説明

標本作成装置および標本作成方法

【課題】ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成すること。
【解決手段】本発明のある実施の形態において、標準標本作成装置2は、標準標本を撮像して得た標準標本画像の画像データを記憶する標準標本画像データ記憶部4を備える。画像抽出部353は、作成対象の標本について取得した標本特定パラメータおよび制御パラメータの各値をもとに、標準標本画像データ記憶部4から標準標本画像を抽出する。画像表示処理部354は、抽出された標準標本画像をもとに、制御パラメータの値の可否を判断するための基準染色画像を表示部32に表示処理する。可否選択依頼部355は、制御パラメータの値の可否選択を依頼する。制御パラメータ決定部372は、可否選択依頼部355による依頼に対する可否選択の結果に従って制御パラメータの値を決定する。標本作成部5は、決定された制御パラメータの値を用いて前記作成対象の標本を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本を作成する標本作成装置および標本作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織標本、特に病理標本では、臓器摘出や針生検によって得た検体を数μm程度に薄切りして標本を作成し、様々な所見を得るために顕微鏡を用いて拡大観察することが広く行われている。中でも、光学顕微鏡を用いた透過観察は、機材が比較的安価で取り扱いが容易である上、歴史的に古くから行われてきたこともあって、最も普及している観察方法の1つである。ここで、生体から採取した検体は、光をほとんど吸収および散乱せず、無色透明に近い。このため、標本の作成に際し、色素による染色を施すのが一般的である(染色処理)。
【0003】
染色の手法としては種々のものが提案されており、その総数は100種類以上にも達する。これらの染色法は、大別すると、一般染色、特殊染色および免疫生体組織化学的染色(以下、「免疫染色」と呼ぶ。)の3種類に分類できる。標本に施す染色の手順は、染色法によって決まっている。
【0004】
ここで、一般染色は、病理形態学的所見を得るために実施される染色法である。例えば、青紫色のヘマトキシリンおよび赤色のエオジンの2種類の色素を用いるヘマトキシリン−エオジン染色(以下、「H&E染色」と呼ぶ。)がこれに該当し、病理組織学的検査において最も汎用的に用いられている。このH&E染色では、先ず、ヘマトキシリン染色液でヘマトキシリン染色を行い、色出しのための水洗処理の後、エオジン染色液でエオジン染色を行う。
【0005】
特殊染色は、一般染色を補う染色法として開発され、一般染色では識別が困難な物質を検出するための染色法として知られている。例えば、膠原線維や弾性繊維、細網線維、糖原、多糖体、組織内病原体、核酸、無機質、メラニン、細胞内顆粒、繊維素、横紋、アミロイド、神経、脂肪等を検出の対象とした染色法が知られている。特殊染色の手順は、原則として一般染色と同様であり、染色法によって染色液(試薬)が異なる。例えば、線上皮細胞を特殊染色する手法として知られるPAS染色では、シッフ試薬が用いられる。
【0006】
免疫染色は、抗原抗体反応(免疫反応)を可視化するための発色操作であり、免疫染色は正確には染色とは異なるが、抗体の特異性を利用して組織を染め分けて抗原の存在(局在)を観察可能にするものである。このため、病理組織学的検査における染色法の1つとして、一般染色や特殊染色と同様に扱われている。例えば、抗原に結合した抗体の局在を酵素反応による発色によって可視化する酵素抗体法が知られている。この酵素抗体法では、先ず、切片上の対象物(抗原)に対して特異抗体を反応させる。そして、抗原抗体反応や化学反応を適宜組み合わせることによって特異抗体と標識酵素との免疫複合体を形成し、最終的に標識酵素の発色反応によって抗原の存在(局在)を可視化する。発色反応では、例えば、DAB発色が汎用的に用いられている。
【0007】
ところで、これらの一般染色や特殊染色、免疫染色による標本の染色状態(染色の程度)は、染色(反応)に要する時間(以下、「反応時間」と呼ぶ。)や染色液(試薬や抗体の希釈液等)の生成条件等によって異なる。例えば、H&E染色では、ヘマトキシリン染色液による反応時間やその染色液の生成条件、エオジン染色液による反応時間やその染色液の生成条件等によって異なる。また、免疫染色においては、例えば酵素抗体法であれば、直接法や間接法、LSAB法、高感度ポリマー試薬法といった反応形式によって感度が異なる。
【0008】
また、標本の作成処理には、上記した染色処理の他にパラフィンブロック作成処理や薄切処理、脱パラフィン処理、封入処理等が含まれ、これらの処理の条件も染め上がりに影響を与える。
【0009】
ここで、標本は通常、医療施設に配置された臨床検査技師によって作成される。このため、臨床検査技師の経験等の個人差が影響し、標本の染色状態を均一に保つのは困難であった。また、標本自体の個体差や標本作成時の室温といった周囲の環境等によっても染色状態がばらつく場合があった。
【0010】
このような染色のばらつきを抑え、安定的に標本を作成するため、近年では、一連の標本作成処理の一部または全部を自動的に行う装置の開発が進められている(例えば、特許文献1,2を参照)。例えば、特許文献1には、生物標本の脱パラフィン、染色、カバーグラス被覆操作を自動化した自動装置が開示されている。また、特許文献2には、サンプル毎に個別に温度を監視することが可能な自動化分子病理学装置が開示されている。
【0011】
【特許文献1】特表2005−527811号公報
【特許文献2】特許第3847559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、作成された標本は、臨床医によって観察・診断されるため、求められる標本の染色状態は、臨床医の好みによって異なる。このため、特許文献1,2等に開示されている自動化装置を用いれば標本作成処理の一貫した制御が実現でき、均一な染色状態の標本が安定的に作成できるものの、作成された標本の染色状態が必ずしも臨床医の望む染色状態とは限らず、診断精度の低下を招く場合があった。例えば、染色された標本(以下、「染色標本」と呼ぶ。)の観察・診断時における臨床医のストレスに繋がり、決定的な所見が見落とされる可能性があった。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成することができる標本作成装置および標本作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した課題を解決し、目的を達成するための、本発明のある態様にかかる標本作成装置は、予め標準標本として用意された標本を撮像して得た標本画像を、前記標本の種類を示す標本特定パラメータおよび前記標本を作成する際に用いた制御パラメータの各値と関連付けて記憶する画像記憶部と、作成対象の標本について前記標本特定パラメータの値を取得する標本特定パラメータ取得部と、前記作成対象の標本について前記制御パラメータの値を取得する制御パラメータ取得部と、少なくとも前記標本特定パラメータ取得部によって取得された標本特定パラメータの値をもとに、前記画像記憶部に記憶された標本画像の中から1枚以上の標本画像を抽出する画像抽出部と、前記画像抽出部によって抽出された標本画像をもとに、前記制御パラメータの値の可否を判断するための基準画像を表示部に表示する処理を行う画像表示処理部と、前記制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼する可否選択依頼部と、前記可否選択依頼部による依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を決定する制御パラメータ決定部と、前記制御パラメータ決定部によって決定された制御パラメータの値を用いて前記作成対象の標本を作成する標本作成部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この態様にかかる標本作成装置によれば、予め標準標本を撮像した標本画像を画像記憶部に記憶しておき、少なくとも作成対象の標本について取得した標本特定パラメータをもとに画像記憶部から1枚以上の標本画像を抽出することができる。そして、抽出した標本画像をもとに、制御パラメータの値の可否を判断するための基準画像を表示することができる。そして、制御パラメータの値について依頼した可否選択の入力結果に従って制御パラメータの値を決定し、決定した制御パラメータの値に従って作成対象の標本を作成することができる。したがって、ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成することができる。
【0016】
また、本発明の別の態様にかかる標本作成方法は、予め標準標本として用意された標本を撮像して得た標本画像が、前記標本の種類を示す標本特定パラメータおよび前記標本を作成する際に用いた制御パラメータの各値と関連付けられて記憶された標本作成装置における標本作成方法であって、作成対象の標本について前記標本特定パラメータの値を取得する標本特定パラメータ取得工程と、前記作成対象の標本について前記制御パラメータの値を取得する制御パラメータ取得工程と、少なくとも前記標本特定パラメータ取得工程で取得された標本特定パラメータの値をもとに、前記記憶された標本画像の中から1枚以上の標本画像を抽出する画像抽出工程と、前記画像抽出工程で抽出された標本画像をもとに、前記制御パラメータの値の可否を判断するための基準画像を表示する処理を行う画像表示処理工程と、前記制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼する可否選択依頼工程と、前記可否選択依頼工程での依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を決定する制御パラメータ決定工程と、前記制御パラメータ決定工程で決定された制御パラメータの値を用いて前記作成対象の標本を作成する標本作成工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照し、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0019】
(実施の形態1)
先ず、実施の形態1として、臓器摘出や針生検によって被検者の生体から採取した検体に一般染色として知られるH&E染色を施して標本(染色標本)を作成する場合を例にとって説明する。
【0020】
図1は、標本を作成し、観察・診断する手順の概要を説明する説明図である。先ず、被検者から採取した検体から標本を作成する(以下、作成対象の標本を「対象標本」と呼ぶ。)が、この対象標本の作成に先立ち、臨床医は、図1(a)に示すように、対象標本を作成するために必要なデータ入力を行う。臨床医がデータ入力を行うと、入力データに応じた染色濃度を表した基準染色画像(基準画像)が画面表示され、臨床医に提示される。この基準染色画像は、対象標本を作成する際に用いる制御パラメータ(詳細には、後述する修正対象制御パラメータ)の値の可否をユーザ(ここでは臨床医)が判断するための基準として表示される。実施の形態1では、事前に標準標本として用意した標準的な染色濃度の標本を撮像して観察画像(標本画像)を生成し、標準標本画像として記憶しておく。そして、入力データに応じた染色濃度の標準標本画像があればその標準標本画像を基準染色画像として画面表示し、入力データに応じた染色濃度の標準標本画像がなければこの標準標本画像の染色濃度を入力データに応じた染色濃度に仮想的に変化させた仮想画像を生成し、基準染色画像として画面表示する。
【0021】
実施の形態1では、臨床医は、基準染色画像を見ながら、この基準染色画像が表す染色濃度を所望の染色濃度に調整することによって修正対象制御パラメータの値の可否を判断する。具体的にはこのとき、臨床医が調整した染色濃度に従って基準染色画像の染色濃度を仮想的に変化させた仮想画像が生成され、染色シミュレーション画像(シミュレーション画像)として画面表示されるようになっており、臨床医は、この染色シミュレーション画像を見ながらその染色濃度を所望の染色濃度に調整する。
【0022】
そして、臨床医が染色濃度を確定すると、この染色濃度に応じて修正対象制御パラメータの値が決定され、決定された修正対象制御パラメータの値に従って、標本作成処理が自動化された装置で自動的に、あるいは臨床検査技師の作業を介して半自動的に対象標本が作成される(図1(b))。臨床検査技師は、顕微鏡を用いて作成された対象標本を観察し、その染色状態を確認する。このとき、対象標本が撮像されて観察画像が生成される(図1(c))。臨床医は、以上のようにして得られた対象標本の観察画像を観察し、診断を行う(図1(d))。これによれば、臨床医は、所望する染色状態で標本を観察・診断できる。
【0023】
ここで、標本を撮像して観察画像を生成する処理(以下、「観察画像生成処理」と呼ぶ。)、観察画像から標本の染色濃度を算出する処理(以下、「染色濃度算出処理」と呼ぶ。)、および算出した染色濃度を仮想的に変化させた仮想画像を生成する処理(以下、「仮想画像生成処理」と呼ぶ。)の原理について説明する。図2は、観察画像生成処理および染色濃度算出処理の概略手順を説明する説明図である。また、図3は、仮想画像生成処理の概略手順を説明する説明図である。なお、ここで説明する各処理は、公知技術を用いて実現でき、実施の形態1では、図1に示した標本の作成および観察・診断手順を実現するため、これらの処理を適宜用いる。
【0024】
図2に示すように、観察画像生成処理では、先ず、標本を撮像する(a1)。続いて、得られた画像をもとに、各画素位置(x)に対応する標本上の各点における分光透過率t^(x,λ)を算出する(a3)。なお、t^は、tの上に推定値を表す記号「^(ハット)」が付いていることを示す。分光透過率t^(x,λ)の算出手法については、特開2009−14355号公報に開示されている技術を用いることができる。なお、分光透過率t^(x,λ)は、標本の各点における分光透過率を分光イメージング装置によって測定する構成としてもよい。
【0025】
続いて、各画素位置について算出した分光透過率をもとに各画素位置の画素信号値g(b)を算出し、観察画像を生成する(a5)。ここで、画像のバンドbにおける画素信号値g(b)と、対応する標本の分光透過率t(λ)との間には、カメラの応答モデル関数に基づく次式(1)の関係が成り立つ。λは波長、s(λ,b)はバンドbのカメラの分光感度特性、e(λ)は照明の分光放射特性、n(b)はバンドbにおける観測ノイズをそれぞれ表す。bはバンドを識別する通し番号であり、通常RGBカメラの場合b=3となる。
【数1】

