説明

植物α−ファルネセン合成酵素およびそれをコードするポリヌクレオチド

本発明は、単離α−ファルネセン合成酵素およびその酵素をコードするポリヌクレオチド配列を提供する。本発明はまた、そのポリヌクレオチド配列を組み込んでいる核酸構築物、ベクターおよび宿主細胞をも提供する。これはさらに、この酵素を用いたα−ファルネセン産生、植物内でのα−ファルネセン合成の調節、およびα−ファルネセン合成酵素活性が変化した植物の選択にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素であるα−ファルネセン合成酵素、およびその酵素をコードするポリヌクレオチド配列に関する。本発明はまた、そのポリヌクレオチド配列を組み込んでいる核酸構築物、ベクターおよび宿主細胞にも関する。本発明はさらに、α−ファルネセンの産生、および昆虫誘引剤、性フェロモンおよび他の生成物などの生成物におけるその使用にも関する。またα−ファルネセンを使用して、香味および芳香として有用な独特の香りを有する他の生成物を作製することができる。
【0002】
(背景技術)
α−ファルネセン(図1)は、構成的に存在する、または広範囲の種で誘導される非環式セスキテルペン炭化水素(C1524;3,7,11−トリメチル−1,3,6,10−ドデカテトラエン)である。
【0003】
セスキテルペンの生合成経路は、一般のテルペノイドの経路から分かれており、アリルジリン酸エステルであるファルネシルジリン酸(FDP、FPPとも短縮される)から開始される(Bohlmann, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.95, 4126-4133 (1998)、 Cane and Bowser, Bioorg.Med.Chem.Lett.9, 1127-1132 (1999)、 Davis and Croteau, Top.Curr.Chem. 209, 53-95(2000))。α−ファルネセンは、カルボカチオン中間体(図2)を介して進行する反応中でFDPから合成され、セスキテルペン合成酵素であるα−ファルネセン合成酵素によって触媒される(Rupasinghe, et al., J.Am.Soc.Hortic.Sci.123, 882-886(1998))。葉緑体内で行われるモノテルペンおよびジテルペンの生合成経路とは異なり、セスキテルペン生合成経路である酢酸/メバロン酸経路は、細胞質に局在する(Croteau, et al., In Biochemistry and Molecular Biology of Plants, eds Buchanan, Gruissem and Jones, American Society of Plant Physiologists, 1250-1318 (2000)、 Lange, et al., Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.97, 13172-13177 (2000))。
【0004】
しかし、モノテルペンであれ、セスキテルペンであれ、ジテルペンであれ、既知の植物テルペン合成酵素はすべて密接に関係するように思われる。その類似点には、イントロン配列の位置(Trapp and Croteau, Genetics 158, 811-832(2001))、およびアスパラギン酸に富むDDXX(D,E)モチーフ(Lesburg, et al., Curr.Opin.Struct.Biol.8, 695-703(1998))などの保存された配列の存在がある。このモチーフは、金属イオン、通常、触媒反応に必要なMg2+の結合に関与する(Lesburg, et al., Curr.Opin.Struct.Biol.8, 695-703(1998))。
【0005】
α−ファルネセン合成酵素は、リンゴ果実(Malus domesticaデリシャス(Delicious))の皮から部分的に精製されている。しかし、部分的に精製された酵素の回収率が低く、それが不安定であることから、さらなる精製が制限されていた(Rupasinghe, et al., J.Am.Soc.Hortic.125, 111-119(2000))。
【0006】
α−ファルネセンは昆虫誘引剤である。これはマウスおよび昆虫の性フェロモンである。酸素化された(空気にさらされることで生じる化学物質を含む)α−ファルネセン産物(例えば、ファルネソール、ファルネサール)は独特の香りを有する(香味/芳香としての使用)。α−ファルネセンおよびその誘導体は他に、強力な癌予防剤として、またプラスチックフィルムの合成に使用される。
【0007】
またα−ファルネセンおよびその酸化産物の両方のレベルと、冷蔵後のリンゴの皮に黒い着色として現れる、収穫後の生理的な異常である表面のやけの発生との間の関係もある(Watkins, et al., Acta.Hort.343, 155-160(1993)、Ju and Bramlage, J.Am.Soc.Hortic.Sci.125, 498-504(2000)、Whitaker and Saftner, J.Agric.Food Chem.48, 2040-2043(2000)、Rowan, et al., J.Agric.Food Chem.49, 2780-2787(2001))。今日まで、α−ファルネセンとやけの因果関係はまだ明らかでない(Ju and Curry, J.Am.Soc.Hortic.Sci.125, 626-629(2000)、Rupasinghe, et al., J.Am.Soc.Hortic.Sci.125, 111-119(2000))。エチレン産生とα−ファルネセン生合成も密接に関係すると思われる(Watkins, et al., Acta Hort. 343, 155-160(1993)、Fan, et al., J.Agric.Food Chem. 47, 3063-3068(1999))。最近、エチレンが、メバロン酸経路上で働くこと、特にヒドロキシメチルグルタリルCoAのメバロン酸への転換を誘導することにより、果実が成熟する間のα−ファルネセン生合成を制御することができることが示されている(Ju and Curry, J.Am.Soc.Hortic.Sci.125, 105-110(2000)、Ju and Curry, Postharvest Biol.Technol. 19, 9-16(2000)、Ju and Curry, J.Am.Soc.Hortic.Sci. 126, 491-495(2001))。
【0008】
本発明の目的は、α−ファルネセンをin vitroで合成する方法、ならびに/あるいは植物内でのα−ファルネセン合成酵素活性レベルが変わるようにかつ/または有用な選択が公衆に提供されるように植物を遺伝子改変する方法を提供することである。
【0009】
(発明の概要)
本発明の第1の態様では、α−ファルネセン合成酵素をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。好ましい実施形態では、このポリヌクレオチドは、DDXXDおよび(L,V)(V,L,A)(N,D)(L,I,V)X(S,T)XXXEの反復のうち少なくとも1つを含むポリペプチドをコードする。ここでXは任意のアミノ酸である。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、配列番号:1の単離ポリヌクレオチド(図3に示す)、あるいはα−ファルネセン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードするその断片または変異体をも提供する。
【0011】
さらなる態様では、本発明は、配列番号:2のポリペプチド(図4に示す)をコードする、またはα−ファルネセン合成酵素活性を有するその配列の変異体または断片をコードする単離ポリヌクレオチドを提供する。
【0012】
さらなる態様では、本発明は単離α−ファルネセン合成酵素ポリペプチドを提供する。
【0013】
またさらなる態様では、本発明は、配列番号:2の配列を有する単離α−ファルネセン合成酵素、あるいはα−ファルネセン合成酵素活性を有するその断片または変異体を提供する。
【0014】
本発明のポリペプチドは、α−ファルネセンのin vitroでの調製に有用である。
【0015】
さらなる態様では、本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物を提供する。
【0016】
またさらなる態様では、本発明は、5'から3'の方向で本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのオープンリーディングフレームを含む遺伝子構築物を提供する。
【0017】
好ましくは、この遺伝子構築物はプロモーター配列をも含む。
【0018】
好ましくは、この遺伝子構築物はさらに終結配列を含む。
【0019】
他の態様では、本発明は、5'から3'の方向で、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物を提供する。
【0020】
好ましくは、この遺伝子構築物はプロモーター配列をも含む。
【0021】
好ましくは、この遺伝子構築物はさらに終結配列を含む。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、本発明の遺伝子構築物を含むベクターを提供する。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、本発明の遺伝子構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0024】
またさらなる態様では、本発明は、本発明の遺伝子構築物を含むトランスジェニック植物細胞を提供する。
【0025】
さらに本発明は、このような細胞を含むトランスジェニック植物を提供する。
【0026】
他の態様では、本発明は、α−ファルネセンを調製する方法を提供する。この方法は、
(a)高いα−ファルネセン合成酵素活性をもたらすように本発明のポリヌクレオチドで遺伝子改変された細胞を培養するステップと、
(b)必要な場合にこの細胞にファルネシルジリン酸を提供するステップと、
(c)産生したα−ファルネセンを分離するステップとを含む。
【0027】
本発明のこの方法は、この産物を調製する簡便な方法に生発酵を使用することを可能にする。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、α−ファルネセンを調製する方法を提供する。この方法は、
(a)本発明のポリペプチドを得るステップと、
(b)このポリペプチドの存在下でファルネシルジリン酸をインキュベートするステップと、
(c)産生したα−ファルネセンを分離するステップとを含む。
【0029】
さらなる態様では、本発明は、植物のα−ファルネセン産生を調節する方法を含む。この方法は、α−ファルネセン合成酵素をコードする遺伝子の発現を変化させる遺伝子改変によって達成される、α−ファルネセン合成酵素の発現を増加させるまたは低下させるステップを含む。この改変細胞およびこのような細胞を含む植物も、本発明の一部となる。
【0030】
本発明のさらなる態様では、配列番号:1に由来する少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含むポリヌクレオチドが提供される。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、α−ファルネセンの含有量が変化した植物を選択する方法を含む。この方法は、
(a)α−ファルネセン合成酵素の発現を評価するため、少なくとも1つの植物に由来するポリヌクレオチドを、請求項1に記載のポリヌクレオチドのうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含む、少なくとも1つのポリヌクレオチドと接触させるステップと、
(b)発現量の変化を示す植物を選択するステップを含む。
【0032】
(図面の簡単な説明)
本発明は、以下に添付した図面を参照すると、よりよく理解されるであろう。
【0033】
図1は、α−ファルネセンの異性体の構造を示す。
【0034】
図2は、リンゴにおけるα−ファルネセン合成経路を示す。
【0035】
図3は、α−ファルネセン合成酵素をコードするcDNA配列を示す。この配列は、満開から150日後(DAFB)のロイヤルガラ(Royal Gala)のリンゴ皮から構築されたcDNAライブラリーから得られた。
【0036】
図4は、リンゴ皮由来のα−ファルネセン合成酵素の予測されたアミノ酸配列を示す。触媒反応に必要な金属イオンの結合に関与するDDXXDモチーフを太字で示す。高度に保存されたコンセンサス配列(L,V)(V,L,A)(N,D)D(L,I,V)X(S,T)XXXEも金属イオン結合に関与するが、これを下線で示す。
【0037】
図5は、リンゴロイヤルガラ上のヘッドスペースのGC−MSスペクトルを示す。この図では、保持時間42.57分における(E,E)α−ファルネセンのピークが示されている。
【0038】
図6は、α−ファルネセン合成酵素cDNAを含む、(結合バッファー中の)ニッケルで精製された無細胞抽出物上のヘッドスペースのGC−MSスペクトルを示す。この図では、(E,E)α−ファルネセン(保持時間43.09分)および(Z,E)α−ファルネセン(保持時間42.29分)が示されている。
【0039】
図7は、混合異性体の前駆体FDPの供給に反応して、精製組換えα−ファルネセン合成酵素によってin vitroで産生されるα−ファルネセンの各種異性体形を示す。
【0040】
図8は、Sephacryl S−300 HRゲルろ過クロマトグラフィー上でのα−ファルネセン合成酵素のタンパク溶出プロフィル、およびそのおよその分子量を示す。
【0041】
図9は、S−Sephacryl 300 HRゲルろ過の適用後における精製タンパク分画のα−ファルネセン合成酵素活性を示す。
【0042】
図10は、α−ファルネセン合成酵素活性の最適pHを示す。データは、1実験につき3回の反復実験に基づく平均値+平均値のSEである。アッセイ条件は、pH7.5での飽和Mg++/Mn++(7mM/150μM)を含む。
【0043】
図11は、飽和金属イオンの存在下で、FDP濃度を増加させた場合のα−ファルネセン合成酵素活性に対する効果を示す。アッセイ条件は、飽和FDP(25μM)および飽和Mg++/Mn++(7mM/150μM)を含む。
【0044】
図12は、飽和FDP(25μM)を含む条件でのα−ファルネセン合成酵素活性に対するMg2+の効果を示す。
【0045】
