説明

極細線の伸線機

【課題】 本発明は、線材と各キャプスタンとの接触長さを最適に設定することにより、線材を良好に伸線することができる極細線の伸線機を提供するものである。
【解決手段】 かゝる本発明は、線材20を極細線を伸線する伸線機100であって、複数の伸線用のダイス120と複数のキャプスタン110とを交互に配置すると共に、各ダイス110の伸線穴中心と各キャプスタン110の線材の繰り出し位置をほぼ一直線上に並べ、線材20の伸線時、各キャプスタン110には線材20を一回転させて繰り出させる一方、線材と各キャプスタンとの接触長さを、キャプスタン外径により調整して伸線する極細線の伸線機にあり、これにより、太さや線種などの異なる線材に対応して、良好な伸線が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材を極細線に伸線する極細線の伸線機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年電子機器の小型化、軽量化に伴い、使用するケーブルも極細線からなるものが用いられ、特に電気的特性に優れた極細同軸ケーブルが多用されてきている。極細同軸ケーブルのなかでも、特に信号の高速伝送に対応するため、Cu線や合金線などの線材上にAg、Ni、Znなどのメッキを施したメッキ極細線を用いた極細同軸ケーブルに対する需要が旺盛である。
【0003】
このような極細線の製造にあたっては、通常複数のダイスと複数のキャプスタンを備えた伸線機を用いて行っている。つまり、Cu線などの線材(母材)を次々にダイスに通して細径化する一方、線材とキャプスタンとの接触による摩擦力を利用して、線材を引き込み走行させている。このとき、線材とキャプスタンとの接触長さを最適化することにより、断線したりすることなく、安定した伸線を行うことが可能となる。
【0004】
従来、例えば図3に示すような構造の伸線機10を用いてる。この伸線機10では、複数のキャプスタン11を、線材の走行方向に対して、概略上下2列に配列させる一方、最終端の伸線用のダイス12を除いて、隣接する上記上下のキャプスタン11、11間に伸線用のダイス12を配置させてある。そして、一方のリールなどを備えた送出部13から、伸線対象の線材20を送り出し、複数のキャプスタン11と複数のダイス12を経過させ、次第に目的とする外径に細径化させた後、他方のリールなどを備えた巻取部14で巻き取っている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この構造の伸線機10によると、キャプスタン11の外径が固定されているため、線材20とキャプスタン11との接触長さを、自由に設定することができない。例えばキャプスタン外径の0.5周、1.5周、2.5周などというように不連続にしか設定することができない。
【0006】
このため、伸線対象の線材の太さやメッキの有無などによる種別に対応して、線材とキャプスタンとの接触長さを、最適に設定することができないという問題があった。特にメッキ線の場合、非メッキ線に対してその特性が異なるため、非メッキ線と同条件のもとで伸線すると断線し易いなどの問題があった。
【0007】
このため、従来線材を細径化した後、メッキを施す方法が提案されているが(特許文献1)、この方法では、生産性が低下するという問題があった。
また、極細線の伸線機として、スリップ型伸線機も使用されているが、この場合には、線材とキャプスタンとがスリップするため、線材に傷などが付き易いこと、線種によって摩擦力が異なるため多品種の線種に対応するためには、線種ごとに専用のキャプスタンを準備する必要があることなどの問題があった。
【特許文献1】特開2002−140935号
【0008】
このような状況下において、本発明等は、1台の伸線機により、種々の線材の太さや線種に対応でき、かつ、その対応が比較的簡単にできる伸線機の構造について鋭意検討したところ、次のような構造を見い出した。つまり、複数の伸線用のダイスと複数のキャプスタンとを交互に配置すると共に、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置をほぼ一直線上に並べることにより、キャプスタン外径を適宜調整すれば、線材と各キャプスタンとの接触長さを、任意の長さに調整できることを見い出した。
このとき、各キャプスタンがほぼ一直線上に並んでいるため、キャプスタン外径を変えても、各ダイスを例えば上下に可動させるだけで比較的簡単に対応することができる。
【0009】
本発明は、このような観点に立ってなされたもので、伸線対象の線材の太さや線種などに対応して、線材と各キャプスタンとの接触長さを最適に設定することにより、安定した伸線を可能とする極細線の伸線機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の本発明は、線材を極細線に伸線する伸線機であって、複数の伸線用のダイスと複数のキャプスタンとを交互に配置すると共に、前記各ダイスの伸線穴中心と前記各キャプスタンの線材の繰り出し位置をほぼ一直線上に並べ、前記線材の伸線時、前記各キャプスタンには前記線材を一回転させて繰り出させる一方、前記線材と各キャプスタンとの接触長さを、当該キャプスタン外径により調整して伸線することを特徴とする極細線の伸線機にある。
