説明

椅子

【課題】着座する者が後傾姿勢を取ったときに、頸部領域の緊張を積極的に緩和させるように押圧若しくは圧迫して頸部領域への心地良さを付与することのできる椅子を提供すること。
【解決手段】座部13の後部に位置する背部15と、この背部15の上部に位置して着座者Hの頸部領域を支える頸部支持部20と、この頸部支持部20の上部に位置する後頭部支持部21とを備えて椅子10が構成されている。後頭部支持部21に対して着座者Hが後頭部を凭れ掛けるように後傾力を付与すると、頸部支持部20が後頭部支持部21に対して頸部側に相対移動するようになっており、これにより、着座者Hの頸部を積極的に押圧若しくは圧迫して頸部後面側の筋疲労を緩和させるように体感させることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は椅子に係り、更に詳しくは、背部に寄りかかって後傾力が付与されたときに、着座する者の頸部領域を押圧するように移動可能な頸部支持部を備えた椅子に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般的な椅子は、座部と、当該座部の後部に位置する背部とを含んで構成されており、背部の標準的な高さは、着座する者の肩甲骨当たりを上端位置として設定されている。このタイプの椅子は、着座する者が背部に凭れかかるように後傾姿勢となっても、頸部領域から頭部領域までの各領域は支持されないものとなる。
【0003】
そこで、背部の高さを後頭部領域までに延長した背高タイプの椅子や、背部の上端側にヘッドレストと称される後頭部支持部を備えた椅子が存在する。このタイプの椅子によれば、着座した者が背部に凭れるように上半身を後傾姿勢としたときに、或いは、頭部を意識的に後傾させたときに後頭部領域が支持可能となり、通常姿勢で椅子に着座していたときの緊張状態を和らげるように作用させることができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、人が椅子に着座してコンピュータ等の入力作業や筆記作業を行っている場合の姿勢は、頸部が前に傾いている前傾姿勢となるのが通常である。頸椎の自然な形状は、やや前方凸状に湾曲した前彎状態であり、頭部が前に傾いている状態は、これとは逆の後彎状態である。頭部重量は、頸部付近の後側の筋肉で主として支えられるため、当該部位の緊張状態が継続している状態となる。また、最近では、背もたれが大きく後傾した姿勢で作業できる椅子もあるが、目線は水平に保つ必要があるため、頭部が前に傾いている状態となり、頸部の緊張はより大きなものとなる。従って、作業時間が長くなるにつれて、頸部及び肩領域の疲労が増大する傾向となる。このような場合、前述した後頭部支持部を備えた椅子を利用すれば、着座した者が後傾する方向に意識的に姿勢変位したときに、後頭部を支持することができるため、頸部付近の筋肉に対する緊張状態を一時的に解放することができる。
【0005】
しかしながら、後頭部支持部を備えた椅子は、上半身の傾きによって頭部重量を支持するだけの作用を奏するのみで、頸部領域に蓄積された筋肉疲労を積極的に緩和させるように体感させるものとはなっていない。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、このような問題に着目して案出されたものであり、その目的は、着座する者が後傾姿勢を取ったときに、頸部領域の緊張を積極的に緩和させるように体感させること、すなわち、頸部領域への心地良さを付与することのできる椅子を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、必要に応じて肩部領域への心地良さも同時に付与することのできる椅子を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、任意の選択により、頸部領域や頭部領域に局所的なマッサージ効果を付与することもできる椅子を提供することにある。
【0009】
本発明の更に他の目的は、頸部や後頭部を他動的に周期運動させることによって頸部の負担を和らげる作用を期待することが可能な椅子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、座部と、この座部の後部に位置する背部と、着座する者の頸部領域に対応する頸部支持部とを備え、