図13は、飽和FDP(25μM)を含む条件でのα−ファルネセン合成酵素活性に対するMn2+の効果を示す。データは1実験につき3回の反復実験の平均値およびSEである。
【0046】
図14は、飽和FDP(25μM)および金属補助因子Mg++/Mn++(7mM/150μM)を含む条件で測定された、様々な温度でのα−ファルネセン合成酵素活性を示す。
【0047】
図15は、FDPを浸透させた場合および浸透させない場合のN.benthamiana葉におけるE,Eα−ファルネセン産生を示す一実験の例を示す。
【0048】
図16は、α−ファルネセン合成酵素cDNA配列の5'末端から設計したプライマーを用いた、トランスジェニックArabidopsis thaliana植物から抽出されたゲノムDNAのPCR増幅を示す。予想される増幅産物のサイズは513bpである。MWと示したレーンは標準的な分子量マーカー(Invitrogen)を表す。1、2、3および4と示したレーンは、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を含む、独立したトランスジェニックArabidopsis thaliana系統のレーンである。リンゴと示したレーンは、「ロイヤルガラ」リンゴ皮から抽出された全RNAのRT−PCRから得られた増幅産物を示す。
【0049】
図17は、プライマー57400_A3(5'AGAGTTCACTTGCAAGCTGA3'(配列番号:3))および57400NR1(5'GGATGCTTCCCT3'(配列番号:4))を用いてEST57400から増幅した810塩基対の32P標識PCR断片をプローブとして用いた、トランスジェニックシロイヌナズナ植物から抽出されたゲノムDNAのBamH1消化物のサザン分析を示す。α−ファルネセン合成酵素cDNAを含むそのBamH1制限断片のサイズは2050塩基対である。MWと示したレーンは分子量マーカー(Invitrogen)である。pHEXは、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を含まず形質転換ベクターのみを含むトランスジェニックシロイヌナズナ植物から抽出されたゲノムDNAを指す。1、2、3および4と示したレーンは、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を含む、独立したトランスジェニックシロイヌナズナ系統のレーンである。kb=キロ塩基。
【0050】
図18は、α−ファルネセン合成酵素cDNA配列の5'末端(a)、内部配列(b)、および3'末端の近く(c)から設計したプライマーを用いた、トランスジェニックArabidopsis thaliana系統3の植物の実生、葉および花から抽出された全RNAのPCR増幅を示す。予想される増幅産物のサイズは、(a)で513bp、(b)で349bpおよび(c)で180bpである。MWと示したレーンは分子量マーカー(Invitrogen)である。1と示したレーンは全RNAのPCR増幅から得られた産物を含み、2と示したレーンは全RNAのRT−PCR増幅から得られた産物を含む。bp=塩基対。
【0051】
図19は、α−ファルネセン合成酵素遺伝子を発現している系統3の植物由来の、および空のベクターを発現している対照植物由来の、A.thalianaの花中に存在するヘッドスペースの揮発性物質を示す。
【0052】
図20は、プライマー57400NF1(5'GCACATTAGAGAACCACCAT3'(配列番号:5))および57400NR1(5'GGATGCTTCCCT3'(配列番号:4))を用いてEST57400から増幅した350塩基対のDIG標識PCR断片をプローブとして用いた、Malus domesticaの様々な組織から抽出した全RNAのノーザン分析を示す。DAFB=満開後の日数。
【0053】
A.各組織から抽出した全RNA中に存在したα−ファルネセン合成酵素mRNAレベルのヒストグラム
B.150DAFBの「ロイヤルガラ」の果皮または「アオテア(Aotea)」の成長中の葉中より低いレベルでα−ファルネセン合成酵素を発現している組織から抽出した全RNA中に存在したα−ファルネセン合成酵素mRNAレベルのヒストグラム
C.i α−ファルネセン合成酵素mRNAのノーザン分析
ii 18SリボソームRNAのハイブリダイゼーション。
【0054】
図21は、既知の機能を有するテルペン合成酵素の系統発生分析を示し、α−ファルネセン合成酵素が独特のクレードを形成することを示す。
【0055】
(詳細な説明)
本発明の一実施形態では、α−ファルネセン合成酵素活性を示すように遺伝子改変した細胞を、α−ファルネセン産生に使用する。細胞は潜在的に、培養で増殖させることができるどんな細胞型でもよいが、現在ではα−ファルネセン(ならびにその酸化産物または誘導体)産生に細菌または酵母細胞を使用することが好ましい。本実施形態の生発酵プロセスにおける使用に好ましい細胞は、GRAS認定細胞であり、例えば、適当なE.coli株、Lactobacillus属、およびビール酵母など他の非病原性のGRAS認定細菌または酵母である。
【0056】
生発酵によって産生されるα−ファルネセン(またはα−ファルネセンの誘導体)は、フェロモンとして昆虫またはげっ歯類の駆除に使用することもでき、食物、薬剤、練り歯磨きまたは香水に対する香りまたは芳香の添加物として使用することもでき、抗癌性、抗カンジダ性、粘膜安定化性、抗炎症性、抗潰瘍性を有する薬剤の製造に使用することもでき、包装、成型物品、特に分解性プラスチック、一般の農芸化学製品の生産、業務用洗浄のための溶媒(例えば殺藻剤)の生産、ならびに溶媒または油を脱蝋するための膜に使用するフィルムおよびポリマーの製造に使用することもできる。
【0057】
生発酵によるα−ファルネセン産生の代替方法では、α−ファルネセン合成酵素を抽出し、任意選択で固定化し、α−ファルネセン産生に使用することができる。例えば、上記の培養細胞をα−ファルネセン合成酵素の供給源として使用することができる。この酵素は、例えば、ビーズ、例えばアルギン酸ビーズ上に固定化することができる。
【0058】
本発明の他の態様では、本発明のポリヌクレオチドを使用して、その植物の少なくとも一部でα−ファルネセン合成酵素を過剰発現するトランスジェニック植物を調製することができる。このように、本発明を用いて、花に芳香を付与し、(指標植物、宿主植物、または代替宿主として)昆虫を追い払いまたは引き寄せ、あるいは改変した香りを果実または野菜に付与し、あるいは果実のやけを予防し、あるいは薬剤産物を抽出し、あるいは動物または昆虫に効果がある抽出物を抽出する。
【0059】
特定の一態様では、本発明のポリヌクレオチドを、バラ目(order Rosaceae)の植物に、特にMalus属に使用して、果実の風味を増加させる。
【0060】
他の態様では、本発明のポリヌクレオチドを使用して、リンゴ果実中のα−ファルネセン合成酵素活性を低下させる。これはいくつかの方法で達成することができ、例えば、α−ファルネセン合成酵素ポリヌクレオチドがアンチセンスの位置から転写され、それによってα−ファルネセン合成酵素の翻訳が低下するように、リンゴを遺伝子改変することによって達成することができる。この場合このような果実は、冷蔵後におけるリンゴ皮表面のやけの低下を示す可能性もあり、コドリンガなどの昆虫を引き寄せることが少なくなる可能性もある。
【0061】
他の態様では、本発明は、リンゴ育種に有用な方法を提供する。本発明のポリヌクレオチド配列の断片をプローブまたはプライマーとして使用して、候補となるリンゴの品種の遺伝子の性質をα−ファルネセン合成酵素活性に関して調べることができる。リンゴ果実中にα−ファルネセン合成酵素活性をコードする高レベルのポリヌクレオチドが存在することを利用して、香りが付加されたリンゴを同定することができ、低レベルのポリヌクレオチドが存在することを使用して、貯蔵に好都合な特性または昆虫抵抗性を有するリンゴを同定することができる。
【0062】
リンゴの1つのポリペプチドであるα−ファルネセン合成酵素のアミノ酸配列、およびそれをコードするポリヌクレオチド配列のアミノ酸配列を図4および図3にそれぞれ示す(配列番号:2および配列番号:1)。しかし、本発明が、図3および4に示す特定のヌクレオチド/アミノ酸配列を有するポリヌクレオチド/ポリペプチドだけに限定されないことは理解されるであろう。そうではなく、本発明は、α−ファルネセン合成酵素活性をコードするまたは有する図3および4のポリヌクレオチド/ポリペプチドの変異体にも及ぶ。
【0063】
本明細書において「ポリヌクレオチド(群)」という用語は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド塩基の一本鎖または二本鎖ポリマーを意味し、センス鎖とアンチセンス鎖両方のhnRNAおよびmRNA分子を含めた、DNAおよびその対応するRNA分子を含み、またcDNA、ゲノムDNAおよび組換えDNA、ならびに全体的にまたは部分的に合成されたポリヌクレオチドを含む。hnRNA分子はイントロンを含み、DNA分子に通常1対1で対応する。mRNA分子はイントロンが切り出されたhnRNAおよびDNA分子に対応する。ポリヌクレオチドは遺伝子全体からなるものでもよく、その任意の一部からなるものでもよい。使用可能なアンチセンスポリヌクレオチドは、その対応するポリヌクレオチドの一断片を含むものでもよく、したがって「ポリヌクレオチド」の定義は、すべてのそのような使用可能なアンチセンス断片を含む。
【0064】
本明細書において「ポリペプチド(群)」という用語は、ペプチド、ポリペプチドおよびタンパクを含む。
【0065】
「α−ファルネセン合成酵素活性を有する変異体」という語句は、十分同等の機能性を保持しながらポリペプチド/ポリヌクレオチドのアミノ酸/ヌクレオチド配列が変異することが可能であることを認識した上で使用する。この同等物は、例えば、ポリペプチドの断片、ポリペプチドと他のポリペプチドまたは担体との融合物、あるいは断片と追加のアミノ酸との融合物であってもよい。
【0066】
「単離」ポリペプチドとは、同定され、分離または回収されてその自然環境の成分が大部分なくなった(したがって、ポリペプチドが、その自然環境由来のポリペプチドを少なくとも50%含み、好ましくは少なくとも80%を含み、さらに好ましくは少なくとも90%を含むようになった)ポリペプチドである。「単離」ポリペプチドの用語は、組換え細胞内にあるin situのポリペプチドを含む。しかし、一般に単離ポリペプチドは、少なくとも1つの精製ステップによって調製される。
【0067】
「単離」ポリヌクレオチドとは、通常それが結合している少なくとも1つの不純なポリヌクレオチドから同定され分離されたヌクレオチド分子である。
【0068】
変異体ポリヌクレオチド配列は、サイズ、組成、イントロンの位置および数、ならびに翻訳されない末端領域のサイズおよび組成が異なる同等の配列も含む。変異体ポリヌクレオチドは、機能的に同等のポリペプチドをコードするものも含む。
【0069】
このポリペプチドの活性を担う構造を保存しながら、様々なアミノ酸の置換が可能であることが理解されるであろう。この保存的な置換は、特許文献に、例えば米国特許第5264558号または第5487983号に記載されている。したがって、例えば非極性脂肪族中性アミノ酸であるグリシン、アラニン、プロリン、バリンおよびイソロイシンの間の交換が可能であるはずであることが予想される。同様に、極性脂肪族中性アミノ酸であるセリン、トレオニン、メチオニン、アスパラギンおよびグルタミンの間の置換を行うこともできるはずである。帯電した酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸の間の置換もおそらく行うことができるはずであり、帯電した塩基性アミノ酸であるリシンとアルギニンの間の置換も同様である。フェニルアラニン、ヒスチジン、トリプトファンおよびチロシンを含めた芳香族アミノ酸間の置換も可能である。このような置換および交換は、当業者なら周知である。
【0070】
それと同様に、単に核酸コードに縮重があるために、特定の産物をコードするヌクレオチド配列がかなり変わることがあり得る。
【0071】
公的に利用できるコンピュータアルゴリズムを用いて、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列をアラインし、特定領域における、他の配列と同一のヌクレオチドの百分率を決定することができる。ポリヌクレオチド配列をアラインしてその類似性を同定するための代表的な2つのアルゴリズムは、BLASTNおよびFASTAアルゴリズムである。ポリペプチド配列の類似性は、BLASTPアルゴリズムを用いて調べることができる。BLASTNおよびBLASTPソフトウェアは、NCBIの匿名FTPサーバー(ftp://ncbi.nlm.nih.gov)の/blast/executables/で利用可能である。BLASTNアルゴリズム第2.0.4版[1998年2月24日]を、本発明の変異体のドキュメンテーションに記載のデフォルトパラメータに合わせて設定した。BLASTNおよびBLASTPを含めたBLASTファミリーのアルゴリズムの使用法は、URL http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/newblast.HtmlにあるNCBIのウェブサイト、および刊行物Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25, 3389-34023(1997)に記載されている。コンピュータアルゴリズムFASTAは、インターネット上のftpサイトftp://ftp.Virginia.edu/pub/fasta/で利用可能である。そのドキュメンテーション中に記載され、そのアルゴリズムで分配されたデフォルトパラメータに合わせて設定した第2.0u4版(1996年2月)を、本発明による変異体の決定に使用することも好ましい。FASTAアルゴリズムの使用法は、Pearson and Lipman Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85, 2444-2448(1998), Pearson Methods in Enzymology 183, 63-98(1990)に記載されている。
【0072】
以下の実行パラメータは、BLASTNを用いて(以下で論ずる)E値およびパーセント同一性を求めることに寄与するアラインメントおよび類似性を決定するのに好ましい。Unix実行コマンドは、blastall -p blastn -d embldb -e 10 -G 1 -E 1 -r 2 -v 50 -b 50 -I queryseq -o resultsであり、パラメータのデフォルト値は以下の通りである。
−p プログラム名[文字列]