【0026】
ただし、バンド数は適宜選択することができる。また、分光特性の異なるフィルタを用い、標本をマルチバンド撮像することとしてもよい。例えば、モノクロカメラとバンド数bのフィルタを用い、標本をマルチバンド撮像する場合には、次式(2)によって画素信号値g(b)が得られる。f(b,λ)はb番目のフィルタの分光透過率を表す。
【数2】

【0027】
図2のa5では、上記した式(1)または式(2)に従って各画素位置の画素信号値g(b)を算出し、標本の観察画像を得る。この観察画像は、必要に応じてディスプレイに画面表示される。
【0028】
また、図2に示すように、染色濃度算出処理では、各画素位置について算出した分光透過率を吸光度に変換し(a7)、この吸光度をもとに標本上の各点における色素量を算出することによって(a9)、標本の各点における染色濃度を取得する。
【0029】
一般に、光を透過する物質では、波長λ毎の入射光の強度I0(λ)と射出光の強度I(λ)との間に、次式(3)で表されるランベルト・ベール(Lambert-Beer)の法則が成り立つことが知られている。
【数3】

【0030】
k(λ)は波長に依存して決まる物質固有の値、dは物質の厚さをそれぞれ表す。本来色素は、標本中に分散して存在するため、厚さという概念は正確ではないが、標本が単一の色素で染色されていると仮定した場合と比較して、どの程度の量の色素が存在しているかを表す相対的な色素の量(色素量)の指標となる。以下、このランベルト・ベールの法則における物質の厚さdを、標本を構成する色素(例えば標本を染色している染色液の色素等)の量(色素量)として扱う。ここで、色素量は、染色濃度に相当する。以下では、色素量と染色濃度とを同義として扱う。すなわち、ここで説明する色素量の算出は、染色濃度を算出することと同義である。なお、色素量dに物質固有の値k(λ)を乗じた値は、一般的にその色素の吸光度または吸収強度と呼ばれる。
【0031】
標本を染色している色素が複数種類の場合、各色素に1,2,・・・nの通し番号を割り振れば、上記のランベルト・ベールの法則から、各波長λにおいて次式(4)が成立する。
【数4】

【0032】
実施の形態1では、H&E染色された標本を観察・診断対象としているため、ヘマトキシリンを色素H、エオジンを色素Eと略記すれば、各波長λにおいて次式(5)が成立する。
【数5】

【0033】
より詳細には、これら染色色素以外の吸収成分として、標本が載置されるスライドガラスの吸収成分(Gと略記)を含むため、分光透過率t^(x)は、次式(6)によって得られる。kH(λ),kE(λ),kG(λ)は、それぞれ色素H、色素Eおよびこれらの染色色素以外の吸収成分Gに対応するk(λ)を表し、各k(λ)の値が、対応する色素(吸収成分)の分光特性に相当する。
【数6】

【0034】
なお、各k(λ)は、標本(検体)を採取した臓器や部位、標本内の組織によって異なる場合がある。このため、これらの違いに応じてk(λ)、k(λ)・・・のように複数のk(λ)を色素毎に用意しておき、該当するk(λ)を用いることとしてもよい。より具体的には、臓器や部位、組織毎に各色素に対応するk(λ)を用意しておき、対象標本を採取した臓器や部位、組織に応じたk(λ)を適宜選択して用いることとしてもよい。また、適用する染色法で用いる染色液によっては、その色素の分光特性が組織内の物質によって変化する場合がある。このような場合には、その色素の分光特性として、予め定められた該当する色素の分光特性k(λ)に変化分を考慮した分光特性k´(λ)を適用するようにしてもよい。
【0035】
また、染色色素以外の吸収成分としてスライドガラスの吸収成分Gについて説明したが、この他にも、標本内には、無染色時において吸収成分を持つ例えば赤血球等の組織が存在し得る。すなわち、赤血球は、染色を施さない状態であってもそれ自身特有の色を有しており、H&E染色後は、赤血球自身の色として観察される。あるいは、染色過程において変化したエオジンの色が赤血球自身の色に重畳して観察される。この赤血球の吸収成分を考慮し、上記した式(6)において、予め定められた赤血球の吸収成分についての分光特性k(λ)にその色素量を乗じた値をさらに加算し、分光透過率t^(x)を算出することとしてもよい。このようにすれば、赤血球領域の画素信号値を精度良く表示することができる。
【0036】
ここで、各画素位置(x)について求めた分光透過率をt^(x,λ)とし、分光吸光度をa^(x,λ)とすると、これらの間には、次式(7)の関係が成り立つ。なお、a^は、aの上に記号「^」が付いていることを示す。
【数7】

【0037】
式(7)に式(6)を代入すると、次式(8)が得られる。
【数8】

【0038】
式(8)において未知変数をdH,dEとし、少なくとも2つの異なる波長λについて式(8)を連立させれば、これらを解くことができる。より精度を高めるために、3つ以上の異なる波長λに対して式(8)を連立させ、重回帰分析を行ってもよい。例えば、3つの波長λ1,λ2,λ3について式(8)を連立させた場合、次式(9)のように行列表記できる。
【数9】

【0039】
ここで、式(9)を次式(10)に置き換える。
【数10】

【0040】
波長方向のサンプル点数をDとすれば、A^(x)は、a^(x,λ)に対応するD行1列の行列であり、Kは、k(λ)に対応するD行3列の行列、d(x)は、画素位置(x)におけるdH,dEに対応する2行1列の行列、εは誤差に対応するD行1列の行列である。なお、A^は、Aの上に記号「^」が付いていることを示す。
【0041】
例えば、式(10)に従い、例えば最小二乗法を用いて色素量dH,dEを算出する。最小二乗法とは単回帰式において誤差の二乗和を最小にするようにd(x)を決定する方法であり、次式(11)で算出できる。
【数11】

