説明

植毛用水分散型接着剤

【課題】接着性に優れると共にその環境への影響が小さい水分散型接着剤の提供。
【解決手段】アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を含む単量体混合物から形成された共重合体を含む水分散型樹脂組成物Aと、ポリオレフィン変性物を含む水分散型樹脂組成物Bとを含有しており、この水分散型樹脂組成物Aの固形分質量の、この水分散型樹脂組成物Bの固形分質量に対する比が、40/60以上95/5以下であり、上記ポリオレフィン変性物の軟化点が、60℃以上である植毛用水分散型接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植毛用水分散型接着剤に関する。詳細には、本発明は、ポリオレフィン製の基材に短繊維を植え付けるために使用する植毛用水分散型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車の内装に柔軟な感触及び高級感を付与するために、熱可塑性樹脂のような樹脂から形成された基材に、植毛加工(フロック加工とも称される)が施される場合がある。
【0003】
この植毛加工では、基材に接着剤を塗布し、短繊維が植え付けられる。この接着剤には、主としてアクリル系の接着剤が用いられる。
【0004】
コスト低減及び軽量化の観点から、上記熱可塑性樹脂としてポリプロピレンのようなポリオレフィンの採用が検討されている。ポリオレフィンから形成された基材には、前述の、アクリル系の接着剤は密着しにくい。接着性改善の観点から、プライマーによる前処理が施される。このような前処理工程の追加は、生産性を阻害してしまう。
【0005】
プライマーの多くは、分散媒として溶剤を含む。溶剤は、環境汚染、火災等の原因になりやすいという問題もある。
【0006】
自動車業界では、利用者の健康阻害を防止するという観点から、シックハウス症候群の対象である13物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸−n−ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド及びフェノブカルブ)に対する規制が厳しくなっている。
【0007】
前述のような事情に鑑みて、生産コストの低減又は環境等への影響が配慮された、プライマー処理を必要としない水分散型接着剤の開発が検討されている。この検討例が、特開平1−153777号公報、特開平01−107869号公報、特開2003−313387公報、特開平5−287251号公報及び特開平7−173347号公報に開示されている。
【特許文献1】特開平1−153777号公報
【特許文献2】特開平01−107869号公報
【特許文献3】特開2003−313387公報
【特許文献4】特開平5−287251号公報
【特許文献5】特開平7−173347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特開平1−153777号公報には、水性エマルジョンからなる水性接着剤組成物が開示されている。この組成物は、プライマー処理を要しない。しかし、この組成物は、キシレンを含む。この組成物には、環境への影響が十分に配慮されていないという問題がある。
【0009】
上記特開平01−107869号公報には、ポリオレフィンから形成された成形品用の植毛用バインダー組成物が開示されている。この組成物もプライマー処理を要しないが、トルエンを含む。この組成物にも、環境への影響が十分に配慮されていないという問題がある。
【0010】
上記特開2003−313387公報には、植毛用水分散型樹脂組成物が開示されている。この組成物もプライマー処理を要しないが、キシレン及びスチレンを含む。この組成物にも、環境への影響が十分に配慮されていないという問題がある。
【0011】
上記特開平5−287251号公報には、水分散型植毛用接着剤が開示されている。この組成物はプライマー処理を要しない上に、溶剤を含まない。しかし、この接着剤を用いて植毛加工が施された場合、塗膜が容易に剥離する上に植毛された短繊維の保持性は十分でない。この接着剤で植毛加工された装飾部材の耐摩耗性は、不十分である。
【0012】
上記特開平7−173347号公報には、水分散型ポリオレフィン系樹脂エマルジョン組成物が開示されている。この接着剤を用いて植毛加工が施された場合も、塗膜が容易に剥離する上に植毛された短繊維の保持性は十分でない。この接着剤で植毛加工された装飾部材の耐摩耗性は、不十分である。
【0013】
本発明の目的は、接着性に優れると共にその環境への影響が小さい水分散型接着剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る植毛用水分散型接着剤は、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を含む単量体混合物から形成された共重合体を含む水分散型樹脂組成物Aと、ポリオレフィン変性物を含む水分散型樹脂組成物Bとを含有している。この水分散型樹脂組成物Aの固形分質量の、この水分散型樹脂組成物Bの固形分質量に対する比は、40/60以上95/5以下である。上記ポリオレフィン変性物の軟化点は、60℃以上である。
【0015】
好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、上記ポリオレフィン変性物は塩素化ポリプロピレンである。好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、上記共重合体のガラス転移温度は5℃以上50℃以下である。
【0016】
好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、上記水分散型組成物Aは分散体aを含んでおいる。この分散体aの表面は、この分散体aの中心とは異なる組成を有している。好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、上記分散体aの中心のガラス転移温度とこの分散体aの表面のガラス転移温度との差の絶対値は10℃以上100℃以下である。
【0017】
好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、そのシックハウス症候群対象物質の含有量は1%未満である。好ましくは、植毛用水分散型接着剤では、JIS K 5600−5−6に準拠した碁盤目試験による付着性に関する評価点数は0以上2以下である。JIS L 1098に準拠した耐摩耗性試験において、異状は認められない。
【0018】
本発明に係る装飾部材は、基材と、この基材に塗布された植毛用水分散型接着剤から形成された塗膜と、この塗膜に固定された表面層とを備えている。この表面層は、短繊維から構成されている。この植毛用水分散型接着剤は、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を含む単量体混合物から形成された共重合体を含む水分散型樹脂組成物Aと、ポリオレフィン変性物を含む水分散型樹脂組成物Bとを含有している。この水分散型樹脂組成物Aの固形分質量の、この水分散型樹脂組成物Bの固形分質量に対する比は、40/60以上95/5以下である。上記ポリオレフィン変性物の軟化点が、60℃以上である。
【0019】
好ましくは、この装飾部材では、上記基材の材質はポリオレフィンである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る水分散型接着剤では、アクリルニトリルを含む単量体混合物から形成された共重合体及びポリオレフィン変性物の相乗効果により、接着性が効果的に向上されている。この接着剤により形成された塗膜は、基材と十分に密着する上に、短繊維から構成される表面層を十分に保持しうる。この接着剤を用いて植毛加工された装飾部材は、優れた耐摩耗性を有する。この接着剤はプライマーによる前処理を必要としない上に、その分散媒が水であるから、この接着剤が環境に与える影響は小さい。この接着剤によれば、上記前処理工程が省略されうるので、生産性が向上しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0022】
本発明の一実施形態に係る植毛用水分散型接着剤は、水分散型樹脂組成物Aと、水分散型樹脂組成物Bとを含有している。この水分散型樹脂組成物A(以下、組成物A)は、水と、分散体aとを含んでいる。分散体aは、水に分散している。換言すれば、組成物Aは、水を分散媒とした乳濁液(エマルジョン)である。この組成物Aが、その分散媒が水とされた懸濁液(サスペンジョン)とされてもよい。本発明では、蒸留水、イオン交換水、純水等がこの水として用いられる。なお、この水に、水以外の成分が含まれていてもよい。
