説明

構造体設計支援装置

【課題】構造物の載荷時における各部品、または、部位の変形形態を定量的に評価し、構造体に要求される剛性を確保しつつ、重量を低減する設計指針を与えるための構造体設計支援装置を提供する。
【解決手段】構造体設計支援装置が、単一もしくは複数の部品から構成される構造体の少なくとも一部を構成する各部位の数値解析データを記憶する記憶部と、記憶部に記憶された数値解析データに基づいて、特定の境界条件下における構造体の変形を数値解析により定量化し、当該定量化した構造体の変形に基づいて、境界条件下における部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報を算出する算出部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部品が溶接・かしめ・ボルト締結等によって成り立つ構造物の剛性の評価と向上、軽量化、もしくは、その両方を達成させるための構造設計を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な構造体において、省エネルギーや効率向上の観点から、軽量化の要求が高まっている。特に、自動車分野においては、重量増となる衝突安全性を確保しながらCO2排出量を低減するという厳しい技術課題がある。一般に、自動車車体は主に鋼板をプレス等で成形したものを溶接・かしめ・ボルト結合等により組み立てられており、前述の技術課題をクリアするために高強度鋼板(ハイテン)の適用で衝突安全性を確保しつつ、板厚を下げることで軽量化を図ることが進んでいる。
【0003】
しかし、板厚を下げることで部品の剛性は低下してしまい、車体全体の剛性を下げることになる。車体剛性の低下は、乗り心地やハンドリング特性の悪化を招くことになるため、薄手のハイテンを適用する場合には、車体構造の改善や部分的な補剛など、車体剛性に対する課題を解決する必要がある。
【0004】
この課題を効率的かつ低コストで解決するために、従来、数値解析を用いた手法が多く使われている。たとえば、特許文献1には、自動車車体の各部位の全体剛性に対する感度を計算し、感度が相対的に大きい部位に対して自動的に剛性を向上させるように設計変数を最適化する設計方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−215680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示される方法では、車体剛性の向上が得られても、効率的に軽量化を達成することができない可能性がある。たとえば、上記方法に従い感度の高い部品に対して板厚増加やパッチ当て等による補剛を施すと、場合によっては、剛性は向上しても重量も大幅に増加することがあり、板厚を低下させたことによる車体重量低下の効果が低減してしまう可能性がある。これは、後述するように車体剛性が各部品に入力される荷重に対して、その部品がどのように変形することで保持するかに依存しているが、上記手法では、その変形形態を考慮しておらず、効率的な剛性向上が期待出来ないためである。
【0007】
平面上の部品に面外方向に荷重がかかる場合、その部品は曲げ変形を発生させ、部品内の曲げ応力で入力荷重を保持することになる。対して、面内方向に荷重が入力されると、座屈が生じない限り面内のせん断や軸力で荷重を保持することになる。
【0008】
曲げ変形が生じる場合、板厚に対する感度は非常に大きい。例えば単純な平面曲げでは、曲げ剛性は板厚の3乗に比例し、この部品を補剛することは車体剛性への貢献が大きい。対して、せん断や軸力が生じる場合、板厚に対する感度は比較的小さい。例えば面内のせん断や軸力では、せん断剛性は板厚の1乗に比例し、この部品を補剛することは車体剛性への貢献が小さい。
【0009】
従って、曲げ変形が生じる部品を補剛することは、重量の増加に比べて車体剛性の向上が大きいと考えられる。対して、せん断や軸力が生じる部品を補剛することは、重量の増加に比べて車体剛性の向上が小さいと考えられる。つまり、重量増加を最小限に抑えつつ、ある荷重条件における車体剛性の向上を効率的に実行するためには、各部品の変形形態を解明し、その度合いに応じた対策を実施することが必要となる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、構造物の載荷時における各部品、または、部位の変形形態を定量的に評価し、構造体に要求される剛性を確保しつつ、重量を低減する設計指針を与えるための構造体設計支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、単一もしくは複数の部品から構成される構造体の少なくとも一部を構成する各部位の数値解析データを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された数値解析データに基づいて、特定の境界条件下における前記構造体の変形を数値解析により定量化し、当該定量化した構造体の変形に基づいて、前記境界条件下における前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報を算出する算出部と、を有することを特徴とする構造体設計支援装置である。
