説明

標識された石油製品及びそれらを検出する方法

標識された化合物(標識された石油製品を含む)及びそれらを検出する方法について開示する。標識された石油製品は、ビオランスロン(例えば、置換されたビオランスロン)またはイソビオランスロン(例えば、置換されたイソビオランスロン)で標識される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識された石油製品に関するものであり、更に、それらを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの理由により、営利を目的とする製品の偽造或いは模倣が頻繁に行われている。偽造品は、原製品と比較して視覚的に同一であるように認識されてしまうが、原製品が備えている好ましい特性などを実質的には有していない。そのような欺く行為は、例えば、原製品のブランド名或いは生産者のブランドイメージに対して損害を及ぼすこともあり、時には回復不能な損害を招くこともあり得る。原製品を、容易に入手可能で安価な物質で希釈することで、偽造者は莫大な利益を得ることもある。
【0003】
例えば、石油製品は識別目的として着色剤を用いることで標識することが可能であり、視覚的に肉眼で識別できるくらいの特異的な色が与えられる。そのような標識は、様々な目的で、標識された石油製品と、その他の石油製品との識別が可能となり、例えば、生産者の区別、異なる率で課税された類似の燃料の識別、燃料の種々の品質等級の特定、石油製品の粗悪品、偽造品、及び/または不正使用を追跡できないように表示、ならびにその他の不法な慣行(例えば、脱税及び窃盗)を見つけるのを困難にする。
【0004】
高い税率が課せられた同類の燃料類と区別し、かつ脱税を見抜けるように、より低い税率が課せられた石油製品に対して、政府はこれら石油製品を着色するように義務付けている。石油製品もまた、販売業者による誤用を防ぐために、市販のブランド製品(例えば、ガソリンなど)は、石油会社によって着色されている。上記石油会社は、それらのブランド製品が揮発度及びオクタンの規格に対応し、かつ浄化剤及びその他の添加剤を含む有効なパッケージを有する製品が提供されることを保証しなければならない。そのためには、石油会社が負担しなければならない代価が生じてしまうが、その代償として、消費者はそれら有名ブランド製品の価値を認識し、品質の向上によって価格が上乗せされた石油製品を好んで購入することになる。ブランド商品を模造若しくは希釈することによって、販売業者は消費者を巧みに騙し、劣等品を販売することで多額の利益が吸い上げられている。
【0005】
また、着色剤は必ずしも信頼性の高いものであるとは限らないことも知られている。着色剤は、酸/塩基反応などによる比較的簡易な方法で除去することが可能である。また、天然物質もしくは添加剤によって着色剤は不明瞭となり、それら着色剤の検出が困難になってしまう。他の問題点は、検出するためには大量の着色剤を添加する必要性があり、これによる費用の増加及びその他の問題が生じる可能性がある。
【0006】
ここで必要となるのは、製品の真偽判別に用いられ、より信頼性の高い技術を提供する、原製品に添加することが可能な標識化合物である。標識化合物は容易に取り除かれてはならない。また、監視する人員のトレーニングをあまり必要とせず、かつ原製品を識別或いは標識するのに用いられる標識化合物が比較的安価であれば有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,554,774号明細書
【特許文献2】米国特許第4,486,587号明細書
【特許文献3】米国特許第4,198,529号明細書
【特許文献4】米国特許第4,076,645号明細書
【特許文献5】米国特許第4,313,843号明細書
【特許文献6】米国特許第4,678,608号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、標識された石油製品に関するものであり、更には、それらを検出する方法に関する。例えば、標識された石油製品は、ビオランスロン(例えば、置換されたビオランスロン)またはイソビオランスロン(例えば、置換されたイソビオランスロン)で標識されてよい。図1A及び1Bは、ビオランスロン(1)及びイソビオランスロン(1’)の構造をそれぞれ示す。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施態様では、本発明は、石油製品と、図2Aおよび図2Bにそれぞれ示す、構造式I及び/または構造式IIの標識化合物とを含む標識された製品を特徴とする。構造式I及び構造式IIでは、RnのそれぞれのRは、独立して、OH、SH、NH2、NO2、F、Cl、Br、Iまたは1〜36個の炭素原子を含む官能基部を含む。各々のnは、0〜8の整数である。
【0010】
本発明の幾つかの実施形態において、標識化合物の検出を可能にするために、標識化合物の濃度は少なくとも約1質量ppbとなるように石油製品に溶解される。
【0011】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含む官能基部を含む。幾つかの実施形態において、Rzは、少なくとも1つのN、O、S、F、Cl、Br、またはI原子をさらに有してもよい。
【0012】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である。幾つかの特定の実施形態において、Rzは炭素及び水素原子のみを含む。例えば、Rzは、炭素数1〜21のアルキル、炭素数1〜8のシクロアルキル、炭素数1〜21のアルケニル、炭素数1〜10のアリール、または炭素数1〜21のアルキルアリールであってよい。
【0013】
幾つかの他の実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である。幾つかの特定の実施形態において、官能基部は炭素、水素、及び酸素のみを含む。例えば、炭素、水素、及び酸素のみを含む官能基部は、エーテルもしくはエステル基、例えば、中心骨格に直接結合される基であってよい。
【0014】
幾つかの事例において、標識化合物は、図3Aに示す構造式IIIである。このような事例において、R1及びR2は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。
