説明

構造物の破砕方法

【課題】ウォータージェットに伴う廃棄物を処理する際の作業性を向上させることができる構造物の破砕方法を提供する。
【解決手段】ウォータージェットにより構造物を破砕し(S10)、ゲル原料を用いて、前記ウォータージェットの排液と、前記構造物の破砕物と、を一体的に含むゲルを形成する(S30)構造物の破砕方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の破砕方法に関し、特にウォータージェットを用いた構造物の破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物を破砕する方法として、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されているように、ウォータージェットを用いる方法があった。
【特許文献1】特開平1−312147号公報
【特許文献2】特開平8−187664号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術においては、ウォータージェットに伴う大量の排水と構造物の破砕物とを廃棄する際の作業性に問題があった。すなわち、例えば、構造物が石綿を含んで形成されている場合には、混合状態で回収される大量の排水と破砕物とを分離してそれぞれ適切に処理する必要があった。具体的には、排水と破砕物とを分離した後、当該排水には所定の水処理剤を添加して廃液として処理する一方で、当該破砕物にはセメントを添加して硬化させ産業廃棄物として処理する必要があった。
【0004】
なお、排水を処理するにあたって、例えば、吸水性高分子等の吸水剤を使用することも考えられる。しかしながら、吸水剤は、それ自体が限られた量の水を吸収するに過ぎない。このため、吸水剤を使用したとしても、破砕物は上述のように別途処理する必要があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、ウォータージェットを用いながら廃棄物処理の作業性を向上させることができる構造物の破砕方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法は、ウォータージェットにより構造物を破砕し、ゲル原料を用いて、前記ウォータージェットの排液と、前記構造物の破砕物と、を一体的に含むゲルを形成することを特徴とする。本発明によれば、ウォータージェットを用いた構造物の破砕方法において、廃棄物を処理する際の作業性を向上させることができる。すなわち、ウォータージェットの排液と構造物の破砕物とを一体的に回収し廃棄することができる。このため、従来に比して廃棄物を処理する工程を大幅に簡略化することができる。
【0007】
また、前記ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち少なくとも一部を含む溶液を噴射するウォータージェットであってもよい。また、この場合、前記構造物は、断熱層と、前記断熱層を覆う被覆層と、を有し、前記ウォータージェットは、少なくとも前記被覆層に切り込みを形成する第一ウォータージェットと、次いで、固形の破砕材を伴って前記被覆層及び前記断熱層を破砕する第二ウォータージェットと、を含み、前記第一ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち少なくとも一部を含む溶液を噴射するウォータージェットであることとしてもよい。また、さらに、前記第一ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち一部を含む溶液を噴射するウォータージェットであり、前記破砕材は、前記ゲル原料のうち他の一部を含むこととしてもよい。
【0008】
こうすれば、廃棄物を処理する際の作業性をさらに向上させることができる。すなわち、ゲルを形成するために要する時間及び工程数を低減することができる。具体的に、例えば、排液及び破砕物と、ゲル原料溶液と、を混合状態で回収できるため、ゲル原料を用いることなくウォータージェットを行った後にゲル原料の全てを添加する場合に比べて、当該排液及び破砕物に当該ゲル原料を混合する工程を簡略化し又は省略することができる。また、水のみを用いたウォータージェットを行った後にゲル原料溶液の全てを添加する場合に比べて、当該水の分だけゲルの体積を低減することができる。また、ゲル原料溶液によって、構造物の破砕に伴う粉塵の飛散を効果的に防止することもできる。
【0009】
また、前記ゲル原料は、ケイ酸アルカリ金属塩と、保水性高分子と、を含むこととしてもよい。この場合、前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つであり、前記保水性高分子は、ポリアクリル系樹脂であるとすることができる。また、さらに、前記ゲル原料は、アルミニウム化合物をさらに含むこととしてもよい。この場合、前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つであるとすることもできる。こうすれば、排水と破砕物とを一体的に保持したゲルを短時間で確実に形成することができる。
【0010】
また、前記構造物は、石綿を含み、前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウムであるとすることもできる。こうすれば、排水と破砕物とを一体的に保持したゲルを短時間で確実に形成することができるのみならず、珪酸リチウムは石綿と特に親和性が高いため、当該石綿の粉塵の飛散を極めて効果的に防止することができる。また、前記構造物は、筒状構造物の内張り層とすることもできる。こうすれば、ウォータージェットを用いて、煙突等の筒状構造物の内面に形成された内張り層を破砕する方法において、廃棄物を処理する際の作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法(以下、「本方法」という)について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態においては、円筒状構造体である煙突の内張り層を破砕の対象とする場合を例として説明する。
