説明

検査装置および検査方法

【課題】被検査対象物であるワークに対して加工したり、他の部位を装着したりすることなく、ワーク全周の疵を安定して検出することが可能な検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】ワークWの円筒面である外径面の疵を疵検出手段100を用いて検出するための検査装置及び検査方法である。回転軸心が相互に平行に配設されている一対の回転軸1,2にてワークWを支持させた状態で、回転体1,2をワークWに接触させ、一対の回転軸1,2を回転駆動させる。これによって、回転体1,2をワークWとともに回転させる。回転軸1,2とワークWとの間に滑りが生じることなくワークWがその軸心廻りに1回転する基準時間での回転体の回転状態を検出する。回転状態に基づいてワークWと回転軸1,2との間に滑りがあるか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、円筒ころ軸受に用いる円筒ころや針状ころ軸受に用いる針状ころ等の円筒部材の外径面の疵の有無を検査する検査装置および検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒ころ軸受に用いる円筒ころは、外輪の内径面に形成された軌道面と、内輪の外径面に形成された軌道面との間に転動自在に介在される。このため、このような円筒ころの外径面において疵が存在すれば、滑らかに回転する高品質の製品(円筒ころ軸受)を得ることができない。
【0003】
そこで、このような円筒部材の外径面の疵の有無を検査する必要がある。従来には、定位置で所定方向に回転する駆動ローラと、駆動ローラの外周の上面位置にワークを供給して定位置に回転可能に保持する定配保持部と、定位置で回転するワークの表面の疵の有無を光学的に検査する外観検出部を備えた外観検査装置がある(特許文献1)。外観検出部としては、検出用カメラや変位センサ等にて構成できる。
【0004】
また、このような円筒部材の外径面の疵の有無を検査する方法として、平行に配設された一対の回転軸にワーク(円筒部材)を載置し、この一対の回転軸を同一方向に回転させることによって、ワークの自重と回転軸との摩擦力を利用して回転軸の回転に伴ってワークを回転させる。そして、この回転しているワークに対して疵検査装置にて疵の検査を行うようにできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-72850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ワークを回転させる際には、ワークを押えローラにて押えるものであるが、ワークと駆動ローラ間で滑りが生じる場合がある。このようにワークと駆動ローラとの間に滑りが生じれば、ワーク全周にわたる疵の検査を行うことができない。
【0007】
また、一対の回転軸を用いるものでは、特にワークと回転軸との間で滑りが生じるおそれがあり、安定した疵の検査を行うことができない。
【0008】
従って、前記した従来の検査装置では、ワークに滑りが生じていない状態で疵検出を行う必要がある。そのため、ワークの回転速度を検出することによって、滑りが生じているかを検出することが好ましい。ところで、従来には、回転体(ワーク)の回転速度を検出するための回転検出装置がある。回転検出装置として、特開平11−194135号公報に記載のものがある。
【0009】
この回転検出装置は、回転体に固定されかつ円周所要角度領域を除いて円周等間隔に複数の窓が設けられるパルサリングと、パルサリングに非接触に対向配置される状態で非回転部材に固定されかつパルサリングとの相対位置に応じた磁力変化を電気信号として出力する電磁気センサと、電磁気センサの出力に基づき回転体の1回転の周期を検出する周期検出部と、周期検出部からの出力と電磁気センサの出力とに基づいて回転体の回転速度を認識する制御部とを備えている。
【0010】
このため、前記回転検出装置では、回転速度を検出するワークにいわゆるドクを設け、このドクを、周期検出部を構成する電磁気センサにて検出することになる。しかしながら、この回転検出装置では、回転体(ワーク)に直接的又は間接的に前記ドクを設ける必要がある。従って、円筒ころ軸受に用いる円筒ころ等に、直接的であっても間接的であってもドクを設けることができず、前記したような回転検出装置を利用することができない。
【0011】
