標的ヌクレオチド配列の電気化学的同定方法およびその装置
【課題】 標的核酸配列の電気化学的検出のための方法および装置に関する。
【解決手段】 核酸を含む可能性のある生物試料が提供されるが、前記核酸は標的配列を含み得るものであり、前記生物試料は酸化剤と混合されており、前記標的配列は前記酸化剤で酸化することが可能な少なくとも1つのヌクレオチド塩基から成っている。また、前記標的配列と結合することが可能な相補手段が提供される。本発明によると、前記相補手段は前記標的配列を複製するのに適した作動可能な増幅手段を備えているが、前記増幅手段は少なくとも前記ヌクレオチド塩基を含むヌクレオチドから成っており、前記ヌクレオチドは、複製された核酸を構成するために、複製中に消費され得る。また、前記試料へ電界を与え、前記電流の低下を記録することにより、前記標的配列の存在を決定する。
【解決手段】 核酸を含む可能性のある生物試料が提供されるが、前記核酸は標的配列を含み得るものであり、前記生物試料は酸化剤と混合されており、前記標的配列は前記酸化剤で酸化することが可能な少なくとも1つのヌクレオチド塩基から成っている。また、前記標的配列と結合することが可能な相補手段が提供される。本発明によると、前記相補手段は前記標的配列を複製するのに適した作動可能な増幅手段を備えているが、前記増幅手段は少なくとも前記ヌクレオチド塩基を含むヌクレオチドから成っており、前記ヌクレオチドは、複製された核酸を構成するために、複製中に消費され得る。また、前記試料へ電界を与え、前記電流の低下を記録することにより、前記標的配列の存在を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための方法および装置に関するものである。
【0002】
想定される1つの適用領域は、特に、バクテリアまたはウィルス、より一般的には任意の核酸を含む可能性のある生体試料の、迅速分析に関する領域である。
【背景技術】
【0003】
公知の電気化学的検出方法によって、標的核酸配列を明らかにすることが既に可能となっている。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)型を例とした核酸増幅処理、およびサイクリック・電圧電流計処理の双方を利用する方法もある。これらの方法の1つによれば、所定の標的ヌクレオチド配列を示す核酸を含む生物試料を提供し、標的配列のヌクレオチド塩基の内の少なくとも一つを酸化することのできる酸化剤を生物試料に添加する。当該増幅手段は酸化可能なヌクレオチド塩基を有するタイプのヌクレオチドを備えている。ヌクレオチドは、複製された核酸配列の生産のため、増幅処理の実行中において当然ながら消費されることになる。同時に、もしくはそれぞれの増幅ステップの後に、酸化剤と酸化可能なヌクレオチド塩基とが反応するよう試料へ電界を与え、その結果、試料に流れる電流を測定する。より具体的には文献PCT/FR2007/000373に記載されているが、本方法によれば、増幅過程を経て電流が減少した際に、所定の標的配列の存在とその初期量とが決定される。これは、増幅処理の間、遊離ヌクレオチドが合成された核酸中へ組み込まれるため、増幅手段を構成する遊離ヌクレオチドの数が減少するからである。従って、酸化剤が反応できるのは、次第に量が限られる遊離ヌクレオチのみとなる。その結果、酸化反応による電子移動は次第に減少し、電流は減少する。
【0004】
このように、そのような手法によって、任意の生物試料中における特定の核酸の存在を迅速に検出し定量することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、生物試料中における標的ヌクレオチド配列の存在を検出可能なさらなる電気化学的検出法を提供すると供に、標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)の同定および定量も可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題の解決を目的とし、本発明の第1の側面として、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための方法を提案する。本方法は、提供される所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を提供するタイプの方法であり、所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるための、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段である。本方法によれば、ヌクレオチドと反応することのできる酸化還元可能な化合物も提供し、酸化還元可能な化合物を生物試料に接触させる。次に、作動可能な増幅手段を作動させ、酸化還元可能な化合物を活性化させるために試料へ電界を与え、試料を流れる、酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定する。従って、電流が減少した際に、所定の標的ヌクレオチド配列の存在が決定される。本発明では、複製中に、複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートできる酸化還元可能な化合物を提供する。複製された標的配列は、インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を抑制し、その結果、電流は減少する。
【0007】
遊離ヌクレオチドの他に、作動可能な増幅手段は、検出する標的ヌクレオチド配列に特異的かつ相補的なオリゴヌクレオチド酸のプライマーと、ポリメラーゼとを備える。さらに、以下に詳細に説明するように、試料へ複数の電極を接触させ、これらの電極間に電位差を加えることによって、前記試料へ電界を与える。
【0008】
このように、本発明の一つの特徴は、前記先行技術文献の場合のような試料中の遊離ヌクレオチドのヌクレオチド塩基を酸化しない酸化還元可能な化合物を提供すると供に、複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートする酸化還元可能な化合物を提供することにある。
【0009】
好ましくは、作動可能な増幅手段は連続する増幅サイクルに従い作動し、それぞれの増幅サイクルにおいて、複製された標的配列は複製される。その後、酸化還元可能な化合物は複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートし、加えられる電界に対して自身の酸化還元活性を失う。その結果、増幅サイクルを繰り返すことによって、測定される電気信号は減少する。
【0010】
次に、好ましくは、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、電流の減少に対応した増幅サイクル数を記録する。これは、測定される信号の減少は、複製された標的ヌクレオチド配列の量に比例するからである。この比例性より、試料中に当初存在する所定の標的ヌクレオチド配列の量を推定することが可能である。このように、一定の増幅サイクル数だけ作動可能な増幅手段を繰り返し作動させ、この場合、電流が減少する際の増幅手段のサイクル数を、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために記録する。具体的には、生物試料が含む所定の標的ヌクレオチド配列が多いほど、電流強度が低下するために必要な増幅サイクル数は少なくなる。反対に、試料が含む所定の標的ヌクレオチド配列が少ないほど、増幅サイクル数は多くなる。このようにして、以下の記載においてより詳細に説明する通り、本方法により生物試料中の所定の標的配列の濃度を定量することも可能となる。
【0011】
「酸化還元可能な化合物」という用語は、レドックス化合物のみならず、ある一定の条件下では酸化可能であり、また、ある一定条件下では還元可能である化合物のことも表すことを明記する。
【0012】
特に好ましい本発明の一実施形態では、所定の標的ヌクレオチド配列が増幅された後、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるために試料へ熱エネルギーも加え、同時に試料を流れる電流の変化を記録するため、前記試料に電界を与える。その後、所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に相当する熱エネルギーQの大きさを決定する。好ましくは、試料の温度が緩やかに上昇するように、試料へ熱エネルギーを供給する。その結果、一定範囲における供給された熱エネルギーの関数、より具体的には、温度の関数として、電流変化が記録される。所定の温度における電流の最大変化率より、所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)が同定される。これは、増幅された標的配列の由来(Nature)によって、所定の温度における電流の最大変化率は複製された標的ヌクレオチド配列に固有のものとなるためである。
【0013】
従って、試料および結果的に複製された標的ヌクレオチド配列へ十分な熱エネルギーを供給すれば、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は、二本の一本鎖へと解離し易くなる。その結果、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離し易くなり、ひいては自身の電気化学的活性が回復する。所定の熱運動によって、即ち、所定の温度において、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は互いに解離する。その際、試料へ所定量の熱エネルギーを付与した際、実質的には不連続的に、即ち限られた温度範囲に渡り、酸化還元可能な化合物が急速に遊離し、その後、酸化還元可能な化合物は電極で発生する電流によって測定される。
【0014】
好ましくは、例えば40℃から98℃の間において、試料の温度が緩やかに上昇するように試料へ熱エネルギーを供給する。この温度範囲において、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は、複製された標的配列のそれぞれのヌクレオチド塩基が相補的に結合した対の状態から、最終的にそれぞれの複製された標的配列が一本鎖となっている解離状態へと徐々に変化する。従って、二重鎖状態から一本鎖状態への変化は限られた温度範囲内で起こり、一般的にTmで表される「解離」温度により特徴付けられるが、それは複製された標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)の特性を示している。
【0015】
さらに、試料が所定の温度のとき、即ち、例えばプライマーダイマーのような、既に形成されているもしくは形成しつつある他の分子が酸化還元可能な化合物を阻害しない温度のとき、酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定することが望ましい。前記所定の温度は、所定量の熱エネルギーQに相当する試料の温度に比べ、十分に低いが近い温度であることが好ましい。そうすれば、このような高い温度においては、複製された標的ヌクレオチド配列よりもサイズが小さいその他全ての分子は脱ハイブリダイズされた状態となっている一方で、複製された標的ヌクレオチド配列は未変化のままの状態となっている。このようにして、様々なプライマーダイマーに由来する酸化還元可能な化合物の遊離に起因する電流量や、既に供給された熱エネルギーにより解離可能となった他の小さな分子に起因する電流量は、測定される電流から除外される。
【0016】
好ましくは、電流または電流変化を測定し記録するために、電圧電流計を使用する。この動電位法の本質は、以下の説明においてより詳細に説明する通り、2つの電極間へ経時的に変化する電位を加えるとともに、そこから生じる電流の変化を記録することにある。好ましくは、矩形波電圧電流計が使用される。例えば、示差パルス電圧電流計、リニアスキャン電圧電流計やサイクリックスキャン電圧電流計、またはその他のサンプル電流電圧電流計(Sampled current voltammetry)や交流電圧電流計等の他の電気化学的技術も、当然ながら潜在的に使用が可能である。
【0017】