【0012】
まず、本方法の概要について説明する。図1は、本方法を実施する前の煙突の断面を示す説明図である。図2は、図1に示すII−II線に沿って切断した煙突の断面図である。図3は、本方法で用いられるウォータージェット装置の一例についての説明図である。図4は、本方法を実施した後の煙突の断面を示す説明図である。
【0013】
煙突10は、外壁20に囲まれた建造物1の内部から上方に延びるよう設けられており、その上端部分は、当該外壁20の天井部20aから当該建造物1の外部に突出している。そして、この煙突10は、当該煙突10の骨格を構成する円筒状の基部11と、当該煙突10の内面部分を構成する内張り層12と、を有している。基部11は、鉄筋コンクリートにより構成されている。煙突10の径方向中央部分には、煙等の排気が流通する空間である中空部13が形成されている。中空部13の上方端は、煙突10の上方端に開口しており、この開口部分から排気が外部に排出される。
【0014】
内張り層12は、図2に示すように、断熱層12aと、当該断熱層12aを被覆する被覆層12bと、を有している。断熱層12aは、基部11の内面を覆うよう形成され、被覆層12bは、さらに当該断熱層12aの内面を覆うよう形成されている。
【0015】
また、内張り層12は、石綿を含んで構成されている。すなわち、断熱層12aは、石綿繊維から構成され、被覆層12bは、セメントに石綿繊維が分散されてなる石綿スレートから構成されている。したがって、被覆層12bは、断熱層12aに比べて、気体や液体の透過性が低く、力学的強度が高くなっている。
【0016】
なお、石綿は、蛇紋石又は角閃石に属する繊維状の無機ケイ酸塩鉱物である。具体的に、蛇紋石系の石綿としてはクリソタイル(白石綿)があり、角閃石の石綿としてはアモサイト(茶石綿)、クロシドライト(青石綿)、アクチノライト、トレモライト、アンソフィライトがある。
【0017】
また、図1及び図4に示すように、建造物1内において、煙突10の下方端部分には、ウォータージェットを用いた破砕処理に伴う排液や破砕物を収容できる収容室21が設けられている。この収容室21には、煙突10の中空部13の下方端が開口している。このため、後述するようなウォータージェットを用いた破砕処理に伴う排液や破砕物は、煙突10の中空部13内を通過して収容室21内に落下する。
【0018】
一方、収容室21は、中空部13との連通部分を除き閉鎖することができるように構成されている。このため、収容室21内に収容された排水及び破砕物が当該収容室21外に拡散することを確実に防止することができるようになっている。この収容室21は、例えば、構造物1において煙突10の灰を溜めておくために予め設けられている空間をそのまま利用することができ、又は本方法を実施するにあたって建造物1内に新たに構築することができる。
【0019】
また、建造物1の天井部20aのうち、煙突10の上端部分が突出している部分には、ウォータージェットを用いた破砕処理に伴う排液や破砕物が外部に飛散することを防止するための作業室22が設けられている。この作業室22には、煙突10の中空部13の上方端が開口している。一方、作業室22は、中空部13との連通部分を除き閉鎖することができるように構成されている。このため、排水及び破砕物が作業室22外に拡散することを確実に防止することができるようになっている。この作業室22は、本方法を実施するにあたって建造物1外に新たに構築することができる。
【0020】
また、図1、図3、図4に示すように、本方法において使用されるウォータージェット装置30は、作業室22内に設置される操作部31と、煙突10内に配置される本体32と、を有している。操作部31は、ウォータージェット装置30の動作を制御するための操作スイッチや、煙突10の中空部13内の様子をモニタリングするための撮影画像が表示されるディスプレイを有している。このため、作業者は、例えば、操作部31のディスプレイを見ながら、操作スイッチを操作して、ウォータージェット装置30によるウォータージェット処理を適切に制御することができる。本体32は、ワイヤー34によって煙突10の中空部13内に吊り下げられている。本体32を配置する位置は、ワイヤー34の長さを増減させることによって調節することができる。
【0021】
また、本体32は、煙突10の内張り層12に向けて突出するように設けられた2つのノズル部33を有している。各ノズル部33は、その先端から内張り層12に向けて、ウォータージェットを噴射することができる。ここで、本発明におけるウォータージェットは、高圧で噴射される、水又は溶液の噴流(ジェット)である。このウォータージェットの噴射圧力は、例えば、25MPa以上とすることができ、40MPa以上とすることもできる。
【0022】
また、本体32はモータ等の駆動装置を内蔵しており、ノズル部33は、当該駆動装置が発生させる駆動力によって、煙突10の内張り層12の内面に沿った方向に回転することができるよう構成されている。したがって、ノズル部33は、煙突10の中空部13内において回転しながら、内張り層12の円周方向全域にウォータージェットを噴射することができる。
【0023】
本方法においては、このようなウォータージェット装置30を用いたウォータージェットにより、煙突10の内張り層12を破砕する。ここで、本発明において特徴的なことの一つは、図4に示すように、ウォータージェットの排液と破砕物とを一体的に含むゲルGを形成する点である。このゲルGは、排液と破砕物とを一体的に保持する廃棄物として、簡単に回収し、廃棄することができる。具体的に、例えば、収容室21内においてゲルGを形成し、当該収容室21内でゲルGを所定の容器内に密封して、当該容器を建造物1外に搬出することができる。
【0024】
特に、本実施形態においては、内張り層12が、取扱いに注意を要する石綿を含んでいるにもかかわらず、従来のような排水と破砕物との煩雑な分離作業を行うことなく、当該内張り層12の破砕物とウォータージェットの排液とをゲルG内に封じ込めて、産業廃棄物として一体的に回収することができる。なお、ゲルGを廃棄する際には、蒸発や加熱等により予め当該ゲルGに含まれる水分を低減することもできる。
