説明

極細線材の分離供給装置

【課題】1本の線材のみを把持できるチャックの爪部開閉のためのシリンダ装置等を不要として該チャックを安価なものとすると共に構造の簡素化を図る。
【解決手段】線材掴み装置のチャック50bは基板50hに回動支持された一対の爪部50cからなり、これら爪部50cが互いに僅かな間隙D0をもって対向し重力の作用下で自重により垂下している。爪部50cの互いに対向する内側にはテーパ状の挟み部50dが形成されており、ストッカ部内の数本の線材wに対してチャック50bが押し込まれて該チャック50bの爪部50cが前記間隙D0により許容される範囲において開き、そのテーパ状の挟み部50dの一番奥に入り込んだ1本の線材w1を該挟み部50dにより把持し、チャックが上昇する途中位置に掴み上げられた極細線材に係合可能な邪魔部材52を配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に直径が0.5mm〜2mm程度の極細の線材をその処理のために1本ずつ分離して、ある位置から別の位置に供給するための極細線材の供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
線材をその処理や加工のために1本ずつ分離して、一つの位置から他の位置に供給する装置は従来から種々提案されているが、その多くは回転ロータを使った線材送り装置である。回転ローラを使った線材送り装置は、ロータの周面に長手方向に沿って線材が係合できる程度の段部を形成し、ロータを回転させるときに上記段部に線材を係合させて該線材を回転送りするものである。
【0003】
したがって、この線材送り装置によれば、ロータに線材が1本乗る程度の段部を形成すれば、理論上は線材を1本ずつ分離してロータの一側から他側に供給することができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の線材を1本ずつ分離供給する装置として、一対の爪部からなるチャックを備えた線材掴み装置を上下動させて、チャックの下動時にチャックの爪部をシリンダ装置の作動で開き、チャックを開いた状態で線材を溜めたストッカ部に押し込み、チャックを閉じて1本だけを掴んで持ち上げた後、他の位置に移すようにしたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第2942245号公報
【特許文献2】特開2003−165615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のロータの回転により線材を送る装置においては、ロータの段部が線材1本しか係合できない程度の幅に形成されているとしても、集積された線材の表面に油が付着していると、油が接着材の役目をして例えば2本の線材がくっついた状態でロータにより送られてしまうという不都合が生じる。したがって、線材を1本ずつ確実に分離して送るという点においての信頼性に乏しい。
【0006】
また、上述の一対の爪部からなるチャックを備えた掴み装置を上下動させ、チャックの下動時に線材を溜めたストッカ部にチャックを開いた状態で押し込み、チャックを閉じて1本だけ掴んで持ち上げた後、他の位置に移す装置においては、掴み機構により確実に線材を1本ずつ掴み上げることができるものの、チャックの爪部をエアシリンダ装置によって開閉作動させる必要があることからその構造が複雑化し、またチャックの開閉作動は面倒であり、さらにエアシリンダ装置の設置はコスト高となる。という問題がある。
【0007】
そこで、本発明は上述した極細線材の供給装置の問題点を解消した該供給装置の改良構造を提供するものであり、とりわけ上述の後者における線材を把持するチャック部の改良等に視点をおいたものであり、チャックの爪部の開閉のための格別の開閉装置を設けることなく、構造が簡単で、かつチャックの爪が線材溜まり部であるストッカ部に溜められた線材への押し込みにより自動的に開き該チャックにより1本の線材を確実に把持できるようにして、エアシリンダ装置等のチャックを開閉作動するための装置を不要としてコストの削減が図られるとともに、1本の線材のみを確実に分離供給することができる