前記背部に後傾力が付与されたときに、前記頸部支持部が背部に対して着座者の頸部側に相対移動可能に設けられる、という構成を採っている。このような構成では、着座している状態で背部に寄りかかるように後傾力を作用させると、頸部支持部が着座者の頸部を押圧若しくは圧迫するように作用することとなる。従って、頸部支持部は、着座者の頸部を支えるだけでなく、これを積極的に押圧することで、通常姿勢若しくは所要の事務作業をしている状態で生じ得る頸部後方側の緊張を効果的に解消するようになり、疲労感を和らげるような心地良さを付与することが可能となる。
【0011】
また、本発明は、座部と、この座部の後部に位置する背部と、着座する者の頸部領域に対応する頸部支持部と、この頸部支持部の上部に設けられた後頭部支持部とを備え、
前記後頭部支持部に後傾力が付与されたときに、前記頸部支持部が後頭部支持部に対して頸部側に相対移動する、という構成を採るとよい。このような構成では、後頭部支持部を備えたことで、着座者の上半身全領域を後方から支えることができる。従って、後頭部支持部に後傾力が加えられたときに、頸部が前方となるように側面視で略弓なりになる姿勢が得られ、これにより、正常者の頸椎形状に略対応した極めて自然な姿勢維持を通じた心地良さを付与して疲労感を一層和らげるように体感させることが可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明において、前記頸部支持部と後頭部支持部は、単一の構造体からなる支持体により構成され、この支持体は、上下方向における所定位置を回転中心として回転可能に設けられる、という構成を採ることが好ましい。このような構成とすれば、後頭部から頸部領域を支える構成部材を最小化することができ、頸部支持部と後頭部支持部との相対移動を極めて簡単な構成によって実現することができる。
【0013】
また、前記頸部支持部と後頭部支持部はそれぞれ独立した構造体により構成され、これら頸部支持部及び後頭部支持部は、所定の連結手段を介して相対移動可能に設けられる、という構成も採ることができる。連結手段としては、頸部支持部と後頭部支持部との間に、一定の剛性を有し且つ後頭部支持部を後方に移動させるように曲げ変形可能なアームを採用する構成、或いは、頸部支持部と後頭部支持部との前記相対移動を許容するリンク機構が例示できる。このような構成とすることで、頸部支持部の相対移動を確実に行うことが可能となる他、個々に位置調整を可能とする設計を採用し易くなる。
【0014】
更に、前記頸部支持部を高さ位置調整可能に設ける構成を採用するとよい。これにより、着座者の個体差に応じた位置調整を行えるようになり、適用範囲に普遍性を持たせることが可能となる。
【0015】
また、前記頸部支持部の下方に下部延長部が設けて当該下部延長部の両側に肩部支持部を設けることもできる。このような構成では、肩部支持部も頸部支持部と同時に移動可能となり、肩部を押圧する作用をも得ることができ、一層の緊張緩和効果を期待することができる。
【0016】
更に、前記頸部支持部を常時は初期位置に保つ位置規制手段を更に含む、という構成を採ることができる。これにより、前記傾倒力を付与しない平常時の着座姿勢で、後頭部支持部や頸部支持部の位置が安定して保たれるようになり、これらが不規則にぶらついてしまうような虞も回避することができる。
【0017】
また、前記頸部支持部及び又は後頭部支持部の着座者側の面内に突状部材が着脱自在に設けられる、という構成を併用することもできる。これにより、いわゆる「つぼ」を刺激するように利用でき、局所的なマッサージ効果を期待することができる。
【0018】
更に、本発明は、座部と、この座部の後部に位置する背部と、当該背部の上端から離れた上方に位置するとともに、着座する者の頸部領域又は後頭部領域に対応する頸部支持部又は後頭部支持部とを備え、
前記頸部支持部又は後頭部支持部は周期的に前後に移動可能に設けられる、という構成を採ることができる。このような構成を採用した場合には、頸部又は後頭部を押圧若しくは圧迫する程度を変化させた心地良さを付与することができる。
【0019】
なお、本発明における頸部支持部は、背部とは分離して当該背部の上端より上方に頸部支持部が設けられる場合の他、背部自体が高く構成されていて、その領域内に頸部支持部が設けられる場合も含むものである。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
