説明

構造部材検査装置、構造部材検査方法

【課題】送電線を支持する鉄塔等の構造体に用いられる構造部材の非破壊検査を効率よく実施する。
【解決手段】構造部材の内部に発生する劣化を検出するための構造部材検査装置であって、前記構造部材の長手軸方向に超音波を送信し、反射波を受信する超音波送受信部と、受信した実反射波波形と、反射波波形データと一致するか判定し、一致するものがあると判定した場合、その一致した前記反射波波形データに対応するのが構造物の種別であるか判定し、構造物の種別であると判定した場合、送信から受信までの経過時間によって当該実反射波波形を発生させた前記構造物までの送信位置からの距離を算出し、前記構造物データ保持部に記録されている前記距離と一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、前記実反射波波形は前記構造部材に取り付けられた前記構造物に起因するものであり、前記構造部材に生じた劣化によるものではないと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は構造部材検査装置、構造部材検査方法に係わり、特に送電線を支持する鉄塔等の構造体に用いられる構造部材の非破壊検査を効率よく実施することを可能とする構造部材検査装置、構造部材検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
送電線を支持するために設置されている鉄塔は、山形鋼、鋼管等の構造部材によって構成されている。山形鋼の場合は腐食、亀裂、発錆等の劣化状況を外部から直接目視で観測することができるが、鋼管の場合は鋼管内部に同様の劣化が生じても直接目視で確認することができない。
【0003】
このような事情から、従来鋼管内部の劣化状況を判定するために、例えば熟練検査員が検査対象の鋼管をハンマー等で叩きながら、そのとき鋼管が発する音により該当検査員の経験と勘に基づいて判定する手法が行われてきた。しかし、この手法は検査員個人の技量によって検査結果にばらつきが生じうる問題があった。鋼管の内部にファイバースコープを挿入して内部の目視点検を実施する手法も用いられているが、1回の測定で診断できる箇所は限定されており、長い鋼管の軸方向の広範囲にわたって短時間で効率的に検査を実施することは困難である。
【0004】
一方、目視検査とは別に、超音波を用いた非破壊検査の手法も種々適用が試みられている。一般的には、鋼管の外表面から径方向内方へ向けて超音波信号を送信し、内表面からの反射波受信までの時間を測定して鋼管各部の肉厚を得る。この手法では、腐食等の劣化によって減肉が生じている部分では反射波受信までの時間が短くなるため、劣化が生じている箇所を特定することができる。しかし、測定方向が鋼管の径方向であるため、長い鋼管の全長にわたって測定を実施するには測定回数が多くなりすぎて現実的でないという問題がある。
【0005】
この点、近年、火力プラント等の配管の保守においては、ガイド波と呼ばれる超音波を用いた長距離検査法の適用検証が進められており、既に一部で実用化もされている。ガイド波とは、一般に、超音波であって、配管や板のように境界面を有する物体中を、反射やモード変換しながら進行する縦波や横波の干渉によって形成される弾性波と定義される。このガイド波による検査は、減衰が少ない低周波の超音波を配管の軸方向に伝播させるものであり、1つのセンサで配管軸方向に10m以上の範囲の探傷が可能であるとされる。
【0006】
例えば特許文献1には、ガイド波を用いた非破壊検査において、減肉部の検出精度を向上させることを目的として、管体にガイド波を送信及び前記管体からガイド波を受信して、その受信信号に基づく受信情報を取得するガイド波探傷装置と、前記受信情報を記憶する探傷波形記憶装置と、前記受信情報に基づいて探傷結果を映像化する探傷結果映像化装置と、前記探傷結果映像化装置により映像化された、異なる周波数に対する複数のガイド波検査映像の相関を取り、欠陥信号と虚像信号とを識別する演算処理を行う探傷結果診断装置とを備える非破壊検査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−151490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1はガイド波を用いた配管減肉部の測定精度を高めるための構成を提案しているが、送電鉄塔の構造部材として使用される鋼管の場合、その長手方向に沿って、山形鋼を用いた斜材等の補強部材、作業員が鉄塔を昇降する際の足場となるステップボルト等の部材が溶接、ボルト締結等によって設置されているため、ガイド波を軸方向に送信した場合、劣化減肉部等の目的とする箇所以外にも、これらの部材取り付け箇所から反射波が戻ってくるため、それらの雑多な反射波の中から劣化箇所を精度よく抽出することは困難であった。
