説明

桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体、紫外線吸収剤及び皮膚外用剤

【課題】 水溶性が高く、優れた紫外線吸収能を有し、可視領域には吸収がなく、しかも安全性の高い紫外線吸収剤として有用な新規な化合物を提供する。
【解決手段】 下記式(1)
【化1】


(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子又はメトキシ基を示す。GLはグリセリン由来の構成単位を示す。nはグリセリンの平均量体数を表し、3〜40である)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体。本発明の紫外線吸収剤は上記の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体、該桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有する紫外線吸収剤、紫外線吸収性組成物及び皮膚外用剤、並びに前記皮膚外用剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光に含まれる紫外線のうち、290nm以下の波長の紫外線はオゾン層によって吸収され、地表に到達しないが、290nm〜400nmの紫外線は地表に到達し、様々な影響を及ぼす。皮膚化学的には、290nm〜320nmの中波長紫外線は紅斑や水泡の形成、メラニン形成亢進、色素沈着等を引き起こすことが知られている。また、320nm〜400nmの長波長紫外線は照射直後に皮膚を黒化させる即時黒化作用を有し、また、そのエネルギーが真皮にまで達するため、血管壁や結合組織中の弾性繊維にも影響を及ぼすとされる。これらの中〜長波長紫外線の作用は、皮膚の老化を促進し、しみ、そばかす、しわ等の形成の一因であると考えられている。
【0003】
従来、このような紫外線から皮膚を保護するために、ベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾフェノン誘導体、サリチル酸誘導体、パラアミノ安息香酸誘導体、桂皮酸誘導体、ウロカニン酸誘導体等の紫外線吸収剤が利用されてきた。しかしながら、これらの紫外線吸収剤は一般に油溶性であり、水性ベースの製品に配合することはできなかった。最近では夏の水浴や冬のスキー場などでの使用に限らず、日常生活においても紫外線防御が重要と考えられており、通常のスキンケア化粧品でも紫外線防止効果のあるものが望まれている。従って、化粧水等の水系のスキンケア化粧品にも十分量配合できる水溶性紫外線吸収剤の開発が望まれている。
【0004】
また、紫外線吸収剤としては、皮膚外用剤に配合する場合には、皮膚刺激性がないことはもちろん、日光曝露によって紫外線吸収剤が分解されないことも重要である。
【0005】
これまで水溶性紫外線吸収剤はほとんどなく、現在使用されているものとしては2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウムが知られている。しかし、本物質はスルホン酸塩であるために配合系のpHに影響を与え、また、配合系のpHにより紫外線吸収領域が変化する問題があった。また、本物質は水溶性ではあるものの、その溶解度は25℃で約6%に過ぎず、製品中に高濃度に配合すると低温で析出するという問題があった。さらに、本物質は可視光領域においても吸収を有するので、淡黄色に着色しており、製品の色調に影響を与えるという欠点があった。
【0006】
また、紫外線吸収剤として、2−デオキシヘキソース残基を有するp−アミノ安息香酸アミド誘導体(特許文献1)や、2−デオキシヘキソース残基を有する桂皮酸アミド(特許文献2)、桂皮酸グリセリド誘導体(特許文献3)が、それぞれ文献に開示されているが、水への溶解性が低く不十分であり、必ずしも満足できるものではない。従って、紫外線吸収能、水への溶解性、基剤への配合時の安定性、使用性、安全性等の更なる向上が望まれていた。
【0007】
一方、紫外線吸収剤は、医薬品や化粧料以外の分野でも使用されている。例えば、塗料、染料、顔料、各種樹脂、合成ゴム、ラテックス、フィルム、繊維等の各種材料に添加して紫外線吸収能を付与し、製品自体を、あるいはその塗膜やフィルムで被覆された製品を紫外線から保護し、紫外線による劣化、変質等を防止して、品質を維持するために用いられている。しかし、従来の紫外線吸収剤では、塗膜の焼き付け時や樹脂の成型時等に加熱によって昇華して揮散したり、加熱しなくとも経時的に徐々に揮散して効果が低下するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−120698号公報
【特許文献2】特開2002−363195号公報
【特許文献3】国際公開第1992/019592号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記従来技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、一つには、水溶性が高く、優れた紫外線吸収能を有し、可視領域には吸収がなく、しかも安全性の高い紫外線吸収剤として有用な新規な化合物を提供することであり、また一つにはこの新規な化合物を含む紫外線吸収剤、紫外線吸収性組成物及び皮膚外用剤、並びに該皮膚外用剤を使用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、特定構造の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体が上記のような性質を備えており、水溶性が高く、優れた紫外線吸収能を有し、可視領域に吸収が無く、しかも安全性に優れており、水溶性紫外線吸収剤として優れたものであることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子又はメトキシ基を示す。GLはグリセリン由来の構成単位を示す。nはグリセリンの平均量体数を表し、3〜40である)
で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を提供する。
【0012】
本発明は、また、前記の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする紫外線吸収剤を提供する。