【0012】
また、この発明は、前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における複数成分で定義される曲率の変化量の一つもしくは複数成分の値であることを特徴とする上記に記載の構造体設計支援装置である。
【0013】
また、この発明は、前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記曲率の変化量の複数成分を用いて定義されるスカラー量であることを特徴とする上記に記載の構造体設計支援装置である。
【0014】
また、この発明は、前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における平均曲率の変化量であることを特徴とする上記に記載の構造体設計支援装置である。
【0015】
また、この発明は、前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点におけるガウス曲率の変化量であることを特徴とする上記に記載の構造体設計支援装置である。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、構造物の載荷時における各部品、または、部位の変形形態を定量的に評価し、構造体に要求される剛性を確保しつつ、重量を低減する設計指針を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施形態による解析の手順を示す第1フローチャートである。
【図2】この発明の一実施形態による解析の手順を示す第2フローチャートである。
【図3】この発明の一実施形態による剛性解析用計算機の構成を示す構成図である。
【図4】横軸に部品番号、縦軸に部品曲率変化を取り、図1に示す第1フローチャートに基づいて算出した部品曲率変化を低い部品から順に示したグラフである。
【図5】部分曲率変化を示すグラフである。
【図6】横軸に部品番号、縦軸に部品曲率変化を取り、図2に示す第2フローチャートに基づいて算出した部品曲率変化を低い部品から順に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明では、車体剛性への感度の高い部品、もしくは、部位を選定した上で、各部品の変形形態を明確化することで重量増加が少なく効率的に車体剛性を向上する部品、もしくは、部位を簡便に判定し、自動車車体設計を支援する手段と機構を提供する。
さらに、上記技術は、自動車の車体に限らず、軽量化を要する構造物のすべてにおいて適用可能となる技術である。
【0019】
本発明において必要な装置および情報は以下の通りである。
1.剛性解析用計算機
2.剛性解析ソフトウェア
3.構造物の有限要素解析データ(初期設計データ)
4.構造物にかかる荷重データ(上記有限要素解析データの境界条件)
【0020】
図1を用いて、本発明における解析の手順を以下に示す。設計データを元に作成される有限要素解析データ(以下、FEMデータと記載)において、構造物を構成し変形モードを評価したい部品に番号を付与する(通し番号をIとする)(ステップ1)。前記FEMデータを用い、構造物にかかる荷重における静解析を実施し、前記FEMデータによって定義される全節点の並進変位δを算出する(ステップ2)。
【0021】
次に、上記部品に含まれる1つの節点を評価節点として選定し(評価したい部品内での通し節点番号をiとする)、前記評価節点に隣接し前記部品に含まれる節点を参照節点として2点以上選定する(1点の評価節点に対する参照節点通し番号をj=1,2,...とする)(ステップ3)。前記参照節点の選定において、評価節点からの一定の距離で決まる範囲に含まれる節点としても良い。なお、この評価節点からの一定の距離は、対象となる構造物の形状や解析データの要素の大きさ等に応じて、使用者が任意に設定するのが望ましい。
【0022】
次に、前記評価節点および前記参照節点の座標を用い、前記評価節点を通り前記参照節点によって形成される近似平面を最小自乗法等によって求め、前記近似平面の法線ベクトルを評価平面法線ベクトル(n)として記録する(ステップ4)。
【0023】
次に、上記評価節点と上記参照節点とに基づいた並進変位差ベクトル(評価節点の並進変位δと参照節点の並進変位δとの差)を計算(算出)し、この計算した並進変位差ベクトルにおいて、上記評価平面法線ベクトル(n)の方向成分を参照並進変位(δj)として記録する(ステップ5)。さらに、前記評価節点から前記参照節点までの距離を計算し参照距離(rj)として記録する(ステップ6)。
【0024】
