説明

植物栽培装置

【課題】 植物の生育状況に応じて受光効率を高めるため手軽に栽培筒を移動しうると共に栽培空間を有効利用できる植物栽培装置を提供する。
【解決手段】 複数の植物植込み孔1を側周面2に設けた複数の栽培筒3と、栽培筒3を吊持する複数の吊持具4と、各吊持具4を移動自在に案内支持するガイド5と、各栽培筒3に養液を供給する養液供給手段7とを備えるように、植物栽培装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野菜や花などの植物を栽培する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物を栽培するのに土壌を利用しない養液栽培が広く行われている。この養液栽培のための栽培槽として、箱状、桶状、筒状など様々のものが従来から用いられているが、営利栽培用、家庭栽培用を問わず、水平若しくは勾配を持たせて配置されているのが一般である。このため、栽培空間の上部を十分活用しているとは言い難かった。
【0003】
また営利栽培では、植物の成長に応じて植物の間隔を変更するため、栽培槽の表面パネルを変更したり、長大な桶を移動させたり、あるいは作業スペースを確保するため箱状栽培槽を支持台ごと機械的に移動させたりしているが、これらの作業が煩雑で、容易ではなかった。家庭用の小型の栽培槽の場合でも、屋外と屋内間の頻繁な移動は困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来例の諸問題点を解決することを課題とする。より具体的には本発明は、栽培空間を有効に利用し、植物の生育状況に応じて受光効率を高めるための栽培槽の移動や、栽培者の好みの場所への栽培槽の移動を容易かつ手軽に行うことができる植物栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するため、複数の植物植込み孔を側周面に設けた複数の栽培筒と、栽培筒を吊持する複数の吊持具と、各吊持具を移動自在に案内支持するガイドと、各栽培筒に養液を供給する養液供給手段とを備えたことを特徴とする。
【0006】
上記養液供給手段から供給される養液は、養分を含む水溶液のみならず、水のみで栽培可能な植物に対しての水をも含む概念である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、栽培槽としての各栽培筒が吊持具を介してガイドに移動自在に案内支持されており、これら栽培筒間の間隔を手軽に変更することができる。これにより、植物の生育状況に応じて、太陽光、人工照明を問わず受光効率を高めることができる。また、栽培筒を竪長に形成することにより、植物栽培空間の無駄な空間をなくして、有効利用することができる。
【0008】
特に本発明を家庭用観賞植物栽培装置として用いる場合には、栽培筒を屋外と屋内との間で手軽に移動でき、植物への採光を十分に確保しながら、植物の保護を図り、植物の観賞性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態を図面を参照して以下説明する。
【0010】
図1〜図4に示す植物栽培装置は、複数の植物植込み孔1を側周面2に設けた複数の栽培筒3と、栽培筒3を吊持する各栽培筒3に対応する吊持具4と、各吊持具4をスライド自在に案内支持するガイド5と、各栽培筒に上端開口部6から養液を供給する養液供給手段7とを備えている。
【0011】
前記栽培筒3は、竪長円筒形状(例えば外径10cm、竪長100cm)の筒本体8と、カップ状の底蓋9と、上端リング10とを一体に結合してなる。筒本体8は円筒形状のプラスチック製(例えば塩化ビニール製)の基筒8aと、その内周面に貼着した断熱部8bとからなっている。なお、断熱効果を高めるため、基筒8aの外周面に断熱材を貼付することも可能である。前記断熱部8bは図3に示すように凹凸面とすることが好ましい。この筒本体8には多数の植物植込み孔1が形成され、この植物植込み孔1に、植物苗11の根部11aが植込み固定される。
【0012】
また栽培筒3の軽量化を図るため、植物植え込み孔1とは別の孔を基筒8aに開設し、この孔を前記断熱部8で覆う構成とすることができる。
