説明

標的像追尾装置、標的像追尾方法、および標的像追尾プログラム

【課題】標的像の認識率を向上させるとともに、標的追尾のための計算処理量が必要以上に増大することを防ぎ、標的追尾の成功率を向上させた標的像追尾装置を提供する。
【解決手段】標的像追尾装置が、探信波を送受信する送受波部3と、送受波部3が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部4と、前記画像フレームデータを表示する表示部9と、標的像の抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定する抽出領域設定部6と、前記抽出領域の前記標的像から最尤の標的像を抽出する標的像抽出部7と、前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、抽出領域設定部6に通知する標的像位置算出部8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、スキャニングソナー、魚群探知機、レーダ装置に適用される、標的像追尾装置、標的像追尾方法、および標的像追尾プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
漁場で操業する際、魚群の位置、移動方向、速度を正確に捉えることは漁獲量を左右する重要な要素であるため、魚群を捉えた標的像を自動追尾するソナーにおいては、より正確に魚群を追尾することが求められている。この要求に応えるため、超音波を用いた探査において、送波ビームと受波ビームの俯角を制御することができる魚群追尾スキャニングソナーが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、探査タイミングでの周囲360度の水平断面画像フレーム(以下、画像フレームデータと称する)に含まれる標的像をソナーが自動追尾する際、画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出するための計算処理を行う対象である領域(以下、抽出領域と称する)の寸法を、自船と魚群との相対距離に比例して変化させることで、計算処理量を変化させながら標的を追尾するソナーが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、レーダ装置による船舶や航空機等の自動追尾においては、抽出領域内にある複数の標的の中から、追尾対象とする標的の運動を推定して、追尾対象とする標的の次回の探査における位置を予測することで、抽出領域の位置と寸法とを変化させるレーダ装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−327855号公報
【特許文献2】特許第4106124号公報
【特許文献3】特許第3848846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら航空機や船舶等は、機体や船体の寸法、形状等がある程度決まっているのに対し、魚群は寸法や形状等が決まっておらず、またソナーは3次元的に分布している魚群を音波により2次元断面として捕捉するため、魚群を捉えた標的像の寸法と形状は、送波ビームと受波ビームによる探査(以下、探査と称する)を行う毎に変化する。このため標的像の寸法と形状等から標的の位置を算出し、その算出された位置から標的の運動を予測しようとする場合、魚群追尾スキャニングソナーの従来の位置予測方法では魚群の位置検出精度が低いという問題があった。
【0007】
また、俊敏で複雑な魚群の運動は、ソナーの数秒間隔の探査ではサンプリング間隔が長いため、魚群の正確な位置や運動を捉えることが困難であり、このことが魚群の追尾精度の悪化と、抽出領域が必要以上に大きくなることによる計算処理量の増大と、を招く原因となっていた。
【0008】
本発明は前記の諸点に鑑みてなされたものであり、俊敏で複雑な運動を行う標的を捉えた標的像の認識率を向上させるとともに、標的追尾のための計算処理量が必要以上に増大することを防ぎながら、標的追尾の成功率を向上させた標的像追尾装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、前記画像フレームデータを表示する表示部と、前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定する抽出領域設定部と、前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出する標的像抽出部と、前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知する標的像位置算出部と、を備えることを特徴とする標的像追尾装置である。
