説明

構造物及び構造物の制振方法

【課題】複数のパネルが用いられる構造物において、該複数のパネルを一括して制振可能な構造物と制振方法の提供。
【解決手段】複数のパネル11が用いられる構造物であって、前記複数のパネル11のうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、該単位領域内の全てのパネルは制振装置13を備える連結部材12により連結されている。また該単位領域内に含まれるパネル11には、その表面が対向するように配されたパネル、及び又は側面同士が連結されたパネルが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物及び構造物の制振方法に関し、特に、複数のパネルを一括して制振可能な構造物及び複数のパネルを一括して制振が可能な構造物の制振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋脚間又は橋台間、或いは橋脚と橋脚間に架設された主桁、縦桁等の鋼桁上に、レールを直接又は枕木を介して敷設してなる鋼橋(例えば、開閉式の鋼鉄道橋)が広く知られている。鋼桁としては、例えば、図5に示すような、上フランジ51、下フランジ52、鉛直補剛材53、鉛直補剛材53によって閉じられた複数のウェブパネル55a、55b、55cを備えたI桁50が広く採用されている。
【0003】
また、ウェブパネルを有する鋼橋は、コンクリート高架橋などの他の構造物と比べて列車(車両)通過に伴い発生する騒音が概して大きいことが知られている。鋼橋における騒音の主な音源としては、構造物に起因する騒音、具体的には、列車通過時に縦桁、横桁等の鋼桁が振動することにより発生する騒音が挙げられる。特に、上記のように放射面積が大きいウェブパネルを有する鋼橋では、列車通過時に鉛直補剛材に挟まれたウェブパネルが太鼓の膜のように振動することで大きな騒音を発することとなる。
【0004】
また、トラス橋梁などの縦桁においては、列車通過時に下ラテラルが接続している支材が大きく揺れウェブパネルを面内方向に揺らすこととなる。そうすると、下ラテラルが接続している支材を支える鉛直補剛材下端のウェブパネルでは、下ラテラルからの振動成分も加わりウェブパネルが振動することによる騒音のほか、疲労亀裂が発生しやすい。
【0005】
このような状況下、構造物に起因する騒音(ウェブパネルの振動)を抑制する試みとして、例えば、モルタルや樹脂をウェブパネルに拭きつけ、モルタルや樹脂のマスの効果で振動を抑制する方法や、磁性制振ゴムと鉄版を複合した制振材(所謂マグダンパー)をウェブパネルに張り付け振動を抑制する方法が用いられている。さらには、建築物や構造物の制振に用いられ、特定の固有振動数に対して効果を発揮する、制振装置(TMD)などの手法(例えば、特許文献1)を適用してウェブパネルの制振を行う方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−81493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ウェブパネルにモルタル等を吹きつける方法では、多少の騒音低減効果は発揮できるものの問題解決までには至っていない。また、制振材をウェブパネルに貼り付ける方法では、騒音を防止するためにはウェブパネルの全てに制振材を貼り付けなければならずコスト面から好ましくない。また、TMDは特定の周波数をターゲットにして用いられる。(例えば、ウェブパネルの振動数が75Hzである場合には75Hzにアジャストして用いられる。)一方で、ウェブパネルは個々に独立した振動である(ウェブパネルの振動の系が異なる)ことから、制振装置(TMD)をウェブパネルに設置するためには全てのパネルの固有振動数を予め測定によって把握しておく必要があり、測定コストや手間がかかり現実的な解決手法とはならない。さらには、全てのパネルの固有振動数を把握した場合であっても、全てのウェブパネルに対して制振を行うためには、例えば、図6に示す構造物60にあっては、振動の系が異なるウェブパネル61毎に少なくとも1の制振装置(制振材)63を設ける必要があり費用がかさんでしまう問題が生ずることとなる。
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、複数のパネルを一括して制振可能な構造物及び複数のパネルを一括して制振可能な構造物の制振方法を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は、複数のパネルが用いられる構造物であって、前記複数のパネルのうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、該単位領域内の全てのパネルが制振装置を備える連結部材により連結されていることを特徴とする。
【0010】
また、前記単位領域内に含まれるパネルには、その表面が対向するように配されたパネルが含まれていてもよい。
【0011】
また、前記単位領域内に含まれるパネルには、側面同士が連結されたパネルが含まれていてもよい。
【0012】
また、前記構造物が、橋梁構造物であってもよい。
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、複数のパネルが用いられる構造物の制振方法であって、前記複数のパネルのうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、前記単位領域に含まれる全てのパネルを、制振装置を有する連結部材によりそれぞれ連結して、該単位領域ごとに制振を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数のパネルを含む単位領域ごとに制振が可能であることから、少ない制振装置で構造物の制振が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の構造物の概念図である。