【0013】
本発明は、さらに、前記の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする紫外線吸収性組成物を提供する。
【0014】
本発明は、さらにまた、前記の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする皮膚外用剤を提供する。この皮膚外用剤は、さらに、無機粉体を含有していてもよい。
【0015】
本発明は、また、前記の皮膚外用剤を人体の皮膚に適用する方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は極めて水溶性が高く、水性ベースの製品に配合することが可能であり、また、非常に優れた紫外線吸収能を有し、安全性、安定性も高い。よって、これを配合することにより、紫外線防止効果が高く、安全性についても良好な皮膚外用剤等の紫外線吸収性組成物が得られる。また、該桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は可視部に吸収を持たないので、製品の着色という問題も生じない。さらに、加熱等による揮散性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの紫外線吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体]
本発明の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体(桂皮酸ポリグリセリンエステルも含む)は前記式(1)で表される。式(1)中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子又はメトキシ基を示す。GLはグリセリン由来の構成単位を示す。nはグリセリンの平均量体数(平均重合度)を表し、3〜40である。グリセリンの平均量体数nは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)等で測定できる。なお、式(1)は便宜上、一方の幾何異性体(トランス体)を示しているが、他方の幾何異性体(シス体)又はこれらの混合物を包含するものである。
【0019】
前記GLは、下記式(2)〜(4)で示されるいずれの構造であってもよい。
−CH2−CHOH−CH2O− (2)
−CH(CH2OH)−CH2O− (3)
−CH2−CH(CH2OH)−O− (4)
【0020】
1分子中に含まれる複数個のGLは、同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。nとしては、好ましくは3.2〜30、さらに好ましくは3.5〜10である。
【0021】
式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体の具体例として、桂皮酸ポリグリセリンエステル(R1:水素原子、R2:水素原子、R3:水素原子)、3,4,5−トリメトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステル(R1:メトキシ基、R2:メトキシ基、R3:メトキシ基)、3,4−ジメトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステル(R1:水素原子、R2:メトキシ基、R3:メトキシ基)、4−メトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステル(R1:水素原子、R2:メトキシ基、R3:水素原子)等が挙げられる。
【0022】
本発明の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は、例えば、下記式(5)
【化2】

(式中、R1、R2、R3は前記に同じ)
で表される化合物(桂皮酸類)にグリシドールを反応させることにより得ることができる。
【0023】
式(5)で表される化合物は公知の方法により合成してもよいが、東京化成工業(株)、和光純薬工業(株)等の市販品を用いることができる。式(5)で表される化合物の具体例として、桂皮酸、3,4,5−トリメトキシ桂皮酸、3,4−ジメトキシ桂皮酸、4−メトキシ桂皮酸等が挙げられる。
【0024】
式(5)で表される化合物とグリシドールとの反応は、溶媒の存在下又は非存在下、好ましくは触媒の存在下で行われる。溶媒としては、反応を阻害しないものであれば特に限定されず、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;水;その他の溶媒;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0025】
前記触媒としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸等の鉱酸;p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のスルホン酸;三フッ化ホウ素エーテラート、無水塩化アルミニウム等のルイス酸などの酸触媒が挙げられる。また、塩基触媒を用いることもできる。これらのなかでも、安全性等の観点から酸触媒が好ましく、特に、目的化合物の収率、選択率の点からリン酸が好ましい。
【0026】
触媒の使用量は、式(5)で表される化合物に対して、例えば、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜2重量%である。
【0027】
グリシドールの使用量は、目的化合物におけるグリセリンの平均量体数nに応じて適宜調整できる。グリシドールの使用量は、例えば、式(5)で表される化合物1モルに対して、3〜40モル、好ましくは3.2〜30モル程度である。反応温度は、例えば、50〜200℃、好ましくは75〜170℃、さらに好ましくは100〜160℃(特に好ましくは110〜150℃)である。
【0028】
反応は、バッチ式、セミバッチ式、連続式等のいずれの方法で行うこともできる。式(5)で表される化合物を含む液中に、グリシドールを滴下して反応させる方法が、反応温度のコントロール、目的物の収率等の点で好ましい。この場合、触媒の存在又は非存在下でグリシドールを滴下して反応させた後、さらに、触媒を滴下しながら前記温度にて熟成を行うと、高い収率及び選択率で目的化合物を得ることができる。
