説明

植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラント

【課題】温室栽培などにおいて、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことによって、省エネや地球温暖化防止対策を図ることができ、かつ、作業性や使い勝手などに優れた植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントの提供を目的とする。
【解決手段】植物栽培用温度制御装置1は、トマト10の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に、水平方向に配設された複数のホース2、流体供給手段3、取付け手段4、及び、制御手段5などを備え、流体供給手段3からホース2に温水が供給されることによって、トマト10を、局所的に、かつ、効果的に加温する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室栽培などにおいて、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことによって、省エネや地球温暖化防止対策を図ることができ、かつ、作業性や使い勝手などに優れた植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
トマト、キュウリ、ほうれん草などの生鮮野菜は、消費者のニーズに応じて年間栽培されており、スーパーなどの売り場に供給されている。すなわち、冬場や高冷地などでは、ガラスやビニール製の温室内に暖房装置を設置し、植物の生育に必要な熱を供給することによって、野菜などの周年栽培が行われている。
【0003】
上記暖房装置として、通常、A重油を燃料とする温風型加温機が用いられているが、他に、温水を循環させる管、電気式ヒータ又は発熱ランプなどを用いた装置が使用されている。
また、暖房装置の構成や暖房方法によっては、暖房コスト(たとえば、A重油やLPGなどの燃料費、あるいは、電気代)などを削減することができることから、様々な技術が提案されている。
【0004】
本発明に関連する技術として、たとえば、特許文献1には、温度制御室の構造体や土壌に沿って配置された弾力的な配管を有し、該配管は、管壁を加熱する高温熱媒体を管路内に収容し、該管壁と室内環境との熱交換作用により温度制御室の室内雰囲気温度や土壌温度を制御する熱媒体循環配管を形成することを特徴とする環境制御装置の技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2、及び、特許文献3には、平面状の袋に千鳥状の流路を形成し、該袋の上方から下方に温水を流すことにより、温室を加温する方法などの技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、液体を収容した液槽に配設された弾力的な配管を有し、該配管は、管壁を調温する熱媒体流体を管路内に収容し、該管壁と液体との熱交換作用により液体の温度を制御する熱媒体循環配管を形成することを特徴とする環境制御装置の技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献5には、縦長の水耕栽培床を設置し、該栽培床下の長手方向に、その一端側にホースの両端開口部を突出させて、他端側でU字状に屈曲させた複数本のホースを敷設するとともに、栽培床ごとに各ホースの開口部をヘッダーに接続し、温水源からの温水を、ヘッダーを介して各ホース内を循環させ、温水源に戻すことを特徴とする水耕栽培用温室の技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献6には、植物栽培用の植物支持体を充填可能な栽培容器と、栽培容器を地面より高い位置で昇降可能に保持する吊下保持手段とを備え、栽培容器を吊り下げた状態で昇降させ、さらに、水平方向に移動させることができる栽培装置の技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献7には、苗床容器を支持する支持台を、車輪を介することにより、水平方向に移動可能に固定台に取り付けた超促成栽培システムの技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献8には、温室内に間隔をおいた複数列の栽培槽を吊り下げ索にて吊り下げ支持し、栽培槽に培地を充填して植物を栽培する植物栽培装置において、温室内に栽培槽列に平行に駆動軸を配置し、この駆動軸に栽培槽を上、下動させる吊り下げ索を巻きつけたことを特徴とする植物栽培装置の技術が開示されている。
【0011】
さらに、非特許文献1には、トマトを用い、低温で障害が発生しやすい花房および茎頂生長点付近のみを局所的に加温し、全体の管理温度を低く保つことで、消費燃料を削減することを目的とする研究が開示されている。
【0012】
また、非特許文献2には、夏季高温の克服と、冬季の効率的な暖房による周年安定生産に向けた取組みとして、局所加温の研究が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−266730号公報
【特許文献2】特開昭56−25687号公報
【特許文献3】特開昭56−25688号公報
【特許文献4】特開2000−83489号公報
【特許文献5】実開平1−74746号公報
【特許文献6】特開2000−14250号公報
【特許文献7】特開2008−113613号公報
【特許文献8】特開2004−275178号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】園芸学研究vol.7別冊2(2008年発行)の245ページに記載の「冬季のトマト栽培における花房−生長点局所加温の効果」
【非特許文献2】農業および園芸の第83巻第3号(2008年発行)に記載の「日本型トマト多収生産に向けた研究開発のマイルストーン〔3〕」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1の技術は、温度制御室の構造体や土壌に沿って弾力的な配管(管路集合体などを含む。)を配置した構成としてあり、たとえば、トマトなどの植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができないといった問題があった。
一般的に、土壌などに対し水平方向に加温用の配管を配置することは、イチゴや苗などの小さな植物や葉菜類など、あるいは、草丈の低い植物にとっては有効である。ただし、トマト、キュウリ及びピーマンなどの地上から1m以上の草丈に生長させる、地這いではなく立ち性で栽培する植物にとっては、熱が植物の必要な個所(後述する植物の特定の部分)に届かないために、特許文献1の技術では、効果的に植物を加温することができない。
【0016】
すなわち、植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントにおいては、暖房コストを削減すること(省エネを図ること)ができ、たとえば、原油の高騰にともない、燃料費(たとえば、A重油やLPG)などの高騰が栽培農家の収益を圧迫するといった事態を回避することのできる実用的な技術が要望されている。
また、地球温暖化防止対策を積極的に行うことは、極めて重要であり、二酸化炭素を極力排出しない、エネルギー効率に優れた暖房技術が要望されている。
さらに、夏場の高温期に高温障害を起こす植物栽培においては、安価な冷房技術を提供することも要望されている。
【0017】
また、特許文献2、及び、特許文献3の技術は、地下水を有効的に利用する際、大きな放熱面積を得ることができるものの、千鳥状の流路を形成した平面状の袋の構造が複雑であり、実用性などを改善する必要があった。
【0018】
また、特許文献4〜8の技術は、上記特許文献1の技術とほぼ同様に、トマトなどの植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができないといった問題があった。
【0019】
さらに、非特許文献1、及び、非特許文献2の研究は、トマトを用い、低温で障害が発生しやすい花房および茎頂生長点付近のみを局所的に加温し、全体の管理温度を低く保つことで、消費燃料を削減することを目的としている。
ただし、植物に対する局所的加温技術として、たとえば、作業性や使い勝手などを向上させることによって、現実的に使用することのできる技術を確立する必要があった。
【0020】
本発明は、以上のような問題などを解決するために提案されたものであり、温室栽培などにおいて、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことによって、省エネや地球温暖化防止対策を図ることができ、かつ、作業性や使い勝手などに優れた植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の植物栽培用温度制御方法は、植物の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に、複数の管を配設し、複数の管に加温用流体又は冷却用流体を流す方法としてある。
【0022】
また、本発明の植物栽培用温度制御装置は、植物の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に配設され、加温用流体又は冷却用流体の流れる複数の管と、複数の管に、加温用流体又は冷却用流体を供給する流体供給手段と、複数の管を取り付けるための取付け手段とを備えた構成としてある。
【0023】
また、本発明の植物栽培用ユニットは、一又は二以上の吊り下げ式又は載置式の栽培用ベッドと、上記の植物栽培用温度制御装置とを備えた構成としてある。
【0024】
