説明

植物系バイオマス由来の炭素材料および該材料の製造方法

【課題】植物系バイオマスから得られる耐圧縮性、硬さ、射出性を有する材料、例えば軽量高強度炭素材料あるいは軽量高強度炭素複合材料、および該材料の製造方法を提供する。
【解決手段】植物系バイオマスを1〜50μmに粉砕し、20〜500MPaの圧力で真空または不活性雰囲気中において150℃まで加熱圧縮する。150℃を超えて250〜300℃のある温度までは真空または不活性雰囲気中で加熱のみ行う。不活性雰囲気中その温度に達すると1〜30分の一定時間20〜500MPaの圧力で圧縮成形する。得られた成形前駆体を真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃で焼成することにより、植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料を製造する。また、繊維材料をアスペクト比1〜100に粉砕し、粉砕された植物系バイオマスと混合し、その混合物に対して前記と同じの方法で成形前駆体を得て、焼成を行い、軽量高強度炭素複合材料を製造する。以上の圧縮成形の他に射出成形で該材料を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘結剤および含浸剤を用いず、植物系バイオマスから軽量高強度炭素材料および植物系バイオマスと繊維材料から軽量高強度炭素複合材料を製造する技術に関するものである。さらに、該材料を用いる摺動、耐熱、耐薬品、シール装置およびシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素材料または炭素複合材料は、軽量高強度を求める最先端の工業製品で多く利用されている。それらは高熱伝導率、低熱膨張率、自己潤滑性、耐薬品性、耐熱性を有しており、例えば、輸送機のブレーキやクラッチ装置部品、無給油スライダー、無給油ベアリングの摺動部品、または耐熱または耐薬品用途のガスケットやパッキンなどの工業部品に使用されている。また、炭素繊維と熱硬化性樹脂の複合材料である炭素繊維強化プラスチックは、航空機や自動車などの輸送機構造用材料、土木建築構造用材料、スポーツ用品材料などの用途で幅広く使用されている。
【0003】
既存の炭素材料または炭素複合材料の多くは化石資源を原料としている。例えば、炭素繊維強化プラスチックにおいて、炭素繊維はピッチやアクリル樹脂が原料であり、その母材は不飽和ポリエステル、フェノール、エポキシなどの樹脂が原料である。
【0004】
現代社会において、炭素材料または炭素複合材料が大量に消費され、廃棄されている。また、製造工程においても端材や副産物等の廃棄物を大量に生み出されている。特に、炭素繊維の生産工程では、繊維長さが限られ再利用が不可能な端材が大量に排出される。埋め立て処分されるそれら端材の有効利用が望まれている。
【0005】
化石資源は限りあるものであり、化石資源に代わる持続可能な材料を用いた工業製品が社会から強く要請されている。有望な資源の一つとして廃木材、稲ワラや籾殻などの植物系バイオマスがあげられ、かつて社会においては、それらを循環再利用するシステムが構築されていた。しかし、現代社会においては、費用または環境保全の面から、そのシステムは効率的に働いていない。特に籾殻は、かつては野焼きにより炭化または灰化され、土壌に返還されていた。しかし、野焼きは大気汚染の原因となるため、現在は禁止または制限されている地域が多い。従って、稲作を行う農村部では、利用用途のない籾殻が毎年多量に排出されている。籾殻の処分および有効利用は切実な問題となっている。
【0006】
これまで植物系バイオマスまたは炭化した植物系バイオマスにフェノール樹脂など熱硬化性樹脂を含浸または混合し、さらに炭化焼成工程を経ることにより、植物系バイオマス由来の軽量高強度の炭素材料を製造する方法が提案されている。木材および木質材料にフェノール樹脂を含浸、硬化させた後、炭化させて硬質炭素材料を得る方法が提示され(特許文献1)、また、竹パルプなどパルプ原料にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させ、不活性雰囲気で加圧成形しながら焼成炭化することにより、薄片状の硬質炭素材料を得る方法が提示されている(特許文献2)。その他に、米糠等の麩糖類を原料とした黒鉛化粉末にフェノール樹脂を混合、成形し、焼成炭化工程を経ることにより得られる炭素摺動部材の製造方法が主張された(特許文献3)。さらに、粉砕した籾殻または粉砕炭化した籾殻にフェノール樹脂を混合し、硬化、炭化焼成工程を経て得られるSi含有ガラス状多孔質炭素摺動部材の製造方法が主張された(特許文献4)。