なお、ステップ5とステップ6とにおいては、1つの評価節点(i)と、この1つの評価節点に対して選定されている2点以上の参照節点(j)とに基づいて、並進変位差ベクトル、参照並進変位(δj)、および、参照距離(rj)が、この2点以上の参照節点(j)それぞれについて、算出される。
【0025】
次に、横軸を参照距離とし、縦軸を参照並進変位とした空間に、上記参照距離(rj)および参照並進変位(δj)で表される座標(rj,δj)をプロットし、これら座標群および原点を1次および定数項を持たない2次関数で近似する。その2次関数の2次の項の係数の絶対値の2倍を評価曲率変化(ρi)として記録する(ステップ7)。
【0026】
ステップ3からステップ7を繰り返し、上記評価したい部品に含まれる全節点について評価曲率変化を計算し平均を部品曲率変化(ΡI:Iは部品を表す通し番号)として記録する(ステップ8)。前記平均を算出する手法としては、単純に各評価節点の加算平均でも良いが、評価節点を含む要素の面積による重みを考慮した重み付き加算平均が望ましい。なお、この平均を算出する手法としては、評価節点を含む要素において評価節点、評価節点の隣の節点との中点、および、要素の重心で囲まれる面積による重み付き加算平均がより望ましい。
【0027】
上記手法で得られた部品曲率変化が小さい部品は軸力やせん断による面内変形に比べて曲げによる面外変形が小さいことを意味し、逆に部品曲率変化が大きい部品は軸力やせん断による面内変形に比べて曲げによる面外変形が大きいことを意味する。つまり、上記部品曲率変化は、部品の剛体変位を除去した、ある荷重条件下における構造体の中の1部品の変形形態を表現するパラメータとして使用できる。
【0028】
そのため、この部品曲率変化の値に基づき、補剛する部品と板厚を減らす部品を容易に選定することができ、軽量化と剛性向上を同時に達成することが可能になる。特に、自動車の車体の場合、車体剛性と重量のパフォーマンスを評価する軽量化指数(車体重量をねじれ剛性と有効面積で除した値)を大幅に低減することが可能になる。たとえば、部品曲率変化に比例する倍率で板厚を増減させることで、簡便に軽量化指数を低減させる設計を行うことができる。
【0029】
また、上記ステップ1において対象を部品毎に区分するのではなく、設計者が対象部位を自由に分割しても良い。たとえば、自動車の車体で見ると、ルーフやサイドパネルなど、大きい部品を複数の領域に分割し、同様の処理を施すことで、各領域の部品曲率変化(部分曲率変化とする)をより適した補剛箇所を抽出することが可能になる。さらに、FEMデータの節点1つ1つを対象にすることで、曲率変化分布を求めることができ、構造体における変形形態分布が明確になり、より細やかな設計が可能になる。この曲率変化分布とは、たとえば、上述した部品曲率変化の分布のことである。
【0030】
この手法を用いれば、各部品、または、部位の変形状態を定量的に容易に知ることができる。しかも、ステップ3〜8は、ルーチン処理であるため、計算機で容易に自動化でき、設計者の作業負担を軽減できる。
【0031】
また、上記ステップ1〜8で使用する部品曲率変化、部分曲率変化、または、曲率変化分布を得る手法において、上記で説明した節点変位(参照並進変位など)と節点座標データ(参照距離など)から部品曲率変化を計算する以外にも、部品曲率変化を求める手段はある。そのような他の部品曲率変化を求める手段を用いた場合であっても、上記に説明した本実施形態による方法を用いることで、剛性を向上、車体を軽量化、または、その両方を実現する設計が可能になる。
【0032】
上記FEMデータを構成する要素がシェル要素である場合を例に、図1を用いて説明した上記ステップ1からステップ8で示される手法以外で、部品曲率変化、部分曲率変化、または、曲率変化分布を求める手法を、図2を用いて以下に示す。
【0033】
設計データを元に作成されるFEMデータにおいて、構造物を構成し変形モードを評価したい部品に番号を付与する(通し番号をIとする)(ステップ1’)。
【0034】
次に、前記FEMデータを用い、構造物にかかる荷重における静解析を実施し、各評価要素の中央面における曲率変化の各成分である曲率変化成分κ11i、κ22i、および、κ12iを求める(ステップ2’)。各曲率変化成分は、シェル要素の局所座標に沿うものとする。これら各曲率変化成分は、例えば、MSC.MARCやNASTRANといった、汎用の構造解析ソルバーで解析すると、一般化ひずみ成分として結果を算出して出力することができる。
【0035】
次に、上記部品に含まれる一つの要素を評価要素として選定する(評価したい部品内での通し要素番号をiとする)。上記曲率変化成分の中で面外変形に影響のある成分は、11および22成分(すなわち、曲率変化成分κ11iおよびκ22i)となるので、例えば、このうちの絶対値が大きい成分を、または、その絶対値を(曲率変化成分κ11iおよびκ22iのうち、絶対値が大きい成分を、または、その絶対値を)、評価曲率変化ρiとして記録する(ステップ3’)。
【0036】
