説明

模擬試験装置および模擬試験方法

【課題】鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整すること。
【解決手段】水を流通させる下流に模擬機器4を配置した耐食性の主管2と、主管2の途中を迂回して設けられ、主管2から水を流通させつつ主管2に戻す耐食性のバイパス管3と、バイパス管3の途中に接続された炭素鋼管の内部に炭素鋼棒を複数挿入してなる鉄発生部6と、バイパス管3における鉄発生部6よりも上流側に配置された耐食性の流量調整弁7とを備える。バイパス管3に炭素鋼からなる鉄発生部6を設けたことにより、実際の機器と同様の使用環境を模擬して水に鉄イオンを発生させる。しかも、流量調整弁7によりバイパス管3に流通する水の流量を調整することで鉄濃度が制御される。このため、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に溶解した鉄濃度を微調整して試験を行う模擬試験装置および模擬試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所などでは、機器に使用されている炭素鋼の腐食により冷却水に鉄イオンが溶解すると、この鉄イオンが下流の機器表面に被膜となって付着して機器の性能を低下させるおそれがある。例えば、給水ポンプのインペラの表面に鉄イオンが付着すると軸動力が増加してしまう。また、例えば、高圧給水加熱器の内面に鉄イオンが付着すると差圧が上昇してしまう。さらに、蒸気発生器の伝熱管の内面に鉄イオンが付着すると熱効率が低下するおそれがある。
【0003】
かかる問題に対し、従来、特許文献1に記載の水質制御システムおよび水質制御方法では、BWR一次系、PWR二次系などの系統について、腐食生成物の発生、持ち込み、付着などの抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−339793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の水質制御システムおよび水質制御方法のように、腐食生成物の付着などを抑制する場合、腐食生成物による機器の変化や、腐食生成物の付着抑制効果を把握するため、冷却水に腐食生成物を含有させた模擬試験が行われる。一般的な模擬試験としては、腐食生成物が鉄イオンの場合、試薬(例えば塩化鉄)の注入や、炭素鋼に流水を衝突させることで試験液に鉄イオンを含有させている。しかし、このような模擬試験では、鉄イオンの含有量、すなわち鉄濃度が急激に増減しやすく不安定であるため、機器の実際の使用環境を模擬することは難しく、腐食生成物による機器の変化や、水質の変化や、腐食生成物の付着抑制効果を正確に把握できない。このため、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整することが要求されている。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整することのできる模擬試験装置および模擬試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の模擬試験装置では、水を流通させる下流に模擬機器を配置した耐食性の主管と、前記主管の途中を迂回して設けられ、前記主管から水を流通させつつ前記主管に戻す耐食性のバイパス管と、前記バイパス管の途中に接続された管の内部に炭素鋼棒を複数挿入してなる鉄発生部と、前記バイパス管における前記鉄発生部よりも上流側に配置された耐食性の流量調整弁と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この模擬試験装置によれば、バイパス管に炭素鋼からなる鉄発生部を設けたことにより、実際の機器と同様の使用環境を模擬して水中に鉄イオンを発生させる。しかも、流量調整弁によりバイパス管に流通する水の流量を調整することで鉄濃度が制御される。この結果、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整できる。
【0009】
また、本発明の模擬試験装置では、前記鉄発生部は、前記主管に流通される水の流量50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積が1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定され、前記流量調整弁は、前記主管に流通される水の流量に対し、前記バイパス管に流通させる流量を0[%]以上50[%]以下の範囲で調整可能に設定されている、ことを特徴とする。
【0010】
この模擬試験装置によれば、鉄発生部により主管での流量に対する炭素鋼の流通面積の範囲が規定され、かつ流量調整弁により主管での流量に対するバイパス管での流量の調整範囲が規定されているため、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで好適に微調整できる。
