説明

構造物欠陥検出方法および構造物補修方法

【課題】液体中に存在する構造物の表面開口欠陥を、周辺を部分的に気中状態にすることなく簡易に観察できる構造物欠陥検出方法を提供する。
【解決手段】液体7に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに蛍光塗料を含む液状の浸透剤3を、構造物8の構造物表面1および表面開口欠陥2に供給し浸透させる。一定時間が経過し浸透剤3が硬化した後、構造物表面1上にある余剰浸透剤4を除去すると、表面開口欠陥2の内部に浸透している浸透剤3のみがちぎれて残存する。表面開口欠陥部2の内部に残存した浸透剤3を、紫外線を照射することにより蛍光発光させ、その形状を外観的に観察することにより、表面開口欠陥2を容易かつ確実に検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体中に存在する構造物表面に発生した表面開口欠陥を検出する構造物欠陥検出方法および構造物補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より水中に存在する構造物表面を検査する場合、通常水中TVカメラを用いた外観検査方法が行われている。しかしこの外観検査方法は、二次元的な映像に基づいて判断する手法をとるため、構造物表面についたこすれ痕や模様等と亀裂状欠陥の識別が困難である。またこの外観検出方法では、開口幅の微細な亀裂状初期欠陥を検出する場合、カメラの解像度の限界からおのずと検出性能に限界がある。
【0003】
このような外観検査方法では開口幅の微細な亀裂状欠陥を確認することは困難であり、このため通常、液体浸透探傷試験により微細な亀裂状欠陥を確認している。しかしながらこの外観検査方法は主として気中で実施されるものであり、液体中に存在している構造物に適用するためには、チャンバ等を用いて構造物表面を部分的に気中状態にしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、液体中の構造物に対して液体浸透探傷試験を実施する場合、構造物表面を部分的に気中状態とする必要がある。この場合、構造物表面を乾燥させ、この部分的に気中状態とした中で各探傷剤(洗浄液、浸透液、洗浄水、現像剤等)を構造物表面に塗布、回収して処理している。また、観察設備も部分的に気中状態とした中にアクセスする必要がある。このため、液体処理やカメラの汚濁防止などの対策が必要となり、また、かなり大掛かりな装置が必要となる。従って、アクセスできるスペースに制限がある構造物の部位に対して適用することはむずかしい。
【0005】
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、液体中に存在する構造物の表面に発生した表面開口欠陥を容易かつ確実に検出することができる構造物欠陥検出方法、および表面開口欠陥を容易に補修することができる構造物欠陥補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、液体中に存在する構造物表面に発生した表面開口欠陥を検出する構造物欠陥検出方法において、構造物の表面開口欠陥に、当該液体に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに、蛍光塗料を含む液状浸透剤を浸透させる工程と、浸透剤の硬化後に、構造物表面上にある余剰な浸透剤を除去する工程と、開口欠陥部内部に残存した浸透剤に対し紫外線を照射することにより、表面開口欠陥の形状を外観的に確認する工程と、を備えたことを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0007】
本発明は、浸透剤として、硬化した後で溶剤等による除去が困難な浸透剤が用いられ、この浸透剤は表面開口欠陥内に永久的に残存することを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0008】
本発明は、液体は水からなり、かつ浸透剤は蛍光塗料を混ぜた2成分縮合型液状シリコーンゴムからなることを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0009】
本発明は、液状浸透剤を浸透させる工程の前に、構造物の表面の表面開口欠陥周り全周に、浸透剤の必要以上の拡散を防止する堰を設ける工程を更に備えたことを特徴とする、構造物欠陥検出方法である。
【0010】
本発明は、堰は内面に突起を有し、余剰な浸透剤を除去する工程は、堰を回収するとともに、この堰の回収時に硬化した浸透剤が突起に引っかかり、堰内部の浸透剤を回収することを含むことを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0011】