【0015】
幾つかの実施例において、標識化合物は、図3Bに示す構造式IVである。このような実施例において、R3及びR4は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。
【0016】
幾つかの他の実施例において、標識化合物は、図4に示す構造式Vである。このような実施例において、R5、R6、R7、及びR8は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。
【0017】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である。このような実施形態において、官能基部は環(例えば、1、2、3または4つの環)を形成してもよい。例えば、環部は5、6、または7員環であってよい。例えば、環は炭素環もしくは複素環であってよい。
【0018】
石油製品の例としては、ガソリン、灯油、ディーゼル、ナフサ、潤滑油、燃料油(furnace oil)、またはこれらいずれかの混合物(例えば、軍用機燃料もしくはJP4として一般に知られている、ガソリンと灯油との混合物)が挙げられる。
【0019】
幾つかの実施形態において、標識された製品中の標識化合物の濃度は、質量基準で、約0.001ppm〜約1000ppmである。低濃度は、コスト面、製品の品質及び/または性能の理由から望ましい。
【0020】
その他の実施形態において、標識化合物は近赤外光に応答する。例えば、標識化合物は近赤外光を吸収及び/または放射してよい。
【0021】
その他の実施態様において、本発明は、標識された製品が石油製品と、構造式I及び/または構造式IIの標識化合物とを含む、標識された製品のサンプルを選択する工程と、標識された製品中の標識化合物を検出する工程とを含む方法を特徴としている。
【0022】
幾つかの実施形態において、少なくとも約1質量ppbの濃度で標識化合物を製品中に溶解する。これによって、標識化合物を容易に検出することができる。
【0023】
例えば、検出する工程は標識化合物の応答を検出する工程を含んでよい。例として、応答は、(i)標識化合物からの放射、(ii)標識化合物による吸収、或いは(iii)標識化合物と他の化合物とが反応することにより生じた反応生成物からの放射、であってよい。
【0024】
幾つかの実施形態において、応答は、標識化合物からの放射及び/または標識化合物による吸収を含む。例えば、放射及び/または吸収は、約500nm〜約900nmの波長で生じてもよい。
【0025】
場合によっては標識化合物の存在の検出のみが望まれるが、他の実施形態において、応答量を測定することが好都合である。
【0026】
その他の実施態様において、本発明は、石油製品と、石油製品中に溶解された第1の標識化合物とを含む標識された製品を特徴とする。第1の標識化合物は、置換されていないビオランスロン、置換されたビオランスロン、置換されていないイソビオランスロン、置換されたイソビオランスロン、またはそれらの組み合わせであってよい。
【0027】
幾つかの実施形態において、第1の標識化合物は、トルエンに対して約0.5質量%以上、例えば、トルエンに対して1質量%以上の溶解度を有する。ビオランスロンまたはイソビオランスロンの濃縮物を調製することが可能となるから、高い溶解度を有していることが望ましい。濃縮物により、(例えば、稼働中のガソリンもしくはジェット燃料のオンラインでの混合の際)少量の標識化合物が大量の石油製品に容易に添加可能となる。
【0028】
幾つかの実施形態において、第1の標識化合物は、1〜36個の炭素原子を含む、少なくとも1つの官能基部で置換される。
【0029】
幾つかの他の実施例において、標識された製品は、第1の標識化合物とともに石油製品中に溶解される第2の標識化合物をさらに含んでいる。そのような実施例において、第1の標識化合物と異なる第2の標識化合物は、置換されていないビオランスロン、置換されたビオランスロン、置換されていないイソビオランスロン、置換されたイソビオランスロン、またはそれらの組み合わせである。
【0030】
幾つかの実施形態において、第2の標識化合物は、トルエンに対して約0.5質量%以上、例えば、トルエンに対して1質量%以上の溶解度を有している。
【0031】
検出するためには、第1の標識化合物が石油製品中に少なくとも約1質量ppbの濃度で溶解され、第2の標識化合物もまた、石油製品中に少なくとも約1質量ppbの濃度で溶解されることが望ましい。
【0032】
その他の実施態様において、本発明は、石油製品を含む標識された製品のサンプルを選択する工程と、標識された製品の吸収及び放射データを収集する工程と、標識された製品源を特定するために、収集したデータを標識化合物のデータと比較する工程とを備える方法を特徴とする。標識化合物のデータは、構造式I及び/または構造式IIの化合物のデータである。例えば、サンプルから収集されたデータは、構造式I及び/または構造式IIの化合物の波長データ及び濃度対吸光度データを有するライブラリーと比較される。
【0033】
本発明の実施形態及び/または実施態様は、以下の利点のうち何れか、或いはそれらの組み合わせを有することができる。標識化合物は、可燃性化合物である。標識化合物は、標識化合物が添加された石油製品の性能を著しく低下させることはなく、また標識化合物が添加された石油製品の物理的及び/或いは化学的特性を著しく変化させることはない。標識化合物は、標識された石油製品中において低濃度で検出可能であり、例えば、1質量ppb以上、例えば、約0.001質量ppm〜約1000質量ppmで検出可能である。その化合物は、例えば、芳香族石油製品(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、Aromatic-100(登録商標)(炭素数9〜10の芳香族混合物)、Aromatic-150(登録商標)(炭素数10〜11の芳香族混合物)またはAromatic-200(登録商標)(炭素数10〜14の芳香族混合物))などの石油製品に容易に溶解する。高い溶解性は、石油製品に添加するのに好都合な形態である濃縮物の調製を可能にする。例えば、標識化合物は、石油製品中において0.25質量パーセントより大きな溶解度(例えば、石油製品中、0.5質量パーセントより大きい、1質量パーセントより大きい、1.5質量パーセント、2.0質量パーセント、或いは5質量パーセントよりさらに大きい)を有することができる。
