植物からDNAを単離するための非破壊的手法
本発明は、植物からDNAを取得するための方法であって、成長中の根から根境界細胞を収集することおよび根境界細胞からDNAを抽出することを含む方法に関する。根境界細胞は、水、組織培養培地または土壌などの培地中で成長している成長中の根の根浸出物に含有される。好ましくは、根は発芽中の種子の一部であるか、または苗の根であるか、または組織培養植物もしくは植物部分の不定根である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物からDNAを単離するための非破壊的手法および植物または植物集団の遺伝学的解析におけるその手法の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物育種は、特定の環境内で植物の表現型を決定する、特定作物種の生殖質に内在する遺伝的変異を、効率よく活用することに依存している。これは、伝統的には、表現型レベルで観察される望ましい形質の組み合わせを選抜することによって行われるが、これを、特定形質の発現に寄与する遺伝子の対立遺伝子型に遺伝的に密接に連鎖する分子マーカーに基づく選抜によって行うことが、ますます可能になりつつある。
【0003】
分子マーカーに基づく形質の選抜は、植物の発生段階に依存せず、環境にも依存しないので、選抜プロセスが著しく強化される。分子マーカーを使って選抜することができる形質(多数の遺伝子によって制御される複合形質を含む)の数は著しく増加し、この発展はさらにペースを上げて持続すると予想することができる。
【0004】
植物育種分野におけるもう一つの趨勢は、逆遺伝学から生じる。逆遺伝学は、遺伝子を単離し、その一次構造または発現を修飾することによって、その機能を決定するアプローチに関係する。遺伝子機能に関する知見は、特にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のようなモデル系において、現在増加しているので、作物系における逆遺伝学アプローチは、現在、効率が良くなっている。
【0005】
候補遺伝子の対立遺伝子変異性を決定するために、極めて多くのDNA診断ツールを利用することができ、それらは当業者に公知である。対立遺伝子変種の飽和したコレクションを獲得するには、自然対立遺伝子変異または誘発対立遺伝子変異を含有する植物の大きな集団を、関心対象の座位におけるDNA多型について、スクリーニングする必要がある。そのようにして見出された遺伝子の対立遺伝子型は、関連研究により、植物表現型に対するそれらの寄与について評価することができる。
【0006】
育種集団または突然変異体集団をスクリーニングするコストは、主として、研究対象である集団の個々の植物を成長させ、試料採取するために要求される労力、およびそれらの試料からDNAを調製するために要求される労力によって決まる。研究対象である集団の個々の植物に内在する遺伝的変異を表す種子試料として集団が供給される場合は、ファミリー内の近縁個体として植物ごとに種子を収穫するのに、かなりの労力が費やされる。さらにまた、特定の遺伝子座における対立遺伝子変種について作成され、評価される各追加集団についても、この作業を反復する必要がある。
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、植物からDNAを単離するための効率のよい手法を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、特定の遺伝子座における対立遺伝子変種の存在に関する植物集団のスクリーニングを可能にする効率のよいDNA単離手法であって、組織試料を手作業で切開する必要または研究対象である集団の個々の植物から種子を収穫する必要を不要にするような手法を提供することである。
【0008】
本発明によれば、そのような方法は、根(好ましくは、苗のような非常に若い植物の根、または発芽中の種子から出現する根、または組織培養下で成長する植物の不定根)からの浸出物を使って、そこからDNAを単離することに基づき得ることが見出された。より具体的には、本方法は、根端から脱落するいわゆる根境界細胞(root border cell)を、DNAの一次供給源として利用する。根境界細胞は、ほとんどの植物種の根端を取り囲む生細胞である。植物は、土壌で成長する場合にも、液体培地または固体培地中で成長する場合にも、根境界細胞を根から自然に脱落させる。従って本発明の方法は非破壊的であるとみなされる。これらの細胞は既に植物から自然な形で脱落し、根を取り囲んで根境界細胞を含む培地(通常は液体)を穏やかに撹拌して取り出すことによって収穫することができる。成長中の根は根境界細胞を産生し続け、その根境界細胞は後続段階で再び収穫することができる。
【0009】
従って本発明は、植物からDNAを単離するための方法であって、
a)成長中の根から根境界細胞を収集する工程と、
b)根境界細胞からDNAを抽出する工程と
を含む方法に関する。
【0010】
原則として、DNAは全ての根境界細胞から得ることができる。しかし、発芽中の種子の一部である根から根境界細胞を収集することが、非常に実用的である。種子は、水などの液体培地に浸漬することができ、その後に発芽する。従って、植物発生の極めて初期段階で、すなわち種子発芽中に、植物を解析することができる。葉が植物上で成長し終えるまで待つ必要はない。しかし、本方法は、苗の根から得られる根境界細胞を使って行うこともできる。
【0011】
さらにまた、組織培養下の植物材料上に成長した不定根が根境界細胞を産生することも見出された。本発明によれば、これらの根境界細胞も、そこからDNAを単離するために使用することができる。
【0012】
DNAの抽出には、例えばCTAB(Doyle JJ and Doyle JL (1990)Focus 12,13−15)、KingFisher96(商標)(Thermo Labsystems)など、様々な方法を利用することができ、それらは当業者に公知である。
【0013】
そのようにして得られるDNAは核および細胞質に由来することができ、様々な核酸解析技術を使って解析することができる。そのような解析技術は当業者には周知であり、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サンガーシーケンシング、ミニシーケンシング、パイロシーケンシング、GS20シーケンシング、増幅断片長多型(AFLP)、制限断片長多型(RFLP)、多型DNAのランダム増幅(RAPD)、インベーダー法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、シングルフィーチャー多型(Single Feature Polymorphism:SFP)を含むが、これらに限るわけではない。
【0014】
さらに本発明は、特定座位における遺伝的変異に関して大きな植物集団を極めて高い効率でスクリーニングするための、上記新規非破壊的DNA単離手法の使用に関する。この遺伝的変異は自然のものであっても、人工的に誘発されたものであってもよい。
【0015】
このようにして提供される植物からのDNA単離手法は、化学的または物理的突然変異誘発によって生成させた植物集団中の特定遺伝子の遺伝子変種を検出するために使用することができるDNAを取得するための、効率のよいツールである。あるいは、その遺伝子変種は自然集団内に存在してもよい。
【0016】
本発明の方法を使用すれば、変異誘発したM1植物から派生するM2ファミリーを設定する必要がなくなる。その代りに交雑(bulked)M2集団を使用することができ、これにより、特定遺伝子の異なる対立遺伝子型の存在について、より効率的かつ柔軟な方法で、M2集団を解析することが可能になる。
【0017】
植物からDNAを単離するための本発明の手法は、遺伝的純度および遺伝的同一性を評価するための商業用種子ロットの品質管理目的に役立つ、植物集団の遺伝子タイピングにおける使用にも適する。
【0018】
さらに本DNA単離手法は、遺伝的に異なる植物の集団内に存在する植物を、ある表現型形質の発現を決定する遺伝子の対立遺伝子型に連鎖する多型分子マーカーの対立遺伝子型の検出に基づいて同定するためにも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
大規模配列の努力により、シロイヌナズナのようなモデル植物種およびイネのような作物種の全ゲノム配列が得られている。さらにまた、トマト、レタス、キュウリ、アブラナ属、メロン、トウモロコシなどのような広範囲にわたる作物種から得られた様々な組織試料に由来する多数のcDNAフラグメントまたはESTが配列決定されている。目下の課題は、個々の遺伝子の機能、それらの発現の調節およびそれらの遺伝的相互作用を解明することである。この課題を達成するには、個々の遺伝子が持つ数多くの一連の対立遺伝子変種を整理することが重要になる。これは、ある遺伝子産物が細胞レベル、生物レベルまたはより高次なレベルで、どの生化学的役割を果たすか、および遺伝子産物がどのように相互作用し得るかの手掛かりになる。
【0020】
遺伝子機能に関する情報を植物育種に活用するには、極めて効率がよくかつ費用効果が高い逆遺伝学技術を利用できることが望ましい。逆遺伝学とは、対立遺伝子変種または発現変種を作出しようとしている遺伝子配列情報から出発し、その作出後にそれらを機能的に解析するアプローチを指す。この術語は、表現型変種を出発材料として使用し、その基礎にある遺伝子の対立遺伝子型を同定する順遺伝学に対置される術語である。
【0021】
逆遺伝学を植物育種に応用するには、遺伝子機能の知識が前提条件になる。現在、シロイヌナズナは、遺伝子機能に関して最も大規模に研究された植物系であり、アラビドプシス(Arabidopsis)研究で得られた結果は、この点で、豊富な情報源になっている。
【0022】
アミノ酸配列レベルでのホモロジーに基づいて、作物種の相同タンパク質の機能を予測することはできるが、その遺伝子の機能を証明するために、最終的には直接的な実験的証拠が必要になる。従って、モデル種の遺伝子に対するホモロジーに基づいて同定された作物種の遺伝子は、特定機能の候補遺伝子とみなすことしかできない。種間で類似する機能または同一の機能を持つ遺伝子は、高レベルのホモロジーを示す場合があるが、必ずしもそのようではなく、特定のモデル系に内在する遺伝子機能が、与えられた作物種に内在するものとは、部分的にしか重複しないこともあり得る。
【0023】
逆遺伝学で活用することができる対立遺伝子変異性は、適応した集団内に自然に順応するか、またはそれぞれエチルメタンスルホン酸(ems)もしくはx線のような化学的もしくは物理的突然変異誘発要因を使ったランダム突然変異誘発によって得ることができる。植物の器官、細胞、花粉または種子をそのような突然変異誘発要因で処理することにより、ゲノムDNA中のランダムな位置で、遺伝子機能の変化につながりうる改変が誘発される。遺伝子機能に関する知識が急速に増加しつつあること、多くの植物種のゲノム配列およびcDNA配列を広く利用できること、ならびに自然の遺伝的変異および誘発された遺伝的変異を有する集団を利用できることを考えると、逆遺伝学技術は、モデル種または作物種における遺伝子機能を確立するための研究道具として、ますますその重要性を増している。また、逆遺伝学は、特定の形質に機能的に関与することが公知である遺伝子の対立遺伝子変種を効率よく同定することができる作物改良の強力な技術であるとみなすこともできる。
【0024】
作物種において逆遺伝学を行うには、ターゲット遺伝子の他に、与えられた作物種の該遺伝子座の遺伝子変種を含有する植物の集団が必要であることは明らかである。そのような集団において、遺伝的変異は自発的に生じたものであってもよいし、emsのような変異原によって誘発することもできる。誘発突然変異を持つ集団を得るには、例えば、emsのような変異原を様々な濃度で含有する溶液中で、種子をインキュベートすることができる。emsは、主として、DNA鎖のG残基をアルキル化し、それはDNA複製時に、CではなくTとの対形成を引き起こす。従ってGC塩基対が、emsの有効用量およびその植物のミスマッチ修復系の活性によって決まる頻度で、AT塩基対に変化する。
【0025】
emsの有効用量は、使用する濃度、種子のサイズおよび他の物理的性質、ならびにems溶液中で種子をインキュベートする時間に依存する。emsで処理された種子は、典型的に、M1種子と呼ばれる。処理の結果として、M1種子の組織はその細胞のゲノムにランダム点突然変異を含有し、生殖系組織を形成することになる細胞の部分集団中に存在するものは、M2と呼ばれる次世代に伝達されることになる。ハプロ不全であるために不稔性を引き起こす突然変異もしくはその組み合わせ、または胚致死性を誘発する突然変異もしくはその組み合わせは、M2世代には伝達されない。
【0026】
emsの使用について上述した類似する手法を、他の突然変異誘発要因にも適用することができる。
【0027】
突然変異体M2集団を特定遺伝子座の望ましい対立遺伝子変種の存在について逆遺伝学を使って評価するには、M2種子集団を収穫および保存するために選択される方法に基づいて識別することが可能な異なるアプローチを取ることができる。一方では、M2種子を単一の混合試料(bulk sample)として収穫し保存することができるのに対して、他方では、M2種子をファミリーとして収穫し保存することができ、これは、M2種子を植物ごとに収穫し、別々に保存することを意味する。
【0028】
M2種子をまとめて収穫するのに要求される労力投入量は、M2種子がファミリーとして別々に収穫される状況と比較すると、はるかに少ない。その一方で、M2種子をファミリーとして収穫すると、その集団の各ファミリーのM2種子のサブセットのDNA抽出物を調製することが可能になり、それを診断的に使って、その集団を解析することができる。ひとたび突然変異が同定されたら、突然変異体を得るために温室または圃場で成長させる必要があるのは、陽性と診断された試料に対応するファミリーの種子だけである。
【0029】