【図2】本発明の構造物の概念図である。
【図3】本発明の構造物の概念図である。
【図4】本発明の構造物の一例を示す斜視図である。
【図5】I桁の構造を示す斜視図である。
【図6】パネル毎に制振装置を設けた概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の構造物について図面を用いて具体的に説明する。なお、図1〜図3は、本発明の構造物の概念図であり、図4は本発明の構造物の一例を示す斜視図である。
【0017】
図1〜図3に示すように、本発明の構造物10は、複数のパネル11のうち少なくとも2以上のパネル(図1に示す場合にあっては、11a、11b、11c、11d、11e、11f)を含む単位領域20において、単位領域20内の全てのパネルが、制振装置13を備える連結部材12により連結されていることを特徴とする。本発明は、この要件を具備するものであれば他の要件について特に限定はされない。
【0018】
上記特徴を有する本発明の構造物10によれば、単位領域20内の全てのパネルを連結部材12により連結することで、単位領域20に含まれる全てのパネル11を一体化することができる。具体的には、連結部材12により単位領域20に含まれるパネル11(図1に示す場合にはパネル11a〜11f)を一体化させることで、構造物10が振動した際に単位領域20に含まれる全てのパネル11の振動数(或いは位相)を同一の振動数とすることができる。(以下、単位領域20に含まれる全てのパネル11の振動数(位相)を同一化することを「一の系」にするという場合がある。)
【0019】
これにより、パネル11毎に個別の制振を行う必要がなく、連結部材12が備える制振装置13により複数のパネル11を単位領域20毎に一括して制振させることが可能となる。
【0020】
また、図1に示すように、構造物10は少なくとも2以上のパネル11から構成されており、本発明の構造物10には複数のパネル11が用いられてなる全ての構造物10が含まれる。例えば、構造物10を2以上のパネル11を直接又は間接的に連結することで構成してもよく、構造物10を複数のパネル11を所定の間隔を配することで構成してもよい。また、構造物10は必ずしも形状の同じパネル11から構成されている必要はなく、形状の異なる複数のパネルから構成されていてもよい。
【0021】
パネル11の材料についても特に限定はなく、例えば、従来公知の金属板(鋼板等)を用いることができる。パネル11の形状についても特に限定はなく、例えば、矩形状のパネル11が挙げられる。
【0022】
また、パネル11は必ずしも独立している必要はなく、図5に示すように、一体の材料を仕切り材(図5に示す場合にあっては鉛直補剛材53)で仕切ることにより形成される領域をパネル55(55a〜55c)としてもよい。
【0023】
また、図1〜3に示すように単位領域20には複数のパネル11が含まれる。複数のパネル11の中からいずれのパネル11を単位領域に含ませるかについて特に限定はなく、連結部材12により単位領域20に含まれる全てのパネル11を一体化させた際に、「一の系」とすることができる範囲を単位領域とする。単位領域20は、少なくとも2以上のパネルを含むものであればよく、例えば、図1に示すように、パネル11a〜11fのパネル(全てのパネル)を連結部材12により一体化させた際に、該パネル11a〜11fを「一の系」とすることができるのであれば、パネル11a〜11fを含む領域を単位領域とすることができる。
【0024】
また、パネル11a〜11fを連結部材12により連結した際に「一の系」とすることができない場合には、図2に示すようにその側面同士が対向するように配されているパネル11a、11b、11cを含む領域を単位領域(図2に示す単位領域20(A))とし、パネル11d、11e、11fを単位領域(図2に示す単位領域20(B))としてもよい。また、図3に示すように、その表面同士が対向するように配されているパネル11a、11dを単位領域(図3に示す単位領域20(C))、11b、11eを単位領域(図3に示す単位領域20(D))、11c、11fを単位領域(図3に示す単位領域20(E))としてもよい。
【0025】
連結部材12は、単位領域20に含まれる全てのパネル11を連結するために設けられる。連結部材12は、単位領域20に含まれる全てのパネル11を連結して単位領域20に含まれる全てのパネル11を一体化させ「一の系」となるようにパネル11を連結できる機能を有するものであれば特に限定はない。例えば、図1に示すように、11a〜11fのパネルを、棒状の連結部材12を用いて格子状に連結することで単位領域に含まれる全てのパネル11を「一の系」とすることができる。
【0026】
また、必ずしも表面又は側面が対向するパネル11を含む領域を単位領域20とする必要はなく、構造物10が適用される環境に応じて適宜設定することができる。例えば、図1に示すパネル11a、11cを含む領域を単位領域20としてもよく、パネル11b、パネル11fを含む領域を単位領域20としてもよい。
【0027】
連結部材12の材質について特に限定はないが、連結部材12は、剛性が高く単位領域20に含まれる全てのパネルを連結した際に振動しない(振動しにくい)材質からなることが好ましい。このような材料としては、例えば、鋼などが挙げられる。
【0028】
また、上述したように、単位領域20に含まれる全てのパネル11を「一の系」にすることができれば、連結部材12とパネル11との連結位置についても特に限定はない。しかしながら、パネル毎に連結部材12との接続位置がそれぞれ異なる場合には、構造物の設置面に対して連結部材12が平行とならず単位領域20に含まれる全てのパネル11を「一の系」にすることが困難となる。このような点を考慮すると、単位領域20に含まれる全てのパネルは、構造物の設置面からの高さが略同等の位置において連結部材12と接続されていることが好ましく、構造物の設置面からの高さが略同等であって、パネル11表面の中央部分近傍において連結部材12と連結されていることがより好ましい。