本発明は、堰の上部に堰内部に浸透剤を供給する浸透剤供給機構が設けられ、液状浸透剤を浸透させる工程は、この浸透剤供給機構から浸透剤を供給する工程を含むことを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0012】
本発明は、硬化後に回収した余剰浸透剤の形状と、紫外線を照射することにより観察した表面開口欠陥の形状を比較することにより、表面開口欠陥を詳細に確認する工程を更に備えたことを特徴とする構造物欠陥検出方法である。
【0013】
本発明は、液体中に存在する構造物を貫通した表面開口欠陥を補修する構造物補修方法において、構造物を貫通した表面開口欠陥に、当該液体に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに、蛍光塗料を含む液状浸透剤を浸透させ、構造物を貫通した表面開口欠陥を浸透剤で充填する工程と、浸透剤の硬化後に、構造物表面上にある余剰な浸透剤を除去する工程と、開口欠陥部内部に残存した浸透剤に対し紫外線を照射することにより、欠陥形状を外観的に確認する工程と、を備えたことを特徴とする構造物補修方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、液体中において簡易に表面開口欠陥を検出できるため、通常の外観検査では発見できない微細な亀裂状欠陥も検出でき、この検出結果により容器や構造物等の安全性評価も可能になる。
【0015】
また本発明によれば、液体中の表面開口欠陥の検出にあたって、部分的に気中状態を形成したり構造物表面を乾燥したりする必要がなくなる。
【0016】
さらに、本発明によれば、欠陥内に残留している浸透剤は構造物欠陥を補修しない限りなくならないので、一度本発明を実施すれば、以後外観観察のみで構造物欠陥の補修が完了したか否かを確認することができる。
【0017】
さらにまた、本発明によれば、硬化した浸透剤の余剰部分を簡易に除去することができ、通常の外観検査で必要となる浸透液の洗浄除去作業や、洗浄作業、廃液処理作業の必要がなくなる。
【0018】
さらにまた、本発明によれば、液体中に存在する構造物を貫通した表面開口欠陥を簡易に補修することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
第1の実施の形態
以下、本発明の第1の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1(a)(b)(c)(d)(e)は本発明の第1の実施の形態を示す図である。
【0020】
図1(a)―(e)に示すように、本発明による構造物欠陥検出方法は水等の液体7中に存在する構造物8の表面に発生した表面開口欠陥2を検出するものである。この場合、後述のように構造物8の表面開口欠陥2は、液状の浸透剤3をこの表面開口欠陥2内に浸透させ、浸透剤3に対して紫外線を照射することにより検出される。
【0021】
ここで、液状の浸透剤3は、あらかじめ硬化剤と蛍光塗料を混入して形成され、浸透剤3は、液体7に対して不溶であり、かつ一定時間後に硬化する性質を有する液体であればよいが、濡れ性の高い性質を有するものが好ましい。また、浸透剤3は液体7より比重が重いものが好ましい。例えば本実施例において、液体7は水となっており、また、浸透剤3としては蛍光塗料を含有する2成分縮合型液状シリコーンゴムが考えられる。
【0022】
次に、図1(a)―(e)により、本発明による構造物欠陥検出方法について詳細に述べる。まず、液体7中に存在する構造物8の表面1に表面開口欠陥2が形成されたと仮定する。この場合、まず液体7に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに、蛍光塗料を含む液状の浸透剤3を構造物8の構造物表面1上に供給し、このようにして浸透剤3を表面開口欠陥2内へ浸透させる(図1(a)(b)参照)。このとき、浸透剤3は毛管現象により表面開口欠陥2内に液体7と置換しながら浸透し、一定の硬化時間が経過すると浸透剤3は硬化する(図1(c)参照)。
【0023】
その後、構造物8の構造物表面1から外側にはみ出た余剰浸透剤4を除去すると、余剰浸透剤4がその剥離部分4aにおいて、表面開口欠陥2の内部に浸透している浸透剤3から剥離して、浸透剤3のみが表面開口欠陥2内部に残存する(図1(d)参照)。表面開口欠陥2の内部に残存した浸透剤3は、蛍光塗料を含有しているため、紫外線照射灯5から紫外線を照射すると蛍光発光する(図1(e)参照)。
【0024】