交雑M2集団が利用可能である場合は、DNAの抽出および解析用に、M2植物を別々に成長させて試料採取する必要があり、これには、実行される各スクリーンごとに、比較的大きな資源投入量が要求される。従ってどちらのアプローチも、それぞれに特有の欠点を持ち、両アプローチの欠点を取り除くことができる解決策を提供することが、当分野では、明らかに必要とされている。
【0030】
M2種子がまとめて収穫された場合、特定遺伝子の所望の対立遺伝子変種を含有する植物個体を同定するには、非破壊的試料採取が要求される。通常、これは、M2集団の幼植物(young plant)を成長させ、葉試料を採取することによってこれらの植物を個別に試料採取し、解析に使用するDNAをそこから調製することによって行われる。これらの葉試料は、DNA抽出前に、使用する突然変異検出プラットフォームのダイナミックレンジによって決定される程度まで、プールすることができる。適当なラベリングにより、所望の突然変異を含有する部分集団、そして最終的には対応する植物個体まで、遡ることができる。
【0031】
スクリーニングする必要があるM2植物の数は、M1植物における突然変異の頻度および研究対象である植物種において生殖系列に寄与する独立細胞の数に依存する。典型的な実験において、1植物につき独立生殖胚芽細胞が2個であるとすると、誘発された遺伝的変異を捕捉するには、M1植物5000個の集団から出発した場合、約10,000個のM2植物をスクリーニングすべきである。
【0032】
M2種子が植物ごとに収穫される場合、種子の収穫が行われるM1植物の生殖系列に寄与する細胞に内在する誘発突然変異は、M2ファミリーでは分離している。M2ファミリーのいくつかの個体からDNA試料を調製することにより、毎回集団の試料を再採取しなくても、ターゲット遺伝子における突然変異の存在について診断することができる。言い換えると、単一のDNA試料を、それが代表するM2ファミリーのために、診断的に使用することができる。特定遺伝子の所望の対立遺伝子変種を含有する植物個体は、所望の突然変異に関して陽性と診断されたM2ファミリーだけについて個体を栽培することによって得ることができる。
【0033】
一度M2ファミリーが樹立されたら、このアプローチは比較的効率がよいものの、そのようなファミリーに基づく系の設定はM1植物上で成長した種子を個別に収穫し処理する必要があるので労働集約的であるし、集団の遺伝的変異の代表的反映としてDNAライブラリーを設定することも同様である。5000個のM2ファミリーを処理するには、少なくとも250人時の投入が必要であると見積られる。重要なことに、所望の突然変異がその集団内に存在しない場合には、その作業全体を繰り返す必要がある。
【0034】
(プールされた)植物試料から単離されたDNA中の突然変異を検出するために、当業者はいくつかの確立された技術を持っている。ティリング(tilling:ゲノム中の局所病変を誘発するターゲティング(targeting induced local lesion in genomes))は、ミスマッチの位置にPCRによって生成させた標識ヘテロ二重鎖DNAフラグメントのCelIによる特異的切断に基づく。消化した試料は(例えばLicorシステムでの)変性ゲル電気泳動によって解析され、消化されたPCRフラグメントの存在は、元のDNAプールにおけるDNA多型の存在を示す(Colbert,T.et.al.,(2001)Plant Physiology 126,480−484)。
【0035】
変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)も同様にプールDNA試料に応用することができる。ティリング手法と同様に、突然変異の存在は、dHPLCカラムをホモ二重鎖分子と比較すると、速く流れるヘテロ二重鎖分子の形成をもたらして、プール試料中の突然変異の検出を可能にする(McCallum,C.et.al.,(2000)Nature Biotechnology 18,455−457)。
【0036】
高速中性子を突然変異誘発要因として使用する場合は、ゲノム中のランダムな位置に小さな欠失が生じている。これは、欠失の結果としてサイズが減少している突然変異座位を、PCRによって増幅することを可能にする。このPCR反応は突然変異座位に特異的であるため、極めて高レベルの試料プーリングが可能になる。一方、本方法は、例えば欠失を含有する座位用に、特異的なPCR反応を設計することができる突然変異にだけ応用される(Song,X.et.al.,(2001)The Plant Journal 27,235−242)。
【0037】
DNA試料間の多型を検出するために基本的に任意の利用可能な核酸解析技術を応用できることは、当業者には明らかである。個々の試料のダイレクト配列でさえ応用することができる。産業的背景がある場合は、最適なプラットフォームが、主として、そのロバストネス(robustness)およびデータポイントあたりのコストによって決定される。
【0038】
様々な誘発突然変異検出技術を利用できることと、自動化および小型化の進歩とにより、データポイントあたりのコストは、M2集団および代表的DNAテンプレートの調製に関わるコストと比較すると、比較的低いレベルまで下げられる。
【0039】
従って植物の逆遺伝学の改良は、誘発された多型の検出よりも、突然変異体集団およびその代表的DNA試料を調製する分野で実現された方がよい。このような改善は本発明によって得られる。
【0040】
いずれにせよ、すなわち、M2交雑集団(bulk population)に基づいて逆遺伝学を応用するにせよ、M2ファミリーに基づいて逆遺伝学を応用するにせよ、スクリーニング時に、または事前準備(upfront)時に、それぞれかなりの労力投入量が要求される。これは作物種における逆遺伝学的アプローチの費用効果的な利用可能性を著しく制限する。
【0041】
本発明のDNA単離方法は、植物育種中の植物の選抜にも使用することができる。植物育種における前進は、交配および後代集団からの植物の選抜によって達成される。伝統的には、選抜は特定の成長条件下で発現する植物表現型のレベルで行われる。例えば、植物は、その果実および葉の色もしくは形状、病原体に対するそれらの抵抗性、それらの生産性もしくは他の形質またはそれらの組み合わせに基づいて選抜される。
【0042】
分子マーカー技術の登場により、特定形質の選抜は、DNAのレベルで行うことができるようになった。ある表現型の発現を引き起こしている遺伝子の対立遺伝子型に遺伝的に強く連鎖するマーカー対立遺伝子の同定および検出を可能にする技術が開発されている。理想的状況では、マーカー対立遺伝子およびある形質の原因になる遺伝子の対立遺伝子型が同一である。そのような場合は、マーカー対立遺伝子および形質対立遺伝子が遺伝的組換えによって切り離されることは起こり得ない。
【0043】
形質の間接選抜を目的とするマーカー対立遺伝子の使用には、選抜プロセスの効率を改善させる明確な利点がいくつかある。マーカーに基づく選抜は、植物の発生段階および環境には依存しない。これは、例えば、果実特徴に関する選抜を実生段階で行うこと、または耐寒性に関する選抜を室温で行うことを可能にする。現在、マーカー対立遺伝子を使った間接選抜は、現代の植物育種において広く応用されている。最も進歩しているのは、質的形質(すなわち、生殖質内の表現型変異が単一遺伝子の対立遺伝子型によって決定されるような形質)を検出するためのマーカーの応用である。
【0044】
例えば、特定の病原体株に対する抵抗性は、しばしば、その病原体のビルレンス因子の存在または活性を検出する受容体をコードするドミナントR遺伝子の存在によって決定される。抵抗性表現型の発現には多くの座位が関与するが、生殖質に内在して表現型値の説明になる遺伝的変異は、通常は、単一のR遺伝子座によって決定される。
【0045】
しかし、多くの形質は定量的または連続的であり、これは、環境条件による影響をしばしば受ける形質の表現型値には、多くの遺伝子が寄与し得ることを意味する。そのような形質は、例えば草高、開花期間または生産力である。さらにまた、複合形質の基礎にある個々の遺伝子はエピスタティックに相互作用する場合があり、それがそれらの遺伝解析を複雑にする。
【0046】
高密度遺伝子マップおよび強力な統計学的ツールとを利用することができるので、これらの量的形質の発現に関与する座位(QTL)の検出が、現在では可能になっている。従って、分子マーカーを使って検出することができる(複合)形質の数は、近い将来、著しく増加すると予想することができる。
【0047】
現在、間接選抜を応用するには、選抜されるべき個々の植物を含む集団の種子を、DNA抽出用に組織試料を採取することができる段階まで、温室で発芽させる必要がある。組織試料の採取は、作物種に依存して、実生段階または幼植物段階で行うことができる。DNA解析を行った後に、植物の選抜を行うことができる。そのような手法が時間、空間および労力を要し、それが分子マーカーに基づく間接選抜を行うために必要とされる資源全体の比較的大きな部分を消費することは、明らかである。
【0048】
DNA解析を行うのに十分な質および量のDNA抽出物を取得するための手法の効率を増大させる技術は、分子マーカーに基づく間接選抜に関わるコストを著しく低下させることができる。そのような技術を本発明は提供する。
【0049】
本発明は、著しく効率のよい非破壊的な方法で植物からDNAを単離するための新規方法を提供する。本方法は、例えば、逆遺伝学ならびに間接選抜技術の総合効率を著しく改善させるために応用することができる。
【0050】
DNA単離方法は、植物発生の極初期段階で、すなわち浸漬した種子から幼根が出現した段階で効果的に適用することができ、重要なことに、打抜きまたは切断などによる組織試料採取を一切必要としない。
【0051】
種子を適当な水分、光および温度条件下に置くと、水が吸い上げられ、発芽が開始される。通常、最初の目に見える発芽の兆候は、幼根または根端の出現である。成長と同時に、根端の後ろのゾーンは、根境界細胞と呼ばれる生細胞を、環境中に捨てる(Hawes,M.et al.,(1998)Annu.Rev.Phytopathol.36,311−327)。
【0052】
根境界細胞の機能は完全に明らかになっているわけではないが、これらの細胞は、植物体とそれが成長している土壌との間に拡散境界(diffuse boundary)を形成することによって、植物をアルミニウムなどの毒性元素または病原性微生物から保護するというのが、現在の仮説である。また、根境界細胞は、有益な微生物の誘引または菌根の樹立にも、役割を果たし得る。従って根境界細胞は根系の微細環境の制御に極めて重要であり得る。
【0053】
種子をインビトロで(例えば水中で)発芽させた場合も、根境界細胞は同様に産生され、根表面に弱く付着した状態を保つ。穏やかに撹拌すると、根境界細胞は根表面から放出され、液体中に分散し、収穫することができる。驚いたことに、本発明によれば、これらの根境界細胞は、診断目的用のDNAの供給源として役立ち得ることが見出された。全てではないとしても大半の作物種は根境界細胞を産生することが公知であるので、本発明の普遍的な利用可能性が示唆される。
【0054】
根が約1〜2cm出現している段階まで種子を水中で発芽させた場合、その水は、標準的なDNA抽出手法を行って、PCRまたは他のDNA解析技術によるさらなる解析に十分なDNAを得るのに、十分な細胞材料を含有する。
【0055】
本発明によれば、インビトロ植物の根が根境界細胞を産生することも見出された。従って、発芽中の種子または苗の根端から派生するのではなく組織培養材料上の不定根から派生するそのような根境界細胞も、そこからDNAを単離するために使用することができる。
【0056】
根境界細胞懸濁液を1時間にわたって有効濃度のDNアーゼで処理しても、DNアーゼの不活化とそれに続くDNAの抽出後に、依然としてシグナルを得ることができる(図15)。これは、根浸出物から得られるDNAが確かに根境界細胞などのDNアーゼ耐性構造に由来しているという認識を裏付けている。
【0057】
取得することができるDNAの量は、多くの解析を行うのに十分であり、特にInvader(商標)またはInvader Plus(商標)(Third Wave Technologies)のような蛍光に基づく検出技術を使用する場合である。
【0058】
全てではないとしても大半の種子において、十分な物理的品質を有する作物種は、水中で数日以内に発芽する。根境界細胞はこの極初期段階において形成されることを観察した。従って、驚いたことに、乾燥種子から出発して数日以内に、DNAの抽出および解析を完了することができる。発芽させた種子は少なくとも2週間はインビトロで生き続けるので、温室で植物を成長させるのに通常要求される時間および場所、ならびに組織試料を収穫するのに要求される労力を、大幅に省略することができる。
【0059】
同じことが組織培養根にも言える。根境界細胞を培地から単離することができ、インビトロ植物は成長を続けることができる。解析は植物発生の極初期段階において行うことができる。
【0060】
さらに本発明によれば、交雑M2集団からの種子を種子2〜5個の小さなプールに分けて発芽させ、そこからプールDNA試料を取得し、その試料を、野生型対立遺伝子の量の3〜9倍を含有するプール中の1突然変異対立遺伝子を検出するダイナミックレンジを持つ検出プラットフォームで解析することが可能であることも示される。
【0061】
プーリングは、根境界細胞収穫、DNA抽出物またはPCR産物のレベルで行うこともできる。実際に採用されるプーリング戦略は、作物種ごとに異なり得る液体中での種子の発芽挙動および根境界細胞産生、ならびに植物あたりのコストという観点から見て最適条件を見出すことができる検出プラットフォームのダイナミックレンジなどといった、様々なプロセスの専門的事項に依存する。
【0062】
交雑M2種子もしくはM2ファミリーまたは育種集団いずれかを用いる逆遺伝学アプローチまたは間接選抜アプローチの資源投入量からみた効率に関して、本発明の方法はいくつかの重要な意味を持っている。根境界細胞を用いる非破壊的DNA抽出手法は、インビトロでの種子の発芽後、極めて早期に行うことができるので、苗がインビトロで少なくとも数週間は生き続けるという事実を考えると、交雑M2集団を用いる逆遺伝学アプローチまたは間接選抜アプローチは、温室期間および場所ならびにリーフディスク(leaf disc)のような植物試料の労働集約的調製を、もはや必要としない。これは、M2交雑集団を用いる作業の代替選択肢、すなわち資源の著しい事前投入が要求されるM2ファミリーによる作業が、もう必要でないことを意味する。