【0007】
このように、植物系バイオマスだけを用いた炭化焼成物では十分な強度が得られず、生の植物系バイオマスにフェノールなどの熱硬化性樹脂を含浸または混合して、必要な強度を発現させている。しかし、フェノール樹脂は炭化焼成される工程で遊離ホルマリンを排出するなど、製造工程で熱硬化性樹脂から排出される有害ガスは作業環境上好ましくないと指摘されている(特許文献5)。また、再生可能な植物系バイオマスを原料として利用しながらも、化石資源由来の樹脂を相当量利用せざるを得ない技術的問題点がある。化石資源由来の樹脂を使用しない、真に環境に配慮した軽量高強度炭素材料または炭素複合材料を製造する方法が切望されている。
【0008】
【特許文献1】特開平4−164806号公報
【特許文献2】特開2000−53467号公報
【特許文献3】特開2003−147163号公報
【特許文献4】特開2006−16221号公報
【特許文献5】特開2002−60272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
植物系バイオマスから得られる耐圧縮性、硬さ、射出性を有する材料、例えば軽量高強度炭素材料あるいは軽量高強度炭素複合材料、および該材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
植物系バイオマスにはリグニンが天然成分として含有されている。リグニンは加熱することにより、他の成分と化学反応して結合し、硬化する特性を有する。従って、化石資源由来の樹脂を利用せずとも、植物系バイオマスのみから軽量高強度炭素材料を製造することは技術的に可能であると着想した。また、植物系バイオマスは広い種を包括するが、リグニンの他、セルロース、ヘミセルロースおよび無機分からおおよそ構成される。実施例で詳述する代表的な植物系バイオマスである籾殻、稲ワラ、木くずにおいて上記課題が解決されれば、他の植物系バイオマスにおいても課題解決が可能である。
【0011】
発明者は鋭意研究を進めた結果、植物系バイオマス、特に粉砕された籾殻を原料として、特定条件で加熱圧縮および焼成した、もしくは加熱射出および焼成した炭素材料は、化石資源由来の熱硬化性樹脂などを用いることなく、それを用いた植物系バイオマス由来の高強度炭素材料と遜色ない強度を発現するという特段の効果を見出した。さらに、繊維材料、特には粉砕した特定のアスペクト比を有する粉砕炭素繊維を、粉砕された植物系バイオマス、特には籾殻に混合し、特定条件で加熱圧縮および焼成した、もしくは加熱射出および焼成した炭素複合材料は、炭素繊維を用いない前記の炭素材料と比較して、製造工程での熱収縮率が小さく、かつ、同程度の強度を有しつつ、軽量であるという特段の効果を発明者は見出した。発明者は、すなわち、粉砕、加圧、熱処理といった機械的なプロセスのみで、農林業および産業廃棄物以外は使用せず、従来関連製品と遜色ない強度特性を有し、耐環境性に優れる炭素および炭素複合材料を製造する方法を完成させた。
【0012】
本発明は植物系バイオマス由来の軽量高強度の炭素材料および炭素複合材料の製造方法、及びこの方法で製造された材料、該材料を用いる摺動、耐熱、耐薬品、シール装置およびシステムに関するものである。
【0013】
(1)植物系バイオマスを1〜50μmに粉砕し、20〜500MPaの圧力で真空または不活性雰囲気中において150℃まで加熱圧縮し、150℃を超えて250〜300℃のある温度までは真空または不活性雰囲気中で圧縮を停止し加熱のみ行い、真空または不活性雰囲気中その温度に達すると1〜30分の一定時間20〜500MPaの圧力で圧縮成形し、その成形前駆体を真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃で焼成することを特徴とする植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および該材料の製造方法。