【0023】
分散体aは、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体から形成された共重合体を含んでいる。この分散体aの形状は、特に制限されない。この形状としては、球状が例示される。分散体aの凝集が抑制され分散体aが良好に水に分散しうるという観点から、この分散体aの粒子径は10nm以上が好ましい。接着性の観点から、1μm以下であるのが好ましい。この粒子径は、透過型電子顕微鏡で撮影された画像に含まれる多数の分散体aから無作為に選定された100個の分散体aのそれぞれについて計測された粒子径の平均値で示される。
【0024】
水分散型樹脂組成物B(以下、組成物B)は、ポリオレフィン変性物を含む。この組成物Bは、水を分散媒とした乳濁液(エマルジョン)又は懸濁液(サスペンジョン)である。このポリオレフィン変性物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のようなポリオレフィンの側鎖が化学的に修飾された化合物である。このポリオレフィン変性物としては、その側鎖が塩素化されたポリオレフィン、その側鎖に無水マレイン酸等の酸無水物が導入されたポリオレフィン、その側鎖に(メタ)アクリル酸又はそのエステル等の不飽和カルボン酸が導入されたポリオレフィン及びその側鎖にN−ビニルアルキルアミド等が導入されたポリオレフィンが例示される。接着性の観点から、このポリオレフィン変性物としては、その側鎖が塩素化されたポリオレフィンが好ましい。具体的には、このポリオレフィン変性物としては、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、塩素化ポリブテン及びエチレン−プロピレン共重合体の塩素化物が例示される。接着性に効果的に寄与しうるという観点から、このポリオレフィン組成物は塩素化ポリプロピレンであるのが特に好ましい。
【0025】
この接着剤では、上記組成物Bとして、ポリオレフィン変性物を含む市販のエマルジョンが用いられてもよい。このエマルジョンとしては、日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロン」のグレード「E−723」、「E−673」、「E−503」、「E−633」、「S−4032」及び「S−4044」並びにその商品名「アウローレン」のグレード「100S」、「150S」、「200S」、「250S」、「350S」及び「AE201」が例示される。さらにこの組成物Bとして、東洋化成工業株式会社製の商品名「ハードレン EH202」が例示される。
【0026】
本発明の植毛用水分散型接着剤は、例えば、
(1)アクリロニトリルと他の不飽和単量体とを混合して単量体混合物を準備する工程と、
(2)この単量体混合物を重合し、組成物Aを得る工程と、
(3)ポリオレフィン変性物を含む組成物Bを準備する工程と、
(4)この組成物Aと組成物Bとを混合して、接着剤を得る工程
とを含む製造方法で製造される。
【0027】
上記準備工程では、蒸留水と、アクリロニトリルと、他の不飽和単量体とが計量され、これらが所定の容器に投入される。蒸留水、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体は、十分に攪拌され、混合される。これにより、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を有する単量体混合物が準備される。この単量体混合物には、他の不飽和単量体が1種類の不飽和単量体から構成されてもよいし、種類が異なる複数の不飽和単量体から構成されてもよい。この他の不飽和単量体を構成する不飽和単量体の種類、その組み合わせ等は、接着剤の仕様等が考慮されて適宜決められる。
【0028】
この接着剤では、上記不飽和単量体は、アクリロニトリルと共重合可能な単量体である。この不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリルアミド、スチレン、メチルスチレン、メタクリロニトリル、(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、グリシジル基を有するモノマー、ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレート、トリシクロデカン骨格を有する(メタ)アクリレート、ケト基を有するモノマー、1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマー及び不飽和有機シランが例示される。
【0029】
上記(メタ)アクリレートには、アクリレート及びメタクリレートが含まれる。この(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、単環式アルキルエステル、アルコキシエステル、アルキルフェノキシエステル、ジアルキルフェノキシエステル、アルキルカルボニルオキシエステル及び[R−CO−(OR)x−Ry(R及びR=アルキル基、x及びy=整数)]で示されるアルキルアルコキシエステルが例示される。より詳細には、この(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ベヘニル、ドコシル(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキシドジ(メタ)アクリレート、アリルメタクリルエステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート及びシクロヘキシル(メタ)アクリレートが例示される。
【0030】
上記(メタ)アクリルアミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、アセトンアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−ヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−ニトロフェニルアクリルアミド及びN−エチル−N−フェニルアクリルアミドが例示される。
【0031】
上記グリシジル基を含有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸グリシジル、ジグリシジルフマレート、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシル、3,4−エポキシビニルシクロヘキサン及び(メタ)アクリル酸−β−メチルグリシジルが例示される。
【0032】
上記ジシクロペンタジエン骨格を有する(メタ)アクリレートとしては、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート及びジシクロペンタニルメタクリレートが例示される。
【0033】
上記ケト基を有するモノマーとしては、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、4−ビニルアセトアセトアニリド及びアセトアセチルアリルアミドが例示される。
【0034】
上記1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーに含まれるアミノ基としては、ヒドラジン型のアミノ基が好ましく、特にヒドラジド、セミカルバジド又はカルボヒドラジド構造を有するアミノ基が好ましい。この1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマーとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、メタキシレンジアミン、ノルボルナンジアミン及び1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンが例示される。ヒドラジン型のアミノ基を2個以上有するモノマーとしては、ヒドラジン及びその塩;カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド等のポリカルボン酸ヒドラジド類;4,4’−エチレンジセミカルバジド、4,4’−ヘキサメチレンジセミカルバジド等のポリイソシアネートとヒドラジンとの反応物及びポリアクリル酸ヒドラジド等のポリマー型ヒドラジドが例示される。