上記ステップ2’および3’を繰り返し、上記評価したい部品に含まれる全要素について評価曲率変化ρiを計算し、その平均を部品曲率変化(ΡI:Iは部品を表す通し番号)として記録する(ステップ4’)。前記平均を算出する手法としては、単純に各評価要素の加算平均でも良いが、評価要素の面積による重みを考慮した重み付き加算平均が望ましい。
【0037】
なお、上記ステップ3’において、11および22成分の単純な相加平均、絶対値の相加平均、または、絶対値の相乗平均を、評価要素の評価曲率変化ρiとしてもよい。
また、上記ステップ3’において、(1)式で定義する座標系に依存しない相当量κを評価曲率変化ρiとするのが望ましい。
【0038】
κ=[2×(κ11×κ11+κ22×κ22+0.5×κ12×κ12)/3]0.5 (1)
【0039】
さらに、上記ステップ3’において、評価要素の主曲率を用いて定義することが望ましい。主曲率は要素平面内において曲率が最大になる方向の曲率λ1およびそれに直交する方向の曲率λ2である。この曲率λ1を、評価要素の評価曲率変化ρiとしてもよい。または、曲率λ1と曲率λ2の相加平均である平均曲率を、評価要素の評価曲率変化ρiとしてもよいし、曲率λ1と曲率λ2の積であるガウス曲率(または、その絶対値)を、評価要素の評価曲率変化ρiとしてもよい。
【0040】
いずれの評価要素の評価曲率変化ρiの求め方を採用しても、上記ステップ4’において各部品内において要素面積に応じた重み付き加算平均を部品曲率変化ΡIとして計算できる。
【0041】
上記部品曲率変化ΡIに基づき、補剛する部品と板厚を減らす部品を容易に選定することができ、軽量化と剛性向上を同時に達成することが可能になる。特に、自動車の車体の場合、車体剛性と重量のパフォーマンスを評価する軽量化指数(車体重量をねじれ剛性と車体有効面積で除した値)を大幅に低減することが可能になる。たとえば、曲率変化に比例する倍率で板厚を増減させることで、簡便に軽量化指数を低減させる設計を行うことができる。
【0042】
また、上記ステップ1’において対象を部品毎に区分するのではなく、設計者が対象部位を自由に分割しても良い。たとえば、自動車の車体で見ると、ルーフやサイドパネルなど、大きい部品を複数の領域に分割することで、より適した補剛箇所を抽出することが可能になる。さらに、FEMデータの要素一つ一つを対象にすることで、構造体における変形形態分布が明確になり、より細やかな設計が可能になる。
【0043】
この手法を用いれば、各部品、または、部位の変形状態を定量的に容易に知ることができる。しかも、ステップ2’〜4’は、ルーチン処理であるため、計算機で容易に自動化でき、設計者の作業負担を軽減できる。
【0044】
なお、上記に図1または図2を用いて説明した部品曲率変化、部分曲率変化、または、曲率変化分布を求める手法は、剛性解析用計算機(構造体設計支援装置)100により実行される。この剛性解析用計算機100は、一例としては、入力部150と、記憶部200と、各評価要素の曲率変化計算部(算出部)250と、出力部300とを備えている。また、一例としては、剛性解析用計算機100には、FEMモデルデータおよび制荷重条件入力部50と、ディスプレイ400と、プリンター500と、が接続されている。
【0045】
記憶部200は、単一もしくは複数の部品から構成される構造体の少なくとも一部を構成する各部位の数値解析データを記憶する。また、この記憶部200には、剛性解析ソフトウェア、構造物の有限要素解析データ(初期設計データ)、構造物にかかる荷重データ(上記有限要素解析データの境界条件)が予め記憶されている。
たとえば、構造物の有限要素解析データ(初期設計データ)および構造物にかかる荷重データ(上記有限要素解析データの境界条件)が、FEMモデルデータおよび制荷重条件入力部50から、剛性解析用計算機100の入力部150に、入力される。そして、入力部150に入力された構造物の有限要素解析データ(初期設計データ)および構造物にかかる荷重データ(上記有限要素解析データの境界条件)が、入力部150により、記憶部200に記憶される。
【0046】
各評価要素の曲率変化計算部250は、前記記憶部200に記憶された数値解析データに基づいて、特定の境界条件下における前記構造体の変形を数値解析により定量化し、当該定量化した構造体の変形に基づいて、前記境界条件下における前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報を算出する。
【0047】
たとえば、この各評価要素の曲率変化計算部250は、記憶部200から読み出した構造物の有限要素解析データ(初期設計データ)に対して、記憶部200から読み出した剛性解析ソフトウェアに基づいて、上記に図1を用いて説明したステップ1〜8、または、上記に図2を用いて説明したステップ1’〜4’を実行し、上記に説明した変形モードに関する情報を算出し、出力する。なお、この各評価要素の曲率変化計算部250は、記憶部200から読み出した構造物にかかる荷重データ(上記有限要素解析データの境界条件)を境界条件として、上述した変形モードに関する情報を算出する。