【0063】
また、育種中の間接選抜手法は、選抜が行われない温室における植物材料の成長を必要としない。従って本発明では、特定座位における対立遺伝子変異性に関して評価する必要がある手元の任意の集団を、当分野において現在公知である逆遺伝学または間接選抜手法と比較して、かつてない効率および柔軟性をもってスクリーニングすることができる。
【0064】
本発明の、植物のためのDNA単離方法は、最も広い意味で、応用することができる。本出願では、効率のよい非破壊的DNA単離方法が有利であるようないくつかの状況に言及する。これらの例は限定を意図しない。本方法は任意のDNA単離に使用することができ、本明細書で言及しない他の状況においても、等しく応用できることは、当業者には明らかである。
【0065】
以下の限定でない実施例では、本発明をさらに詳しく示す。これらの実施例では後述の図面に言及する。
〔実施例〕
【実施例1】
【0066】
(キュウリの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
キュウリ種子を100μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させる。さらなる処理のために96穴マイクロタイタープレートに試料を容易に移すことができる12×8 Micronic(商標)マイクロチューブフォーマットなど、目的に応じて、様々なフォーマットを使用することができる。出現する根が長さ約1.5cmになった段階(これは、品種および種子の質に依存して、約18時間後に起こる)で、根境界細胞を根から放出させるために、発芽した種子を含有するチューブを15秒間ボルテックスすることによって穏やかに振とうする。光学顕微鏡法で検査したところ、図1に示すように、キュウリの根境界細胞が培地中に存在することが明確に示された。
【0067】
主根および根毛は本手法によって損傷されない。根境界細胞を含有する液体を使用し、100μlの溶解緩衝液(Agowa)を加えることによって、DNA抽出(Plant DNA単離キット(Agowa GmbH)とKing Fisher(商標)ロボティクス、Thermo Labsystemsの組み合わせ)を行う。その混合物を55℃で10分間インキュベートする。次に、300μlのDNA結合緩衝液(Agowa)を加え、その混合物を3000rpmで5分間遠心分離する。次に、15μlのKing Fisher粒子懸濁液(Agowa Magnetic Particles(Suspension BLM))を上清に加える。
【0068】
120μlの溶出緩衝液(10mMトリス−HCl緩衝液pH=7.6)を使って、結合したDNAを粒子から溶出させた後は、DNAをすぐに解析に使用することができる。キュウリの場合は、根境界細胞に基づくDNA抽出物から得たDNAを解析するために、ゲノムに内在する「kom20」と呼ばれるランダム分子マーカーを選択した。
【0069】
本実施例で使用した集団は、kom20マーカーの対立遺伝子の一つに関してヘテロ接合またはホモ接合に分離する。得られたDNA抽出物の全量の5μlを使ってPCRを行った。このPCR反応は、アガロースゲルで解析した場合、372bpのフラグメントをもたらすと予想される。制限酵素MspIを使ってkom20 PCRフラグメントを消化すると、本実施例で記載する実験に使用した集団中のこのマーカー座位の二つの対立遺伝子が区別される。上記制限酵素の認識部位がPCR産物中に存在する場合、MspIによる消化は、279bpおよび93bpのフラグメントをもたらす。その解析の結果を図2に示す。
【0070】
この結果を確認するために、kom20対立遺伝子のそれぞれについて特異的蛍光シグナル(正味のフォールドオーバーゼロ(Fold Over Zero)、すなわちFOZとして表される)を生成するkom20特異的蛍光プローブセット(Invader(商標))を使って、DNA調製物を解析した。従って、この分離集団の個体から本発明に従って得られたDNA調製物は、kom20プローブを使って解析すると、マーカー対立遺伝子のヘテロ接合性を示す蛍光シグナル診断(対角線上にプロットされる、RED+FAMシグナル)またはマーカー対立遺伝子の一方のホモ接合性を示す蛍光シグナル診断(この具体例ではREDで標識され、X軸にプロットされる)が生成される。この解析の結果を図3に示し、解析の結果はこの予想を裏付けている。
【0071】
集団のPCR/MspI解析または蛍光に基づく解析を使って得られたkom20遺伝子型スコアは、解析した各植物について合致することがわかった。従って、これらの結果は、本発明の主題である手法に従って単離されるDNAの量が、検出プラットフォームとしてPCRとアガロースゲル電気泳動との組み合わせまたは蛍光に基づくプローブ系を使用するDNAマーカー解析を実行するのに十分であることを実証している。さらに、マーカーコール(marker call)は、母体組織由来ではなく種子に内在する雑種組織由来のDNAから得られたものであると、結論することができる。というのも、使用したマーカーは分離し、この解析に使用した雑種種子を作出するために用いた母系ではそのようではないからである。
【0072】
本発明のDNA単離手法を使って得られたデータを確認するために、発芽した種子を温室で成長させ、葉試料を採取し、PCR/MspIを使ってkom20マーカーについて解析した。葉DNAを使って得られたデータは、根境界細胞DNA抽出物から得たDNAを使って得られたデータと合致することが明らかになった。これは、根境界細胞DNA抽出物によって生成されるマーカーデータが、出現する苗から成長させた苗立ちした植物を表現することを実証している。
【0073】
DNA抽出物1個あたりに行うことができるアッセイの量を決定するために、DNA抽出物の希釈系列を、様々な5種類のランダムマーカー座位を検出する五つの蛍光型アッセイを、2回ずつ使ってアッセイした。各DNA抽出物は、少なくとも20倍は希釈しても、上記様々なアッセイのシグナルはいずれも失われないことがわかった。各抽出物は体積100μlとして産出され、1回のアッセイにつき5μlを使用するので、1回の単離でDNA抽出物1個につき合計400回のアッセイを行うことができる。また、キュウリの場合は、1個の苗につき、少なくとも2ラウンドの根境界細胞収穫およびDNA単離を行うことができ、これは、根境界細胞DNA抽出物を使って1個の苗につき合計800回のアッセイを行い得ることを意味する。
【0074】
根境界細胞DNAの供給源として使用した発芽種子を4℃で保存すると、キュウリ苗は少なくとも3週間は生存可能な状態を保つ。これは、DNA解析が完了した後で温室に移すことができるほど十分なレベルの生存力を、苗が持つことを含意している。
【0075】
従って、所望する分子マーカースコアを持つ植物だけを温室に移せばよく、所望する分子マーカースコアを持たない植物は、極初期のインビトロ相で廃棄することができる。これはかなりのコスト削減をもたらし得る。
【実施例2】
【0076】
(メロンの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
ダヌビオ(Danubio)と呼ばれる雑種品種の自殖後代のメロン種子を、100μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させる。メロンからDNAを単離するために使用する手法は、本出願の実施例1にキュウリについて説明した手法と同様である。図4は、メロン苗を含有する液体培地における根境界細胞の存在を示している。
【0077】
PCRを使ってマーカー対立遺伝子を検出するのに十分なDNAをこの手法がもたらすかどうかを調べるために、5μlのDNA抽出物を使って、マーカー対立遺伝子ml11k19に特異的なプライマーの組み合わせを用いるPCR反応を行った。このPCR反応は、342bpのフラグメントをもたらすと予想される。この解析の結果を図5に示す。
【0078】
図5に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。フラグメントが実際に胚に由来することを実証するために、元の雑種中に存在しこの解析で使用した種子では分離すると予想される両対立遺伝子を検出する蛍光型ml11k19アッセイを行った。この実験の結果を図6に示す。
【0079】
この結果は、マーカー対立遺伝子ml11k19が、ホモ接合A(FAMシグナル)、ホモ接合B(REDシグナル)およびヘテロ接合という、三種類に分離することを明確に実証し、これはDNAが胚由来であることを示している。
【実施例3】
【0080】
(トマトの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
トマト種子を、50μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、本出願の実施例1に従ってDNAを抽出した。光学顕微鏡法による解析は、図7に示すように、培地中にトマトの根境界細胞が存在することを、明確に示した。
【0081】
360bpのバンドを生成させると予想されるラテラルサプレッサー(lateral suppressor)と呼ばれるトマトの公知遺伝子に特異的なプライマーの組み合わせを使って、DNAの全量の5μlを使って、PCRを行った。この実験の結果を図8に示す。
【0082】
この結果は、本手法によって単離されるDNAの量が、アガロースゲル上で検出することのできる予想サイズのPCRフラグメントを生成させるのに十分であることを、明確に実証している。バンドが観察されない場合(図8においてアスタリスクで印を付けたレーン)では、種子が発芽していなかったことに注意すべきである。これは、本手法を使って行われるPCRフラグメントの検出が種子の発芽に依存することを示している。
【実施例4】
【0083】
(キャベツ(Brassica oleracea)の根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
キャベツの発芽種子を使って実験を行った。採用した手法は、実施例1で記載した手法と同様である。発芽温度は21℃とした。キャベツの苗の根端にある根境界細胞を図9に示す。
【0084】
根境界細胞から得たDNA抽出物を使って、核に内在する核酸を検出できることを実証するために、BoACO2と呼ばれるエチレンの生合成に関与する遺伝子のフラグメントを増幅することができるプライマーの組み合わせを設計した。このPCR反応は344bpのフラグメントをもたらすと予想される。この解析の結果を図10に示す。
【0085】
図10に示す結果は、PCRによって予想される核DNAフラグメントを生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。
【0086】
核配列の他に、細胞質ゲノムに内在する配列も、根境界細胞由来のDNA中に検出できることを実証するために、他の実験を行った。ミトコンドリアゲノム中に位置するORF B遺伝子領域を増幅するPCR反応を行った。このORF B領域のフラグメントは1180bpの予想サイズを有する。本実験の結果を図11に示す。
【0087】
この結果はORF B遺伝子領域に特異的バンドの生成を示し、本明細書に記載するDNA単離手法を使って細胞質DNA配列を検出できるということを実証している。
【実施例5】
【0088】
(レタスの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
レタス種子を50μLの水(milliQ)中、21℃で発芽させた。根の出現は2日以内に起こり、穏やかな振とうにより、根から根境界細胞を引き離した。顕微鏡法で可視化したレタスの根境界細胞を図12に示す。
【0089】
DNA抽出は、根が約1.5cmの平均長になった段階で行った。適用したDNA抽出手法は、実施例1でキュウリについて記載した手法と同様である。十分なDNAが得られたかどうかを評価するために、アブラムシ(Nasonovia)抵抗性遺伝子に連鎖するNAS2と呼ばれるゲノムマーカーを使って、PCR反応を行った。その結果を図13に示す。
【0090】
この結果は、得られたDNA抽出物の5μlをPCR反応に使用した場合に、応用した分子マーカーに予想されるサイズを持つ特異的バンドが生成することを示している。本発明によるDNA単離手法は、PCRのようなDNA解析を行うための要件を満たしていると結論される。
【0091】
図13に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。フラグメントが実際に胚由来であることを実証するために、元の雑種中に存在し、この解析で使用した種子において分離すると予想されるNAS2の両対立遺伝子を検出する蛍光型NAS2アッセイを行った。この実験の結果を図14に示す。
【0092】
この結果は、マーカー対立遺伝子NAS2が、ホモ接合A(FAMシグナル)、ホモ接合B(REDシグナル)およびヘテロ接合という、三種類に分離することを明確に実証し、これはDNAが胚由来であることを示している。
【実施例6】
【0093】
(根浸出物からのDNAはDNアーゼ耐性画分に存在する)
本発明が記載する手法に従って根浸出物から得られるDNAが根境界細胞に由来することを実証するために、DNアーゼ感受性実験を行った。
【0094】
実施例1で記載したようにキュウリ苗から根境界細胞を産生させ、単離されたDNAを、マーカー座位kom24に特異的なプライマーの組み合わせを用いるPCRで解析した。DNA抽出を行う前に、根浸出物をDNアーゼで処理した。DNAが根浸出物中にそのまま存在するのであれば、それはDNアーゼによって分解される。DNAが根境界細胞内に存在するのであれば、DNアーゼ処理は、DNA抽出後のPCRシグナルの生成には影響しない。
【0095】