(2)繊維材料をアスペクト比1〜100に粉砕し、それを粉砕された植物系バイオマスと混合し、その混合物を前記(1)で記載された方法で成形前駆体を製造し、真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃で焼成を行うことを特徴とする植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素複合材料および該材料の製造方法。
(3)前記(1)と(2)に記載される成形前駆体を圧縮成形ではなく射出成形で得ることを特徴とする軽量高強度炭素材料と炭素複合材料、および該材料の製造方法。
【0014】
(4)繊維材料が炭素繊維である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の軽量高強度炭素材料と炭素複合材料、および該材料の製造方法。
【0015】
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする摺動装置およびシステム。
(6)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする耐熱装置およびシステム。
(7)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする耐薬品装置およびシステム。
(8)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とするシール装置およびシステム。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、粘結剤や含浸剤を一切使用せず、植物系バイオマスのみから軽量高強度炭素材料を製造する方法、および、植物系バイオマスと繊維材料から軽量高強度炭素複合材料を、粘結剤や含浸剤を一切使用せず製造する方法を提供することができる。すなわち、輸送機のブレーキやクラッチ装置の部品、無給油スライダー、無給油ベアリングの摺動部品、または耐熱または耐薬品用途のガスケットやパッキンなどの工業部品を、新たに化石資源を消費することなく、農林業および産業廃棄物のみから製造することが、本発明により可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(A)原料の選択
植物系バイオマスとして、木くず、おがくず、木皮、稲ワラ、籾殻、コーヒーかす、おからかす、米糠、パルプくずなどが挙げられ、原料としての種類は限定されない。しかし、発生量、回収効率、社会からの処分要求度、製造される炭素材料および炭素複合材料の優れた強度特性から、原料としては籾殻が好適である。稲はケイ酸植物であることから、籾殻には天然に20質量%程度のケイ酸が含まれている。籾殻由来の炭素材料および炭素複合材料には、炭素成分とケイ酸由来のSiO成分が共存し、顕著な強度特性が発現する。
【0018】
(B)植物系バイオマスの粉砕
植物系バイオマスの粉砕は、カッターミル、ハンマーミル、ボールミルなど市販粉砕機を利用すれば良く、その粉砕機の種類は限定されない。しかし、時間効率および粉砕程度の観点から、遊星型ボールミルが最も好適である。細かく粉砕することにより、加熱圧縮工程において成形体はより密になり、かつ粉末同士の溶融・接着が強固になるため、高い強度が得られる。粉砕される植物系バイオマスの粒径は50μm以下が好ましく、さらに好ましくは40μm以下、特に好ましくは20μm以下である。
【0019】
(C)加熱圧縮成形
植物系バイオマス粉体の加熱圧縮に特別な装置を使用する必要はなく、ここでは、簡便かつ製造後の材料評価に好適な形状を得ることができる円柱金型中において、二つの円柱棒の間で粉体が、加熱圧縮成形される方法について述べる。円柱金型には加熱機と熱電対が取り巻くように設置され、粉体が加熱される。加圧は市販のプレス装置で良いが、金型とプレス装置の間に断熱板を挿入することが望ましい。
【0020】
