説明

椰子を原材料とした木質材及びその製造方法

【課題】椰子材を、住宅等の建築材料や家具の材料として有効に利用する。
【解決手段】上側表層部11と中層部12と下側表層部13とを積層してなる、椰子50を原材料とした木質材10であって、上側表層部11と下側表層部13には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部12に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用い、中層部12には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椰子を原材料とした木質材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅等の建築材料や家具の材料として、木質材の合板やLVL(単板積層材)が用いられている。合板やLVLは原料として、節や割れの多い材、小径材、端材等の製材に不向きな材を使用することができる。また、得られた板は、異方性が僅少で、加工性、寸法安定性に優れており、反り、狂い割れ等が発生し難い。そして、このような優れた特性を生かして、床材、階段材、家具、土木資材その他多くの場面で使用されている。
【0003】
合板やLVLの原料の樹種としては、かつては東南アジアに自生しているラワン等の南洋材と総称される木材を使用するのが一般的であった。ラワンは大径(直径1m以上が多い)で、材質は均一、節がほとんどなく、適度に軟質で加工も容易なので、合板やLVLの原料として最適であった。しかし、近年、資源枯渇によって入手が極めて困難になりつつある。
【0004】
そこで、ラワンの代替原料として、ダグラスファー(米マツ)、ラジアータパイン、最近では国産スギまでも使用せざるを得ない状況になりつつある。これらの代替原料は、入手が比較的容易で、木材の中では比較的生長が早いものの、ラワンに比較して小径(直径30〜50cm程度)で、材質がやや不均一、節等の欠点が極めて多く、完全にラワンの代替原料となり得ていないのが現状である。しかも、ラジアータパインや国産スギは人工林から安定的に生産継続可能であるが、特に強度に優れたダグラスファーについては、これも資源枯渇化しつつあるといわれている。
【0005】
一方、東南アジア諸国では、古くから椰子の栽培が行われてきた。椰子にはサゴヤシ、アブラヤシ、ココヤシ等多くの種類があり、果実部分を食用とする他、果実の繊維部分を活用して様々な製品が作られている。また、現地では葉も屋根材として利用している。
これに対して、椰子の樹幹部分の利用に関しては、サゴヤシの樹幹からの澱粉採取は工業的に行われているものの、その他の椰子材に関しては、丸太のままでの現地の小屋建築や、工芸品の加工といった用途に一部が用いられる程度で、効果的な利用法がなかった。
【0006】
椰子の樹幹部分が有効に利用されてこなかった理由としては、特に物性等の面で以下のような欠点を有することが挙げられる。
(1)同じ材の中で強度の差が大きいこと
樹皮付近(樹幹の径方向外側)は十分な強度があるものの、中心付近(樹幹の径方向内側)は強度が大幅に劣るので、出来上がった合板の強度にばらつきが生じる。
(2)同じ材の中で含水率のムラが大きく、均一な乾燥が困難なこと
場所によって含水率は50〜100%以上と大きく異なっているので、乾燥コストが高い。乾燥が不十分な場合、製品となった後で反りや狂いが生じる可能性があり、残った水分の影響で黴や腐朽が生じる恐れもある。
(3)伐採後の腐朽が早いこと
生育している場所が高温多湿の熱帯雨林であること、また樹幹部分に澱粉質が多いことから腐朽しやすい。
【0007】
以上の理由のうち、特に上記(1)にあるように、椰子材は樹幹の中心付近が脆く強度が低いため、そのことが木質材の原料として有効に利用されていない主要因となっている。これは、椰子材に限らず、樹幹の中心付近に脆弱な部分(脆心材)を有する木材にも共通した問題点である。
【0008】
これに対して、椰子材を用いた木質材として、特許文献1には、椰子材を板状に製材後、溶解した樹脂を加圧浸透させるとともに、放射線を照射して分子重合させて強化し、得られた板材を所要形状に並べて接着した建材に関する発明が記載されている。
また、特許文献2には、椰子材を製材して長尺木材を得た後、得られた長尺木材を多数隣接させて表裏面から薄板を接着させた、一種のランバーコア合板に関する発明が記載されている。
【特許文献1】特開昭57−195644号公報
【特許文献2】特開2003−62808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、椰子材は樹皮付近と中心付近で強度のバラツキが極めて大きい。そのため、樹皮付近を使用した合板やLVLは強度は十分あるものの、密度が高く重量が過大となってしまう。逆に中心付近を使用すれば軽量となるが、強度が全く不足してしまう。樹樹皮付近と中心付近の両方を使用したとしても、適当に混ぜただけでは強度を確保できない。
【0010】
また、特許文献1や特許文献2に記載された発明では、いったん製材と乾燥を行い寸法を揃えた上で表面材を貼着するといった作業を行う必要があり、製造工程が複雑となる。さらに製材工程では、寸法を揃える段階で相当量が切削されてしまうので、歩留まりが悪化する。特に、強度を確保するために樹皮付近のみを利用する場合は、かなり低い歩留まりとならざるを得ない。