本発明の課題は、被検査対象物であるワークに対して加工したり、他の部位を装着したりすることなく、ワーク全周の疵を安定して検出することが可能な検査装置および検査方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の検査装置は、ワークの円筒面である外径面の疵を疵検出手段を用いて検出するための検査装置であって、回転軸心が相互に平行に配設されて前記ワークを受ける一対の回転軸と、前記回転軸を回転駆動させてワークをその軸心廻りに回転させる駆動手段と、被検査対象物であるワークに接触して回転軸からの回転力がワークを介して伝達される回転体と、前記回転軸とワークとの間に滑りが生じることなくワークがその軸心廻りに1回転するときの基準時間での前記回転体の回転状態を検出する検出手段と、前記検出手段にて検出した検出値に基づいて回転軸とワークとの間に滑りが生じているかいないかを判断する判断手段とを備えたものである。
【0013】
本発明の検査装置では、まず、ワークを一対の回転軸にて支持させた状態で、回転体をワークに接触させる。この状態で回転軸を駆動させる。これによって、ワークと回転体とが回転する。そして、回転しているワークに対して、疵検出手段を用いて疵の有無を検出する。ワークと回転軸との間に滑りが生じていなければ、疵検出手段による疵の検出をワーク全周で行うことができる。
【0014】
しかしながら、ワークと回転軸との間に滑りが生じる場合がある。滑りが生じていれば、ワーク全周の疵検出が不安定なものとなる。このため、この検査装置では、滑りが生じているか生じて否かが判定される。この検査装置の検出手段では、回転軸とワークとの間に滑りが生じることなくワークがその軸心廻りに1回転するときの基準時間での前記回転体の回転状態を検出することになる。すなわち、滑りが生じていなければ、ワークがその軸心廻りに1回転する基準時間内で回転体が一回転する。従って、この回転体の回転状態を検出することによって、滑りが生じているか否かを判断することができる。なお、滑りが生じていれば、ワーク全周の疵検出が可能なように、再度そのワークに対して疵検出を行うか、ワークをその軸心廻りに1回転させて、疵検出を行うようにすればよい。
【0015】
前記回転体は外径面に周方向に沿って等間隔に配設された複数の凹部を有し、前記検出手段は、前記基準時間内での凹部カウント数から得られるパルス数をカウントするセンサを有するのが好ましい。このようなセンサを備えることによって、回転体の回転状態である回転数(回転速度)を検出することができる。
【0016】
前記一対の回転軸にて複数のワークが軸方向に沿って直列状に支持される検査装置であって、被検査対象物であるワークの軸方向前後の2つのワークを押えるワーク押さえ手段を備えるのが好ましい。
【0017】
被検査対象物であるワークの軸方向前後の2つのワークを押えることによって、この2つの間の被検査対象物であるワークを押えることができる。すなわち、被検査対象物であるワークは直接的に押えられているワーク間に挟まれ、これらの間に摩擦力で被検査対象物であるワークに対しても押え力を生じさせることができる。しかも、このワーク押さえ手段は直接に被検査対象物であるワークを押えるものではないので、このワーク押さえ手段が、疵検出装置による疵検出に影響を及ばせない。
【0018】
前記回転体を前記被検査対象物であるワークに押し付ける押し込み機構を備えたものであってもよい。このような押し込み機構にて被検査対象物であるワークを押えることができる。
【0019】
押し込み機構は、前記回転体が枢着されると共にこの回転体をワークに対して接近離間する方向に揺動する揺動レバーと、この揺動レバーを回転体がワークに接近する方向に弾性的に押圧する弾性部材とを備えたものであってもよい。このように、揺動レバーと弾性部材等を備えたものでは、被検査対象物であるワークを弾性的に押えることができ、ワークと回転軸との間に一定の摩擦力を発生させるができる。また、センサを揺動レバーに付設するのが好ましい。このように、センサを付設することによって、センサを回転体に近接して配置することができ、センサによる検出が安定する。
【0020】
ワークの外径に応じて設定される基準時間内でのパルス数の公差を設定する設定手段を備え、前記判断手段は、前記検出手段にて検出されたパルス数と前記設定手段にて設定された設定値とを比較して、検出されたパルス数が前記公差内のときに滑りなしと判断するものとできる。ところで、疵検出装置にてワークの疵を検査する場合、正確にワークがその軸心廻りに1回転していなくても、検出させたい疵の大きさと検出装置の分解能で決まるパルス数が設定範囲内(公差内)であればワーク全周の疵を検査することができる。
【0021】
このように、基準時間内でのパルス数の公差を設定する設定手段等を備えたものでは、設定される公差外において滑りが生じていると判断することになり、ワーク全周の疵を検査することができる範囲で滑りありとの誤判断を防止できる。