図1に示される典型的な加熱圧縮工程図を用いて説明する。真空または不活性雰囲気中ですべての工程が行われる。装置構成および経済性の観点から、窒素ガスを流動させて不活性雰囲気をつくるのが好ましい。室温から150℃まで20〜500MPaの圧力で粉体を加圧しながら加熱する。特には、100MPaの圧力で加圧することが好ましい。150℃を超えて粉体が250〜300℃のある温度に達するまで圧縮を停止し加熱のみを行う。この二次加圧を行う250〜300℃のある温度を二次加圧温度と定義する。二次加圧温度に達したら、粉体の温度を一定時間維持し、加圧を行う。
【0021】
この加熱圧縮工程において、加熱昇温速度は毎分1〜20℃が好ましく、作業効率および成形の良否の観点から、毎分3〜10℃がより好ましく、特には毎分5℃が好ましい。また、二次加圧圧力は20〜500MPaが好ましく、100〜200MPaがより好ましい。二次加圧温度は270〜290℃が好ましい。二次加圧の時間は1〜30分が好ましく、5〜20分がより好ましく、特には10分が好ましい。一連の加熱圧縮工程により成形前駆体が得られる。
【0022】
(D)焼成
加熱圧縮工程後に真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃において成形前駆体を焼成する。焼成により成形前駆体はより密になり、強度特性が改善される。加熱圧縮装置内で成形前駆体をそのまま焼成温度まで加熱して焼成しても良く、また、成形前駆体を加熱圧縮装置から取り出し、別の電気炉等内で真空または不活性雰囲気中で焼成しても良い。焼成温度は求める強度によって最適な温度が変化する。例えば、圧縮破壊強度については1000〜1200℃、硬さについては700〜900℃の範囲が好ましい。焼成温度に達するまでの昇温速度は毎分5〜15℃が好ましい。焼成温度まで成形前駆体を加熱したら1〜60分保持することが好ましい。
【0023】
前記(A)〜(D)の工程を経ることにより、粘結剤および含浸剤を用いず、植物系バイオマスから軽量高強度炭素材料を製造することができる。植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素複合材料は以下の製造工程を経ることにより製造される。
【0024】
(E)繊維材料の選択
ガラス繊維、炭素繊維、石油合成繊維などを繊維材料に用いることができる。植物系バイオマス粉体に混合するため、長繊維より粉砕繊維が好ましい。軽量かつ高強度、さらに植物系バイオマスと高い接着性が得られ、現在産業廃棄物として排出される炭素繊維端材が繊維材料として好適である。
【0025】
(F)繊維材料の粉砕
繊維材料の粉砕にはカッターミル、ハンマーミル、ボールミルなど市販粉砕機が利用でき、粉砕機の種類は限定されない。特に、炭素繊維の粉砕には遊星型ボールミルが好適である。炭素繊維長は遊星型ボールミルのボールの数および大きさ、さらには回転速度で制御できる。植物系バイオマスと複合化し、高い強度を得るには、炭素繊維のアスペクト比を1〜100とすることが好ましく、5〜10とすることがさらに好ましい。
【0026】
(G)植物系バイオマスとの混合と加熱圧縮および焼成
粉砕された繊維材料と(B)の工程で粉砕された植物系バイオマスを攪拌、混合する。植物系バイオマスに対して、10〜50質量%の繊維材料の混合量が好ましく、さらに20〜40質量%の混合量が好ましく、特には30質量%の混合量が好ましい。該混合物に(C)と(D)の工程を経させることにより、植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素複合材料が製造される。
【0027】
本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0028】
(ア)成形前駆体の製造
2005年秋秋田県西木村(現仙北市)産のあきたこまちの稲の籾殻を原料として用いた。遊星型ボールミル(フリッチェ・ジャパン株式会社製P−6型)を用いて、籾殻を粉砕した。250mLのステンレススチール製の粉砕容器に、直径20.0mmのステンレススチール製のボールを複数個(全質量:500g)と生籾殻を入れ、400rpmの回転速度で、10分間粉砕した。得られた粉体を目開きが100μmの篩に通して、出発粉体とした(籾殻粉体1)。籾殻粉体1をさらに直径4.8mmの複数個のステンレススチール製ボール(全質量:600g)を用いて、400rpmの回転速度で、3分間粉砕した(籾殻粉体2)。得られた粉体をさらに直径1.6mmの複数個のステンレススチール製ボール(全質量:300g)を用いて、400rpmの回転速度で、3分間粉砕した(籾殻粉体3)。