出力部300は、各評価要素の曲率変化計算部250により算出された変形モードに関する情報を出力する。なお、この出力部300は、各評価要素の曲率変化計算部250により算出された変形モードに関する情報を出力する場合に、この情報を、たとえば、ディスプレイ400などの表示装置に出力してもよいし、プリンター500などの印字装置に出力してもよいし、記憶部200などの記憶装置に記憶させてもよい。
【0048】
また、各評価要素の曲率変化計算部250が算出する(または、出力部300が出力する)部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報は、数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における複数成分で定義される曲率の変化量の一つもしくは複数成分の値(たとえば、図2を用いて説明した、評価曲率変化ρi)である。
【0049】
また、この部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報は、曲率の変化量の複数成分を用いて定義されるスカラー量(たとえば、図2を用いて説明した、部品曲率変化(ΡI))である。
【0050】
また、この部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報は、数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における平均曲率の変化量(たとえば、図2を用いて説明した、曲率λ1と曲率λ2の相加平均である平均曲率として算出される評価要素の評価曲率変化ρi)である。
【0051】
また、部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報は、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点におけるガウス曲率の変化量(たとえば、図2を用いて説明した、曲率λ1と曲率λ2の積であるガウス曲率(または、その絶対値)として算出される評価曲率変化ρi)である。
【0052】
<実施例>
以下に自動車の車体のねじれ変形を対象に、本発明の具体的な実施例を示す。ここでは、図1を用いて説明した方法の場合について説明する。
本ケースで使用する自動車の車体のFEMモデルは、398点の部品データ、各部品を結合するスポット溶接データとボルト−ナット締結データから構成されている。各部品データについて、各部品に1〜398番の番号を付与し、番号に紐付いた部品のセット名をFEMデータにて定義する(ステップ1)。なお、解析ソルバーは、NASTRANを使用した。
【0053】
全体の座標系として、車両前後方向にx軸(前方向を正)、車両左右方向にy軸(左方向を正)、車両上下方向にz軸(上方向を正)を取る。前車軸左ダンパーの車体への取付け点を点A、前車軸右ダンパーの車体への取付け点を点B、後車軸左ダンパーの車体への取付け点を点C、後車軸右ダンパーの車体への取付け点を点Dと定義する。この車体に表1に示されるような境界条件を与えることで車体にねじれトルクを付与し、そのときの車体を構成する全節点の並進変位δを求める(ステップ2)。
【0054】
【数1】

【0055】
次に、部品番号1の部品に含まれる最も節点番号が若い節点を評価節点とし(部品番号1の部品内での通り番号i=1)、この評価節点に隣接する8個の節点を参照節点(通し番号j=1〜8)として抽出する(ステップ3)。
【0056】
次に、上記評価節点を通り上記8個の参照節点から成る近似平面を、最小自乗法より式(2)の形式で求める。
【0057】
a(x−x0)+b(y−y0)+c(z−z0)=0 (2)
【0058】
a、b、cは最小自乗法より求められる係数、(x0,y0,z0)は評価節点の座標を示す。この平面の法線ベクトルを評価平面法線ベクトル(n)とし、n=(a,b,c)/|(a,b,c)|により算出して求める(ステップ4)。
次に、参照並進変位(δj)を式(3)より求める(ステップ5)。
【0059】
δj=<drj−dr0,n> (3)
【0060】
<,>は2つのベクトルの内積、dr0は評価節点の並進変位、drj(j=1,2,...,8)は参照節点の並進変位を示す。さらに、評価節点と参照節点の参照距離(rj)を式(4)より求める(ステップ6)。
【0061】
rj=|(xj−x0,yj−y0,zj−z0)|,(j=1,2,...,8) (4)
【0062】
(xj,yj,zj)はj番目の参照節点の座標を示す。また、(x0,y0,z0)は評価節点の座標を示す。
【0063】
次に、上記参照並進変位(δj)を、参照距離(rj)の2次式である式(5)で近似する。
【0064】
δj=d×rj (5)
【0065】
係数dは最小自乗法によって求められる定数である。そして、この係数dに基づいて、評価曲率変化(ρi)を、式(6)より求める(ステップ7)。