本実験の結果を図15に示す。これらの結果は、キュウリ根浸出物に加えた場合にレタス由来のDNAはDNアーゼ処理に対して感受性であるが、キュウリDNAのPCRシグナルはDNアーゼ処理の結果として失われなかったことを示している。これは、キュウリ根浸出物はキュウリDNAを含有し、そのキュウリDNAが、添加されたDNアーゼから保護され、従って浸出物中に存在する根境界細胞に由来することを実証している。
【実施例7】
【0096】
(インビトロで成長させた植物からの根浸出物を使ったDNA抽出)
インビトロで根付かせたキュウリの苗条を、インビトロ培養培地から水を含有するマイクロウェルプレートへと小植物を移すことによって解析用に採取し、それに根境界細胞を生成させた。26℃で24時間のインキュベーション後は、図16に示すように、光学顕微鏡法で根境界細胞の形成を明確に視認することができた。
【0097】
この段階で、根境界細胞を収集し、DNAを抽出し、マーカー座位kom24に特異的なPCRによって解析した。図17に示すように、根境界細胞からのDNA抽出物を使って、キュウリゲノムDNAの存在を示す明確なバンドが得られた。
【0098】
図17に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証し、従って根境界細胞に基づくDNA単離技術はインビトロで成長させた小植物からの不定根に由来する根浸出物にも応用できると結論することができる。
【実施例8】
【0099】
(コショウの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
コショウの種子を40μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、本出願の実施例1に従ってDNAを抽出した。光学顕微鏡法で検査したところ、図18に示すように、培地におけるペッパーの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【0100】
GMS対立遺伝子のそれぞれについて特異的蛍光シグナル(正味のフォールドオーバーゼロ、すなわちFOZとして表される)を生成するGMS特異的な蛍光プローブセット(Invader(商標))(FAMまたはRED)を使って、DNA調製物を解析した。本実施例では、GMSマーカー対立遺伝子に関して一様にヘテロ接合であることが公知であるF1雑種種子を解析した。従って、F1雑種集団の個体から本発明に従って取得されるDNA調製物を、GMSプローブを使って解析すれば、マーカー対立遺伝子のヘテロ接合性を示す蛍光シグナル分析(対角線上にプロットされる、RED+FAMシグナル)が生成することが期待される。この解析の結果を図19に示す。
【0101】
蛍光に基づく集団の解析を使って得られたGMS遺伝子型スコアは、解析した各植物について、このマーカー座位に関する公知表現型値と合致することが見出された。従って、これらの結果は、本発明の手法に従って単離されるDNAの量が、蛍光に基づくプローブ系を検出プラットフォームとして使用してDNAマーカー解析を行うのに十分であることを実証している。
【実施例9】
【0102】
(トウモロコシの根境界細胞の形成)
トウモロコシ種子を500μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均2.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図20に示すように、培地におけるトウモロコシの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【0103】
この段階で根境界細胞を収集し、DNAを抽出し、細胞壁インベルターゼ(Incw1、アクセッション番号AF050129)に特異的なPCRによって解析した。トウモロコシゲノムDNAの存在を示す620bpの明確なバンドが、図21に示すように、根境界細胞からのDNA抽出物を使って得られた。
【実施例10】
【0104】
(エンダイブの根境界細胞の形成)
エンダイブ種子を40μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図22に示すように、培地におけるエンダイブの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【実施例11】
【0105】
(ニンジンの根境界細胞の形成)
ニンジン種子を40μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図23に示すように、培地におけるニンジンの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】液体培地中に根境界細胞を脱落させているキュウリの根端である。左パネルは白色光下の像を示し、右パネルはDAPI染色後の蛍光照明下での根境界細胞の核を示す。
【図2】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキュウリの様々なDNA試料のkom20マーカー座位のPCR解析と、それに続くMspI消化とによって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別キュウリ根境界細胞調製物、 レーン12:陰性対照:レタス根境界細胞調製物、 レーン13:陰性対照:水、 レーン14:陽性対照:キュウリリーフディスク。
【図3】kom20プローブセットを使ってキュウリ根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図4】左パネルは、発芽させたメロン種子を、液体培地中のその根端と共に示している。右パネルは、根から生じる脱落した根境界細胞を示す。
【図5】本発明のDNA抽出手法によって生成されたメロンの様々なDNA試料のml11k19マーカー座位のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別メロン根境界細胞調製物、 レーン12:メロンリーフディスクから得たDNA、 レーン13:陰性対照、レタス根境界細胞調製物、 レーン14:陰性対照、水。
【図6】ml11k19プローブセットを使ってメロン根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図7】液体培地中に根境界細胞を脱落させているトマトの根端である。
【図8】本発明のDNA抽出手法によって生成されたトマトの様々なDNA試料のラテラルサプレッサー遺伝子のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別トマト根境界細胞調製物、レーン12:トマトリーフディスクから得たDNA、 レーン13:陰性対照、水。
【図9】根境界細胞が付着しているキャベツの根端である(左)。キャベツの根境界細胞の詳細図である(右)。
【図10】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキャベツの様々なDNA試料のBoACO2遺伝子フラグメントのPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜12:11個の個別キャベツ根境界細胞調製物、 レーン13:陰性対照、水。
【図11】キャベツのミトコンドリアゲノムのミトコンドリアORF B領域のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜7:6個の個別キャベツ根境界細胞調製物、 レーン8:キャベツ植物の葉から得たDNA、 レーン9:陰性対照:水。
【図12】トルイジンブルー染色後のレタス根から脱落した根境界細胞の光学顕微鏡観察である。
【図13】本発明のDNA抽出手法によって生成されたレタスの様々なDNA試料のアブラムシ抵抗性遺伝子に連鎖するNAS2と呼ばれる分子マーカーのPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜13:12個の個別レタス根境界細胞調製物、 レーン14:サイズマーカー、 レーン15:陰性対照:水、 レーン16:陽性対照:レタスのリーフディスクから得たDNA(「pons sla」)、 レーン17:陰性対照、キュウリから得たDNA。
【図14】NAS2プローブセットを使ってレタス根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる生の値として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図15】DNアーゼで処理したキュウリ根浸出物のDNA抽出物のPCR解析を示す、臭化エチジウム染色アガロースである。 パネルA:キュウリkom24特異的なプライマーの組み合わせを使ったPCR解析。 パネルB:レタス特異的なRCPプライマーの組み合わせを使ったPCR解析。レーン1〜18は、以下の処理に付したキュウリ根浸出物から単離されたDNAを含有する。レーン1〜3、7〜9および13〜15で解析された根抽出物には、レタスゲノムDNAを加えた。レーン1〜6の試料には、DNアーゼを加えなかった。レーン7〜12の試料には、DNアーゼを加え、65℃で5分間インキュベートすることによって直ちに失活させた。レーン13〜18には、DNアーゼを加えた後、37℃で30分間インキュベートし、次に失活させた。パネルAでは対照として、水(レーン19)、レタスDNA(レーン20)およびキュウリDNA(レーン21)を使用した。パネルBでは対照として、水(レーン19)レタスDNA(レーン20および21)およびキュウリDNA(レーン22)を使用した。
【図16】26℃の水中で24時間インキュベートした後のインビトロ再生キュウリ植物の不定根の根端である。根境界細胞の脱落はこの段階で明確に視認することができる。
【図17】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキュウリの様々なDNA試料のkom24マーカー座位のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:不定根から得たキュウリ根境界細胞調製物(BC)、 レーン2:キュウリリーフディスクから得たDNA、レーン3:陰性対照、水。
【図18】液体培地中に根境界細胞を脱落させているペッパーの根端である。
【図19】GMSプローブセットを使ってペッパー根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(Fold Over Zero:FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。このグラフでは、ヘテロ接合シグナルを青色でプロットし、対照のホモ接合シグナルを赤色および緑色のシグナルでプロットする。
【図20】液体培地中に根境界細胞を脱落させているトウモロコシの根端である。
【図21】本発明のDNA抽出手法によって生成されたトウモロコシの様々なDNA試料の細胞壁インベルターゼ遺伝子Incw1のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー。 レーン2〜7:トウモロコシ根境界細胞調製物から得たDNA。 レーン8:陰性対照、水。 レーン9〜10:陽性対照、トウモロコシリーフディスクから抽出されたDNA。
【図22】液体培地中に根境界細胞を脱落させているエンダイブの根端である。
【図23】液体培地中に根境界細胞を脱落させているニンジンの根端である。
【図1A】
【図1B】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物からDNAを単離するための非破壊的手法および植物または植物集団の遺伝学的解析におけるその手法の応用に関する。
【背景技術】
【0002】
植物育種は、特定の環境内で植物の表現型を決定する、特定作物種の生殖質に内在する遺伝的変異を、効率よく活用することに依存している。これは、伝統的には、表現型レベルで観察される望ましい形質の組み合わせを選抜することによって行われるが、これを、特定形質の発現に寄与する遺伝子の対立遺伝子型に遺伝的に密接に連鎖する分子マーカーに基づく選抜によって行うことが、ますます可能になりつつある。
【0003】
分子マーカーに基づく形質の選抜は、植物の発生段階に依存せず、環境にも依存しないので、選抜プロセスが著しく強化される。分子マーカーを使って選抜することができる形質(多数の遺伝子によって制御される複合形質を含む)の数は著しく増加し、この発展はさらにペースを上げて持続すると予想することができる。
【0004】
植物育種分野におけるもう一つの趨勢は、逆遺伝学から生じる。逆遺伝学は、遺伝子を単離し、その一次構造または発現を修飾することによって、その機能を決定するアプローチに関係する。遺伝子機能に関する知見は、特にシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のようなモデル系において、現在増加しているので、作物系における逆遺伝学アプローチは、現在、効率が良くなっている。
【0005】
候補遺伝子の対立遺伝子変異性を決定するために、極めて多くのDNA診断ツールを利用することができ、それらは当業者に公知である。対立遺伝子変種の飽和したコレクションを獲得するには、自然対立遺伝子変異または誘発対立遺伝子変異を含有する植物の大きな集団を、関心対象の座位におけるDNA多型について、スクリーニングする必要がある。そのようにして見出された遺伝子の対立遺伝子型は、関連研究により、植物表現型に対するそれらの寄与について評価することができる。
【0006】
育種集団または突然変異体集団をスクリーニングするコストは、主として、研究対象である集団の個々の植物を成長させ、試料採取するために要求される労力、およびそれらの試料からDNAを調製するために要求される労力によって決まる。研究対象である集団の個々の植物に内在する遺伝的変異を表す種子試料として集団が供給される場合は、ファミリー内の近縁個体として植物ごとに種子を収穫するのに、かなりの労力が費やされる。さらにまた、特定の遺伝子座における対立遺伝子変種について作成され、評価される各追加集団についても、この作業を反復する必要がある。