【0029】
該粉体の平均粒径をレーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社製SALD−200V型)を用いて計測した。表1はそれら製造された籾殻粉体の平均粒径を示すものである。それぞれの値は3回測定の平均である。
【0030】
【表1】

【0031】
平均粒径が15.3μmの籾殻粉体3を用いて加熱圧縮成形により成形前駆体を製造した。乾燥させた籾殻粉体3を0.70g秤量し、それを直径10.00mmの円柱金型中で直径9.98mmの二つの円柱棒の間で、窒素ガスを毎分1Lの量を流動させながら、加熱圧縮成形した。加熱圧縮工程は図1に示される通りの製造条件で行ったが、二次加圧圧力は100MPaと固定し、二次加圧温度を250〜400℃の間で変動させて、籾殻の炭素前駆体の製造状況を観察した。表2は二次加圧温度と加圧製造状態所見を示すものである。
【0032】
二次加圧温度が200℃の場合、加熱圧縮された粉体が流動性を有するため、円柱金型と円柱棒の空隙から流動化粉体が漏出し、加圧が不可能であった。250℃の場合、流動化した粉体の漏出はかなり少なくなったが、成形前駆体にクラックが観察された。280℃の場合、漏出もなく、クラックもなく、良好な成形前駆体が得られた。300℃の場合。漏出はなかったが、クラックが観察された。400℃の場合、漏出はないが、破砕されていた。このように二次加圧温度を280℃に設定することにより、最良の成形前駆体が製造することが可能である。
【0033】
【表2】

【実施例2】
【0034】
(イ)異なる種類の植物系バイオマスから軽量高強度炭素材料の製造
実施例1に記載される籾殻粉体3の他、2005年秋秋田県横手市産のあきたこまちの稲ワラと2005年春秋田県由利本荘市産の杉木くずを、実施例1で記載される籾殻粉体3を製造する方法と同じ方法で粉砕した。表3は籾殻粉体3、木くずの粉体と稲ワラの粉体の平均粒径を示すものである。それぞれ3回測定の平均値である。280℃に設定し、他の条件を実施例1で示した条件に設定し、籾殻粉体3、木くず粉体、稲ワラ粉体を加熱圧縮した。それら成形前駆体の温度が500℃に達した後、同じ加熱圧縮装置内で500℃を5分間保持し、焼成も行った。
【0035】
【表3】

【0036】
表4は籾殻粉体3、木くず粉体、稲ワラ粉体から製造した500℃焼成の円盤状炭素材料の質量、直径、厚さ、かさ密度を示すものである。かさ密度は質量を容積(直径×π×厚さ÷4)で除した値である。それぞれの値は1回の測定値である。出発材料によって製造された炭素材料の質量、直径、厚さ、かさ密度が異なったが、すべて成形状態は極めて良好であった。
【0037】
【表4】

【実施例3】
【0038】
(ウ)異なる平均粒径の籾殻粉体から軽量高強度炭素材料の製造
表1に示される三種類の籾殻粉体1、2、3を出発原料として、実施例1に記載される方法で成形前駆体を製造した。二次加圧温度は280℃に設定した。また、成形体を500℃まで加熱圧縮装置内で加熱した。そして、500℃に達した後、それを室温まで自然に冷却した。室温まで自然冷却させた成形前駆体を、別の電気炉で毎分1Lの窒素ガス流動中、毎分10℃の昇温速度で1200℃まで加熱し、焼成した。1200℃を60分保持した後、室温まで自然に冷却させ、円盤状の籾殻由来の軽量高強度炭素材料を製造した。
【0039】
精密万能試験機(株式会社島津製作所製EZGraph10kN)を用いて製造された炭素材料の圧縮強度を評価した。該材料を試験テーブルの上に設置し、厚さ方向に試験力を加えた。圧縮の負荷速度は毎分1mmで、計測された最大圧縮圧力を圧縮強度と定義した。
【0040】
表5は籾殻粉体1、2、3から製造した1200℃焼成の円盤状炭素材料の質量、直径、厚さ、かさ密度、圧縮強度である。それぞれの値は5回測定の平均である。出発材料である籾殻粉体の平均粒径が小さくなると、製造される炭素材料のかさ密度が大きくなり、高い圧縮強度が得られた。