【0022】
前記検出手段にて検出したパルス数が基準時間内でのパルス数が不足するときに、基準時間内でのパルス数に達するまで、前記ワークをその軸心廻りに回転させる補充指令手段を備えたものである。
【0023】
このような補充指令手段を備えたものでは、滑りが生じていて、ワークがその軸心廻りに1回転していないときに、ワークをその不足分回転させることができる。
【0024】
本発明の検査方法は、ワークの円筒面である外径面の疵を疵検出手段を用いて検出するための検査方法であって、回転軸心が相互に平行に配設されている一対の回転軸にてワークを支持させた状態で、回転体をワークに接触させ、前記一対の回転軸を回転駆動させることにより、前記回転体をワークとともに回転させ、前記回転軸とワークとの間に滑りが生じることなくワークがその軸心廻りに1回転する基準時間での前記回転体の回転状態を検出し、この回転状態に基づいて前記ワークと回転軸との間に滑りがあるか否かを判断するものである。
【0025】
本発明の検査方法によれば、まず、ワークを一対の回転軸にて支持させた状態で、回転体をワークに接触させ、この状態で回転軸を駆動させる。これによって、ワークと回転体とを回転させることができる。そして、回転しているワークに対して、疵検出手段を用いて疵の有無を検出することができる。ワークと回転軸との間に滑りが生じていなければ、疵検出手段による疵の検出をワーク全周で行うことができる。また、この回転体の回転状態を検出することによって、滑りが生じているか否かを判断することができる。
【0026】
本発明のころ軸受は、前記検査装置にて検査されたワークのころや前記検査方法にて検査されたワークのころを用いるものである。このため、本発明のころ軸受によれば、全周にわたって疵の有無が検査されて、疵を有さないころを用いたころ軸受を構成することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明では、ワークと回転軸との間に滑りが生じていなければ、疵検出手段による疵の検出をワーク全周で行うことができ、滑りが生じていれば、滑りが生じていると判断できる。このため、全周の検査を終了していないワークを、良品とすることがなく、安定した検査を行うことができる。
【0028】
前記回転体が複数の凹部を有し、前記検出手段がパルス数をカウントするセンサを有するものでは、回転体の回転状態である回転数(回転速度)を検出することができ、回転体の回転状態の検出が安定する。
【0029】
ワーク押さえ手段を備えたものでは、被検査対象物であるワークに対しても押え力を生じさせ、ワークの滑りを防止でき、しかも、ワーク押さえ手段が、疵検出装置による疵検出に影響を及ぼさないので、疵検出装置による疵検出が安定する。
【0030】
押し込み機構を備えたものでは、被検査対象物であるワークの滑り防止の信頼性が向上する。また、センサを揺動レバーに付設することによって、センサによる検出が安定し、疵検出が安定する。
【0031】
設定手段等を備えたものでは、誤判断を防止でき、判断の精度が向上する。また、基準時間内でのパルス数に達するまで、前記ワークをその軸心廻りに回転させるものでは、ワーク全周にわたっての疵の検査を安定して行うことができる。ワークをその不足分回転させることができるものでは、各ワークの全周における疵検査を行うことができ、疵を有するにもかかわらず、良品と判断することを回避することができ、疵検出の精度の向上を図ることができる。
【0032】
本発明のころ軸受では、疵を有さないころを用いることができ、高品質のころ軸受を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の検査装置の要部側面図である。
【図2】前記検査装置の要部正面図である。
【図3】前記検査装置の駆動手段の連動機構の側面図である。
【図4】前記検査装置の要部拡大平面図である。
【図5】前記検査装置の回転体の拡大断面図である。
【図6】前記検査装置の回転体の拡大側面図である。
【図7】前記検査装置の要部拡大側面図である。
【図8】前記検査装置のワーク押さえ手段を示す側面図である。
【図9】前記検査装置のワーク押さえ手段の要部拡大断面図である。
【図10】前記検査装置の制御部の簡略ブロック図である。
【図11】前記検査装置の他の制御部の簡略ブロック図である。
【図12】前記図10の制御部による制御方法を示すフローチャート図である。
【図13】前記図11の制御部による制御方法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。
【0035】