【0034】
さらに、標識化合物は化学的に安定であり、例えば、酸化、分解、及び/または熱転位を起こしにくい。標識化合物は、石油製品中で結晶及び/または塊になりにくい。標識化合物は検出することが可能であり、それらの濃度は市販の蛍光光度計または赤外分光計(例えば、近赤外分光計)を用いて測定される。化合物の比率をあらかじめ設定することができることから、偽造をより困難にするために標識化合物の混合物を用いることができ、結果的には固有の「分光指紋(spectral fingerprint)」として得られる。標識化合物は調製するのに比較的安価である。
【0035】
任意に、標識化合物は、標識化合物と、反応剤〔例えば、強力な酸化剤(例えば、有機ペルオキシシュウ酸であり、任意に、過酸化物と併用される)〕との反応生成物より発せられる化学ルミネセンス(chemiluminescence)を測定することによって検出することが可能である。標識化合物の多くがスペクトルの近赤外領域〔例えば、約650nm〜約900nm(但し、スペクトルの可視領域においてほんの少し吸収されるか、吸収されない)及び約400nm〜約650nm(肉眼では標識化合物が「透明」である)〕において吸収かつ/もしくは放射される。結果として、標識化合物は、それらが添加される石油製品の色を認識できるほど変化させることはない。
【0036】
本明細書中において、用語「石油製品」は、炭化水素化合物または、天然ガスもしくは石油を処理する過程で得られる混合物である。この処理過程は、一般的には、石油精製所、ガス処理プラント、及びガソリンプラントで行われる。石油製品は、例えば、ブタン、プロパン、ベンゼン、トルエン、ガソリン、暖房用油、航空用オイル、灯油、及びディーゼル燃料が含まれる。エチレン及びプロピレンなどの炭化水素原料もまた含まれる。炭化水素原料をさらに加工処理、例えば、炭化水素原料に塩素、窒素、または酸素が添加された、石油化学プラントで製造された中間及び最終生成物は、石油製品とは見なされていない。例えば、車の不凍液として用いられるエチレングリコールは、石油製品とは見なされない。
【0037】
本明細書中に記載されたすべての出版物、特許出願、特許広報、及びその他の参考文献のすべてが、それらの内容の全体において、参照により本明細書に組み込まれている。
【0038】
本発明に係るその他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1A】ビオランスロン(1)の構造式を示す。
【図1B】イソビオランスロン(1’)の構造式を示す。
【図2A】置換されたビオランスロン(I)の構造式を示す。
【図2B】置換されたイソビオランスロン(II)の構造式を示す。
【図3A】16,17−二置換ビオランスロン(III)の構造式を示す。
【図3B】6,15-二置換イソビオランスロンの構造式を示す。
【図4】1,14,16,17-四置換ビオランスロン(V)の構造式を示す。
【図5A】16,17-ジヒドロキシ置換ビオランスロン(2)の構造式を示す。
【図5B】6,15-ジヒドロキシ置換イソビオランスロン(2’)の構造式を示す。
【図6】1,14,16,17-テトラヒドロキシ置換ビオランスロン(3)の構造式を示す。
【図7】ビオランスロン類及びイソビオランスロン類の様々な置換基を示す。
【図8】ビオランスロン類及びイソビオランスロン類の様々な置換基を示す。
【図9】ビオランスロン類及びイソビオランスロン類の様々な置換基を示す。
【図10】塩素化されたビオランスロン(VII)及び/またはイソビオランスロン(VIII)の合成方法を示す。
【図11】クロスカップリング反応による置換されたビオランスロン(IX)及び/またはイソビオランスロン(X)の合成方法を示す。
【図12】16,17-ジエステル官能基を含有するビオランスロン(XI)及び/または6,15-ジエステル官能基を含有するイソビオランスロン(XII)の合成方法を示す。
【図13】16,17-ジエーテル官能基を含有するビオランスロン(XIII)及び/または6,15-ジエーテル官能基を含有するイソビオランスロン(XIV)の合成方法を示す。
【図14】16,17-ジエーテル官能基を含有するビオランスロン(XV)及び/または6,15-ジエーテル官能基を含有するイソビオランスロン(XVI)の別の合成方法を示す。
【図15】蛍光光度計の略図を示す。
【図16】レーザーダイオード光源及びLEDインジケータを利用した蛍光光度計の略図を示す。
【図17】16,17-ジヒドロキシビオランスロン(2)と2-エチルヘキシルブロミドとから16,17-ジ-2-エチルヘキシルエーテル(7)を調製する合成方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
ビオランスロン類(例えば、置換されたビオランスロン類)、イソビオランスロン類(例えば、置換されたイソビオランスロン類)、またはそれらの組み合わせは、近赤外蛍光色素分子であり、石油製品を特定するための極めて有効な標識化合物である。一般的には、標識化合物であるビオランスロン類及びイソビオランスロン類は、適当な熱的安定性、及びスペクトルの可視領域において少量の光吸収を有している。それにより、標識化合物は、それらが混合される石油製品に対して若干の彩色を与えるか、全く彩色を与えない。有利には、標識化合物は、スペクトルの近赤外領域(例えば、約670〜2500nmの波長)において強い吸収及び/または放射を示し、標識化合物の検出を容易に行うことができる。
【0041】
図1Aを参照すると、ビオランスロン類の最も単純な化合物は、9個の縮合された6員環、及び5位及び10位にカルボニル基を含有する、ビオランスロン(1)自身である。ビオランスロン(1)分子は、高度に非局在化されたπ電子系を有しており、これによって分子が平面構造を有することを余儀なくされる。同様に、イソビオランスロン類の最も単純な化合物は、イソビオランスロン(1’)自身であり、9個の縮合された6員環を有している(図1Bを参照)。イソビオランスロン(1’)の場合、カルボニル基は、9位および18位、平面構造の反対側に位置する。