【0035】
上記不飽和有機シランは、アクリロニトリルと共重合可能な化合物である。この不飽和有機シランは、ビニル基、アリル基、メタクリロイルオキシ基又はアクリロイルオキシ基を有する。この不飽和有機シランとしては、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルアセトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン及びγ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示される。具体的には、この不飽和有機シランとしては、信越化学工業株式会社製の商品名「KA1003」、「KBM1003」、「KBE1003」、「KBC1003」、「KBM1063」、「KBM1103」、「KBM1203」、「KBM1303」、「KBM1403」、「KBM503」、「KBE503」、「KBM502」、「KBE502」、「KBM5103」、「KBM5102」及び「KBM5403」が例示される。さらに、この不飽和有機シランとしては、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6075」、「Z−6172」、「Z−6300」、「Z−6519」、「Z−6550」、「Z−6625」、「Z−6030」、「Z−6033」、「Z−6036」、「Z−6530」及び「Z−6806」が例示される。
【0036】
この接着剤では、上記ケト基を有するモノマー、上記1級アミノ基を分子内に2個以上有するモノマー及び上記不飽和有機シランのそれぞれは、単量体混合物の準備工程で添加されてもよいし、組成物Aと組成物Bとの混合工程で添加されてもよいし、この混合工程で得られる接着剤に添加されてもよい。
【0037】
この接着剤では、上記単量体混合物が有機シランをさらに含んでもよい。この有機シランとしては、アミノシラン、ウレイドシラン、エポキシシラン、スルフィドシラン、メルカプトシラン、ケチミノシラン、アルキルシラン、アルコキシシラン、フェニルシラン、フロロシラン又はイソシアネート基を有するシランが例示される。具体的には、この有機シランとしては、信越化学工業株式会社製の商品名「KBM303」、「KBM403」、「KBE402」、「KBM602」、「KBM603」、「KBE603」、「KBM903」、「KBE903」、「KBM573」、「KBM703」、「KBM803」、「KBE9007」、「KBM5103」及び「X−12−817H」が例示される。さらに、この有機シランとしては、東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6011」、「Z−6020」、「Z−6023」、「Z−6026」、「Z−6032」、「Z−6050」、「Z−6094」、「Z−6610」、「Z−6883」、「AZ−720」、「Z−6675」、「Z−6676」、「Z−6040」、「Z−6041」、「Z−6042」、「Z−6044」、「Z−6043」、「Z−6920」、「Z−6940」、「Z−6948」、「Z−6062」、「Z−6911」、「Z−6860」、「DC−5700」、「Z−6806」、「ACS−8」、「Z−2306」、「Z−6013」、「Z−6187」、「Z−6210」、「Z−6258」、「Z−6265」、「Z−6275」、「Z−6288」、「Z−6321」、「Z−6329」、「Z−6341」、「Z−6366」、「Z−6383」、「Z−6582」、「Z−6586」、「Z−6721」、「Z−6697」、「Z−6830」、「Z−6047」、「Z−6800」、「Z−6333」、「Z−1211」、「Z−1219」、「Z−1224」及び「Z−6079」が例示される。この有機シランは、単量体混合物の重合工程で添加されてもよいし、組成物Aと組成物Bとの混合工程で添加されてもよいし、この混合工程で得られる接着剤に添加されてもよい。
【0038】
前述のようにして準備された単量体混合物は、重合工程において、重合される。この重合により、上記分散体aを含む組成物Aが得られる。この重合の方法としては、温度調節が容易であるという観点から、乳化重合及び懸濁重合が例示される。ハンドリングの観点から、この重合方法としては、乳化重合が好ましい。なお、重合温度、反応時間、攪拌速度等は、接着剤の仕様等が考慮されて適宜決められる。この接着剤は、回分式に製造されてもよいし、連続式に製造されてもよい。
【0039】
この製造方法では、上記単量体混合物は、45℃以上95℃以下の温度下で、重合開始剤を用いて重合されるのが好ましい。これにより、分散体aが均一に分散した組成物Aが得られうる。この製造方法によれば、組成物Aは懸濁液又は乳濁液として得られうる。
【0040】
上記重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル及びその塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系重合開始剤、過酸化水素、水溶性無機過酸化物、水溶性還元剤及び水溶性無機過酸化物の複合体並びに水溶性還元剤及び有機過酸化物の複合体が例示される。
【0041】
上記水溶性無機過酸化物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが例示される。
【0042】
上記水溶性還元剤は、通常、ラジカル酸化還元重合触媒として用いられる。この還元剤は水に可溶しうる。この還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、ピロリン酸第一鉄、二酸化チオ尿素、スルフィン酸、エリソルビン酸、L−アスコルビン酸とそのナトリウム塩、L−アスコルビン酸とそのカリウム塩、L−アスコルビン酸とそのカルシウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸とそのカリウム塩、エチレンジアミン四酢酸と重金属(例えば、鉄、銅、クロム等)との錯化合物、エチレンジアミン四酢酸の塩と重金属(例えば、鉄、銅、クロム等)との錯化合物及び還元糖が例示される。
【0043】
上記水溶性有機過酸化物としては、クメンヒドロペルオキシド、p−サイメンヒドロペルオキシド、t−ブチルイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、デカリンヒドロペルオキシド、t−アミルヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、イソプロピルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類が例示される。
【0044】
上記単量体混合物が、連鎖移動剤をさらに含んでもよい。この連鎖移動剤は、この単量体混合物の重合により得られる共重合体の分子量を調整しうる。この連鎖移動剤としては、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタン類、炭素数1から4のアルコール類、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−5−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー、2−メルカプトエタノール及びメタリルスルホン酸ナトリウムが例示される。
【0045】
この製造方法では、上記重合方法として、乳化重合が選定される場合、乳化剤が用いられる。この乳化剤の使用により、乳濁液が形成される。この乳化剤は、上記単量体混合物に含まれるアクリロニトリル等の単量体を水に分散させうる。この乳化剤は、界面活性剤である。この製造方法では、重合反応に影響しない界面活性剤であれば、乳化剤として特に制限されない。この乳化剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤が例示される。この乳化剤は、上記単量体の準備工程で添加されてもよいし、上記重合工程で添加されてもよいし、後述する組成物Aと組成物Bとの混合工程で添加されてもよい。
【0046】