図2は本発明に係る検査装置を示し、この検査装置は、ワークWの円筒面である外径面の疵を疵検出手段100を用いて検出するものである。ワークWとしては、円筒ころ軸受に円筒ころや針状ころ軸受の針状ころ等の円筒形状部材である。また、疵検出手段100として、図例ではカメラ(例えば、CCDカメラ)を用いたものであるが、光電センサ等の他の機構のものを用いることができる。
【0036】
検査装置は、図1と図2に示すように、回転軸心L1、L2が相互に平行に配設された一対の回転軸1、2を備える。この回転軸1、2は基盤3に立設される支持体4、5に軸受を介して回転自在に枢支され、同一高さに保持される。そして、この回転軸1、2に、複数本(複数個)のワークWを直列状に配設される。すなわち、回転軸1、2との間の凹部8に落とし込まれた状態となる。この場合、前記基盤3は基台6上に配置され、基台6は図示省略の傾斜台を介して設置され、回転軸1、2は所定角度に傾斜する状態となる。このため、各ワークWは自重により、矢印X方向に移動する状態となる。なお、回転軸1、2の下傾側において下流側と呼び、反対側を上流側と呼ぶ。また、前記基盤3は基台6上に配置される。
【0037】
そこで、回転軸1、2の下傾側(下流側)において、切り出し孔10aを有する切り出し用ブロック10が配置されている。この切り出し用ブロック10は、基台6に付設されたシリンダ機構11にて上下動する。また、基台6には、前記切り出し用ブロック10の上下動をガイドするガイド機構12が設けられている。すなわち、ガイド機構12は、基台6に立設されたブロック体13に設けられて上下方向に延びるガイドレール15と、このガイドレール15にスライド自在として嵌合するスライダ16とを備える。そして、切り出し用ブロック10にスライダ16が固着されるとともに、切り出し用ブロック10及びスライダ16に前記シリンダ機構11のピストンロッド11aが固着される。このため、シリンダ機構11のピストンロッド11aが伸縮することによって、切り出し用ブロック10は上下動する。また、ブロック体13の上面にはストッパ17が設けられている。
【0038】
従って、切り出し用ブロック10が下降することによって、切り出し用ブロック10の切り出し孔10aが、最下流側(先頭)のワークWに相対向する状態となって、後述するワーク押さえ手段85の押さえが解除されれば、先頭のワークWが切り出し用ブロック10の切り出し孔10aに侵入(投入)されることになる。この際、ストッパ17にて受け止められる。
【0039】
回転軸1、2は図3に示すように、駆動手段20にて図1に示す矢印A方向に回転する。駆動手段20は、駆動モータ26と、この駆動モータ26の回転駆動力を回転軸に伝達する伝達機構21とを備える。伝達機構21は、ギア構造体30と、このギア構造体30に駆動モータ26の駆動力を伝達するベルト構造体31とからなる。ギア構造体30は、各回転軸1、2の上流側の軸端部に連結される回転軸ギア22、23と、この回転軸ギア22、23に噛合する中間ギア24と、この中間ギア24に噛合する駆動ギア25とを備える。また、ベルト構造体31は、駆動モータ26の出力軸26aに装着される駆動側プーリ32と、前記駆動ギア25に一体的に取り付けられる従動側プーリ33と、駆動側プーリ32と従動側プーリ33とに掛け回されるタイミングベルト34とを備える。
【0040】
このため、駆動モータ26が駆動することによって、その出力軸26aが矢印B方向に回転し、その回転力がベルト構造体31を介して駆動ギア25に伝達され、駆動ギア25が矢印C方向に回転することになる。この駆動ギア25が回転すれば、中間ギア24が矢印D方向に回転し、この回転によって各回転軸1,2が同じ方向、つまり矢印A方向に回転する。これによって、ワークWは矢印E方向に回転することになる。
【0041】
また、この装置では、被検査対象物であるワークWに接触して回転軸1,2からの回転力がワークWを介して伝達される回転体40と、回転体40の回転状態を検出する検出手段101とを備える。
【0042】
回転体40は図4〜図6に示すように、回転ローラ42と、外周面に周方向に沿って等間隔に配設された複数の凹部43aを有する円盤体43とを備える。この回転体40は揺動レバー45に枢支されている。
【0043】
揺動レバー45は、図1に示すように、アーム本体45aと、このアーム本体45aの基端側から突設される折曲片部45bとからなるL字状部材である。また、アーム本体45aの先端部は、図4と図5に示すように、相対向する支持片部46a、46bからなる二股部46とされる。そして、この二股部46に回転体40の軸部47の端部47a,47bが支持され、この軸部47に軸受48、48を介して枢支されている。
【0044】