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、植物からDNAを単離するための効率のよい手法を提供することである。本発明のさらにもう一つの目的は、特定の遺伝子座における対立遺伝子変種の存在に関する植物集団のスクリーニングを可能にする効率のよいDNA単離手法であって、組織試料を手作業で切開する必要または研究対象である集団の個々の植物から種子を収穫する必要を不要にするような手法を提供することである。
【0008】
本発明によれば、そのような方法は、根(好ましくは、苗のような非常に若い植物の根、または発芽中の種子から出現する根、または組織培養下で成長する植物の不定根)からの浸出物を使って、そこからDNAを単離することに基づき得ることが見出された。より具体的には、本方法は、根端から脱落するいわゆる根境界細胞(root border cell)を、DNAの一次供給源として利用する。根境界細胞は、ほとんどの植物種の根端を取り囲む生細胞である。植物は、土壌で成長する場合にも、液体培地または固体培地中で成長する場合にも、根境界細胞を根から自然に脱落させる。従って本発明の方法は非破壊的であるとみなされる。これらの細胞は既に植物から自然な形で脱落し、根を取り囲んで根境界細胞を含む培地(通常は液体)を穏やかに撹拌して取り出すことによって収穫することができる。成長中の根は根境界細胞を産生し続け、その根境界細胞は後続段階で再び収穫することができる。
【0009】
従って本発明は、植物からDNAを単離するための方法であって、
a)成長中の根から根境界細胞を収集する工程と、
b)根境界細胞からDNAを抽出する工程と
を含む方法に関する。
【0010】
原則として、DNAは全ての根境界細胞から得ることができる。しかし、発芽中の種子の一部である根から根境界細胞を収集することが、非常に実用的である。種子は、水などの液体培地に浸漬することができ、その後に発芽する。従って、植物発生の極めて初期段階で、すなわち種子発芽中に、植物を解析することができる。葉が植物上で成長し終えるまで待つ必要はない。しかし、本方法は、苗の根から得られる根境界細胞を使って行うこともできる。
【0011】
さらにまた、組織培養下の植物材料上に成長した不定根が根境界細胞を産生することも見出された。本発明によれば、これらの根境界細胞も、そこからDNAを単離するために使用することができる。
【0012】
DNAの抽出には、例えばCTAB(Doyle JJ and Doyle JL (1990)Focus 12,13−15)、KingFisher96(商標)(Thermo Labsystems)など、様々な方法を利用することができ、それらは当業者に公知である。
【0013】
そのようにして得られるDNAは核および細胞質に由来することができ、様々な核酸解析技術を使って解析することができる。そのような解析技術は当業者には周知であり、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、サンガーシーケンシング、ミニシーケンシング、パイロシーケンシング、GS20シーケンシング、増幅断片長多型(AFLP)、制限断片長多型(RFLP)、多型DNAのランダム増幅(RAPD)、インベーダー法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)、シングルフィーチャー多型(Single Feature Polymorphism:SFP)を含むが、これらに限るわけではない。
【0014】
さらに本発明は、特定座位における遺伝的変異に関して大きな植物集団を極めて高い効率でスクリーニングするための、上記新規非破壊的DNA単離手法の使用に関する。この遺伝的変異は自然のものであっても、人工的に誘発されたものであってもよい。
【0015】
このようにして提供される植物からのDNA単離手法は、化学的または物理的突然変異誘発によって生成させた植物集団中の特定遺伝子の遺伝子変種を検出するために使用することができるDNAを取得するための、効率のよいツールである。あるいは、その遺伝子変種は自然集団内に存在してもよい。
【0016】
本発明の方法を使用すれば、変異誘発したM1植物から派生するM2ファミリーを設定する必要がなくなる。その代りに交雑(bulked)M2集団を使用することができ、これにより、特定遺伝子の異なる対立遺伝子型の存在について、より効率的かつ柔軟な方法で、M2集団を解析することが可能になる。
【0017】
植物からDNAを単離するための本発明の手法は、遺伝的純度および遺伝的同一性を評価するための商業用種子ロットの品質管理目的に役立つ、植物集団の遺伝子タイピングにおける使用にも適する。
【0018】
さらに本DNA単離手法は、遺伝的に異なる植物の集団内に存在する植物を、ある表現型形質の発現を決定する遺伝子の対立遺伝子型に連鎖する多型分子マーカーの対立遺伝子型の検出に基づいて同定するためにも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
大規模配列の努力により、シロイヌナズナのようなモデル植物種およびイネのような作物種の全ゲノム配列が得られている。さらにまた、トマト、レタス、キュウリ、アブラナ属、メロン、トウモロコシなどのような広範囲にわたる作物種から得られた様々な組織試料に由来する多数のcDNAフラグメントまたはESTが配列決定されている。目下の課題は、個々の遺伝子の機能、それらの発現の調節およびそれらの遺伝的相互作用を解明することである。この課題を達成するには、個々の遺伝子が持つ数多くの一連の対立遺伝子変種を整理することが重要になる。これは、ある遺伝子産物が細胞レベル、生物レベルまたはより高次なレベルで、どの生化学的役割を果たすか、および遺伝子産物がどのように相互作用し得るかの手掛かりになる。
【0020】
遺伝子機能に関する情報を植物育種に活用するには、極めて効率がよくかつ費用効果が高い逆遺伝学技術を利用できることが望ましい。逆遺伝学とは、対立遺伝子変種または発現変種を作出しようとしている遺伝子配列情報から出発し、その作出後にそれらを機能的に解析するアプローチを指す。この術語は、表現型変種を出発材料として使用し、その基礎にある遺伝子の対立遺伝子型を同定する順遺伝学に対置される術語である。
【0021】
逆遺伝学を植物育種に応用するには、遺伝子機能の知識が前提条件になる。現在、シロイヌナズナは、遺伝子機能に関して最も大規模に研究された植物系であり、アラビドプシス(Arabidopsis)研究で得られた結果は、この点で、豊富な情報源になっている。
【0022】
アミノ酸配列レベルでのホモロジーに基づいて、作物種の相同タンパク質の機能を予測することはできるが、その遺伝子の機能を証明するために、最終的には直接的な実験的証拠が必要になる。従って、モデル種の遺伝子に対するホモロジーに基づいて同定された作物種の遺伝子は、特定機能の候補遺伝子とみなすことしかできない。種間で類似する機能または同一の機能を持つ遺伝子は、高レベルのホモロジーを示す場合があるが、必ずしもそのようではなく、特定のモデル系に内在する遺伝子機能が、与えられた作物種に内在するものとは、部分的にしか重複しないこともあり得る。
【0023】
逆遺伝学で活用することができる対立遺伝子変異性は、適応した集団内に自然に順応するか、またはそれぞれエチルメタンスルホン酸(ems)もしくはx線のような化学的もしくは物理的突然変異誘発要因を使ったランダム突然変異誘発によって得ることができる。植物の器官、細胞、花粉または種子をそのような突然変異誘発要因で処理することにより、ゲノムDNA中のランダムな位置で、遺伝子機能の変化につながりうる改変が誘発される。遺伝子機能に関する知識が急速に増加しつつあること、多くの植物種のゲノム配列およびcDNA配列を広く利用できること、ならびに自然の遺伝的変異および誘発された遺伝的変異を有する集団を利用できることを考えると、逆遺伝学技術は、モデル種または作物種における遺伝子機能を確立するための研究道具として、ますますその重要性を増している。また、逆遺伝学は、特定の形質に機能的に関与することが公知である遺伝子の対立遺伝子変種を効率よく同定することができる作物改良の強力な技術であるとみなすこともできる。
【0024】
作物種において逆遺伝学を行うには、ターゲット遺伝子の他に、与えられた作物種の該遺伝子座の遺伝子変種を含有する植物の集団が必要であることは明らかである。そのような集団において、遺伝的変異は自発的に生じたものであってもよいし、emsのような変異原によって誘発することもできる。誘発突然変異を持つ集団を得るには、例えば、emsのような変異原を様々な濃度で含有する溶液中で、種子をインキュベートすることができる。emsは、主として、DNA鎖のG残基をアルキル化し、それはDNA複製時に、CではなくTとの対形成を引き起こす。従ってGC塩基対が、emsの有効用量およびその植物のミスマッチ修復系の活性によって決まる頻度で、AT塩基対に変化する。
【0025】
emsの有効用量は、使用する濃度、種子のサイズおよび他の物理的性質、ならびにems溶液中で種子をインキュベートする時間に依存する。emsで処理された種子は、典型的に、M1種子と呼ばれる。処理の結果として、M1種子の組織はその細胞のゲノムにランダム点突然変異を含有し、生殖系組織を形成することになる細胞の部分集団中に存在するものは、M2と呼ばれる次世代に伝達されることになる。ハプロ不全であるために不稔性を引き起こす突然変異もしくはその組み合わせ、または胚致死性を誘発する突然変異もしくはその組み合わせは、M2世代には伝達されない。
【0026】
emsの使用について上述した類似する手法を、他の突然変異誘発要因にも適用することができる。
【0027】
突然変異体M2集団を特定遺伝子座の望ましい対立遺伝子変種の存在について逆遺伝学を使って評価するには、M2種子集団を収穫および保存するために選択される方法に基づいて識別することが可能な異なるアプローチを取ることができる。一方では、M2種子を単一の混合試料(bulk sample)として収穫し保存することができるのに対して、他方では、M2種子をファミリーとして収穫し保存することができ、これは、M2種子を植物ごとに収穫し、別々に保存することを意味する。
【0028】
M2種子をまとめて収穫するのに要求される労力投入量は、M2種子がファミリーとして別々に収穫される状況と比較すると、はるかに少ない。その一方で、M2種子をファミリーとして収穫すると、その集団の各ファミリーのM2種子のサブセットのDNA抽出物を調製することが可能になり、それを診断的に使って、その集団を解析することができる。ひとたび突然変異が同定されたら、突然変異体を得るために温室または圃場で成長させる必要があるのは、陽性と診断された試料に対応するファミリーの種子だけである。
【0029】
交雑M2集団が利用可能である場合は、DNAの抽出および解析用に、M2植物を別々に成長させて試料採取する必要があり、これには、実行される各スクリーンごとに、比較的大きな資源投入量が要求される。従ってどちらのアプローチも、それぞれに特有の欠点を持ち、両アプローチの欠点を取り除くことができる解決策を提供することが、当分野では、明らかに必要とされている。
【0030】
M2種子がまとめて収穫された場合、特定遺伝子の所望の対立遺伝子変種を含有する植物個体を同定するには、非破壊的試料採取が要求される。通常、これは、M2集団の幼植物(young plant)を成長させ、葉試料を採取することによってこれらの植物を個別に試料採取し、解析に使用するDNAをそこから調製することによって行われる。これらの葉試料は、DNA抽出前に、使用する突然変異検出プラットフォームのダイナミックレンジによって決定される程度まで、プールすることができる。適当なラベリングにより、所望の突然変異を含有する部分集団、そして最終的には対応する植物個体まで、遡ることができる。
【0031】
スクリーニングする必要があるM2植物の数は、M1植物における突然変異の頻度および研究対象である植物種において生殖系列に寄与する独立細胞の数に依存する。典型的な実験において、1植物につき独立生殖胚芽細胞が2個であるとすると、誘発された遺伝的変異を捕捉するには、M1植物5000個の集団から出発した場合、約10,000個のM2植物をスクリーニングすべきである。
【0032】
M2種子が植物ごとに収穫される場合、種子の収穫が行われるM1植物の生殖系列に寄与する細胞に内在する誘発突然変異は、M2ファミリーでは分離している。M2ファミリーのいくつかの個体からDNA試料を調製することにより、毎回集団の試料を再採取しなくても、ターゲット遺伝子における突然変異の存在について診断することができる。言い換えると、単一のDNA試料を、それが代表するM2ファミリーのために、診断的に使用することができる。特定遺伝子の所望の対立遺伝子変種を含有する植物個体は、所望の突然変異に関して陽性と診断されたM2ファミリーだけについて個体を栽培することによって得ることができる。
【0033】
一度M2ファミリーが樹立されたら、このアプローチは比較的効率がよいものの、そのようなファミリーに基づく系の設定はM1植物上で成長した種子を個別に収穫し処理する必要があるので労働集約的であるし、集団の遺伝的変異の代表的反映としてDNAライブラリーを設定することも同様である。5000個のM2ファミリーを処理するには、少なくとも250人時の投入が必要であると見積られる。重要なことに、所望の突然変異がその集団内に存在しない場合には、その作業全体を繰り返す必要がある。
【0034】
(プールされた)植物試料から単離されたDNA中の突然変異を検出するために、当業者はいくつかの確立された技術を持っている。ティリング(tilling:ゲノム中の局所病変を誘発するターゲティング(targeting induced local lesion in genomes))は、ミスマッチの位置にPCRによって生成させた標識ヘテロ二重鎖DNAフラグメントのCelIによる特異的切断に基づく。消化した試料は(例えばLicorシステムでの)変性ゲル電気泳動によって解析され、消化されたPCRフラグメントの存在は、元のDNAプールにおけるDNA多型の存在を示す(Colbert,T.et.al.,(2001)Plant Physiology 126,480−484)。