【0009】
本発明は上記の、及び他の課題を解決するためになされたものであり、その一つの目的は、送電線を支持する鉄塔に用いられる構造部材の非破壊検査を効率よく実施することを可能とする構造部材検査装置、構造部材検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明の一態様は、構造部材の内部に発生する劣化を検出するための構造部材検査装置であって、検査対象である前記構造部材の長手軸方向に超音波を送信し、送信された前記超音波の反射波を受信する超音波送受信部と、前記構造部材に取り付けられている構造物について、その構造物の種別と前記超音波送信位置からの距離とを、前記構造部材の属性を示すデータである構造部材属性データ及び前記構造部材を互いに識別するデータである構造部材識別データと対応付けて保持している構造物データ保持部と、前記構造部材属性データ毎に、前記構造物の種別、あるいは前記構造部材に生じる劣化要因と、前記構造物の種別、あるいは前記劣化要因によって生じる反射波の波形を表すデータである反射波波形データとを対応付けて保持している波形データ保持部と、前記超音波送受信部が受信した反射波の波形である実反射波波形と、前記波形データ保持部に記録されている前記反射波波形データとで一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、その一致した前記反射波波形データに対応するのが構造物の種別であるか判定し、構造物の種別であると判定した場合、前記超音波送信から反射波受信までの経過時間によって当該実反射波波形を発生させた前記構造物までの前記超音波送信位置からの距離を算出し、前記構造物データ保持部に記録されている前記距離と一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、前記実反射波波形は前記構造部材に取り付けられた前記構造物に起因するものであり、前記構造部材に生じた劣化によるものではないと判定する反射波波形判定部とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る構造部材検査装置、構造部材検査方法によれば、送電線を支持する鉄塔等の構造体に用いられる構造部材の非破壊検査を効率よく実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る鋼管検査装置100による鋼管検査の状況を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る鋼管検査装置100による鋼管検査の状況を示す図である。
【図3】鋼管検査装置100によって検出される反射波の一例を示す模式図である。
【図4】鋼管検査装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
【図5】鋼管検査装置100のソフトウェア構成の一例を示す図である。
【図6】判定用データ記憶部156の構成の一例を示す図である。
【図7】鋼管検査装置100によって実行される鋼管検査処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。
【0014】
==ガイド波を用いた鋼管検査の概要==
図1、図2に、ガイド波を用いて送電線鉄塔等の構造部材である鋼管の非破壊検査を実施する様子を模式的に示している。図1の例は、ガイド波を用いて送電線鉄塔の支柱等を構成する構造部材10の劣化を検査する状況を示し、構造部材10は鋼管11(管状構造部材)によって構成されており、その鋼管10には、他の構造部材10との間に設けられる水平材、斜材等の補強部材12、点検時等に作業員が構造部材10を昇降する際の足場として使用するステップボルト13等が、溶接、ボルト締結等により取り付けられている。図2は、後述する超音波探触子ユニット20を含む構造部材10の横断面を示している。
【0015】
この構造部材10を構成している鋼管11の内部の劣化状況を、ガイド波を用いて検査する。まず、あらかじめ各構造部材10について決定してある設置位置に、鋼管検査装置100に接続されている超音波探触子ユニット20を、鋼管11を取り囲むようにリング状に設置する。鋼管検査装置100は本発明の一実施形態に係わる構造部材検査装置であり、その構成及び作用については後述する。
【0016】