【0013】
前記吊持具4は、1対の吊ワイヤ12、12、回転部13、フック14を有し、1対の吊ワイヤ12、12の下端は、栽培筒3の上端リング10に設けた1対の係止部15、15に固定されている。前記回転部13によって、栽培筒3はその筒心まわりに回転可能に吊持具4により吊持される。
【0014】
なお、図2に仮想線で示すように上端リング10の開口部(上端開口部)6に網55を張設すると、虫の侵入を防ぐと共に、入射光量を減少させて根の保護を図ることができるので、好適である。
【0015】
前記ガイド5は、レール16と、このレール16にスライド自在に案内支持される多数のスライダ17とを備えている。レール16は、栽培室等の上部構築物18にV字型金具19を介して固定されている。スライダ17はT字状断面を有し、その上部がレール16に案内支持され、その下部に前記吊持具4を支持する支持部としての掛止孔20が形成されている。この掛止孔20に吊持具4のフック14が着脱可能に係止される。このようにして、吊持具4がガイド5に対し着脱可能となるように構成されているが、これに代えて栽培筒3が吊持具4に対し着脱可能となるように構成してもよい。なお、上記レール16およびスライダ17としては、市販のカーテンレールのレールおよびスライダを採用することができる。
【0016】
また上記スライダ17は、レール16に案内されて滑動状態でスライドするものであるが、これに代えてローラを備え、ローラの転動によってレール16上をスライドするスライダを用いてもよい。
【0017】
前記養液供給手段7は、養液供給パイプ21、この養液供給パイプ21から分岐する多数本の分岐チューブ22、噴霧ノズル23および分岐チューブ22と噴霧ノズル23のチューブ23aとをワンタッチで接続するワンタッチ接続具24とを備えている。前記養液供給パイプ21を通じて圧送されてきた養液は、分岐チューブ22を経て、栽培筒3の上端開口部6から導入された噴霧ノズル23に達し、そのノズル本体23bから植物苗11の根部11aに向け、噴霧される。栽培筒3はガイド5により、その位置を変えうるように構成されており、その移動の際にはワンタッチ接続具24を切り離し操作すると、養液は分岐チューブ22の先端で保持される。移動後にワンタッチ接続具24を接続状態に操作すれば、所望の位置の分岐チューブ22を経て栽培筒3内に養液を供給することができる。
【0018】
前記養液供給手段7に代えて、栽培筒3の側周部や底部から養液を筒内に導入する養液供給手段を用いることもできる。
【0019】
栽培筒3の底蓋9は、半透明のプラスチック(例えばポリエチレン)で構成され、噴霧ノズル23から噴霧された残余の養液を一時的に貯留する。この底蓋9の側面には回収用チューブ25が接続されている。また栽培筒3の下方には回収パイプ26およびこの回収パイプ26から分岐する多数の分岐チューブ27が配設してあり、前記回収用チューブ25は前記ワンタッチ接続具24と同様の機能を有するワンタッチ接続具28により接続されている。このように構成することにより、養液を回収して再利用できる。
【0020】
前記ガイド5は、図5の平面図に示すように、複数本のレール16を並列状態に配置し、これらレール16に吊持される栽培筒3を採光等の条件が最適となる位置に移動させることができる。
【0021】
次に上記実施形態の植物栽培装置の使用方法および有利な点につき説明する。植物苗11は、直径2〜3cm程度の径の網状のポットにロックウールなどの植込み材料を必要最小使用した部分に根が成長した根部11aを有している。この根部11aを前記植物植込み孔1に圧入状態に嵌め込むことにより植物苗11は、栽培筒3に植込まれる。植物の成長に伴い根が前記ポットの網目より出てくるが、養液を前記噴霧ノズル23から噴霧状に供給することで根の乾きを回避できる。この養液の供給は、タイマーを用いて断続的に行うと好適である。
【0022】
植物の成長に伴い、採光条件を良好にするため、栽培筒3を水平移動させて栽培筒3、3間の間隔を容易に拡大することができる。また栽培筒3を筒心まわりに回転させることにより、栽培筒3の側周面に植え込まれた複数の植物間の採光条件を均一化できる。