【0011】
請求項2記載の本発明は、前記線材を外径50μm以下の極細線に伸線するにおいて、前記キャプスタン外径を、40〜120mmの範囲で調整することを特徴とする請求項1記載の極細線の伸線機にある。
【0012】
請求項3記載の本発明は、前記キャプスタン外径の調整時、各ダイスの可動させて、当該ダイスの伸線穴への線材の進入角度を±3°とすることを特徴とする請求項1又は2記載の極細線の伸線機にある。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る極細線の伸線機によると、キャプスタン外径を調整(変更)することで、線材と各キャプスタンとの接触長さを、任意の長さの最適値に設定することができるため、種々の太さや線種の線材に対して容易に対応することができる。例えばキャプスタン外径を、40〜120mmの範囲で調整することにより、線材を外径50μm以下の極細線に良好に伸線することができる。また、キャプスタン外径調整に伴う各ダイスの可動時、ダイスの伸線穴への線材の進入角度を±3°の範囲内とすれば、良好な伸線を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は本発明に係る極細線の伸線機の一例を示したものである。
この伸線機100では、複数の伸線用のダイス120と複数のキャプスタン110とを交互に配置すると共に、各ダイス120の伸線穴中心と各キャプスタン110の線材の繰り出し位置(図中キャプスタンロールの頂点部、なお、この位置は線材の供給側からの巻き込み位置と同位置となる)をほぼ一直線上に並べてある。一直線上に並べられた各ダイス120は、可動ホルダ121の移動(移動手段図示省略)により、上下方向に可動可能に設置されている。また、各キャプスタン110にあっては、例えばその中心軸111に外径の異なるキャプスタンロールを嵌め換えて交換することにより、その外径を適宜調整することができるようにしてある。なお、本例では、ダイス120とキャプスタン110の数が各3個ずつであるが、本発明はこれに限定されない。伸線対象の線材の最終的な細径化の寸法に対応して、これらの数は適宜設定することができる。
【0015】
この伸線機100の線材20の供給側(図中左側)には、リールなどを備えた送出部130を設置する一方、線種20の巻取側(図中右側)には、リールなどを備えた巻取部140を設置してある。
【0016】
この伸線機100において、伸線時には、一方の送出部130から、伸線対象である、Cu線や他の金属線、合金線、さらには、これらの線材上にAg、Ni、Znなどのメッキを施したメッキ線などの線材20を送り出し、例えば回動ローラ150を介して、複数のダイス120と複数のキャプスタン110を通過させる。このとき、各キャプスタン110には、走行する線材20を一回転させて繰り出させる。これにより、線材20は、次第に目的とする外径に細径化させるため、例えば回動ローラ150を介して、他方の巻取部14で巻き取ればよい。これにより、目的の極細線が得られる。
【0017】
この同一の伸線機100において、太さや種別の異なる線材に対応するには、その線材に対応したキャプスタンとの接触長さを、最適なものとする必要がある。このため、装着済みの外径のキャプスタンでは対応できないときには、例えば、図3に示すように、外径の異なる(大きい)キャプスタン110に交換する一方、これに対応して、可動ホルダ121を移動(上昇)させて、各ダイス120を上方に可動させる。そして、各ダイス120の伸線穴中心と各キャプスタン110の線材の繰り出し位置はほぼ一直線上に並ぶようる設定する。この後、上記図2の場合と同様にして、線材20を伸線させればよい。
【0018】
これにより、1台の伸線機100で、多数の線材20に対応することができる。
また、このとき、各ダイス120の伸線穴中心と各キャプスタン110の線材の繰り出し位置がほぼ一直線上に並べた構造であるため、上述したように、外径の異なるキャプスタン110に交換しても、各ダイス120を上下方向に可動させるのみでよい。つまり、比較的簡単な操作(作業)により対応することができる。
【0019】
因みに、例えば上記した図3のような構造の伸線機10では、キャプスタン11の外径を変えると、各キャプスタン及び各ダイスのそれぞれの位置関係が大きく変わるため、キャプスタン外径の調整には大変な困難が伴い、ときには調整不可能の場合もある。
【0020】
〈試験例1〉
上記した本発明の伸線機100において、種々の太さの線材に対して、種々の外径のキャプスタンを用いて、伸線したところ、表1の如くであった。ここで、用いた線材はAgメッキCu−1%Ag合金線、導体径120μm、メッキ層片側厚6μmである。また、用いるキャプスタンの外径は40〜120mmのものである。さらに、キャプスタンを交換した際には、ダイスを可動させて、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置がほぼ一直線上に並ぶように調整した。表1の「伸線性」では、連続して100Km伸線できた場合を「○」で表示し、100Kmに達する前に断線した場合を「×」で表示した。表1の「破断強度」は、連続して100Km伸線できた場合における線材の破断強度である。
【0021】
【表1】

