説明

検査装置

【課題】簡易な構成によって、複数の検出素子に対する検査を連続して行うことを可能とする。
【解決手段】液状検体が置かれるセンサ部位211と、検出光を偏向させてセンサ部位211に検出光を照射させるプリズム202とを有する検出素子101を用い、プラズモン共鳴を利用して液状検体を検査する検査装置である。検出光を出射する光源105と、センサ部位211によって反射された検出光を受光してその強度を検出する受光素子111と、検出素子111をプリズム202に入射する検出光の光軸に対して直交する方向に移動させるリニアガイド103とを有する。そして、リニアガイド103によって検出素子101を移動させて、プリズム202への検出光の入射位置を変化させることによって、センサ部位211への検出光の照射角度を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状検体中の標的物質の量や相互作用などを検査するための検査装置に関連するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、健康問題や環境問題、更には安全性の問題に対する意識の高まりと共に、これらの問題に関与する生物学的あるいは化学的物質の検出手法が望まれるようになってきた。これら物質は主に生体由来の液状検体に含有されており、これら物質の含有量や他生体分子との相互作用を理解することは、健康問題、環境問題の対策にとって重要である。この課題を解決することを目的として、表面プラズモン共鳴を利用した検出方法が実用化されている。表面プラズモン共鳴を利用した検出方法では、検出に際して、標識を付与することが不要であるため、反応過程を逐次モニタリングすることができ、物質の含有量だけではなく、物質と生体分子との相互作用の強弱を同時に計測可能という利点がある。
【0003】
しかしながら、表面プラズモン共鳴を利用した検出方法には、図11に示すクレッチマン(Kretschmann)配置に代表されるように、一般的には検出機構が複雑になるという不利益が存在する。そこで、特許文献1によって、検出機構を単純化し装置コストを低減する試みが提案されている。また、特許文献2によって、平行移動により、素子入射角度を変化させる構成が提案されている。
【特許文献1】特開平09−292335号公報
【特許文献2】特開平10−239233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面プラズモン共鳴を用いた検出手法を医療向けの臨床検査に応用するためには、医療現場で発生する大量の検体を効率的に処理することが求められる。しかしながら、特許文献1に開示されている提案されている手法では、装置の簡便化は達成されるものの、検出毎に正確な位置合せが必要となり、複数検体検査あるいは複数対象物質検査の連続処理は不可能であった。
【0005】
一方、特許文献2に開示されている手法では、検出毎の位置合せについては改善されているものの、角度制御のための平行移動の位置制御以外に、縦軸すなわち素子の固定時の高さ精度が必要となる点が課題として残されていた。
【0006】
本発明の目的の一つは、光学構成の簡易性を保持しつつ、検出素子の位置合せ要求精度を低減することである。また、本発明の目的の他の一つは、複数の検出素子に対して連続して検査を行うことを可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の検査装置の一つは、液状検体が置かれるセンサ部位と、検出光を偏向させて前記センサ部位に検出光を照射させる偏向手段とを有する検出素子を用い、プラズモン共鳴を利用して液状検体を検査する検査装置である。この検査装置は、前記検出光を出射する光源と、前記センサ部位によって反射された前記検出光を受光してその強度を検出する受光手段と、前記検出素子を前記偏向手段に入射する前記検出光に対して直交する方向に移動させる移動手段と、を有する。そして、前記移動手段によって前記検出素子を移動させて、前記偏向手段への前記検出光の入射位置を変化させることによって、前記センサ部位への前記検出光の照射角度を変化させることを特徴とする。
【0008】
本発明の検査装置の他の一つは、液状検体が置かれるセンサ部位を有する検出素子を用い、プラズモン共鳴を利用して液状検体を検査する検査装置である。