【0023】
前記栽培筒3は、筒状に形成され、上端開口部6を有しているため、内部の蒸れが防がれ、植物の成長に好都合である。また栽培筒3は断熱部8bを有しているので、外気温の急激な変化、特に温度上昇から植物が保護される。この断熱部は、本実施形態に示すものの外、筒本体8の内外周の両方、あるいは外周にのみ設ける構成としてもよい。前記栽培筒3の内周側の断熱部8bは、凹凸面に形成されているが、これによって成長した根が極度に張り付くことを防止できる。
【0024】
前記栽培筒3は吊持具4と共に、ガイド5に対し着脱可能に構成されているので、ガイド5に対し、栽培筒3の入れ替え等を自由簡単に行える。また観賞用植物の栽培などでは、図6に示すスタンド29に、栽培筒3を吊持具4を介して吊持することにより、室内や店内での植物観賞を容易に行える。
【0025】
本実施形態は、上記のように構成されているが、これに加えて図1、図4、図7、図8に示すように、ガイド5がレール間に断絶部30を有する複数のレール16と、この断絶部30を断絶状態と接続状態とのいずれか一方の状態とすることが可能な接続レール31とを備え、前記接続状態時に、スライダ17が一方のレール16から他方のレール16へ接続レール31を介してスライド移動できるように構成されている。
【0026】
図1、図7、図8に示す例は、栽培筒3が屋外と屋内との間でレール16上の移動を可能にしたもので、屋外のレール16と屋内のレール16との間には、戸などの開閉可能な障害物32が存在している。前記接続レール31は、レール16にスライド可能に外嵌され、非接続時には図1、図7に示すように、一方のレール16上に退避して支持されている。戸などの障害物32を開放したとき、接続レール31をスライドさせて、図8に示すように両レール16を接続する状態とすると、栽培筒3を屋外、屋内の一方から他方へスライド移動させることができる。
【0027】
なお、図7、図8に仮想線で示すように、スライダ17間を連繋する連結紐51を設けると、複数の栽培筒3を同時に移動できるので、便利である。
【0028】
このような構成によれば、特にマンションなどで園芸を楽しむ際に有用である。すなわち、マンションにおいてはたとえ窓際であっても室内では十分な光線量を確保することが困難であり、一方バルコニー等の屋外では観賞用途として十分な活用ができないばかりか、冬の寒さという問題もあった。本実施形態のものによれば、手軽に屋外、屋内間における栽培筒3の移動が可能であるので、観賞面や植物保護面ですぐれた効果を奏しうる。
【0029】
図9、図10は、栽培筒3Aが複数の筒分割体33から構成され、これら複数の筒分割体33が筒心方向に重ねられて一体化されたものである植物栽培装置の他の実施形態を示している。栽培筒3A以外の構成は既述の実施形態と同様に構成される。
【0030】
各筒分割体33の基本構成は既述の実施形態の栽培筒3の筒本体8と同様であり、ただその竪長が前記筒本体8より短いだけである。前記栽培筒3Aは、4個の筒分割体33と、既述の実施形態の底蓋9と同様の機能を営むカップ状の底蓋9Aと、円板状の上蓋10Aとを、図示するように筒心方向に重ね合わせ、緊締ワイヤ34によって一体化されたものである。なお、この栽培筒3Aにも、植物植込み孔1、断熱部8bが設けられ、前記植物植込み孔1に植物苗11の根部11aが植込み固定される。
【0031】
前記上蓋10Aには、吊持具4の1対の吊ワイヤ12、12の下端が固定される係止部15Aを有すると共に、その中央部に緊締ワイヤ34を挿通するためのワイヤ挿通孔部35が設けられ、かつ前記噴射ノズル23を筒内に導入するための開口36が形成されている。前記底蓋9Aの内底面中央部に2つ折りにした緊締ワイヤ34の下端屈曲部が係止される係止部37が形成されている。そして、前記係止部37に下端屈曲部より上方に延びる緊締ワイヤ34の2本の上端部を前記ワイヤ挿通孔部35に挿通し、下蓋9A、4個の筒分割体33、上蓋10Aを図9に示すように重ね合わせて緊締状態とした後、前記ワイヤ挿通孔部35に螺合した止めネジ38を締め込むことにより緊締ワイヤ34を固定し、栽培筒3Aの一体化を行うことができる。