特に好ましい本発明の一実施形態では、提供される酸化還元可能な化合物は、例えばメンデレーエフ周期表8A族の金属であるが、より具体的にはオスミウムのような遷移金属の錯体である。さらに、好ましい酸化還元可能な化合物は、例えば、複製された標的ヌクレオチド配列によって形成される対となったらせん構造の間にインターカレート可能なジピリドフェナジン配位子のように、少なくとも一つの核酸配列挿入配位子を有しているものである。
【0018】
さらに、酸化還元可能な化合物は、少なくとも一つのビピリジン配位子を有しており、好ましくはこのタイプの配位子を二つ有している。ジピリドフェナジン配位子または二つのビピリジン配位子を伴うオスミウム錯体については、以下の説明においてより詳細に説明する。さらに、ある種の完全な有機化合物である酸化還元可能な化合物もまた、有効に使用可能であることが分かるであろう。これは、例えばメチレンブルーの場合である。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態においては、所定の標記ヌクレオチド配列を複製し、核酸二重鎖構造を有する複製された標的ヌクレオチド配列を形成する。従って、前記作動可能な増幅手段はPCR型の手法となる。
【0020】
本発明の第2の側面は、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための装置を提案することにある。本装置は、所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を受け入れるための手段と、所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるための、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段とから成る。さらに、本装置は、ヌクレオチドと反応することが可能な酸化還元可能な化合物を備えており、酸化還元可能な化合物は生物試料と接触させる。作動可能な増幅手段を、作動手段により作動させることが可能となり、酸化還元可能な化合物が活性化するように、試料に対して電界を与えることが可能となる。一方、測定手段により、酸化還元可能な化合物の電気的活性を表す、試料を流れる電流を測定することが可能となる。最後に、決定手段により、電流が減少した際に所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定することが可能となる。本発明では、複製中に、複製された標的配列を形成するヌクレオチドの間、すなわち複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖内へインターカレートできる化合物より酸化還元可能な化合物が選択され、複製された標的配列により、インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性が抑制され、その結果、電流が減少する。
【0021】
さらに、好ましい一実施形態では、同定装置はまた、インターカレートした酸化還元可能な化合物が遊離するよう熱エネルギーを試料へ供給する手段と、試料を流れる電流の変化を温度の関数として同時に記録するように、試料と接触した電極を用いて試料へ電界を与える手段と、さらに所定の標的ヌクレオチド配列の存在を確認するための、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギー量を決定する手段とを備えている。これらの手段により、記録される電流の最大変化に基づいて、検出する標的ヌクレオチド配列の存在の特性を表す解離温度(Tm)を決定する。本発明に従った方法の実施を可能とする上述の電気化学的同定装置については、以下、詳細に説明する。特に、それぞれの増幅サイクルにおいて複製された標的配列を複製するための、一連の増幅サイクルに従い作動可能な増幅手段を好ましく作動させることができる作動手段について説明する。さらに、本発明による前記同定装置は、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するように電流の減少に応じた増幅サイクル数を記録する記録手段を備えている。
【0022】
さらに、本発明の他の特徴および利点は、後述の本発明の詳細な実施形態の説明から明らかとなるが、以下の通り添付の図面を参照し、限定しない表記で示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における電気化学的同定装置の線図である。
【図2】AからCは、異なる実施形態における、図1で表されたものと同一の装置の構成要素の線図である。
【図3】AおよびBは、図1で表されたものと同一の装置によって得られた電流/電位図である。Cは、AおよびBで表された図の差し引きによって得られた図である。
【図4】図3Cの図に類似した形式の図である。
【図5】Aは、図1および第1ステップで表されたものと同一の装置によって得られた、電流/温度図を示している。Bは、第2ステップにおいて、図5Aで示された図の変換によって得られた図を示している。
【図6】特定の実施例における、図5Bで表された形式の図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における電気化学的同定法は、一方で最初に説明される制御及び測定手段と、他方で特定の生物的・化学的構成物とを備える電気化学的同定装置を使用する。本発明に係る電気化学的同定装置10を図1に示す。図1は2つのマイクロキュベット12、14を示しており、後で説明するように、特性が明らかとなる生物試料を内部に受け入れるのに適切な構造となっている。これらのマイクロキュベット12、14は従来技術により既知のものであり、それぞれ底面16、18を有する。底面16、18上には、例えばスクリーン印刷により定着させた電極20、対電極22、および図示されない基準電極が存在し、それぞれポテンシオスタット24へ接続しており、前の2つの電極は導線26、28を介して接続している。さらに、マイクロキュベットは、マイクロキュベットを支持するペルティエ効果モジュール32と、発電機34へ接続されたヒーティングキャップ30との間に挟まれている。後で説明するように、ペルティエ効果モジュール32により、マイクロキュベット12、14内の内容物へ所定量の熱エネルギーを与えることが可能となる。さらに、発電機34とポテンシオスタット24は、コンピュータプログラムおよび記録手段を有するマイクロコンピュータ36により制御される。
【0025】
このように、マイクロキュベット12、14は、検出しようとする所定の標的ヌクレオチド配列を有する核酸配列、特にDNAを含む可能性のある生物試料を受け入れることが可能な、受入手段を備える。さらに、ペルティエ効果モジュール32とマイクロコンピュータ36により制御可能な発電機34は作動可能な増幅手段の第1部を構成し、増幅手段の第2部は生物材料および化合物で構成される。
【0026】
言うまでもなく、図示しない他の周知の受入手段として、生物試料が置かれる底部へ至るチューブがある。チューブは、生物試料内に浸漬できかつポテンシオスタットへ接続できる電極を具備する。チューブは、所定回数のサイクルで所定の温度に生物試料を加熱するために、サーモサイクラーへ取り付けられる。さらに、図2A〜2Cで図示される他の受入手段により、生物試料を受け入れることもできる。チューブは、例えば1μl〜1ml収容可能でかつ上部13が開口した、例として図2Aで表されるチューブキャップのような小容量の容器11からなる。チューブは反応混合物を受け入れることができる。そして、チューブはフィルム15によって密封されており、接続されていない3つの電極17、19、21がフィルム15にスクリーン印刷されている。電極17、19、21は容器11の内部側に向いており、それらは容器縁部とフィルム15との間の結合点で、容器から外に出ている。次に、フィルム15を備えた容器11はペルティエ効果モジュールに対して反転する。その結果、当初容器11の底部にあった反応混合物は電極17、19、21と接触する状態となり、電極11、19、21は混合物に浸漬される。
【0027】
ここで使用される増幅手段はPCR法である。従って、ペルティエ効果モジュール32により、以下の手順に従い、マイクロキュベット12、14の内部を設定時間、所定の温度に保持することができる。当該手順は、ポリメラーゼの種類に従い1〜15分間保持する第1段階で始まり、マイクロキュベット12、14の内部を94〜95℃の温度とする。次に、複製された標的ヌクレオチド配列の検出に必要となる増幅に従い、所定回数(通常10〜50サイクル)の連続した温度サイクルをマイクロキュベット12、14へ適用する。各サイクルは、94〜95℃の温度で通常1〜60秒間の第1「変性」段階、所定の標的ヌクレオチド配列に対する特異的なプライマーに特有となる40〜72℃の温度で、通常1〜60秒間の第2「プライマー・アニーリング」段階、72℃で通常1〜60秒間の第3「伸長」段階、および電気化学的測定に必要となる時間で決定される40〜95℃の温度で数秒間の最終段階、という連続した4つの段階に従っている。特に生物材料および化合物から成る第2部を説明した後、この最初の増幅手段部を実施するための条件を下記で説明する。
【0028】
本発明の目的の一つは、複製により核酸配列を増幅させ、媒体中におけるその存在を増幅処理中に電気化学的に測定することであるため、まず第一に、生物材料がこのように増幅できるようにすることが望ましい。PCR法を実行するためには、ポリメラーゼ酵素と、一対のプライマーと、4種の遊離ヌクレオチドとを、増幅させる核酸に接触させることが望ましい。4種の遊離ヌクレオチドとは、DNAを構成するdGTP、dATP、dTTPおよびdCTPのことであり、それぞれデオキシグアノシン三リン酸、デオキシアデノシン三リン酸、デオキシチミジン三リン酸およびデオキシシトシン三リン酸のことを指す。デオキシデアザグアノシン三リン酸のような、デオキシリボヌクレオチド三リン酸型の塩基類似化合物も同様に使用可能である。
【0029】
従って、第1実施例においては、分析される生物試料、実際は283塩基対の標的核酸配列を有するサイトメガロウイルスDNAの抽出物に加え、酵素であるDNAポリメラーゼと、プライマーと、4種のヌクレオチドとを、マイクロキュベット12の一つの中へ導入する。全体は、言うまでもなく、緩衝化された液体の反応混合物である。さらに、電気信号強度の測定を可能とするために、酸化還元可能な化合物を反応混合物へ加える。好適な酸化還元可能な化合物はオスミウム錯体:ビス(2,2’−ビピリジン)ジピリド[3,2−a:2’,3’−c]フェナジンオスミウム(II)(bis(2,2’−bipyridine)dipyrido[3,2−a:2’,3’−c]phenazine osmium(II))、CAS番号3555395−37−8)であり、本件では[OsII(bpy)2DPPZ]2+と表し、以下の化学式で示される。
【0030】
【化1】
【0031】
他の酸化還元可能な化合物の使用も想定でき、オスミウムの代わりにルテニウムを有するものが良い。その他の配位子も同様に使用可能である。ジピリドフェナジン配位子を用いる利点は、標的核酸配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートできることにある。他の想定される配位子として、例えば、DPPX:7,8−(ジメチル)ジピリド)[3,2−a:2,3−c]フェナジン(7,8−(dimethyl)dipyrido[3,2−a:2,3−c]phenazine);PTDB:(3−ピリジン−2−イル)−5,6−ジフェニル−as−トリアジン(3−(pyridine−2−yl)−5,6−diphenyl−as−triazine);またはDPT:3−(ピラジン−2−イル)−as−トリアジノ[5,6−f]フェナントレン(3−(pyrazine−2−yl)−as−triazino[5,6−f]phenanthrene)が挙げられるが、その他にPHI:フェナントレンキノンジイミン(phenanthrenequinone diimine)のようなキノン機能を有する配位子が挙げられる。
【0032】
DNAへインターカレートできる酸化還元可能な有機化合物もまた、本発明の要旨をなす方法において使用することができる。そのような酸化還元可能な有機化合物の例として、エチジウムブロマイド、アクリジンおよびその誘導体、アクリドン誘導体、あるいはフェナジン誘導体が挙げられる。
【0033】
実験のための比較物として、テストされる生物試料を除いて全く同一の前記成分を別のマイクロキュベット14内へ導入する。一例として、マイクロキュベット12、14へ導入する各種成分の濃度を、下記表1に掲げる。
【0034】