【0025】
このように、本方法によれば、ウォータージェットの排水と破砕物とを一体的に回収し、輸送が容易な産業廃棄物として効率よく処理することができる。したがって、従来のウォータージェットを用いた工法に比べて、排水及び破砕物を廃棄する際の作業性を効果的に向上させることができる。
【0026】
次に、本方法の詳細について説明する。図5は、本方法の一例に含まれる主な処理の流れを示すフロー図である。図5に示すように、本方法は、ウォータージェットを用いて煙突10の内張り層12を破砕する処理を行う第一工程S10と、当該ウォータージェットの排液及び当該内張り層12の破砕物を回収する第二工程S20と、ゲル原料を用いて、回収された当該排液及び破砕物を一体的にゲル化する第三工程S30と、を含む。
【0027】
また、本実施形態において、第一工程S10では、2段階のウォータージェット処理を行う。このため、第一工程S10は、さらに、第一のウォータージェットを行う工程S11(以下、「第一WJ工程S11」という。)と、次いで、第二のウォータージェットを行う工程S12(以下、「第二WJ工程S12」という。)と、を含む。
【0028】
第一WJ工程S11においては、ウォータージェットにより、煙突10の内張り層12のうち少なくとも被覆層12bに切り込みを形成する。すなわち、煙突10の中空部13内において、ウォータージェット装置30(図3参照)のノズル部33から水又は溶液のジェットを噴射して、当該ウォータージェットを内張り層12に衝突させる。これによって、内張り層12の表面を覆う被覆層12b、さらには当該被覆層12bの奥に配置されている断熱層12bの少なくとも一部に到達する鋭い溝を形成する。
【0029】
より具体的に、この第一WJ工程S11においては、格子状の切り込みを形成する。すなわち、ウォータージェット装置30の本体32及びノズル部33を、煙突10の中空部13内において、ウォータージェットを噴射させながら上下方向に移動させる。
【0030】
この結果、煙突10の内張り層12のうち少なくとも被覆層12bを複数のブロックに区画する格子状の切り込みを形成することができる。
【0031】
なお、この第一WJ工程S11において切り込みを形成するためのウォータージェットは、衝撃性を高めるための固形の破砕材を使用することなく、水又は溶液のジェットのみを内張り層12に衝突させることが好ましい。こうすることによって、鋭い切り込みを形成することができる。
【0032】
第一WJ工程S11に続く第二WJ工程S12においては、固形の破砕材を伴ったウォータージェットにより、被覆層12b及び断熱層12aを破砕する。すなわち、煙突10の中空部13内において、微粒子からなる破砕材とともに、ウォータージェット装置30のノズル部33から水又は溶液のジェットを噴射して、当破砕材を伴うジェットを、予め切り込みが形成された内張り層12に衝突させる。これによって、被覆層12bと断熱層12aの両方を破砕し、内張り層12の全体を基部11から除去する。
【0033】
なお、破砕材は、ウォータージェット装置30において、ノズル部33に近接した位置に設けられた他のノズル部(不図示)又は当該ノズル部33の内部に設けられた噴出口から高圧で噴射される。このため、第二WJ工程S12において用いられるウォータージェットは、水又は溶液の微少滴と、破砕材の微粒子と、が互いに分散状態で混合されたジェットとなる。このウォータージェットは、破砕材を伴うことにより、その衝撃力が効果的に高められている。また、破砕材は、その新モース硬度が2.5〜15の範囲のものを好ましく用いることができる。
【0034】
このように、本実施形態においては、まず、鋭い第一ウォータージェットによって内張り層12のうち少なくとも被覆層12bに切り込みを形成しておき、次いで、衝撃力の高い第二のウォータージェットによって、当該被覆層12b及び断熱層12aの両方を一気に破砕する。
【0035】
この2段階ウォータージェットを採用することによって、被覆層12bと断熱層12aとを有する内張り層12を効率よく且つ確実に破砕し除去することができる。また、第一WJ工程S11において、内張り層12に格子状の切り込みを形成することにより、第二WJ工程S12において、当該内張り層12の破砕物によって煙突10の中空部13が閉塞されるという問題を効果的に回避することができる。
【0036】
第二工程S20においては、第一工程S10におけるウォータージェット処理に伴う排液及び破砕物を混合状態で回収する。すなわち、ウォータージェットにより煙突10の基部11から剥離された内張り層12の破砕物は、当該ウォータージェットの排液と混ざり合いながら中空部13内を落下して、収容室21内に堆積する。なお、排液及び破砕物は、第一工程S10におけるウォータージェット処理に伴って連続的に回収されるため、第二工程S20における排液及び破砕物の回収は、当該第一工程S10と並行して行われることとなる。
【0037】
第三工程S30においては、ゲル原料を用いて、第二工程S20で回収された排液と破砕物とを一体的に保持したゲルを形成する。すなわち、収容室21内に収容された排液と破砕物との混合物を、ゲル原料とともに所定の温度で所定の時間維持することにより、当該破砕物が内部に埋め込まれたゲルを形成する(図4参照)。なお、このゲルは、ウォータージェットで用いられた水分と、回収された破砕物と、を保持しつつ、一定の形状を維持できるよう形成されることが好ましい。
【0038】
本実施形態において、ゲル原料は、水の存在下で互いに混合されることによりゲルを形成できる3つの原料(以下、それぞれ「第一ゲル原料」、「第二ゲル原料」、「第三ゲル原料」という。)を含む。すなわち、第一ゲル原料は、ケイ酸アルカリ金属塩であり、第二ゲル原料はアルミニウム化合物であり、第三ゲル原料は保水性高分子である。
【0039】
ケイ酸アルカリ金属塩としては、例えば、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つを好ましく用いることができ、ケイ酸リチウムを特に好ましく用いることができる。
【0040】
