説明

樹脂シート並びに成形品

【課題】透明性、高剛性、及びミシン目切れ性に優れたゴム変性スチレン系樹脂シート並びにその特性を有した成形品を提供する。
【解決手段】 スチレン系樹脂4〜94質量部、およびゴム平均粒子径(R)が1.0μm以下である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)96〜6質量部からなる組成物を縦(M),横(T)方向の配向緩和応力(σM,σT)が下式の条件で延伸したスチレン系2軸延伸シート。
σM,σT>0.7kg/cm2
|σM−σT|≦2kg/cm2。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、諸物性のバランスに優れたシート及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系容器は様々な用途に用いられており、透明性、剛性があり、かつ安価,優れた成形加工性から包装容器として幅広く使用されている。またシートの製造方法のひとつにある2軸延伸によるシートの配向制御を行うことで更なる高剛性化や強靱性、薄肉化等の性能がシートに付与されており、その後の熱成型等を経て食品包装分野を中心に透明・軽量容器の代表として汎用的に使用されている。
【0003】
これら包装材料分野を中心とした使用環境の中で、スチレン系2軸延伸シートの使用でも多岐に渡った用途性能が求められてきている。例えば、真空成型での適用を行う目的で耐衝撃性ポリスチレンを配合しての改良検討(特許文献1参照)や、耐衝撃性ポリスチレンの併用により加工時の打ち抜き性の向上を見いだしている(特許文献2参照)。昨今、当該容器の使用環境として利便性や廃棄性が強く求められており、その中のひとつに容器の簡易分割性(ミシン目切れ性)があるが、この要求に対しこれまでのスチレン系2軸延伸シートでは満足した特性が得られず、上述の耐衝撃性ポリスチレンの配合でも容器の必要性能である透明性や剛性等の性能を両立するには至っていない。
【0004】
【特許文献1】特許1755172号
【特許文献2】特許3329838号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような技術状況の基で、スチレン系2軸延伸シートの優れた透明性,剛性を維持しつつ、ミシン目切れ性に優れたシート及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の延伸配向状態と特定の耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)を使用することによって本発明に達したものである。すなわち、本発明は、スチレン系樹脂4〜94質量部、およびゴム平均粒子径(R)が1.0μm以下である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)96〜6質量部からなる組成物を縦(M),横(T)方向の配向緩和応力(σM,σT)が下式の条件で延伸したスチレン系2軸延伸シート。
σM,σT>0.7kg/cm2
|σM−σT|≦2kg/cm2。
及びそのシートを用いた成形品を得ることよって課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明はスチレン系2軸延伸シートおよび容器の持つ透明性や剛性性能を維持しつつ、分離等を目的としたミシン目の切れを向上させたシートおよび容器を提供するものであり、得られたシートおよび容器は食品、文具、日用品の分野や、産業用の各種用途に好適に用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳しく説明する。
スチレン系2軸延伸シートの配向緩和応力は以下の範囲を満足することが必要である。
σM,σT>0.7kg/cm
|σM−σT|≦2kg/cm
ここで、σM,σTは縦(M),横(T)方向の配向緩和応力を示す。スチレン系2軸延伸シートでは配向によりシートの強度,剛性が向上し、その配向度合いの尺度に配向緩和応力がある。この配向緩和応力(σM,T)が0.7kg以下では延伸による補強効果が不十分でシートや成形品の曲げ等により割れを引き起こす可能性がある。また、容器成形を考えると、縦方向と横方向の配向緩和応力の差|σM−σT|が2[kg/cm2]以下でなければならない。この差が大きいと、熱板成形時において加熱されたシートが熱板から剥がれる際に局所的に変形し、金型上でシートが重なるいわゆるブリッジを起こしてしまう傾向がある。加えてこの差が大きいと、シートの方向性が強く存在するため一方向の裂けに対する強度が弱くなる傾向が見られる。これはクラックが、強度が低いつまり配向の低い方向に集中して成長しやすいため、破断しやすくなるからと考えられる。
したがって賦形後の容器における縦方向と横方向の配向緩和応力の差は2[kg/cm2]以下であることが必要であり、好ましくは1[kg/cm2]以下、更に好ましくは0.5[kg/cm2]以下である。下限値にはとくに限定されないが、0[kg/cm2]以上、好ましくは0.001[kg/cm2]以上である。
尚、配向緩和応力の調整は各種の条件設定により実行可能であるり、一般的には、延伸工程での延伸される樹脂の温度を上げると配向緩和応力は下がり、配向倍率を上げることで配向緩和応力は上げることが可能である。この挙動を利用し狙い値となる配向状態の延伸シートを作成することができる。
【0009】
本発明に使用されるミシン目加工の方法は、鋸刃タイプの刃物による穴空け,刻み加工した丸刃による穴空け,ミシン針による穴空けなど既存の種々の刃物方法が適用でき、加圧方法もプレス打ち抜き,押さえなどが適用でき特に限定するものではない。同様にミシン目パターンについても特に限定するものではない。また、ミシン目引き裂きを行うとミシン目を起点としたクラック(割れ)の伝播により分割が達成されるが、その際に縦/横の配向の異方性、即ち|σM−σT|の値が大きいとクラックがミシン目から外れて走りやすく上記の強度との関係同様に望ましくない。