極細線材の分離供給装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る発明は、数本の極細線材を一時的に溜めておくストッカ部と、該ストッカ部の上部の一側で上下動可能に配置されて前記数本の極細線材の内から分離した1本の極細線材のみの一端部を掴み上げる掴み装置と、上記ストッカ部と掴み装置との間に配置され上記ストッカ部の一側から他側に往復動可能に配置され前記掴み装置によりその一端部が掴み上げられた1本の分離した極細線材の垂れ下がる他端部をすくい上げることができるすくい部材とを備え、上記掴み装置によって前記分離した1本の極細線材の一端部を掴み上げた後、上記すくい部材を上記ストッカ部の一側から他側に移動させることにより、該分離した1本の極細線材のみを所定の線材処理のために供給できるようにした極細線材の分離供給装置において、上記掴み装置は下向きに設けられた1対の所定範囲内で回動可能な爪部からなるチャックを備え、前記一対の爪部が互いに対向して前記チャックの先端部内側に所定の制限域で開閉可能なテーパ状の挟み部を形成しており、該チャックが数本の極細線材が溜まったストッカ部内の線材に対して押し込まれることで該押し込み力によりその先端のテーパ状の挟み部が前記所定の制限域内で開いて、該テーパ状の挟み部内側で前記ストッカ部に溜まった極細線材の内から分離して1本の極細線材のみを挟んで把持し掴み上げるとともに、上記チャックが上昇する途中位置に、上記掴み装置により掴み上げられた極細線材に係合可能な邪魔部材を配置したことを特徴とする。
【0009】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の発明において、上記チャックの一対の爪部は、互いに僅かな間隙をもって対向して自重で垂下するように上記掴み装置の爪取付保持部にそれぞれ回動可能に取付け支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、前記極細線材の分離供給装置において、前記掴み装置は下向きに設けられた1対の所定範囲内で回動可能な爪部からなるチャックを備え、前記一対の爪部が互いに対向して前記チャックの先端部内側に所定の制限域で開閉可能なテーパ状の挟み部を形成しており、該チャックが数本の極細線材が溜まったストッカ部内の線材に対して押し込まれることで該押し込み力によりその先端のテーパ状の挟み部が前記所定の制限域内で開いて、該テーパ状の挟み部内側で前記ストッカ部に溜まった極細線材の内から分離して1本の極細線材のみを挟んで把持し掴み上げることができるようにしたので、チャックは極細線材が溜まったストッカ部の線材に対して押し込むだけでそのテーパ状の挟み部が所定の制限された僅かな域内において開き、これにより該挟み部に入り込んだ線材の内の一番奥に入り込んだ1本の線材のみを確実に把持することができる。そして、上記チャックが上昇する途中位置に、上記掴み装置により掴み上げられた極細線材に係合可能な邪魔部材が配置されているので、把持された極細線材が上昇途中で邪魔部材に当たって掴み装置から分離されるので、上記極細線材をすくい部材上に供給することができる。
【0011】
したがって、エアシリンダ装置等のチャックを開閉作動するための装置が不要であり、コストの削減を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、上記チャックの一対の爪部は、互いに僅かな間隙をもって対向して自重で垂下するように上記掴み装置の爪取付保持部にそれぞれ回動可能に取付け支持されているので、チャックは極細線材が溜まったストッカ部の線材に対して押し込まれることでその押し込み力により一対の爪部が前記僅かな間隙で許容される範囲内において回動してチャックを前記所定の制限された僅かな域内において開き、テーパ状の爪部間に挟まった一番奥に入り込んだ1本の線材のみを確実に把持することができる。したがって、チャック爪の開閉のための特別の装置を必要とせずその分コストの削減を図ることができる。また、把持した線材を外すことでチャックの爪部を自重により自動的に垂下して初期の位置に戻すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図1ないし図6を参照して説明する。
