検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサ
【課題】可燃性ガスの濃度が低い場合であっても検知感度が高く、且つ応答性に優れ、更にケイ素化合物等の被毒物質により被毒されにくい接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子を提供する
【解決手段】本発明に係る検知用素子1は、測温抵抗体と触媒燃焼体2とを備える。前記触媒燃焼体2が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有する。前記触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知される。前記触媒燃焼体2が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。
【解決手段】本発明に係る検知用素子1は、測温抵抗体と触媒燃焼体2とを備える。前記触媒燃焼体2が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有する。前記触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化する。この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知される。前記触媒燃焼体2が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接触燃焼式ガスセンサに適用される検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可燃性ガスの検出のために、接触燃焼式ガスセンサが使用されている。接触燃焼式ガスセンサには、ヒータを兼ねる測温抵抗体と、触媒燃焼体とを備える検知用素子が設けられる。測温抵抗体は例えばコイル状に成形された白金等の金属で形成される。触媒燃焼体は、例えばアルミナなどの金属酸化物等から形成される多孔質の担体と、この担体内に分散されている燃焼触媒とを備えている。触媒燃焼体は測温抵抗体を覆うように形成される。
【0003】
この接触燃焼式ガスセンサでは、触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼し、それにより測温抵抗体の温度が上昇してその電気抵抗値が変化する。この測温抵抗体の電気抵抗値の変化に基づいて可燃性ガスが検知され、或いは更にその濃度が測定される。
【0004】
接触燃焼式ガスセンサは、動作原理が簡単なこと、長期の安定性に優れていること、周囲温度や湿度による影響が少ないことなどの利点を有し、例えば可燃性ガス検知器や水素漏洩検知用途などに適用されている。
【0005】
しかし、このような接触燃焼式ガスセンサでは、可燃性ガスの燃焼により生じる熱が担体を通じて測温抵抗体に達することで可燃性ガスが検知されるため、可燃性ガスの濃度が低い場合には充分な検知感度が得られなくなることがあり、また可燃性ガスが燃焼してから測温抵抗体の温度が上昇するまでの間のタイムラグが大きくなって充分な応答性が得られないこともあった。このため接触燃焼式ガスセンサは低濃度の可燃性ガスを検知するには不向きであると考えられていた。
【0006】
また、接触燃焼式ガスセンサには被毒物質により被毒されることで性能が劣化しやすいという問題もある。特に接触燃焼式ガスセンサがケイ素化合物を含む雰囲気下で使用されると、感度が低下しやすい。
【0007】
そこで、コイル状などの形状に形成された測温抵抗体に更に触媒燃焼性を付与することで測温抵抗体が触媒燃焼体を兼ねるようにして熱伝達のロスを低減することも提案されており、一定の成果が上がっている。しかし、この場合は触媒燃焼体の表面積が小さくなることから、低濃度の可燃性ガスの検知感度には限界があった。また、検知用素子にケイ素化合物を除去するためのシリコントラップ層を設けることも提案され、ケイ素化合物による被毒防止に関して大きな成果が得られている。しかし、この場合も検知感度については同様の問題があり、また可燃性ガスはシリコントラップ層を通過してから触媒燃焼体に到達するため応答性の向上にも限界があった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2007/099933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、可燃性ガスの濃度が低い場合であっても検知感度が高く、且つ応答性に優れ、更にケイ素化合物等の被毒物質により被毒されにくい接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る検知用素子は、測温抵抗体と触媒燃焼体とを備え、前記触媒燃焼体が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有し、前記触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化し、この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知されるように動作する接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子において、前記触媒燃焼体が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。
【0011】
前記測温抵抗体がコイル状に形成され、前記触媒燃焼体が前記測温抵抗体上に形成されていてもよい。
【0012】
検知用素子は更にシリコン基板と、このシリコン基板上に形成されている絶縁層とを備え、前記測温抵抗体が前記絶縁層上に形成されていてもよい。
【0013】
前記測温抵抗体が絶縁性被覆により覆われ、この絶縁性被覆上に更に金属被覆が形成され、前記金属被覆上に前記触媒燃焼体が形成されていてもよい。
【0014】
前記可燃性ガスがアルコール及び水素のうちの少なくとも一種であってもよい。
【0015】
前記触媒燃焼体が、パラジウムから形成されていてもよい。
【0016】
本発明に係る接触燃焼式ガスセンサは、前記検知用素子と、この検知用素子における測温抵抗体へ電圧を印加すると共に、前記測温抵抗体へ印加される電圧を、通常状態と、この通常状態よりも高い高電圧状態とに切り替え可能な測定用回路とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可燃性ガスの濃度が低い場合であっても検知感度が高く、且つ応答性に優れ、ケイ素化合物等の被毒物質により被毒されにくく、更にケイ素化合物等の被毒物質により被毒されても容易に感度が回復可能な接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態における検知用素子を示す正面図である。
【図2】本発明の第一から第三の実施形態における回路図である。
【図3】本発明の第二の実施形態における検知用素子を示す、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図4】本発明の第三の実施形態における検知用素子を示す、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図5】実施例1における検知用素子の全体を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例1における検知用素子の一部を示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例1及び比較例1についての、アルコールに対する応答性評価試験の結果を示すグラフである。
【図8】実施例2及び比較例2についての、アルコールに対する応答性評価試験の結果を示すグラフである。
【図9】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、アルコール濃度特性評価試験の結果を示すグラフである。
【図10】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、ケイ素化合物被毒性評価試験の結果を示すグラフである。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、ヒートクリーニング性評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第一から第三の実施形態について説明する。
【0020】
第一の実施形態による接触燃焼式ガスセンサは、検知用素子1、補償用素子14、及び測定用回路を備える。
【0021】
図1に示される検知用素子1は、測温抵抗体3と触媒燃焼体2とを備える。測温抵抗体3は触媒燃焼体2によって覆われているため、図1には測温抵抗体3は現れていない。
【0022】
測温抵抗体3は自身の温度変化に従って自身の電気抵抗値の変化を生じる。この電気抵抗値の変化に基づいて、可燃性ガスが検知されると共にその濃度が測定される。測温抵抗体3は触媒燃焼体2を加熱するヒータを兼ねている。
【0023】
本実施形態における測温抵抗体3は金属線から形成されるコイルである。この金属線は、白金、パラジウム、ニッケル、鉄−パラジウム合金、これらの金属の合金などから目的に応じて選択された材質から形成される。測温抵抗体3の寸法は適宜設定されるが、例えば測温抵抗体3を構成する金属線の線径10〜50μmの範囲、測温抵抗体3全体の直径0.1〜0.5mmの範囲、長さ0.3〜1.2mmの範囲、ターン数4〜15の範囲で形成される。金属線の線径が小さいほど、感度は向上する。
【0024】
触媒燃焼体2は、測温抵抗体3の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2の材質として、接触燃焼式ガスセンサによる検知対象のガス種に応じた適宜の材質が選択されるが、例えば白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属種や、コバルト、銅などの卑金属種が挙げられる。特に触媒燃焼体2がパラジウムから形成されることは、アルコール検知用或いは水素検知用の接触燃焼式ガスセンサを得るために好適であり、しかも長期信頼性の高い接触燃焼式ガスセンサが得られる。
【0025】
この触媒燃焼体2は、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。樹枝状の電着物とはJIS H0400−1982で定義される樹枝状めっき(trees;dendrite)である。
【0026】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、測温抵抗体3と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この測温抵抗体3と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが測温抵抗体3の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。
【0027】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が10〜80秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0028】
測温抵抗体3上での電着物の量は適宜設定される。尚、電着物の量が多いほど、素子のケイ素化合物に対する耐久性が高くなる。この電着物の質量は、例えば測温抵抗体3の質量の2〜20%の範囲となるように調整される。
【0029】