【0010】
スチレン系樹脂とは、スチレン系単量体と、必要に応じてスチレン系単量体と共重合可能な単量体を重合させた共重合体である。その量は4〜94質量部、好ましくは10〜95質量部、特に好ましくは20〜90質量部である。含有量が高くなると成形品にしたときの折り曲げ割れ性が顕著劣る傾向やミシン目切れ性が劣る傾向が見られ、低くなると透明性が低下する傾向になる。
【0011】
スチレン系単量体には、例えばスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン等が挙げられ、また、必要に応じて用いるスチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えばアクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド、エチレン、プロプレン等が挙げらる。透明性とコストを加味した最も汎用性の高い材料としては、ポリスチレンが好ましく用いることができる。
【0012】
耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)の量は96〜6質量部、好ましくは90〜5、特に好ましくは80〜10質量部である。含有量が低くなると成形品にしたときの折り曲げ割れ性やミシン目切れ性が劣る傾向が顕著になる傾向が見られ、高くなると透明性が低下する傾向になる。
【0013】
HIPSにはジエン系ゴムが使用され、そのジエン系ゴムとしては例えば、ハイシスポリブタジエン、ローシスポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンブロックゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、部分水添ポリブタジエンゴム等が挙げられる。なお、重合に用いるスチレン系単量体やジエン系ゴムは少なくとも1種類以上を用いることができる。HIPSは、ジエン系ゴムを1種類以上の存在下でスチレン系単量体を重合して得られる。また、HIPSのゴム粒子の平均粒子径は1.0μm以下、好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.5μm以下であり、下限は0.01μmである。1.0μmを越える粒子径のHIPSを用いたシートのミシン目切れ性を満足するに価する配合を行うと、得られたシートの透明性の低下(曇りの増大)が著しく好ましくない。
【0014】
また、スチレン系2軸延伸シートに配合するゴム成分量は特に限定されないが、好ましくはシート中のゴム成分濃度が1〜8質量%、より好ましくは2〜7質量%である。当該範囲を外れる少ない量のゴム成分量ではミシン目切れ性の向上が発現されにくい。また、その範囲を超える過剰なゴム成分量は透明性の低下やシートの剛性低下を引き起こし、透明な包装材料シートとして好ましくない。
【0015】
スチレン系樹脂、および耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)からなる組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で公知の添加剤、例えば可塑剤、滑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、抗菌剤、光拡散剤等を添加することができる。これら添加剤の添加方法には特に制限はないが、ヘンシェル、タンブラー、バンバリー等のミキサーでドライブレンドする方法や、単軸押出機、2軸押出機等を用いて溶融混練し得ることもできる。
【0016】
スチレン系2軸延伸シートの製造方法は特に限定するものでなく、要求性能を満足する限り、チューブラー延伸,逐次2軸延伸,同時2軸延伸そしてTダイシートの後加工バッチ延伸等慣用的に用いられる各種延伸法により作成することが出来る。また、配向緩和応力をコントロールしたシートを得る方法としては、各々の加工条件により調整が可能で、例えば押出機により樹脂を溶融混練してTダイからフラット状に押出してシート化する押出成形法によりシート成形し、テンター方式の延伸法により、得られたシートを縦方向および横方向に延伸(二軸延伸)する場合には、縦延伸ゾーン,横延伸(テンター炉)の設定温度やラインスピードを変化させることにより、得られるシートの配向緩和応力を変化させることができる。
【0017】
成形品の成形方法は当該シートを成形できる範囲で特に限定するものでなく、一般的に用いられる熱板成形である。尚、高い生産性を求める食品包装分野でのスチレン系2軸延伸シートの成型法としては熱版圧空成形等の熱板成形が広く用いられている。
【0018】
以下に実施例と比較例を用いて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら制限されるものではない。なお、用いた評価および試験機器を以下に示す。
シートのゴム粒子径の計測方法は以下の通りである。
試料をジメチルホルムアミドで希釈し超音波バスでゴム粒子を20分間分散させ、これをジメチルホルムアミドで満たしておいたベックマン・コールター(株)製 レーザー解説散乱法粒度分布測定装置(LS−230)に滴下し偏光散乱強度差測定(PIDS理論)で測定した粒子径(体積球相当径=(6v/π)1/3 )を求め、次式1[化1]により得られる体積平均粒子径(dv)を平均粒子径として算出した。
【0019】
またシート中のゴム濃度の測定は以下の方法で行なった。
サンプル約1g(A)を精秤しアセトン/メチルエチルケトン1/1混合液30ccに、室温で一時間振とうして分離し不溶分を遠心分離法にて分離し乾燥後、不溶分の重量(B)を精秤し(A/B)×100の式にて算出した。
【0020】
【化1】