【0010】
また本発明は、前記標的である魚群の魚種を指示する入力を受け付ける第1の入力部を備え、前記抽出領域設定部は、前記第1の入力部から入力される魚種に応じた前記標的の最大速度と、前記標的に当てる探信波の受信周期と、に基づいて前記抽出領域の寸法を設定する、ことを特徴とする標的像追尾装置である。
【0011】
また本発明は、前記標的像抽出部は、前記標的像の少なくとも一部が前記標的像領域外に出ているか否かを判定し、前記抽出領域設定部は、前記標的像の少なくとも一部が前記抽出領域外に出ている場合、前記標的像が前記抽出領域に含まれるよう、前記標的像の重心から前記標的像の部分に向かう方向に前記抽出領域を拡大する、ことを特徴とする標的像追尾装置である。
【0012】
また本発明は、抽出領域を指定するデータである抽出領域データの入力を受け付ける第2の入力部を備え、前記抽出領域設定部は、前記第2の入力部から入力される抽出領域データに従って、前記抽出領域を設定することを特徴とする標的像追尾装置である。
【0013】
また本発明は、前記抽出領域設定部は、前記標的像が前記抽出領域に含まれるか否かを判定し、前記抽出領域設定部は、前記標的像が前記抽出領域に含まれない場合、所定の寸法、あるいは所定の回数まで前記抽出領域を拡大することを特徴とする標的像追尾装置である。
【0014】
また本発明は、前記抽出領域設定部は、前記標的像の重心から、前記送受波部からの距離が長くなる方向と、前記送受波部からの距離が短くなる方向と、前記送受波部に対して時計周りの水平周囲方向と、前記送受波部に対して反時計周りの水平周囲方向と、に前記抽出領域を所定の寸法まで拡大することを特徴とする標的像追尾装置である。
【0015】
また本発明は、標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、前記画像フレームデータを表示する表示部と、を備える標的像追尾装置における処理方法であって、抽出領域設定部が、前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定するステップと、標的像抽出部が、前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出するステップと、標的像位置算出部が、前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知するステップと、を含むことを特徴とする標的像追尾方法である。
【0016】
また本発明は、標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、前記画像フレームデータを表示する表示部と、を備える標的像追尾装置のコンピュータに、前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定する手順と、前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出する手順と、前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知する手順と、を実行させるための標的像追尾プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、標的像追尾装置が、俊敏で複雑な運動を行う標的を捉えた標的像を最適な寸法の抽出領域に捉えることで、標的像以外のノイズ像を可能な限り抽出領域から排除することができるので、標的像の認識率が向上することにより、標的追尾の成功率を向上させることができる。また抽出領域の寸法を最適に保つことで、標的追尾のための計算処理量が必要以上に増大することを防ぎながら、標的追尾の成功率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施の一形態によるスキャニングソナーのブロック図である。
【図2】探査に用いる諸元と、探査結果を海面に投射された表示に変換した表示画面と、を示す図である。
【図3】標的像10と自船11との相対位置の表示更新順を示す図である。
【図4】本実施の一形態によるスキャニングソナーの動作を示すフローチャートである。
【図5】指定位置41が中心となる位置に抽出領域21が設定された図である。
【図6】拡大ベクトルにより抽出領域20が設定された図である。
【図7】拡大ベクトルにより抽出領域28が設定された図である。