また、図7に示すように、回転体40を上下動させるための上下動機構50が設けられている。上下動機構50は、基台6上に脚体51を介して配設される支持台52上に配置され、シリンダ機構55と、このシリンダ機構55の駆動によって、カム機構56を介して上下動するブロック体57等を備える。そして、ブロック体57に前記揺動レバー45が、アーム本体45aと折曲片部45bとのコーナ部において枢支軸45cを介して枢着されている。このため、揺動レバー45は枢支軸45cを中心に矢印X1、X2方向(図1参照)に揺動する。
【0045】
カム機構56は、シリンダ機構55の駆動によって矢印G1、G2方向にスライドするカム部材60と、このカム部材60のカム面60aを転動するカムフォロア61等を備える。カム部材60は、スライド体58上に配置され、このスライド体58は支持台52上に設けられた基板59に受けられている。また、シリンダ機構55のピストンロッド55aと、スライド体58とは連結部材64を介して連結されている。
【0046】
また、前記ブロック体57は、基板68とこの基板68に立設される支持体69Aとを備える。このブロック体57が旋回軸62を中心に矢印H1、H2方向に揺動する。すなわち、カムフォロア61は連動体63を介してブロック体57に連結され、カムフォロア61の上下動によって、ブロック体57は旋回軸62を中心に矢印H1、H2方向に揺動する。
【0047】
そして、支持台52には戻し機構65が設けられる。戻し機構65は、支持台52に付設される支持ロッド66と、この支持ロッド66に外嵌されるコイルスプリング67とを備える。
【0048】
図7に示す状態から、シリンダ機構55が駆動して、そのピストンロッド55aが延びれば、カム部材60が矢印G1方向に前進する。この前進によって、カムフォロア61はカム部材60のカム面60a上を転動して、上昇することになる。このため、ブロック体57は旋回軸62を中心に矢印H1方向に揺動することになって、揺動レバー45の先端に付設された回転体40が下降する。また、この状態から、シリンダ機構55が駆動して、そのピストンロッド55aが縮まれば、カム部材60が矢印G2方向に後退する。この前進によって、カムフォロア61はカム部材60のカム面60a上を転動して、下降することになる。このため、ブロック体57は、戻し機構65の付勢力によって、旋回軸62を中心に矢印H2方向に揺動し、揺動レバー45の先端に付設された回転体40が上昇する。
【0049】
ところで、ブロック体57には、前記回転体40を、前記被検査対象物であるワークWに押し付ける押し込み機構70が設けられている。押し込み機構70は、前記揺動レバー45と、揺動レバー45の折曲片部45bをワークW側へ押圧する付勢機構74とを備える。付勢機構74は、コイルスプリングからなる弾性部材71と、この弾性部材71を支持する支持ロッド72と、弾性部材71の弾性力を調整する調整用ロッド73とを備える。
【0050】
調整用ロッド73は、ブロック体57の支持体69Aから立設された立ち上がり片57aに螺合されるねじ軸からなる。また、支持ロッド72は、ロッド本体72aと、揺動レバー45の折曲片部45b側に配設されるロッド副体72bとからなる。ロッド本体72aは、頭部75aと、この頭部75aから揺動レバー側へ延びる軸部75bとからなる。ロッド副体72bは、鍔部76aと、この鍔部76aからロッド本体側に延びる短軸部76bとからなる。そして、ロッド本体72aの軸部75bとロッド副体72bの短軸部76bとの弾性部材71が外嵌される。
【0051】
このため、図1に示すように、付勢機構74にて揺動レバー45を弾性的に押圧して揺動レバー45の先端に付設される回転体40の回転ローラ42が被検査対象物であるワークWを回転軸1,2側へ押さえ込むことになる。この場合、調整用ロッド73を立ち上がり片57aに対して螺進退させることによって、この押し込み力を調整し、回転体40を被検査対象物であるワークWと同期してその軸心廻りに回転させることができる。
【0052】
回転体40の近傍には、回転している回転体40の凹部43aを読み取って回転体40の回転速度(回転数)を検出する検出手段101を構成する光電センサ81が配置されている。すなわち、揺動レバー45にセンサ保持アーム82を付設し、このセンサ保持アーム82に光電センサ81を付設する。センサ保持アーム82は、揺動レバー45に固着される固着部82aと、この固着部82aに連設されるセンサ保持部82bとを有し、このセンサ保持部82bに前記光電センサ81が取り付けられる。
【0053】