【0066】
ρi=|2d| (6)
【0067】
上記ステップ3〜7を部品番号1に含まれる全節点について繰り返し(ループ1)、前記節点における評価曲率変化(P1)を求め、部品番号1の部品内での平均を部品曲率変化PIとして計算する(ステップ8)。前記平均は、評価節点を含む要素おいて評価節点、評価節点の隣の節点との中点、および、要素の重心で囲まれる面積による重み付き加算平均により求めた。
【0068】
上記ループ1を部品番号2〜398の部品についても実施し、部品曲率変化(PI,I=1〜398)を求める。
【0069】
その結果として、横軸に部品番号、縦軸に部品曲率変化を取り、部品曲率変化が大きい部品から順に上位50部品について、部品曲率変化が低い部品から順に示したグラフを図4に示す。図4中のグラフにおいて、左側に位置する(部品曲率変化が小さい)部品は、部品を構成する面の面内における軸力、もしくは、せん断力が曲げモーメントを卓越しており、面内変形モードの部材であると言える。対して、右側に位置する(部品曲率変化が大きい)部品は、部品を構成する面の面内における軸力、もしくは、せん断力に比較して曲げモーメントが卓越しており、面外変形モードの部材であると言える。たとえば、部品曲率変化が最も大きい2部品(15、および、24番)は、左右の全車軸ダンパーの支持部品であり、本ケースで荷重を直接与えている部品であり、曲げ変形が予想される部品であることがわかる。
【0070】
上記で得られた部品曲率変化PIから、式(7)、
【0071】
γI=min{4, 6700000×PI+0.65} (7)
【0072】
で示されるI番目対象部材の板厚倍率γIを用いて、各対象部品の板厚を変更した修正FEMデータを作成し、上記と同じ境界条件によるねじれ剛性を算出した。なお、式(7)におけるmin{x,y}という関数は、入力xとyとで、小さい方の入力を出力する関数である。
【0073】
結果および初期FEMデータ結果との比較を表2に示す。ただし、有効面積は、四角形ABCDの面積で、4m2である。重量で12.5kg(4.46%)減少、ねじれ剛性で1.2kNm/deg(5.54%)増加を達成し、軽量化指数は、0.307kg・deg/kNm3(9.48%)減少することができ、車体のパフォーマンスが向上した。
【0074】
【数2】

【0075】
異なる実施例として、上記実施例で使用したFEMモデルにおいて、ルーフやサイドパネル等の比較的大きい部品を複数の領域に分割し、上記実施例と同様の操作を実行した。このとき、領域の分割数は552である。得られた部分曲率変化が大きい部分から順に上位50部分について、部分曲率変化(PI,I=1〜552)を図5に示す。上記実施例で使用した板厚倍率の式(7)を用いて板厚の補正を実行した。結果および初期FEMデータ結果との比較を表3に示す。重量で14.0kg(5.00%)減少、ねじれ剛性で1.15kNm/deg(5.31%)増加を達成し、軽量化指数は、0.317 kg・deg/kNm3(9.78%)減少することができ、車体のパフォーマンスが向上した。
【0076】
【数3】

【0077】
さらに、曲率変化について別の計算方法を使用した実施例を以下に示す。すなわち、図2を用いて説明した方法の場合について説明する。
上記FEMモデルにおける各部品データについて、各部品に1〜398番の番号を付与し、番号に紐付いた部品のセット名をFEMデータにて定義する(ステップ1’)。
【0078】
次に、前記FEMデータを用い、構造物にかかる荷重における静解析を実施し、各評価要素の中央面における曲率変化成分κ11i、κ22i、および、κ12iを求める(ステップ2’)。各成分は、シェル要素の局所座標に沿うものとする。
【0079】
次に、部品番号1の部品に含まれる最も要素番号が若い要素を評価要素とし(部品番号1の部品内での通り番号i=1)、上記部品に含まれる一つの要素を評価要素として選定する(評価したい部品内での通し要素番号をiとする)。(8)式で定義する要素座標系の取り方に依存しない相当量を評価曲率変化ρiとする(ステップ3’)。
【0080】
ρi=[2×(κ11i×κ11i+κ22i×κ22i+0.5×κ12i×κ12i)/3]0.5 (8)
【0081】
上記ステップ2’および3’を繰り返し(ループ1’)、部品番号1の部品に含まれる全要素について評価曲率変化ρiを計算し、評価要素の面積による重み付き平均を部品曲率変化(Ρ1)として記録する(ステップ4’)。
上記ループ1’を部品番号2〜398の部品についても実施し、部品曲率変化(PI,I=1〜398)を求める。
【0082】
上記手法で得られた結果を、図4に示されるグラフと同様の形式で、図6に示す。この図6に示す結果として、図4の場合とほぼ同一の結果が得られた。この結果をもとに、上記実施例で使用した板厚倍率の式(7)を用いて板厚の補正を実行した。結果および初期FEMデータ結果との比較を表4に示す。重量で12.5kg(4.46%)減少、ねじれ剛性で1.2kNm/deg(5.54%)増加を達成し、軽量化指数は、0.307kg・deg/kNm3(9.48%)減少することができ、車体のパフォーマンスが向上した。