【図8】標的像10の重心23の位置を基準に、抽出領域50が設定された図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の一形態によるスキャニングソナーのブロック図である。図2は、探査に用いる諸元と、探査結果を海面に投射された表示に変換した表示画面と、を示す図である。ここで、探査に用いる諸元は、探査を行う所定の俯角θと、Rで示される自船11からの距離(以下、レンジと称する)、自船11の水平周囲方向φと、を含む。図1においてスキャニングソナーは、操作部1と、制御部2と、送受波部3と、フレームデータ変換部4と、自位置検出部5と、抽出領域設定部6と、標的像抽出部7と、標的像位置算出部8と、表示部9と、を備える。
【0020】
送受波部3は、自船11の船底に取り付けられており、制御部2からの制御により、所定の周期毎に所定の俯角で周囲(図2のφ方向)360度へ探信波として音波を送波し、標的等からの反射波を受波する際、図2に示す指向角の鋭いペンシル形状の受波ビーム13は、所定の俯角θとレンジRで形成され、受波ビーム13を俯角θでφ方向に回転させ探査する。送受波部3は、受波ビーム13の軌跡である円錐体表面に沿った傘型の水平断面に存在する魚群12などの標的からの反射波の強度信号(以下、エコー信号と称する)を受波し、必要に応じてゲイン補正等を施し、レンジ(自船11からの距離)毎の探査データをフレームデータ変換部4に出力する。すなわち探査データは、必要に応じて送受波部3がエコー信号にゲイン補正等を施したデータである。また送受波部3は、探査に用いた諸元として受波ビーム13の、俯角θと、レンジRと、自船11の水平周囲方向φと、を含んだデータを制御部2に出力する。
【0021】
フレームデータ変換部4は、送受波部3から入力されたレンジ毎の探査データをA/D変換し、画像フレームデータに変換する。すなわち画像フレームデータは、フレームデータ変換部4がレンジ毎の探査データをA/D変換し、A/D変換後のデータをレンジ毎に内部メモリ等(不図示)に集積して、必要に応じて例えば雑音除去のためのフィルタ処理を施したデータである。ここで画像フレームデータは、図2、図3の画面において、自船11の位置と船首方向とを表示したマーク35から外側に向かう順に表示が更新されるものとする。表示の更新については、図3を用いて後述する。なお、画像フレームデータの表現はR−φ空間形式に限らなくてもよく、円錐体表面に沿った傘型を表現する任意の空間表現形式を用いて良い。
【0022】
図2に示すように、俯角θの傘型の水平断面の位置に魚群12が存在している場合は、音波により2次元断面として捕捉した魚群12の映像である標的像10が画像フレームデータに得られ、その標的像10が含まれた画像フレームデータは、フレームデータ変換部4から表示部9に出力されることで、図2の上図のように表示部9に表示される。また画像フレームデータは、フレームデータ変換部4から標的像抽出部7にも出力される。
【0023】
操作部1は、画像フレームデータに含まれる追尾対象である標的像10を囲む領域(以下、抽出領域と称する)を指定する領域指定データの入力を受け付ける。この領域指定データには、抽出領域としてユーザが指定した位置(以下、指定位置と称する)を示す座標データが含まれる。
【0024】
この領域指定データは、例えばその指定位置が点として、あるいは矩形状の枠として、表示部9に表示されてもよい。ここで領域指定データは、抽出領域としてユーザが任意の1点を指定したデータであっても良いし、抽出領域としてユーザが2点以上を指定した寸法(以下、指定寸法と称する)を示すデータであってもよい。
【0025】
また、操作部1は、魚群12の魚種を特定する魚種データ(以下、魚種データと称する)の入力を受け付ける。操作部1は、領域指定データと魚種データを制御部2に出力する。この操作部1は、例えば、トラックボール、スティックレバー、マウス、タッチパネル等である。
【0026】
制御部2は、入力された領域指定データと魚種データを抽出領域設定部6に出力する。なお制御部2は、操作部1から領域指定データが入力されると、標的像10の追尾処理を開始し、操作部1から追尾終了の指示が入力されると、追尾処理を終了する。
【0027】
ここで、抽出領域の寸法の初期値は、魚種データに対応付けられ、抽出領域設定部6が予め記憶している。あるいはユーザが操作部1と制御部2を介して抽出領域設定部6に記憶させることができるものとする。すなわち、次回の探査までに魚群12が移動することを考慮し、次回の探査で抽出領域に標的像を捉えることができるよう抽出領域の寸法は、魚種データを考慮して標的像10の最大速度に基づいて決める必要がある。