超音波探触子ユニット20は、鋼管11の周囲にリング状に取り付けることが可能な治具であり、例えば適宜の締結手段によって互いに固定することができる半円弧状の部材をペアとして構成される。超音波探触子ユニット20の内面側には、複数の超音波探触子30(図2の例では8個)が等間隔で鋼管11の外周囲に密接して配置されるように構成されている。
【0017】
超音波探触子30は、ガイド波Gを鋼管11の軸方向に送信する送信部と、鋼管11内部の劣化部分等で反射されて戻ってくる反射波Gを受信する受信部とを一体として構成されている。前記のように、鋼管11には、補強部材12、ステップボルト13等の部材が取り付けられているため、鋼管11内部に生じている劣化部分(例えば腐食による減肉部)だけでなく、これら部材取り付け部からも反射波が戻ってきて超音波探触子30の受信部で受信される。鋼管内部の劣化を検査する目的からは、このような取り付け部材に起因する反射波はノイズとなる。
【0018】
図1の例では、超音波探触子ユニット20の取り付け位置からそれぞれ距離L、Lの位置にステップボルト13と補強部材12とが取り付けられている。また、超音波探触子ユニット20の取り付け位置から距離Lの位置には腐食による減肉部14があるものとする。この場合、超音波探触子30からガイド波Gを送信してその反射波Gを観測すると、例えば図3に模式的に示す反射波波形が得られる。図3は縦軸に振幅Mを、横軸にガイド波G送信からの時間Tをとって模式的に反射波波形を示している。
【0019】
前記のように、超音波探触子30からの距離は、ステップボルト13、減肉部14、補強部材12の順に遠くなり、それらの反射波は、図3に例示するように、鋼管11内を伝播する超音波の音速と超音波探触子30からの距離に依存して、ガイド波G送信からそれぞれ時間t、t、t経過後に超音波探触子30で受信される。鋼管11の物理的特性、例えば鋼管11の材質、外径、肉厚等が特定された場合、ステップボルト13、減肉部14、補強部材12等の、ガイド波を反射させる要因に対応する反射波波形はあらかじめ特定することができる。したがって、ステップボルト13、補強部材12といった、鋼管11に取り付けられている部材について、その取り付け位置に対応付けて、前記鋼管11の物理的特性に対する反射波波形を実験等により記録しておけば、超音波探触子30により実際に計測して得られた実反射波波形とパターンマッチング等の手法で比較することにより、減肉部14等の劣化部分からの反射波と確実に判別することができる。また、腐食、亀裂、発錆等が生じている劣化部分についても、前記鋼管11の物理的特性に対する反射波波形を実験等により記録しておけば、超音波探触子30により実際に計測して得られた実反射波波形とパターンマッチング等の手法で比較することにより、劣化部分からの反射波であることを特定することができる。
【0020】
==鋼管検査装置100の構成==
次に、本実施形態の鋼管検査装置100の構成について、図4〜図6を参照して説明する。図4は鋼管検査装置100のハードウェア構成の一例を示す図、図5は鋼管検査装置100のソフトウェア構成の一例を示す図である。図1、図2に示したように、鋼管検査装置100は、検査対象である鋼管11に設置される超音波探触子ユニット20に接続される。
【0021】
図4に示すように、鋼管検査装置100は、ガイド波送受信部110(超音波送受信部)、A/D変換部120、入出力インタフェース(以下「入出力I/F」)130、プロセッサ141、メモリ142、補助記憶装置143、入力装置144、出力装置145、及び通信インタフェース(以下「通信I/F」)146を備えている。入出力I/F130、プロセッサ141、メモリ142、補助記憶装置143、入力装置144、出力装置145、及び通信I/F146は、バス147によって相互に通信可能に接続されている。
【0022】
ガイド波送受信部110は、図1、図2に例示した超音波探触子30と電気的に接続されており、超音波探触子30にガイド波を送信させるための送信信号を生成する発振器、増幅器を含む送信部と、超音波探触子30が受信した反射波に基づく電気信号(以下「反射波信号」という。)を受信する受信部とを備える。
【0023】
A/D変換部120は、ガイド波送受信部110から、超音波探触子30が受信した反射波から得られた反射波信号を受信して、その反射波信号をデジタル信号に変換する機能を備えたA/D変換回路である。変換後の反射波デジタル信号は、入出力I/F130へ送信される。
【0024】
入出力I/F130は、A/D変換部120からの反射波デジタル信号を後述のプロセッサ141に引き渡すインタフェース回路としての入力インタフェース部と、プロセッサ141からのガイド波送信トリガ信号をガイド波送受信部110の送信部に引き渡す出力インタフェース部とを備えている。
【0025】