【0011】
また、ランバーコア合板のように製材部分が多いと、「無垢」の木材と同様の挙動を示し、反り、狂い、捩れ、曲がりといった異方性を残した材料となってしまう。また、強化用の樹脂を浸透させたり、放射線を照射して分子重合させる場合には、熱や紫外線等のエネルギー投入による環境負荷が大きい。さらに、製材品を用いると必然的に板厚が厚くなり、薄物板状製品の製造が困難である。
【0012】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、椰子材を、住宅等の建築材料や家具の材料として有効に利用することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明の椰子を原材料とした木質材は、上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材であって、前記上側表層部と前記下側表層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記中層部に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用い、前記中層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いたことを特徴とする。
【0014】
請求項2に係る発明の椰子を原材料とした木質材は、上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材であって、前記上側表層部と前記下側表層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記中層部に用いる単板よりも比重の大きい単板を用い、前記中層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板よりも比重の小さい単板を用いたことを特徴とする。
【0015】
請求項3に係る発明の椰子を原材料とした木質材の製造方法は、上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材の製造方法であって、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する単板加工工程と、前記加工した単板を、単板が得られた樹幹の径方向における位置に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する単板分別工程と、前記上側表層部と前記下側表層部には、前記分別したグループのうち、前記中層部に用いる単板が属するグループよりも前記樹幹の径方向外側部分から得られたグループに属する単板を用い、前記中層部には、前記分別したグループのうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板が属するグループよりも前記樹幹の径方向内側部分から得られたグループに属する単板を用いて積層する単板積層工程と、前記積層した単板を接着一体化する単板接着工程とを有することを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明の椰子を原材料とした木質材の製造方法は、上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材の製造方法であって、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する単板加工工程と、前記加工した単板を、比重に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する単板分別工程と、前記上側表層部と前記下側表層部には、前記分別したグループのうち、前記中層部に用いる単板が属するグループよりも比重の大きいグループに属する単板を用い、前記中層部には、前記分別したグループのうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板が属するグループよりも比重の小さいグループに属する単板を用いて積層する単板積層工程と、前記積層した単板を接着一体化する単板接着工程とを有することを特徴とする。
【0017】
なお、上記請求項1乃至請求項4において、上側表層部、中層部、下側表層部は、それぞれ1枚の単板で構成されていてもよいし、複数枚の単板で構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明においては、上側表層部と下側表層部には、椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用いている。また、中層部には、椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、上側表層部と下側表層部に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いている。このようにして上側表層部と中層部と下側表層部とを積層することにより、強度が高い単板を最も曲げモーメントが作用する表層部に配置し、強度が低い単板を中層部に配置することができる。そして、木質材全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。