これらケイ酸アルカリ金属塩は、例えば、当該ケイ酸アルカリ金属塩を含む溶液として用いることができる。すなわち、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩を含む塩基性水溶液を好ましく用いることができる。具体的に、例えば、ケイ酸リチウムの濃度が3〜25重量%の範囲であり、pHが10〜12の範囲であるケイ酸リチウム水溶液を好ましく用いることができる。
【0041】
アルミニウム化合物としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つを好ましく用いることができ、酸化アルミニウム又は硫酸アルミニウムのうち少なくとも一方を特に好ましく用いることができる。酸化アルミニウムとしては、例えば、コロイダルアルミナを好ましく用いることができる。
【0042】
これらアルミニウム化合物は、例えば、当該アルミニウム化合物を含む溶液として用いることができる。すなわち、例えば、アルミニウム化合物を含む酸性水溶液を好ましく用いることができる。具体的に、例えば、酸化アルミニウムの濃度が5〜30重量%の範囲(好ましくは10〜11重量%の範囲)であり、pHが4〜6の範囲であり、20℃における粘度が50〜3000(mPa・s)の範囲であるアルミナゾル水溶液を好ましく用いることができる。また、硫酸アルミニウムの濃度が10〜30重量%の範囲(好ましくは15〜20重量%)であり、pHが3〜6の範囲である硫酸アルミニウム水溶液を好ましく用いることができる。
【0043】
保水性高分子としては、水を保持できる親水性の高分子であって、ゲル原料の一部として用いることでゲルの流動性を低減できるものであれば特に限られず任意の種類のものを適宜選択して用いることができる。
【0044】
すなわち、この保水性高分子としては、例えば、ポリアクリル系樹脂を好ましく用いることができる。ポリアクリル系樹脂としては、例えば、ポリアクリルアミド系樹脂やポリアクリル酸系樹脂を好ましく用いることができる。
【0045】
ポリアクリルアミド系樹脂としては、アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂又はカチオン性ポリアクリルアミド系樹脂のうち少なくとも一方を用いることができる。アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂としては、例えば、分子量が2×10〜3×10(Da)の範囲のものを好ましく用いることができる。カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂としては、例えば、分子量が1×10〜2×10(Da)の範囲(好ましくは1×10(Da)程度)のものを好ましく用いることができる。
【0046】
また、保水性高分子としては、多糖類やタンパク質を用いることもできる。すなわち、多糖類としては、例えば、寒天やアルギン酸ナトリウムを用いることができる。また、タンパク質としては、例えば、ゼラチンを用いることができる。
【0047】
これら保水性高分子は、例えば、当該保水性高分子を含む溶液として用いることができる。すなわち、例えば、保水性高分子を含む酸性水溶液を好ましく用いることができる。具体的に、例えば、アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂の濃度が15〜20重量%の範囲であり、pHが2.5〜5の範囲であり、25℃における粘度が4000〜10000(mPa・s)の範囲であるアニオン性アクリルアミド系樹脂水溶液を好ましく用いることができる。また、例えば、カチオン性ポリアクリルアミド系樹脂の濃度が15〜20重量%の範囲であり、pHが2.5〜5の範囲であり、25℃における粘度が1000〜6000(mPa・s)の範囲であるカチオン性アクリルアミド系樹脂水溶液を好ましく用いることができる。
【0048】
第三工程S30においては、ウォータージェットの排水と、内張り層12の破砕物と、第一ゲル原料と、第二ゲル原料と、第三ゲル原料と、を互いに混合された状態で所定温度にて所定時間保持することによって、当該破砕物が封じ込められたゲルを形成する。
【0049】
ここで、3種類のゲル原料は様々な態様で使用することができる。すなわち、本実施形態において、上述の第一WJ工程S11で用いられる第一ウォータージェットは、第一ゲル原料を含む塩基性水溶液を噴射するウォータージェットである。具体的に、この第一ウォータージェットは、破砕材を伴うことなく、ケイ酸リチウム水溶液を噴射するウォータージェットとすることができる。
【0050】
一方、上述の第二WJ工程S12で用いられる第二ウォータージェットは、第一ゲル原料以外のゲル原料を用いないウォータージェットとすることができる。すなわち、第二ウォータージェットは、例えば、ゲル原料以外の微粒子からなる破砕材とともに水を噴射するウォータージェットである。なお、この破砕材としては、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)や炭酸カルシウムの微粒子を用いることができる。
【0051】
この場合、第二工程S20においては、第一ウォータージェットの排液である第一ゲル原料水溶液と、第二ウォータージェットで用いられた破砕材を含む排水と、内張り層12の破砕物と、を回収する。
【0052】
そして、第三工程S30において、これら排液及び破砕物の混合物に、第二ゲル原料と第三ゲル原料とを添加して混合することにより、当該排液及び破砕物を一体的に保持したゲルを形成する。なお、第三工程S30において、必要に応じて第一ゲル原料をさらに添加することもできる。
【0053】
また、第二ウォータージェットは、第一ゲル原料以外のゲル原料を用いるウォータージェットとすることができる。すなわち、第二ウォータージェットは、例えば、第二ゲル原料の微粒子又は第三ゲル原料の微粒子の少なくとも一方を含む破砕材を伴うウォータージェットとすることができる。具体的に、この第二ウォータージェットは、アルミナ微粒子又は硫酸アルミニウム微粒子を含む破砕材とともに水を噴射するウォータージェットである。
【0054】