【0042】
また、図3に示すように、仮想画像生成処理では先ず、色素量(染色濃度)の調整係数を設定する(b1)。続いて、図2のa9で観察画像から算出した色素量に設定した調整係数を乗じることで、色素量を調整する(b3)。そして、このようにして調整した色素量を式(8)に代入して新たに吸光度を算出し(b5)、算出した吸光度を上記した式(6)に従って分光透過率に変換する(b7)。これにより、色素量を調整した後の各画素位置の分光透過率が得られるので、続いて上記した式(1)または式(2)に従い、各画素位置の画素信号値を算出し、仮想画像を生成する(b9)。これにより、調整係数に従って観察画像の染色濃度を仮想的に変化させた仮想画像が得られる。この仮想画像は、必要に応じてディスプレイに画面表示される。
【0043】
次に、実施の形態1の標本作成装置の構成について説明する。図4は、実施の形態1の標本作成装置2を含む標本作成システム1の全体構成を説明する模式図である。図4に示すように、実施の形態1の標本作成システム1は、標本作成装置2と、観察装置6とで構成される。ここで、標本作成装置2は、制御装置3と、画像記憶部としての標準標本画像データ記憶部4と、標本作成部5とを備え、これらの間がデータの授受可能に接続されて構成される。また、観察装置6は、標本作成装置2によって作成された標本を観察するためのものであり、例えば、対象標本の透過観察が可能な顕微鏡や、この顕微鏡による標本の観察像を撮像するカメラ等で構成される。
【0044】
図5は、標本作成装置2の機能構成を示すブロック図である。ここで、標本作成部5は、一連の標本作成処理を全自動化した装置、あるいは標本作成処理を部分毎に自動化した装置や部分毎の標本作成処理を臨床検査技師の作業を介して半自動的に行う装置を組み合わせて構成され、所定の制御パラメータの値に従って検体を処理し、標本を作成する。例えば、実施の形態1の標本作成部5は、パラフィンブロック作成処理を行うパラフィンブロック作成処理部51と、薄切処理を行う薄切処理部52と、脱パラフィン処理を行う脱パラフィン処理部53と、染色処理を行う染色処理部54と、封入処理を行う封入処理部55とを備える。ここで、標本作成部5の具体的な装置構成は医療施設毎に異なり、採用する装置によっては、各装置が分担する処理も異なる。また、この装置構成は、標本に施す染色法によっても異なる。そして、標本作成処理のプロトコールやこのプロトコールで用いる制御パラメータについても、採用する装置の製造メーカによって異なり、医療施設側の設定によって異なる場合もある。標本作成部5の構成は、例示した構成に限定されるものではなく、標本作成処理で用いる制御パラメータも適宜設定できる。
【0045】
制御装置3は、標本作成部5に対して標本を作成するための動作指示を行うものであり、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータで実現される。この制御装置3は、対象標本を作成するために必要なデータとしてユーザ(例えば臨床医)が入力した標本特定パラメータおよび制御パラメータの各値を取得し、取得した標本特定パラメータおよび制御パラメータの値に応じた染色濃度の基準染色画像を画面表示する。そして、この基準染色画像を見ながらユーザが調整した染色濃度に従って修正対象制御パラメータの値を決定し、標本作成部5に対する動作指示を行う。
【0046】
この制御装置3は、操作部31と、表示部32と、記憶部33と、制御部35と、画像処理部37とを備える。
【0047】
操作部31は、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の各種入力装置によって実現されるものであり、操作入力に応じた入力信号を制御部35に出力する。表示部32は、LCDやELディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現されるものであり、制御部35から入力される表示信号をもとに各種画面を表示する。
【0048】
記憶部33は、更新記憶可能なフラッシュメモリ等のROMやRAMといった各種ICメモリ、内蔵あるいはデータ通信端子で接続されたハードディスク、CD−ROM等の情報記憶媒体およびその読取装置等によって実現されるものである。この記憶部33には、制御装置3を動作させ、この制御装置3が備える種々の機能を実現するためのプログラムや、このプログラムの実行中に使用されるデータ等が記憶される。また、記憶部33には、標本作成処理プログラム331が記憶される。この標本作成処理プログラム331は、ユーザによって調整されて確定された染色濃度に従って修正対象制御パラメータの値を決定し、標本作成部5に対する動作指示を行う処理を実現するためのプログラムである。
【0049】
制御部35は、CPU等のハードウェアによって実現される。この制御部35は、操作部31から入力される入力信号、あるいは記憶部33に記憶されるプログラムやデータ等をもとに標本作成装置2を構成する各部への指示やデータの転送等を行い、標本作成装置2全体の動作を統括的に制御する。この制御部35は、標本特定パラメータ取得部351と、制御パラメータ取得部352と、画像抽出部353と、画像表示処理部354と、可否選択依頼部355と、標本作成処理設定部356とを含む。
【0050】
標本特定パラメータ取得部351は、対象標本についての標本特定パラメータの値の入力を依頼し、操作部31を介してユーザによる標本特定パラメータの値の入力を受け付ける。ここで、標本特定パラメータは、標本の種類を示す値であり、例えば検体を採取した臓器や部位、被験者の疾患名等が挙げられる。なお、標本特定パラメータ取得部351が取得する標本特定パラメータはこれに限定されるものではなく、標本に関する情報を適宜用いることができる。例えば、標本における組織の状態を標本特定パラメータとして用いてもよい。具体例としては、例えば、細胞核の個数や密度、形状等が挙げられる。これは、臨床医が対象標本内の例えば細胞核等の組織の個数や密度、形状等を観察することによって診断を行う場合を想定しており、これらの値を標本特定パラメータとして取得してもよい。
【0051】
制御パラメータ取得部352は、対象標本を作成する際に用いる制御パラメータの値の入力を依頼し、操作部31を介してユーザによる制御パラメータの値の入力を受け付ける。この制御パラメータ取得部352は、標本作成部5の各部、すなわち、パラフィンブロック作成処理部51、薄切処理部52、脱パラフィン処理部53、染色処理部54および封入処理部55が行う各処理で用いる少なくとも1つの制御パラメータの値を取得する。具体例としては例えば、パラフィンブロック作成処理部51がパラフィンブロック作成処理で用いるブロックサイズやホルマリン系固定液の種類、ホルマリン系固定液による組織の固定に要する時間(固定時間)等の制御パラメータ、薄切処理部52が薄切処理で用いる標本の厚さ等の制御パラメータ、染色処理部54が染色処理で用いる染色法や染色液の生成条件、染色に要する時間(反応時間)等の制御パラメータが挙げられる。染色液の生成条件は、例えば染色液(染色試薬)の濃度であり、実施の形態1では、ヘマトキシリン染色液の濃度およびエオジン染色液の濃度がこれに該当する。また、反応時間は、ヘマトキシリン染色液による反応時間およびエオジン染色液による反応時間を含み、各反応時間は、対応する染色液に標本を浸す時間に相当する。以下、実施の形態1では、制御パラメータ取得部352は、これらの制御パラメータのうち、薄切処理部52が用いる標本の厚さおよび染色処理部54が用いる反応時間の2つの制御パラメータの値を取得対象(以下、これらの取得対象の制御パラメータを包括して「取得対象制御パラメータ」と呼ぶ。)とし、ユーザ操作に従って各取得対象制御パラメータの値を取得することとする。なお、取得対象制御パラメータ以外の制御パラメータについては、その値を例えば固定値とし、予め設定しておく。
【0052】
画像抽出部353は、標準標本画像データ記憶部4に記憶された標準標本画像の中から、標本特定パラメータ取得部351によって取得された標本特定パラメータをもとに該当する標準標本画像を抽出する。
【0053】
画像表示処理部354は、画像抽出部353によって抽出された標準標本画像または画像処理部37の仮想画像生成部371によってこの標準標本画像について仮想画像生成処理が施されて生成された仮想画像である基準染色画像を表示部32に表示する処理を行う。また、画像表示処理部354は、仮想画像生成部371によって基準染色画像について仮想画像生成処理が施され、仮想画像である染色シミュレーション画像が生成された後は、最先に生成された染色シミュレーション画像を表示部32に表示する処理を行う。
【0054】
可否選択依頼部355は、修正対象制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼するとともに、染色濃度調整依頼部として染色濃度の調整を依頼する。実施の形態1では、可否選択依頼部355は、操作部31を介してユーザによる染色濃度の調整操作を受け付けるとともに、最終的に染色濃度の確定操作を受け付けることで修正対象制御パラメータの値の可否選択の入力を受け付ける。ユーザは、基準染色画像または染色シミュレーション画像によって表される染色濃度が所望する染色濃度の場合に染色濃度の確定操作を行い、この確定操作によって、修正対象制御パラメータの値を「可」として選択する。
【0055】
標本作成処理設定部356は、制御パラメータ取得部352によって取得され、または画像処理部37の制御パラメータ決定部372によって決定された制御パラメータの値を標本作成部5に通知して各部に対する動作指示を行う。これに応答し、標本作成部5は、制御パラメータ取得部352によって取得された制御パラメータや制御パラメータ決定部372によって決定された制御パラメータの値を用いて標本作成処理を行う。この結果、ユーザが所望する染色濃度の対象標本が得られる。なお、実施の形態1では、制御パラメータ取得部352によって標本の厚さおよび反応時間が取得され、このうちの反応時間が制御パラメータ決定部372によって決定される。このため、実施の形態1では、標本作成処理設定部356は、制御パラメータ取得部352によって取得された標本の厚さを薄切処理部52に通知し、制御パラメータ取得部352によって取得されて制御パラメータ決定部372によって決定された反応時間を染色処理部54に通知する。
【0056】
画像処理部37は、CPU等のハードウェアによって実現される。この画像処理部37は、仮想画像生成部371と、制御パラメータ決定部372とを含む。
【0057】
仮想画像生成部371は、基準画像生成部として、標準標本画像について仮想画像生成処理を行って仮想画像(基準染色画像)を生成する。また、仮想画像生成部371は、シミュレーション画像生成部として、基準染色画像について仮想画像生成処理を行い、仮想画像(染色シミュレーション画像)を生成する。
【0058】
制御パラメータ決定部372は、可否選択依頼部355が染色濃度の確定操作を受け付けた場合に、確定された染色濃度(すなわち確定操作を受け付けた際に画像表示処理部354によって表示部32に表示処理されている染色シミュレーション画像が表す染色濃度)に従って修正対象制御パラメータの値を決定する。染色濃度が調整されておらず、染色シミュレーション画像が生成されていない場合には、制御パラメータ決定部372は、修正対象制御パラメータの値を、表示部32に表示処理されている基準染色画像の染色濃度に応じた値として決定する。修正対象制御パラメータは、標本作成部5の各部が行う各処理で用いる少なくとも1つの制御パラメータを含む。ここで、修正対象制御パラメータが、制御パラメータ取得部352による取得対象となっている場合であれば、取得した制御パラメータの値に確定された染色濃度を反映させて修正し、その値を決定する。このとき、染色濃度が調整されていなければ、修正対象制御パラメータの値を、基準染色画像の染色濃度に応じた値、すなわち制御パラメータ取得部352によって取得した値として決定する。一方、修正対象制御パラメータが制御パラメータ取得部352による取得対象となっておらず、予めその値が固定値として設定されている制御パラメータの場合には、その値に確定された染色濃度を反映させて決定する。染色濃度が調整されていない場合であれば、設定されている固定値として決定する。
【0059】
ところで、ユーザによって調整操作され、確定された染色濃度を複数の制御パラメータに反映させるようにしてもよいが、このようにすると計算式が複雑化し、算出時間が増大する。また、各値の算出時に生じる算出値と染色濃度との関係に含まれる誤差が増幅されるため、得られた標本の染色状態がユーザが所望する染色状態と異なるといった問題が生じ得る。ここで、染色状態に大きく影響し、且つ簡便に設定(算出)可能な制御パラメータとして、染色処理部54が用いる反応時間および染色液の濃度が挙げられる。これに鑑み、実施の形態1では、制御パラメータ決定部372は、反応時間を修正対象制御パラメータとする。そして、確定された染色濃度を制御パラメータ取得部352によって取得された反応時間に反映させて修正する。なお、染色液の濃度を修正対象制御パラメータとし、確定された染色濃度を反映させる構成としてもよい。また、修正対象とする制御パラメータはこれに限定されるものではなく、標本の診断方法に応じて適宜選択できる。また、複数の制御パラメータを適宜組み合わせて修正対象としてもよい。
【0060】
標準標本画像データ記憶部4は、標準標本を撮像して得た標準標本画像の画像データを記憶する。実施の形態1では、標本特定パラメータの値の組み合わせによって定まる全ての種類の標本について標準標本を用意し、用意した標本を撮像して観察画像を生成することによって、この標準標本画像データ記憶部4において、標本の種類毎に少なくとも1枚の標準標本画像の画像データを記憶する。この標準標本画像データ記憶部4は、例えばネットワークを介して制御装置3と接続されるデータベース装置で実現され、制御装置3とは離れた別の場所に設置されて標準標本画像の画像データを記憶・管理する。なお、別個の装置に記憶しておく構成に限定されるものではなく、制御装置3の記憶部33に記憶する構成としてもよい。
【0061】
この標準標本画像は、上記したように、事前に用意した標準標本を撮像した観察画像である。ここで、標準標本画像の詳細な生成方法について説明する。上記したように、先ず、標本特定パラメータが取り得る値の組み合わせ毎に該当する検体を用意する。また、標準標本を作成する際に用いる制御パラメータの値(標準値)を予め設定しておく。この標準値は、標本特定パラメータの値の組み合わせ毎に個別に設定しておくこととしてもよい。ここで、標準値を設定しておく制御パラメータは、少なくとも修正対象制御パラメータ(実施の形態1では反応時間)を含む。具体例としては、薄切処理部52が用いる標本の厚さについての標準値として例えば4〔μm〕、染色処理部54が用いる反応時間についての標準値として例えば1分等のように予め設定しておく。
【0062】
そして、標準値が設定されている制御パラメータについてはその値を用い、その他の制御パラメータについては予め設定されている固定値を用いて用意した各検体を処理し、標準標本を作成する。そして、得られた各標準標本について観察画像生成処理を行い、生成した観察画像を標準標本画像として得る。また、各標準標本画像に染色濃度算出処理を施してその標準標本の染色濃度(色素量)を算出する。そして、以上のようにして生成した標準標本画像を、その標準標本についての標本特定パラメータやその標準標本を作成する際に用いた制御パラメータの各値、算出したその標準標本の染色濃度等と関連付けて標準標本画像データ記憶部4に記憶する。
【0063】
図6は、実施の形態1の制御装置3が行う処理手順を示すフローチャートである。なお、ここで説明する処理は、記憶部33に記憶された標本作成処理プログラム331に従って制御装置3の各部が動作することによって実現される。
【0064】
先ず、標本特定パラメータ取得部351が、ユーザ操作に従って標本特定パラメータの値を取得する(ステップc1)。例えば、標本特定パラメータ取得部351は、標本特定パラメータ入力画面を表示部32に表示して標本特定パラメータの入力依頼を通知する処理を行い、この標本特定パラメータ入力画面において標本特定パラメータの入力を受け付ける。
【0065】
図7および図8は、標本特定パラメータ入力画面の一例を示す図である。この標本特定パラメータ入力画面には、図7に示すように、臓器や部位、疾患名等の標本特定パラメータの値を入力するためのスピンボックスB11〜B13、これら各スピンボックスに対するユーザ操作を確定するOKボタンBTN11、操作をキャンセルするキャンセルボタンBTN12等が配置されている。
【0066】
各スピンボックスB11〜B13は、該当する標本特性パラメータとして設定可能な値の一覧を選択肢として提示し、選択操作を受け付けるものである。例えば、臓器を入力するためのスピンボックスB11では、図8に示すように、肝臓や腎臓、前立腺、肺等の検体が採取され得る臓器の一覧を選択肢として提示したドロップダウンリストL11が表示されるようになっており、ユーザは、このドロップダウンリストL11から対象標本について該当する臓器を選択する。なお、標本特性パラメータの取得方法は特に限定されるものではなく、例えば各標本特性パラメータの値を直接入力する構成としてもよい。また、図7や図8では各標本特定パラメータの値を個別に入力する場合を例示したが、標本特定パラメータの値の組み合わせを選択肢として提示し、この選択肢の選択によって各標本特定パラメータの値を同時に取得する構成としてもよい。
【0067】
続いて、制御パラメータ取得部352が、ユーザ操作に従って取得対象制御パラメータの値を取得する(ステップc3)。例えば、制御パラメータ取得部352は、制御パラメータ入力画面を表示部32に表示して取得対象制御パラメータの入力依頼を通知する処理を行い、この制御パラメータ入力画面において取得対象制御パラメータの入力を受け付ける。
【0068】
図9は、制御パラメータ入力画面の一例を示す図である。図9に示す制御パラメータ入力画面には、実施の形態1で取得対象としている標本の厚さおよび反応時間の各制御パラメータの値を入力するためのスピンボックスB21,B22や、これら各スピンボックスに対するユーザ操作を確定するOKボタンBTN21、操作をキャンセルするキャンセルボタンBTN22等が配置されている。各スピンボックスB21,B22は、該当する制御パラメータの値として設定可能な値の一覧を選択肢として提示し、選択操作を受け付けるものであり、例えば、図8に示した標本特定パラメータの場合と同様に、ドロップダウンリストを表示して選択肢を提示する。なお、制御パラメータの取得方法は例示した手法に限定されるものではなく、例えば取得対象制御パラメータの値を直接入力する構成としてもよい。また、実施の形態1では取得対象制御パラメータを2種類(標本の厚さおよび反応時間)に固定しているが、ユーザによって選択可能に構成してもよい。すなわち、標本作成部5の各部が用いる制御パラメータの中から取得対象とする制御パラメータの選択操作を受け付け、ユーザが取得対象として選択した制御パラメータの値を取得する構成としてもよい。
【0069】
続いて、仮想画像生成部371が、標準標本画像データ記憶部4に記憶された標準標本画像の中から、ステップc1で取得された標本特定パラメータの各値に応じた標準標本画像を抽出し、抽出した標準標本画像に関連付けられた制御パラメータの値や染色濃度とともに標準標本画像データ記憶部4から読み出す(ステップc5)。例えば、ステップc1で取得された標本特定パラメータの各値の組み合わせに該当する1枚の標準標本画像を標準標本画像データ記憶部4から読み出す。
【0070】
そして、仮想画像生成部371は、標準標本画像について仮想画像生成処理を行い、標準標本画像の染色濃度をステップc3で取得された取得対象制御パラメータの値に応じた染色濃度に変化させた仮想画像を基準染色画像として生成する(ステップc7)。例えば、ステップc3において、標本の厚さを4〔μm〕、反応時間を2分としてこれらの取得対象制御パラメータの値を取得したとする。また、標本の厚さを4〔μm〕、反応時間を1分として各制御パラメータの値が標準標本画像データ記憶部4から読み出されたとする。本例では、標本の厚さについてはユーザが入力した値と標準標本画像に関する値とが一致している。一方、反応時間については、標準標本画像に関する値(1分)に対してユーザが倍の値(2分)を入力している。この場合には、予め設定しておいた反応時間と染色濃度との関係をもとに調整係数を算出する。反応時間と染色濃度との関係は、例えば、図13を参照して後述するルックアップテーブルを用いることができる。例えば、このルックアップテーブルに、反応時間が2分の場合の染色濃度として反応時間が1分の場合の染色濃度の1.2倍の値が設定されている場合であれば、調整係数を“1.2”として設定し、標準標本画像から仮想画像を生成する処理(仮想画像生成処理)を行う。実際には、標本の厚さと染色濃度との関係についても、同様に別途設定しておく。そして、ステップc3で取得された取得対象制御パラメータの各値をもとに調整係数を設定する。また、標本の厚さや反応時間以外の制御パラメータの値を取得対象として取得する場合であれば、これらの値についても適宜考慮して調整係数を設定し、標準標本画像から仮想画像を生成することとしてよい。
【0071】
そして、画像表示処理部354が、ステップc7で生成された基準染色画像を表示部32に表示する処理を行う(ステップc9)。なお、ステップc3で取得された取得対象制御パラメータの各値がステップc5で抽出された標準標本画像に関連づけられた値と一致していれば、標準標本画像の染色濃度がステップc3で取得された取得対象制御パラメータの値に応じた染色濃度に相当している。このため、ステップc7の処理を行う必要はなく、画像表示処理部354は、標準標本画像を基準染色画像として表示部32に表示処理する。ここでの処理によって、ユーザに対して対象標本の染色濃度の確認を促す。ユーザは調整が必要と判断した場合には染色濃度の調整操作を行い、最終的に染色濃度の確定操作を行う。
【0072】
そして、図6に示すように、可否選択依頼部355が、染色濃度の確定操作の有無を監視し、この確定操作によって修正対象制御パラメータの値の可否選択の入力を受け付ける。また、可否選択依頼部355は、染色濃度の確定されるまでの間(ステップc11:No)、染色濃度の調整操作の有無を監視する。実施の形態1では、染色濃度の調整操作として、染色濃度を調整するための調整係数の変更操作を受け付ける。染色濃度が調整された場合(調整係数が変更された場合)には(ステップc13:Yes)、仮想画像生成部371が変更された調整係数に従って仮想画像生成処理を行い、基準染色画像の染色濃度を仮想的に変化させた仮想画像を染色シミュレーション画像として生成する(ステップc15)。そして、画像表示処理部354が、ステップc15で生成された染色シミュレーション画像を表示部32に表示処理する(ステップc17)。その後、ステップc11に戻る。
【0073】
ここで、ステップc11〜ステップc17の処理の際のユーザによる操作例について説明する。例えば、画像表示処理部354が、ステップc9の処理として基準染色画像の表示を含む染色濃度確認画面を表示部32に表示する処理を行う。図10は、染色濃度確認画面の一例を示す図である。図10に示すように、染色濃度確認画面は、基準染色画像と染色シミュレーション画像とを並べて表示する画像表示部W31を備え、画像表示部W31に向かって左側に基準染色画像I31が表示され、向かって右側に染色シミュレーション画像I32が表示される。また、この染色濃度確認画面には、染色濃度の調整操作を入力するための染色濃度調整ボタンBTN31と、染色濃度の確定操作を入力するための染色濃度確定ボタンBTN32とが配置されている。
【0074】
このように、基準染色画像と染色シミュレーション画像とを並べて表示すれば、ユーザは、調整係数の変更に伴う染色濃度の変化を画面上で視覚的に捉えることができる。ここで、染色シミュレーション画像は、染色濃度調整ボタンBTN31が押下されて調整係数が変更された場合に生成されるものであり、染色濃度調整ボタンBTN31が押されない間は、画像表示部W31には基準染色画像I31のみが表示される。なお、これらを並べて表示する必要はなく、染色シミュレーション画像が生成されるまでの間は基準染色画像を表示し、染色シミュレーション画像が生成された後は、最先に生成された染色シミュレーション画像を表示する画面構成としてもよい。また、ユーザ操作に従って画像表示部W31の基準染色画像や染色シミュレーション画像の拡大処理や縮小処理、あるいは中心位置の移動処理等を行う構成としてもよく、ユーザによる操作性を向上させることができる。また、基準染色画像や染色シミュレーション画像を画像処理して画像特徴量を算出する構成としてもよく、より多くの画像情報をユーザに提示することができる。例えば、ユーザが指定した画素の色成分や、色成分の統計量を算出して画面表示することとしてもよい。あるいは、公知の認識処理や分類処理によって画像内の特定領域を抽出し、画面表示することとしてもよい。
【0075】
この染色濃度確認画面において染色濃度調整ボタンBTN31を押下すると、可否選択依頼部355が、例えば調整係数変更画面を表示部32に表示して調整係数の変更による染色濃度の調整依頼を通知する処理を行う。そして、可否選択依頼部355は、ステップc13の処理として、この調整係数変更画面において調整係数の変更操作(染色濃度の調整操作)を受け付ける。図11は、調整係数変更画面の一例を示す図である。図11に示すように、調整係数変更画面には、色素Hについての調整係数と色素Eについての調整係数とをそれぞれ個別に変更するための2つのスライダーS41,S42が配置されている。また、この調整係数変更画面には、スライダーS41,S42に対するユーザ操作を確定するOKボタンBTN41、操作をキャンセルするキャンセルボタンBTN42等が配置されている。ユーザは、上段のスライダーS41を移動させて色素Hについての所望の調整係数を変更し、下段のスライダーS42を移動させて色素Eについての所望の調整係数を変更する。例えば、染色濃度を濃くしたい場合であればスライダーS41,S42を画面に向かって右側に移動させ、薄くしたい場合には左側に移動させる。これによれば、ユーザは、簡単かつ直観的に調整係数を変更することができる。この結果、ステップc15の処理として仮想画像生成部371が、変更された調整係数に応じた染色濃度の染色シミュレーション画像を生成し、ステップc17の処理として画像表示処理部354が、この染色シミュレーション画像を染色濃度確認画面の画像表示部W31に表示処理する。
【0076】
以上のようにしてユーザは、基準染色画像や染色シミュレーション画像を見ながら染色濃度を適宜調整し、画像表示部W31の基準染色画像あるいは染色シミュレーションが所望する染色濃度であれば、染色濃度確定ボタンBTN32を押下する。
【0077】
なお、観察画像生成処理や仮想画像生成処理として上記したように、実施の形態1では、各画素位置の画素信号値を算出して観察画像や仮想画像を生成することとした。このため、染色濃度確認画面においてユーザに提示される画像情報は画素信号値になるが、これに限定されるものではない。例えば、任意の画素の色成分や色成分の統計量、特定領域のテクスチャ情報、あるいはこれらを適宜組み合わせた画像情報を表示することとしてもよい。これによれば、対象標本の染め上がりに関するより詳細な情報をユーザに提示できる。
【0078】
また、染色濃度の取得方法はこれに限定されるものではなく、例えば調整係数の値、あるいは染色濃度の値を直接入力する構成としてもよい。また、基準染色画像中の特定の組織が映る所定の注目領域について染色濃度を調整する構成とすることも可能である。図12は、この場合の染色濃度確認画面の一例を示す図である。図12に示す染色濃度確認画面には、画面中央に画像表示部W51が配置されており、基準染色画像または最先に生成された染色シミュレーション画像が表示される。また、染色濃度確認画面には、染色濃度の調整操作を入力するための染色濃度調整ボタンBTN51と、染色濃度の確定操作を入力するための染色濃度確定ボタンBTN52とが配置されている。
【0079】
例えば細胞質について染色濃度を調整したい場合であれば、ユーザは、画像表示部W51に表示されている基準染色画像または染色シミュレーション画像中から細胞質が映る領域E51,E52を操作部31を介して領域選択する。選択した領域E51,E52は、画像表示部W51外側の選択領域表示部W521,W522において個別に拡大表示されるようになっている。そして、ユーザは、このようにして注目領域を領域選択した状態で染色濃度調整ボタンBTN51を押下し、例えば図11を参照して説明した要領で調整係数を変更する。
【0080】
本変形例によれば、例えば細胞質等の所定の注目領域について染色濃度を調整できるので、特定の組織を濃く染める、あるいは薄く染めるといったことが可能となる。したがって、標本全体としての染色状態を確認しながら、特定の組織に対して特徴的に染色濃度を調整することが可能となる。
【0081】
そして、図6に示すように、染色濃度が確定されると(ステップc11:Yes)、制御パラメータ決定部372が、確定された染色濃度を修正対象制御パラメータ(実施の形態1では反応時間)の値に反映させて修正し、その値を決定する(ステップc19)。
【0082】
例えば、反応時間と染色濃度との関係(相関式)を定義したルックアップテーブル(以下、「LUT」と略記する。)を事前に生成して記憶部33に記憶しておき、このLUTを参照して修正対象制御パラメータの値を修正する。ここで、LUTの生成方法について説明する。実施の形態1では、反応時間を変えて実際に作成した標本を用意して染色濃度を求め、反応時間と染色濃度との対応関係を予め設定しておく。ここで、同じ反応時間で標本を作成した場合であっても、染色濃度に多少のバラつきが生じる。この誤差を軽減するため、同じ反応時間で作成した複数の標本を用意する。そして、得られたそれぞれの標本について観察画像生成処理を行うとともに、染色濃度算出処理を行い、染色濃度の測定値を算出して反応時間毎の測定値を得る。
【0083】
図13は、反応時間毎の染色濃度の測定値をもとに反応時間と染色濃度との対応関係の一例を模式的に示した図であり、横軸を反応時間、縦軸を染色濃度とし、反応時間を異ならせて作成した標本の染色濃度を示している。前述のように、本例では、同じ反応時間で作成した複数の標本を用意しているため反応時間毎に複数の測定値が得られ、各値は、例えば図13中で破線で示すような範囲で値が分散する。この破線によって示した反応時間毎の分散は、対応する反応時間と染色濃度との関係に含まれる誤差とする。なお、この図13中に破線で示す誤差をユーザに提示する構成としてもよい。提示方法の一例としては、反応時間毎の染色濃度の誤差範囲を調整係数の誤差範囲に変換し、変換した調整係数の誤差範囲を図11に示した調整係数変更画面上で表示することによってユーザに提示する方法が挙げられる。
【0084】
具体的には、反応時間毎の染色濃度の誤差範囲を、調整係数の誤差範囲に予め変換しておく。例えば、図13中に示す反応時間110では、その染色濃度は、実線上の平均値である染色濃度111を基準として112〜113の範囲でばらつく(分散する)。この反応時間110に着目すれば、基準染色画像の染色濃度をもとに各染色濃度111,112,113における調整係数を求めることで、反応時間110における染色濃度の誤差範囲112〜113およびその基準111を調整係数の誤差範囲およびその基準に変換できる。そして、図11の調整係数変更画面を表示する際、スライダー41,S42が指し示す現在の調整係数の値をもとに、基準の値が現在の調整係数の値と最も類似する調整係数の誤差範囲を取得する。そして、取得した調整係数の誤差範囲を例えば表示色を変更する等してスライダー41,S42上で識別表示する処理を行う。後述するように、図11の調整係数変更画面で操作を確定すると、確定操作時の調整係数に従って修正対象制御パラメータである反応時間が決定され、この反応時間に従って対象標本が作成される。本変形例によれば、ユーザは、このようにして得られる対象標本の染色濃度のバラつきを事前に把握することができる。
【0085】
実施の形態1では、例えば、図13中に実線で示すように、反応時間毎に測定値の平均値を算出し、各反応時間に対応する染色濃度をその反応時間に対する1点として得る。そして、図13中に実線で示すプロット分布をテーブル化してLUTを作成し、記憶部33に記憶する。なお、このLUTは、反応時間と染色濃度との対応関係を定義したデータテーブルとして記憶しておく場合に限定されるものではない。例えば、測定点をもとに算出した近似曲線の関数式として記憶しておく構成としてもよい。
【0086】
制御パラメータ決定部372は、このようにして予め生成したLUTを参照し、色素Hおよび色素Eの染色液毎の反応時間を個別に算出する。例えば、確定された染色濃度のうち、色素Hの染色濃度(色素量)をdH、色素Eの染色濃度(色素量)dEとする。そして、dHの値をもとに、ヘマトキシリン染色液による反応時間SHを次式(12)に従って算出する。また、dEの値をもとに、エオジン染色液による反応時間SEを次式(13)に従って算出する。
【数12】