したがって周辺環境を暗くすることにより、この紫外線に反応して発光した発光浸透剤6に基づいて表面開口欠陥2の欠陥形状を外観的に確認することができる。この発光している発光浸透剤6の形状は水中TVカメラ20(図2参照)により撮像され、この発光浸透剤6の形状がそのまま構造物表面1の欠陥形状を示す。
【0025】
このように本発明の実施形態によれば、通常の外観検査では発見できない微細な亀裂状の表面開口欠陥2も容易かつ確実に検出することができる。また、表面開口欠陥2の周囲を部分的に気中状態とする必要がなく、液体7中に存在する構造物8の表面開口欠陥2の形状をきわめて簡易に観察することができ、液体7中にある構造物8の安全性評価等が容易かつ迅速に行なうことができる。
【0026】
ところで、構造物8の表面開口欠陥2が構造物8を貫通して形成されることがある。この場合は、構造物8を貫通する表面開口欠陥2内に浸透剤3を浸透させて硬化させることにより、貫通する表面開口欠陥2を浸透剤3で充填し、表面開口欠陥2の補修も同時に行なうことができる。構造物8を貫通する表面開口欠陥2に対しては、その後紫外線が照射されて、表面開口欠陥2の欠陥形状を外観的に確認することができる。
【0027】
また図1(d)において、構造物8の構造物表面1から外側へはみ出た余剰浸透剤4は除去されるが、除去された余剰浸透剤4のうち表面開口欠陥2内に残る浸透剤3との剥離部分4aを確認するとともに、この剥離部分4aと紫外線により確認された表面開口欠陥2の形状とを比較することにより、表面開口欠陥2の形状をより詳細に確認することができる。
【0028】
第2の実施の形態
次に図2により本発明の第2の実施の形態について説明する。図2に示す第2の実施の形態は、浸透探傷試験装置を用いて構造物の欠陥検出を行なうものである。なお、図2の実施の形態において、図1に示す第1の実施の形態と同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0029】
図2において、液体7の中に存在する構造物8の表面開口欠陥2を遠隔液体中で検出するための液体浸透探傷試験装置10が示されている。図2において、液体7としては水が考えられ、また、浸透剤3としては蛍光塗料を含有する2成分縮合型液状シリコーンゴムを用いることができる。
【0030】
図2に示すように、液体浸透探傷試験装置10は表面開口欠陥2が形成された構造物8の構造物表面1上に配置されて、表面開口欠陥2の検出を行なうものである。このような液体浸透探傷試験装置10は構造物8の構造物表面1上に載置され、下端が開口するチャンバ11と、チャンバ11にバルブ15を介して連結された浸透剤タンク12とを備えている。このうちチャンバ11は内面に突起11aが設けられた側壁11bを有している。
【0031】
また、バルブ15を開くとチャンバ11とタンク12の間が連通する。タンク12は、その上部に浸透剤3をタンク12内に充填するための浸透剤注入口13を有している。
【0032】
さらに、液体7の外方に制御器16が設けられ、この制御器16は加圧用ホース14を介して浸透剤タンク12に連結されて浸透剤タンク12内を加圧する機能を有している。また制御器16はバルブ15に連結されて、バルブ15の開閉を制御する機能を有している。しかしながら、浸透剤タンク12内の加圧とバルブ15の開閉を別個の制御器により制御したり、あるいは浸透剤タンク12内の加圧とバルブ15の開閉の両方もしくは一方を手動で行ったりすることもできる。
【0033】
次に図2により、本発明による構造物欠陥検出方法について詳述する。まず予めチャンバ11および浸透剤タンク12を液体7の外方にもってきて、浸透剤注入口13から硬化剤と蛍光塗料を混入した液状の浸透剤3を浸透剤タンク12に充填する。浸透剤3の充填が完了した後、液体7中の構造物8の表面開口欠陥2がチャンバ11の側壁11bの内側にくるよう、チャンバ11を構造物8の構造物表面1上に配置し、チャンバ11を構造物表面1に密着させる。
【0034】
次に制御器16を操作し、加圧用ホース14を介して浸透剤タンク12内を加圧し、同時にバルブ15を開とする。このとき、浸透剤タンク12内の浸透剤3は、チャンバ11内に圧送されチャンバ11内に供給される。チャンバ11内に供給され充満した浸透剤3は、構造物表面1の上に拡がり、表面開口欠陥2内にも毛管現象により浸透していく。
【0035】
浸透剤3が十分硬化するまでこのままの状態で放置した後、チャンバ11を構造物表面1から剥離して回収する。この際、チャンバ11内に充満した浸透剤3は、チャンバ11の側壁11bに設けられた突起11aに引っかかっているため、チャンバ11と一緒に余剰浸透剤4として回収される。
【0036】