【0021】
[第1実施例]
図1ないし図4には、本発明の第1の実施例が示されている。ここで、図1には、全体の側面図が示されている。また、図2には、その要部拡大側面図が示され、図3には、図2の正面図が示されている。これらの図において、椅子10は、下端部にキャスター11を備えた脚12と、この脚12の上部に高さ位置調整可能に設けられた座部13と、当該座部13の後端、すなわち、図1中左端側に設けられた背部15と、この背部15の上端より上方に設けられた支持体16とを備え、主として、事務作業等に適したタイプとして構成されている。
【0022】
図3に示されるように、背部15の左右側端面には、座部13の下面側から延びる縦フレーム17が位置するようになっており、この縦フレーム17の上部間に配置された横フレーム18と、当該横フレーム18上に設けられた左右対称形状をなす一対の保持手段19を介して前記支持体16が支持可能に設けられている。
【0023】
前記支持体16は、正面16A側が着座者Hの後頭部及び頸部領域に連続して沿う曲面形状を備え、全体的に平坦な形状をなす単一の構造体によって構成されている。この支持体16の略下半部領域は頸部支持部20として作用する一方、略上半部領域は後頭部支持部21として作用するようになっている。頸部支持部20の面内には、図3及び図4に示されるように、左右方向に沿って所定間隔を隔てて形成された複数の凹状をなす取付部23が形成されており、この取付部23に突状部材24が必要に応じて着脱自在に設けられ、当該突状部材24によって着座者Hの頸部領域における、いわゆる「つぼ」を刺激可能となっている。なお、本実施例では、突状部材24をオプションとして取り付けできるようにしているが、頸部支持部20の正面側形状として予め突状部を備えたものとしてもよく、また、後頭部支持部21の面内にも同様の突状部材を設けることを妨げない。
【0024】
前記各保持手段19は、図3に示されるように、横フレーム18に固定された基部ブロック26と、この基部ブロック26に形成されて上下方向に延びる穴26A内に挿入された軸部材27と、この軸部材27の上端に設けられて前記支持体16の左右両側端側に位置する上部ブロック28と、この上部ブロック28の内方端に位置して前記頸部支持部20と後頭部支持部21との略中間高さ位置との間に設けられた回転軸29とにより構成されている。ここで、軸部材27は、基部ブロック26の穴26A内で上下方向にスライド移動可能に設けられ、基部ブロック26の側面からねじ込み可能なストッパ31によって任意の高さ位置に固定して調整できるようになっている。
【0025】
また、支持体16の左右両端面において、前記回転軸29位置よりも低い位置には一対の突起34,35が形成され、一方の突起34の直下位置と前記上部ブロック28との間にはコイルばね36が設けられている。このコイルばね36は、支持体16の下部領域、すなわち頸部支持部20を上部ブロック28側に引き付けて前記突起34,35が上部ブロック28に常に接触するようになっている。ここにおいて、前記突起34,35、コイルばね36及び上部ブロック28により、図示の位置を初期位置として支持体16の姿勢を保つようになっている。
【0026】
次に、本実施例における作用について説明する。
【0027】
着座者Hが前記支持体16に対して頭部を凭れ掛けるように後傾することにより、前記後頭部支持部21に後傾力が加わると、当該支持体16には前記回転軸29を回転中心として図2中反時計回りに回転力が付与されることになる。従って、後頭部支持部21は、図2R>2中矢印R1方向に回転移動するとともに、頸部支持部20は、コイルばね36のばね力に抗して図2中矢印R2方向に回転移動して着座者Hの頸部を後方から押圧する。この回転移動は、後頭部の後傾力に応じた回転力と、頸部領域が頸部支持部20に対して当該回転力と略反対方向に付加する力とが釣り合う位置で静止し、着座者Hが後傾姿勢を解除するまでその釣り合い位置を保持する。
【0028】
頸部支持部20の面内に設けられた取付部23に前記突状部材24が装着されている場合、前述した後傾姿勢を取った際に、その突状部材24が着座者Hの頸部領域に局所的に食い込むことになり、いわゆる「つぼ」刺激が可能となる。
【0029】
