説明

植物原料由来イノシトールの精製

植物原料の水性スラリー中のフィチン酸塩及び/又はフィチン及び/又はフィチン酸は、フィターゼに富んだ物質を産する酵素でスラリーを反応することで部分的に加水分解される。スラリーの可溶性画分は陰イオン画分と中性画分へと分離される。陰イオン画分はその後さらに加水分解され、加水分解物は第2イオン画分と第2中性画分へと分離される。このように取得された第2中性画分はイノシトールに富んでおり、分離が困難なその他の糖をほとんど含まない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物原料からのイノシトールの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
イノシトールは高価なビタミンBである。植物はフィチン酸{ミオイノシトール1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ジヒドロゲン燐酸)}を燐の保存形態として含んでいる。フィチン酸は植物細胞構造内にフィチンと呼ばれる鉱物結合複合体として発見される。フィチンは中性pHで大部分が不溶性である。フィチン酸はまたフィチン酸塩と呼ばれる塩形態で溶液中に存在することができる。“フィチン(phytin)”とフィチン酸塩(phytate)はしばしば互換性を有する。本明細書では特にこれらの違いについて明記されている場合を除き“フィチン酸塩(phytate)”はフィチン酸(phytic acid)、フィチン酸塩(phytate)及びフィチン(phytin)を指す。
【0003】
フィチン酸塩の部分的加水分解生成物のいくつかはイノシトール5燐酸(IP5)、イノシトール4燐酸(IP4)、イノシトール3燐酸(IP3)、イノシトール2燐酸(IP2)及びイノシトール1燐酸(IP1)である。これらのフィチン酸塩の部分的加水分解生成物をさらに加水分解して、イノシトールを生成することができる。植物原料からのイノシトール取得にはフィチン酸塩をイノシトールに変換し、植物開始原料中のその他の成分からイノシトールを精製する必要がある。
【0004】
植物原料からのイノシトールの生成は困難である。あるアプローチでは水性スラリー中でフィチン酸塩を加水分解し、イノシトールを含む様々な糖を生成する。しかしながら、イノシトールは、植物原料中に高レベルで存在するグルコース等のその他の糖と分子サイズ及び電荷特性が非常に類似する中性可溶性糖である。このため、イノシトールをスラリー中でその他の炭水化物から分離することは困難である。
【0005】
植物原料からイノシトールを精製する別のアプローチでは、開始スラリーからフィチン酸塩を精製し、全過程での後のステップで精製フィチン酸塩をイノシトールへ加水分解する。しかしながら、植物中のフィチン酸塩は普通フィチンの形態で存在するため、植物原料の水性スラリーから直接フィチン酸塩を精製するには、フィチンを可溶化し、その後スラリー成分の残りからフィチン酸塩を分離する必要がある。効率的なフィチンの抽出、可溶化及びスラリー成分の残りからの分離は困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物原料からのイノシトール取得に関する特有の困難性を解決するための利用可能で新規な過程について説明する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従って、植物原料の水性スラリー中のフィチン酸塩が、スラリーをフィターゼに富む酵素生成物で反応することで部分的に加水分解される。スラリーの可溶性画分は陰イオン画分と中性画分へと分離される。陰イオン画分はその後さらに加水分解され、イオンと中性画分へと分離される。
【0008】
このようにして取得された中性画分はイノシトールが豊富で、分離が困難なその他の糖をほとんど含まない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に従って、植物原料の水性スラリーはフィターゼで部分的に加水分解される。図1は本発明の様々なステップを示すフローチャートである。
【0010】
図1に示すように、植物原料の水性スラリーAはフィターゼで部分加水分解される。部分加水分解を促進するため、水性スラリーをフィターゼで適切な温度とpHにて反応することで処理されることが望ましい。
【0011】
フィターゼ酵素はフィチン酸塩をイノシトール5燐酸(IP5)、イノシトール4燐酸(IP4)、イノシトール3燐酸(IP3)及びイノシトール2燐酸(IP2)に加水分解できる。しかしながら、フィターゼはイノシトール2−モノ燐酸イノシトール(IP1)の加水分解活性をほとんど持たない。酸ホスファターゼはIP1をこの過程では望まれないが遊離イノシトールへ容易に加水分解できる。よって、使用されるフィターゼ源は酸ホスファターゼをほとんど、あるいは全く含まないことが望ましい。反応状態がフィターゼ活性に有利となるように選択され、酸ホスファターゼによる実質的なIP1の加水分解を防げる場合には、酸ホスファターゼ活性を含むフィターゼ源も利用することができる。酸ホスファターゼを含むフィターゼ源を利用する際、反応におけるpHは3.0以上、7以下が、実質的にIP1のイノシトールへの加水分解を生じさない最適なフィターゼ活性には望ましい。
【0012】
IP5,IP4,IP3,IP4,IP2及びIP1は反応の主な製造物である。これらは部分的に加水分解されたスラリー(図1に“B”で示す)中の溶液に存在する高い溶解性を有する負荷電化合物である。この部分的に加水分解されたスラリーは、濾過または遠心分離等の物理的分離手段で分離され、燐酸イノシトール含有可溶性画分(図1中Cで示す “全可溶性”画分)及び不溶性画分(図1中“D”で示す)を発生する。
【0013】
イノシトールと異なり、燐酸イノシトールは負荷電されている。よって、燐酸イノシトールを陰イオン画分にしつつ、全可溶性画分を陰イオン画分と第1中性画分へと分離することが可能である。どのように分離が実行されるかによって、存在するどのような陽イオン可溶性原料でも陰イオン画分あるいは第1中性画分のいずれかと共に残ることができる。
【0014】