【0014】
図1は供給装置の側面図、図2はその平面図、図3は正面図であり、これらの図面と図1の要部の拡大図である図5等を参照して理解できるように、本発明に係る極細線材の分離供給装置Aは、0.5mm〜2mm程度の太さの極細線材wを洗浄や研磨等の所定の処理装置に供給するための装置であり、一緒に供給された数本の極細線材wを1本ずつ分離して順次上記処理装置に供給できるようにしており、概ね次のような構造を備えるものである。
【0015】
すなわち、連続して配置される多数のバケット10のそれぞれに数本の線材wを収容して該線材wを供給するベルトコンベア1と、ベルトコンベア1から供給された数本の線材wを受け取る受け部21とこれに続く傾斜部25とを備える第1案内部2と、第1案内部2と線材送りホイール31を介して連続する第2案内部4と、第2案内部4に続く線材wを溜めるストッカ部5と、ストッカ部5に溜められた数本の線材wの1本のみを掴んで分離し供給するための掴み装置50と、掴み装置50により分離され、落とされた1本の線材w1を位置調整部7に供給する第3案内部6と、位置調整部7で位置調整された1本の線材w1を搬送ローラ90に供給するための第4の案内部8とからなるものである。
【0016】
以下に、各構造部の詳細について順次説明することにする。
【0017】
極細線材wの分離供給装置Aは、既述のように、無端状のベルトコンベア1を備えており、このベルトコンベア1は図2の参照により理解できるように、供給装置Aの幅方向に数列並列配置され、各コンベア1は供給装置Aの上部と下部に所定間隔をもって配置されたプーリ11、12間に掛け渡され、供給装置Aに対してその側面視で所定の角度傾斜して配置されている。
【0018】
各コンベア1が掛け渡される上部のプーリ11と下部のプーリ12はそれぞれ供給装置Aの上部と下部に配置された装置Aの幅方向一杯に延長する回転軸13、14に取付けられており、上部の回転軸13は該軸の端部に取付けられた伝導プーリ15を介してモータM1により駆動され(図4参照)、これにより各コンベア1は該軸13、14の回転を介して互いに同速で図1、5の図示において反時計回りに回転される。
【0019】
ベルトコンベア1の外周にはその回転方向前方が開放された側面視略L字型を呈する線材wの収容バケット10が該コンベア1のベルト外周面に沿って連続して多数設けられており、洗浄や研磨等の処理のために供給される極細線材wは数本が一緒に1つの傾斜した略L字型のバケット10内に収容され、このバケット10内への線材wの収容作業は通常人手によりなされる。ベルトコンベア1の上部でその外周面の略L字型のバケット10が反転することで該バケット10内の数本の極細線材wは自動的に第1案内部2の受け部21上に供給されるようになされている。
【0020】
第1の案内部2には既述のように、ベルトコンベア1から送られてきた線材wを受ける受け部21とこれに続く傾斜部25とが備えられており、受け部21にはシリンダ装置20の押し上げロッド20aによる端部の押し上げで揺動する腕部22を介して回動する回動軸23と、回動軸23に所定の間隔をもって取付けられた複数の回動板24が備えられており、本実施形態においては都合5本の回動板24が回動軸23に取付けられて、これにより受け部21に供給された、つまり回動板24上に供給された線材wを該板24の図示反時計方向への回動による線材供給方向を低くする傾斜面の形成で、該回動板24からこれに連続する多数の等間隔の板状部材からなる傾斜部25上に送ることができるようになされている。
【0021】
回動板24に連続する傾斜部25は、線材供給方向側の前方で低くなっており該傾斜部25の前方はこれに続く第2の案内部4との間で段部を形成し、この段部は線材wの集積部3を形成する。線材wの集積部3の長手方向に沿ってモータM2の駆動により回転される回転軸30が設けられ、この回転軸30には該軸に沿って等間隔に多数の線材送りホイール31が設けられており、線材送りホイール31には数本の線材wを同時に送ることができる送り爪32がその回転周上に等間隔で複数設けられている。