この検査装置は、前記検出光を出射する光源と、前記光源から出射された前記検出光を偏向させて、前記センサ部位に前記検出光を照射させる偏向手段と、前記センサ部位によって反射された前記検出光を受光してその強度を検出する受光手段と、を有する。また、前記検出素子及び前記偏向手段を前記偏向手段に入射する前記検出光に対して直交する方向に移動させる移動手段を有する。そして、前記移動手段によって前記検出素子及び前記偏向手段を移動させて、前記偏向手段への前記検出光の入射位置を変化させることによって、前記センサ部位への前記検出光の照射角度を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の検査装置によれば、光学構成の簡易性を保持しつつ、検出素子の位置合せ要求精度を低減することができる。また、連続して複数の検出素子に対する検査を行うことができる。さらに、プラズモン共鳴検査の特徴である、反応過程のモニタリングについても、複数回検査領域を通過させるのみで反応過程の経時的な変化を捉えることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の検査装置は、プラズモン共鳴を利用して液状検体を検査する検査装置である。また、本発明の検査装置では、液状検体が置かれるセンサ部位と、検出光を偏向して、前記センサ部位に検出光を照射させる偏向手段とを有する検出素子を用いる。以下、本発明の検査装置の実施形態の一例について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
(検査装置)
図1は、本発明の検査装置の検査領域の概略図である。図中の符号101は、検出素子を示している。検出素子101の詳細については後述するが、図示されている検出素子101には、検出光を偏向させる偏向手段としての屈折光学部材(プリズム202)と、反応用ウェル210とが一体に設けられている。もっとも、検出素子101は、検査装置の使用時には該装置と一体で用いられるが、検査装置の構成要素には含まれない。
【0012】
図1中の符号102は、検出素子101を保持する保持手段としてのキャリアを示している。検出素子101は、保持手段であるキャリア102に保持される。検出素子101を保持したキャリア102は、移動手段によって紙面右側から左側に向けて、或は左側から右側に向けて平行移動される。具体的には、キャリア102は、不図示のリニアモータによって、リニアガイド103上を検出光の光軸を直交する方向に平行移動される。もっとも、キャリア102を移動させるための移動手段は、ラックピニオン方式の移動手段やその他の移動手段であってもよい。
【0013】
保持手段であるキャリア102は、検出素子101を機械的に安定して保持でき、リニアガイド103上を精度よく平行移動できればよく、その具体的構成は特定の構成に限定されない。本例では、検出素子101に偏向手段である屈折光学部材が一体成形されているので、当該検査装置に偏向手段は設けられていない。しかし、検出素子101に屈折光学部材その他の偏向手段が設けられていない場合には、当該検査装置の側に屈折光学部材その他の偏向手段が設けられる。例えば、キャリア102に屈折光学部材その他の偏向手段を設け、検出素子101と共に移動させる。
【0014】
図1には、3つの検出素子101を独立した3つのキャリア102にそれぞれ搭載し、独立してリニアガイド103上を移動させる構成を図示した。しかし、複数の検出素子を同一のキャリアに搭載して移動させてもよいし、必ずしも複数の検出素子を搭載しなくてもよい。ここで、リニアガイド103上のキャリア102をリニアガイド103の全長に亘って一つの駆動手段で移動させてもよいし、検査領域のみ高精度の駆動手段を用いるなどしてもよい。
【0015】
図1中の符号104は、光検出を行う遮光エリアを形成する暗箱を示している。また、符号105は、検出光の発生源である光源を示している。本例では、光源の波長安定性を考慮し、温調制御を行った半導体レーザを光源105として用いているが、これに限定されるものではない。符号106は、光源105から出射された検出光(レーザ光)をコリメートして平行光にするめの光学素子であるコリメートレンズを示している。本例では、コリメートレンズ106として、平凸の単レンズを用いている。しかし、検出光をコリメートするための光学素子としてのコリメートレンズには、複数枚のレンズを組み合わせて収差を補正したものを用いても構わない。符号107は、検出光を制限するための絞りであるアパチャーを示している。本例では、アパチャー107にスリットを用いているが、円形絞り、矩形絞りなど、プリズム202への検出光のビーム幅を制限できる絞りであれば、その形状は問わない。符号108は偏光手段としての偏光素子を示している。偏光素子108は、使用波長において、最終的にセンサ部位に照射される検出光の偏光方向を統一可能であれば如何なる構成のものであってもよい。本例では、センサ部位に照射される検出光は、偏光素子108によってp偏光に統一される。符号109はビームスプリッタを示している。ビームスプリッタ109は、入射光とセンサ部位で反射した戻り光とを分離し、戻り光を受光素子111に導光させる分離手段である。符号110は、戻り光を受光素子111に集光させる光学素子としてのコリメートレンズを示している。これにもコリメートレンズ106と同様に、平凸の単レンズを用いているが、複数枚レンズの組み合わせて用いても構わない。受光素子111はフォトダイオードであることが好ましいが、光電子倍増管、CCDなどであってもよい。