【0021】
スチレン系2軸延伸シート作成に使用した押出、延伸装置は以下の通りである。
押出機:ナカタニ機械社製 PLASTIC EXTRUDER NVC65
縦延伸機:田辺プラスチックス機械社製 400型縦延伸ロールユニット
横延伸機:小林機械製作所社製 SK−WE A88−027
【0022】
得られたスチレン系2軸延伸シートを用い、ASTM D1504に準じてシートの押出方向(縦方向:MD)とそれに垂直な方向(横方向:TD)での配向緩和応力の最大値であるMBおよびTBを測定した。試験片はシートより20mm×135mmに切り出したものを使用し、測定値には5回測定したその平均値をそれぞれ採用しその値をσM、σTとした。
尚配向緩和応力の測定は以下の方法で求めた
機器:熱収縮応力測定機(東洋精機製作所)
測定条件:130℃のオイルバスに試験片を浸漬させ、試験片が収縮した時にかかった強度の最大値を元に算出した。
【0023】
得られたスチレン系2軸延伸シートを用い、下記の条件で熱板圧空成形を行い、容器成形品を得た。
(1)金型:
天面:90×170[mm]
高さ:50[mm]
底面:120×200[mm]
(2)成形条件:
成型機:関西自動成型機社製PK400
成形温度:実施例および比較例により種々変更
圧接圧空遅れ:0.8[sec]
圧接真空遅れ:1[sec]
圧接時間:4[sec]
成型圧空時間:3.5[sec]
【0024】
得られた容器成形品を目視で観察し、容器の曇り度を下記の通り判断、比較した。
A:良好
B:曇り
【0025】
得られたシートに対し、シートの押出方向(縦方向:MD)とそれに垂直な方向(横方向:TD)の各々に以下の形状のミシン目加工を施した後、両端を掴み引き裂き試験を行った。引き裂き結果はMD,TD各々にn=5の試験片の切れ状態を目視にて観察し下記の通り判断。最終的にMD,TDの平均合計としたものをミシン目特性とした。図1に試験片の形状を記した。
(状態判定)
A:ミシン目に沿って切れる(2点)
B:途中でミシン目からずれて切れる(1点)
C:ミシン目と異なる方向に切れる(0点)
尚表3にタイプA〜Cのミシン目形状を記載する。
【0026】
【表1】

【0027】
折り曲げわれ評価は、サンプルシートをシートの押出方向(縦方向:MD)とそれに垂直な方向(横方向:TD)に各n=3で折り曲げを行い、以下の用に目視にて判断した。
(状態判断)
A:シートの押出方向(縦方向:MD)とそれに垂直な方向(横方向:TD)の双方の曲げ試験で何れも割れなし。
B:シートの押出方向(縦方向:MD)とそれに垂直な方向(横方向:TD)の試験合計で1個以上のサンプルで割れが発生。
【0028】
本実施例と比較例に用いた樹脂を以下に示す。尚上述の方法により測定したゴム平均粒子系(R)を合わせて示す。
樹脂A:東洋スチレン(株)製GPPS、グレード名:HRM−6
樹脂B:東洋スチレン(株)製HIPS、グレード名:H380(R:0.4μm)
樹脂C:東洋スチレン(株)製HIPS、グレード名:H485(R:0.8μm)
樹脂D:東洋スチレン(株)製HIPS、グレード名:H370(R:2.7μm)
【実施例】
【0029】
[実施例1〜6,比較例1〜7]
表2,表3に示した樹脂配合をハンドブレンドにて作成し、テンター方式(単軸押出機+縦延伸+横延伸)の製膜方法により0.3mm厚の2軸延伸フィルムを作成した。サンプルフィルムの加工条件は、押出温度230℃においてTダイにより押し出された樹脂を、縦延伸機にて設定温度115℃で流れ方向に2.2倍、ついで横延伸機にて設定温度115℃で幅方向に2.2倍に延伸して厚さ約0.3mmのスチレン系2軸延伸シートを得ることを基本とし、各サンプルの配向緩和応力の調整は延伸倍率と炉温度の調整により行った。得られたスチレン系2軸延伸シートは上述の方法にて各種評価を実施した。その結果を表2、表3に示す。実施例はいずれも低い曇り度,安定したミシン目切れ性,成型品の外観・折り曲げ特性等において良好なバランス特性を両立していることがわかる。
【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
上記の2軸延伸シートを容器,包装体(食材の包装容器等)に使用した際に、容器は優れたミシン目切れ性を兼ね備えることができ用意に分離可能な容器をえることができた。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】ミシン目試験に用いた試験片の形状である。
【符号の説明】
【0034】
1.切り込み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂4〜94質量部、およびゴム平均粒子径(R)が1.0μm以下である耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)96〜6質量部からなる組成物を縦(M),横(T)方向の配向緩和応力(σM,σT)が下式の条件で延伸したスチレン系2軸延伸シート。
σM,σT>0.7kg/cm2
|σM−σT|≦2kg/cm2。
【請求項2】
ゴム濃度が1〜8質量%である請求項1記載のスチレン系2軸延伸シート。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のスチレン系2軸延伸シートを用いて得られる成形品。
【請求項4】
食料品包装容器である請求項3の成形品。
【請求項5】
電子部品包装容器である請求項3記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2006−342231(P2006−342231A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168046(P2005−168046)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】