【0035】
変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)も同様にプールDNA試料に応用することができる。ティリング手法と同様に、突然変異の存在は、dHPLCカラムをホモ二重鎖分子と比較すると、速く流れるヘテロ二重鎖分子の形成をもたらして、プール試料中の突然変異の検出を可能にする(McCallum,C.et.al.,(2000)Nature Biotechnology 18,455−457)。
【0036】
高速中性子を突然変異誘発要因として使用する場合は、ゲノム中のランダムな位置に小さな欠失が生じている。これは、欠失の結果としてサイズが減少している突然変異座位を、PCRによって増幅することを可能にする。このPCR反応は突然変異座位に特異的であるため、極めて高レベルの試料プーリングが可能になる。一方、本方法は、例えば欠失を含有する座位用に、特異的なPCR反応を設計することができる突然変異にだけ応用される(Song,X.et.al.,(2001)The Plant Journal 27,235−242)。
【0037】
DNA試料間の多型を検出するために基本的に任意の利用可能な核酸解析技術を応用できることは、当業者には明らかである。個々の試料のダイレクト配列でさえ応用することができる。産業的背景がある場合は、最適なプラットフォームが、主として、そのロバストネス(robustness)およびデータポイントあたりのコストによって決定される。
【0038】
様々な誘発突然変異検出技術を利用できることと、自動化および小型化の進歩とにより、データポイントあたりのコストは、M2集団および代表的DNAテンプレートの調製に関わるコストと比較すると、比較的低いレベルまで下げられる。
【0039】
従って植物の逆遺伝学の改良は、誘発された多型の検出よりも、突然変異体集団およびその代表的DNA試料を調製する分野で実現された方がよい。このような改善は本発明によって得られる。
【0040】
いずれにせよ、すなわち、M2交雑集団(bulk population)に基づいて逆遺伝学を応用するにせよ、M2ファミリーに基づいて逆遺伝学を応用するにせよ、スクリーニング時に、または事前準備(upfront)時に、それぞれかなりの労力投入量が要求される。これは作物種における逆遺伝学的アプローチの費用効果的な利用可能性を著しく制限する。
【0041】
本発明のDNA単離方法は、植物育種中の植物の選抜にも使用することができる。植物育種における前進は、交配および後代集団からの植物の選抜によって達成される。伝統的には、選抜は特定の成長条件下で発現する植物表現型のレベルで行われる。例えば、植物は、その果実および葉の色もしくは形状、病原体に対するそれらの抵抗性、それらの生産性もしくは他の形質またはそれらの組み合わせに基づいて選抜される。
【0042】
分子マーカー技術の登場により、特定形質の選抜は、DNAのレベルで行うことができるようになった。ある表現型の発現を引き起こしている遺伝子の対立遺伝子型に遺伝的に強く連鎖するマーカー対立遺伝子の同定および検出を可能にする技術が開発されている。理想的状況では、マーカー対立遺伝子およびある形質の原因になる遺伝子の対立遺伝子型が同一である。そのような場合は、マーカー対立遺伝子および形質対立遺伝子が遺伝的組換えによって切り離されることは起こり得ない。
【0043】
形質の間接選抜を目的とするマーカー対立遺伝子の使用には、選抜プロセスの効率を改善させる明確な利点がいくつかある。マーカーに基づく選抜は、植物の発生段階および環境には依存しない。これは、例えば、果実特徴に関する選抜を実生段階で行うこと、または耐寒性に関する選抜を室温で行うことを可能にする。現在、マーカー対立遺伝子を使った間接選抜は、現代の植物育種において広く応用されている。最も進歩しているのは、質的形質(すなわち、生殖質内の表現型変異が単一遺伝子の対立遺伝子型によって決定されるような形質)を検出するためのマーカーの応用である。
【0044】
例えば、特定の病原体株に対する抵抗性は、しばしば、その病原体のビルレンス因子の存在または活性を検出する受容体をコードするドミナントR遺伝子の存在によって決定される。抵抗性表現型の発現には多くの座位が関与するが、生殖質に内在して表現型値の説明になる遺伝的変異は、通常は、単一のR遺伝子座によって決定される。
【0045】
しかし、多くの形質は定量的または連続的であり、これは、環境条件による影響をしばしば受ける形質の表現型値には、多くの遺伝子が寄与し得ることを意味する。そのような形質は、例えば草高、開花期間または生産力である。さらにまた、複合形質の基礎にある個々の遺伝子はエピスタティックに相互作用する場合があり、それがそれらの遺伝解析を複雑にする。
【0046】
高密度遺伝子マップおよび強力な統計学的ツールとを利用することができるので、これらの量的形質の発現に関与する座位(QTL)の検出が、現在では可能になっている。従って、分子マーカーを使って検出することができる(複合)形質の数は、近い将来、著しく増加すると予想することができる。
【0047】
現在、間接選抜を応用するには、選抜されるべき個々の植物を含む集団の種子を、DNA抽出用に組織試料を採取することができる段階まで、温室で発芽させる必要がある。組織試料の採取は、作物種に依存して、実生段階または幼植物段階で行うことができる。DNA解析を行った後に、植物の選抜を行うことができる。そのような手法が時間、空間および労力を要し、それが分子マーカーに基づく間接選抜を行うために必要とされる資源全体の比較的大きな部分を消費することは、明らかである。
【0048】
DNA解析を行うのに十分な質および量のDNA抽出物を取得するための手法の効率を増大させる技術は、分子マーカーに基づく間接選抜に関わるコストを著しく低下させることができる。そのような技術を本発明は提供する。
【0049】
本発明は、著しく効率のよい非破壊的な方法で植物からDNAを単離するための新規方法を提供する。本方法は、例えば、逆遺伝学ならびに間接選抜技術の総合効率を著しく改善させるために応用することができる。
【0050】
DNA単離方法は、植物発生の極初期段階で、すなわち浸漬した種子から幼根が出現した段階で効果的に適用することができ、重要なことに、打抜きまたは切断などによる組織試料採取を一切必要としない。
【0051】
種子を適当な水分、光および温度条件下に置くと、水が吸い上げられ、発芽が開始される。通常、最初の目に見える発芽の兆候は、幼根または根端の出現である。成長と同時に、根端の後ろのゾーンは、根境界細胞と呼ばれる生細胞を、環境中に捨てる(Hawes,M.et al.,(1998)Annu.Rev.Phytopathol.36,311−327)。
【0052】
根境界細胞の機能は完全に明らかになっているわけではないが、これらの細胞は、植物体とそれが成長している土壌との間に拡散境界(diffuse boundary)を形成することによって、植物をアルミニウムなどの毒性元素または病原性微生物から保護するというのが、現在の仮説である。また、根境界細胞は、有益な微生物の誘引または菌根の樹立にも、役割を果たし得る。従って根境界細胞は根系の微細環境の制御に極めて重要であり得る。
【0053】
種子をインビトロで(例えば水中で)発芽させた場合も、根境界細胞は同様に産生され、根表面に弱く付着した状態を保つ。穏やかに撹拌すると、根境界細胞は根表面から放出され、液体中に分散し、収穫することができる。驚いたことに、本発明によれば、これらの根境界細胞は、診断目的用のDNAの供給源として役立ち得ることが見出された。全てではないとしても大半の作物種は根境界細胞を産生することが公知であるので、本発明の普遍的な利用可能性が示唆される。
【0054】
根が約1〜2cm出現している段階まで種子を水中で発芽させた場合、その水は、標準的なDNA抽出手法を行って、PCRまたは他のDNA解析技術によるさらなる解析に十分なDNAを得るのに、十分な細胞材料を含有する。
【0055】
本発明によれば、インビトロ植物の根が根境界細胞を産生することも見出された。従って、発芽中の種子または苗の根端から派生するのではなく組織培養材料上の不定根から派生するそのような根境界細胞も、そこからDNAを単離するために使用することができる。
【0056】
根境界細胞懸濁液を1時間にわたって有効濃度のDNアーゼで処理しても、DNアーゼの不活化とそれに続くDNAの抽出後に、依然としてシグナルを得ることができる(図15)。これは、根浸出物から得られるDNAが確かに根境界細胞などのDNアーゼ耐性構造に由来しているという認識を裏付けている。
【0057】
取得することができるDNAの量は、多くの解析を行うのに十分であり、特にInvader(商標)またはInvader Plus(商標)(Third Wave Technologies)のような蛍光に基づく検出技術を使用する場合である。
【0058】
全てではないとしても大半の種子において、十分な物理的品質を有する作物種は、水中で数日以内に発芽する。根境界細胞はこの極初期段階において形成されることを観察した。従って、驚いたことに、乾燥種子から出発して数日以内に、DNAの抽出および解析を完了することができる。発芽させた種子は少なくとも2週間はインビトロで生き続けるので、温室で植物を成長させるのに通常要求される時間および場所、ならびに組織試料を収穫するのに要求される労力を、大幅に省略することができる。
【0059】
同じことが組織培養根にも言える。根境界細胞を培地から単離することができ、インビトロ植物は成長を続けることができる。解析は植物発生の極初期段階において行うことができる。
【0060】
さらに本発明によれば、交雑M2集団からの種子を種子2〜5個の小さなプールに分けて発芽させ、そこからプールDNA試料を取得し、その試料を、野生型対立遺伝子の量の3〜9倍を含有するプール中の1突然変異対立遺伝子を検出するダイナミックレンジを持つ検出プラットフォームで解析することが可能であることも示される。
【0061】
プーリングは、根境界細胞収穫、DNA抽出物またはPCR産物のレベルで行うこともできる。実際に採用されるプーリング戦略は、作物種ごとに異なり得る液体中での種子の発芽挙動および根境界細胞産生、ならびに植物あたりのコストという観点から見て最適条件を見出すことができる検出プラットフォームのダイナミックレンジなどといった、様々なプロセスの専門的事項に依存する。
【0062】
交雑M2種子もしくはM2ファミリーまたは育種集団いずれかを用いる逆遺伝学アプローチまたは間接選抜アプローチの資源投入量からみた効率に関して、本発明の方法はいくつかの重要な意味を持っている。根境界細胞を用いる非破壊的DNA抽出手法は、インビトロでの種子の発芽後、極めて早期に行うことができるので、苗がインビトロで少なくとも数週間は生き続けるという事実を考えると、交雑M2集団を用いる逆遺伝学アプローチまたは間接選抜アプローチは、温室期間および場所ならびにリーフディスク(leaf disc)のような植物試料の労働集約的調製を、もはや必要としない。これは、M2交雑集団を用いる作業の代替選択肢、すなわち資源の著しい事前投入が要求されるM2ファミリーによる作業が、もう必要でないことを意味する。
【0063】
また、育種中の間接選抜手法は、選抜が行われない温室における植物材料の成長を必要としない。従って本発明では、特定座位における対立遺伝子変異性に関して評価する必要がある手元の任意の集団を、当分野において現在公知である逆遺伝学または間接選抜手法と比較して、かつてない効率および柔軟性をもってスクリーニングすることができる。
【0064】
本発明の、植物のためのDNA単離方法は、最も広い意味で、応用することができる。本出願では、効率のよい非破壊的DNA単離方法が有利であるようないくつかの状況に言及する。これらの例は限定を意図しない。本方法は任意のDNA単離に使用することができ、本明細書で言及しない他の状況においても、等しく応用できることは、当業者には明らかである。
【0065】
以下の限定でない実施例では、本発明をさらに詳しく示す。これらの実施例では後述の図面に言及する。
〔実施例〕
【実施例1】
【0066】
(キュウリの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
キュウリ種子を100μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させる。さらなる処理のために96穴マイクロタイタープレートに試料を容易に移すことができる12×8 Micronic(商標)マイクロチューブフォーマットなど、目的に応じて、様々なフォーマットを使用することができる。出現する根が長さ約1.5cmになった段階(これは、品種および種子の質に依存して、約18時間後に起こる)で、根境界細胞を根から放出させるために、発芽した種子を含有するチューブを15秒間ボルテックスすることによって穏やかに振とうする。光学顕微鏡法で検査したところ、図1に示すように、キュウリの根境界細胞が培地中に存在することが明確に示された。
【0067】
主根および根毛は本手法によって損傷されない。根境界細胞を含有する液体を使用し、100μlの溶解緩衝液(Agowa)を加えることによって、DNA抽出(Plant DNA単離キット(Agowa GmbH)とKing Fisher(商標)ロボティクス、Thermo Labsystemsの組み合わせ)を行う。その混合物を55℃で10分間インキュベートする。次に、300μlのDNA結合緩衝液(Agowa)を加え、その混合物を3000rpmで5分間遠心分離する。次に、15μlのKing Fisher粒子懸濁液(Agowa Magnetic Particles(Suspension BLM))を上清に加える。
【0068】
120μlの溶出緩衝液(10mMトリス−HCl緩衝液pH=7.6)を使って、結合したDNAを粒子から溶出させた後は、DNAをすぐに解析に使用することができる。キュウリの場合は、根境界細胞に基づくDNA抽出物から得たDNAを解析するために、ゲノムに内在する「kom20」と呼ばれるランダム分子マーカーを選択した。
【0069】