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の模擬試験方法では、試験対象の模擬機器が下流に配置された主管に水を流通させる工程と、次に、前記主管の途中に設けられたバイパス管に水を流通させ、前記バイパス管に流通された水に炭素鋼を接触させて鉄イオンを溶解させる工程と、次に、前記バイパス管に流通される水の流量を調整する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
この模擬試験方法によれば、バイパス管の炭素鋼により、実際の機器と同様の使用環境を模擬して水に鉄イオンを発生させる。しかも、バイパス管に流通する水の流量を調整することで、鉄濃度が制御される。この結果、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整できる。
【0013】
また、本発明の模擬試験方法では、前記バイパス管に流通された水に鉄イオンを溶解させる工程では、前記主管に流通される水の流量50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積が1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定された鉄発生部が適用され、前記バイパス管に流通される水の流量を調整する工程では、前記主管に流通される水の流量に対し、前記バイパス管に流通させる流量を0[%]以上50[%]以下の範囲で調整する流量調整弁が適用されている、ことを特徴とする。
【0014】
この模擬試験方法によれば、鉄発生部により主管での流量に対する炭素鋼の流通面積の範囲が規定され、かつ流量調整弁により主管での流量に対するバイパス管での流量の調整範囲が規定されているため、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで好適に微調整できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る模擬試験装置が対象とする原子力発電プラントの概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る模擬試験装置の概略構成図である。
【図3】図3は、鉄発生部の断面図である。
【図4】図4は、模擬試験結果を示す図である。
【図5】図5は、模擬試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
なお、本発明に係る模擬試験装置および模擬試験方法は、原子力プラントの機器を模擬したものである。原子力プラントとして、図1に示す加圧水型原子力プラント(PWR:Pressurized Water Reactor)への適用が好適であるが、沸騰水型原子力プラント(BWR:Boiling Water Reactor)や火力プラントなどへの適用を除外するものではない。
【0019】
図1に示すように、加圧水型原子力プラントの原子炉格納容器11内には、加圧水型原子炉12および蒸気発生器13が格納されている。加圧水型原子炉12と蒸気発生器13とは、冷却水配管(冷却材供給配管系)14,15を介して連結されている。冷却水配管14には、加圧器16が設けられ、冷却水配管15には、冷却水ポンプ15aが設けられている。冷却水ポンプ15aは、一次冷却系として、一次系水(軽水)を、冷却水配管(冷却材供給配管系)14,15を介して加圧水型原子炉12と蒸気発生器13とを循環させる。加圧器16は、加圧水型原子炉12の炉心部における一次系水の沸騰を抑制するため、150〜160気圧程度の高圧状態を維持するように制御される。
【0020】
蒸気発生器13は、蒸気タービン17に冷却水配管18を介して連結されている。蒸気タービン17は、高圧タービン19および低圧タービン20を有すると共に、発電機21が接続されている。また、高圧タービン19と低圧タービン20との間には、湿分分離加熱器22が設けられており、冷却水配管18から分岐した冷却水分岐配管23が湿分分離加熱器22に連結され、高圧タービン19と湿分分離加熱器22が低温再熱管24により連結されていると共に、湿分分離加熱器22と低圧タービン20が高温再熱管25により連結されている。さらに、蒸気タービン17の低圧タービン20は、復水器26を有している。復水器26には、冷却水(例えば、海水)を給排する取水管27および排水管28が連結されている。この復水器26は、冷却水配管29を介して脱気器30に連結されている。そして、冷却水配管29には、復水ポンプ31および低圧給水加熱器32が設けられている。また、脱気器30は、冷却水配管33を介して蒸気発生器13に連結されている。冷却水配管33には、給水ポンプ34および高圧給水加熱器35が設けられている。復水ポンプ31および給水ポンプ34は、二次系水(純水)を、復水ポンプ31により復水器26から冷却水配管29を介して低圧給水加熱器32を経て脱気器30に送り、給水ポンプ34により冷却水配管33を介して高圧給水加熱器35を経て蒸気発生器13に送る。
【0021】