また、本発明の植物栽培用プラントは、一又は二以上の吊り下げ式又は載置式の栽培用ベッドと、上記の植物栽培用温度制御装置と、栽培用ベッドを収容する建物とを備えた構成としてある。
【発明の効果】
【0025】
本発明の植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントによれば、温室栽培などにおいて、植物に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことによって、省エネや地球温暖化防止対策を図ることができ、かつ、作業性や使い勝手などを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の要部の概略図であり、(a)は正面図を示しており、(b)は側面図を示している。
【図2】図2は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の、第一応用例を説明するための要部の概略図を示している。
【図3】図3は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の、第二応用例を説明するための要部の概略図を示している。
【図4】図4は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用ユニットの要部の概略斜視図を示している。
【図5】図5は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用ユニットの、支柱を説明するための要部の概略斜視図であり、(a)は垂直状態の拡大図を示しており、(b)は傾斜状態の拡大図を示している。
【図6】図6は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用プラントの要部の概略図を示している。
【図7】図7は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用プラントの、昼間における要部の概略図を示している。
【図8】図8は、本発明の実施例1及び比較例1における主幹の生育を説明する表及びグラフであり、(a)は主幹の長さの表1を示しており、(b)は主幹の長さのグラフ1を示している。
【図9】図9は、本発明の実施例1及び比較例1における主幹の伸長率を説明する表及びグラフであり、(a)は主幹の伸長率の表2を示しており、(b)は主幹の伸長率のグラフ2を示している。
【図10】図10は、本発明の実施例1及び比較例1における節数の増加を説明する表及びグラフであり、(a)は節数の増加の表3を示しており、(b)は節数の増加のグラフ3を示している。
【図11】図11は、本発明の実施例1及び比較例1における粘着テープに付着した虫数を説明する表4を示している。
【図12】図12は、本発明の実施例1及び比較例1における灰色カビ病の葉数を説明する表であり、(a)は生物農薬を使用しない際の灰色カビ病の葉数の表5を示しており、(b)は生物農薬を使用した際の灰色カビ病の葉数の表6を示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[植物栽培用温度制御装置の実施形態]
図1は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の要部の概略図であり、(a)は正面図を示しており、(b)は側面図を示している。
図1において、本実施形態の植物栽培用温度制御装置1は、複数のホース2、流体供給手段3、取付け手段4、及び、制御手段5などを備えた構成としてある。この植物栽培用温度制御装置1は、流体供給手段3からホース2に温水が供給されることによって、トマト10を加温する。
【0028】
(トマト)
トマト10は、たとえば、温室内で水耕栽培されており、ベッド(図示せず)から1m以上の草丈に生長する。このため、トマト10の先端部側は、ベッドとほぼ平行に張られた樹脂製の紐721に掛けられ、トマト10は、紐721に沿って生長する。このトマト10は、下から4段目のホース2の高さ位置まで生長しており、さらに、この数倍の大きさまで生長する。なお、複数のホース2は、下から上に向かって順に、1段目、2段目…と呼称する。
また、図1においては、2本の紐721が、垂直方向に所定の間隔をあけて張られているが、トマト10の生長に応じて、さらに、数本の紐721が上方に張られる。
なお、図1においては、理解しやすいように、一本のトマト10を図示してあるが、通常、複数本のトマト10が、数十cmの間隔をあけて栽培される。また、トマト10の栽培方式(たとえば、水耕栽培方式など)は、特に限定されるものではない。さらに、図示してないが、トマト10は、ほぼ真上方向に生育させてもよい。
【0029】
(ホース)
ホース2は、トマト10の近傍であって、垂直方向の所定範囲(図1(b)に示す2本の二点鎖線の間の範囲)内に、水平方向に配設されており、加温用流体としての温水が流れる。
ここで、トマト10の近傍とは、根、茎、葉などを含むトマト10全て(なお、養液栽培においては、養液中の根の部分などは、含まない。)の近傍である。また、近傍とは、上方から見て、ホース2からトマト10までの距離が、約1m以内の領域をいい、通常、数十cm以内の領域である。なお、この領域には、たとえば、ホース2がトマト10の葉と接触する位置や、あるいは、葉と葉の間にホース2が位置する場合も含まれる。そして、上記の垂直方向の所定範囲とは、上記領域を垂直方向に拡大した三次元的空間である。
また、上記の垂直方向は、ほぼ垂直方向であってもよく、さらに、上記の水平方向は、ほぼ水平方向であってもよい。
【0030】
すなわち、本実施形態では、ほぼ水平方向に延びる6本のホース2が、トマト10の近傍に、ほぼ垂直方向に並設されている。
このようにすると、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、トマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネや地球温暖化防止対策(二酸化炭素の排出量の削減など)を図ることができる。
なお、各ホース2は、ほぼ直線状としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、上下方向に蛇行していたり(波形状であったり)、あるいは、トマト10の周囲に螺旋状に設けられていてもよい。
【0031】
また、好ましくは、上述したトマト10の近傍が、トマト10の特定の部分(花芽11及び/又は成長点12)の近傍(通常、数十cm以内の領域)であるとよい。
一般的に、上記の特定の部分とは、植物の成長や収穫物の数量・品質に影響を及ぼす部分をいい、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン及びシシトウなどにおいては、花芽(花房)及び/又は成長点(茎頂成長点)である。このようにすると、収穫物(果実13)の数量や品質を向上させつつ(あるいは、維持しつつ)、省エネなどを図ることができる。
【0032】
なお、本実施形態では、上述したように、6本のホース2が、トマト10の近傍に、ほぼ垂直方向に並設されているが、これに限定されるものではない。たとえば、図示してないが、栽培される植物が、ナス、シシトウやピーマンなどのように、生育過程でYの字(あるいは、二股)に枝分かれする場合、複数のホース2は、枝分かれの形状に対応するように配設されてもよい。また、栽培される植物が、ニラやホウレンソウなどのように、草丈が低い場合、複数のホース2は、植物の上方を覆うようにほぼ水平方向に並設されてもよい。
これらの場合であっても、複数のホース2が、花芽(花房)及び/又は成長点(茎頂成長点)の近傍に配設されることにより、収穫物の数量や品質を向上させつつ(あるいは、維持しつつ)、省エネなどを図ることができる。
さらに、土耕栽培においては、図示してないが、一部のホース2を土壌上あるいは土壌中に敷設してもよく、また、養液栽培においては、図1(b)の破線で示すホース2のように、根付近や茎の下部付近に敷設してもよい。これにより、植物の上部域と同時に根域も積極的に加温し、植物の成長を促進することも可能である。
【0033】
本実施形態では、管として6本のホース2を用い、ホース2どうしがジョイント21及び連結ホース20を介して接続される。また、ホース2や連結ホース20は、通常、ビニールホースなどの軽く、かつ、柔軟性に優れた市販のホースが用いられる。さらに、ジョイント21は、容易に着脱可能なワンタッチ方式のジョイント(クイックジョイントとも呼ばれる。)が用いられる。
このようにすると、後述するように、トマト10の生長に応じて、温水を流すホース2を自在に選択することができるので、さらに省エネなどを図ることができる。また、たとえば、果実13を採る際、手を管(金属製の管)にぶつけて痛めるといった不具合を防でき、作業の安全性を向上させることができる。また、設置作業、撤去作業、設置場所の移動作業などを容易に、かつ、安全に行うことができる。さらに、市販されている部材を用いることにより、製造原価のコストダウンを図ることができ、また、容易に入手することができる。
【0034】
なお、管としてホース2を用いているが、これに限定されるものではない。たとえば、図示してないが、工場栽培などにおいては、塩化ビニールや金属製のパイプ(これらのパイプは、果実13を採る際、昇降手段により昇降される。)などを用いてもよい。
また、本実施形態では、両端にジョイント21の取り付けられた連結ホース20を使用しているが、ホース2の両端にはジョイント21が取り付けられているので、連結ホース20を使用せず、ホース2どうしを、ジョイント21を介して接続してもよい。
【0035】