本実施例で使用した集団は、kom20マーカーの対立遺伝子の一つに関してヘテロ接合またはホモ接合に分離する。得られたDNA抽出物の全量の5μlを使ってPCRを行った。このPCR反応は、アガロースゲルで解析した場合、372bpのフラグメントをもたらすと予想される。制限酵素MspIを使ってkom20 PCRフラグメントを消化すると、本実施例で記載する実験に使用した集団中のこのマーカー座位の二つの対立遺伝子が区別される。上記制限酵素の認識部位がPCR産物中に存在する場合、MspIによる消化は、279bpおよび93bpのフラグメントをもたらす。その解析の結果を図2に示す。
【0070】
この結果を確認するために、kom20対立遺伝子のそれぞれについて特異的蛍光シグナル(正味のフォールドオーバーゼロ(Fold Over Zero)、すなわちFOZとして表される)を生成するkom20特異的蛍光プローブセット(Invader(商標))を使って、DNA調製物を解析した。従って、この分離集団の個体から本発明に従って得られたDNA調製物は、kom20プローブを使って解析すると、マーカー対立遺伝子のヘテロ接合性を示す蛍光シグナル診断(対角線上にプロットされる、RED+FAMシグナル)またはマーカー対立遺伝子の一方のホモ接合性を示す蛍光シグナル診断(この具体例ではREDで標識され、X軸にプロットされる)が生成される。この解析の結果を図3に示し、解析の結果はこの予想を裏付けている。
【0071】
集団のPCR/MspI解析または蛍光に基づく解析を使って得られたkom20遺伝子型スコアは、解析した各植物について合致することがわかった。従って、これらの結果は、本発明の主題である手法に従って単離されるDNAの量が、検出プラットフォームとしてPCRとアガロースゲル電気泳動との組み合わせまたは蛍光に基づくプローブ系を使用するDNAマーカー解析を実行するのに十分であることを実証している。さらに、マーカーコール(marker call)は、母体組織由来ではなく種子に内在する雑種組織由来のDNAから得られたものであると、結論することができる。というのも、使用したマーカーは分離し、この解析に使用した雑種種子を作出するために用いた母系ではそのようではないからである。
【0072】
本発明のDNA単離手法を使って得られたデータを確認するために、発芽した種子を温室で成長させ、葉試料を採取し、PCR/MspIを使ってkom20マーカーについて解析した。葉DNAを使って得られたデータは、根境界細胞DNA抽出物から得たDNAを使って得られたデータと合致することが明らかになった。これは、根境界細胞DNA抽出物によって生成されるマーカーデータが、出現する苗から成長させた苗立ちした植物を表現することを実証している。
【0073】
DNA抽出物1個あたりに行うことができるアッセイの量を決定するために、DNA抽出物の希釈系列を、様々な5種類のランダムマーカー座位を検出する五つの蛍光型アッセイを、2回ずつ使ってアッセイした。各DNA抽出物は、少なくとも20倍は希釈しても、上記様々なアッセイのシグナルはいずれも失われないことがわかった。各抽出物は体積100μlとして産出され、1回のアッセイにつき5μlを使用するので、1回の単離でDNA抽出物1個につき合計400回のアッセイを行うことができる。また、キュウリの場合は、1個の苗につき、少なくとも2ラウンドの根境界細胞収穫およびDNA単離を行うことができ、これは、根境界細胞DNA抽出物を使って1個の苗につき合計800回のアッセイを行い得ることを意味する。
【0074】
根境界細胞DNAの供給源として使用した発芽種子を4℃で保存すると、キュウリ苗は少なくとも3週間は生存可能な状態を保つ。これは、DNA解析が完了した後で温室に移すことができるほど十分なレベルの生存力を、苗が持つことを含意している。
【0075】
従って、所望する分子マーカースコアを持つ植物だけを温室に移せばよく、所望する分子マーカースコアを持たない植物は、極初期のインビトロ相で廃棄することができる。これはかなりのコスト削減をもたらし得る。
【実施例2】
【0076】
(メロンの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
ダヌビオ(Danubio)と呼ばれる雑種品種の自殖後代のメロン種子を、100μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させる。メロンからDNAを単離するために使用する手法は、本出願の実施例1にキュウリについて説明した手法と同様である。図4は、メロン苗を含有する液体培地における根境界細胞の存在を示している。
【0077】
PCRを使ってマーカー対立遺伝子を検出するのに十分なDNAをこの手法がもたらすかどうかを調べるために、5μlのDNA抽出物を使って、マーカー対立遺伝子ml11k19に特異的なプライマーの組み合わせを用いるPCR反応を行った。このPCR反応は、342bpのフラグメントをもたらすと予想される。この解析の結果を図5に示す。
【0078】
図5に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。フラグメントが実際に胚に由来することを実証するために、元の雑種中に存在しこの解析で使用した種子では分離すると予想される両対立遺伝子を検出する蛍光型ml11k19アッセイを行った。この実験の結果を図6に示す。
【0079】
この結果は、マーカー対立遺伝子ml11k19が、ホモ接合A(FAMシグナル)、ホモ接合B(REDシグナル)およびヘテロ接合という、三種類に分離することを明確に実証し、これはDNAが胚由来であることを示している。
【実施例3】
【0080】
(トマトの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
トマト種子を、50μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、本出願の実施例1に従ってDNAを抽出した。光学顕微鏡法による解析は、図7に示すように、培地中にトマトの根境界細胞が存在することを、明確に示した。
【0081】
360bpのバンドを生成させると予想されるラテラルサプレッサー(lateral suppressor)と呼ばれるトマトの公知遺伝子に特異的なプライマーの組み合わせを使って、DNAの全量の5μlを使って、PCRを行った。この実験の結果を図8に示す。
【0082】
この結果は、本手法によって単離されるDNAの量が、アガロースゲル上で検出することのできる予想サイズのPCRフラグメントを生成させるのに十分であることを、明確に実証している。バンドが観察されない場合(図8においてアスタリスクで印を付けたレーン)では、種子が発芽していなかったことに注意すべきである。これは、本手法を使って行われるPCRフラグメントの検出が種子の発芽に依存することを示している。
【実施例4】
【0083】
(キャベツ(Brassica oleracea)の根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
キャベツの発芽種子を使って実験を行った。採用した手法は、実施例1で記載した手法と同様である。発芽温度は21℃とした。キャベツの苗の根端にある根境界細胞を図9に示す。
【0084】
根境界細胞から得たDNA抽出物を使って、核に内在する核酸を検出できることを実証するために、BoACO2と呼ばれるエチレンの生合成に関与する遺伝子のフラグメントを増幅することができるプライマーの組み合わせを設計した。このPCR反応は344bpのフラグメントをもたらすと予想される。この解析の結果を図10に示す。
【0085】
図10に示す結果は、PCRによって予想される核DNAフラグメントを生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。
【0086】
核配列の他に、細胞質ゲノムに内在する配列も、根境界細胞由来のDNA中に検出できることを実証するために、他の実験を行った。ミトコンドリアゲノム中に位置するORF B遺伝子領域を増幅するPCR反応を行った。このORF B領域のフラグメントは1180bpの予想サイズを有する。本実験の結果を図11に示す。
【0087】
この結果はORF B遺伝子領域に特異的バンドの生成を示し、本明細書に記載するDNA単離手法を使って細胞質DNA配列を検出できるということを実証している。
【実施例5】
【0088】
(レタスの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
レタス種子を50μLの水(milliQ)中、21℃で発芽させた。根の出現は2日以内に起こり、穏やかな振とうにより、根から根境界細胞を引き離した。顕微鏡法で可視化したレタスの根境界細胞を図12に示す。
【0089】
DNA抽出は、根が約1.5cmの平均長になった段階で行った。適用したDNA抽出手法は、実施例1でキュウリについて記載した手法と同様である。十分なDNAが得られたかどうかを評価するために、アブラムシ(Nasonovia)抵抗性遺伝子に連鎖するNAS2と呼ばれるゲノムマーカーを使って、PCR反応を行った。その結果を図13に示す。
【0090】
この結果は、得られたDNA抽出物の5μlをPCR反応に使用した場合に、応用した分子マーカーに予想されるサイズを持つ特異的バンドが生成することを示している。本発明によるDNA単離手法は、PCRのようなDNA解析を行うための要件を満たしていると結論される。
【0091】
図13に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証している。フラグメントが実際に胚由来であることを実証するために、元の雑種中に存在し、この解析で使用した種子において分離すると予想されるNAS2の両対立遺伝子を検出する蛍光型NAS2アッセイを行った。この実験の結果を図14に示す。
【0092】
この結果は、マーカー対立遺伝子NAS2が、ホモ接合A(FAMシグナル)、ホモ接合B(REDシグナル)およびヘテロ接合という、三種類に分離することを明確に実証し、これはDNAが胚由来であることを示している。
【実施例6】
【0093】
(根浸出物からのDNAはDNアーゼ耐性画分に存在する)
本発明が記載する手法に従って根浸出物から得られるDNAが根境界細胞に由来することを実証するために、DNアーゼ感受性実験を行った。
【0094】
実施例1で記載したようにキュウリ苗から根境界細胞を産生させ、単離されたDNAを、マーカー座位kom24に特異的なプライマーの組み合わせを用いるPCRで解析した。DNA抽出を行う前に、根浸出物をDNアーゼで処理した。DNAが根浸出物中にそのまま存在するのであれば、それはDNアーゼによって分解される。DNAが根境界細胞内に存在するのであれば、DNアーゼ処理は、DNA抽出後のPCRシグナルの生成には影響しない。
【0095】
本実験の結果を図15に示す。これらの結果は、キュウリ根浸出物に加えた場合にレタス由来のDNAはDNアーゼ処理に対して感受性であるが、キュウリDNAのPCRシグナルはDNアーゼ処理の結果として失われなかったことを示している。これは、キュウリ根浸出物はキュウリDNAを含有し、そのキュウリDNAが、添加されたDNアーゼから保護され、従って浸出物中に存在する根境界細胞に由来することを実証している。
【実施例7】
【0096】
(インビトロで成長させた植物からの根浸出物を使ったDNA抽出)
インビトロで根付かせたキュウリの苗条を、インビトロ培養培地から水を含有するマイクロウェルプレートへと小植物を移すことによって解析用に採取し、それに根境界細胞を生成させた。26℃で24時間のインキュベーション後は、図16に示すように、光学顕微鏡法で根境界細胞の形成を明確に視認することができた。
【0097】
この段階で、根境界細胞を収集し、DNAを抽出し、マーカー座位kom24に特異的なPCRによって解析した。図17に示すように、根境界細胞からのDNA抽出物を使って、キュウリゲノムDNAの存在を示す明確なバンドが得られた。
【0098】
図17に示す結果は、予想されるDNAフラグメントをPCRによって生成させるのに十分なDNAが得られたことを実証し、従って根境界細胞に基づくDNA単離技術はインビトロで成長させた小植物からの不定根に由来する根浸出物にも応用できると結論することができる。
【実施例8】
【0099】
(コショウの根境界細胞からのDNAの抽出および解析)
コショウの種子を40μlの水(milliQ)中、26℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、本出願の実施例1に従ってDNAを抽出した。光学顕微鏡法で検査したところ、図18に示すように、培地におけるペッパーの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【0100】
GMS対立遺伝子のそれぞれについて特異的蛍光シグナル(正味のフォールドオーバーゼロ、すなわちFOZとして表される)を生成するGMS特異的な蛍光プローブセット(Invader(商標))(FAMまたはRED)を使って、DNA調製物を解析した。本実施例では、GMSマーカー対立遺伝子に関して一様にヘテロ接合であることが公知であるF1雑種種子を解析した。従って、F1雑種集団の個体から本発明に従って取得されるDNA調製物を、GMSプローブを使って解析すれば、マーカー対立遺伝子のヘテロ接合性を示す蛍光シグナル分析(対角線上にプロットされる、RED+FAMシグナル)が生成することが期待される。この解析の結果を図19に示す。
【0101】
蛍光に基づく集団の解析を使って得られたGMS遺伝子型スコアは、解析した各植物について、このマーカー座位に関する公知表現型値と合致することが見出された。従って、これらの結果は、本発明の手法に従って単離されるDNAの量が、蛍光に基づくプローブ系を検出プラットフォームとして使用してDNAマーカー解析を行うのに十分であることを実証している。
【実施例9】
【0102】
(トウモロコシの根境界細胞の形成)