従って、加圧水型原子力プラントでは、一次系水は、加圧水型原子炉12により燃料(原子燃料)としての低濃縮ウランまたはMOXにより加熱され、かつ加圧器16により所定の高圧に維持された状態で、冷却水配管14を通して蒸気発生器13に送られる。蒸気発生器13では、高圧高温の一次系水と二次系水との間で熱交換が行われ、冷やされた一次系水は、冷却水配管15を通して加圧水型原子炉12に戻される。
【0022】
また、蒸気発生器13にて、高圧高温の一次系水と熱交換を行って生成された二次系水の蒸気は、冷却水配管18を通して蒸気タービン17(高圧タービン19から低圧タービン20)に送られ、この蒸気により蒸気タービン17を駆動して発電機21により発電を行う。このとき、蒸気発生器13からの蒸気は、高圧タービン19を駆動した後、湿分分離加熱器22で蒸気に含まれる湿分が除去されると共に、加熱されてから低圧タービン20を駆動する。そして、蒸気タービン17を駆動した蒸気は、復水器26で冷却されて復水となり、低圧給水加熱器32で、例えば、低圧タービン20から抽気した低圧蒸気により加熱され、脱気器30で溶存酸素や不凝結ガス(アンモニアガス)などの不純物が除去される。その後、二次系水は、高圧給水加熱器35で、例えば、高圧タービン19から抽気した高圧蒸気により加熱された後、蒸気発生器13に戻される。
【0023】
このような加圧水型原子力プラントにおいては、二次冷却系の冷却水配管29および冷却水配管33や、脱気器30、復水ポンプ31、低圧給水加熱器32、給水ポンプ34および高圧給水加熱器35におけるケーシングなどの機器は、炭素鋼で構成されている。すなわち、各機器を構成する炭素鋼から時間の経過とともに腐食生成物としての鉄イオンが二次系水に溶解し、下流の機器表面に被膜となって付着して機器の性能を低下させるおそれがある。例えば、給水ポンプ34のインペラの表面に鉄イオンが付着すると軸動力が増加してしまう。また、例えば、高圧給水加熱器35の内面に鉄イオンが付着すると差圧が上昇してしまう。さらに、蒸気発生器13の伝熱管の内面に鉄イオンが付着すると熱効率の低下や、伝熱管の腐食を助長させることがある。
【0024】
そこで、鉄イオンの付着などを抑制するにあたり、鉄イオンによる機器の変化を把握するため、本実施の形態の模擬試験装置1が適用される。
【0025】
模擬試験装置1は、図2に示すように、主管2と、該主管2の途中を迂回して設けられたバイパス管3とを有している。主管2は、二次系水同等の純水が流通されるもので、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。主管2の下流側には、試験対象の機器を模擬した模擬機器4が配置されている。ここで、模擬機器4が、上述した脱気器30、低圧給水加熱器32、高圧給水加熱器35および蒸気発生器13における伝熱管などの機器を模擬する場合は、純水を主管2に流通させるため、主管2の上流側に送水ポンプ5が配置される。この送水ポンプ5も、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。一方、模擬機器4が、上述した復水ポンプ31および給水ポンプ34などのように、純水を主管2に流通させることができる機器を模擬する場合は、送水ポンプ5は設けなくてよい。
【0026】
バイパス管3は、主管2から純水を流通させつつ主管2に戻すように、主管2に流通される純水を迂回させるもので、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。このバイパス管3の途中には、鉄発生部6が配置されている。鉄発生部6は、図3に示すように、炭素鋼管(管)6aと炭素鋼棒6bとで構成されている。炭素鋼管6aは、炭素鋼で形成された管状体であり、バイパス管3の途中に接続されるものである。炭素鋼棒6bは、炭素鋼で形成された棒状体であり、炭素鋼管6aの内部に複数挿入されるものである。炭素鋼棒6bは、丸棒であることが好ましいが、角棒であってもよい。この鉄発生部6は、主管3に流通される純水の流量Qm[kg/h]が50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の純水に対する流通面積(炭素鋼が流通する純水に接触する面積)Aが、1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定されている。また、炭素鋼管6aの外周には、鉄発生部6での純水の温度低下を抑えるために保温部6cが設けられている。保温部6cは、ヒータや断熱材などで構成されている。
【0027】
また、バイパス管3における鉄発生部6の上流側には、流量調整弁7が配置されている。流量調整弁7は、主管2の純水をバイパス管3に流通させ、かつバイパス管3に流通させた純水の流量を調整するもので、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。流量調整弁7は、バイパス管3に流通させる流量Qsを、主管2に流通される純水の流量Qmの0[%]以上50[%]以下の範囲で調整可能に設定されている。
【0028】