【0032】
この実施形態によれば、筒分割体33の個数の増減により、栽培筒3Aの竪長を変更でき、また、筒分割体33の一部交換も可能である。また、栽培筒3Aを持ち運びしたり、車に搭載することが筒心方向に長くて不便な場合には、栽培筒3Aを容易に筒分割体33に分割できるので、携帯性が高まる。
【0033】
なお、図10に仮想線で示すように、各筒分割体33に上下に貫通して前記吊ワイヤ12、12がすり抜けうるように形成されたスリット52を設けると、筒分割体33の一部交換や栽培筒3Aの竪長の変更を容易にでき便利である。この場合、筒分割体33の外周に貼着した断熱用シートの端部を利用して、前記スリット52を開閉可能に覆いうるように構成すると好適である。
【0034】
本発明は上記実施形態に示すものの外、種々の形態に構成することができる。例えばガイドに案内支持される各吊持具を動力で移動させることができる。また栽培筒3の植込み孔1に植物11の根部11aを固定する方法は、上記実施形態に示すものに限定されず、種々の方法がある。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、植物の生育状況に応じて受光効率を高めるため手軽に栽培筒を移動しうると共に栽培空間を有効利用できる営利用植物栽培装置や家庭用植物栽培装置に利用するに適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態を示す概略正面図。
【図2】その主要部を示す斜視図。
【図3】栽培筒の要部の断面図。
【図4】吊持具の一部縦断正面図。
【図5】ガイドと栽培筒との配置関係を示す概略平面図。
【図6】栽培筒の利用形態を示す斜視図。
【図7】ガイドと栽培筒との関係を示す概略正面図。
【図8】ガイドと栽培筒との関係を示す概略正面図。
【図9】本発明の他の実施形態の栽培筒を示す断面図。
【図10】その分解斜視図。
【符号の説明】
【0037】
1 植物植込み孔
2 側周面
3、3A 栽培筒
4 吊持具
5 ガイド
6 上端開口部(筒端開口部)
7 養液供給手段
16 レール
17 スライダ
20 掛止孔(支持部)
30 断絶部
31 接続レール
33 筒分割体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の植物植込み孔を側周面に設けた複数の栽培筒と、
栽培筒を吊持する複数の吊持具と、
各吊持具を移動自在に案内支持するガイドと、
各栽培筒に養液を供給する養液供給手段と
を備えたことを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
栽培筒はその筒心まわりに回転可能に吊持具により吊持されている請求項1記載の植物栽培装置。
【請求項3】
吊持具がガイドに対し着脱可能となっているか、あるいは栽培筒が吊持具に対し着脱可能となっている請求項1または2記載の植物栽培装置。
【請求項4】
ガイドはレールと、このレールに移動自在に案内支持される複数のスライダとを備え、各スライダには吊持具を支持する支持部が形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の植物栽培装置。
【請求項5】
ガイドはレール間に断絶部を有する複数のレールと、この断絶部を断絶状態と接続状態とのいずれか一方の状態とすることが可能な接続レールとを備え、前記接続状態時に、スライダが一方のレールから他方のレールへ接続レールを介して移動できるように構成した請求項4記載の植物栽培装置。
【請求項6】
栽培筒は、複数の筒分割体から構成され、これら複数の筒分割体が筒心方向に重ねられて一体化されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−253218(P2008−253218A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−100898(P2007−100898)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【出願人】(506116256)
【Fターム(参考)】