【0016】
(検出素子)
検出素子は本発明の検査装置の構成要素ではないが、本発明の検査装置の使用時には重要な役割を果たすので、ここで説明しておく。
【0017】
本発明の検査装置において使用可能な検出素子101は、基体上に形成された金属の構造に起因したプラズモン共鳴による吸収を光の照射角度に応じて計測できれば特に制約はないが、代表的な構成例を図2〜4に示す。
【0018】
図2に示す検出素子101では、図中に符号201で示す部位がセンサ部位となる。センサ部位201は、所謂表面プラズモン共鳴のための金もしくは銀の薄膜、金もしくは銀薄膜の微細パターン、金もしくは銀薄膜に微細孔を設けた構成のいずれを用いて形成しても構わない。ここでの金属薄膜の膜厚は、15nm〜100nmが望ましく、好適には、20nm〜70nmが用いられる。符号202は、検出光を偏向させるための屈折光学部材であるプリズムを示している。プリズム202の素材は、透明誘電体であれば特に制約はなく、センサ部位201の金属薄膜が存在する領域と同一素材であればよい。より好ましくは、屈折率が1.6以上の誘電体であることが望ましい。ここで、プリズム202の表面(レンズ面206)は、センサ部位201に対して直交する検出光(平行光)204をセンサ部位201のセンサ面に集光させるように構成された凸シリンドリカルレンズ形状を有する。ここで、センサ部位201のセンサ面とは、上記金属膜が形成された領域をいう。レンズ面206に入射した検出光204は、レンズ面206によって偏向され、センサ面に集光され、焦点を結ぶ。センサ面で焦点を結んだ検出光204は、該センサ面で反射され、検出光204と平行な戻り光(平行光)205として出射される。
【0019】
図2中、符号203は、液状検体(検体溶液)を保持するための反応用ウェル210を形成するウェル形成部材を示している。ウェル形成部材203の素材は、液状検体に対して耐腐食性、機械的強度があれば制約はなく、ポリスチレン、アクリル樹脂が好適に用いられる。
【0020】
次に、図3に示す検出素子101について説明する。図3に示す検出素子101におけるセンサ部位201の構成は、図2に示す検出素子101のセンサ部位201と同一である。図中の符号202は、検出光を偏向させるための屈折光学部材であるプリズムである。プリズム202の素材は、透明誘電体であれば特に制約はなく、センサ部位201の金属薄膜が存在する領域と同一素材であればよい。より好ましくは、屈折率が1.6以上の誘電体を用いることが望ましい。ここで、プリズム202の表面の一部には、図2に示すレンズ面206と同様の光学的作用を有するレンズ面206が形成されている。具体的には、センサ部位201の法線を境に、片側にのみレンズ面206が形成されている。もう片側には、センサ部位201のセンサ面を中心とする凹面ミラーを形成する反射光学部材(シリンドリカルミラー)207が形成されている。
【0021】
よって、センサ部位201に対して直交する検出光(平行光)204は、レンズ面206によって偏向され、センサ面に集光され、焦点を結ぶ。センサ面で焦点を結んだ検出光204は、該センサ面で反射された後に、シリンドリカルミラー207で反射されて、再度センサ面で焦点を結び、入射光204と同一光路を経て戻り光205として出射する。尚、ウェル形成部材203は、上述した図2の形態と同様である。
【0022】
次に、図4に示す検出素子101について説明する。図4に示す検出素子101は、センサ部位201のセンサ面の位置が異なる以外は、図2に示す検出素子101と実質的に同一の構成を有する。図4に示す検出素子101には、検出光204を偏向させる偏向手段としての反射光学部材として放物ミラー212が設けられている。放物ミラー212の反射面は、入射した検出光204をセンサ面に集光させて焦点を結ばせる面形状を有する。よって、検出光204は、放物ミラー212の反射面で反射され、センサ面で焦点を結んで反射され、再度放物ミラー212の反射面に入射する。放物ミラー212の反射面に再入射した光は、該反射面で反射されて、検出光204と平行な戻り光205として出射される。尚、検出光204がセンサ部位201に対して直交する平行光である点は、これまでと同様である。また、ウェル形成部材203についてもこれまでと同様である。