また、この装置は、図4等に示すように、被検査対象物であるワークWの軸方向前後の2つのワークWの回転軸1,2からの浮き上がりを防止するワーク押さえ手段85を備えている。ワーク押さえ手段85は、ワークWに接触してワークWとともに回転する回転ローラ86と、この回転ローラ86を枢支する揺動レバー87と、揺動レバー87を押圧する付勢機構88(図8参照)とを備える。
【0054】
揺動レバー87は、図8に示すように、前記揺動レバー45と同様、アーム本体87aと、このアーム本体87aの基端側から突設される折曲片部87bとからなるL字状部材である。また、アーム本体87aの先端部は、図9に示すように、相対向する支持片部89a、89bからなる二股部89とされる。そして、この二股部89に回転ローラ86の軸部90の端部90a,90bが支持され、この軸部90に軸受83、83を介して枢支されている。
【0055】
付勢機構88は、図9に示すようにコイルスプリングからなる弾性部材91と、この弾性部材91を支持する支持ロッド92と、弾性部材91の弾性力を調整する調整用ロッド93等からなる。
【0056】
調整用ロッド93は、図7.8に示すようにブロック体57の支持体69Bから立設された立ち上がり片57bに螺合されるねじ軸からなる。また、支持ロッド92は、ロッド本体92aと、揺動レバー87の折曲片部87b側に配設されるロッド副体92bとからなる。ロッド本体92aは、頭部95aと、この頭部95aから揺動レバー側へ延びる軸部95bとからなる。ロッド副体92bは、鍔部96aと、この鍔部96aからロッド本体側に延びる短軸部96bとからなる、そして、ロッド本体92aの軸部95bとロッド副体92bの短軸部96bとの弾性部材91が外嵌される。
【0057】
このため、図8に示すように、付勢機構88にて揺動レバー87を弾性的に押圧して揺動レバー87の先端に付設される回転ローラ86がワークWを回転軸1,2側へ押さえ込むことになる。この場合、調整用ロッド93を立ち上がり片57bに対して螺進退させることによって、この押し込み力を調整し、回転ローラ86をワークWと同期してその軸心廻りに回転させることができる。
【0058】
図10は、この装置の制御部の簡略ブロック図を示し、この制御部は、前記検出手段101と、検出手段101にて検出した検出値に基づいて回転軸1,2とワークWとの間に滑りが生じているかいないかを判断する判断手段102と、回転軸1、2とワークWとの間に滑りが生じることなくワークWがその軸心廻りに1回転するときの基準時間を設定する設定手段104とを備える。また、制御部としては、図11に示すように、さらに、ワークWに滑りが生じている際にワークWの回転を補充する指令を駆動手段20に行う補充指令手段103を備えたものであってもよい。なお、判断手段102及び補充指令手段103及び設定手段104の制御はPLC(Programable Logic Controller)を用いて行われる。
【0059】
次に図10に示すような制御部を備えた検査装置を用いたワークの検査方法を説明する。まず、図2に示すように、複数個のワークWを、一対の回転軸1,2にて構成される凹部8に落とし込む。この際、一対の回転軸1,2が、切り出し10側が下傾となるように、基台6を図示省略の傾斜台に取り付ける。これによって、複数個のワークWは切り出し10側に自重にて傾いた状態となって、隣り合うワークWは、その相対面する端面が接触した状態となる。
【0060】
そして、ブロック体57に上下高さ位置、押し込み機構70による回転体40の揺動レバー45の押圧力、及び付勢機構88による揺動レバー87の押圧力を調整することによって、回転体40のワークWへの接触力及び回転ローラ86のワークWへの接触力を、ワークWをその軸心廻りに回転させた際に、ワークWと同期して回転するように設定する。
【0061】
このように設定した後、駆動手段20を駆動して、回転軸1,2を回転させることによって、各ワークWをその軸心廻りに回転させる。そして、この回転中において、被検査対象であるワークW(この場合、下流側から2番目のワーク)に対して、疵検出手段100にて疵の検査を行う。
【0062】
しかしながら、回転軸1、2とワークWとの間に滑りが生じるおそれがあり、このような場合、疵検出手段100にてワーク全周の疵の検査を行うことができていないのにかかわらず、出来たと誤認する場合がある。そこで、本発明では、図12に示すフローチャートのような制御を行うことになる。
【0063】
まず、回転体40の凹部43aを検出手段101にて読み取る。この際、前記設定手段104にて設定された基準時間内での凹部カウント数から得られるパルス数をカウントする(ステップS1)。また、この場合の設定手段104には、ワークWの外径に応じて設定される基準時間内でのパルス数の公差を設定することができる。そこで、検出手段101にて検出されたパルス数と設定手段104にて設定された設定値とを比較して、検出したパルス数が設定手段104にて設定した公差内か否かを判断する(ステップS2)。