検知用素子1の両端には、それぞれリード線9が接続されている。このリード線9は例えば測温抵抗体3と同一材質の金属線から形成される。リード線9及び測温抵抗体3は、一本の金属線が成形されることで得られてもよい。このリード線9は、検知用素子1が測定用回路に組み込まれる際に利用される。
【0030】
補償用素子14は、雰囲気温度変化等によって生じる測温抵抗体3の電気抵抗値の変化を補正するために用いられる。これにより、可燃性ガスの燃焼に起因する測温抵抗体3の電気抵抗値の変化がより正確に測定される。
【0031】
補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似する温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0032】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子が挙げられる。この場合、樹枝状又はひげ状の電着物で構成される触媒燃焼体2は低質量であるため、この触媒燃焼体2が検知用素子1及び補償用素子14の熱容量に与える影響は少なく、このため検知用素子1と近似した温度−抵抗特性を有する補償用素子14が容易に得られる。また、補償用素子14に検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されてもよく、或いは補償用素子14に触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されてもよい。この場合、触媒燃焼活性を有しない卑金属の電着によって可燃性ガス燃焼活性を有しない補償用素子14が得られる。またこれにより、補償用素子14の温度−抵抗特性を検知用素子1と更に近似させることができ、或いは両者の温度−抵抗特性を同じにすることができる。
【0033】
検知用素子1と補償用素子14は、例えば図2に示すような測定用回路に組み込まれる。
【0034】
この測定用回路では、検知用素子1と補償用素子14と第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18とがブリッジ回路を構成している。ブリッジ回路の第三の端子25と第四の端子26との間の電圧が電圧計15により測定されると、その結果から測温抵抗体3の電気抵抗値の変化が求められ、これに基づいて可燃性ガスの濃度が導出される。
【0035】
図示のブリッジ回路では、第一の端子23と第二の端子24との間に、検知用素子1と補償用素子14とが直列に接続されると共に、第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18が直列に接続されている。この検知用素子1と補償用素子14からなるユニットと第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18からなるユニットとは、第一の端子23と第二の端子24との間で並列になっている。第三の端子25は第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18との間の配線にあり、第四の端子26は検知用素子1と補償用素子14との間の配線にある。
【0036】
第一の端子23と第二の端子24の間には平衡調整用の可変抵抗19が接続されている。この可変抵抗19の中間タップは、第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18との間の配線に接続されている。第一の端子23と第二の端子24との間には、可変抵抗20、スイッチ16、第一の直流電源21及び第二の直流電源22も設けられている。第一の端子23と第二の端子24との間では、可変抵抗19と、可変抵抗20、スイッチ16、第一の直流電源及び第二の直流電源22で構成されているユニットとが、並列になっている。スイッチ16は、第一の端子23と第二の端子24との間で可変抵抗20と第一の直流電源21とが直列に接続されている状態と、第一の端子23と第二の端子24との間で可変抵抗20と第二の直流電源22とが直列に接続されている状態とを切り替える。可変抵抗20の抵抗値が調整されると、第一の端子23と第二の端子24との間に印加される電圧が調整される。
【0037】
この測定用回路では、検知用素子1に印加される電圧値が、通常状態と高電圧状態との二段階に切り替わる。図示の例では、スイッチ16が切り替わることで、起電力が異なる第一の直流電源21と第二の直流電源22のうちのどちらが検知用素子1と補償用素子14とに電圧を印加するのかが、切り替わる。第一の直流電源21は検知用素子1に通常状態の印加電圧を印加し、第二の直流電源22は検知用素子1に高電圧状態の印加電圧を印加する。
【0038】
検知用素子1に通常状態の印加電圧が印加されると、検知用素子1の温度が、可燃性ガスを検知可能な所定の温度に維持される。この通常状態の印加電圧の値は、必要に応じて可変抵抗20によって調整される。高電圧状態の印加電圧は、通常状態の印加電圧よりも高い値の電圧であり、後述するヒートクリーニングが可能な適宜の値に設定されるが、例えば高電圧状態の印加電圧が印加された状態での触媒燃焼体2の温度が、通常状態の印加電圧が印加された場合での触媒燃焼体2の温度よりも100〜300℃高い温度となるように設定される。
【0039】
この接触燃焼式ガスセンサにより可燃性ガスが検知される場合には、まず第一の直流電源21から第一の端子23と第二の端子24との間に電圧が印加されると共に、可変抵抗19が調整されてブリッジ回路の平衡状態が維持される。この場合、検知用素子1には通常状態の印加電圧が印加され、測温抵抗体3が通電することで加熱され、それにより触媒燃焼体2が、可燃性ガスが検知可能な所定の温度に加熱される。
【0040】
この状態で、検知用素子1に可燃性ガスが到達すると、触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼し、それにより測温抵抗体3の温度が上昇してその電気抵抗値が増大する。一方、燃焼触媒活性を有しない補償用素子14に可燃性ガスが到達しても、可燃性ガスは燃焼せず、補償用素子14の電気抵抗値は変化しない。したがって、検知用素子1と補償用素子14との間で電気抵抗差が発生し、端子25,d間にブリッジ電圧が発生する。このブリッジ電圧は可燃性ガスの濃度に比例する。このブリッジ電圧が電圧計15で測定され、その結果に基づいて可燃性ガスの濃度が求められる。
【0041】
このようにして可燃性ガスが検出されるにあたり、本実施形態では触媒燃焼体2が担体を備えず、測温抵抗体3上に付着している電着物から構成されているため、触媒燃焼体2の質量を小さくすることが可能である。触媒燃焼体2の質量が小さいと、測温抵抗体3が通電加熱される場合にそれに伴って触媒燃焼体2も速やかに加熱され、このため接触燃焼式ガスセンサの起動時間が非常に短くなる。また、触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼することで触媒燃焼体2が加熱されると、それに伴って測温抵抗体3も速やかに加熱される。このため可燃性ガスの濃度が低濃度であっても検知感度が優れたものとなり、また接触燃焼式ガスセンサの応答性も非常に優れたものとなる。更に触媒燃焼体2は樹枝状又はひげ状の電着物から構成されているため、触媒燃焼体2全体の体積に比して触媒の表面積が大きく、このため触媒燃焼体2はその体積が小さくても大きな触媒活性を発揮する。このことによっても、接触燃焼式ガスセンサの検知感度は非常に高くなる。
【0042】
特に本実施形態では測温抵抗体3と触媒燃焼体2とが直接重なっているため、両者間の熱の移動は非常に速やかとなり、従って起動特性、検知感度、及び応答性が非常に優れたものとなる。
【0043】
また、触媒燃焼体2を構成している樹枝状又はひげ状の複数の電着物は測温抵抗体3の表面から離れる方向へ延びるような形状を有するため、測温抵抗体3の上に直接触媒燃焼体2が形成されていても、この触媒燃焼体2が測温抵抗体3の電気抵抗値に与える影響は小さい。このため測温抵抗体3の電気抵抗値が触媒燃焼体2によって減少することが抑制される。
【0044】
更に、金属酸化物で構成される担体と較べると、電着物から構成される触媒燃焼体2にはケイ素化合物等のような触媒燃焼体2の活性を失われる被毒物質が付着しにくく、しかも多孔質な担体の場合のような細孔が存在しないため触媒燃焼体2内に被毒物質が入り込みにくい。このため、接触燃焼式ガスセンサが被毒物質によって被毒されにくくなる。ケイ素化合物等の被毒物質に対する耐久性は、触媒燃焼体2を構成する電着物の量が多いほど向上する。
【0045】
更に、電着により触媒燃焼体2が形成されることで、触媒燃焼体2の量が容易に調整され、このため接触燃焼式ガスセンサが量産される場合であっても触媒燃焼体2の量のばらつきが容易に低減される。このため、性能のばらつきの少ない接触燃焼式ガスセンサが容易に量産可能となる。
【0046】
また、この接触燃焼式ガスセンサによる可燃性ガスの検知が行われていない間に、スイッチ16が切り替えられることで第二の直流電源22から第一の端子23と第二の端子24との間に電圧が印加されると、検知用素子1には高電圧状態の印加電圧が印加される。これにより測温抵抗体3が通電加熱され、これにより触媒燃焼体2が、通常状態よりも高い温度まで加熱される。そうすると、触媒燃焼体2にケイ素化合物等の被毒物質が付着していても、この被毒物質が分解又は蒸発して除去されて、触媒燃焼体2がクリーニングされる。このようにして接触燃焼式ガスセンサのヒートクリーニングがなされる。このヒートクリーニングにおいては、金属酸化物で構成されている多孔質の担体と較べて、樹枝状又はひげ状の電着物から構成されている触媒燃焼体2からは、ケイ素化合物等の被毒物質が非常に除去されやすく、このためヒートクリーニングの効率が非常に高い。
【0047】
図3に第二の実施形態を示す。図3に示される検知用素子1は、測温抵抗体3、触媒燃焼体2、シリコン基板4及び絶縁層5を備える。
【0048】
シリコン基板4は単結晶シリコンなどから形成される。シリコン基板4の厚みは例えば0.3〜0.4mmの範囲である。
【0049】
絶縁層5はシリコン基板4の厚み方向の片側の面上に形成される。絶縁層5は例えばSiO2から形成される。この絶縁層5は、例えばスパッタリング法によりSiO2がシリコン基板4上に堆積することで形成される。絶縁層5の厚みは例えば0.4〜0.8μmの範囲に形成される。
【0050】
第一の実施形態と同様に、測温抵抗体3は触媒燃焼体2を加熱するヒータを兼ねている。この測温抵抗体3は絶縁層5上に形成される。測温抵抗体3は目的に応じて選択された材質から形成され、例えば白金から形成される。測温抵抗体3は平板状に形成されてもよく、適宜のパターン形状、例えば蛇行状や櫛形パターン形状に形成されてもよい。測温抵抗体3の厚みは適宜設定されるが、例えば0.05〜0.3μmの範囲で形成される。このような測温抵抗体3は、例えば絶縁層5上に白金等の金属がスパッタリング法などにより堆積し、これにより形成された金属の層がフォトリソグラフィーとエッチングによってパターニングされることで形成される。
【0051】
絶縁層5上には、測温抵抗体3の一方の端部に導通する導体配線6と、測温抵抗体3の他方の端部に接続する導体配線6も形成されている。二つの導体配線6は、例えば測温抵抗体3と同時に測温抵抗体3の場合と同じ方法で形成される。各導体配線6の端部上には接続端子7が形成されている。接続端子7は例えば蒸着法などで形成される金などからなる層などで構成される。この導体配線6及び接続端子7は、検知用素子1が測定用回路に組み込まれる際に利用される。
【0052】