上記アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル、ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル等の硫酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。この硫酸エステルの塩類としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、高級アルコールリン酸エステル等のリン酸エステルのアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このリン酸エステルの塩類としては、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸モノエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ジエステル(エチレンオキシドの付加モル数は2から100、アルキル鎖の炭素数は6から22)のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、アルキルスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸、α−スルホン化脂肪酸、α−スルホン化脂肪酸エステル等のスルホン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩及びアミン塩が例示される。このアニオン性界面活性剤としては、さらに、ドデシルベンゼンスルホン酸及び脂肪酸のアルカリ金属塩が例示される。このアニオン性界面活性剤は、単独で用いられてもよく、複数のアニオン性界面活性剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0047】
上記ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレン鎖をその分子内に有し、界面活性能を有するポリオキシエチレン鎖含有化合物が例示される。このノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルグリセリンホウ酸エステル、多価アルコールの部分脂肪酸エステルのエチレンオキシドの付加物及び脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物が例示される。このノニオン性界面活性剤としては、前述のポリオキシエチレン鎖が、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとが共重合され得られるポリアルキレンオキシド鎖とされた化合物が用いられてもよい。この場合、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとが共重合され得られる共重合体が、ブロック共重合体とされてもよいし、ランダム共重合体とされてもよい。このノニオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸グリセリンエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトールの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル及びアルカノールアミン類の脂肪酸アミドが例示される。このノニオン性界面活性剤は、単独で使用されてもよいし、複数のノニオン性界面活性剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0048】
上記乳化剤として、重合性乳化剤が用いられてもよい。この重合性乳化剤としては、ビニルスルホン酸ナトリウム、t−ブチルアクリルアミドスルホン酸のナトリウム塩及びアンモニウム塩、ポリエチレンオキシドノニルプロペニルエーテルサルフェートのナトリウム塩及びアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びその硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びその硫酸エステル塩並びにポリオキシアルキレンアルケニルエーテル及びその硫酸アンモニウム塩が例示される。このような重合性乳化剤としては、乳化重合に使用できるものであればよく、アニオン型反応性乳化剤及びノニオン型反応性乳化剤が例示される。このアニオン型反応性乳化剤としては、第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロン」のグレード「HS−10」、「BC−10」、「KH−10」及びその商品名「ニューフロンティア A−229E」;株式会社ADEKA製の商品名「アデカリアソープ」のグレード「SE−3N」、「SE−5N」、「SE−10N」、「SE−20N」及び「SE−30N」;日本乳化剤株式界社製の商品名「Antox」のグレード「MS−60」、「MS−2N」、「RA−1120」及び「RA−2614」;三洋化成工業株式会社製の商品名「エレミノール」のグレード「JS−2」及び「RS−30」及び花王株式会社製の商品名「ラテムル」のグレード「S−120A」、「S−180A」及び「S−180」が例示される。上記ノニオン型反応性乳化剤としては、第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロン」のグレード「RN−20」、「RN−30」、「RN−50」及びその商品名「ニューフロンティア N−177E」;株式会社ADEKA製の商品名「アデカリアソープ」のグレード「NE−10」、「NE−20」、「NE−30」及び「NE−40」;日本乳化剤株式界社製の商品名「RMA−564」、「RMA−568」及び「RMA−1114」及び新中村化学工業株式会社製の商品名「NKエステル」のグレード「M−20G」、「M−40G」、「M−90G」及び「M−230G」が例示される。この乳化剤は、単独で使用されてもよく、複数の乳化剤が組み合わされて使用されてもよい。
【0049】
この接着剤では、上記組成物Aは、必要に応じて、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン、エポキシエマルジョン、無機系着色顔料、有機系着色顔料、体質顔料、界面活性剤、中和剤、可塑剤、架橋剤、防腐剤、ぬれ剤、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、凍結防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含みうる。この添加剤は単独で使用されてもよいし、複数の添加剤が組み合わされて使用されてもよい。この製造方法では、これら添加剤のそれぞれは、上記単量体混合物の準備工程で添加されてもよいし、上記組成物Aと組成物Bとの混合工程で添加されてもよいし、この混合工程で得られた接着剤に添加されてもよい。
【0050】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、ベンゾオキシサジン系、サリチル酸フェニルエステル系及びヒンダートアミン系の添加剤が例示される。ヒンダートアミン系の添加剤は、光安定剤とも称される。このヒンダートアミン系の添加剤としては、グリセロールエステル系、α、β−不飽和カルボン酸エステル系、カルボン酸エステル系及びジカルボン酸エステル系が例示される。この紫外線吸収剤としては、ベンゾオキシサジン系の2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)等、サリチル酸フェニルエステル系のt−ブチルフェニルサリチル酸エステル、オクチルフェニルサリチル酸エステル等以外に、2−ヒドロキシ−4−(2’メタクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2’−アクリロイルオキシエトキシ)ベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−(5’−アクリロイルオキシエトキシ−2’−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールが例示される。より詳細には、この紫外線吸収剤としては、株式会社ADEKA製の商品名「アデカスタブ」のグレード「LA−52」、「LA−57」、「LA−62」、「LA−67」、「LA−63」、「LA−68LD」、「LA−77Y」、「LA−77G」、「LA−82」、「LA−87」、「LA402XP」、「LA−502XP」、「LA−601」及び「LA−602」が例示される。