−d データベース[文字列]
−e 期待値(E)[実数]
−G ギャップを開始するコスト(0はデフォルト挙動を呼び出す)[整数]
−E キャップを伸張させるコスト(0はデフォルト挙動を呼び出す)[整数]
−r ヌクレオチドがマッチする場合の報酬(blastnのみ)[整数]
−v 1行記載の数(v)[整数]
−b 示すべきアラインメントの数(b)[整数]
−i 照会ファイル[ファイル入力]
−o BLAST報告出力ファイル[ファイル出力]任意
BLASTPには以下の実行パラメータが好ましい。Blastall -p blastp -d swissprotdb -e 10 -G 1 -E 1 -v 50 -b 50 -I queryseq -o results
−p プログラム名[文字列]
−d データベース[文字列]
−e 期待値(E)[実数]
−G ギャップを開始するコスト(0はデフォルト挙動を呼び出す)[整数]
−E キャップを伸張させるコスト(0はデフォルト挙動を呼び出す)[整数]
−v 1行記載の数(v)[整数]
−b 示すべきアラインメントの数(b)[整数]
−i 照会ファイル[ファイル入力]
−o BLAST報告出力ファイル[ファイル出力]任意
BLASTN、BLASTP、FASTA、またはこれらに類似するアルゴリズムによって生じた、照会配列による1つまたは複数のデータベース配列との「ヒット」により、配列の類似部分がアラインされ同定される。このヒットは、類似性の程度、および配列の重複の長さの順に並べられる。データベース配列とのヒットは一般に、照会配列の配列長の一部分だけの重複しか表さない。
【0073】
BLASTNおよびFASTAアルゴリズムによって、アラインメントの「期待」値またはE値も生じる。E値は、特定のサイズのデータベースを検索するとき、特定の数の連続配列を偶然に認めることが「期待」できるヒット数を示す。期待値は、好ましいEMBLデータベースなどのデータベースとのヒットが真の類似性を示しているかどうかを決定するための有意性の閾値として使用する。例えば、1つのヒットにE値0.1とすると、EMBLデータベースのサイズのデータベース中で、ただ偶然に、類似スコアで配列のアラインした部分に0.1のマッチする部分を認めることを期待することができるという意味に解釈される。この基準では、配列のアラインしマッチした部分が同一である確率は90%である。アラインしマッチした部分のE値が0.01以下の配列では、BLASTNまたはFASTAアルゴリズムを用いて、EMBLデータベース中でマッチを偶然に認める確率は1%以下である。
【0074】
一実施形態によれば、「変異体」ポリヌクレオチドは、本発明の各ポリヌクレオチドに関して、好ましくは本発明の各ポリヌクレオチドと同数またはそれより少ない数の核酸を有し、本発明のポリヌクレオチドと比較したときE値が0.01以下となる配列を含む。すなわち、変異体ポリヌクレオチドは、上記で論じたパラメータで設定したBLASTNまたはFASTAアルゴリズムを用いてE値が0.01以下であると測定され、少なくとも99%の確率で本発明のポリヌクレオチドと同一である任意の配列である。
【0075】
変異体ポリヌクレオチド配列は一般に、厳格な条件下で上記のポリヌクレオチド配列とハイブリダイズする。本明細書において、「厳格な条件」とは、6X SSC、0.2%SDS溶液中で前洗浄し、65℃、6X SSC、0.2%SDSで1晩ハイブリダイズさせた後、各回1X SSC、0.1%SDS中、65℃、30分間で2回洗浄し、各回0.2X SSC、0.1%SDS中、65℃、30分間で2回洗浄することを指す。本発明の変異体ポリヌクレオチド配列は、長さが少なくとも50ヌクレオチドである。
【0076】
変異体ポリヌクレオチドは、本明細書の配列リストに挙げたヌクレオチド配列との配列同一性が少なくとも25%または少なくとも60%、一般に70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%、非常に好ましくは98%、最も好ましくは99%以上である配列も含む。
【0077】
一般に、本発明のα−ファルネセン合成酵素をコードするポリペプチド配列は、開示されたアミノ酸配列と少なくとも25%または少なくとも50%、一般に少なくとも60%、好ましくは70%、さらに80%、85%、90%、95%、98%、最も好ましくは99%以上相同性がある。すなわち、配列類似性は25%から99%以上の範囲でもよい。さらに本発明は、これらのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含む。
【0078】
本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列の断片も本発明に包含されている。ポリヌクレオチド断片は、天然タンパクの生物活性を保持するタンパク断片をコードするものでもよい。あるいは、ハイブリダイゼーションプローブとして使用する断片は一般に、生物活性を示す配列をコードするものではない。ポリヌクレオチド断片は、少なくとも15、20、30、50、100、200、400、または1000の連続したヌクレオチドから、本明細書で開示された天然ポリヌクレオチド配列の完全長までの範囲でもよい。
【0079】
本発明のポリペプチド断片は、少なくとも5、10、15、30、50、75、100、150、200、400、または500の連続したアミノ酸、または最大で本発明の完全長ポリペプチド中のアミノ酸の合計数を含む。
【0080】
変異体はまた、同種または他の種由来の(テルペン合成酵素を含めた)遺伝子に由来する(コード領域、非コード領域またはイントロン領域由来の)1つまたは複数のヌクレオチドまたはドメイン/モチーフの再構成、移動または交換を可能とするものであり、ただしこのような変異体は、機能的に同等な本発明のタンパクまたはポリペプチドあるいはその断片を依然として供給するものとする。
【0081】
もちろん、図4(配列番号:2)の配列を有する、ここに具体的に記載したα−ファルネセン合成酵素との相同体が他の植物に存在することが明らかに企図される。本明細書において「変異体」の語句を使用するとき、このような相同体も含まれる。
【0082】
本発明のポリヌクレオチド配列は、融合タンパクをコードするように1つまたは複数の追加ポリペプチドあるいはその断片をコードする1つまたは複数の追加配列をさらに含んでもよい。このような組換え発現系には、それだけに限らないが、哺乳動物、細菌および昆虫の発現系が含まれる。無細胞発現系も企図される。
【0083】
図3(配列番号:1)のα−ファルネセン合成酵素の相同体である、Malus domestica以外の植物由来のDNA配列を、(例えば私的なまたは公的な配列データベースのコンピュータ支援による検索によって)同定することができる。あるいは、図4の配列に基づくプローブを合成し、それを使用して、ハイブリダイゼーション法を用いて他の植物に由来するcDNAまたはゲノムDNAライブラリー中の陽性クローンを同定することもできる。逆転写酵素(RT)−PCRを含めた、PCRに基づく技術も使用することができる。プローブおよび/またはPCRプライマーは、長さが少なくとも約10、好ましくは少なくとも約15、最も好ましくは約20ヌクレオチドである。このようなオリゴヌクレオチドプローブの使用に適したハイブリダイゼーション技術またはPCR技術は、当技術分野において周知である。陽性ライブラリークローンまたはPCR産物を、制限酵素消化またはDNAシークエンシングなどによって分析することができる。
【0084】
本発明のポリヌクレオチドは、当技術分野で周知の技術を用いる合成手段によって生成することができる。自動化されたオリゴヌクレオチド合成の設備は、Perkin Elmer/Applied Biosystems Division(米国カリフォルニア州、Foster City)などの製造業者から市販されており、製造業者の説明書に従って操作することができる。
【0085】
Malus domestica中での対立遺伝子変異が観察されている。品種アオテアのα−ファルネセン合成酵素ポリペプチドは、配列番号:2のものと部分配列で5アミノ酸異なっている。アオテアにおけるα−ファルネセン合成酵素遺伝子の部分ポリヌクレオチド配列およびその対応するポリペプチドは、それぞれ配列番号:6および配列番号:7の配列である。
【0086】
【表1】

【0087】
本発明のポリペプチドおよびポリヌクレオチドが同定された結果、植物内でα−ファルネセン活性を調節することができる。調節は、このポリペプチドの発現および/または活性の低下(すなわちサイレンシング)に関係するものであり得る。
【0088】
このようなサイレンシングを実施するためのどんな従来技術をも使用することができる。処置は、転写後または転写前に行うことができる。さらに、処置は、その遺伝子自体、またはその遺伝子に関係し、そのコードされたポリペプチドの発現に影響を与える制御エレメントに焦点を合わせたものとすることができる。「制御エレメント」は、本明細書においてできるだけ広い意味で用いられ、対象遺伝子と相互作用する他の遺伝子を含む。
【0089】
転写前の処置は、その遺伝子自体のまたはその制御エレメントの突然変異に関係するものとすることができる。このような突然変異は、点突然変異、フレームシフト突然変異、挿入突然変異または欠失突然変異である可能性がある。いわゆる「ノックアウト」突然変異では、その遺伝子の発現を完全になくすことができる。あるいは、トランスポゾンタギングを使用することもできる。他の手法は、自然に存在するおよび/または人工の転写因子、例えばα−ファルネセン合成酵素遺伝子の内在プロモーターと相互作用するように設計された人工ジンクフィンガータンパク転写因子(例えばhttp://www.sangamo.com/tech/tech.htmlを参照)の発現によって転写を改変することである。
【0090】
転写後の処置の例としては、同時抑制またはアンチセンス戦略、ドミナントネガティブ手法、あるいは標的遺伝子の転写後にRNAを消化する、またはその他の方法でRNAにとって致死性となるリボザイムを使用する技術が含まれる。
【0091】
同時抑制は、例えば、Napoli et al. Plant Cell 2, 279-290(1990)およびde Carvalho Niebel et al. Plant Cell 7, 347-358(1995)で論じられているものと同様に実施することができる。場合によっては、これは、構成的なプロモーターの使用による、対象遺伝子の過剰発現を使用することができる。これはまた、遺伝子由来のイントロン、5'または3'側の非翻訳領域(UTR)など遺伝子の非コード領域を用いた植物の形質転換を使用することもできる。
【0092】
アンチセンス戦略は、標的遺伝子から転写されたmRNAの翻訳に干渉することができる発現/転写産物の発現または転写を含む。これは通常、標的mRNAとハイブリダイズし二重鎖を形成する発現/転写産物によって行われる。
【0093】
この発現/転写産物は、比較的小さな分子であるが、依然としてmRNAの翻訳を妨害することができるものでよい。しかし、同様の結果は、アンチセンスの位置にある遺伝子の転写によって生じるRNAが内在性の標的mRNAのすべてまたは一部と相補的であるように、アンチセンスの向きにポリヌクレオチド全体を発現させることによって達成される。
【0094】
アンチセンス戦略は一般に、Robinson-Benion et al. Methods in Enzymol 254, 363-375(1995)およびKawasaki et al., Artific.Organs 20, 836-845(1996)に記載されている。
【0095】
遺伝子サイレンシング用に設計された遺伝子構築物は逆位反復を含んでもよい。「逆位反復」とは、反復の後半が相補鎖中にある反復配列であり、例えば以下の通りである。
5'−GATCTA.........TAGATC−3'
3'−CTAGAT.........ATCTAG−5'
形成された転写物は、相補的塩基対形成を経て、反復領域間に少なくとも3〜5bpのスペーサーが存在するという条件でヘアピン構造を形成することができる。
【0096】
他の手法は、転写物を標的とする、miRNA(Llave et al., Science 297, 2053-2056(2002))と同等の小さなアンチセンスRNAを開発することであり、これを標的遺伝子サイレンシングに使用することができる。
【0097】
ポリペプチド発現を制御するためのリボザイムによる手法は、リボザイム構築物(McIntyre Transgenic Res.5 257-262(1996))内に適当な配列またはサブ配列(例えばDNAまたはRNA)を挿入する。リボザイムは、2つの領域に相補的なハイブリダイズ領域を含む合成RNA分子であり、その2つの領域のそれぞれは、本発明のポリヌクレオチドの1つによってコードされたmRNA分子の少なくとも5つの連続したヌクレオチドを含む。リボザイムは、極めて特異的なエンドヌクレアーゼ活性を有し、mRNAを自己触媒的に切断する。
【0098】
ダイサー技術(Stratagene)の使用も企図される。
【0099】
あるいは、調節は、宿主ゲノム中で、対応するポリヌクレオチドを過剰発現させることによる、または対応するポリヌクレオチドのコピー数を増加させることによるポリペプチドの発現および/または活性の増大に関係するものでもあり得る。
【0100】
遺伝子サイレンシングの保持で論じたように、過剰発現の手法は、その遺伝子自体、またはその遺伝子に関係し、そのコードされたポリペプチドの発現に影響を与える制御エレメントに焦点を合わせたものとすることができる。「制御エレメント」は、本明細書においてできるだけ広い意味で用いられ、対象遺伝子と相互作用する他の遺伝子を含む。他の手法は、自然に存在する転写因子、および/または人工の転写因子、例えばα−ファルネセン合成酵素遺伝子の内在プロモーターと相互作用するように設計された人工ジンクフィンガータンパク転写因子(例えばhttp://www.sangamo.com/tech/tech.htmlを参照)の発現によって転写を改変することである。
【0101】
「遺伝子構築物」という用語は、それだけに限らないが、cDNA分子など他のポリヌクレオチド分子(挿入ポリヌクレオチド分子)をその中に挿入することができるポリヌクレオチド分子、通常二本鎖DNAを指す。遺伝子構築物は、挿入ポリヌクレオチド分子を転写し、場合によってはその転写物を翻訳してポリペプチドにすることが可能となるのに必要な成分を含むことができる。挿入ポリヌクレオチド分子は、宿主細胞に由来するものでもよく、それと異なる細胞または生物に由来するものでもよく、かつ/または組換えポリヌクレオチドでもよい。宿主細胞の内部に入った後、遺伝子構築物は、宿主染色体DNA中に組み込まれることができる。遺伝子構築物は、ベクターへと系統化することができる。