また、着座者Hが後傾姿勢から通常姿勢に戻ると、前記釣り合い位置における釣り合い姿勢が解除され、更に、頸部支持部20を後方すなわち図2中左方向に引き戻す方向に作用するコイルばね36のばね力に対応した回転力が前記支持体16に付与される。従って、後頭部支持部21は回転軸29を回転中心として図2中時計回り、すなわち、矢印R1と反対方向に回転移動するとともに、頸部支持部20は時計方向に回転移動する。この回転移動は、支持体16の左右両端面に設けられた突起34、35の外周面が上部ブロック28、28の外面に突き当たる位置に達して停止する。その後は、コイルばね36のばね力により、接触位置すなわち初期位置に支持体16の姿勢を維持することとなる。
【0030】
なお、支持体16の高さ位置を調整する場合には、ストッパ31を緩めて軸部材27を上下方向に移動し、所定の高さ位置に合わせた状態でストッパ31を再び締め付けておけばよい。
【0031】
従って、このような第1の実施例によれば、後頭部が後方移動するのと反対側に、頸部支持部20が着座者Hの頸部を後方から積極的に押圧若しくは圧迫することが可能となり、頸部を後方弓なり状にして頸部の緊張を緩和し、着座者Hに心地よさを体感させることができる。
【0032】
また、後頭部支持部21に後傾力が作用していないときは、コイルばね36の存在により、支持体16が初期位置に維持されるため、当該支持体16が不規則にぶらついてしまうこともない。
【0033】
更に、支持体16の高さ位置を調整できるため、着座者Hの座高等の体格に応じた頸部支持部20及び後頭部支持部21の高さ位置を確保でき、前記押圧による効果をより効果的に発揮することが可能となる。
【0034】
次に、本発明の前記以外の実施例について説明する。なお、以下の説明において、前記第1の実施例と同一若しくは同等の構成部分については、必要に応じて同一符号を用いるものとし、説明を省略若しくは簡略にする。
【0035】
[第2実施例]
図5及び図6には、本発明の第2の実施例が示されている。この実施例は、頸部支持部20の下部両側に着座者Hの肩部領域に対応する肩部支持部39を着脱自在に設けたことを特徴とするものである。すなわち、支持体16の上下方向長さを第1実施例よりも長く設定するとともに、頸部支持部20の下部を下方に延長して着座者Hの頸部付け根と肩とが略交差する位置まで延ばした下部延長部20Aとし、この下部延長部20Aの左右両端面にパッドからなる肩部支持部39が着脱自在に設けられている。各肩部支持部39は左右対称形状をなし、下部延長部20Aの側端面への合わせ面側に上下一対の連結突部40が設けられている一方、下部延長部20Aの前記側端面には、連結突部40を受容可能な上下一対の凹部41がそれぞれ設けられている。
【0036】
従って、椅子10の利用者は、肩部支持部39をオプションとして利用でき、下部延長部20Aの側端面に装着した状態で後頭部を後傾姿勢とすることで、頸部支持部20と同様に肩部支持部39が前方に移動して肩部を押圧若しくは圧迫することとなる。
【0037】
なお、肩部支持部39は、正面側が着座者Hの肩部領域に略沿う曲面形状を正面に備えた略箱状体により構成され、当該正面側に、適宜な凹部を設けて「つぼ」刺激を行う突状部材を着脱自在に設けることもできる。
【0038】
第2の実施例における保持手段19は、背部15の上端側に固定された左右一対のアーム状の軸部材27,27を介して支持体16を支持する構成となっており、第1の実施例で示した基部ブロック26を省略した構造に近いものとなっている。なお、この実施例においては、支持体16の高さ調整を可能とする構成を採用していないが、例えば、自動車のヘッドレストと同様の構成を用いて高さ調整できるようにしてもよい。
【0039】
前記第2の実施例では、支持体16の下部延長部20Aに肩部支持部39を装着した状態で後頭部支持部21に後傾力が付加された場合、回転軸29を回転中心とした支持体16の回転に従って、頸部支持部20と肩部支持部39とが一体となって前方に相対回転移動し、頸部支持部20による頸部領域の押圧だけでなく肩部支持部39も着座者Hの肩部領域を押圧することとなる。
【0040】
従って、このような第2の実施例によれば、前記第1の実施例で得られる効果の他に、肩部についても緊張を緩和して、一層の心地よさを着座者Hに体感させることが可能となる。
【0041】