【0022】
そして、これら線材送りホイール31の反時計方向の回転により線材集積部3に集積された数本の線材wを同時に第2の傾斜する案内部4に送出できるようになされている。
【0023】
第2の案内部4は多数の等間隔の板状部材からなり、その線材供給方向側の前方で低くなった傾斜部の前方はこれに続く前記案内部4の延長部として形成される第3の傾斜する案内部6との間で段部を形成し、つまり前記多数の板状部材のそれぞれに凹状部からなる段部が形成され、これら段部は第2の線材集積部でもある線材wのストッカ部5を形成する。
【0024】
線材wのストッカ部5には、ストッカ部5の長手方向一側の上部に線材wの一側を掴み上げる掴み装置50が設けられており、この線材掴み装置50はストッカ部5の前記一側の支柱Pの上端から突出するステーP1に固定されたシリンダ装置50aの昇降部として形成されたチャック50bを備えており、チャック50bはシリンダ装置50aにより、前記一側寄りで最も外側に位置する板状部材の外側を上下昇降可能とされている。したがって、チャック50bの先端は段部に支持された集積線材wの下部よりも下方へ移動することができ、これにより、集積線材wが1本であっても確実に把持できるようになされている。
【0025】
チャック50bには図6の参照により理解できるように、1対の爪部50cが下向きに取付けられており、チャック50bは前記1対の爪部50cが互いに対向して形成したテーパ状の内側挟み部50dを備えている。チャック50bの前記1対の爪部50cはそれぞれ、その基部50hを僅かな間隙D0をもって互いに対向させることができるように該基部50hの軸支部50gを介して爪取付保持部50iに回動可能に取付けられている。
【0026】
例えば、爪部50cに重力以外の作用力が加わらない自由垂下状態において0.5mm程度の基部50h間の隙間D0を形成して互いに対向させるようにして、該一対の爪部50cがそれぞれチャック50bの爪取付保持部50iにバネ等の付勢力を何ら介在させることなく回動可能に取付けられている。
【0027】
したがって、1対の爪部50cからなるチャック50bは前記爪部50cの基部50h間の僅かな間隙D0により許容される範囲において、つまり両爪部50cの基部50hが互いに当接状態となるまでチャック50bは開くことができるようになされている。
【0028】
僅かに開閉する1対の爪部50cからなるチャック50bの互いに対向するテーパ状の内側挟み部50dは、線材wのストッカ部5に対向するテーパのきつい広い口部50eと、これに続くテーパの緩やかな前記間隙D0の入り口部50fを備えており、この入り口部50fは上記自由垂下状態において例えば0.9mm程度とされている。
【0029】
そして、ストッカ部5に押し込まれたチャック50bは、その内側挟み部50dの広い口部50e内に数本の線材wを抱えることで該挟み部50dが前記僅かな間隙D0により許容される範囲内で開き、チャック50bがさらに押し込まれることで僅かに開いた該挟み部50dのテーパ状の広い口部50e内に抱え込まれた数本の線材wの内の一番奥側に入り込んだ1本の線材w1のみが該挟み部50dの入り口部50f近傍に挟み込まれて、チャック50bにより把持されるようになされている。
【0030】
図5に図示されるように、昇降する線材wを把持する掴み装置50のチャック50bとストッカ部5上方の間の空間Sには、線材wの供給方向前方が低くなるように屈折された傾斜部51aを備える角材状の部材からなるすくい部材51が一側および他側の両支柱P間で往復動可能に配置されており、すくい部材51のこの往復動はストッカ部5の長手方向の一側近傍と他側近傍にそれぞれ立設された支柱P間に固定されて水平方向に延長するレール51b(図3参照)に沿って、しかもストッカ部5の長手方向上方でかつ昇降する線材掴み装置50のチャック50bの昇降位置の下方を通過するようにして行われる。
【0031】
すくい部材51を前記レール51bに沿って往復動させるために前記支柱P間にはモータM3により水平方向で駆動されるチェーン51c(図3参照)が張設されており、このチェーン51cにはすくい部材51が連結されている。
【0032】