【0064】
そして、ステップS2で公差内であれば、滑りがない正常と判断する。ステップS2で公差内でなければ、滑りがある異常と判断する。このため、正常と判断したワークWに対して、その全周において疵検査試験が行われたことになる。また、異常と判断したワークに対しては、その全周において疵検査試験が行われていないことになる。このように検査が行われワークWは順次切り出しを介して装置外へ搬出される。
【0065】
全周において疵検査試験が行われたワークWにおいて、疵を有さないものが良品となって、例えば、円筒ころ軸受の円筒ころとして円筒ころ軸受を構成することになる。また、全周において疵検査試験が行われていないワークWであって、疵を有さないものであれば、再度、本発明の検査を行えばよい。全周において疵検査試験が行われていないワークWであって、疵を有するものであれば、全周検査することなく疵を有するものであるので、不良品として製品化することがない。
【0066】
また、図11に示すように、補充指令手段103を備えた制御部を有する場合の検査方法を図13のフローチャート図を用いて説明する。この場合も、前記図12に示す工程と同様に、パルス数を検出する(ステップS5)。そして、パルス数が基準時間内でのパルス数に不足するか否かを判定する(ステップS6)。ステップS6において、パルス数が不足するときには、基準時間内でのパルス数に達するまで、ワークWをその軸心廻りに回転させる(ステップS7)。
【0067】
ステップS6において、パルス数が不足しない場合、ワーク全周の疵検査を行ったことになり、この検査が終了する。また、ステップS7で基準時間内でのパルス数に達するまで、ワークWを回転させた場合、ワーク全周の疵検査を行うことができ、検査が終了する。このため、この図13に示すフローチャートに従って検査を行う場合、各ワークWの全周の検査を行うことができる。
【0068】
本発明では、ワークWと回転軸1、2との間に滑りが生じていなければ、疵検出手段100による疵の検出をワーク全周で行うことができ、滑りが生じていれば、滑りが生じていると判断できる。このため、全周の検査を終了していないワークを、良品とすることがなく、安定した検査を行うことができる。
【0069】
ワークWの外径に応じて設定される基準時間内でのパルス数の公差を設定する設定手段104を備えたものでは、誤判断を防止でき、判断の精度が向上する。また、基準時間内でのパルス数に達するまで、前記ワークWをその軸心廻りに回転させるものでは、ワーク全周にわたっての疵の検査を安定して行うことができる。
【0070】
また、補充指令手段103を備えたものでは、基準時間内でのパルス数に達するまで、ワークWを回転させるものでは、各ワークWの全周の検査を行うことができ、疵を有するにもかかわらず、良品と判断することを回避することができ、疵検出の精度の向上を図ることができる。
【0071】
前記回転体40が複数の凹部43aを有し、前記検出手段101がパルス数をカウントするセンサ81を有するものは、回転体40の回転状態である回転数(回転速度)を検出することができ、回転体40の回転状態の検出が安定する。
【0072】
ワーク押さえ手段85を備えたものでは、被検査対象物であるワークWに対しても押え力を生じさせて、ワークWの滑りを防止でき、しかも、ワーク押さえ手段85が、疵検出装置100による疵検出に影響を及ぼさないので、疵検出装置100による疵検出が安定する。
【0073】
押し込み機構70を備えたものでは、被検査対象物であるワークWの滑り防止の信頼性が向上する。また、センサ81を揺動レバー45に付設することによって、センサ81による検出が安定し、疵検出が安定する。
【0074】
このため、前記のように検査して、良品とされたワークWである円筒ころや針状ころを用いれば、疵を有さないころを備えた高品質のころ軸受を構成することができる。
【0075】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、ワークWとして、前記した円筒ころや針状ころに限るものではなく、外径面が円筒面である種々の円筒形状部材であればよい。また、回転軸1,2に一度に支持できるワークWの数や回転軸1,2の回転数等は、回転軸1、2を回転させることによって、ワークWをその軸心廻りに回転させて、疵検査装置にて疵検査を行うことができ、しかも、検出手段にて回転体の回転状態を検出することができる範囲で種々変更できる。
【0076】