さらに、複数のホース2は、一本のホース2を蛇行させるようにして、設置した場合をも含むものとする。すなわち、本実施形態では、6本のホース2及び5本の連結ホース20を用いているが、この代わりに、一本のホースを5回蛇行させるようにして(かかる場合も、垂直方向の所定範囲内に、6本のホース2が設けられているものとする。)設置してもよい。これにより、部品点数を削減でき、製造原価のコストダウンを図ることができる。
また、ホース2の内径、間隔や本数などは、特に限定されるものではない。したがって、たとえば、トマト10の状態に応じて、ホース2の内径、間隔や本数などを自在に設定することにより、温度制御の能力や温度制御を行う範囲などを容易に変更することができる。
【0036】
また、ホース2どうしは、上述したように、ジョイント21及び連結ホース20や、ジョイント21を介して接続されるが、これに限定されるものではない。
たとえば、一本のホース2を蛇行させるようにして、複数のホース2を設置する場合においては、ホース2の折り返し部(半円状の部分)の折れ曲がりを防止する補強部材を用いてもよい。この補強部材として、たとえば、図示してないが、折り返し部が収まるU字状の部材や、折り返し部を三点で支持するほぼT字状の部材などを用いることができる。この補強部材を使用すると、わざわざホースを切断することなく1本のホースを折り返すことによって、複数のホースを配設することができる。これにより、作業的にも経費的にも効率化が図れる。
また、たとえば、6本のホース(長さLのホース)2を、2本のホース(長さLのホース)2、及び、三回蛇行させた1本のホース(長さ4Lのホース)2で構成する場合、二つのジョイント21と三つの補強部材を用いてもよい。
【0037】
(取付け手段)
取付け手段4は、ホース2を吊るすためのネット41、及び、ネット41を掛けるためのネット用パイプ411などを有しており、複数のホース2を取り付けるためのものである。網目状体としてのネット41は、通常、球技用のネットのように、数cm間隔で編まれた樹脂製の紐からなるネットが用いられる。また、ネット用パイプ411は、通常、金属製のパイプなどが用いられる。このネット用パイプ411は、たとえば、地面に立設された枠に係止されたり、温室のフレームに取り付けられるが、特に限定されるものではない。
このようにすると、複数のホース2を容易に取り付けることができ、また、トマト10の生育に応じて、ホース2の高さを容易に変更することができる。さらに、図示してないが、ネット41にS字フックを掛けることによっても、ホース2の高さ位置を容易に変更することができる。また、ネット用パイプ411を枠に係止する構成とすることにより、移設などを容易に行うことができる。すなわち、本実施形態のネット41によって、使い勝手などを向上させることができる。
【0038】
なお、ネット41の代わりに、紐状体(図示せず)を用いてもよい。たとえば、紐状体は、一端がネット用パイプ411に結び付けられ、他端がホース2に結び付けられる。このようにしても、ホース2を取り付けることができる。なお、この紐状体としては、通常、樹脂製の紐が用いられる。
【0039】
ここで、好ましくは、ホース2の近傍に、虫(図示せず)を採取するための粘着テープ42を設けるとよい。このようにすると、局所的に暖房されるホース2の周囲に、温室内の害虫が集まり、集まった害虫を、粘着テープ42によって一網打尽に補殺することができる。
また、本実施形態では、たとえば、5段目と6段目のホース2の間において、粘着テープ42がネット41に貼り付けられている。このようにすると、粘着テープ42を容易に取り付けることができ、また、容易に取り外すことができる。
【0040】
(流体供給手段)
流体供給手段3は、通常、自然冷媒ヒートポンプ給湯機などが用いられ、複数のホース2に、加温用流体を供給する。加温用流体は、通常、温水(たとえば、30℃〜95℃)である。ただし、これに限定されるものではなく、たとえば、地熱を利用した蒸気でもよい。
また、夏季においては、ホース2に冷却用流体を流してもよい。冷却用流体は、通常、冷水(たとえば、5℃〜20℃)である。この冷水は、地下水や、ヒートポンプにより冷却された水などである。これにより、夏季における生鮮野菜などの安定供給に寄与することができ、国内での食糧自給率の向上にも貢献することができる。
なお、流体供給手段3は、ヒートポンプ給湯機及び温水を蓄える蓄熱槽を有する構成としてもよい。このようにすると、ヒートポンプ給湯機が、日中の暖かい外気から効率よく温水を得ることができ、蓄熱槽がその温水を蓄え、夜間に使用することができる。
【0041】
また、流体供給手段3は、吐出口に供給用ホース31が接続されており、供給用ホース31の先端には、ジョイント21が取り付けられている。この供給用ホース31は、4段目のホース2と接続されている。さらに、流体供給手段3は、吸込口に排出用ホース32が接続されており、排出用ホース32の先端には、ジョイント21が取り付けられている。この排出用ホース32は、1段目のホース2と接続されている。
このようにすると、トマト10の生長に応じて、上述した花芽11や成長点12を局所的に加温することができ、さらに効果的に省エネなどを図ることができる。
【0042】
なお、本実施形態では、温水を上方から下方に流しているが、これに限定されるものではなく、たとえば、温水を下方から上方に流す構成としてもよい。
また、流体供給手段3は、自然冷媒ヒートポンプ給湯機に限定されるものではなく、たとえば、A重油やLPGなどを燃料とする給湯機でもよい。また、温泉、地下水、湧水などを利用できる場合には、これらを直接的に供給してもよい。
さらに、本実施形態では、供給用ホース31と排出用ホース32とを、ホース2の左側に設置する構成としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、供給用ホース31を、ホース2の左側に設置し、排出用ホース32を、ホース2の右側に設置する構成としてもよい。
【0043】
(制御手段)
植物栽培用温度制御装置1は、温度センサ51及び制御手段5を有しているとよい。
温度センサ51は、ネット41(あるいは、紐721)に取り付けられ、トマト10の近傍の温度を測定し、測定信号を制御手段5に出力する。また、制御手段5は、温度センサ51や流体供給手段3と接続され、温度センサ51からの測定信号にもとづいて、後述するように流体供給手段3を制御する。このようにすると、外気温度の変化に応じて、自動的に温度制御を行うことができる。
なお、流体供給手段3は、後述するように、温水の温度を所定の温度とし、ON(供給)−OFF(停止)制御する構成としてあるが、制御方式はこれに限定されるものではなく、たとえば、温水の温度や流量などを制御してもよい。
【0044】
ここで、好ましくは、温度センサ51が、つや消しの黒色塗装された金属板、この金属板の裏面に取り付けられた温度測定部、及び、この温度測定部を覆うように金属板の裏面に取り付けられた断熱部材を有する温度センサ(黒色板温度センサとも呼ばれる。)であるとよい。本実施形態の黒色板温度センサは、たとえば、黒色銅板として縦×横が200mm×200mm、厚さが0.3mmの正方形状の黒色銅板を用い、温度測定部として測温抵抗体を用い、断熱部材として発泡スチロール製の正方形状の板を用いている。
この黒色温度センサは、トマト10の暖めたい部位とほぼ同じ位置に、複数のホース2と対向するように設置され、ホース2からの輻射熱及び熱対流によるトマト10の暖めたい部位の温度を、精度よく測定することができる。すなわち、黒色温度センサは、ホース2からの輻射熱による被加熱物の温度上昇を反映することから、後述するように、トマト10が受ける実質的な加熱を精度よく測定することができる。
【0045】
次に、上記構成の植物栽培用温度制御装置1の動作などについて説明する。
まず、トマト10が生長し、花芽11や成長点12が、1段目〜2段目のホース2の高さになると、供給用ホース31が2段目のホース2と接続され、排出用ホース32が1段目のホース2と接続される。また、温度センサ51は、1段目と2段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付けられる。さらに、制御手段5は、あらかじめ設定温度(たとえば、15℃)が入力されている。
【0046】
植物栽培用温度制御装置1は、温度センサ51が温度を測定しており、制御手段5が入力した測定信号が、たとえば、15℃になると、制御手段5は、ON信号を流体供給手段3に出力する。
ON信号を入力した流体供給手段3は、温水(たとえば、50℃)を供給用ホース31に供給する。この流量は、通常、毎分数百cc(たとえば、200cc)である。2段目のホース2に供給された温水は、ホース2内を流れ、連結ホース20を経由して、1段目のホース2内を流れ、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に戻る。戻ってきた温水の温度は、熱を輻射することなどによって、低くなっている(たとえば、25℃)。
なお、上記流量は、ホース2の長さや内径などに応じて設定され、毎分数百ccに限定されるものではない。
【0047】
1段目及び2段目のホース2は、上述したように、トマト10の近傍に、水平方向に延びた状態で、垂直方向に並設されている。これらのホース2は、輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流によって、トマト10の花芽11や成長点12を局所的に、かつ、効果的に加温することができる。
また、上記加温によって、制御手段5が、温度センサ51から測定信号(たとえば、17℃の測定信号)を入力すると、制御手段5は、OFF信号を流体供給手段3に出力する。そして、流体供給手段3は、温水の供給を停止する。このようなON−OFF制御によって、トマト10は、局所的に、かつ、効果的に加温される。
【0048】