【0028】
そこで、ユーザが操作部1を用いて魚種データを入力すると、操作部1から制御部2を経由して抽出領域設定部6に魚種データが入力される。抽出領域設定部6は、魚種データに対応付けた抽出領域の寸法の初期値を、記憶された領域から読み出して選択する。また、抽出領域設定部6は、抽出領域の所定の最大寸法と、抽出領域を拡大する回数についての所定の限度回数と、抽出領域の現在の寸法と、抽出領域を現在までに拡大した回数と、を記憶している。
【0029】
抽出領域設定部6は、標的像10の位置、形状、寸法に応じて、抽出領域を設定する。また、標的像10を含んだ標的候補像が抽出領域に含まれなくなった場合や、標的候補像が抽出領域からはみ出している場合も、抽出領域を再設定する。抽出領域の具体的な設定手順については後述する。なお、標的候補像は複数の像を含むとしてもよいが、少なくとも標的像10を含むものとする。
【0030】
標的像抽出部7は、フレームデータ変換部4から取得した、標的候補像が含まれる画像フレームデータと、抽出領域設定部6が設定した抽出領域と、から追尾対象とする標的像10を、抽出領域にある標的候補像のうち最も尤度の大きい標的像として抽出し、標的像位置算出部8に通知する。すなわち、抽出領域に複数の標的候補像が含まれる場合には、例えば標的候補像のうち最も尤度(例えば、標的像の面積等)の大きい標的像を追尾対象とする。また標的候補像が抽出領域に含まれない場合は、標的候補像が抽出領域に含まれなくなったことを抽出領域設定部6に通知する。
【0031】
自位置検出部5は、例えばジャイロ装置や、GPS(Global Positioning System)などの衛星航法装置により構成され、自船11の絶対位置及び進行方向を含む自船情報を、標的像位置算出部8に出力する。
【0032】
標的像位置算出部8は、標的像抽出部7から通知された標的像10に基づいて、自船11に対する標的像10の相対位置を検出して表示部9に出力する。また標的像位置算出部8は、この相対位置と、自位置検出部5から通知された自船情報に含まれる自船11の絶対位置及び進行方向に基づいて、魚群12の絶対位置を算出し、抽出領域設定部6に出力する。さらに抽出領域設定部6は、標的像位置算出部8から入力された魚群12の絶対位置を記憶する。さらに表示部9は、自船11に対する標的像10の相対位置を表示する(図2の上図)。
【0033】
図3は、標的像10と自船11との相対位置の表示更新順を示す図である。この図3は、図2の上図に相当する。前述のように画像フレームデータは、自船11の位置と船首方向とを表示したマーク35から外側に向かう順に表示が更新される。すなわち、図3(A)では、前回の探査結果による画像フレームデータ30がまだ表示されている場合を示しており、画像フレームデータ30に前回探査された標的像10が表示された場合を図示している。
【0034】
次に、ソナーが今回の探査を実行し、その探査結果である画像フレームデータ34が途中まで表示された場合を、図3(B)に示す。図3(B)では、前回の探査で位置が表示された標的像10の一部が表示されなくなっているが、これは前回の探査の画像フレームデータ表示から今回の探査画像フレームデータ表示までの時間に、標的像10が移動したことを示している。図3(C)は、今回の探査結果による画像フレームデータ34がすべて表示された場合を示す。この図において、標的像10が移動した結果、今回の探査により新たな位置に捕捉された図3(C)の標的像10の位置は、図3(B)の標的像10とは異なる位置に示されている。
【0035】
図4は、本実施の一形態によるスキャニングソナーの動作を示すフローチャートである。ユーザが操作部1を用いて、領域指定データと魚種データを入力する。操作部1は、入力された領域指定データと魚種データを制御部2に出力し、制御部2は領域指定データと魚種データを抽出領域設定部6に転送する(ステップS1)。抽出領域設定部6は領域指定データと魚種データを基に、図5に示すR−φ空間において、指定位置41が中心となる位置に、標的像10を抽出するための計算処理を行う対象である領域として抽出領域21を設定する(ステップS2)。
【0036】
ステップS1において、画像フレームデータの表示途中でユーザが領域指定データを入力した場合は(ステップS3)、例えば図3と図6を用いて説明すれば、図3(C)画像フレームデータ34に対して1フレーム分遅い図3(B)画像フレームデータ30の標的像10を指定し、領域指定データを入力したことになるので、画像フレームデータ表示の更新が図3(C)のように完了した場合に、画像フレームデータ34の標的像10が抽出領域20に含まれるよう、標的像10の最大速度を考慮して、抽出領域21を抽出領域20に拡大する。