触媒燃焼体2は、測温抵抗体3の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2は、第一の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では触媒燃焼体2は測温抵抗体3上に直接重ねて形成されている。触媒燃焼体2の材質は、第一の実施形態の場合と同じでよい。
【0053】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、測温抵抗体3と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この測温抵抗体3と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが測温抵抗体3の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。測温抵抗体3への電圧の印加にあたって、接続端子7及び導体配線6を利用することができる。
【0054】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が5〜20秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0055】
測温抵抗体3上での電着物の量は適宜設定される。尚、電着物の量が多いほど、素子のケイ素化合物に対する耐久性が高くなる。この電着物の量は、例えば触媒燃焼体2の厚みが0.2〜2μmの範囲となるように調整される。
【0056】
本実施形態では、シリコン基板4内に空隙8が形成され、この空隙8と測温抵抗体3とが積層方向に並んでいることが好ましい。この積層方向とは、シリコン基板4、絶縁層5及び測温抵抗体3が積層している方向のことである。このような空隙8が形成されていると、測温抵抗体3とシリコン基板4との間の熱伝導が抑制され、測温抵抗体3の加熱に必要とされる通電量が低減されて省電力化がなされると共に測温抵抗体3の温度が安定化して検知感度が向上する。このような空隙8は、例えば絶縁層5の表面が測温抵抗体3の周囲を取り囲む領域を除いてマスクされた状態で、KOH水溶液などによる異方性エッチング処理が施されることで形成される。この場合、空隙8は測温抵抗体3の周囲を取り囲む領域において外部に開口する。
【0057】
本実施形態においても、接触燃焼式ガスセンサは更に補償用素子14及び測定用回路を備えていてもよい。補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似した温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0058】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、第一の実施形態の場合と同様に、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子、検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子、触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子などが、挙げられる。
【0059】
測定用回路の構成は、第一の実施形態の場合と同じでよい。
【0060】
本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第一の実施形態の場合と同様に動作し、第一の実施形態の場合と同様の優れた性能を発揮する。
【0061】
また、本実施形態は、マイクロセンサと呼ばれるレベルの超小型のセンサを得るために好適であり、この場合、検知用素子1の質量を小くして更なる高感度化や応答性の向上が可能となる。
【0062】
図4に第三の実施形態を示す。図4に示される検知用素子1は、測温抵抗体3、触媒燃焼体2、シリコン基板4、絶縁層5、絶縁性被覆10及び金属被覆11を備える。
【0063】
シリコン基板4、絶縁層5及び測温抵抗体3の構成は、第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0064】
絶縁性被覆10は、絶縁層5上で測温抵抗体3を覆うように形成される。すなわち絶縁性被覆10は絶縁層5上に形成され、且つ絶縁層5における測温抵抗体3が形成されている位置では測温抵抗体3上に形成される。測温抵抗体3が蛇行状や櫛形状等の適宜のパターン形状を有する場合には、絶縁層5上における測温抵抗体3の間の測温抵抗体3が形成されていない箇所を含む測温抵抗体3よりも広い領域に亘って絶縁性被覆10が形成されることで、絶縁性被覆10が測温抵抗体3を覆ってもよい。
【0065】
この絶縁性被覆10は、例えばSiO2などの絶縁性の無機化合物から形成される。また絶縁性被覆10は例えばスパッタリング法等によりSiO2などの絶縁性の無機化合物が絶縁層5及び測温抵抗体3の上に堆積することで形成される。絶縁性被覆10の厚みは適宜設定されるが、例えば0.4〜0.8μmの範囲に形成される。
【0066】
金属被覆11は、絶縁性被覆10の上の、絶縁性被覆10と測温抵抗体3とが重なっている位置に形成される。これにより、測温抵抗体3の上に絶縁性被覆10を介して金属被覆11が形成される。測温抵抗体3が蛇行状や櫛形状等の適宜のパターン形状を有する場合には、金属被覆11は絶縁性被覆10上で、測温抵抗体3の間の測温抵抗体3が形成されていない箇所を含む測温抵抗体3よりも広い領域に亘って形成されてもよい。
【0067】
金属被覆11は例えば白金、金などから形成される。金属被覆11の厚みは適宜設定されるが、例えば0.05〜0.3μmの範囲で形成される。このような金属被覆11は、例えば絶縁性被覆10上に白金等の金属がスパッタリング法などにより堆積することで形成され、或いはこれにより形成された金属の層が必要に応じてフォトリソグラフィーとエッチングによってパターニングされることで形成される。
【0068】
また、絶縁層5上には金属被覆11に導通する給電用導体配線12が形成されている。本実施形態では二つの給電用導体配線12が形成されているが、給電用導体配線12は一つでもよい。この給電用導体配線12は、例えば金属被覆11と同時に金属被覆11の場合と同じ方法で形成される。給電用導体配線12の端部上には給電用接続端子13が形成されている。給電用接続端子13は例えば蒸着法などにより形成される金などからなる層で構成される。
【0069】
触媒燃焼体2は、金属被覆11の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2は、第一及び第二の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では測温抵抗体3、絶縁性被覆10、金属被覆11及び触媒燃焼体2がこの順番に積層して形成される。
【0070】
触媒燃焼体2の材質として、接触燃焼式ガスセンサによる検知対象のガス種に応じた適宜の材質が選択されるが、例えば白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属種や、コバルト、銅などの卑金属種が挙げられる。
【0071】
触媒燃焼体2は、金属被覆11の表面上に付着している電着物から構成される。触媒燃焼体2は、第一及び第二の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では触媒燃焼体2は測温抵抗体との間に絶縁性被覆10及び金属被覆11を介して重ねて形成されている。触媒燃焼体2の材質は、第一及び第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0072】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、金属被覆11と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この金属被覆11と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが金属被覆11の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。金属被覆11への電圧の印加にあたって、給電用接続端子13及び給電用導体配線12を利用することができる。
【0073】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が5〜20秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0074】
本実施形態でも、第二の実施形態と同様にシリコン基板4内に空隙8が形成され、この空隙8と測温抵抗体3とが積層方向に並んでいることが好ましい。この空隙8は、第二の実施形態の場合と同様の手法により形成される。
【0075】
本実施形態においても、接触燃焼式ガスセンサは更に補償用素子14及び測定用回路を備えていてもよい。補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似した温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0076】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、第一及び第二の実施形態の場合と同様に、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子、検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子、触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子などが、挙げられる。
【0077】
測定用回路の構成は、第一及び第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0078】
本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第一及び第二の実施形態の場合と同様に動作し、第一及び第二の実施形態の場合と同様の優れた性能を発揮する。更に、本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第二の実施形態の場合と同様にマイクロセンサと呼ばれるレベルの超小型のセンサを得るために好適であり、この場合、検知用素子1の質量を小くして更なる高感度化や応答性の向上が可能となる
更に、本実施形態では測温抵抗体3と触媒燃焼体2との間に絶縁性被覆10と金属被覆11とが介在し、触媒燃焼体2が測温抵抗体3の上に直接形成されていないため、触媒燃焼体2が測温抵抗体3の電気抵抗値に与える影響が第一及び第二の実施形態よりも小さくなる。尚、触媒燃焼体2と測温抵抗体3との間の熱の移動が絶縁性被覆10及び金属被覆11によって阻害されないようにするという観点からは、絶縁性被覆10及び金属被覆11の厚みはできるだけ薄い方が好ましい。また、金属被覆11の表面積を測温抵抗体3の表面積よりも大きくすることが可能であり、この場合、金属被覆11上に形成される触媒燃焼体2の量を測温抵抗体3上に直接形成される場合よりも大きくすることができ、それにより接触燃焼式ガスセンサの更なる高感度化が可能となる。
【0079】
上記の各実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサは、測温抵抗体3や触媒燃焼体2の材質が種々変更されることで、種々の可燃性ガスの検出に対応可能である。これらの接触燃焼式ガスセンサは、優れた検知感度と応答性を発揮することから、特に水素漏洩検知などのための水素ガスセンサや、アルコールチェッカーのためのアルコールガスセンサとして好適に使用され、この場合は、触媒燃焼体2は特にパラジウムから形成されることが好ましい。
