説明

梁曲げ降伏先行型架構

【課題】トラス梁のように剛性の高い梁を柱間に架設し、柱間のスパンを稼ぎ、梁の下に無柱空間を確保する架構において、柱に先行させて梁を降伏させるためのヒンジ誘発部をトラス架構の任意の位置に形成する。
【解決手段】柱1と、隣接する柱1、1間に架設され、上弦材と2下弦材3、及び両弦材2、3に架設される束材4を有するトラス梁6からなる梁曲げ降伏先行型架構において、
トラス梁6を長さ方向に剛域区間61と、この剛域区間61の剛性より相対的に剛性の小さい非剛域区間62とに区分し、剛域区間61と非剛域区間62の境界に、ヒンジが先行して形成されるヒンジ誘発部7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトラス梁を柱間に架設した、梁の下に無柱空間を確保し得る架構において、トラス梁の降伏を柱に先行させて発生させる梁曲げ降伏先行型架構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラス梁等の成の高い梁を柱間に架設した架構(メガストラクチャー)は梁の剛性を上げることで、柱間のスパンを稼ぎ、梁の下に無柱空間を確保することができる利点を有することから、高層建築の一形態になっている(特許文献1参照)。
【0003】
但し、トラス梁を採用する場合、梁の剛性が柱の剛性に対して相対的に大きくなることで、柱が梁に先行して破壊する可能性が高まり、架構の倒壊を招き易くなる。梁の剛性に応じて柱の剛性も上げれば、崩壊形を梁降伏先行型にし、全体架構の倒壊を防止することは可能であるが、柱の剛性を上げるには、柱を組立柱のような成の高い柱にする必要があるため、梁下の無柱空間の平面積(容積)を犠牲にすることになる。
【0004】
これに対し、トラス梁の一部に、柱に先行させて降伏させる部分を形成し、梁に積極的にヒンジ(曲げ降伏)を発生させることで、柱降伏型の崩壊形を回避する方法がある(特許文献2、3参照)。この方法では、梁の降伏が柱の降伏に先行することで、柱の剛性を上げるために柱の成を梁に合わせて増大させる必要がないため、無柱空間の平面積の犠牲は最小に留められる。
【0005】
【特許文献1】特開平8−270081号公報(請求項1、段落0016〜0021、図1)
【特許文献2】特開2003−328585号公報(請求項5、段落0015〜0018、図1〜図3)
【特許文献3】特開2004−300681号公報(請求項1、段落0016〜0017、図1〜図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2、3のようにトラス梁の一部にヒンジを発生させる方法によれば、トラス梁を構成する上弦材、または下弦材の一部の引張強度を他の部分より相対的に低下させることによりヒンジを形成することになる(特許文献3の請求項1)。
【0007】
一方、柱・梁からなる架構は接合部を剛に接合したラーメン架構であるから、架構が水平力を負担したときの梁の曲げモーメントは柱との接合部で最大となる分布になり、地震時の曲げモーメントは梁の端部寄りで大きくなる。従って例えばトラス梁を構成する上弦材と下弦材の引張強度が全長に亘って一定である場合には、上弦材、もしくは下弦材に想定されるヒンジは梁の端部寄りに発生し易い。
【0008】
このことから、特許文献2、3におけるヒンジはトラス梁の全長の内、柱寄りの区間に形成され易いため、特許文献3のように柱寄りの下弦材、または上弦材にヒンジを形成することが合理的であり、梁の中央部付近にヒンジを形成させることは難しい。結局、特許文献2、3では上弦材と下弦材の引張強度が全長に亘って一定である限り、ヒンジの発生位置が特定されるため、ヒンジをトラス梁長さ方向の中間部を含む複数箇所に形成することが困難である。
【0009】
このように上弦材、または下弦材等、トラス梁の構成材にヒンジを形成する方法では、トラス梁の長さ方向の任意の位置にヒンジを形成することはできず、ヒンジの形成位置が梁の端部に限定される。従ってヒンジの形成のみによっては高いエネルギ吸収効果を期待することが難しいため、エネルギ吸収効果を得るにはダンパーの併用が不可欠になる。
【0010】