次に、トマト10がさらに生長し、花芽11や成長点12が、1段目〜4段目のホース2の高さになると、供給用ホース31が4段目のホース2と接続され、2段目のホース2と3段目のホース2とが、連結ホース20などによって接続される。なお、排出用ホース32は、1段目のホース2と接続されている。また、温度センサ51は、3段目と4段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付けられる。なお、制御手段5は、あらかじめ設定温度(たとえば、15℃)が入力されている。
【0049】
植物栽培用温度制御装置1は、温度センサ51が温度を測定しており、制御手段5が入力した測定信号が、たとえば、15℃になると、制御手段5は、ON信号を流体供給手段3に出力する。
ON信号を入力した流体供給手段3は、温水(たとえば、50℃)を供給用ホース31に供給する。この流量は、通常、毎分数百cc(たとえば、400cc)である。4段目のホース2に供給された温水は、ホース2内を流れ、連結ホース20を経由して、3段目のホース2内を流れ、同様にして、2段目及び1段目のホース2を流れ、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に戻る。戻ってきた温水の温度は、熱を輻射することなどによって、低くなっている(たとえば、25℃)。
【0050】
1段目〜4段目のホース2は、上述したように、トマト10の近傍に、水平方向に延びた状態で、垂直方向に並設されている。これらのホース2は、輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流によって、トマト10の花芽11や成長点12を局所的に、かつ、効果的に加温することができる。
【0051】
また、トマト10がさらに生長し、花芽11や成長点12が、1段目〜6段目のホース2の高さになると、供給用ホース31が6段目のホース2と接続され、4段目のホース2と5段目のホース2とが、連結ホース20などによって接続される。なお、排出用ホース32は、1段目のホース2と接続されている。また、温度センサ51は、5段目と6段目のホース2のほぼ中間の高さに取り付けられる。なお、制御手段5は、あらかじめ設定温度(たとえば、15℃)が入力されている。
【0052】
植物栽培用温度制御装置1は、温度センサ51が温度を測定しており、制御手段5が入力した測定信号が、たとえば、15℃になると、制御手段5は、ON信号を流体供給手段3に出力する。
ON信号を入力した流体供給手段3は、温水(たとえば、50℃)を供給用ホース31に供給する。この流量は、通常、毎分数百cc(たとえば、600cc)である。6段目のホース2に供給された温水は、ホース2内を流れ、連結ホース20を経由して、5段目のホース2内を流れ、同様にして、4段目、3段目、2段目及び1段目のホース2を流れ、排出用ホース32を経由して流体供給手段3に戻る。戻ってきた温水の温度は、熱を輻射することなどによって、低くなっている(たとえば、25℃)。
【0053】
1段目〜6段目のホース2は、上述したように、トマト10の近傍に、水平方向に延びた状態で、垂直方向に並設されている。これらのホース2は、輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流によって、トマト10の花芽11や成長点12を局所的に、かつ、効果的に加温することができる。
【0054】
このように、植物栽培用温度制御装置1は、トマト10が生長する場合であっても、トマト10の花芽11や成長点12を効果的に加温しているので、果実13温室内全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネなどを図ることができる。また、果実13温室内全体を加温する場合とほぼ同様に、トマト10は、生長し、果実13を収穫することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態の植物栽培用温度制御装置1によれば、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、トマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネや地球温暖化防止対策(二酸化炭素の排出量の削減など)を図ることができる。
また、ホース2、連結ホース20、ジョイント21、及び、ネット41などを用いることにより、作業の安全性、作業性、及び、使い勝手などを大幅に向上させることができる。
また、本実施形態は、様々な応用例を有している。
次に、本実施形態の応用例について、図面を参照して説明する。
【0056】
<植物栽培用温度制御装置の第一応用例>
図2は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の、第一応用例を説明するための要部の概略図を示している。
図2において、本応用例の植物栽培用温度制御装置1aは、上述した植物栽培用温度制御装置1と比べると、流路を変更するための供給用ホース31や連結ホース20などの代わりに、弁61〜67などを設け、複数のホース2に直列的及び/又は並列的に温水を流せる構成とした点などが相違する。また、弁61〜67は、手動弁としてあるが、遠隔操作可能な電磁弁でもよい。なお、本応用例の他の構成は、植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様としてある。
したがって、図2において、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0057】
植物栽培用温度制御装置1aは、流体供給手段3の吐出口が、2段目、4段目及び6段目のホース2と並列に接続されている。また、吐出口と、2段目、4段目及び6段目のホース2との間には、弁61、弁63及び弁65が設けられている。また、流体供給手段3の吸込口が、1段目、3段目及び5段目のホース2と並列に接続されている。また、吸込口と、3段目及び5段目のホース2との間には、弁62及び弁64が設けられている。さらに、2段目と3段目のホース2は、弁66を介して接続されており、4段目と5段目のホース2は、弁67を介して接続されている。
【0058】
三つの温度センサ51は、1段目と2段目のホース2の間に、3段目と4段目のホース2の間に、及び、5段目と6段目のホース2の間に、ネット41を利用して取り付けられ、トマト10の近傍の温度を測定し、測定信号を制御手段5aに出力する。
また、制御手段5aは、三つの温度センサ51や流体供給手段3と接続され、温度センサ51からの測定信号にもとづいて、後述するように流体供給手段3を制御する。このようにすると、外気温度の変化に応じて、トマト10の近傍の温度が変化しようとしても、自動的に温度制御を行うことができる。
なお、その他の構成は、上述した植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様としてある。
【0059】
次に、上記構成の植物栽培用温度制御装置1の動作などについて説明する。
植物栽培用温度制御装置1aは、弁61〜67の操作によって、植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様に、各ホース2に直列的に温水を流すことができる。さらに、弁61、弁66、弁63及び弁64を閉じ、弁62、弁67及び弁65を開くと、2段目〜6段目のホース2に温水を流すことができる。
【0060】
また、たとえば、ホース2が数十mの長さを有しているとき、植物栽培用温度制御装置1のように、6段目のホース2から1段目のホース2まで、直列的に温水を流すと、下方のホース2を流れる水温が低くなりすぎ、必要な加温ができない場合がある。かかる場合、弁61、弁62、弁63、弁64及び弁65を開き、弁66及び弁67を閉じると、1段目と2段目のホース2、3段目と4段目のホース2、及び、5段目と6段目のホース2に並列的に温水を流すことができ、上記の不具合を回避することができる。
【0061】
さらに、上記の並列的に温水を流す場合において、弁61〜67を遠隔操作可能な電磁弁とし、制御手段5aが、三つの温度センサ51からの測定信号にもとづいて、弁61、弁63及び弁65をON−OFF制御する構成としてもよい。このようにすると、温度制御の精度を向上させることができ、大きく生長したトマト10に対しても、ほぼ均一な加温を行うことができる。さらに、制御手段5aの操作パネルに入力するだけで、弁61〜67を遠隔操作することができるので、作業性や使い勝手を向上させることができる。
【0062】
また、粘着テープ42が5段目と6段目のホース2の間に設けられている場合、6段目と5段目のホース2にだけ温水を流し、この周囲の温度を虫が好む温度とすることにより、虫をこの近辺に寄せ集めてもよい。このようにすると、粘着テープ42が効率よく虫を捕獲することができ、植物栽培用温度制御装置1aに付加価値を向上させることができる。
【0063】
このように、本応用例の植物栽培用温度制御装置1aは、上述した実施形態の植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様の効果を奏するとともに、温度制御の品質や精度、作業性、使い勝手、及び、付加価値などを向上させることができる。
【0064】
<植物栽培用温度制御装置の第二応用例>
図3は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用温度制御装置の、第二応用例を説明するための要部の概略図を示している。
図3において、本応用例の植物栽培用温度制御装置1bは、上述した植物栽培用温度制御装置1と比べると、取付け手段4が、複数のホース2を昇降させる昇降装置43、及び、複数のホース2を水平移動させる水平移動装置44を有する点などが相違する。さらに、本応用例では、温度センサ51は、トマト10の暖めたい部位とほぼ同じ位置に(たとえば、トマト10を支持する棒に)取り付けられている。また、粘着テープ42は、トマト10の上方に(たとえば、トマト10を支持する棒の上方端部に)取り付けられている。