また、第二ウォータージェットは、例えば、第二ゲル原料又は第三ゲル原料のうち少なくとも一方を含む酸性水溶液を噴射するウォータージェットとすることができる。具体的に、この第二ウォータージェットは、破砕材とともに、アルミナゾル水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、又はポリアクリルアミド系樹脂水溶液を噴射するウォータージェットである。なお、これら水又は溶液と破砕材とは適宜組み合わせて用いることができる。
【0055】
このように、第二ウォータージェットが、第二ゲル原料又は第三ゲル原料のうち少なくとも一方を用いるウォータージェットである場合、第二工程S20においては、第一ウォータージェットの排液である第一ゲル原料水溶液と、第二ウォータージェットで用いられた第二ゲル原料又は第三ゲル原料を含む排液と、内張り層12の破砕物と、を回収する。
【0056】
そして、第三工程S30において、これら排液及び破砕物の混合物に、2段階ウォータージェットで用いられなかった残りのゲル原料を添加して混合することにより、当該排液及び破砕物を一体的に保持したゲルを形成する。なお、第三工程S30において、必要に応じて第一ゲル原料、第二ゲル原料又は第三ゲル原料をさらに添加することもできる。
【0057】
本実施形態においては、第一ゲル原料としてケイ酸アルカリ金属塩を用い、第二ゲル原料としてアルミニウム化合物を用い、第三ゲル原料として保水性高分子を用いることにより、第三工程S30において、ウォータージェットの排水と内張り層12の破砕物とを一体的に保持したゲルを短時間で確実に形成することができる。
【0058】
具体的に、例えば、ゲル原料が、ケイ酸リチウム水溶液と、酸化アルミニウム水溶液又は硫酸アルミニウム水溶液のうち少なくとも一方(好ましくは酸化アルミニウム水溶液及び硫酸アルミニウム水溶液の両方)と、アニオン性ポリアクリルアミド系樹脂水溶液又はカチオン性ポリアクリルアミド系樹脂水溶液のうち少なくとも一方(好ましくはアニオン性ポリアクリルアミド系樹脂水溶液及びカチオン性ポリアクリルアミド系樹脂水溶液の両方)と、を含む場合には、特にゲルを効率よく形成することができる。すなわち、例えば、排液と破砕物とを一体的な廃棄物として搬出可能とするゲルを、ウォータージェットによる破砕処理が終了してから24時間以内に形成することができる。
【0059】
また、これらケイ酸アルカリ金属塩と、アルミニウム化合物と、保水性高分子と、を用いてゲルを形成する場合には、まずケイ酸アルカリ金属塩の塩基性水溶液を使用し、次いで、アルミニウム化合物の酸性水溶液を添加し、最後に保水性高分子の酸性水溶液を添加することにより、ゲルの形成を特に効率よく行うことができる。なお、このようなゲル形成には、ケイ酸アルカリ金属塩の塩基性水溶液のpHを酸性側にシフトさせることが寄与していると考えられる。
【0060】
また、上述のように、第一工程S10におけるウォータージェットに、ゲル原料の一部を用いることにより、第三工程S30においてゲルを形成するために要する時間及び工程数を低減することができる。
【0061】
すなわち、第一工程S10において、ゲル原料の一部を用いたウォータージェットにより内張り層12を破砕する場合には、当該ウォータージェットの排液及び当該内張り層12の破砕物と、当該ゲル原料の一部と、が互いに混ざり合いながら収容室21内に堆積する。したがって、例えば、ゲル原料を用いることなくウォータージェットを行った後にゲル原料の全てを添加する場合に比べて、排液及び破砕物とゲル原料とを混合するために要する時間及び工程を大幅に短縮することができる。
【0062】
また、第一工程S10におけるウォータージェットに、ゲル原料の一部を含む溶液を用いることにより、第三工程S30で形成されるゲルの体積を低減することができる。
【0063】
すなわち、第一WJ工程S11において、ケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を噴射する第一ウォータージェットを用いる場合には、例えば、水のみを用いた第一ウォータージェットを行った後にケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する場合に比べて、少なくとも当該水の分だけゲルの体積を低減することができる。
【0064】
また、第一工程S10におけるウォータージェットに、ゲル原料の一部を含む溶液を用いることにより、当該ウォータージェットによる破砕処理に伴う粉塵の飛散を効果的に防止することができる。
【0065】
すなわち、第一WJ工程S11において、ケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を噴射する第一ウォータージェットによって内張り層12に切り込みを形成する場合には、当該ケイ酸アルカリ金属塩が、当該切り込みから被覆層12b及び断熱層12aに浸透して飛散防止剤として機能する。したがって、続く第二WJ工程S12における第二ウォータージェットによる内張り層12の破砕に伴う粉塵の発生及び飛散を抑制することができる。
【0066】
特に、本実施形態においては、内張り層12が石綿を含んでいるため、ケイ酸アルカリ金属塩としてケイ酸リチウムを用いる場合に、当該石綿の飛散を防止する効果が顕著なものとなる。
【0067】
すなわち、ケイ酸リチウムは、ケイ酸アルカリ金属塩の中でも特に石綿との親和性が高いため、ケイ酸リチウム水溶液を用いたウォータージェットを行うことにより、断熱層12a及び被覆層12bに含まれる石綿の繊維を当該ケイ酸リチウムにより効果的に被覆することができる。
【0068】
ここで、ケイ酸リチウムの水溶液においては、負の表面電荷を有するコロイド状シリカと、正の電荷を有するリチウムイオンと、が電気的なバランスを維持して共存している。これに対し、内張り層12に含まれる石綿のうち、クロシドライト、アモサイトの表面電荷は負であり、ケイ酸リチウム水溶液中のコロイド状シリカの表面電荷と同じである。したがって、石綿繊維の集合体にケイ酸リチウム水溶液が浸透すると、石綿繊維の表面電荷とコロイド状シリカの表面電荷とが反発し、石綿繊維間にコロイド状シリカが分散するが、リチウムイオンによって電気的なバランスが維持される。この結果、ケイ酸リチウムと石綿繊維との親和性が高くなり、石綿繊維はケイ酸リチウム水溶液に濡れやすくなっていると考えられる。