すくい部材51のストッカ部5上方における長手方向一側と他側間の前記往復動は、掴み装置50のチャック50bにより一側の一方のみが掴み上げられた1本の線材w1の垂れ下がった他側を上方に持ち上げつつ該すくい部材51の傾斜部51aを利用して前方にずらして第3の傾斜案内部6上に前記の線材w1を載せる作動をなす。なお、すくい部材51の掴み装置50側の移動端位置は、ストッカ部5の一側端部から外れるように設定されている。
【0033】
図3、5から理解できるように、線材掴み装置50の近傍には、一側の支柱Pから延びる明確には図示されない支持腕を介して掴み装置50のチャック50bにより把持された線材w1を落とすための落とし棒(邪魔部材)52が設けられ、この落とし棒52はチャック50bにより把持された線材w1の長手方向と直交する位置で、チャック50bが上昇する途中位置に、その先端52a(図5参照)が位置付けられるように構成されている。
【0034】
そして、線材掴み装置50のチャック50bにその一側が把持されて上昇する線材w1の他側の垂れ下がり部分をすくい部材51の移動により第3の傾斜案内部6上にその過半が載せられるタイミングに合わせて落とし棒52の先端52aがチャック50bに把持されて上昇する線材w1の上部に係合することで、前記落とし棒52により該線材w1がチャック50bから分離するようになされている(図7も参照)。
【0035】
第3の傾斜部である案内部6の供給方向前方の低い部分は前記落とされた1本の線材w1が静止する線材wの位置調整部7を形成し、この線材w1の位置調整部7の両端寄り位置の底部にはシリンダ装置70が配置され(図3参照)、これらシリンダ装置70の押し上げロッド70aの上端に跨る横桁71(図2、3、5参照)が取付けられており、横桁71の上部には該横桁71の長手方向に沿って等間隔にその上端部72aが傾斜面72bとして形成された線材押し上げ部材72が多数設けられている。
【0036】
したがって、2つのシリンダ装置70の押し上げロッド70aの同時上昇により横桁71に設けられた線材押し上げ部材72を介して線材w1はその長手方向の多数箇所で同時に押し上げられ該押し上げ部材72上端部72aの傾斜面72bの低い側に寄せられて、位置調整部7の前壁に接触しつつ上昇して等間隔の多数の板状部材からなる第4の案内部8の傾斜部上に載せられるようになされている。
【0037】
第4の案内部8の供給方向の前方の低くなった部分には直列配置の多数の搬送ローラ90からなる搬送装置9が配置されており、第4の案内部8の傾斜部を経て供給された1本の線材w1は、該搬送装置9の搬送ローラ90上に載せられることで洗浄や研磨等の所定の処理を施すために図示されない処理装置に供給されるようになされている。
【0038】
本実施形態における線材wの分離供給装置Aは上述のようなものである。
【0039】
ここで、本実施形態における線材分離供給装置Aの作動について説明する。
【0040】
先ず、ベルトコンベア1のバケット10内に数本の極細線材wを載置収容する。バケット10内への線材wの供給作業は、駆動状態であるベルトコンベア1に対して供給装置Aにおける線材wの全体の流れの状況を見ながら通常人手により行われる。
【0041】
駆動されるベルトコンベア1により該コンベア1の上方に送られた数本の線材wは、コンベアベルト1の方向転換によるバケット10の反転で該バケット10内から第1案内部2の受け部21上に放出され、受け部21上への線材wの放出が検知されることでシリンダ装置20の押し上げロッド20aが上昇して腕部22の揺動を介して回動軸23が回転し、回動軸23の回転に伴う回動板24の揺動で線材wは供給側前方の傾斜部25上に送られる。
【0042】
傾斜部25上を転動もしくは滑り落ちる数本の線材wは、前記傾斜部25前方の線材wの集積部3に溜まり、線材集積部3への線材wの集積が検知装置S1(図2参照)により検知されると、送り爪32を備える線材送りホイール31が回転し、該ホイール31の回転により数本の線材wは同時に第2案内部4の傾斜部上に送られ、傾斜部上を転動もしくは滑り落ちる数本の線材wはその供給方向前方のストッカ部5に溜まる。
【0043】