【0042】
一般的には、標識された製品は、石油製品と、1以上のビオランスロン及び/もしくはイソビオランスロン標識化合物とを含む。図2A及び図2Bを参照すると、幾つかの実施形態において、標識化合物はそれぞれ構造式I及び構造式IIで示される。そのような化合物において、RnのそれぞれのRは、独立して、OH、SH、NH2、NO2、F、Cl、Br、Iまたは1〜36個の炭素原子を含む官能基部である。図示された実施例において、nは0〜8の整数である。
【0043】
幾つかの実施形態において、標識された製品は、標識化合物が石油製品中に少なくとも約1質量ppbの濃度で溶解している。例えば、濃度は、約2、3、10、25、50、75、100質量ppbより高い濃度、或いは約250質量ppbより高い濃度であってよい。例えば、コスト面及び標識化合物が石油製品の性能を低下させる可能性を低減させるために、最終的な石油製品における標識化合物の濃度は、有利には約2500質量ppb未満であり、例えば、2000質量ppb未満、1500質量ppb、或いは1000質量ppb未満である。
【0044】
幾つかの実施形態において、nは1〜6であり、例えば2〜5である。
【0045】
幾つかの事例において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である。そのような事例において、1〜36個の炭素原子を含む1以上の官能基部は、1つ以上のN、O、S、F、Cl、Br、またはI原子をさらに含んでよい。例えば、それぞれのRは、1〜36個の炭素原子を含み、かつ炭素、水素、及び酸素原子のみを含有する官能基部であってよい。例えば、Rは、それぞれ、1つ以上のエステル基もしくはエーテル基を含んでよい。例えば、エステル基またはエーテル基は、ビオランスロンもしくはイソビオランスロン骨格に直接結合されてもよく、或いはRの間に存在してもよい。
【0046】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含み、かつ炭素及び水素原子のみを含む(すなわち、炭化水素フラグメントである)官能基部である。例えば、炭化水素フラグメントは、炭素数1〜21のアルキル、炭素数1〜8のシクロアルキル、炭素数1〜21のアルケニル、炭素数1〜10のアリール、または炭素数1〜21のアルキルアリールであってよい。
【0047】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのR(Rz)は、1〜36個の炭素原子を含み、少なくとも幾つかの炭素原子が1以上の環系を形成する官能基部である。例えば、形成される環部は、例えば、3、4、5、6、7、8、もしくは9員環であってよい。例えば、形成される環部は、炭素環もしくは複素環であってよい。
【0048】
図3Aを参照すると、幾つかの実施形態において、標識化合物は、構造式IIIで表される16,17-二置換ビオランスロンである。そのような事例において、R1及びR2は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。例えば、それぞれは、独立して、エステル、エーテル、または炭化水素フラグメントを表してよく、或いは、エステル基、エーテル基、もしくは炭化水素フラグメントを含んでよい。幾つかの実施形態において、標識化合物は、構造式IVで表される6,15-二置換イソビオランスロンである(図3B)。そのような事例において、R3及びR4は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。例えば、それぞれは、独立して、エステル、エーテル、または炭化水素フラグメントを表してよく、或いは、エステル基、エーテル基、もしくは炭化水素フラグメントを含んでもよい。
【0049】
ここで図4を参照すると、幾つかの実施形態において、標識化合物は、構造式Vで表される1,14,16,17-四置換ビオランスロンである。そのような事例において、R5、R6、R7及びR8は、例えば、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であってよい。例えば、それぞれは、独立して、エステル、エーテル、または炭化水素フラグメントを表してよく、或いは、エステル基、エーテル基、もしくは炭化水素フラグメントを含んでもよい。
【0050】
標識化合物を添加してもよい石油製品の例として、ガソリン、灯油、ディーゼル、ナフサ、潤滑油、ベンゼン濃縮物、ブタジエンモノマー、イソオクタン、燃料油、プロピレンモノマー、液化石油ガス、石油ロウ、及び鉱油が挙げられる。
【0051】
ここで図5A、5B及び6を参照すると、特定の実施形態において、ビオランスロンまたはイソビオランスロンは、16,17-ジヒドロキシビオランスロン(2)、6,15-ジヒドロキシイソビオランスロン(2’)または1,14,16,17-テトラヒドロキシビオランスロン(3)である。化合物(2)、(2’)、及び(3)は、種々の置換されたビオランスロンもしくはイソビオランスロンの好適な出発原料である。例えば、化合物(2)は、Pfaltz and Bauer Chemical Companyより市販されている。
【0052】
図7を参照すると、幾つかの実施形態において、ビオランスロンまたはイソビオランスロンの1つ以上の置換基は、置換基(5)〜(13)で示されるエステル基もしくはエーテル基であるか、或いはそれらを含有する。それらのうち、標識化合物に対して高い溶解度を与えることから、一般的には、アルキル及びシクロアルキル部分を含むエーテル類ならびにエステル類が好ましい。化合物(5)及び(6)は、Aldrich Chemical Companyより市販されている。
【0053】