【0041】
【表5】

【実施例4】
【0042】
(エ)軽量高強度炭素材料の製造のための焼成温度の最適化
籾殻粉体3を出発原料として、二次加圧温度を280℃、二次加圧圧力を100MPaに設定し、成形体を500℃まで加熱圧縮装置内で加熱した。500℃を5分保持し、500℃焼成炭素材料を製造した。一方で、500℃に達した後、それを室温まで自然に冷却し、成形前駆体も製造した。それら成形前駆体に対して、別の電気炉で毎分1Lの窒素ガス流動中、毎分10℃の昇温速度で800、1000、1200、1400℃まで加熱し、その温度を60分保持し、焼成した。そして、室温まで自然に冷却させ、円盤状の炭素材料を製造した。
【0043】
表6は異なる焼成温度で製造した該材料の質量、直径、厚さ、かさ密度、圧縮強度である。それぞれの値は5回の測定の平均である。圧縮強度は実施例3に記載される方法で計測した。1200℃の焼成温度の結果は表5に示される籾殻粉体3の結果と同一のものである。焼成温度が高くなるに従い、圧縮強度は増加した。1200℃で最高の圧縮強度が得られ、1400℃とさらに高くなると、逆に圧縮強度は低下した。従って、1200℃が最高の圧縮強度を与える最適な焼成温度であることが確認される。
【0044】
【表6】

【実施例5】
【0045】
(オ)籾殻粉体と粉砕炭素繊維から軽量高強度炭素複合材料の製造
PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維端材(長さ約35mm、直径10μm)遊星型ボールミルにより粉砕した。250mLのステンレススチール製の粉砕容器に、直径20.0mmのステンレススチール製のボールを複数個(全質量:500g)と約3gの炭素繊維を入れ、400rpmの回転速度で、15分間、前記の遊星型ボールミルを用いて粉砕した。光学式ビデオ顕微鏡(株式会社キーエンス製VH−5000型)を用いて、粉砕した炭素繊維を観察した。炭素繊維の長さは10〜300μmに分布しており、特に50〜100μm、すなわちアスペクト比が5〜10の粉砕炭素繊維がおよそ50%を占めていた。
【0046】
表1に示される籾殻粉体3に対して粉砕された炭素繊維を0〜50質量%で混合し、実施例2において記載される加熱圧縮焼成方法と同じ方法で500℃焼成の炭素複合材料を製造した。表7は粉砕炭素繊維の混合量が異なる500℃で焼成した円盤状籾殻由来炭素複合材料の質量、直径、厚さ、かさ密度、圧縮強度である。それぞれの値は4回の測定の平均である。圧縮強度は実施例3に記載される方法で計測した。粉砕炭素繊維混合量が増大するに従い、製造される炭素複合材料の直径は、成形金型の直径である10mmと等しい。この結果は、粉砕炭素繊維と複合化が、熱収縮率を低減したことを意味している。また、粉砕炭素繊維混合量が30質量%において、かさ密度と圧縮強度は最高値を示した。混合しなかった場合(0質量%)と比較して、かさ密度は1.26から1.37g/cmに増加し、やや重量化を伴ったが、圧縮強度は2倍となった。50質量%と粉砕炭素繊維混合量が増加すると、逆にかさ密度と圧縮強度は低下した。
【0047】
【表7】

【0048】
表5に記載される籾殻粉体3を1200℃で焼成した炭素材料のかさ密度と圧縮強度はそれぞれ1.48g/cmと55.7MPaである。粉砕炭素繊維を30質量%混合することにより、500℃の焼成温度においても、1200℃で焼成した籾殻由来炭素材料より高い圧縮強度を示した。さらに、かさ密度は1.37g/cmであり、1200℃で焼成した籾殻由来炭素材料より約7質量%軽量化した。
【実施例6】
【0049】
(カ)籾殻由来軽量高強度炭素材料および炭素複合材料の耐熱性
実施例3と5に記載された方法により、籾殻粉体3および籾殻粉体3と粉砕炭素繊維の混合物(炭素繊維混合量:30質量%)を出発原料として、500℃で5分間および1200℃で60分間焼成された炭素材料および炭素複合材料の耐熱性を評価した。熱重量分析装置(株式会社島津製作所製TGA−51型)を用いて、炭素材料または炭素複合材料を毎分200mLの空気を流動させながら、毎分10℃の昇温速度で加熱し、それらの質量減少挙動を観測した。