【0019】
請求項2に記載の発明においては、上側表層部と下側表層部には、椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部に用いる単板よりも比重の大きい単板を用いている。また、中層部には、椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、上側表層部と下側表層部に用いる単板よりも比重の小さい単板を用いている。このようにして上側表層部と中層部と下側表層部とを積層することにより、強度が高い単板を最も曲げモーメントが作用する表層部に配置し、強度が低い単板を中層部に配置することができる。そして、木質材全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。
【0020】
請求項3に記載の発明の椰子を原材料とした木質材の製造方法においては、単板加工工程で、椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する。
次に単板分別工程で、加工した単板を、単板が得られた樹幹の径方向における位置に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する。椰子は中心付近よりも樹皮付近の方が強度が高いため、単板分別工程により強度の異なる単板を順番にグループ分けすることができる。
次に単板積層工程で、上側表層部と下側表層部には、分別したグループのうち、中層部に用いる単板が属するグループよりも樹幹の径方向外側部分から得られたグループに属する単板を用い、中層部には、分別したグループのうち、上側表層部と下側表層部に用いる単板が属するグループよりも樹幹の径方向内側部分から得られたグループに属する単板を用いて積層する。そして単板接着工程で、積層した単板を接着一体化する。
これにより、最も曲げモーメントが作用する上側表層部と下側表層部には強度の高い単板を配置し、中層部には強度の低い単板を配置することができる。そして、木質材全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。また、これらの工程には、従来の合板やLVLの製造工程と同様に製材工程が存在せず、歩留まりが悪化してしまうことはない。
【0021】
請求項4に記載の発明の椰子を原材料とした木質材の製造方法においては、単板加工工程で、椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する。
次に単板分別工程で、加工した単板を、比重に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する。比重が大きいほど強度が高いため、単板分別工程により強度の異なる単板を順番にグループ分けすることができる。
次に単板積層工程で、上側表層部と下側表層部には、分別したグループのうち、中層部に用いる単板が属するグループよりも比重の大きいグループに属する単板を用い、中層部には、分別したグループのうち、上側表層部と下側表層部に用いる単板が属するグループよりも比重の小さいグループに属する単板を用いて積層する。そして単板接着工程で、積層した単板を接着一体化する。
これにより、最も曲げモーメントが作用する上側表層部と下側表層部には強度の高い単板を配置し、中層部には強度の低い単板を配置することができる。そして、木質材全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。また、これらの工程には、従来の合板やLVLの製造工程と同様に製材工程が存在せず、歩留まりが悪化してしまうことはない。
【0022】
以上、本発明によれば、椰子材を、住宅等の建築材料や家具の材料として有効に利用することができる。
そして、得られた木質材は、反り、狂い、捩れ、曲がりといった異方性が極めて小さい。また、樹脂の使用や熱・紫外線等のエネルギー投入による環境負荷も小さい。また、薄物板状製品の製造も容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に、図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材及びその製造方法について説明する。図1は、実施形態1に係る木質材10を示す断面図であり、図2は、原材料となる椰子50の樹幹の断面を示す斜視図である。また、図3は、実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材10の製造方法を示す工程図である。
【0024】
図1に示すように、木質材10は、5枚の単板を積層した構造となっている(5プライ)。なお、木質材10は、合板、LVL(単板積層材)のいずれであってもよい。