ここで図8を参照すると、他の実施形態において、ビオランスロンまたはイソビオランスロンの1つ以上の置換基は、置換基(15)〜(23)で示される炭化水素フラグメントである。炭化水素フラグメントは、例えば、直鎖、分岐、単環式もしくは多環式アルキルであってよい。直鎖及び分岐したアルキルの例として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、アミル、イソアミル、sec-アミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ペンチル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、5-メチルヘキシル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、1,1,3-トリメチルブチル、オクチル、6-メチルヘプチル、1-メチルヘプチル、1,1,3,3-テトラメチルブチル、ノニル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、もしくは7-メチルオクチル、1-、2-、3-、4-、もしくは5-エチルヘプチル、1-、2-、もしくは3-プロピルヘキシル、デシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-及び8-メチルノニル、1-、2-、3-、4-、5-、もしくは6-エチルオクチル、1-、2-、3-、もしくは4-プロピルヘプチル、ウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-、もしくは9-メチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、もしくは7-エチルノニル、1-、2-、3-、4-、もしくは5-プロピルオクチル、1-、2-、もしくは3-ブチルヘプチル、1-ペンチルヘキシル、ドデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-、もしくは10-メチルウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、もしくは8-エチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-、もしくは6-プロピルノニル、1-、2-、3-、もしくは4-ブチルオ
クチル、及び1,2-ペンチルヘプチルが挙げられる。環状アルキル基の例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、及びシクロデシルが挙げられる。例えば、炭化水素フラグメントは、直鎖、分岐、単環式もしくは多環式アルケニルであってよい。アルケニル基の例として、ビニル、アリル、1-メチルビニル、ブテニル、iso-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、シクロペンテニル、1-メチルシクロペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、シクロヘキセニル、1-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、シクロオクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、1-デセニル、3-デセニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニル、1,3-シクロペンタジエニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニル、1,3,5-シクロヘプタトリエニル、及び1,3,5,7-シクロオクタテトラエニルが挙げられる。例えば、炭化水素フラグメントは、アリールであってよい。アリールの例として、フェニル、ビフェニル、ナフチル、アントラセニル、ベンズアントラセニル、ジベンズアントラセニル、及びフェナントレニルが挙げられる。
【0054】
ここで図9を参照すると、幾つかの実施形態において、ビオランスロンまたはイソビオランスロンの1つ以上の置換基は、例えばO、N、S、F、またはClなどのヘテロ原子置換を含んでよい。例えば、Oは、エーテルもしくはエステル基を構成してよく、窒素は、アミノもしくはアミド基を構成してよく、かつSは、チオールもしくはチオエーテル基を構成してもよい。具体例として、置換基(24)〜(31)が挙げられる。
【0055】
ここで図10を参照すると、ビオランスロンの塩素化誘導体(VII)及び/またはイソビオランスロンの塩素化誘導体(VIII)は、鉄粉などの金属存在下、ビオランスロン(1)及び/またはイソビオランスロン(1’)を塩素で処理することで合成することができる。一般的には、反応は、酢酸などの有機酸溶媒中で行われる。そのような手法において、反応条件を変えることで、低塩素化(構造式(VII)及び/または(VIII)において、例えば、1、2、もしくは3箇所)されるか、或いは高塩素化(例えば、4、5、6、7、或いはさらに8箇所)される。一般的には、高い塩素濃度及び/もしくはより高い反応温度により、より高度に塩素化された生成物を得ることが可能となる。塩素化反応については、1996年9月10日にBergmannらに付与された米国特許第5,554,774号明細書(特許文献1)に記載されている。
【0056】
ここで図11を参照すると、ビオランスロン及び/またはイソビオランスロンの炭化水素誘導体(例えばアルキル化された誘導体)(IX、X)は、ビオランスロンの塩素化誘導体(VII)及び/またはイソビオランスロンの塩素化誘導体(VIII)を、銅粉などのクロスカップリング触媒存在下、ハロゲン化合物(10R-X)、例えばハロゲン化アルキルと反応させることによって合成することができる。そのようにして得られた化合物において、10Rは本明細書中で記載された炭化水素フラグメントのいずれかであってよい。
【0057】
ここで図12を参照すると、ビオランスロンのエステル誘導体(XI)及び/またはイソビオランスロンのエステル誘導体(XII)は、それぞれ、16,17-ジヒドロキシビオランスロン及び/または6,15-ジヒドロキシイソビオランスロンを、ピリジンなどの強い非求核性塩基存在下、酸ハロゲン化物(R11(CO)X)と反応することによって合成することができる。R11は、本明細書中に記載される炭化水素フラグメントのいずれかであってよい。ヒドロキシビオランスロン及びヒドロキシイソビオランスロンのエステル化は、1984年12月4日にSeyboldに付与された米国特許第4,486,587号明細書(特許文献2)に詳細に記載されている。