【表1】
【0035】
従って、2つのマイクロキュベット12、14に含まれる反応混合物を、ペルティエ効果モジュール32を用い、マイクロコンピュータ36で制御して所定時間、様々な温度とする。反応混合物を一旦15分間、95℃の温度とする予備段階の後、第1段階において標的核酸配列が脱ハイブリダイズ、すなわち標的核酸配列の2本の相補鎖が解離するように、反応混合物を30秒間、94℃の温度とする。次に、第2段階において、解離したDNA鎖へそれぞれのプライマーがハイブリダイズするように、60秒間、53℃とする。そして、第3段階において、ポリメラーゼが相補鎖を合成し、結果的に増幅産物と、増幅産物が含む複製された標的配列とを形成するように、60秒間、72℃とする。最後に、第4段階において、反応混合物を10秒間、85℃の温度とするが、その間、ポテンシオスタット24の使用はマイクロコンピュータ36により制御される。
【0036】
前記した第1の適用例では、所定の第4段階において10秒間、酸化還元可能な化合物の標準電位を構成する電位領域における電流/電位曲線を、ポテンシオスタット24を用いて矩形波電圧電流計で記録する。従って、電極20と対電極22との間に電位差を加え、この電位差を矩形波形に従い変化させる。同時に、これらの電極を流れる電流を測定すると、最大電流値がピーク形状となる電流/電位曲線が得られる。ベースラインを差し引いた後の最大電流値は、インターカレートせずに溶液中に存在している酸化還元可能な化合物の濃度を表す。
【0037】
まず図3A〜3Bについて、その後、図3Cについて説明する。具体的には、マイクロキュベット12、14に入った生物試料に対し、複製サイクルを31回適用した。図3Aは、検出する標的ヌクレオチド配列を含む生物試料に関する、サイクルの関数としての電流/電位曲線の変化を図示している。一方、図3Bは、標的配列を含まない反応混合物に関する、サイクルの関数としての電流/電位曲線の変化を表している。図3Aにおいて、曲線の頂点33は、第18サイクル目の中間値31から第22サイクル目における中間値35まで著しく低下している。即ち、酸化還元可能な化合物の消費量を明確に認識できるということである。第31サイクル目において、曲線37は実質的に平坦となっており、その頂点は、第1サイクルの電流値の5%よりも小さい電流値となっている。従って、酸化還元可能な化合物は、形成された二重鎖DNA分子内へ組み込まれているということになる。これは、検出しようとする標的ヌクレオチド配列が、実際に生物試料中に存在していたことを示唆する。
【0038】
反対に、図3Bでは、前の曲線と比較すると、曲線の極大値39は第31サイクル目まで略一定値のままである。というのは、これらの試料には検出しようとする標的ヌクレオチド配列が存在しないからである。それでもなお、特に反応混合物中におけるプライマーダイマーの形成に起因して、極大値は若干減少している。
【0039】
このように、上記の方法を用い、任意の生物試料において、検出しようとする標的ヌクレオチド配列の存在が迅速に検出される。
【0040】
増幅サイクルの初期、すなわち、例えば第5サイクル目のように、複製された標的ヌクレオチド配列の量が測定される最大電流値を有意に低下させるほど十分ではない時点において、得られる最大電流のずれに対して補正された平均値で最大電流値を割ることにより、最大電流値は標準化されることが分かる。
【0041】
図3Cについての説明を行う。図3Cは、前述の2系統の曲線より抽出した曲線を示しており、2つのマイクロキュベット12、14に関し、実行したサイクル数の関数として標準化した最大電流値を表している。2つのマイクロキュベット12、14はそれぞれ、検定する生物試料と複製のための生物材料と酸化還元可能な化合物との構成物、他方は、単に酸化還元可能な化合物を含んだ生物材料、を含んでいる。
【0042】
このように、第25サイクル目まで、2つのマイクロキュベット12、14の反応混合物を流れる電流値はほぼ等しく、比較的一定であることが分かる。一方、第25サイクル目から第30サイクル目を超えるサイクルまでの間において、検定する生物試料を含むマイクロキュベット12を流れる電流値は、所定の標的核酸配列を含まないもう一つのマイクロキュベット14を流れる電流に比べて急激に減少していることが分かる。cをサイクル数、eを2に近似する増幅強度とすると、電流が関数ecに比例して急激に、指数関数的に減少していることは、プライマーに特異的な所定の標的ヌクレオチド配列が増幅され、結果的に、複製された標的配列が生産されていることの証明となる。特に、複製された標的核酸配列分子が生産される結果、複製された核酸配列において形成された二重鎖中へ前記化合物がインターカレーションすることによって、上述の酸化還元可能な化合物が不活性化する。このようにして不活性化した酸化還元可能な化合物は電極20、22の表面と電荷を交換することがもはや不可能となり、その結果、電気化学的に検出することができなくなる。これは電気信号の低下をもたらし、結果的に、調査した生物試料中において、特異的プライマーにより所定の標的ヌクレオチド配列が形成されたことが明らかとなる。
【0043】
電流は、プライマーダイマーおよび/または他のDNA配列が特異的に増幅しない「解離」温度を超える温度において記録する。測定を行う温度の選択は、偽陽性試料と真陽性試料とを区別するための重要なパラメーターである。
【0044】
さらに、第2実施例に従って、所定の試料中における所定の標的ヌクレオチド配列の定量の原理を説明するために、図4で示すグラフについてこれから言及する。
【0045】
グラフのx軸51は増幅手段における複製サイクル数、y軸53は標準化された最大電流値である。標準化された最大電流値は、図3Aで示される実施形態に従って、各サイクルにおいて記録したものである。
【0046】
この図4のグラフにおいて、9本の検量線は、右から左向きに70、72、74、76、78、80、82、84および86で示されている。これらの検量線は、互いに略平行で、かつ略垂直方向の中間部を示している。これらの曲線は、9本の曲線の第一番目の曲線(曲線70)に対応するサイトメガロウイルスゲノムに含まれる103コピーの標的配列を含有する生物試料に始まり、第9番目の曲線(曲線86)に対応する1011コピーの標的配列を含有する生物試料に至るまで、得られた様々なプロットにそれぞれ対応している。第一の曲線70から最後の曲線86まで、それぞれ次の曲線に対し、コピー数を10倍としている。
【0047】
このように、生物試料に含まれる所定の標的ヌクレオチド配列の量が多くなるに従い、電極を流れる電流は、サイクル数の関数としてより早く減少していることが分かる。これは、試料が最初に含有するものに所定の標的配列が組み込まれている核酸が多くなると、同量の所定の標的ヌクレオチド配列を複製して生産するために必要となるサイクル数は少なくなり、その結果、酸化還元可能な化合物の複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖中へのインターカレーションによる電流の減少がより早くなるからである。このように、試料を流れる電流量が低下し始めるサイクル数を特定することにより、標的配列が組み込まれている核酸量を測定可能であることが理解できる。さらに、図4の第1曲線70は、試料中に最初に存在する標的配列がわずか1000コピーの場合でも、標的配列の存在が検出可能であることを示している。
【0048】
このようにしてある濃度の所定の標的核酸配列を最初に含む抽出物を分析すると、その曲線88は、104コピーの標的配列に対応する2番目の検量線72に沿った破線のように表すことができる。
【0049】
従って、所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料に対し本発明による方法を適用すれば、増幅手段の実施と、二重鎖DNAにインターカレートする酸化還元可能な試薬の電気化学的測定とにより、所定の標的ヌクレオチド配列の有無を明らかにすることが可能となるだけではなく、先行技術による他の電気化学的手段に比べて改善された信号強度、再現性および感度で定量することも可能となる。本手法は、二重鎖を形成する核酸配列にインターカレートする試薬の酸化還元特性を活用するものであり、標的核酸配列の存在を明らかにするための従来の増幅手段においては全く利用されていない。
【0050】
検出手段の検出精度を高めることを目的として、特に、増幅された標的配列を同定するという特殊性の観点から、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるため、増幅の最後において、試料の温度を次第に上昇させることにより、全ての複製された標的配列を徐々に脱ハイブリダイゼーションさせることとした。その結果、この酸化還元可能な化合物は電気化学的に再び検出可能となるため、再度電極に対し電気信号を供給することが可能となる。その電気信号は遊離した酸化還元可能な化合物の量を表すが、結果的に所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を表し、ひいては、所定の標的ヌクレオチド配列の長さを表している。
【0051】
この脱ハイブリダイゼーションは、全ての二重鎖が対となっている約40℃から、全ての二重鎖が解離している約98℃まで、適切な温度勾配に従ってDNA分子を加熱することにより行われ、前述のペルティエ効果モジュール32がこれにふさわしい手段となる。実際は後者により、複製された標的ヌクレオチド配列の脱ハイブリダイゼーションと、その結果として、インターカレートされた酸化還元可能な化合物の解離とが起こるように、図1で示される2つのマイクロキュベット12、14中に含まれる反応混合物へ熱エネルギーを供給することが可能となる。さらに、ポテンシオスタット24およびマイクロコンピュータ36を用いて、その後電極20と対電極22との間に電位差を加え、この電位差を前述の矩形波形に従って変化させる。これらの電極を流れる電流を測定し、最大電流が決定される。
【0052】
このように、ペルティエ効果モジュール32を用いて、例えば70℃から95℃の間で1℃ずつ反応混合物の温度を上昇させる。同時に、反応混合物の温度が1℃上昇し次第、電極20、22間に電位差を加え、前述の電圧電流計法に従って反応混合物を流れる電流を測定する。
【0053】
次に、第3実施例に従い、2つのマイクロキュベット12、14に対し温度の関数として得られた最大電流の図を示す図5Aについて説明する。一方のマイクロキュベットには検出する標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物が入っており、他方のマイクロキュベットには本標的配列を含まない反応混合物が入っている。
【0054】
このようにして得られた下側の曲線40は、標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物に対応しており、結果的に、複数の複製された標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物に対応している。従って、70℃から88℃の間で反応混合物の温度を上昇させても、標的ヌクレオチド配列を含むDNA分子に対しては何ら影響を及ぼさないことが分かる。一方で、88℃から92℃の間では、最大電流は7倍となる。このように、最大電流は、遊離する酸化還元可能な化合物の量に正比例しており、結果的に所定の標的核酸配列の由来(Nature)、ひいては所定の標的核酸配列の長さに正比例していることとなる。本事例の場合、所定の標的核酸配列の長さは283塩基対である。
【0055】
所定の標的核酸配列を含まない反応混合物に対応する上側の曲線42では、70℃から85℃の間で、測定される電気信号は2倍になることが分かる。これは、所定の標的核酸配列よりも小さいプライマーダイマーや、非特異的に合成された他の二重鎖にインターカレーションした結果である。
【0056】
図5Aで表される曲線のそれぞれの点をその点における微分値へ変換すれば、検出する標的ヌクレオチド配列を明らかにすることの証明性がより高くなる。このようにして、図5Bで表される融合曲線が得られる。
【0057】
