説明

桜花様香料組成物

【課題】 桜の持つやさしさやナチュラル感を再現する桜花様香料組成物を提供する。
【解決手段】 花香様香気を基調とするベース組成物に、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートからなる群より選択される1種又は2種以上の香気成分を添加したことを特徴とする桜花様香料組成物。
ベース組成物は、少なくともフェニルエチルアルコール、リナロール、及びベンズアルデヒドを含むことが好適である。
ジメトキシメチルベンゼンの配合量は、香料組成物全体に対して0.01〜10質量%であることが好適である。
3,5-ジメトキシベンズアルデヒドの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好適である。
メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は桜花様香料組成物、特にその香気の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
桜は、バラ科サクラ属サクラ亜属に分類される低木又は高木の落葉広葉樹であり、日本を代表する花として古来より多くの人々に愛されている。そして、これまで桜の香りを謳った様々な商品(例えば入浴剤、お香、紅茶等)が製品化されている。しかしながら、桜の香りを謳った商品は桜葉のイメージが強いクマリンが特徴となった香りであることが多く、花の香りに関する知見は極めて少ない(例えば特許文献1、非特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−27549号公報
【非特許文献1】第32回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会 講演要旨集
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、桜の持つやさしさやナチュラル感を再現する桜花様香料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記事情を鑑み、本発明者等が鋭意検討を行った結果、これまで桜花の香りとして認識されていなかった香気成分を配合することにより、桜の持つやさしさやナチュラル感を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の桜花様香料組成物は、花香様香気を基調とするベース組成物に、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートからなる群より選択される1種又は2種以上の香気成分を添加したことを特徴とする。
前記組成物において、ベース組成物が、少なくともフェニルエチルアルコール、リナロール、及びベンズアルデヒドを含むことが好適である。
【0005】
前記組成物において、ジメトキシメチルベンゼンの配合量は、香料組成物全体に対して0.01〜10質量%であることが好適である。
3,5-ジメトキシベンズアルデヒドの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好適である。
メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好適である。
前記組成物において、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量比が1:1-10:1-10であることが好適である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の桜花様香料組成物は、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートからなる群より選択される1種又は2種以上の香気成分を配合することにより、桜の持つやさしさやナチュラル感を再現できるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
本発明では最も普及している染井吉野の芳香に注目し、成分分析を行ったところ、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、及びメチル3,5-ジメトキシベンゾエートが検出された。この3つの香気成分のうち1種又は2種以上を配合することにより、従来の桜様の香料組成物とは全く異なる桜の持つやさしさやナチュラル感を再現できる芳香を有することを見出した。
今回、桜花から検出されたジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、及びメチル3,5-ジメトキシベンゾエートは、既存の物質であるが、桜花の香気成分として見出されたという報告はない。
【0008】
ジメトキシメチルベンゼンの配合量は、香料組成物全体に対して0.01〜10質量%であることが好ましく、特に0.1〜10質量%、さらに1〜5質量%であることが好ましい。0.01質量%未満では、本発明の効果が発揮されない場合があり、10質量%を超えると、香気のバランスが悪くなり、桜の持つやさしさやナチュラル感とはかけ離れてしまうことがある。
3,5-ジメトキシベンズアルデヒドの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好ましく、特に1〜15質量%、さらに5〜10質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では、本発明の効果が発揮されない場合があり、15質量%を超えると、香気のバランスが悪くなり、桜の持つやさしさやナチュラル感とはかけ離れてしまうことがある。
メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることが好ましく、特に1〜15質量%、さらに5〜10質量%であることが好ましい。0.1質量%未満では、本発明の効果が発揮されない場合があり、15質量%を超えると、香気のバランスが悪くなり、桜の持つやさしさやナチュラル感とはかけ離れてしまうことがある。
【0009】
本発明においては、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、及びメチル3,5-ジメトキシベンゾエートのうち少なくとも1種を配合することで、本発明の効果が発揮されるが、合計配合量が同じ場合で比較すると、特に2種以上、さらには3種を組み合わせて配合することが好ましい。
3種を組み合わせて配合する場合、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量比は、1:1-10:1-10であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、花香様香気を基調とするベース香料組成物は、少なくともフェニルエチルアルコール、リナロール、及びベンズアルデヒドを含むことが好ましく、これにジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートからなる群より選択される1種又は2種以上の香気成分を配合することが好ましい。
【0011】
なお、本発明にかかる香料組成物には、その桜花様香気を阻害しない範囲でポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルなどの界面活性剤、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレートなどの溶剤、ダマスコン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、レモンオイル、ローズオイルなどの香料物質などが配合可能である。
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【実施例1】
【0012】
1.試料
桜花(ソメイヨシノ)。
2.分析方法
透明広口ガラス瓶(150ml)に桜(ソメイヨシノ)の花を10個入れて、その香気を4時間にわたって“twister”2個(ゲステル社製)に捕集し、ガスクロマトグラフィー−質量分析計(以下、GC−MSと記載)[5973:アジレント社製]に加熱脱着導入システム(TDS:ゲステル社製)を通して導入し、香気成分を分析した。得られたガスクロマトグラムを図1に示す。
分析条件 GC-MS:Agilent
Technologies社製
GC(6890N)-MS(5973N)、Column
HP-INNOWAX(0.25mm ID×60mL), Column Temp:60℃→230℃(10℃/min)
【0013】