【0069】
また、リチウムイオンのイオン半径は、他のアルカリイオンのそれに比較して小さいため、ケイ酸リチウムが石綿繊維表面に吸着できる量は他のケイ酸アルカリに比べても多く、石綿繊維との親和性が特に高くなっていると考えられる。このため、ケイ酸リチウムは石綿繊維に効率よく保持されて、当該石綿繊維の飛散を極めて効果的に防止することができる。
【0070】
また、ケイ酸リチウムを用いることにより、ゲル中の石綿を当該ケイ酸リチウムで拘束して一体化し、当該石綿の飛散を効果的に防止するとともに、当該ゲルを廃棄物として溶融処理する際に、当該石綿を溶融するために必要な温度を効果的に低下させることもできる。すなわち、石綿を含むゲルにケイ酸リチウムがさらに含まれていることにより、通常1500℃以上である当該石綿の溶融温度を、約1360℃まで低下させることができる。
【0071】
また、ケイ酸リチウムが付着した石綿クリソタイル(白石綿)からなる廃棄物を700℃以上に加熱すると、当該クリソタイルがフォレステライト、シリカ、エンスタタイトの結晶構造に変化し、さらに900℃以上に加熱すると、その多くがシリカ、エンスタタイトの結晶になり、フォレステライトの結晶は殆ど含まれなくなる。フォレステライトは長期的には水和してクリソタイルに戻る可能性があるため、廃棄物の安全性を高めることもできる。
【0072】
また、石綿が封じ込められたゲルが、ケイ酸塩やアルミニウム化合物等の無機化合物を主体として構成されることにより、当該ゲルが有機化合物を主体として構成される場合に比べて、当該ゲルを廃棄物として加熱溶融処理する際の当該廃材の崩壊を効果的に回避することができる。このため、加熱溶融処理の過程において廃棄物から石綿が飛散することを効果的に回避することができる。
【0073】
また、ケイ酸リチウムを含む塩基性水溶液と、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び塩化アルミニウムのうち少なくとも一つと、を含む酸性水溶液と、を用いる場合には、各水溶液のpHが比較的中性に近いため、作業時の安全性が高く、作用現場における浸食も起こりにくい。
【0074】
次に、本方法におけるゲルの形成に関する具体的な実施例について説明する。
【0075】
[実施例]
ゲル原料としては、ケイ酸リチウム水溶液、アルミナゾル水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、アニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液、カチオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を準備した。
【0076】
ケイ酸リチウム水溶液としては、ケイ酸リチウムを15重量%含有する水溶液を用いた。このケイ酸リチウム水溶液のpHは10.0であった。
【0077】
アルミナゾル水溶液としては、市販されている水溶液を用いた。このアルミナゾル水溶液は、酸化アルミニウムを10重量%含有し、pHは5.11であった。
【0078】
硫酸アルミニウム水溶液としては、水処理凝集剤(いわゆる硫酸バンド)として使用可能な市販されている水溶液を水で希釈して用いた。この硫酸アルミニウム水溶液は、硫酸アルミニウムを20重量%含有し、pHは4.0であった。
【0079】
アニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液としては、紙力増強剤や水処理におけるアニオン系高分子凝集剤として使用可能な市販されている第一の水溶液又は第二の水溶液を用いた。第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液は、分子量が約2×10(Da)であるアニオン性ポリアクリルアミド樹脂を15重量%含有し、pHは5.68であった。第二のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液は、分子量が約3×10(Da)であるアニオン性ポリアクリルアミド樹脂を20重量%含有し、pHは2.5〜4.5の範囲であった。
【0080】
カチオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液としては、凝結剤として使用可能な市販されている水溶液を用いた。このアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液は、分子量が約1×10(Da)であるカチオン性ポリアクリルアミド樹脂を15重量%含有し、pHは2.5〜4.5の範囲であった。
【0081】
また、本方法において破砕の対象となった構造物の破砕物として、ロックウールの吹き付け材の破片を用いた。
【0082】
そして、第一の条件においては、100gのケイ酸リチウム水溶液、10gのアルミナゾル水溶液、3gの硫酸アルミニウム水溶液、及び30gの第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を樹脂製容器内で混合した。混合液のpHは9〜10であった。この混合液を室温にて容器内で30分保持した。この結果、容器から一つの塊として容易に取り出すことのできるゲルを形成することができた。
【0083】
また、第二の条件においては、50gのケイ酸リチウム水溶液、1.5gの硫酸アルミニウム水溶液、及び15gの第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を樹脂製容器内で混合した。混合液のpHは9〜10であった。この混合液を室温にて容器内で30分保持した。この結果、容器から一つの塊として容易に取り出すことのできるゲルを形成することができた。なお、第二の条件で形成されたゲルは、上述の第一の条件で形成されたゲルに比べて柔らかいものであった。
【0084】