その結果、標的配列を含む反応混合物に対応する下側の曲線40は、90℃の温度において有意なピーク46を有する特有な曲線44へと変換される。当然のことながら、この有意なピーク46は、図5Aの下側の曲線40において見られる最大電流の急激な変化に対応するものである。この有意なピーク46は、ピークが出現する温度によって所定の標的配列の由来(Nature)を表しており、従って、ピークが出現する温度によって標的配列の長さを表すことになる。具体的に言うと、検出する標的配列に長いものが多くなると、増幅産物中に含まれる酸化還元可能な化合物の量が、増幅産物の当量の割に、かなり明白に多くなる。従って、酸化還元可能な化合物の分子を遊離させるためには、所定の標的配列により形成された二重鎖を脱ハイブリダイズさせるために、より多くの熱エネルギーを与える必要がある。その結果、この脱ハイブリダイゼーションが起こる温度はそれだけ高くなる。さらに、増幅産物に含まれる酸化還元可能な化合物の分子の量が多くなるため、一旦それが遊離すると、記録される電気信号もそれに応じて大きくなる。
【0058】
その結果、検出する標的ヌクレオチド配列に主として元々長いものが多くなると、有意なピーク46はより高くなり、より高温側にシフトする。
【0059】
一方、図5Aで示される上側の曲線42については、図5Bで示される導曲線48へ変換することにより、75℃〜80℃の間の温度における幅広のピーク50が明らかとなる。この幅広のピーク50はまさに、プライマーダイマー、および非特異的に合成され所定の標的核酸配列よりも小さい他の二重鎖の脱ハイブリダイゼーションに対応しており、この脱ハイブリダイゼーションにより、酸化還元可能な化合物が遊離する。この幅広のピーク50は、有意なピーク46の温度よりも低い温度範囲において出現し、より広がっていることが分かる。
【0060】
第4実施例では、本発明に従った同定方法により、同様の生物試料中における少なくとも2つの異なった標的ヌクレオチド配列の存在が検出可能であることを示している。
【0061】
本方法を実施するためには、図1で示される同定装置を当然使用することができ、前述の実施例に従って一連の測定を3回行う。本実施例の目的は、同様の生物試料において、標的ヌクレオチド配列のサイズが100塩基対のバクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、および前述で使用した標的ヌクレオチド配列のサイズが283塩基対のヒトサイトメガロウイルスの存在が同定可能であるということを明らかにすることである。1回目の測定はヒトサイトメガロウイルスに対応しており、前述の条件と同様の条件の下で実施する。2回目の測定はバクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)に的確に対応しており、従って、増幅試料は対応する標的配列に特異的なプライマーを含んでいる。さらに、3回目の測定は、ヒトサイトメガロウイルスと、バクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)との混合物に対応しており、従って、この場合における増幅試料は、対応する2つの特異的プライマーを混合物中に含んでいる。
【0062】
その結果、第3実施例に従って、一連する3回の測定に対する融合曲線が得られる。
【0063】
このようにして得られた3つの曲線は図6に示されているが、より明瞭にするため、それらの曲線はy軸に沿って互いにずらしている。このように、図6において、ヒトサイトメガロウイルスに関連し、かつ、図5Bで示される典型的な曲線44に対応する第一の曲線50が確認できる。このように、90℃に相当する温度値に対し、有意な1番目のピーク52が確認できる。さらに、バクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)については、2回目の測定に対応する融合曲線54が、約85℃の温度値に対する2番目の有意なピーク56によって特徴付けられる。
【0064】
さらに、最終的に、3回目の測定により第3の曲線58となるが、90℃および85℃に相当する温度値それぞれに対し、3番目の有意なピーク60および4番目の有意なピーク62を示している。これらの値は、バクテリア単独の場合の値、およびヒトサイトメガロウイルス単独の場合の値に正確に対応する。
【0065】
本発明に従った同定方法を用いて、同一生物試料中における複数の標的ヌクレオチド配列の検出が可能であることは、このように、この第4実施例によって示される。
【0066】
特に好ましく、ここには示していない本発明の一実施形態によれば、本発明に従うことによって、配列に若干の相違を有する可能性のある標的配列を増幅し、前述のような融合曲線を用いてこれらの相違の有無を同定することができるものと想定される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための方法および装置に関するものである。
【0002】
想定される1つの適用領域は、特に、バクテリアまたはウィルス、より一般的には任意の核酸を含む可能性のある生体試料の、迅速分析に関する領域である。
【背景技術】
【0003】
公知の電気化学的検出方法によって、標的核酸配列を明らかにすることが既に可能となっている。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)型を例とした核酸増幅処理、およびサイクリック・電圧電流計処理の双方を利用する方法もある。これらの方法の1つによれば、所定の標的ヌクレオチド配列を示す核酸を含む生物試料を提供し、標的配列のヌクレオチド塩基の内の少なくとも一つを酸化することのできる酸化剤を生物試料に添加する。当該増幅手段は酸化可能なヌクレオチド塩基を有するタイプのヌクレオチドを備えている。ヌクレオチドは、複製された核酸配列の生産のため、増幅処理の実行中において当然ながら消費されることになる。同時に、もしくはそれぞれの増幅ステップの後に、酸化剤と酸化可能なヌクレオチド塩基とが反応するよう試料へ電界を与え、その結果、試料に流れる電流を測定する。より具体的には文献PCT/FR2007/000373に記載されているが、本方法によれば、増幅過程を経て電流が減少した際に、所定の標的配列の存在とその初期量とが決定される。これは、増幅処理の間、遊離ヌクレオチドが合成された核酸中へ組み込まれるため、増幅手段を構成する遊離ヌクレオチドの数が減少するからである。従って、酸化剤が反応できるのは、次第に量が限られる遊離ヌクレオチのみとなる。その結果、酸化反応による電子移動は次第に減少し、電流は減少する。
【0004】
このように、そのような手法によって、任意の生物試料中における特定の核酸の存在を迅速に検出し定量することが可能となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、生物試料中における標的ヌクレオチド配列の存在を検出可能なさらなる電気化学的検出法を提供すると供に、標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)の同定および定量も可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題の解決を目的とし、本発明の第1の側面として、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための方法を提案する。本方法は、提供される所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を提供するタイプの方法であり、所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるための、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段である。本方法によれば、ヌクレオチドと反応することのできる酸化還元可能な化合物も提供し、酸化還元可能な化合物を生物試料に接触させる。次に、作動可能な増幅手段を作動させ、酸化還元可能な化合物を活性化させるために試料へ電界を与え、試料を流れる、酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定する。従って、電流が減少した際に、所定の標的ヌクレオチド配列の存在が決定される。本発明では、複製中に、複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートできる酸化還元可能な化合物を提供する。複製された標的配列は、インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を抑制し、その結果、電流は減少する。
【0007】
遊離ヌクレオチドの他に、作動可能な増幅手段は、検出する標的ヌクレオチド配列に特異的かつ相補的なオリゴヌクレオチド酸のプライマーと、ポリメラーゼとを備える。さらに、以下に詳細に説明するように、試料へ複数の電極を接触させ、これらの電極間に電位差を加えることによって、前記試料へ電界を与える。
【0008】
このように、本発明の一つの特徴は、前記先行技術文献の場合のような試料中の遊離ヌクレオチドのヌクレオチド塩基を酸化しない酸化還元可能な化合物を提供すると供に、複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートする酸化還元可能な化合物を提供することにある。
【0009】
好ましくは、作動可能な増幅手段は連続する増幅サイクルに従い作動し、それぞれの増幅サイクルにおいて、複製された標的配列は複製される。その後、酸化還元可能な化合物は複製された標的配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートし、加えられる電界に対して自身の酸化還元活性を失う。その結果、増幅サイクルを繰り返すことによって、測定される電気信号は減少する。
【0010】
次に、好ましくは、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、電流の減少に対応した増幅サイクル数を記録する。これは、測定される信号の減少は、複製された標的ヌクレオチド配列の量に比例するからである。この比例性より、試料中に当初存在する所定の標的ヌクレオチド配列の量を推定することが可能である。このように、一定の増幅サイクル数だけ作動可能な増幅手段を繰り返し作動させ、この場合、電流が減少する際の増幅手段のサイクル数を、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために記録する。具体的には、生物試料が含む所定の標的ヌクレオチド配列が多いほど、電流強度が低下するために必要な増幅サイクル数は少なくなる。反対に、試料が含む所定の標的ヌクレオチド配列が少ないほど、増幅サイクル数は多くなる。このようにして、以下の記載においてより詳細に説明する通り、本方法により生物試料中の所定の標的配列の濃度を定量することも可能となる。
【0011】
「酸化還元可能な化合物」という用語は、レドックス化合物のみならず、ある一定の条件下では酸化可能であり、また、ある一定条件下では還元可能である化合物のことも表すことを明記する。
【0012】
特に好ましい本発明の一実施形態では、所定の標的ヌクレオチド配列が増幅された後、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるために試料へ熱エネルギーも加え、同時に試料を流れる電流の変化を記録するため、前記試料に電界を与える。その後、所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に相当する熱エネルギーQの大きさを決定する。好ましくは、試料の温度が緩やかに上昇するように、試料へ熱エネルギーを供給する。その結果、一定範囲における供給された熱エネルギーの関数、より具体的には、温度の関数として、電流変化が記録される。所定の温度における電流の最大変化率より、所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)が同定される。これは、増幅された標的配列の由来(Nature)によって、所定の温度における電流の最大変化率は複製された標的ヌクレオチド配列に固有のものとなるためである。
【0013】
従って、試料および結果的に複製された標的ヌクレオチド配列へ十分な熱エネルギーを供給すれば、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は、二本の一本鎖へと解離し易くなる。その結果、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離し易くなり、ひいては自身の電気化学的活性が回復する。所定の熱運動によって、即ち、所定の温度において、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は互いに解離する。その際、試料へ所定量の熱エネルギーを付与した際、実質的には不連続的に、即ち限られた温度範囲に渡り、酸化還元可能な化合物が急速に遊離し、その後、酸化還元可能な化合物は電極で発生する電流によって測定される。