【0087】
ここで、確定された染色濃度の値がLUTに設定されていない数値の場合には、値が最も近いLUTの設定値を用いて線形変換を行い、反応時間を得る。そして、制御パラメータ決定部372は、制御パラメータ取得部352によって取得された反応時間を、式(12),(13)に従って算出したヘマトキシリン染色液による反応時間SHおよびエオジン染色液による反応時間SEで置き換えることで、確定された染色濃度を反応時間に反映させて修正する。なお、染色濃度に対応する反応時間の算出は、上記式(12),(13)に従ってLUTを参照して行う方法に限定されるものではない。例えば、染色濃度を変数とする変換関数を用い、反応時間を算出する構成としてもよい。
【0088】
そして、図6に示すように、標本作成処理設定部356は、ステップc3で取得された取得対象制御パラメータの値やステップc19で決定された修正対象制御パラメータの値を標本作成部5に通知し、標本作成部5の各部に対する動作指示を行う(ステップc21)。すなわち、実施の形態1では、標本作成処理設定部356は、ステップc3で取得された標本の厚さを薄切処理部52に通知するとともに、ステップc19で決定された反応時間を染色処理部54に通知する。
【0089】
図14は、図6に示すステップc21の動作指示に応答して標本作成部5が行う標本作成処理の処理手順を示すフローチャートである。この標本作成処理により、図6のステップc3で取得され、ステップc19で決定された制御パラメータの値を用いて対象標本が作成される。
【0090】
すなわち、図14に示すように、実施の形態1の標本作成処理では、先ず、パラフィンブロック作成処理部51がパラフィンブロック作成処理(ステップd1〜ステップd9)を行い、被験者から採取した検体からパラフィンブロックを作成する。
【0091】
具体的には先ず、パラフィンブロック作成処理部51は、採取した検体からブロックを切り出す(ステップd1)。ここで、切り出すブロックサイズは、その検体を採取(摘出)した臓器や部位、あるいは疾患名やその疾患の状態等によって異なる。このブロックサイズはパラフィンブロック作成処理部51が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。例えば、予め臓器、部位、疾患名、疾患の状態の組み合わせと対応付けてブロックサイズを設定しておく。そして、図6のステップc3で取得された標本特定パラメータをもとに対象標本のブロックサイズを特定する。なお、このブロックサイズを制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したブロックサイズの値に従ってステップd1の処理が行われる。
【0092】
実際のブロックサイズは、概ね1〔cm〕×2〔cm〕×数〔mm〕程度が標準的であるが、例えば脳の標本を作成する場合のように、1〔cm〕×数〔cm〕×数〔cm〕といった比較的大きなサイズで切り出すこともある。また、針生検等では検体から標本ブロックを採取する工程は不要であるため、次のステップd3の処理に移る。
【0093】
続くステップd3では、パラフィンブロック作成処理部51は、切り出した標本ブロックに対し、ホルマリン系固定液を用いて組織の固定を行う。ホルマリン系固定液の種類および固定時間は、パラフィンブロック作成処理部51が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ここで、ステップd1で切り出されたブロックサイズや固定する組織の種類、使用するホルマリン系固定液の種類によってホルマリンの浸透速度が異なるため、固定時間については、これらの値から決定される。通常、固定には1〜2日を要する。長時間漬け過ぎると過固定と呼ばれる状態になり、後段の染色処理において染色液によって染まり難くなる場合がある。なお、ホルマリン系固定液の種類および固定時間についても制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したこれらの値に従ってステップd3の処理が行われる。
【0094】
続いて、パラフィンブロック作成処理部51は、アルコールを用いて脱脂・脱水する(ステップd5)。これは、生体組織に脂肪が含まれるためである。ここでの処理には2〜3日を要し、例えばアルコールの濃度を段階的(例えば3段階)に濃くしながら行う。使用するアルコール液、アルコール濃度、脱脂・脱水時間は、パラフィンブロック作成処理部51が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したこれらの値に従ってステップd5の処理が行われる。
【0095】
続いて、パラフィンブロック作成処理部51は、溶けたパラフィンを組織内に浸透させて固める(脱水包埋:ステップd7)。ここでの処理には2日〜3日を要する。具体的には、無水アルコール、メタノール+クロロホルム、キシレン、パラフィンの各溶液に順次組織を浸していく。無水アルコールは仕上げの脱水のため、キシレンは脱アルコールのために使用する。各溶液および各溶液に対する浸透時間は、パラフィンブロック作成処理部51が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したこれらの値に従ってステップd7の処理が行われる。この脱水包埋については、自動化装置が広く普及しており、適宜用いることができる。
【0096】
そして、パラフィンブロック作成処理部51は、溶けたパラフィンに沈め、更に冷して固めることでステップd1〜ステップd7の処理を施した標本ブロックをパラフィンで完全に覆う(パラフィン包埋:ステップd9)。浸透時間は、パラフィンブロック作成処理部51が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd9の処理が行われる。このパラフィン包埋によって、本来柔らかい生体組織で構成される標本ブロックにパラフィンの強度を与え、薄切時において必要な程度の固さが実現できる。また、パラフィン包埋された標本ブロックは理想的な条件下で気密状態にできるため、半永久的に保存が可能になる。だたし、実際には完全な機密状態とはならないため、気密状態によっては状態変化が生じる。また、手術中に行う観察・診断を行いたい場合のように短時間で標本を作成する必要がある場合には、組織を凍結させることで形状を固定し、後段の薄切処理に移るようにしてもよい。
【0097】
続いて、薄切処理部52が、薄切処理を行う(ステップd11)。薄切処理部52は、例えば薄切処理が自動化された自動化装置(自動薄切装置)で構成される。ここで、所定の厚さ(標本の厚さ)は、薄切処理部52が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では、制御パラメータ取得部352がユーザ操作に従って取得し、標本作成処理設定部356が薄切処理部52に通知することによって得られる。なお、制御パラメータ調整部39が調整する構成としてもよい。自動薄切装置は、通知された標本の厚さを制御パラメータとして用い、例えば、ミクロトーム(microtome)を用い、所定の厚さとなるように標本ブロックを薄くスライスする。薄切した切片は一旦水に浮かべ、その後プレパラートに掬い上げる。プレパラートに掬い上げた切片は、42℃〜43℃程度で乾燥させる。この温度は切片に皺や皸を作らないように設定する。
【0098】
続いて、脱パラフィン処理部53が、パラフィンを洗い流す(脱パラフィン:ステップd13)。薄切処理が完了すればパラフィンは不要であるから、染色の邪魔にならないようにこれを除去する。先ず、60℃程度の温度でパラフィンを融溶させる。プレパラートを立てた状態にしておけば、大部分のパラフィンは自然に流れ落ちる。ここでの処理には通常1時間程度を要するが、専用の自動化装置が知られており、適宜用いることができる。続いて、キシレンを溶剤として、残ったパラフィンを溶かす。パラフィンを溶かすことでキシレンは汚染されていくので、純度の異なる例えば3槽のキシレンプールを用意し、純度が低いキシレンプールから順次5分程度ずつ浸す。浸透時間は、脱パラフィン処理部53が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd13の処理が行われる。
【0099】
続いて、脱パラフィン処理部53は、アルコール(純エタノール)を用いてキシレンを洗い流す(脱キシレン:ステップd15)。脱パラフィンの場合と同様に、キシレンを溶かすことでアルコールは汚染されていくので、純度の異なる例えば3槽のアルコールプールを用意し、純度が低いアルコールプールから順次5分程度ずつ浸す。浸透時間は、脱パラフィン処理部53が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd15の処理が行われる。
【0100】
続いて、脱パラフィン処理部53は、アルコールを洗い流す(脱アルコール:ステップd17)。通常、水洗には水道水を使用し、他の染色液や溶剤に投入する前に蒸留水を潛らせる。アルコールから水への急激な変化が標本に悪影響を与えると懸念される場合等、一旦70%程度の濃度のアルコール洗浄を経由する場合もある。
【0101】
続いて、染色処理部54が染色処理(ステップd19〜ステップd27)を行い、H&E染色を施す。先ず、染色処理部54は、標本のヘマトキシリン染色を行う(ステップd19)。ヘマトキシリン染色は、蒸留水を用いて標本を洗浄した後、所定の時間(反応時間)ヘマトキシリン染色液に浸す。ここで、染色液の濃度および反応時間は、染色処理部54が用いる制御パラメータである。実施の形態1では、染色液の濃度については固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd19の処理が行われる。一方、反応時間は、制御パラメータ取得部352がユーザ操作に従って取得し、制御パラメータ決定部372がユーザ操作に従って修正した値であり、標本作成処理設定部356によって染色処理部54に通知されたヘマトキシリン染色液による反応時間である。
【0102】
続いて、染色処理部54は、ヘマトキシリン染色された標本に対して色出しのための水洗を行う(ステップd21)。通常は、時間短縮のため、1%の塩酸アルコールに浸す。ここでの処理により、細胞質等に付着した余分なヘマトキシリン染色液が除去される。水道水を用いる場合には、長時間水道水に漬け過ぎると水道水に含まれる塩素によってヘマトキシリンの色が抜けてしまうので、注意が必要である。染色は一度安定状態になるため、蒸留水中であれば長時間放置しても問題ない。ここで、塩酸アルコールの溶液濃度および水洗時間は、染色処理部54が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したこれらの値に従ってステップd21の処理が行われる。
【0103】
蒸留水による洗浄後、続いて染色処理部54は、エオジン染色を行う(ステップd23)。ここでは、標本をエオジン染色液に浸す。ここで、染色液の濃度および反応時間は、染色処理部54が用いる制御パラメータである。実施の形態1では、染色液の濃度については固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd23の処理が行われる。一方、反応時間は、ステップd19のヘマトキシリン染色で用いる反応時間と同様に、制御パラメータ取得部352がユーザ操作に従って取得し、制御パラメータ決定部372がユーザ操作に従って修正した値であり、標本作成処理設定部356によって染色処理部54に通知されたエオジン染色液による反応時間である。
【0104】
続いて、染色処理部54は、エオジン染色された標本に分別脱水処理を行う(ステップd25)。通常、染色液に浸された標本は、全体に染色液を含んだ状態となる。しかし、その後適当な溶剤(洗浄液)で洗浄することで、本来染色されるべき部位以外の染色液を洗い流し、目的部位だけが染色された状態にする。この処理を分別と呼ぶ。エオジンの分別には、通常洗浄液としてアルコール(純エタノール)を用いる。アルコールで洗浄することで染色中に付着した水分も除去されるため、この場合の分別の工程は脱水の行程も兼ねている。アルコール中に標本を放置するとエオジンが溶け出してしまうので、アルコール中で10回揺する処理を4回程度行って分別を終える。ここで、洗浄液の種類および洗浄時間は染色処理部54が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定したこれらの値に従ってステップd25の処理が行われる。
【0105】
分別が終わった状態で放置すると標本に残留・付着したアルコール分でエオジンが落ちてしまうので、染色処理部54は、直ちに続く透徹を行う(ステップd27)。透徹は、標本をキシレンに浸す処理であり、例えば5分の浸透時間で3回程度行う。この処理は、脱アルコールと同様の処理であるが、標本の発色を良くする効果もあるため、特に透徹と呼ばれている。透徹時間は、染色処理部54が用いる制御パラメータであり、実施の形態1では固定値とする。ただし、制御パラメータ取得部352が取得する構成としてもよいし、制御パラメータ決定部372が決定する構成としてもよい。この場合には、取得または決定した値に従ってステップd27の処理が行われる。
【0106】
続いて、封入処理部55が、標本の封入処理を行い、標本(対象標本)を得る(ステップd29)。すなわち、プレパラートにカバーガラスを載せ、接着剤で固定する。封入包埋については、専用装置によって自動化されており、適宜用いることができる。接着剤によって完全密封されるため、得られた標本は、半永久的に保存できる。
【0107】
以上説明したように、実施の形態1によれば、対象標本を作成する際に用いる取得対象制御パラメータの値をユーザ操作に従って取得し、取得した値に応じた染色濃度(色素量)の基準染色画像を画面表示してユーザに提示することができる。また、この基準染色画像を見ながらユーザが調整した染色濃度の染色シミュレーション画像を生成して画面表示し、ユーザに提示することができる。そして、最終的に確定された染色濃度に従って修正対象制御パラメータの値を修正して決定し、標本作成部5に通知して動作指示を行うことができる。この結果、標本作成部5は、ユーザ操作に従って取得した取得対象制御パラメータの値や、標本の染め上がりがユーザ操作に従って確定した染色濃度となるように修正・決定した修正対象制御パラメータの値を用いて対象標本を作成する。これによれば、ユーザは、標本の染め上がりを事前に把握し、標本作成部5が標本を作成する前に、その標本を作成する際に用いる制御パラメータの値の可否を判断することができる。したがって、ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成することができる標本作成装置を提供することができる。
【0108】
なお、実施の形態1では、予め標本特定パラメータの値の組み合わせ毎に制御パラメータを所定値として作成した標準標本を用意し、この標準標本を撮像した標準標本画像を標準標本画像データ記憶部4に記憶しておくこととした。そして、この標準標本画像について仮想画像生成処理を行い、ユーザ操作に従って取得した取得対象制御パラメータの値に応じた基準染色画像を生成することとした。これに対し、取得対象制御パラメータの値として取得し得るあらゆる値を想定し、各取得対象制御パラメータの値を異ならせて作成した標準標本を用意することとしてもよい。そして、用意した標準標本を撮像して得た染色標本画像を、標本特定パラメータや制御パラメータの各値と関連付けて標準標本画像データ記憶部4に記憶しておく構成としてもよい。
【0109】
本変形例では、ユーザ操作に従って標本特定パラメータおよび取得対象制御パラメータの各値を取得した場合に、取得した各値をもとに標準標本画像を抽出し、抽出した標準標本画像を基準染色画像として画面表示する。この場合には、標本特定パラメータおよび取得対象制御パラメータの値の組み合わせ毎に標準標本画像を用意して記憶しておく必要があるが、実施の形態1のように、その都度仮想画像生成処理を行って基準染色画像を生成する必要がない。
【0110】
なお、取得対象制御パラメータとして複数の制御パラメータの値を取得している場合には、いずれか1つの値が一致する複数の標準標本画像を抽出するようにしてもよい。例えば実施の形態1で説明したように、反応時間と標本の厚さの各制御パラメータを取得対象としている場合であれば、反応時間として取得した値が関連付けられた標準標本画像と標本の厚さとして取得した値が関連付けられた標準標本画像とをそれぞれ抽出する。
【0111】
また、このように複数の標準標本画像を抽出する場合には、これらの中から最終的に1枚の基準染色画像を選出する。選出の仕方はユーザ操作に従って手動で行ってもよいし、自動的に1枚を選出してもよい。
【0112】
手動で行う場合であれば、例えば、抽出した複数の標準標本画像をそれぞれ基準染色画像の候補として画面表示する。このとき、抽出した複数の標準標本画像をサムネイル形式で一覧表示してもよいし、ユーザ操作に従って順次1枚ずつ切り換えて表示する構成としてもよい。またこのとき、抽出した各標準標本画像について仮想画像生成処理を行い、取得した各制御パラメータの値に応じた染色濃度に変化させた画像として表示することとしてもよい。例えば、反応時間と標本の厚さを取得対象制御パラメータとする場合であれば、取得した反応時間をもとに抽出した標準標本画像について、取得した標本の厚さを考慮して染色濃度を変化させた仮想画像を生成する。同様に、標本の厚さをもとに抽出した標準標本画像について、取得した反応時間を考慮して染色濃度を変化させた仮想画像を生成する。そして、これらの仮想画像を基準染色画像の候補として画面表示し、ユーザに提示することとしてもよい。最終的に、ユーザ操作に従って1枚の基準染色画像を選出する。
【0113】
一方、自動的に1枚の基準染色画像を選出する方法としては、例えば抽出した標準標本画像中に映る組織の種類やその状態等の特徴情報を判別基準として用い、1枚の基準染色画像を選出する手法が挙げられる。この場合には、例えば、予め組織の数や密集度が異なる複数の標本を標準標本として用意する。そして、用意した標準標本を撮像して得た標準標本画像と関連付けて、該当する標準標本画像中に映る組織の種類、あるいはその数や密集度といった組織の状態等を標準標本画像データ記憶部4に記憶しておく。
【0114】
そして、基準染色画像の候補として抽出した複数の標準標本画像の中から、取得した標本特定パラメータの値に応じた特徴情報が関連付けられた1枚の標準標本画像を基準染色画像として選出する。例えば、標本特定パラメータの1つである疾患名として「癌」を取得した場合であれば、組織の密集度が所定の閾値以上か否かを判別基準とすることができる。
【0115】
あるいは、ユーザ(臨床医)が予め対象標本の観察条件を設定しておくようにしてもよい。この場合には、注目対象とする組織の種類や数、密集度、あるいは特定の組織の有無等を観察条件として設定しておく。例えば、ユーザが密集した細胞核を観察したい場合等、密集した細胞核の染め上がりを重要視する場合であれば、「細胞核が密集している」ことを観察条件として設定する。この場合には、設定された観察条件に従って、抽出した標準標本画像に特徴情報として関連付けられた細胞核の密集度を閾値処理し、自動的に1枚の基準染色画像を選出する。ここで、所定の判別基準を用いた閾値処理は、公知技術を用いて実現できる。なお、閾値の値は、ユーザ操作に従って設定可能に構成してもよい。
【0116】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。図15は、実施の形態2の標本作成装置2bの機能構成を示すブロック図である。なお、図15において、実施の形態1で説明した標本作成装置2と同一の構成については同一の符号を付して示している。
【0117】
図15に示すように、実施の形態2の標本作成装置2bは、制御装置3bと、標準標本画像データ記憶部4と、標本作成部5とを備える。そして、制御装置3bは、操作部31と、表示部32と、記憶部33bと、制御部35bと、画像処理部37bとを備える。
【0118】
記憶部33bには、標本作成処理プログラム331bが記憶される。この標本作成処理プログラム331bは、ユーザ操作に従って修正対象制御パラメータの値を決定し、標本作成部5に対する動作指示を行う処理を実現するためのプログラムである。
【0119】
また、制御部35bは、標本特定パラメータ取得部351と、制御パラメータ取得部352と、画像抽出部353と、画像表示処理部354と、可否選択依頼部355bと、標本作成処理設定部356bとを含む。
【0120】
実施の形態2において、制御パラメータ取得部352は、実施の形態1と同様に、薄切処理部52が用いる標本の厚さおよび染色処理部54が用いる反応時間の2つの制御パラメータを取得対象制御パラメータとし、ユーザ操作に従って各取得対象制御パラメータの値を取得することとする。
【0121】
可否選択依頼部355bは、修正対象制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼するとともに、制御パラメータ調整依頼部として修正対象制御パラメータの値の調整を依頼する。実施の形態2では、可否選択依頼部355bは、操作部31を介してユーザによる修正対象制御パラメータの値の調整操作を受け付けるとともに、最終的に修正対象制御パラメータの値の確定操作を受け付けることでその値の可否の選択入力を受け付ける。ユーザは、基準染色画像または染色シミュレーション画像によって表される染色濃度が所望する染色濃度の場合に修正対象制御パラメータの値の確定操作を行い、この確定操作によって、修正対象制御パラメータの値を「可」として選択する。この結果、修正対象制御パラメータの値が決定される。
【0122】
標本作成処理設定部356bは、制御パラメータ取得部352によって取得され、または可否選択依頼部355bが確定操作を受け付けることで決定した修正対象制御パラメータの値を標本作成部5に通知して各部に対する動作指示を行う。実施の形態2では、標本作成処理設定部356bは、制御パラメータ取得部352によって取得された標本の厚さを薄切処理部52に通知する。また、この標本作成処理設定部356bは、ユーザが調整した値として決定された反応時間を染色処理部54に通知する。
【0123】
そして、画像処理部37bは、仮想画像生成部371bと、染色濃度算出部372bとを含む。
【0124】
仮想画像生成部371bは、実施の形態1と同様にして、基準画像生成部として、標準標本画像について仮想画像生成処理を行って仮想画像(基準染色画像)を生成する。また、仮想画像生成部371bは、シミュレーション画像生成部として、基準染色画像について仮想画像生成処理を行い、仮想画像(染色シミュレーション画像)を生成する。具体的には、基準染色画像が表す染色濃度を可否選択依頼部355bによる入力依頼に応答して調整された修正対象制御パラメータの値に応じた染色濃度に変化させて染色シミュレーション画像を生成する。
【0125】
染色濃度算出部372bは、可否選択依頼部355bが修正対象制御パラメータの値の調整操作を受け付けた場合に、調整された修正対象制御パラメータの値に従って染色濃度を算出する。
【0126】
図16は、実施の形態2の制御装置3bが行う処理手順を示すフローチャートである。なお、ここで説明する処理は、記憶部33bに記憶された標本作成処理プログラム331bに従って制御装置3bの各部が動作することによって実現される。また、図16において、実施の形態1と同様の処理工程には同一の符号を付している。
【0127】
実施の形態2では、ステップc9において、画像表示処理部354が基準染色画像を表示部32に表示する処理を行った後、可否選択依頼部355bが、修正対象制御パラメータの値の確定操作の有無を監視し、この確定操作によって修正対象制御パラメータの値の可否選択の入力を受け付ける。また、可否選択依頼部355bは、修正対象制御パラメータの値が確定されるまでの間(ステップe11:No)、修正対象制御パラメータ(実施の形態2では反応時間)の値の調整操作の有無を監視する。例えば、実施の形態1と同様にスライダー等のGUIを画面表示して反応時間の調整操作を受け付ける。なお、ユーザが反応時間を直接入力する構成としてもよい。値が調整された場合には(ステップe13:Yes)、染色濃度算出部372bが、変更された値に応じた染色濃度を算出する(ステップe15)。
【0128】
例えば、反応時間と染色濃度との関係(相関式)を定義したLUTを事前に生成して記憶部33bに記憶しておき、このLUTを参照して染色濃度を算出する。LUTは、実施の形態1で図13を参照して説明したLUTを用いることができる。具体的には、染色濃度算出部372bは、このLUTを参照して色素Hおよび色素Eの染色濃度を個別に算出する。先ず、変更された反応時間をそれぞれヘマトキシリン染色液による反応時間SHおよびエオジン染色液による反応時間SEとする。そして、実施の形態1で示した次式(12)に従い、ヘマトキシリン染色液による反応時間SHの値をもとに色素Hの染色濃度dHを算出するとともに、次式(13)に従い、エオジン染色液による反応時間SEの値をもとに色素Eの染色濃度dEを算出する。
【数13】