プロセッサ141は、後述する鋼管検査装置100の機能を実現する各プログラムを実行するための中央処理装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)等として構成される。メモリ142は、プログラム、各種テーブル等を格納しておく記憶媒体であり、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)を含んで構成される。補助記憶装置143は、プログラム、各種判定結果データ等を格納するための記憶媒体であり、例えばハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、HDD)、半導体記憶ドライブ(Solid State Drive、SSD)等で構成される。
【0026】
入力装置144は、本検査装置100のユーザからの操作入力を受け付けるためのユーザインタフェースであり、例えばキーボード、マウス、タッチパネル等のデバイスで構成される。出力装置145は、ユーザインタフェース用画面、判定結果データ等を出力するためのデータ出力部であり、例えば液晶モニタ、プリンタ等で構成される。通信インタフェース146は、他の装置との間での通信機能を提供する部分であり、例えばNIC(Network Interface Card)等を備えて構成される。本検査装置100は、送電鉄塔等が設置されている遠隔地で使用される頻度が高いため、通信I/F146は、無線LAN機能、あるいは移動体通信網とのデータ交換機能を備えることが望ましい。
【0027】
一般に、入出力I/F130、プロセッサ141、メモリ142、補助記憶装置143、入力装置144、出力装置145、及び通信I/F146は、ノート型パーソナルコンピュータ(ノートPC)等のモバイルコンピュータとして構成することができる。その場合は、本検査装置100特有のガイド波送受信部110、A/D変換部120、入出力I/F130は、ノートPCにUSB(Universal Serial Bus)等の外部インタフェースを通じて接続可能なユニット構造として構成することができる。もちろん図4に図示する鋼管検査装置100を専用の装置として一体に構成することもできる。
【0028】
なお、後述するが、本検査装置100で稼働するオペレーティングシステム(Operating System、 OS)は特に特定のシステムに限定されることはない。例えばWindows(登録商標)、UNIX(登録商標)系のオペレーティングシステム、例えばLinux(登録商標)がこのOSとして好適に用いられる。
【0029】
次に、本実施形態の鋼管検査装置100のソフトウェア構成について説明する。図5に、鋼管検査装置100のソフトウェア構成の一例を示している。図5に示すように、鋼管検査装置100は、データI/O部151、OS152、測定管理部153、反射波波形判定部154、判定結果処理部155、及び判定用データ記憶部156を備えている。
【0030】
データI/O部151は、OS152の制御下で、プロセッサ141と、入力装置144、出力装置145、通信I/F146、及び入出力I/F130との間でのデータ入出力処理を実行する。
【0031】
OS152は、データI/O部151によるデータ入出力処理、測定管理部153、反射波波形判定部154、及び判定結果処理部155の動作のための基盤を提供する基本ソフトウェアである。OS152として、本検査装置100のハードウェア構成に関して前記例示したような各種ソフトウェアを採用することができる。
【0032】
測定管理部153は、測定対象である構造部材10(図1参照)に超音波探触子ユニット20を設置した後、入出力I/F130を通じてガイド波送受信部110にガイド波送信を指示するトリガ信号を送信し、ガイド波送受信部110からA/D変換部120を通じて反射波デジタル信号を受け取り、後述する反射波波形判定部154にそのデータを引き渡す処理を主に実現する。また、測定管理部153は、これ以外に、本実施形態の鋼管検査装置100の機能を実現する際に必要となる他のデータ処理(ガイド波送信から各反射波受信までの時間算出等)を実行するように構成することができ、どのようなデータ処理を実行させるかは、設計上の要請にしたがって適宜決定することができる。
【0033】