【0102】
上記の戦略を実行するため、本発明はまた、遺伝子構築物、通常DNA構築物も提供する。このDNA構築物は、(センスまたはアンチセンスの位置にある本発明の1つまたは複数のコピーのポリヌクレオチド配列、あるいは適切なリボザイムをコードするポリヌクレオチドなど)所期のDNA、好ましくは、転写すべきDNA配列と作動的に結合した(遺伝子の発現を制御する)プロモーター配列および終結配列を含む。プロモーター配列は一般に、転写すべきDNA配列の5'末端側に位置し、DNA配列の転写を開始するのに使用する。プロモーター配列は、一般に遺伝子の5'側の非コード領域に認められるが、イントロン中(Luehrsen Mol.Gen.Genet 225, 81-93(1991))に存在することもあり、コード領域中に存在することもある。
【0103】
本発明のDNA構築物中に有用に使用することができる様々なプロモーター配列は、当技術分野で周知である。プロモーター配列は、また終結配列も、プロモーターおよび終結配列が標的宿主中で機能するという条件のもとで、標的植物宿主に内在するものでもよく、外来のものでもよい。例えば、プロモーターおよび終結配列は、他の植物種、植物ウイルス、細菌プラスミドなどに由来するものでもよい。プロモーターおよび終結配列は、α−ファルネセン合成酵素遺伝子と生体内で関係するものが好ましい。
【0104】
プロモーターの選択に影響を与える因子として、構築物の所望の組織に対する特異性、ならびに転写および翻訳のタイミングがある。例えば、35Sカリフラワーモザイクウイルス(CaMV 35S)プロモーターなどの構成的なプロモーターは、植物のすべての部分の転写に影響を及ぼす。組織特異的プロモーターを使用すると、対象組織中だけで所望のセンスまたはアンチセンスRNAが産生される。誘導性プロモーター配列を使用しているDNA構築物を用いると、化学物質、光、熱、嫌気性ストレス、栄養状態の変化などの外部刺激により、RNAポリメラーゼの結合および転写開始の速度を調節することができる。一時的に制御されるプロモーターを使用して、形質転換細胞の発生の間の特定の時間にRNAポリメラーゼの結合および転写開始の速度の調節を実施することができる。好ましくは、問題の遺伝子由来の元のプロモーター、または形質転換すべき生物中の特定組織標的遺伝子由来のプロモーターを使用する。本発明において有用に使用することができるプロモーターの他の例として、マンノピン合成酵素(mas)、オクトピン合成酵素(ocs)およびChua et al. Science 244, 174-181(1989)に総説が記載されているものがある。
【0105】
転写すべきDNA配列の3'側に位置する終結配列は、プロモーター配列と同じ遺伝子に由来するものでもよく、それと異なる遺伝子に由来するものでもよい。Agrobacterium tumefaciensのノパリン合成酵素遺伝子の3'末端など、当技術分野で知られている多くの終結配列は通常、本発明において使用することができる。しかし、好ましい終結配列は、元の遺伝子由来の、または形質転換すべき標的種由来のものである。
【0106】
本発明のDNA構築物はまた、その構築物を含む形質転換細胞の検出を可能にするのに細胞中で有効な選択マーカーを含むことができる。そのようなマーカーは、当技術分野で周知であり、通常、1つまたは複数の毒素に対する耐性を与える。そのようなマーカーの1つの例は、NPTII遺伝子であり、その発現により、通常、中程度の濃度で植物細胞に毒性を示す抗生物質であるカナマイシンまたはヒグロマイシンに対する耐性が生じる。あるいは、PCR、サザンブロットなど当技術分野で周知の他の技術を用いて、所望の構築物が形質転換細胞中に存在するかどうかを決定することもできる。
【0107】
本発明のDNA構築物の成分を作動的に結合させる技術は、当技術分野で周知であり、1つまたは複数の制限エンドヌクレアーゼ部位を有する合成リンカーの使用を含む。DNA構築物は、少なくとも1つの系、例えばE.coli中で複製することができるベクターと結合させることができ、それによって、各操作後、得られた構築物の配列を決定し、操作が正しいかどうかを決定することができる。
【0108】
本発明のDNA構築物を使用して、農業用、観賞用、および園芸用植物を含めた様々な植物を形質転換することができる。好ましい実施形態では、DNA構築物を使用して植物リンゴ、バナナ、キウイフルーツ、トマト、ワタ、バラ、オリーブ、ジャガイモ、カーネーション、ツクバネアサガオ、マンゴー、パパイヤ、トルコキキョウ(lisianthus)、キク、イネ、茶、ホップ、およびランを形質転換する。
【0109】
上記で論じたように、本発明のポリヌクレオチド配列を含むオープンリーディングフレームを含み、そのオープンリーディングフレームがセンス方向に向いているDNA構築物を用いて植物を形質転換すると、場合によっては、同時抑制によりそのポリペプチドの発現低下が生じ得る。アンチセンスの向きの遺伝子のオープンリーディングフレームまたは非コード(非翻訳)領域を含むDNA構築物を用いて植物を形質転換すると、形質転換植物におけるポリペプチドの発現低下が生じる。
【0110】
細菌(例えば、E.coli、Agrobacterium)、真菌、昆虫、および動物細胞など周知の原核細胞および真核細胞を含めて、他の非植物宿主の形質転換が、実現可能であり、予想されることも理解されるであろう。これにより、本発明の組換えポリペプチドまたはその変異体の産生が可能となるはずである。組換えタンパクの産生に無細胞系(例えば、Roche Rapid Translation System)を使用することも予想される(Zubay Annu Rev Genet 7, 267-287(1973))。
【0111】
周知の技術を用いて、そのような任意の宿主中で産生された本発明のポリペプチドをそれから単離し精製することができる。α−ファルネセンの酵素合成のための無細胞系においてこのポリペプチドを使用することができる。
【0112】
標的植物のゲノム中にDNA構築物を安定に組み込む技術は、当技術分野で周知であり、これには、Agrobacterium tumefaciensが媒介する導入、エレクトロポレーション、プロトプラストとの融合、生殖器官中への注入、未熟胚中への注入、高速遺伝子銃による導入(high velocity projectile introduction)、花の浸漬(floral dipping)などがある。技術の選択は形質転換すべき標的植物によって決まる。
【0113】
細胞を形質転換した後、上記で論じたカナマイシン耐性マーカーなどのマーカーを用いて、DNA構築物がそのゲノム中に組み込まれた細胞を選択することができる。次いで、当技術分野で周知の技術を用いて、トランスジェニック細胞を適切な培地中で培養して、植物全体を再生させることができる。プロトプラストの場合、適切な浸透条件下で細胞壁を再形成させることが可能である。種子または胚の場合、適切な発芽またはカルス誘導培地を使用する。外植片には適切な再生培地を使用する。
【0114】
上記した方法に加えて、裸子植物類、被子植物類、単子葉類および双子葉類を含めた、多種多様な植物種中にDNA構築物を移入する複数の方法が当技術分野で周知である。
【0115】
当技術分野で周知の技術を用いて、得られた形質転換植物を有性生殖でまたは無性生殖で再生して、世代が継続するトランスジェニック植物を得ることができる。
【0116】
本明細書において提供したヌクレオチド配列の情報は、例えば、他の生物または組織、特に植物由来の核酸変異体を同定し、α−ファルネセン合成酵素またはその同等物中の変異を有し、その変異によってそれを有する植物が有用となるような植物を予め選択するプログラムにおいても有用である。これによって、α−ファルネセンおよびその誘導体の含有量が調節された植物を生成する育種プログラムが促進される。より具体的には、本明細書において提供したヌクレオチド配列情報を用いて、α−ファルネセン合成酵素のプロービングまたは増幅のためのプローブおよびプライマーを設計することができる。プロービングまたはPCRに使用するオリゴヌクレオチドは、長さ約30ヌクレオチド以下でもよい。一般に、特異的なプライマーは、長さ14ヌクレオチドより長い。最適な特異性および費用有効性を得るには、長鎖16〜24ヌクレオチドのプライマーが好ましい。当業者なら、PCRなどのプロセスで使用するプライマーの設計について熟知している。
【0117】
必要な場合、本明細書で開示された遺伝子の制限断片全体を用いて、プロービングを行うことができる。もちろん、図4に基づいた配列またはその相補体を使用することができる。このようなプローブおよびプライマーも本発明の一態様をなす。
【0118】
本発明によって提供された配列情報を用いて、任意の種から本発明のポリヌクレオチドの変異体を発見する方法には、それだけに限らないが、cDNAライブラリーのスクリーニング、RT−PCR、ゲノムライブラリーのスクリーニングならびにコンピュータ支援によるEST、cDNAおよびゲノムデータベースの検索がある。このような方法は当業者に周知である。
【0119】
次に、以下の非限定的な実施例に関して、本発明を説明する。
【0120】
(実施例)
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するものである。
【0121】
実施例1 α−ファルネセン合成酵素遺伝子の同定
植物材料およびGC−MS分析:ニュージーランド、ホークスベイにあるホートリサーチ果樹園(A HortResearch orchard at Hawkes Bay, New Zealand)で成長したロイヤルガラの木から、木で熟した150DAFBのリンゴ(Malus domestica)を収穫した。12個の果実を分析用に選択し、すりガラスの平らなフランジ継ぎ手付きの5Lの広口丸底サンプリング容器に入れた。この容器をガラス蓋で覆い、すりガラス製継手を、ガス線、およびクロモソーブ105(Chromosorb 105)100mgを含む揮発性物質吸着剤カートリッジを含む挿入口で密封した。フラスコ内のヘッドスペースを25.0ml/分のN2(g)でパージしながら15分間トラップした後、ヘッドスペースを23℃で1時間平衡状態にした。分析の前に、35℃で、10psiのN2(g)流量でクロモソーブカートリッジを15分間乾燥させた。150℃で3分間、クロモソーブトラップからガスクロマトグラフ(GC)HP5890の注入口中へと、熱により揮発性物質を脱着させた。このGCシステムは、30m×内径0.32mmであり、フィルムの厚さが0.5μmであるDB−Waxキャピラリーカラム(J&W Scientific、米国、Folsom)を備えていた。担体ガスは、流速30cm/秒のヘリウムであった。GCオーブンを、6分間30℃の状態を保ち、次いで3℃/分で102℃に上昇させた後、5℃/分で190℃に上昇させ、この温度を5分間維持するようにプログラムした。カラムの出口を、質量分析計(VG70SE)、さらにGC水素炎イオン化検出器に分岐させた(GC−FID/MS)。70eV、スキャン範囲30〜320amuの電子衝撃イオン化(EI−MS)モードで質量分析計を操作した。成分の同定に、標準物質の質量スペクトル、ライブラリースペクトル(NISTおよび本発明者ら所有のもの)およびGC保持指標を助けとして用いた。標準物質に対する試料のピーク面積を測定することによって定量データを得た。
【0122】
mRNAの単離、およびcDNAライブラリーの構築:150DAFBのリンゴの皮を皮むき器でむき、GomezおよびGomezの方法(Langenkamper, et al., Plant Mol.Biol.36, 857-869(1998))に手を加えた方法により、むいた皮から全RNAを抽出した。オリゴ(dT)セルロースクロマトグラフィー(Pharmacia)によって全RNAから精製したmRNAを用いて、λZAP−CMV(Stratagene)cDNAライブラリーを、製造者の説明書に従って構築した。cDNAを含むpBK−CMVプラスミドをまとめて切り出し、これを用いてE.coli XLOLR(Stratagene)を形質転換した。プラスミドをXLOLRコロニーから単離し、部分的に配列を決定した。NRBD90データベース(Altschul, et al., Nucleic Acids Res. 25, 3389-3402(1997))に対して、このデータベース上のすべての配列をBLAST分析し、鍵となるモチーフに基づいた、既知のテルペン合成酵素との類似性により、推定テルペン合成酵素cDNA配列を同定した。完全長テルペン合成酵素配列(EST57400)を同定し、そのポリヌクレオチド配列を決定した。
【0123】
pET−30へのクローニング:機能的発現を行うために、pBK−CMV57400から、開始ATGのすぐ隣りにあるEcoRI制限エンドヌクレアーゼ部位およびベクターのXhoI制限部位を用いて、EST57400をコードするcDNA断片を切り出した。次いで、同様にEcoRIおよびXhoIで消化した発現ベクターpET−30a(Novagen)に、得られた1899bpのcDNA配列を、フレームを合わせてサブクローン化し、その結果プラスミドpET−30a57400が生じた。次いでプラスミドpET−30a57400で、E.coli BL21−CodonPlus(商標)−RIL細胞(Stratagene)を形質転換した。挿入cDNAのフレームが合っていることを保証するために、クローンの5'末端の配列を再び決定した。
【0124】
細菌培養物由来α−ファルネセン合成酵素の発現および特徴付け:カナマイシン30μg/mlおよびクロラムフェニコール50μg/mlを補充したLB(Lauria-Bertani)培地中で、pET−30a57400、および対照としての空のpET−30ベクターを含むE.coli BL21-Plus(商標)-RIL細胞を37℃で1晩増殖させた。1晩培養物のアリコート500μlを使用して、カナマイシン30μg/mlおよびクロラムフェニコール50μg/mlを補充した新鮮2×YT培地50mlに接種した。この培養物を、37℃で激しく振盪してA600=0.6に増殖させた後、0.3mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて誘導し、ファルネシルジリン酸(FDP)(10μM)を同時に加えた。実験に応じて、30℃、16℃または37℃のインキュベーターに培養物を直ちに移した。
【0125】