【0014】
好ましくは、例えば40℃から98℃の間において、試料の温度が緩やかに上昇するように試料へ熱エネルギーを供給する。この温度範囲において、複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖は、複製された標的配列のそれぞれのヌクレオチド塩基が相補的に結合した対の状態から、最終的にそれぞれの複製された標的配列が一本鎖となっている解離状態へと徐々に変化する。従って、二重鎖状態から一本鎖状態への変化は限られた温度範囲内で起こり、一般的にTmで表される「解離」温度により特徴付けられるが、それは複製された標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)の特性を示している。
【0015】
さらに、試料が所定の温度のとき、即ち、例えばプライマーダイマーのような、既に形成されているもしくは形成しつつある他の分子が酸化還元可能な化合物を阻害しない温度のとき、酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定することが望ましい。前記所定の温度は、所定量の熱エネルギーQに相当する試料の温度に比べ、十分に低いが近い温度であることが好ましい。そうすれば、このような高い温度においては、複製された標的ヌクレオチド配列よりもサイズが小さいその他全ての分子は脱ハイブリダイズされた状態となっている一方で、複製された標的ヌクレオチド配列は未変化のままの状態となっている。このようにして、様々なプライマーダイマーに由来する酸化還元可能な化合物の遊離に起因する電流量や、既に供給された熱エネルギーにより解離可能となった他の小さな分子に起因する電流量は、測定される電流から除外される。
【0016】
好ましくは、電流または電流変化を測定し記録するために、電圧電流計を使用する。この動電位法の本質は、以下の説明においてより詳細に説明する通り、2つの電極間へ経時的に変化する電位を加えるとともに、そこから生じる電流の変化を記録することにある。好ましくは、矩形波電圧電流計が使用される。例えば、示差パルス電圧電流計、リニアスキャン電圧電流計やサイクリックスキャン電圧電流計、またはその他のサンプル電流電圧電流計(Sampled current voltammetry)や交流電圧電流計等の他の電気化学的技術も、当然ながら潜在的に使用が可能である。
【0017】
特に好ましい本発明の一実施形態では、提供される酸化還元可能な化合物は、例えばメンデレーエフ周期表8A族の金属であるが、より具体的にはオスミウムのような遷移金属の錯体である。さらに、好ましい酸化還元可能な化合物は、例えば、複製された標的ヌクレオチド配列によって形成される対となったらせん構造の間にインターカレート可能なジピリドフェナジン配位子のように、少なくとも一つの核酸配列挿入配位子を有しているものである。
【0018】
さらに、酸化還元可能な化合物は、少なくとも一つのビピリジン配位子を有しており、好ましくはこのタイプの配位子を二つ有している。ジピリドフェナジン配位子または二つのビピリジン配位子を伴うオスミウム錯体については、以下の説明においてより詳細に説明する。さらに、ある種の完全な有機化合物である酸化還元可能な化合物もまた、有効に使用可能であることが分かるであろう。これは、例えばメチレンブルーの場合である。
【0019】
本発明の好ましい一実施形態においては、所定の標記ヌクレオチド配列を複製し、核酸二重鎖構造を有する複製された標的ヌクレオチド配列を形成する。従って、前記作動可能な増幅手段はPCR型の手法となる。
【0020】
本発明の第2の側面は、標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための装置を提案することにある。本装置は、所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を受け入れるための手段と、所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるための、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段とから成る。さらに、本装置は、ヌクレオチドと反応することが可能な酸化還元可能な化合物を備えており、酸化還元可能な化合物は生物試料と接触させる。作動可能な増幅手段を、作動手段により作動させることが可能となり、酸化還元可能な化合物が活性化するように、試料に対して電界を与えることが可能となる。一方、測定手段により、酸化還元可能な化合物の電気的活性を表す、試料を流れる電流を測定することが可能となる。最後に、決定手段により、電流が減少した際に所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定することが可能となる。本発明では、複製中に、複製された標的配列を形成するヌクレオチドの間、すなわち複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖内へインターカレートできる化合物より酸化還元可能な化合物が選択され、複製された標的配列により、インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性が抑制され、その結果、電流が減少する。
【0021】
さらに、好ましい一実施形態では、同定装置はまた、インターカレートした酸化還元可能な化合物が遊離するよう熱エネルギーを試料へ供給する手段と、試料を流れる電流の変化を温度の関数として同時に記録するように、試料と接触した電極を用いて試料へ電界を与える手段と、さらに所定の標的ヌクレオチド配列の存在を確認するための、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギー量を決定する手段とを備えている。これらの手段により、記録される電流の最大変化に基づいて、検出する標的ヌクレオチド配列の存在の特性を表す解離温度(Tm)を決定する。本発明に従った方法の実施を可能とする上述の電気化学的同定装置については、以下、詳細に説明する。特に、それぞれの増幅サイクルにおいて複製された標的配列を複製するための、一連の増幅サイクルに従い作動可能な増幅手段を好ましく作動させることができる作動手段について説明する。さらに、本発明による前記同定装置は、試料中の標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するように電流の減少に応じた増幅サイクル数を記録する記録手段を備えている。
【0022】
さらに、本発明の他の特徴および利点は、後述の本発明の詳細な実施形態の説明から明らかとなるが、以下の通り添付の図面を参照し、限定しない表記で示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における電気化学的同定装置の線図である。
【図2】AからCは、異なる実施形態における、図1で表されたものと同一の装置の構成要素の線図である。
【図3】AおよびBは、図1で表されたものと同一の装置によって得られた電流/電位図である。Cは、AおよびBで表された図の差し引きによって得られた図である。
【図4】図3Cの図に類似した形式の図である。
【図5】Aは、図1および第1ステップで表されたものと同一の装置によって得られた、電流/温度図を示している。Bは、第2ステップにおいて、図5Aで示された図の変換によって得られた図を示している。
【図6】特定の実施例における、図5Bで表された形式の図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における電気化学的同定法は、一方で最初に説明される制御及び測定手段と、他方で特定の生物的・化学的構成物とを備える電気化学的同定装置を使用する。本発明に係る電気化学的同定装置10を図1に示す。図1は2つのマイクロキュベット12、14を示しており、後で説明するように、特性が明らかとなる生物試料を内部に受け入れるのに適切な構造となっている。これらのマイクロキュベット12、14は従来技術により既知のものであり、それぞれ底面16、18を有する。底面16、18上には、例えばスクリーン印刷により定着させた電極20、対電極22、および図示されない基準電極が存在し、それぞれポテンシオスタット24へ接続しており、前の2つの電極は導線26、28を介して接続している。さらに、マイクロキュベットは、マイクロキュベットを支持するペルティエ効果モジュール32と、発電機34へ接続されたヒーティングキャップ30との間に挟まれている。後で説明するように、ペルティエ効果モジュール32により、マイクロキュベット12、14内の内容物へ所定量の熱エネルギーを与えることが可能となる。さらに、発電機34とポテンシオスタット24は、コンピュータプログラムおよび記録手段を有するマイクロコンピュータ36により制御される。
【0025】
このように、マイクロキュベット12、14は、検出しようとする所定の標的ヌクレオチド配列を有する核酸配列、特にDNAを含む可能性のある生物試料を受け入れることが可能な、受入手段を備える。さらに、ペルティエ効果モジュール32とマイクロコンピュータ36により制御可能な発電機34は作動可能な増幅手段の第1部を構成し、増幅手段の第2部は生物材料および化合物で構成される。
【0026】
言うまでもなく、図示しない他の周知の受入手段として、生物試料が置かれる底部へ至るチューブがある。チューブは、生物試料内に浸漬できかつポテンシオスタットへ接続できる電極を具備する。チューブは、所定回数のサイクルで所定の温度に生物試料を加熱するために、サーモサイクラーへ取り付けられる。さらに、図2A〜2Cで図示される他の受入手段により、生物試料を受け入れることもできる。チューブは、例えば1μl〜1ml収容可能でかつ上部13が開口した、例として図2Aで表されるチューブキャップのような小容量の容器11からなる。チューブは反応混合物を受け入れることができる。そして、チューブはフィルム15によって密封されており、接続されていない3つの電極17、19、21がフィルム15にスクリーン印刷されている。電極17、19、21は容器11の内部側に向いており、それらは容器縁部とフィルム15との間の結合点で、容器から外に出ている。次に、フィルム15を備えた容器11はペルティエ効果モジュールに対して反転する。その結果、当初容器11の底部にあった反応混合物は電極17、19、21と接触する状態となり、電極11、19、21は混合物に浸漬される。
【0027】
ここで使用される増幅手段はPCR法である。従って、ペルティエ効果モジュール32により、以下の手順に従い、マイクロキュベット12、14の内部を設定時間、所定の温度に保持することができる。当該手順は、ポリメラーゼの種類に従い1〜15分間保持する第1段階で始まり、マイクロキュベット12、14の内部を94〜95℃の温度とする。次に、複製された標的ヌクレオチド配列の検出に必要となる増幅に従い、所定回数(通常10〜50サイクル)の連続した温度サイクルをマイクロキュベット12、14へ適用する。各サイクルは、94〜95℃の温度で通常1〜60秒間の第1「変性」段階、所定の標的ヌクレオチド配列に対する特異的なプライマーに特有となる40〜72℃の温度で、通常1〜60秒間の第2「プライマー・アニーリング」段階、72℃で通常1〜60秒間の第3「伸長」段階、および電気化学的測定に必要となる時間で決定される40〜95℃の温度で数秒間の最終段階、という連続した4つの段階に従っている。特に生物材料および化合物から成る第2部を説明した後、この最初の増幅手段部を実施するための条件を下記で説明する。
【0028】
本発明の目的の一つは、複製により核酸配列を増幅させ、媒体中におけるその存在を増幅処理中に電気化学的に測定することであるため、まず第一に、生物材料がこのように増幅できるようにすることが望ましい。PCR法を実行するためには、ポリメラーゼ酵素と、一対のプライマーと、4種の遊離ヌクレオチドとを、増幅させる核酸に接触させることが望ましい。4種の遊離ヌクレオチドとは、DNAを構成するdGTP、dATP、dTTPおよびdCTPのことであり、それぞれデオキシグアノシン三リン酸、デオキシアデノシン三リン酸、デオキシチミジン三リン酸およびデオキシシトシン三リン酸のことを指す。デオキシデアザグアノシン三リン酸のような、デオキシリボヌクレオチド三リン酸型の塩基類似化合物も同様に使用可能である。