反射波波形判定部154は、ガイド波送受信部110、A/D変換部120、及び入出力I/F130を通じて入力された反射波デジタル信号(実反射波波形)を、あらかじめ後述する判定用データ記憶部156に記憶させてある波形サンプルデータと比較演算処理するパターンマッチング処理を実行する機能ブロックである。後述するが、波形サンプルデータとしては、鋼管11等に取り付けられている補強部材12、ステップボルト13等の構造物、あるいは鋼管11内部の腐食等の劣化部位においてガイド波が反射されることにより生じた反射波をサンプリングして得た波形データが格納されている。パターンマッチング処理の技法としては、例えばサポートベクターマシンによる演算処理が好適に適用される。サポートベクターマシンについては、例えば、赤穂昭太郎著、「カーネル多変量解析」、岩波書店、2008年11月に詳しい。もちろんサポートベクターマシン以外の他の技法を適用してもよい。
【0034】
なお、受信された各反射波については、反射波波形を示す反射波デジタル信号とともにガイド波送信から反射波受信までの所要時間である反射波受信時間が測定管理部153で算出されて受信されるので、反射波波形判定部154では、その反射波受信時間を用いて反射波が生じる原因となった対象物までの超音波探触子30からの距離も得ることができる。
【0035】
判定結果処理部155は、反射波波形判定部154による反射波デジタル信号の判別結果を受信し、反射波の原因となった対象物、その対象物までの距離等を所定の出力形式で鋼管検査装置100の出力装置145などに送信する処理を実行する。
【0036】
次に、判定用データ記憶部156について説明する。図6に、判定用データ記憶部156の一例を示している。この判定用データ記憶部156は、ガイド波送受信部110で受信された反射波がどのような要因によって生じたものであるかを判定し、それにより検査対象である鋼管11等を含む構造部材10に腐食等の劣化が生じているか判定するための判定用データを格納している。判定用データ記憶部156は、例えばメモリ142又は補助記憶装置143に設定して記憶させておく。
【0037】
図6に示すように、本実施形態では、判定用データ記憶部156には、構造物データテーブル1561(構造物データ保持部)と、波形サンプルデータテーブル1562(波形データ保持部)とが設定され記憶されている。構造物データテーブル1561は、ガイド波に対して反射波を発生させる要因となるが、劣化部位とは区別される要因、すなわち補強部材12、ステップボルト13等のあらかじめ鋼管11に取り付けられている構造物についてのデータを格納している。構造物データテーブル1561には、構造部材識別データ15611、構造部材属性データ15612、構造種別15613、距離15614の各項目が対応付けて記憶されている。
【0038】
構造部材識別データ15611は、送電鉄塔等を構成している構造部材を、測定対象となる単位で分類し、それぞれに識別符号を付したものである。例えば、図6に示すように、ある送電鉄塔「第1鉄塔」のある一角に配置されている鋼管支柱の内、最下部にある鋼管を単位の測定対象として「1号鋼管」と命名し、テーブル1561上で「第1鉄塔1号鋼管」と記録することができる。単位測定対象の選定方、命名の仕方は、適宜決定すればよい。
【0039】
構造部材属性データ15612は、構造部材識別データ15611で特定される構造部材が有する属性、本実施形態ではその構造部材の材質、外径、肉厚を記録している。図6の例では、第1鉄塔1号鋼管に使用されているのは炭素鋼鋼管であり、その外径、肉厚がそれぞれ190.7mm、7.0mmであることを表している。
【0040】
構造種別15613は、構造部材識別データ15611で特定される構造部材に取り付けられている構造物の種別を識別符号で表しており、後述する距離15614の項目と対応付けられている。図6の例では、構造種別15613として「SB(Step Bolt)」(=ステップボルト)、「BR(BRace)」(=斜材)が記録されているが、これ以外の構造物があれば適宜識別符号を定めて追加記録することができる。
【0041】
距離15614は、対応付けられている構造種別15613で示される構造物が、測定時の超音波探触子30の位置からいかほどの距離にあるかを、ミリメートル単位で記録している。図6の例では、第1鉄塔1号鋼管には、例えば測定時超音波探触子30の位置から500mmの位置にステップボルト13が取り付けられていることを示している。
【0042】
構造物データテーブル1561は、測定対象となる構造部材毎に、その設計データ、補修記録等に基づいて、本試験装置100の運用開始前に設定しておくものである。
【0043】
次に、波形サンプルデータテーブル1562について説明する。波形サンプルデータテーブル1562は、特定の属性を備えた構造部材毎に、各種要因によってガイド波が反射された場合の反射波波形データを、サンプルとして記録しているテーブルである。波形サンプルデータテーブル1562は、構造部材属性データ15621毎に、要因種別15622と波形サンプルデータ15623とを対応付けて記録している。
【0044】