積層構造について詳細に説明すると、木質材10は、上側表層部11,中層部12,下側表層部13から構成されている。さらに、中層部12は、3枚の単板12a,12b,12cから構成されている。また、上側表層部11と下側表層部13は、それぞれ1枚の単板から構成されている。
【0025】
木質材10の原材料としては、図2に示すような椰子50の樹幹が用いられる。椰子50は、樹皮付近(樹幹の径方向外側)に位置する第一部位51と、中心付近(樹幹の径方向内側)に位置する第二部位52からなる。ここで第二部位52の部分は、第一部位51の部分に比べ、強度が低く脆い性質を有している。
椰子50は、後述するように、樹幹周縁に沿って切削されて単板に加工されるが、第一部位51の部分から得られる単板と、第二部位52の部分から得られる単板との乾燥後の比重を比較すると、第一部位51の部分から得られる単板の方が比重が大きく(密度が大きい)、強度が高いものとなる。
【0026】
なお、図2では第一部位51と第二部位52の境界が明確に示されているが、実際には樹皮付近から中心付近に向けて徐々に強度が弱くなり脆くなっている。そこで、第一部位51の部分と第二部位52の部分の境界を予め定めておく。
【0027】
このような性質を持つ椰子材は、これまで樹幹が利用されずに廃棄されることが多かったため、椰子材を用いて木質材を製造することで、資源としての有効活用を図ることができる。
【0028】
また、椰子には、「サゴヤシ」、「アブラヤシ」、「ナツメヤシ」、「ココヤシ」等の様々な種類があるが、いずれの椰子を用いてもよい。中でもアブラヤシは、果実からバイオディーゼル燃料の原料が採取されるため、近年栽培量が急増しており、樹幹部分の廃棄量も増加することが懸念されているため、資源としての有効利用を図る上で好ましい。
【0029】
木質材10の上側表層部11と下側表層部13には、図2における椰子50のうち第一部位51の部分から得られる単板を用いる。一方、中層部12には、椰子50のうち第二部位52の部分から得られる単板を用いる。言い換えると、上側表層部11と下側表層部13には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部12に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用い、中層部12には、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いる。その結果、上側表層部11と下側表層部13に用いられる単板の比重は、中層部12に用いられる単板の比重よりも大きくなる。
【0030】
次に、実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材10の製造方法について説明する。
図3に示すように、実施形態1に係る木質材10の製造方法は、単板加工工程100,単板分別工程200,単板積層工程300,単板接着工程400を有している。
【0031】
まず事前に椰子50の樹幹を一定間隔に切断し、蒸煮等の手段により軟化処理を行う。そして、十分に軟化されると、単板加工工程100において、ロータリーレース等の単板製造装置により、椰子50の樹幹周縁に沿って切削して1〜3mmの厚さの単板を製造する。得られた単板は概ね含水率10%程度に乾燥させ、適当な寸法に裁断し、必要な補修等を行う。なお、単板の乾燥、裁断、補修等は次の単板分別工程200の後で行ってもよい。
【0032】
次に、単板分別工程200において、加工した単板を2つのグループに分別する。分別の基準としては、単板が得られた樹幹の径方向における位置を用いる。すなわち、椰子50の樹幹の樹皮付近(径方向外側)から得られた単板と、中心付近(径方向内側)から得られた単板に分別する。
本実施形態においては、椰子50の樹幹が第一部位51と第二部位52に区分されており、第一部位51から得られた単板を第一グループとし、第二部位52から得られた単板を第二グループとする。
【0033】
また、乾燥後であれば、分別の基準として比重を用いてもよい。すなわち、あらかじめ比重の閾値を定めておいて、比重が閾値よりも大きい単板を第一グループとし、比重が閾値よりも小さい単板を第二グループとする。なお、第一部位51の部分から得られる単板の比重は、第二部位52の部分から得られる単板の比重よりも大きくなる。
【0034】
次に、単板積層工程300において、分別した単板を積層する。積層にあたっては、上側表層部11と下側表層部13には第一グループに属する単板を配置し、中層部12には第二グループに属する単板を配置する。
この結果、上側表層部11と下側表層部13には、中層部12に用いる単板よりも、樹幹の径方向外側部分から得られた単板が配置される(中層部12には、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板が配置される)。
同様に、上側表層部11と下側表層部13には、中層部12に用いる単板よりも、比重の大きい単板が配置される(中層部12には、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも比重の小さい単板が配置される)。
【0035】
次に、単板接着工程400において、積層した単板に接着剤を塗布して接着一体化する。