[第3実施例]
図7及び図8には、本発明の第3の実施例が示されている。この実施例は、後頭部支持体21と頸部支持体20とを独立した構造体とし、これらを連結する曲げ変形可能な軸状をなす連結手段としての上段連結部材45を介して、両者を前後方向に相対移動可能に設けたところに主たる特徴を有するものである。また、背部15は上部を分割して構成されており、当該背部15は、下方背部15Aに背部連結部材46を介して連結されるとともに、着座者Hの略肩甲骨領域の高さに位置する上方背部15Bを備えて構成され、この上方背部15Bに中間連結部材47を介して前記頸部支持体20が支持されるようになっている。
【0042】
前記頸部支持部20は、第2の実施例と同様に下方延長部20Aを備えた上下方向長さに設けられ、この下方延長部20Aの左右側端面に肩部支持部39が着脱自在に設けられている。
【0043】
前記上段連結部材45は、常時は初期の軸線位置を保つ剛性を備えている一方、後頭部支持部21に対して着座者Hの後頭部を凭れ掛けるようにして後傾力が付与されたときに、後頭部支持部21の後方移動を許容する曲げ方向への弾性を備えた材料によって構成されている。また、上段連結部材45は、頸部支持部20に対して上下方向に移動可能に設けられており、これにより、頸部支持部20と後頭部支持部21との相互距離が調整できるようになっている。
【0044】
また、背部連結部材46は、下方背部15Aに対して上方への突出量が調整可能である一方、中間連結部材47も上方背部15Bに対して上方への突出量が調整可能とされ、上方背部15B、頸部支持部20の各位置調整を微細に行えるようになっている。なお、中間連結軸47は、後頭部支持部21が後方に回転移動したときに、これに追従する曲げ変形を生じない程度の剛性を備えた部材により構成され、これにより、後頭部支持部21が後方に移動したときに、頸部支持部20が相対的に前方に移動した状態が得られて着座者Hの頸部20を押圧若しくは圧迫することとなる。
【0045】
従って、このような第3の実施例によっても、前記各実施例で得られる効果をもとより達成できる他、頸部支持部と後頭部支持部とが独立していることで、後頭部を大きく後傾させたときに、頸部支持部20に対する押圧若しくは圧迫の程度を強く得ることが可能となる。しかも、着座者Hの背面側を支持する部材が分散して構成され、且つ、それらの上下方向への位置調整も可能に設けられているため、着座者Hの個体差や、人それぞれの好みに応じた位置調整にも臨機応変に対応することが可能となる。また、この実施例では、後傾力を解除したときに、後頭部支持部21が連結部材45の弾性復元力によって初期位置に戻る構成となるため、第1の実施例等で用いたコイルばねを省略することができる。
【0046】
[第4実施例]
図9には、本発明の第4の実施例が示されている。この実施例は、第3の実施例と同様に、頸部支持部20と後頭部支持部21が独立した構造体により構成され、頸部支持部20と後頭部支持部21との間にリンク機構50を介して相対移動可能に連結したところに特徴を有する。
【0047】
前記頸部支持部20は、背部15の上端に対して上下に移動可能に設けられた軸部材27に前記リンク機構50の一部を介して支持されている。このリンク機構50は、軸部材27の上部を貫通して図9中紙面直交方向に延びる固定軸51を介して前後方向に傾斜姿勢で延びる基部材53と、この基部材53の後端部に軸54を介して回転可能に設けられた揺動部材55と、この揺動部材55の上部に軸57を介して支持されるとともに前端に後頭部支持部21が固定された上部連結部材58と、揺動部材55の下部に設けられた軸60と頸部支持部20との間に掛け渡された下部連結部材59と、揺動部材55と前記固定軸51との間に設けられて常時は図9に示される位置を初期位置として頸部支持部20と後頭部支持部21の位置を維持するコイルばね61とを備えて構成されている。
【0048】
このような第4の実施例では、後頭部支持部20に対して後方への後傾力が付与されると、前記揺動部材55が軸54位置を回転中心として反時計方向に回転するようになる。従って、揺動部材55の下部に連結された下部連結部材59は、前方に向かって移動し、当該下部連結部材59の前端位置が前進位置となることで頸部支持体20が着座者Hの頸部を押圧若しくは圧迫することとなる。
【0049】