【0037】
この場合、画像フレームデータ30の標的像10の移動方向は、画像フレームデータ34が表示途中であるために不明である。このため、抽出領域設定部6は抽出領域21を特定方向のみに拡大せず、図6に示すR−φ空間において、抽出領域21の各辺をR軸に平行する拡大ベクトル25と拡大ベクトル26、φ軸に平行する拡大ベクトル27と拡大ベクトル24、の4本のベクトル方向により抽出領域20となるよう拡大する(ステップS16)。なお、抽出領域は図5から図8に示すような長方形に限られず、例えば円形、多角形、扇形などとしてもよい。
【0038】
抽出領域21を抽出領域20に拡大した結果、標的像10以外の像であるノイズ像40が抽出領域20に含まれてしまう場合があるが、標的像抽出部7は、標的像10の面積とノイズ像40の面積を比較し、面積が最大(エコー信号の強度が最大)である標的像10に対応する魚群12を最尤の標的とする。
【0039】
拡大ベクトル25から拡大ベクトル27は、図6に示すように、延長すると標的像10の重心23を通るように設定してもよい。また、標的追尾のための計算処理量を少なく保ち、さらにノイズ像を可能な限り抽出領域に含めないよう、拡大ベクトル25から拡大ベクトル27の寸法は必要以上に長くないことが望ましいので、各拡大ベクトルの寸法は、魚種データに対応させた最大速度と、探査時間間隔あるいは画像フレームデータの表示更新時間間隔と、を掛け合わせた値に基づいて定めても良い。このような拡大ベクトルを用いて抽出領域設定部6が抽出領域21を拡大すれば、ノイズ像をなるべく抽出領域20に含めないようにできるので、最尤である標的像10の識別率を向上させることができる。
【0040】
次に制御部2は、ユーザが操作部1を操作して制御部2に標的像の追尾終了を通知したか否か、を判断する(ステップS4)。制御部2に追尾終了が通知されていない場合、ソナーが標的追尾を続けるため、制御部2は送受波部3によって探査を行い、送受波部3は探査データをフレームデータ変換部4に出力する。またフレームデータ変換部4は探査データから画像フレームデータを作成する(ステップS5)。フレームデータ変換部4は、表示部9に画像フレームデータを出力する。また表示部9は、画像フレームデータの表示を更新する。さらに、フレームデータ変換部4は、画像フレームデータを標的像抽出部7に出力する。
【0041】
標的像抽出部7は、抽出領域設定部6から取得した抽出領域20の寸法と位置データと、フレームデータ変換部4から取得した画像フレームデータとから、図6に示す標的像10とノイズ像40を標的候補像にする(ステップS6)。次に標的像抽出部7は、標的候補像が抽出領域20からはみ出しているか否かを判定する(ステップS7)。
【0042】
図7に示すように、標的候補像が抽出領域20からはみ出している場合、標的像抽出部7は、標的候補像の斜線部分が抽出領域20からはみ出していることを、抽出領域設定部6に通知する。この通知を受けると、抽出領域設定部6は、抽出領域の寸法が所定の最大寸法未満か否かを判定する(ステップS8)。
【0043】
抽出領域20が所定の最大寸法未満である場合は、抽出領域設定部6は、抽出領域20を拡大することができる。図7に示す例では、標的像10の斜線部分が抽出領域20からはみ出しているので、抽出領域28に標的像10が含まれるよう、抽出領域設定部6は拡大ベクトル43により抽出領域20を1方向にのみ拡大し、あるいは抽出領域28が所定の寸法になるまで抽出領域20を拡大して(ステップS9)、ステップS6に戻る。この場合、抽出領域設定部6は、充分に寸法が短い拡大ベクトルを用いて、抽出領域20が抽出領域28になるまで繰り返し拡大する、としてもよい。
【0044】
標的像抽出部7は、抽出領域28に標的候補像が存在するか否かを判定する(ステップS10)。抽出領域28に標的候補像が存在しない場合、標的像抽出部7は、標的候補像が抽出領域に含まれていないことを抽出領域設定部6に通知する。
【0045】
抽出領域設定部6は、標的候補像が抽出領域28に含まれていないことを通知されると、抽出領域28の寸法が所定の最大寸法未満で、かつ、抽出領域の拡大回数が所定の限度回数未満であるか否か、を判定する(ステップS14)。この抽出領域28の寸法が所定の最大寸法未満で、かつ、抽出領域の拡大回数が所定の限度回数未満である場合は、抽出領域設定部6は、ステップS16と同様に抽出領域を例えば4本のベクトル方向に拡大して(ステップS15)、ステップS4に戻る。ステップS14の判断において、抽出領域28の寸法が所定の寸法に達している、若しくは抽出領域の拡大回数が所定の回数に達している場合は、そのままステップS4に戻る。