【0080】
上記の各実施形態は、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明はこれらの実施形態に制限されず、本発明の目的及び範囲を逸脱しないのであれば、材質、形状の変更、公知技術の付加、転用などの、適宜の設計変更等が可能である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。但し、本発明はこれらの実施例に制限されることはない。
【0082】
[実施例1]
本実施例では,第一の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0083】
測温抵抗体3は、線径0.02mmの白金線から形成し、その外径を0.23mm,巻回数を10ターン,長さを0.4mmとした。
【0084】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に測温抵抗体3を浸漬し、この状態で測温抵抗体3と電解用電極との間に5Vの電圧を80秒間印加した。図5及び図6は、検知用素子1の電子顕微鏡写真であり、これによると、触媒燃焼体2は樹枝状の電着物で構成されている。
【0085】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0086】
[実施例2]
本実施例では、第二の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0087】
シリコン基板4は単結晶シリコンから形成し、その厚みは0.4mmとした。絶縁層5はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは0.4μmとした。測温抵抗体3及び導体配線6は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。測温抵抗体3は蛇行状にパターニングした。端子電極は金の蒸着により形成した。
【0088】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に測温抵抗体3を浸漬し、この状態で測温抵抗体3と電解用電極との間に5Vの電圧を8秒間印加した。
【0089】
空隙8はKOH水溶液を使用した異方性エッチングにより形成した。
【0090】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0091】
[実施例3]
本実施例では、第三の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0092】
シリコン基板4は単結晶シリコンから形成し、その厚みは0.4mmとした。絶縁層5はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは1μmとした。測温抵抗体3、導体配線6及び端子電極は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。測温抵抗体3は蛇行状にパターニングした。
【0093】
絶縁性被覆10はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは0.5μmとした。金属被覆11及び給電用導体配線12は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。給電用接続端子13は金の蒸着により形成した。
【0094】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に金属被覆11を浸漬し、この状態で金属被覆11と電解用電極との間に5Vの電圧を8秒間印加した。
【0095】
空隙8はKOH水溶液を使用した異方性エッチングにより形成した。
【0096】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0097】
[比較例1]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例1において、電着物から構成される触媒燃焼体2を形成せず、それに代えてアルミナ担体とパラジウム触媒とを備える触媒燃焼体を形成した。
【0098】
触媒燃焼体を形成するにあたっては、比表面積100m2/gのアルミナ粉末とアルミナゾルとを混合してペーストを調製し、このペーストを測温抵抗体3に付着させた。続いてこのペーストを800℃で焼成して、直径0.8mmのアルミナ担体を形成した。このアルミナ担体に、濃度10質量%の硝酸パラジウム溶液を含浸し、続いてこのアルミナ担体を更に500℃で加熱することで、パラジウム触媒を担体に担持させた。
【0099】
補償用素子としては、アルミナ担体にパラジウム触媒が担持されていない以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0100】
[比較例2]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例2において、電着物から構成される触媒燃焼体を形成しなかった。それに代えて、パラジウムを10質量%の割合で担持する多孔質のアルミナ粒子を含有するペーストを測温抵抗体上に付着させ、続いてこのペーストを加熱することで、厚み1μmの触媒燃焼体を形成した。
【0101】
補償用素子としては、触媒燃焼体の形成にあたってパラジウムを担持しないアルミナ粒子を使用したこと以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0102】
[比較例3]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例3において、電着物から構成される触媒燃焼体を形成しなかった。それに代えて、パラジウムを10質量%の割合で担持する多孔質のアルミナ粒子を含有するペーストを金属被覆上に付着させ、続いてこのペーストを加熱することで、厚み1μmの触媒燃焼体を形成した。
【0103】
補償用素子としては、触媒燃焼体の形成にあたってパラジウムを担持しないアルミナ粒子を使用したこと以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0104】
[評価試験]
(アルコールに対する応答性評価試験)
実施例1,2及び比較例1,2のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0105】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧(実施例1及び比較例1では0.6V、実施例2,3及び比較例2,3では4.5V)が印加されるように動作させることで、触媒燃焼体の温度が300℃となるようにした。この状態で検知用素子及び補償用素子を、エタノール含有率500ppmの雰囲気中に曝露した。
【0106】
曝露開始時からの接触燃焼式ガスセンサの出力の経時変化を図7及び図8に示す。この結果によれば、比較例1よりも実施例1の場合の方が出力が大きく、しかも出力がより速やかに安定した。また比較例2よりも実施例2の場合の方が出力が大きく、しかも出力がより速やかに安定した。
【0107】
(アルコール濃度特性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0108】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、アルコールを含有する雰囲気に曝露し、出力を安定化させてからこの出力を測定した。
【0109】
アルコールの含有率が異なる種々の雰囲気中で上記測定をおこなうことで、アルコール濃度変化に対する出力変化を調査した。その結果を図9に示す。この結果によると、実施例1〜3ではアルコール濃度に対して出力がリニアに変化した。また比較例1よりも実施例1の方が出力が大きく、比較例2よりも実施例2の方が出力が大きく、更に比較例3よりも実施例3の方が出力が大きかった。
【0110】
(ケイ素化合物被毒性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0111】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、水素1000ppm、ケイ素化合物(ヘキサメチルジシロキサン)を10ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露した。
【0112】
曝露開始時を基準として、接触燃焼式ガスセンサの出力変化率を調査した。その結果を図10に示す。この結果に示されるように、実施例1〜3では出力の変化は小さいのに対し、比較例1〜3では出力は時間経過に伴って急激に変化した。
【0113】
(ヒートクリーニング性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0114】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、水素を1000ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露した。この場合の接触燃焼式ガスセンサの出力を初期値とした。続いて検知用素子及び補償用素子を、水素1000ppm、ケイ素化合物(ヘキサメチルジシロキサン)を10ppmの含有率で含有する雰囲気に、初期値からの出力変化率が50%前後になるまで曝露した。
【0115】
続いて、検知用素子及び補償用素子を清浄大気中に曝露し、この状態で検知用素子に高電圧状態の印加電圧(実施例1及び比較例1では0.8V、実施例2,3及び比較例2,3では6V)を5秒間印加して触媒燃焼体の温度が500℃となるようにし、続いて、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させた。この状態で検知用素子及び補償用素子を再び水素を1000ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露し、この場合の初期値からの出力変化率を調査した。
【0116】
その結果を図11に示す。この結果によると、実施例1〜3ではヒートクリーニングにより出力が大きく回復したが、比較例1〜3では出力は殆ど回復しなかった。
【符号の説明】
【0117】
1 検知用素子
2 触媒燃焼体
3 測温抵抗体
5 絶縁層
10 絶縁性被覆
11 金属被覆
【技術分野】
【0001】
本発明は接触燃焼式ガスセンサに適用される検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可燃性ガスの検出のために、接触燃焼式ガスセンサが使用されている。接触燃焼式ガスセンサには、ヒータを兼ねる測温抵抗体と、触媒燃焼体とを備える検知用素子が設けられる。測温抵抗体は例えばコイル状に成形された白金等の金属で形成される。触媒燃焼体は、例えばアルミナなどの金属酸化物等から形成される多孔質の担体と、この担体内に分散されている燃焼触媒とを備えている。触媒燃焼体は測温抵抗体を覆うように形成される。
【0003】
この接触燃焼式ガスセンサでは、触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼し、それにより測温抵抗体の温度が上昇してその電気抵抗値が変化する。この測温抵抗体の電気抵抗値の変化に基づいて可燃性ガスが検知され、或いは更にその濃度が測定される。
【0004】
接触燃焼式ガスセンサは、動作原理が簡単なこと、長期の安定性に優れていること、周囲温度や湿度による影響が少ないことなどの利点を有し、例えば可燃性ガス検知器や水素漏洩検知用途などに適用されている。