以上の工程により、木質材10が完成する。
【0036】
このように、実施形態1に係る木質材10においては、上側表層部11と下側表層部13には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部12に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用いている。また、中層部12には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いている。このようにして上側表層部11と中層部12と下側表層部13とを積層することにより、強度が高い単板を最も曲げモーメントが作用する表層部11,13に配置し、強度が低い単板を中層部12に配置することができる。そして、木質材10全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。
【0037】
同様に、実施形態1に係る木質材10においては、上側表層部11と下側表層部13には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部12に用いる単板よりも比重の大きい単板を用いている。また、中層部12には、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板よりも比重の小さい単板を用いている。このようにして上側表層部11と中層部12と下側表層部13とを積層することにより、強度が高い単板を最も曲げモーメントが作用する表層部11,13に配置し、強度が低い単板を中層部12に配置することができる。そして、木質材10全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。
【0038】
また、実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材10の製造方法においては、単板加工工程100で、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する。
次に単板分別工程200で、加工した単板を、単板が得られた樹幹の径方向における位置に応じて、2つのグループに分別する。椰子50は中心付近よりも樹皮付近の方が強度が高いため、単板分別工程200により強度の異なる単板にグループ分けすることができる。
次に単板積層工程300で、上側表層部11と下側表層部13には、分別したグループのうち、中層部12に用いる単板が属するグループ(第二グループ)よりも樹幹の径方向外側部分から得られたグループ(第一グループ)に属する単板を用い、中層部には、分別したグループのうち、上側表層部と下側表層部に用いる単板が属するグループ(第一グループ)よりも樹幹の径方向内側部分から得られたグループ(第二グループ)に属する単板を用いて積層する。そして単板接着工程400で、積層した単板を接着一体化する。
これにより、最も曲げモーメントが作用する上側表層部11と下側表層部13には強度の高い単板を配置し、中層部12には強度の低い単板を配置することができる。そして、木質材10全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。また、これらの工程には、従来の合板やLVLの製造工程と同様に製材工程が存在せず、歩留まりが悪化してしまうことはない。
【0039】
同様に、実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材10の製造方法においては、単板加工工程100で、椰子50を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する。
次に単板分別工程200で、加工した単板を、比重に応じて、2つのグループに分別する。比重が大きいほど強度が高いため、単板分別工程200により強度の異なる単板にグループ分けすることができる。
次に単板積層工程300で、上側表層部11と下側表層部13には、分別したグループのうち、中層部12に用いる単板が属するグループ(第二グループ)よりも比重の大きいグループ(第一グループ)に属する単板を用い、中層部12には、分別したグループのうち、上側表層部11と下側表層部13に用いる単板が属するグループ(第一グループ)よりも比重の小さいグループ(第二グループ)に属する単板を用いて積層する。そして単板接着工程400で、積層した単板を接着一体化する。
これにより、最も曲げモーメントが作用する上側表層部11と下側表層部13には強度の高い単板を配置し、中層部12には強度の低い単板を配置することができる。そして、木質材10全体として強度のムラをなくし、効果的に強度を引き出すことができる。また、これらの工程には、従来の合板やLVLの製造工程と同様に製材工程が存在せず、歩留まりが悪化してしまうことはない。
【0040】
また、椰子の樹幹部分は、従来効果的な利用方法がなかったにもかかわらず、果実部分の効率的な生産を維持するために、一定期間後は樹勢の衰えた老木を伐採して新たに植え替える必要があり、そのために大量に発生する伐採された樹幹部分の処理が問題となっている。本実施形態のように樹幹部分を木質材として利用することで、この問題を解決するとともに、木質材の安定的な供給も可能となる。