またトラス梁の下弦材と上弦材には地震時に曲げモーメントによる引張力と圧縮力が交互に作用するが、トラス梁の中立軸の位置によって上弦材と下弦材が負担する曲げモーメントが同一になるとは限らず、上弦材と下弦材のいずれか一方が他方より降伏し易い状況にあることもある。
【0011】
このため、例えば特許文献3のように下弦材に確実にヒンジを形成させるには、ヒンジを形成させるべき下弦材の一部の断面積、または強度を他の下弦材より小さくしておくことが不可欠になる。特許文献3ではヒンジを形成させる予定の下弦材に、引張力に対しては降伏しながらも、圧縮力に対しては座屈しない断面積と座屈長さを与えている(段落0017)。
【0012】
本発明は上記背景より、トラス梁全長の内、中間部を含む任意の区間にヒンジを形成可能で、ヒンジの形成によるエネルギ吸収効果の高い梁曲げ降伏先行型架構を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明の梁曲げ降伏先行型架構は、柱と、隣接する前記柱間に架設され、上弦材と下弦材、及び両弦材間に架設される束材を有するトラス梁からなる架構において、前記トラス梁が長さ方向に剛域区間と、この剛域区間の剛性より相対的に剛性の小さい非剛域区間とに区分され、前記剛域区間と前記非剛域区間の境界に、ヒンジが先行して形成されるヒンジ誘発部が形成されていることを構成要件とする。トラス梁の全長における剛域区間と非剛域区間の配列は任意に設定され、ヒンジ誘発部である剛域区間と非剛域区間の境界も任意に設定される。
【0014】
剛域区間は具体的には請求項2に記載のように剛域区間の上弦材と下弦材との間に剛性付与部材が架設され、剛性付与部材が上弦材と下弦材を含む剛域区間の変形を拘束する働きをすることで、非剛域区間より高い剛性を保有する。剛域区間は非剛域区間より高い剛性を有すればよく、剛性付与部材の機能は上弦材と下弦材、及び束材を含む剛域区間の剛性を上げることであるから、剛性付与部材には斜材の他、面材等が上弦材と下弦材との間に配置されることもある。
【0015】
トラス梁の全長が剛域区間と非剛域区間とに区分されることで、地震時にトラス梁に作用する水平力によって非剛域区間が剛域区間より(曲げ)変形し易くなり、非剛域区間に変形が集中し易くなる。非剛域区間の変形が繰り返して起こされることで、非剛域区間の塑性化が促進され、非剛域区間にヒンジが形成され易くなる。
【0016】
具体的には剛域区間は地震時に上弦材と下弦材を含む構面として一体となり、非剛域区間との対比では、相対的に剛域区間の全体が面材として挙動し、水平力に抵抗しようとする。このとき、剛域区間は曲げモーメントの作用方向に直交する面を持つ面材として挙動しようとする。
【0017】
これに対し、非剛域区間では剛域区間の剛性付与部材が不在であることで、上弦材と下弦材が独立して挙動し易く、それぞれが単独で水平力に抵抗しようとするため、非剛域区間の上弦材と下弦材の強度は両弦材が一体となって抵抗する剛域区間の上弦材と下弦材より見かけ上、相対的に低下し、降伏し易くなる。
【0018】
結果として非剛域区間の上弦材と下弦材の少なくともいずれか一方が剛域区間の上弦材と下弦材より先行してヒンジを形成することになる。水平力によって架構に生ずる曲げモーメントは図3に示すようになり、トラス梁の上弦材と下弦材には交互に引張力と圧縮力が作用するため、実際には非剛域区間に発生するヒンジは上弦材と下弦材にほぼ同時期に形成されることになる。
【0019】
水平力による曲げ変形は剛域区間から非剛域区間に移行し、剛性、もしくは強度の急変箇所に集中する傾向があるため、ヒンジは剛域区間から非剛域区間へ移行した箇所に起こり易く、この剛域区間から非剛域区間へ移行した箇所がヒンジ誘発部となる。
【0020】
特許文献3ではトラス構成材である下弦材の一部に軸降伏部を形成していることから、上弦材と下弦材を合わせたトラス梁全体が面材としては挙動しにくいため、上弦材、または下弦材単位でヒンジが形成され、トラス梁の区間単位でヒンジが形成される訳ではない。
【0021】
これに対し、請求項1ではトラス梁が長さ方向に剛域区間と、それより剛性の小さい非剛域区間とに区分されることで、前記のように剛域区間から非剛域区間へ移行した箇所に、トラス梁の区間単位(非剛域区間単位)でヒンジが形成されるため、剛域区間と非剛域区間の区分とその配列によってトラス梁の全長の内、長さ方向の中間部を含む任意の区間(範囲)にヒンジを形成することが可能になる。