なお、本応用例の他の構成は、植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様としてある。また、トマト10の左側にホース2を設けているが、これに限定されるものではなく、たとえば、右側、あるいは、左右両側に、ホース2などを設けてもよい。
したがって、図3において、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0065】
本応用例の昇降装置43は、回転自在に支持されたネット用パイプ411を回転させるモータ、チェーン、スプロケットなどを有しており、ネット用パイプ411に取り付けられたネット41を、複数のホース2や温度センサ51とともに、巻き上げる構成としてある。このようにすると、たとえば、果実13を採るときに、複数のホース2などを容易に巻き上げることができ、果実13を採る作業性を向上させることができる。
なお、昇降装置43の構成は、上記に限定されるものではない。たとえば、図示してないが、ネット用パイプ411を昇降させる構成としてもよい。また、モータなどの駆動手段を用いず、滑車などを用いて手動にて昇降させる構成としてもよい。
【0066】
本応用例の水平移動装置44は、リニアベアリング、ボールねじ、モータなどを有しており、ネット用パイプ411などを支持する棒状部材の立設された往復移動部材を水平方向に移動させる構成としてある。このようにすると、たとえば、トマト10の生長に応じて、複数のホース2の位置を容易に移動させることができ、トマト10から離れた状態で、かつ、トマト10に接近させることができる。これにより、局所的にトマト10を加温する効果を向上させることができる。
なお、水平移動装置44の構成は、上記に限定されるものではない。たとえば、ローラを介してレール上を走行する構成としてもよい。また、モータなどの駆動手段を用いず、手動にて移動させる構成としてもよい。
また、水平移動装置44や昇降装置43は、地上に設けられているが、これに限定されるものではなく、たとえば、ビニールハウスの天井のフレームに設けられてもよい。
【0067】
このように、本応用例の植物栽培用温度制御装置1bは、上述した実施形態の植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様の効果を奏するとともに、作業性や加温効果などをさらに向上させることができる。
【0068】
[植物栽培用温度制御方法の実施形態]
また、本発明は、植物栽培用温度制御方法の発明としても有効である。
本実施形態の植物栽培用温度制御方法は、上述した植物栽培用温度制御装置1を用いて、トマト10の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に、複数のホース2を水平方向に配設し、複数のホース2に温水を流す方法としてある。
このようにすると、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、トマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネなどを図ることができる。
【0069】
また、好ましくは、上述したトマト10の近傍が、トマト10の特定の部分(花芽11及び/又は成長点12)の近傍(通常、数十cm以内の領域)であるとよい。
一般的に、上記の特定の部分とは、植物の成長や収穫物の数量・品質に影響を及ぼす部分をいい、トマト、キュウリ、ナス、ピーマン及びシシトウなどにおいては、花芽(花房)及び/又は成長点(茎頂成長点)である。このようにすると、収穫物(果実13)の数量や品質を向上させつつ(あるいは、維持しつつ)、省エネなどを図ることができる。
なお、本実施形態の植物栽培用温度制御方法は、上述した植物栽培用温度制御装置1、1a、1bなど(後述する植物栽培用プラント8などをも含む。)の構成(たとえば、ネット41や供給用ホース31など)を、植物栽培用温度制御方法の特徴として適用することができる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態の植物栽培用温度制御方法によれば、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、トマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネや地球温暖化防止対策(二酸化炭素の排出量の削減など)を図ることができる。
【0071】
[植物栽培用ユニットの実施形態]
また、本発明は、植物栽培用ユニットの発明としても有効である。
図4は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用ユニットの要部の概略斜視図を示している。
図4において、本実施形態の植物栽培用ユニット7は、水耕栽培用ベッド71、枠72、支柱73、位置決め手段74、及び、上述した植物栽培用温度制御装置1などを備えている。
したがって、図4において、図1に示す植物栽培用温度制御装置1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
なお、植物栽培用ユニット7の構成を理解しやすいように、芽を出したばかりのトマト10を図示してある。
また、一つの植物栽培用ユニット7を図示してあるが、これに限定されるものではなく、通常、水耕栽培用ベッド71の長手方向に、複数の水耕栽培用ベッド71が並べて設置される。この場合、図示したホース2と、図示していない隣のホース2とは、連結ホース20などにより、容易に接続することができる。
【0072】
(水耕栽培用ベッド)
水耕栽培用ベッド71は、細長い矩形箱状であり、内部に養液が入れられており、上部が樹脂製のシートで覆われている。通常、トマト10は、水耕栽培用ベッド71の長手方向に二列に並べて植えられており、植物栽培用温度制御装置1の複数のホース2が、並べて植えられたトマト10の間に(上記二列の間のほぼ中央に)設けられている。
このようにすると、複数のトマト10に対して、効率よく温度制御を行うことができる。
【0073】
なお、トマト10は、通常、水耕栽培用ベッド71の長手方向に、二列に並べて植えられており、複数のホース2は、二列に並べて植えられたトマト10の間に設けられる。ただし、これに限定されるものではなく、たとえば、トマト10が三列以上に並べて植えられている場合、列状に並べて植えられたトマト10の間に、複数のホース2を設けてもよい。
また、本実施形態では、栽培用ベッドとして、載置式の水耕栽培用ベッド71を備えた構成としてあるが、これに限定されるものではない。たとえば、図示してないが、噴霧耕栽培用ベッド、培地を用いた固形培地耕栽培用ベッド、培地に土を用いた養液土耕栽培用ベッド、土耕栽培用ベッドなどを用いてもよい。さらに、吊り下げ式の栽培用ベッドを用いてもよい。
【0074】
(枠)
枠72(フレームとも呼ばれる。)は、金属製のパイプ、及び、パイプどうしを連結する連結金具などを有している。この枠72は、ほぼ直方体状に組み立てられ、底部に、水耕栽培用ベッド71が取り付けられる。この枠72は、紐721(図1参照)が張られ、多数のトマト10の重量を受けるので、十分な剛性を有している。また、レンガなどを介して地面に設置されるので、枠72が地面に沈み込むといった不具合を防止することができる。
【0075】
また、枠72は、長手方向の両端部に、上パイプ722を有しており、一対の上パイプ722のほぼ中央部に支柱73が取り付けられている。一対の支柱73の上部に、先端が上方に曲がった係止パイプ732が取り付けられており、ネット41が容易に係止される。このように、上述した植物栽培用温度制御装置1の優れた作業性などは、植物栽培用ユニット7においても、十分発揮することができる。
【0076】
ここで、好ましくは、枠72の長手方向の両端部に、複数のホース2が水耕栽培用ベッド71の短手方向に移動することを抑制するための、支柱73が設けられているとよい。すなわち、支柱73は、下方に長い形状としてあり、図示してないが、ネット41の両側の中段部や下部を、紐などで支柱73に結び付けることができる。このようにすると、複数の水耕栽培用ベッド71が並べて設置されているときであっても(複数のホース2が水平方向に接続された場合であっても)、数十mの長さのホース2が複数の支柱73と連結されているので、ホース2が短手方向に移動(振動)して、生長したトマト10にダメージを与えるといった不具合を効果的に防止することができる。
【0077】
ところで、水耕栽培においては、トマト10の根が養液に適度に浸かっていることが重要である。このため、水耕栽培用ベッド71を取り付ける際、水耕栽培用ベッド71の水平度などが慎重に調整され、また、取り付け後にも、上記水平度がくるわないようにする必要がある。すなわち、温水が流れる複数のホース2は、重くなるので、その重量によって上記水平度に悪影響を与えない構造が要望されている。
また、トマト10を植え替える際などに、水耕栽培用ベッド71を枠72から容易に取り外すことが可能な構造であることも要望されている。
次に、上記要望に応えるための支柱73などについて、図面を参照して説明する。
【0078】
図5は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用ユニットの、支柱を説明するための要部の概略斜視図であり、(a)は垂直状態の拡大図を示しており、(b)は傾斜状態の拡大図を示している。