さらに、この紫外線吸収剤としては、チバ・ジャパン株式会社製の商品名「TINUVIN PS」、「TINUVIN 99−2」、「TINUVIN 109」、「TINUVIN 384−2」、「TINUVIN 900」、「TINUVIN 928」、「TINUVIN 1130」、「TINUVIN 5236」、「TINUVIN 400」、「TINUVIN 405」、「TINUVIN 460」、「TINUVIN 477DW」、「TINUVIN 479」、「TINUVIN 111FDL」、「TINUVIN 123」、「TINUVIN 144」、「TINUVIN 152」、「TINUVIN 292」、「TINUVIN 5100」、「TINUVIN 5050」、「TINUVIN 5060」、「TINUVIN 5151」、「LIGNOSTAB 1198」、「TINUVIN P/FL」、「TINUVIN 234」、「TINUVIN 326/FL」、「TINUVIN 328」、「TINUVIN 329/FL」、「TINUVIN 213」、「TINUVIN 571」、「TINUVIN 1577FF」、「CHIMASSORB 81/FL」、「TINUVIN 120」、「CHIMASSORB 119FL」、「CHIMASSORB 2020FDL」、「CHIMASSORB 944FDL」、「TINUVIN 622LD」、「TINUVIN 144」、「TINUVIN 765」、「TINUVIN 770DF」、「TINUVIN 111FDL」、「TINUVIN 783FDL」、「TINUVIN 791FB」、「TINUVIN 850FF」、「TINUVIN 855FF」、「TINUVIN 494AR」、「TINUVIN NOR 371FF」及び「TINUVIN B75」が例示される。
【0051】
この製造方法では、上記組成物Bが準備され、混合工程において、この組成物Bと上記重合工程で得られた組成物Aとが混合され、接着剤が得られる。後述するように、この接着剤では、組成物Aの固形分質量の、組成物Bの固形分質量に対して所定の比となるように、組成物Aと組成物Bとが混合される。
【0052】
この接着剤では、作業性の観点から、粘性調整剤が添加されその粘度が調整されてもよい。この接着剤では、接着剤の性能阻害をしないよう、上記粘性調整剤の配合量は少量とされうる。
【0053】
上記粘性調整剤としては、アセチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロースのようなセルロース誘導体、カゼイン、アラビアゴム、トラガカントゴム、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸−アクリルアミド共重合体及びメタクリル酸−アクリレート共重合体のような水溶性高分子が例示される。より詳細には、この粘性調整剤としては、東洋化学株式会社製の商品名「トヨゾールRL1001」及びヘンケルテクノロジーズジャパン株式会社製の商品名「KA10」のようなアルカリ増粘タイプの調整剤並びに株式会社ADEKA製の商品名「アデカノールUH438」のような会合タイプが例示される。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態に係る装飾部材2の一部が示された拡大断面図である。この装飾部材2は、乗用車の内装を構成しうる。この装飾部材2は、この内装に柔軟な感触及び高級感を付与しうる。この装飾部材2が適用される乗用車の内装としては、特に制限されないが、ドアトリム、ピラーカバー、トランクサイド、トランクリヤ、シートバックパネル、シートリヤパネル、リヤーパセル、ヘッドライニング、コンソールボックス及びインスツルメントパネルが例示される。この装飾部材2は、基材4と、表面層6と、塗膜8とを備えている。
【0055】
基材4は、熱可塑性樹脂を含む樹脂組成物から形成される。この基材4の形成方法としては、圧縮成形及び射出成形が挙げられる。基材4の形状、サイズ等が考慮され、適切な形成方法が選定される。上記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン及びアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体が例示される。汎用性及び加工性の観点から、ポリオレフィンが好ましい。再生品の利用が容易との観点から、このポリオレフィンとしては、ポリプロピレンが好ましい。この装飾部材2では、上記樹脂組成物は充填剤を含みうる。この充填剤としては、ガラス繊維、炭酸カルシウム及びタルクが例示される。上記樹脂組成物は、改質剤を含んでもよい。この改質剤としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンオキサイド、ナイロン及びポリエステルが例示される。なお、この基材4が、繊維から形成された織布等から構成されてもよい。
【0056】
表面層6は、繊維からなる。この装飾部材2では、この表面層6は、多数の短繊維10から構成される。これら短繊維10のそれぞれは、上記塗膜8に植え付けられている。
【0057】
表面層6を構成する繊維としては、綿、羊毛、麻等の天然繊維、レーヨン繊維、蛋白繊維、ウレタン繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維及びオレフィン繊維が例示される。なお、この表面層6が、複数の繊維が混紡され得られる混紡繊維で構成されてもよい。
【0058】
表面層6は、上記内装の柔軟な感触及び高級感に寄与しうる。この観点から、上記短繊維10の長さは、0.1mm以上4mm以下であるのが好ましい。この短繊維10の繊度としては、0.1dtex以上15dtex以下であるのが好ましい。
【0059】
塗膜8は、上記基材4に積層されている。この塗膜8により、上記表面層6がこの基材4に固定されている。この塗膜8は、上記接着剤から形成されている。
【0060】
この装飾部材2は、次のようにして得られる。基材4の表面が、イソプロピルアルコール等の溶剤を用いて清浄される。清浄後、この表面に上記接着剤が塗布され、塗膜8が形成される。この塗布作業には、塗工機が使用される。この塗工機としては、スプレーコーター、ドクターナイフコーター、ロールコーター及びワイヤーコーターが例示される。表面層6が確実に固定されるという観点から、基材4に塗布される上記接着剤の乾燥質量は、10g/m以上が好ましく、30g/m以上がより好ましく、40g/m以上が特に好ましい。この接着剤の乾燥質量は、200g/m以下が好ましく、150g/m以下が好ましく、100g/m以下が特に好ましい。
【0061】
前述のようにして形成された塗膜8に、短繊維10が植え付けられる。この装飾部材2では、短繊維10は静電植毛される。なお、この植毛方法として、短繊維10と共にスプレーコーティングする方法が用いられてもよい。植毛後、乾燥が施される。乾燥温度は、50℃以上100℃以下とされるのが好ましい。乾燥時間は、10分以上60分以下とされるのが好ましい。乾燥後、ブラッシングが施され、植毛加工された装飾部材2が得られうる。
【0062】
この装飾部材2では、塗膜8には、アクリルニトリルを含む単量体混合物から形成された共重合体と、ポリオレフィン変性物とが含まれている。この共重合体とポリオレフィン変性物との相乗効果により、塗膜8の接着性が効果的に向上されている。この塗膜8は、基材4に十分に密着しているから、この基材4から容易に剥がれない。この塗膜8は、短繊維10の保持性に優れる。この塗膜8は、基材4と表面層6とを良好に接着しうる。この装飾部材2は、優れた耐摩耗性を有する。
【0063】
この装飾部材2では、塗膜8が接着性に優れるから、プライマーによる前処理をすることなく、植毛加工がなされうる。この接着剤は、プライマーによる前処理工程を必要としない。この接着剤は、装飾部材2の生産性向上に寄与しうる。
【0064】
この接着剤は、プライマーによる前処理を必要としない上に、その分散媒が水である。積極的な溶剤の使用が抑えられているから、この接着剤が環境に与える影響は小さい。
【0065】
この接着剤では、アクリロニトリルを含んだ分散体aを含む組成物Aが接着性に効果的に寄与しうる。この組成物Aの使用は、ポリオレフィン変性物を含む組成物Bの使用量の低減に寄与しうる。特に、この組成物Aの使用は、ポリオレフィン変性物としての塩素化ポリオレフィンを含む組成物Bの使用量の低減に寄与しうる。その塩素含有量が小さい接着剤は、燃焼時におけるダイオキシン等の発生を抑制しうる。このような接着剤は、環境への影響が配慮されている。
【0066】