【0041】
なお、実施形態1においては、上側表層部11と下側表層部13を1枚の単板から構成し、中層部12を3枚の単板から構成したが、上側表層部、中層部、下側表層部を構成する単板の枚数は、特に限定されず、上側表層部、中層部、下側表層部は、それぞれ1枚の単板で構成されていてもよいし、複数枚の単板で構成されていてもよい。
【0042】
例えば、図4に示す他の実施形態に係る木質材20のような構成であってもよい。
木質材20は、7枚の単板を積層した構造となっている(7プライ)。そして積層構造について詳細に説明すると、木質材20は、上側表層部21,中層部22,下側表層部23から構成されている。さらに、上側表層部21は、3枚の単板21a,21b,21cから構成され、下側表層部23は、3枚の単板23a,23b,23cから構成されている。また、中層部22は、1枚の単板から構成されている。
【0043】
ここで、上側表層部21は3枚の単板21a,21b,21cから構成されているが、中層部22よりも径方向外側部分から得られた単板であるという条件、あるいは中層部22よりも比重が大きいという条件が満たされていれば、上側表層部21の3枚の単板の相互の位置は限定されない。同様に、下側表層部23は3枚の単板23a,23b,23cから構成されているが、中層部22よりも径方向外側部分から得られた単板であるという条件、あるいは中層部22よりも比重が大きいという条件が満たされていれば、下側表層部23の3枚の単板の相互の位置は限定されない。
すなわち、上側表層部21の単板21a,21b,21cと、下側表層部23の単板23a,23b,23cには、実施形態1における第一グループに属する単板を用い、中層部22には実施形態1における第二グループに属する単板を用いればよい。
【0044】
また、図5に示す他の実施形態に係る木質材30のように、椰子50から製造した木質材10の表裏面に、椰子50とは異なる樹種の木材等を原材料とした板材31,33を積層して接着するようにしてもよい。
【0045】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施形態2に係る椰子を原材料とした木質材及びその製造方法について説明する。図6は、実施形態2に係る木質材40を示す断面図であり、図7は、原材料となる椰子60の樹幹の断面を示す斜視図である。
実施形態1の単板分別工程200においては、原材料の椰子から得られる単板を2つのグループに分別したのに対して、実施形態2においては、3つのグループに分別する。
【0046】
図6に示すように、木質材40は、5枚の単板を積層した構造となっている(5プライ)。そして、上側表層部41,中層部42,下側表層部43から構成されている。さらに、中層部42は、3枚の単板42a,42b,42cから構成されている。また、上側表層部41と下側表層部43は、それぞれ1枚の単板から構成されている。
【0047】
木質材40の原材料としては、図7に示すような椰子60の樹幹が用いられる。椰子60は、樹皮付近(樹幹の径方向外側)に位置する第一部位61と、中間部分に位置する第二部位62と、中心付近(樹幹の径方向内側)に位置する第三部位63からなる。ここで各部位の強度は、第一部位61>第二部位62>第三部位63の順となる。
また、得られる単板の乾燥後の比重の大きさを比較すると、第一部位61>第二部位62>第三部位63の順となる。
【0048】
木質材40の上側表層部41と下側表層部43には、図7における椰子60のうち第一部位61の部分から得られる単板を用いる。一方、中層部42のうち単板42a,42cには、第二部位62の部分から得られる単板を用いる。また、中層部42のうち単板42bには、第三部位63の部分から得られる単板を用いる。言い換えると、上側表層部41と下側表層部43には、椰子60を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、中層部42に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用い、中層部42には、上側表層部41と下側表層部43に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いる。さらに、中層部42の3枚の単板42a,42b,42cにおいては、表層部に近い部分(単板42a,42c)に、表層部から遠い部分(単板42b)よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用いる。
その結果、用いられる単板の比重の関係は表層部に近づくにつれて大きくなる。
【0049】
次に、実施形態2に係る椰子を原材料とした木質材の製造方法について説明する。
実施形態1に係る木質材の製造方法と同様に、単板加工工程100,単板分別工程200,単板積層工程300,単板接着工程400により製造されるが、実施形態2においては、単板分別工程200及び単板積層工程300が異なる。
【0050】