図5において、支柱73は、金属製のパイプであり、上部が、回動式パイプジョイント731によって、上パイプ722に取り付けられている(吊り下げられている)。すなわち、回動式パイプジョイント731は、上部位置決め手段として機能し、位置決めした状態で、支柱73を上パイプ722に吊るすことができる。また、回動式パイプジョイント731によって、支柱73や温水が流れている複数のホース2の重量は、十分な剛性などを有する枠72が全て受ける。したがって、上記水耕栽培用ベッド71の水平度がくるうといった不具合を確実に回避することができる。
【0079】
また、支柱73の下部は、位置決め手段74によって、下パイプ723に対して位置決めされている。この下部の位置決め手段74は、固定パイプ741及び連結パイプ742などを有している。
固定パイプ741は、支柱73と同じ外径を有する(たとえば、長さが十数cmの)金属製のパイプである。この固定パイプ741は、支柱73の下部から離れており(支柱73の重量を受けない状態で)、かつ、地面から浮いた状態で、下パイプ723のほぼ中央部に、垂直に固定されている。また、連結パイプ742は、支柱73の下部及び固定パイプ741の上部が挿入される(たとえば、長さが十数cmの)金属製のパイプである。すなわち、図5(a)に示すように、位置決め手段74によって、垂直状態の支柱73の下部が、該支柱73などの自重を受けることなく位置決めされる。
【0080】
さらに、支柱73は、図5(b)に示すように、連結パイプ742を上方に移動させることにより、固定パイプ741との係止が解除されるので、回動式パイプジョイント731を支点に回動させることができる。これにより、水耕栽培用ベッド71を容易に取り出すことができる。
なお、位置決め手段74は、上記構成に限定されるものではなく、たとえば、下パイプ723及び固定パイプ741の代わりに、図示してないが、地面に載置される円板状の底板、及び、この底板に突設された固定パイプ741を有する構成としてもよい。
【0081】
以上説明したように、本実施形態の植物栽培用ユニット7によれば、上述した植物栽培用温度制御装置1とほぼ同様に、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、水耕栽培されるトマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、温室栽培においては、温室全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネを図ることができる。また、ホース2、連結ホース20、ジョイント21、及び、ネット41などを用いることにより、作業の安全性、作業性、及び、使い勝手などを大幅に向上させることができる。
さらに、支柱73や位置決め手段74を備えることにより、支柱73や温水が流れる複数のホース2の重量によって地面の傾斜が変化し、これにより、水耕栽培用ベッド71に悪影響を与えるといった不具合を確実に防止することができる。
【0082】
[植物栽培用プラントの実施形態]
また、本発明は、植物栽培用プラントの発明としても有効である。
図6は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用プラントの要部の概略図を示している。
図6において、本実施形態の植物栽培用プラント8は、トマト10が栽培される複数の栽培用ベッド82、植物栽培用温度制御装置1b´、及び、建物81などを備えている。また、植物栽培用温度制御装置1b´は、上述した植物栽培用温度制御装置1bと比べると、レールやローラなどを有する水平移動装置44´などを備えている点が相違する。
したがって、図6において、図3に示す植物栽培用温度制御装置1bと同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0083】
(建物)
建物81は、通常、太陽光を透過するガラスや樹脂などからなる建築資材が、壁や天井などに使用されており、たとえば、トマト10に対して、ビニールハウスのような環境を提供することができる。この建物81は、複数(通常、数十〜数百)の栽培用ベッド82を収容する。
なお、建物81は、植物の栽培に適した構造であればよく、特に限定されるものではない。
また、建物81は、太陽光の照射量を調整(抑制)するために、半透明の建築資材などを必要に応じて使用することが可能な構造としてもよい。さらに、太陽光の照射量を調整(補填)するために、照光手段(高輝度LEDなど)を備える構造としてもよい。
【0084】
(植物栽培用温度制御装置)
植物栽培用温度制御装置1b´は、上述したように、植物栽培用温度制御装置1bと比べると、レールやローラなどを有する水平移動装置44´を備えている点などが相違する。この水平移動装置44´は、建物81内に敷設されたレール、走行用のローラ、モータなどを有しており、ネット用パイプ411などを支持する棒状部材の立設された往復移動部材を水平方向に移動させる構成としてある。
なお、水平移動装置44´や昇降装置43は、建物81内の床に設けられているが、これに限定されるものではなく、たとえば、建物81の天井のフレームなどに設けられてもよい。
【0085】
(栽培用ベッド)
栽培用ベッド82は、たとえば、細長い矩形箱状としてあり、養液土耕栽培用ベッドや土耕栽培用ベッドである。本実施形態では、トマト10は、栽培用ベッド82の長手方向に一列に並べて植えられている。また、栽培用ベッド82は、通常、両端に棒状部材が立設されており、これらの棒状部材には、トマト10を這わすために、紐などが張られている。
なお、トマト10の栽培方式(たとえば、養液土耕栽培方式など)は、特に限定されるものではない。また、栽培用ベッド82は、載置式としてあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、吊り下げ式としてもよい。
【0086】
また、本実施形態では、栽培用ベッド82を水平方向に移動させる移動手段83を備えている。この移動手段83は、建物81内に敷設されたレール、走行用のローラ、モータなどを有しており、通常、栽培用ベッド82の端部が、移動手段83に載置された状態で、移動手段83に取り付けられる。
なお、移動手段83は、建物81内の床に設けられているが、これに限定されるものではなく、たとえば、建物81の天井のフレームなどに設けられてもよい。
【0087】
次に、上記構成の植物栽培用プラント8の動作などについて、図面を参照して説明する。
まず、植物栽培用プラント8は、夜間においては、図6に示すように、移動手段83が作動し、列状に栽培されているトマト10どうしを接近させる。また、昇降装置43及び水平移動装置44´が作動し、トマト10と接近した位置(トマト10どうしの間の位置を含む。)に、複数のホース2が吊り下げられる。このようにすると、トマト10と複数のホース2が密集した状態となるので、加温効果を向上させることができ、省エネ効果を向上させることができる。
【0088】
ここで、好ましくは、密集させたトマト10をビニールカーテンなどで囲ったり覆ってもよい。すなわち、植物栽培用プラント8は、移動手段83により密集させたトマト10、及び、植物栽培用温度制御装置1b´を、ほぼ密閉した状態で収容する一又は二以上の温度制御室(図示せず)を有する構成とするとよい。この温度制御室には、通常、ガラスや樹脂などの建築資材(たとえば、断熱性を有する資材)が用いられる。
このようにすると、さらに、省エネ効果を向上させることができる。
また、上記の温度制御室は、ヒートポンプなどの温風(あるいは、冷風)によっても加温(あるいは、冷却)される構成としてもよい。このようにすると、温度制御の性能や信頼性などを向上させることができる。
【0089】
さらに、上記の温度制御室は、生物農薬などの農薬を散布する農薬散布手段を有する構成としてもよい。この農薬散布手段は、噴出機、ファン及びダクトなどを有している。なお、農薬散布手段は、ダクトだけでもよい。
上記の農薬散布手段によって、通常、生物農薬としてバチルス菌が、温度制御室内に気中散布される。生物農薬としては、出光興産製:ボトキラー(登録商標)水和剤などがあり、灰色カビ病やうどんこ病の防除に有効であり、生育初期から栽培後期・収穫期までいつでも使用・散布が可能である。
このようにすると、密集されたトマト10に、効率よく生物農薬を散布することができる。
【0090】
次に、植物栽培用プラント8の昼間の状態について説明する。
図7は、本発明の一実施形態にかかる植物栽培用プラントの、昼間における要部の概略図を示している。
植物栽培用プラント8は、昼間においては、図7に示すように、移動手段83が作動し、列状に栽培されているトマト10どうしが離れるようにする。このようにすると、トマト10が十分日光を受けることができる。
ここで、上記トマト10どうしの距離は、十分日光を受けることができる距離に限定されるものではなく、たとえば、さらに離れて、果実13の採取などの作業を容易に行える距離であってもよい。
【0091】
また、植物栽培用プラント8は、昇降装置43などが作動し、複数のホース2が吊り上げられる。このようにすると、果実13の採取などの作業を容易に行うことができる。
さらに、昼間においても、トマト10を局所的に加温したい場合、図示してないが、昇降装置43や水平移動装置44´が作動し、トマト10と接近した位置に、複数のホース2を吊り下げることができる。このようにすると、トマト10は、十分日光を受けることができ、かつ、局所的に加温される。
【0092】
以上説明したように、本実施形態の植物栽培用プラント8によれば、上述した植物栽培用温度制御装置1bとほぼ同様に、ホース2からの輻射熱、及び、トマト10の近傍における熱対流により、水耕栽培されるトマト10に対して、局所的に、かつ、効果的に温度制御を行うことができる。これにより、たとえば、工場栽培においては、建物81全体を加温する場合と比べると、大幅な省エネを図ることができる。