【0029】
また、パネル11と連結部材12との接続方法についても特に限定はなく、圧着、接着等従来公知の接続方法を適宜選択して接続することができる。
【0030】
また、連結部材12は、単位領域20に含まれるパネル11の振動を制振させるための制振装置13を備える。制振装置13は、上述した「一の系」となった単位領域20に含まれる全てパネル11の振動を一括で制振(抑制)するために設けられる。具体的には、連結部材12により、単位領域20に含まれる全てのパネル11の振動(固有振動数)は同一の挙動を示すことから、該振動に対応する制振装置13を設けることで、単位領域20に含まれる全てのパネル11の制振を一括で行うことが可能となる。
【0031】
制振装置13は、単位領域20に含まれるパネル11の振動を低減する機能を有するものであればよく制振装置13について特に限定はない。このような制振装置13としては、TMDを好適に用いることができる。なお、TMDとは振動の周期(固有振動数)に対し、おもり固有の周期をあわせることにより、それぞれに発生する力を互いに打ち消しあわせることで振動を低減させる機能を備えた制振装置である。
【0032】
なお、構造物10の設置位置によっては、設置位置の環境により2以上の振動数(2以上の固有振動数)が生じる場合がある。例えば、構造物10を縦桁として適用した場合には、列車通過時の振動と、風による振動の2つ振動が生ずる。この場合には、予め固有振動数を測定しておき、各固有振動数に対応する制振装置13を設けることで全ての振動に対する制振を一括で行うことができる。
【0033】
次に、本発明の構造物の適用範囲について説明する。本発明の構造物10は、制振が要求されるあらゆる分野、例えば、橋梁、道路橋の鋼桁(主桁、縦桁、横桁)や、制振が必要とされる壁などのあらゆる分野に適用可能でありその適用範囲についても限定はされない。例えば、図4に示すように、矩形状のパネル11の側面同士を連結してなる第1の縦桁(主桁)41(A)及び、第2の縦桁41(B)を、その表面が対向するように配置することで構成される構造物40は、該構造物40上に、にレール(図示しない)を直接又は枕木(図示しない)を介して敷設することで橋梁構造物としての適用が可能となる。
【0034】
なお、図4に示す構造物40は、複数のパネル11(図4に示す場合にあっては斜線で示されるパネル11)からなる単位領域40(A)と、複数のパネル11(図4に示す場合にあっては白抜きで示されるパネル11)からなる単位領域40(B)から構成されており、単位領域に含まれる全てのパネル11は、それぞれ制振装置13を有する連結部材12により連結されている。
【0035】
このように、1の構造物を「一の系」とすることが可能な単位領域に分割して、該単位領域毎に制振を行うことで、橋梁等の長い構造物の制振を効果的に行うことが可能となる。
【0036】
次に、本発明の構造物の制振方法について説明する。本発明の構造物の制振方法は、複数のパネルが用いられる構造物の制振方法であって、複数のパネルのうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、前記単位領域に含まれる全てのパネルを、制振装置を有する連結部材によりそれぞれ連結して、該単位領域ごとに制振を行うことを特徴とするものである。なお、構造物の構成については上記と同様であり詳細な説明は省略する。
【0037】
本発明の構造物の制振方法によれば、単位領域に含まれる複数のパネルを連結部材により一体化させることができることから、パネル毎に制振を行うことなく一体化されたパネルの振動に対応する制振装置を設けるのみで、単位領域に含まれる全てのパネルを一括で制振させることが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
10、40・・・構造物
11・・・パネル
12・・・連結部材
13・・・制振装置
20・・・単位領域
41・・・縦桁
50・・・I桁
51・・・上フランジ
52・・・下フランジ
53・・・鉛直補剛材
55、61・・・ウェブパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のパネルが用いられる構造物であって、
前記複数のパネルのうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、
該単位領域内の全てのパネルは制振装置を備える連結部材により連結されていることを特徴とする構造物。
【請求項2】
前記単位領域内に含まれるパネルには、その表面が対向するように配されたパネルが含まれることを特徴とする請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
前記単位領域内に含まれるパネルには、側面同士が連結されたパネルが含まれることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物。
【請求項4】
前記構造物が、橋梁構造物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造物。
【請求項5】
複数のパネルが用いられる構造物の制振方法であって、
前記複数のパネルのうち少なくとも2以上のパネルを含む単位領域において、
前記単位領域に含まれる全てのパネルを、制振装置を有する連結部材によりそれぞれ連結して、該単位領域ごとに制振を行うことを特徴とする構造物の制振方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−106224(P2011−106224A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264941(P2009−264941)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】