細菌培養物のヘッドスペース分析:固相マイクロ抽出(SPME)を用いて、細菌培養物上の容器内ヘッドスペースを、FDPを加えた後直ちに収集した。SPMEファイバー(65μm PDMS/DVB、オーストラリア、Supelco)を45分間260℃にし、使用前にGC−FID(HP5890)を用いて、これに混入があるかどうかバックグラウンドの分析を行った。ヘッドスペースの揮発性物質を、30℃で4時間連続振盪(110rpm)して収集した。GC−FID/MSを用いた分析の前に、隔壁で密封したガラス容器中の周囲温度でファイバーを貯蔵した。250℃で5分間、GC注入口内でファイバーから揮発性物質を脱着させた。このGCシステムは、30m×内径0.25mmであり、フィルムの厚さが0.5μmであるDB−Waxキャピラリーカラム(J&W Scientific、米国、Folsom)を備えていた。担体ガスは、流速30cm/秒のヘリウムであった。GCオーブンを、6分間30℃の状態を保ち、次いで3℃/分で102℃に上昇させた後、5℃/分で210℃に上昇させ、この温度を11分間維持するようにプログラムした。70eV、スキャン範囲30〜320amuの電子衝撃イオン化(EI−MS)モードで質量分析計を操作した。試料のスペクトルをNIST、Wiley由来のもの、および本発明者ら所有の質量スペクトルライブラリーと比較することによって、ピークの同定を実施し、標準物質の保持指標および文献の値(Davies, J.Chrom. 503, 1-24,(1990))によってそれを確認した。FDPと同時に培養物に加えた内部標準であるヘキサデカンに対する試料のピーク面積を測定することによって、定量データを得た。
【0126】
誘導培養物および非誘導培養物の発現の時間経過:pET−30a57400を含む細菌培養物6×50mlを上記のように調製した。A600=0.6の時点で、3つの培養物に0.3mMのIPTGで誘導を行ったが、残りの培養物には誘導を行わなかった。次いで培養物を30℃で、1時間、3時間、または5時間インキュベートし、ヘッドスペースの揮発性物質を上記に記載したように収集した。
【0127】
細菌抽出物由来α−ファルネセン合成酵素および部分精製α−ファルネセン合成酵素組換えタンパクの特徴付け:上記のように、培養を開始し、培養物を増殖させ誘導した。誘導後、培養物を24℃のインキュベーターに直ちに移し、連続振盪してさらに18〜20時間増殖させ、細胞を遠心(2000×gで10分間)によって回収した。結合バッファー(5mMイミダゾール、0.5mM NaCl、10mM DTT、20mM Tris−HCl(pH7.9))20mlまたは抽出バッファー(25mM MOPS(pH7.0)、10mMアスコルビン酸ナトリウム、25mM KCl、10mM DTT、10%グリセロール)20ml中で、ペレットにした細胞を再懸濁させた。12700psiでフレンチプレス細胞破砕機(French Pressure Cell Press)(American Instrument Co. Inc、米国メリーランド州シルバースプリング(Silver Spring))に2回かけて細胞を破砕し、次いでこれを8000×gで15分間遠心した。上清5mlを50ml試験管に移し、10mM MgCl2および20μM MnCl2に調節した。FDP100μM)を加え、反応混合物を30℃でインキュベートした。培養物全体の場合と同様にヘッドスペースの揮発性物質を収集した。(DTTを省いた)結合または抽出バッファーで予め平衡化したPD−10ゲル濾過カラム(Amersham-Pharmacia Biotech)に抽出物の残り(15ml)を入れた。次いで溶出分画を貯留し、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)を用いて、組換えタンパクの精製を1ステップで実施した。Ni+に帯電したハイトラップキレーティングHPカラム(Hi-trap Chelating HP column)(Amersham-Pharmacia Biotech)に溶出液を入れた。非結合タンパクを除去し、製造者の説明書に従って組換えタンパクを溶出させた。溶出タンパクの試料5mlを、50ml試験管に移し、10mM MgCl2および20μM MnCl2に調節し、10μMのFDPを加えた。細菌培養物の場合と同様にヘッドスペースの揮発性物質を収集した。残っている組換えタンパクのアリコートを20%グリセロール中で−80℃で必要となるまで貯蔵した。
【0128】
電気泳動およびウェスタン分析:培養物そのもの、フレンチプレスしたHis精製および非His精製タンパク抽出物を、10%ポリアクリルアミドゲルを用いてSDS−PAGEで分析した。タンパクバンドを、コロイドクマシー(Colloidal Coomassie)を用いて視覚化し、またはImmobilin−P PVDF膜(Millipore)上に移した。ブロットしたタンパクを、抗His6モノクローナル(Roche)第1抗体および抗マウスIgG−AP(Stressgen)第2抗体とともにインキュベートし、1−STEP(商標)NBT/BCIP(Pierce)アルカリホスファターゼ検出試薬を用いて検出した。
【0129】
タンパク定量:Spectromax Plus分光光度計を用い、ウシ血清アルブミン(BSA)を標準物質として用い、製造者の説明書に従ってBioradのキットを用いるブラッドフォード(Bradford)法によって、抽出物および部分精製組換えタンパクのタンパク濃度を決定した。
【0130】
(結果)
150DAFBのリンゴから放出された揮発性物質のヘッドスペース分析:α−ファルネセンが、リンゴ皮組織中で合成され、ヘッドスペース分析において検出されることは十分に認められている。通常、(E,E)および(Z,E)α−ファルネセンというα−ファルネセンの2つの異性体がリンゴ皮中にみられる(Matich et al., Anal.Chem.68, 4114-4118(1996)、Bengtsson, et al., J.Agric.Food Chem. 49, 3736-3741(2001))。この2つの異性体は通常、100:1の比でそれぞれ同定される(Matich, et al., Anal.Chem.68, 4114-4118(1996))。分析した150DAFBのリンゴのヘッドスペース中では、α−ファルネセンの「全トランス」型(E,E)異性体しか同定されなかった(図5)。この異性体は低レベルで存在し、(E,E)α−ファルネセンは1果実につき平均4ngであった。(E,E)α−ファルネセン異性体は保持時間42.57分であり、これを使用して、この化合物のコバッツ(Kovats)保持指標を計算した。保持指標および質量スペクトルによって、この化合物は(E,E)α−ファルネセンとして陽性に同定された。
【0131】
α−ファルネセン合成酵素の配列分析:α−ファルネセン合成酵素をコードする、pBK−CMV中のcDNAの配列決定から、挿入物のサイズがポリ(A)尾部を除いて1926塩基対であることが明らかとなった(図3、配列番号:1)。cDNA配列は、5'末端から61塩基にある推定開始メチオニンから開始する576アミノ酸の予想ORFを有していた(図4、配列番号:2)。α−ファルネセン合成酵素の分子量は、66kDと予測されている。α−ファルネセン合成酵素の予想アミノ酸配列は、葉緑体シグナリング(chloroplast-signalling)ペプチド配列を有さず(Emanuelsson, et al., 300, 1005-1016(2000))、このことは、モノテルペンおよびジテルペン合成酵素に特徴的である。他のすべてのテルペン合成酵素で認められているように、α−ファルネセン合成酵素の予想アミノ酸配列は、触媒作用に必要な金属イオンの結合に関与するDDXX(D,E)モチーフ(DDVYD)をアミノ酸326〜330に含む。α−ファルネセン合成酵素は、被子植物セスキテルペンコンセンサス配列GVYXEPを含まないことが判明したが(Cai et al Phytochem 61, 523-529(2002))、その代わりに極めて類似するGVAFEPモチーフをアミノ酸301〜306に含んでいる。これがRRX8Wモチーフをアミノ酸33〜43に含むことも判明したが、このことは、Tps−dおよびTps−bモノテルペン合成酵素の共通の特徴である(Duderava,N., Martin,D., Kish,C.M., Kolosova,N., Gorenstein,N., Faldt,J., Miller,B., and Bohlmann,J. (2003) Plant Cell. 15, 1227-1241)。
【0132】
Bohlmann、Meyer-GauenおよびCroteau(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95, 4126-4133(1998))は、33種のテルペン合成酵素のアミノ酸配列を比較し、7つの完全に保存されているアミノ酸残基が存在することを示した。α−ファルネセン合成酵素は、この7つの完全に保存されたアミノ酸のうち6つを含む。彼らは、芳香族アミノ酸の6つの位置が完全に保存され、酸性アミノ酸の4つの位置が完全に保存されていることも発見した。α−ファルネセン合成酵素では、芳香族アミノ酸の位置6つのうち4つが、酸性アミノ酸の位置4つのうちすべてが保存されている。
【0133】
α−ファルネセン合成酵素(セスキテルペン合成酵素)の予想アミノ酸配列は、Cinnamomum tenuipilum由来の推定モノテルペンのアミノ酸配列に最もよく似ており(Zeng et al, Genbank CAD29734, 2002)、予想アミノ酸34〜574での同一性が39.8%、類似性が56.3%である。Melaleuca alternifolia(ティーツリー)由来の推定モノテルペン合成酵素(Shelton et al, Genebank AAP40638,2003)は、類似性が2番目に高く、予想アミノ酸34〜574での同一性が38.7%、類似性が54.1%であり、Quercus ilex(トキワガシ(holly oak))由来の推定モノテルペン合成酵素(Fischbach, Genbank CAC41012, 2001)では、予想アミノ酸34〜574での同一性が37.9%、類似性が55.8%である。
【0134】
α−ファルネセン合成酵素の核酸配列は、少数のセスキテルペン合成酵素のmRNAの非常に短い部分と相同性を示す。相同性領域の1つは、ヌクレオチド918〜946に存在する。例えば、Gossypium arboreum(キダチワタ(tree cotton))由来のカジネン合成酵素(Chen, Wang, Chen, Davisson and Heinstein, 1996)は、ヌクレオチド918〜946の領域中で25のうち24の同一塩基を有し、Artemisia annua由来の推定セスキテルペン合成酵素は、この領域中で26塩基のうち25が同一である(Van Geldre et al., Plant Sci. 158, 163-171(2000))。ヌクレオチド367〜386では、Abies grandis(グランドファー(grand fir))のE−a−ビサボレン合成酵素は20のうち20の同一塩基を有する。
【0135】
α−ファルネセン合成酵素合成酵素の予想等電点は5.1であり、これは他のセスキテルペン合成酵素で計算された等電点と類似している。例えば、Artemisia annuaから単離された2つのセスキテルペン合成酵素cASC34およびcASC125は、等電点がそれぞれ5.28および5.50である(Van Geldre et al., Plant Sci. 158, 163-171(2000))。
【0136】
α−ファルネセン合成酵素のcDNA配列(EST57400)は、ロイヤルガラの150DAFBのリンゴ皮から構築したcDNAライブラリーから得られた。配列決定した5'末端のポリヌクレオチドがEST57400と同一である他の切断型cDNAも3つ単離された。そのうち、1つはロイヤルガラ126DAFBの果実の皮層に由来し、1つはロイヤルガラの花芽に由来し、第3の切断型はピンキー(Pinkie)の葉に由来する。アオテアの葉から得られた他の切断型cDNAは、配列決定した675塩基のうち7塩基対が異なり、その結果5アミノ酸が変化する。
【0137】
ウェスタン分析:ウェスタン分析によって、フレンチプレス抽出物中にも部分精製組換えタンパク抽出物中にも、α−ファルネセン合成酵素の予想サイズの範囲(Hisタグも含めて65〜75kDa)内の可溶性発現産物が存在することを確認した。精製pET−30a対照と非精製抽出物のどちらにも、それに似たサイズのバンドは検出されなかった。
【0138】
α−ファルネセン合成酵素の特徴付け:pET−30a57400を含む細菌培養物および抽出物のヘッドスペース内で、(E,E)α−ファルネセンおよび少量の(Z,E)α−ファルネセンが検出された。α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を欠くpET−30aで形質転換した大腸菌(E.coli)BL21細胞を含む対照では、ごくわずかのα−ファルネセンが得られた、または全く得られなかった。培養物および非精製抽出物中での(E,E)α−ファルネセン産生は、前駆体を加えることに依存しないが、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物が存在することに依存することが示された。対照では、α−ファルネセン(42.24分)と似た保持時間にピークが認められたが、質量スペクトルから、これがシトラールであることが示された。細菌培養物にGDPを加えても、α−ファルネセンおよびいずれのモノテルペンも産生されなかった。
【0139】
部分精製組換え酵素のヘッドスペース分析から、His精製結合バッファー中での抽出に由来するものであれ、セスキテルペン抽出バッファー中での抽出に由来するものであれ、主産物として(E,E)α−ファルネセンが少量の(Z,E)α−ファルネセンとともに存在することが示された(図6)。これにはFDPを加えることが必要であり、前駆体を加えないと、α−ファルネセンは産生されなかった。−80Cで4週間グリセロール中で貯蔵した精製酵素を再び分析したとき、その活性の消失はわずか15%であった。
【0140】
α−ファルネセンcDNAを含む細菌培養物および非精製抽出物では、誘導を行わない条件下でもわずかな発現が示された。しかし、揮発性物質を5時間にわたってトラップすると、IPTGを加えたとき、誘導しなかった試料と比べてどちらの異性体の産生も増大したことが示された。
【0141】
したがって、EST57400は、α−ファルネセンだけを作成するα−ファルネセン合成酵素をコードしている。
【0142】
実施例2 この酵素の特性