一方、欠陥内部に浸透した浸透剤3は欠陥内に残存しているため、回収後に紫外線照射灯5により紫外線を照射し、発光浸透剤6の形状を水中TVカメラ20により撮像することによって簡易に表面開口欠陥2の形状を観察できる。
【0037】
このように本実施形態によれば、表面開口欠陥2の周囲を部分的に気中状態にする必要がなく、液体7中に存在する構造物8の表面開口欠陥2の形状をきわめて簡易に観察することができる。また、例えば水中TVカメラ20を用いることにより遠隔操作にて構造物欠陥を検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による構造物欠陥検出方法の第1の実施の形態を示す構成図。
【図2】本発明による構造物欠陥検出方法の第2の実施の形態を示す構成図。
【符号の説明】
【0039】
1 構造物表面
2 表面開口欠陥
3 浸透剤
4 余剰浸透剤
5 紫外線照射灯
6 発光浸透剤
7 液体
8 構造物
10 液体浸透探傷試験装置
11 チャンバ
11a 突起
11b 側壁
12 浸透剤タンク
13 浸透剤注入口
14 加圧用ホース
15 バルブ
16 制御器
20 水中TVカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体中に存在する構造物表面に発生した表面開口欠陥を検出する構造物欠陥検出方法において、
構造物の表面開口欠陥に、当該液体に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに、蛍光塗料を含む液状浸透剤を浸透させる工程と、
浸透剤の硬化後に、構造物表面上にある余剰な浸透剤を除去する工程と、
開口欠陥部内部に残存した浸透剤に対し紫外線を照射することにより、表面開口欠陥の形状を外観的に確認する工程と、
を備えたことを特徴とする構造物欠陥検出方法。
【請求項2】
浸透剤として、硬化した後で溶剤等による除去が困難な浸透剤が用いられ、この浸透剤は表面開口欠陥内に永久的に残存することを特徴とする請求項1記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項3】
液体は水からなり、かつ浸透剤は蛍光塗料を混ぜた2成分縮合型液状シリコーンゴムからなることを特徴とする請求項1記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項4】
液状浸透剤を浸透させる工程の前に、構造物の表面の表面開口欠陥周り全周に、浸透剤の必要以上の拡散を防止する堰を設ける工程を更に備えたことを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項5】
堰は内面に突起を有し、
余剰な浸透剤を除去する工程は、堰を回収するとともに、この堰の回収時に硬化した浸透剤が突起に引っかかり、堰内部の浸透剤を回収することを含むことを特徴とする請求項4に記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項6】
堰の上部に堰内部に浸透剤を供給する浸透剤供給機構が設けられ、
液状浸透剤を浸透させる工程は、この浸透剤供給機構から浸透剤を供給する工程を含むことを特徴とする請求項4記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項7】
硬化後に回収した余剰浸透剤の形状と、紫外線を照射することにより観察した表面開口欠陥の形状を比較することにより、表面開口欠陥を詳細に確認する工程を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の構造物欠陥検出方法。
【請求項8】
液体中に存在する構造物を貫通した表面開口欠陥を補修する構造物補修方法において、
構造物を貫通した表面開口欠陥に、当該液体に対して不溶でありかつ一定時間後に硬化する性質を有するとともに、蛍光塗料を含む液状浸透剤を浸透させ、構造物を貫通した表面開口欠陥を浸透剤で充填する工程と、
浸透剤の硬化後に、構造物表面上にある余剰な浸透剤を除去する工程と、
開口欠陥部内部に残存した浸透剤に対し紫外線を照射することにより、欠陥形状を外観的に確認する工程と、
を備えたことを特徴とする構造物補修方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−163430(P2007−163430A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363679(P2005−363679)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】