【0029】
従って、第1実施例においては、分析される生物試料、実際は283塩基対の標的核酸配列を有するサイトメガロウイルスDNAの抽出物に加え、酵素であるDNAポリメラーゼと、プライマーと、4種のヌクレオチドとを、マイクロキュベット12の一つの中へ導入する。全体は、言うまでもなく、緩衝化された液体の反応混合物である。さらに、電気信号強度の測定を可能とするために、酸化還元可能な化合物を反応混合物へ加える。好適な酸化還元可能な化合物はオスミウム錯体:ビス(2,2’−ビピリジン)ジピリド[3,2−a:2’,3’−c]フェナジンオスミウム(II)(bis(2,2’−bipyridine)dipyrido[3,2−a:2’,3’−c]phenazine osmium(II))、CAS番号3555395−37−8)であり、本件では[OsII(bpy)2DPPZ]2+と表し、以下の化学式で示される。
【0030】
【化1】
【0031】
他の酸化還元可能な化合物の使用も想定でき、オスミウムの代わりにルテニウムを有するものが良い。その他の配位子も同様に使用可能である。ジピリドフェナジン配位子を用いる利点は、標的核酸配列を形成するヌクレオチド間にインターカレートできることにある。他の想定される配位子として、例えば、DPPX:7,8−(ジメチル)ジピリド)[3,2−a:2,3−c]フェナジン(7,8−(dimethyl)dipyrido[3,2−a:2,3−c]phenazine);PTDB:(3−ピリジン−2−イル)−5,6−ジフェニル−as−トリアジン(3−(pyridine−2−yl)−5,6−diphenyl−as−triazine);またはDPT:3−(ピラジン−2−イル)−as−トリアジノ[5,6−f]フェナントレン(3−(pyrazine−2−yl)−as−triazino[5,6−f]phenanthrene)が挙げられるが、その他にPHI:フェナントレンキノンジイミン(phenanthrenequinone diimine)のようなキノン機能を有する配位子が挙げられる。
【0032】
DNAへインターカレートできる酸化還元可能な有機化合物もまた、本発明の要旨をなす方法において使用することができる。そのような酸化還元可能な有機化合物の例として、エチジウムブロマイド、アクリジンおよびその誘導体、アクリドン誘導体、あるいはフェナジン誘導体が挙げられる。
【0033】
実験のための比較物として、テストされる生物試料を除いて全く同一の前記成分を別のマイクロキュベット14内へ導入する。一例として、マイクロキュベット12、14へ導入する各種成分の濃度を、下記表1に掲げる。
【0034】
【表1】
【0035】
従って、2つのマイクロキュベット12、14に含まれる反応混合物を、ペルティエ効果モジュール32を用い、マイクロコンピュータ36で制御して所定時間、様々な温度とする。反応混合物を一旦15分間、95℃の温度とする予備段階の後、第1段階において標的核酸配列が脱ハイブリダイズ、すなわち標的核酸配列の2本の相補鎖が解離するように、反応混合物を30秒間、94℃の温度とする。次に、第2段階において、解離したDNA鎖へそれぞれのプライマーがハイブリダイズするように、60秒間、53℃とする。そして、第3段階において、ポリメラーゼが相補鎖を合成し、結果的に増幅産物と、増幅産物が含む複製された標的配列とを形成するように、60秒間、72℃とする。最後に、第4段階において、反応混合物を10秒間、85℃の温度とするが、その間、ポテンシオスタット24の使用はマイクロコンピュータ36により制御される。
【0036】
前記した第1の適用例では、所定の第4段階において10秒間、酸化還元可能な化合物の標準電位を構成する電位領域における電流/電位曲線を、ポテンシオスタット24を用いて矩形波電圧電流計で記録する。従って、電極20と対電極22との間に電位差を加え、この電位差を矩形波形に従い変化させる。同時に、これらの電極を流れる電流を測定すると、最大電流値がピーク形状となる電流/電位曲線が得られる。ベースラインを差し引いた後の最大電流値は、インターカレートせずに溶液中に存在している酸化還元可能な化合物の濃度を表す。
【0037】
まず図3A〜3Bについて、その後、図3Cについて説明する。具体的には、マイクロキュベット12、14に入った生物試料に対し、複製サイクルを31回適用した。図3Aは、検出する標的ヌクレオチド配列を含む生物試料に関する、サイクルの関数としての電流/電位曲線の変化を図示している。一方、図3Bは、標的配列を含まない反応混合物に関する、サイクルの関数としての電流/電位曲線の変化を表している。図3Aにおいて、曲線の頂点33は、第18サイクル目の中間値31から第22サイクル目における中間値35まで著しく低下している。即ち、酸化還元可能な化合物の消費量を明確に認識できるということである。第31サイクル目において、曲線37は実質的に平坦となっており、その頂点は、第1サイクルの電流値の5%よりも小さい電流値となっている。従って、酸化還元可能な化合物は、形成された二重鎖DNA分子内へ組み込まれているということになる。これは、検出しようとする標的ヌクレオチド配列が、実際に生物試料中に存在していたことを示唆する。
【0038】
反対に、図3Bでは、前の曲線と比較すると、曲線の極大値39は第31サイクル目まで略一定値のままである。というのは、これらの試料には検出しようとする標的ヌクレオチド配列が存在しないからである。それでもなお、特に反応混合物中におけるプライマーダイマーの形成に起因して、極大値は若干減少している。
【0039】
このように、上記の方法を用い、任意の生物試料において、検出しようとする標的ヌクレオチド配列の存在が迅速に検出される。
【0040】
増幅サイクルの初期、すなわち、例えば第5サイクル目のように、複製された標的ヌクレオチド配列の量が測定される最大電流値を有意に低下させるほど十分ではない時点において、得られる最大電流のずれに対して補正された平均値で最大電流値を割ることにより、最大電流値は標準化されることが分かる。
【0041】
図3Cについての説明を行う。図3Cは、前述の2系統の曲線より抽出した曲線を示しており、2つのマイクロキュベット12、14に関し、実行したサイクル数の関数として標準化した最大電流値を表している。2つのマイクロキュベット12、14はそれぞれ、検定する生物試料と複製のための生物材料と酸化還元可能な化合物との構成物、他方は、単に酸化還元可能な化合物を含んだ生物材料、を含んでいる。
【0042】
このように、第25サイクル目まで、2つのマイクロキュベット12、14の反応混合物を流れる電流値はほぼ等しく、比較的一定であることが分かる。一方、第25サイクル目から第30サイクル目を超えるサイクルまでの間において、検定する生物試料を含むマイクロキュベット12を流れる電流値は、所定の標的核酸配列を含まないもう一つのマイクロキュベット14を流れる電流に比べて急激に減少していることが分かる。cをサイクル数、eを2に近似する増幅強度とすると、電流が関数ecに比例して急激に、指数関数的に減少していることは、プライマーに特異的な所定の標的ヌクレオチド配列が増幅され、結果的に、複製された標的配列が生産されていることの証明となる。特に、複製された標的核酸配列分子が生産される結果、複製された核酸配列において形成された二重鎖中へ前記化合物がインターカレーションすることによって、上述の酸化還元可能な化合物が不活性化する。このようにして不活性化した酸化還元可能な化合物は電極20、22の表面と電荷を交換することがもはや不可能となり、その結果、電気化学的に検出することができなくなる。これは電気信号の低下をもたらし、結果的に、調査した生物試料中において、特異的プライマーにより所定の標的ヌクレオチド配列が形成されたことが明らかとなる。
【0043】
電流は、プライマーダイマーおよび/または他のDNA配列が特異的に増幅しない「解離」温度を超える温度において記録する。測定を行う温度の選択は、偽陽性試料と真陽性試料とを区別するための重要なパラメーターである。
【0044】
さらに、第2実施例に従って、所定の試料中における所定の標的ヌクレオチド配列の定量の原理を説明するために、図4で示すグラフについてこれから言及する。
【0045】
グラフのx軸51は増幅手段における複製サイクル数、y軸53は標準化された最大電流値である。標準化された最大電流値は、図3Aで示される実施形態に従って、各サイクルにおいて記録したものである。
【0046】
この図4のグラフにおいて、9本の検量線は、右から左向きに70、72、74、76、78、80、82、84および86で示されている。これらの検量線は、互いに略平行で、かつ略垂直方向の中間部を示している。これらの曲線は、9本の曲線の第一番目の曲線(曲線70)に対応するサイトメガロウイルスゲノムに含まれる103コピーの標的配列を含有する生物試料に始まり、第9番目の曲線(曲線86)に対応する1011コピーの標的配列を含有する生物試料に至るまで、得られた様々なプロットにそれぞれ対応している。第一の曲線70から最後の曲線86まで、それぞれ次の曲線に対し、コピー数を10倍としている。
【0047】
このように、生物試料に含まれる所定の標的ヌクレオチド配列の量が多くなるに従い、電極を流れる電流は、サイクル数の関数としてより早く減少していることが分かる。これは、試料が最初に含有するものに所定の標的配列が組み込まれている核酸が多くなると、同量の所定の標的ヌクレオチド配列を複製して生産するために必要となるサイクル数は少なくなり、その結果、酸化還元可能な化合物の複製された標的ヌクレオチド配列の二重鎖中へのインターカレーションによる電流の減少がより早くなるからである。このように、試料を流れる電流量が低下し始めるサイクル数を特定することにより、標的配列が組み込まれている核酸量を測定可能であることが理解できる。さらに、図4の第1曲線70は、試料中に最初に存在する標的配列がわずか1000コピーの場合でも、標的配列の存在が検出可能であることを示している。
【0048】
このようにしてある濃度の所定の標的核酸配列を最初に含む抽出物を分析すると、その曲線88は、104コピーの標的配列に対応する2番目の検量線72に沿った破線のように表すことができる。
【0049】
従って、所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料に対し本発明による方法を適用すれば、増幅手段の実施と、二重鎖DNAにインターカレートする酸化還元可能な試薬の電気化学的測定とにより、所定の標的ヌクレオチド配列の有無を明らかにすることが可能となるだけではなく、先行技術による他の電気化学的手段に比べて改善された信号強度、再現性および感度で定量することも可能となる。本手法は、二重鎖を形成する核酸配列にインターカレートする試薬の酸化還元特性を活用するものであり、標的核酸配列の存在を明らかにするための従来の増幅手段においては全く利用されていない。
【0050】
検出手段の検出精度を高めることを目的として、特に、増幅された標的配列を同定するという特殊性の観点から、インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるため、増幅の最後において、試料の温度を次第に上昇させることにより、全ての複製された標的配列を徐々に脱ハイブリダイゼーションさせることとした。その結果、この酸化還元可能な化合物は電気化学的に再び検出可能となるため、再度電極に対し電気信号を供給することが可能となる。その電気信号は遊離した酸化還元可能な化合物の量を表すが、結果的に所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を表し、ひいては、所定の標的ヌクレオチド配列の長さを表している。
【0051】
この脱ハイブリダイゼーションは、全ての二重鎖が対となっている約40℃から、全ての二重鎖が解離している約98℃まで、適切な温度勾配に従ってDNA分子を加熱することにより行われ、前述のペルティエ効果モジュール32がこれにふさわしい手段となる。実際は後者により、複製された標的ヌクレオチド配列の脱ハイブリダイゼーションと、その結果として、インターカレートされた酸化還元可能な化合物の解離とが起こるように、図1で示される2つのマイクロキュベット12、14中に含まれる反応混合物へ熱エネルギーを供給することが可能となる。さらに、ポテンシオスタット24およびマイクロコンピュータ36を用いて、その後電極20と対電極22との間に電位差を加え、この電位差を前述の矩形波形に従って変化させる。これらの電極を流れる電流を測定し、最大電流が決定される。