ストッカ部5に線材wが溜まると、その状態が検知装置S2により検知され、ストッカ部5の一側に配置された線材掴み装置50が作動し、ストッカ部5内に溜まった数本の線材wはその一側において、掴み装置50のチャック50bの下降による該ストッカ部5内への押し込みによりその大部分がチャック50bの広い口部50eに捕らえられるが、更なるチャック50bの押し込みにより僅かに開いたチャック50bの上方で狭くなる一対の爪部50c間の間隙D1に入り込む線材wの一側の内の最も奥に入り込んだ1本の線材w1の一側のみが把持される(図6参照)。
【0044】
つまり、図6の参照により理解できるように、チャック50bの一対の爪部50cは重力の作用下で互いにその基部50hが所定の間隙D0を形成して垂下しており、この状態でチャック50bがストッカ部5内に押し込まれ、その内側挟み部50dの広い口部50eにより数本の線材wが抱え込まれ、更なるチャック50bの押し込みにより一対の爪部50cはその基部50hの僅かな間隙D0により許容される範囲内で互いに外方に開き(仮想線参照)、これによりチャック50bの広い口部50eに捕らえられた線材wはテーパ状の挟み部50dの僅かに開いた隙間D1に沿って上方へ入り込み、最も奥側の狭くなった緩やかなテーパ部とされる前記僅かな間隙D0の入り口部50fに入り込んだ線材w1が下方から他の線材wにより上方に向かって押し込まれて両爪部50c間に挟まれ、結果的に両爪部50c間のテーパ部上部に圧接把持されることになる。
【0045】
1本の線材w1の一側を把持した掴み装置50のチャック50bはシリンダ装置50の作動により上昇する。チャック50bの上昇によりその一側が把持されて持ち上げられた1本の線材w1は、その把持部の他側が垂れ下がるが、チャック50bの上昇が所定位置に達すると、つまり、すくい部材51の移動位置を越える高さまでくると、すくい部材51の駆動モータM3の図示されないスイッチが入り、すくい部材51が移動を開始する。すくい部材51のストッカ部5一側から他側への移動で線材wの垂れ下がり部が順次持ち上げられすくい部材51の傾斜部51aに沿って順次前方に移動する。
【0046】
チャック50bの上昇とすくい部材51の移動で線材w1の垂れ下がり部の過半が前方に移動するタイミングになると、チャック50bにその一側が把持された線材wは、上昇途中で落とし棒52に係合してチャック50bから分離され(図7参照)、落下した線材w1の一側は第3の案内部6の傾斜部上に落ちる。
【0047】
したがって、線材w1はその他側がすくい部材51の傾斜部51a上に、また一側が第3の案内部6の傾斜部上に載るので、これらの傾斜部上を転動もしくは滑り落ちて供給側前方に移動して、第3案内部6の傾斜部の前方の低くなった位置調整部7で静止する。
【0048】
位置調整部7で線材w1が静止すると、検知装置S3により検知され、直ちに位置調整部7の左右両端のシリンダ装置70の押し上げロッド70aが同時に上昇作動し、押し上げロッド70aの上端に跨って取付られた横桁71上の多数の押し上げ部材72を押し上げ、該押し上げ部材72の傾斜面72bで線材w1を押し上げることで該線材w1を位置調整部7前方の壁部に寄せ付けるようにして線材w1の位置を真っ直ぐに修正しつつ第4の案内部8の傾斜部上に該線材w1を載せる。
【0049】
第4の案内部8の傾斜部上に載せられた線材w1は、この傾斜部上を転動もしくは滑り落ちて搬送装置9の転送ローラ90上に載せられ、この状態が検地装置S4により検知されることで搬送装置9が駆動され、1本の線材w1は所定の図示されない線材処理装置に供給される。
【0050】
本実施形態の線材分離供給装置Aは、上述の構造を備えるので以下のような作用効果を奏する。
【0051】
掴み装置50のチャック50bの一対の爪部50cはテーパ状の挟み部50dを備えており、自由状態でその自重により重力の作用下で互いに所定の僅かな間隙D0をもって垂下するので、この所定の僅かな間隙D0により許容される範囲において開閉することができ、チャック50bはストッカ部5内の線材wに対して押し込まれることでその押し込み力により自動的に開き、そのテーパ状の挟み部50dの一番奥に入り込んだ1本の線材w1のみを確実に把持することができる。したがって、従来用いていたチャック50bの爪部50cを開閉するためのシリンダ装置等は不要となる。