【0023】
図2〜図4に示す3種の検出素子101のセンサ部位201には、金属の構造体を用いているが、実際の液状検体の検査をする際の認識能をもつ物質を捕捉体として固定しておくと好適である。この捕捉体と標的物質の組み合わせとしては、抗原/抗体、相補的DNA、リセプター/リガンド、酵素/基質が挙げられる。これらが固定されたセンサ部位201の拡大イメージを図5に示す。501はセンサ基板であり、502は金属薄膜であり、503が捕捉体である。ここでは抗体のイメージで図示している。504は捕捉体に捕捉された標的物質である。
【0024】
(実施例1)
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明の範囲をなんら限定するものではない。
【0025】
<装置構成>
本例の検査装置の構成概要を図1に示す。図中の符号101は、本例の検査装置に用いられる検出素子を示している。検出素子101の詳細については後述する。
【0026】
本例の検査装置は、検出素子101を保持するキャリア102と、該キャリア102を平行移動させる移動手段としてのリニアガイド103およびリニアモータ(不図示)を有する。キャリア102は、リニアモータの駆動によって、リニアガイド103上を検出光の光軸と直交する方向に平行移動する。また、本例の検査装置は、暗箱104によって形成された遮光エリアを有し、該エリア内において光検出が行われる。暗箱104は、周囲の光を遮蔽できるように、光遮断能および内面の反射防止能を有する。
【0027】
暗箱104内には、検出光の光源である半導体レーザ105、半導体レーザ105から出射された検出光をコリメートする光学素子としてのコリメータレンズ106が設けられている。尚、半導体レーザ105は、波長780nmの光(検出光)を出射する。
【0028】
暗箱104内には、コリメートされた検出光が通過するアパチャー(スリット)107、スリット107を通過した検出光の偏光方向を統一する偏光素子(偏光フィルタ)108も設けられている。さらに、検出光を透過させ、戻り光を反射する、すなわち、検出光と戻り光とを分離する分離手段であるビームスプリッタ109も設けられている。
【0029】
さらに暗箱104内には、ビームスプリッタ109によって分離された戻り光205をコリメートする光学素子としてのコリメートレンズ110が設けられている。また、コリメートレンズ110によってコリメートされた戻り光205を受光して強度を検出する受光素子111も設けられている。尚、受光素子111はシリコンフォトダイオードである。
【0030】
加えて、暗箱104内には、検出素子101上に形成されたリニアスケール211(図6)を読み取るための光学系112も設けられている。リニアスケール211については後述する。
【0031】
<検出素子>
本例の検査装置では、図2に示す検出素子101を用いる。図2の検出素子201については既に説明したので、重複する説明は省略し、説明していない構成についてのみ補足説明する。
【0032】
図2に示す検出素子101では、プリズム202が一体に設けられた基体上に、50nmの金薄膜が成膜されてセンサ部位201が形成されている。ここで、基体と金薄膜との接着性を高めるため、膜厚5nmのTiの接着層を介して金薄膜が成膜されている。
【0033】
本例では、使用波長である780nmの光に対する屈折率が1.97である住田光学ガラス製のK-PSFn2光学ガラスを用いて基体が作製されている。プリズム202の成形はモールドにより、円筒面を用いた凸レンズ状に加工されている。このレンズ面206は、センサ部201に平行な光線がレンズ面206に入射したときに、出射光線がセンサ部位201で焦点を結ぶような曲面に加工されている。
【0034】
さらに、図6(a)(b)に示すように、検出素子101には、リニアスケール211が形成されている。このリニアスケール211を前述したリニアスケール読み取り用の光学系112(図1)により読み取って、検出素子101の移動方向の位置精度を保証する。ここでは、位置決めマークとしてリニアスケールを用いているが、必ずしもスケールでなくてもよく、位置計測が可能なマークでも構わない。
【0035】