また、前記実施形態では、各回転軸1,2をギア構造体30を介して、回転駆動させていたが、いずれか一方を駆動軸とし、他方の従動軸としてもよい。回転体40に設けられる凹部43aの数や大きさ等として、検出手段にて回転体の回転状態を検出することができる範囲で種々変更できる。
【符号の説明】
【0077】
1,2 回転軸
20 駆動手段
40 回転体
43a 凹部
45 揺動レバー
70 押し込み機構
71 弾性部材
81 光電センサ
85 ワーク押え手段
100 疵検出手段
101 検出手段
102 判断手段
103 補充指令手段
104 設定手段
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの円筒面である外径面の疵を疵検出手段を用いて検出するための検査装置であって、
回転軸心が相互に平行に配設されて前記ワークを受ける一対の回転軸と、前記回転軸を回転駆動させてワークをその軸心廻りに回転させる駆動手段と、被検査対象物であるワークに接触して回転軸からの回転力がワークを介して伝達される回転体と、前記回転軸とークとの間に滑りが生じることなくワークがその軸心廻りに1回転するときの基準時間での前記回転体の回転状態を検出する検出手段と、検出手段にて検出した検出値に基づいて回転軸とワークとの間に滑りが生じているかいないかを判断する判断手段とを備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記回転体は外径面に周方向に沿って等間隔に配設された複数の凹部を有し、前記検出手段は、前記基準時間内での凹部カウント数から得られるパルス数をカウントするセンサを有することを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記一対の回転軸にて複数のワークが軸方向に沿って直列状に支持される検査装置であって、被検査対象物であるワークの軸方向前後の2つのワークを押えるワーク押さえ手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記回転体を前記被検査対象物であるワークに押し付ける押し込み機構を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項5】
押し込み機構は、前記回転体が枢着されると共にこの回転体をワークに対して接近離間する方向に揺動する揺動レバーと、この揺動レバーを回転体がワークに接近する方向に弾性的に押圧する弾性部材とを備えたことを特徴とする請求項4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記センサを前記揺動レバーに付設したことを特徴とする請求項5に記載の検査装置。
【請求項7】
ワークの外径に応じて設定される基準時間内でのパルス数の公差を設定する設定手段を備え、前記制御手段は、前記検出手段にて検出されたパルス数と前記設定手段にて設定された設定値とを比較して、検出されたパルス数が前記公差内のときに滑りなしと判断することを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記検出手段にて検出したパルス数が基準時間内でのパルス数に不足するときに、基準時間内でのパルス数に達するまで、前記ワークをその軸心廻りに回転させる補充指令手段を備えたことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の検査装置にて検査されたワークのころを用いたことを特徴とするころ軸受。
【請求項10】
ワークの円筒面である外径面の疵を疵検出手段を用いて検出するための検査方法であって、
回転軸心が相互に平行に配設されている一対の回転軸にてワークを支持させた状態で、回転体をワークに接触させ、前記一対の回転軸を回転駆動させることにより、前記回転体をワークとともに回転させ、前記回転軸とワークとの間に滑りが生じることなくワークがその軸心廻りに1回転する基準時間での前記回転体の回転状態を検出し、この回転状態に基づいて前記ワークと回転軸との間に滑りがあるか否かを判断することを特徴とする検査方法。
【請求項11】
前記請求項10に記載の検査方法で検査されたワークのころを用いたことを特徴とするころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−185118(P2012−185118A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50065(P2011−50065)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】