構造部材属性データ15621は、構造物データテーブル1561における構造部材属性データ15612と同じ内容である。要因種別15622は、ガイド波を反射する要因となった対象物を特定している項目であり、例えば鋼管11内部の亀裂を伴う劣化部位(劣化(亀裂))、鋼管11に取り付けられたステップボルト13(SB)等と記録される。波形サンプルデータテーブル1562は、各要因種別15622によってガイド波が反射された場合に生じる反射波の波形サンプルデータを、デジタル値として記録している項目であり、反射波波形判定部154は、ガイド波送受信部110から受け取った測定時の反射波波形データをこの波形サンプルデータと比較することにより、いずれの要因で発生した反射波であるかを特定することができる。これらの波形サンプルデータ15623は、構造部材属性データ15621で特定される構造部材について、各要因によって実際に測定された反射波波形データをサンプリングすることによりあらかじめ蓄積しておく。
【0045】
==鋼管検査処理フローの説明==
次に、以上の構成によって実現される鋼管検査装置100で実行されるデータ処理について説明する。図7に、鋼管検査装置100によって実行される処理フローの一例を示している。なお、図7において、各処理ステップに付した符号の「S」の文字は、「Step」を表している。本処理フローが起動される前提として、測定対象である鋼管11には超音波探触子ユニット20が所定位置に設置されているものとする。
【0046】
まず、検査装置100の測定管理部153は、測定者が入力装置144から入力した測定対象を特定する情報である構造部材識別データ15611(例えば「第1鉄塔1号鋼管」)に基づいて、構造物データテーブル1561を判定用データとして判定用データ記憶部156から取得する(S701、S702)。この際、測定管理部153は、構造部材属性データ15612、15621によって対応付けられている波形サンプルデータテーブル1562もあわせて取得する。
【0047】
次いで、測定管理部153は、ガイド波送受信部110に対してガイド波送信のトリガ信号を送って超音波探触子30から鋼管11へガイド波を送信させる(S703)。送信されたガイド波に対して、測定対象である鋼管11からは、様々な要因によって反射波が返ってくるが、これらの反射波は超音波探触子30によって受信されガイド波送受信部110、A/D変換部120を通じて反射波デジタル信号として測定管理部153によって受信される(S704)。
【0048】
測定管理部153は、受信した反射波から反射波波形を抽出する(S705)。この際、測定管理部153は、受信した反射波の振幅を所定の閾値と比較して反射波振幅が上回ったと判定した部位をなんらかの要因による反射波であると判定してその波形を抽出することができるが、他の判定基準、他の抽出方法を採用してもよい。またこのとき、抽出された個々の反射波波形について、ガイド波送信から計測した受信時間を算出する。
【0049】
次いで、鋼管検査装置100の反射波波形判定部154は、測定管理部153から抽出された反射波波形の内、1番目の反射波波形(ガイド波送信後最も早く検出された反射波の波形)を取得し(S706)、S702で取得した波形サンプルデータテーブル1562に記録されている波形サンプルデータ15623と比較し、要因種別15622が補強部材12(符号 BR)等の構造物に対応するものがあるか判定する(S707)。構造物に該当すると判定した場合(S707、Yes)、反射波波形判定部154は、S705で得られたガイド波送信から判定対象の反射波受信までの時間と構造物データテーブル1561に記録されている構造部材属性データ15612の材質に基づいて、超音波探触子30から当該構造物までの距離を算出して構造物データテーブル1561の距離15614と一致する該当構造物が記録されているか判定する(S708)。該当構造物があると判定した場合(S708、Yes)、反射波波形判定部154は、対象の反射波波形が測定対象の構造部材についてあらかじめ登録されている構造物であるとしてそれ以上の処理はせず、測定管理部153に次の未判定反射波波形があるか調べる(S712)。なお、本明細書中で使用する、数値あるいは波形が「一致する」という用語は、対比する数値あるいは波形同士が完全に同一であるほか、両者の差異が一定の許容範囲内にある場合も含むものとする。
【0050】
S712で次波形があると判定した場合(S712、Yes)、反射波波形判定部154は、その次波形を取得してS707の構造物判定処理に戻る(S713)。次波形がないと判定した場合(S712、No)、反射波波形判定部154は、後述する劣化・不明データがあれば記録して(S714、この場合はいずれも記録されていないためスキップ)、一連の処理を終了する。