センサ部位201への金薄膜の成膜にはスパッタリング装置を用いた。具体的には、スパッタリング装置によって、基体表面にTiを2nm程度成膜し、その上に、金を50nm成膜した。成膜が必要な部位以外は、あらかじめマスクしておくことにより不要な金薄膜の付着を防止した。さらに、ウェル形成部材203としてのPMMA樹脂を基体のセンサ部位201の周囲に固定して、反応用ウェル210を形成してある。ウェル形成部材203の固定には、UV硬化作用を持った接着材を用いた。
【0036】
ここで、捕捉分子の固定法について図5を用いて説明する。図5は検出時の反応が完了した場合の検出領域を示している。検出領域には、固相抗体(捕捉体)503を固定する必要がある。金薄膜に金と親和性の高いチオール基を持つ、11−Mercaptoundecanoic acidのエタノール溶液を滴下し、微粒子を表面修飾する。その状態で、N−Hydroxysulfosuccinimide水溶液と1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochloride水溶液を加え、室温で15分間インキュベートする。本例では、N−Hydroxysulfosuccinimideおよび1−Ethyl−3−[3−dimethylamino]propyl]carbodiimide hydrochlorideには、同仁化学研究所社製のものを用いた。以上により、金パターン表面にスクシンイミド基が露出される。この状態で、ヒトC反応性蛋白と結合する抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体(Biogenesis社製)溶液を金薄膜パターン領域に滴下し、インキュベーションする。すると、金薄膜上に抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体が固定される。固定後必要に応じて、牛血清アルブミンなどの非特異的吸着の抑制作用を持った試薬をもちいて非特異的吸着反応を抑制するための処理を行ってもよい。以上の作業で検出素子を作製することができる。
【0037】
<光学系>
図7(a)(b)を用いて、本例の検査装置が備える光学系の構成についてさらに説明する。光源である半導体レーザ105から出射された光は、コリメートレンズ106によってコリメートされ、アパチャー(スリット)107でビーム幅が制限される。スリット107を抜けた検出光204は、ビームスプリッタ109を透過してレンズ面206に入射する。正のパワーを持つレンズ面206に入射した検出光は、該レンズ面206によって偏向され(屈曲され)、センサ部位201のセンサ面上で焦点を結ぶ。次いで、センサ面で反射され、再度レンズ面206に入射して平行光となり、戻り光205となる。この戻り光205がビームスプリッタ109で抽出され(分離され)、コリメートレンズ110に導光される。コリメートレンズ110に導光された光は、集光および検出素子101の位置による変位が補正され、シリコンフォトダイオード111に導光され、その強度が検出される。
【0038】
尚、図6(b)では、同図(a)に対して検出素子101が平行移動しており、検出光204のプリズム202への入射位置が変化している。これに伴って、センサ部位201(センサ面)に対する検出光の照射角度が変化し、全体の光学パスも変化している。すなわち、本例の検査装置は、移動手段によって偏向手段を備えた検出素子を平行移動させて、検出素子の偏向手段に対する検出光の入射位置を変化させることで、センサ面上で検出光を走査することができる。尚、検査装置の側に屈折光学部材その他の偏向手段が設けられる場合には、該偏向手段を検出素子と共に移動させることによって上記と同様の作用効果が得られる。
【0039】
<測定時動作>
次に、図8を用いて、本例の検査装置の測定動作について説明する。図中の符号301は、全体の動作を司る中央演算装置(CPU)を示しており、符号302は主記憶メモリ(RAM)を示している。CPU301は、動作プログラムを固定ディスク303より読み込みRAM302に一時的に保持させる。また、RAM302には、必要な計測データ、制御データも一時的に保持される。
【0040】
図8中の符号304は、表示装置を示している。表示装置304には、検査結果が表示されることはもちろん、ユーザ入力を促すための画面も表示される。符号305は、ユーザの動作支持等を行う入力デバイス(キーボード)を示している。符号306は、計測用の光源である半導体レーザ105の点灯制御回路を示しており、符号308は、リニアモータ309の駆動制御回路を示しており、符号310はリニアスケール読み取り機能をもったリニアエンコーダを示している。駆動制御回路308は、リニアエンコーダ310が出力する位置情報を元にリニアモータ309の制御を行う。符号311は、シリコンフォトダイオード111からの信号を処理するデータIFを示している。データIF311は、リニアエンコーダ310の出力位置情報を基に、シリコンフォトダイオード111の出力信号(素子反射光が照射されている画素)を抽出し、AD変換したシグナル値を中央演算装置301に送出する機能を持っている。