【0022】
特にトラス梁のトラス構成材単位ではなく、区間(非剛域区間)単位でヒンジが形成されることで、上弦材と下弦材の区別なく、トラス梁の一部にヒンジを形成することが可能である。またトラス梁を面材として見たときに、トラス梁の中立軸の位置に関係なく、トラス梁の一部を降伏させることができるため、ヒンジの形成のために上弦材、または下弦材の断面積や強度を他より小さくすることは必要ではない。従って上弦材と下弦材には一定の断面寸法の材料を使用すればよく、断面積や強度を相違させる場合よりトラス梁の構成を単純化することが可能である。
【0023】
例えば1本のトラス梁の内、柱寄りの端部側に剛域区間を配置すれば、剛域区間に挟まれた少なくとも1区間に非剛域区間が配置され、ヒンジはトラス梁全長の内、非剛域区間の、剛域区間寄りの2箇所に形成される。トラス梁は上弦材と下弦材を有するから、上弦材に2箇所、下弦材に2箇所の、計4箇所にヒンジが形成されることになる。
【0024】
従って特許文献3のように上弦材、または下弦材単位でヒンジを形成する場合と異なり、請求項1では非剛域区間単位でヒンジが形成されることで、弦材単位でのヒンジの形成数が多くなるため、ヒンジの形成によるエネルギ吸収効果が格段に高まることになる。結果として、効果的なエネルギ吸収を図る上で必ずしもダンパーの併用を必要としない。
【0025】
またヒンジの形成箇所(ヒンジ誘発部)が一非剛域区間に付き、4箇所確保され、特許文献3との対比ではヒンジの発生予定位置、すなわちヒンジの形成候補位置が多くなるため、非剛域区間に確実にヒンジを発生させることが可能になる。
【0026】
請求項2に記載のようにトラス梁の剛域区間に剛性付与部材が架設されることで剛域区間と非剛域区間が区別される場合には、前記のように剛性付与部材が上弦材と下弦材を含む剛域区間の変形を拘束することで、剛域区間の剛性が非剛域区間の剛性より上がる。
【0027】
相対的に非剛域区間の剛性が低下するため、非剛域区間の範囲にヒンジが誘発されることになる。前記のように剛域区間と非剛域区間の配列は任意であるため、非剛域区間の変形が剛域区間に優先して発生する状態にあれば、非剛域区間が曲げモーメントの小さいトラス梁の中間部に位置しても、非剛域区間にヒンジを発生させることは可能である。
【0028】
請求項3に記載のように請求項1、もしくは請求項2に記載の発明においてトラス梁の非剛域区間の上弦材と下弦材との間に、両弦材間の相対変位時に減衰力を発生する制震装置が架設される場合には、制震装置が非剛域区間に作用する水平力の加速度を低減し、非剛域区間における上弦材と下弦材が負担すべき軸方向力を軽減するため、非剛域区間におけるヒンジの発生時期を遅らせる等、発生時期を調整することが可能になる。
【0029】
請求項3における上弦材と下弦材との間の相対変位は、制震装置が剛性付与部材としての斜材と同様に傾斜して架設される場合には、主として上弦材の束材との節点と、下弦材の束材との節点との間の相対変位を指す。制震装置が上弦材の中間部と下弦材の中間部との間に架設される場合には上弦材と下弦材との間の相対変位になる。
【0030】
制震装置は上弦材、または下弦材が負担すべき水平力の一部を負担しながら、何らかの変形を生ずるため、非剛域区間の上弦材、または下弦材の負担が軽減されると同時に、これらに作用する軸方向力の加速度が低減されることになり、上弦材、または下弦材が降伏する時期を遅らせることが可能になる。更にヒンジの形成に伴うエネルギ吸収に加え、制震装置が地震時のエネルギを吸収するため、地震による架構の崩壊を未然に防止することが可能である。
【0031】
制震装置にはその両端間距離の変化(相対移動)に起因して減衰力を発生する形式のダンパー全般が使用され、例えば油圧シリンダその他の粘性ダンパー、摩擦ダンパーの他、弾塑性変形することにより履歴エネルギ吸収能力を発揮する鋼材ダンパー、鉛ダンパー等が使用される。
【0032】