また、第三の条件においては、50gのケイ酸リチウム水溶液、5gのアルミナゾル水溶液、及び15gの第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を樹脂製容器内で混合した。混合液のpHは10〜12であった。この混合液を室温にて容器内で30分保持した。この結果、容器から一つの塊として容易に取り出すことのできるゲルを形成することができた。なお、第三の条件で形成されたゲルは、上述の第一の条件で形成されたゲルに比べて、容器からの剥離性がやや劣るものであった。
【0085】
また、第四の条件においては、8gの吹き付け材破片、50gのケイ酸リチウム水溶液、5gのアルミナゾル水溶液、1.5gの硫酸アルミニウム水溶液、及び15gの第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を樹脂製容器内で混合した。混合液のpHは10であった。この混合液を室温にて容器内で30分保持した。この結果、吹き付け材破片を内部に保持し、容器から一つの塊として容易に取り出すことのできるゲルを形成することができた。
【0086】
また、第五の条件においては、50gのケイ酸リチウム水溶液、5gのアルミナゾル水溶液、1.5gの硫酸アルミニウム水溶液、15gの第二のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液、7.5gのカチオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液を樹脂製容器内で混合した。混合液のpHは10であった。この混合液を室温にて容器内で30分保持した。この結果、容器から一つの塊として容易に取り出すことのできるゲルを形成することができた。
【0087】
また、予備的に50gのケイ酸リチウム水溶液と15gの第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液とを混合して、pHが12の混合液を室温にて30分保持したところ、当該第一のアニオン系ポリアクリルアミド樹脂水溶液に含有されるアニオン性ポリアクリルアミド樹脂の濃度をより増加させることにより、好ましいゲルを形成可能と考えられる結果が得られた。
【0088】
このように、ゲル原料として、ケイ酸リチウム水溶液、アルミナゾル水溶液又は硫酸アルミニウム水溶液の少なくとも一方と、ポリアクリルアミド樹脂水溶液と、を用いることにより、破砕物を一体的に保持したゲルを形成できることが確認された。なお、これらの条件においてゲルを形成するために混合液を保持する時間を30分間としたが、30分より短い時間、例えば、10分以上保持することによってもゲルを形成することが可能であった。
【0089】
なお、本発明は、本実施形態で説明したものに限られない。まず、本方法において破砕の対象となる構造物は、ウォータージェットにより破砕可能なものであれば、上述の例に示したものに限られない。
【0090】
すなわち、断熱層12aは、石綿断熱材から構成されるものに限られず、例えば、ロックウールやガラスウール等の他の繊維材料や、発泡材料等の他の断熱材料から構成されてもよい。また、被覆層12bは、断熱層12aに比べて気体や液体の透過性が低く、力学的強度が高いものであれば、石綿スレートから構成されるものに限られず、例えば、ケイ酸カルシウム板のような被覆材であってもよい。また、内張り層12は、上述の2層構造のものに限られず、例えば、被覆層12bを有することなく、断熱層12aのみからなる単層構造のものであってもよく、また、3以上の層が積層された構造のものであってもよい。
【0091】
また、本方法において破砕の対象となる構造物が石綿を含有する場合には、当該構造物は、例えば、構造物の表面に石綿を含む材料を吹き付けることにより形成された石綿含有吹き付け材や、石綿を含む材料で成形されたフェルト、スレート、ボード等の石綿含有壁材とすることもできる。また、本方法において破砕の対象となる構造物は、石綿を含有するものに限られない。また、本方法において破砕の対象となる構造物は、上述のように断面が円形である筒状構造物に限られず、例えば、断面が四角形等の多角形である筒状の構造物とすることができ、また、筒状以外の形状を有する構造物の一部又は全部とすることもできる。
【0092】
また、本方法で用いることのできるゲル原料は、所定の条件(温度や時間)で、排液と破砕物とが一体化されたゲルを形成できる原料であれば、上述の例で示したものに限られず、任意の種類の材料を適宜選択して用いることができる。
【0093】
例えば、ゲル原料として、複数のゲル原料を用いる場合には、ゲル原料の種類は上述のように3種類に限られず、水の存在下で互いに混合されることによりゲルを形成できる任意の種類のゲル原料を適宜組み合わせて用いることができる。
【0094】
すなわち、ゲル原料としては、2種類のゲル原料を用いることもできる。具体的に、ゲル原料としては、例えば、ケイ酸アルカリ金属塩と、保水性高分子と、を用いることができる。この場合、例えば、第一工程S10におけるウォータージェットをケイ酸アルカリ金属塩水溶液を噴射するウォータージェットとし、第三工程S30において、排液及び破砕物に保水性高分子を添加することによりゲルを形成することができる。
【0095】
また、例えば、第一WJ工程S11における第一ウォータージェットをケイ酸アルカリ金属塩水溶液を噴射するウォータージェットとし、第二WJ工程S12における第二ウォータージェットを保水性高分子の微粒子からなる破砕材とともに水を噴射するウォータージェット、又は破砕材とともに保水性高分子水溶液を噴射するウォータージェットとすることもできる。この場合には、第三工程S30においてゲル化に要する時間及び工程を大幅に短縮できるとともに、形成されるゲルの体積を効果的に低減することもできる。特に、ゲル原料の全てを第一工程S10のウォータージェットに用いた場合には、第三工程S30において回収された排液及び破砕物の混合物をそのまま放置するだけでゲルを形成することができる。
【0096】
また、ゲル原料としては、単独でゲルを形成できる1種類のゲル原料を用いることもできる。具体的に、例えば、ゲル原料として、寒天、アルギン酸ナトリウム、又はゼラチンを単独で用いることができる。この場合、第一工程S10におけるウォータージェットは、このゲル原料の全てを含む溶液を噴射するウォータージェットとすることもできる。