全可溶性画分Cは、“イオン画分1”と称呼され、または図1中で “E”で示される陰イオン構成成分に富んだ第1イオン画分、及び中性構成成分(及び図1中で“F”にて示す陽イオン構成成分)に富んだ第1画分に分離される。イオン画分1(E)は燐酸イノシトールの大部分を、そして中性画分は全可溶性画分の中性可溶性構成成分の大部分を含む。分離は、溶液中の可溶性中性化合物から荷電イオン種を分離するための従来技術を使用してなされる。このような技術は例えば、イオン交換、イオン排除、あるいはイオン遅延カラム分離である。中性画分中の陽イオン成分の保持を望む場合には陽イオン交換樹脂が使用できる。これは陰イオン成分だけを第1イオン画分へと分離する。陽イオン成分の分離もまた望まれる場合には、混合陰イオン及び陽イオン交換樹脂を使うことができる。この段階における重要な点は、陰イオン成分を含む1画分と、中性成分を含む2画分で終了することである。陽イオン成分は本発明とは無関係であるため、どちらの画分にも残ることができる。
【0015】
次のステップは、イオン画分中における燐酸イノシトールの加水分解の完了である。このプロセスは、温度、圧力及びpHが制御された条件でフィターゼまたは酸ホスファターゼ等の酵素で処理されるか、酵素ベースの触媒を用いないで処理される。燐酸イノシトールの加水分解にとって適切な条件は知られており、利用可能な反応装置に合わせて選択できる。望ましいアプローチは、最適な活性のためにpH4以下で、酸ホスファターゼを含む酵素源を使用することである。完全な燐酸イノシトールの加水分解は、中性イノシトールと、画分Eからの様々な陰イオン化合物を含む陰イオン画分(図1中のG)を発生させる。
【0016】
イノシトールは、陰イオン画分G中の可溶性化合物の残りから、イオン交換、イオン排除、イオン遅延あるいはイオン遅延カラム等の溶液中の中性化合物から荷電物を分離する従来技術を利用して分離できる。このプロセスは第2イオン画分(ここではイオン画分2と称呼され、図1中“H”で示す)とイノシトールに富んだ第2中性I画分(図1中の“I”)を発生させる。第2中性画分中のイノシトールはその後、最終乾燥純イノシトール生成物を形成するために、濃縮され、結晶化され、乾燥される。
【0017】
本発明を好適実施例について説明したが、これら以外の実施例も当業者にとって容易である。よって、本発明は特定の実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明に従った処理段階を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物原料からイノシトールを製造する方法であって、本方法は、
(a)イノシトールへの完全加水分解を促進しない条件下で、フィチン酸塩、フィチン酸及びフィチンのうちの少なくとも1つを燐酸イノシトールへ部分的加水分解するように、植物原料の水性スラリーをフィターゼ酵素で処理するステップと、
(b)前記スラリーを水可溶性画分及び水不溶性画分へ分離するステップと、
(c)前記水可溶性画分を、燐酸イノシトールを含む陰イオン構成成分を含む第1イオン画分と、中性構成成分を含む第1他画分へと分離するステップと、
(d)前記第1イオン画分中の前記燐酸イノシトールを加水分解するステップと、
(e)前記加水分解された第1イオン画分を第2イオン画分とイノシトールを含む第2中性画分へと分離するステップと、
を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項2】
フィターゼ酵素は酸ホスファターゼを含まないことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
水性スラリーを処理する方法は略pH3.0から7.0の間で実行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
フィターゼ酵素は酸ホスファターゼを含んでいることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
スラリーを水可溶性画分と水不溶性画分へと分離するステップは遠心分離によって実行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
スラリーを水可溶性画分と水不溶性画分へと分離するステップは濾過によって実行されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
第1イオン画分中の燐酸イノシトールを加水分解するステップは、前記第1イオン画分をフィターゼで処理するステップを含んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
第1イオン画分中の燐酸イノシトールを加水分解するステップは、前記第1イオン画分を酸ホスファターゼで処理するステップを含んでいることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
加水分解はpH4以下で実行されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
第1イオン画分中の燐酸イノシトールを加水分解するステップは、フィターゼを追加せずに前記第1イオン画分を、加水分解を促進させる温度、圧力及びpHの条件下で処理するステップを含んでいることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
第2中性画分から純化イノシトールを分離するステップを含んでいることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−507828(P2006−507828A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555908(P2004−555908)
【出願日】平成15年11月28日(2003.11.28)
【国際出願番号】PCT/CA2003/001849
【国際公開番号】WO2004/050887
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(505182395)エムシーエヌ バイオプロダクツ インク. (2)
【Fターム(参考)】