説明

検査対象液保存器具

【課題】検査対象液の検査コストの低減化や保存性及び検査精度の向上を図ると共に、採取作業及び検査作業の簡素化を図る。
【解決手段】本発明に係る検査対象保存器具10は、検査対象液を吸収するフィルター25を下端に保持する採取手段24と、採取手段24に保持されたフィルター25の上端側を押圧し、フィルター25を採取手段24から下方に押し出す押圧手段11と、押圧手段11により押し出されたフィルター25を保存液13内に収容する収容手段14とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象液保存器具に関し、特に、採取した体液や血液等の検査対象液を保存するための検査対象液保存器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、検査するために採取した体液や血液等を保存するために検査対象液保存器具が使用されている。
【0003】
例えば、血液を検査する場合には、医師等一定の有資格者が注射器を用いて静脈から血液を採取するいわゆる一般採血により採取した血液は、保存容器に密閉された状態で検査場所に搬送され、そこで遠心分離器により、血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離された後、検査が行われる。
【0004】
また、検査対象者本人が自分の手の指等に採血針を刺して血液を採取するいわゆる自己採血により採取された血液は、濾紙に含浸され乾燥された状態で検査場所に搬送され、その検査場所にて濾紙を溶剤に溶解させ、分析が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の一般採血の場合、採取した血液を遠心分離した後、上澄みの血球及び細胞成分をスポイトで吸い取り、血漿分析機用の特殊容器に移さなければならないので、血液を血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離するのに手間が掛かりコスト高になり、また、特殊容器に移す際に、取り違う等の事故が起きる虞れがあった。
【0007】
また、血液中の血球は時間の経過と共に溶血し、血液の常温放置での精度保証期間はせいぜい1日程度であるので、それ以後に検査を行った場合にはナトリウム、カリウム、クロム等の電解質物質の測定数値に悪影響を及ぼしたり、GOT、GPT等の酵素系の数値の測定ができなくなったりし、診療、診断等の指針となるような検査数値が期待できなくなるといった問題が生じていた。
【0008】
また、遠心分離器により血液を分離させ、所定項目の検査を行うためには、1回に5〜10mL程度の採血量が必要とされていた。したがって、検査対象者本人で採血することは困難であり、医師等一定の有資格者が採血することになるので、検査対象者が病院等に行くか、或いは有資格者が検査対象者の居所に出向いたりする必要があり、採血に手間が掛かっていた。
【0009】
一方、上記した従来の自己採血は、血液を濾紙に含浸させ乾燥させた後に溶剤に溶解させる工程を必要とするため、斯かる工程を経ても検査数値に影響を与えるおそれのない特定の検査項目に関してのみ有効であり、これらの検査項目以外での実施は不可能であった。
【0010】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、検査対象液の検査コストの低減化や保存性及び検査精度の向上を図ることができると共に、採取作業及び検査作業の簡素化を図ることのできる検査対象保存器具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明に係る検査対象保存器具は、検査対象液を吸収するフィルターを下端に保持する採取手段と、該採取手段に保持された前記フィルターの上端側を押圧し、該フィルターを前記採取手段から下方に押し出す押圧手段と、該押圧手段により押し出された前記フィルターを保存液内に収容する収容手段とを備えていることを特徴とする。
【0012】
そして、本発明に係る検査対象液保存器具は、下端部に前記採取手段を有すると共に上端部から挿入される前記押圧手段を保持する保持手段を備えていてもよい。
【0013】
また、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記押圧手段は、押圧操作するためのプッシュボタン部と、該プッシュボタン部の下端部に突設された軸部とを備え、該軸部は前記フィルターの上端側を押圧可能に形成されていてもよい。
【0014】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記保持手段は、前記押圧手段の動きを拘束するロック手段を備え、該ロック手段は、前記押圧手段の軸部を両側から挟持することにより該軸部に係合可能な係合部と、該係合部と前記押圧手段の軸部との係合状態を解除させるための解除操作部とを備えていてもよい。
