必要とするところ、図9(b)に示すように、プレキャストコンクリート製等の桁部材1を3本程度に少なくすることができ、桁部材1の設置本数を低減できるため、橋梁等を短工期で安価に構築することができる。
【0018】
なお、実際にプレストレスを導入する施工手順については、最初に桁部材1における全てのPC鋼材5を緊張定着して一次プレストレスを全て導入してしまうと、桁部材1の上縁側に許容値を越える引張応力が発生する恐れがあるため、これを避けるために、一次プレストレスの一部を導入するか、桁部材1の上縁側に配置のPC鋼材7により二次プレストレスを導入してから、桁部材1の下縁側のPC鋼材5を利用して、一次プレストレスを導入するような下記の施工手順1または2のようにするとよい。
【0019】
<施工手順の第1例>
(1)一次プレストレスとして、桁部材1の下縁側に配置の複数のPC鋼材5の一部を利用してこれらを緊張定着して、桁部材1の下縁の圧縮応力度の許容値または上縁の引張応力度の許容値まで、桁部材1の下縁側にストレスを導入する。
(2)その後、二次プレストレスとして、桁部材1の上縁側に配置の全てのPC鋼材7を緊張定着して、桁部材1の上縁側にストレスを導入する。
(3)その後、下縁側に配置の緊張定着されていない残りのPC鋼材5を緊張定着して、残りの一次プレストレスを導入する。
(4)桁部材1に床版6を架設して床版部を形成する。
(5)活荷重が載荷される前に、前記桁部材1の上縁側に緊張定着されている全てのPC鋼材7の緊張を開放して、二次プレストレスを開放する。
【0020】
<施工手順の第2例>
(1)最初に、桁部材1の上縁側に配置の全てのPC鋼材7を緊張定着して、桁部材1に二次プレストレスを導入する。但し、この時の二次プレストレスは一次プレストレスよりも緊張力が小さいため、桁部材1の上縁側および下縁側共に応力が許容値を越えることはない。
(2)次に、一次プレストレスとして、桁部材1の下縁側に配置の複数のPC鋼材5の全てを利用してこれらを緊張定着して、桁部材1にストレスを導入する。
(3)桁部材1に床版6を架設して床版部を形成する。
(4)活荷重が載荷される前に、前記桁部材1の上縁側に緊張定着されている全てのPC鋼材7の緊張を開放して、二次プレストレスを開放する。
【0021】
本発明を実施する場合、桁部材の断面形状としては、I型またはH型の断面形態以外にも、矩形等の適宜の断面形態であってもよく、鋼・コンクリートの合成構造の桁部材であってもよい。
【0022】
本発明を実施する場合、二次プレストレスを導入するための二次PC鋼材7の緊張を開放した後、前記PC鋼材7とPC鋼材挿通孔との間に、接着剤等の充填剤を充填して、二次PC鋼材7と桁部材1を一体化し、桁部材1の終局耐力を高めるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る桁のプレストレス導入工法の一実施形態を示し、(a)は桁部材の正面図、(b)はその側面図、(c)は桁自重による曲げモーメント図である。
【図2】(a)は桁部材の桁下縁側に一次プレストレスを導入した状態を示す正面図、(b)は側面図、(c)は桁自重による曲げモーメントに一次プレストレスを導入した際の曲げモーメント図、(d)は桁自重による曲げモーメントに一次プレストレスとの合成曲げモーメント図である。
【図3】(a)は桁部材の桁上縁側に二次プレストレスを導入した状態を示す正面図、図(b)はその側面図、(c)は桁自重による曲げモーメント及び一次プレストレスに二次プレストレスを導入した際の曲げモーメント図、(d)は桁自重による曲げモーメントと一次プレストレスと二次プレストレスとの合成曲げモーメント図である。
【図4】(a)は桁部材の桁上縁に床版を載荷した状態を示す正面図、図(b)は側面図、(c)は床版載荷荷重を受けて桁自重と一次プレストレスと二次プレストレスと床版載荷荷重とによる曲げモーメント図、(d)はその合成曲げモーメント図、(e)は二次プレストレスを解放した際のモーメント図、図(f)は桁自重と一次プレストレスと床版載荷荷重との合成曲げモーメント図である。
【図5】従来の橋梁におけるプレストレス導入工法を示し、(a)は桁部材の正面図、(b)はその側面図、(c)は桁自重による曲げモーメント図である。
【図6】(a)は桁部材の桁下縁側に一次プレストレスを導入した状態を示す正面図、(b)はその側面図、(c)は桁自重による曲げモーメントに一次プレストレスを導入した際のモーメント図、(d)は桁自重による曲げモーメントと一次プレストレスとの合成曲げモーメント図である。
【図7】(a)は桁部材の桁上縁上に床版を載荷した状態を示す正面図、(b)はその側面図、図(c)は桁自重による曲げモーメント及び一次プレストレスに床版載荷荷重を受けた際のモーメント図、(d)は床版載荷荷重と桁自重による曲げモーメントと一次プレストレスとの合成曲げモーメント図である。
【図8】本発明において使用される桁部材の一形態を示す正面図である。
【図9】本発明の桁のプレストレス導入工法を採用した場合と、従来の場合と比較した縦断正面図であり、(a)は従来の場合の縦断正面図、(b)は本発明の場合縦断正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 桁部材
2 ウェブ部
3 桁上縁フランジ部
4 桁下縁フランジ部
5 PC鋼材
6 床版
7 PC鋼材
8 ハンチ部
9 床版橋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁に一次プレストレスとして、桁の下縁側に、オーバープレストレスとなるような一次プレストレスを導入し、桁の上縁側には、前記一次プレストレスにより導入したオーバープレストレスによる桁の上縁側に生じる引張力を打ち消すような二次プレストレスが導入され、桁に床版を載荷した後、活荷重載荷前に、桁の上縁側に導入した二次プレストレスを解放することを特徴とする桁のプレストレス導入工法。
【請求項2】
一次プレストレス用のPC鋼材を桁下縁に配置し、二次プレストレス用のPC鋼材を桁上縁に配置したことを特徴とする請求項1に記載の桁のプレストレス導入工法。
【請求項3】
桁の上縁に導入した二次プレストレスは、少なくとも床版を桁に設置した場合に、桁の上縁側に加えられるストレスを越えるようにされていることを特徴とする請求項1または2に記載の桁のプレストレス導入工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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