【0022】
この表1から、外径50μm以下の極細線を得るにおいて、線材の太さに対して、どの外径のキャプスタンが最適か、即ち、最適の接触長さであるかが分る。極細線の外径が細くなるほど、伸線可能なキャプスタンの範囲が狭くなることも分る。この理由としては、極細線の外径が50μmを超える太さの場合には、線材の剛性が高く、キャプスタンに巻き付き難いため、最適接触長さより多少長くともキャプスタンに巻き付くことがなく、連続して伸線されるからと推測される。
【0023】
〈試験例2〉
上記した本発明の伸線機100において、上記試験例1の場合とほぼ同条件であるが、外径80mmのキャプスタンを用いた場合のみ、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置がほぼ一直線上に並ぶように調整した。しかし、他の外径のキャプスタンに交換した際には、特にダイスを可動、調整しなかった。その伸線結果は表2の如くであった。表2の「伸線性」でも、連続して100Km伸線できた場合を「○」で表示し、100Kmに達する前に断線した場合を「×」で表示した。表2の「破断強度」は、連続して100Km伸線できた場合における線材の破断強度である。
【0024】
【表2】

【0025】
この表2から、外径80mmのキャプスタン以外では、良好な伸線性は得られないことが分る。この理由は、キャプスタンの交換後、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置がほぼ一直線上に並ぶように調整しないと、線材がダイスの伸線穴に対して斜め方向から進入することになるため、接触抵抗が大きく、また、メッキカスも発生し易くなって、100Kmに達する前に断線するものと推測される。
【0026】
〈試験例3〉
上記した本発明の伸線機100において、上記試験例1の場合とほぼ同条件とし、外径120mmのキャプスタンを用い、外径132μmの線材から外径50μmの極細線を得た。この際、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置を少々ずらして、線材のダイスの伸線穴への進入角度を、±1°〜±10°に設定したところ、表3の如くであった。表3の「伸線性」でも、連続して100Km伸線できた場合を「○」で表示し、100Kmに達する前に断線した場合を「×」で表示した。表3の「メッキカス」は目視による観察である。
【0027】
【表3】

【0028】
この表3から、各ダイスの伸線穴中心と各キャプスタンの線材の繰り出し位置をほぼ一直線上に並べる際、線材の進入角度が±3°までは、伸線性もよく、メッキカスを発生せず、問題のないことが分る。
【0029】
〈試験例4〉
上記した本発明の伸線機100において、上記試験例1の場合とほぼ同条件とし、伸線対象の線材が非メッキ線とメッキ線(Snメッキ線、Niメッキ線)の場合について、伸線したところ、表4の如くであった。表4の「伸線性」でも、連続して100Km伸線できた場合を「○」で表示し、100Kmに達する前に断線した場合を「×」で表示した。
【0030】
【表4】

【0031】
この表4から、メッキ層の異なる線種の線材に対して、キャプスタン外径を調整して、線材とキャプスタンとの接触長さを最適に設定すれば、1台(同一)の伸線機により良好な伸線が可能であることが分る。
【0032】
なお、上記試験例では、線材が合金線であったが、勿論本発明の伸線機はこれに限定されない。また、キャプスタンの外径も40〜120mmのものに限定されない。さらに、得られる極細線も特に外径50μm以下のものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る極細線の伸線機の一例を示した概略説明図である。
【図2】図1の伸線機におけるキャプスタン交換時の部分概略説明図である。
【図3】従来の伸線機を示した概略説明図である。
【符号の説明】
【0034】
20・・・線材、100・・・極細線の伸線機、110・・・キャプスタン、111・・・中心軸、120・・・ダイス、121・・・可動ホルダ、130・・・送出部、
140・・・巻取部、150・・・回動ローラ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線材を極細線に伸線する伸線機であって、複数の伸線用のダイスと複数のキャプスタンとを交互に配置すると共に、前記各ダイスの伸線穴中心と前記各キャプスタンの線材の繰り出し位置をほぼ一直線上に並べ、前記線材の伸線時、前記各キャプスタンには前記線材を一回転させて繰り出させる一方、前記線材と各キャプスタンとの接触長さを、当該キャプスタン外径により調整して伸線することを特徴とする極細線の伸線機。
【請求項2】
前記線材を外径50μm以下の極細線に伸線するにおいて、前記キャプスタン外径を、40〜120mmの範囲で調整することを特徴とする請求項1記載の極細線の伸線機。
【請求項3】
前記キャプスタン外径の調整時、各ダイスの可動させて、当該ダイスの伸線穴への線材の進入角度を±3°とすることを特徴とする請求項1又は2記載の極細線の伸線機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−190591(P2007−190591A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−10872(P2006−10872)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】