【0129】
なお、実施の形態1と同様に、変更後の反応時間がLUTに設定されていない数値の場合には、値が最も近いLUTの設定値を用いて線形変換を行い、染色濃度を得る。また、反応時間に対応する染色濃度の算出は、上記式(12),(13)に従ってLUTを参照して行う方法に限定されるものではなく、反応時間を変数とする変換関数を用い、染色濃度を算出する構成としてもよい。
【0130】
そして、仮想画像生成部371bが算出された染色濃度をもとに仮想画像生成処理を行い、基準染色画像の染色濃度を調整された修正対象制御パラメータの値に応じた染色濃度に仮想的に変化させた仮想画像を染色シミュレーション画像として生成する(ステップe17)。そして、画像表示処理部354が、ステップe17で生成された染色シミュレーション画像を表示部32に表示処理する(ステップe19)。その後、ステップe11に戻る。
【0131】
そして、修正対象制御パラメータの値が確定されると(ステップe11:Yes)、修正対象制御パラメータ(実施の形態1では反応時間)の値を確定された値として決定する(ステップe21)。続いて、標本作成処理設定部356bが、ステップc3で取得された取得対象制御パラメータの値やステップe21で決定された修正対象制御パラメータの値を標本作成部5に通知し、標本作成部5の各部に対する動作指示を行う(ステップe23)。すなわち、実施の形態2では、標本作成処理設定部356bは、ステップc3で取得された標本の厚さを薄切処理部52に通知するとともに、ステップe21で決定された反応時間を染色処理部54に通知する。
【0132】
ユーザによっては、実施の形態1のように染色濃度を調整するよりも、反応時間等の制御パラメータの値を調整することで標本の染め上がりをイメージし易い場合がある。実施の形態2によれば、対象標本を作成する際に用いる取得対象制御パラメータの値をユーザ操作に従って取得し、取得した値に応じた染色濃度(色素量)の基準染色画像を画面表示してユーザに提示することができる。また、この基準染色画像を見ながらユーザが調整した修正対象制御パラメータの値に応じた染色濃度の染色シミュレーション画像を生成して画面表示し、ユーザに提示することができる。そして、修正対象制御パラメータの値を最終的に確定された値として決定し、標本作成部5に通知して動作指示を行うことができる。この結果、標本作成部5は、ユーザ操作に従って取得した取得対象制御パラメータの値や、染色シミュレーション画像を見ながらユーザが調整した修正対象制御パラメータの値を用いて対象標本を作成する。これによれば、ユーザは、標本の染め上がりを事前に把握し、標本作成部5が標本を作成する前に、その標本を作成する際に用いる制御パラメータの値の可否を判断することができる。したがって、ユーザが所望する条件で安定的に標本を作成することができる標本作成装置を提供することができる。
【0133】
なお、実施の形態1で説明したように染色濃度を調整するのか、実施の形態2で説明したように修正対象制御パラメータの値を調整するのかを、事前にユーザ操作に従って選択できるようにしてもよい。
【0134】
(実施の形態3)
実施の形態1,2では、一般染色として知られるH&E染色を施した標本を作成する場合について説明した。これに対し、この他にも、様々な染色法が知られている。上記したように、これらの染色法は、一般染色、特殊染色および免疫染色に大別されるが、本発明は、いずれの染色法で標本を染色する場合にも適用可能である。
【0135】
例えば、特殊染色について例示すると、アザン染色、アルシアンブルー・PAS重染色、アルシアンブルー染色、エラスチカ・ワンギーソン染色(EVG染色)、オイルレッドO染色、オルセイン染色、ギムザ染色、グリメリウス染色、クリューバー・バレラ(KB)染色、グロコット染色、コッサ(Ca)反応、ゴモリのアルデヒドフクシン染色、コロイド鉄染色、コンゴー赤(DFS 4BS)染色、サフラニンO染色、ズダンIII染色、ズダン黒B染色、ダイレクトファーストスカーレット染色、チールネンゼン染色、トルイジンブルー(Tb)染色、ナフトールASDクロロアセテート法、ニッスル染色、ビクトリアブルー染色、フォイルゲン染色、ベルリンブルー(Fe)染色、ボデイアン染色、マッソン・トリクローム染色(MT染色)、マッソンフォンタナ染色、ムチカルミン染色、メチルグリーンピロニン染色、リンタングステン酸ヘマトキリシン(PTAH)染色、レンドラムの封入体染色、グラム染色、ワイゲルト染色、ワンギーソン染色、渡辺の鍍銀(Ag)染色、漂白法、好酸球染色(ルナ染色)、Kossa法、LFB染色、TRAP染色、PAM染色、PAS反応等が挙げられ、各染色法に適用できる。また、ここで挙げていない染色法についても同様に適用できる。
【0136】
これらの特殊染色に適用する場合も、実施の形態1,2と同様に、該当する染色法で染色した標準的な標本を用意し、観察画像を生成して標準標本画像として記憶しておく。そして、対象標本について標本特定パラメータおよび制御パラメータの各値を取得し、取得した標本特定パラメータおよび制御パラメータの各値をもとに標準標本画像を抽出して各値に応じた基準染色画像を画面表示する。この後、実施の形態1と同様の要領で、基準染色画像を見ながらユーザが調整した染色濃度に従って基準染色画像の染色濃度を仮想的に変化させて染色シミュレーション画像を画面表示する。そして、最終的に確定された染色濃度に従って修正対象制御パラメータの値を修正して決定し、決定した値を用いて対象標本を作成する。あるいは、実施の形態2と同様の要領で、基準染色画像を見ながらユーザが調整した修正対象制御パラメータの値に従って基準染色画像の染色濃度を仮想的に変化させて染色シミュレーション画像を画面表示する。そして、修正対象制御パラメータの値を最終的に確定された値として決定し、決定した値を用いて対象標本を作成する。
【0137】
取得対象制御パラメータや修正対象制御パラメータとする制御パラメータには、例えば適用する染色法で使用する染色液の生成条件や反応時間等が挙げられる。ここで、染色液の生成条件は、染色液の構成や濃度等である。また、この他、その染色法における標本作成処理の各工程で用いる制御パラメータを適宜修正対象制御パラメータとすることができる。ここで、特殊染色においても、その染色法における標本作成処理のプロトコールやこのプロトコールで用いる制御パラメータは、一般染色として例示したH&E染色の場合と同様に採用する装置の製造メーカによって異なり、医療施設側の設定によって異なる場合もある。本発明は何れのプロトコールを採用することとしてもよく、そのプロトコールに記載される制御パラメータを適宜取得対象制御パラメータや修正対象制御パラメータとしてよい。
【0138】
例えば、特殊染色のうち、多糖類を過ヨウ素酸で酸化して、生じたアルデヒド基にシッフ試薬を反応させて呈色させることにより、単純多糖類(グリコーゲン,セルロース,デキストラン)、中性または酸性粘液(グリコプロテイン,所謂上皮性粘液)、糖脂質、甲状腺コロイド、基底膜、細網繊維、赤痢アメーバ、真菌、リポフスチン等を赤紫から赤色に染め、膠原線維や繊維素を桃色に染める過ヨウ素酸シッフ反応染色(以降、PAS染色)の場合には、例えば過ヨウ素酸水の生成条件やシッフ試薬の生成条件、過ヨウ素酸水による反応時間、シッフ試薬による反応時間等が制御パラメータとして挙げられる。また、例えばシッフ試薬の生成条件としては、その組成物質や、各組成物質の混合量の組み合わせが挙げられる。
【0139】
なお、PAS染色では、過ヨウ素酸での染色の後、シッフ試薬での染色を行い、その後ヘマトキシリン染色液を用いて核の染色を行う。より詳細には、シッフ試薬での染色の後、亜硫酸水を用いて対象部位以外の染色液を洗い流す工程を行う。このため、このときに核が酸化される。ここで、ヘマトキシリン染色は酸化性染色であるため、亜硫酸水を用いた処理の影響により、その後のヘマトキシリン染色において、実施の形態1,2で説明したH&E染色でのヘマトキシリン染色と比較して核が染色され易くなる。このため、本発明をPAS染色に適用し、ヘマトキシリン染色液による反応時間を修正対象制御パラメータとする場合には、例えば、実施の形態1で説明したH&E染色の際に用いるLUTとは別の、シッフ試薬の反応時間を加味したヘマトキシリン染色液の反応時間を定義したLUTを用意し、これを用いるようにしてもよい。
【0140】
その他、例えば弾性繊維の染色法であるワイゲルト染色と膠原線維の染色であるワンギーソン染色を組み合わせた染色法であるEVG染色の場合には、レゾルシンフクシン液、鉄ヘマトキシリンおよびワンギーソン液それぞれの生成条件や反応時間が制御パラメータとして挙げられる。
【0141】
また、分子量の異なる酸性色素を用いた重染色であるMT染色の場合には、鉄ヘマトキシリン、ポンソー・キシリジン・酸フクシン・アゾフロキシン、オレンジG水溶液およびアニリン青それぞれの生成条件や反応時間が制御パラメータとして挙げられる。
【0142】
また、染色法によっては、染色した色素を不溶化するため、洗浄する前に媒染剤を用いて媒染処理を行う場合があるが、この媒染剤の生成条件や反応時間も制御パラメータとなる。
【0143】
一方、免疫染色について例示すると、例えば酵素抗体法では、直接法、間接法等が挙げられる。また、間接法については増感の有無を選択でき、増感法として、PAP法やABC法、ストレプトアビジン法、Tyramide signal amplificationシステム(TSAシステム)、LSAB法、高感度ポリマー試薬法、酵素抗体法による多重染色等が挙げられる。これらの免疫染色についても、実施の形態1,2と同様に適用できる。ここで、免疫染色では、酵素抗体法におけるこれらの反応形式や増感法の種類が制御パラメータとなる。なお、ここで挙げていない染色法についても同様に適用できる。
【0144】
この他、取得対象制御パラメータや修正対象制御パラメータとする制御パラメータには、該当する染色法で使用する一次抗体や二次抗体、発色試薬の生成条件や反応時間等が挙げられる。生成条件としては、使用する化学薬品の構成や濃度が挙げられる。また、免疫染色においても、その染色法における標本作成処理のプロトコールやこのプロトコールで用いる制御パラメータは、採用する装置の製造メーカによって異なり、医療施設側の設定によって異なる場合もある。本発明は何れのプロトコールを採用することとしてもよく、そのプロトコールに記載される制御パラメータを適宜取得対象制御パラメータや修正対象制御パラメータとしてよい。
【0145】
図17は、免疫染色を適用した場合の標本作成処理の処理手順を示すフローチャートである。先ず、抗原の賦活化を行い、抗体の認識部位あるいは配列(エピトープ)を表出させる(ステップf1)。賦活化の手法としては、タンパク質分解酵素を用いる方法や界面活性剤を用いる方法等が知られている。続いて、切片の上にタンパク質を緩衝液に溶かした溶液を乗せ、所定時間置くこでブロッキングを行う(ステップf3)。このブロッキングは、抗体が抗原以外の分子を認識することを防ぐために行う。
【0146】
続いて、一次抗体を反応させる(ステップf5)。その後、洗浄を行った(ステップf7)後で、二次抗体を反応させる(ステップf9)。そして、洗浄の後(ステップf11)、増感するか否かを判定し、増感する場合には(ステップf13:Yes)、増感反応に移る(ステップf15)。ここでは、例えばステップf9で反応させた二次抗体の種類に応じて適宜増感反応を行う。そして、増感しない場合(ステップf13:No)、あるいはステップf15の増感反応の後、発色工程に移り、酵素に対する基質を添加して発色させる(ステップf17)。
【0147】
なお、上記した実施の形態1,2では、修正対象とする制御パラメータとして反応時間について詳述した。これに対し、反応時間以外の制御パラメータを修正対象とする場合には、その制御パラメータの値と染色濃度との対応関係を予め設定しておくことで上記した実施の形態1,2と同様に実現できる。
【0148】
例えば、標本の厚さを修正対象制御パラメータとする場合には、標本の厚さと染色濃度との関係(相関式)を定義したLUTを事前に生成して記憶部33に記憶しておけばよい。すなわち例えば、標本の厚さを変えて実際に作成した標本を用意して染色濃度を求め、上記した実施の形態1と同様の要領で、標本の厚さと染色濃度との対応関係を予め設定しておく。このとき、同じ標本の厚さで標本を作成した場合であっても、染色濃度に多少のバラつきが生じる。この誤差を軽減するため、同じ標本の厚さで作成した複数の標本を用意する。そして、得られたそれぞれの標本について観察画像生成処理を行うとともに、染色濃度算出処理を行い、染色濃度の測定値を算出して標本の厚さ毎の測定値(推定)を得る。
【0149】
図18は、標本の厚さ毎の染色濃度の測定値をもとに標本の厚さと染色濃度との対応関係の一例を模式的に示した図であり、横軸を標本の厚さ、縦軸を染色濃度とし、標本の厚さを異ならせて作成した標本の染色濃度を示している。この場合も、上記した実施の形態1と同様に標本の厚さ毎に複数の測定値が得られ、各値は、例えば図18中で破線で示すような範囲で値が分散する。そこで例えば、実施の形態1と同様に、図18中に実線で示すように、標本の厚さ毎に測定値の平均値を算出し、各標本の厚さに対応する染色濃度をその標本の厚さに対する1点として得る。そして、図18中に実線で示すプロット分布をテーブル化してLUTを作成し、記憶部33または記憶部33bに記憶しておく。
【0150】
そして、制御パラメータ決定部372は、このようにして予め生成したLUTを参照し、標本の厚さを算出する。例えば、確定された染色濃度のうち、色素Eの染色濃度(色素量)をdEとする。そして、dEの値をもとに、標本の厚さTを次式(14)に従って算出する。
【数14】