【0058】
ここで図13を参照すると、ビオランスロンのエーテル誘導体(XIII)及び/またはイソビオランスロンのエーテル誘導体(XIV)は、それぞれ、16,17-ジヒドロキシビオランスロン及び/または6,15-ジヒドロキシイソビオランスロンを、K2CO3などの炭酸塩存在下、ハロゲン化物(R12X2)、例えばハロゲン化アルキルと反応させることにより合成することができる。一般的には、ジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)などの極性溶媒中で反応が行われる。R12は、本明細書中に記載される炭化水素基のいずれかであってよい。ヒドロキシビオランスロン及びヒドロキシイソビオランスロンのエーテル化は、1984年12月4日にSeyboldに付与された米国特許第4,486,587号明細書(特許文献2)に詳細に記載されている。
【0059】
ここで図14を参照すると、もう1つの手段として、ビオランスロンのエーテル誘導体(XV)及び/またはイソビオランスロンのエーテル誘導体(XVI)は、それぞれ、16,17-ジヒドロキシビオランスロン及び/または6,15-ジヒドロキシイソビオランスロンを、K2CO3などの炭酸塩存在下、ジアルキルアルカンホスホネート、例えばジアルキルメチルホスホネート((R13O)2P(O)CH3)と反応させることにより合成することができる。一般的には、N,N-ジメチルアニリンなどの非求核性塩基存在下、ニトロベンゼンなどの極性溶媒中で反応が行われる。R13は、本明細書中に記載される炭化水素基のいずれかであってよい。このもう1つのエーテル化は、1980年4月15日にGrelatらに付与された米国特許第4,198,529号明細書(特許文献3)により詳細に記載されている。
【0060】
一般的には、本明細書中に記載のいずれの標識化合物は、スペクトルの近赤外領域(例えば、約600nm〜約1000nm、約650nm〜950nm、または約700nm〜900nm)において吸収かつ/もしくは放射される。
【0061】
総括すると、標識された製品中の標識化合物を検出するためには、本明細書中に記載のビオランスロン類及び/またはイソビオランスロン類のうちいずれか1つもしくはそれ以上を含有する標識された石油製品が選択され、次いで、標識化合物が検出される。検出するためには、石油製品中の標識化合物の濃度は、一般的に少なくとも約1質量ppbであるべきである。
【0062】
標識化合物は、その標識化合物の応答によって検出することができる。例えば、応答は、標識化合物の放射、標識化合物による吸収、もしくは標識化合物をその他の化合物と反応させることにより生じた反応生成物による放射であってもよい。
【0063】
例えば、図15では、標識された石油製品中の標識化合物を検出、特定、及び/または数値を定めるのに有用な装置を示す。装置は、可視及び近赤外領域において放射線を放射する光源1500を有している。光源1500は、多波長光源であってよく、或いは狭帯域の波長の範囲を有する同調レーザーでもよい。波長選択器1530(例えば、単色光分光器または干渉フィルター)を通過した後、光源1500由来の光は、試料台1520に載置されている標識された石油製品中の1以上の標識化合物を蛍光標識することができる。第2の波長選択器1540及び光検出器1550は、(試料台1520上で照射される光の方向に対して)90度の角度で載置されてよい。(図示されるように)光源1500と、波長選択器1530及び1540と、光検出器1550とが三角形の2つの側面に配置されていることで、検出器に入射する光の拡散が最小限に抑えられる。光検出器1550を通過した後、光は増幅器1560内を通り抜け、検出するためのデジタルマルチメーター1570に到達する。一定の波長において、石油製品中の1以上の標識化合物により放射かつ/もしくは吸収された光束の量の数値及びグラフ表示を提供するために、デジタルメーターの出力はコンピューター及びディスプレー(図示せず)に接続されている。
【0064】
図16では、標識された石油製品中の標識化合物を検出、特定、及び/または数値を定めるのに有用な他の装置を示す。装置は、近赤外領域において放射線を放射可能なレーザーダイオード光源1600を有している。レーザーダイオード光源1600由来の光は、コリメーティングレンズ1602で平行にされ、フィルター1604を通過し、次いで、標識された石油製品1606を照らし出すことができる。それ以降、光は、集束レンズ1608を通過し、続いて、第1の圧縮レンズ(compressing lens)1610を経て、フィルター1612、及び第2の圧縮レンズ1614を通過することができる。石油製品1606に入射する光と、集束レンズ、圧縮レンズ、及びフィルターとの間の角度は、約30度或いはそれ以下の角度が画定され、それによって光の拡散を最小限に抑えることができる。第2の圧縮レンズを通過した後、光は光検出器1620に至ってよい。光検出器1620の信号は、電流電圧変換器1622で増幅変換される。増幅器1622からの出力は、次いで、閾値検出器1624で検出されてよく、これによって、標識されていない物質によるあらゆる干渉を最小限に抑えることができる。さらには、1以上の標識化合物の存在は、発光ダイオード(LED)インジケータ1630で表示されてもよい。
【0065】
幾つかの実施形態において、放射及び/または吸収は、1以上の標識化合物の濃度を割り出すために数値化されている。例えば、吸収は、検出信号の積分、そして積分信号と較正曲線とを比較することで数値化される。幾つかの実施形態において、1以上の標識化合物を特定するために、標識化合物の全スペクトルが採取される。幾つかの実施形態において、少なくとも2つの標識化合物が用いられ、それら化合物の放射及び/または吸収の比率がサンプルを固有識別するために用いられる。
【0066】
幾つかの実施形態において、放射及び/または吸収データを1以上の標識化合物について採取し、続いて、採取したデータは、標識された製品の源を特定するために、標識化合物のライブラリーのデータと比較する。
【0067】