【0083】
【数4】

【0084】
上記で示した実施例は、車体のねじれ剛性を対象に、その向上と軽量化を図った例であるが、ねじれ剛性に限らず、自動車の走行安定性や乗り心地に寄与する車体全体の曲げ剛性や車体前部の横曲げ剛性等を対象にした場合でも、本発明は有効である。また、自動車以外の構造物、たとえば、ビルや橋梁等の建築構造物、コピー機やプリンター等のオフィス機器、旋盤やプレス機等の機械工作機器等のあらゆる変形に対する剛性についても、本発明は有効である。
【0085】
なお、記憶部200は、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリや、CD−ROM等の読み出しのみが可能な記憶媒体、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成されるものとする。
また、入力部150、各評価要素の曲率変化計算部250、または、出力部300は専用のハードウェアにより実現されるものであってもよく、また、この入力部150、各評価要素の曲率変化計算部250、または、出力部300はメモリおよびCPU(中央演算装置)により構成され、入力部150、各評価要素の曲率変化計算部250、または、出力部300の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよい。
【0086】
また、入力部150、各評価要素の曲率変化計算部250、または、出力部300の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより入力部150、各評価要素の曲率変化計算部250、または、出力部300の処理を実行してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0087】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
【0088】
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0089】
以上、この発明の実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【符号の説明】
【0090】
50…FEMモデルデータおよび制荷重条件入力部、100…剛性解析用計算機(構造体設計支援装置)、150…入力部、200…記憶部、250…各評価要素の曲率変化計算部(算出部)、300…出力部、400…ディスプレイ、500…プリンター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一もしくは複数の部品から構成される構造体の少なくとも一部を構成する各部位の数値解析データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された数値解析データに基づいて、特定の境界条件下における前記構造体の変形を数値解析により定量化し、当該定量化した構造体の変形に基づいて、前記境界条件下における前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報を算出する算出部と、
を有することを特徴とする構造体設計支援装置。
【請求項2】
前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における複数成分で定義される曲率の変化量の一つもしくは複数成分の値であることを特徴とする請求項1に記載の構造体設計支援装置。
【請求項3】
前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記曲率の変化量の複数成分を用いて定義されるスカラー量であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造体設計支援装置。
【請求項4】
前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点における平均曲率の変化量であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。
【請求項5】
前記部品もしくは部品の一部の変形モードに関する情報が、前記数値解析によって得られる前記部品の表面の一点または複数点におけるガウス曲率の変化量であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構造体設計支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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