また、トマト10が十分日光を受けることができる状態、果実13の採取などの作業を容易に行うことができる状態、及び、トマト10が十分日光を受けることができ、かつ、局所的に加温される状態などを容易に実現することができ、植物栽培用プラント8としての性能や付加価値などを大幅に向上させることができる。
【0093】
次に、上述した植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントなどの実施例と比較例について説明する。
【実施例1】
【0094】
本実施例では、400坪のガラス温室(建物)に、複数のプラスチィック製の水耕栽培用ベッドを連続的に繋げた長さ約25mの水耕栽培用ベッド群を22列並設し、ミニトマト(品種:リトルジェムダブル)を栽培した。
複数のプラスチィック製の水耕栽培用ベッドは、幅75cm長さ3.75mのものを6個と、幅75cm長さ1.875mのものを1個とを使用した。また、一本の水耕栽培用ベッド群には、一方の側に48株のミニトマトを定植し、他方の側に49株のミニトマトを定植した。すなわち、400坪のガラス温室(建物)に、2134株のミニトマトを定植した。
【0095】
また、各水耕栽培用ベッドの周囲には、ほぼ図4に示すように、枠72、支柱73、取付け手段4、及び、ホース2などが設けられた。
なお、本実施例では、一本の水耕栽培用ベッド群の長さが約25mであることから、ホース2として、長さ25mに切断された市販の防藻タイプの黒色不透明のビニールホースを6本使用し、各ホース2は、ジョイント21を介して接続した。
【0096】
また、各ホース2は、ネット41(本実施例では、防鳥ネット(幅80cm×長さ25m、網目10cm×10cm)を使用した。)に、一定の間隔で網目に通し取り付けた。これにより、各ホース2は、48株のミニトマトと49株のミニトマトとの間であって、ミニトマトの特定の部分(花芽及び/又は成長点)の近傍に配設された。
さらに、各ホース2を上昇させる際、ネット41を係止パイプ732に引っ掛けることによって、容易に各ホース2を上昇させることができた。
【0097】
また、本実施例では、各ホース2を支える支柱73は、図5に示すように、上部が、回動式パイプジョイント731によって、上パイプ722に取り付けられ(吊り下げられ)、下部を、位置決め手段74によって、柱73などの自重を受けることなく位置決めした。したがって、各水耕栽培用ベッド71の水平度がくるうといった不具合を確実に回避することができた。
【0098】
流体供給手段3として、自然冷媒ヒートポンプ給湯機及び温水を蓄える蓄熱槽を用いた。自然冷媒ヒートポンプ給湯機は、日中の暖かい外気から効率よく温水を得ることができ、蓄熱槽がその温水を蓄え、夜間に使用した。
なお、夜間の熱供給量が不足する場合には、電気によるヒートポンプを稼動させ加温することが可能な構成とした。
【0099】
温度センサ51は、温度測定部(本実施例では、測温抵抗体)が大気中に露出する温度センサ(黒色板温度センサと区別するために、露出型温度センサと呼称する。)と、上述した黒色板温度センサとを用いた。すなわち、各5個の露出型温度センサ及び黒色板温度センサを、2134株のミニトマトの栽培エリアの中央及び四隅付近の5箇所であって、ミニトマトの暖めたい部位とほぼ同じ位置に配設した。
なお、制御手段5は、5個の露出型温度センサの平均値、あるいは、5個の黒色板温度センサの平均値にもとづいて、流体供給手段3を制御した。
【0100】
ここで、ホース2の輻射熱による加熱について説明する。
<輻射熱による加温試験1>
ホース2の本数を6本とし、給湯温度を38℃とし、ホース2から300mm離れた位置に設置した露出型温度センサ及び黒色板温度センサの測定値を比較した。
露出型温度センサは、14.1℃であり、黒色板温度センサは、15.1℃であった。すなわち、ミニトマトは、ホース2の輻射熱によって、露出型温度センサの温度より、効果的に(1.0℃高い温度に)加熱されることが確認できた。
【0101】
<輻射熱による加温試験2>
ホース2の本数を12本とし、給湯温度を46℃とし、ホース2から450mm離れた位置に設置した露出型温度センサ及び黒色板温度センサの測定値を比較した。
露出型温度センサは、9.8℃であり、黒色板温度センサは、12.1℃であった。すなわち、ミニトマトは、ホース2の輻射熱によって、露出型温度センサの温度より、効果的に(2.2℃高い温度に)加熱されることが確認できた。
また、上記の加温試験によって、ホース2を用いた局所加熱においては、温度センサ51として、黒色板温度センサを用いることが有効である(すなわち、ミニトマトが受ける実質的な加熱を精度よく測定できる)ことを確認できた。
【0102】
制御手段5は、5個の露出型温度センサの平均値が14℃より下がると、温水をホース2に供給し、平均値が15℃より上がると、温水の供給を停止するオンオフ制御を行った。ここで、露出型温度センサを用いることにより、後述する比較例1と同じ条件とした。
また、本実施例の効果は、比較例1と比較して後述する。
【0103】
<比較例1>
本比較例では、400坪のガラス温室(建物)に、複数のプラスチィック製の水耕栽培用ベッドを連続的に繋げた長さ約25mの水耕栽培用ベッド群を22列並設し、ミニトマト(品種:リトルジェムダブル)を栽培した。
複数のプラスチィック製の水耕栽培用ベッドは、幅75cm長さ3.75mのものを6個と、幅75cm長さ1.875mのものを1個とを使用した。また、一本の水耕栽培用ベッド群には、一方の側に48株のミニトマトを定植し、他方の側に49株のミニトマトを定植した。すなわち、400坪のガラス温室(建物)に、2134株のミニトマトを定植した。
すなわち、本比較例は、実施例1とほぼ同様にミニトマトを定植した。また、本比較例のガラス温室は、実施例1のガラス温室とほぼ同じ構造であり、また、ほぼ同じ外気条件であった。
【0104】
また、本比較例は、実施例1と比べると、加温手段として、A重油による燃焼式ハウス加温機(ネポン社製HK−310TC)2台を用いている点が相違する。
なお、制御手段は、5個の露出型温度センサの平均値が14℃より下がると、燃焼式ハウス加温機を燃焼させ、平均値が15℃より上がると、燃焼を停止するオンオフ制御を行った。
また、その他のミニトマトの栽培管理については、実施例1とほぼ同様な方法で実施した。
【0105】
<実施例1と比較例1との効果の比較>
(省エネ等について)
冬期低温時期となる1月26日から2月23日の期間において、実施例1の暖房熱量は、比較例1の暖房熱量の約80%であった。すなわち、複数のホース2を用いた温水による局所暖房は、従来の温風暖房(たとえば、燃焼式ハウス加温機)と異なり、強い空気の流れを伴わないため、温室の天井や壁付近の空気が動かず、外壁面での熱伝達率が下がることから、屋外への熱の逃げを大幅に抑制でき、上述したように、優れた省エネ効果を発揮することができた。
また、実施例1では、給湯手段にヒートポンプを用いることにより、局所暖房との相乗効果で、使用エネルギー量が比較例1に対して約6割削減でき、さらに、二酸化炭素排出量も半減させることができた。
【0106】
(ミニトマトの生育について)
冬期低温時期となる1月26日から2月23日の期間において、実施例1と比較例1のミニトマトの生育調査を1週間毎に実施した。
生育調査は、生育途中のミニトマト苗の先端の花芽から2つ目の花芽部(上側)に札を付け、そのすぐ上の葉の付け根から上部に向けての節間数、生長点までの距離を測定した。両ハウスの中央付近のミニトマト苗7株と比較的冷えやすいハウスの周囲の内側部の7株について調査し、その平均値を求めた。
【0107】
図8は、本発明の実施例1及び比較例1における主幹の生育を説明する表及びグラフであり、(a)は主幹の長さの表1を示しており、(b)は主幹の長さのグラフ1を示している。
また、図9は、本発明の実施例1及び比較例1における主幹の伸長率を説明する表及びグラフであり、(a)は主幹の伸長率の表2を示しており、(b)は主幹の伸長率のグラフ2を示している。
図8及び図9に示すように、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに主幹の生育が促進された。
【0108】
図10は、本発明の実施例1及び比較例1における節数の増加を説明する表及びグラフであり、(a)は節数の増加の表3を示しており、(b)は節数の増加のグラフ3を示している。
図10に示すように、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに節数が増加した。
すなわち、主幹の育成及び節数の増加により、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに生育促進改善効果が認められた。
生育促進効果が認められた理由は、実施例1、比較例1とも露出型温度センサの平均値が14℃より下がると加温手段が作動し、平均値が15℃より上がると、加温手段が停止する制御を実施しているが、実施例1では、露出型温度センサの温度でわかるように植物体の温度が約1℃高く、効果的に加温されている。しかも、比較例1の燃焼式ハウス加温機だと植物体付近の温度にばらつきが生じやすいが、実施例1の本発明では、ほとんどの植物体が均一に温められるためと思われる。
【0109】
(粘着テープへの虫吸着について)
また、実施例1及び比較例1において、ミニトマトの上方に、粘着テープ42(出光興産製スマイルキャッチロールタイプ)を取り付け、害虫からミニトマトを守る対策を講じた。
各粘着テープ42の所定のエリアをマークし、2ヵ月間放置した後に、各粘着テープ42の所定のエリアに付着していた虫の数を調べた。
図11は、本発明の実施例1及び比較例1における粘着テープに付着した虫数を説明する表4を示している。
図11に示すように、ホース2によって局所的に暖房される実施例1の粘着テープ42に多くの虫が付着していた。すなわち、実施例1の方が、害虫の物理的な捕捉を効果的に行うことができた。