図1より、従来桜花の香気成分としては報告されていないジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートが検出されたことが確認できる。
【実施例2】
【0014】
表1に記載のベース香料組成物に、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、あるいはメチル3,5-ジメトキシベンゾエートを添加し、以下の評価基準に基づいて香りを評価した。
(香りの評価基準)
◎:非常に優れた桜花の自然な香気を有する。
○:優れた桜花の自然な香気を有する。
△:桜花の自然な香気を有する。
×:桜花の香気を有する。
【0015】
(表1)
ベース香料組成物
配合原料 (質量%)
メチルジハイドロジャスモネート 30
リナロール 15
フェニルエチルアルコール 5
フロローサ(クエスト社) 8
ネロリドール 5
シンナミルアセテート 1
アニスアルコール 3
クマリン 2
ペンタリド 7
メチルベンゾエート 1
ベンズアルデヒド 1
ムスクT 5
ジプロピレングリコール 17
合計 100
【0016】
(表2)
試 験 例
1-1 1-2 1-3 1-4 1-5 1-6 1-7
ジメトキシメチルベンゼン − 0.01 0.1 1 5 10 15
桜花様香料ベース 100 99.99 99.9 99 95 90 85
合計 100 100 100 100 100 100 100
香りの評価 × △ ○ ◎ ◎ △ ×
ジメトキシメチルベンゼンの配合量は、香料組成物全体に対して0.01〜10質量%、特に0.1〜10質量%、さらに1〜5質量%が好ましいことが確認された。
【0017】
(表3)
試 験 例
2-1 2-2 2-3 2-4 2-5 2-6 2-7 2-8
3,5-ジメトキシベンズアルデヒド
− 0.01 0.1 1 5 10 15 20
桜花様香料ベース 100 99.99 99.9 99 95 90 85 80
合計 100 100 100 100 100 100 100 100
香りの評価 × × △ ○ ◎ ◎ △ ×
3,5-ジメトキシベンズアルデヒドの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%、特に1〜15質量%、さらに5〜10質量%が好ましいことが確認された。
【0018】
(表4)
試 験 例
3-1 3-2 3-3 3-4 3-5 3-6 3-7 3-8
メチル3,5-ジメトキシベンゾエート
− 0.01 0.1 1 5 10 15 20
桜花様香料ベース 100 99.99 99.9 99 95 90 85 80
合計 100 100 100 100 100 100 100 100
香りの評価 × × △ ○ ◎ ◎ △ ×
メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量は、香料組成物全体に対して0.1〜15質量%、特に1〜15質量%、さらに5〜10質量%が好ましいことが確認された。
【実施例3】
【0019】
表1に記載のベース香料組成物に、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートを組み合わせて添加し、上記評価基準に基づいて香りを評価した。
(表5)
試 験 例
4-1 4-2 4-3 4-4 4-5 4-6 4-7 4-8 4-9
ジメトキシメチルベンゼン
− − 0.01 0.01 0.01 0.1 0.1 0.5 1.0
3,5-ジメトキシベンズアルデヒド
0.1 1.0 0.1 − 0.1 1.0 − 1.0 5.0
メチル3,5-ジメトキシベンゾエート
0.1 1.0 − 0.1 0.1 − 1.0 1.0 5.0
桜花様香料ベース
99.8 98.0 99.89 99.89 99.79 98.9 98.9 97.5 89.0
合計 100 100 100 100 100 100 100 100 100
香りの評価 ○ ◎ ○ ○ ○ ◎ ◎ ◎ ◎
【0020】
ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートのうち2種以上を組み合わせた場合には、単独の場合よりもさらに本発明の効果が確認された。
なお、本発明者らがさらに検討したところ、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量比が、1:1-10:1-10である場合、特に好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の桜花様香料組成物は、入浴剤、香水、オーデコロン、芳香剤の他、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、頬紅、おしろい、アイシャドー、口紅、あぶら取り紙、紙おしろい、シャンプー、リンス、ヘアスプレー、制汗スプレー、ボディパウダー、ベビーパウダー等の化粧料;ティッシュペーパーやペーパータオル、ナプキン、ノート、メモ帳等の紙用品;雑巾、歯磨き粉、マスク、医療用ガーゼ、柔軟仕上げ剤、衣料用洗浄剤、台所用洗浄剤等の日用雑貨類;パン、うどん、そば、ご飯等の主食類;クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、アイスクリーム、羊羹、キャンディー、チューインガム、クラッカー、チップス、ヨーグルト等の菓子類;豆腐、こんにゃく、佃煮、コロッケ、サラダ、スープ等の各種総菜;かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品;チーズ、バター等の乳製品;みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ等の調味類;清涼飲料水、酒類、栄養ドリンク、コーヒー、紅茶、煎茶、ウーロン茶、牛乳、豆乳等の各種飲料等に応用可能である。化粧料に配合する場合、その配合量は特に限定されるものではないが、一般的な濃度範囲、例えば化粧料全量に対し0.001〜50質量%とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における桜花のガスクロマトグラフィー/質量分析計による香気成分組成の分析結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
花香様香気を基調とするベース組成物に、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートからなる群より選択される1種又は2種以上の香気成分を添加したことを特徴とする桜花様香料組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の香料組成物において、ベース組成物が、少なくともフェニルエチルアルコール、リナロール、及びベンズアルデヒドを含むことを特徴とする桜花様香料組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の香料組成物において、ジメトキシメチルベンゼンの配合量が香料組成物全体に対して0.01〜10質量%であることを特徴とする桜花様香料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の香料組成物において、3,5-ジメトキシベンズアルデヒドの配合量が香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることを特徴とする桜花様香料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の香料組成物において、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量が香料組成物全体に対して0.1〜15質量%であることを特徴とする桜花様香料組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の香料組成物において、ジメトキシメチルベンゼン、3,5-ジメトキシベンズアルデヒド、メチル3,5-ジメトキシベンゾエートの配合量比が1:1-10:1-10であることを特徴とする桜花様香料組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−111653(P2006−111653A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297495(P2004−297495)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】