【0015】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記ロック手段の解除操作部は、前記保持手段の外面から突出し、前記収容手段は、前記保持手段が挿入可能な開口部を備え、該開口部に前記保持手段を挿入すると、該保持手段により前記解除操作部が内側に押圧され、前記係合部と前記押圧手段の軸部との係合状態が解除され、前記押圧手段の下方への動きを許容するようになっていてもよい。
【0016】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記収容手段の開口部を取り囲む端部にキャップが着脱可能に形成されていてもよい。
【0017】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記フィルターは、親水化処理された繊維の束により構成されていてもよい。
【0018】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記フィルターは、抗凝固剤によりコーティング処理されていてもよい。
【0019】
さらに、本発明に係る検査対象液保存器具において、前記検査対象液は血液であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、検査対象液の検査コストの低減化や保存性及び検査精度の向上を図ることができる。また、検査対象液の採取量が微量で済むため、採取作業及び検査作業の簡素化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る血液保存器具を一部破断して示す正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る血液保存器具の押圧部品を示す正面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る血液保存器具の押圧部品を示す平面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る血液保存器具の保持部品を示す正面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る血液保存器具の保持部品を示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る血液保存器具の保持部品を示す側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る血液保存器具のフィルターを示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る血液保存器具のロック部品を示す正面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る血液保存器具のロック部品を示す側面図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る血液保存器具のロック部品を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明では、検査対象液が血液の場合について例示して説明する。
【0023】
図1は本発明の実施の形態に係る血液保存器具10を一部破断して示す正面図であり、この血液保存器具10は、押圧部品11と、押圧部品を保持する保持部品12と、内部に保存液としての希釈液13を収容する収容部品14とを備えて構成されている。
【0024】
図2及び図3に良く示されているように、押圧部品11は、押圧操作するためのプッシュボタン部15と、プッシュボタン部15の下端部に突設された軸部16とを備えている。プッシュボタン部15は、平面形状が円形となるように複数の板状部材17を櫛歯状に接続することにより形成され、上端部は半球状に形成され、下端面18は平坦に形成されている。また、軸部16は、十字状の平断面を有し、軸部16の下端には棒状の押圧部19が形成され、押圧部19上方に溝部20が形成されている。
【0025】
図4〜図6に良く示されているように、保持部品12は、上方から順に、凹凸の外面を有する略円筒形状の把持部分21と、鍔部22を隔てて把持部分21の下方に形成される略円筒形状のロック部品収容部分23と、ロック部品収容部分23の下方に連続して形成される円筒形状の採血部分24とを備えて構成されている。そして、保持部品12の把持部分21に押圧部品11のプッシュボタン部15を収容し、ロック部品収容部分23に押圧部品11の軸部16を保持させ、採血部分24にフィルター25を保持させることにより、採血器具26が組み付けられるようになっている。
【0026】