なお、虫の発生程度は、両温室全体を観察しほぼ同様と推測された。
【0110】
(病害について)
一般的に、冬期のトマト栽培において、低温加湿などの悪条件が重なると灰色カビ病などが発生する。すなわち、灰色かび病は、ミニトマトの花が葉の上に落下し、低温加湿状態になったときに、よく発生することが知られている。このため、通常、生物農薬などが散布される。
そこで、実施例1及び比較例1において、灰色カビ病が発生しやすい冬期低温時期(1月26日から2月2日の期間)に、まず、生物農薬を使用しない状態で、灰色カビ病が発生した葉の数を調査した。
図12は、本発明の実施例1及び比較例1における灰色カビ病の葉数を説明する表であり、(a)は生物農薬を使用しない際の灰色カビ病の葉数の表5を示している。
図12(a)の表5に示すように、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに灰色カビ病の発生が抑制されていた。
この結果は、複数のホース2の局所暖房によって、植物体の近傍全体がほぼ均一に暖められること、及び、輻射熱によって葉面が暖められることにより、夜間の低温になったときによく発生する結露が防げるためと思われる。
【0111】
次に、実施例1及び比較例1において、灰色カビ病が発生しやすい冬期低温時期(2月9日から2月15日の期間)に、生物農薬を使用した状態で、灰色カビ病が発生した葉の数を調査した。
すなわち、実施例1及び比較例1において、生物農薬であるボトキラー水和剤(出光興産製)をダクトにて散布した。なお、生物農薬は、2月3日から、毎日14gをほぼ均一に散布した。
図12は、本発明の実施例1及び比較例1における灰色カビ病の葉数を説明する表であり、(b)は生物農薬を使用した際の灰色カビ病の葉数の表6を示している。
図12(b)の表6に示すように、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに灰色カビ病の発生が抑制されていた。さらに、実施例1は、生物農薬であるボトキラー水和剤をダクト内投入法により散布をすることにより、大幅に灰色カビ病を抑制することができた。すなわち、複数のホース2の局所暖房と、ボトキラー水和剤の散布とを併用することにより、格段に灰色カビ病の発生を抑制することができた。
【0112】
以上説明したように、実施例1によれば、比較例1と比べて、大幅な省エネ効果を実現することができた。また、実施例1は、比較例1と比べて、明らかに生育促進改善効果が認められ、さらに、格段に灰色カビ病の発生を抑制することができた。
【0113】
以上、本発明の植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントについて、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係る植物栽培用温度制御方法、植物栽培用温度制御装置、植物栽培用ユニット、及び、植物栽培用プラントは、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、栽培する植物は、上述したトマトに限定されるものではない。たとえば、キュウリ、ナス、ピーマンやシシトウなどの草丈が1mを超えて成長する植物でもよい。
【0114】
また、図示してないが、植物栽培用ユニット7などは、枠72をビニールシートで覆う構成としてもよく、このようにすると、ホース2からの熱をさらに有効に利用することができる。
さらに、植物栽培用温度制御装置1などは、ネット41に様々な用途のホース(たとえば、養液を噴霧(供給)するためのホースや、打ち水の原理を利用して、散水するためのホース)を取り付ける構成としてもよい。このようにすると、植物栽培用温度制御装置1、植物栽培用ユニット7及び植物栽培用プラント8などの付加価値を向上させることができる。
【符号の説明】
【0115】
1、1a、1b、1b´ 植物栽培用温度制御装置
2 ホース
3 流体供給手段
4 取付け手段
5 制御手段
7 植物栽培用ユニット
8 植物栽培用プラント
10 トマト
11 花芽
12 成長点
13 果実
20 連結ホース
21 ジョイント
22 バルブ
31 供給用ホース
32 排出用ホース
41 ネット
42 粘着テープ
43 昇降装置
44、44´ 水平移動装置
51 温度センサ
61、62、63、64、65、66、67 弁
71 水耕栽培用ベッド
72 枠
73 支柱
74 位置決め手段
81 建物
82 栽培用ベッド
83 移動手段
411 ネット用パイプ
721 紐
722 上パイプ
723 下パイプ
731 回動式パイプジョイント
741 固定パイプ
742 連結パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に、複数の管を配設し、前記複数の管に加温用流体又は冷却用流体を流すことを特徴とする植物栽培用温度制御方法。
【請求項2】
前記植物の近傍が、前記植物の特定の部分の近傍であることを特徴とする請求項1に記載の植物栽培用温度制御方法。
【請求項3】
植物の近傍であって、垂直方向の所定範囲内に配設され、加温用流体又は冷却用流体の流れる複数の管と、
前記複数の管に、前記加温用流体又は冷却用流体を供給する流体供給手段と、
前記複数の管を取り付けるための取付け手段と
を備えたことを特徴とする植物栽培用温度制御装置。
【請求項4】
前記植物の近傍が、前記植物の特定の部分の近傍であることを特徴とする請求項3に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項5】
前記管をホースとし、前記ホースどうしがジョイントを介して接続される、及び/又は、前記ホースの折り返し部に折れ曲がりを防止する補強部材が用いられることを特徴とする請求項3又は4に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項6】
前記取付け手段が、前記管を吊るすための紐状体、又は、網目状体を有することを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項7】
前記取付け手段が、前記管を昇降させる昇降装置、及び/又は、前記管を水平移動させる水平移動装置を有することを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項8】
前記植物の近傍の温度を測定する温度センサと、この温度センサからの測定信号にもとづいて、前記流体供給手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする請求項3〜7のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項9】
前記温度センサが、黒色塗装された金属板、この金属板の裏面に取り付けられた温度測定部、及び、この温度測定部を覆うように前記金属板の裏面に取り付けられた断熱部材を有することを特徴とする請求項8に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項10】
前記複数の管に、前記加温用流体又は冷却用流体を、直列的及び/又は並列的に流すための弁を備えたことを特徴とする請求項3〜9のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項11】
前記管の近傍に、虫を採取するための粘着テープを設けたことを特徴とする請求項3〜10のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置。
【請求項12】
一又は二以上の吊り下げ式又は載置式の栽培用ベッドと、
上記請求項3〜11のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置と
を備えたことを特徴とする植物栽培用ユニット。
【請求項13】
前記栽培用ベッドが細長い矩形箱状であり、前記植物が、前記栽培用ベッドの長手方向に並べて植えられており、前記複数の管が、前記並べて植えられた植物の間に設けられていることを特徴とする請求項12に記載の植物栽培用ユニット。
【請求項14】
前記栽培用ベッドが細長い矩形箱状であり、前記複数の管が前記栽培用ベッドの短手方向に移動することを抑制するための、支柱が設けられていることを特徴とする請求項12又は13に記載の植物栽培用ユニット。
【請求項15】
前記支柱は、該支柱の上部が、上部位置決め手段により位置決めされた状態で、前記栽培用ベッドのフレームに吊るされ、かつ、前記支柱の下部が、下部位置決め手段により該支柱の自重を受けることなく位置決めされていることを特徴とする請求項14に記載の植物栽培用ユニット。
【請求項16】
一又は二以上の吊り下げ式又は載置式の栽培用ベッドと、
上記請求項3〜11のいずれか一項に記載の植物栽培用温度制御装置と、
前記栽培用ベッドを収容する建物と
を備えたことを特徴とする植物栽培用プラント。
【請求項17】
前記栽培用ベッドを水平方向に移動させる移動手段を備えたことを特徴とする請求項16に記載の植物栽培用プラント。
【請求項18】
前記移動手段により密集させた植物を収容する一又は二以上の温度制御室を備えたことを特徴とする請求項17に記載の植物栽培用プラント。
【請求項19】
前記温度制御室が、農薬を散布する農薬散布手段を有することを特徴とする請求項18に記載の植物栽培用プラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−120569(P2011−120569A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138515(P2010−138515)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】