【0041】
次に、測定手順について説明する。ユーザがキーボード305を使ってサンプルセット指示を入力すると、中央演算装置301は、駆動制御回路308にチップ供給位置への駆動指示を送信する。駆動制御回路308は、キャリア102(図1)を供給位置に移動させ、空きキャリア102をユーザがサンプルセット可能な位置に停止させる。測定手順としては、ユーザにより、検出素子101の反応用ウェル210(図2)内に、液状検体(検体溶液)が手作業にて導入される。ユーザがキーボード305により再始動指示を与えると、駆動回路308によってキャリア102が計測エリアに搬送される。リニアエンコーダ310の出力位置と、シリコンフォトダイオード111の出力信号とにより、検出素子101の固定時の位置ずれを初期のプラズモン吸光ピーク位置から演算し求めておく。この位置ずれをデータIF311はキャリア102毎に管理し、保持しておく。反応過程中複数開の計測を実施し、各キャリア102毎に、シグナル値の組み合わせによる位置プロファイルデータを中央演算装置301に送信する。中央演算装置301では、各サンプルホルダー毎に取得した位置プロファイルデータを受信時刻を伴った形で、固定ディスク303に保存する。あらかじめ決められた時間の計測を終えたサンプルホルダーが出た場合、中央演算装置301は、固定ディスク303に保存されている、時系列の位置プロファイルデータより、共鳴による吸収ピーク角度を分析する。さらに、分析結果をあらかじめ求めておいた検量線データと照らし合わせて、サンプル中の物質量(ここでは、ヒトCRP量)を算出し、表示装置304に表示させる。表示後、ユーザがキーボード305から入力した終了サンプルの除去信号を受信すると、サンプルロータの回転を停止させ、ユーザにサンプルの除去を促す。本動作を繰り返すことにより、複数サンプルを同時並行計測することが可能となる。
【0042】
(実施例2)
<装置構成>
本例の検査装置の基本構成は、図1に示すとおりであり、光学系の構成以外は実施例1と同様であるので、説明は省略する。
【0043】
<検出素子>
本例の検査装置では、図3に示す検出素子101を用いる。図3の検出素子201については既に説明したので、重複する説明は省略し、説明していない構成についてのみ補足説明する。
【0044】
図3に示す検出素子101では、符号201で示される箇所がセンサ部位である。この検出素子101は、プリズム202が一体に設けられた基体表面に50nmの金薄膜を成膜してセンサ部位201を形成したものである。ここでも、基体と金薄膜との接着性を高めるため、膜厚5nmのTiの接着層を介して金薄膜が成膜されている。
【0045】
本例では、使用波長である780nmの光に対する屈折率が1.97である住田光学ガラス製のK-PSFn2光学ガラスを用いて基体を作製した。プリズム202の成形はモールドによる。具体的には、レンズ面206を有する凸のシリンドリカルレンズ形状を形成する加工と、シリンドカルミラー207の反射面を形成する加工とをセンサ部位201を通る法線を境に切り替える。
【0046】
レンズ面206は、センサ部位201に平行な光線がレンズ面206に入射したときに、出射光線がセンサ面上で焦点を結ぶような曲面に加工されている。一方、シリンドカルミラー207の反射面は、アルミ蒸着によって形成され、センサ部位201からくる光をそのまま同じ位置に反射するように構成されている。
【0047】
さらに、検出素子101にも図6に示すリニアスケール211が形成され、リニアスケール読み取り用の光学系112(図1)により、検出素子101の移動方向の位置精度が保証される。尚、センサ部位201の形成方法は実施例1と同一である。
【0048】
<光学系>
図9(a)(b)を用いて、本例の検査装置が備える光学系の構成について説明する。もっとも、図7に示す構成と同一の構成については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0049】