鍔部22は、左右両側が側方に突出する外鍔部27と、内側に円形の通孔28を有する内鍔部29とにより構成されており、通孔28は、その内径が、プッシュボタン部15の下端面18の外径より小さく、軸部16の最大外径より大きくなるように形成されている。
【0027】
ロック部品収容部分23は、通孔28の内径と略同一の内径を有し、ロック部品収容部分23の周壁30の前後面にはそれぞれ矩形状の開口31が形成され、開口31の下方の周壁内面には中心角が90度を成すように4個の補強リブ32が突設されている。
【0028】
図7に良く示されているように、フィルター25は、繊維状に形成された多数のPP(ポリプロピレン)樹脂を束ねたものを加熱してロール状に成形し、所定長にカットしたものを使用する。
【0029】
なお、このフィルター25は、親水化処理剤に漬けた上、光硬化性樹脂(例えば、東洋合成株式会社製のBIOSURFINE(登録商標))にてコーティングするのが好ましい。これにより、フィルター25の加工中に油が付着したとしても、フィルター25を水洗いして乾燥させるだけで簡単に油を落とすことができる。したがって、従来のように、フィルター25に油が付着した場合にアルコールで洗浄し、さらにこのアルコールを洗剤で落とし、さらにこの洗剤を落とすのに水洗いしたりする手間や、各洗浄工程で乾燥させる手間などを省くことができるため、作業の大幅な簡素化を図ることができる。
【0030】
また、このフィルター25は、EDTA(Eethylene-Diamine-Tetraacetic Acid)又はヘパリン等の抗凝固剤によりコーティング処理するのが好ましい。例えば、EDTAを使用する場合には、フィルター25を、EDTAの1〜3%水溶液、より好ましくはEDTAの2%水溶液に浸した後、40度で8時間程度乾燥させる。また、へパリンを使用する場合には、フィルター25を、へパリンの10〜50%水溶液、より好ましくはへパリンの20〜40%水溶液に浸した後、8時間程度乾燥させる。これにより、フィルター25が血液を吸収した時に血液が異物反応を起こして直ぐに凝固してしまうのを防止することができる。
【0031】
図8〜図10に示されているように、保持部品12のロック部品収容部分23の開口31には、ロック部品33が挿着されている。このロック部品33は、各開口31を閉塞する周壁部34と、周壁部34の上端部の前後端部同士をそれぞれ連結する上端連結部35と、周壁部34の中央部同士を連結する中央連結部36と、周壁部34の各下端部から互いに近接する方向に延出して対峙する係合部37とにより構成されている。
【0032】
周壁部34の外面の上端部には解除操作部38がそれぞれ前後方向に突設されており、この解除操作部38の下部には傾斜面から成るガイド部39が形成されている。上端連結部35の中央には伸縮部40が形成され、伸縮部40は他の部分より細幅の部材を正面視でへの字状を成すように屈曲させることにより形成されている。また、中央連結部36の中央には円形の通孔41が形成されており、この通孔41は、内径が軸部16の最大外径より大きくなるように形成されている。さらに、対峙する係合部37の間には略楕円形状の空間42が形成されており、この空間42の短径は通孔41の内径より僅かに短く設定されている。これにより、採血器具26の組み付け時には、この係合部37が軸部16の溝部20を両側から挟持することにより軸部16に係合し、押圧部品11の動きが拘束されるようになっている。
【0033】
収容部品14は、上端部43に開口部44を備え、この開口部44の内径は保持部品12のロック部品収容部分23の外径に略等しく、上端部43に保持部品12のロック部品収容部分23が挿着可能となっている。また、上端部43の外面は螺刻され、この上端部43にキャップ(図示省略)が螺嵌可能となっている。
【0034】
次に、上記した構成を備えた血液保存器具10の使用方法について説明する。
【0035】
先ず、検査対象者は、自分の手の指等に採血針(図示省略)を突き刺し、出血させ、保持部品12の下端をその出血箇所に接触させる。そうすると、微量(例えば、約65μリットル)の血液が採血部分24のフィルター25によって吸収されて採取される。
【0036】
次いで、図1に示すように、フィルター25に血液を採取した採血器具26を、上端部43の開口部44から収容部品14内に挿着すると、ロック部品33の解除操作部38が収容部品14の上端部43の内面に押圧され、伸縮部40が収縮して上端連結部35が中央連結部36を支点に内側方向に移動する。
【0037】
この上端連結部35の動きに伴い、係合部37は反対に中央連結部36を支点に互いに離間する方向(すなわち、外側方向)に移動し、係合部37と軸部16の溝部20との係合状態が解除される。そこで、この時、プッシュボタン部15を下方に押圧すると、押圧部品11は保持部品12内で押し下げられ、押圧部19がフィルター25の上端側を押圧するため、フィルター25は採血部分24から下方に押し出され、希釈液13内に落下、収容される。そして、希釈液13中において、血液は血球及び細胞成分と血漿又は血清に分離される。