【0005】
しかし、このような接触燃焼式ガスセンサでは、可燃性ガスの燃焼により生じる熱が担体を通じて測温抵抗体に達することで可燃性ガスが検知されるため、可燃性ガスの濃度が低い場合には充分な検知感度が得られなくなることがあり、また可燃性ガスが燃焼してから測温抵抗体の温度が上昇するまでの間のタイムラグが大きくなって充分な応答性が得られないこともあった。このため接触燃焼式ガスセンサは低濃度の可燃性ガスを検知するには不向きであると考えられていた。
【0006】
また、接触燃焼式ガスセンサには被毒物質により被毒されることで性能が劣化しやすいという問題もある。特に接触燃焼式ガスセンサがケイ素化合物を含む雰囲気下で使用されると、感度が低下しやすい。
【0007】
そこで、コイル状などの形状に形成された測温抵抗体に更に触媒燃焼性を付与することで測温抵抗体が触媒燃焼体を兼ねるようにして熱伝達のロスを低減することも提案されており、一定の成果が上がっている。しかし、この場合は触媒燃焼体の表面積が小さくなることから、低濃度の可燃性ガスの検知感度には限界があった。また、検知用素子にケイ素化合物を除去するためのシリコントラップ層を設けることも提案され、ケイ素化合物による被毒防止に関して大きな成果が得られている。しかし、この場合も検知感度については同様の問題があり、また可燃性ガスはシリコントラップ層を通過してから触媒燃焼体に到達するため応答性の向上にも限界があった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第WO2007/099933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、可燃性ガスの濃度が低い場合であっても検知感度が高く、且つ応答性に優れ、更にケイ素化合物等の被毒物質により被毒されにくい接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る検知用素子は、測温抵抗体と触媒燃焼体とを備え、前記触媒燃焼体が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有し、前記触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化し、この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知されるように動作する接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子において、前記触媒燃焼体が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。
【0011】
前記測温抵抗体がコイル状に形成され、前記触媒燃焼体が前記測温抵抗体上に形成されていてもよい。
【0012】
検知用素子は更にシリコン基板と、このシリコン基板上に形成されている絶縁層とを備え、前記測温抵抗体が前記絶縁層上に形成されていてもよい。
【0013】
前記測温抵抗体が絶縁性被覆により覆われ、この絶縁性被覆上に更に金属被覆が形成され、前記金属被覆上に前記触媒燃焼体が形成されていてもよい。
【0014】
前記可燃性ガスがアルコール及び水素のうちの少なくとも一種であってもよい。
【0015】
前記触媒燃焼体が、パラジウムから形成されていてもよい。
【0016】
本発明に係る接触燃焼式ガスセンサは、前記検知用素子と、この検知用素子における測温抵抗体へ電圧を印加すると共に、前記測温抵抗体へ印加される電圧を、通常状態と、この通常状態よりも高い高電圧状態とに切り替え可能な測定用回路とを備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、可燃性ガスの濃度が低い場合であっても検知感度が高く、且つ応答性に優れ、ケイ素化合物等の被毒物質により被毒されにくく、更にケイ素化合物等の被毒物質により被毒されても容易に感度が回復可能な接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子及び接触燃焼式ガスセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一の実施形態における検知用素子を示す正面図である。
【図2】本発明の第一から第三の実施形態における回路図である。
【図3】本発明の第二の実施形態における検知用素子を示す、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図4】本発明の第三の実施形態における検知用素子を示す、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図5】実施例1における検知用素子の全体を示す顕微鏡写真である。
【図6】実施例1における検知用素子の一部を示す顕微鏡写真である。
【図7】実施例1及び比較例1についての、アルコールに対する応答性評価試験の結果を示すグラフである。
【図8】実施例2及び比較例2についての、アルコールに対する応答性評価試験の結果を示すグラフである。
【図9】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、アルコール濃度特性評価試験の結果を示すグラフである。
【図10】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、ケイ素化合物被毒性評価試験の結果を示すグラフである。
【図11】実施例1〜3及び比較例1〜3についての、ヒートクリーニング性評価試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の第一から第三の実施形態について説明する。
【0020】
第一の実施形態による接触燃焼式ガスセンサは、検知用素子1、補償用素子14、及び測定用回路を備える。
【0021】
図1に示される検知用素子1は、測温抵抗体3と触媒燃焼体2とを備える。測温抵抗体3は触媒燃焼体2によって覆われているため、図1には測温抵抗体3は現れていない。
【0022】
測温抵抗体3は自身の温度変化に従って自身の電気抵抗値の変化を生じる。この電気抵抗値の変化に基づいて、可燃性ガスが検知されると共にその濃度が測定される。測温抵抗体3は触媒燃焼体2を加熱するヒータを兼ねている。
【0023】
本実施形態における測温抵抗体3は金属線から形成されるコイルである。この金属線は、白金、パラジウム、ニッケル、鉄−パラジウム合金、これらの金属の合金などから目的に応じて選択された材質から形成される。測温抵抗体3の寸法は適宜設定されるが、例えば測温抵抗体3を構成する金属線の線径10〜50μmの範囲、測温抵抗体3全体の直径0.1〜0.5mmの範囲、長さ0.3〜1.2mmの範囲、ターン数4〜15の範囲で形成される。金属線の線径が小さいほど、感度は向上する。
【0024】
触媒燃焼体2は、測温抵抗体3の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2の材質として、接触燃焼式ガスセンサによる検知対象のガス種に応じた適宜の材質が選択されるが、例えば白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属種や、コバルト、銅などの卑金属種が挙げられる。特に触媒燃焼体2がパラジウムから形成されることは、アルコール検知用或いは水素検知用の接触燃焼式ガスセンサを得るために好適であり、しかも長期信頼性の高い接触燃焼式ガスセンサが得られる。
【0025】
この触媒燃焼体2は、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。樹枝状の電着物とはJIS H0400−1982で定義される樹枝状めっき(trees;dendrite)である。
【0026】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、測温抵抗体3と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この測温抵抗体3と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが測温抵抗体3の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。
【0027】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が10〜80秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0028】
測温抵抗体3上での電着物の量は適宜設定される。尚、電着物の量が多いほど、素子のケイ素化合物に対する耐久性が高くなる。この電着物の質量は、例えば測温抵抗体3の質量の2〜20%の範囲となるように調整される。
【0029】
検知用素子1の両端には、それぞれリード線9が接続されている。このリード線9は例えば測温抵抗体3と同一材質の金属線から形成される。リード線9及び測温抵抗体3は、一本の金属線が成形されることで得られてもよい。このリード線9は、検知用素子1が測定用回路に組み込まれる際に利用される。
【0030】
補償用素子14は、雰囲気温度変化等によって生じる測温抵抗体3の電気抵抗値の変化を補正するために用いられる。これにより、可燃性ガスの燃焼に起因する測温抵抗体3の電気抵抗値の変化がより正確に測定される。
【0031】
補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似する温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0032】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子が挙げられる。この場合、樹枝状又はひげ状の電着物で構成される触媒燃焼体2は低質量であるため、この触媒燃焼体2が検知用素子1及び補償用素子14の熱容量に与える影響は少なく、このため検知用素子1と近似した温度−抵抗特性を有する補償用素子14が容易に得られる。また、補償用素子14に検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されてもよく、或いは補償用素子14に触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されてもよい。この場合、触媒燃焼活性を有しない卑金属の電着によって可燃性ガス燃焼活性を有しない補償用素子14が得られる。またこれにより、補償用素子14の温度−抵抗特性を検知用素子1と更に近似させることができ、或いは両者の温度−抵抗特性を同じにすることができる。
【0033】
検知用素子1と補償用素子14は、例えば図2に示すような測定用回路に組み込まれる。
【0034】
この測定用回路では、検知用素子1と補償用素子14と第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18とがブリッジ回路を構成している。ブリッジ回路の第三の端子25と第四の端子26との間の電圧が電圧計15により測定されると、その結果から測温抵抗体3の電気抵抗値の変化が求められ、これに基づいて可燃性ガスの濃度が導出される。
【0035】
図示のブリッジ回路では、第一の端子23と第二の端子24との間に、検知用素子1と補償用素子14とが直列に接続されると共に、第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18が直列に接続されている。この検知用素子1と補償用素子14からなるユニットと第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18からなるユニットとは、第一の端子23と第二の端子24との間で並列になっている。第三の端子25は第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18との間の配線にあり、第四の端子26は検知用素子1と補償用素子14との間の配線にある。