実施形態2においては、単板分別工程200において、加工した単板を3つのグループに分別する。分別の基準としては、単板が得られた樹幹の径方向における位置を用いる。すなわち、椰子60の樹幹が第一部位61、第二部位62、第三部位63に区分されており、第一部位61から得られた単板を第一グループとし、第二部位62から得られた単板を第二グループとし、第三部位63から得られた単板を第三グループとする。
【0051】
また、乾燥後であれば、分別の基準として比重を用いてもよい。すなわち、あらかじめ比重の閾値を二つ定めておいて、定めた閾値に応じて、第一グループ、第二グループ、第三グループとする。第一部位61の部分から得られる単板の比重が最も大きく、第三部位63の部分から得られる単板の比重が最も小さくなる。
【0052】
次に、単板積層工程300において、分別した単板を積層する。積層にあたっては、上側表層部41と下側表層部43には第一グループに属する単板を配置する。次に、中層部12のうち、単板42a,42cには第二グループに属する単板を配置し、単板42bには第三グループに属する単板を配置する。
この結果、表層部に近づくほど、樹幹の径方向外側部分が得られた単板が配置される(表層部に近づくほど、比重の大きい単板が配置される)。
【0053】
このように、実施形態2に係る椰子を原材料とした木質材40及びその製造方法によれば、椰子から得られる単板を強度に応じてより細かく分類することができる。そして、表層部に近づくほど強度が強くなるように配置することで、木質材40全体として強度のムラをなくし、より効果的に強度を引き出すことができる。
【0054】
同様にして、図4に示す木質材20においても、より効果的に強度を引き出すことが可能ある。そのためには、原材料の椰子から得られた単板を4つのグループに分別し、表層部に近づくほど、樹幹の径方向外側部分が得られた単板が配置される(表層部に近づくほど、比重の大きい単板が配置される)ようにすればよい。このとき、上側表層部21における比重の関係は、21a>21b>21cとなり、下側表層部23における比重の関係は、23a<23b<23cとなる。
【0055】
なお、さらに細かくグループ分けすることで、積層数の多い合板についても効果的に強度を引き出すことが可能であるが、作業は煩雑となる。
【0056】
また、例えば木質材の厚さ方向中央において、実を形成する必要がある場合などは、上側表層部と下側表層部の強度が最も高くなるように積層した上で、必要に応じて中央部分に周辺よりも強度の高い単板を積層することも可能である。
例えば、図8に示す他の実施形態に係る木質材70は、上側表層部71、中層部72、下側表層部73から構成されており、上側表層部71と下側表層部73には、強度が最も高い実施形態2における第一グループに属する単板を配置する。一方、中層部72については、実の強度を確保するために、中央部分の単板72bとして二番目に強度の高い第二グループに属する単板を配置し、その上下の単板72a,72cとして最も強度の低い第三グループに属する単板を配置する。これにより、上下の表層部の強度を確保するとともに、実の強度も確保することができる。
【0057】
また、実の強度を確保するために、椰子とは異なる樹種の木材等を原材料とした単板を中央部分に配置してもよい。
例えば、図9に示す他の実施形態に係る木質材80は、上側表層部81、中層部82、下側表層部83から構成されており、上側表層部81と下側表層部83には、強度が最も高い実施形態2における第一グループに属する単板を配置する。一方、中層部82については、実の強度を確保するために、中央部分の単板84として椰子とは異なる樹種の木材等を原材料とした単板(椰子よりも強度が高いもの)を配置し、その上下の単板82a,82cとして第二グループ又は第三グループに属する単板を配置する。これにより、上下の表層部の強度を確保するとともに、実の強度も確保することができる。
【0058】
なお、積層する単板の総枚数によっては、実の部分の強度を高めるために中央部に配置する単板の枚数を、必要に応じて複数枚にしてもよい。
【0059】
以上、上記実施形態によれば、椰子材を、住宅等の建築材料や家具の材料として有効に利用することができる。
そして、得られた木質材は、反り、狂い、捩れ、曲がりといった異方性が極めて小さい。また、樹脂の使用や熱・紫外線等のエネルギー投入による環境負荷も小さい。また、薄物板状製品の製造も容易である。
【0060】
なお、本実施形態においては、木質材の材料として椰子を用いたが、その他にも樹幹の中心付近が脆く強度が低い材料であれば適用することが可能である。例えば南洋材の中には、中心部に強度が低く脆い部分である脆心材を有するものの存在が知られており、このような脆心材を有する木材にも幅広く適用することが可能である。
ただし、原材料としての確保や、廃材処理の観点からは、椰子材に適用することが極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施形態1に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【図2】実施形態1において原材料となる椰子の樹幹の断面を示す斜視図である。
【図3】椰子を原材料とした木質材の製造方法を示す工程図である。