【0038】
その後、使用済みの採血器具26を収容部品15から引き抜き、血液を収容した収容部品14の上端部43に前記キャップを螺嵌して検査場所まで搬送し、所定項目の検査を行う。
【0039】
このように本発明の実施の形態に係る血液保存器具10によれば、採血後直ぐにその場で血液を血球及び細胞成分と血漿又は血清とに分離させ、希釈液に混入させた状態で検査場所に搬送しているので、搬送中の溶血、血液の凝固等を防止することができる。したがって、血液の保存性がよく、検査精度の向上を図ることができる。また、採取した血液を1週間程度は常温で保存可能であり、搬送を迅速に行ったり、採血場所と検査場所の地域性を考慮したりする等の配慮が不要となり、作業の自由度を向上させることが可能となる。さらに、血液の分離に遠心分離器を使用しないので採血量が数滴で済み、自己採血により、従来の一般採血と同程度の項目について検査することができる。
【0040】
また、解除操作部38の下部に傾斜面からなるガイド部39が形成されており、しかも上端連結部35の中央に伸縮部40が形成されているため、収容部品14に対する採血器具26の挿着、及び係合部37と軸部16の溝部20との係合状態の解除を円滑且つ確実に行うことができる。
【0041】
なお、上記した実施の形態では、本発明を自己採血で使用する場合について説明したが、一般採血においても使用可能であることは言う迄もない。
【0042】
また、上記した実施の形態では、本発明を血液の保存に使用した場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は、体液等、血液以外の検査対象液にも使用可能である。
【符号の説明】
【0043】
10 血液保存器具
11 押圧部品(押圧手段)
12 保持部品(保持手段)
13 希釈液
14 収容部品(収容手段)
15 プッシュボタン部
16 軸部
24 採血部分(採血手段)
33 ロック部品(ロック手段)
37 係合部
38 解除操作部
43 端部
44 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象液を吸収するフィルターを下端に保持する採取手段と、
該採取手段に保持された前記フィルターの上端側を押圧し、該フィルターを前記採取手段から下方に押し出す押圧手段と、
該押圧手段により押し出された前記フィルターを保存液内に収容する収容手段と、
を備えていることを特徴とする検査対象液保存器具。
【請求項2】
下端部に前記採取手段を有すると共に上端部から挿入される前記押圧手段を保持する保持手段を備えている請求項1に記載の検査対象液保存器具。
【請求項3】
前記押圧手段は、押圧操作するためのプッシュボタン部と、該プッシュボタン部の下端部に突設された軸部とを備え、該軸部は前記フィルターの上端側を押圧可能に形成されている請求項1又は2に記載の検査対象液保存器具。
【請求項4】
前記保持手段は、前記押圧手段の動きを拘束するロック手段を備え、該ロック手段は、前記押圧手段の軸部を両側から挟持することにより該軸部に係合可能な係合部と、該係合部と前記押圧手段の軸部との係合状態を解除させるための解除操作部とを備えている請求項2又は4に記載の検査対象液保存器具。
【請求項5】
前記ロック手段の解除操作部は、前記保持手段の外面から突出し、前記収容手段は、前記保持手段が挿入可能な開口部を備え、該開口部に前記保持手段を挿入すると、該保持手段により前記解除操作部が内側に押圧され、前記係合部と前記押圧手段の軸部との係合状態が解除され、前記押圧手段の下方への動きを許容するようになっている請求項4に記載の検査対象液保存器具。
【請求項6】
前記収容手段の開口部を取り囲む端部にキャップが着脱可能に形成されている請求項5に記載の検査対象液保存器具。
【請求項7】
前記フィルターは、親水化処理された繊維の束により構成されている請求項1〜6のいずれか1の請求項に記載の検査対象液保存器具。
【請求項8】
前記フィルターは、抗凝固剤によりコーティング処理されている請求項7に記載の検査対象液保存器具。
【請求項9】
前記検査対象液は血液である請求項1〜8のいずれか1の請求項に記載の検査対象液保存器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−133235(P2011−133235A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290225(P2009−290225)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(509324506)株式会社フィジカルスクリーニング (4)
【Fターム(参考)】