請求項3では非剛域区間の上弦材と下弦材間に制震装置が架設されることで、非剛域区間に作用する水平力の加速度が低減される。このとき、制震装置は水平力を負担することで軸方向に伸縮する、あるいはせん断変形する等により変形することから、変形しない斜材等の剛性付与部材等が架設されている剛域区間との対比では非剛域区間の剛性は相対的に小さい状態に保たれる。従って請求項3においても地震時には非剛域区間に変形が集中し、非剛域区間の上弦材、または下弦材が剛域区間に先行して降伏しようとする状態は維持される。
【発明の効果】
【0033】
柱と、隣接する柱間に架設されるトラス梁からなる架構において、トラス梁を長さ方向に剛域区間と、剛域区間の剛性より相対的に剛性の小さい非剛域区間とに区分することで、剛域区間を曲げモーメントに対して面材として挙動させ、非剛域区間の上弦材、または下弦材を単独で曲げモーメントに抵抗させるため、非剛域区間の上弦材、または下弦材を剛域区間に先行させて降伏させることができる。
【0034】
トラス梁の全長における剛域区間と非剛域区間の配列は任意に設定可能であるため、トラス梁の全長の内、任意の区間(範囲)にヒンジを形成することが可能であり、複数の箇所にヒンジを形成させることで、ヒンジの形成によるエネルギ吸収効果を高めることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0036】
図1−(a)は柱1と、隣接する柱1、1間に架設され、上弦材2と下弦材3、及び両弦材2、3間に架設される束材4を有するトラス梁6からなる架構において、トラス梁6が長さ方向に剛域区間61と、この剛域区間61の剛性より相対的に剛性の小さい非剛域区間62とに区分され、剛域区間61と非剛域区間62の境界に、ヒンジが先行して形成されるヒンジ誘発部7が形成されている梁曲げ降伏先行型架構の構成例を示す立面図である。図1−(b)は(a)に示す架構における剛域区間61と非剛域区間62、及びヒンジ誘発部7を明確に区別して示した立面図である。
【0037】
剛域区間61は例えば図1に示すように上弦材2と下弦材3との間に斜材、または斜材に代わる面材等の剛性付与部材5が付加されることで、非剛域区間62の剛性より高い剛性を有し、剛性付与部材5のない非剛域区間62と区別される。剛域区間61は上弦材2と下弦材3、及び束材4とで区画される、剛性付与部材5を含む領域であり、非剛域区間62は同じく上弦材2と下弦材3、及び束材4とで区画される、剛性付与部材5を含まない領域になる。
【0038】
上弦材2と下弦材3、及び束材4と剛性付与部材5としての斜材はトラス梁6の構成材であり、引張力と圧縮力を負担するから、これらには主に形鋼、鋼管等の鋼材が使用される。柱1は形鋼、鋼管等の鋼材(鉄骨)で構成される他、鉄筋コンクリート造、または鉄骨鉄筋コンクリート造で構築される。
【0039】
図1−(a)では束材4をトラス梁6の長さ方向に等間隔で配置しているが、隣接する束材4、4間距離を1スパンとしたとき、剛域区間61と非剛域区間62に共に、2スパン分の長さを与えている。この場合、剛域区間61と非剛域区間62の長さは等しいものの、剛性付与部材5等が存在しない分、非剛域区間62の変形能力が剛域区間61の変形能力より高く、図3に示すように非剛域区間62内では両端位置の曲げモーメントが最大になるため、非剛域区間62の長さ方向両側にヒンジが形成されることになる。このヒンジの形成箇所がヒンジ誘発部7に該当する。隣接する束材4、4間距離(スパン)は任意に設定され、隣接する束材4、4間毎に相違することもある。
【0040】
剛域区間61は上弦材2と下弦材3、及び束材4とで区画される領域に斜材等の剛性付与部材5が付加されることで、剛域区間61の構成材の一体性が高まり、各構成材が独立して水平力を負担する傾向よりも、全構成材が一体となって挙動する傾向が強まるため、結果として剛域区間61は面材として水平力に抵抗する。非剛域区間62は剛域区間61より相対的に低い剛性を有することで、各構成材が独立して挙動する傾向が高いため、上弦材2と下弦材3は単独で水平力に抵抗する。
【0041】
トラス梁6が交互に繰り返される水平力を負担したとき、剛域区間61が面材として挙動するのに対し、非剛域区間62の上弦材2と下弦材3が独立して挙動することで、剛性の急変する剛域区間61から非剛域区間62へ移行した箇所に変形が集中する。この変形は上弦材2と下弦材3のそれぞれに発生するため、上弦材2と下弦材3の、剛域区間61から非剛域区間62へ移行した箇所がヒンジ誘発部7として他の部分に先行して降伏し、ヒンジを形成する。図1−(b)中、ハッチを入れた領域が剛域区間61を、○がヒンジ誘発部7を示す。