【0151】
同様に、例えばヘマトキシリン染色液の濃度を修正対象制御パラメータとする場合であれば、ヘマトキシリン染色液の濃度と染色濃度との関係(相関式)を定義したLUTを事前に生成して記憶部33または記憶部33bに記憶しておけばよい。すなわち例えば、ヘマトキシリン染色液の濃度を変えて実際に作成した標本を用意して染色濃度を求め、上記した実施の形態1と同様の要領で、ヘマトキシリン染色液の濃度と染色濃度との対応関係を予め設定しておく。
【0152】
図19は、ヘマトキシリン染色液の濃度毎の染色濃度の測定値をもとにヘマトキシリン染色液の濃度と染色濃度との対応関係の一例を模式的に示した図であり、横軸をヘマトキシリン染色液の濃度、縦軸を染色濃度とし、ヘマトキシリン染色液の濃度を異ならせて作成した標本の染色濃度を示している。この場合も、上記した実施の形態1と同様にヘマトキシリン染色液の濃度毎に複数の測定値が得られ、各値は、例えば図19中で破線で示すような範囲で値が分散する。そこで、実施の形態1と同様に、図19中に実線で示すように、ヘマトキシリン染色液の濃度毎に測定値の平均値を算出し、各ヘマトキシリン染色液の濃度に対応する染色濃度をそのヘマトキシリン染色液の濃度に対する1点として得る。そして、図19中に実線で示すプロット分布をテーブル化してLUTを作成し、記憶部33または記憶部33bに記憶しておく。
【0153】
そして、制御パラメータ決定部372は、このようにして予め生成したLUTを参照し、ヘマトキシリン染色液の濃度を算出する。例えば、確定された染色濃度のうち、色素Hの染色濃度(色素量)をdHとする。そして、dHの値をもとに、ヘマトキシリン染色液の濃度CHを次式(15)に従って算出する。
【数15】