従って、このような第4の実施例によれば、頸部支持部20と後頭部支持部21との相対移動がリンク機構50によって行われる構成であるため、頸部支持部20と後頭部支持部21との相対移動を確実に行わせることが可能となる。しかも、リンク機構を構成する個々の部材の長さや、相対回転位置の設計によって、頸部支持部20による押圧力等を調整することも可能となる。
【0050】
[第5実施例]
図10には、本発明の第5の実施例が示されている。この実施例は、前記第4の実施例の変形的態様であり、リンク機構50の後方への突出量を抑制するとともに、頸部支持部20と後頭部支持部21が独自に上下方向に位置調整可能に設けられている点に特徴を有するものである。すなわち、リンク機構50は、軸部材27の上端に固定されて上下方向に延びる保持部材70と、この保持部材70と位置的に干渉することなく当該保持部材70に軸71を介して回転可能に支持された略L字状の揺動アーム73と、一端が保持部材70の側端面に固定された軸部材75に支持されるとともに他端が揺動アーム73の短辺側中間部に支持されたコイルばね61とを備えて構成されている。頸部支持部20は、揺動アーム73の短辺側先端部にパッド78を介して上下方向に移動可能に設けられている一方、後頭部支持部21は、揺動アーム73の長片側上端部にパッド79を介して上下方向に移動可能に設けられている。
【0051】
第5の実施例においても、後頭部支持部21に後傾力が付与されたときに、揺動アーム73が反時計方向に回転することとなり、頸部支持部20が相対的に前方に移動して着座者Hの頸部を押圧若しくは圧迫することとなる。また、この実施例では、頸部支持部20及び後頭部支持部21を対応するパッド78,79に対して上下方向にスライド操作することで、位置調整も容易に行うことが可能となる。
【0052】
[第6実施例]
図11には、本発明の第6の実施例が示されている。この実施例は、背部15を縦フレーム17に対して後傾できるようにして頸部支持部20を相対的に前方に移動可能としたものである。すなわち、縦フレーム17の内側面に前後方向に沿うガイドブロック80が設けられ、当該ガイドブロック80の内面側に溝81が形成されている。この一方、座部15の側端面には、溝81内に受容される凸部82が設けられ、当該凸部82が溝81によって規制されるストローク内で背部15が前後に移動可能となっている。また、ガイドブロック80の若干下方位置において、背部15の左右両側(図11中紙面直交方向両側)に位置する各縦フレーム17には、常時は、背部15を実線位置に保つバンド83が掛け渡されている。このバンド83は所定の伸縮可能な弾力を備えた帯状のゴムバンド等によって構成されており、当該バンド83の弾性によって背部15が後傾する際の抵抗が付与可能となっている。
【0053】
従って、このような第6の実施例によれば、着座者Hが背部15に凭れかかるように後傾したときに、頸部支持部20が相対的に前方に移動した状態が得られ、これによって、着座者Hの頸部を押圧若しくは圧迫することが可能となる。
【0054】
[第7実施例]
図12には、本発明の第7の実施例が示されている。この実施例は、頸部支持部20を他動的且つ周期的に前後に移動可能に設けたところに特徴を有する。具体的には、上部ブロック28の後面(図12中左側面)にブラケット85を介してモーター若しくはエアシリンダ等からなる駆動装置86が配置されている。駆動装置86の出力軸87にはカム88が固定されており、当該カム88の外周面は頸部支持部20の後面に接触するように配置されている。なお、駆動装置86のON−OFF制御は、特に限定されるものではないが、図示しないリモートコントローラを介して行うことができる他、背部15に一定の後傾力が付与されたことを検知するスイッチ等を設けてON−OFF制御することも可能である。その他の構成は、後頭部支持部を有しない点を除き、第1の実施例と実質的に同様となっている。
【0055】
このような第7の実施例では、駆動装置86が駆動したときに、カム88は、その外周面の移動軌跡が前後方向に変位する状態で回転することとなる。従って、カム88の外周面に接する頸部支持部20の下部側は、当該頸部支持部20の上部に位置する回転軸29位置を回転中心として前後方向に揺れ動くように移動することとなり、これにより、頸部支持部20が前方に移動した状態で着座者Hの頸部を押圧若しくは圧迫することとなる。