半導体レーザ105から出射された光は、コリメートレンズ106によってコリメートされ、アパチャー(スリット)107でビーム幅が制限される。アパチャー(スリット)107を抜けた平行光(入射光204)は、正のパワーを持つレンズ面206で偏向され(屈曲され)、センサ部位201のセンサ面上で焦点を結び、該センサ面で反射される。センサ面で反射された光は、正のパワーを持つシリンドカルミラー207の反射面で再度反射されてセンサ面上で焦点を結び、該レンズ面206で屈曲されて戻り光205となる。戻り光205は、ビームスプリッタ109で反射され(抽出され)、コリメートレンズ110に導光される。コリメートレンズ110に導光された光は、該コリメートレンズ110によって集光されてシリコンフォトダイオード111に導光され、その強度が検出される。
【0050】
尚、図7(b)では、同図(a)に対して検出素子101が平行移動しており、検出光204のプリズム202への入射位置が変化している。これに伴って、センサ部位201(センサ面)に対する検出光の照射角度が変化し、全体の光学パスも変化している。すなわち、本例の検査装置は、移動手段によって偏向手段を備えた検出素子を平行移動させて、検出素子の偏向手段に対する検出光の入射位置を変化させることで、センサ面上で検出光を走査することができる。尚、検査装置の側に屈折光学部材その他の偏向手段が設けられる場合には、該偏向手段を検出素子と共に移動させることによって上記と同様の作用効果が得られる。
【0051】
<測定時動作>
計測動作は実施例1とまったく同一であるため説明は省略する。本実施例の効果として、センサ部位201のセンサ面での反射が2回となるため、プラズモン共鳴の吸収が大きくなり、信号のS/Nが向上する。
【0052】
(実施例3)
<装置構成>
本例の検査装置の基本構成は、図1に示すとおりであり、光学系の構成以外は実施例1と同様であるので、説明は省略する。
【0053】
<検出素子>
本例の検査装置では、図4に検出素子101が用いられる。図5に示す検出素子101では、符号201で示される箇所がセンサ部位である。センサ部位201に関する実施例1、2との差異は、センサ面が下向きに形成されている点である。ここでは、基体上に50nmの金薄膜を成膜してセンサ部位201を形成している。ここでも、基体と金薄膜との接着性を高めるため、膜厚5nmのTiの接着層を介して金薄膜が成膜されている。
【0054】
本例では、光学用のポリイミド樹脂を用いて基体を製作している。具体的には、モールドにより成形している。放物ミラー212の反射面は、基体表面にアルミを蒸着して形成してある。反射面の形状は、センサ部位201を焦点とする放物線を断面とする放物面となっている。
【0055】
図4に示す検出素子101が備える反応用ウェル210は、上記基体、ウェル形成部材203およびカバー部材209によって囲まれた流路状に形成されている。本例では、ウェル形成部材203およびカバー部材209にポリスチレン樹脂を用いている。さらに、本例で用いられる検出素子101にも、図6に示すリニアスケール211が形成されている。リニアスケール211をリニアスケール読み取り用の光学系112(図1)によって読み取ることによって、検出素子101の移動方向の位置精度が保証される。尚、センサ部位201の形成方法は実施例1と同一である。
【0056】
<光学系>
図10(a)(b)を用いて、本例の検査装置が備える光学系の構成について説明する。もっとも、図7に示す構成と同一の構成については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0057】
半導体レーザ105から出射された光は、コリメートレンズ106によってコリメートされ、アパチャー(スリット)107でビーム幅が制限される。パチャー(スリット)107を抜けた検出光204は、正のパワーを持つ放物ミラー212の反射面で反射(屈曲)され、センサ部位201のセンサ面上で焦点を結び、該センサ面で反射される。センサ面で反射された光は、再度放物ミラー212の反射面に入射して該反射面で反射され、戻り光205となる。戻り光205は、ビームスプリッタ109で反射され(抽出され)、コリメートレンズ110に導光される。コリメートレンズ110に導光された光は、集光、位置補正され、シリコンフォトダイオード111に導光され、その強度が検出される。
【0058】
尚、図10(b)では、同図(a)に対して検出素子101が平行移動しており、検出光204のプリズム202への入射位置が変化している。これに伴って、センサ部位201(センサ面)に対する検出光の照射角度が変化し、全体の光学パスも変化している。すなわち、本例の検査装置は、移動手段によって偏向手段を備えた検出素子を平行移動させて、検出素子の偏向手段に対する検出光の入射位置を変化させることで、センサ面上で検出光を走査することができる。尚、検査装置の側に屈折光学部材その他の偏向手段が設けられる場合には、該偏向手段を検出素子と共に移動させることによって上記と同様の作用効果が得られる。