【0052】
このように、ペルティエ効果モジュール32を用いて、例えば70℃から95℃の間で1℃ずつ反応混合物の温度を上昇させる。同時に、反応混合物の温度が1℃上昇し次第、電極20、22間に電位差を加え、前述の電圧電流計法に従って反応混合物を流れる電流を測定する。
【0053】
次に、第3実施例に従い、2つのマイクロキュベット12、14に対し温度の関数として得られた最大電流の図を示す図5Aについて説明する。一方のマイクロキュベットには検出する標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物が入っており、他方のマイクロキュベットには本標的配列を含まない反応混合物が入っている。
【0054】
このようにして得られた下側の曲線40は、標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物に対応しており、結果的に、複数の複製された標的ヌクレオチド配列を含む反応混合物に対応している。従って、70℃から88℃の間で反応混合物の温度を上昇させても、標的ヌクレオチド配列を含むDNA分子に対しては何ら影響を及ぼさないことが分かる。一方で、88℃から92℃の間では、最大電流は7倍となる。このように、最大電流は、遊離する酸化還元可能な化合物の量に正比例しており、結果的に所定の標的核酸配列の由来(Nature)、ひいては所定の標的核酸配列の長さに正比例していることとなる。本事例の場合、所定の標的核酸配列の長さは283塩基対である。
【0055】
所定の標的核酸配列を含まない反応混合物に対応する上側の曲線42では、70℃から85℃の間で、測定される電気信号は2倍になることが分かる。これは、所定の標的核酸配列よりも小さいプライマーダイマーや、非特異的に合成された他の二重鎖にインターカレーションした結果である。
【0056】
図5Aで表される曲線のそれぞれの点をその点における微分値へ変換すれば、検出する標的ヌクレオチド配列を明らかにすることの証明性がより高くなる。このようにして、図5Bで表される融合曲線が得られる。
【0057】
その結果、標的配列を含む反応混合物に対応する下側の曲線40は、90℃の温度において有意なピーク46を有する特有な曲線44へと変換される。当然のことながら、この有意なピーク46は、図5Aの下側の曲線40において見られる最大電流の急激な変化に対応するものである。この有意なピーク46は、ピークが出現する温度によって所定の標的配列の由来(Nature)を表しており、従って、ピークが出現する温度によって標的配列の長さを表すことになる。具体的に言うと、検出する標的配列に長いものが多くなると、増幅産物中に含まれる酸化還元可能な化合物の量が、増幅産物の当量の割に、かなり明白に多くなる。従って、酸化還元可能な化合物の分子を遊離させるためには、所定の標的配列により形成された二重鎖を脱ハイブリダイズさせるために、より多くの熱エネルギーを与える必要がある。その結果、この脱ハイブリダイゼーションが起こる温度はそれだけ高くなる。さらに、増幅産物に含まれる酸化還元可能な化合物の分子の量が多くなるため、一旦それが遊離すると、記録される電気信号もそれに応じて大きくなる。
【0058】
その結果、検出する標的ヌクレオチド配列に主として元々長いものが多くなると、有意なピーク46はより高くなり、より高温側にシフトする。
【0059】
一方、図5Aで示される上側の曲線42については、図5Bで示される導曲線48へ変換することにより、75℃〜80℃の間の温度における幅広のピーク50が明らかとなる。この幅広のピーク50はまさに、プライマーダイマー、および非特異的に合成され所定の標的核酸配列よりも小さい他の二重鎖の脱ハイブリダイゼーションに対応しており、この脱ハイブリダイゼーションにより、酸化還元可能な化合物が遊離する。この幅広のピーク50は、有意なピーク46の温度よりも低い温度範囲において出現し、より広がっていることが分かる。
【0060】
第4実施例では、本発明に従った同定方法により、同様の生物試料中における少なくとも2つの異なった標的ヌクレオチド配列の存在が検出可能であることを示している。
【0061】
本方法を実施するためには、図1で示される同定装置を当然使用することができ、前述の実施例に従って一連の測定を3回行う。本実施例の目的は、同様の生物試料において、標的ヌクレオチド配列のサイズが100塩基対のバクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)、および前述で使用した標的ヌクレオチド配列のサイズが283塩基対のヒトサイトメガロウイルスの存在が同定可能であるということを明らかにすることである。1回目の測定はヒトサイトメガロウイルスに対応しており、前述の条件と同様の条件の下で実施する。2回目の測定はバクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)に的確に対応しており、従って、増幅試料は対応する標的配列に特異的なプライマーを含んでいる。さらに、3回目の測定は、ヒトサイトメガロウイルスと、バクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)との混合物に対応しており、従って、この場合における増幅試料は、対応する2つの特異的プライマーを混合物中に含んでいる。
【0062】
その結果、第3実施例に従って、一連する3回の測定に対する融合曲線が得られる。
【0063】
このようにして得られた3つの曲線は図6に示されているが、より明瞭にするため、それらの曲線はy軸に沿って互いにずらしている。このように、図6において、ヒトサイトメガロウイルスに関連し、かつ、図5Bで示される典型的な曲線44に対応する第一の曲線50が確認できる。このように、90℃に相当する温度値に対し、有意な1番目のピーク52が確認できる。さらに、バクテリア、アクロモバクター・キシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)については、2回目の測定に対応する融合曲線54が、約85℃の温度値に対する2番目の有意なピーク56によって特徴付けられる。
【0064】
さらに、最終的に、3回目の測定により第3の曲線58となるが、90℃および85℃に相当する温度値それぞれに対し、3番目の有意なピーク60および4番目の有意なピーク62を示している。これらの値は、バクテリア単独の場合の値、およびヒトサイトメガロウイルス単独の場合の値に正確に対応する。
【0065】
本発明に従った同定方法を用いて、同一生物試料中における複数の標的ヌクレオチド配列の検出が可能であることは、このように、この第4実施例によって示される。
【0066】
特に好ましく、ここには示していない本発明の一実施形態によれば、本発明に従うことによって、配列に若干の相違を有する可能性のある標的配列を増幅し、前述のような融合曲線を用いてこれらの相違の有無を同定することができるものと想定される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を提供するステップと、
前記所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、前記複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるために、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段を提供するステップと、
前記ヌクレオチドと反応することができる酸化還元可能な化合物を提供し、前記酸化還元可能な化合物を前記生物試料と接触させるステップと、
前記作動可能な増幅手段を作動させるステップと、
前記酸化還元可能な化合物を活性化させるために前記試料へ電界を与え、前記試料を流れる前記酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定するステップと、
前記電流の低下に基づいて、前記所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定するステップと、
からなる方法であり、
前記複製された標的配列を形成する前記ヌクレオチド間に前記複製中にインターカレートできる酸化還元可能な化合物を提供し、前記複製された標的配列は前記インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を阻害し、前記阻害により前記電流が低下する、
ことを特徴とする標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定する方法。
【請求項2】
前記作動可能な増幅手段は一連の増幅サイクルに従い作動させ、それぞれの増幅サイクルにおいて前記複製された標的配列が複製される
ことを特徴とする請求項1に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項3】
前記試料中の前記標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、前記電流の低下に対応する前記増幅サイクル数を記録する
ことを特徴とする請求項2に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項4】
前記インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるために前記試料へ熱エネルギーを供給し、前記試料を流れる電流の変化を同時に記録するために前記試料へ電界を与えるステップと、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギーQの量を決定するステップと、
を更に有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項5】
前記試料の温度が緩やかに上昇するように、前記試料へ熱エネルギーを供給する
ことを特徴とする請求項4に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項6】
前記温度の緩やかな上昇は40℃から98℃の間で起こる
ことを特徴とする請求項5に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項7】
前記酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を、前記試料が所定の温度である時に測定する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項8】
前記所定の温度は、前記所定量の熱エネルギーQに相当する前記試料の温度よりも著しく低いことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項9】
前記電流を測定するために電圧電流計を使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項10】
矩形波電圧電流計を使用することを特徴とする請求項9に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項11】
前記提供される酸化還元可能な化合物は、遷移金属の錯体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項12】
前記酸化還元可能な化合物は、核酸配列にインターカレートする配位子を少なくとも一つ有する
ことを特徴とする請求項11に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項13】
前記酸化還元可能な化合物は、ジピリドフェナジン配位子を有する
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項14】
前記酸化還元可能な化合物は、少なくとも一つのビピリジン配位子を有する
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項15】
前記所定の標的ヌクレオチド配列の複製と、核酸二重鎖構造を有する複製された標的ヌクレオチド配列の形成とが生じる
ことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項16】
前記作動可能な増幅手段はPCR型から成ることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項17】