【0051】
一方、S708で、反射波が構造物からのものであると判定されたにもかかわらず構造物データテーブル1561に該当構造物がないと判定した場合(S708、No)、反射波波形判定部154は、当該データを不明データとして記録し(S711)、S712に処理を移す。この判定結果は、構造部材に構造物データテーブル1561登録時にはなかったあらたな構造物が取り付けられた場合などに生じると考えられる。あるいは、反射波波形の乱れ等に起因して反射波波形判定部154がいずれかの構造物であると誤判定した場合にも生じうる。いずれにしても、この場合には、不明データについて別途調査をすることで原因を解明することができる。
【0052】
次に、S707で波形サンプルデータテーブル1562に記録されている構造物に対応する波形サンプルデータ15623ではないと判定した場合(S707、No)、反射波波形判定部154は、対象の反射波波形を波形サンプルデータ15623と比較して、要因種別15622がいずれかの劣化に対応付けられる波形サンプルデータ15623と一致するか判定する(S709)。要因種別15622が劣化である波形サンプルデータ15623と一致したと判定した場合(S709、Yes)、反射波波形判定部154は、その反射波波形を劣化データとして記録し(S710)、S712に処理を移して未処理の次波形があるか調べる。
【0053】
S709で要因種別15622が劣化である波形サンプルデータ15623と一致しないと判定した場合(S709、No)、反射波波形判定部154は、その反射波波形を不明データとして記録し(S711)、S712に処理を移して未処理の次波形があるか調べる。
【0054】
S712で次波形がないと判定した場合には(S712、No)、S710、S711で記録した劣化データ、不明データを判定結果処理部155に引き渡して、所定の出力形式でモニタへの表示等の出力処理を行い一連の処理を終了する(S714)。この出力形式としては、例えば、構造部材識別データ15611(「第1鉄塔1号鋼管」等)と、反射波波形要因の種別(「劣化」、「不明」等)及び当該要因の位置(送信位置からの距離等)とを対応付けて記録することが考えられるが、特に制限はない。このように記録された要因については、従来の管径方向での超音波探傷検査等を実施してより詳細に調査することができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、検査対象の構造部材10に取り付けられている補強部材12等の構造物による反射波を、構造部材10に腐食等が生じた劣化部位からの反射波と明確に判別して劣化部位を確実に検出することができるので、鋼管11等の長尺構造物の非破壊検査を効率的に実施することができる。
【0056】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 構造部材(鉄塔等の) 11 鋼管
12 補強部材 13 ステップボルト
20 超音波探触子ユニット 30 超音波探触子
100 鋼管検査装置 110 ガイド波送受信部
120 A/D変換部 130 入出力インタフェース
141 プロセッサ 142 メモリ
143 補助記憶装置 144 入力装置
145 出力装置 146 通信インタフェース
151 データI/O部 152 オペレーティングシステム
153 測定管理部 154 反射波波形判定部
155 判定結果処理部 156 判定用データ記憶部
1561 構造物データテーブル 1562 波形サンプルデータテーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造部材の内部に発生する劣化を検出するための構造部材検査装置であって、
検査対象である前記構造部材の長手軸方向に超音波を送信し、送信された前記超音波の反射波を受信する超音波送受信部と、
前記構造部材に取り付けられている構造物について、その構造物の種別と前記超音波送信位置からの距離とを、前記構造部材の属性を示すデータである構造部材属性データ及び前記構造部材を互いに識別するデータである構造部材識別データと対応付けて保持している構造物データ保持部と、
前記構造部材属性データ毎に、前記構造物の種別、あるいは前記構造部材に生じる劣化要因と、前記構造物の種別、あるいは前記劣化要因によって生じる反射波の波形を表すデータである反射波波形データとを対応付けて保持している波形データ保持部と、