異性体特異性:ほとんどの実験および分析において、FDP前駆体がE,E型およびE,Z型の混合物からなることから、α−ファルネセンのE,EおよびZ,E異性体が遺伝子α−ファルネセン合成酵素によって産生されることが示唆された。異性体特異性を試験するため、標準的なin vitro活性実験において、E,E異性体41.3%、E,Z異性体28.7%、Z,E異性体24.7%、Z,Z異性体5.4%の比で、FDP前駆体を精製タンパク抽出物に与えた。前記のようにSPMEファイバーで2時間トラッピング後、α−ファルネセンの異性体4つのうち3つが産生した(図7参照)。40.54のピークはZ,Zα−ファルネセンである可能性があるが、それは確認されていない。この結果から、この酵素には異性体特異性がなく、FDP前駆体の異性体型に応じて、この酵素がα−ファルネセン異性体を産生することが示唆される。
【0143】
タンパクの大規模産生の最適化:カナマイシン30μg/mlおよびクロラムフェニコール-150μg mlを補充したLB(Lauria-Bertani)培地中で、pET−30a57400を含むE.coli BL21−Plus(商標)−RIL細胞を37℃で1晩増殖させた。1晩培養物のアリコート5mLを使用して、カナマイシン30μg ml-1およびクロラムフェニコール50μg ml-1を補充した、1Lバッフル付きフラスコ中の新鮮2×YT培地4×300mLに接種した。培養物を、37℃で激しく振盪してA600=0.8に増殖させ、次いで4℃に移動させて16℃の状態にした後、0.3mMのIPTGで誘導した。次いで誘導した培養物を、16℃および220rpmでさらに50時間インキュベートした。細胞を遠心(2500×g、10分)によってペレットにし、−20℃で1晩貯蔵した。翌日、His6結合バッファー15mL中に細胞ペレットを再懸濁させ、15000〜20000psiの間に設定した圧力でEmulsiFlex(登録商標)−C15高圧ホモジナイザー(Avestin)に3回通して細胞を破砕した。10000×gで15分間、4℃(Sorval SS34ローター)の遠心を2回行うことにより、細胞の残骸をペレットにした。この上清を0.45μmフィルター(Amicon)によって濾過した。フィルター濾過した抽出物を、脱塩し、ニッケルアフィニティーカラムに通した後、30kDaフィルター(Millipore)に通した。タンパク濃度を吸光率から決定し(VectorNTI第8版)、10%グリセロールおよび1mM DTTを含むHis6溶出バッファーで、1mLにつきタンパク約1mgにこの精製抽出物を調整した。次いでこの抽出物をアリコート100μlに分け、必要となるまで−80℃で貯蔵した。
【0144】
タンパクのオリゴマー形成:600×16mmのS300 Sephacrylカラム(Pharmacia)上に、流速1mL分-1で精製タンパク約500μgを流した。カラムを予め平衡化しておき、10%グリセロールを含み、50mM KClまたは0.5M KClを含み、7mM MgCl2を含むまたは含まない、50mMのビストリスプロパンバッファーで溶出させた。7mM MgCl2に調整し、25μMの3H−FDPを加えた後、タンパクピークに対応する分画を活性について分析した。分子量が既知の標準物質との比較に基づいて、活性がある分画の分子量を計算した。
【0145】
結果:α−ファルネセン合成酵素タンパクは、主にモノマーとして働く(図8および9参照)。データから、少量の活性がオリゴマー型に起因している可能性があることが示唆されるが、70%を超える活性がモノマー酵素に起因している。図8は、Sephacryl S300 HRゲル濾過クロマトグラフィー上でのα−ファルネセン合成酵素のタンパク溶出プロフィルおよびおよその分子量を示す。4つの異なる精製抽出物を対照の塩およびMgのプロフィルと比較した。分画40での大きなピークは、α−ファルネセン合成酵素ではなく、SDSゲル上のタンパクがほとんどないことが示され、DNAが優勢である可能性が高い。酵素活性は60〜70の分画に集中している(図9参照)。
【0146】
反応速度研究:反応速度研究のために、培養中に誘導され、タンパク最適化で記載したように精製したα−ファルネセン合成酵素の活性タンパクを、50mMビストリスプロパン(pH7.5)、10%(v/v)グリセロール、1mM DTTおよび0.1%(v/v)Tween−20を含む最小分析バッファーに加えた。放射活性FDPを実験に応じて様々に加えた。タンパク1〜2μgを含む分析物1mLにペンタン0.6mLを重層し、これを1.5mLマイクロチューブ中で30℃および150rpmで2時間インキュベートした。すべての分析は3回反復して行った。インキュベーション後、分析物を氷上に直ちに置き、ペンタン層のアリコート200μLを分析用に移した。有機物カウント用シンチレーション剤(Organic Counting Scintillant)(OCS)(Amersham)0.7mLを含む1.5mLマイクロチューブにアリコートを加え、これに短くボルテックスをかけた。Wallac 1409液体シンチレーションカウンターを用いて(3H効率≒70%)、シンチレーション分析を行った。
【0147】
3H−FDP(10.06Mbq/mL)を基質(濃度範囲1μM〜100μMでMg2+およびMn2+が飽和状態)として用いた反応速度研究を実施して、FDPのKmを決定した。25μM 3H−FDPにおけるMg2+およびMn2+の反応速度定数(塩化物の分析範囲はそれぞれ25μM〜25mM、1μM〜1mM)を決定した。塩を含む場合および含まない場合の金属補因子の酵素活性に対する効果も試験した。すべての可能な組合せにおいて、50mM KCLおよび50mL NaClの存在下および不在下でMg2+およびMn2+を加えた。酵素を含めずインキュベートしたもの、酵素を含めるが金属イオン補因子を含めないもの、および10mM EDTAの存在下で酵素と補因子を含めるものを対照とした。
【0148】
この酵素のpH最適条件を決定するために、pH値4.5〜9.6で、7mM Mg、150μM Mn、25μM FDP、10%(v/v)グリセロール、1mM DTT、および0.1%(v/v)Tween−20を用い、51mMジエタノールアミン、100mM MES、および51mM N−エチルモルホリンを含む、3種のバッファーシステムにおいて分析を実施した。標準的な分析バッファーおよび7mM Mg、150μM Mnおよび25μM FDPを用いて、18℃〜50℃の範囲における酵素活性に最適な温度も決定した。Origin50 graphics packageを用いて、非線形回帰により、DPMデータから反応速度定数を決定した。示したデータは、3つの決定値の平均を、±10%以内の標準誤差、および対照から差し引いて計算したバックグラウンドDPMとともに表す。すべての実験を少なくとも2回実施した。
【0149】
結果:pH α−ファルネセン合成酵素は、pH7〜8.5の広いpH最適条件を示した(図10)。反復実験から、pH約7.8で活性がわずかに低下することが示された。最適pHの範囲で産生した産物中で活性の違いは認められなかった(結果は示さず)。このpH範囲は、特徴付けられた他のセスキテルペン合成酵素について文献(Cai et al Phytochemistry 61, 523-529(2002)、Steele et al J.Biol.Chem. 273, 2078-2089(1998))中で報告されたもの(pH7〜9)と類似する。
【0150】
Km FDPのKmは2.5〜3.5μM(図11)であり、飽和濃度は12μMであった。前駆体抑制はFDP濃度が最大50μMでも認められなかった。補因子Mg2+のKmは600〜800μM(図12)であり、高濃度(25mM)で活性がわずかに抑制された(23%)。Mn2+のKmは10〜20μMであり、高濃度(>800μM)で活性が少なくとも50%抑制された(図13)。文献中で報告されたKmは、他のセスキテルペン合成酵素に関して、FDPで0.4〜4.5μM、Mgで70〜150μM、Mnで7〜30μMの範囲である(例えば、Cai et al Phytochemistry 61, 523-529(2002)、Steele et al J.Biol.Chem.273, 2078-2089(1998))。
【0151】
他の金属イオンの効果 K+イオンを加えると、α−ファルネセン合成酵素活性は増強された(表1)。Na+イオンを加えると、活性のわずかで有意でない増強が生じ、このことから、この増強が金属イオンの型に起因するものであり、一般的な塩の応答に起因するものではないことが示唆される。
【0152】
【表2】

【0153】
温度 最大のα−ファルネセン合成酵素活性は37℃で生じ、それより高い温度では活性が急激に低下した(図14)。活性は50℃では検出不可能であり、低温(13℃)では酵素活性は残ったが3分の2低下した。これは他のセスキテルペン合成酵素で報告されているものと類似する。
【0154】
(貯蔵)
−80℃で9ヶ月間貯蔵したタンパクは活性が消失した(92.5%消失)。この貯蔵タンパクでは、FDPのKmが約1.5μMに低下したことも示された。しかし、Mg、MnのKm、およびpH応答は変わらなかった。
【0155】
実施例3 植物中での発現
Nicotiana benthamiana葉中での一過性発現:N.benthamiana葉の形質転換をHawesら(Hawes, C., Boevink, P., and Moore, I., GFP in plants, in Fluorescence microscopy of Proteins:a practical approach., V.Allen, Editor.1999, Oxford University Press:Oxford. P.163-177(2000))に従って行った。EST57400を有するpHEX2バイナリーベクター(binary vector)、および対照としてmRNAサイレンシングのウイルス性抑制因子(viral suppressor)を発現するP19ベクター(Voinnet et al. Plant J 33, 949-956(2003))を含むAgrobacterium tumefaciens株GV3101(MP90)を、リファンピシン(10mg ml-1)、ゲンタマイシン(25mg ml-1)、およびスペクチノマイシン(100mg ml-1)を含む2YT培地の5ml培養中で28℃で24時間増殖させた。遠心(3500×g、10分間)によって細胞を収集し、最終OD6000.5〜0.6となるように、浸透用培地(50mM MES pH5.6、0.5%(w/v)グルコース、2mM Na3PO4、(200mMアセトシリンゴン/DMSOストックから新たに作成した)100mMアセトシリンゴン)中に再懸濁させた。針を取り付けない1ml注射器を用いて、分離したN.benthamiana葉の裏側の気孔から細菌懸濁液を注入した。後で同定するために、葉の浸透させた部分に消えないマーカーペンで印を付けた。感染させた葉を有する植物を、標準的な温室条件下で7日間育てた。
【0156】
形質転換したN.benthamiana葉および対照の葉に、25μM FDP、7mM MgCl2および50mM KClを含む蒸留水を浸透させた。1時間後、1処理につき3枚の葉を切り出し、これを50mLのガラス製試験管内に置き、30℃で12時間、固相マイクロ抽出(SPME)を用いて、この葉組織上のヘッドスペースを収集した。前浸透を行わずにこの実験を反復した。それぞれ独立に形質転換した植物の2つの場合において完全な実験を実施した。
【0157】
結果:
一過性発現研究から、α−ファルネセン合成酵素遺伝子が存在するときにα−ファルネセンが産生されるが、対照の葉では産生されないことが示される。E,Eα−ファルネセンは前駆体を加えなくても産生された(このことから、N.benthamiana葉中では何らかの内在性前駆体が得られることが示唆される)。しかし、前駆体をも葉中へと浸透させたとき、E,Eα−ファルネセンはさらに産生された。結果を図15に示す。
【0158】
シロイヌナズナ(Arabidopsis)中でのリンゴα−ファルネセン合成酵素の過剰発現:A.tumefaciens株GV3101を、リファンピシン(10mg mL-1)、ゲンタマイシン(25mg mL-1)、およびスペクチノマイシン(100mg mL-1)を含むLB培地10mL中に接種し、200rpmで振盪して28℃で24時間増殖させた。次いで、この最初の培養物を使用して、上記と同様の抗生物質を含むもう1つのLB培地100〜200mL中に接種した。28℃で振盪して、これを再度24時間増殖させた。遠心(3500×g、10分間、4℃)によって細胞を収集し、最終OD6000.8となるように、5%ショ糖溶液中に再懸濁させた。シルウェット(Silwet)L−77を、濃度0.05%となるように加えた。このコンピテントAgrobacterium細胞のアリコート45mLを氷上でゆっくりと解凍した。プラスミドDNA(EST57400を含むpHEX2ベクター)50〜200ngを各アリコートに加え、ゆっくりと混合し、次いで、この細胞/プラスミド混合物40mLを、予め冷却したエレクトロポレーション用キュベット(間隔0.2cm、Bio-Rad)中にピペットで入れた。BioRadのジーンパルサー(GenePulser)を用いて、以下の設定でこの細胞にエレクトロポレーションを行った。
電圧:2.5kV
静電容量:25mFd
抵抗:400オーム
パルスの時定数は通常7〜9msであった。
【0159】
LB培地1mLを加えて、細胞を直ちに回復させ、次いでこれを滅菌15mL遠心管中にデカントで入れ、室温で振盪して(60rpm)インキュベートした。2時間後、形質転換した細菌10mLおよび100mLを、リファンピシン(10mg mL-1)、ゲンタマイシン(25mg mL-1)、およびスペクチノマイシン(100mg mL-1)を含む別々のLBプレート上に播き、次いでこれを28〜30℃で48時間増殖させた。
【0160】
プラスミドを含むA.tumefaciensを、リファンピシン(10mg mL-1)、ゲンタマイシン(25mg mL-1)、およびスペクチノマイシン(100mg mL-1)を含むLB培地の5mL培養中で、28℃で24時間増殖させた。細胞を遠心によって収集し、最終OD6000.8となるように、5%ショ糖溶液中に再懸濁させた。シルウェットL−77を、濃度0.05%となるように加えた。
【0161】
多数の未熟な花房が見られる5週齢の健常なArabidopsis thalianaコロンビア系統(cv Columbia)の植物を、EST57400を含むまたは空ベクターを含むAgrobacteriumで形質転換した。植物の地上部分全体をAgrobacterium懸濁液中に浸漬し、3〜5秒間ゆっくりと攪拌した。次いで、浸漬した植物を、光を減少させた状態で湿潤チャンバー中に2〜3日間置いた後、通常の温室条件下で開花させ、種をまいた。(浸漬してから5〜6週間後に)植物を完全に乾燥させた後、種子(T0)を採取した。植物を自家受粉させ、カナマイシン選択プレート上で2世代にわたって個体を増殖させることによって、T2種子を生じさせた。
【0162】