【図4】他の実施形態に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【図5】他の実施形態に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【図7】実施形態2において原材料となる椰子の樹幹の断面を示す斜視図である。
【図8】他の実施形態に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【図9】他の実施形態に係る椰子を原材料とした木質材を示す断面図である。
【符号の説明】
【0062】
10 木質材
11 上側表層部
12 中層部
12a 単板
12b 単板
12c 単板
13 下側表層部
20 木質材
21 上側表層部
21a 単板
21b 単板
21c 単板
22 中層部
23 下側表層部
23a 単板
23b 単板
23c 単板
30 木質材
31 板材
33 板材
40 木質材
41 上側表層部
42 中層部
42a 単板
42b 単板
42c 単板
43 下側表層部
50 椰子
51 第一部位
52 第二部位
60 椰子
61 第一部位
62 第二部位
63 第三部位
70 木質材
71 上側表層部
72 中層部
72a 単板
72b 単板
72c 単板
73 下側表層部
80 木質材
81 上側表層部
82 中層部
82a 単板
82c 単板
83 下側表層部
84 単板
100 単板加工工程
200 単板分別工程
300 単板積層工程
400 単板接着工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材であって、
前記上側表層部と前記下側表層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記中層部に用いる単板よりも樹幹の径方向外側部分から得られた単板を用い、
前記中層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板よりも樹幹の径方向内側部分から得られた単板を用いたことを特徴とする椰子を原材料とした木質材。
【請求項2】
上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材であって、
前記上側表層部と前記下側表層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記中層部に用いる単板よりも比重の大きい単板を用い、
前記中層部には、前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して加工した単板のうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板よりも比重の小さい単板を用いたことを特徴とする椰子を原材料とした木質材。
【請求項3】
上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材の製造方法であって、
前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する単板加工工程と、
前記加工した単板を、単板が得られた樹幹の径方向における位置に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する単板分別工程と、
前記上側表層部と前記下側表層部には、前記分別したグループのうち、前記中層部に用いる単板が属するグループよりも前記樹幹の径方向外側部分から得られたグループに属する単板を用い、前記中層部には、前記分別したグループのうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板が属するグループよりも前記樹幹の径方向内側部分から得られたグループに属する単板を用いて積層する単板積層工程と、
前記積層した単板を接着一体化する単板接着工程とを有することを特徴とする椰子を原材料とした木質材の製造方法。
【請求項4】
上側表層部と中層部と下側表層部とを積層してなる、椰子を原材料とした木質材の製造方法であって、
前記椰子を樹幹周縁に沿って切削して単板を加工する単板加工工程と、
前記加工した単板を、比重に応じて、少なくとも2つ以上のグループに分別する単板分別工程と、
前記上側表層部と前記下側表層部には、前記分別したグループのうち、前記中層部に用いる単板が属するグループよりも比重の大きいグループに属する単板を用い、前記中層部には、前記分別したグループのうち、前記上側表層部と前記下側表層部に用いる単板が属するグループよりも比重の小さいグループに属する単板を用いて積層する単板積層工程と、
前記積層した単板を接着一体化する単板接着工程とを有することを特徴とする椰子を原材料とした木質材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−214364(P2009−214364A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59034(P2008−59034)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000145437)株式会社ウッドワン (70)
【Fターム(参考)】