【0056】
[第8実施例]
図13には、本発明の第8の実施例が示されている。この実施例は、第4の実施例(図9参照)の構成を基本的に採用しつつ、第7の実施例の動作を後頭部支持部21で実現できるようにした点に特徴を有する。具体的には、軸部材27の上端後面側に第7の実施例と同様にブラケット85を設けるとともに、駆動装置86を配置し、当該駆動装置86の出力軸87に固定されたカム88を後頭部支持部21の後面に接触するように配置したものである。この実施例では、頸部支持部20は軸部材27に対して連結桟90を介して固定されている。また、後頭部支持部21は、その下端部位置で駆動装置86に回転可能に連結されて前後方向に移動可能となっている。なお、図13中、符号95は、後頭部支持部21を初期位置に復帰させるためのばねを示す。
【0057】
従って、このような第8の実施例によれば、押圧若しくは圧迫する部位が第7の実施例と異なるだけで、実質的に第7の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0058】
なお、前記実施例では、頸部支持部20又は後頭部支持部21が背部15とは別体のタイプの椅子を示したが、これらが一体となるシェル構造を有する椅子にも適用することができる。例えば、後頭部支持部に対して後傾する方向への力が作用したときに、適宜な屈曲機構等を設けて頸部支持部が背部に対して相対的に前方移動できるような構成を採用することができる。具体的には、後頭部支持部と背部との中間に位置する頸部支持部の位置に、下方に湾曲した略U字状のスリット若しくはスロットを形成しておくことで、後頭部支持部に後傾力を付与したときに、U字状のスリット若しくはスロットで囲まれる内側領域が頸部方向に突出し、着座者の頸部を押圧若しくは圧迫する。この際、前記突出する領域にマッサージ用の突状部材を設けると一層効果的である。また、頸部支持領域にU字状のスリット若しくはスロットを上下方向に複数並べて設けると、後頭部傾倒時に頸部全体が前方に相対移動することとなり、単体で設けたときのような積極的な押圧ではなく、頸部を全体的にサポートすることができる。更に、本発明は、事務作業等に適した脚付きの椅子に限らず、脚なしの椅子、例えば、車両用の椅子や、座椅子、更には車椅子等にも適用することができる。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、背部に後傾力が付与されたときに、頸部支持部が背部に対して着座者の頸部側に相対移動可能に設けられる構成を採用したから、背部に後傾力を作用させることで頸部支持部が着座者の頸部を押圧若しくは圧迫するように作用するようになり、頸部後方側の筋疲労を効果的に解消するような心地良さを着座者に付与することが可能となる。
【0060】
また、後頭部支持部に後傾力が付与されたときに、前記頸部支持部が後頭部支持部に対して頸部側に相対移動する構成とした場合には、着座者の上半身全領域を後方から支えることができ、後頭部支持部に後傾力が加えられたときに、頸部が前方となるように側面視で略弓なりになる姿勢が得られ、本来の頸椎形状に略対応した矯正作用を着座者に付与して疲労感を一層和らげるように体感させることが可能となる。
【0061】
また、頸部支持部と後頭部支持部を単一の構造体からなる支持体により構成するとともに、当該支持体を回転可能に設けた構成によれば、後頭部から頸部領域を支える構成部材を最小化することができ、頸部支持部と後頭部支持部との相対移動を極めて簡単な構成によって実現することができる。
【0062】
更に、頸部支持部と後頭部支持部をそれぞれ独立した構造体とし、これらを所定の連結手段を介して相対的に移動可能に設けた構成では、頸部支持部の相対移動を確実に行うことが可能となる他、個々に位置調整を可能とする設計も採用し易くなる。
【0063】
また、頸部支持部を高さ位置調整可能に設けた構成によれば、着座者の個体差に応じた位置調整を行えるようになり、適用範囲に普遍性を持たせることが可能となる。
【0064】
更に、頸部支持部の下方に下部延長部を設けて肩部支持部を着脱自在に設けた構成を採用した場合には、肩部支持部も頸部支持部と同時に移動可能となり、肩部を押圧する作用をも得ることができ、一層の緊張緩和効果を期待することができる。
【0065】