前記超音波送受信部が受信した反射波の波形である実反射波波形と、前記波形データ保持部に記録されている前記反射波波形データとで一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、その一致した前記反射波波形データに対応するのが構造物の種別であるか判定し、構造物の種別であると判定した場合、前記超音波送信から反射波受信までの経過時間によって当該実反射波波形を発生させた前記構造物までの前記超音波送信位置からの距離を算出し、前記構造物データ保持部に記録されている前記距離と一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、前記実反射波波形は前記構造部材に取り付けられた前記構造物に起因するものであり、前記構造部材に生じた劣化によるものではないと判定する反射波波形判定部と、
を備えていることを特徴とする構造部材検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の構造部材検査装置であって、
前記反射波波形判定部が、前記実反射波波形と、前記波形データ保持部に記録されている反射波波形データとで一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、その一致した前記反射波波形データに対応するのが前記構造部材に生じた劣化であるか判定し、劣化であると判定した場合、前記超音波送信から反射波受信までの経過時間によって当該実反射波波形を発生させた前記劣化要因までの前記超音波送信位置からの距離を算出し、前記劣化要因の前記構造部材における発生位置として記録することを特徴とする構造部材検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の構造部材検査装置であって、
前記反射波波形判定部が、前記実反射波波形と、前記波形データ保持部に記録されている前記反射波波形データとで一致するものがあるか判定し、一致するものがないと判定した場合、前記実反射波波形は前記構造部材に取り付けられた前記構造物、あるいは前記構造部材に生じた劣化要因のいずれに起因するものでもないと判定し、その旨を記録することを特徴とする構造部材検査装置。
【請求項4】
請求項1に記載の構造部材検査装置であって、
前記構造部材は電線を支持する構造体を構成する管状構造部材であり、前記構造物は前記構造体に取り付けられた補強部材あるいはステップボルトを含んでいることを特徴とする構造部材検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の構造部材検査装置であって、
前記劣化要因は、前記管状構造部材の内部に発生した腐食、割れ、あるいは錆の発生箇所を含むことを特徴とする構造部材検査装置。
【請求項6】
構造部材の内部に発生する劣化を検出するための構造部材検査方法であって、
プロセッサ及びメモリを備えたコンピュータに、
検査対象である前記構造部材の長手軸方向に超音波を送信し、送信された前記超音波の反射波を受信する処理と、
前記構造部材に取り付けられている構造物について、その構造物の種別と前記超音波送信位置からの距離とを、前記構造部材の属性を示すデータである構造部材属性データ及び前記構造部材を互いに識別するデータである構造部材識別データと対応付けて保持する処理と、
前記構造部材属性データ毎に、前記構造物の種別、あるいは前記構造部材に生じる劣化要因と、前記構造物の種別、あるいは前記劣化要因によって生じる反射波の波形を表すデータである反射波波形データとを対応付けて保持する処理と、
前記超音波送受信部が受信した反射波の波形である実反射波波形と、前記波形データ保持部に記録されている前記反射波波形データとで一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、その一致した前記反射波波形データに対応するのが構造物の種別であるか判定し、構造物の種別であると判定した場合、前記超音波送信から反射波受信までの経過時間によって当該実反射波波形を発生させた前記構造物までの前記超音波送信位置からの距離を算出し、前記構造物データ保持部に記録されている前記距離と一致するものがあるか判定し、一致するものがあると判定した場合、前記実反射波波形は前記構造部材に取り付けられた前記構造物に起因するものであり、前記構造部材に生じた劣化によるものではないと判定する処理と、
を実行させることを特徴とする構造部材検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−93093(P2012−93093A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237845(P2010−237845)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】