【0042】
図1のように非剛域区間62がトラス梁6の全長の内、中間部に配置された場合、図3に示すように非剛域区間62の長さ方向両端における曲げモーメントはほぼ等しいため、ヒンジは非剛域区間62の長さ方向両端に発生することになる。
【0043】
図1−(b)に示すようにトラス梁6の長さ方向の1箇所に付き、ヒンジは上弦材2と下弦材3のそれぞれに発生するため、非剛域区間62をトラス梁6の長さ方向の中間部の1区間に配置した場合には、上弦材2と下弦材3のそれぞれの合計4箇所にヒンジが発生する。
【0044】
図2は図1−(a)における非剛域区間62の上弦材2と下弦材3間に、両弦材2、3間の相対変位時に減衰力を発生する制震装置8を架設した架構を示した立面図である。制震装置8には上弦材2と下弦材3との間の相対変位時にその相対変位に追従することにより伸縮、曲げ変形、せん断変形等の変形をしながら、水平力を低減するように作用する減衰力を発生する形式のダンパーが使用される。ダンパーの形式は一切、問われない。
【0045】
図2は図1−(a)における一部の非剛域区間62に制震装置8を架設した例を示すが、いずれの非剛域区間62に制震装置8を架設するかは任意であり、図2における一部の制震装置8を省略する場合もあれば、図2において制震装置8のない区間に制震装置8を架設する場合、または図1−(a)における全非剛域区間62に制震装置8を架設する場合もある。
【0046】
非剛域区間62の上弦材2と下弦材3との間に相対変位が発生するとき、相対変位量は上弦材2と束材4、または柱1との節点と、下弦材3と束材4、または柱1との節点との間で最大になる。このことから、制震装置8は図2に示すようにこの両節点間に架設されることが有利であるが、制震装置8の形態によっては上弦材2の中間部と下弦材3の中間部との間に架設されることもある。
【0047】
図2の場合も、図1の場合と同様、非剛域区間62に生ずる変形が剛域区間61に生ずる変形より大きくなるため、非剛域区間61の上弦材2と下弦材3にヒンジ(ヒンジ誘発部7)が発生しようとする。
【0048】
この場合、非剛域区間61内に架設されている制震装置8が非剛域区間61の変形に追従しながらも、減衰力を発生するため、トラス梁6に作用する水平力に伴って非剛域区間62の上弦材2と下弦材3が負担する軸方向力(圧縮力と引張力)は図1の場合より小さくなる。また制震装置8が発生する減衰力によって非剛域区間62の上弦材2と下弦材3に作用する軸方向力の加速度が低減されるため、上弦材2と下弦材3に発生するヒンジの形成までの時間が図1の場合より遅れ気味になる。
【0049】
図3は図1、または図2に示す架構に水平力が作用したときの、柱1とトラス梁6に生ずる曲げモーメントの分布を示す。水平力は交番荷重であるため、曲げモーメントは柱1に関して正負の向きに交互に分布する。図3中、ハッチを入れた箇所が剛域区間61を示す。
【0050】
図3に示すようにトラス梁6には柱1との接合部で最大となり、長さ方向の中央が反曲点となって曲げモーメントが分布する。このため、トラス梁6の上弦材2と下弦材3の断面が一定であるとすれば、曲げ応力はトラス梁6の端部で最大になるが、前記のように非剛域区間62の上弦材2と下弦材3に変形が集中することで、ヒンジは非剛域区間62の上弦材2と下弦材3に発生しようとする。
【0051】
またトラス梁6の長さ方向には非剛域区間62の、剛域区間61寄りの2箇所にヒンジが形成されることから、一非剛域区間62に付き、4箇所にヒンジが形成される。従って例えばトラス梁6を構成する1本の下弦材3の2箇所にヒンジを形成する場合の2倍の効率でヒンジを形成することができるため、ヒンジ形成の確実さが高い上、ヒンジ形成によるエネルギ吸収効率が高い。
【0052】
図4−(a)は剛域区間61をトラス梁6の長さ方向中間部に配置し、この剛域区間61の両側に非剛域区間62、62を配置した架構の例を示す。この場合、剛域区間61が前記の4スパンの長さを持ち、非剛域区間62が1スパンの長さしかないことから、非剛域区間62の変形能力は図1の場合より低下するが、剛域区間61に対して相対的に剛性が低く設定されていれば、剛域区間61より変形し易いため、非剛域区間62にヒンジが形成される。