この接着剤では、上記組成物Aの固形分質量の上記組成物Bの固形分質量に対する比は40/60以上95/5以下である。この比が40/60以上に設定された接着剤から形成された塗膜8は、基材4への密着性を損なうことなく優れた耐摩耗性を有する。この耐摩耗性の観点から、この比は50/50以上が好ましく、80/20以上がより好ましい。この比が95/5以下に設定された接着剤から形成された塗膜8は、耐摩耗性を損なうことなく優れた密着性を有する。この密着性の観点から、この比は90/10以下が特に好ましい。
【0067】
上記固形分質量は、次のようにして得られうる。組成物Aから、固形分質量の計測用にサンプルAが採取され、このサンプルAの質量が、乾燥前質量として計測される。このサンプルAが、その温度が105℃±2℃に調整された熱風循環式恒温槽で3時間乾燥される。サンプルAの乾燥物が、デシケータ内で十分に冷却される。冷却後、この乾燥物の質量が、乾燥後質量として計測される。乾燥後質量の乾燥前質量に対する比(固形分率)及び接着剤の製造に使用された組成物Aの質量に基づいて、接着剤に含まれる組成物Aの固形分質量が換算質量として計算される。組成物Bについても同様にして、接着剤に含まれる組成物Bの固形分質量が計算される。こうして得られた組成物Aの固形分質量と組成物Bの固形分質量に基づいて、上記組成物Aの固形分質量の組成物Bの固形分質量に対する比が得られうる。
【0068】
前述したように、この接着剤では、アクリロニトリルを含んだ分散体aを含む組成物Aが接着性に効果的に寄与しうる。この接着性の観点から、上記単量体混合物において、他の不飽和単量体の質量に対するアクリロニトリルの質量の比は2/98以上であるのが好ましい。上記短繊維10の保持性及び上記装飾部材2の耐摩耗性の観点から、この比は5/95以上がより好ましい。上記塗膜8の密着性の観点から、この比は30/70以下であるのが好ましく、20/80以下がより好ましい。
【0069】
この接着剤では、上記組成物Aに含まれる共重合体のガラス転移温度は、5℃以上50℃以下であるのが好ましい。このガラス転移温度が5℃以上に設定されることにより、この接着剤から形成された塗膜8の耐摩耗性が向上される。この耐摩耗性の観点から、このガラス転移温度は10℃以上がより好ましく、15℃以上が特に好ましい。このガラス転移温度が50℃以下に設定されることにより、塗膜8の形成時における亀裂等の発生が防止され、均一な塗膜8が得られうる。この均一な塗膜形成の観点から、このガラス転移温度は35℃以下がより好ましく30℃以下が特に好ましい。
【0070】
上記ガラス転移温度は、下記式(1)を用いて計算される。このガラス転移温度は、平均ガラス転移温度とも称される。この式(1)は、組成物Aの共重合体の重合に使用されたn種類の単量体(アクリロニトリルも含む)を重合して得られる共重合体のガラス転移温度Tgの計算式を表している。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・・W/Tg (1)
上記式(1)中、Tg、Tg、・・・及びTgは、n種類の単量体それぞれのガラス転移温度を表している。W、W、・・・Wは、n種類の単量体それぞれの質量の単量体混合物全質量に対する比(質量分率とも称される)を表している。本明細書では、これら単量体のガラス転移温度は、文献(三菱レーヨン社、アクリルエステルカタログ、1997年度版及び北岡協三、新高分子文庫7、塗料用合成樹脂入門、高分子刊行会、168−169、1997年)に記載の数値が採用される。これら単量体のガラス転移温度として、例えば、メチルアクリレート(MMAとも称される)が100℃、アクリロニトリル(ANとも称される)が100℃、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHAとも称される)が−70℃、シクロヘキシルメタクリレート(CHMAとも称される)が83℃そしてメタクリル酸(MAAとも称される)が130℃である。
【0071】
前述したように、この接着剤では、積極的な溶剤の使用が抑えられている。この接着剤では、揮発性有機化合物の含有量が少ない。より詳細には、揮発成分としてのホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸−n−ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド及びフェノブカルブの含有率は、1%未満である。これらは、シックハウス症候群の対象物質である。この接着剤によれば、シックハウス症候群の発症を防止しうる装飾部材2が得られうる。この接着剤は、環境阻害を防止しうる。
【0072】
この接着剤では、上記組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物の軟化点は、60℃以上である。この軟化点が60℃以上に設定されることにより、接着剤より形成された塗膜8が適度な剛性を保持しうる。この塗膜8は短繊維10の保持性及び装飾部材2の耐摩耗性に寄与しうる。この組成物Bがその軟化点が高いポリオレフィン組成物を含む場合、塗膜8は高温下で形成される。高温下で形成された塗膜8は脆いため、短繊維10の保持性及び装飾部材2の耐摩耗性が阻害されてしまう。汎用性の観点から、この軟化点は100℃以下であるのが好ましい。短繊維10の保持性及び装飾部材2の耐摩耗性の観点から、この軟化点は90℃以下であるのがより好ましい。
【0073】
上記軟化点は、ジェイサイエンス社製の商品名「微量融点測定装置MP−500D」を用いて測定される。
【0074】
この接着剤では、JIS K 5600−5−6に準拠した碁盤目試験による付着性(クロスカット法)の評価点数が0以上2以下であるのが好ましい。このような接着剤から形成された塗膜8は、基材4に良好に密着しうる。この塗膜8は基材4から剥がれにくい上に、表面層6を効果的に保持しうる。
【0075】
上記付着性の評価は、次のようにして実施される。上記基材4と同等の材質から形成された板状の試験片(幅12cm×長さ25cm×厚さ5mm)が準備される。この試験片をイソプロピルアルコールで脱脂した後、上記接着剤が塗布され、塗膜が形成される。カッター等を用いて、この塗膜の表面から試験片の表面に達する傷が碁盤目状に付けられる。この傷が付けられた塗膜の表面に、粘着テープが貼り付けられる。この粘着テープが剥がされたときの塗膜の付着状態が、目視で観察される。この観察において、カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない場合が分類0とされ、カットの交差点における塗膜に小さなはがれがあり、クロスカット部分で影響を受けるのが明確に5%を上回ることがない場合が分類1とされ、塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれており、クロスカット部分で影響を受けるのが明確に5%を超えるが15%を上回ることがない場合が分類2とされ、塗膜がカットの縁に沿って部分的または全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が部分的又は全面的にはがれており、クロスカット部分で影響を受けるのが明確に15%を超えるが35%を上回ることはない場合が分類3とされ、塗膜がカットの縁に沿って、部分的または全面的に大はがれを生じており、及び/又は数カ所の目が部分的または全面的にはがれており、クロスカット部分で影響を受けるのが明確に35%を上回ることがない場合が分類4とされ、そして、上記分類4でも分類できないはがれの程度が分類5とされる。本明細書では、これら分類の番号が評価点数である。この評価では、この評価点数が小さいほど、付着性が良好であることが示される。
【0076】
この接着剤では、JIS L 1098に準拠した耐摩耗性試験において異状が認められないのが好ましい。このような接着剤から形成された塗膜8は、短繊維10等からなる表面層6を効果的に保持しうる。
【0077】
上記耐摩耗性試験は、上記JIS L 1098に準拠したテーバ形法(摩耗強さC法)に基づいて実施される。より具体的には、上記基材4と同等の材質から形成された円盤状の試験片が準備される。この試験片をイソプロピルアルコールで脱脂した後、上記接着剤が塗布され、塗膜が形成される。そして、この塗膜に対して上記植毛加工が実施され、植毛加工が施された試験片が得られる。なお、本明細書では、耐摩耗性試験に使用される短繊維として、その長さが1mmでありその繊度が3.3dtexであるナイロン繊維が使用されている。
【0078】