DNA抽出:サザン分析を行うために、Dellaporta et al. Plant Mol.Biol.Reporter 1, 19-21(1983)の方法により、Arabidopsis thaliana葉からDNAを抽出した。液体窒素中で組織材料(1g)をすりつぶし、次いで、βメルカプトエタノール22.5μlを含むバッファー(100mM Tris−HCl pH8.0、50mM EDTA pH8.0、500mM NaCl)15mlにこの粉末を加えた。20%SDSを1ml加えた後、ホモジェネートをボルテックスに接触させ、次いで65℃で20分間インキュベートした。5Mの酢酸カリウム(5ml)を加えた後、氷上で20分間インキュベートし、次いで6000rpmで30分間遠心した。上清をミラクロス(miracloth)に通し、冷イソプロパノールを10ml加え、4℃で1晩DNAを沈降させた。5000rpmで15分間遠心することによってDNAをペレットにし、次いで70%エタノール1ml中でこれを洗浄し、水0.5ml中に再懸濁させた。再懸濁させたDNAを、等量の1:1 フェノール:クロロホルムで抽出し、次いで等量のクロロホルムで抽出し、イソプロパノールで再沈降させた。遠心し、70%エタノールで洗浄した後、DNAを水50μlに再懸濁させた。RNAse(Roche)(10mg/mlの1μl)を加えてRNAを除去した。
【0163】
PCR反応で使用するDNAの小規模抽出を行うために、Arabidopsis thaliana葉組織150mgを液体窒素中ですりつぶした。抽出バッファー(480μl)を加え、組織をさらにすりつぶし、次いで氷上に置いた。20%SDSを37.5μl加えた後、試料を65℃で10分間置いた。5Mの冷酢酸カリウムを94μl加えた後、試料を転倒混和し、次いで氷中に10分間置いた後、13200rpmで10分間遠心した。25:24:1 フェノール:クロロホルム:酢酸イソアミル600μlとゆっくり混合して上清を抽出し、次いで10,000rpmで5分間遠心した。イソプロパノール360μlを上清に加え、混合し、次いでこれを13200rpmで3分間遠心した。ペレットを70%エタノールですすぎ、1分間遠心し、95%エタノールですすぎ、空気乾燥させ、RNAse(Roche)を含むTE50μl中に再懸濁させた。
【0164】
DNAのPCR増幅 Expand High Fidelity Taq(Roche)を用いて、PCR増幅を行った。増幅反応は、製造者の奨励に従って行った。PCRプライマー(57400_A3 AGAGTTCACTTGCAAGCTGA(配列番号:3)および57400_A4 GAAAAGTTCCAGCATTCCTT(配列番号:8))を設計して、EST57400のコード領域の5'末端に由来する513塩基対の断片を増幅した。PCR増幅は、以下の条件下で行った。96℃、5分間の変性反応後、96℃、30秒間の変性反応、55℃、4秒間のアニーリング反応、および72℃、60秒間の伸長反応のサイクルを30回。1%AppliChemによる電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、カメラ付き紫外線トランスイルミネーター(UVP)(UV tec、Total Lab Systems Ltd)上で視覚化することによって、得られた増幅産物(5μl)を分析した。
【0165】
結果:リンゴ由来のα−ファルネセン合成酵素をコードするDNAは、4つのトランスジェニックArabidopsisの独立した形質転換体のそれぞれ(図16)およびリンゴ対照で、PCRによって検出された。pHEX対照では何も検出されなかった。
【0166】
サザン分析
Arabidopsis thaliana葉組織から抽出したゲノムDNAを、総量500μl中でBamH1を用いて1晩消化した。消化したDNAを、2倍量のエタノールおよび10分の1量の3M酢酸ナトリウムで沈降させ、次いで遠心し、70%エタノール中で洗浄し、ペレットを水30μl中に再懸濁させた。消化したDNAを、0.7%アガロースで電気泳動し、エチジウムブロマイドを用いて視覚化し、0.25M HCl中で加水分解し、水で洗浄した後、0.4M NaOH中のNytran−Plus(Schleicher & Schuell)膜に1晩トランスファーした。次いでこの膜を0.5M Tris中で中和し、Washing and Pre-Hyb Solution(MRC)中で2時間プレハイブリダイズした。α−ファルネセン合成酵素のコード領域の5'末端と相補的である、32Pで標識した810塩基対のPCR断片をプローブとして用いて、高効率ハイブリダイゼーションシステム(high Efficiency Hybridzation System)(MRC)20ml中でハイブリダイゼーションを行った。製造者らの説明書に従い、rediprime(商標)II(Amersham Pharmacia)ランダム標識システムを用いて、プローブ(40ng)を32P dCTPを用いて標識した。標識プローブを0.1M NaOH中で30分間変性させた後、ハイブリダイゼーションを1晩行った。製造者らの奨励に従って、Washing and Pre-Hyb Solution(MRC)中で膜を洗浄した。ハイブリダイゼーションシグナルは、Storm 840リン酸画像化システム(Molecular Dynamics)上でスキャンすることによって視覚化し、ImageQuantソフトウェアを用いて分析した。
【0167】
結果:
プライマー57400_A3(5'AGAGTTCACTTGCAAGCTGA3'配列番号:3)および57400NR1(5'GGATGCTTCCCT3'(配列番号:4))を用いてEST57400から増幅した810塩基対の32P標識PCR断片をプローブとして用いて、トランスジェニックArabidopsis thaliana植物から抽出したゲノムDNAのBamH1消化物のサザン分析を実施した。α−ファルネセン合成酵素cDNAを含むBamH1制限断片のサイズは、2050塩基対である。その結果を図17に示す。MWと示したレーンは分子量マーカー(Invitrogen)である。pHEXは、形質転換ベクターのみを含み、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を含まないトランスジェニックArabidopsis thaliana植物から抽出したゲノムDNAを指す。1、2、3および4と示したレーンは、α−ファルネセン合成酵素cDNA挿入物を含む、独立したトランスジェニックArabidopsis thaliana系統である。
【0168】
RT−PCR増幅:
系統3のArabidopsis thalianaの実生、葉および花から抽出した全RNAに対して、製造者らの奨励に従って、RT−PCR(Platinum(登録商標)Quantitative RT-PCR Thermoscript One-Step System、Invitrogen)増幅を行った。cDNA合成を60℃で30分間行った後、96℃で5分間変性し、次いで96℃、30秒間の変性反応、55℃、40秒間のアニーリング反応、および72℃、60秒間の伸長反応を含む増幅サイクルを40回行った。最終サイクルでは、72℃の伸長反応をさらに5分間継続させた。RT−PCRの前に、DNaseI(Life Technologies)で、全RNAを室温で10分間処理した。ゲノムDNAが混入しているかどうか調べるために、RT−PCR増幅と同時に、DNaseI処理した全RNAに対してPCR増幅も行った。PCRプライマーは以下の通りである。5'末端の増幅には、57400_A3 AGAGTTCACTTGCAAGCTGA(配列番号:3)および57400_A4 GAAAAGTTCCAGCATTCCTT(配列番号:8)、内部配列の増幅には、57400NF1 GCACATTAGAGAACCACCAT(配列番号:9)および57400NR1 GGATGCTTCCCT(配列番号:4)、3'末端の増幅には、57400_A1 CTTCACAAGAATGAAGATCT(配列番号:10)および57400_A5 TTCCATGCATTGTCTATCAT(配列番号:11)。PCR増幅の場合と同様に得られた増幅産物を分析した。その結果、導入遺伝子に対応するRNA転写物が存在することが確認された(図18を参照)。
【0169】
Arabidopsisにおける機能証明研究:4つの独立した過剰発現系統および1つの対照系統それぞれから、T2世代の種子をマイクロ遠心管に入れて、約200個を測定した。0.01%Triton−Xを含む1.5%漂白液で種子を滅菌し、これを時折混合しながら15分間インキュベートした。蒸留水で種子を数回洗浄し、0.1%アガロース中に再懸濁させた後、100mg/mLカナマイシンを含む0.5×MS培地上に播いた。12時間明るく12時間暗いサイクルの栽培室内にこのプレートを置いた。育成2〜3週間後、各系統から30個の植物を鉢内の土に移し、成熟し開花するまで、温室内でその成長を継続させた。
【0170】
長角果が見られる前に、30〜50個の花を採取し、末端を切断し、直ちに水中に置いた。次いで、25μM FDPおよび7mM MgCl2を有する蒸留水5mLを含む、すりガラスの継手の受け口付き55mLガラス製管に、これを移した。試験管に植物材料をきつく詰め込んだ。ガス線、およびクロモソーブ105 100mgを含む揮発性物質吸着剤カートリッジを含む、すりガラス製の入口の栓で、この管を密封した。フラスコ内のヘッドスペースを、50ml/分の乾燥空気でパージしながら、55時間トラップした。分析の前に、35Cで15分間、10psiのN2(g)流量でクロモソーブカートリッジを乾燥させた。リンゴについて以前に記載したのと同様に、揮発性物質を熱により脱着させ分析した。
【0171】
結果:多数のセスキテルペン化合物がArabidopsis thaliana植物の花中に認められた。産物E,E α−ファルネセンは、試験した4つの過剰発現植物系統および対照のpHEX植物のすべてにおいて認められた。保持時間、および質量スペクトルとライブラリースペクトルとの比較により、これは確認された。EST57400で形質転換した4系統では、カリオフィレン:α−ファルネセンのピーク比は3:1であり、pHEX対照では、α−ファルネセンも存在するが、カリオフィレンとα−ファルネセンとのピーク比は10:1を超えていた(α−ファルネセンのピークは、pHexで43.33分、系統3で43.41分である、図19を参照)。このことから、α−ファルネセンは、A.thalianaの花中で、他のセスキテルペンと一緒に少量産生されるが、遺伝子を加えた場合、対照植物より高い割合で、α−ファルネセンが産生されることが示唆される。
【0172】
リンゴ(「ロイヤルガラ」)におけるノーザン分析
方法:
ノーザンブロット分析
Ruegerら(1996)に記載のように、アンチセンスRNAプローブを用いてノーザン分析を行った。α−ファルネセン合成酵素のプローブの鋳型は、以下のプライマーを用いてプラスミドDNAにPCR(Genius thermocycler、Techne、英国ケンブリッジ)を行うことによって調製した。
57400NF1 5−GCACATTAGAGAACCACCAT−3(配列番号:9)および
57400NR1 5−TAATACGACTCACTATAGGGATGCTTCCCTTAAGTTTT−3(配列番号:12)
最終反応物の成分は以下の通りである。最終容量50mL中で、1×Taqポリメラーゼバッファー(Invitrogen)、200mM dNTPs、1.5mM MgCl2、200pMの各プライマー、50ngのプラスミド鋳型または25ngのゲノムDNA、1単位のPlatinum(登録商標)Taq DNAポリメラーゼ。PCR条件は、94℃で4分間変性後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、および72℃で30秒間のサイクルを25回であった。
【0173】
T7 RNAポリメラーゼ(Invitrogen)を用いて、1箇所手を加えた以外は製造者らの説明書に従って、α−ファルネセン合成酵素のプローブの転写反応物を調製した。反応物に70mM DIG−11−UTP(Roche)を補充し、UTPを130mMに低下させた。転写反応物を、37℃で1時間インキュベートし、次いで、37℃でさらに15分間、総量50μL中1単位のRQ1 RNaseフリーDNase(Promega)で処理した。水で1:80に希釈したアリコート5mLの260nmでの吸光度を測定することにより、RNAプローブの量を計算した。DIGの効果のために濃度は半分になり、ハイブリダイゼーションバッファー1mLにつきプローブ100ngの割合でこれを使用した。載せたRNAが等量であることを、RNAゲルをエチジウムブロマイドで染色することにより、またブロットを18SリボソームRNAのPCR産物でプロービングした後に視覚化した。
18S−RFT:CTGGCACCTTATGAGAAATC(配列番号:13)
18S−RTR:CCACCCATAGAATCAAGAAA(配列番号:14)
55℃でアニーリングするRT−PCRを行うと、42℃でEasyHybハイブリダイゼーションを行うための、GC含量が40%である343bpの産物が得られる。
【0174】
18SリボソームRNAのハイブリダイゼーションから計算された、ロード量の違いに合わせて、α−ファルネセン合成酵素mRNAレベルを調整した。その結果得られたシグナルを、ImageQuantソフトウェアを用いて分析し、α−ファルネセン合成酵素mRNAレベルのヒストグラムをプロットした。
【0175】
仮想ノーザン
BLAST NRDB90サーチ(Altschul et al., 1997)内の遺伝子配列を用いることにより、α−ファルネセン合成酵素に関係するホートリサーチESTデータベース内のESTを同定した。データベース中に存在するcDNAライブラリーの解析から、EST配列が見つかっている組織の「仮想ノーザン」を作成した。
【0176】
結果:
仮想ノーザンでは、花芽中における1000種のESTの間で1種のESTが同定され、熟した(150DAFB)リンゴ皮中における8050種のESTから2種が同定され、126DAFB(満開後の日数)リンゴ皮層における4500種のESTから1種が長い3'UTRとともに同定された。したがって、この遺伝子は、果実の発生の間比較的低いレベルで発現している。
【0177】
アオテア、ピンキー、および老化中のロイヤルガラ葉という3つの異なる品種由来の成熟した葉中でESTが同定された。アオテアおよびピンキー由来のEST以外のすべてで、DNAレベルでの配列は、α−ファルネセン合成酵素cDNA配列と同一であった。相同性を示す他の配列は検出されなかった。
【0178】