【0052】
テーパ状の挟み部50dに把持されてその一側が持ち上げられた1本の線材w1は、その垂れ下がった他側が線材w1に沿って移動するすくい部材51により持ち上げられて該傾斜部51a上に載せられ前方に押し出されると同時に、前記一側における把持が落とし棒52により外されるので、1本の線材w1は確実に次の線材送り工程に送られる。
【0053】
このように、チャック50bの上下動と落とし棒52だけで線材wを掴み上げ、分離することができ、チャック50bに特別の開閉機構(シリンダ装置)やこれを駆動するためのモータ、センサ等を必要としないので、構造が簡単で、コストも低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の線材の分離供給装置の一側の側面図である。
【図2】本発明の線材の分離供給装置の上面図である。
【図3】本発明の線材の分離供給装置の正面図である。
【図4】本発明の線材の分離供給装置の他側の側面図である。
【図5】本発明の図1における要部の拡大図である。
【図6】本発明の線材掴み装置のチャックを示す図であり、チャックの構造を示すと共に線材の把持状態を示す図である。(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
【図7】本発明のチャックに把持された線材が落とし棒に当接して外される状態を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
A 極細線材の分離供給装置
1 ベルトコンベア
2 第1案内部
3 線材の集積部
4 第2案内部
5 ストッカ部
6 第3案内部
7 位置調整部
8 第4案内部
9 搬送装置
50 線材掴み装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数本の極細線材を一時的に溜めておくストッカ部と、該ストッカ部の上部の一側で上下動可能に配置されて前記数本の極細線材の内から分離した1本の極細線材のみの一端部を掴み上げる掴み装置と、上記ストッカ部と掴み装置との間に配置され上記ストッカ部の一側から他側に往復動可能に配置され前記掴み装置によりその一端部が掴み上げられた1本の分離した極細線材の垂れ下がる他端部をすくい上げることができるすくい部材とを備え、上記掴み装置によって前記分離した1本の極細線材の一端部を掴み上げた後、上記すくい部材を上記ストッカ部の一側から他側に移動させることにより、該分離した1本の極細線材のみを所定の線材処理のために供給できるようにした極細線材の分離供給装置において、
上記掴み装置は下向きに設けられた1対の所定範囲内で回動可能な爪部からなるチャックを備え、前記一対の爪部が互いに対向して前記チャックの先端部内側に所定の制限域で開閉可能なテーパ状の挟み部を形成しており、該チャックが数本の極細線材が溜まったストッカ部内の線材に対して押し込まれることで該押し込み力によりその先端のテーパ状の挟み部が前記所定の制限域で開いて、該テーパ状の挟み部内側で前記ストッカ部に溜まった極細線材の内から分離して1本の極細線材のみを挟んで把持し掴み上げるとともに、
上記チャックが上昇する途中位置に、上記掴み装置により掴み上げられた極細線材に係合可能な邪魔部材を配置した
ことを特徴とする極細線材の分離供給装置。
【請求項2】
上記チャックの一対の爪部は、互いに僅かな間隙をもって対向して自重で垂下するように上記掴み装置の爪取付保持部にそれぞれ回動可能に取付け支持されていることを特徴とする前記請求項1に記載の極細線材の分離供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−137774(P2008−137774A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325725(P2006−325725)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(598070784)株式会社増田鉄工所 (1)
【Fターム(参考)】