この耐摩耗性試験では、上記試験片はテーバ形摩耗試験機に取り付けられる。この試験片に500gの荷重が付与され、70rpmの回転速度で回転される。その回転数が1000回に到達した時点で、試験片が試験機から回収され、その外観が目視で観察される。摩耗部分に存在する短繊維の状態に変化が認められない場合がA、短繊維の脱落、切れ等の発生が認められない場合がB、摩耗部分の全体面積に対して短繊維の脱落、切れ等の発生が認められた部分の面積の比率が40%未満である場合がCそしてこの比率が40%以上である場合がDとして示される。本明細書では、上記A及びBの評価結果が得られた場合が、外観に異状が認められない場合とされる。
【0079】
この接着剤では、複数の単量体混合物が準備されて上記組成物Aが形成されてもよい。この場合、組成物Aに含まれる分散体aが、それ自体の組成が同じであっても、その中心がその表面の組成とは異なる組成を有するように構成されてもよい。例えば、分散体aがその中心にアクリロニトリルを含みその表面がこのアクリロニトリルを含まないように構成されてもよい。この分散体aが、その表面にアクリロニトリルを含みその中心がこのアクリロニトリルを含まないように構成されてもよい。この分散体aが、その表面に含まれるアクリロニトリルの比率とその中心に含まれるアクリロニトリルの比率とが異なるように構成されてもよい。この分散体aが、その中心から表面に向かってアクリロニトリルの比率が変化するように構成されてもよい。このような分散体aの構造は、コア・シェル構造と称される。コア・シェル構造を有する分散体aは、上記塗膜8の密着性及び短繊維10の保持性の両立に効果的に寄与しうる。このような分散体aを含んだ組成物Aは、ポリオレフィン変性物を含む組成物Bの使用量の低減に効果的に寄与しうる。特に、この組成物Aの使用は、ポリオレフィン変性物としての塩素化ポリオレフィンを含む組成物Bの使用量の低減に寄与しうる。この分散体aの中心組成及び表面組成は、接着剤の仕様等が考慮されて決められる。
【0080】
上記コア・シェル構造を有する分散体aでは、その中心のガラス転移温度とその表面のガラス転移温度との差の絶対値は10℃以上100℃以下であるのが好ましい。この差の絶対値が10℃以上に設定されることにより、分散体aが塗膜の耐久性及び短繊維10の保持性に寄与しうる。この分散体aを含む接着剤によれば、耐摩耗性に優れる装飾部材が得られうる。この差の絶対値が100℃以下に設定されることにより、塗膜8の形成時における亀裂等の発生が抑えられ、均一な塗膜8が形成されうる。なお、なお、ガラス転移温度は、上記式(1)に基づいて計算される。特に、中心のガラス転移温度は、重合開始時の単量体混合物の組成に基づいて計算される。表面のガラス転移温度は、重合の終了時点における単量体混合物の組成に基づいて計算される。
【実施例】
【0081】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0082】
[実施例1]
[組成物Aの製造]
一の容器において、35質量部の蒸留水に、2.2質量部の乳化剤(第一工業製薬株式会社製の商品名「アクアロンHS−10」)を溶解させた。この溶解液に、8質量部のメチルアクリレート(MMAとも称される)、15質量部のアクリロニトリル(ANとも称される)、48質量部のシクロヘキシルメタクリレート(CHMAとも称される)、27質量部の2−エチルヘキシルアクリレート(2EHAとも称される)及び2質量部のメタクリル酸(MAAとも称される)を配合後、十分に攪拌し、AN及び他の不飽和単量体(MMA、CHMA、2EHA、MAA)を有する単量体混合物を含んだ乳化液を調整した。反応器において、130質量部の蒸留水に0.5質量部の上記「アクアロンHS−10」を溶解させ、混合液を得た後、この容器内を窒素で置換した。この反応器内の混合液を加温し、80℃に調整した。上記一の容器とは別の容器において、20質量部の蒸留水に0.5質量部の重合触媒としての過硫酸カリウム(KPSとも称される)を溶解させ、水溶液を得た。反応器内の混合液を攪拌しつつ、この混合液に上記一の容器の乳化液及び上記別の容器の水溶液を3時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、その固形分率が35質量%の組成物Aを得た。他の不飽和単量体の質量に対するアクリロニトリルの質量の比は、15/85とされた。
【0083】
[接着剤の製造]
組成物Bとして、日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−673」が準備された。この組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物は、塩素化ポリオレフィンであり、このポリオレフィン変性物の軟化点は90℃である。この組成物Bと上記組成物Aとが、上記組成物Aの固形分質量のこの組成物Bの固形分質量に対する比((組成物A)/(組成物B))が60/40となるように、混合され十分に攪拌された。粘度調整剤として東洋化学株式会社製の商品名「トヨゾールRL1001」が添加され、その粘度が3500mPa・sである実施例1の接着剤を得た。なお、B型粘度計(東京計器社製の商品名「BM」)を用いて、この接着剤のB型粘度がその温度が30℃とされ計測された。計測に際して、ローター(No.3又はNo.4)の回転数は60rpmとされた。
【0084】
[実施例2から4及び比較例1から2]
比((組成物A)/(組成物B))を下記表1の通りとした他は実施例1と同様にして、接着剤を得た。なお、実施例2のB型粘度は3200mPa・s、実施例3のB型粘度は3600mPa・s、実施例4のB型粘度は3800mPa・s、比較例1のB型粘度は4000mPa・s及び比較例2のB型粘度は3800mPa・sであった。
【0085】
[実施例8から11及び比較例3]
単量体混合物の組成を変えた他は実施例1と同様にして接着剤を得た。この比較例3の単量体混合物には、アクリロニトリルが配合されていない。なお、この実施例8のB型粘度は、4000mPa・sであった。この実施例9のB型粘度は、3300mPa・sであった。この実施例10のB型粘度は、3700mPa・sであった。この実施例11のB型粘度は、4200mPa・sであった。この比較例3のB型粘度は、4200mPa・sであった。
【0086】
[実施例5から7及び比較例4]
組成物Bを変えた他は実施例1と同様にして接着剤を得た。実施例5では、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−723」が準備された。この組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物は塩素化ポリオレフィンであり、このポリオレフィン変性物の軟化点は80℃である。実施例5のB型粘度は、3500mPa・sであった。実施例6では、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−503」が準備された。この組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物は塩素化ポリオレフィンであり、このポリオレフィン変性物の軟化点は70℃である。実施例6のB型粘度は、4000mPa・sであった。実施例7では、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−415」が準備された。この組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物は塩素化ポリオレフィンであり、このポリオレフィン変性物の軟化点は60℃である。実施例7のB型粘度は、3600mPa・sであった。比較例4では、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−773H」が準備された。この組成物Bに含まれるポリオレフィン変性物は塩素化ポリオレフィンであり、このポリオレフィン変性物の軟化点は50℃である。比較例4のB型粘度は、4100mPa・sであった。
【0087】
[実施例12及び13]
単量体混合物にさらに不飽和有機シラン(東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6030」)を0.3質量部配合して組成物Aを準備し、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−723」を準備し、この組成物Aと組成物Bとの混合工程において粘度調整剤と共に添加剤として有機シランを添加した他は実施例1と同様にして接着剤を得た。実施例12では、有機シランに東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6044」が添加された。実施例13では、有機シランに東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6023」が添加された。実施例12のB型粘度は、3400mPa・sであった。実施例13のB型粘度は、3800mPa・sであった。