【0029】
反応終了後、必要に応じて、濃縮、抽出、晶析、シリカゲルカラムクロマトグラフィー等の慣用の精製に付すことにより、式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を得ることができる。
【0030】
[紫外線吸収剤、紫外線吸収性組成物、皮膚外用剤]
本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は、紫外線吸収能に優れるので、紫外線吸収剤として用いることができ、種々の紫外線吸収性組成物における紫外線吸収剤として有用である。
【0031】
紫外線吸収性組成物としては、例えば、皮膚外用剤、塗料、染料、顔料、各種樹脂組成物(樹脂成形品等)、合成ゴム組成物、ラテックス、フィルム、繊維等が挙げられる。
【0032】
本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は、なかでも皮膚外用剤の紫外線吸収剤として好適に使用できる。本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を紫外線吸収剤として配合した皮膚外用剤は、優れた紫外線防止効果を発揮し、また、日光曝露下においても紫外線吸収剤が分解しないので、その効果が長時間にわたって安定に発揮される。また、皮膚トラブルも生じない。従って、特にサンスクリーン用皮膚外用剤として有用である。
【0033】
また、サンスクリーン用皮膚外用剤においては、その紫外線遮蔽効果を高めるために、有機化合物系紫外線吸収剤とともに無機粉体系紫外線遮蔽剤を併用することが望まれる。また、メーキャップ化粧料においても無機粉体が配合されることが多い。しかしながら、従来の有機系紫外線吸収剤を無機粉体と併用すると変色が起こることがある。これに対し、本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体(紫外線吸収剤)は、無機粉体とともに皮膚外用剤に配合した場合でも変色を生じず、よって無機粉体との併用が可能である。
【0034】
前記無機粉体としては、通常化粧料や医薬品に配合されるものであれば特に限定されなず、例えば、タルク、カオリン、窒化ホウ素、雲母、絹雲母(セリサイト)、白雲母、黒雲母、金雲母、合成雲母、合成マイカ、パーミキュライト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ酸バリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タングステン酸金属塩、マグネシウム、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、焼成硫酸カルシウム、焼セッコウ、リン酸カルシウム、フッ素アパタイト、ヒドロキシアパタイト、セラミックパウダー、金属石鹸(ミリスチン酸亜鉛、パルミチン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム等)等の無機粉末の他、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、チタン酸鉄、カーボン、低次酸化チタン、マンゴバイオレット、コバルトバイオレット、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、群青、紺青、酸化チタン被覆マイカ、酸化チタン被覆オキシ塩化ビスマス、酸化チタン被覆タルク、着色酸化チタン被覆マイカ、オキシ塩化ビスマス、魚鱗箔等の無機顔料が挙げられる。
【0035】
本発明の皮膚外用剤の形態は、本発明の効果が発揮されるものであれば特に制限されない。例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液等のスキンケア化粧料のほか、下地用化粧料、ファンデーション、口紅、フェイスカラー、アイライナー等のメーキャップ化粧料、ヘアスプレー、ヘアトニック、ヘアリキッド等の頭髪用、頭皮用化粧料等が挙げられる。
【0036】
本発明の紫外線吸収剤を皮膚外用剤に配合する場合、その配合量は目的とする紫外線吸収能に応じて適宜決定できるが、通常、組成物中0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%である。
【0037】
本発明の皮膚外用剤には、上記分のほか、通常化粧品や医薬品に配合可能な成分、例えば、液体油脂、固体油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子化合物、増粘剤、被膜剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸類、有機アミン類、pH調整剤、皮膚栄養剤、ビタミン類、酸化防止剤、香料、粉末、色材、水等を必要に応じて適宜配合することができる。また、本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体以外の紫外線吸収剤も配合可能である。本発明の皮膚外用剤は人体の皮膚に適用できる。
【0038】
本発明の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を紫外線吸収剤として配合した紫外線吸収性組成物、例えば、塗料、染料、顔料、各種樹脂、合成ゴム、ラテックス、フィルム、繊維等においては、高い紫外線防禦機能が発揮されるだけでなく、該紫外線吸収剤が熱安定性にも優れ、揮散しないため、その効力を長時間維持することができる。この場合の式(1)で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体の配合量は、通常、組成物中0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
実施例1(桂皮酸ポリグリセリンエステルの合成)