【0053】
前記のようにトラス梁6に生ずる曲げモーメントは柱1との接合部で最大になるため、図4−(a)の場合には(b)に示すように非剛域区間62の長さ方向両端の内、曲げモーメントが大きくなる柱1寄りにヒンジが形成され易くなる。
【0054】
図5は図4−(a)における一部の非剛域区間62に制震装置8を架設した架構の例を示す。図4−(a)の場合にも曲げモーメントの分布は図3のようになり、トラス梁6に生ずる曲げモーメントは柱1との接合部で最大になる。
【0055】
但し、図3に示すように架構の周囲に位置する側柱(架構の平面上の外周部に位置する柱1)とトラス梁6との接合部に作用する曲げモーメントより、架構の内側に位置する中柱(前記外周部に位置する柱1以外の柱1)とトラス梁6との接合部に作用する曲げモーメントが大きく、中柱頭部の変形量が側柱頭部の変形量より幾らか大きくなる。側柱は図3における架構の両側に位置する柱1であり、中柱は架構の内側に位置する柱1である。
【0056】
そこで、図5では特に中柱寄りに位置する非剛域区間62に制震装置8を配置することで、効率的に制震装置8によるエネルギ吸収効果を得ることが可能になっている。中柱寄りに位置する非剛域区間62に架設された制震装置8の一端は中柱に接続されるため、中柱に作用する曲げモーメントによる加速度に応じた減衰力、あるいは中柱に生ずる変形量に応じた減衰力を制震装置8に発生させることが可能であり、側柱寄りの非剛域区間62に制震装置8を配置する場合よりエネルギ吸収効果が高まることによる。
【0057】
図4の例においても制震装置8の架設区間は任意であり、図5における一部の制震装置8を省略する、または図5において制震装置8のない区間に制震装置8を架設する場合の他、図4の全非剛域区間62に制震装置8を架設する場合もある。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】(a)は梁曲げ降伏先行型架構の構成例を示す立面図、(b)は(a)におけるヒンジの形成位置と架構の崩壊形を示した立面図である。
【図2】図1−(a)における非剛域区間に制震装置を架設した架構を示した立面図である。
【図3】図1、図2に示す架構に水平力が作用したときの曲げモーメントの分布を示した曲げモーメント図である。
【図4】(a)は梁曲げ降伏先行型架構の他の構成例を示す立面図、(b)は(a)におけるヒンジの形成位置と架構の崩壊形を示した立面図である。
【図5】図4−(a)における非剛域区間に制震装置を架設した架構を示した立面図である。
【符号の説明】
【0059】
1……柱、
2……上弦材、3……下弦材、
4……束材、5……剛性付与部材、
6……トラス梁、
61……剛域区間、62……非剛域区間、
7……ヒンジ誘発部、
8……制震装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と、隣接する前記柱間に架設され、上弦材と下弦材、及び両弦材間に架設される束材を有するトラス梁からなる架構において、
前記トラス梁は長さ方向に剛域区間と、この剛域区間の剛性より相対的に剛性の小さい非剛域区間とに区分され、
前記剛域区間と前記非剛域区間の境界に、ヒンジが先行して形成されるヒンジ誘発部が形成されていることを特徴とする梁曲げ降伏先行型架構。
【請求項2】
前記トラス梁の剛域区間の上弦材と下弦材との間に剛性付与部材が架設されていることを特徴とする請求項1に記載の梁曲げ降伏先行型架構。
【請求項3】
前記トラス梁の非剛域区間の上弦材と下弦材との間に、両弦材間の相対変位時に減衰力を発生する制震装置が架設されていることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の梁曲げ降伏先行型架構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185469(P2009−185469A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24339(P2008−24339)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】