トウモロコシ種子を500μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均2.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図20に示すように、培地におけるトウモロコシの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【0103】
この段階で根境界細胞を収集し、DNAを抽出し、細胞壁インベルターゼ(Incw1、アクセッション番号AF050129)に特異的なPCRによって解析した。トウモロコシゲノムDNAの存在を示す620bpの明確なバンドが、図21に示すように、根境界細胞からのDNA抽出物を使って得られた。
【実施例10】
【0104】
(エンダイブの根境界細胞の形成)
エンダイブ種子を40μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図22に示すように、培地におけるエンダイブの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【実施例11】
【0105】
(ニンジンの根境界細胞の形成)
ニンジン種子を40μlの水(milliQ)中、21℃で発芽させ、出現する根が平均1.0cmの長さになった時に、光学顕微鏡法で検査したところ、図23に示すように、培地におけるニンジンの根境界細胞の存在が、明確に示された。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】液体培地中に根境界細胞を脱落させているキュウリの根端である。左パネルは白色光下の像を示し、右パネルはDAPI染色後の蛍光照明下での根境界細胞の核を示す。
【図2】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキュウリの様々なDNA試料のkom20マーカー座位のPCR解析と、それに続くMspI消化とによって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別キュウリ根境界細胞調製物、 レーン12:陰性対照:レタス根境界細胞調製物、 レーン13:陰性対照:水、 レーン14:陽性対照:キュウリリーフディスク。
【図3】kom20プローブセットを使ってキュウリ根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図4】左パネルは、発芽させたメロン種子を、液体培地中のその根端と共に示している。右パネルは、根から生じる脱落した根境界細胞を示す。
【図5】本発明のDNA抽出手法によって生成されたメロンの様々なDNA試料のml11k19マーカー座位のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別メロン根境界細胞調製物、 レーン12:メロンリーフディスクから得たDNA、 レーン13:陰性対照、レタス根境界細胞調製物、 レーン14:陰性対照、水。
【図6】ml11k19プローブセットを使ってメロン根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図7】液体培地中に根境界細胞を脱落させているトマトの根端である。
【図8】本発明のDNA抽出手法によって生成されたトマトの様々なDNA試料のラテラルサプレッサー遺伝子のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜11:10個の個別トマト根境界細胞調製物、レーン12:トマトリーフディスクから得たDNA、 レーン13:陰性対照、水。
【図9】根境界細胞が付着しているキャベツの根端である(左)。キャベツの根境界細胞の詳細図である(右)。
【図10】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキャベツの様々なDNA試料のBoACO2遺伝子フラグメントのPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜12:11個の個別キャベツ根境界細胞調製物、 レーン13:陰性対照、水。
【図11】キャベツのミトコンドリアゲノムのミトコンドリアORF B領域のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜7:6個の個別キャベツ根境界細胞調製物、 レーン8:キャベツ植物の葉から得たDNA、 レーン9:陰性対照:水。
【図12】トルイジンブルー染色後のレタス根から脱落した根境界細胞の光学顕微鏡観察である。
【図13】本発明のDNA抽出手法によって生成されたレタスの様々なDNA試料のアブラムシ抵抗性遺伝子に連鎖するNAS2と呼ばれる分子マーカーのPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー、 レーン2〜13:12個の個別レタス根境界細胞調製物、 レーン14:サイズマーカー、 レーン15:陰性対照:水、 レーン16:陽性対照:レタスのリーフディスクから得たDNA(「pons sla」)、 レーン17:陰性対照、キュウリから得たDNA。
【図14】NAS2プローブセットを使ってレタス根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる生の値として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。
【図15】DNアーゼで処理したキュウリ根浸出物のDNA抽出物のPCR解析を示す、臭化エチジウム染色アガロースである。 パネルA:キュウリkom24特異的なプライマーの組み合わせを使ったPCR解析。 パネルB:レタス特異的なRCPプライマーの組み合わせを使ったPCR解析。レーン1〜18は、以下の処理に付したキュウリ根浸出物から単離されたDNAを含有する。レーン1〜3、7〜9および13〜15で解析された根抽出物には、レタスゲノムDNAを加えた。レーン1〜6の試料には、DNアーゼを加えなかった。レーン7〜12の試料には、DNアーゼを加え、65℃で5分間インキュベートすることによって直ちに失活させた。レーン13〜18には、DNアーゼを加えた後、37℃で30分間インキュベートし、次に失活させた。パネルAでは対照として、水(レーン19)、レタスDNA(レーン20)およびキュウリDNA(レーン21)を使用した。パネルBでは対照として、水(レーン19)レタスDNA(レーン20および21)およびキュウリDNA(レーン22)を使用した。
【図16】26℃の水中で24時間インキュベートした後のインビトロ再生キュウリ植物の不定根の根端である。根境界細胞の脱落はこの段階で明確に視認することができる。
【図17】本発明のDNA抽出手法によって生成されたキュウリの様々なDNA試料のkom24マーカー座位のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:不定根から得たキュウリ根境界細胞調製物(BC)、 レーン2:キュウリリーフディスクから得たDNA、レーン3:陰性対照、水。
【図18】液体培地中に根境界細胞を脱落させているペッパーの根端である。
【図19】GMSプローブセットを使ってペッパー根境界細胞DNA抽出物の解析後に得られる正味のフォールドオーバーゼロ(Fold Over Zero:FOZ)として表したFAMおよびREDスコアである。各DNA試料について、REDシグナルをX軸にプロットし、FAMシグナルをY軸にプロットする。このグラフでは、ヘテロ接合シグナルを青色でプロットし、対照のホモ接合シグナルを赤色および緑色のシグナルでプロットする。
【図20】液体培地中に根境界細胞を脱落させているトウモロコシの根端である。
【図21】本発明のDNA抽出手法によって生成されたトウモロコシの様々なDNA試料の細胞壁インベルターゼ遺伝子Incw1のPCR解析によって得られたバンドを示す、臭化エチジウム染色アガロースゲルである。 レーン1:サイズマーカー。 レーン2〜7:トウモロコシ根境界細胞調製物から得たDNA。 レーン8:陰性対照、水。 レーン9〜10:陽性対照、トウモロコシリーフディスクから抽出されたDNA。
【図22】液体培地中に根境界細胞を脱落させているエンダイブの根端である。
【図23】液体培地中に根境界細胞を脱落させているニンジンの根端である。
【図1A】
【図1B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物からDNAを得る方法であって、
a)成長中の根から根境界細胞を集める工程と、
b)前記根境界細胞からDNAを抽出する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記根境界細胞が成長中の根の根浸出物に含まれている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記根が培地中で成長している請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記培地が水である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培地が組織培養用の培地である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記培地が土壌である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記根が発芽種子の一部である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記根が苗の根である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記根が組織培養した植物または植物の一部の不定根である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記種子を幼根または根端が出現するまで発芽させる請求項7に記載の方法。
【請求項11】
約1〜2cmまで成長した根から前記根境界細胞を収集する請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
交雑M2突然変異体植物集団から遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項13】
交雑自然植物集団から遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項14】
育種集団中の遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項15】
商業用種子のロット間の遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項1】
植物からDNAを得る方法であって、
a)成長中の根から根境界細胞を集める工程と、
b)前記根境界細胞からDNAを抽出する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記根境界細胞が成長中の根の根浸出物に含まれている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記根が培地中で成長している請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記培地が水である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培地が組織培養用の培地である請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記培地が土壌である請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記根が発芽種子の一部である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記根が苗の根である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記根が組織培養した植物または植物の一部の不定根である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記種子を幼根または根端が出現するまで発芽させる請求項7に記載の方法。
【請求項11】
約1〜2cmまで成長した根から前記根境界細胞を収集する請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
交雑M2突然変異体植物集団から遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項13】
交雑自然植物集団から遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項14】
育種集団中の遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【請求項15】
商業用種子のロット間の遺伝子変種を検出するための請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法の使用。
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【公表番号】特表2009−526537(P2009−526537A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−554699(P2008−554699)
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001435
【国際公開番号】WO2007/093448
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001435
【国際公開番号】WO2007/093448
【国際公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】
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