【0059】
<測定時動作>
計測動作は実施例1と同一であるため説明は省略する。唯一異なる点は、反応用ウェル
210が流路状となっているため、ここへの液状検体(検体溶液)の導入方法が、シリンジによる導入になる点のみである。もっとも、かかる相違点に係る構成は、本発明の本質的構成ではない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の検査装置の検査領域の概略を示す模式図である。
【図2】本発明の検査装置に用いられる検出素子の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の検査装置に用いられる検出素子の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の検査装置に用いられる検出素子の一例を示す模式図である。
【図5】検出素子のセンサ部位の拡大イメージ図である。
【図6】検出素子に設けられたリニアスケールを示す模式図である。
【図7】本発明の検査装置が備える光学系の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の検査装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の検査装置が備える光学系の一例を示す模式図である。
【図10】本発明の検査装置が備える光学系の一例を示す模式図である。
【図11】クレッチマン(Kretschmann)配置の模式図である。
【符号の説明】
【0061】
101 検出素子
102 キャリア
103 リニアガイド
104 プリズム
105 光源(半導体レーザ)
109 ビームスプリッタ
111 受光素子(シリコンフォトダイオード)
112 光学系
201 センサ部位
206 レンズ面
207 シリンドカルミラー
211 リニアガイド
212 放物ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状検体が置かれるセンサ部位と、検出光を偏向させて前記センサ部位に前記検出光を照射させる偏向手段とを有する検出素子を用い、プラズモン共鳴を利用して前記液状検体を検査する検査装置において、
前記検出光を出射する光源と、
前記センサ部位によって反射された前記検出光を受光してその強度を検出する受光手段と、
前記検出素子を、前記偏向手段に入射する前記検出光の光軸に対して直交する方向に移動させる移動手段と、を有し、
前記移動手段によって前記検出素子を移動させて、前記偏向手段への前記検出光の入射位置を変化させることによって、前記センサ部位への前記検出光の照射角度を変化させることを特徴とする検査装置。
【請求項2】
液状検体が置かれるセンサ部位を有する検出素子を用い、プラズモン共鳴を利用して前記液状検体を検査する検査装置において、
検出光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記検出光を偏向させて、前記センサ部位に前記検出光を照射させる偏向手段と、
前記センサ部位によって反射された前記検出光を受光してその強度を検出する受光手段と、
前記検出素子及び前記偏向手段を、前記偏向手段に入射する前記検出光の光軸に対して直交する方向に移動させる移動手段と、を有し、
前記移動手段によって前記検出素子及び前記偏向手段を移動させて、前記偏向手段への前記検出光の入射位置を変化させることによって、前記センサ部位への前記検出光の照射角度を変化させることを特徴とする検査装置。
【請求項3】
前記検出素子を保持する保持手段を有し、前記移動手段は前記保持手段を移動させることによって、前記検出素子を移動させることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の検査装置。
【請求項4】
前記検出素子に設けられている位置決めマークを読み取るための光学系を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の検査装置。
【請求項5】
前記センサ部位に照射される前記検出光と、前記センサ部位によって反射された戻り光とを分離する分離手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−267959(P2008−267959A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110473(P2007−110473)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】