攪拌機、温度計、温度調節器、還流冷却器、滴下シリンダー、窒素ガス導入管などを備えた容量1リットルの4ツ口フラスコに、桂皮酸1.0モル(148.16g)を仕込み、攪拌下、内温を130℃に加熱した。ついで、内温をこの温度に維持し攪拌しながら、グリシドール4.0モル(296.32g)を5時間かけて滴下した。その後熟成を20時間続けながらリン酸(純度85%品)0.72gを滴下し、目的物450gを得た。得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルにおけるグリセリン平均量体数nは4であった。得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの1H−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6)を図1に示す。
【0041】
実施例2(3,4,5−トリメトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステルの合成)
攪拌機、温度計、温度調節器、還流冷却器、滴下シリンダー、窒素ガス導入管などを備えた容量1リットルの4ツ口フラスコに、3,4,5−トリメトキシ桂皮酸1.0モル(238.24g)を仕込み、攪拌下、内温を130℃に加熱した。ついで、内温をこの温度に維持し攪拌しながら、グリシドール4.0モル(296.32g)を5時間かけて滴下した。その後熟成を22時間続けながらリン酸(純度85%品)0.72gを滴下し、目的物450gを得た。得られた3,4,5−トリメトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステルにおけるグリセリン平均量体数nは4であった。
【0042】
実施例3(4−メトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステルの合成)
攪拌機、温度計、温度調節器、還流冷却器、滴下シリンダー、窒素ガス導入管などを備えた容量1リットルの4ツ口フラスコに、4−メトキシ桂皮酸1.0モル(178.18g)を仕込み、攪拌下、内温を130℃に加熱した。ついで、内温をこの温度に維持し攪拌しながら、グリシドール4.0モル(296.32g)を5時間かけて滴下した。その後熟成を22時間続けながらリン酸(純度85%品)0.72gを滴下し、目的物450gを得た。得られた4−メトキシ桂皮酸ポリグリセリンエステルにおけるグリセリン平均量体数nは4であった。
【0043】
試験例1[ 吸光度(1)]
実施例1で得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの紫外線吸収スペクトル(溶媒:水、濃度50ppm、光路長1cm)を分光光度計(日本分光(株)社製、「V−560」)にて測定した。結果を図2に示す。
【0044】
試験例2[吸光度(2)]
実施例1で得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの405nmの可視光の吸光度(溶媒:水、濃度0.1重量ppm又は1重量ppm、光路長1cm)を分光光度計(日本分光(株)社製、「V−560」)にて測定した。また、比較例として、従来の水溶性紫外線吸収剤である2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウムも同様に測定した。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、本発明の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は、400nmより長波長側の可視領域においては吸収を示さない。そのため、その水溶液は無色透明であった。一方、比較化合物は可視領域において吸収を有するため、結晶は淡黄色、水溶液は黄色にそれぞれ着色しており、製品の着色という観点で配合量が制限され、充分な紫外線吸収効果を発揮できない。
【0047】
試験例3(水への溶解性)
実施例1で得られた桂皮酸ポリグリセリンエステルの水への溶解性(重量%;25℃)を測定した。また、比較例として桂皮酸モノグリセリンエステル、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウム、2−デオキシ−(4−メトキシ桂皮酸アミド)−D−グルコースについても同様に測定した。結果を表2に示した。
【0048】
【表2】

【0049】
表2より明らかなように、本発明の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体は水への溶解性が極めて高く、高濃度に配合することが可能である。一方、比較化合物である桂皮酸モノグリセリンエステル、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォキソニウムベンゾフェノンナトリウム、2−デオキシ−(4−メトキシ桂皮酸アミド)−D−グルコースは水溶性が低く、高濃度に配合することは困難であり、高濃度に配合すると低温保存で析出してしまうことがある。従って、製品安定性の観点からもその使用が制限される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立して、水素原子又はメトキシ基を示す。GLはグリセリン由来の構成単位を示す。nはグリセリンの平均量体数を表し、3〜40である)
で表される桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体。
【請求項2】
請求項1記載の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする紫外線吸収剤。
【請求項3】
請求項1記載の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする紫外線吸収性組成物。
【請求項4】
請求項1記載の桂皮酸ポリグリセリンエステル誘導体を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項5】
さらに、無機粉体を含有する請求項4記載の皮膚外用剤。
【請求項6】
請求項4又は5記載の皮膚外用薬を人体の皮膚に適用する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144489(P2012−144489A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4590(P2011−4590)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】