また、バイパス管3の下流側には、開閉弁8が配置されている。開閉弁8は、バイパス管3の下流側を開放または閉塞するもので、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。
【0029】
また、バイパス管3よりも上流となる主管2の部位には、純水を加熱する加熱器9が配置されている。
【0030】
また、バイパス管3の下流側には、サンプル取出部10が配置されている。サンプル取出部10は、バイパス管3から繋がる取出管10aと、取出管10aを開放または閉塞する取出開閉弁10bとを有し、ステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成されている。
【0031】
このような模擬試験装置1を用いた模擬試験方法では、まず、送水ポンプ5を稼働し、流量調整弁7および開閉弁8を閉塞して主管2にのみ純水を流通させる。ここで、加熱器9を稼働して加圧水型原子力プラントの二次冷却系における温度相当(例えば、220[℃])に純水を加熱する。次に、流量調整弁7および開閉弁8を開放してバイパス管3に純水を流通させ、バイパス管3に流通された純水に鉄イオンを溶解させる。すなわち、バイパス管3に流通された純水が、鉄発生部6の炭素鋼管6aの内面および炭素鋼棒6bの外面に接触することで、炭素鋼の鉄イオンが純水に溶解される。さらに、純水に鉄イオンを溶解させる工程では、鉄発生部6に設けられた保温部6cにより鉄発生部6での純水の温度低下が抑えられる。次に、開閉弁8を開放しつつ流量調整弁7を所定の開度に開放してバイパス管3に流通される純水の流量、すなわち主管2に流通して模擬機器4に至る鉄濃度を調整しつつ試験を行う。なお、純水に鉄イオンを溶解させる工程、または鉄濃度を調整して試験を行う工程において、取出開閉弁10bを開放して取出管10aからサンプルを取り出し、バイパス管3の鉄発生部6下流での鉄濃度を実測してもよい。
【0032】
図4は、復水ポンプ31や給水ポンプ34を模擬機器4とした場合での模擬試験結果を示し、図5は、低圧給水加熱器32や高圧給水加熱器35を模擬機器4とした場合での模擬試験結果を示す。かかる模擬試験では、純水のpH9.2、純水温度220[℃]、純水圧力6.12MPsの環境で、バイパス管3の鉄発生部6下流においてサンプル取出部10にて取り出したサンプルの鉄濃度が20[ppb]以上40[ppb]以下の範囲である。そして、流量調整弁7でのバイパス管3に流通させる流量Qsを、主管2に流通される純水の流量Qmの0[%]以上50[%]以下の範囲とすることで、主管2にて模擬機器4に至る鉄濃度が0.5[ppb]以上10[ppb]以下の範囲に調整される。これにより、図4に示すように、試験時間の経過に伴って、ポンプの軸動力の上昇、すなわちポンプの出力が低下する過程がわかる。また、図5に示すように、試験時間の経過に伴って、給水加熱器の差圧の上昇、すなわち給水加熱器の性能が低下する過程がわかる。よって、この模擬試験結果に応じて、機器への鉄イオンの付着を適宜抑制することができる。また、この模擬試験装置において、模擬機器への鉄イオンの付着抑制効果を試験することも可能である。
【0033】
このように、本実施の形態の模擬試験装置1では、純水を流通させる下流に模擬機器4を配置した耐食性の主管2と、主管2の途中を迂回して設けられ、主管2から純水を流通させつつ主管2に純水を戻す耐食性のバイパス管3と、バイパス管3の途中に接続された炭素鋼管(管)6aの内部に炭素鋼棒6bを複数挿入してなる鉄発生部6と、バイパス管3における鉄発生部6よりも上流側に配置された耐食性の流量調整弁7とを備えている。
【0034】
また、本実施の形態の模擬試験方法では、試験対象の模擬機器4が下流に配置された主管2に水を流通させる工程と、次に、主管2の途中に設けられたバイパス管3に水を流通させ、バイパス管3に流通された水に炭素鋼を接触させて鉄イオンを溶解させる工程と、次に、バイパス管3に流通される水の流量を調整する工程とを含む。
【0035】
この模擬試験装置1および模擬試験方法によれば、バイパス管3に炭素鋼からなる鉄発生部6を設けたことにより、実際の機器と同様の使用環境を模擬して純水に鉄イオンを発生させる。しかも、流量調整弁7によりバイパス管3に流通する純水の流量を調整することで鉄濃度が制御される。このため、鉄濃度を安定させると共に、純水中の鉄濃度をppbレベルで微調整することが可能になる。この結果、腐食生成物(鉄イオン)による機器の変化や、水質の変化や、腐食生成物の付着抑制効果を正確に把握することが可能になる。
【0036】
なお、鉄発生部6は、炭素鋼棒6bが純水に接触して鉄イオンを発生させることができるので、炭素鋼管6aが炭素鋼以外のステンレスなどの耐食性の優れた材料により構成された管であってもよい。ただし、炭素鋼の純水への接触面積を稼ぎ、より安定して鉄イオンを発生させるために、炭素鋼管6aが炭素鋼で構成されていることが好ましい。
【0037】
なお、鉄発生部として、炭素鋼管内にワイヤやメッシュを配置しても純水中に鉄イオンを発生させることが可能であるが、ワイヤやメッシュは急速に酸化してしまうことから、鉄イオンの発生を持続することが難しい。この点、本実施形態の鉄発生部6のように炭素鋼管6aの内部に炭素鋼棒6bを複数挿入した構成であれば、鉄イオンの発生を持続すると共に、安定させることが可能である。