【0154】
また、図示しないが、パラフィンブロック作成処理部51がパラフィンブロック作成処理で用いるブロックサイズ(採取した検体からブロックを切り出す際のブロックサイズ)や、標本内の組織の固定に用いるホルマリン系固定液の固定時間を修正対象制御パラメータとする場合も同様に、ブロックサイズと染色濃度、あるいは固定時間と染色濃度との関係(相関式)を定義したLUTを事前に生成して記憶部33または記憶部33bに記憶しておけばよい。
【0155】
また、上記した実施の形態1,2では、修正対象とする制御パラメータを反応時間とし、ユーザ操作に従って確定した染色濃度を反映させて修正する場合について説明した。これに対し、さらに標本の厚さを加味して反応時間を修正するようにしてもよい。
【0156】
一般的なH&E染色の染色工程では、色素Hは、核を染色する。一方、色素Eは、核を含む組織のほぼ全域を染色する。なお、染色工程によっては、色素Hが組織全域を染色する場合もある。ここで、ある厚さの標本を色素Eで染色した場合に対し、その2倍の厚さの標本を色素Eで染色した場合の色素Eの染色濃度はほぼ2倍となる。これは、色素Eは、色素Eが組織全域(主に細胞質)を染色するためのである。すなわち、標本の厚さを2倍にした場合、標本中を占める組織のうち、色素Eによって主に染色される細胞質の体積も2倍となるためである。一方で、ある厚さの標本を色素Hで染色した場合に対し、その2倍の厚さの標本を色素Hで染色した場合の色素Hの染色濃度はほとんど変化しない。これは、色素Hが主に染色するのは核であり、通常では、標本の厚さを2倍にしたとしてもその標本内に別の核が存在する可能性が極めて低いためである。
【0157】
このため、標本の染色濃度(詳細には、色素Eの染色濃度)は、標本の厚さによって変わる。そこで、標本の厚さを加味して反応時間を修正(決定)することとしてもよい。例えば、上記した実施の形態1,2のように、標本の厚さを取得対象とする場合であれば、取得した標本の厚さを加味して反応時間を次式(16),(17)に従って算出することとしてもよい。この場合には、制御パラメータ決定部372は、実施の形態1で説明した反応時間と染色濃度との関係(相関式)を定義したLUT(例えば図13のLUT)および標本の厚さと染色濃度との関係(相関式)を定義したLUT(例えば図18のLUT)を参照し、色素Hおよび色素Eの染色液毎の反応時間を個別に算出する。例えば、確定された染色濃度のうち、色素Hの染色濃度(色素量)をdH、色素Eの染色濃度(色素量)dEとする。そして、dHの値をもとに、ヘマトキシリン染色液による反応時間SHを次式(16)に従って算出する。また、dEの値および取得した標本の厚さTの値をもとに、エオジン染色液による反応時間SEを次式(17)に従って算出する。
【数16】