【0046】
ステップS10の判断において、抽出領域28に標的候補像が存在する場合、標的像抽出部7は、前述の手順により抽出領域28の最尤の標的である標的像10を、追尾対象の標的として選択し、抽出領域設定部6に標的像10の形状と、重心23の位置を通知する(ステップS11)。
【0047】
次に標的像位置算出部8は、自船11に対する標的像10の相対位置と、自位置検出部5から通知された自船情報に含まれる自船11の絶対位置及び進行方向に基づいて、魚群12の絶対位置を算出し、抽出領域設定部6に出力する(ステップS12)。
【0048】
抽出領域設定部6は、今回探査における標的像10の位置を基準に、次回探査における抽出領域50を設定する(ステップS13)。図8を用いて抽出領域50の設定手順を説明する。ここで魚群12の映像である標的像10の位置は、例えば緯度、経度などで示される絶対位置によって示され、抽出領域設定部6はこの絶対位置を基準にして抽出領域50を設定するものとする。魚群12の映像である標的像10の位置に絶対位置を用いれば、自船11の移動分に関わらず、魚群12の運動のみを想定して抽出領域の寸法を制限できるためである。
【0049】
図8において、抽出領域51は標的像10が内接するよう抽出領域設定部6によって設定されている。すなわち抽出領域51は、標的像10を完全に含むことができる最小寸法の領域である。また、拡大ベクトル52から拡大ベクトル55は、延長すると標的像10の重心23を通る。さらに各拡大ベクトルの寸法は、魚種データに対応させた最大速度と、探査時間間隔あるいは画像フレームデータの更新時間間隔と、を掛け合わせた値に基づいて定められている。抽出領域設定部6は、拡大ベクトル52から拡大ベクトル55を用いて抽出領域51を抽出領域50に拡大する(ステップS13)。
【0050】
このように、最小寸法の領域である抽出領域51を、前述のように定められた拡大ベクトルを用いて抽出領域50に拡大し設定すれば、次回の探査までに魚群12が移動しても、次回の探査においても抽出領域50に標的像10を捕捉することが期待でき、必要以上の寸法に拡大されていない抽出領域50は、抽出領域50に含まれるノイズ像を最少にするので、抽出領域50における最尤の標的である標的像10の認識率を向上させるとともに、標的追尾のための計算処理量が必要以上に増大することを防ぐことができる。
【0051】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。例えば、レーダ装置に適用される場合は、レーダ装置は音波の代わりに電磁波を用いて探査し、抽出領域の拡大処理等を行えばよい。
【0052】
また、本発明に記載の送受波部は、送受波部3に対応し、フレームデータ変換部は、フレームデータ変換部4に対応し、表示部は、表示部9に対応し、抽出領域設定部は、抽出領域設定部6に対応し、標的像抽出部は、標的像抽出部7に対応し、標的像位置算出部は、標的像位置算出部8に対応する。
【0053】
また、図4に示す各ステップを実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、通信端末の実行処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
【0054】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0055】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。
さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、スキャニングソナー、魚群探知機、レーダ装置に適用される、標的像追尾装置、標的像追尾方法、および標的像追尾プログラムに好適である。
【符号の説明】
【0057】
1…操作部 2…制御部 3…送受波部 4…フレームデータ変換部 5…自位置検出部 6…抽出領域設定部 7…標的像抽出部 8…標的像位置算出部 9…表示部 10…標的像 11…自船 12…魚群 13…受波ビーム 20…抽出領域 21…抽出領域 23…重心 24…拡大ベクトル 25…拡大ベクトル 26…拡大ベクトル 27…拡大ベクトル 28…抽出領域 30…画像フレームデータ 34…画像フレームデータ 35…マーク 40…ノイズ像 41…指定位置 42…ノイズ像 50…抽出領域 51…抽出領域 52…拡大ベクトル 53…拡大ベクトル 54…拡大ベクトル 55…拡大ベクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、