標準的なノーザン分析では、α−ファルネセン合成酵素の発現は、熟した果実(150DAFB)の皮において最も高く、成長中の葉(アオテア)がそれに続いた(図20)。熟した果実の皮より低いレベルであったが、この遺伝子は果実の成長中ずっと発現していた。花の分裂組織、師部および非常に幼弱な小果実中では、α−ファルネセン合成酵素をコードするmRNAは、少なすぎて検出できなかった、または存在しなかった。
【0179】
系統発生分析:
ヨーロッパ分子生物学オープンソフトウェアセット(European Molecular Biology Open Software Suite)(EMBOSS)(Rice et al., 2000)を用いて、コンピュータ分析を行った。NeedlemanおよびWunsch(J.Mol.Biol. 48; 443-453(1970))のアルゴリズムを使用するペアワイズアラインメントプログラムNeedleを用いて、配列同一性および類似性を計算した。そのデフォルトパラメータを使用した(任意配列のギャップ伸長ペナルティは0.5、任意配列のギャップ開始ペナルティは10)。CLUSTAL Xを用いて、配列関連性を分析し、プログラムGeneDoc(Nicholas and Nicholas, 1997)を用いて、これをそろえ、それに影を付けた。近隣結合法を用いて、系統発生樹をCLUSTAL X中で作成し、Treedraw( HYPERLINK "http://taxonomy.zooology.gla.ac.us/rod/treeview.html" http://taxonomy.zooology.gla.ac.us/rod/treeview.html; Page 1996)を用いて、根元から取り上げたこの樹を視覚化した。
【0180】
完全長α−ファルネセン合成酵素を、既知の機能を有する他のすべてのテルペン合成酵素配列と比較した(図21)。これは単一メンバーの分岐を形成し、最も近い相同体であるポプラ由来の2つのイソプレン合成酵素からはっきりと分離していた。独特のグループに分類されることは、そのタンパクの配列が他のセスキテルペン合成酵素とモノテルペン合成酵素のどちらにも似ていないということを補強するものである。DDxxDモチーフの周辺にある活性部位の金属結合領域だけをその一連の配列と比較したときも、これと同様の結果が得られた。簡潔に述べると、この遺伝子は、セスキテルペン合成酵素であると予測されないはずである。
【0181】
上記の実施例は本発明の実施を説明するものである。多数の変更形態および変形形態を用いて本発明を実施することができることが、当業者によって理解されるであろう。例えば、このヌクレオチド配列の変形形態を使用することができ、その配列を様々な生物中で発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0182】
【図1】α−ファルネセンの異性体の構造を示す。
【図2】リンゴにおけるα−ファルネセン合成経路を示す。
【図3】α−ファルネセン合成酵素をコードするcDNA配列を示す。
【図4】リンゴ皮由来のα−ファルネセン合成酵素の予測されたアミノ酸配列を示す。
【図5】リンゴロイヤルガラ上のヘッドスペースのGC−MSスペクトルを示す。
【図6】α−ファルネセン合成酵素cDNAを含む、(結合バッファー中の)ニッケルで精製された無細胞抽出物上のヘッドスペースのGC−MSスペクトルを示す。
【図7】混合異性体の前駆体FDPの供給に反応して、精製組換えα−ファルネセン合成酵素によってin vitroで産生されるα−ファルネセンの各種異性体形を示す。
【図8】Sephacryl S−300 HRゲルろ過クロマトグラフィー上でのα−ファルネセン合成酵素のタンパク溶出プロフィル、およびそのおよその分子量を示す。
【図9】S−Sephacryl 300 HRゲルろ過の適用後における精製タンパク分画のα−ファルネセン合成酵素活性を示す。
【図10】α−ファルネセン合成酵素活性の最適pHを示す。
【図11】飽和金属イオンの存在下で、FDP濃度を増加させた場合のα−ファルネセン合成酵素活性に対する効果を示す。
【図12】飽和FDP(25μM)を含む条件でのα−ファルネセン合成酵素活性に対するMg2+の効果を示す。
【図13】飽和FDP(25μM)を含む条件でのα−ファルネセン合成酵素活性に対するMn2+の効果を示す。
【図14】飽和FDP(25μM)および金属補助因子Mg++/Mn++(7mM/150μM)を含む条件で測定された、様々な温度でのα−ファルネセン合成酵素活性を示す。
【図15】FDPを浸透させた場合および浸透させない場合のN.benthamiana葉におけるE,Eα−ファルネセン産生を示す一実験の例を示す。
【図16】α−ファルネセン合成酵素cDNA配列の5'末端から設計したプライマーを用いた、トランスジェニックArabidopsis thaliana植物から抽出されたゲノムDNAのPCR増幅を示す。
【図17】トランスジェニックシロイヌナズナ植物から抽出されたゲノムDNAのBamH1消化物のサザン分析を示す。
【図18】トランスジェニックArabidopsis thaliana系統3の植物の実生、葉および花から抽出された全RNAのPCR増幅を示す。
【図19】α−ファルネセン合成酵素遺伝子を発現している系統3の植物由来の、および空のベクターを発現している対照植物由来のA.thalianaの花中に存在するヘッドスペースの揮発性物質を示す。
【図20】Malus domesticaの様々な組織から抽出した全RNAのノーザン分析を示す。
【図21】既知の機能を有するテルペン合成酵素の系統発生分析を示す。
【配列表】









【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−ファルネセン合成酵素をコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドがDDXXDおよび(L,V)(V,L,A)(N,D)D(L,I,V)X(S,T)XXXEの反復のうち少なくとも1つを含むポリペプチドをコードし、Xは任意のアミノ酸である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
配列番号:1の配列あるいはその断片または変異体を有し、該断片または変異体がα−ファルネセン合成酵素活性を有するポリペプチドをコードする、請求項1に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記配列が配列番号:1のヌクレオチド配列と少なくとも70%の同一性を有する、請求項3に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記配列が配列番号:1のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項3に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項6】
前記配列が配列番号:1のヌクレオチド配列と少なくとも95%の同一性を有する、請求項3に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記ヌクレオチド配列が配列番号:1の配列である、請求項3に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号:2のポリペプチドをコードする、またはα−ファルネセン合成酵素活性を有するその配列の変異体または断片をコードする単離ポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記ポリペプチドが配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも70%の同一性を有する、請求項8に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記ポリペプチドが配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項8に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記ポリペプチドが配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも95%の同一性を有する、請求項8に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項12】
前記ポリペプチドが配列番号:2の配列を有する、請求項8に記載の単離ポリヌクレオチド。
【請求項13】
単離α−ファルネセン合成酵素ポリペプチド。
【請求項14】
配列番号:2の配列、あるいはα−ファルネセン合成酵素活性を有するその断片または変異体を有する単離α−ファルネセン合成酵素。
【請求項15】
前記アミノ酸配列が配列番号:2の配列と少なくとも70%の同一性を有する、請求項14に記載の単離α−ファルネセン合成酵素。
【請求項16】
前記アミノ酸配列が配列番号:2の配列と少なくとも90%の同一性を有する、請求項14に記載の単離α−ファルネセン合成酵素。
【請求項17】
前記アミノ酸配列が配列番号:2の配列と少なくとも95%の同一性を有する、請求項14に記載の単離α−ファルネセン合成酵素。
【請求項18】
前記アミノ酸配列が配列番号:2の配列由来の完全な配列である、請求項14に記載の単離α−ファルネセン合成酵素。
【請求項19】
請求項1から12のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物。
【請求項20】
5’から3’の方向で、請求項13から18のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレームのポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物。
【請求項21】
プロモーター配列をさらに含む、請求項20に記載の遺伝子構築物。
【請求項22】
終結配列をさらに含む、請求項21に記載の遺伝子構築物。
【請求項23】
コードされたポリペプチドの配列が、配列番号:2のアミノ酸配列、またはα−ファルネセン活性を有するその断片を有する、請求項22に記載の遺伝子構築物。
【請求項24】
5’から3’の方向で、請求項13から18のいずれか一項に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む遺伝子構築物。
【請求項25】
プロモーター配列をさらに含む、請求項24に記載の遺伝子構築物。
【請求項26】
終結配列を含む、請求項25に記載の遺伝子構築物。
【請求項27】
コードされたポリペプチドの配列が、配列番号:2のアミノ酸配列、またはα−ファルネセン活性を有するその断片を有する、請求項26に記載の遺伝子構築物。
【請求項28】
請求項19から27のいずれか一項に記載の遺伝子構築物を含むベクター。
【請求項29】
請求項19から27のいずれか一項に記載の遺伝子構築物を含む宿主細胞。
【請求項30】
請求項19から27のいずれか一項に記載の遺伝子構築物を含むトランスジェニック植物細胞。
【請求項31】
請求項30に記載の植物細胞を含むトランスジェニック植物。
【請求項32】
α−ファルネセンを調製する方法であって、
(a)高いα−ファルネセン合成酵素活性をもたらすように請求項1から12のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドで遺伝子改変された細胞を培養するステップと、
(b)必要な場合に前記細胞にファルネシルジリン酸を提供するステップと、
(c)産生したα−ファルネセンを分離するステップと
を含む方法。
【請求項33】
植物のα−ファルネセン産生を調節する方法であって、α−ファルネセン合成酵素発現を増加させるまたは低下させるステップを含み、前記増加または低下がα−ファルネセン合成酵素をコードする遺伝子の発現を変化させる遺伝子改変によって達成される方法。
【請求項34】
前記ポリペプチドが配列番号:2の配列を有するポリペプチドを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
植物内でα−ファルネセン産生を調節する方法であって、
(a)請求項19から27に記載の遺伝子構築物を前記植物に導入するステップと、
(b)前記植物内で前記ポリヌクレオチドを転写により発現させるステップと
を含む方法。
【請求項36】
植物内でα−ファルネセン産生を調節する方法であって、
(a)請求項19から27に記載のDNA遺伝子構築物を前記植物に導入するステップと、
(b)前記植物内で前記ポリペプチドを発現させるステップと
を含む方法。
【請求項37】
配列番号:1に由来する少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項38】
α−ファルネセンの含有量が変化した植物を選択する方法であって、
(a)α−ファルネセン合成酵素の発現を評価するため、少なくとも1つの植物に由来するポリヌクレオチドを、請求項1に記載のポリヌクレオチドのうち少なくとも15個の連続したヌクレオチドを含む、少なくとも1つのポリヌクレオチドと接触させるステップと、
(b)発現量の変化を示す植物を選択するステップと
を含む方法。
【請求項39】
前記ポリヌクレオチドが配列番号:1に由来する少なくとも15個の連続したヌクレオチドを有し、前記植物がリンゴ植物である、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
α−ファルネセンを調製する方法であって、
(a)請求項13から18のいずれか一項に記載のポリペプチドを得るステップと、
(b)前記ポリペプチドの存在下でファルネシルジリン酸をインキュベートするステップと、
(c)産生したα−ファルネセンを分離するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2006−502733(P2006−502733A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−545094(P2004−545094)
【出願日】平成15年10月15日(2003.10.15)
【国際出願番号】PCT/NZ2003/000229
【国際公開番号】WO2004/035791
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
UNIX
【出願人】(503248411)ザ ホーティカルチャー アンド フード リサーチ インスティテュート オブ ニュージーランド リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】THE HORTICULTURE AND FOOD RESEARCH INSTITUTE OF NEW ZEALAND LIMITED
【Fターム(参考)】