【0050】
表8は熱重量分析過程において100℃における質量を100とした該材料の250〜450℃における質量を示すものである。500℃焼成および1200℃焼成の炭素材料および複合炭素材料の質量損失は、300℃まではほとんどない。500℃で焼成した炭素材料および複合炭素材料は350℃付近から1質量%を超える損失が観察された。1200℃で焼成した炭素材料および複合炭素材料は400℃においても、質量損失は1%を超えなかった。1200℃で焼成した複合炭素材料は450℃においても質量損失は1%であり、極めて高い耐熱性が達成された。
【0051】
【表8】

【実施例7】
【0052】
(キ)籾殻由来軽量高強度炭素材料および炭素複合材料の耐薬品性
実施例3と5に記載された方法により、籾殻粉体3および籾殻粉体3と粉砕炭素繊維の混合物(炭素繊維混合量:30質量%)を出発原料として、1200℃で60分間焼成された炭素材料および炭素複合材料の耐薬品性を評価した。該材料をその質量が100倍である0.1mol/Lの塩酸水溶液(pH:1)、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液(pH:13)、トルエン溶剤に25℃で7日間浸漬した。
【0053】
該材料を前記薬品に浸漬し、洗浄、乾燥処理した後の状態を観察したが、すべてにおいて変化は観察されなかった。表9は該材料を前記薬品に浸漬し、洗浄、乾燥処理した後の質量変化を示すものである。浸漬前の質量を100と定義する。浸漬による質量損失は、1200℃焼成炭素材料で0.5%未満、1200℃焼成複合炭素材料で2.0%未満であった。ゆえに、籾殻由来軽量高強度炭素材料および炭素複合材料の高い耐薬品性が確認された。
【0054】
【表9】

【実施例8】
【0055】
(ク)植物系バイオマス由来軽量高強度炭素材料および炭素複合材料の硬さ
籾殻粉体3を出発原料として、二次加圧温度を280℃、二次加圧圧力を100MPaに設定し、成形体を500℃まで加熱圧縮装置内で加熱した。500℃を5分保持し、500℃焼成炭素材料を製造した。一方で、500℃に達した後、それを室温まで自然に冷却し、成形前駆体も製造した。それら成形前駆体に対して、別の電気炉で毎分1Lの窒素ガス流動中、毎分10℃の昇温速度で800、1000、1200、1400℃まで加熱し、その温度を60分保持し、焼成した。そして、室温まで自然に冷却させ、円盤状の炭素材料を製造した。微小硬さ試験機(株式会社フィッシャー・ンストルメンツ製造H100C・XYp型)を用いて、ビッカース硬さを計測した。ビッカース硬さは、最も広く普及している工業材料の硬さを表す尺度で、正四角錐ダイヤモンドを圧子として測定する押込み硬さの一種である。
【0056】
表10は異なる温度で焼成した籾殻由来炭素材料の質量、直径、厚さ、かさ密度、ビッカース硬さである。質量、直径、厚さ、かさ密度は一つの試料の値で、ビッカース硬さはその試料表面の6測定点の平均値である。焼成温度が800と1000℃の場合に関しては、二次加圧圧力を200MPaとした炭素材料も製造し、評価した。二次加圧圧力が100MPaの場合、ビッカース硬さは焼成温度が800℃において最高値となり、それ以上の焼成温度では逆に低下した。また、最高値を示した800℃の焼成温度において、二次加圧圧力を100から200MPaに増大させると、ビッカース硬さは476MPaとさらに高い値が得られた。
【0057】
【表10】

【0058】
籾殻粉体3と粉砕炭素繊維の混合物を出発原料として、二次加圧温度を280℃、二次加圧圧力を100MPaに設定し、成形体を500℃まで加熱圧縮装置内で加熱した。500℃を5分保持し、500℃焼成複合炭素材料を製造した。表11は異なる粉砕炭素繊維混合量の500℃焼成籾殻由来複合炭素材料の質量、直径、厚さ、かさ密度、ビッカース硬さである。質量、直径、厚さ、かさ密度は一つの試料の値で、ビッカース硬さはその試料表面の6測定点の平均値である。粉砕炭素混合量が増加するに従い、ビッカース硬さが低下した。粉砕炭素繊維混合量が増加すると、粉砕炭素繊維のため熱収縮率が小さくなり、複合炭素材料は緻密化しないことに起因する。しかし、二次加圧圧力を200MPaに高めると、複合炭素材料の緻密化が進み、100MPaの場合と比べてビッカース硬さは146と約3倍向上した。