【0036】
第一の端子23と第二の端子24の間には平衡調整用の可変抵抗19が接続されている。この可変抵抗19の中間タップは、第一の固定抵抗17と第二の固定抵抗18との間の配線に接続されている。第一の端子23と第二の端子24との間には、可変抵抗20、スイッチ16、第一の直流電源21及び第二の直流電源22も設けられている。第一の端子23と第二の端子24との間では、可変抵抗19と、可変抵抗20、スイッチ16、第一の直流電源及び第二の直流電源22で構成されているユニットとが、並列になっている。スイッチ16は、第一の端子23と第二の端子24との間で可変抵抗20と第一の直流電源21とが直列に接続されている状態と、第一の端子23と第二の端子24との間で可変抵抗20と第二の直流電源22とが直列に接続されている状態とを切り替える。可変抵抗20の抵抗値が調整されると、第一の端子23と第二の端子24との間に印加される電圧が調整される。
【0037】
この測定用回路では、検知用素子1に印加される電圧値が、通常状態と高電圧状態との二段階に切り替わる。図示の例では、スイッチ16が切り替わることで、起電力が異なる第一の直流電源21と第二の直流電源22のうちのどちらが検知用素子1と補償用素子14とに電圧を印加するのかが、切り替わる。第一の直流電源21は検知用素子1に通常状態の印加電圧を印加し、第二の直流電源22は検知用素子1に高電圧状態の印加電圧を印加する。
【0038】
検知用素子1に通常状態の印加電圧が印加されると、検知用素子1の温度が、可燃性ガスを検知可能な所定の温度に維持される。この通常状態の印加電圧の値は、必要に応じて可変抵抗20によって調整される。高電圧状態の印加電圧は、通常状態の印加電圧よりも高い値の電圧であり、後述するヒートクリーニングが可能な適宜の値に設定されるが、例えば高電圧状態の印加電圧が印加された状態での触媒燃焼体2の温度が、通常状態の印加電圧が印加された場合での触媒燃焼体2の温度よりも100〜300℃高い温度となるように設定される。
【0039】
この接触燃焼式ガスセンサにより可燃性ガスが検知される場合には、まず第一の直流電源21から第一の端子23と第二の端子24との間に電圧が印加されると共に、可変抵抗19が調整されてブリッジ回路の平衡状態が維持される。この場合、検知用素子1には通常状態の印加電圧が印加され、測温抵抗体3が通電することで加熱され、それにより触媒燃焼体2が、可燃性ガスが検知可能な所定の温度に加熱される。
【0040】
この状態で、検知用素子1に可燃性ガスが到達すると、触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼し、それにより測温抵抗体3の温度が上昇してその電気抵抗値が増大する。一方、燃焼触媒活性を有しない補償用素子14に可燃性ガスが到達しても、可燃性ガスは燃焼せず、補償用素子14の電気抵抗値は変化しない。したがって、検知用素子1と補償用素子14との間で電気抵抗差が発生し、端子25,d間にブリッジ電圧が発生する。このブリッジ電圧は可燃性ガスの濃度に比例する。このブリッジ電圧が電圧計15で測定され、その結果に基づいて可燃性ガスの濃度が求められる。
【0041】
このようにして可燃性ガスが検出されるにあたり、本実施形態では触媒燃焼体2が担体を備えず、測温抵抗体3上に付着している電着物から構成されているため、触媒燃焼体2の質量を小さくすることが可能である。触媒燃焼体2の質量が小さいと、測温抵抗体3が通電加熱される場合にそれに伴って触媒燃焼体2も速やかに加熱され、このため接触燃焼式ガスセンサの起動時間が非常に短くなる。また、触媒燃焼体2上で可燃性ガスが燃焼することで触媒燃焼体2が加熱されると、それに伴って測温抵抗体3も速やかに加熱される。このため可燃性ガスの濃度が低濃度であっても検知感度が優れたものとなり、また接触燃焼式ガスセンサの応答性も非常に優れたものとなる。更に触媒燃焼体2は樹枝状又はひげ状の電着物から構成されているため、触媒燃焼体2全体の体積に比して触媒の表面積が大きく、このため触媒燃焼体2はその体積が小さくても大きな触媒活性を発揮する。このことによっても、接触燃焼式ガスセンサの検知感度は非常に高くなる。
【0042】
特に本実施形態では測温抵抗体3と触媒燃焼体2とが直接重なっているため、両者間の熱の移動は非常に速やかとなり、従って起動特性、検知感度、及び応答性が非常に優れたものとなる。
【0043】
また、触媒燃焼体2を構成している樹枝状又はひげ状の複数の電着物は測温抵抗体3の表面から離れる方向へ延びるような形状を有するため、測温抵抗体3の上に直接触媒燃焼体2が形成されていても、この触媒燃焼体2が測温抵抗体3の電気抵抗値に与える影響は小さい。このため測温抵抗体3の電気抵抗値が触媒燃焼体2によって減少することが抑制される。
【0044】
更に、金属酸化物で構成される担体と較べると、電着物から構成される触媒燃焼体2にはケイ素化合物等のような触媒燃焼体2の活性を失われる被毒物質が付着しにくく、しかも多孔質な担体の場合のような細孔が存在しないため触媒燃焼体2内に被毒物質が入り込みにくい。このため、接触燃焼式ガスセンサが被毒物質によって被毒されにくくなる。ケイ素化合物等の被毒物質に対する耐久性は、触媒燃焼体2を構成する電着物の量が多いほど向上する。
【0045】
更に、電着により触媒燃焼体2が形成されることで、触媒燃焼体2の量が容易に調整され、このため接触燃焼式ガスセンサが量産される場合であっても触媒燃焼体2の量のばらつきが容易に低減される。このため、性能のばらつきの少ない接触燃焼式ガスセンサが容易に量産可能となる。
【0046】
また、この接触燃焼式ガスセンサによる可燃性ガスの検知が行われていない間に、スイッチ16が切り替えられることで第二の直流電源22から第一の端子23と第二の端子24との間に電圧が印加されると、検知用素子1には高電圧状態の印加電圧が印加される。これにより測温抵抗体3が通電加熱され、これにより触媒燃焼体2が、通常状態よりも高い温度まで加熱される。そうすると、触媒燃焼体2にケイ素化合物等の被毒物質が付着していても、この被毒物質が分解又は蒸発して除去されて、触媒燃焼体2がクリーニングされる。このようにして接触燃焼式ガスセンサのヒートクリーニングがなされる。このヒートクリーニングにおいては、金属酸化物で構成されている多孔質の担体と較べて、樹枝状又はひげ状の電着物から構成されている触媒燃焼体2からは、ケイ素化合物等の被毒物質が非常に除去されやすく、このためヒートクリーニングの効率が非常に高い。
【0047】
図3に第二の実施形態を示す。図3に示される検知用素子1は、測温抵抗体3、触媒燃焼体2、シリコン基板4及び絶縁層5を備える。
【0048】
シリコン基板4は単結晶シリコンなどから形成される。シリコン基板4の厚みは例えば0.3〜0.4mmの範囲である。
【0049】
絶縁層5はシリコン基板4の厚み方向の片側の面上に形成される。絶縁層5は例えばSiO2から形成される。この絶縁層5は、例えばスパッタリング法によりSiO2がシリコン基板4上に堆積することで形成される。絶縁層5の厚みは例えば0.4〜0.8μmの範囲に形成される。
【0050】
第一の実施形態と同様に、測温抵抗体3は触媒燃焼体2を加熱するヒータを兼ねている。この測温抵抗体3は絶縁層5上に形成される。測温抵抗体3は目的に応じて選択された材質から形成され、例えば白金から形成される。測温抵抗体3は平板状に形成されてもよく、適宜のパターン形状、例えば蛇行状や櫛形パターン形状に形成されてもよい。測温抵抗体3の厚みは適宜設定されるが、例えば0.05〜0.3μmの範囲で形成される。このような測温抵抗体3は、例えば絶縁層5上に白金等の金属がスパッタリング法などにより堆積し、これにより形成された金属の層がフォトリソグラフィーとエッチングによってパターニングされることで形成される。
【0051】
絶縁層5上には、測温抵抗体3の一方の端部に導通する導体配線6と、測温抵抗体3の他方の端部に接続する導体配線6も形成されている。二つの導体配線6は、例えば測温抵抗体3と同時に測温抵抗体3の場合と同じ方法で形成される。各導体配線6の端部上には接続端子7が形成されている。接続端子7は例えば蒸着法などで形成される金などからなる層などで構成される。この導体配線6及び接続端子7は、検知用素子1が測定用回路に組み込まれる際に利用される。
【0052】
触媒燃焼体2は、測温抵抗体3の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2は、第一の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では触媒燃焼体2は測温抵抗体3上に直接重ねて形成されている。触媒燃焼体2の材質は、第一の実施形態の場合と同じでよい。
【0053】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、測温抵抗体3と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この測温抵抗体3と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが測温抵抗体3の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。測温抵抗体3への電圧の印加にあたって、接続端子7及び導体配線6を利用することができる。
【0054】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が5〜20秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0055】
測温抵抗体3上での電着物の量は適宜設定される。尚、電着物の量が多いほど、素子のケイ素化合物に対する耐久性が高くなる。この電着物の量は、例えば触媒燃焼体2の厚みが0.2〜2μmの範囲となるように調整される。
【0056】
本実施形態では、シリコン基板4内に空隙8が形成され、この空隙8と測温抵抗体3とが積層方向に並んでいることが好ましい。この積層方向とは、シリコン基板4、絶縁層5及び測温抵抗体3が積層している方向のことである。このような空隙8が形成されていると、測温抵抗体3とシリコン基板4との間の熱伝導が抑制され、測温抵抗体3の加熱に必要とされる通電量が低減されて省電力化がなされると共に測温抵抗体3の温度が安定化して検知感度が向上する。このような空隙8は、例えば絶縁層5の表面が測温抵抗体3の周囲を取り囲む領域を除いてマスクされた状態で、KOH水溶液などによる異方性エッチング処理が施されることで形成される。この場合、空隙8は測温抵抗体3の周囲を取り囲む領域において外部に開口する。
【0057】
本実施形態においても、接触燃焼式ガスセンサは更に補償用素子14及び測定用回路を備えていてもよい。補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似した温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0058】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、第一の実施形態の場合と同様に、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子、検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子、触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子などが、挙げられる。