所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を受け入れるための受入手段と、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の複製と前記複製された標的ヌクレオチド配列の形成とを生じさせるために、遊離ヌクレオチドから成る作動可能な増幅手段と、
前記ヌクレオチドと反応することができる酸化還元可能な化合物であり、前記生物試料と接触している前記酸化還元可能な化合物と、
前記作動可能な増幅手段を作動させるための作動手段と、
前記酸化還元可能な化合物を活性化させるように前記試料へ電界を与えるための手段、および前記試料を流れる前記酸化還元な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定するための手段と、
前記電流が低下した際に、前記所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定するための手段と、
を備える装置であり、
前記酸化還元な化合物は、前記複製された標的配列を形成する前記ヌクレオチド間に前記複製中にインターカレートできる化合物より選択され、前記複製された標的配列は前記インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を阻害し、前記阻害により前記電流が低下することを特徴とする、
標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための装置。
【請求項18】
前記作動手段は、それぞれの増幅サイクルにおいて前記複製された標的配列を複製するために、一連の増幅サイクルに従って前記作動可能な増幅手段を作動させるのに相応しい手段である
ことを特徴とする請求項17に記載の同定装置。
【請求項19】
前記試料中の前記標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、前記電流の低下に対応する増幅サイクル数を記録するための記録手段を更に備える
ことを特徴とする請求項18に記載の同定装置。
【請求項20】
前記インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるように前記試料へ熱エネルギーを供給するための手段、および前記試料を流れる電流の変化を同時に記録するように前記試料へ電界を与えるための手段と、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギー量を決定するための手段と、
を更に備える
ことを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項に記載の同定装置。
【請求項1】
所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を提供するステップと、
前記所定の標的ヌクレオチド配列を複製させ、前記複製された標的ヌクレオチド配列を形成させるために、遊離ヌクレオチドを備える作動可能な増幅手段を提供するステップと、
前記ヌクレオチドと反応することができる酸化還元可能な化合物を提供し、前記酸化還元可能な化合物を前記生物試料と接触させるステップと、
前記作動可能な増幅手段を作動させるステップと、
前記酸化還元可能な化合物を活性化させるために前記試料へ電界を与え、前記試料を流れる前記酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定するステップと、
前記電流の低下に基づいて、前記所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定するステップと、
からなる方法であり、
前記複製された標的配列を形成する前記ヌクレオチド間に前記複製中にインターカレートできる酸化還元可能な化合物を提供し、前記複製された標的配列は前記インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を阻害し、前記阻害により前記電流が低下する、
ことを特徴とする標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定する方法。
【請求項2】
前記作動可能な増幅手段は一連の増幅サイクルに従い作動させ、それぞれの増幅サイクルにおいて前記複製された標的配列が複製される
ことを特徴とする請求項1に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項3】
前記試料中の前記標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、前記電流の低下に対応する前記増幅サイクル数を記録する
ことを特徴とする請求項2に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項4】
前記インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるために前記試料へ熱エネルギーを供給し、前記試料を流れる電流の変化を同時に記録するために前記試料へ電界を与えるステップと、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギーQの量を決定するステップと、
を更に有する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項5】
前記試料の温度が緩やかに上昇するように、前記試料へ熱エネルギーを供給する
ことを特徴とする請求項4に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項6】
前記温度の緩やかな上昇は40℃から98℃の間で起こる
ことを特徴とする請求項5に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項7】
前記酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を表す電流を、前記試料が所定の温度である時に測定する
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項8】
前記所定の温度は、前記所定量の熱エネルギーQに相当する前記試料の温度よりも著しく低いことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項9】
前記電流を測定するために電圧電流計を使用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項10】
矩形波電圧電流計を使用することを特徴とする請求項9に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項11】
前記提供される酸化還元可能な化合物は、遷移金属の錯体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項12】
前記酸化還元可能な化合物は、核酸配列にインターカレートする配位子を少なくとも一つ有する
ことを特徴とする請求項11に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項13】
前記酸化還元可能な化合物は、ジピリドフェナジン配位子を有する
ことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項14】
前記酸化還元可能な化合物は、少なくとも一つのビピリジン配位子を有する
ことを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項15】
前記所定の標的ヌクレオチド配列の複製と、核酸二重鎖構造を有する複製された標的ヌクレオチド配列の形成とが生じる
ことを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項16】
前記作動可能な増幅手段はPCR型から成ることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定方法。
【請求項17】
所定の標的ヌクレオチド配列を含む可能性のある生物試料を受け入れるための受入手段と、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の複製と前記複製された標的ヌクレオチド配列の形成とを生じさせるために、遊離ヌクレオチドから成る作動可能な増幅手段と、
前記ヌクレオチドと反応することができる酸化還元可能な化合物であり、前記生物試料と接触している前記酸化還元可能な化合物と、
前記作動可能な増幅手段を作動させるための作動手段と、
前記酸化還元可能な化合物を活性化させるように前記試料へ電界を与えるための手段、および前記試料を流れる前記酸化還元な化合物の電気化学的活性を表す電流を測定するための手段と、
前記電流が低下した際に、前記所定の標的ヌクレオチド配列の存在を決定するための手段と、
を備える装置であり、
前記酸化還元な化合物は、前記複製された標的配列を形成する前記ヌクレオチド間に前記複製中にインターカレートできる化合物より選択され、前記複製された標的配列は前記インターカレートした酸化還元可能な化合物の電気化学的活性を阻害し、前記阻害により前記電流が低下することを特徴とする、
標的ヌクレオチド配列を電気化学的に同定するための装置。
【請求項18】
前記作動手段は、それぞれの増幅サイクルにおいて前記複製された標的配列を複製するために、一連の増幅サイクルに従って前記作動可能な増幅手段を作動させるのに相応しい手段である
ことを特徴とする請求項17に記載の同定装置。
【請求項19】
前記試料中の前記標的ヌクレオチド配列の濃度を定量するために、前記電流の低下に対応する増幅サイクル数を記録するための記録手段を更に備える
ことを特徴とする請求項18に記載の同定装置。
【請求項20】
前記インターカレートした酸化還元可能な化合物を遊離させるように前記試料へ熱エネルギーを供給するための手段、および前記試料を流れる電流の変化を同時に記録するように前記試料へ電界を与えるための手段と、
前記所定の標的ヌクレオチド配列の由来(Nature)を同定するために、記録される電流の最大変化に対応する熱エネルギー量を決定するための手段と、
を更に備える
ことを特徴とする請求項17〜19のいずれか1項に記載の同定装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【公表番号】特表2011−523556(P2011−523556A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512172(P2011−512172)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000653
【国際公開番号】WO2009/147322
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508266546)ユニベルシテ パリ ディドロ−パリ 7 (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT−PARIS 7
【住所又は居所原語表記】5, rue Thomas Mann F−75205 Paris Cedex 13 FRANCE
【出願人】(311005002)セントレ ナショナル デ ラ レシュルシュ サイエンティフィーク (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/FR2009/000653
【国際公開番号】WO2009/147322
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(508266546)ユニベルシテ パリ ディドロ−パリ 7 (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DIDEROT−PARIS 7
【住所又は居所原語表記】5, rue Thomas Mann F−75205 Paris Cedex 13 FRANCE
【出願人】(311005002)セントレ ナショナル デ ラ レシュルシュ サイエンティフィーク (1)
【Fターム(参考)】
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