幾つかの実施形態において、応答は、標識化合物と、その他の化合物(例えば、過酸化物及び/またはシュウ酸塩などの酸化剤)との反応により生じた反応生成物由来の化学ルミネセンス放射を含む。例えば、1つの実施形態において、化学ルミネセンスは、標識された石油製品をシュウ酸塩〔例えば、ビス(6-カルボペントキシ-2,4,5-トリクロロフェニル)オキサレート〕及び過酸化物(例えば、過酸化水素とサリチル酸ナトリウムとの組み合わせ)と混合することによって生じる。化学ルミネセンス系については、1978年2月28日にVegaに付与された米国特許第4,076,645号明細書(特許文献4)、1982年2月2日にBollykyらに付与された米国特許第4,313,843号明細書(特許文献5)、及び1987年7月7日にDuglissに付与された米国特許第4,678,608号明細書(特許文献6)に記載されている。
【0068】
[実施例]
さらなる開示は、以下の実施例に記載されるが、発明の範囲を限定するものではない。
【0069】
16,17-ジヒドロキシビオランスロン(2)の16,17-ジ-2-エチルヘキシルエーテル(7)の調製方法:
図17を参照すると、50mlの無水ジメチルホルムアミド(DMF)を含有するフラスコに、2.14mmol(1.04g)の16,17-ジヒドロキシビオランスロン(2)(FW=488.49g/mol)を添加し、16,17-ジヒドロキシビオランスロン(2)は、Pfaltz and Bauer Chemical Companyより入手し、入手した状態で使用した。これに、6.52mmol(1.26g)の無水2-エチルヘキシルブロミド(FW=193.13g/mol)を添加した。2-エチルヘキシルブロミドはAldrich Chemicalより入手し、入手した状態で使用した。この混合物に6.80mmol(0.940g)の炭酸カリウム(FW=138.21g/mol)を添加した。フラスコの全内容物を100℃で20時間加熱した。20時間後、アルミナによる薄層クロマトグラフィー(溶媒= 5%アセトン-トルエン混合溶液)において2つのスポットが検出され、1つの小さな緑色スポットは出発化合物(2)と一致し、より大きくて、さらに遠くまで移動した青色スポットは所望のエーテル体(2)と一致した。
【0070】
20時間の反応時間の後、フラスコ中の内容物に300mlの水を添加し、数滴の濃硫酸で酸性にした。酸性にした後、溶液は透明となり、溶液中に暗色の微細沈殿物が析出した。暗色の沈殿物は、ガラスフリット(glass frit)を用いて回収し、暗色の固体ケーキが得られた。
【0071】
微量に存在する出発原料のジオール体(2)を取り除くために、固体ケーキをクロロホルムで処理を施し、目的生成物(7)を再度溶解させ(ジオール(2)はクロロホルムに溶解しない)、続いてクロロホルム抽出物を硫酸マグネシウムで乾燥させた。濾過することにより硫酸マグネシウムを除去し、溶媒をロータリーエバポレーターを用いて除去した。クロロホルムを除去した後に残存する少量の液体(例えば、DMF及び/または2-エチルヘキシルブロミド)を減圧留去することで、目的化合物(7)(FW=712.91g/mol)を1.28mmol(0.910g、収率60%)の紺青色の結晶性固体として得た。
【0072】
上記の精製した化合物(7)は、標識するために石油製品に添加してもよく、或いは、後に標識するための石油製品に添加される、精製された生成物の濃縮物を調製してもよい。
【0073】
本発明に係る多くの実施形態について説明したが、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく、上記の実施形態に変更及び修正が実行可能であることを理解することができる。よって、上述した実施形態以外も添付の特許請求の範囲内である。
【符号の説明】
【0074】
1500 光源
1520 試料台
1530 波長選択器
1540 波長選択器
1550 光検出器
1560 増幅器
1570 デジタルマルチメーター
1600 レーザーダイオード光源
1602 コリメーティングレンズ
1604 フィルター
1606 標識された石油製品
1608 集束レンズ
1610 第1の圧縮レンズ
1612 フィルター
1614 第2の圧縮レンズ
1620 光検出器
1622 電流電圧変換器、増幅器
1624 閾値検出器
1630 発光ダイオードインジケータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)石油製品と、
(b)構造式I及び構造式IIから成る群から選択される標識化合物であって、
(i)前記標識化合物の濃度が少なくとも約1質量ppbになるように石油製品に溶解され、
(ii)RnのそれぞれのRが、独立して、OH、SH、NH2、NO2、F、Cl、Br、Iまたは1〜36個の炭素原子を含む官能基部から成る群から選択され、
(iii)nは、0〜8の整数、
である標識化合物と、
を含む標識された製品。
【請求項2】
少なくとも1つのR(Rz)が、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であって、前記Rzがさらに、N、O、S、F、Cl、Br、及びIから成る群から選択される少なくとも1つの原子を含む、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項3】
少なくとも1つのR(Rz)が、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であり、かつ炭素及び水素から成る群から選択される原子のみを含む、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項4】
前記Rzが、炭素数1〜21のアルキル、炭素数1〜8のシクロアルキル、炭素数1〜21のアルケニル、炭素数1〜10のアリール、及び炭素数1〜21のアルキルアリールから成る群から選択される、請求項3に記載の標識された製品。
【請求項5】
少なくとも1つのR(Rz)が、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であり、かつ炭素、水素、及び酸素から成る群から選択される原子のみを含む、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項6】
Rzが、少なくとも1つのエステル基もしくはエーテル基を含む、請求項5に記載の標識された製品。