前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、
前記画像フレームデータを表示する表示部と、
前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定する抽出領域設定部と、
前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出する標的像抽出部と、
前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知する標的像位置算出部と、
を備えることを特徴とする標的像追尾装置。
【請求項2】
前記標的である魚群の魚種を指示する入力を受け付ける第1の入力部を備え、
前記抽出領域設定部は、
前記第1の入力部から入力される魚種に応じた前記標的の最大速度と、前記標的に当てる探信波の受信周期と、に基づいて前記抽出領域の寸法を設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の標的像追尾装置。
【請求項3】
前記標的像抽出部は、前記標的像の少なくとも一部が前記標的像領域外に出ているか否かを判定し、
前記抽出領域設定部は、前記標的像の少なくとも一部が前記抽出領域外に出ている場合、
前記標的像が前記抽出領域に含まれるよう、前記標的像の重心から前記標的像の部分に向かう方向に前記抽出領域を拡大する、
ことを特徴とする請求項1から請求項2のいずれか1つに記載の標的像追尾装置。
【請求項4】
抽出領域を指定するデータである抽出領域データの入力を受け付ける第2の入力部を備え、
前記抽出領域設定部は、前記第2の入力部から入力される抽出領域データに従って、前記抽出領域を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の標的像追尾装置。
【請求項5】
前記抽出領域設定部は、前記標的像が前記抽出領域に含まれるか否かを判定し、
前記抽出領域設定部は、前記標的像が前記抽出領域に含まれない場合、
所定の寸法、あるいは所定の回数まで前記抽出領域を拡大することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の標的像追尾装置。
【請求項6】
前記抽出領域設定部は、前記標的像の重心から、
前記送受波部からの距離が長くなる方向と、前記送受波部からの距離が短くなる方向と、前記送受波部に対して時計周りの水平周囲方向と、前記送受波部に対して反時計周りの水平周囲方向と、
に前記抽出領域を所定の寸法まで拡大することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の標的像追尾装置。
【請求項7】
標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、前記画像フレームデータを表示する表示部と、を備える標的像追尾装置における処理方法であって、
抽出領域設定部が、前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定するステップと、
標的像抽出部が、前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出するステップと、
標的像位置算出部が、前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知するステップと、
を含むことを特徴とする標的像追尾方法。
【請求項8】
標的に当てる探信波を周期的に送信し、その反射波を受信する送受波部と、前記送受波部が受信した反射波を画像フレームデータに変換するフレームデータ変換部と、前記画像フレームデータを表示する表示部と、を備える標的像追尾装置のコンピュータに、
前記画像フレームデータに含まれる領域であって、標的像を抽出する対象である抽出領域の位置を、前回の前記画像フレームデータにおいて抽出した最尤の標的像の絶対位置とし、前記抽出領域の寸法を、前記標的の最大速度と、前記探信波が送受信される周期と、に応じて設定する手順と、
前記抽出領域に含まれる単数あるいは複数の前記標的像から最尤の標的像を抽出する手順と、
前記最尤の標的像の相対位置を検出し、前記最尤の標的像の絶対位置を算出し、前記抽出領域設定部に通知する手順と、
を実行させるための標的像追尾プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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