【0059】
測定用回路の構成は、第一の実施形態の場合と同じでよい。
【0060】
本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第一の実施形態の場合と同様に動作し、第一の実施形態の場合と同様の優れた性能を発揮する。
【0061】
また、本実施形態は、マイクロセンサと呼ばれるレベルの超小型のセンサを得るために好適であり、この場合、検知用素子1の質量を小くして更なる高感度化や応答性の向上が可能となる。
【0062】
図4に第三の実施形態を示す。図4に示される検知用素子1は、測温抵抗体3、触媒燃焼体2、シリコン基板4、絶縁層5、絶縁性被覆10及び金属被覆11を備える。
【0063】
シリコン基板4、絶縁層5及び測温抵抗体3の構成は、第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0064】
絶縁性被覆10は、絶縁層5上で測温抵抗体3を覆うように形成される。すなわち絶縁性被覆10は絶縁層5上に形成され、且つ絶縁層5における測温抵抗体3が形成されている位置では測温抵抗体3上に形成される。測温抵抗体3が蛇行状や櫛形状等の適宜のパターン形状を有する場合には、絶縁層5上における測温抵抗体3の間の測温抵抗体3が形成されていない箇所を含む測温抵抗体3よりも広い領域に亘って絶縁性被覆10が形成されることで、絶縁性被覆10が測温抵抗体3を覆ってもよい。
【0065】
この絶縁性被覆10は、例えばSiO2などの絶縁性の無機化合物から形成される。また絶縁性被覆10は例えばスパッタリング法等によりSiO2などの絶縁性の無機化合物が絶縁層5及び測温抵抗体3の上に堆積することで形成される。絶縁性被覆10の厚みは適宜設定されるが、例えば0.4〜0.8μmの範囲に形成される。
【0066】
金属被覆11は、絶縁性被覆10の上の、絶縁性被覆10と測温抵抗体3とが重なっている位置に形成される。これにより、測温抵抗体3の上に絶縁性被覆10を介して金属被覆11が形成される。測温抵抗体3が蛇行状や櫛形状等の適宜のパターン形状を有する場合には、金属被覆11は絶縁性被覆10上で、測温抵抗体3の間の測温抵抗体3が形成されていない箇所を含む測温抵抗体3よりも広い領域に亘って形成されてもよい。
【0067】
金属被覆11は例えば白金、金などから形成される。金属被覆11の厚みは適宜設定されるが、例えば0.05〜0.3μmの範囲で形成される。このような金属被覆11は、例えば絶縁性被覆10上に白金等の金属がスパッタリング法などにより堆積することで形成され、或いはこれにより形成された金属の層が必要に応じてフォトリソグラフィーとエッチングによってパターニングされることで形成される。
【0068】
また、絶縁層5上には金属被覆11に導通する給電用導体配線12が形成されている。本実施形態では二つの給電用導体配線12が形成されているが、給電用導体配線12は一つでもよい。この給電用導体配線12は、例えば金属被覆11と同時に金属被覆11の場合と同じ方法で形成される。給電用導体配線12の端部上には給電用接続端子13が形成されている。給電用接続端子13は例えば蒸着法などにより形成される金などからなる層で構成される。
【0069】
触媒燃焼体2は、金属被覆11の表面上に付着している電着物のみから構成され、担体を有しない。触媒燃焼体2は、第一及び第二の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では測温抵抗体3、絶縁性被覆10、金属被覆11及び触媒燃焼体2がこの順番に積層して形成される。
【0070】
触媒燃焼体2の材質として、接触燃焼式ガスセンサによる検知対象のガス種に応じた適宜の材質が選択されるが、例えば白金、ロジウム、パラジウム等の貴金属種や、コバルト、銅などの卑金属種が挙げられる。
【0071】
触媒燃焼体2は、金属被覆11の表面上に付着している電着物から構成される。触媒燃焼体2は、第一及び第二の実施形態と同様に樹枝状又はひげ状の電着物から構成される。本実施形態では触媒燃焼体2は測温抵抗体との間に絶縁性被覆10及び金属被覆11を介して重ねて形成されている。触媒燃焼体2の材質は、第一及び第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0072】
触媒燃焼体2は電気めっきにより形成される。例えば触媒燃焼体2がパラジウムから形成される場合には、まず硝酸パラジウム等のパラジウム塩を含む電解液中に、金属被覆11と、電解用電極とが浸漬される。電解用電極の材質としては白金が挙げられる。この金属被覆11と電解用電極との間に電圧が印加されることで、パラジウムが金属被覆11の表面上に電着し、触媒燃焼体2が形成される。金属被覆11への電圧の印加にあたって、給電用接続端子13及び給電用導体配線12を利用することができる。
【0073】
電解条件は、電着物が樹枝状又はひげ状に形成されるような適宜の条件に設定される。例えばパラジウムの電着時の電解条件は、電解液中のパラジウムイオン濃度が0.01〜1mol/Lの範囲、印加電圧が3〜7Vの範囲、電着時間が5〜20秒の範囲であることが好ましい。印加電圧は約1.5V以上であればパラジウムの電着が生じるが、この印加電圧が3V以上になると電着物が樹枝状又はひげ状に形成されやすくなる。印加電圧が大きすぎると電解液中に白金微粒子が析出してしまって目的とする電着物が析出しにくくなるので、印加電圧の上限は7Vに制限されることが好ましい。
【0074】
本実施形態でも、第二の実施形態と同様にシリコン基板4内に空隙8が形成され、この空隙8と測温抵抗体3とが積層方向に並んでいることが好ましい。この空隙8は、第二の実施形態の場合と同様の手法により形成される。
【0075】
本実施形態においても、接触燃焼式ガスセンサは更に補償用素子14及び測定用回路を備えていてもよい。補償用素子14は、可燃性ガス燃焼活性を有しない以外は検知用素子1と同じ或いは近似した温度−抵抗特性を有することが好ましい。
【0076】
本実施形態における検知用素子1と対になる補償用素子14としては、第一及び第二の実施形態の場合と同様に、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構造を有する素子、検知用素子1の場合と同様の触媒燃焼体2が形成され、更にこの触媒燃焼体2上にマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子、触媒燃焼体2が形成されずそれに代えてマンガン等の触媒燃焼活性を有しない卑金属が電着されている素子などが、挙げられる。
【0077】
測定用回路の構成は、第一及び第二の実施形態の場合と同じでよい。
【0078】
本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第一及び第二の実施形態の場合と同様に動作し、第一及び第二の実施形態の場合と同様の優れた性能を発揮する。更に、本実施形態による接触燃焼式ガスセンサも、第二の実施形態の場合と同様にマイクロセンサと呼ばれるレベルの超小型のセンサを得るために好適であり、この場合、検知用素子1の質量を小くして更なる高感度化や応答性の向上が可能となる
更に、本実施形態では測温抵抗体3と触媒燃焼体2との間に絶縁性被覆10と金属被覆11とが介在し、触媒燃焼体2が測温抵抗体3の上に直接形成されていないため、触媒燃焼体2が測温抵抗体3の電気抵抗値に与える影響が第一及び第二の実施形態よりも小さくなる。尚、触媒燃焼体2と測温抵抗体3との間の熱の移動が絶縁性被覆10及び金属被覆11によって阻害されないようにするという観点からは、絶縁性被覆10及び金属被覆11の厚みはできるだけ薄い方が好ましい。また、金属被覆11の表面積を測温抵抗体3の表面積よりも大きくすることが可能であり、この場合、金属被覆11上に形成される触媒燃焼体2の量を測温抵抗体3上に直接形成される場合よりも大きくすることができ、それにより接触燃焼式ガスセンサの更なる高感度化が可能となる。
【0079】
上記の各実施形態に係る接触燃焼式ガスセンサは、測温抵抗体3や触媒燃焼体2の材質が種々変更されることで、種々の可燃性ガスの検出に対応可能である。これらの接触燃焼式ガスセンサは、優れた検知感度と応答性を発揮することから、特に水素漏洩検知などのための水素ガスセンサや、アルコールチェッカーのためのアルコールガスセンサとして好適に使用され、この場合は、触媒燃焼体2は特にパラジウムから形成されることが好ましい。
【0080】
上記の各実施形態は、本発明の好ましい実施形態であるが、本発明はこれらの実施形態に制限されず、本発明の目的及び範囲を逸脱しないのであれば、材質、形状の変更、公知技術の付加、転用などの、適宜の設計変更等が可能である。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の具体的な実施例を提示する。但し、本発明はこれらの実施例に制限されることはない。
【0082】
[実施例1]
本実施例では,第一の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0083】
測温抵抗体3は、線径0.02mmの白金線から形成し、その外径を0.23mm,巻回数を10ターン,長さを0.4mmとした。
【0084】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に測温抵抗体3を浸漬し、この状態で測温抵抗体3と電解用電極との間に5Vの電圧を80秒間印加した。図5及び図6は、検知用素子1の電子顕微鏡写真であり、これによると、触媒燃焼体2は樹枝状の電着物で構成されている。
【0085】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0086】
[実施例2]
本実施例では、第二の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0087】
シリコン基板4は単結晶シリコンから形成し、その厚みは0.4mmとした。絶縁層5はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは0.4μmとした。測温抵抗体3及び導体配線6は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。測温抵抗体3は蛇行状にパターニングした。端子電極は金の蒸着により形成した。
【0088】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に測温抵抗体3を浸漬し、この状態で測温抵抗体3と電解用電極との間に5Vの電圧を8秒間印加した。
【0089】
空隙8はKOH水溶液を使用した異方性エッチングにより形成した。
【0090】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0091】
[実施例3]
本実施例では、第三の実施形態と同じ構成を有する検知用素子1を使用した。
【0092】
シリコン基板4は単結晶シリコンから形成し、その厚みは0.4mmとした。絶縁層5はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは1μmとした。測温抵抗体3、導体配線6及び端子電極は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。測温抵抗体3は蛇行状にパターニングした。
【0093】
絶縁性被覆10はSiO2のスパッタリングにより形成し、その厚みは0.5μmとした。金属被覆11及び給電用導体配線12は、白金のスパッタリングと、それに続くフォトリソグラフィーとエッチングとにより形成し、その厚みは0.1μmとした。給電用接続端子13は金の蒸着により形成した。