【請求項7】
標識化合物が構造式IIIで示され、かつR1及びR2が、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項8】
標識化合物が構造式IVで示され、かつR3及びR4が、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項9】
標識化合物が構造式Vで示され、かつR5、R6、R7及びR8が、それぞれ独立して、1〜36個の炭素原子を含む官能基部である、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項10】
少なくとも1つのR(Rz)が、1〜36個の炭素原子を含む官能基部であり、かつ前記官能基部が環部を形成する、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項11】
石油製品が、ガソリン、灯油、ディーゼル、ナフサ、潤滑油、及び燃料油から成る群から選択される、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項12】
標識された製品中の標識化合物の濃度が、質量基準で約0.001ppm〜約1000ppmである、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項13】
標識化合物が近赤外光に応答し、前記応答は、(A)標識化合物が近赤外光を吸収する、(B)標識化合物が近赤外光を放射する、或いは、(C)それらの組み合わせ、である、請求項1に記載の標識された製品。
【請求項14】
(a)(i)前記標識された製品が石油製品を含み、かつ
(ii)前記標識された製品が構造式I及び構造式IIから成る群から選択される標識化合物をさらに含み、前記標識された製品が少なくとも約1質量ppbの濃度で前記製品中に溶解されている、
標識された製品のサンプルを選択する工程と、
(b)前記標識された製品中の標識化合物を検出する工程と、
を備える方法。
【請求項15】
前記検出する工程が、前記標識化合物の応答を検出する工程を備え、前記応答は、(A)標識化合物からの放射、(B)標識化合物による吸収、(C)標識化合物と他の化合物とを反応させることにより生成された反応生成物からの放射、及び(D)それらの組み合わせ、から成る群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記応答が標識化合物もしくは反応生成物からの放射を含み、かつ前記放射が約500nm〜約900nmの波長において検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記応答が標識化合物もしくは反応生成物による吸収を含み、かつ前記吸収が約500nm〜約900nmの波長において検出される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記応答が反応生成物からの放射を含み、かつ検出された放射が、標識化合物とその他の化合物との反応により生じた化学ルミネセンス放射である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
放射及び/もしくは吸収の応答量を測定する工程をさらに備える、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
(a)石油製品と、
(b)(i)第1の標識化合物が置換されていないビオランスロン、置換されたビオランスロン、置換されていないイソビオランスロン、置換されたイソビオランスロン、及びそれらの組み合わせから成る群から選択され、かつ
(ii)第1の標識化合物がトルエンに対して約0.5質量%以上の溶解度を有している、
石油製品中に溶解される第1の標識化合物と、
を含む標識された製品。
【請求項21】
第1の標識化合物が、1〜36個の炭素原子を含む少なくとも1つの官能基部で置換されている、請求項20に記載の標識された製品。
【請求項22】
前記第1の標識化合物が、少なくとも約1質量ppbの濃度で石油製品中に溶解されている、請求項20に記載の標識された製品。
【請求項23】
(c)(i)第2の標識化合物が置換されていないビオランスロン、置換されたビオランスロン、置換されていないイソビオランスロン、置換されたイソビオランスロン、及びそれらの組み合わせから成る群から選択され、
(ii)第2の標識化合物が第1の標識化合物と相違し、かつ
(iii)第1の標識化合物がトルエンに対して約0.5質量%以上の溶解度を有している、
第1の標識化合物とともに石油製品中に溶解される第2の標識化合物、
をさらに含む、請求項20に記載の標識された製品。
【請求項24】
前記第1の標識化合物が製品中に少なくとも約1質量ppbの濃度で溶解され、第2の標識化合物が製品中に少なくとも約1質量ppbの濃度で溶解されている、請求項23に記載の標識された製品。
【請求項25】
(a)標識された製品のサンプルを選択する工程であって、前記標識された製品が石油製品を含む工程と、
(b)標識された製品のデータを収集する工程であって、収集されたデータが吸収データ及び/または放射データである工程と、
(c)標識された製品源を特定するために、収集したデータを標識化合物のデータと比較する工程であって、前記標識化合物のデータが、構造式I、構造式II、及びそれらの混合物から成る群から選択される化合物のデータである工程と、
を備えた方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2010−510355(P2010−510355A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537289(P2009−537289)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【国際出願番号】PCT/US2007/084386
【国際公開番号】WO2008/063942
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(502422100)オーセンティックス インコーポレーテッド (2)
【Fターム(参考)】