また、頸部支持部を初期位置に保つ位置規制手段を設けた構成によれば、前述した傾倒力を付与しない平常時の着座姿勢で、後頭部支持部や頸部支持部の位置が安定して保たれるようになり、後頭部支持部や頸部支持部が不規則にぶらついてしまうような虞も回避することができる。
【0066】
更に、頸部支持部及び又は後頭部支持部の着座者側の面内に突状部材を着脱自在に設けた構成では、いわゆる「つぼ」を刺激するように利用でき、局所的なマッサージ効果を期待することができる。
【0067】
また、背部の上端から離れた上方に位置する頸部支持部又は後頭部支持部を周期的に前後に移動可能とした構成では、頸部又は後頭部を押圧若しくは圧迫する程度を規則的に変化させた心地良さを付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施例に係る椅子の全体の側面図
【図2】図1の要部拡大側面図
【図3】図2の正面図
【図4】図3のA−A線矢視拡大断面図
【図5】第2の実施例に係る椅子の要部側面図
【図6】図5の正面図
【図7】第3の実施例に係る椅子の要部側面図
【図8】図7の正面図
【図9】第4の実施例に係る椅子の要部側面図
【図10】第5の実施例に係る椅子の要部側面図
【図11】第6の実施例に係る椅子の要部側面図。
【図12】第7の実施例に係る椅子の要部側面図。
【図13】第8の実施例に係る椅子の要部側面図。
【符号の説明】
10 椅子
13 座部
15 背部
16 支持体
20 頸部支持部
20A 下部延長部
21 後頭部支持部
24 突状部材
36 コイルばね
39 肩部支持部
45 上部連結部材
50 リンク機構
61 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部と、この座部の後部に位置する背部と、着座する者の頸部領域に対応する頸部支持部とを備え、
前記背部に後傾力が付与されたときに、前記頸部支持部が背部に対して着座者の頸部側に相対移動可能に設けられていることを特徴とする椅子。
【請求項2】
座部と、この座部の後部に位置する背部と、着座する者の頸部領域に対応する頸部支持部と、この頸部支持部の上部に設けられた後頭部支持部とを備え、
前記後頭部支持部に後傾力が付与されたときに、前記頸部支持部が後頭部支持部に対して頸部側に相対移動可能に設けられていることを特徴とする椅子。
【請求項3】
前記頸部支持部と後頭部支持部は、単一の構造体からなる支持体により構成され、この支持体は、上下方向における所定位置を回転中心として回転可能に設けられていることを特徴とする請求項2記載の椅子。
【請求項4】
前記頸部支持部と後頭部支持部はそれぞれ独立した構造体により構成され、これら頸部支持部及び後頭部支持部は、所定の連結手段を介して相対移動可能に設けられていることを特徴とする請求項2記載の椅子。
【請求項5】
前記頸部支持部は高さ位置調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1,2,3又は4記載の椅子。
【請求項6】
前記頸部支持部の下方に下部延長部が設けられ、当該下部延長部の両側に肩部支持部が設けられていることを特徴とする請求項2ないし5の何れかに記載の椅子。
【請求項7】
前記頸部支持部を常時は初期位置に保つ位置規制手段を更に含むことを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の椅子。
【請求項8】
前記頸部支持部及び又は後頭部支持部の着座者側の面内に突状部材が着脱自在に設けられていることを特徴とする請求項2ないし7の何れかに記載の椅子。
【請求項9】
座部と、この座部の後部に位置する背部と、当該背部の上端から離れた上方に位置するとともに、着座する者の頸部領域に対応する頸部支持部とを備え、
前記頸部支持部は周期的に前後に移動可能に設けられていることを特徴とする椅子。
【請求項10】
座部と、この座部の後部に位置する背部と、当該背部の上端から離れた上方に位置するとともに、着座する者の後頭部領域に対応する後頭部支持部とを備え、
前記後頭部支持部は周期的に前後に移動可能に設けられていることを特徴とする椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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