【0094】
触媒燃焼体2はパラジウムの電着物から形成した。触媒燃焼体2を形成するにあたっては、まず白金からなる電解用電極を備えるスポイド内を硝酸パラジウムの濃度0.05mol/Lの水溶液で満たすと共に、このスポイドの先端に前記硝酸パラジウム水溶液の水滴を形成した。この水滴中に金属被覆11を浸漬し、この状態で金属被覆11と電解用電極との間に5Vの電圧を8秒間印加した。
【0095】
空隙8はKOH水溶液を使用した異方性エッチングにより形成した。
【0096】
補償用素子14としては、触媒燃焼体2を備えない以外は検知用素子1と同じ構成を有する素子を用意した。
【0097】
[比較例1]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例1において、電着物から構成される触媒燃焼体2を形成せず、それに代えてアルミナ担体とパラジウム触媒とを備える触媒燃焼体を形成した。
【0098】
触媒燃焼体を形成するにあたっては、比表面積100m2/gのアルミナ粉末とアルミナゾルとを混合してペーストを調製し、このペーストを測温抵抗体3に付着させた。続いてこのペーストを800℃で焼成して、直径0.8mmのアルミナ担体を形成した。このアルミナ担体に、濃度10質量%の硝酸パラジウム溶液を含浸し、続いてこのアルミナ担体を更に500℃で加熱することで、パラジウム触媒を担体に担持させた。
【0099】
補償用素子としては、アルミナ担体にパラジウム触媒が担持されていない以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0100】
[比較例2]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例2において、電着物から構成される触媒燃焼体を形成しなかった。それに代えて、パラジウムを10質量%の割合で担持する多孔質のアルミナ粒子を含有するペーストを測温抵抗体上に付着させ、続いてこのペーストを加熱することで、厚み1μmの触媒燃焼体を形成した。
【0101】
補償用素子としては、触媒燃焼体の形成にあたってパラジウムを担持しないアルミナ粒子を使用したこと以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0102】
[比較例3]
本比較例では、検知用素子を得るにあたり、実施例3において、電着物から構成される触媒燃焼体を形成しなかった。それに代えて、パラジウムを10質量%の割合で担持する多孔質のアルミナ粒子を含有するペーストを金属被覆上に付着させ、続いてこのペーストを加熱することで、厚み1μmの触媒燃焼体を形成した。
【0103】
補償用素子としては、触媒燃焼体の形成にあたってパラジウムを担持しないアルミナ粒子を使用したこと以外は検知用素子と同じ構成を有する素子を用意した。
【0104】
[評価試験]
(アルコールに対する応答性評価試験)
実施例1,2及び比較例1,2のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0105】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧(実施例1及び比較例1では0.6V、実施例2,3及び比較例2,3では4.5V)が印加されるように動作させることで、触媒燃焼体の温度が300℃となるようにした。この状態で検知用素子及び補償用素子を、エタノール含有率500ppmの雰囲気中に曝露した。
【0106】
曝露開始時からの接触燃焼式ガスセンサの出力の経時変化を図7及び図8に示す。この結果によれば、比較例1よりも実施例1の場合の方が出力が大きく、しかも出力がより速やかに安定した。また比較例2よりも実施例2の場合の方が出力が大きく、しかも出力がより速やかに安定した。
【0107】
(アルコール濃度特性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0108】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、アルコールを含有する雰囲気に曝露し、出力を安定化させてからこの出力を測定した。
【0109】
アルコールの含有率が異なる種々の雰囲気中で上記測定をおこなうことで、アルコール濃度変化に対する出力変化を調査した。その結果を図9に示す。この結果によると、実施例1〜3ではアルコール濃度に対して出力がリニアに変化した。また比較例1よりも実施例1の方が出力が大きく、比較例2よりも実施例2の方が出力が大きく、更に比較例3よりも実施例3の方が出力が大きかった。
【0110】
(ケイ素化合物被毒性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0111】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、水素1000ppm、ケイ素化合物(ヘキサメチルジシロキサン)を10ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露した。
【0112】
曝露開始時を基準として、接触燃焼式ガスセンサの出力変化率を調査した。その結果を図10に示す。この結果に示されるように、実施例1〜3では出力の変化は小さいのに対し、比較例1〜3では出力は時間経過に伴って急激に変化した。
【0113】
(ヒートクリーニング性評価試験)
実施例1〜3及び比較例1〜3のそれぞれにおいて、検知用素子と補償用素子とを測定用回路に組み込んで接触燃焼式ガスセンサを構成した。
【0114】
各接触燃焼式ガスセンサを、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させ、この状態で検知用素子及び補償用素子を、水素を1000ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露した。この場合の接触燃焼式ガスセンサの出力を初期値とした。続いて検知用素子及び補償用素子を、水素1000ppm、ケイ素化合物(ヘキサメチルジシロキサン)を10ppmの含有率で含有する雰囲気に、初期値からの出力変化率が50%前後になるまで曝露した。
【0115】
続いて、検知用素子及び補償用素子を清浄大気中に曝露し、この状態で検知用素子に高電圧状態の印加電圧(実施例1及び比較例1では0.8V、実施例2,3及び比較例2,3では6V)を5秒間印加して触媒燃焼体の温度が500℃となるようにし、続いて、検知用素子に通常状態の印加電圧が印加されるように動作させた。この状態で検知用素子及び補償用素子を再び水素を1000ppmの含有率で含有する雰囲気に曝露し、この場合の初期値からの出力変化率を調査した。
【0116】
その結果を図11に示す。この結果によると、実施例1〜3ではヒートクリーニングにより出力が大きく回復したが、比較例1〜3では出力は殆ど回復しなかった。
【符号の説明】
【0117】
1 検知用素子
2 触媒燃焼体
3 測温抵抗体
5 絶縁層
10 絶縁性被覆
11 金属被覆
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測温抵抗体と触媒燃焼体とを備え、
前記触媒燃焼体が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有し、
前記触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化し、この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知されるように動作する接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子において、
前記触媒燃焼体が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される検知用素子。
【請求項2】
前記測温抵抗体がコイル状に形成され、前記触媒燃焼体が前記測温抵抗体上に形成されている請求項1に記載の検知用素子。
【請求項3】
更にシリコン基板と、このシリコン基板上に形成されている絶縁層とを備え、前記測温抵抗体が前記絶縁層上に形成されている請求項1に記載の検知用素子。
【請求項4】
前記測温抵抗体が絶縁性被覆により覆われ、この絶縁性被覆上に更に金属被覆が形成され、前記金属被覆上に前記触媒燃焼体が形成されている請求項3に記載の検知用素子。
【請求項5】
前記可燃性ガスがアルコール及び水素のうちの少なくとも一種である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の検知用素子。
【請求項6】
前記触媒燃焼体が、パラジウムから形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の検知用素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の検知用素子と、この検知用素子における測温抵抗体へ電圧を印加すると共に、前記測温抵抗体へ印加される電圧を、通常状態と、この通常状態よりも高い高電圧状態とに切り替え可能な測定用回路とを備える接触燃焼式ガスセンサ。
【請求項1】
測温抵抗体と触媒燃焼体とを備え、
前記触媒燃焼体が可燃性ガスの燃焼反応を促進する触媒活性を有し、
前記触媒燃焼体上で可燃性ガスが燃焼するとそれにより生じる熱で前記測温抵抗体が加熱されて前記測温抵抗体の電気抵抗値が変化し、この電気抵抗値の変化によって前記可燃性ガスが検知されるように動作する接触燃焼式ガスセンサ用の検知用素子において、
前記触媒燃焼体が、樹枝状又はひげ状の電着物から構成される検知用素子。
【請求項2】
前記測温抵抗体がコイル状に形成され、前記触媒燃焼体が前記測温抵抗体上に形成されている請求項1に記載の検知用素子。
【請求項3】
更にシリコン基板と、このシリコン基板上に形成されている絶縁層とを備え、前記測温抵抗体が前記絶縁層上に形成されている請求項1に記載の検知用素子。
【請求項4】
前記測温抵抗体が絶縁性被覆により覆われ、この絶縁性被覆上に更に金属被覆が形成され、前記金属被覆上に前記触媒燃焼体が形成されている請求項3に記載の検知用素子。
【請求項5】
前記可燃性ガスがアルコール及び水素のうちの少なくとも一種である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の検知用素子。
【請求項6】
前記触媒燃焼体が、パラジウムから形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の検知用素子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の検知用素子と、この検知用素子における測温抵抗体へ電圧を印加すると共に、前記測温抵抗体へ印加される電圧を、通常状態と、この通常状態よりも高い高電圧状態とに切り替え可能な測定用回路とを備える接触燃焼式ガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2012−37413(P2012−37413A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178506(P2010−178506)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(593210961)エフアイエス株式会社 (39)
【Fターム(参考)】
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