【0158】
ここで、式(17)に示したエオジン染色液による反応時間SEの算出について説明する。式(17)に示すように、エオジン染色液による反応時間SEの算出では先ず、標本の厚さと染色濃度との関係を定義したLUT(例えば図18のLUT)に従い、標本の厚さが取得した値Tの場合の染色濃度を得る。標本の厚さTに対応する染色濃度(LUT(T))の値を得たならば、続いて、反応時間と染色濃度との関係を定義したLUT(例えば図13のLUT)に従い、反応時間SEを得る。具体的にはこのとき、標本の厚さTに対応する染色濃度(LUT(T))と反応時間SEに対応する染色濃度とで最終的な色素Eの染色濃度がdEになるように、差分値dE/LUT(T)を求める。そして、反応時間と染色濃度との関係を定義したLUTに従い、求めた差分値に対応する反応時間をSEとして得る。この結果、標本の厚さをTとして作成する標本において、色素Eの染色濃度が確定された染色濃度dEとなるようなエオジン染色液の反応時間SEの値を取得できる。
【0159】
なお、ここでは、標本の厚さを加味して反応時間SEの値を算出(修正)する場合について例示した。これに対し、同様の手法を適用することで、標本の厚さ以外の取得対象とする所望の制御パラメータの値を加味し、所望の修正対象制御パラメータの値を修正することができる。また、同様の手法を適用することで、複数の取得対象制御パラメータの値を加味して修正対象制御パラメータの値を修正することができる。例えば反応時間を修正するのであれば、加味する各制御パラメータの値と染色濃度との関係を定義したLUTをそれぞれ用意しておき、これらLUTを順次参照して最終的な色素Hおよび/または色素Eの染色濃度が確定された値dH,dEとなるように反応時間SH,SEを決定すればよい。
【0160】
また、ここでは、反応時間と染色濃度との関係を定義したLUTおよび標本の厚さと染色濃度との関係を定義したLUTを用いてエオジン染色液の反応時間SEを算出する場合を例示した。これに対し、標本の厚さ毎に個別に反応時間と色素Eの染色濃度との関係を定義したLUTを用意しておくこととしてもよい。この場合には、取得した標本の厚さTに応じたLUTを参照し、この参照先のLUTに従って確定された色素Eの染色濃度に対応する反応時間を取得すればよい。
【0161】
あるいは、パラフィンブロック作成処理部51が用いる標本内の組織の固定に用いるホルマリン系固定液の種類を加味して反応時間を修正することもできる。この場合には、使用するホルマリン系固定液の種類に応じた係数を式(12),(13)や式(16),(17)で得られる各値に乗じることで実現できる。例えばあるホルマリン系固定液Aを用いる場合の係数を“1.0”とする。一方、Aとは別のホルマリン系固定液Bを用いる場合の係数を“0.95”とする。そして、ホルマリン系固定液Aを用いる場合であれば、式(12)や式(16)に従って算出したSHの値をヘマトキシリン染色液による反応時間として得る。同様に、式(13)や式(17)に従って算出したSEの値をエオジン染色液による反応時間として得る。一方、ホルマリン系固定液Bを用いる場合には、式(12)や式(16)に従って算出したSHの値に係数“0.95”を乗じた値をヘマトキシリン染色液による反応時間として得る。エオジン染色液による反応時間も式(13)や式(17)を用いて同様に算出する。
【0162】
また、作成対象とする標本は、病理検査に用いる病理標本に限らず、あらゆる標本を対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】標本を作成し、観察・診断する手順の概要を説明する説明図である。
【図2】観察画像生成処理および染色濃度算出処理の概略手順を説明する説明図である。
【図3】仮想画像生成処理の概略手順を説明する説明図である。
【図4】実施の形態1の標本作成装置を含む標本作成システムの全体構成を説明する模式図である。
【図5】実施の形態1の標本作成装置の機能構成を示すブロック図である。
【図6】実施の形態1の制御装置が行う処理手順を示すフローチャートである。
【図7】標本特定パラメータ入力画面の一例を示す図である。
【図8】標本特定パラメータ入力画面の他の例を示す図である。
【図9】制御パラメータ入力画面の一例を示す図である。
【図10】染色濃度確認画面の一例を示す図である。
【図11】調整係数変更画面の一例を示す図である。
【図12】変形例における染色濃度確認画面の一例を示す図である。
【図13】反応時間と染色濃度との対応関係の一例を示す図である。
【図14】標本作成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】実施の形態2の標本作成装置の機能構成を示すブロック図である。
【図16】実施の形態2の制御装置が行う処理手順を示すフローチャートである。
【図17】免疫染色を適用した場合の標本作成処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図18】標本の厚さと染色濃度との対応関係の一例を示す図である。
【図19】ヘマトキシリン染色液の濃度と染色濃度との対応関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0164】
1 標本作成システム
2,2b 標本作成装置
3,3b 制御装置
31 操作部
32 表示部
33,33b 記憶部
331,331b 標本作成処理プログラム
35,35b 制御部
351 標本特定パラメータ取得部
352 制御パラメータ取得部
353 画像抽出部
354 画像表示処理部
355,355b 可否選択依頼部
356,356b 標本作成処理設定部
37,37b 画像処理部
371,371b 仮想画像生成部
372 制御パラメータ決定部
373b 染色濃度算出部
4 標準標本画像データ記憶部
5 標本作成部
51 パラフィンブロック作成処理部
52 薄切処理部
53 脱パラフィン処理部
54 染色処理部
55 封入処理部
6 観察装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め標準標本として用意された標本を撮像して得た標本画像を、前記標本の種類を示す標本特定パラメータおよび前記標本を作成する際に用いた制御パラメータの各値と関連付けて記憶する画像記憶部と、
作成対象の標本について前記標本特定パラメータの値を取得する標本特定パラメータ取得部と、
前記作成対象の標本について前記制御パラメータの値を取得する制御パラメータ取得部と、
少なくとも前記標本特定パラメータ取得部によって取得された標本特定パラメータの値をもとに、前記画像記憶部に記憶された標本画像の中から1枚以上の標本画像を抽出する画像抽出部と、
前記画像抽出部によって抽出された標本画像をもとに、前記制御パラメータの値の可否を判断するための基準画像を表示部に表示する処理を行う画像表示処理部と、
前記制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼する可否選択依頼部と、
前記可否選択依頼部による依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を決定する制御パラメータ決定部と、
前記制御パラメータ決定部によって決定された制御パラメータの値を用いて前記作成対象の標本を作成する標本作成部と、
を備えることを特徴とする標本作成装置。
【請求項2】
前記標本は所定の染色液を用いて染色された染色標本であり、
前記基準画像をもとに、該基準画像が表す染色濃度を仮想的に変化させたシミュレーション画像を生成するシミュレーション画像生成部を備え、
前記画像表示処理部は、前記シミュレーション画像生成部によってシミュレーション画像が生成された場合には、該シミュレーション画像を前記表示部に表示処理することを特徴とする請求項1に記載の標本作成装置。
【請求項3】
染色濃度の調整を依頼する染色濃度調整依頼部を備え、
前記シミュレーション画像生成部は、前記基準画像が表す染色濃度を前記染色濃度調整依頼部による依頼に応答して調整された染色濃度に変化させて前記シミュレーション画像を生成し、
前記制御パラメータ決定部は、前記可否選択依頼部による依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を前記調整された染色濃度に応じた値に修正して決定することを特徴とする請求項2に記載の標本作成装置。
【請求項4】
前記制御パラメータの値の調整を依頼する制御パラメータ調整依頼部を備え、
前記シミュレーション画像生成部は、前記基準画像が表す染色濃度を前記制御パラメータ調整依頼部による依頼に応答して調整された制御パラメータの値に応じた染色濃度に変化させて前記シミュレーション画像を生成し、
前記制御パラメータ決定部は、前記可否選択依頼部による依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を前記調整された制御パラメータの値として決定することを特徴とする請求項2に記載の標本作成装置。
【請求項5】
前記制御パラメータ決定部は、前記制御パラメータの値として、染色液による反応時間および/または染色液の生成条件を前記標本作成部に指示する値を決定することを特徴とする請求項2に記載の標本作成装置。
【請求項6】
前記画像記憶部は、前記標本特定パラメータが取り得る値と関連付けて、該当する標本特定パラメータの値が示す種類の標本であって、前記制御パラメータの値を所定値として作成した標本を前記標準標本として得た標本画像を記憶し、
前記画像抽出部は、前記画像記憶部に記憶された標本画像の中から前記取得された標本特定パラメータの値に応じた標本画像を抽出し、
前記抽出された標本画像をもとに、該標本画像が表す前記制御パラメータが所定値の場合の染色濃度を前記取得された制御パラメータの値に応じた染色濃度に変化させて前記基準画像を生成する基準画像生成部を備えることを特徴とする請求項2に記載の標本作成装置。
【請求項7】
前記画像記憶部は、前記標本特定パラメータおよび前記制御パラメータがそれぞれ取り得る値の組み合わせと関連付けて、該当する標本特定パラメータの値が示す種類の標本であって、該当する制御パラメータの値を用いて作成した標本を前記標準標本として得た標本画像を記憶し、
前記画像抽出部は、前記画像記憶部に記憶された標本画像の中から前記取得された標本特定パラメータおよび前記取得された制御パラメータの値に応じた標本画像を抽出し、
前記画像表示処理部は、前記抽出された標本画像を前記基準画像として表示処理することを特徴とする請求項1に記載の標本作成装置。
【請求項8】
前記制御パラメータ決定部は、前記制御パラメータの値として、標本の厚さ、標本のブロックサイズおよび標本内の組織の固定に用いるホルマリン系固定液による固定時間のうちの少なくともいずれか1つを前記標本作成部に指示する値を決定することを特徴とする請求項1に記載の標本作成装置。
【請求項9】
前記標本は、被検者から採取した検体の標本であり、
前記標本特定パラメータ取得部は、前記標本特定パラメータの値として、検体を採取した臓器、部位および被検者の疾患名のうちの少なくともいずれか1つを取得することを特徴とする請求項1に記載の標本作成装置。
【請求項10】
予め標準標本として用意された標本を撮像して得た標本画像が、前記標本の種類を示す標本特定パラメータおよび前記標本を作成する際に用いた制御パラメータの各値と関連付けられて記憶された標本作成装置における標本作成方法であって、
作成対象の標本について前記標本特定パラメータの値を取得する標本特定パラメータ取得工程と、
前記作成対象の標本について前記制御パラメータの値を取得する制御パラメータ取得工程と、
少なくとも前記標本特定パラメータ取得工程で取得された標本特定パラメータの値をもとに、前記記憶された標本画像の中から1枚以上の標本画像を抽出する画像抽出工程と、
前記画像抽出工程で抽出された標本画像をもとに、前記制御パラメータの値の可否を判断するための基準画像を表示する処理を行う画像表示処理工程と、
前記制御パラメータの値の可否選択の入力を依頼する可否選択依頼工程と、
前記可否選択依頼工程での依頼に対する可否選択の入力結果に従って、前記制御パラメータの値を決定する制御パラメータ決定工程と、
前記制御パラメータ決定工程で決定された制御パラメータの値を用いて前記作成対象の標本を作成する標本作成工程と、
を含むことを特徴とする標本作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図10】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−261762(P2010−261762A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111595(P2009−111595)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】