【0088】
[実施例16]
21質量部の蒸留水に、1.5質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させた。この溶解液に、3質量部のMMA、9質量部のAN、34質量部のCHMA、23質量部の2EHA及び1質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、AN及び他の不飽和単量体(MMA、CHMA、2EHA、MAA)を有する単量体混合物を含んだ乳化液(1)を調整した。この乳化液(1)とは別に、9質量部の蒸留水に、0.7質量部の上記「アクアロンHS−10」)を溶解させた。この溶解液に、6質量部のMMA、6質量部のAN、14質量部のCHMA、3質量部の2EHA及び1質量部のMAAを配合後、十分に攪拌し、AN及び他の不飽和単量体(MMA、CHMA、2EHA、MAA)を有する単量体混合物を含んだ乳化液(2)を調整した。実施例1と同等の混合液を反応器内で加温し、80℃に調整した後、実施例1と同等のKPSが溶解した水溶液とともに、まずは乳化液(1)を2時間かけて添加し、その後乳化液(2)を1時間かけて添加した。添加終了後も、加温状態を保持しつつ3時間攪拌し続けた。このようにして、その固形分率が35質量%の組成物Aを得た。この組成物Aに含まれる分散体aの中心は、乳化液1(1)に含まれる単量体混合物の組成を有する。この分散体aの表面は、乳化液(2)に含まれる単量体混合物の組成を有する。この分散体aは、その中心がその表面の組成とは異なる組成を有するように構成されている。この分散体aは、コア・シェル構造を有している。このようにして組成物Aを得た他は実施例1と同様にして、実施例16の接着剤を得た。実施例14のB型粘度は、4000mPa・sであった。他の不飽和単量体の質量に対するアクリロニトリルの質量の比は、15/85とされた。
【0089】
[実施例14から15及び17]
組成物Aの単量体混合物の組成を下記表3及び4の通りとした他は実施例16と同様にして、実施例14から15及び17の接着剤を得た。実施例14のB型粘度は、3800mPa・sであった。実施例15のB型粘度は、3800mPa・sであった。実施例17のB型粘度は、4200mPa・sであった。
【0090】
[実施例18及び19]
乳化液(1)に含まれる単量体混合物及び乳化液(2)に含まれる単量体混合物のそれぞれに、さらに不飽和有機シラン(東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6033」)を0.3質量部配合して組成物Aを準備し、組成物Bとして日本製紙ケミカル株式会社製の商品名「スーパークロンE−723」を準備し、この組成物Aと組成物Bとの混合工程において粘度調整剤と共に添加剤として有機シランを添加した他は実施例16と同様にして接着剤を得た。実施例18では、有機シランに東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6610」が添加された。実施例19では、有機シランに東レ・ダウコーニング株式会社製の商品名「Z−6040」が添加された。実施例18のB型粘度は、3600mPa・sであった。実施例19のB型粘度は、3200mPa・sであった。
【0091】
[参考例1]
参考例1は、従来の接着剤である。
【0092】
[密着性評価]
前述したJIS K 5600−5−6に準拠した碁盤目試験に基づいて付着性を評価した。その結果が、下記表1、2、3及び4に示されている。
【0093】
[耐摩耗性評価]
前述したJIS L 1098に準拠した耐摩耗性試験に基づいて耐摩耗性を評価した。その結果が、下記表1、2、3及び4に示されている。
【0094】
[シックハウス症候群対象物質の存在確認]
上記接着剤をガラス板に300±15g/mで塗布して得られた試験片を、試料負荷率を2.2m/mとして、JIS A 1902−2に準拠してシックハウス症候群対象物質(ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸−n−ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド及びフェノブカルブ)の含有率を計測した。全ての対象物質でその含有率が1%未満であった場合が「G」として、それ以外が「N」として、下記表1、2、3及び4に示されている。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
【表4】

【0099】
表1、表2、3及び4に示されるように、実施例の接着剤は、比較例の接着剤に比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、様々な部材の接着に適用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る装飾部材の一部が示された拡大断面図である。
【符号の説明】
【0102】
2・・・装飾部材
4・・・基材
6・・・表面層
8・・・塗膜
10・・・短繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を含む単量体混合物から形成された共重合体を含む水分散型樹脂組成物Aと、ポリオレフィン変性物を含む水分散型樹脂組成物Bとを含有しており、
この水分散型樹脂組成物Aの固形分質量の、この水分散型樹脂組成物Bの固形分質量に対する比が、40/60以上95/5以下であり、
上記ポリオレフィン変性物の軟化点が、60℃以上である植毛用水分散型接着剤。
【請求項2】
上記ポリオレフィン変性物が、塩素化ポリプロピレンである請求項1に記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項3】
上記共重合体のガラス転移温度が、5℃以上50℃以下である請求項1又は2に記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項4】
上記水分散型組成物Aが、分散体aを含んでおり、
この分散体aの表面が、この分散体aの中心とは異なる組成を有している請求項1から3のいずれかに記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項5】
上記分散体aの中心のガラス転移温度とこの分散体aの表面のガラス転移温度との差の絶対値が、10℃以上100℃以下である請求項4に記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項6】
そのシックハウス症候群対象物質の含有量が、1%未満である請求項1から5のいずれかに記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項7】
JIS K 5600−5−6に準拠した碁盤目試験による付着性に関する評価点数が0以上2以下であり、
JIS L 1098に準拠した耐摩耗性試験において異状が認められない請求項1から6のいずれかに記載の植毛用水分散型接着剤。
【請求項8】
基材と、この基材に塗布された植毛用水分散型接着剤から形成された塗膜と、この塗膜に固定された表面層とを備えており、
この表面層が、短繊維から構成されており、
この植毛用水分散型接着剤が、アクリロニトリル及び他の不飽和単量体を含む単量体混合物から形成された共重合体を含む水分散型樹脂組成物Aと、ポリオレフィン変性物を含む水分散型樹脂組成物Bとを含有しており、
この水分散型樹脂組成物Aの固形分質量の、この水分散型樹脂組成物Bの固形分質量に対する比が、40/60以上95/5以下であり、
上記ポリオレフィン変性物の軟化点が、60℃以上である装飾部材。
【請求項9】
上記基材の材質が、ポリオレフィンである請求項8に記載の装飾部材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111788(P2010−111788A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−286122(P2008−286122)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【出願人】(397078262)東洋化学株式会社 (3)
【Fターム(参考)】