【0059】
【表11】

【実施例9】
【0060】
籾殻粉体3から製造した軽量高強度炭素材料により、簡易なスライダーの摺動部材に用いたところ、高い硬さに起因して、優れた摺動部材になった。
【実施例10】
【0061】
籾殻粉体3と粉砕炭素繊維から製造した軽量高強度炭素材料により、簡易なガスケット部材に用いたところ、高い圧縮強度に起因して、優れたシール部材になった。
【実施例11】
【0062】
乾燥させた0.70gの籾殻粉体を直径10.00mmの円柱金型および直径9.80mmと直径9.98mmの二つの円柱棒を用いて、窒素ガスを毎分1Lの量を流動させながら、図1に示される製造工程において二次加圧まで行った。その際の二次加圧圧力は300MPa、二次加圧温度は260℃とした。加圧する直径9.80mmの円柱棒外側面から、籾殻粉体は粘状に排出され、射出成形が成立することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】原料粉体の加熱圧縮工程を示す説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物系バイオマスを1〜50μmに粉砕し、20〜500MPaの圧力で真空または不活性雰囲気中において150℃まで加熱圧縮し、150℃を超えて250〜300℃のある温度までは真空または不活性雰囲気中で圧縮を停止し加熱のみ行い、真空または不活性雰囲気中その温度に達すると1〜30分の一定時間20〜500MPaの圧力で圧縮成形し、その成形前駆体を真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃で焼成することを特徴とする植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および該材料の製造方法。
【請求項2】
繊維材料をアスペクト比1〜100に粉砕し、それを粉砕された植物系バイオマスと混合し、その混合物を請求項1で記載された方法で成形前駆体を製造し、真空または不活性雰囲気中で500〜1500℃で焼成を行うことを特徴とする植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素複合材料および該材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1と2に記載される成形前駆体を圧縮成形ではなく射出成形で得ることを特徴とする植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料と炭素複合材料、および該材料の製造方法。
【請求項4】
繊維材料が炭素繊維である請求項1〜3のいずれかに記載の軽量高強度炭素材料と炭素複合材料、および該材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする摺動装置およびシステム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする耐熱装置およびシステム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とする耐薬品装置およびシステム。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の植物系バイオマス由来の軽量高強度炭素材料および炭素複合材料を装備したことを特徴とするシール装置およびシステム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−298653(P2009−298653A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155178(P2008−155178)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月12日 公立大学法人秋田県立大学主催の「平成19年度卒業研究発表会」に文書をもって発表
【出願人】(306024148)公立大学法人秋田県立大学 (74)
【Fターム(参考)】