【0038】
しかも、バイパス管3に鉄発生部6を設けたことで、主管2の純水と同等の条件下で発生させた鉄イオンを主管2の純水に含有させることが可能である。
【0039】
また、本実施の形態の模擬試験装置1では、鉄発生部6は、主管2に流通される純水の流量Qm[kg/h]が50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積Aが1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定され、流量調整弁7は、バイパス管3に流通させる流量Qsが、主管に流通される水の流量Qmの0[%]以上50[%]以下の範囲で調整可能に設定されている。
【0040】
また、本実施の形態の模擬試験方法では、バイパス管3に流通された水に鉄イオンを溶解させる工程では、主管2に流通される水の流量Qm[kg/h]が50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積Aが1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定された鉄発生部6が適用され、バイパス管3に流通される水の流量を調整する工程では、バイパス管3に流通させる流量Qsを、主管2に流通される水の流量Qmの0[%]以上50[%]以下の範囲で調整する流量調整弁7が適用される。
【0041】
この模擬試験装置1および模擬試験方法によれば、鉄発生部6により主管2での流量Qmに対する炭素鋼の流通面積Aの範囲が規定され、かつ流量調整弁7により主管2での流量Qmに対するバイパス管3での流量Qsの調整範囲が規定されているため、純水中の鉄濃度をppbレベルで好適に微調整することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明に係る模擬試験装置および模擬試験方法は、鉄濃度を安定させると共に、水中の鉄濃度をppbレベルで微調整することに適している。
【符号の説明】
【0043】
1 模擬試験装置
2 主管
3 バイパス管
4 模擬機器
5 送水ポンプ
6 鉄発生部
6a 炭素鋼管
6b 炭素鋼棒
6c 保温部
7 流量調整弁
8 開閉弁
9 加熱器
10 サンプル取出部
10a 取出管
10b 取出開閉弁
A 鉄発生部の流通面積
Qm 主管の流量
Qs バイパス管の流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を流通させる下流に模擬機器を配置した耐食性の主管と、
前記主管の途中を迂回して設けられ、前記主管から水を流通させつつ前記主管に戻す耐食性のバイパス管と、
前記バイパス管の途中に接続された管の内部に炭素鋼棒を複数挿入してなる鉄発生部と、
前記バイパス管における前記鉄発生部よりも上流側に配置された耐食性の流量調整弁と、
を備えたことを特徴とする模擬試験装置。
【請求項2】
前記鉄発生部は、前記主管に流通される水の流量50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積が1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定され、
前記流量調整弁は、前記主管に流通される水の流量に対し、前記バイパス管に流通させる流量を0[%]以上50[%]以下の範囲で調整可能に設定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の模擬試験装置。
【請求項3】
試験対象の模擬機器が下流に配置された主管に水を流通させる工程と、
次に、前記主管の途中に設けられたバイパス管に水を流通させ、前記バイパス管に流通された水に炭素鋼を接触させて鉄イオンを溶解させる工程と、
次に、前記バイパス管に流通される水の流量を調整する工程と、
を含むことを特徴とする模擬試験方法。
【請求項4】
前記バイパス管に流通された水に鉄イオンを溶解させる工程では、前記主管に流通される水の流量50[kg/h]から1000[kg/h]に対し、炭素鋼の流通面積が1.02[m]以上20.4[m]以下の範囲に設定された鉄発生部が適用され、
前記バイパス管に流通される水の流量を調整する工程では、前記主管に流通される水の流量に対し、前記バイパス管に流通させる流量を0[%]以上50[%]以下の範囲で調整する流量調整弁が適用されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の模擬試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−266285(P2010−266285A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116768(P2009−116768)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】