【0097】
なお、好ましいゲル原料を選択するにあたっては、必ずしも実際にウォータージェットに用いて確認する必要はない。すなわち、例えば、破砕の対象となる構造物の破片からなる試料と、候補となったゲル原料と、水と、を混合して、好ましいゲルを形成できれば、当該ゲル原料を採用することができる。このとき、試料と水との比率(例えば、重量比)は、実際にウォータージェットを用いた場合における破砕物と排水との比率と同程度とすることが好ましい。また、試料としては、必ずしも実際に破砕の対象とする構造物そのものの破片を用いる必要はなく、模擬的に当該構造物の破片として使用可能な他の材料からなる試料を用いることもできる。
【0098】
また、上述の例においては、第一工程S10において2段階のウォータージェットを用いる場合について説明したが、本方法におけるウォータージェットはこれに限られず、1段階のウォタージェットや、3段階以上のウォータージェットを用いることもできる。
【0099】
また、本方法は、第一工程S10のウォータージェットとして、ゲル原料のうち少なくとも一部を含む溶液を噴射するウォータージェットを用いるものに限られない。すなわち、例えば、第一工程S10においてゲル原料を用いることなく水のみを用いたウォータージェットを行い、第三工程S30において、当該ウォータージェットの排水と内張り層12の破砕物との混合物に、全てのゲル原料を添加して混合することにより、ゲルを形成することもできる。
【0100】
また、第三工程S30におけるゲルの形成は、上述のように排液と破砕物との混合物が堆積される収容室21内で行われるものに限られない。すなわち、例えば、排液と破砕物の全部または一部を、バキューム装置等の閉鎖的な移送手段によって、収容室21の外部又は建造物1の外部に設けられた閉鎖的な別の部屋に移送し、当該別の部屋内でゲルを形成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法を実施する前の煙突の断面を示す説明図である。
【図2】図1に示すII−II線に沿って切断した煙突の断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法で用いられるウォータージェット装置の一例についての説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法を実施した後の煙突の断面を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る構造物の破砕方法の一例に含まれる主な工程を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0102】
1 建造物、10 煙突、11 基部、12 内張り層、12a 断熱層、12b 被覆層、13 中空部、20 外壁、20a 天井部、21 収容室、22 作業室、30 ウォータージェット装置、31 操作部、32 本体、33 ノズル部、34 ワイヤー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータージェットにより構造物を破砕し、
ゲル原料を用いて、前記ウォータージェットの排液と、前記構造物の破砕物と、を一体的に含むゲルを形成する
ことを特徴とする構造物の破砕方法。
【請求項2】
前記ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち少なくとも一部を含む溶液を噴射するウォータージェットである
ことを特徴とする請求項1に記載された構造物の破砕方法。
【請求項3】
前記構造物は、断熱層と、前記断熱層を覆う被覆層と、を有し、
前記ウォータージェットは、少なくとも前記被覆層に切り込みを形成する第一ウォータージェットと、次いで、固形の破砕材を伴って前記被覆層及び前記断熱層を破砕する第二ウォータージェットと、を含み、
前記第一ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち少なくとも一部を含む溶液を噴射するウォータージェットである
ことを特徴とする請求項2に記載された構造物の破砕方法。
【請求項4】
前記第一ウォータージェットは、前記ゲル原料のうち一部を含む溶液を噴射するウォータージェットであり、
前記破砕材は、前記ゲル原料のうち他の一部を含む
ことを特徴とする請求項3に記載された構造物の破砕方法。
【請求項5】
前記ゲル原料は、ケイ酸アルカリ金属塩と、保水性高分子と、を含む
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載された構造物の破砕方法。
【請求項6】
前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム及びケイ酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つであり、
前記保水性高分子は、ポリアクリル系樹脂である
ことを特徴とする請求項5に記載された構造物の破砕方法。
【請求項7】
前記ゲル原料は、アルミニウム化合物をさらに含む
ことを特徴とする請求項5又は6に記載された構造物の破砕方法。
【請求項8】
前記アルミニウム化合物は、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項7に記載された構造物の破砕方法。
【請求項9】
前記構造物は、石綿を含み、
前記ケイ酸アルカリ金属塩は、ケイ酸リチウムである
ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載された構造物の破砕方法。
【請求項10】
前記構造物は、筒状構造物の内張り層である
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載された構造物の破砕方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate